説明

酸化亜鉛系材料のエッチング方法

【課題】エッチング残渣を発生させず平坦にエッチングできる酸化亜鉛系材料のエッチング方法を提供すること。
【解決手段】蓚酸を含有する溶液で酸化亜鉛系材料をエッチングする第1の工程(S1)と、アルカリ性溶液を用いて、前記第1の工程におけるエッチング残渣を除去する第2の工程(S2)を有している。酸化亜鉛系材料、とりわけ(000−1)の結晶面を有する酸化亜鉛系材料を、エッチング残渣を発生させず平坦にエッチングできるという効果を奏する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化亜鉛系材料のエッチング方法に関し、より詳細には、ガリウムナイトライド系発光素子に変わる高効率発光素子の構成材料などに用いられる酸化亜鉛系材料のエッチング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、酸化亜鉛系材料は、ガリウムナイトライド系発光素子に変わる高効率発光素子の構成材料や希少元素であるインジウムを含まない透明導電性材料等として注目されている。この酸化亜鉛系材料を用いて発光素子を形成する場合には、一般に、2種以上の導電型を有する層を積層してpn接合やpin接合を有する膜を作製し、その後に、エッチング工程によって表面側の導電型とは逆の導電型の層を露出させ、2つの導電型の層の表面に電極材料を形成する。また、透明導電性材料として用いる場合も、用途に応じて、電極パターンを形成するために酸化亜鉛系材料のエッチング工程が必要となる。
【0003】
このように、酸化亜鉛系材料のエッチング工程は、酸化亜鉛系材料を実用化するために重要な工程であるため、この酸化亜鉛系材料のエッチング方法の開発が盛んに行われている。
【0004】
この酸化亜鉛系材料のエッチング方法は、反応性のガスなどを用いるドライエッチング法と、溶液を用いるウェットエッチング法に大別されるが、ドライエッチング法は、一般に、真空装置を用いて行われるため、ウェットエッチング法に比べて生産性が劣る場合が多い。そのため、ウェットエッチング法に用いるエッチング液(エッチャント)の開発が重要となる。
【0005】
また、酸化亜鉛系材料は、強酸に容易に溶解することが知られ、強酸をエッチング液として用いる試みがなされている。例えば、非特許文献1には硝酸でエッチングする技術が開示され、非特許文献2には塩酸や燐酸でエッチングする技術が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開2007−1787号公報
【非特許文献1】J.Appl.Phys.1962,34,2,384
【非特許文献2】J.Nanosci.Nanotechnol.2006,6,11,3364
【非特許文献3】Thin Solid Films 2007,515,3967
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、これらのエッチング技術では、エッチングされた表面が激しく荒れるために精緻な素子を形成するのには不向きであり、また、形成された荒れによって光が散乱し、透明性が失われるため透明導電材料として使用する場合も不向きであった。更に、強酸を用いるために素子構造形成や電極パターン形成の工程順によっては電極が溶解するという問題もあった。
【0008】
このような問題を解決するために、非特許文献3には、塩化第2鉄水溶液を用いてエッチングする技術が開示されていが、エッチングされた表面の荒れを十分に解決するには至っていない。
【0009】
また、酸化亜鉛基板の表面を平坦化する方法として、例えば、特許文献1には、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウムとエチレンジアミンの混合液を用いる方法が開示されている。つまり、この特許文献1に記載のものは、水熱合成法で得られたZnO基板の表面を平坦化し、かつLi濃度を低下させることができるZnO基板の製造方法を提供するもので、水熱合成法で形成したZnOからなる基板から、熱処理温度と熱処理時間を考慮して不純物であるLiを除去し、この不純物であるLiが除去された基板の表層部を、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウムとエチレンジアミンとの混合液を用いてエッチングして平坦化するものである。
【0010】
しかしながら、このエッチング技術を、発光素子を作製するのに必要なサブミクロン程度のエッチング工程に応用すると、エッチピットが発生するという問題があった。
【0011】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、特に、(000−1)の結晶面を有する酸化亜鉛系材料を、エッチング残渣を発生させず平坦にエッチングできる酸化亜鉛系材料のエッチング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、このような目的を達成するためになされたもので、請求項1に記載の発明は、蓚酸を含有する溶液で酸化亜鉛系材料をエッチングする第1の工程と、アルカリ性溶液を用いて、前記第1の工程におけるエッチング残渣を除去する第2の工程とを有することを特徴とする。
【0013】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記蓚酸を含有する溶液が、蓚酸の部分中和物又は完全中和物を含有する溶液であることを特徴とする。
【0014】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、前記酸化亜鉛系材料が、(000−1)の結晶面を有することを特徴とする。
【0015】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1,2又は3に記載の発明において、前記酸化亜鉛系材料を電子デバイス又は光デバイスに用いることを特徴とする。
【0016】
また、請求項5に記載の発明は、請求項1,2又は3に記載の発明において、前記酸化亜鉛系材料を透明導電性材料として用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、蓚酸を含有する溶液で酸化亜鉛系材料をエッチングする第1の工程と、アルカリ性溶液を用いて、前記第1の工程におけるエッチング残渣を除去する第2の工程とを有するので、酸化亜鉛系材料、とりわけ(000−1)の結晶面を有する酸化亜鉛系材料を、エッチング残渣を発生させず平坦にエッチングできるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の酸化亜鉛系材料のエッチング方法の一実施形態を説明するための工程図である。本発明の酸化亜鉛系材料のエッチング方法は、蓚酸を含有する溶液で酸化亜鉛系材料をエッチングする第1の工程(S1)と、アルカリ性溶液を用いて、前記第1の工程におけるエッチング残渣を除去する第2の工程(S2)を有している。
【0019】
まず、第1の工程で用いる蓚酸を含有する溶液について説明する。
本発明において、蓚酸を含有する溶液とは、蓚酸や蓚酸の部分中和物又は完全中和物を含有する溶液であり、その溶媒は、蓚酸や蓚酸の部分中和又は完全中和物を溶解できれば特に限定されないが、水やメタノール、エタノール、エーテルと言った各種有機溶媒、及びそれらの混合物が例示できる。これらの中で、水や水と有機溶媒の混合溶媒は、蓚酸や蓚酸の部分中和又は完全中和物の溶解度が高いため好ましい。
【0020】
また、フォトレジストを用いてパターンを形成した後にエッチングを行う場合は、フォトレジストを溶解しない溶媒を用いることが必要であり、使用するフォトレジストの溶解特性に応じて適宜溶媒を選択する必要があるが、フォトレジストは通常有機溶媒に溶解しやすいため、水や水を50容量%含有する水系溶媒が好ましく用いられる。
【0021】
本発明の蓚酸や、蓚酸の部分中和又は完全中和物とは、蓚酸のほか蓚酸にアルカリ性物質を加えて、部分的又は完全に中和したものである。これらの中で、部分的又は完全に中和した蓚酸は、第1の工程が終了した時点で発生するエッチング残渣のサイズが小さく、第2の工程でエッチング残渣を溶解する際、その溶解時間が短縮されるうえ、第2の工程に用いるアルカリ性溶液にエッチング残渣の溶解物が溶け込む濃度が低く、液の再利用性が高まったり、液管理を容易にするために好ましい。
【0022】
このような、中和に用いるアルカリ性物質は、蓚酸にアルカリ性イオンを供給して中和反応が進行する物質であれば特に限定されない。アルカリ性イオンの種類としては、蓚酸塩となった状態で、エッチング液として使用する際に、所望の溶解度を有することが必要である。したがって、有機、無機の四級アンモニウムイオン、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオンなどのアルカリ金属のイオンや銅イオン、銀イオン等の一価の金属イオンやこれらの混合物が好ましく用いられる。とりわけ、有機、無機の四級アンモニウム塩は、エッチング液の洗浄除去が十分でなかった場合などに、通常電子部品を作製する際に使用される、酸素アッシングに代表される有機物を酸化除去する工程で除去できるので好ましい。
【0023】
また、酸化亜鉛系材料は、アルカリ性イオンの種類によって、材料内に取り込みやすい物質と取り込みにくい物質があるため、イオンの種類を目的によって使い分けることもできる。酸化亜鉛系材料内にエッチング液組成物由来の物質を取り込みたくない場合は、上述した有機、無機の四級アンモニウムイオンに加えて、ナトリウムイオンやカリウムイオンが好ましく用いられる。
【0024】
一方、エッチング段差の側面を高抵抗化するなどの目的で、積極的にイオンを取り込みたい場合には、リチウムイオンが好ましく用いられる。
【0025】
このような蓚酸の部分中和物又は完全中和物をエッチング液として用いる場合は、予め蓚酸を部分的に又は完全に中和して乾燥させた塩を用いても構わないし、蓚酸の、例えば、水溶液に、例えば、アルカリ性の塩を混合して中和し、そのまま用いても構わない。
【0026】
本発明において、蓚酸の部分中和物又は完全中和物をエッチング液として用いる場合の蓚酸の中和度(部分中和の程度)は、特に限定されず、蓚酸の一部が、アルカリ性塩に置換されていればいいが、エッチング残渣の抑制効果は、蓚酸の中和度が30当量%以上で発現し、50当量%以上で顕著になり、さらに60当量%以上で顕著になるため、好ましくは、蓚酸に含有されるカルボン酸の30当量%以上、より好ましくは50当量%以上、更に好ましくは60当量%以上である。上限に関しては特に限定されず、完全中和、すなわち100当量%以下である。
【0027】
また、エッチングを、予め金属材料を酸化亜鉛系材料に設置してから行う場合は、その金属材料の種類にもよるが、強酸性では金属材料の腐食や溶解が進行しやすいため、蓚酸の中和度が、10当量%以上が好ましく、より好ましくは30当量%以上、更に好ましくは50当量%以上である。上限に関しては特に限定されず、完全中和、すなわち100当量%以下である。
【0028】
本発明のエッチング組成物の中和度の上限に関しては、完全中和までの範囲、すなわち100当量%以下であるが、とりわけエッチング段差が大きいエッチングを行う場合は、エッチング速度は0.1μm/分程度以上であることが生産性の観点から好ましいため、エッチング組成物の中和度は、好ましくは95当量%以下である。なお、本発明のエッチング液組成物を用いて、エッチング液を作製する際、アルカリ性側で使用する必要がある場合は、完全中和のエッチング組成物と共に、アルカリ性物質を過剰に混合することも可能である。
【0029】
なお、上述したような水系溶媒を用いた場合は、これらの物質が、部分的あるいは完全にイオン解離した状態で溶液中に存在するが、当然のことながら、このようなイオン解離した状態であっても蓚酸や、蓚酸の部分中和物又は完全中和物を含有する溶液である。
【0030】
本発明の蓚酸を含有する溶液の濃度は、特に限定する必要は無く、目的のエッチング速度などによって適宜選択されるが、蓚酸の濃度が低濃度の場合、エッチング速度が遅くなって生産性が低下する場合があるので、好ましくは0.001重量%以上、より好ましくは0.01重量%以上、更に好ましくは0.1重量%以上、最も好ましくは1重量%以上である。上限に関しては特に限定されず、本発明のエッチング液組成物が、上述した溶媒に溶解していればよい。
【0031】
本発明の蓚酸ならびのその中和物を用いて作製されるエッチング液のpHは、特に限定されないが、フォトレジストは、一般にアルカリ性側では剥離しやすいものが多いため、好ましくは、pHが9以下であり、より好ましくは7以下である。更に、目的のエッチング速度にもよるが、pH6以下は、エッチング速度が速くなるので好ましく、pH5以下は、エッチング速度が更に速くなるので、生産性の観点でより好ましい。
【0032】
また、下限に関しては、酸化亜鉛系材料とともに金属材料を用いる場合、その種類にもよるが金属材料に腐食が発生する場合があるので、pHは2以上が好ましく、より好ましくは3以上である。このようなpHは、蓚酸の中和度と中和に用いられるアルカリ性イオンの種類並びにエッチング液の濃度によって決定され、所望のエッチング速度などによって濃度や中和度を組み合わせて制御すればよい。
【0033】
また、本発明のエッチング液には蓚酸やその部分中和物又はその完全中和物やその溶媒の他に、エッチング残渣を低減することなどを目的として各種界面活性剤類を混合したり、酸化亜鉛系材料のエッチング時に発生する酸素欠損を抑制することなどを目的として、過酸化水素に代表される酸化剤などを混合することができる。
【0034】
本発明において、蓚酸を部分中和又は完全中和して用いる場合は、エッチング液中におけるエッチング液組成物の中和度は、次のようにして求める。
【0035】
エッチング液に混合した成分が明確に分かっている場合は、その成分における、蓚酸の量とアルカリ性イオンを生成する金属塩や有機、無機のアンモニウム塩(アルカリ性イオン源)の量と価数を用いて算出する。エッチング液に混合した成分の中に、組成が不明な成分が含まれる場合などには、まず、エッチング液を乾燥固化し、固形分を各種有機、無機の分析法を用いて、蓚酸の量と含まれるアルカリ性イオンの生成源となる金属やアンモニウムの量を定量し、その量と価数によって算出する。更に、成分の定量が困難な場合は、含まれるアルカリ性イオン源を定性的に分析で求めた上、その塩を用いて蓚酸の滴定曲線を描き、エッチング液のpHと照らし合わせることによっても中和度を算出することができる。
【0036】
次に、第2の工程について説明する。
本発明の第2の工程は、蓚酸を含有する溶液で酸化亜鉛系材料をエッチングした第1の工程において発生したエッチング残渣を、アルカリ性溶液を用いて除去する工程である。
【0037】
本発明のアルカリ性溶液に含まれるアルカリ性化合物は、水やメタノール、エタノールなどの有機溶媒やそれらの混合物からなる溶媒に溶解した状態でエッチング残渣を溶解できれば特に限定は無いが、水酸化アンモニウム、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド、テトラエチルアンモニウムハイドロオキサイドといった有機、無機のアンモニウムイオンを発生するアルカリ性物質、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムといったアルカリ金属水酸化物類が例示できる。
【0038】
これらのなかで、上述した蓚酸の中和物を作製するために使用するアルカリ性イオンのところで説明したのと同様に、有機、無機の四級アンモニウム塩は、エッチング液の洗浄除去が十分でなかった場合などに、通常電子部品を作製する際に使用される、酸素アッシングに代表される有機物を酸化除去する工程で除去できるので好ましい。
【0039】
また、酸化亜鉛系材料は、アルカリ性イオンの種類によって、材料内に取り込みやすい物質と取り込みにくい物質があるため、イオンの種類を目的によって使い分けることもできる。酸化亜鉛系材料内にエッチング液組成物由来の物質を取り込みたくない場合は、上述した有機、無機の四級アンモニウムイオンに加えて、ナトリウムイオンやカリウムイオンを発生する化合物が好ましく用いられる。
【0040】
一方、エッチング段差の側面を高抵抗化するなどの目的で、積極的にイオンを取り込みたい場合には、リチウムイオンを発生する化合物が好ましく用いられる。
【0041】
更には、凝集物の溶解を促進する目的として各種界面活性剤類を混合したり、酸素欠損を補うことを目的として次亜塩素酸ソーダに代表される酸化剤を混合したりすることも可能である。
【0042】
本発明において、第1の工程と第2の工程は続けて行っても良いし、第1の工程の後に、例えば、水洗や乾燥といった工程を行った後に第2の工程を行っても良い。また、当然のことながら第2の工程の後にも同様に水洗や乾燥といった工程を行うことが出来る。
【0043】
次に、本発明の酸化亜鉛系材料について説明する。
本発明において、酸化亜鉛系材料とは、亜鉛の酸化体を主成分とする材料であり、体積として50%以上占めるものを言う。酸化亜鉛系材料の形態には特に制限は無く、膜状、結晶状、針状などどのような形態であってもかまわない。なお、例えば、Si基板上に酸化亜鉛系材料の薄膜を形成した場合のように、基板部と薄膜部の総体積では酸化亜鉛系材料で無い基板が多い場合であっても、エッチングして形状を変化させることを目的とする部分が酸化亜鉛系材料の薄膜部分である場合は、亜鉛の酸化体を主成分とする本発明の酸化亜鉛系材料に含まれる。
【0044】
したがって、本発明の酸化亜鉛系材料は、混晶化された材料やドーピングされた材料を含み、構成元素のうちの金属元素の中で、亜鉛が50%以上であるものを言う。混晶化された酸化亜鉛系材料の例としては、ZnMgO、ZnCdO、ZnCuO、ZnOS、ZnOSeなどが例示できる。また、ドーピング元素としては、Al、Gaなどのn型ドーパント、N、As、Sbなどのp型ドーパントが例示できる。なお、このような金属元素の割合は、例えば、蛍光X線分光分析法(XRF)や、二次イオン質量分析法(SIMS)などの各種定量分析法によって判定される。
【0045】
とりわけ、酸化亜鉛系材料は、c軸配向しやすい材料であり、通常の有機・無機の酸でエッチングすると、エッチングされて露出したc軸に直行するc面は結晶成長過程の影響を受けて粗面化するが、本発明のエッチング方法を用いれば、平坦なエッチング面が得られるため好ましい。この平坦化の効果は、とりわけ、酸化亜鉛系材料の(000−1)面(−c面)をエッチングする際に顕著である。このような結晶方位は、X線回折(XRD)法に代表される分析法によって判断される。
【0046】
次に、本発明のエッチング方法によって加工される酸化亜鉛系材料の用途について説明する。
本発明のエッチング方法によって加工される酸化亜鉛系材料の用途は特に限定されず、各種成膜装置を用いた成膜に供される基板、パワーデバイスやトランジスタといった電子デバイス、LEDやレーザーといった光デバイス、ガラスやフィルムを基材とする透明導電性基板用の透明導電性材料や各種光デバイスに併設される透明導電性材料などが例示できる。
【0047】
これらの中で、本発明のエッチング方法は、エッチング残渣が無く平坦に酸化亜鉛系材料をエッチングできる、かつ、エッチング段差が大きなエッチングにも適しているので、電子デバイスや光デバイスに供される酸化亜鉛系材料のエッチングに好適に用いられる。また、本発明のエッチング方法は、平坦なエッチングができるため、エッチングされた面が光散乱しないため、高い透明性が要求される透明導電性材料に供される酸化亜鉛系材料のエッチングに好適に用いられる。
【0048】
以下に、本発明を各実施例と各比較例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらの範囲に限定されるものではない。
まず、本発明で用いられる測定法は、以下のとおりである。
【0049】
(1)表面粗さ
(株)キーエンス製レーザー顕微鏡VK−9500を用い50倍の倍率でエッチングされた表面を観察して写真を撮り、同社製の解析ソフトを用いて、100μm角の領域で表面粗さを測定した。
【0050】
(2)エッチング残渣のサイズ
米国KLA−Tencor社製段差・表面あらさ・微細形状測定装置アルファステップIQを用いてエッチングされた表面を測定し、突起状に存在するエッチング残渣の高さを測定した。
【0051】
(3)エッチング深さ及びエッチング速度
通常のリソグラフィー技術を用いて、パターンを形成したサンプルをエッチングした後、エッチングの段差部分の高さを米国KLA−Tencor社製段差・表面あらさ・微細形状測定装置アルファステップIQを用いて測定してエッチング深さを求め、エッチングに要した時間で割ることによってエッチング速度を求めた。
【0052】
(4)エッチピットの観察
(株)キーエンス製レーザー顕微鏡VK−9500を用い50倍の倍率でエッチングされた表面を観察してエッチピットの有無を判定した。エッチピットのサイズは、観察増の写真を撮り、同社製の解析ソフトを用いて、掘れの幅と深さを測定した。
【0053】
(5)pHの測定
EUTECH INSTRUMENTS製pHメーターpH5000を用い、同社製pH4.01,7.00,10.01の校正液で校正し、常温で測定した。
【0054】
[実施例1]
1Nの蓚酸水溶液をエッチング液とした。エッチング液のpHは0.95であった。このエッチング液を用いて、予めリソグラフィーによって−c面を部分的にマスクした酸化亜鉛単結晶基板を常温で30秒間エッチングした。
【0055】
次いで、1Nの水酸化カリウム水溶液に常温で10分間浸漬し、水洗した。エッチング深さは、0.52μmであり、エッチングされた面の表面粗さRrmsは、0.03μmであり、エッチング残渣のサイズは30nmであった。条件並びに結果を表1に纏めて示した。
【0056】
[実施例2]
1Nの蓚酸水溶液50容量部と1Nの水酸化カリウム水溶液37.5容量部を混合して中和度75%の蓚酸の部分中和物を含有するエッチング液を調製した。得られたエッチング液のpHは3.9であった。このエッチング液を用いて、予めリソグラフィーによって−c面を部分的にマスクした酸化亜鉛単結晶基板を常温で2分間エッチングした。
【0057】
次いで、1Nの水酸化カリウム水溶液に常温で10分間浸漬し、水洗した。エッチング深さは、0.52μmであり、エッチングされた面の表面粗さRrmsは、0.03μmであり、エッチング残渣のサイズは20nmであった。条件並びに結果を表1に纏めて示した。
【0058】
[実施例3]
1Nの蓚酸水溶液60容量部と1Nの水酸化カリウム水溶液36容量部を混合して中和度60%の蓚酸の部分中和物を含有するエッチング液を調製した。得られたエッチング液のpHは3.2であった。このエッチング液を用いて、予めリソグラフィーによって−c面を部分的にマスクした酸化亜鉛単結晶基板を常温で1分間エッチングした。
【0059】
次いで、1Nの水酸化カリウム水溶液に常温で10分間浸漬し、水洗した。エッチング深さは、0.52μmであり、エッチングされた面の表面粗さRrmsは、0.03μmであり、エッチング残渣は観測されなかった。条件並びに結果を表1に纏めて示した。
【0060】
[実施例4]
1Nの蓚酸水溶液50容量部と1Nの水酸化カリウム水溶液47.5容量部を混合して中和度95%の蓚酸の部分中和物を含有するエッチング液を調製した。得られたエッチング液のpHは5.0であった。このエッチング液を用いて、予めリソグラフィーによって−c面を部分的にマスクした酸化亜鉛単結晶基板を常温で2分40秒間エッチングした。
【0061】
次いで、1Nの水酸化カリウム水溶液に常温で10分間浸漬し、水洗した。エッチング深さは、0.41μmであり、エッチングされた面の表面粗さRrmsは、0.03μmであり、エッチング残渣は観測されなかった。条件並びに結果を表1に纏めて示した。
【0062】
[実施例5]
蓚酸水素カリウム3.2重量部を水と全体が100容量部になるように混合し、中和度50%の蓚酸の部分中和物を含有するエッチング液を調製した。得られたエッチング液のpHは2.5であった。このエッチング液を用いて、予めリソグラフィーによって−c面を部分的にマスクした酸化亜鉛単結晶基板を常温で1分間エッチングした。
【0063】
次いで、1Nの水酸化カリウム水溶液に常温で10分間浸漬し、水洗した。エッチング深さは、0.48μmであり、エッチングされた面の表面粗さRrmsは、0.03μmであり、エッチング残渣のサイズは30nmであった。条件並びに結果を表1に纏めて示した。
【0064】
[実施例6]
蓚酸アンモニウム・一水和物3.55重量部を水と全体が200容量部になるように混合し、蓚酸の完全中和物を含有するエッチング液を調製した。得られたエッチング液のpHは6.5であった。このエッチング液を用いて、予めリソグラフィーによって−c面を部分的にマスクした酸化亜鉛単結晶基板を常温で20分間エッチングした。
【0065】
次いで、1Nの水酸化カリウム水溶液に常温で10分間浸漬し、水洗した。エッチング深さは、0.49μmであり、エッチングされた面の表面粗さRrmsは、0.04μmであり、エッチング残渣は観測されなかった。条件並びに結果を表1に纏めて示した。
【0066】
[比較例1]
1Nの水酸化カリウム水溶液に浸漬しなかった以外は実施例1と同様にしてエッチングされた酸化亜鉛基板を得た。エッチング深さは、0.52μmであり、エッチングされた面の表面粗さRrmsは、0.67μmであり、エッチング残渣のサイズは4.4μmであった。条件並びに結果を表1に纏めて示した。
【0067】
[比較例2]
1Nの水酸化カリウム水溶液に浸漬しなかった以外は実施例2と同様にしてエッチングされた酸化亜鉛基板を得た。エッチング深さは、0.52μmであり、エッチングされた面の表面粗さRrmsは、0.12μmであり、エッチング残渣のサイズは0.35μmであった。条件並びに結果を表1に纏めて示した。
【0068】
[比較例3]
1Nの水酸化カリウム水溶液に浸漬しなかった以外は実施例3と同様にしてエッチングされた酸化亜鉛基板を得た。エッチング深さは、0.52μmであり、エッチングされた面の表面粗さRrmsは、0.10μmであり、エッチング残渣のサイズは0.25μmであった。条件並びに結果を表1に纏めて示した。
【0069】
[比較例4]
1Nの水酸化カリウム水溶液に浸漬しなかった以外は実施例4と同様にしてエッチングされた酸化亜鉛基板を得た。エッチング深さは、0.41μmであり、エッチングされた面の表面粗さRrmsは、0.07μmであり、エッチング残渣のサイズは0.20μmであった。条件並びに結果を表1に纏めて示した。
【0070】
[比較例5]
1Nの水酸化カリウム水溶液に浸漬しなかった以外は実施例5と同様にしてエッチングされた酸化亜鉛基板を得た。エッチング深さは、0.48μmであり、エッチングされた面の表面粗さRrmsは、0.15μmであり、エッチング残渣のサイズは0.40μmであった。条件並びに結果を表1に纏めて示した。
【0071】
[比較例6]
1Nの水酸化カリウム水溶液に浸漬しなかった以外は実施例6と同様にしてエッチングされた酸化亜鉛基板を得た。エッチング深さは、0.49μmであり、エッチングされた面の表面粗さRrmsは、0.09μmであり、エッチング残渣のサイズは0.05μmであった。条件並びに結果を表1に纏めて示した。
【0072】
[比較例7]
1Nの硝酸水溶液をエッチング液とした。エッチング液のpHは0.3であった。このエッチング液を用いて、予めリソグラフィーによって−c面を部分的にマスクした酸化亜鉛単結晶基板を常温で16秒間エッチングした。エッチング深さは、0.56μmであり、エッチングされた面の表面粗さRrmsは、0.41μmであり、エッチング残渣は無かった。条件並びに結果を表1に纏めて示した。
【0073】
[比較例8]
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム・二水和物7.44重量部を水と全体が100容量部になるように混合し、次いで、エチレンジアミンを5容量部混合してエッチング液を調製した。得られたエッチング液のpHは10.4であった。このエッチング液を用いて、予めリソグラフィーによって−c面を部分的にマスクした酸化亜鉛単結晶基板を常温で10分間エッチングした。
【0074】
エッチング深さは、0.35μmであり、エッチングされた面の表面粗さRrmsは、0.13μmであり、エッチング残渣のサイズは0.25μmであった。条件並びに結果を表1に纏めて示した。
【0075】
[比較例9]
塩化第2鉄・六水和物0.22重量部を水と全体が100容量部になるように混合してエッチング液を調製した。得られたエッチング液のpHは2.1であった。このエッチング液を用いて、予めリソグラフィーによって−c面を部分的にマスクした酸化亜鉛単結晶基板を常温で2分間エッチングした。
【0076】
エッチング深さは、0.48μmであり、エッチングされた面の表面粗さRrmsは、0.15μmであり、エッチング残渣のサイズは0.4μmであった。条件並びに結果を表1に纏めて示した。
【0077】
[比較例10]
クエン酸・一水和物10.5重量部を水と全体が100重量部になるように混合してエッチング液を調製した。得られたエッチング液のpHは1.7であった。このエッチング液を用いて、予めリソグラフィーによって−c面を部分的にマスクした酸化亜鉛単結晶基板を常温で4分間エッチングした。
【0078】
エッチング深さは、0.41μmであり、エッチングされた面の表面粗さRrmsは、0.19μmであり、エッチング残渣は無かった。条件並びに結果を表1に纏めて示した。
【0079】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の酸化亜鉛系材料のエッチング方法は、酸化亜鉛系材料、とりわけ(000−1)の結晶面を有する酸化亜鉛系材料のエッチングに好適であり、ガリウムナイトライド系発光素子に変わる高効率発光素子の構成材料などに用いられる酸化亜鉛系材料のエッチングに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の酸化亜鉛系材料のエッチング方法の一実施形態を説明するための工程図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓚酸を含有する溶液で酸化亜鉛系材料をエッチングする第1の工程と、アルカリ性溶液を用いて、前記第1の工程におけるエッチング残渣を除去する第2の工程とを有することを特徴とする酸化亜鉛系材料のエッチング方法。
【請求項2】
前記蓚酸を含有する溶液が、蓚酸の部分中和物又は完全中和物を含有する溶液であることを特徴とする請求項1に記載の酸化亜鉛系材料のエッチング方法。
【請求項3】
前記酸化亜鉛系材料が、(000−1)の結晶面を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の酸化亜鉛系材料のエッチング方法。
【請求項4】
前記酸化亜鉛系材料を電子デバイス又は光デバイスに用いることを特徴とする請求項1,2又は3に記載の酸化亜鉛系材料のエッチング方法。
【請求項5】
前記酸化亜鉛系材料を透明導電性材料として用いることを特徴とする請求項1、2又は3に記載の酸化亜鉛系材料のエッチング方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−67824(P2010−67824A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−233301(P2008−233301)
【出願日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【出願人】(303046277)旭化成エレクトロニクス株式会社 (840)
【Fターム(参考)】