説明

酸化反応又はアンモ酸化反応用触媒

【課題】流動床触媒の要件を備え、不飽和ニトリル又は不飽和カルボン酸の選択率が良好な触媒を提供すること。
【解決手段】本発明によれば、Mo1aSbbNbcnで示される成分組成を含み、特定のX線回折図を示す構造を有し、a、b、cが0.36≦a≦0.46、且つ0.32≦b≦0.40、且つ0.10≦c≦0.22で示される値であり、30〜55重量%のシリカに担持されているシリカ担持酸化物触媒が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロパン又はイソブタンの気相接触アンモ酸化反応によって不飽和ニトリル製造する際に、あるいはプロパン又はイソブタンの気相接触酸化反応によって不飽和カルボン酸を製造する際に用いられる酸化物触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、プロピレン又はイソブチレンに代わって、プロパン又はイソブタンを原料とし、気相接触アンモ酸化反応や気相接触酸化反応によって不飽和ニトリルや不飽和カルボン酸を製造する技術が着目されており、多数の触媒が提案されている。それらの中でも特に注目されている触媒は、モリブデンを主成分とするMo−V−Sb−Nbから構成される酸化物触媒であり、例えば、特許文献1に開示されて以降、多数の特許文献が開示されている。これらの文献のほとんどは触媒の製法や、触媒への第5成分を添加する技術に関するものである。触媒の組成に関するものは特許文献2〜3にあるにすぎず、本触媒系の組成開発の困難さを示している。
【0003】
ところで、プロパン又はイソブタンの気相接触アンモ酸化反応や気相接触酸化反応は発熱反応である。これらの反応の工業的実施にあたっては、反応系内の蓄熱を抑制して反応温度を均一に維持することが生産上、必要である。これらの点を考慮すると、反応方式として有利なものは除熱効率の高い流動床反応である。ところが、流動床反応では、触媒流動に伴い、触媒間の衝突や触媒と反応器壁との衝突によって、触媒が磨耗し、この結果、触媒の流動性が低下するという問題がある。したがって、流動床反応用触媒には磨耗に耐えうる充分な強度が求められる。そこで、触媒強度を高めるため、シリカ、アルミナ、チタニア、シリカ−アルミナ、ジルコニア、珪藻土などが触媒担体として用いられる。
【0004】
特許文献4には「一般的に触媒成分に不活性向き粒子な部分を混合すれば、触媒としての機械的強度は向上しても、一方では触媒としての活性低下が避けられない」とあるように、流動床反応に必要な触媒強度を賦与するために、触媒を担体に担持すると、性能の低下が避けられないという問題があった。理由は定かではないが、担体が加わった分、反応に関わる触媒成分は減少することの影響や、触媒とシリカの構成元素との間での複合酸化物形成によって、本質的に触媒活性を担う相の組成や構造が変化することなどが原因と考えられる。
【0005】
一方、性能の低下を嫌い、担体量を少なくした担持触媒では、触媒の流動性が悪く、また流動床反応に耐え得るだけの触媒強度がないために、流動床反応用触媒として不適であるという問題があった。
【0006】
また、モリブデンを主成分とする触媒は、気相接触アンモ酸化反応や気相接触酸化反応によって生じた水によって、昇華性のモリブデン酸MoO2(OH)2を生じ、Moが飛散するという現象が知られている(例えば、非特許文献1参照)。そのため、特許文献3において、特許文献1、2等よりモリブデン含有量の少ない触媒が検討されているものの、不飽和ニトリルや不飽和カルボン酸の収率や選択率は、未だに不十分である。
【0007】
こうした理由から、プロパン又はイソブタンの気相接触アンモ酸化反応や気相接触酸化反応に用いられる流動床触媒の要件を備える触媒でシリカ等の資源量の豊富な構成元素を多量に含むことで触媒コストが安価であり、また、モリブデン含有量が従来に比べて比較的少ないながらも、目的生成物である不飽和ニトリル、不飽和カルボン酸の収率や選択率などの反応成績が良好な触媒の開発が切望されている。
【特許文献1】特開平9−157241号公報
【特許文献2】特開2002−239382号公報
【特許文献3】特開2005−211844号公報
【特許文献4】特開平7−144132号公報
【非特許文献1】ビュッテン(J.Buiten)、Oxidation of propylene by means of SnO2−MoO3 catalysts、「ジャーナル オブ キャタリシス(Journal of catalysis)」(オランダ)、エルセビア(Elsevier)、1968年、188−199頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、プロパン又はイソブタンの気相接触アンモ酸化反応によって不飽和ニトリルを、あるいはプロパン又はイソブタンの気相接触酸化反応によって不飽和カルボン酸を製造するにあたり、流動床触媒の要件を備える触媒で、また、モリブデン含有量が従来に比べて比較的少ないながらも、不飽和ニトリル又は不飽和カルボン酸の収率や選択率が良好な触媒を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、意外にもシリカ無担持では反応成績が不十分であっても、高シリカのシリカ担持触媒においては優れた反応成績を見出すに至り、これまで知られていない新規組成から構成される触媒で、流動床触媒の要件を備える触媒で、プロパン又はイソブタンの気相接触アンモ酸化反応によって不飽和ニトリルを、あるいはプロパン又はイソブタンの気相接触酸化反応によって不飽和カルボン酸を高選択率で製造する触媒を見出し、本発明をなすに至った。
すなわち、本発明は、
[1] プロパン又はイソブタンの気相接触アンモ酸化反応による不飽和ニトリルの製造に、あるいはプロパン又はイソブタンの気相接触酸化反応による不飽和カルボン酸の製造に用いられるシリカ担持酸化物触媒であって、
該酸化物触媒は一般式(I)で示される成分組成を含み、
Mo1aSbbNbcn(I)
(式中、a、b、c及びnはMo1原子あたりの原子比を表し、nは、構成金属の酸化状態によって決まる原子比である。)
CuKα線をX線源として得られるX線回折図において、回折角(2θ)が7.8±0.3°、8.9±0.3°、22.1±0.3°、27.1±0.3°、35.2±0.3°および45.2±0.3°の位置に回折ピークを持つ酸化物触媒において、a、b、cが0.36≦a≦0.46、且つ0.32≦b≦0.40、且つ0.10≦c≦0.22で示される値であり、
該酸化物触媒は30〜55重量%のシリカに担持されることを特徴とするシリカ担持酸化物触媒、
[2] 該シリカ担持酸化物触媒が、シリカ担持酸化物触媒の成分を有する触媒原料液から得られる乾燥粉体を、実質的に酸素を含まないガス雰囲気下、500〜700℃で焼成されて製造されることを特徴とする前項[1]に記載のシリカ担持酸化物触媒、
[3] 該シリカ担持酸化物触媒が、空気中200℃〜300℃で前焼成されることを特徴とする前項[2]に記載のシリカ担持酸化物触媒、
[4] アルカンの気相接触酸化反応又は気相接触アンモ酸化反応によって、不飽和カルボン酸又は不飽和ニトリルを製造する方法であって、
前記アルカンを、前項[1]〜[3]のうち何れか一項に記載のシリカ担持酸化物触媒と接触させる工程を含むことを特徴とする不飽和カルボン酸または不飽和ニトリルの製造方法、
を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、プロパン又はイソブタンの気相接触アンモ酸化反応によって不飽和ニトリルを、あるいはプロパン又はイソブタンの気相接触酸化反応によって不飽和カルボン酸を製造するにあたり、流動床触媒の要件を備え、また、モリブデン含有量が従来に比べても比較的少ないながらも、不飽和ニトリル又は不飽和カルボン酸の収率や選択率が良好な触媒を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下の実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな形態で実施することができる。
【0012】
本発明に係る酸化物触媒は、プロパン又はイソブタンの気相接触アンモ酸化反応による不飽和ニトリルの製造、あるいはプロパン又はイソブタンの気相接触酸化反応による不飽和カルボン酸の製造に用いられる酸化物触媒であって、該酸化物触媒は一般式(I)で示される成分組成を含み、
Mo1aSbbNbcn(I)
(式中、a、b、c及びnは、Mo1原子あたりの原子比を表し、nは、構成金属の酸化状態によって決まる原子比である。)
さらに、CuKα線をX線源として得られるX線回折図において、回折角(2θ)が7.8±0.3°、8.9±0.3°、22.1±0.3°、27.1±0.3°、35.2±0.3°および45.2±0.3°の位置に回折ピークを有し、a、b、cが0.36≦a≦0.46、且つ0.32≦b≦0.40、且つ0.10≦c≦0.22で示される値であり、該酸化物触媒は30〜55重量%のシリカに担持されている。ここで、式(I)における、Mo1原子あたりの原子比a、b及びcは、の値は、構成元素の仕込み組成比を示す。a、b及びcの値は、好ましくは0.38≦a≦0.43、且つ0.32≦b≦0.36、0.17≦c≦0.22で囲まれた領域、より好ましくは0.44≦a≦0.48、且つ0.38≦b≦0.41、0.08≦c≦0.12で囲まれた領域、さらに好ましくは0.36≦a≦0.40、且つ0.38≦b≦0.40、0.08≦c≦0.12で囲まれた領域である。
【0013】
本発明に係る酸化物触媒は、30〜60重量%のシリカに担持され、式(I)で示される成分組成の酸化物触媒は、モリブデンとバナジウムの比に応じて、アンチモンとニオブの組成比のごく限られた範囲に優れた触媒があり、従来こうした触媒は知られていない。シリカの量は35〜55重量%が好ましく、37〜43重量%がより好ましい。
なお、シリカの重量%は、(I)式の酸化物の重量をW1、シリカの重量をW2として、下記式で定義される。W1は、仕込み組成と仕込み金属成分の酸化数に基づいて算出された重量である。W2は、仕込み組成に基づいて算出された重量である。
シリカの重量%=100×W2/(W1+W2)
シリカの重量%が30重量%未満の場合、60重量%より大きいとアクリロニトリルの選択率またはアクリル酸の選択率が低くなる。
【0014】
本発明に係る酸化物触媒のX線回折は以下の条件下で行う。
X線源 :CuKα1+CuKα2
検出器 :シンチレーションカウンター
分光結晶 :グラファイト
管電圧 :40kV
管電流 :190mA
発散スリット :1°
散乱スリット :1°
受光スリット :0.3mm
スキャン速度 :1°/分
サンプリング幅:0.02°
スキャン法 :2θ/θ法
本発明に係る酸化物触媒の回折角(2θ)は、7.8±0.2°、8.9±0.2°、22.1±0.2°、27.1±0.2°、35.2±0.2°及び45.2±0.2°の位置に回折ピークを持つことが好ましく、7.8±0.1°、8.9±0.1°、22.1±0.1°、27.1±0.1°、35.2±0.1°及び45.2±0.1°の位置に回折ピークを持つことがより好ましい。回折角(2θ)が6.7±0.3°の位置に回折ピークを持つことがさらに好ましく、6.7±0.1°の位置に回折ピークを持つことが特に好ましい。
【0015】
また、本発明に係る酸化物触媒では、回折角(2θ)の22.1±0.3°、28.1±0.3°、36.1±0.3°及び45.2±0.3°の位置にピークを持つ酸化物が存在することが好ましく、22.1±0.1°、28.1±0.1°、36.1±0.1°及び45.2±0.1°の位置にピークをもつことがより好ましい。本発明に係る酸化物触媒は、触媒としての使用に支障がない限り、X線回折図において、上記以外の強いピークを示すものであってもよい。
【0016】
本発明の式(I)の組成に加えて、W、Cr、Ti、Al、Ta、Zr、Hf、Mn、Re、Fe、Ru、Co、Rh、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Zn、B、In、Ge、Sn、P、Pb、Bi、Y、Ga、希土類元素及びアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種の元素を含んでもよい。好ましくは、ZがAl、Ge、Sn、Zr、W、Ti、Cr、Ti、Ta、Re、B、In、P、Bi、Y、希土類元素から選ばれる少なくとも1種の元素である。その添加量は、Mo1原子に対して0≦d≦1、好ましくは0≦d≦0.5、より好ましくは0≦d≦0.1である。
【0017】
本発明に係る酸化物触媒を製造するための成分金属の原料は下記の化合物を用いることができる。
モリブデン原料としては、ヘプタモリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸化物、モリブデン酸、モリブデンのオキシ塩化物、モリブデンの塩化物、モリブデンのアルコキシド等を用いることができ、好ましくはヘプタモリブデン酸アンモニウムである。
【0018】
バナジウム原料としては、メタバナジン酸アンモニウム、酸化バナジウム(V)、バナジウムのオキシ塩化物、バナジウムのアルコキシド等を用いることができ、好ましくはメタバナジン酸アンモニウム、酸化バナジウム(V)である。
【0019】
アンチモン原料としては、酸化アンチモン(III)、酸化アンチモン(IV)、酸化アンチモン(V)、メタアンチモン酸(III)、アンチモン酸(V)、アンチモン酸アンモニウム(V)、塩化アンチモン(III)、塩化酸化アンチモン(III)、硝酸酸化アンチモン(III)、アンチモンのアルコキシド、アンチモンの酒石酸塩等の有機酸塩、金属アンチモン等を用いることができ、好ましくは酸化アンチモン(III)である。
【0020】
ニオブ原料としては、ニオブ酸、NbCl5、NbCl3、Nb(OC255、ニオブ酸をジカルボン酸化合物溶液に溶解させて得られるニオブのジカルボン酸化合物水溶液等を例示することができる。好ましくはニオブ酸をジカルボン酸化合物水溶液に溶解させて得られるニオブのジカルボン酸化合物の水溶液である。ジカルボン酸化合物としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸が好ましく、より好ましいのはシュウ酸である。ニオブ−シュウ酸水溶液として用いることが好ましい。ニオブ−シュウ酸水溶液に過酸化水素水を添加した、ニオブ−シュウ酸水溶液に過酸化水素水溶液として用いることがさらに好ましい。シュウ酸/ニオブのモル比は1〜6が好ましく、より好ましくは2〜4である。過酸化水素/ニオブのモル比は0.5〜10が好ましく、1〜6がより好ましい。
【0021】
任意成分の原料としては、シュウ酸塩、水酸化物、酸化物、硝酸塩、酢酸塩、アンモニウム塩、炭酸塩、アルコキシド等を用いることができる。
【0022】
触媒担体であるシリカの原料としては、シリカゾル、粉体シリカ、シリカ成形体、シリカゲルなどを用いることができる。触媒調製工程の後に担体成分を生成する原料を用いることもできる。シリカの原料としてはアンモニウムイオンで安定化したシリカゾル、粉体シリカが好ましい。シリカゾル、粉体シリカは単独で用いても、シリカゾルと粉体シリカを混合して用いてもよいが、シリカゾルと粉体シリカを混合して用いることが好ましい。
【0023】
本発明に係る酸化物触媒は、下記の原料調合、乾燥および焼成の3つの工程を経て製造すること好ましい。
<原料調合工程>
ヘプタモリブデン酸アンモニウム、メタバナジン酸アンモニウム、酸化アンチモン(III)を水に懸濁させ、好ましくは70〜100℃、1〜5時間攪拌しながら反応させる。得られたモリブデン、バナジウム、アンチモンを含有する混合液を空気酸化、又は過酸化水素等によって液相酸化し混合液(A)を得る。液相酸化に過酸化水素水を用いる場合は、過酸化水素/Sbのモル比は、好ましくは0.5〜2である。目視でオレンジ色〜茶色になるまで酸化するのが好ましい。一方、ニオブ酸をシュウ酸水溶液に溶解してニオブ原料液(B)を調製する。ニオブ原料液に過酸化水素水を添加しておくことが好ましい。混合液(A)にニオブ原料液(B)を添加する。
シリカは、上記調合順序のいずれかのステップにおいてシリカゾルを添加して触媒原料液を得ることができるが、混合液(A)に添加することが好ましい。シリカゾルに加えてアエロジルのような微粒子粉体シリカをさらに添加することが好ましい。
W、Cr、Ti、Al、Ta、Zr、Hf、Mn、Re、Fe、Ru、Co、Rh、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Zn、B、In、Ge、Sn、P、Pb、Bi、Y、Ga、希土類元素及びアルカリ土類金属を含む触媒を製造する場合には、上記調合順序のいずれかのステップにおいてこれらを含む原料を添加して触媒原料液を得ることができる。
【0024】
<乾燥工程>
原料調合工程で得られた酸化物原料液を噴霧乾燥法又は蒸発乾固法によって乾燥させ、乾燥粉体を得ることができる。噴霧乾燥法における噴霧化は、遠心方式、二流体ノズル方式または高圧ノズル方式を採用することができる。乾燥熱源は、スチーム、電気ヒーターなどによって加熱された空気を用いることができる。このとき熱風の乾燥機入口温度は150〜300℃が好ましい。噴霧乾燥は簡便には100℃〜300℃に加熱された鉄板上へ酸化物原料液を噴霧することによって行うこともできる。
【0025】
<焼成工程>
乾燥工程で得られた乾燥粉体を焼成することによって酸化物を得ることができる。焼成は、回転炉、トンネル炉、管状炉、流動焼成炉等を用い、実質的に酸素を含まない窒素等の不活性ガス雰囲気下、好ましくは不活性ガスを流通させながら、500〜900℃、好ましくは590〜650℃、より好ましくは610〜640℃で実施することができる。焼成時間は0.5〜5時間である。好ましくは1〜3時間である。不活性ガス中の酸素濃度は、ガスクロマトグラフィー又は微量酸素分析計で測定して1000ppm以下、好ましくは、100ppm以下である。この焼成は反復することができる。この焼成の前に大気雰囲気下又は大気流通下で200℃〜420℃、好ましくは250℃〜350℃で10分〜5時間前焼成することができる。また、焼成の後に大気雰囲気下で200℃〜400℃、5分〜5時間、後焼成することもできる。
【0026】
このようにして製造された酸化物触媒は、プロパン又はイソブタンを気相接触アンモ酸化させて不飽和ニトリルを製造する際の触媒として使用できる。また、プロパン又はイソブタンを気相接触酸化させて不飽和カルボン酸を製造する際の触媒としても使用できる。好ましくは不飽和ニトリルの製造用の触媒として使用することである。不飽和ニトリルの製造に用いる、プロパン又はイソブタンとアンモニアの供給原料は必ずしも高純度である必要はなく、工業グレードのガスを使用することができる。反応系に供給する酸素源として空気、酸素を富化した空気、又は純酸素を用いることができる。さらに、水蒸気、ヘリウム、アルゴン、炭酸ガス、窒素などを供給してもよい。
【0027】
気相接触アンモ酸化の場合は、反応系に供給されるアンモニアのプロパン又はイソブタンに対するモル比は0.1〜1.5、好ましくは0.2〜1.2である。反応系に供給される分子状酸素のプロパン又はイソブタンに対するモル比は、0.2〜6、好ましくは0.4〜4である。
【0028】
気相接触酸化の場合は、反応系に供給される分子状酸素のプロパン又はイソブタンに対するモル比は、0.1〜10、好ましくは0.1〜5である。反応系に水蒸気の添加が好ましいが、反応系に供給される水蒸気のプロパン又はイソブタンに対するモル比は0.1〜70、好ましくは0.5〜40である。
【0029】
反応圧力は、絶対圧で0.01〜1MPa、好ましくは0.02〜0.3MPaである。反応温度は、300〜600℃、好ましくは350〜470℃である。接触時間は、0.1〜30(g・s/ml)、好ましくは0.5〜10(g・s/ml)である。接触時間は下記の式で定義される。
接触時間(g・sec/ml)=W/F×60×273/(273+T)×
((P+0.101)/0.101)
〔ただし、Wは酸化物触媒の重量(g)、Fは原料混合ガスの流量(ml/min)、Tは反応温度(℃)、Pは反応圧力(ゲージ圧)(MPa)を表わす。〕
【0030】
反応は、固定床、流動床、移動床など従来の方式を採用できるが、反応制御の容易さから流動床が好ましい。反応は単流方式でもリサイクル方式でもよい。
【0031】
本発明に係る酸化物触媒は、高転化率にもかかわらず高い選択率を示す。従来、高選択率になる場合は、転化率を低く抑えており、高い転化率で高い選択率が得られるということは、リサイクルによるプロセスの負荷が大きく減少することからエネルギー消費が抑制され、プロセスの小型化や簡素化される。リサイクル方式であっても、反応器内での転化率は60%以上が好ましい。
【実施例】
【0032】
以下に示す本発明の実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、これらは例示的なものであり、本発明は以下の実施例等に制限されるものではない。当業者は、以下に示す実施例に様々な変更を加えて本発明を実施することができ、かかる変更は本願特許請求の範囲に包含される。
【0033】
プロパン転化率、アクリロニトリル選択率及びアクリル酸選択率;実施例と比較例においては、プロパン転化率、アクリロニトリル選択率は、それぞれ次の定義に従う。
プロパン転化率(%)=(反応したプロパンのモル数)/(供給したプロパンのモル数)×100
アクリロニトリル選択率(%)=(生成したアクリロニトリルのモル数)/(反応したプロパンのモル数)×100
【0034】
<XRDの測定方法>
マックサイエンス(株)製MXP−18型を用いて、得られた酸化物のXRDを測定した。
シリカ担持酸化物触媒又は酸化物触媒の約0.5gをメノウ乳鉢にとり、メノウ乳棒を用いて2分間徒手的に粉砕した後に分級し、粒子径53μm以下の酸化物粉末を得た。得られた酸化物粉末を、XRD測定用の試料台の表面にある窪み(長さ20mm、幅16mmの長方形状、深さ0.2mm)に乗せ、平板状のステンレス製スパチュラを用いて押しつけて、表面を平らにして試料を調製した。X線回折は以下の条件で測定した。
【0035】
X線源 :CuKα1+CuKα2
検出器 :シンチレーションカウンター
分光結晶 :グラファイト
管電圧 :40kV
管電流 :190mA
発散スリット :1°
散乱スリット :1°
受光スリット :0.3mm
スキャン速度 :1°/分
サンプリング幅 :0.02°
スキャン法 :2θ/θ法
【0036】
[実施例1]
<Nb原料液(B)の調製>
水15kgにNb25含量が76重量%のニオブ酸2.23kgおよびシュウ酸二水和物〔H224・2H2O〕4.33kgを加え、攪拌下、60℃にて加熱して溶解させた後、30℃にて冷却し、5重量%過酸化水素水8.65kgを加えてニオブ原料液(B)を得た。Nbの濃度は0.422mol/kgであった。
【0037】
<触媒調製>
組成式が、Mo10.41Sb0.34Nb0.20n/SiO2(40wt%)で示されるシリカ担持酸化物触媒を次のようにして調製した。
水1000gにヘプタモリブデン酸アンモニウム〔(NH46Mo724・4H2O〕250g、メタバナジン酸アンモニウム〔NH4VO3〕67.9g、酸化アンチモン(III)(Sb23)70.7gを添加し、油浴を用いて100℃で2時間、大気下で還流して反応させ、この後、50℃に冷却し、続けてシリカ含有量30重量%のシリカゾルを809g添加した。30分攪拌した後、5重量%過酸化水素水327gを添加し、50℃で1時間撹拌することによって酸化処理を行い、混合液(A)を得た。この酸化処理によって液色は濃紺色から茶色へと変化した。
ニオブ原料液(B)671gを混合液(A)に添加し、空気雰囲気下、50℃で30分間撹拌して触媒原料液を得た。得られた触媒原料液を、遠心式噴霧乾燥器を用い、入口温度230℃と出口温度120℃の条件で乾燥して微小球状の乾燥粉体を得た。得られた乾燥粉体100gを250℃空気中で1時間前焼成した後、石英容器に充填し、炉に入れ、容器を回転させながら600Ncc/min.の窒素ガス流通下、620℃で2時間焼成して酸化物触媒を得た。用いた窒素ガスの酸素濃度は微量酸素分析計(306WA型、米国テレダインアナリティカルインスツールメント社製)を用いて測定した結果、1ppmであった。
【0038】
<XRDの測定結果>
7.8°、8.9°、22.1°、27.1°、35.2°および45.2°の位置に回折ピークを持っていた。
【0039】
<プロパンのアンモ酸化反応試験>
シリカ担持酸化物触媒のW=0.35gを内径4mmの固定床型反応管に充填し、反応温度T=420℃(外温)、プロパン:アンモニア:酸素:ヘリウムのモル比=1:1.2:2.8:10.6の原料混合ガスを、流量F=3.9(ml/min)で流した。このとき圧力Pはゲージ圧で0MPaであった。接触時間は2.1(g・sec/ml)である。反応ガスの分析はオンラインガスクロマトグラフィーで行った。得られた結果を表1に示す。
【0040】
[比較例1]
<触媒調製>
組成式が、Mo10.41Sb0.34Nb0.20nで示される酸化物触媒を次のようにして調製した。
シリカゾルを用いなかった以外は実施例1の触媒調製を反復して、酸化物触媒を調製した。
【0041】
<プロパンのアンモ酸化反応試験>
得られた酸化物触媒について、プロパンのアンモ酸化反応試験を実施例1と同じ条件下にて行った。得られた結果を表1に示す。
【0042】
[実施例2]
<触媒調製>
組成式が、Mo10.46Sb0.40Nb0.09n/SiO2(40wt%)で示されるシリカ担持酸化物触媒を次のようにして調製した。
混合液(A)の調製において、メタバナジン酸アンモニウムの添加量67.9gを76.2gに、酸化アンチモン(III)の添加量70.1gを82.5gに、5重量%過酸化水素水の添加量327gを385gに、シリカゾルの添加量809gを805gに変更し、ニオブ原料液(B)671gを302gに変更した以外は実施例1の触媒調製を反復して、シリカ担持酸化物触媒を調製した。
【0043】
<XRDの測定結果>
7.8°、8.9°、22.1°、27.1°、35.2°及び45.2°の位置に回折ピークを持っていた。
【0044】
<プロパンのアンモ酸化反応試験>
得られたシリカ担持酸化物触媒について、プロパンのアンモ酸化反応試験を実施例1と同じ条件下にて行った。得られた結果を表1に示す。
【0045】
[比較例2]
<触媒調製>
組成式が、Mo10.46Sb0.40Nb0.09nで示される酸化物触媒を次のようにして調製した。
シリカゾルを用いなかった以外は実施例2の触媒調製を反復して、酸化物触媒を調製した。
【0046】
<プロパンのアンモ酸化反応試験>
得られた酸化物触媒について、プロパンのアンモ酸化反応試験を実施例2と同じ条件下にて行った。得られた結果を表1に示す。
【0047】
[実施例3]
<触媒調製>
組成式が、Mo10.37Sb0.39Nb0.09n/SiO2(40wt%)で示されるシリカ担持酸化物触媒を次のようにして調製した。
混合液(A)の調製において、メタバナジン酸アンモニウムの添加量67.9gを61.2gに、酸化アンチモン(III)の添加量70.1gを80.5gに、5重量%過酸化水素水の添加量327gを375gに、シリカゾルの添加量809gを775gに変更し、ニオブ原料液(B)671gを302gに変更した以外は実施例1の触媒調製を反復して、シリカ担持酸化物触媒を調製した。
【0048】
<XRDの測定結果>
7.8°、8.9°、22.1°、27.1°、35.2°及び45.2°の位置に回折ピークを持っていた。
【0049】
<プロパンのアンモ酸化反応試験>
得られたシリカ担持酸化物触媒について、プロパンのアンモ酸化反応試験を実施例1と同じ条件下にて行った。得られた結果を表1に示す。
【0050】
[比較例3]
<触媒調製>
組成式が、Mo10.37Sb0.40Nb0.09n/SiO2で示される酸化物触媒を次のようにして調製した。
シリカゾルを用いなかった以外は実施例3の触媒調製を反復して、酸化物触媒を調製した。
【0051】
<プロパンのアンモ酸化反応試験>
得られた酸化物触媒について、プロパンのアンモ酸化反応試験を実施例3と同じ条件下にて行った。得られた結果を表1に示す。
【0052】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明によれば、プロパン又はイソブタンの気相接触アンモ酸化反応によって不飽和ニトリルを、あるいはプロパン又はイソブタンの気相接触酸化反応によって不飽和カルボン酸を製造するにあたり、流動床触媒の要件を備え、また、モリブデン含有量が従来に比べて比較的少ないながらも、不飽和ニトリル又は不飽和カルボン酸の収率や選択率が良好な触媒を提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロパン又はイソブタンの気相接触アンモ酸化反応による不飽和ニトリルの製造に、あるいはプロパン又はイソブタンの気相接触酸化反応による不飽和カルボン酸の製造に用いられるシリカ担持酸化物触媒であって、
該酸化物触媒は一般式(I)で示される成分組成を含み、
Mo1aSbbNbcn(I)
(式中、a、b、c及びnはMo1原子あたりの原子比を表し、nは、構成金属の酸化状態によって決まる原子比である。)
CuKα線をX線源として得られるX線回折図において、回折角(2θ)が7.8±0.3°、8.9±0.3°、22.1±0.3°、27.1±0.3°、35.2±0.3°および45.2±0.3°の位置に回折ピークを持つ酸化物触媒において、a、b、cが0.36≦a≦0.46、且つ0.32≦b≦0.40、且つ0.10≦c≦0.22で示される値であり、
該酸化物触媒は30〜55重量%のシリカに担持される、
ことを特徴とするシリカ担持酸化物触媒。
【請求項2】
該シリカ担持酸化物触媒が、シリカ担持酸化物触媒の成分を有する触媒原料液から得られる乾燥粉体を、実質的に酸素を含まないガス雰囲気下、500〜700℃で焼成されて製造されることを特徴とする請求項1に記載のシリカ担持酸化物触媒。
【請求項3】
該シリカ担持酸化物触媒が、空気中200℃〜300℃で前焼成されることを特徴とする請求項2に記載のシリカ担持酸化物触媒。
【請求項4】
アルカンの気相接触酸化反応又は気相接触アンモ酸化反応によって、不飽和カルボン酸又は不飽和ニトリルを製造する方法であって、
前記アルカンを、請求項1〜3のうち何れか一項に記載のシリカ担持酸化物触媒と接触させる工程を含むことを特徴とする不飽和カルボン酸または不飽和ニトリルの製造方法。

【公開番号】特開2007−326034(P2007−326034A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−158917(P2006−158917)
【出願日】平成18年6月7日(2006.6.7)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】