説明

酸化物セラミックスの製造方法、透光性スピネルセラミックス構造体およびカラー液晶プロジェクター用光学素子

【課題】簡易なプロセスにより、内部にポアなどの欠陥が少ない高品質な焼結体(酸化物セラミックス)を形成することが可能な酸化物セラミックスの製造方法を提供する。
【解決手段】
本発明に係る酸化物セラミックスの製造方法は、Mg、Zn、Alからなる群から選択される少なくとも一種の金属元素を含む酸化物セラミックスの製造方法である。当該製造方法には、コア部材18の表面上に、気相合成法を用いて金属元素の酸化物微粒子堆積層を堆積させて微粒子堆積体19を形成する工程と、上記微粒子堆積体19を加熱する工程とを備える。上記酸化物セラミックスはスピネル(透光性スピネルセラミックス20)であることが好ましく、上記加熱する工程の後に微粒子堆積体19を緻密化する工程を備えることがさらに好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物セラミックスの製造方法、透光性スピネルセラミックス構造体およびカラー液晶プロジェクター用光学素子に関するものであり、より特定的には、プロセスの簡易化および形成物の品質向上が可能な酸化物セラミックスの製造方法、上記製造方法を用いて形成される透光性スピネルセラミックス構造体およびカラー液晶プロジェクター用光学素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常、たとえば液晶プロジェクターの投射型表示装置に用いられる液晶画面は、表面を汚れや外気から保護する目的で、何らかの保護層を備えている。たとえばCRTに用いる場合は、上記保護層として透明プラスチックを用いても十分な効果を奏する。また、たとえば携帯電話などの画面に用いる保護層は、特に強度を要求される。このため、当該保護層としてたとえばガラスを用いることがある。最近では、このような保護層を備える液晶画面は、表裏を透明化し、液晶パネルとして用いられることが多い。この場合、当該液晶パネルは、たとえば液晶画面の裏側の主表面に対向する方向から、当該液晶画面に向かって当てた光を集光、調整するための液晶プロジェクターを構成する一部品として市販される。このような液晶プロジェクターにおける、液晶画面を保護する保護層としての透明基板には、単に液晶画面の汚れや外気から保護する目的だけでなく、当該透明基板に近接する光源が発する熱による昇温を抑制する目的や、当該光により、液晶画面が吸熱した熱を放熱する目的とが加わる。すなわち、透明基板自身も昇温するため、透明基板には耐熱性が要求される。
【0003】
以上のような使用用途における透明基板には、通常ガラスを用いることが考えられる。しかし、透明基板の放熱性を向上するために、たとえば特開2000−284700号公報(以下「特許文献1」という)において、透明基板としてガラスの代わりに単結晶サファイアを使用した投射型表示装置が開示されている。単結晶サファイアは、ガラスの20倍から30倍の熱伝導性を有するため、単結晶サファイアを用いた透明基板は、ガラスを用いた透明基板に比べて、放熱性を格段に向上することができる。さらに特許文献1には、単結晶サファイアは高価であるため、ガラスと単結晶サファイアとを組み合わせた材料を用いて透明基板を形成してもよいとの旨の開示もなされている。
【0004】
ところが単結晶サファイアには複屈折と呼ばれる特性がある。このため、単結晶サファイアを用いて透明基板などを形成する際には、形状を形成するための組立て時に結晶軸の方位を揃える処理を行なう必要がある。このため、単結晶サファイアを用いて透明基板などを形成する工程は、他の材質を用いて形成する工程に比べて作業が煩雑になる。このため、単結晶サファイアからなる透明基板は高価になる傾向がある。
【0005】
そこで、より安価な焼結セラミックスとして、特開2007−65696号公報(以下「特許文献2」という)において、スピネルセラミックスを用いた液晶プロジェクター用透明基板が提案されている。スピネルセラミックスは、化学式がMgAl(MgO・nAl(1≦n≦3))である立方晶セラミックスであり、熱伝導率が高く透明な材料である。スピネルセラミックスを用いた透明基板などの構造体は、原料となるMgOやAlなどの粉末を混合し、成形、焼結する処理を経ることにより形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−284700号公報
【特許文献2】特開2007−65696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したスピネルセラミックスは通常、以下の方法により形成する。たとえばMgOやAlなどの原料粉末を均一に混合して得た混合粉末を金型でプレス成形することにより成形体を形成する。この成形体を1600℃〜1800℃程度の温度で焼結して緻密な焼結体とする。そして当該焼結体を熱間静水圧加圧(HIP)処理する。このようにすれば、当該焼結体中に含まれるポアを除去し、形成される焼結体を透明なものとする。スピネルセラミックスはこのような粉末焼結法により得られる旨が、上記の特許文献2にも記載されている。
【0008】
しかしながら粉末焼結法は多くの工程を要するため処理時間が長くなることがある。また粉末焼結法を用いた場合、成形体を形成するための原料粉末の混合が不十分であると、焼結が不十分となり、焼結体中にポアが残存しやすくなる。また、焼結が不十分であるために形成される焼結体が一部において透光性に乏しい(透明でない)状態となる可能性がある。また、粉末焼結法においてはプレス成形により成形体を形成する。このため、大きな成形体を形成する場合には大きなプレス装置が必要となる。つまりこの場合、プレス装置の設備コストが高くなり、形成される成形体(焼結体)のコストが高くなる。さらに、成形体のサイズが大きくなると、密度や透光性が不均一な焼結体が形成される可能性がある。
【0009】
本発明は、以上の各問題に鑑みなされたものである。その目的は、簡易なプロセスで高品質な焼結体(酸化物セラミックス)を形成することが可能な酸化物セラミックスの製造方法を提供することである。同時に、上記製造方法を用いて形成される酸化物セラミックス(透光性スピネルセラミックス構造体)およびカラー液晶プロジェクタ用光学素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る酸化物セラミックスの製造方法は、Mg、Zn、Alからなる群から選択される少なくとも一種の金属元素を含む酸化物セラミックスの製造方法である。上記製造方法には、コア部材の表面上に、気相合成法を用いて前記金属元素の酸化物微粒子堆積層を堆積させて微粒子堆積体を形成する工程と、上記微粒子堆積体を加熱する工程とを備える。
【0011】
本発明に係る酸化物セラミックスとは、たとえば透光性を有する光ファイバの長尺形状を指す。長尺形状の光ファイバを形成する場合は、長尺形状を有するコア部材(コアロッド)の表面上に光ファイバを構成する材質(微粒子堆積体)を配置するための原料気体を供給する。原料気体を供給することによりコア部材の表面上に配置される微粒子堆積体は、たとえば粉末焼結法により形成される微粒子堆積体に比べて微粒子の平均粒径が小さく、相対密度が高い。ここで粒径とは、微粒子の形状を球形と近似した場合における球形の直径であり、平均粒径とは多数の微粒子の粒径の平均値である。
【0012】
このため、当該微粒子堆積体を焼結することにより、表面や内部におけるポアなどの空孔(欠陥)の含有が少ない、高品質な酸化物セラミックス(透光性スピネルセラミックス)を容易に形成することができる。また、当該透光性スピネルセラミックスがコア部材の表面上に形成された、高品質な光ファイバを容易に形成することができる。
【0013】
上述した酸化物セラミックスにおける上記加熱する工程は、COガスを含まない雰囲気中にて上記微粒子堆積体に含まれるHO分子を除去する工程と、COガスを含む雰囲気中にて上記微粒子堆積体に含まれるOH基を除去する工程と、COガスを含まない雰囲気中にて上記微粒子堆積体に含まれるCO分子を除去する工程とを含むことが好ましい。上記加熱する工程において、微粒子堆積体を透明化することが好ましい。
【0014】
気相合成法により合成された微粒子堆積体には、ガラスなどの非晶質や、結晶の微粒子堆積体を含む。しかし微粒子堆積体は大部分が非晶質から構成され、その表面近傍や内部に多くのHO分子を含む。当該HO分子は、微粒子堆積体の表層部に局在するOH基に水素結合する形で存在すると考えられる。HO分子がOH基に水素結合する形で存在すれば、当該HO分子とOH基との間に間隙が多数存在することになる。したがって、微粒子堆積体の表面近傍や内部に含まれるHO分子やOH基を除去することにより、最終的に形成される酸化物セラミックス中に含まれるポアの原因となりうる分子等を除去することができる。
【0015】
ここで、HO分子の除去を行なう際には、大気圧前後の圧力を有する雰囲気内で加熱処理するよりも、大気圧よりも気圧が非常に小さい(すなわち真空に近い)減圧雰囲気下にて加熱処理する方が好ましい。このためCOガスを含まない雰囲気中にてHO分子を除去する処理を行なうことが好ましい。なお、ここで雰囲気中にCOガスを含まないとは、雰囲気中にCOガスをほぼ実質的に含まないことをいう。より具体的には、たとえば当該雰囲気におけるCOガスの分圧が100Pa以下である場合を「COガスを含まない」と表現する。
【0016】
ただしOH基の除去を行なう際には、当該微粒子堆積体の周囲にCOガスを含ませることにより、OH基とCOガスとを化学反応させながら処理することが好ましい。このようにすれば、OH基を除去する処理の速度を高めることができる。なお、ここでCOガスを含むとは、たとえば当該雰囲気におけるCOガスの分圧が8000Pa以上である場合を「COガスを含まない」と表現する。
【0017】
上記の加熱する工程において、加熱により微粒子堆積体が焼結する。しかしここで、OH基を除去するために用いたCOガスにより、微粒子堆積体の表面部や内部にはCO分子が多数含まれることになる。このCO分子を除去することにより、微粒子堆積体を透明化することができる。このCO分子を除去する工程は、上述したHO分子を除去する工程と同様に、COガスを含まず、大気圧よりも気圧が非常に小さい(すなわち真空に近い)減圧雰囲気下にて加熱処理することにより行なうことが好ましい。このようにすれば、CO分子を除去する処理の速度を高め、高効率に処理することができる。
【0018】
上述した酸化物セラミックスとはたとえばスピネルであることが好ましい。スピネルは熱伝導性および透光性が高い材質である。このため、上述した気相合成法を用いてスピネルを形成すれば、透光性に優れた光ファイバを構成することができるとともに、たとえばカラー液晶プロジェクターに含まれる光学素子にも用いることができる。カラー液晶プロジェクターの光学素子にスピネルからなる防塵窓を用いれば、透光性を確保しつつ、近接して配置される光源の熱から液晶パネルを保護し、かつ放熱することができる。
【0019】
上述した、本発明に係るスピネルは、MgAl、ZnAl、MgAlとZnAlとの固溶体からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。高い熱伝導性および高い透光性が要求される部材に対しては上述したスピネル材料を用いることが特に好ましい。
【0020】
上述した酸化物セラミックスの製造方法においては、前記加熱する工程の後に前記微粒子堆積体を緻密化する工程をさらに含むことがさらに好ましい。上述した加熱する工程により、後工程により発生しうるポアなどの空孔(欠陥)の原因となるものを除去した上で、加熱する工程により形成された微粒子堆積体を加熱して焼結する。このようにすれば、微粒子堆積体の平均粒径が小さく、間隙が少ないためポアなどの空孔(欠陥)が少なく、さらに透光性や熱伝導性に優れた酸化物セラミックスの結晶(透光性スピネルセラミックス)を容易に形成することができる。このような焼結や結晶化を確実に行なうためには、上記微粒子堆積体を結晶化する工程は、熱間静水圧加圧処理により行なうことが好ましい。
【0021】
以上に述べた本発明に係る酸化物セラミックスの製造方法を用いれば、簡易につまり安価に、ポアが少なく熱伝導性や透光性に優れた高品質な透光性スピネルセラミックス構造体を形成することができる。その一例は上述した光ファイバやカラー液晶プロジェクター用光学素子である。
【発明の効果】
【0022】
本発明の酸化物セラミックスの製造方法によれば、簡易なプロセスで、表面部や内部のポアが除去された高品質な焼結体(酸化物セラミックス)を形成することができる。同時に、上記製造方法を用いることにより、高品質な酸化物セラミックス(透光性スピネルセラミックス構造体)やカラー液晶プロジェクタ用光学素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態に係る酸化物セラミックスの製造方法を説明するためのフローチャートである。
【図2】本発明の実施の形態1において気相合成法を用いて微粒子堆積体を形成する態様を示す概略図である。
【図3】本発明の実施の形態1において形成した微粒子堆積体を加熱して脱水処理などを行なう態様を示す概略図である。
【図4】図1の工程(S30)に含まれる各工程を説明するためのフローチャートである。
【図5】本発明の実施の形態1において形成した微粒子堆積体を加熱して緻密化する態様を示す概略図である。
【図6】本発明の実施の形態1に係る光ファイバの態様を示す概略図である。
【図7】本発明の実施の形態2に係る透光性スピネルセラミックスを利用したカラー液晶プロジェクターの外観を示す概略図である。
【図8】本発明の実施の形態2に係る透光性スピネルセラミックスの構造を示す概略図である。
【図9】本発明の実施例1に係る試料を作製する態様を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら、本発明の各実施の形態について説明する。なお、各実施の形態において、同一の機能を果たす要素には同一の参照符号を付し、その説明は、特に必要がなければ繰り返さない。
【0025】
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1においては、上記酸化物セラミックスの製造方法を用いて、透光性スピネルセラミックスからなる光ファイバが形成される。光ファイバは従来より、VAD法などの気相法を用いて形成している。具体的には、コア部材として用いる長尺形状のコアロッドの表面上に、SiCl(塩化ケイ素)ガスを酸水素バーナで燃焼する際に発生するシリカ(SiO)ガラスのスート(微粒子)を供給する。このとき、コアロッドは、延在するロッドを回転軸として回転させる。スートを吹き付けるようにコアロッドの表面上に供給することにより、当該コアロッドの表面上には多孔質であるシリカガラスの微粒子が堆積して微粒子堆積体(圧粉体)となる。ここで微粒子堆積体が堆積したコアロッドを加熱する。すると微粒子堆積体は焼結して緻密化する。同時にシリカガラスが透明化する。このようにして透明シリカガラスからなる光ファイバを形成している。
【0026】
本発明者は鋭意研究により、上述したVAD法を用いた光ファイバの製造に際し、酸化物セラミックスを構成する材質として、シリカガラスの代わりにMg、Zn、Alからなる群から選択される少なくとも一種の金属元素を含む酸化物微粒子堆積層を堆積させれば、当該酸化物微粒子堆積層からなる微粒子堆積体は後工程において極めて容易に焼結されることを見出した。これは、上記酸化物微粒子堆積層はシリカガラスのスートに比べて粒径が極めて小さいためである。具体的には上記酸化物微粒子堆積層は平均粒径がナノオーダーのナノ粒子である。たとえば、SiClガスの代わりにAlClガスとMgClガスとを上記コアロッドの表面上に供給して酸化物微粒子堆積層を堆積することにより形成される微粒子堆積体(圧粉体)は、SiClガスにより形成される圧粉体に比べて領域間の組成の偏りが小さい。また上記AlClガスとMgClガスとから形成される圧粉体は、SiClガスにより形成される圧粉体に比べて焼結により容易に緻密化される。したがって、上記AlClガスとMgClガスとを用いれば、表面部や内部にポアなどの欠陥が少ない酸化物セラミックスを容易に形成することができる。つまり、簡易化された工程により高品質な酸化物セラミックス(光ファイバ)を形成することができる。
【0027】
後述するように、上述したAlClガスとMgClガスとを用いることにより最終的に形成される酸化物セラミックスはスピネルである。したがって当該光ファイバを構成するスピネルの内部などのポアを除去し、かつ工程の所要時間を短縮すれば、透光性に優れた高品質の光ファイバを安価に提供することができる。
【0028】
なお、AlClガスやMgClガスを用いて酸化物セラミックスなどの透光性スピネルセラミックス構造体(光ファイバ)を形成する方法として、VAD法以外の方法を用いてもよい。
【0029】
ここで本発明の実施の形態1に係る光ファイバの製造方法について説明する。図1のフローチャートに示すように、まずコア部材を準備する工程(S10)を実施する。具体的には、光ファイバのなす形状である長尺形状を有し、光ファイバを構成する酸化物セラミックス(透光性スピネルセラミックス)を形成するための種部材であるコア部材を準備する工程である。
【0030】
形成しようとする光ファイバは、上述した長尺形状のコア部材と、コア部材の外側(表面上)に堆積するように配置された微粒子堆積体(焼結により酸化物セラミックスとなる)とからなる。コア部材としては、形成される光ファイバに光を通すための透光性材料、たとえば石英ガラスを用いることが好ましい。
【0031】
次に図1のフローチャートに示すように、微粒子堆積体を形成する工程(S20)を実施する。具体的には、上述したコア部材の表面上に微粒子堆積体を形成する工程である。
【0032】
図2は、コア部材の表面上に微粒子堆積体を形成する態様を示す概略図である。工程(S20)はたとえばVAD法を用いて行なうため、VAD装置の内部にコア部材などをセットすることにより実施する。しかし工程(S20)はVAD法以外の方法を用いて行なうこともできる。このため図2においてはVAD装置の描写を省略している。
【0033】
VAD装置を用いて気相合成法により工程(S20)を行なう場合、図2に示すように、長尺形状のコア部材18の外側の表面上に微粒子堆積体を形成するための原料ガスを、ガラスバブラー容器51、52、53から噴射させる。たとえばガラスバブラー容器51からはMgClのガスを、ガラスバブラー容器52からはZnClのガスを、ガラスバブラー容器53からはAlClのガスをコア部材18の外側の表面上に供給する。そのためには、たとえばガラスバブラー容器51の内部にMgの金属を、ガラスバブラー容器52の内部にはZnの金属を、ガラスバブラー容器53の内部にはAlの金属をセットし、ガラスバブラー容器51、52、53のそれぞれの内部にHClガスを導入することが好ましい。このようにすれば、各ガラスバブラー容器の内部に投入された金属元素と、当該ガラスバブラー容器の内部に導入されたHClガスのCl元素とを反応させることにより、MgClなどのガスを供給させることができる。
【0034】
なお、形成させようとする微粒子堆積体の材質に応じて、たとえばガラスバブラー容器53を設けずにMgClガスとAlClガスとのみをコア部材18の外側の表面上に供給してもよい。あるいはたとえば、ガラスバブラー容器53を設けずにガラスバブラー容器52の内部に金属のZnとAlとをセットし、上述した3種類のガスを供給してもよい。
【0035】
上述した3種類(2種類)のガスは、図2に示すように互いに混合して混合ガス55となる。このとき、図2には図示しないが混合ガス55やコア部材18の周囲にHガスとOガスとを導入する。HガスやOガスの導入には酸水素バーナを用いることが好ましい。このようにすれば、上述したMgClガスなどとOガスとが反応することにより、Mg−Al−O系やZn−Al−O系の微粒子堆積体19(スート)がコアロッドの表面上に堆積される。たとえばガラスバブラー容器53を設けずにAlClガスとMgClガスとのみをコア部材18の外側の表面上に供給した場合には、Mg−Al−O系の微粒子堆積体がコア部材18の表面上に堆積される。なお、上記微粒子堆積体は5g/分程度の速度で堆積されるように、各種ガスの流量を制御することが好ましい。また、コア部材18の表面上に均一に微粒子堆積体19が形成されるようにするため、図2に示すように、コア部材18を延在方向に移動させたり、延在する軸周りに回転させながら混合ガス55を供給することが好ましい。
【0036】
なお、図2においてはMgClなどのガスをコア部材18の表面の近傍において互いに混合させて混合ガス55を発生させ、コア部材18の表面上に混合ガス55を供給させている。しかしたとえば図2には図示しないが、ガラスバブラー容器51、52、53のそれぞれから供給される各種のガスをコア部材18から離れた場所にて混合させて混合ガス55を発生させ、たとえばアルゴンガスなどの不活性キャリアガスにより所望のコア部材18の近傍に混合ガス55を搬送する方法を用いてもよい。
【0037】
以上のようにコア部材18の表面上にMg−Al−O系やZn−Al−O系の微粒子堆積体(スート)を堆積させる処理(反応)を数時間から数十時間行なう。このようにすれば、図3に示すように、コア部材18の表面上に円柱状の多孔質Mg−Al−O微粒子堆積体やZn−Al−O微粒子堆積体(微粒子堆積体19)が形成される。微粒子堆積体19は、工程(S20)により形成された時点では結晶化が進んでおらず、非晶質が主成分である。しかし微粒子堆積体19の一部はMgOやAlの微結晶(結晶微粒子堆積体)となっている場合もある。
【0038】
以上のように工程(S20)においてはMgClやAlClなどのガスを用いて微粒子堆積体19を形成する。このため、このような形成方法を気相合成法という。本実施の形態1のように、気相合成法により微粒子堆積体19を形成した場合、当該微粒子堆積体19を構成する微粒子は平均粒径が十数nmである。また当該微粒子堆積体19の相対密度は60%以上である。一方、従来から行なわれるプレス成形を用いた粉末焼結法で形成した成形体の成形密度(相対密度)は50%〜60%程度であり、成形体を構成する微粒子の平均粒径はミクロンオーダーである。したがって、粉末焼結法の代わりに気相合成法を用いて形成された、領域間の組成の偏差が小さいMg、Zn、Alなどの金属元素の酸化物微粒子堆積層(微粒子堆積体)は、容易に緻密に焼結される。また焼結により得られる酸化物セラミックス中に含まれるポアなどの空孔(欠陥)の割合を小さくすることができる。したがって、コア部材18の表面上に高品質な酸化物セラミックス(透光性スピネルセラミックス20)を形成することができる。
【0039】
形成された微粒子堆積体19に対して、図1のフローチャートに示すように微粒子堆積体を加熱する工程(S30)を行なう。具体的には、微粒子堆積体19を加熱することにより微粒子堆積体19を後工程にて焼結する際にポアなどの発生要因となる分子等を除去する工程である。
【0040】
図3に示すように、工程(S20)を行なったVAD装置などの炉内にて、コア部材18の表面上に堆積された微粒子堆積体19を、コア部材18の延在方向の軸周りに回転させながら、輪状ヒータ30の内部に潜らせる。輪状ヒータ30の内部は微粒子堆積体19を加熱できる温度となっている。
【0041】
上述した工程(S30)においては、図4のフローチャートに示すように、微粒子堆積体19を加熱する際に、微粒子堆積体19中に含まれるHO分子を除去する工程(S31)、OH基を除去する工程(S32)、CO分子を除去する工程(S33)を行なうことが好ましい。
【0042】
微粒子堆積体19を加熱する際には、当該微粒子堆積体19を構成する組織中の間隙の原因となっているHO分子やOH基を除去することが好ましい。これは上述したように、HO分子やOH基は水素結合する形で存在しており、隣接するHO分子同士の距離などが大きくなる傾向にあるためである。
【0043】
微粒子堆積体19の表面部または内部に存在するHO分子を除去する工程(S31)は、VAD装置などの炉内を大気圧に比べて非常に圧力の小さい減圧雰囲気下にて行なうことが好ましい。すなわちCOガスを実質的に含まない雰囲気中にて処理を行なうことが好ましい。このため、当該炉内を排気しながら処理を行なうことが好ましい。これは大気圧中よりも減圧雰囲気下の方が、当該雰囲気中に含まれる気体分子数が少ないためである。当該雰囲気中に含まれる気体分子数が少なければ、除去するためにHO分子が放出される際に雰囲気中の気体分子に妨害される可能性が小さくなる。このため結果としてHO分子の放出がスムーズに行なわれる。HO分子が外部に放出される速度はHO分子の拡散速度により支配されるためである。このためHO分子を除去する工程(S31)においてはCOガスを含まない減圧雰囲気下において処理を行なうことが効果的である。
【0044】
これに対して、特に微粒子堆積体19の表面部または内部に存在するOH基を除去する工程(S32)においては、処理を行なう炉内をCOガスを含む雰囲気とすることが好ましい。HO分子を除去する場合と異なり、OH基を除去する場合は、焼結のために微粒子堆積体19に与える熱エネルギによるOH基の除去速度は極めて緩慢である。つまり、減圧雰囲気下にてOH基の除去を行なっても処理の効率が低い。このため、OH基を除去する工程(S32)においては、HOを除去する工程(S31)と同様に炉内を排気するとともに、別途炉内にCO含有ガスを供給して、微粒子堆積体19の周囲をCOガスを含む雰囲気としながら、輪状ヒータ30の内部に微粒子堆積体19を潜らせて加熱する。このようにすれば、微粒子堆積体19の表面部や内部に含まれるOH基とCOガスとが化学反応するために、OH基を微粒子堆積体19から除去することができる。化学反応を利用してOH基を除去することにより、単にOH基を微粒子堆積体19から外部へ放出させるように除去する処理のみを行なう場合に比べて、処理の効率を高めることができる。
【0045】
以上の工程(S31)および工程(S32)は、微粒子堆積体19が実質的に収縮せず、かつ十分にHO分子やOH基が除去できる加熱温度にて行なうことが好ましい。すなわち、工程(S31)および工程(S32)においては微粒子堆積体19が焼結したり緻密化しない程度に加熱されることが好ましい。具体的にはたとえば輪状ヒータ30の内部が1200℃以上1300℃以下となるように加熱することが好ましい。
【0046】
またOH基を除去する工程(S32)は、HOを除去する工程(S31)の開始後所定の時間が経過した後に開始することが好ましい。すなわちHOを除去する工程(S31)が概ね完了し、微粒子堆積体19の表面部や内部にHO分子がほとんど残留しない状態にした上でOH基を除去する工程(S32)に進むことが好ましい。仮に微粒子堆積体19にHO分子が多量に残留した状態でOH基の除去を行なうと、OH基の除去が緩慢になるためである。
【0047】
また、HO分子が除去される速度は、HO分子を除去する工程における加熱温度や炉内の圧力だけでなく、たとえば微粒子堆積体19の形状、比表面積、かさ密度などにも依存する。このためHO分子を除去する工程(S31)からOH基を除去する工程(S32)に移行するタイミングは実験的に決定することが好ましい。
【0048】
上述したようにOH基を除去する工程(S32)においてはCOガスを含む雰囲気中にて処理を行なうことが好ましい。このため工程(S32)においては減圧雰囲気下にて処理を行なうことが好ましい工程(S31)に比べて炉内の圧力を高くして処理を行なうことになる。しかしながら工程(S32)においても残留したHO分子の除去も併せて行なうことができることが好ましい。このため、工程(S32)においても炉内の圧力は低いことが好ましい点においては工程(S31)と相違ない。したがって、工程(S32)においては工程(S31)に対して炉内にCOガスを含有した分だけ炉内の圧力を高くすることが好ましい。つまり、工程(S32)においては工程(S31)に対してCOガス以外のガスを新たに導入しないことが好ましい。
【0049】
以上の工程(S31)および工程(S32)において、加熱により微粒子堆積体19のHO分子やOH基を除去すれば、微粒子堆積体19は後工程において焼結することにより容易に緻密化され、ポアなどの含有が少ない焼結体とすることができるものとなる。しかしHO分子とOH基とのみを除去し終えた段階では、微粒子堆積体19は透光性に乏しい状態である。焼結により形成される酸化物セラミックスを透光性に優れたスピネル(透光性スピネルセラミックス20)とするためには、上述した工程(S31)や工程(S32)の脱水処理を施した後にCO分子を除去する工程(S33)を行なうことが好ましい。これは微粒子堆積体19の表面部や内部などに元々存在するCO分子、および工程(S32)をCOガス雰囲気中にて行なうことにより微粒子堆積体19の表面部などに新たに付着するCO分子を除去する工程である。
【0050】
工程(S33)はCO分子を除去する工程であるため、工程(S31)と同様に、COガスを含まない減圧雰囲気下にて行なうことが好ましい。つまり当該炉内を排気しながら行なうことが好ましい。このようにすれば、微粒子堆積体19の表面部や内部のCOガスを高効率に外部に拡散させることにより放出することができる。ただし当該炉内を排気しながら、当該炉内にたとえばHeガスなどの不活性ガスを供給し、微粒子堆積体19を不活性ガス雰囲気に曝露しながら処理を行なってもよい。
【0051】
なお工程(S33)においては、加熱温度は微粒子堆積体19の緻密化が進行しない程度の温度にすることが好ましい。具体的にはたとえば輪状ヒータ30の内部が1200℃以上1300℃以下となるように加熱することが好ましい。これは上記加熱温度を微粒子堆積体19の緻密化が進行する程度に高くすると、当該微粒子堆積体19の内部に含まれるCO分子が外部に放出されにくくなることがあるためである。微粒子堆積体19の内部に含まれるCO分子が除去されずに残留すれば、最終的に形成される透光性スピネルセラミックス20の透光性が低下することに繋がる。
【0052】
以上の各処理を行なうことによりコア部材18の表面上に形成される微粒子堆積体19は、光ファイバの主要な構成要素としての役割を有することができる程度の透光性を有するものとなる。しかし上述したようにCO分子を除去する工程(S33)においては緻密化がなされていない。そこでCO分子を除去する工程(S33)により図1の微粒子堆積体を加熱する工程(S30)が形成されたところで、図1に示す微粒子堆積体を緻密化する工程(S40)を行なう。
【0053】
工程(S40)においては、加熱した輪状ヒータ30の内部に微粒子堆積体19を潜らせることにより当該微粒子堆積体19を加熱する。このとき先の工程(S30)のCO分子を除去する工程(S33)において炉内を減圧雰囲気下とした状態を保つことが好ましい。ここでの加熱温度は、微粒子堆積体19を焼結して緻密化することが可能な温度であるため、一般に先の工程(S30)における加熱温度より高いことが好ましい。しかし微粒子堆積体19を従来の粉末焼結法により形成した場合に比べて、上述した工程(S10)、工程(S20)を用いて形成した微粒子堆積体19は低温で容易に焼結、緻密化させることができる。また焼結による緻密化により形成される酸化物セラミックス(透光性スピネルセラミックス20)の内部におけるポアなどの含有割合を小さくすることができる。これは上述したとおり工程(S10)、工程(S20)により形成される微粒子堆積体19は平均粒径が十数nmと小さく、かつ相対密度が高いためである。たとえば従来の粉末焼結法によるプレス成形を用いて形成したMgO−Al成形体は緻密化させるために1700℃程度に加熱する必要がある。しかし上記の微粒子堆積体19はそれよりも低い温度、具体的には1550℃以上1650℃以下に加熱することにより緻密に焼結することができる。
【0054】
上述したように、緻密化するための加熱を低温で行なうことができるため、容易に緻密化を進行させることができる。これは低温で短時間で焼結することができるために、微粒子堆積体19の微粒子同士が結合して粒成長する可能性を抑制することができるためである。粒成長が起こると粒間の間隙が大きくなるために緻密化が起こりにくくなったり、形成される酸化物セラミックス中にポアが多数発生する可能性が高くなる。またポアの発生を抑制することにより、酸化物セラミックス(透光性スピネルセラミックス20)の透光性の低下を抑制することもできる。以上のように焼結すれば、それまで非晶質であった微粒子堆積体19をほぼ完全に結晶化することができる。
【0055】
なお、以上の工程(S40)の態様は図5に示すとおりである。図5においては微粒子堆積体19が形成されたコア部材18を、延在する軸周りに回転させながら図の下側から上側へ向かう方向に移動させている。このため、微粒子堆積体19は図5の上側から順に焼結され、焼結体としての酸化物セラミックス(透光性スピネルセラミックス20)をコア部材18の周囲に形成することができる。すなわち図5において透光性スピネルセラミックス20とされる領域は、微粒子堆積体19が焼結され緻密化することにより、延在方向(図の上下方向)に交差する断面積が小さくなった領域である。図5における透光性スピネルセラミックス20と微粒子堆積体19との両方が、工程(S20)において微粒子堆積体19として形成された領域である。
【0056】
ただし、上述した輪状ヒータ30を用いて形成された透光性スピネルセラミックス20の内部に若干量のポアが残存した場合は、輪状ヒータ30による焼結(緻密化)処理の後に、熱間静水圧加圧処理(HIP)を行なうことが好ましい。このようにすれば、さらに確実に焼結、結晶化がなされ、内部におけるポアが除去された透光性スピネルセラミックス20を形成することができる。
【0057】
以上の手順により、図6に示すように、コア部材18の表面上には微粒子堆積体19が焼結された、スピネルからなる酸化物セラミックス(透光性スピネルセラミックス20)が形成される。本実施の形態1により、透光性スピネルセラミックス構造体としての光ファイバが形成される。
【0058】
なお、上述したように工程(S20)において原料ガスとしてMgClガス、ZnClガスおよびAlClガスを用いた場合には、形成される透光性スピネルセラミックス20はMgAl、ZnAl、またはMgAlとZnAlとの固溶体である。これらの材質はいずれも、透光性に優れており光ファイバのコア部材18の外周部に形成する部材に用いるに適した材質である。しかしMg、Zn、Alの金属元素を用いて形成される透光性スピネルセラミックス20のスピネルはたとえばMgO、Al、ZnOであってもよい。さらにたとえば工程(S20)においてIn、Gaなどの金属元素を用いることにより、InやGaを含有するスピネルを透光性スピネルセラミックス20として形成してもよい。具体的にはたとえばMgIn、MgGa、ZnInやZnGaなどを透光性スピネルセラミックス20として適用することができる。
【0059】
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2においては、上記酸化物セラミックスの製造方法を用いて、透光性スピネルセラミックスからなる透明基板であるカラー液晶プロジェクター用光学素子が形成される。
【0060】
図7を参照して、本発明の実施の形態2におけるカラー液晶プロジェクター100においては、メタルハライドランプやキセノンランプなどの光源1から出射された光は、リフレクター2により反射され、紫外線カットフィルター3などを透過した後、インテグレータ偏光変換光学系4に導かれる。インテグレータ偏光変換光学系4を通過した光は、光の波長に応じて透過する光と反射する光とを選択可能なダイクロイックミラー5により、赤(R)、緑(G)、青(B)の3原色に分解される。次に、3原色に分解された光のそれぞれは、必要に応じて全反射ミラー6において反射され、偏光板7および防塵窓8を通過した後、液晶パネル11を通過し、クロスダイクロイックプリズム9において合成される。そして、合成された光は、投射レンズ系10を通して、カラー液晶プロジェクター100の外部に投射されることにより、画像の投影が実現される。
【0061】
ここで、上記カラー液晶プロジェクター100に含まれる防塵窓8などの光学素子には、透光性を確保しつつ、近接して配置される光源1の熱から液晶パネル11を保護し、かつ放熱する機能も求められる。このためには、防塵窓8が緻密な組織から構成されることが要求される。また、光源1の熱によって温度も上昇するため、防塵窓8には耐熱性が求められる。これに対し、本実施の形態における光学素子である防塵窓8は、以下に示す構成を有する透明基板であることにより、当該要求に対応することが可能となっている。
【0062】
すなわち、カラー液晶プロジェクター100に含まれる防塵窓8の、特に外周部は、図8を参照して、スピネルからなる透光性スピネルセラミックス20からなっている。透光性スピネルセラミックス20を構成するアルミナ粒子などのスピネルは、熱伝導率が高く、かつ透明な材料である。そのため、防塵窓8は、透光性を確保しつつ、近接して配置される光源1の熱から液晶パネル11を保護し、かつ放熱する機能を有している。また、上記透光性スピネルセラミックス20からなっていることにより、防塵窓8は、十分な耐熱性も有している。
【0063】
上述したカラー液晶プロジェクター100に含まれる防塵窓8は、本実施の形態1の光ファイバと同様に、図1に示すコア部材を準備する工程(S10)において、たとえば石英ガラスからなるコア基板を準備する。微粒子堆積体を形成する工程(S20)においては実施の形態1と同様に上記コア基板の表面上にAlClガスなどの原料ガスを供給して微粒子堆積体を形成する。これは、防塵窓8に用いる透光性スピネルセラミックス20は、アルミナ粒子(Al)を含むことが好ましいためである。
【0064】
以下、微粒子堆積体を加熱する工程(S30)、微粒子堆積体を緻密化する工程(S40)についても、実施の形態1に順じた手法により行なうことが好ましい。このようにすれば、特に外周部が緻密化された透光性スピネルセラミックス20からなる、高い透光性と熱伝導性とを有する防塵窓8を形成することができる。したがって、図7に示すカラー液晶プロジェクター100の性能を高めることができる。
【0065】
本実施の形態2は、以上に述べた各点についてのみ、本実施の形態1と異なる。すなわち実施の形態2について、上述しなかった構成や条件、手順や効果などは、全て実施の形態1に順ずる。
【実施例1】
【0066】
上述した本実施の形態1に係る製造方法を用いて、光ファイバを形成する要領で試験用の透光性スピネルセラミックスの試料を形成した。また、比較用として従来から用いられる粉末焼結法を用いて透光性スピネルセラミックスの試料を作製した。ここでは本実施の形態1に係る製造方法を用いて形成した3台の試料をそれぞれA1、A2、A3とし、比較用として形成した3台の試料をそれぞれB1、B2、B3とした。以下にそれぞれの試料を作製した手順について説明する。
【0067】
試料A1、A2、A3は本実施の形態1に係る製造方法を用いて形成しているため、図1のフローチャートに従って作製された。すなわちまずコア部材を準備する工程(S10)として、長尺形状を有し、延在する方向に交差する断面が直径10mmの円形である石英ガラス製の部材を準備した。これは光ファイバを製造するためのコアロッドとして用いるものである。
【0068】
次に微粒子堆積体を形成する工程(S20)は、図9に示す光ファイバ製造用のVAD装置を用いて実施した。図9の金属元素載置室99には、CVD装置用のガラスバブラー容器51、52、53が載置されている。これらは図2に示すガラスバブラー容器51、52、53と同様のものである。そしてガラスバブラー容器51には粒径1mmのMg金属塊、ガラスバブラー容器52にはほぼ同粒径のZn金属塊、ガラスバブラー容器53にはほぼ同粒径のAl金属塊を装填した。この金属元素載置室99に接続されたHClガスボンベ97から、金属元素載置室99の内部にHClガスを供給した。このHClガスと各ガラスバブラー容器に装填された各金属元素とを反応させることにより、金属元素載置室99の内部にMgClガス、ZnClガスおよびAlClガスを発生させた。そしてこれらのガスを混合させることにより、金属元素載置室99の内部に混合ガス55を発生させた。この混合ガス55をVAD装置50の内部に導入可能な状態とした。
【0069】
【表1】

【0070】
上の表1は、試料A1、A2およびA3のそれぞれに対して工程(S20)の処理を施す際に用いた原料ガスの種類や供給量、そして処理後に形成された微粒子堆積体19の相対密度を示す。
【0071】
表1に示すように、上述したMgClガス、ZnClガスおよびAlClガスの3種類のガスを用いて処理を行なったのは試料A3のみである。試料A1および試料A2については、ZnClガスを供給せず、MgClガスとAlClガスのみを金属元素載置室99の内部にて発生および混合させることにより発生させた混合ガス55を用いて微粒子堆積体19を形成した。
【0072】
一方、VAD装置50の内部には、工程(S10)で準備したコア部材18の延在する方向に関する一方の端部をチャック91に固定させたものを載置した。VAD装置50の下部には金属元素載置室99からの混合ガス55や、酸水素バーナ95からのHガスやOガスをVAD装置50の内部に供給するためのガス供給部材92が載置されている。またVAD装置50の内部を減圧雰囲気とするための排気を行なう排気装置93が接続されている。VAD装置50の上部にはコア部材18(微粒子堆積体19)を加熱するためのヒータ90、VAD装置50の内部に不活性ガスであるHeガスを供給するためのHeガスボンベ87が接続されている。
【0073】
工程(S20)では、上述したような構成を有する図9の装置を用いて、コア部材18の表面上に微粒子堆積体19を形成した。具体的には、図9に示すようにコア部材18のチャック91を固定した一方の端部がVAD装置50の上側となるようにコア部材18をセットした。そしてVAD装置50の内部にて、ガス供給部材92から噴射される混合ガス55およびHガス、Oガスを用いて、コア部材18の表面上にMg−Al−O系やZn−Al−O系の微粒子堆積体19を形成した。各試料に対して微粒子堆積体19を形成するために用いた混合ガスの組成および物質量の割合は、表1中の「原料ガス種類」「原料ガス供給量」に示す。
【0074】
微粒子堆積体19は特に図9における下側のコア部材18(チャック91で固定されている側と反対側)から堆積させた。なおこのとき、当該混合ガス55などを19時間反応させることにより、微粒子堆積体19を形成した。
【0075】
形成後の微粒子堆積体19の相対密度は、表1に示すとおり、試料A1、A2、A3のいずれも65.3%であった。これは以下のようにして算出した。まず形成した微粒子堆積体19の一部の領域を相対密度の測定用にするために輪切りに切断した。そして切断した各試料に対して粉末X線回折を行なった。これにより、当該微粒子堆積体19を構成するMgClやAlClなどの各物質の強度の検量線を作成した。その結果から各物質の含有量を算出し、当該算出した含有量と、各物質の真密度とから当該微粒子堆積体19の理論密度を計算した。その後、試料のかさ密度と上記理論密度とから、微粒子堆積体19の相対密度を計算した。
【0076】
次に微粒子堆積体を加熱する工程(S30)を、VAD装置50の上側に配置されているヒータ90を用いて行なった。具体的には、微粒子堆積体19が形成されたコア部材18を、図9の下側から上側へ向けて引き上げながら、微粒子堆積体19部分を加熱した。上述したように工程(S30)は図4のフローチャートに示す工程(S31)、工程(S32)および工程(S33)からなる工程である。
【0077】
【表2】

【0078】
上の表2においては、上述した微粒子堆積体を加熱する工程(S30)の工程(S31)、工程(S32)および工程(S33)を各試料に対して行なった際の、加熱温度(℃)、各処理時のVAD装置50の内部の圧力(Pa)、各工程における上記温度や圧力の保持時間(hr)を示している。なおここで温度とは、ヒータ90に挟まれた加熱領域の温度を指し、保持時間(hr)とは上述したヒータ90に挟まれた加熱領域を各温度に保持した時間(処理に要した時間)を示す。
【0079】
また、工程(S31)は基本的に減圧雰囲気下で行なっているため、処理時の装置内の圧力は試料A1〜A3のいずれにおいても80Paであったが、装置内の雰囲気については表2に示すように「真空」とみなしている。また、工程(S32)はCOガスを装置内に供給しながら行なった。このため、装置内の圧力のうちCOガスによる分圧を示す「CO分圧(Pa)」を表2に示している。工程(S33)においても同様に「CO分圧(Pa)」を示しているが、工程(S33)においてはCOガスを装置内に供給せずに除去する処理を行なっているため、測定結果はいずれの試料を処理した際にも0Paとなった。
【0080】
以上の手順により微粒子堆積体19の表面部や内部に含まれる水分やCO分子が除去された段階で、微粒子堆積体を緻密化する工程(S40)に進んだ。ここではまず試料A1、A2、A3のすべてに対し、図9のVAD装置50のヒータ90を用いた焼結を行なった。具体的には、上述した工程(S30)と同様に、微粒子堆積体19が形成されたコア部材18を、図9の下側から上側へ向けて引き上げながら、微粒子堆積体19が焼結して緻密化される程度に工程(S30)よりも微粒子堆積体19部分を加熱した。ここでヒータ90により微粒子堆積体19が焼結、緻密化される仕組みは、上述した図5における輪状ヒータ30を用いた加熱と同様である。
【0081】
【表3】

【0082】
上の表3の「ヒータ90による焼結」の欄には、上述した微粒子堆積体を緻密化する工程(S40)のうち、ヒータ90による焼結を行なった際の、加熱温度(℃)、VAD装置50の内部の圧力(Pa)、上記温度や圧力の保持時間(hr)を示している。なおここで温度とは、表2と同様に、ヒータ90に挟まれた加熱領域の温度を指し、保持時間(hr)とは上述したヒータ90に挟まれた加熱領域を各温度に保持した時間(処理に要した時間)を示す。また表3中、「圧力(Pa)」の欄に※印を施し「※100」と表記しているが、これは100Paを僅かに上回っていることを示す。
【0083】
ここで上記焼結を行ない、微粒子堆積体19が酸化物セラミックス(透光性スピネルセラミックス20)となった各試料の相対密度を、加熱前の微粒子堆積体19の相対密度と同様の手順により測定した。その結果を表3の「ヒータ90による焼結」の欄の「焼結後の相対密度(%)」の欄に示す。加熱による試料に含まれる水分などの除去、焼結による試料の緻密化により、焼結前に比べて相対密度が著しく上がっていることがわかる。
【0084】
またサイズに関しては、各焼結体(透光性スピネルセラミックス20)の延在方向の長さは30mmであり、焼結体の延在方向に交差する断面における円形の直径(外枠の直径)は100mmであった。
【0085】
ここで各試料A1〜A3をVAD装置50から取り出し、試料A2およびA3に対してはさらに、微粒子堆積体(焼結体である透光性スピネルセラミックス20)に対してHIPによる焼結を、1000気圧の圧力下にて行なった。表3の「HIPによる焼結」の欄には、そのときの各試料に対する加熱温度(℃)および上記加熱温度を保持して焼結した時間(保持時間(hr))を示している。そしてHIPによる焼結を終えた後における各試料(焼結体である透光性スピネルセラミックス20)の相対密度を測定した。その結果は、表3の「HIPによる焼結」の「焼結後の相対密度(%)」の欄に示すとおり、いずれも99.9%であった。つまりHIPによる焼結を行なうことにより、HIPを行なわなかった試料A1や、HIPを行なう前の試料A2、試料A3に比べて、相対密度をさらに上げることができた。
【0086】
また、試料A1については上述したヒータ90による焼結を行なった後の透光性スピネルセラミックス20、試料A2および試料A3についてはHIPによる焼結を行なった後の透光性スピネルセラミックス20に対して透過率を測定した。
【0087】
具体的には、まず透過率の測定に先立ち、ダイヤモンドスラリーを用いて、測定用に輪切りに切断した試料の切断面を光学的鏡面研磨した。その後、分光光度計を用いて、各試料の焼結体(透光性スピネルセラミックス20)の厚み1.0mm分を透過する光の直線透過率を、当該光の波長を420nmから680nmまで変化させて測定した。その結果、上記波長範囲の中で最も波長の短い420nmの光が最も透過率が低かった。このため、表3中には各試料の420nmの光の透過率を「420nmの透過率(%)」の欄に示した。
【0088】
一方、比較用である試料B1、B2、B3は、粉末焼結法を用いて形成しているため、上述した試料A1、A2、A3を形成する際に用いた原料ガスの代わりに原料粉末を用いている。用いた原料粉末の種類および当該原料粉末を混合した割合(原料粉末供給量)を下の表4に示す。
【0089】
【表4】

【0090】
表4に示す各原料粉末は、すべて純度が99.99%以上のものを使用した。各原料粉末としては、平均粒径が0.3μmのMgO粉末、ZnO粉末およびAl粉末を組み合わせて使用した。これらを表4の配合比となるように配合したものを、成形プレスを用いて圧力250kg/cmで成形することにより、直径20mm、厚みが5mmである成形体を作製した。これらの成形体に対して、上述した試料A1、A2、A3と同様の手順により、相対密度測定用に一部切り取った試験片を用いて相対密度を測定した。その結果を表4中の「成形体の相対密度(%)」の欄に示す。
【0091】
次に、形成した成形体を従来から焼結用に用いる焼結炉内に投入し、焼結炉内を大気雰囲気、大気圧に設定し、所定温度で焼結した。下の表5の「焼結炉での焼結」の欄には、そのときの各試料に対する加熱温度(℃)および上記加熱温度を保持して焼結した時間(保持時間(hr))を示している。そして焼結炉による焼結を終えた後における各試料(焼結体である透光性スピネルセラミックス)の相対密度を測定した。その結果を表5の「焼結炉での焼結」の「焼結後の相対密度(%)」の欄に示している。
【0092】
【表5】

【0093】
表5より、当該焼結後の焼結体の相対密度は、試料B1〜B3のいずれも97%台であり、試料A1〜A3をヒータ90を用いて焼結した後における相対密度である99%には届かなかったことがわかる。
【0094】
また試料B2、B3に対してはさらに、当該焼結体に対してHIPによる焼結を1000気圧の圧力下にて行なった。表5の「HIPによる焼結」の欄には、そのときの各試料に対する加熱温度(℃)および上記加熱温度を保持して焼結した時間(保持時間(hr))を示している。またHIPによる焼結を終えた後における各試料(焼結体である透光性スピネルセラミックス20)の相対密度を測定した結果を、表3と同様に示している。その結果は試料B2が99.3%、試料B3が99.8%であった。しかし試料A2およびA3のHIP焼結後における相対密度である99.9%よりはやや低くなっていることがわかる。
【0095】
さらに試料A1〜A3と同様に、試料B1については上述した焼結炉による焼結を行なった後の透光性スピネルセラミックス、試料B2および試料B3についてはHIPによる焼結を行なった後の透光性スピネルセラミックスに対して透過率を測定した。420nmの光に対する直線透過率を、表5中の「420nmの透過率(%)」の欄に示している。この結果、試料B1については透過が確認できなかったが、試料B2およびB3については試料A1〜A3と同様の透過率が確認された。
【0096】
以上のように本発明の各実施の形態および実施例について説明を行なったが、今回開示した各実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明は、簡易なプロセスで、ポアが少なく緻密度の高い高品質な焼結体(酸化物セラミックス)を形成する技術として、特に優れている。
【符号の説明】
【0098】
1 光源、2 リフレクター、3 紫外線カットフィルター、4 インテグレータ偏光変換光学系、5 ダイクロイックミラー、6 全反射ミラー、7 偏光板、8 防塵窓、9 クロスダイクロイックプリズム、10 投射レンズ系、11 液晶パネル、18 コア部材、19 微粒子堆積体、20 透光性スピネルセラミックス、30 輪状ヒータ、50 VAD装置、51,52,53 ガラスバブラー容器、55 混合ガス、87 Heガスボンベ、90 ヒータ、91 チャック、92 ガス供給部材、93 排気装置、95 酸水素バーナ、97 HClガスボンベ、99 金属元素載置室、100 カラー液晶プロジェクター。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mg、Zn、Alからなる群から選択される少なくとも一種の金属元素を含む酸化物セラミックスの製造方法であって、
コア部材の表面上に、気相合成法を用いて前記金属元素の酸化物微粒子堆積層を堆積させて微粒子堆積体を形成する工程と、
前記微粒子堆積体を加熱する工程とを備える、酸化物セラミックスの製造方法。
【請求項2】
前記加熱する工程は、
COガスを含まない雰囲気中にて前記微粒子堆積体に含まれるHO分子を除去する工程と、
COガスを含む雰囲気中にて前記微粒子堆積体に含まれるOH基を除去する工程と、
COガスを含まない雰囲気中にて前記微粒子堆積体に含まれるCO分子を除去する工程とを含む、請求項1に記載の酸化物セラミックスの製造方法。
【請求項3】
前記加熱する工程において、前記微粒子堆積体を透明化する、請求項1または2に記載の酸化物セラミックスの製造方法。
【請求項4】
前記酸化物セラミックスはスピネルである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の酸化物セラミックスの製造方法。
【請求項5】
前記スピネルはMgAl、ZnAl、前記MgAlと前記ZnAlとの固溶体からなる群から選択される、請求項4に記載の酸化物セラミックスの製造方法。
【請求項6】
前記加熱する工程の後に前記微粒子堆積体を緻密化する工程をさらに含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の酸化物セラミックスの製造方法。
【請求項7】
前記微粒子堆積体を緻密化する工程は、熱間静水圧加圧処理により行なう、請求項6に記載の酸化物セラミックスの製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載の酸化物セラミックスの製造方法により形成される透光性スピネルセラミックス構造体。
【請求項9】
請求項1に記載の酸化物セラミックスの製造方法により形成される、カラー液晶プロジェクター用光学素子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2011−63467(P2011−63467A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−214219(P2009−214219)
【出願日】平成21年9月16日(2009.9.16)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】