説明

酸化亜鉛単結晶、それより得られるエピタキシャル成長用基板およびそれらの製造方法

【課題】酸素と亜鉛とが実質的に化学量論的に等量の組成、すなわちストイキオメトリー組成であって電気比抵抗が極めて高い酸化亜鉛単結晶、この酸化亜鉛単結晶より得られるエピタキシャル成長用基板及びこれらの製造方法を提供する。
【解決手段】酸素と亜鉛とが実質的に化学量論的に等量の組成であり、電気比抵抗が1×10Ω・cm以上である酸化亜鉛単結晶、それより得られるエピタキシャル成長用基板およびそれらの製造方法を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ストイキオメトリー組成の酸化亜鉛単結晶、それより得られるエピタキシャル成長用基板に用いる酸化亜鉛単結晶基板、およびそれらの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
酸化亜鉛は古くから知られている材料であり、触媒、化粧品など工業化学品として用いられてきた。しかし、最近、酸化亜鉛が直接遷移型のワイドバンドギャップ半導体であることから半導体として見直されており、近年、青色LED(Light Emitting Diode),LD(Laser Diode)など、半導体デバイスに幅広く応用されることが期待され、注目されている。この酸化亜鉛単結晶は、水熱法で製造できることが知られている。一般に、水熱法による単結晶の製造は人工水晶が広く知られているが、酸化亜鉛単結晶も同様な手法で実施できる。例えば、非特許文献1で示されているが、水熱法による酸化亜鉛単結晶の製造条件の代表的な例を次に示す。酸化亜鉛単結晶の小片を種結晶とし、原料は酸化亜鉛焼結体、そして溶媒は6.5mol/Lの水酸化カリウムおよび0.1〜2mol/Lの水酸化リチウムを用いて、これらを貴金属(Ag,Pt)ルツボに投入し密閉する。そしてこれをオートクレーブに挿入し、育成温度300〜400℃、圧力55MPaで数週間かけて育成する。しかし、従来、育成されたものは不純物が混入したり、着色があるなど、単結晶性は低く、品質が劣るものであった。例えば、これら従来の育成による酸化亜鉛単結晶は、電気比抵抗が10−1〜5Ω・cm程度と低かった。これは、酸化亜鉛を構成する酸素原子と亜鉛原子の化学量論比が当量の1:1ではなく、酸素欠損側にずれた、言い換えれば亜鉛過剰側にずれた組成となっていることに由来するものと考えられる。即ち、その酸素欠損が多いほど酸化亜鉛単結晶中での酸素と亜鉛の電荷のバランスが崩れる為、電気比抵抗が低くなったと推察される。
【0003】
このような酸素欠損の多い酸化亜鉛単結晶の結晶性は十分なものではなく、酸素欠損それ自体が結晶欠陥となったり、さらにまた該欠損部へ他の不純物が混入したりして、転位等の結晶欠陥が増大することが懸念される。前記した青色LED,LDまたはそれらの基板として使用するためには、単結晶性に優れた高品質な酸化亜鉛単結晶が必須である。即ち、酸化亜鉛単結晶の結晶欠陥の抑制、言い換えれば酸化亜鉛単結晶中の酸素欠損の低減が必須であり、これが大きな課題のひとつである。
【0004】
また、誘電体への応用に関しては、これまでに単結晶性が高く、且つ高電気比抵抗の酸化亜鉛単結晶はなかった。
【0005】
【非特許文献1】R.A.Laudise et.al. J.Am.Ceram.Soc.,47,9,1964年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
産業上、青色LED、LD、またはそれらの基板、そして誘電体等に利用できる新規材料として、ストイキオメトリー組成の単結晶性に優れた酸化亜鉛単結晶および基板の開発が強く望まれている。このため本発明の目的は、酸素と亜鉛とが実質的に化学量論的に等量の組成、すなわちストイキオメトリー組成であって電気比抵抗が極めて高い酸化亜鉛単結晶、この酸化亜鉛単結晶より得られるエピタキシャル成長用基板及びこれらの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、これら従来の問題点を解決する為、酸化亜鉛単結晶の水熱製造条件と得られる単結晶の物性、そして単結晶性の改質について鋭意検討した。その結果、従来にないストイキオメトリー組成の酸化亜鉛単結晶を発明した。該単結晶は電気比抵抗が高く、即ち酸化亜鉛を構成する酸素と亜鉛とが実質的に化学量論的に当量であることを示唆している。また、該単結晶は水熱法において酸素発生剤を投入し、金製容器内で製造することによって、これまでの問題点をすべて解決できること、そして該単結晶に熱処理を施すことによりさらにこれまでにない大きな効果が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち本発明は、酸素と亜鉛とが実質的に化学量論的に等量の組成、すなわちストイキオメトリー組成であり、電気比抵抗が1×10Ω・cm以上である酸化亜鉛単結晶である。また該酸化亜鉛単結晶を切削あるいは公知の方法により加工して得られるエピタキシャル成長用基板である。
【0009】
また本発明は、酸化亜鉛単結晶の原料となる酸化亜鉛粉末焼結体を予め材質が金製などの容器に仕込み過酸化水素水溶液中でオートクレーブ装置を用いて水熱処理したものを用いて製造した酸化亜鉛単結晶である。
【0010】
さらにまた本発明は、単結晶育成容器に前記水熱処理した酸化亜鉛粉末焼結体を仕込み、酸化亜鉛単結晶の小片を種結晶として吊り下げるとともに、アルカリ金属水酸化物水溶液と過酸化バリウム、過酸化カルシウム、過酸化水素、過炭酸ナトリウム、過炭酸カリウム、過炭酸リチウム及び過ホウ酸ナトリウムからなる群より選ばれる1種または2種以上の酸素発生剤とを投入して、これを密閉しオートクレーブ装置に挿入して高温高圧下で種結晶を成長させて育成する水熱法により酸化亜鉛単結晶を製造する方法である。
【0011】
また本発明は、該酸化亜鉛単結晶を、酸素および/または窒素ガス中、800℃以上の温度で熱処理する、酸化亜鉛単結晶の製造方法である。
【0012】
また本発明は、酸化亜鉛単結晶基板を加工して得られるエピタキシャル成長用基板を、さらに酸素および/または窒素ガス中、800℃以上の温度で熱処理するエピタキシャル成長用基板の製造方法およびこの方法により得られるエピタキシャル成長用基板である。
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
上記のように、本発明はストイキオメトリー組成の酸化亜鉛単結晶であり、この単結晶は電気比抵抗が1×10Ω・cm以上である。電気比抵抗が1×10Ω・cm以上というきわめて高い値を示すということは、本発明の酸化亜鉛単結晶を構成する酸素と亜鉛が実質的に化学量論的に当量であり、ストイキオメトリー組成であることを示唆している。ここで、「酸素と亜鉛が実質的に化学量論的に当量」とは、理論的には酸化亜鉛を形成する酸素と亜鉛が等量であることを意味するものの、実質的に電気比抵抗が1×10Ω・cm以上という高い電気比抵抗性を有しておればよいことを意味する。
【0015】
また、本発明の酸化亜鉛単結晶は、育成溶媒として用いるアルカリ金属水酸化物水溶液由来であるアルカリ金属不純物が10重量ppm以下、可視領域における光外部透過率が75%以上の無色透明で、かつX線回折法によるX線ロッキングカーブ測定における酸化亜鉛単結晶のc軸に垂直な(0004)面のピーク半価幅が25秒以下である高品質で単結晶性に優れた酸化亜鉛単結晶である。
【0016】
従来の酸化亜鉛単結晶は、酸素欠損量が多く、そのため電気比抵抗は10−1〜5Ω・cm程度と低いものであった。本発明の酸化亜鉛単結晶は、ストイキオメトリー組成であり、その電気比抵抗は1×10Ω・cm以上と非常に高いものであり、従って単結晶性に優れた高品質な単結晶であることを必須とする。
【0017】
酸化亜鉛単結晶の電気比抵抗は、該値が大きいほど結晶欠陥はより少なく酸化亜鉛単結晶の品質が高いものと考えられる。その理由は、酸化亜鉛化合物が酸素欠損し易い性質に由来し、その酸素欠損を少なくすればするほど酸化亜鉛単結晶を構成する酸素と亜鉛が化学量論的に等量に近づくため、正負の電荷のバランスが保持され電気比抵抗が高くなるからである。
【0018】
本発明の酸化亜鉛単結晶の電気比抵抗は1×10Ω・cm以上、好ましくは1011Ω・cm以上、さらに好ましくは1012Ω・cm以上のものである。一方、酸化亜鉛単結晶の電気比抵抗が1×10Ω・cmより小さい場合は、酸化亜鉛単結晶中で酸素欠損が比較的多く、その為、結晶欠陥が多く存在していると考えられ結晶性が劣ることが予想され好ましくない。
【0019】
また、本発明の酸化亜鉛単結晶は高純度であり、不純物の少ないことを特徴とする。具体的に不純物としては、単結晶育成溶媒由来のK,Liや育成容器材質のAu或いはPt等があげられ、それらの含有量は合計10ppm以下であり、好ましくは5ppm以下、さらに好ましくは1ppm以下である。これらの不純物が10ppmを超えると酸化亜鉛単結晶の結晶性等が低下し好ましくない。
【0020】
また、本発明の酸化亜鉛単結晶は、無色透明である。本発明の酸化亜鉛単結晶から得られたエピタキシャル成長用基板の可視領域の波長における光外部透過率(島津製作所製,UV−3100PC)は、例えば1mm厚さの基板で測定した場合、75%以上であり、好ましくは80%以上である。光外部透過率が75%未満のものは、着色を呈し、これは不純物混入や結晶欠陥等に起因するものと考えられ好ましくないことがある。
【0021】
また、酸化亜鉛単結晶の単結晶性はX線回折法によるX線ロッキングカーブ測定の半価幅でみることができ、該半価幅は小さいほど単結晶性が優れることを意味する。本発明の酸化亜鉛単結晶の(0004)面のピーク半価幅(光学系:入射/人工多層膜ミラー+Ge(440)−4結晶光学系、受光/Ge(002)−2結晶アナライザー)は25秒以下、好ましくは20秒以下、さらに好ましくは15秒以下であり、酸素欠損等のない理論的完全結晶に近い極めて単結晶性に優れたものである。酸化亜鉛(0004)面の該ピーク半価幅が25秒を超えるものは単結晶性が不十分となり、例えば該単結晶をLED用のエピタキシャル成長用基板結晶として用いた場合、該酸化亜鉛単結晶性の不十分な品質、即ち結晶欠陥がエピタキシャル成長する単結晶へ悪影響を及ぼすことが考えられる。
【0022】
本発明は酸化亜鉛単結晶を切削等により加工して得られるエピタキシャル成長用基板である。
【0023】
エピタキシャル成長用基板とは、GaN系、ZnO系等の青色LEDおよびLD等のデバイスにおけるエピタキシャル結晶膜成長用の基板である。該基板は、本発明による酸化亜鉛単結晶を加工して得るが、その加工方法は一般的な方法でよい。その一例を示す。酸化亜鉛単結晶のc軸に垂直な(0001)面に沿って、ダイヤモンドカッターでスライスし、これを研磨、ウェットエッチング、熱処理等により処理および改質して基板を得る。
【0024】
従来の酸化亜鉛単結晶基板は、酸素欠損量が多く、そのため結晶欠陥が多く品質に劣るため、エピタキシャル成長用基板としては十分なものではなかった。本発明のエピタキシャル成長用基板は酸素欠損のないストイキオメトリー組成であり、結晶欠陥の極めて少ない良質な基板として用いられることが考えられる。
また本発明は、酸化亜鉛単結晶の原料として、酸化亜鉛粉末焼結体を過酸化水素水溶液中でオートクレーブ装置を用いて水熱処理したものを用いて得られる酸化亜鉛単結晶である。
【0025】
さらにまた本発明は、単結晶育成容器の下部に原料として前記水熱処理した酸化亜鉛粉末焼結体を仕込み、上部に種結晶として酸化亜鉛単結晶の小片を吊り下げるとともに、アルカリ金属水酸化物水溶液と過酸化バリウム、過酸化カルシウム、過酸化水素、過炭酸ナトリウム、過炭酸カリウム、過炭酸リチウム及び過ホウ酸ナトリウムからなる群より選ばれる1種または2種以上の酸素発生剤とを投入して、オートクレーブ装置を用いて高温高圧下で酸化亜鉛単結晶を育成する水熱法によりストイキオメトリー組成の酸化亜鉛単結晶を製造する方法である。
【0026】
以下、その製造方法を説明するが、本発明の酸化亜鉛単結晶及びエピタキシャル成長用基板の製造方法としてはこの製造方法に限定されるものではない。
【0027】
本発明は、材質が金製などの単結晶育成用容器に、酸化亜鉛粉末より得られる焼結体を予め過酸化水素水溶液中でオートクレーブ装置を用いて水熱処理したものを仕込み、種結晶として酸化亜鉛単結晶の小片を吊り下げるとともに、アルカリ金属水酸化物水溶液を仕込み、これに酸素発生剤を加えた後密閉してオートクレーブ装置に挿入し、温度300〜450℃、圧力50〜130MPaで水熱育成して製造する。
【0028】
本発明の原料である酸化亜鉛焼結体は、酸化亜鉛の粉末を冷間等方圧縮成形等により成形した後焼結し、該焼結体を過酸化水素水溶液中でオートクレーブ装置を用いて水熱処理したものである。これは、該焼結体を再結晶化して精製する際に、過酸化水素を共存させることにより、原料となる該焼結体が酸素欠損の少ない状態で再結晶されることを意図した工程となる。該焼結体の処理法は、金製等容器に該焼結体と水と過酸化水素水を仕込んだ後密閉してオートクレーブ装置に挿入し、温度100℃以上、より好ましくは200℃以上、さらにより好ましくは単結晶育成条件と同じ300〜450℃、圧力50〜130MPaの高温高圧下で処理する方法である。過酸化水素の量は、発生する酸素圧が0.01MPa以上であればよく,好ましくは,0.1MPa以上がよい。酸素圧が0.01MPa未満の場合には、前記した効果が小さくなる。
【0029】
また、該焼結体の前駆体である酸化亜鉛粉末の平均粒径は30μm以下のものが好ましく、より好ましくは10μm以下、さらに好ましくは1μm以下である。30μmを超えると酸化亜鉛粉末の成形および/または焼結の際に粒子間同士の接触面積が小さくなることから最終的に焼結密度が低くなり、その為、単結晶育成時に原料が溶解する際に粉状に崩れてしまう懸念がある。粉状になると育成容器内で散乱し、育成領域において核発生を起こす原因となってしまい種結晶の成長を妨げることがある。
【0030】
また、該粉末の粒度分布はシャープでもよいが、ある程度ブロードでもよく、即ち粒子間の接触面積が大きくなるほどよい。
【0031】
また、焼結密度を増すには、原料の粉末の比表面積が大きいことも有効である。好ましくは2m/g、より好ましくは4m/g、さらに好ましくは8m/gである。2m/g未満の場合には、焼結密度が思うように上がらないことがある。
【0032】
酸化亜鉛単結晶の製造に用いる酸素発生剤としては、過酸化バリウム、過酸化カルシウム、過酸化水素、過炭酸ナトリウム、過炭酸カリウム、過炭酸リチウム、過ホウ酸ナトリウムなど、酸素を発生する化合物であればよく、さらに過酸化バリウムが好ましく用いられる。これらの酸素発生剤は、1種単独で用いてよいが、2種以上を用いることもできる。
【0033】
過酸化バリウムが好ましい理由は、過酸化バリウムは常温では安定な物質であり定量性に優れること、そして熱水下では分解して酸素を発生するという性質から、本発明の酸素発生剤として極めて有用である。また、同時に分解により生成する水酸化バリウムは水への溶解度が非常に高くかつ、バリウムのイオン半径が大きいことから、単結晶として成長する酸化亜鉛単結晶への混入もなく、これも好適である。
【0034】
酸素発生剤の量は、単結晶育成時に発生する酸素圧が0.01MPa以上であればよく、好ましくは0.1MPa以上、さらに好ましくは1MPa以上である。酸素圧が0.01MPa未満の場合には、本発明の酸化亜鉛単結晶を得るためには不十分である。また、1MPaを超える量においては特に限定しないが、さらに大過剰にしても本発明の酸化亜鉛単結晶の特性は殆ど変わらない。
【0035】
また、該酸素発生剤においては、過酸化水素はもちろん、過酸化バリウム等も熱水下では分解性が非常に高く、いずれの化合物も全量が分解して酸素が発生すると考えてよい。
【0036】
本発明の水熱法による酸化亜鉛単結晶の育成温度は特に限定しない。従来から行われている300から450℃の間であれば問題ない。しかし、好ましい酸化亜鉛単結晶が高単結晶性となるためには育成容器の上部にある単結晶成長領域の温度と下部にある原料酸化亜鉛焼結体領域の温度の差が重要である。具体的には、高温の原料溶解域と低温の単結晶成長域の温度差が10℃以下、好ましくは8℃以下、さらに好ましくは6℃以下かつ1℃以上である。10℃を超えると酸化亜鉛の過飽和度が一気に崩壊して核発生が起こり種結晶の効率的な成長を阻害してしまうことがある。また、1℃より低くなると、種結晶が溶けたり、種結晶の成長速度が急速に遅くなり、生産性が劣ってしまうことがある。
【0037】
本発明の酸化亜鉛単結晶を製造するオートクレーブ装置において、単結晶育成用容器の材質としては金製(Au)であることが好ましい。本発明者らがこの単結晶育成の容器材質について鋭意検討した結果、予期せぬ大きな効果を見出した。すなわち、水熱下でアルカリ金属水酸化物水溶液および/または酸素発生剤を使用した場合において、貴金属の全てが耐食性に優れているわけではないことが判明したことである。本発明による酸化亜鉛単結晶製造の条件において、貴金属のうち、Auの耐食性が著しく優れた。
【0038】
従来は、貴金属として白金(Pt)が使用されていたが、Ptはアルカリ金属水酸化物水溶液に僅かながら溶解し、熱水下ではその溶解度は増すことが判った。即ち、育成溶液の中にPtが溶解し、酸化亜鉛単結晶の成長過程において不純物としてコンタミし、アルカリ金属水酸化物水溶液を用いた酸化亜鉛単結晶製造においてPt容器を使用することは好ましくないことがある。また、本発明の酸素発生剤としての過酸化バリウムや、過酸化バリウムと過酸化水素との併用剤などを仕込むと、Ptの耐食性はさらに劣り、コンタミの程度が悪化することも判った。
【0039】
また、AuはPtと比較して、機能的にもコスト的にも有利である。具体的には、AuはPtに比べて延性に富むため、単結晶製造時の圧力の変化に柔軟に対応できる。
【0040】
本発明において種結晶として用いる酸化亜鉛単結晶の小片は、研磨および/または化学的機械研磨により平坦化され、さらに酸素および/または窒素ガス中で800℃以上の温度で熱処理されたものを用いるとよい。その理由は、該処理により種結晶表面の平坦性および結晶性が改善され、製造時の種結晶成長において、良質な単結晶が成長するためである。一方、種結晶の表面が粗いものは、結晶性の好ましくないものに成長することが懸念される。
【0041】
本発明の原料である酸化亜鉛中に含有する金属不純物の合計量は100重量ppm未満以下であることが好ましい。さらに好ましくは10重量ppm以下である。このとき、製造する酸化亜鉛単結晶への不純物の取り込み要素が極めて小さくなり、高純度の酸化亜鉛単結晶が製造できる。
【0042】
本発明の溶媒のアルカリ金属水溶液中に含有する金属不純物の合計量は100重量ppm未満であることが好ましい。さらに好ましくは10重量ppm以下である。このとき、前記と同様、製造する酸化亜鉛単結晶への不純物の取り込み要素が極めて小さくなり、高純度の酸化亜鉛単結晶が製造できる。
【0043】
本発明により得られた酸化亜鉛単結晶およびそれを加工して得られるエピタキシャル成長用基板は酸素および/または窒素ガス中で800℃以上の温度で熱処理される。このとき、得られた酸化亜鉛単結晶やエピタキシャル成長用基板はさらに高抵抗化し、高単結晶性となり、品質が向上する。また、熱処理によって、酸化亜鉛単結晶やエピタキシャル成長用基板の表面は原子レベルで平坦化され、ステップ・テラスが形成する。このことはエピタキシャル成長用基板として用いる際に、エピタキシャル成長結晶がスムーズに該基板に堆積し、非常に有益である。
【0044】
熱処理温度は800℃以上の温度とすることが好ましく、さらに1000℃以上が好ましく、特に好ましくは1100℃以上である。800℃未満では前記した酸化亜鉛単結晶の品質向上の効果が不十分となることがある。また、酸化亜鉛は炭酸を吸着しやすい性質があり、800℃未満ではその脱着が不十分となることがある。
【0045】
また、熱処理の雰囲気は酸素および/または窒素ガス中であればいずれでもよい。また、熱処理時に酸化亜鉛の粉末やそれよりなる焼結体を周囲におくとよい。その理由は、酸化亜鉛が昇華性の化合物であり、1300℃くらいから昇華し始める性質を有しており、酸化亜鉛の蒸気圧を一定に保持し、酸化亜鉛単結晶の変質を防ぐことができると考えられるからである。
【0046】
また、酸化亜鉛単結晶やエピタキシャル成長用基板は、酸素供給型化合物、例えばイットリウム安定化ジルコニア等で挟んでおくとよい。その理由は、酸化亜鉛単結晶やエピタキシャル成長用基板が高温での熱処理時における酸素欠損を防ぐことができると考えられるからである。
【発明の効果】
【0047】
本発明は以下の効果を奏する。
(1)本発明の酸化亜鉛単結晶及びそれより得られるエピタキシャル成長用基板は、従来にないストイキオメトリー組成の酸化亜鉛であり、高い電気比抵抗を有し、単結晶性に優れた、酸素欠損が極めて少ない結晶欠陥の少ない良質な単結晶である。従って、該酸化亜鉛単結晶およびそれより得られる基板は、青色LED,LDおよびそれらの基板として、高性能化が図れるものとして非常に有用である。
(2)本発明の酸化亜鉛単結晶及びそれより得られるエピタキシャル成長用基板の製造方法はオートクレーブ装置を用いた高温高圧下での育成法によるものであり、原料として酸化亜鉛粉末焼結体をオートクレーブ装置を用いて過酸化水素水溶液中で処理したものの使用、金製育成容器の使用、酸素発生剤の投入により、従来にないストイキオメトリー組成で単結晶性に優れた高純度な高品質酸化亜鉛単結晶が、シンプルで工業的かつ経済性の高い製造法で得ることができ、産業上極めて有用である。
【実施例】
【0048】
以下、本発明の実施例、比較例を示すが、本発明はこれらにより何等限定されるものではない。また、部,%およびppmは重量に基づくものである。
【0049】
(実施例1)
オートクレーブ装置を用いた水熱法による単結晶製造において、単結晶育成容器に金製の育成容器を用い、酸化亜鉛粉末より得られた焼結体を100部と、水酸化カリウム水溶液3mol/Lと水酸化リチウム水溶液1.5mol/Lの混合水溶液125部、そして酸素発生剤として過酸化バリウム2.4部とを仕込み、種結晶として酸化亜鉛単結晶のc軸に垂直な(0001)面の板状小片を懸垂させ、この金製容器を密閉し、370℃、100MPa下で2週間かけて酸化亜鉛単結晶(A)を育成した。尚、原料として用いた酸化亜鉛粉末より得られた焼結体は、予め、オートクレーブ装置を用いて、金製容器に100部仕込むとともに、30%過酸化水素水溶液0.8部と水125部とを投入し、この金製容器を密閉して、370℃、100MPa下で2日間かけて処理したものを用いた。次に、該単結晶(A)より亜鉛終端面側に(0001)面で厚さ1mmに切り出し、基板(A)を作成した。尚、酸化亜鉛単結晶は結晶学的に六方晶系・ウルツ鉱型であり、c軸に垂直な面で亜鉛からなる層と酸素からなる層の繰り返しから構成される層状構造を有し、酸化亜鉛単結晶の(0001)面において終端面が亜鉛のものと酸素のものがある。
【0050】
そして、基板(A)について、電気抵抗を測定し、電気比抵抗を求めた。電気抵抗測定は、電流電圧計を用い、インジウム−ガリウム電極を設けた酸化亜鉛単結晶基板を暗箱に入れ、直流電流−電圧二端子法にて、酸化亜鉛タ結晶基板の(0001)方位に沿って測定した。尚、電極はインジウム−ガリウムを用い電流電圧特性によりオーミックを確認して行った。
【0051】
基板(A)の電気比抵抗は9×1010Ω・cmであり、以下の比較例1で示す基板(B)との差は明確であった。
【0052】
また、下記条件でX線回折・X線ロッキングカーブ測定を行った。
<X線回折装置と条件>
基板測定格子面:(0004)
測定装置:ATX−E
X線源:回転対陰極Cuターゲット(50kV−300mA)
測定光学系:入射光学系・人工多層膜ミラー+Ge440−4結晶光学系
受光光学系・Ge220−2結晶アナライザー
その結果、基板(A)の(0004)ピーク半値幅は15秒と非常にシャープで単結晶性に優れていることが判った。一方、以下の比較例1で示す基板(B)は26秒と基板(A)に比べ単結晶性が劣った。
また、基板(A)のICP測定(装置:セイコーインスツルメンツ製,SPS1200A PlasmaSpectrometer)による不純物分析を行った。
その結果、単結晶溶媒として用いたアルカリ金属水酸化物由来のLi,Kは合計で1ppm未満、また単結晶育成容器由来のAu,そしてPtも検出されず、1ppm未満であった。
(比較例1)
実施例1の操作において、酸素発生剤としての過酸化バリウムを投入しない以外はすべて同様の操作により、酸化亜鉛単結晶(B)を得、これより亜鉛終端面側に(0001)面で厚さ1mmに切り出した基板(B)を作成した。
【0053】
そして、基板(B)について、実施例1と同様に電気抵抗を測定し、電気比抵抗を求めたところ、2×10Ω・cmであり、上記の実施例1による基板(A)との差は明確であった。
【0054】
また、実施例1と同じ条件でX線回折・X線ロッキングカーブ測定を行ったところ、基板(B)の(0004)ピーク半値幅は26秒となり、上記の実施例1による基板(A)に比べ単結晶性が劣った。
【0055】
また、基板(B)を実施例1と同様に、ICP測定を行った結果、Li,Kは合計で1ppm未満、Au,そしてPtも検出されず1ppm未満であった。
【0056】
以上の実施例1と比較例1との結果から、酸化亜鉛基板の不純物含有量は低く、同程度であるにもかかわらず、電気比抵抗が大きく異なるのは、酸素欠損量に由来するものと考えられ、実施例1による基板(A)では酸素欠損が極めて少なく、単結晶に優れるストイキオメトリーな酸化亜鉛単結晶であることが示唆された。
【0057】
(実施例2)
酸素発生剤として過酸化バリウム8部を投入する以外は実施例1と同様の操作で酸化亜鉛単結晶を得、これより亜鉛終端面側に(0001)面で切り出した基板を得た。該基板の電気比抵抗は6×1012Ω・cmであった。
【0058】
(実施例3)
酸素発生剤として過酸化バリウム0.8部を投入する以外は実施例1と同様の操作で酸化亜鉛単結晶を得、これより亜鉛終端面側に(0001)面で切り出した基板を得た。該基板の電気比抵抗は3×10Ω・cmであった。
【0059】
(実施例4)
酸素発生剤として過酸化水素0.8部を投入した以外は実施例1と同様の操作で酸化亜鉛単結晶を得、これより亜鉛終端面側に(0001)面で切り出した基板を得た。該基板の電気比抵抗は1×10Ω・cmであった。
【0060】
(実施例5)
酸素発生剤として過酸化バリウム1.2部と過酸化水素1.2部を併用して投入した以外は実施例1と同様の操作で酸化亜鉛単結晶を得、これより亜鉛終端面側に(0001)面で切り出した基板を得た。該基板の電気比抵抗は4×1010Ω・cmであった。
【0061】
(比較例2)
単結晶育成容器として白金製容器を用いた以外は実施例1と同様の操作で酸化亜鉛単結晶を得、これより亜鉛終端面側に(0001)面で切り出した基板を得た。該基板の電気比抵抗は7×1010Ω・cmであった。しかし、Pt容器は変色し腐食が激しかった。さらに、該基板のICPによる不純物分析で、Ptが1ppm以上検出され、白金製容器が腐食して酸化亜鉛単結晶へPtがコンタミした原因となった。
【0062】
(比較例3)
単結晶育成容器として白金製容器を用い、酸素発生剤として過酸化水素2.4部を投入した以外は実施例1と同様の操作で酸化亜鉛単結晶を得、これより亜鉛終端面側に(0001)面で切り出した基板を得た。該基板の電気比抵抗は6×10Ω・cmであった。しかし、Pt容器は変色し腐食が激しかった。さらに、該基板のICPによる不純物分析で、Ptが1ppm以上検出され、腐食したPtが酸化亜鉛単結晶へのコンタミ原因となった。
【0063】
以上の実施例1〜5及び比較例1〜3の操作条件及び結果を表1にまとめて示した。
【0064】
【表1】

(実施例6)
実施例1で得た酸化亜鉛単結晶基板を、管状炉を用いて、800℃で2時間、酸素気流下で熱処理した。酸化亜鉛基板は鏡面状の(111)イットリウム安定化ジルコニア(YSZ)単結晶で挟んで、周囲には酸化亜鉛粉末を堆積した。熱処理した該基板の電気比抵抗は4×1011Ω・cmであった。また、実施例1記載と同条件で、X線回折・X線ロッキングカーブ測定した結果、熱処理した該基板の(0004)ピーク半値幅は14.8秒と極めてシャープだった。
【0065】
(実施例7)
熱処理の雰囲気を窒素気流下とする以外は、すべて実施例5と同じ操作で酸化亜鉛単結晶基板の熱処理を行った。熱処理後の電気比抵抗は1×1011Ω・cmであった。
【0066】
(実施例8)
熱処理温度を1,200℃とする以外は、すべて実施例5と同じ操作で酸化亜鉛単結晶基板の熱処理を行った。熱処理後の電気比抵抗は8×1011Ω・cmであった。
【0067】
(比較例4)
熱処理温度を600℃とする以外は、すべて実施例5と同じ操作で酸化亜鉛単結晶基板の熱処理を行った。熱処理後の電気比抵抗は9×1010Ω・cmであった。
【0068】
以上の実施例6〜8及び比較例4の操作条件及び結果を表2にまとめて示した。
【0069】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素と亜鉛とが実質的に化学量論的に等量の組成であり、電気比抵抗が1×10Ω・cm以上である酸化亜鉛単結晶。
【請求項2】
酸化亜鉛単結晶の原料として用いる酸化亜鉛粉末焼結体が、過酸化水素水溶液中でオートクレーブ装置を用いて水熱処理したものである、請求項1記載の酸化亜鉛単結晶。
【請求項3】
単結晶育成容器の下部に原料として酸化亜鉛粉末焼結体を仕込み、上部に種結晶として酸化亜鉛単結晶の小片を吊り下げるとともに、アルカリ金属水酸化物水溶液と過酸化バリウム、過酸化カルシウム、過酸化水素、過炭酸ナトリウム、過炭酸カリウム、過炭酸リチウム及び過ホウ酸ナトリウムからなる群より選ばれる1種または2種以上の酸素発生剤とを投入して、オートクレーブ装置を用いて高温高圧下で酸化亜鉛単結晶を育成させる、請求項1又は請求項2記載の酸化亜鉛単結晶の製造方法。
【請求項4】
酸素発生剤が、過酸化バリウム又は、過酸化バリウム及び過酸化水素である、請求項3記載の酸化亜鉛単結晶の製造方法。
【請求項5】
単結晶育成用容器の材質が金製である請求項3又は請求項4記載の酸化亜鉛単結晶の製造方法。
【請求項6】
酸化亜鉛単結晶を、酸素および/または窒素ガス中、800℃以上の温度で熱処理する、請求項3〜5のいずれかに記載の酸化亜鉛単結晶の製造方法。
【請求項7】
請求項1又は請求項2記載の酸化亜鉛単結晶より得られるエピタキシャル成長用基板。
【請求項8】
酸化亜鉛単結晶の原料として用いる酸化亜鉛粉末焼結体が、過酸化水素水溶液中でオートクレーブ装置を用いて水熱処理したものである、請求項7記載のエピタキシャル成長用基板。
【請求項9】
請求項7又は請求項8記載のエピタキシャル成長用基板を、さらに酸素および/または窒素ガス中、800℃以上の温度で熱処理するエピタキシャル成長用基板の製造方法。

【公開番号】特開2006−225213(P2006−225213A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−43360(P2005−43360)
【出願日】平成17年2月21日(2005.2.21)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年9月1日 社団法人応用物理学会発行の「2004年(平成16年)秋季 第65回 応用物理学会学術講演会講演予稿集 第1分冊」に発表
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】