説明

酵素活性を阻害するためのキレート化剤の親油性ジエステル

本発明は、特定のメタロプロテイナーゼ及びカルパインのタンパク質分解活性を阻害するための、キレート化剤1,2−ビス(2アミノフェノキシ)エタン−N,N,N’,N’−四酢酸(BAPTA)の親油性ジエステルの使用に関する。本発明はさらに、キレート化剤BAPTAの前記親油性ジエステルを治療上有効量含む薬剤組成物を、それを必要としている哺乳動物に投与することを含む、哺乳動物においてMMP及びカルパインに関連する疾患又は障害を予防、治療又は管理する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のメタロプロテイナーゼ及びカルパインのタンパク質分解活性を阻害するための、キレート化剤1,2−ビス(2アミノフェノキシ)エタン−N,N,N’,N’−四酢酸(BAPTA)の親油性ジエステルの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)とは、潜在形(latent form)で産生され、触媒活性のために活性化を必要とする、細胞外の亜鉛及びカルシウム依存性プロテアーゼである。活性化は細胞表面で起こり、MMPが膜の周囲の特異的部分で細胞外マトリックス(ECM)の構成成分を分解することを可能にする。最も研究されているMMPは、ゼラチン、IV型コラーゲン及びフィブロネクチンを好ましい基質として使用するMMP−2及びMMP−9を含めたゼラチナーゼである。MMP−9遺伝子の転写は、サイトカイン及び成長因子によってトランス活性化され、MMP−2は構成的に発現され、且つホルボールエステル及びほとんどのサイトカインに非応答性である。MMP−2の活性化は、膜結合MMP(a membrane−anchored MMP)であるMT1−MMPによって調節される。MMP−9の活性化は、プラスミン及びストロメライシン−1(MMP−3)が関与するプロテアーゼカスケードによって調節される。
【0003】
マトリックスメタロプロテイナーゼは、マトリックス構成成分の代謝回転の大部分を担っており、したがって正常プロセスにも病的プロセスにも関与している。MMPは、膜及びECMの維持及び再生、例えば発生及び損傷からの回復の間、細胞外マトリックスを分解して細胞の成長及び組織の再生を可能にする点において重要な役割を果たす。これらはまた、排卵、毛細血管透過性の調節及び細胞の炎症部位への遊走を可能にするなどのプロセスにおいて役割を果たす。
【0004】
MMPは多くの病的状態に関与している。例えば、これらは、浸潤、転移及び血管形成などの癌における発病機構に関連している[Foda及びZucker(2001)、Drug Discovery Today、6:478〜482に総説]。MMPは、脳卒中、出血、リウマチ性疾患(例えば関節炎)、クローン病、喘息、並びに脳血管及び心血管の障害などにおける、細胞外マトリックスの分解を伴う炎症性の症状及び疾患の進行に一役を担っている[Mun−Bryce及びRosenberg(1998)、J.Cerebral Blood Flow Metabolism、18:1163〜72;Yong他(1998)、TINS、21:75−80;Lukes他(1999)、Mol.Neurobiol.、19:267〜284]。MMPファミリーのメンバーはまた、脱髄及び神経炎症性プロセスに関与するとして、神経疾患及び状態にも関連付けられている。例えば、MMPは、脳損傷及び虚血、ギラン−バレー、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症並びにアルツハイマー病と関連付けられている。現在の見解によれば、炎症により、MMPの産生を調節する、サイトカイン、ケモカイン、成長因子及びホルモンが産生されると考えられている。MMP及びプラスミノーゲン活性化因子(PA)の活性化は、炎症性応答における重要な調節ステップである。
【0005】
「Aディスインテグリン及びメタロプロテアーゼ」(ADAM)と同定された別のメタロプロテイナーゼのメンバーは、MMPファミリーのメンバーと同様、亜鉛依存性の触媒ドメイン及び酵素を不活性状態に保つことを担っているN末端プロドメインを含めた複数のドメインを有する[Moss他(2001)Drug Discovery Today、6:417〜426]。ADAMファミリーのメンバーが、基質の細胞膜表面からの切断(「シェディング」と呼ばれる現象)を含めたいくつかの異なるプロセッシング現象に関与していることが示された。ADAMファミリーのメンバーの1つは、TNFα−変換酵素(TACE)である。TACEは、これが膜結合TNFα、すなわち炎症誘発性サイトカインを、その成熟した可溶性形態へとプロセッシングする細胞表面上で見られる。炎症状態において放出される可溶性TNFαは、アポトーシスを誘発させることができる。例えば、TNFは、マクロファージ及びグリア細胞中でMMP−Pの分泌及び活性化を誘発させ、神経炎症性の疾患及び続く脳損傷において神経細胞死を引き起こす。TNFはまた、関節リウマチなどの病的状態において役割を果たすことが示されている。
【0006】
潜在的に毒性の高いタンパク質分解性酵素として、マトリックスメタロプロテイナーゼは以下のような複数の段階で厳重に調節されている。
i)遺伝子転写−ほとんどのMMPは構成的に発現されないが、その転写は様々なサイトカイン(例えばIL−1、TNF)及び成長因子(例えばTGF−β、レチノイン酸、FGF)によって制御されている。
ii)プロ酵素の活性化−MMPは通常、酵素を活性化させるために通常除去しなければならないプロペプチドセグメントを含む潜在形(pro−MMP)で産生される。
iii)酵素活性の阻害−酵素に結合してその活性を遮断する、メタロプロテイナーゼの組織阻害剤(TIMP)として知られる内在性MMP阻害剤が少なくとも4つ存在する。MMPの別の知られている天然阻害剤は、血清プロテイナーゼ阻害剤α−マクログロブリンである。
【0007】
MMPのいくつかの合成阻害剤が、科学論文及び特許文献の様々な出版物中に記載されている。現在知られている阻害剤は、主に合成ペプチド及びキレート化剤を含んでいる[Woessner JF Jr.、Ann N.Y.Acad.Sci.、(1999)30:388〜403に総説]。
【0008】
MMP活性部位の合成阻害剤のいくつかは、コラーゲン中で切断されるペプチドの配列に基づいたペプチド模倣体である[Masui他(1977)、Biochem Med.、17:215〜21)。ヒトコラゲナーゼIVのプロセグメント由来の保存されているペプチド配列に基づいたペプチド体は、Stelter−Stevenson他[Am J Med Sci.、(1991)302:163〜70]及びLiotta他の米国特許第5,270,447号に開示されている。ファージディスプレイペプチドライブラリから単離した合成ペプチド及びMMP阻害活性を有する環状ペプチドは、Koivunen他[Nat.Biothechnol、(1999)17:768〜74]に記載されている。
【0009】
TACE及びMMP阻害剤として有用なN−ヒドロキシホルムアミドペプチド模倣体は、Musso他[Bioorg Med Chem Lett、(2001)11:2147〜51]に開示されている。
【0010】
メタロプロテイナーゼ阻害剤として有用な他のポリペプチド及びペプトイド化合物は、Sundeen他の米国特許第4,263,293号及び第4,297,275号、すべてMcGregorに発行された米国特許第4,371,465号、第4,371,466号及び第4,374,765号並びにLangley他の米国特許公開第2002/0090654号に開示されている。
【0011】
非ペプチド性MMP阻害化合物は、Witiak他の米国特許第4,950,755号及びLiang他の米国特許第5,866,570号に開示されている。
【0012】
標的化部分及びキレート化剤を含むMMP阻害剤は、Dupont Pharmaceuticals Companyの国際公開公報WO01/60820号及びKimberly−Clark Worldwide,Inc.の国際公開公報WO02/053173号に開示されている。
【0013】
マトリックスメタロプロテイナーゼ及びADAMファミリーの他のメンバーは、キレート化剤によって阻害される。これらのキレート化剤のほとんどが天然及び合成ヒドロキサメート化合物並びにスクシニルヒドロキサメート、スルホンアミドヒドロキサメートなどのその誘導体である[Woessner,J.F.Jr.(1999)、Annuals New York Academy of Sciences、30:388〜403に総説]。例えば、合成ヒドロキサメートのバチマスタット(batimastat、BB−94;Invest New Drugs(1996)、14:193〜202)及び経口による生体利用が可能なその類似体であるマリマスタット(marimastat)は、動物において悪性腫瘍の拡大及び成長を阻害することが示されている。これらの化合物は、現在後期臨床試験で試験中である。
【0014】
MMP阻害剤として示された化合物には、テトラサイクリン及びその化学修飾した類似体などの抗生物質も含まれる(Golub他(1983)、J Periodontal Res.、18:516〜26;McNamara他の米国特許第4,704,383;Golub他の米国特許第5,837,696]。
【0015】
上述の薬剤のほとんどは、メタロプロテイナーゼ及び他の金属イオン依存性プロテアーゼの非特異的な阻害剤である。
【0016】
カルパインとは、別のプロテアーゼファミリーのメンバーである。これらは、カルシウム依存性のシステインプロテアーゼである、細胞基質酵素である。カルパインは細胞内に不活性なプロ酵素として大部分存在し、細胞内のカルシウムレベルが上昇するとその活性形態へと変換される。カルシウムが結合すると、酵素前駆体は、自己消化プロセスを行い、これにより活性化されたカルパインが放出される。
【0017】
細胞骨格タンパク質、膜タンパク質及び調節タンパク質を含めた広範囲のタンパク質がカルパインの基質として役割を果たす。カルパインは、いくつかの正常な細胞シグナル伝達系並びに病的状態に関与する。例えば、カルパインの活性化は、虚血並びに脳卒中や外傷性の脳及び脊髄損傷などによって引き起こされる神経細胞死に関連付けられている[Bartus他(1995)、Neurol.Research、17:249〜258]。カルパインのタンパク質分解活性はまた、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病及びピック病を含めたいくつかの神経変性の疾患及び状態にも関連付けられている。
【0018】
ペプチド分子及び非ペプチド分子のどちらも含む現在知られている天然及び合成カルパイン阻害剤は、Wang及びYuen[「カルパイン阻害:その治療上の潜在性の概要(Calpain inhibition:an overview of its therapeutic potential)」、Trends Pharm.Sci.、(1994)15;412〜419]並びにDonkor[「カルパイン阻害剤の調査(A survey of calpain inhibitors)」、Curr.Med.Chem.、(2000)7:1171〜88]に総説されている。既知のカルパイン阻害剤には、天然阻害剤カルパスタチン及びキニノーゲンのペプチド配列を模倣するポリペプチドが含まれる[総説には、Wang及びYuen(1994)、Trends Pharm.Sci.、(1994)15、412〜419参照]。
【0019】
システインプロテアーゼに対して阻害活性を有するスルホンアミド誘導体及びケトン誘導体である化合物はそれぞれ、いずれもAndo他の米国特許第5,506,243号及び第5,639,783号に開示されている。ジペプチドα−ケトエステル、αケトアミド及びαケト酸であるカルパイン阻害剤は、Li他[J.Med Chem、(1993)36:3472〜80]に記載されている。カルパイン阻害剤のいくつかの他のクラスは、Bartus他の国際公開公報WO92/11850号に開示されている。
【0020】
市販されているカルパイン阻害剤のほとんどは、酵素の基質結合部位と相互作用するペプチド構造に基づいた化合物である。これらの化合物の多くは非特異的であり、カルパインだけでなく様々なプロテアーゼを阻害する。さらに、in vitroで活性であった既知の阻害剤のほとんどが、膜透過性が乏しいことからin−vivoで、特にCNS内でカルパインを阻害するのに効果がないことが見出された。さらに、病的炎症状態又は癌の治療について試験したほとんどすべてのMMP阻害剤が、in−vivoの臨床研究で役に立たなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
したがって、MMP及びカルパインなどの重要なプロテアーゼの特異的な阻害剤である、有効で無毒性の薬剤に対する長い間の切実な必要性が依然として存在する。
【0022】
BAPTA−ジエステル
二価金属イオンのキレート化剤1,2−ビス(2アミノフェノキシ)エタン−N,N,N’,N’−四酢酸(BAPTA)の安定な親油性ジエステルが、本出願人の国際公開公報WO99/16741号に開示されている。また、この公報には、過剰の二価金属イオンに関連する疾患及び障害の治療に有用な薬剤組成物中におけるこれらの化合物の使用も開示されている。これらの疾患及び障害には、虚血、脳卒中、癲癇並びにアルツハイマー病及びパーキンソン病などの神経変性疾患が含まれる。
【0023】
しかし、その時点では、これらのキレート化剤がその神経保護効果を発揮する機構が解明も開示もされていなかった。WO99/16741号若しくは他のどの出版物にも、これらのキレート化剤によって影響を受ける細胞標的について何ら暗示も示唆もなされていない。
【課題を解決するための手段】
【0024】
今回本発明により、キレート化剤1,2−ビス(2アミノフェノキシ)エタン−N,N,N’,N’−四酢酸(本明細書中で以降「DP−BAPTA」と示す)の特定のジエステルが、プロテアーゼであるマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)、カルパイン及びTNFα変換酵素(TACE)の酵素活性を阻害できることが見出された。
【0025】
従って、本発明は一態様で、プロテアーゼ活性を阻害する方法であって、前記プロテアーゼがメタロプロテイナーゼ及びカルパインから選択され、前記方法が細胞を阻害に有効な量の一般式(I)の化合物に曝露させることを含む方法を提供する:
【化1】


[式中、
Rは、1〜6個の酸素及び/又は窒素原子の任意の組合せによって中断されていてもよい(ただし、2つの酸素原子同士、又は酸素原子と窒素原子とは互いに直接連結されていない)1〜28個の炭素原子を有する飽和若しくは不飽和アルキル、シクロアルキル、アリールアルキル又はシクロアルキル−アルキル基であり、Mは水素又は生理的に許容される陽イオンを表す]。
【0026】
さらに、本明細書に開示した特定の化合物は新規であり、それ自体で本発明の一態様を構成する。これらの化合物には、Rが2−ベンジルオキシエチルである一般式(I)の化合物が含まれる。したがって、本発明の別の態様によれば、1,2−ビス(2−アミノフェノキシ)エタン,N,N’−ジ(酢酸2−ベンジルオキシエチル),N,N’−酢酸である一般式(I)の化合物及びその塩である一般式(I)の化合物が提供される。また、治療上有効な量の前記化合物及び製薬上許容される担体又は賦形剤を含む薬剤組成物も本発明によって提供される。
【0027】
本発明における現在の好ましい実施形態によれば、MMP−9活性の阻害に有用な化合物は、以下の化合物:
1,2−ビス(2−アミノフェノキシ)エタン,N,N’−ジ(酢酸2−オクトキシエチル),N,N’−二酢酸(本明細書中ではDP−b99と示す)、
1,2−ビス(2−アミノフェノキシ)エタン,N,N’−ジ(酢酸2−オクトデシルオキシエチル),N,N’−二酢酸(本明細書中ではDP−b109と示す)、
1,2−ビス(2−アミノフェノキシ)エタン,N,N’−ジ(酢酸2−ベンジルオキシエチル),N,N’−酢酸(本明細書中ではDP−b440と示す)、
1,2−ビス(2−アミノフェノキシ)エタン,N,N’−ジ(酢酸2−ドデシルオキシエチル),N,N’−二酢酸(本明細書中ではDP−b460と示す)、
1,2−ビス(2−アミノフェノキシ)エタン,N,N’−ジ[酢酸2−(2−ドデシルオキシエトキシ)−エチル],N,N’−二酢酸(本明細書中ではDP−b458と示す)、及び生理的に許容されるその塩であり、
カルパイン活性を阻害するために現在最も好ましい化合物は、1,2−ビス(2−アミノフェノキシ)エタン,N,N’−ジ(酢酸2−オクトキシエチル),N,N’−二酢酸(DP−b99)及び1,2−ビス(2−アミノフェノキシ)エタン,N,N’−ジ(2−酢酸オクトデシルオキシエチル),N,N’−二酢酸(DP−b109)及び生理的に許容されるその塩である。
【0028】
本発明の別の態様では、傷害を与えるMMP及び/又はカルパイン活性に関連する疾患及び病的状態を予防、治療又は管理する方法を提供する。この方法は、治療上有効な量の上述の一般式(I)の化合物を活性成分として含む薬剤組成物を、それを必要としている哺乳動物に投与することを含む。
【0029】
本発明のさらに別の態様では、メタロプロテイナーゼ、カルパイン及びTACEから選択されるプロテアーゼの活性を阻害する医薬品を調製するための、一般式(I)の化合物の使用を提供する。
【0030】
本発明はさらに、癌(転移癌を含む)、血管形成依存性の疾患(例えば癌性腫瘍、関節炎、乾癬、黄斑変性症、慢性炎症、糖尿病性網膜症)、虚血性又は低酸素性の組織損傷、酸化的傷害、脳卒中、外傷、炎症性の状態及び疾患(例えば関節炎疹、関節リウマチ、骨関節炎、再狭窄、喘息、乾癬、全身性エリテマトーデス、炎症性腸症候群、クローン病、歯肉炎、歯周病、髄膜炎、熱帯性痙性不全対麻痺、敗血症、水疱性皮膚障害、ざ瘡、感染症による炎症)、アテローム性動脈硬化症、血栓性障害、関節炎、骨粗鬆症、糖尿病、出血、自己免疫疾患、リウマチ性疾患、眼病及び網膜症(例えば糖尿病性網膜症、緑内障、黄斑変性症、白内障、網膜剥離、網膜裂傷)、火傷、慢性創傷(例えば潰瘍)、神経性及び神経変性の疾患及び障害(例えば多発性硬化症(MS)、アルツハイマー病(AD)、運動ニューロン疾患(MND)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ギラン−バレー、パーキンソン病、ハンチントン病、ピック病、痴呆症候群、血管性痴呆、多発硬塞性痴呆、HIV誘発性神経障害、脳虚血(全体及び局所虚血のどちらも)、神経組織の外傷)、偏頭痛、脳血管及び心血管の疾患からなる群から選択され得るMMP又はカルパインに関連する疾患、障害又は状態を治療するための方法並びに一般式(I)の化合物の使用を提供する。
【0031】
本発明による治療方法はさらに、一般式(I)の化合物を含む薬剤組成物の投与と同時に、その前に又はその後実施し得る、追加の治療的処置で患者をさらに治療することを含むことができる。
【0032】
すべてのキレート化剤が試験したプロテアーゼの活性を阻害できるわけではないことが重要である。DP−BAPTA化合物の効果とは対照的に、密接に関連している既知のキレート化剤であるBAPTA及びBAPTA−AMは、DP−BAPTAと類似の用量ではMMP−9活性を阻害しなかった。むしろ、BAPTA−AMはMMP−9活性をわずかに増大させた。
【0033】
強調すべき別の点は、用いた実験条件下では、試験したDP−BAPTAはカルパイン及びMMP−9のタンパク質分解活性を阻害したが、このような効果は試験した他のゼラチナーゼであるMMP−2では実証されなかった。
【0034】
本発明のさらなる目的は、本発明の特定の実施形態の詳細な説明を含めた以下の開示をさらに参照することによって当業者に明らかとなるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
BAPTA(DP−BAPTA)の安定な親油性ジエステル合成及びいくつかの利用性は、本出願人の国際公開公報WO99/16741号に開示されており、その教示及び開示の全体を本明細書中に参照により特別に組み込む。国際公開公報WO99/16741号では、in−vitroでの神経細胞培養物において及びin−vivoでの虚血モデル系において、DP−BAPTAの神経保護効果が実証されている。しかし、特定の酵素の活性に対するDP−BAPTA分子の効果は、この刊行物にも他のどの刊行物にも、教示も示唆もされていない。したがって、本発明中に開示するように、これらの化合物をMMP及びカルパインに関連する疾患及び障害の治療に有効に使用し得ることは、教示も認識も疑われてもいない。
【0036】
今回初めて、キレート化剤BAPTAの特定のジエステルがカルパインの活性及びADAMファミリーの特定のプロテアーゼの活性を阻害する能力を有すること、特にマトリックスメタロプロテイナーゼ−9(MMP−9)の活性を阻害する能力を有することが、開示された。
【0037】
本発明に従う有用な化合物は、上述の一般式(I)のものである。本発明の範囲内には、有機及び無機陽イオンを含めた一般式(I)の化合物の製薬上許容される塩、水和物を含めた様々な溶媒和物、並びに一般式(I)の化合物の他の活性型も含まれることが理解されるべきである。
【0038】
本発明において現在好ましいMMP又はカルパインの活性を阻害するための化合物は、約8〜20個の炭素原子を含むアルキル鎖を有するBAPTAのジエステルである。アルキル鎖は1つ又は複数の二重結合及び/又は三重結合を含む飽和若しくは不飽和アルキルであり得る。本発明の好ましい実施形態によれば、アルキル鎖は1〜3個の酸素原子によって中断されている。本発明の最も好ましい実施形態によれば、一般式(I)の化合物のR部分はエチレングリコールのモノアルキルエーテル、好ましくはモノ−、ジ−又はトリ−エチレングリコールを含む。
【0039】
一般式(I)の化合物のR位のアルキル残基は、芳香環若しくは非芳香環構造であり得る環状要素からなる又はそれを含み得る。好ましくは、環状要素は5個又は6個の炭素原子を有する。
【0040】
本発明において好ましい環状のR基は、フェニル残基である芳香環を含む。R位に含まれる他の現在好ましい環状要素は、飽和若しくは不飽和のシクロペンチル、シクロヘキシル又はシクロヘプチルである。環状要素は一般式(I)の化合物のカルボキシ部分に直接結合されているか、又は1つ若しくは複数の酸素及び/又は窒素原子を含み得る飽和若しくは不飽和アルキル鎖を介して結合されていてよい。
【0041】
好ましくは、一般式(I)の化合物はM位で一価の陽イオンを含む。適切な製薬上許容される陽イオンには、それだけには限定されないが、H、Na、Li、K、NH及びモノ−アルキルアンモニウムが含まれ得る。また、二価の陽イオンもM位に含まれ得る。一般式(I)のM位の好ましい陽イオンの選択は、化合物の意図する治療上の使用、並びに利用する特定の配合及び投与経路に依存する。当業者は、それぞれの特定の治療事例で選択される最適な薬剤組成物及び投与方法で求められる、適切な陽イオンを選択できるであろう。
【0042】
最も好ましいDP−BAPTA化合物のうちの1つは、1,2−ビス(2−アミノフェノキシ)エタン,N,N’−ジ(酢酸2−ベンジルオキシエチル),N,N’−酢酸(DP−b440)[一般式(I)の化合物のR部分がアルキルアリール部分を含む]である。この化合物は国際公開公報WO99/16741号に一般的に開示されているが、具体的に特許請求されておらず、個別に試験されていない。
【0043】
今回本発明の発明者によって、DP−BAPTAが基底のMMP−9活性及びTNFα又はPMA誘発性のMMP−9の活性化をどちらも減衰又は遮断することができることが示された。DP−BAPTAはまた、カルパイン活性も阻害することができる。したがって、DP−BAPTAは、例えば虚血及び炎症性応答が原因の病的状態における有害なプロテアーゼ活性を軽減させるのに有用であり得る。したがって、DP−BAPTA化合物は、マトリックスメタロプロテイナーゼ又はカルパインの有害な活性に関連する疾患及び病的状態の予防、治療又は管理に有用であり得る。
【0044】
MMP−9活性はDP−BAPTA化合物によって顕著に阻害されたが、このような阻害活性は試験した関連のキレート化剤すなわち1,2−ビス(2−アミノフェノキシ)−エタン−N,N,N’,N’四酢酸(BAPTA)又は1,2−ビス(2−アミノフェノキシ)エタン−N,N,N’,N’−四酢酸アセトキシメチルエステル(BAPTA−AM)では実証されなかったことに注目することが重要である。
【0045】
本発明によるDP−BAPTA化合物は、MMP、TACE又はカルパインによって行われる又は媒介される分解プロセスを伴う全範囲の適応症の治療に有用であり得る。このような適応症には、それだけには限定されないが、神経虚血が原因の疾患や状態(例えば全脳虚血及び局所脳虚血)、心虚血、外傷、神経炎症性の疾患や障害を含めた脳卒中及び炎症状態、リウマチ病及び自己免疫疾患、神経性、脳血管及び心血管の疾患や障害が含まれる。DP−BAPTA化合物はまた、例えば火傷及び慢性創傷(例えば潰瘍)などにおける創傷治癒を亢進させるための組成物及び方法で有用であり得る。
【0046】
炎症性プロセスが関連付けられている疾患及び状態の進行におけるMMP及び/又はカルパインの関与を示す大量のデータが蓄積されている。このような病的状態には、それだけには限定されないが、リウマチ病(例えば関節リウマチ及び骨関節炎)、喘息、乾癬、全身性エリテマトーデス、炎症性腸症候群、クローン病、歯肉炎、歯周病、髄膜炎、熱帯性痙性不全対麻痺、敗血症、水疱性皮膚障害、ざ瘡並びに感染症による炎症が含まれる。
【0047】
感染症には、それだけには限定されないが、細菌、真菌(例えばカンジダ症、アスペルギルス症)及びウイルス(例えばヘルペスウイルスに関連する障害、HIVに関連する疾患)などの任意の種類の微生物、寄生虫(例えばマラリア、アメーバ症)又はプリオン(例えばクロイツフェルト−ヤコブ病)によって引き起こされる感染症が含まれ得る。
【0048】
MMP又はカルパインの阻害剤は、炎症性プロセスの間に生じたものなどの組織に与えられたタンパク質分解性の損傷を軽減させることができる。例えば、これらは脳血液関門(BBB)崩壊の制限、神経性炎症(例えば髄膜炎におけるもの)の阻害、脳又は心虚血性の損傷に関連する損傷の軽減、物理的理由(例えば外傷)が原因の酸化的ストレス、火傷、感染症、中枢神経系(CNS)及び末梢神経系系(PNS)損傷などの傷害によって引き起こされるタンパク質分解効果の減少を行い得る。
【0049】
MMP又はカルパイン活性の上昇は、それだけには限定されないが、多発性硬化症(MS)、運動ニューロン疾患(MND)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、アルツハイマー病、ギラン−バレー症候群、パーキンソン病、ハンチントン病、ピック病、痴呆症候群、血管性痴呆、多発硬塞性痴呆、HIV誘発性神経障害、脳虚血(全体及び局所虚血のどちらも)並びに神経組織の外傷を含めたいくつかの神経変性疾患及び状態に関連付けられている。
【0050】
MMPはまた、虚血性又は低酸素組織損傷、酸化的損傷、骨粗鬆症、出血、動脈再狭窄、心血管障害(例えば虚血性心筋梗塞)並びに糖尿病性網膜症、緑内障、黄斑変性症、白内障、網膜剥離及び網膜裂傷を含めた様々な眼病及び網膜症などの病的状態に関連付けられている。
【0051】
癌も、メタロプロテイナーゼのタンパク質分解活性が疾患の進行に寄与することが示されている主要な疾患の1つである。MMPは癌の拡大、特に疾患の転移状態の促進に関与している。MMP−2及びMMP−9は基底膜の主要な構成成分であるIV型コラーゲンの分解に関与しており、したがって、膜分解を含むプロセス、例えば、血管形成並びに腫瘍の浸潤及び転移における主要な要素であり得る。実際、腫瘍の進行とMMPファミリーのメンバーの発現との間に正の相関が見られている。例えば、MMP−2及びMMP−9遺伝子の発現の増加がグリオーマの悪性度に関連付けられている。
【0052】
いくつかの要素が悪性疾患の進行に重要である。重大な要素の1つは、原発腫瘍の成長、腫瘍の進行及び転移に必須であると考えられている血管形成である。血管形成機構の最初のステップは、新しい毛細血管の発生を容易にするための基底膜の分解を含む。したがって、ECMの分解及び再生は血管形成機構に不可欠なプロセスであり、これらのプロセスを阻害する方法は血管形成を遮断し、したがって悪性疾患を減少させるために有益であると思われる。
【0053】
血管形成はまた、関節炎、乾癬、糖尿病性網膜症、慢性炎症、強皮症、血管腫、水晶体後線維増殖症及び血友病患者の関節における異常な毛細血管の増殖、長期出血などを含めたいくつかの他の病的プロセスにおいても重要である。MMP阻害剤は、このような血管形成に関連する疾患の治療に有用であることが期待されている。
【0054】
転移は癌に罹患している患者の主な死亡原因であるので、転移を制御できないことは大きな問題である。現在までに、転移の成長を予防又は制限するための満足できる治療は存在しない。したがって、MMPを阻害するため、具体的にはMMP−9プロテアーゼ活性を阻害するための本発明によるDP−BAPTA化合物の使用は、この点で有益であり得る。
【0055】
DP−BAPTAで治療する癌(cancer)には、原発腫瘍(primary tumors)だけでなく続発腫瘍(secondary tumors)を含む良性若しくは悪性の腫瘍(benign or malignant growth)のあらゆる種類の腫瘍及び腫瘍性増殖(neoplastic growths)が含まれ得る。用語「癌」及び「腫瘍性増殖」は、本発明の明細書及び特許請求の範囲で互換性があるように使用され、浸潤性及び非浸潤性腫瘍(neoplasms)、固形及び固形でない腫瘍(tumor)、並びに遠隔転移を含めたすべての種類の病的な制御されていない細胞成長を含むことを意味する。
【0056】
本明細書中で使用する用語「治療」とは、病的状態の発症及び/若しくは発生及び/若しくは進行を予防、寛解、緩和、阻害若しくは遅延させること、又はその徴候を改善させることを目的とする治療的手順を含むことを意味する。
【0057】
本明細書中に開示且つ特許請求した一般式(I)の化合物の治療的活性は、これらの化合物の正確な機構を問わず、これらの分子がその有益な効果を発揮する特定の作用機構に制限されることを意図しないことを理解されるべきである。
【0058】
本発明の方法によれば、治療上有効な量の一般式(I)の化合物を含む薬剤組成物を、それを必要としている患者に投与する。
【0059】
投与する薬剤組成物は、一般式(I)の化合物を唯一の活性成分として含んでもよく、或いは前記化合物を特定の疾患又は障害の治療に有効であることが知られている1つ又は複数の追加の薬剤と組み合わせて含んでもよい。一般式(I)の化合物及び追加の治療上活性な薬剤は、同じ薬剤組成物中に含んでもよく、又は別の組成物中で投与してもよい。さらに、別の治療上活性な薬剤と組み合わせたDP−BAPTAの使用は、同時であっても同時でなくてもよい。本発明の方法は、追加の治療剤又は手順に曝すのと同時に、その前に、又はその後にDP−BAPTA化合物を投与することを含む。
【0060】
DP−BAPTA化合物と組み合わせて使用し得る追加の薬剤は、治療的及び予防的な薬物、ホルモン、免疫修飾剤などがあり、他のキレート化剤、タンパク質、ペプチド、炭水化物、脂質分子、DNA及びRNA配列などを含むことができる。
【0061】
このような薬剤は、それだけには限定されないが、抗腫瘍剤、抗増殖剤、抗炎症剤、抗生物質、抗ウイルス剤、抗微生物剤、抗真菌剤、抗アレルギー剤、心血管剤、抗痙攣剤、抗鬱剤、抗精神病剤、鎮痛剤、神経疾患用剤、神経保護剤、並びに神経伝達物質、免疫変調剤、成長因子、ホルモン、抗体などの生物活性ペプチド及びタンパク質から選択され得る。
【0062】
例えば、癌を治療する場合は、DP−BAPTA化合物(又は複数の化合物)は、単独で又は組み合わせて、追加の抗癌治療と同時に若しくは個別に使用し得る。追加の抗癌治療には、それだけには限定されないが、化学療法、照射療法、免疫療法、遺伝子治療、手術又は当分野で知られている任意の他の抗癌治療が含まれ得る。追加の処置は、一般式(I)の化合物の投与と同時に又は連続的に、すなわち、追加の処置は一般式(I)の化合物の投与と同時に又はその前に若しくはその後連続して適用し得る。2つの治療の時間間隔及び全体的なレジメンは、治療する具体的な疾患並びに個体の治療に対する具体的な状態応答に応じて、当業者によって決定し得る。
【0063】
化学療法手順での使用に適した任意の抗癌薬を一般式(I)の化合物と組み合わせて適用し得る。適切な抗癌薬には、それだけには限定されないが、アルカロイド(例えばタキソール、ビンブラスチン、ビンデシン及びビンクリスチン)、スルホン酸アルキルなどのアルキル化剤、アジリジン、エチレンイミン、メチルメラミン、窒素マスタード(例えばシクロホスファミド)及びニトロソ尿素、抗生物質及び類似体(例えばアクラシノマイシン、アクチノマイシン、アンスラマイシン、ダウノルビシン及びドキソルビシン)、葉酸類似体(例えばTomudex(登録商標))などの抗代謝剤、プリン及びピリミジン類似体、並びに白金錯体(例えばカルボプラチン、シスプラチン、ミボプラチン及びオキサリプラチン)が含まれ得る。
【0064】
追加の治療手順との組合せ治療は、他の疾患及び障害の治療にも有益であり得る。例えば、炎症性、神経性又は心血管状態の治療では、感染性因子又は他の病原性要素を除去又は死滅させるために、DP−BAPTA化合物の投与を別の医薬品又は治療剤(例えば抗生物質、抗体など)を用いた手術及び/又は治療と(同時に、その前に又はその後いずれか)組み合わせ得る。
【0065】
当業者には、多数の他の有益な薬物、試薬、手段又は手順が特定の病的状態の治療に有用でありうる事が容易に理解されよう。このような治療的に有効な薬剤を含む薬剤組成物及びそれらを施用する方法又は他の医療手順も、一般式(I)の化合物と組み合わせるのに有用な組成物及び方法として本発明の範囲内に含まれる。使用する正確なプロトコル及び追加の医薬品又は治療手順は、治療する具体的な医療状態の詳細、例えば疾患又は障害の段階、その重篤度及び進行、並びに患者の状態を考慮して、当業者によって決定される。
【0066】
一般式(I)の化合物を含む薬剤組成物は、液体、エアロゾル又は固体の剤形であり得、それだけには限定されないが、適切な投与経路の必要に応じて、溶液、懸濁液、ミセル、乳剤、マイクロエマルジョン、エアロゾル、軟膏、ゲル、坐剤、カプセル、錠剤などを含む任意の適切な配合物へと処方することができる。
【0067】
それだけには限定されないが、経口、静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、吸入、経鼻、局所、直腸又は他の知られている経路を含めた任意の適切な投与経路が本発明に包含されている。好ましい実施形態では、有用な薬剤組成物を経口又は静脈内によって投与する。用量範囲は、所望のプロテイナーゼ阻害効果を生じるために十分に大きいものである。用量範囲は、使用する具体的なDP−BAPTA、治療する病的状態及び投与経路に応じて変化し、追加の処置が適用される場合にはその追加の処置手順に依存する。
【0068】
投与する用量はまた、レシピエントの年齢、性別、健康状態、重量、存在する場合は同時に行う治療、治療の頻度及び所望する効果の性質にも依存する。具体的な用量、レジメン及び投与手段は、担当医師又は他の当業者によって決定される。
【0069】
以降、本発明を以下の非限定的な例によって例示する。
【実施例1】
【0070】
BAPTAのアルキル又はアルキルアリールジエステル及びその塩の合成
1,2−ビス(2アミノフェノキシ)エタン−N,N,N’,N’−四酢酸(DP−BAPTA)のいくつかのジエステルの二ナトリウム又はカルシウム塩の合成を、以下のような3つのステップで実施した。
ステップ1.BAPTAの酸無水物の調製:
【0071】
【化2】

【0072】
ステップ2.BAPTAジエステルの調製:
【0073】
【化3】

【0074】
ステップ3.BAPTAのジエステルの二ナトリウム又はカルシウム塩の調製:
【0075】
【化4】

【0076】
ステップ1.BAPTA無水物の調製
BAPTA(24gr.、0.05mol)、ピリジン(8gr.、0.1mol)及び無水酢酸(95ml、1.0mol)を、逆流冷却器(水冷)及び磁気攪拌機を備えた丸底の一口フラスコ(500ml)に入れた。磁気攪拌機によって激しく攪拌しながら反応混合物を90℃で5時間加熱した。その後、温度を50℃まで下げ、この温度でさらに10時間加熱を続けた。10時間の後、反応混合物を室温まで冷却し、濾過によって沈殿物を抽出した。その後、沈殿物を酢酸エチルで4回(それぞれの洗浄に50ml)、エーテルで2回(それぞれの洗浄に60ml)洗浄した。沈殿物を真空下、50℃で6〜8時間乾燥させた。生成物はBAPTA無水物である。収率80%(17.6g.)。白色固体。M.p.148〜149℃。
【0077】
解析:TLC。化合物は解析中に分解した。

【0078】
ステップ2.BAPTAのアルキル又はアリールジエステルの調製
ステップ1.のBAPTA無水物(10g、0.023Mol)及び対応する無水アルコール(300ml)を、アルゴン雰囲気下で逆流冷却器及び磁気攪拌機を備えた丸底の一口フラスコに入れた。混合物を油浴中、90℃(メチル及びエチルジエステルは70℃)で激しく攪拌しながら加熱した。6時間後、約半分のアルコールが反応混合物から蒸留された(高分子アルコールは真空下で蒸留される)。得られた混合物を0℃まで冷却し、この温度で5〜8時間保った。真空下の濾過(ガラスフィルターN4)によって沈殿物を溶液から分離し、約40mlのエタノールで3〜4回洗浄し、次いで酢酸エチルで3回洗浄し(それぞれ100ml)、最後にジエチルエーテルで3回洗浄した(それぞれ150ml)。生成物を真空下で8時間乾燥させた。
【0079】
BAPTAの合成ジエステルの化学的/物理的な明細を以下に示す。
【0080】
BAPTAのエチルジエステル。収率90%(11g.)。白色粉末。M.p.161〜162℃。TLC解析。アルミニウムシート上のシリカゲル60。溶出液はクロロホルム、メタノール、水の混合物(80:20:1.5v/v)である。表示には、クロマトグラムに指示薬スプレーを噴霧し、その後、350〜400℃で焼いた。指示薬スプレーの組成は、4−メトキシベンズアルデヒド(10ml)、エタノール(200ml)、98%のHSO(10ml)及び氷酢酸(2ml)である。単一スポット。R0.3。

【0081】
BAPTAのプロピルジエステル。収率90%(11.5g.)。白色粉末。M.p.187℃。TLC解析。BAPTAのジエチル及びジプロピルエステルの解析条件は類似している。単一スポット。R0.35。

【0082】
BAPTAのイソプロピルジエステル。収率80%(10.2g.)。白色粉末。M.p.181〜182℃。TLC解析。アルミニウムシート上のシリカゲル60F254。溶出液:クロロホルム:メタノール(65:30、v/v)。表示には、クロマトグラムに指示薬スプレーを噴霧し、その後、350〜400℃で焼いた。指示薬スプレーの組成は、4−メトキシベンズアルデヒド(10ml)、エタノール(200ml)、98%の硫酸(10ml)及び氷酢酸(2ml)である。単一スポット。R0.72。

【0083】
BAPTAのブチルジエステル。収率90%(12.1g.)。白色粉末。M.p.183℃。TLC解析。BAPTAのジエチル及びジブチルエステルの解析条件は類似している。単一スポット。R0.42。

【0084】
BAPTAのヘプチルジエステル。収率70%(10.8g.)。白色粉末。M.p.146〜147℃。TLC解析。BAPTAのエチル及びヘプチルジエステルの解析条件は類似している。単一スポット。R0.50。

【0085】
BAPTAのオクチルジエステル。収率70%(11.3g.)。白色粉末。M.p.155℃。TLC解析。BAPTAのジエチル及びジオクチルエステルの解析条件は類似している。単一スポット。R0.55。

【0086】
BAPTAのベンジルジエステル。収率70%(10.6g.)。白色粉末。M.p.161〜163℃。TLC解析。BAPTAのエチル及びベンジルジエステルの解析条件は類似している。単一スポット。R0.64(ベンジルジエステルは、ジメチルホルムアミド溶液中でTLCプレートにプロットした)。

【0087】
BAPTAの2−(ジメチルアミノ)エチルジエステル。収率70%(9.95g.)。白色粉末。M.p.126〜127℃。TLC解析。アルミニウムシート上のシリカゲル60F254。溶出液:クロロホルム:メタノール:水 60:40:2v/v。単一スポット。R0.2。

【0088】
ステップ3a.BAPTAのジエステルのナトリウム塩の調製
対応するBAPTAのアルキルジエステル(0.019Mol)を、磁気攪拌機を備えたエルレンマイヤーフラスコ(500ml)に入れた。約250mlのメタノールと水との混合物(1:1v/v)をエステルに加えた。エステルはこの溶液に溶けないので、この混合物を激しく攪拌した。水中のNaHCOの濃縮溶液(0.038mol、3.19g.)又はMeONaの濃縮溶液(0.038mol)を攪拌中の混合物に加え、5〜8時間後、混合物は透明になる。これは、アルキルジエステルが二ナトリウム塩へと変換されたことを示す。メタノール及び水を真空下で蒸発させた。得られた塩を、エタノール及びジエチルエーテルを用いた共沸蒸留によって乾燥させた。最後に、塩を真空下(5〜6mmHg)で8時間乾燥させた。
【0089】
BAPTAのエチルジエステル、二ナトリウム塩。白色粉末。収率95%(10.4g.)。元素分析。C263010Na。計算値:C 54.16%、H 5.21%、N 4.86%、Na 7.98%。実測値:54.10%、H 5.27%、N 4.65%、Na 8.10%。
【0090】
BAPTAのプロピルジエステル、二ナトリウム塩。白色粉末。収率95%(10.9g.)。元素分析。C283610Na。計算値:55.63%、H 5.63%、N 4.63%、Na 7.61%。実測値:54.76%、H 6.13%、N 4.46%、Na 6.73%。
【0091】
BAPTAのブチルジエステル、二ナトリウム塩。白色粉末。収率95%(11.2g.)。元素分析。C303810Na。計算値:C 56.96%、H 6.01%、N 4.43%、Na 7.28%。実測値:C 56.50%、H 6.00%、N 4.20%、Na 7.30%。
【0092】
BAPTAのヘプチルジエステル、二ナトリウム塩。白色粉末。収率90%(10.3g.)。元素分析。C365010Na。計算値:C 60.33%、H 6.98%、N 3.91%、Na 6.42%。実測値:C 59.88%、H 7.49%、N 4.12%、Na 6.76%。
【0093】
BAPTAのオクチルジエステル、二ナトリウム塩。白色粉末。収率90%(15.7g.)。元素分析。C385410Na。計算値:C 61.29%、H 7.26%、N 3.76%、Na 6.16%。実測値:C 60.90%、H 7.81%、N 3.26%、Na 6.52%。
【0094】
ステップ3b.BAPTAのジエステルのカルシウム塩の調製
対応するBAPTAのジエステル(1g.)を、1Lのエタノールと水との混合物(70:30v/v)に溶かした。この溶液に等モルのCa(OH)を加えた。磁気攪拌機によって、得られた混合物を室温で24時間攪拌した。その後、BAPTAのエチル、プロピル及びブチルジエステルの塩には、溶液をワットマン紙N1で濾過し、真空下(20〜30mmHg)で蒸発させて乾固させた。沈殿物をジエチルエーテルで3回洗浄し(各回100ml)、真空下(2〜3mmHg)、室温で6時間乾燥させた。BAPTAのヘプチル及びオクチルジエステルのカルシウム塩には、エタノール溶液を蒸発させて乾固させた。沈殿物を0.8Lのエタノールに溶かした。得られた混合物をワットマン紙N1で濾過し、その後、真空下(20〜25mmHg)でエタノールを蒸発させた。沈殿物ジエチルエーテルで3回洗浄し(各回100ml)、真空下(2〜3mmHg)、室温で6〜7時間乾燥させた。
【0095】
BAPTAのエチルジエステル、カルシウム塩。白色粉末。収率90%(0.96g.)。C263010Ca。計算値:C 54.70%、H 5.26%、N 4.91%、Ca 7.01%。実測値:C 54.32%、H 5.40%、N 4.81%、Ca 6.81%。
【0096】
BAPTAのプロピルジエステル、カルシウム塩。白色粉末。収率90%(0.98g.)。C283410Ca。計算値:C 56.19%、H 5.68%、N 4.68%、Ca 6.69%。実測値:C 56.22%、H 5.88%、N 4.51%、Ca 6.51%。
【0097】
BAPTAのブチルジエステル、カルシウム塩。白色粉末。収率90%(0.90g.)。C303810Ca。計算値:C 57.50%、H 6.07%、N 4.47%、Ca 6.39%。実測値:C 57.18%、H 6.24%、N 4.28%、Ca 6.11%。
【0098】
BAPTAのヘプチルジエステル、カルシウム塩。白色粉末。収率80%(0.85g.)。C365010Ca。計算値:C 61.71%、H 7.14%、N 4.00%、Ca 5.71%。実測値:C 61.44%、H 7.24%、N 4.18%、Ca 6.31%。
【0099】
BAPTAのオクチルジエステル、カルシウム塩。白色粉末。収率80%(0.83g.)。C385410Ca。計算値:C 61.79%、H 7.32%、N 3.79%、Ca 5.42%。実測値:C 61.94%、H 7.14%、N 4.00%、Ca 5.31%。
【実施例2】
【0100】
モノ−、ジ−及びトリエチレングリコールのアルキル若しくはアルキルアリールエーテルのBAPTAジエステル又はその塩の合成
エチレングリコールのアルキル又はアルキルアリールエーテルの塩を合成する手順は、BAPTAのアルキルジエステルの塩を調製する手順に類似の4ステップの方法である。
【0101】
ステップ1.BAPTA無水物の調製
BAPTA無水物を得るための第1ステップは、上記実施例1に記載したBAPTAのアルキルジエステルを合成する手順のステップ1と同じである。
【0102】
ステップ2.モノ−、ジ−及びトリエチレングリコールのモノアルキルエーテルの合成
モノ−、ジ−及びトリエチレングリコールのモノアルキルエーテルの合成は、以下のスキームに従って行う:
H(OCHCHOH+Na→H(OCHCHONa+1/2H
H(OCHCHONa+C2n+1Br→H(OCHCHOC2n+1+NaBr
例えば、m=1〜3、n=5〜18
【0103】
約0.8〜0.9g.のナトリウム(それぞれの小片の直径が5〜8mmとなるように切断)をアルゴン雰囲気下で、逆流冷却器及び磁気攪拌機を備えた二口の丸底フラスコ(250ml)に入れた。エチレングリコール(35ml、0.62Mol)を、やはりアルゴン下でナトリウムに加え、フラスコを油浴中、70℃で激しく攪拌しながら加熱した。ナトリウムのほとんどが溶けたら、残りのナトリウム(ナトリウムの典型的な量は3.9g.、0.17Molである)を1片ずつ反応混合物に加えた。ナトリウムの溶解は反応混合物の温度の上昇及び反応速度の増加を伴うことに注意されたい。爆発を避けるために、反応が十分に制御されるようにナトリウムをゆっくりと加えることが必要である。すべてのナトリウムが溶けた後、テトラヒドロフラン(60ml)中の対応する臭化アルキル(21.5g.、0.12Mol)の溶液を含む滴下漏斗を反応フラスコに加えた。滴下漏斗からの溶液を1滴ずつ反応フラスコに入れた。反応混合物の温度は70℃に保った。ほぼ瞬時に臭化ナトリウムの沈殿物が現れ、反応中に量が増えた。16時間後に反応混合物を室温まで冷却し、有機溶液に約150mlの水を加えた。2回の酢酸エチル(それぞれ40ml)によって生成物を抽出した。合わせた酢酸エチル溶液を水で洗浄し、硫酸ナトリウムえ乾燥させた。酢酸エチル中の生成物の黄色溶液は、活性炭素と共に加熱することによって脱色される。濾過によって無色の溶液を炭素から分離し、溶媒を蒸発させた。得られた生成物を真空下で蒸留し、その物理的及び化学的特性について解析した。
【0104】
エチレングリコールのモノヘプチルエーテル。無色液体。B.p.95℃/1mmHg。収率70%(13.4g.)。
TLC解析。アルミニウムシート上のシリカゲル60F254。溶出液:酢酸エチル:n−ヘキサン、2:1v/v。指示薬:4−メトキシベンズアルデヒド(10ml)、エタノール(200ml)、98%の硫酸(10ml)及び氷酢酸(2ml)。表示には、クロマトグラムに指示薬スプレーを噴霧し、その後、350℃で焼いた。単一スポット。R0.8。

【0105】
ジエチレングリコールのヘプチルエーテル。無色液体。B.p.100℃/1mmHg。収率70%(17.1g.)。
TLC解析。モノ−及びジエチレングリコールのヘプチルエーテルの解析条件は類似している。単一スポット。R0.4。

【0106】
トリエチレングリコールのヘプチルエーテル。無色液体。B.p.107℃/1mmHg。収率70%(20.8g.)。
TLC解析。モノ−及びトリエチレングリコールのモノヘプチルエーテルの解析条件は類似している。単一スポット。R0.3。

【0107】
オクチルモノエチレングリコール。無色液体。B.p.60℃/0.5mmHg。収率85%。TLC解析。エチレングリコールのジオクチルエーテルの解析条件は上記と同じである。単一スポット。R0.7。

【0108】
2−ベンジルオキシエタノール、2−ドデシルオキシエタノール、2−(2−ドデシルオキシエトキシ)−エタノール及び2−[2−(2−ドデシルオキシエトキシ)−エトキシ]−エタノールは、Fluka Co.から購入した。
【0109】
ステップ3.モノ−、ジ−及びトリエチレングリコールのモノアルキルエーテルのBAPTAジエステルの合成
ステップ1のBAPTA無水物(1.5g.、0.0034Mol)及びステップ2のモノ−、ジ−又はトリエチレングリコールの対応するモノアルキルエーテル(10〜12ml)を、アルゴン雰囲気下で逆流冷却器及び磁気攪拌機を備えた丸底の一口フラスコ(50ml)に入れた。混合物を油浴中、115〜120℃で激しく攪拌しながら加熱した。1〜1.5時間後に混合物は透明になる。反応が完了するまで、加熱をさらに1.5時間続けた。その後、フラスコを室温まで冷却し、約100mlの石油エーテル(B.p.60〜80℃)を加えた。形成した沈殿物を遠心分離によって抽出し、石油エーテルで3回洗浄した(それぞれの洗浄に40ml)。固形生成物を真空下で5時間乾燥させ、以下の化合物で例示するように、生成物の特性を検証するために解析した。
【0110】
メチルエチレングリコールのBAPTAジエステル。白色固体。M.p.151〜152℃。収率90%(1.81g.)。
TLC解析。アルミニウムシート上のシリカゲル60F254。溶出液はクロロホルム:メタノール(1:1v/v)である。表示には、クロマトグラムに指示薬スプレーを噴霧し、その後、100〜150℃で焼いた。指示薬スプレーの組成は、4−メトキシベンズアルデヒド(10ml)、エタノール(200ml)、98%の硫酸(10ml)及び氷酢酸(2ml)である。単一スポット。R0.14。

【0111】
ヘプチルエチレングリコールのBAPTAジエステル。白色固体。M.p.111〜112℃。収率90%(2.32g.)。
TLC解析。BAPTAジエステルのヘプチルエチレングリコールのメチルエチレングリコール及びBAPTAジエステルのTLC解析の条件は同じである。単一スポット。R0.4。

【0112】
オクチルエチレングリコールのBAPTAジエステル。白色固体。M.p.121〜122℃、収率80%(1.4gr)。
TLC解析。アルミニウムシート上のシリカゲル60。溶出液はクロロホルム:メタノール(1:1、v/v)である。表示には、クロマトグラムに指示薬スプレーを噴霧し、その後、100〜150℃で焼いた。指示薬スプレーの組成は、4−メトキシベンズアルデヒド(10ml)、エタノール(200ml)、98%の硫酸(10ml)、及び氷酢酸(2ml)である。単一スポット。R0.45。

【0113】
ヘプチルジエチレングリコールのBAPTAジエステル。白色固体。M.p.95〜96℃。収率85%(2.5g.)。
TLC解析。メチルエチレンのBAPTAジエステル及びBAPTAジエステルヘプチルジエチレングリコールの解析条件は同じである。単一スポット。R0.40。

【0114】
ヘプチルトリエチレングリコールのBAPTAジエステル。白色固体。M.p.63〜65℃。収率85%(2.7g.)。
TLC解析。ヘプチルトリエチレングリコールのBAPTAジエステル及びメチルエチレングリコールのBAPTAジエステルの解析条件は同じである。単一スポット。R0.40。

【0115】
2−ベンジルオキシエタノールのBAPTAジエステル。白色固体。収率80%(2.02g.)。TLC解析。2−ベンジルオキシエタノールのBAPTAジエステル及びヘプチルエチレングリコールのBAPTAジエステルのTLC解析の条件は同じである。単一スポット。R0.5。

【0116】
2−ドデシルオキシエタノールのBAPTAジエステル。白色固体。収率80%(2.44g.)。TLC解析。2−ドデシルオキシエタノールのBAPTAジエステル及びヘプチルエチレングリコールのBAPTAジエステルのTLC解析の条件は同じである。単一スポット。R0.5。

【0117】
2−(2−ジオデシルオキシエトキシ)−エタノールのBAPTAジエステル。白色固体。収率80%(2.68g.)。
TLC解析。2−(2−ドデシルオキシエトキシ)−エタノールのBAPTAジエステル及びヘプチルエチレングリコールのBAPTAジエステルのTLC解析の条件は同じである。単一スポット。R0.5。

【0118】
2−[2−(2−ドデシルオキシエトキシ)−エトキシ]−エタノールのBAPTAジエステル。白色固体。収率70%(2.32g.)。
TLC解析。2−[2−(2−ドデシルオキシエトキシ)−エトキシ]−エタノールのBAPTAジエステル及びヘプチルエチレングリコールのBAPTAジエステルのTLC解析の条件は同じである。単一スポット。R0.5。

【0119】
ステップ4a.モノ−、ジ−又はトリエチレングリコールのモノアルキルエーテルのBAPTAジエステルの二ナトリウム塩の調製。
モノ−、ジ−又はトリエチレングリコールのモノアルキルエーテルの対応するBAPTAジエステル(0.0025Mol)をメタノールに溶かし(1.0g.のBAPTAジエステルを溶かすためには約10mlのアルコールが必要である)、得られた溶液を、磁気攪拌機を備えたエルレンマイヤーフラスコ(50ml)に入れた。炭酸水素ナトリウム水溶液(2ml中に0.005Mol)をBAPTAジエステルのメタノール溶液に加え、混合物を2時間、室温で混合した。その後、溶媒を真空下(30mmHg)で蒸発させた。得られた沈殿物を、エタノールと3回、ジエチルエーテルと2回共沸蒸留させることによって乾燥させた。最後に、得られた生成物をヘキサンで洗浄し、真空下で乾燥させた。
【0120】
メチルモノエチレングリコールのBAPTAジエステル、二ナトリウム塩。白色固体。吸湿性。収率95%(1.5g.)。元素分析。C283412Na。計算値:C 52.80%、H 5.35%、N 4.40%、Na 7.23%。実測値:52.20%、H 5.59%、N 4.49%、Na 7.30%。
【0121】
ヘプチルモノエチレングリコールのBAPTAジエステル、二ナトリウム塩。白色固体。吸湿性。収率95%(1.9g.)。
元素分析。C405812Na。計算値:C 59.70%、H 7.21%、N 3.48%、Na 5.72%。実測値:C 59.60%、N 7.75%、N 3.51%、Na 5.51%。
【0122】
ヘプチルジエチレングリコールのBAPTAジエステル、二ナトリウム塩。白色固体。吸湿性。収率95%(2.1g.)。
元素分析。C446614Na。計算値:C 59.19%、H 7.40%、N 3.14%、Na 5.16%。実測値:C 58.55%、H 7.43%、N 3.46%、Na 5.49%。
【0123】
ヘプチルトリエチレングリコールのBAPTAジエステル、二ナトリウム塩。白色ろう。非常に吸湿性。収率90%(2.2g.)。
元素分析。C487416Na。計算値:C 58.77%、H 7.55%、N 2.86%、Na 4.69%。実測値:C 57.98%、H 8.03%、N 2.94%、Na 4.64%。
【0124】
オクチルエチレングリコールのBAPTAジエステル、二ナトリウム塩。白色固体。収率80%。TLC解析。アルミニウムシート上のシリカゲル60。溶出液はクロロホルム:メタノール(1:1、v/v)である。表示には、クロマトグラムに指示薬スプレーを噴霧し、その後、100〜150℃で焼いた。指示薬スプレーの組成は、4−メトキシベンズアルデヒド(10ml)、エタノール(200ml)、98%の硫酸(10ml)、及び氷酢酸(2ml)である。単一スポット。R0.45。

【0125】
2−ベンジルオキシエタノールのBAPTAジエステル、二ナトリウム塩。白色固体。吸湿性。収率90%(1.92g.)。含水率は7.0%である。
元素分析。C404212Na2・3HO。計算値:C 57.01%、H 5.70%、N 3.33%、Na 5.46%。実測値:56.44%、H 5.90%、N 3.49%、Na 5.50%。
【0126】
2−ドデシルオキシエタノールのBAPTAジエステル、二ナトリウム塩。白色固体。吸湿性。収率90%(2.3g.)。含水率は2.8%である。
元素分析。C283412Na2・1.5HO。計算値:C 61.73%、H 8.33%、N 2.88%、Na 4.73%。実測値:61.34%、H 8.45%、N 2.76%、Na 4.99%。
【0127】
2−(2−ドデシルオキシエトキシ)−エタノールのBAPTAジエステル、二ナトリウム塩。白色固体。吸湿性。収率85%(2.35g.)。含水率は4.3%である。
元素分析。C548614Na2・2.5HO。計算値:C 60.15%、H 8.51%、N 2.60%、Na 4.27%。実測値:59.68%、H 8.33%、N 2.46%、Na 4.75%。
【0128】
2[2−(2−ドデシルオキシエトキシ)−エトキシ]−エタノールのBAPTAジエステル、二ナトリウム塩。白色固体。吸湿性。収率85%(1.5g.)。含水率は2.3%である。
元素分析。C589416Na2・1.5HO。計算値:C 60.66%、H 8.45%、N 2.44%、Na 4.00%。実測値:60.20%、H 8.32%、N 2.32%、Na 4.30%。
【0129】
ステップ4b.モノ−、ジ−又はトリエチレングリコールのモノアルキルエーテルのBAPTAジエステルのカルシウム塩の調製。
BAPTAのモノ−、ジ−又はトリエチレングリコールジエステルの対応するモノアルキルエーテル(0.0025Mol)を250mlのメタノールに溶かした。この溶液に約3〜5mlの水を加えた。得られた溶液を、磁気攪拌機を備えたエルレンマイヤーフラスコ(300ml)に入れた。この溶液を激しく攪拌しながらCaHの粉末(0.0025Mol)を加えた。攪拌を室温で3時間続けた。3時間後、混合物を濾紙(ワットマンN1)で濾過し、得られた溶液を真空下(10〜15mmHg)で蒸発させた。沈殿物を、エタノールで3回(各回25〜30ml)、ジエチルエーテルで2回共沸蒸留させることによって乾燥させた。最後に、生成物をヘキサンで洗浄し、真空下(5mmHg)、室温で5時間乾燥させた。
【0130】
BAPTAのメチルモノエチレングリコールジエステル、カルシウム塩。白色粉末。収率90%(1.42g.)。C283412Ca。計算値:C 53.33%、H 5.40%、N 4.44%、Ca 6.35%。実測値:C 53.74%、H 5.78%、N 4.43%、Ca 5.90%。
【0131】
BAPTAのヘプチルモノエチレングリコールジエステル、カルシウム塩。白色粉末。収率90%(1.79g.)。C405812Ca。計算値:C 60.15%、H 7.27%、N 3.51%、Ca 5.01%。実測値:C 60.32%、H 7.63%、N 3.54%、Ca 4.59%。
【0132】
BAPTAのオクチルモノエチレングリコールジエステル、カルシウム塩。白色粉末。収率90%(1.81g.)。C426212Ca。計算値:C 61.01%、H 7.50%、N 3.38%、Ca 4.84%。実測値:C 61.00%、H 7.82%、N 3.54%、Ca 4.88%。
【0133】
BAPTAのヘプチルジエチレングリコールジエステル、カルシウム塩。白色固体。収率80%(1.77g.)。C446614Ca。計算値:C 59.59%、H 7.44%、N 3.16%、Ca 4.51%。実測値:C 59.61%、H 7.79%、N 3.15%、Ca 4.04%。
【0134】
BAPTAのメチルトリエチレングリコールジエステル、カルシウム塩。白色固体。収率80%(1.61g.)。C365016Ca。計算値:C 53.60%、H 6.20%、N 3.47%、Ca 4.96%。実測値:C 53.95%、H 6.33%、N 3.20%、Ca 4.73%。
【実施例3】
【0135】
DP−BAPTAはC6−グリオーマ細胞において基底活性及びTNFα誘発性のMMP−9活性を低下させる
MMP−9活性に対するDP−b99の効果を、治療なし(基底活性)又はゼラチナーゼを誘発させる腫瘍壊死因子α(TNFα)を用いた治療の後に、培養C6グリオーマ細胞で試験した。
【0136】
100mmのペトリ皿に増殖させたC6ラットグリオーマ細胞(ATCC;CRL−2199)をトリプシン処理によって剥離し、24ウェルプレートで、DMEM+10%FCS中で1ウェルあたり10個の細胞の密度まで培養した。プレートに植えた次の日に、ゼラチナーゼを誘発させるために刺激したTNFαで処理した細胞を、20ng/ml又は40ng/mlのTNFα(R&D、カタログ#410−TRNC)のどちらかの存在下で18時間、血清を含まないDMEM中でインキュベートした。記載のように、0.48%の脂肪酸を含まないBSA、0.4%のエタノール中の様々な濃度の試験化合物を細胞に加え、その後、細胞を合計18〜24時間、37℃でインキュベートした。ベヒクルのみで処理した細胞を対照群とした。
【0137】
その後、条件培地(CM)を採取し、2000rpmで5分間遠心分離し、上清を新しいチューブに移した。MMPゼラチナーゼ活性は、基質としてゼラチンを含むザイモグラムゲル(Invitrogen、カタログ#EC6175)を用いて側定した。試料を62.5mMのトリス−HCl pH6.8、10%のグリセロール、2%のSDS及び少量のブロモフェノールブルー中でゲルに載せた。ゲルをトリス/グリシン−SDSランニング緩衝液に流し込み、renaturing buffer(Invitrogen)で30分間洗浄し、developing butter(Invitrogen)でさらに30分間洗浄した。MMP活性は、新しいdeveloping butterで、終夜37℃で発現させた。その後、ゲルを1時間、40%のメタノール及び7%の酢酸中のクマシーブルー(Brilliant Blue R、Sigma、カタログ#B−8647)で染色し、30%のメタノール/10%の酢酸で脱染色した。MMPによって形成される消化ゼラチン領域(透明なバンドとして現れる)を、Kodak digital Science(商標)Image stationを用いて写真撮影した。バンド解析はKodak digital Science(商標)1D Image Analysisソフトウェアを用いて側定した。処理は3重に行い、3つの個別のザイモグラムゲルに供した。
【0138】
TNFαを用いた処理により、MMP−9活性の3〜10倍の増加が引き起こされることが判明した。加えたDP−BAPTA(20μM)は、C6−グリオーマ細胞において基底及びTNFα誘発性のMMP活性をどちらも阻害した。基底及びTNFα誘発性のMMP−9活性に対する阻害率は、それぞれ約25%及び60%までであった。
【実施例4】
【0139】
DP−BAPTAはTNFα誘発性MMP−9の発現/放出を低下させ、酵素活性を阻害する
MMP−9の総量及びその活性に対するDP−b109の効果を、腫瘍壊死因子α(TNFα)で処理した後のヒトグリオーマ細胞系で試験した。
【0140】
上記実施例3に記載した手順に従って、A−172ヒトグリオーマ細胞(ATCC;CRL−1620)を増殖させ、0、20又は50μMのDP−b109の存在下で10ng/mlのTNFαで処理した。TNFα治療なしでベヒクルで処理した細胞を対照群とした。各処理群からのCMを採取し、ザイモグラムゲル(実施例3の手順参照)、MMP−9免疫アッセイ及びMMP−9活性アッセイに供した。
【0141】
MMP−9タンパク質の総量は、製造者の指示に従って、Quantikine(商標)(R&D Systems、米国、カタログ#DMP900)キットを用いた免疫アッセイによって側定した。
【0142】
MMP−9活性は、活性MMP−9型の量を定量するMMP−9活性アッセイ系(BioTrak(商標)、Amersham、英国、カタログ#RPN2634)を用いてアッセイした(BioTrakキットの指示を参照)。
【0143】
図1Aは免疫アッセイの結果を示し、MMP−9の合計量がTNFαの存在下で約10倍増加したことが実証されている。図1Aは、DP−b109が、用量に依存して採取した条件培地中で測定されるMMP−9タンパク質のレベルを低下させることを実証している。この低下は、MMP−9の発現の低下、酵素の放出の低下、又は両方の組合せに起因し得る。
【0144】
図1Bに見られるように、TNFαの存在下では、活性MMP−9が35%〜40%増加した。加えたDP−b109の存在下では、この増加は基底レベル、すなわちTNFαによる誘発が存在しない場合に測定されたMMP−9活性のレベルまで低下した。
【0145】
結論:
MMP−9活性に対するDP−BAPTAの阻害効果が2つのレベル:a)タンパク質の発現/放出の低下、及びb)MMP−9酵素活性の阻害で行われることが示された。
【実施例5】
【0146】
DP−BAPTAはC6−グリオーマ細胞においてTNFα又はPMAのどちらかによって誘発されるMMP−9活性を阻害する
TNFα又は13−酢酸12−ミリスチン酸ホルボール(PMA)のどちらかで誘発させたMMP−9活性に対するDP−BAPTAの効果を、C6グリオーマ細胞で試験した。細胞を20ng/mlのTNFα(R&D、カタログ#410−TRNC)又は0.1μMの12−ミリスチン酸13−酢酸ホルボール(PMA、Sigma、カタログ#P−8139)のどちらかで刺激した以外は実施例3に記載のように、C6グリオーマ細胞を増殖させて処理した。
【0147】
TNFα及びPMAはどちらもMMP−9の分泌を約10倍増加させたことが示された。様々な濃度のDP−109の効果を試験した実験の結果を図2に示す。
【0148】
図2に見られるように、DP−109はTNFα又はPMAのどちらかによって誘発されたMMP−9活性を用量に依存して低下させた。IC50の計算値はどちらの治療でも類似しており、IC50=〜10μMであった。
【0149】
MMP−9の2つの異なる刺激剤、すなわちMMP−9活性の知られている誘発剤であるTNFα及びタンパク質キナーゼC(PKC)活性化因子であるPMAで得られたこれらの結果は、MMP−9に対するDP−BAPTAの阻害効果はTNFα受容体との相互作用によるものではなく、それよりも下流で、MMP−9の発現を遮断すること、又はMMP−9酵素活性を直接阻害することのどちらかによるものであることを示唆している。
【実施例6】
【0150】
BAPTA及びBAPTA−AMと比較したMMP−9活性に対するDP−BAPTAの効果
いくつかのDP−BAPTA分子をMMP−9活性に対するその効果についてスクリーニングし、関連するキレート化化合物である1,2−ビス(2アミノフェノキシ)エタン−N,N,N’,N’−四酢酸(BAPTA)及びその親油性類似体である1,2−ビス(2−アミノフェノキシ)エタン−N,N,N’,N’−四酢酸アセトキシメチルエステル(BAPTA−AM)の効果と比較した。
【0151】
C6グリオーマ細胞をプレートに植え、記載のように試験化合物を存在させて又は存在させずに、上記実施例3に記載したプロトコルに従って20ng/mlのTNFαで処理した。試験したDP−BAPTA、BAPTA又はBAPTA−AMのそれぞれを1、5、10及び20μMの最終濃度で加えた。ベヒクルのみで処理した細胞を対照とした。
【0152】
アッセイは3重に行い、ザイモグラム解析は上記実施例3に記載のように実施した。試験したそれぞれのDP−BAPTA化合物のIC50値を計算した。結果を表1に要約する。
【0153】
【表1】


n.d.−検出されず
【0154】
結論:
試験化合物のうち最も強力な阻害剤は、1,2−ビス(2アミノフェノキシ)エタン,N,N’−ジ(酢酸2−ベンジルオキシエチル),N,N’−酢酸、二ナトリウム塩[DP−b440]及び1,2−ビス(2−アミノフェノキシ)エタン,N,N’−ジ(酢酸2−オクトデシルオキシエチル),N,N’−二酢酸、二ナトリウム塩[DP−b109]であり、IC50の計算値はそれぞれ12μM及び10〜20μMであった。
【0155】
親キレート化化合物、すなわちBAPTAはMMP−9活性に影響を与えなかったことに注目することが重要である。関連するテトラエステルBAPTA類似体、すなわちBAPTA−AMは、使用した試験モデル系(TNFαで刺激したC6グリオーマ細胞)でMMP−9活性を低下させるよりもむしろ増加させた。
【実施例7】
【0156】
DP−BAPTAは一次培養グリア細胞においてMMP−9活性を阻害する
刺激していないMMP−9(基底活性)に対するDP−BAPTA分子の効果及びTNFαによって誘発されるMMP−9の活性化を阻害するその能力を、一次グリア細胞で試験した。
【0157】
ラット胚(妊娠18日目)由来の皮質グリア細胞をポリ−D−リシンでコーティングした24ウェルプレートに、5%のFCS、5%のHS、2mMの1−グルタミン及び0.6%のグルコースを含むMEM培地と共に、1ウェルあたり5×10個の細胞の密度で播種した。4日間培養した後、培地をMEM+10%のFCSに交換した。グリア細胞が集密に到った後(播種後約17日)、MMP−9を誘発させるためにこれらを10ng/ml又は20ng/mlのヒトTNFαに24時間曝した。誘発は、5mg/mlのBSA(実質的に脂肪酸を含まない)を含む血清を含まない培地中の25μMのDP−b99(クエン酸ナトリウム緩衝液中の5mMストックから培地で1:200に希釈)を存在させて又は存在させずに行った。条件培地(CM)を採取し、それぞれの3つ組の12μlを、上記実施例3に記載のように個別のザイモグラムゲルに供した。
【0158】
対照(刺激していない)グリア細胞及びDP−b99を用いて又は用いずに10又は20ng/mlのTNFαで処理した培養物からの条件培地(CM)におけるMMP−9活性の代表的なザイモグラムを図3に示す。
【0159】
図3Aに見られるように、MMP−9の2つの型をゲルで分離した。上方のバンドはより高い分子量を有するpro−MMP−9を表し、下方のバンド(より低い分子量)は酵素の生物学的に活性のある型を表す。
【0160】
酵素のpro型及び活性型を表すMMP−9バンドの定量解析を、3重のザイモグラムで行った。結果を対照値の%(=100%)に正規化し、それぞれ酵素の生物学的に活性のある型及びpro−MMP−9型を表す図3B及び3Cに示す。
【0161】
結果は明らかに、刺激していない細胞では、DP−b99が消滅した活性MMP−9のバンドの量に基づきpro−MMP−9のバンド強度を増大させたことを実証している。TNFαで処理した細胞では、MMP−9のpro型及び活性型のどちらもが低下した。
【0162】
結論:
グリア細胞において基底MMP−9活性に対するDP−b99の阻害効果は、活性MMP−9型の量に基づくPro−MMP−9のバンド強度の増大が示されたことによって実証された。TNFαで処理した細胞では、DP−b99は酵素のpro型及び活性型をどちらも低下させた。
【実施例8】
【0163】
グリア細胞からのTNFαの放出に対するDP−BAPTAの効果
一次グリア細胞のリポ多糖(LPS)を用いた刺激に応答したTNFαの放出レベルに対する様々なDP−BAPTA分子の効果を測定した。
【0164】
皮質ラットグリア細胞を上記実施例7に記載のようにプレートに植えた。グリア細胞が集密に到った後(接種後17日)、これらを、血清を含まない培地中の20μMのDP−b99、DP−b109、DP−b458、DP−b440、DP−b460又はDP−b464(=1,2−ビス(2−アミノフェノキシ)エタン,N,N’−ジ{酢酸2−[2−(2−ドデシルオキシエトキシ)エトキシ]−エチル},N,N’−二酢酸)を存在させて又は存在させずに、0.5μg/mlのLPS(大腸菌0111:B4、Calbiochem、カタログ#437627)に18時間に曝した。CMを採取し、ELISAアッセイ(DuoSet、R&D、カタログ#DY510)を使用してTNFαの存在について分析した。
【0165】
図4に見られるように、LPSはTNFαの放出を対照のレベルの約10倍に増加させた。すべてのDP−BAPTA試験化合物がこの増加を阻害した。
【0166】
結論:
様々なDP−BAPTA化合物が、グリア細胞においてTNFαの放出の誘発を低下させるその能力について、様々な程度で有効であった。結果は、グリア細胞においてTNFα変換酵素(TACE)の活性を遮断することにおけるDP−BAPTA分子の役割の可能性を示唆しており、したがって、神経炎症性プロセスの阻害又は妨害におけるこれらの分子の潜在的な使用を示している。
【実施例9】
【0167】
マクロファージからのTNFαの放出に対するDP−BAPTAの効果
リポ多糖(LPS)を用いた刺激に応答したTNFαの放出レベルに対するDP−BAPTAの効果を、マクロファージ細胞系でも試験した。マウスマクロファージ細胞を100mmのペトリ皿に増殖させ、掻爬によって剥離し、24ウェルプレートで、DMEM+10%のFCS中で1ウェルあたり約10個の細胞の密度まで再培養した。48時間後、細胞を、20μMのDP−BAPTAを存在させて又は存在させずに、血清を含まない培地中の0.5μg/mlのLPS(大腸菌0111:B4、Calbiochem、カタログ#437627)に18時間曝した。条件培地をTNFα解析用に採取し、ELISAアッセイ(DuoSet、R&D、カタログ#DY410)を用いて分析した。
【0168】
マクロファージからのTNFαの放出を阻害する様々なDP−BAPTA分子の能力は、末梢炎症性プロセスに関連する疾患及び状態を治療又は寛解することにおけるこれらの分子の潜在的な使用も示し得る。
【実施例10】
【0169】
in−vivoでのMMP−9活性化に対するDP−b99の効果
in−vivoでのMMP−9活性に対するDP−BAPTAの効果を試験するために、以下の脳虚血のモデル系及び以下のプロトコルを用いた。
【0170】
6匹のスプラーグ−ドーリー(SD)ラットに一側性(右半球)中大脳動脈閉塞(MCAO)を2時間施した。3匹の動物に、0.02%のクエン酸ナトリウム中の5μg/kgのDP−b99を生理食塩水中で単一用量でi.p.投与し、次いで2時間再灌流を行った。残りの3匹の動物はDP−b99の代わりにベヒクルで治療した。さらなる治療なしに手術のみを行った1匹のラットを偽対照として使用した。
【0171】
7匹のラットを24時間後に屠殺し、それらの脳の各半球を個別に溶解に供し、酵素活性用に抽出した。脳を細かく刻み、最終濃度400mg/mlで溶解緩衝液(25mMのトリス−HCl pH 7.5、1%のIGEPAL CA−630(Sigmaの非イオン性洗剤)、100mMのNaCl、0.5U/mlのアプロチニン、0.01%のアジ化ナトリウム)に溶かした。調製物を24時間4℃でインキュベートした後、溶解液を14,000rpmで15分間遠心分離し、上清を採取した。
【0172】
タンパク質濃度はブラッドフォードアッセイによって側定し、各溶解液から40μgのタンパク質をゼラチンザイモグラムゲルに載せてMMP−9レベルを決定した。ゲルを48時間展開させた。ゲルの定量解析は、実施例3に記載のKodak Digital System及びKodak 1Dソフトウェアを用いて行った。結果を図5に示す。
【0173】
偽手術を行ったラットの2つの半球で同レベルのMMP活性が測定された。MCAOを施したラットでは、予想どおり、MMP−9活性の誘発が右(R−損傷)半球で実証され、左(L−無治療)半球では顕著な増加は観察されなかった。
【0174】
図5に見られるように、DP−b99を用いた治療によりMMP活性のこの誘発が阻害された。DP−b99で治療したラットのR/L比の計算値は3.0であった。これに対し、ベヒクルで治療したラットではR/L=4.9であった。
【0175】
DP−b99によって阻害されたMMP−9とは対照的に、試験した他のゼラチナーゼ、すなわちMMP−2の活性レベルはDP−b99を用いた治療によって影響を受けなかったことに注目することが重要である。
【0176】
結論:
DP−b99は、ラットにおいて局所脳虚血によって誘発されたMMP−9活性を低下させた。このin−vivo検査の結果は、DP−BAPTAがC6及びA−172グリオーマ細胞並びに一次グリア細胞で誘発されたMMP−9活性を低下させることを示したin vitro実験(実施例3〜7)の結果と相関する。これらの発見は、DP−BAPTAがin vivoでMMP−9活性を阻害することができることを示しており、したがって、傷害を与える神経炎症性プロセスを妨害するのに有用であり得ることを示している。
【実施例11】
【0177】
DP−b−99は一次皮質ニューロン中のカルパイン活性を阻害する
による酵素の活性化に次いで一次皮質ニューロン中のカルパイン活性を評価した。カルパイン活性は、カルパインの基質α−スペクトリンの、280kDaの完全長タンパク質から150kDaの分解生成物へのタンパク質分解を監視することによって測定した。
【0178】
培養物の調製:一次皮質ニューロンは、16〜17日目の胚性(E16−17)ラット胎児の脳から調製した。1匹の母親からの胚由来の細胞を、0.5mMのグルタミン、0.4ユニット/mlのペニシリン、0.4μg/mlのストレプトマイシン、及びB27サプリメント(Gibco、Glasgow、スコットランド)、並びに25μMのグルタミン酸を含む300mlの「一次培地」(NBM Gibco、Glasgow、スコットランド)に再懸濁させた。細胞(〜3×10個/ml)を、生存度アッセイには1ウェルあたり1mlで24ウェルプレートに播種し、カルパイン活性の解析には1ウェルあたり4mlで6ウェルプレートに播種した。3〜4日毎に培地の半分を新しい「一次培地」に交換した。5〜7日以降に細胞を実験に用いた。
【0179】
酸化的ストレスの誘発:使用直前にPBSで調製した10mMの溶液から、Hを指示した濃度で「一次培地」中の細胞に加えた。18〜24時間後に生存度を決定した。酸化的ストレスを誘発させる1〜2時間前にDP−b99を培地に加えた。
【0180】
カルパイン活性のアッセイ:6ウェルプレート中の一次皮質ニューロンを100μlのRIPA緩衝液(50mMのトリス pH 7.5;150mMのNaCl;0.5%のDOC;1%のTriton X−100;0.1%のSDS;1mMのNappi;2mMのEDTA)及びプロテアーゼ阻害剤(Bohringer、Manheim、ドイツ)に溶解した。氷上で10分間インキュベートした後、20,000g、4℃で15分間遠心分離することによって溶解液を清澄にした。製造者の指示に従って、10〜50μgのタンパク質を含む試料を4〜12%勾配のSDS−PAGE(Nu−PAGE、NOVEX、MES緩衝液を含む)で分離し、ニトロセルロース紙にブロットした。α−スペクトリンの様々な型を検出するために、ブロットを抗スペクトリン抗体(Affinity FG6090 1:1000)と、次いでHRP二次抗体(米国Santa Cruz)と反応させ、次いでECL反応(Amersham、英国Buckinghamshire)を行った。バンドの検出はImage Station440(Kodak Digital System)を用いて行った。切断されていないスペクトリンは〜280kDaであり、カルパインで切断された型は〜150kDaであった。バンドの定量はKodak 1Dソフトウェアを用いて行った。
【0181】
上述の実験系では、カルパインで切断した生成物は、Hを加えた2時間後に現れ、4時間後で最大レベルに達することが判明した。
【0182】
カルパイン活性に対するDP−b99の効果は、Hに誘発されたスペクトリンの切断を監視することによってHを加えた4時間後に検査した。皮質一次細胞は、H(50μM)を加えた1時間に、DP−b99(15μg/ml)又は市販のカルパイン阻害剤MDL28170(25μM)で前処理した。カルパイン活性は、上述の「カルパイン活性」アッセイを用いることによって決定した。
【0183】
図6に見られるように、DP−b99はカルパイン活性を知られているカルパイン阻害剤MDL28170と同様の程度に阻害した。DP−b99による%阻害は、様々な実験で40%の〜60%であった。
【0184】
結論:
DP−b99は、Hに誘発されるカルパイン活性を市販のカルパイン阻害剤MDL28170と同様に阻害した。
【実施例12】
【0185】
DP−b−99はin vivoにおいて、誘発されたスペクトリンの切断を阻害する
カルパイン活性に対するDP−b99の効果を、ラットの過渡的局所脳虚血モデル系でin vivoで評価した。
【0186】
4−0シリコーン被覆ナイロン単一繊維を外頚動脈にあてることによって、過渡的中大脳動脈(MCA)閉塞を雄のスプラーグドーリー(SD)ラットに施した。動物を4%のハロタンで麻酔し、気管切開なしで自発的に呼吸させながら、亜酸化窒素及び酸素の1:2混合物中で1.5%のハロタンを維持した。腹側皮膚から、総右外頚動脈及び総右内頚動脈(ECA)を曝露させた。結紮した右外頚動脈に、頚動脈の分岐に向かって逆方向に縫合を行った。その後、MCAの起点を恒久的に閉塞させるために、これを遠位に向かって右内頚動脈まで、頚動脈の分岐から20mmまで行った。これを絹の結紮糸で固定した。閉塞の2時間後、単一繊維を取り除いて再灌流させ、皮膚の創傷を縫合して洗浄した。すべての手順は約25分かかり、直腸の温度は常に37℃に維持された。
【0187】
DP−b99を単一用量(5μg/kg)で再灌流の開始時に腹腔内(i.p.)投与した。ベヒクルのみをi.p.注射した、MCAOを施した動物を対照群とした。4時間後、動物を屠殺し、脳を2つの半球に切断し、即座に−80℃で凍結した。
【0188】
カルパイン活性のアッセイ:ホモジネートによって、各半球を個別に氷上で5mlのRIPA緩衝液(50mMのトリス pH 7.5;150mMのNaCl;0.5%のDOC;1%のTriton X−100;0.1%のSDS;1mMのNappi;2mMのEDTA)及びプロテアーゼ阻害剤(Bohringer、Manheim、ドイツ)に溶解した。3,000g、4℃で30分間遠心分離し、次いで20,000g、4℃で30分間遠心分離することによって溶解液を清澄にした。製造者の指示に従って、50μgのタンパク質を含む試料を4〜12%勾配のSDS−PAGE(Nu−PAGE、NOVEX、MES緩衝液を含む)で分離し、ニトロセルロース紙にブロットした。α−スペクトリンの様々な型を検出するために、ブロットを抗スペクトリン抗体(Affinity FG6090 1:1000)と、次いでHRP二次抗体(米国Santa Cruz)と反応させ、次いでECL反応(Amersham、英国Buckinghamshire)を行った。バンドの検出はImage Station440(Kodak Digital System)を用いて行った。無治療のスペクトリンは〜280kDa、カルパインで切断された型は〜150kDaであった。バンドの定量はKodak 1Dソフトウェアを用いて行った。
【0189】
上述の実験系では、MCAOを施した動物では、カルパインで切断されたスペクトリン(〜150kDaのバンド)が、左(L、無治療)半球と比較して右(R、虚血性)半球で増加したことが判明した。偽手術を行った動物では、カルパインで切断されたスペクトリンの量は両半球で同等であった。
【0190】
それぞれの動物(それぞれの治療でn=2)におけるスペクトリンの切断された型の増加は、右(虚血性)及び左(無治療)半球中の150kDaのスペクトリンバンドの比として表した。結果を表2に要約する。
【0191】
【表2】

【0192】
表2に見られるように、一側性MCAOを施した動物及びベヒクルのみで治療した動物における、左(R/L比)と比較した右半球でのカルパインに切断されたスペクトリンの増加は、偽手術を行った動物での比よりも約3倍高かった。DP−b99で治療した動物では、切断されたスペクトリンの増加は極めて低減され、偽手術を行った値の約50%増でしかなかった。
【0193】
結論:
DP−b99は、in vivoにおいて虚血によって誘発されたカルパイン活性の増加を阻害する。DP−b99によるカルパイン阻害は、この分子が示す神経保護効果を少なくとも一部分担っているかもしれない。
【0194】
本発明を具体的に記載したが、当業者は、多くの変形及び改変を行うことができることを理解されよう。したがって、本発明は具体的に記載した実施形態に限定されるものと解釈されるべきでなく、正確には、本発明の範囲、精神及び概念は添付の特許請求の範囲を参照することでより容易に理解できるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0195】
【図1A】記載のように、20μM又は50μMのDP−b109を存在させて又は存在させずに、10ng/mlのTNFαで処理した培養A−172−グリオーマ細胞から採取した条件培地中のMMP−9酵素の合計量を示す図である。
【図1B】記載のように、20μM又は50μMのDP−b109を存在させて又は存在させずに、10ng/mlのTNFαで処理した培養A−172−グリオーマ細胞から採取した条件培地中のMMP−9酵素活性の合計量を示す図である。
【図2A】記載のように、様々な濃度のDP−b109を存在させて又は存在させずに、20ng/mlのTNFαで処理した培養C6−グリオーマ細胞から採取した条件培地中のMMP−9活性の検出に使用したゼラチン−ザイモグラムゲルを示す図である。透明なバンドとして示されたMMP−9及びMMP−2のプロテアーゼ活性の面積を矢印で示す。
【図2B】記載のように、様々な濃度のDP−b109を存在させて又は存在させずに、0.1μMのPMAで処理した培養C6−グリオーマ細胞から採取した条件培地中のMMP−9活性の検出に使用したゼラチン−ザイモグラムゲルを示す図である。透明なバンドとして示されたMMP−9及びMMP−2のプロテアーゼ活性の面積を矢印で示す。
【図3A】酵素の代表的なゼラチン−ザイモグラムゲルを示す図である。記載のように、25μMのDP−b99を存在させずに(白いバー)又は存在させて(黒いバー)、10又は20ng/mlのTNFαで処理したC6−グリオーマ細胞培養物から採取した条件培地をザイモグラムゲルに流した。矢印はゲル上のpro−及び活性MMP−9のバンドを表す。
【図3B】酵素の生物学的に活性のあるMMP−9の形の解析を示す図である。記載のように、25μMのDP−b99を存在させずに(白バー)又は存在させて(黒バー)、10又は20ng/mlのTNFαで処理したC6−グリオーマ細胞培養物から採取した条件培地をザイモグラムゲルに流した。バンドの解析は、Kodak digital Science(商標)1D Image Analysisソフトウェアを用いて行った。
【図3C】酵素のpro−MMP−9の形の解析を示す図である。記載のように、25μMのDP−b99を存在させずに(白バー)又は存在させて(黒バー)、10又は20ng/mlのTNFαで処理したC6−グリオーマ細胞培養物から採取した条件培地をザイモグラムゲルに流した。バンドの解析は、Kodak digital Science(商標)1D Image Analysisソフトウェアを用いて行った。
【図4】記載のように、様々なDP−BAPTA化合物を存在させて又は存在させずに、0.5μg/mlのLPSで処理した一次グリア細胞から放出されたTNFαを示す図である。
【図5A】一側性MCAOを施したラットの脳の右(R−損傷)又は左(L−無治療)半球の溶解液のゼラチン−ザイモグラムゲルを示す図である。記載のように、再灌流の2時間後、動物を5μg/kgのDP−b99又はベヒクルのみのどちらかで処理した。
【図5B】一側性MCAOを施したラットの脳の右(R−損傷)又は左(L−無治療)半球の溶解液のMMP−9のバンドの解析(B)を示す図である。記載のように、再灌流の2時間後、動物を5μg/kgのDP−b99又はベヒクルのみのどちらかで処理した。
【図6】実施例11に記載のように抗スペクトリン抗体と反応させた皮質一次細胞の溶解液のウエスタンブロットを示す図である。記載のように、酸化的ストレス(H、50μM)を導入する前に細胞をDP−b99(15μg/ml)又は市販のカルパイン阻害剤MDL28170(25μM)のどちらかで1時間前処理した。スペクトリンの切断されていない(280kDa)及びカルパインで切断した(150kDa)形を矢印で示す。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロテアーゼ活性を阻害する方法であって、前記プロテアーゼがメタロプロテイナーゼ及びカルパインから選択され、細胞を、阻害に有効な量の一般式(I)の化合物:
【化1】


[式中、
Rは、1〜6個の酸素及び/又は窒素原子の任意の組合せによって中断されていてもよい(ただし、2つの酸素原子同士、又は酸素原子と窒素原子とは互いに直接連結されていない)1〜28個の炭素原子を有する飽和又は不飽和アルキル、シクロアルキル、アリールアルキル又はシクロアルキル−アルキル基であり、Mは水素又は生理的に許容される陽イオンを表す]
に曝露させることを含む方法。
【請求項2】
Rがフェニルアルキルである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
Rが0〜3個の酸素原子によって中断されているアルキルである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
Rがモノ−、ジ−、又はトリ−エチレングリコールのモノアルキルエーテルである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
Rが、C17、C17OCHCH、C1837、C1837OCHCH、ベンジル−CHOCHCH、C1225OCHCH、C1225(OCHCH及びC1225(OCHCHからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記プロテアーゼがマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記マトリックスメタロプロテイナーゼがMMP−9である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記プロテアーゼがカルパインである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
治療上有効な量の一般式(I)の化合物を含む薬剤組成物を、それを必要としている哺乳動物に投与することを含む、哺乳動物においてMMPに関連する疾患又は障害を予防、治療又は管理する方法。
【請求項10】
治療上有効な量の一般式(I)の化合物を含む薬剤組成物を、それを必要としている哺乳動物に投与することを含む、哺乳動物においてカルパインに関連する疾患又は障害を予防、治療又は管理する方法。
【請求項11】
前記方法が、前記哺乳動物を追加の治療的処置で治療することをさらに含む、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
前記哺乳動物がヒトである、請求項9から11までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記MMPに関連する又はカルパインに関連する疾患又は障害が、癌、脳卒中、外傷、炎症性の状態及び疾患、アテローム性動脈硬化症、血栓性障害、関節炎、出血、リウマチ性疾患、自己免疫疾患、神経疾患及び障害、偏頭痛、脳血管及び心血管の障害からなる群から選択される、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項14】
前記炎症性の状態及び疾患が、関節炎疹、関節リウマチ、骨関節炎、再狭窄、喘息、乾癬、全身性エリテマトーデス、炎症性腸症候群、クローン病、偏頭痛、歯肉炎、歯周病、髄膜炎、熱帯性痙性不全対麻痺、敗血症、水疱性皮膚障害、ざ瘡及び感染症による炎症からなる群から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記MMPに関連する又はカルパインに関連する疾患又は障害が虚血性又は低酸素組織損傷、酸化的損傷、骨粗鬆症、糖尿病、出血、眼病及び網膜症、糖尿病性網膜症、緑内障、黄斑変性症、白内障、網膜剥離及び網膜裂傷からなる群から選択される、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項16】
前記MMPに関連する又はカルパインに関連する疾患又は障害が、神経変性の疾患又は障害、多発性硬化症(MS)、アルツハイマー病(AD)、運動ニューロン疾患(MND)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ギラン−バレー、パーキンソン病、ハンチントン病、ピック病、痴呆症候群、血管性痴呆、多発硬塞性痴呆、HIV誘発性神経障害、脳虚血(全体及び局所虚血のどちらも)並びに神経組織の外傷からなる群から選択される、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項17】
治療上有効な量の一般式(I)の化合物を含む薬剤組成物を、それを必要としている患者に投与することを含む、メタロプロテイナーゼの活性の上昇に関連する癌を予防、治療又は管理する方法。
【請求項18】
前記癌が癌転移を含む請求項17に記載の方法。
【請求項19】
患者に治療上有効な量の一般式(I)の化合物を投与することを含む、血管形成依存性の疾患に罹患している前記患者を治療する方法。
【請求項20】
前記血管形成依存性の疾患が、癌性腫瘍、関節炎、乾癬、黄斑変性症、慢性炎症及び糖尿病性網膜症から選択される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記患者を追加の治療的処置で治療することをさらに含む、請求項17から19までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記追加の処置が、化学療法、照射療法、免疫療法、遺伝子治療及び手術から選択される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記追加の処置を一般式(I)の化合物を含む薬剤組成物の投与と同時に実施する、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記追加の処置を一般式(I)の化合物を含む薬剤組成物の投与の前に行う、請求項21に記載の方法。
【請求項25】
前記追加の処置を一般式(I)の化合物を含む薬剤組成物の投与の後に行う、請求項21に記載の方法。
【請求項26】
前記一般式Iの化合物が、
1,2−ビス(2−アミノフェノキシ)エタン,N,N’−ジ(酢酸2−オクトキシエチル),N,N’−二酢酸、
1,2−ビス(2−アミノフェノキシ)エタン,N,N’−ジ(酢酸2−オクトデシルオキシエチル),N,N’−二酢酸、
1,2−ビス(2−アミノフェノキシ)エタン,N,N’−ジ(酢酸2−ベンジルオキシエチル),N,N’−酢酸、
1,2−ビス(2−アミノフェノキシ)エタン,N,N’−ジ(酢酸2−ドデシルオキシエチル),N,N’−二酢酸、
1,2−ビス(2−アミノフェノキシ)エタン,N,N’−ジ[酢酸2−(2−ドデシルオキシエトキシ)−エチル],N,N’−二酢酸、及び
1,2−ビス(2−アミノフェノキシ)エタン,N,N’−ジ{酢酸2−[2−(2−ドデシルオキシエトキシ)エトキシ]−エチル},N,N’−二酢酸
からなる群から選択される、請求項9から25までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
メタロプロテイナーゼ及びカルパインから選択されるプロテアーゼの活性を阻害する医薬品を調製するための、一般式(I)の化合物の使用:
【化2】


[式中、
Rは、1〜6個の酸素及び/又は窒素原子の任意の組合せによって中断されていてもよい(ただし、2つの酸素原子同士、又は酸素原子と窒素原子とは互いに直接連結されていない)1〜28個の炭素原子を有する飽和又は不飽和アルキル、シクロアルキル、アリールアルキル又はシクロアルキル−アルキル基であり、Mは水素又は生理的に許容される陽イオンを表す]。
【請求項28】
前記一般式(I)の化合物が、
1,2−ビス(2−アミノフェノキシ)エタン,N,N’−ジ(酢酸2−オクトキシエチル),N,N’−二酢酸、
1,2−ビス(2−アミノフェノキシ)エタン,N,N’−ジ(酢酸2−オクトデシルオキシエチル),N,N’−二酢酸、
1,2−ビス(2−アミノフェノキシ)エタン,N,N’−ジ(酢酸2−ベンジルオキシエチル),N,N’−酢酸、
1,2−ビス(2−アミノフェノキシ)エタン,N,N’−ジ(酢酸2−ドデシルオキシエチル),N,N’−二酢酸、
1,2−ビス(2−アミノフェノキシ)エタン,N,N’−ジ[酢酸2−(2−ドデシルオキシエトキシ)−エチル],N,N’−二酢酸、及び
1,2−ビス(2−アミノフェノキシ)エタン,N,N’−ジ{酢酸2−[2−(2−ドデシルオキシエトキシ)エトキシ]−エチル},N,N’−二酢酸
からなる群から選択される、請求項27に記載の使用。
【請求項29】
前記医薬品が、癌(転移癌を含む)、虚血性又は低酸素組織損傷、酸化的損傷、脳卒中、外傷、炎症性の状態及び疾患、出血、リウマチ性疾患、自己免疫疾患、神経疾患及び障害、心血管障害、脳血管並びに神経変性の疾患及び障害からなる群から選択されるMMPに関連する又はカルパインに関連する疾患又は障害を治療するためのものである、請求項27に記載の使用。
【請求項30】
1,2−ビス(2−アミノフェノキシ)エタン,N,N’−ジ(酢酸2−ベンジルオキシエチル),N,N’−酢酸である一般式(I)に記載の化合物。
【請求項31】
治療上有効な量の請求項30に記載の化合物及び製薬上許容される担体又は賦形剤を含む薬剤組成物。

【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【公表番号】特表2006−500422(P2006−500422A)
【公表日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−539399(P2004−539399)
【出願日】平成15年3月16日(2003.3.16)
【国際出願番号】PCT/IL2003/000225
【国際公開番号】WO2004/028443
【国際公開日】平成16年4月8日(2004.4.8)
【出願人】(500138283)ディ − ファーム リミテッド (3)
【Fターム(参考)】