説明

酸化スズ微粒子、及びそれを含んでなる分散液、塗布液並びに樹脂組成物

【課題】良好な導電性を有する酸化スズ微粒子を提供する。
【解決手段】酸化スズに第2金属原子及び第3金属原子が固溶した酸化スズ微粒子であって、前記第2金属原子及び第3金属原子は、タングステン又は亜鉛であって、互いに異なる金属原子であり、下記原子比を満たす酸化スズ微粒子。
0.88≦Sn/(Sn+W+Zn)≦0.999
0.001≦第2金属原子/(Sn+W+Zn)≦0.07
0≦第3金属原子/(Sn+W+Zn)≦0.05
0.90≦(Sn+W+Zn)/全金属原子≦1.00

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化スズ微粒子、及びそれを含んでなる分散液、塗布液並びに樹脂組成物に関する。さらに詳しくは、本発明は良好な導電性を有する酸化スズ微粒子、インジウム−スズ酸化物(ITO)を含まずとも良好な導電性を有する酸化スズ微粒子を含む分散液、塗布液及び樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
インジウム−スズ酸化物(ITO)を主とする導電性酸化物粉末の透明導電膜への利用が盛んに行われている。導電性酸化物粉末から透明導電膜を作製する方法として、例えば、一次粒子径が約100nm以下の導電性酸化物粉末を、バインダ樹脂を含む溶液中に分散させて導電性塗料を作製し、この導電性塗料をガラス、プラスチック等の基材に塗布、印刷、浸漬、スピンコート又は噴霧等の手段で塗工し、乾燥する方法がある。
【0003】
透明導電膜は、ガラス、プラスチック等の帯電防止やほこりの付着防止機能があり、ディスプレイ、計測器の窓ガラス、ICパッケージ回路、クリーンルーム内装材、各種ガラス、フィルム等に用いられる。また、透明導電膜は、塗布型透明電極、赤外線遮蔽材料等としても用いられる。
このように、透明導電膜は今後の需要の伸びが期待され、その利用分野の拡大に伴って、導電性に優れかつ透明性にも優れた導電性塗料及び導電膜の需要が高まっている。
【0004】
しかし、透明導電膜に用いられるインジウムは資源量が限られ、しかも液晶ディスプレイの透明電極としてITOが用いられるようになったため、価格が急激に上昇している。このようにITOには供給制限等の不安があり、酸化インジウムを使用しない酸化物導電性材料の開発が急務である。
【0005】
特許文献1は、白色無機顔料粒子の表面にタングステン元素を含む二酸化スズの被覆層を有する白色導電性粉末を開示する。導電性のある成分であるタングステン元素を含む二酸化スズは白色であり、当該粉末の導電性は23MPaという高い圧力で成形したものでも7x10−2S/cmと低いものである。
【0006】
特許文献2は、酸化スズ及び酸化タングステンの混合ゾルに関する発明で、酸化スズと酸化タングステンはそれぞれ別の成分である。塗膜を形成できること、及び当該塗膜が帯電防止に用いることができるとの開示はあるが、単純に塗膜にしただけでは酸化スズにタングステンが固溶しているとは考えられず、ドーピング効果が無いため、導電性は低いものと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−179948号公報
【特許文献2】特開平3−151038号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、良好な導電性を有する酸化スズ微粒子を提供することである。
本発明の目的は、ITOを含まずとも良好な導電性を有する酸化スズ微粒子を含む分散液、塗布液及び樹脂組成物を提供することである
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、以下の酸化スズ微粒子等が提供される。
1.酸化スズに第2金属原子及び第3金属原子が固溶した酸化スズ微粒子であって、
前記第2金属原子及び第3金属原子は、タングステン又は亜鉛であって、互いに異なる金属原子であり、
下記原子比を満たす酸化スズ微粒子。
0.88≦Sn/(Sn+W+Zn)≦0.999
0.001≦第2金属原子/(Sn+W+Zn)≦0.07
0≦第3金属原子/(Sn+W+Zn)≦0.05
0.90≦(Sn+W+Zn)/全金属原子≦1.00
2.前記酸化スズ微粒子が含む全金属原子が、実質的にスズ原子、第2金属原子及び第3金属原子である1に記載の酸化スズ微粒子。
3.平均粒子径が1〜500nmである1又は2に記載の酸化スズ微粒子。
4.L表色系における色測値が、20<L<60、0<a<10、0<b<20である1〜3のいずれかに記載の酸化スズ微粒子。
5.1〜4のいずれかに記載の酸化スズ微粒子を、水、アルコール又は有機溶媒に分散させた酸化スズ微粒子分散液。
6.5に記載の酸化スズ微粒子分散液に無機バインダー又は有機バインダーを添加した酸化スズ微粒子含有塗布液。
7.1〜4のいずれかに記載の酸化スズ微粒子を有機樹脂に混練した樹脂組成物。
8.5に記載の酸化スズ微粒子分散液を有機樹脂に混練した樹脂組成物。
9.6に記載の酸化スズ微粒子含有塗布液を塗布して得られる導電膜。
10.9に記載の導電膜を備える積層体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、良好な導電性を有する酸化スズ微粒子が提供できる。
本発明によれば、ITOを含まずとも良好な導電性を有する酸化スズ微粒子を含む分散液、塗布液及び樹脂組成物が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1で得られた微粒子の電気伝導度を測定した際の、加えた圧力と抵抗の関係を示す図である。
【図2】実施例3で得られた微粒子の粉末X線回折測定チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の酸化スズ微粒子は、酸化スズに第2金属原子及び第3金属原子が固溶した酸化スズ微粒子であって、下記原子比を満たす。
第2金属原子及び第3金属原子は、タングステン又は亜鉛であって、互いに異なる金属原子であり、好ましくは第2金属原子がタングステンであり、第3金属原子が亜鉛である。
0.88≦Sn/(Sn+W+Zn)≦0.999
0.001≦第2金属原子/(Sn+W+Zn)≦0.07
0≦第3金属原子/(Sn+W+Zn)≦0.05
0.90≦(Sn+W+Zn)/全金属原子≦1.00
(上記原子比において、Snはスズ原子を表し、Wはタングステン原子を表し、Znは亜鉛原子を表す。)
【0013】
本発明の酸化物粒子は、好ましくは下記原子比を満たす。
0.88≦Sn/(Sn+W+Zn)≦0.995
0.005≦第2金属原子/(Sn+W+Zn)≦0.06
0≦第3金属原子/(Sn+W+Zn)≦0.05
0.90≦(Sn+W+Zn)/全金属原子≦1.00
【0014】
第2金属原子の原子比(第2金属原子/(Sn+W+Zn))が0.001未満の場合、微粒子の導電性が非常に低くなるおそれがある。一方、第2金属原子の原子比(第2金属原子/(Sn+W+Zn))が0.07超の場合も、微粒子の導電性が非常に低くなるおそれがある。
第3金属原子の原子比(第3金属原子/(Sn+W+Zn))が0.05超の場合、微粒子の導電性が低くなるおそれがある。
スズ原子、第2金属原子及び第3金属原子の全金属原子に対する原子比((Sn+W+Zn)/全金属原子)が0.90未満の場合、微粒子の導電性が低くなるおそれがある。
【0015】
本発明の酸化スズ微粒子は、第3金属原子/(Sn+W+Zn)=0の場合を含む。即ち、本発明の酸化スズ微粒子は、第3金属原子を含まなくともよい。
この場合の本発明の酸化スズ微粒子は、下記原子比を満たす。
0.88≦Sn/(Sn+第2金属原子)≦0.999
0.001≦第2金属原子/(Sn+第2金属原子)≦0.07
0.90≦(Sn+第2金属原子)/全金属原子≦1.00
(第2金属原子は、タングステン又は亜鉛である。)
【0016】
本発明の酸化スズ微粒子が含む全金属原子は、好ましくは実質的にスズ原子、第2金属原子及び第3金属原子のみである。
尚、「実質的」とは、原料や製造工程等により不可避的に含まれる不純物等以外の元素を含まないことを意味する。不可避的な不純物は、通常100ppm未満であり、好ましくは50ppm未満、特に好ましくは10ppm未満である。
【0017】
本発明の酸化スズ微粒子は、酸化スズに第2金属原子及び第3金属原子が固溶していることで微粒子としての効果を発揮する限りにおいて、他の金属原子を含んでもよい。
これは、本発明の酸化スズ微粒子によって得られる後述する樹脂組成物、導電膜、積層体等についても同様である。
本発明の酸化スズ微粒子は、スズ、タングステン及び亜鉛のほかに、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、ガリウム、ゲルマニウム、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、パラジウム、銀、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、ハフニウム及びタンタルを含んでもよい。
【0018】
本発明の酸化スズ微粒子に含まれる各元素の原子比は、内殻電子の励起にX線を使用し、試料からの特性X線(蛍光X線)を測定する蛍光X線分析法(XRF)を用い、含有元素を定量分析することにより求めることができる。
【0019】
物質によるX線の吸収スペクトルを測定すると、不連続な部分が生じるスペクトルが得られ、この不連続の生じるエネルギーを吸収端とよぶ。吸収端エネルギーは、その系列(K,L....)の蛍光X線を放射させるのに必要な最低エネルギーということができる。
吸収端以上のエネルギーをもつX線により原子の内殻には空孔が生じ、外殻から電子が遷移する。そのエネルギー差が蛍光X線として放射される。内殻のエネルギーは元素固有であるので、蛍光X線の波長も元素固有である。このことから、測定試料の蛍光X線の波長を実験的に求めることにより、測定試料を構成する元素の分析を行うことができる。
【0020】
蛍光X線分析における定量は,測定(未知)試料と化学的組成や表面の状態が類似した濃度が既知の標準試料を準備し、分析目的の元素濃度と蛍光X線強度の関係を求め、検量線を作成する。次に未知試料からの蛍光X線強度を測定し、検量線より濃度を決めることで行われる。
【0021】
本発明の酸化スズ微粒子の平均粒子径は、溶媒中に分散する大きさであれば特に制限されないが、好ましくは平均粒径が500nm以下であり、より好ましくは200nm以下である。酸化スズ微粒子の平均粒径を200nm以下とすることで、透明導電性が要求される製品(例えば、タッチパネル)にも酸化スズ微粒子を用いることができる。
酸化スズ微粒子の平均粒子径の下限は、溶媒中に分散する大きさであれば特に制限されないが、例えば1nmを挙げることができる。
尚、上述の酸化スズ微粒子の平均粒子径は、BET表面積から算出することができる。
【0022】
本発明の酸化スズ微粒子は、好ましくはL表色系における色測値が、20<L<60、0<a<10、0<b<20であり、より好ましくは35<L<55、0<a<5、5<b<15である。L、a及びbの値が当該範囲内にない場合、酸化スズ微粒子の導電性が非常に低くなるおそれがある。
純粋な酸化スズは白色を示す場合が多いが、本発明の酸化スズ微粒子は、タングステン及び/又は亜鉛が固溶しているので着色が生じ、導電性を発現することができる。
【0023】
本発明の酸化スズ微粒子は、好ましくは9.6MPaの圧力をかけた時の電気伝導度が10−2以上10以下S/cmである。
上記電気伝導度は、例えば粉体抵抗測定システムMCP−PD51型等((株)三菱化学アナリテック製)を用いて、加圧しながら測定することができる。
【0024】
本発明の酸化スズ微粒子は、下記(1)〜(3)のいずれかの方法により製造することができ、好ましくは(1)の方法である。沈殿法を用いることにより、均一な材質の酸化スズ微粒子を得ることができる。
(1)スズ、タングステン及び亜鉛それぞれの金属塩が溶解した溶液から沈殿法によってスズ、タングステン及び亜鉛の含有物を調製し、調製した含有物を酸素濃度が0.1体積%以下の不活性ガス又は還元性ガス下で熱処理する。
(2)スズ、タングステン及び亜鉛それぞれの化合物を含む懸濁液を調製し、調製した懸濁液を熱プラズマ中に供給して気化混合物とし、当該気化混合物を冷却する。冷却して得られた酸化スズ微粒子を、さらに酸素濃度が0.1体積%以下の不活性ガス又は還元性ガス下で熱処理してもよい。
(3)酸化スズの微粒子にタングステンの化合物及び亜鉛の化合物を加えて混合し、得られた混合物を、酸素濃度が0.1体積%以下の不活性ガス又は還元性ガス下で熱処理する。
【0025】
以下、本発明の酸化スズ微粒子を上記(1)沈殿法を用いて製造する場合を説明する。
スズ、タングステン及び亜鉛の金属塩としては、これらの硝酸塩、塩化物塩、酢酸塩、アルコキシド、タングステン酸塩等が挙げられる。アルコキシドとしては、例えば、メトキシド及びエトキシドが挙げられる。
【0026】
上記金属塩は、水、アルコール、含酸素化合物等の有機溶媒に溶解させることができる。
上記アルコールとしては、例えばメタノール、エタノール、2−プロパノール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノールが挙げられる。
含酸素化合物としては、例えば、酢酸エチル等のエステル、酢酸、プロピオン酸等のカルボン酸が挙げられる。
【0027】
金属塩溶液中の金属塩の濃度は、0.001mol/l〜10mol/lの範囲であることが好ましい。0.001mol/l未満の濃度では、生産性が悪くなる場合がある。一方、10mol/lを超えるような高濃度では沈殿液の撹拌が困難となる場合がある。
【0028】
沈殿法に用いる沈殿剤は、例えば水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸水素ナトリウム等のアルカリ溶液;シュウ酸、蟻酸、シュウ酸アンモニウム等の有機酸及び有機酸塩;及び加熱時に分解してアンモニアを発生する尿素を挙げることができる。
均一な沈殿物が形成され易い点で、沈殿剤は、好ましくは炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、シュウ酸、シュウ酸アンモニウム、又は尿素である。
【0029】
沈殿剤の添加量は、通常、上記の各金属塩が水酸化物、シュウ酸塩等の化合物となるのに必要な化学当量の50%以上であり、好ましくはアルカリイオン等の残留による洗浄時間の短縮の観点から、化学当量の80%〜2000%である。
沈殿剤の添加量が、化学当量の50%未満の場合、沈殿物の組成が溶液組成と異なるおそれがある。
【0030】
沈殿物の形成温度は、通常、用いる溶媒の凝固点から溶媒の沸点までであり、好ましくは用いる溶媒の凝固点+5℃から溶媒の沸点までである。
沈殿物形成後に、沈殿形成時と同じ温度から、常圧では溶媒の沸点までの温度、又は加圧下で300℃まで昇温して、数分から100時間程度の熟成を行ってもよい。熟成を行うことにより、沈殿物のろ過が容易となり、より完全な水酸化物やシュウ酸塩等の化合物である沈殿物を得ることができる。
【0031】
得られた化合物(沈殿物)は、ろ過、遠心分離、デカンテーション等の手段により溶液から分離し、その後、水洗や溶媒洗浄等を行って、不要なイオン等を除去することが好ましい。不要なイオン等が除去されたことは、例えば洗浄に使用した溶媒の電気伝導度が0.5mS以下となることを目安とすることができる。
溶媒洗浄で使用する溶媒としては、例えば、エタノール、2−プロパノール等のアルコール類、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル類が挙げられる。
【0032】
洗浄後に、水や溶媒を50〜400℃で30分〜100時間の乾燥によって除去する。当該乾燥後、例えば、さらに熱処理することにより、得られた化合物を酸化物としてもよい。
この熱処理は、後述する熱処理と同一の工程であってもよいが、より完全に水や溶媒を除去するための予備的な熱処理であってもよい。予備的な熱処理の場合、通常、200〜800℃程度で行う。予備的な熱処理の場合は、不活性ガス下で熱処理する必要はない。
【0033】
沈殿法で得られた化合物を熱処理することで酸化物とする。熱処理することにより、化合物の結晶性が向上し、導電性を向上させることができる。
高温で熱処理する場合、粒成長が激しいため、好ましくは短時間で行う。一方、低温で熱処理する場合は粒成長が抑えられるが、反応の進行が遅い。このため、低温で熱処理する場合、より長時間の熱処理をしたほうが導電性は向上できる。
【0034】
熱処理温度、熱処理時間等の熱処理条件は、酸化スズ微粒子に求められる粒子の大きさと求められる導電性の程度を勘案して決定すればよい。
例えば、熱処理温度は、1300℃以下が好ましい。熱処理温度が1300℃を超える場合、粒成長が特に激しく微粒子の製造が難しくなるおそれがある。また、熱処理温度は、上述した予備的な熱処理の場合と同様に通常、200℃以上で行い、好ましくは300℃以上である。
【0035】
熱処理時間は、通常、高温であれば数時間程度の短い時間で足り、低温であっても数十時間程度以下で十分である。例えば、熱処理温度が1000℃以上である場合、熱処理時間は好ましくは10分以下である。熱処理温度が500〜1000℃である場合、熱処理時間は好ましくは5時間以下である。熱処理温度が500℃以下である場合、熱処理時間は好ましくは数十時間程度以下である。
高い温度であれば粒成長が激しいことから、短時間での熱処理が好ましく、低温であれば粒成長が抑えられるが固相反応が遅いため、導電性向上のため、より長時間の熱処理をしたほうが好ましい。
【0036】
上記熱処理は、通常、不活性ガス又は還元ガス下で行う。
不活性ガスとしては、窒素、ヘリウム、アルゴン等が使用でき、入手容易性の観点から窒素又はアルゴンが好ましい。還元ガスとしては、水素、一酸化炭素、アルコール等の有機物等であり、上述の不活性ガスで希釈してもよい。
上記不活性ガス、又は還元性ガスの酸素濃度は、通常0.1体積%以下であり、好ましくは0.05体積%以下である。0.1体積%を超える酸素濃度では、導電性が低下するおそれがある。還元性ガスと不活性ガスの比率(還元性ガス/不活性ガス)は、好ましくは体積比で0.001以上であり、還元が進みすぎて金属が析出することから10以下がより好ましい。
【0037】
不活性ガス又は還元性ガス下での熱処理の実施は、ガスを充填又は流通でき、炉内をガス雰囲気に維持できる条件が確保されれば特に限定されず、例えば電気炉、ロータリーキルン等を用いて実施できる。
【0038】
熱処理した化合物を解砕することにより本発明の酸化スズ微粒子が得られる。
解砕は、遊星ボールミルやジェットミル等の機械的粉砕方法を用いて乾式で粉砕することで、より粒径の小さい酸化物微粒子を得ることができる。
【0039】
このようにして得られた本発明の酸化スズ微粒子は、酸化スズに第2金属及び第3金属が固溶しているため、粉末X線回折測定を行うとルチル型酸化スズのピークに近いパターンが得られる。
銅管球(λ=0.154nm)を用いて粉末X線回折測定をした場合、本発明の酸化スズ微粒子の「主なピーク」のピークトップの2θ/degは、好ましくは26.00°±1.00°、33.88°±1.00°、51.78°±0.80°であり、より好ましくは、26.00°±0.80°、33.88°±0.80°、51.78°±0.70°であり、さらに好ましくは、26.00°±0.50°、33.88°±0.50°、51.78°±0.40°である。
「主なピーク」とは、上記X線回析測定で得られる2θ/degのピークの高さが1番高いピーク、2番に高いピーク、3番に高いピーク、の3つのピークを言う。
【0040】
本発明の酸化スズ微粒子は、水、アルコール又は有機溶媒に分散させることにより、酸化スズ微粒子分散液とすることができる。
分散液に用いる酸化スズ微粒子は、各種の表面処理、例えば親水性化処理又は非親水性化処理を施してもよく、表面処理の状況に応じて、分散液の溶媒を適宜選択する。
【0041】
分散液の溶媒としては、水、メタノール、エタノール、2−プロパノール、1−プロパノール、1−メトキシ−2−プロパノール、2−メトキシ−1−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール、2−エトキシ−1−プロパノール、2−メトキシエチルアセテート、2−メトキシ−1−プロピルアセテート、1−メトキシ−2−プロピルアセテート、2−エトキシエチルアセテート、2−ブトキシエチルアセテート、テトラヒドロフルフリルアルコール、炭酸プロピレン、N,N―ジメチルホルムアミド、N―メチルホルムアミド、N―メチルピロリドン、2−エトキシエタノール、2−ブトキシエタノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、イソホロン、シクロヘキサノン、2−エトキシエタノール、2−ブトキシエタノール等を例示することができる。
尚、分散液を導電性塗料に使用する場合には、導電性塗料に用いるバインダを容易に溶解できる溶媒を用いることが好ましい。
【0042】
本発明の酸化スズ微粒子を含む分散液において、酸化スズ微粒子の含有量は、好ましくは1重量%以上80重量%以下である。
【0043】
また、その他必要に応じて、本発明の酸化スズ微粒子分散液は、消泡剤、チクソトロピック剤、界面活性剤、顔料湿潤剤、分散剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、その他(熱)安定剤、防腐剤、防かび剤、防藻剤、防食・防錆剤、染料、顔料等の添加剤を含んでもよい。
これら添加剤の分散方法は、媒体中に均一に分散される方法であれば特に限定されず、例えばビ−ズミル、ボ−ルミル、サンドミル、ペイントシェ−カ−、超音波ホモジナイザ−等を用いて分散させることができる。
【0044】
本発明の酸化スズ微粒子分散液にさらに無機バインダー又は有機バインダーを添加することにより酸化スズ微粒子含有塗布液とすることができる。
酸化スズ微粒子含有塗布液は、帯電防止膜、透明電極、熱線遮蔽膜等を形成する材料として好適に用いることができる。
【0045】
酸化スズ微粒子分散液に添加するバインダーは、耐久性に優れた被膜を形成し得るバインダーであれば特に制限されるものではない。
有機バインダーとしては、例えばメタクリル樹脂等のアクリル系樹脂、ポリアセチレン系樹脂、メラミン樹脂等のアミノ系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アルキッド樹脂等のポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ABS系樹脂、ポリアミンスルフォン樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリピロール系樹脂、ポリチオフェン系樹脂、ポリアニリン系樹脂、ポリアセチレン系樹脂、紫外線硬化樹脂、ジアセチルセルロース及びトリアセチルセルロース等のセルロース誘導体等を例示することができる。
これらバインダーは、1種又は2種以上用いることができる。
また、無機バインダーとしては、珪素、ジルコニウム、チタン、もしくはアルミニウムの金属アルコキシド、これらの部分加水分解縮重合物、及びオルガノシラザンを用いることができる。
【0046】
塗布液中の各成分の配合割合は、特に制限されるものでなく、例えばスズ酸化物微粒子を1〜80重量%、バインダーを1〜25重量%、溶媒が残部となる配合割合を例示できる。
塗布液をこの配合割合とすることで、表面抵抗値1×1010Ω/□以下、全光線透過率80%以上、及びヘーズ値15%以下の透明導電性膜を容易に得ることができる。
【0047】
本発明の塗布液は、その他必要に応じて、架橋剤等の硬化剤、硬化助剤等の硬化触媒、可塑剤、消泡剤・レベリング剤、チクソトロピック剤、艶消し剤、界面活性剤、難燃剤、顔料湿潤剤・分散剤、滑剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、その他(熱)安定剤、防腐剤、防かび剤、防藻剤、防食・防錆剤、染料、顔料等の添加剤を含んでもよい。
【0048】
本発明の塗布液の製造方法は、酸化スズ微粒子が塗布液中に均一に分散される方法であれば特に限定されず、例えばビ−ズミル、ボ−ルミル、サンドミル、ペイントシェ−カ−、超音波ホモジナイザ−、三本ロール等を用いる方法が挙げられる。
また、上述の分散液調製時に同時にバインダーやその他添加剤を添加して、一度に塗布液を製造することもできる。
【0049】
本発明の酸化スズ微粒子を有機樹脂に混練することにより本発明の樹脂組成物とすることができる。本発明の樹脂組成物を溶融又は軟化状態とし、常法によりフィルム状又は成形体(例、シート、パネル、繊維、棒、管、立体成形品等)に成形することで、当該成形体は、帯電防止、透明電極、熱線遮蔽等として好適に用いることができる。
成形方法としては、インフレート法フィルム成形、押出成形、プレス成形等を採用できる。
【0050】
軟化又は溶融有機樹脂中に酸化スズ微粒子を分散させた本発明の樹脂組成物の場合、透明フィルム、透明成形体の製造に利用される有機樹脂を用いることができる。
当該有機樹脂としては、メタクリル樹脂等のアクリル系樹脂、ポリアセチレン系樹脂、メラミン樹脂等のアミノ系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アルキッド樹脂等のポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ABS系樹脂、ポリアミンスルフォン樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリピロール系樹脂、ポリチオフェン系樹脂、ポリアニリン系樹脂、ポリアセチレン系樹脂、紫外線硬化樹脂、ジアセチルセルロース及びトリアセチルセルロース等のセルロース誘導体等が挙げられる。
使用する樹脂は、このような汎用樹脂に限られるものではなく、耐熱性樹脂、耐候性樹脂等を始めとする各種の機能性樹脂も使用できる。
【0051】
本発明の樹脂組成物中の有機樹脂(固形分としての量)の含有量は、例えばスズ酸化物微粒子100重量部に対して25〜100,000重量部、好ましくは25〜50,000重量部の範囲内である。
【0052】
樹脂組成物の製造方法は、溶融又は軟化樹脂中に粉末を分散させることができる任意の方法で行えばよい。例えば、練りロールを用いて軟化した有機樹脂中に酸化スズ微粒子、又は酸化スズ微粒子分散液を練り混む方法、押出機等の適当な溶融混合機中で溶融樹脂中に酸化スズ微粒子又は酸化スズ微粒子分散液を混合する方法等が採用できる。
この樹脂組成物中にも、慣用の添加剤、例えば、分散剤、カップリング剤、湿潤剤等を1種もしくは2種以上を配合することができる。
【0053】
本発明の酸化スズ微粒子含有塗布液を塗布することで導電膜が得られる。具体的には、本発明の酸化スズ微粒子含有塗布液をガラス、プラスチック等の基材表面に塗布し、乾燥し、硬化させて、基材表面に皮膜を形成することにより導電膜を得ることができる。
また、本発明の積層体は、基板及び本発明の導電膜を含んだ積層体である。導電膜は、基板の上に直接積層されていてもよく、基板上にある他の層の上に積層されていてもよい。
【0054】
基材の表面に酸化スズ微粒子含有塗布液を塗布するには、公知の方法が使用でき、例えばスピンコーティング、ディップコーティング、スプレーコーティング、フローコーティング、バーコーティング、グラビアコーティング等が挙げられる。乾燥温度は特に制限されず、塗布液の溶媒が揮発する温度であればよい。
尚、基板上に他の膜(中間膜)を形成し、その膜表面に酸化スズ微粒子含有塗布液を塗布することにより導電膜(又は積層体)を形成してもよい。他の膜は1層でもよく、多層でもよい。
【0055】
酸化スズ微粒子含有塗布液を塗布するプラスチックフィルムとしては、例えばポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリメチルメタクリレートフィルム、ポリカボーネートフィルム、トリアセチルセルロースフィルム、ポリアリレートフィルム、ポリエーテルスルホンフィルム等が挙げられ、特にポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略す。)フィルムが好適に使用される。
【0056】
プラスチックフィルムは、透明であることが好ましい。
プラスチックフィルムの厚みは、好ましくは25μm以上250μm以下であり、より好ましくは50μm以上200μm以下である。
厚みが25μm未満ではフィルム剛性が低下し、取り扱いが難しくなるおそれがある。一方、250μmを超えると、逆にフィルム剛性が高くなり、取り扱いが難しくなると同時に経済的に不利になるおそれがある。
【0057】
プラスチックフィルムとして特に芳香族ポリエステルフィルムを使用する場合、塗工層との密着性を向上させるため、アンカーコート処理して易接着層を設けた芳香族ポリエステルフィルムが好適に使用される。
当該易接着層は、透明プラスチックフィルム基材を製造した後成膜してもよいし、透明プラスチックフィルム基材の製造時にインラインで成膜してもよい。
【0058】
上記アンカーコート剤としては、脂肪族ポリエステル、脂環族ポリエステル、アクリル酸エステル、ポリウレタン、ポリエチレンイミン、シランカップリング剤、及びこれらの混合物や共重合体等を挙げることができる。
また、アンカーコート層の厚みは、0.05〜1.0μmが好ましい。厚みが0.05μmより薄いと十分な接着性が得られないおそれがあり、また、1.0μmより厚いと接着性の効果は飽和するおそれがある。
【0059】
積層プラスチックフィルムの塗工層面の表面抵抗値は、帯電防止性を発揮するためには、1010Ω/□以下であることが好ましい。
【0060】
導電膜(乾燥後)の厚さは、好ましくは0.03μm以上50μm以下であり、より好ましくは0.05μm以上50μm以下であり、さらに好ましくは、0.07μm以上8μm以下である。
厚さが0.03μm未満では、導電性が必ずしも十分ではおそれがある。一方、厚さが50μmを超えるとフィルムがカールしやすくなるおそれがある。
【0061】
導電層(導電膜)の基板に対して反対面上にさらなる層を形成しない場合には、導電層の厚さを酸化物微粒子の粒径よりも厚くすることにより、フラットな表面を得ることができる。また、導電層の基板に対して反対面上に積層される各層の厚さの合計を、酸化物微粒子の粒径よりも大きくすることにより、フラットな表面を得ることができる。
【0062】
導電層の上に、さらに珪素、ジルコニウム、チタン、もしくはアルミニウムの金属アルコキシド、又はこれらの部分加水分解縮重合物からなる皮膜を形成することで、導電層の基材へ結着力や導電層の硬度、耐候性を一層向上させることができる。
また、バインダーを含まない分散液から得られる導電層は、基材上に酸化スズ微粒子のみが堆積した膜構造になる。このままでも導電性を示すが、この膜上にさらに、珪素、ジルコニウム、チタン、もしくはアルミニウムの金属アルコキシドやこれらの部分加水分解縮重合物と、無機バインダー又は樹脂バインダーを含む塗布液を塗布して皮膜を形成して多層膜とするとよい。このようにすることにより、塗布液成分が下層である導電層の導電性微粒子の堆積した間隙を埋めて成膜されるため、導電層のヘイズが低減して可視光透過率が向上し、また微粒子の基材への結着性が向上する。
【0063】
塗布液が無機バインダーを含む場合、金属アルコキシド又はその加水分解重合物を含む塗布液の塗布後における基材の加熱温度は、100℃未満では塗膜中に含まれるアルコキシド又はその加水分解重合物の重合反応が未完結で残る場合が多く、また水や有機溶媒が膜中に残留して加熱後における膜の可視光透過率の低下の原因となるので、100℃以上が好ましく、さらに好ましくは塗布液中の溶媒の沸点以上で加熱を行う。
塗布液が樹脂バインダーを含む場合は、それぞれの硬化方法に従って硬化させればよい。例えば、紫外線硬化樹脂であれば紫外線を適宜照射すればよい。また常温硬化樹脂であれば塗布後そのまま放置しておけばよい。このため、既存の窓ガラス等への現場での塗布が可能である。
【0064】
ガラス又はポリマー上に本発明の酸化スズ微粒子含有塗布液を塗布することで製造した導電膜又は積層体は、帯電防止膜、発熱体、透明電極等として好適に使用できる。
また、本発明の導電膜又は積層体は、酸化スズ微粒子のキャリア濃度が1019〜1021cm−3と高いことから、1000nm以上の波長の赤外線を遮蔽する効果がある。従って、本発明の導電膜及び積層体は、熱線遮蔽膜、熱線遮蔽部材等として好適に使用できる。
【実施例】
【0065】
実施例及び比較例における評価は、以下の方法で行なった。
[微粒子の平均粒径(dBET)]
BELSORP−miniII(日本ベル株式会社製)にて前処理温度200℃、1時間で測定した酸化スズ微粒子の比表面積(Sm/g)と酸化スズの密度(6.99g/cm)から、dBET=6000/S/6.99(nm)に基づいて微粒子の平均粒径を求めた。
[微粒子の電気伝導度(σ)]
粉体抵抗測定システム MCP−PD51型(株式会社三菱化学アナリテック製)を用いて、微粒子を加圧しながら4探針法にてその電気伝導度を測定し、9.6MPaの圧力をかけた時の電気伝導度を微粒子の電気伝導度とした。
[微粒子の色度]
SE−6000分光色差計(日本電色工業株視会社製)を用いて、微粒子のL表色系の色度を測定した。
[微粒子の組成分析]
微粒子を直径10mmのペレット状に成形して、波長分散型蛍光X線分析装置 ZSX101e(株式会社リガク製)を用いて定量分析し、組成を測定した。
[微粒子の粉末X線回折測定]
MiniFlexII(株式会社リガク製)にて銅管球を用い、スキャン速度2°/分にて微粒子の粉末X線回折測定を行なった。
[平均粒径(dBET)]
Zetasizer Nano ZS(Malvern製)を用いて、動的光散乱法により分散液中の微粒子の平均粒径を測定した。
[全光線透過率及びヘイズ値]
ヘーズメーターNDH5000(日本電飾株式会社製)を用いてASTM D 1003に基づき、導電膜の全光線透過率及びヘイズ値を測定した。
[表面抵抗値]
Hiresta−UP MCP−T610(株式会社三菱化学アナリテック製)を用いてJIS−K7194に準拠して導電膜の表面抵抗値を測定した。
[分光スペクトル]
分光光度計 MP−3100(株式会社島津製作所製)を用いて400〜2200nmの範囲で導電膜の分光スペクトルを測定した。
【0066】
実施例1
表1に示す重量の塩化第二スズ・5水和物(和光純薬(株)製、SnCl・5HO)及びパラタングステン酸アンモニウム(和光純薬(株)製、(NH101241・5HO)を1.7Lのイオン交換水に溶解させて溶液Aを調製した。室温下で攪拌しながら、この溶液Aを、表1に示す重量の炭酸アンモニウム(和光純薬(株)製、(NHCO)が溶解した水溶液(溶液B)に10分間で滴下した。その後30分間攪拌を続け、遠心分離によって溶液と生じた沈殿物を分離した。沈殿物にイオン交換水を加えて攪拌することにより沈殿を水洗し、次に遠心分離を行う作業を3回繰り返した。沈殿物を80℃で12時間乾燥した後、空気中200℃で30分間焼成し、さらに窒素雰囲気中で650℃で30分熱処理を行い、酸化スズ微粒子を得た。
得られた微粒子の物性を評価した結果を表1に示す。
また、得られた微粒子の電気伝導度を測定した際の、加えた圧力と抵抗の関係を図1に示した。図1から分かるように、高い圧力をかけずとも本発明の酸化スズ微粒子は高い導電性を有することが分かる。
【0067】
実施例2
溶液Aの調製に表1に示す重量の塩化第二スズ・5水和物、パラタングステン酸アンモニウム及び硝酸亜鉛・6水和物(和光純薬(株)製、Zn(NO・6HO)を用い、溶液Bの調製に表1に示す重量の炭酸アンモニウムを用いた他は実施例1と同様にして微粒子を調製し、評価した。結果を表1に示す。
【0068】
実施例3
溶液Aの調製に表1に示す重量の塩化第二スズ・5水和物、パラタングステン酸アンモニウム及び硝酸亜鉛・6水和物を用い、溶液Bの調製に表1に示す重量の炭酸アンモニウムを用いた他は実施例1と同様にして微粒子を調製し、評価した。結果を表1に示す。
また、得られた微粒子について粉末X線回折測定を行なった。結果を図2に示す。図2において、パターン1が実施例3の微粒子の粉末X線回折パターン、パターン2が結晶構造から計算したルチル型酸化スズ(SnO)の回折パターン、パターン3が結晶構造から計算した単斜晶系酸化タングステン(WO)の回折パターン、及びパターン4が結晶構造から計算したウルツ鉱型酸化亜鉛(ZnO)の回折パターンである。図2から分かるように、微粒子の粉末X回折測定からは酸化スズのピークのみが観察され(主なピークは26.16°、33.88°、51.84°)、酸化スズにタングステンと亜鉛が固溶しているのが分かる。
【0069】
実施例4
溶液Aの調製に表1に示す重量の塩化第二スズ・5水和物、パラタングステン酸アンモニウム及び硝酸亜鉛・6水和物を用い、溶液Bの調製に表1に示す重量の炭酸アンモニウムを用いた他は実施例1と同様にして微粒子を調製し、評価した。結果を表1に示す。
【0070】
実施例5
溶液Aの調製に表1に示す重量の塩化第二スズ・5水和物及びパラタングステン酸アンモニウムを用い、溶液Bの調製に表1に示す重量の炭酸アンモニウムを用いた他は実施例1と同様にして微粒子を調製し、評価した。結果を表1に示す。
【0071】
実施例6
溶液Aの調製に表1に示す重量の塩化第二スズ・5水和物及びパラタングステン酸アンモニウムを用い、溶液Bの調製に表1に示す重量の炭酸アンモニウムを用いた他は実施例1と同様にして微粒子を調製し、評価した。結果を表1に示す。
【0072】
比較例1
溶液Aの調製に表1に示す重量の塩化第二スズ・5水和物を用い、溶液Bの調製に表1に示す重量の炭酸アンモニウムを用いた他は実施例1と同様にして微粒子を調製し、評価した。結果を表1に示す。
【0073】
比較例2
溶液Aの調製に表1に示す重量の塩化第二スズ・5水和物、パラタングステン酸アンモニウム及び硝酸亜鉛・6水和物を用い、溶液Bの調製に表1に示す重量の炭酸アンモニウムを用いた他は実施例1と同様にして微粒子を調製し、評価した。結果を表1に示す。
【0074】
比較例3
ルチル型二酸化チタン(石原産業(株)製、CR−EL)100gを純水に分散させ、1Lの水懸濁液とし、70℃まで加温した。この水懸濁液に、塩化第二スズ・5水和物34.9gを3N塩酸250mLに溶解したスズ酸液Aとタングステン酸ナトリウム(和光純薬(株)製、NaWO・2HO)1.65gを5N水酸化ナトリウム溶液250mLに溶解したアルカリ溶液Bとを同時に滴下し、懸濁液のpHが2〜3となるように調整した。
滴下終了後、懸濁液をろ過、洗浄し、110℃で8時間乾燥した。得られた乾燥物を窒素ガス気流中、650℃にて1時間の加熱処理を行うことで微粒子を得た。
得られた微粒子について実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0075】
【表1】

【0076】
実施例7
実施例1で調製した微粒子4.0g、分散剤であるDisperbyk−180((株)ビックケミー社製)0.4g、及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート35.6gをジルコニア製ビーズミル(ビーズ径0.1mm)にて、1500rpmで3時間解砕した。
解砕後、ビーズを取り除き、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートの酸化スズ微粒子分散液を得た。この分散液中の酸化スズ微粒子の平均粒径は、90nmであった。
調製した分散液10gに、バインダー樹脂として、NKポリマーMK−100IC(新中村化学工業(株)製、特殊アクリル樹脂)0.25gを加えて30分攪拌し、塗布液を得た。
調製した塗布液をバーコーター(No.3)により、ガラス基板上に室温にて塗布し、200℃の温度下35分加熱処理して薄膜を得た。
得られた薄膜を評価した結果、全光線透過率が89.7%、ヘイズ値が1.2%、表面抵抗値が8.2×10Ω/□であり、透明性及び導電性が共に高いことが分かった。
【0077】
実施例8
実施例2で調製した微粒子4.0g、Disperbyk−2090(ビックケミー社製)0.6g、及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート35.4gを用いた他は実施例7と同様にして酸化スズ微粒子分散液を調製した。この分散液中の酸化スズ微粒子の平均粒径は、75nmであった。
調製した分散液10gを用いて実施例7と同様にして薄膜を形成し、評価した。
得られた薄膜は、全光線透過率が90.2%、ヘイズ値が1.0%、表面抵抗値が9.7×10Ω/□であり、透明性及び導電性が共に高いことが分かった。
【0078】
実施例9
実施例2で調製した微粒子2.0g、Disperbyk−2000(ビックケミー(株)製)0.4g、及びエタノール37.6gをジルコニア製ビーズミル(ビーズ径0.1mm)に投入し、1500rpmで2.5時間解砕した。解砕後、ビーズを取り除き、エタノールのスズ酸化物微粒子分散液を得た。この分散液中の酸化スズ微粒子の平均粒径は85nmであった。
調製した分散液1gに、バインダー樹脂としてPVB1000(和光純薬工業(株)製、ポリビニルブチラール樹脂)0.1gを加え、30分攪拌して、塗布液を得た。
調製した塗布液をバーコーター(#12)により、ガラス基板上に室温にて塗布し、50℃の温度下30分加熱処理し、熱線遮蔽膜を得た。
得られた熱線遮蔽膜の分光スペクトルを測定した結果、可視光域では透明性が高く、1500nm以上の波長の熱線を遮蔽することができた。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の酸化スズ微粒子、並びにそれを含んでなる導電膜、積層体及び樹脂組成物は、ガラス、プラスチック等の帯電防止やほこりの付着防止に有効である。また、これらは、ディスプレイ装置の表示面、その表面カバー材料、窓ガラス、ショーウィンドガラス、計器のカバー材料、クリーンルームの床材・壁材、及び半導体の包装材料等のように、静電気帯電防止効果や電磁波遮蔽効果を必要とする部材に利用できる。加えて、タッチパネル、液晶、EL等の透明電極等にも応用できる
さらに、窓ガラスや自動車ガラスの熱線遮蔽コートや熱線遮蔽フィルム等にも応用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化スズに第2金属原子及び第3金属原子が固溶した酸化スズ微粒子であって、
前記第2金属原子及び第3金属原子は、タングステン又は亜鉛であって、互いに異なる金属原子であり、
下記原子比を満たす酸化スズ微粒子。
0.88≦Sn/(Sn+W+Zn)≦0.999
0.001≦第2金属原子/(Sn+W+Zn)≦0.07
0≦第3金属原子/(Sn+W+Zn)≦0.05
0.90≦(Sn+W+Zn)/全金属原子≦1.00
【請求項2】
前記酸化スズ微粒子が含む全金属原子が、実質的にスズ原子、第2金属原子及び第3金属原子である請求項1に記載の酸化スズ微粒子。
【請求項3】
平均粒子径が1〜500nmである請求項1又は2に記載の酸化スズ微粒子。
【請求項4】
表色系における色測値が、20<L<60、0<a<10、0<b<20である請求項1〜3のいずれかに記載の酸化スズ微粒子。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の酸化スズ微粒子を、水、アルコール又は有機溶媒に分散させた酸化スズ微粒子分散液。
【請求項6】
請求項5に記載の酸化スズ微粒子分散液に無機バインダー又は有機バインダーを添加した酸化スズ微粒子含有塗布液。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれかに記載の酸化スズ微粒子を有機樹脂に混練した樹脂組成物。
【請求項8】
請求項5に記載の酸化スズ微粒子分散液を有機樹脂に混練した樹脂組成物。
【請求項9】
請求項6に記載の酸化スズ微粒子含有塗布液を塗布して得られる導電膜。
【請求項10】
請求項9に記載の導電膜を備える積層体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−173740(P2011−173740A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−37337(P2010−37337)
【出願日】平成22年2月23日(2010.2.23)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】