説明

酸化物半導体を用いた薄膜トランジスタの製造方法および製造装置

【課題】アモルファス金属酸化物半導体を採用した薄膜トランジスタ(TFT)の製造において、酸化物に半導体特性を付与する処理を低温化し、処理時間を短縮化すること。
【解決手段】ワークステージ8上のワーク7のアモルファス金属酸化物に対して、活性酸素が生成する波長域と上記酸化物を活性化して、酸化物に混入する水素を引き抜く波長域とを含む光を照射する工程Aと、酸化物に混入する水素が引き抜かれ酸化物近傍に活性酸素が生成されている状態において、酸化物内への酸素の拡散を促進するよう酸化物を加熱する波長域を含む光を照射する工程Bからなる処理を行う。工程Aは、波長230nm以下の波長域の光を含む光を照射する例えば希ガス蛍光ランプ10あるいはフラッシュランプからの光を照射することにより行われ、工程Bは、波長800nm以上の波長域の光を照射する例えばフラッシュランプ20からの光を照射することにより行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶パネル、有機ELディスプレイ等の映像ディスプレイを駆動するアクティブ素子である酸化物半導体を用いた薄膜トランジスタ(TFT)の製造方法および製造装置に関するものであり、特に酸化物半導体を用いたTFTの動作改善に係る方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図22に、映像ディスプレイを駆動するアクティブ素子である薄膜トランジスタ(TFT)の構成例を示す。図22は、例として、ボトムゲート型のTFTの構造例を示す。基板100上の1つの画素領域内に形成された例えばTa,Mo,Alなどからなるゲート101の上部に、例えばSiNx膜からなるゲート絶縁膜102が施される。さらにその上部には半導体層103が重畳される。この半導体層103の一部に、例えば低抵抗のAl系合金からなるソース104、ドレイン106が設けられる。以上のように構成されたTFTのソース104には、例えば低抵抗のAl系合金層からなるソース配線105が設けられ、ドレイン106には例えば低抵抗のAl系合金層からなるドレイン配線107が設けられる。また図示を省略したがゲート101にはゲート配線が設けられる。
【0003】
このようなTFT、ソース配線、ドレイン配線、ゲート配線の上部を覆うように例えばアクリル系樹脂からなる層間絶縁膜(有機絶縁膜)108が設けられる。層間絶縁膜108の一部はフォトエッチング処理によって除去され、ドレイン配線107上にコンタクトホール109が形成される。この層間絶縁膜108の表面全体に画素電極である液晶駆動用電極110(透明電極(ITO))が設けられる。よって、液晶駆動用電極110はコンタクトホール109を介してドレイン配線107と接続されるとともに、層間絶縁膜108を介してソース配線105上方、不図示のゲート配線上方にも設けることが可能となる。すなわち、液晶駆動用電極110の有効面積(開口率)を大きくすることが可能となる。
【0004】
現在の映像ディスプレイ産業においては、基板としてガラスを採用し、TFTの半導体層としては、水素化アモルファスシリコン(a−Si:H)膜が用いたLCD(液晶パネル)が中心となっている。すなわち、近年大型化している映像ディスプレイにおいて、水素化アモルファスシリコン(a−Si:H)膜は、大面積の基板上に、ガラス基板が溶融しないような比較的低い温度(250〜300°C程度)で成膜可能であるので、TFTの半導体層として有用である。
【0005】
以上のようにTFTの半導体層材料として有用なa−Si:Hであるが、電子移動度が低いという欠点がある。そのため、アクティブ素子の高速動作が要求される三次元ディスプレイパネルへ適用するには特性が不十分である。これに対応して電子移動度がa−Si:Hよりも高い半導体層材料として多結晶シリコン(p−Si)を採用することが考えられる。
しかしながら、p−Si膜は、製造工程がa−Si:H膜より長く、大型基板では製造が難しいという難点がある。
【0006】
また、近年、有機EL素子や電気泳動素子を利用し、フレキシブル基板を用いた映像ディスプレイの研究が進んでいる。フレキシブル基板としては、プラスチックフィルムなどが用いられる。ここで、プラスチックフィルムを用いたフィルム基板は耐熱性が150°C程度と低く、TFTの半導体層としてa−Si:Hを用いる場合、a−Si:H膜の成膜工程においてフィルム基板にダメージが生じる。仮に、150°C以下でa−Si:H膜を成膜した場合、アクティブ素子としてのTFT性能が低下するという不具合が発生する。
また、TFTの半導体層としてp−Siを用いる場合も、p−Si膜の成膜工程において600°C以上の熱処理工程が必要であり、フィルム基板上にp−Si膜を成膜することは不可能である。
【0007】
上記したような現状に対して、近年半導体層材料として、フィルム基板の耐熱温度以下(例えば、室温程度)の温度で成膜可能で、電子移動度がa−Si:Hの10倍以上である酸化物半導体が注目されている。
特許文献1には、TFTの半導体層材料に適用される酸化物半導体として、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)からなる酸化物(以下、IGZOと称する)のアモルファス薄膜をTFTの半導体層として用いる例が示されている。
IGZOアモルファス薄膜の場合、スパッタリング法等の汎用な成膜方法を用いて、低温で成膜することが可能であり、また結晶粒界が無いという利点を有するので、柔軟性、低温プロセスが要求される上記したようなフィルム基板上にも成膜が可能であり、また大型基板に対して特性が均一なTFTを構築することが可能となる。
【0008】
酸化物半導体は、上記したように電子移動度がa−Si:Hの10倍以上であるので、高速動作が可能な液晶と組み合わせることにより高速応答の液晶パネルを構成することが可能となる。このような液晶パネルは、三次元ディスプレイパネルにも適用可能である。特に、酸化物半導体TFTを用いたアクティブ素子とブルーフェーズ液晶を組み合わせることにより、液晶パネルの表示方式としてフィールドシーケンシャルカラー方式を採用することが可能となる。
【0009】
通常のa−Si:H膜を使用したTFTを搭載した液晶パネルと酸化物半導体膜を使用したTFTを搭載した液晶パネルとを比較すると、駆動電力を同等とした場合、酸化物半導体使用TFTチップの面積はa−Si:H使用TFTチップの面積より小さくなるので、酸化物半導体膜を使用したTFTを搭載した液晶パネルの開口率がa−Si:H膜を使用したTFTを搭載した液晶パネルと比較して大きくなる。すなわち、開口率向上による省エネ化が酸化物半導体膜を使用したTFTを搭載した液晶パネルにおいて可能となる。
また、酸化物半導体使用TFTチップの面積とa−Si:H使用TFTチップの面積が同じである場合、前者へ流すことができる電流は、後者へ流すことができる電流より大きい。よって、有機EL素子(有機発光ダイオード、Organic light−emitting diode:OLED)と酸化物半導体膜を使用したTFTとを組み合わせた有機ELディスプレイの高輝度化が可能となる。
なお、上記したTFTに使用される酸化物半導体の例として、アモルファスIGZO以外に、2成分系In−Zn−O、In−Ga−O、Zn−Sn−O、3成分系Sn−Ga−Zn−O等の金属酸化物が非特許文献1において報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】WO2005/088726A1公報
【特許文献2】特開2007−311404号公報
【特許文献3】特開2010−205798号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】H.Q.Chiang et al,「Thin film transistors with amorphous indium gallium oxide channel layers」J.Vac.Sci.Technol.B24(6),p2702−p2705(2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ここでIGZO等の酸化膜は、通常、水素が混入していて酸素欠陥が生じており半導体特性は示さない。よってIGZO等の酸化膜の酸素欠陥を回復させて、同膜に半導体特性を付与するため、従来は酸化膜の熱処理が行われてきた。例えば特許文献2には、IGZOである酸化膜に対し、酸化性ガス(例えば、酸素ラジカル、オゾン、水蒸気、酸素)雰囲気中において、200°C以上600°C以下の条件にて熱アニールを行うことにより、酸化膜に半導体特性を付与してTFTの特性改善を行うことが記載されている。具体的には、熱処理温度400°Cで1時間熱処理を行うことが示されている。
また、特許文献3には、アモルファスIGZO膜を用いたTFTにおいて水蒸気と酸素ガスの混合雰囲気中で温度200〜500°Cで、0.5〜3時間熱処理することが記載されている。
【0013】
以上のように、半導体層材料としてアモルファス金属酸化物半導体を採用した実用的なTFTを提供するには、基板上に酸化膜を成膜後、熱アニール処理を行う必要がある。そのため、フィルム基板の耐熱温度(例えば、150°C)以下の温度で酸化膜をフィルム基板上に成膜して上記フィルム基板にTFTを構成したとしても、結局、フィルム基板の耐熱温度を越える温度で熱アニール処理を行わないと酸化膜に半導体特性を付与することができず、実用的なTFTの特性を得ることができないので、フィルム基板上に特性が良好なTFTを構築することは難しい。
また、熱処理時間自体、数時間前後行わなければならないので、TFT製造のスループットも大きくなってしまう。
【0014】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであって、本発明の目的は、半導体層材料としてアモルファス金属酸化物半導体を採用した薄膜トランジスタ(TFT)を映像ディスプレイのアクティブ素子として製造するにあたり、基板上に設けられた酸化物に半導体特性を付与し、更には半導体特性が付与された酸化物の特性を改善して上記TFT特性を向上させるための酸化物の処理を低温化し、処理時間を短縮化することが可能な酸化物半導体を用いた薄膜トランジスタの製造方法、ならびに、酸化物半導体を用いた薄膜トランジスタの製造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、本発明のアモルファス金属酸化物半導体を用いた薄膜トランジスタの製造方法は、従来の酸化膜の熱アニール処理工程に加えて、酸化膜の活性化処理および活性酸素生成処理を行うものである。
具体的には、本発明においては、酸素含有雰囲気において基板上に成膜されたアモルファス金属酸化膜に対し、活性酸素が生成する波長域と酸化膜を活性化する波長域とを含む光を照射する工程(以下、工程A)と、少なくとも活性酸素が生成し、酸化膜が活性化した状態で、上記酸化物内への酸素の拡散を促進するよう上記酸化物を加熱する波長域を含む光を照射する熱アニール工程(以下、工程B)を含むものである。
上記工程Aにおいて、上記波長域の光を照射するランプとしては、波長230nm以下の波長域を含む光を放出する希ガス蛍光ランプ、あるいは、例えばキセノンフラッシュランプ等のフラッシュランプを用いることができ、上記工程Bにおいて、上記波長域の光を照射するランプとしては、波長800nm以上の波長域を含む光を放出する例えばキセノンフラッシュランプ等のフラッシュランプを用いることができる。
すなわち、本発明においては、以下のようにして前記課題を解決する。
(1)基板上に少なくともゲート電極、ソース電極、ドレイン電極、半導体層、ゲート絶縁膜が形成されてなり、上記半導体層がアモルファス金属酸化物からなる薄膜トランジスタの製造方法であって、酸素含有雰囲気において、基板上に設けられた上記酸化物に対し、以下の工程A,Bを含む処理を行う。
工程A:活性酸素が生成する波長域と上記酸化物を活性化して上記酸化物に混入する水素を引き抜く波長域とを含む光を照射する。
工程B:上記酸化物に混入する水素が引き抜かれ上記酸化物近傍に活性酸素が生成されている状態において、上記酸化物内への酸素の拡散を促進するよう上記酸化物を加熱する波長域を含む光を照射する。
(2)基板上に少なくともゲート電極、ソース電極、ドレイン電極、半導体層、ゲート絶縁膜が形成されてなり、上記半導体層がアモルファス金属酸化物からなる薄膜トランジスタの製造装置において、酸素含有雰囲気中に保持される、上記薄膜トランジスタに光照射する少なくとも1本の第1のランプと、上記薄膜トランジスタに光照射する少なくとも1本の第2のランプと、上記第1のランプおよび第2のランプから放出される光を上記薄膜トランジスタへ反射する反射鏡と、上記第1のランプおよび第2のランプに電力を供給する給電装置とを設ける。
上記第1のランプとして、基板上に設けられた上記酸化物に対し、活性酸素が生成する波長域と上記酸化物を活性化して上記酸化物に混入する水素を引き抜く波長域とを含む光を放出するものを使用し、上記第2のランプとして、基板上に設けられた上記酸化物に対し、上記酸化物に混入する水素が引き抜かれ上記酸化物近傍に活性酸素が生成されている状態において、上記酸化物内への酸素の拡散を促進するよう上記酸化物を加熱する波長域を含む光を放出するものを使用する。
(3)上記(2)において、第1のランプは、波長230nm以下の波長域を含む光を放出する希ガス蛍光ランプであり、上記第2のランプは、波長800nm以上の波長域を含む光を放出するフラッシュランプである。
(4)上記(3)において、上記薄膜トランジスタの製造装置は、フラッシュランプから放出される光が希ガス蛍光ランプに照射されないように遮光する遮光手段を有する。
(5)上記(4)において、上記遮光手段は、希ガス蛍光ランプの一部を包囲する第2の反射鏡である。
(6)上記(4)において、上記遮光手段は、上記反射鏡の反射面の一部に設けられた突起部であり、上記第1のランプおよび第2のランプのうちの一方は上記突起部に包囲されるように配置され、上記第1のランプおよび第2のランプのうちの他方は上記反射鏡の突起部ではない平坦な反射面に対向する位置に配置され、突起部の形状、および、この突起部に包囲される一方のランプの配置位置、反射鏡の突起部ではない平坦な反射面に対向する他方のランプの配置位置は、一方のランプから放射される光が他方のランプには照射されないように決定されている。
(7)上記(2)において、第1のランプは、波長230nm以下の波長域を含む光を放出するフラッシュランプであり、上記第2のランプは、波長800nm以上の波長域を含む光を放出するフラッシュランプである。
【発明の効果】
【0016】
本発明においては、以下の効果を得ることができる。
(1)酸素含有雰囲気において、基板上に成膜されたアモルファス金属酸化膜に対し、活性酸素が生成する波長域と上記酸化物を活性化して上記酸化物に混入する水素を引き抜く波長域とを含む光を照射する工程Aと、上記酸化物に混入する水素が引き抜かれ上記酸化物近傍に活性酸素が生成されている状態において、上記酸化物内への酸素の拡散を促進するよう上記酸化物を加熱する波長域を含む光を照射する工程Bを含む処理を行うようにしたので、工程Aにおいて、上記酸化物半導体近傍に反応性の高い活性酸素を生成させ、アモルファス金属酸化物薄膜の表面における化学結合を切断して、アモルファス金属酸化膜に混入していた水素を引き抜くことができ、工程Bにおいて、アモルファス酸化膜が加熱されることにより、アモルファス酸化膜の水素が離脱した結合手に酸素が導入される。
工程Aにおいては、上記のように光エネルギーによりアモルファス酸化膜の結合手を切断しているので、従来の熱エネルギーを用いる場合と比較して、短時間にてアモルファス酸化膜から水素を引き抜くことが可能となる。また、アモルファス酸化膜自体の温度もあまり上昇せず、フィルム基板上形成されているアモルファス酸化膜に半導体特性を付与する場合であっても当該フィルム基板に熱によるダメージを与えることはない。
また、工程Aにおいては、酸素含有雰囲気(例えば、大気中)におけるアモルファス酸化膜に対して光照射が行われるので、当該酸化膜近傍においても反応性が高い活性酸素が形成され、従来の熱エネルギーを用いる場合よりも飛躍的にアモルファス酸化膜への酸素導入が可能となる。
工程Bにおいては、既に工程Aにおいて、アモルファス酸化膜の結合手の切断が成されていて、かつ、活性酸素の形成も行われているので、比較的低温の加熱でアモルファス酸化膜全体に渡っての酸素導入を実現することが可能となる。すなわち、フィルム基板の耐熱温度以下の温度で加熱することが可能となる。また、工程Bはアモルファス酸化膜内への酸素の拡散の促進や当該酸化膜の歪の緩和のみを担当するので、従来と比較して加熱時間が短時間となる。
(2)半導体層がアモルファス金属酸化物からなる薄膜トランジスタの製造装置において、酸素含有雰囲気中に保持される薄膜トランジスタに光照射する第1のランプと、第2のランプと、第1のランプおよび第2のランプから放出される光を上記薄膜トランジスタへ反射する反射鏡と、上記第1のランプおよび第2のランプに電力を供給する給電装置とを設け、第1のランプとして、基板上に設けられた上記酸化物に対し、活性酸素が生成する波長域と上記酸化物を活性化して上記酸化物に混入する水素を引き抜く波長域とを含む光を放出するものを使用し、上記第2のランプとして、基板上に設けられた上記酸化物に対し、上記酸化物に混入する水素が引き抜かれ上記酸化物近傍に活性酸素が生成されている状態において、上記酸化物内への酸素の拡散を促進するよう上記酸化物を加熱する波長域を含む光を放出するものを使用しているので、上述した工程Aと工程Bを含む処理を一台の装置で実施することができる。
このため、従来の熱エネルギーを用いる場合と比較して、短時間にてアモルファス酸化膜から水素を引き抜き、アモルファス酸化膜への酸素導入が可能となる。また、アモルファス酸化膜自体の温度もあまり上昇せず、フィルム基板上形成されているアモルファス酸化膜に半導体特性を付与する場合であっても当該フィルム基板に熱によるダメージを与えることはない。
(3)上記第1のランプとして、波長230nm以下の波長域を含む光を放出する希ガス蛍光ランプ、あるいはフラッシュランプを用い、上記第2のランプとして、波長800nm以上の波長域を含む光を放出するフラッシュランプを用いることにより、効果的に工程Aと工程Bを含む処理を実施することができる。
(4)第1のランプとして希ガス蛍光ランプを用いた場合において、フラッシュランプから放出される光が希ガス蛍光ランプに照射されないように遮光する遮光手段を設けることにより、希ガス蛍光ランプの蛍光体層が、フラッシュランプから放出されるピークパワーの大きな光によりダメージを受けるのを防ぐことができる。
(5)反射鏡の反射面の一部に設けられた突起部を、上記遮光手段として用いることにより、部品点数を少なくし、構造を簡単にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1の実施例の薄膜トランジスタの製造装置の構成例を示す図である。
【図2】希ガス蛍光ランプの構成例を示す図である。
【図3】希ガス蛍光ランプから放出される光の分光放射スペクトルを示す図である。
【図4】フラッシュランプの構成例を示す図である。
【図5】キセノンフラッシュランプから放出される光の分光放射スペクトルを示す図である。
【図6】第1の実施例における希ガス蛍光ランプとキセノンフラッシュランプの発光タイミングチャートを示す図である。
【図7】実験1の4つの条件でIGZO酸化膜の処理を行った薄膜トランジスタ(TFT)のゲート電圧対ドレイン電流特性を示す図である。
【図8】希ガス蛍光ランプとキセノンフラッシュランプの発光タイミングチャートの他の例を示す図である。
【図9】第1の実施例の薄膜トランジスタの製造装置の変形例を示す図である。
【図10】ショートアークフラッシュランプの構成例を示す図である。
【図11】キセノンガス圧力を0.6atm(60kPa)、発光時の電流密度を5096A/cm2としたときのロングアークフラッシュランプから放出される光の分光放射スペクトルを示す図である。
【図12】内部に封入するキセノンガスの圧力をパラメータとした、ショートアークフラッシュランプから放出される光の分光放射スペクトルを示す図(1)である。
【図13】内部に封入するキセノンガスの圧力をパラメータとした、ショートアークフラッシュランプから放出される光の分光放射スペクトルを示す図(2)である。
【図14】内部に封入するキセノンガスの圧力をパラメータとした、ショートアークフラッシュランプ発光時の放電電流と波長領域150〜240nmにおける積算放射強度との関係を示す図である。
【図15】本発明の第2の実施例の薄膜トランジスタの製造装置の構成例を示す図である。
【図16】本発明の実施例2における薄膜トランジスタの製造装置の別の構成例を示す図である。
【図17】第2に実施例におけるサファイアフラッシュランプとキセノンフラッシュランプの発光タイミングを示す図である。
【図18】実験2の4つの条件でIGZO酸化膜の処理を行った薄膜トランジスタ(TFT)のゲート電圧対ドレイン電流特性を示す図である。
【図19】第2に実施例におけるサファイアフラッシュランプとキセノンフラッシュランプの発光タイミングチャートの他の例を示す図である。
【図20】ショートアークフラッシュランプを用いた場合の発光タイミングチャートを示す図である。
【図21】ショートアークフラッシュランプを用いた場合の発光タイミングチャートの他の例を示す図である。
【図22】映像ディスプレイを駆動するアクティブ素子である薄膜トランジスタ(TFT)の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
1.本発明における薄膜トランジスタの製造工程
本発明は、前記したように、基板上に成膜されたアモルファス金属酸化膜に対し、酸素含有雰囲気において、活性酸素が生成する波長域と上記酸化物を活性化して上記酸化物に混入する水素を引き抜く波長域とを含む光を照射する工程Aと、上記酸化物に混入する水素が引き抜かれ上記酸化物近傍に活性酸素が生成されている状態において、上記酸化物内への酸素の拡散を促進するよう上記酸化物を加熱する波長域を含む光を照射する工程Bを含む処理を行うものである。
本発明者らが鋭意研究した結果、本発明にて採用した上記工程A、工程Bを含む酸化物半導体を用いた薄膜トランジスタの製造方法を採用することにより、以下に説明する作用が生じ、以下の効果を奏することが確認された。
【0019】
〔工程A〕
上記したように、工程Aは、酸素含有雰囲気(例えば、大気中)において、基板上に成膜されたアモルファス酸化膜に対し、活性酸素が生成する波長域と酸化物半導体膜を活性化する波長域とを含む光を照射する工程である。具体的には、波長230nm以下の紫外線を含む光を、酸素含有雰囲気において、アモルファス酸化物半導体膜に照射するものである。
このような光照射により、以下の作用が発生する。
【0020】
(i)活性酸素生成作用
酸素含有雰囲気(例えば、大気中)に波長230nm以下の紫外線(以下、UVとも称する)を含む光が照射されることにより、以下の化学反応が発生する。
反応1:オゾン生成後、活性酸素生成
大気中の酸素(O2)+ UV → オゾン(O3
オゾン(O3)+ UV → 活性酸素(Ox
反応2:酸素分解後、活性酸素生成
大気中の酸素(O2)+ UV → 活性酸素(Ox
すなわち、酸化物半導体近傍に反応性の高い活性酸素が生成される。
【0021】
(ii)酸化物半導体膜の活性化作用
波長230nm以下の紫外線がアモルファス金属酸化半導体膜(例えば、アモルファスIGZO膜)に照射されることにより、当該アモルファス金属酸化物半導体膜の表面が活性化する。具体的には、アモルファスIGZO薄膜の表面における化学結合が切断され、アモルファスIGZO薄膜に混入していた水素が引き抜かれる。
【0022】
〔工程B〕
(iii)熱アニール作用
少なくとも、アモルファス酸化膜の表面における化学結合が切断され当該酸化膜に混入していた水素が引き抜かれる状態であって、かつ、アモルファス酸化膜近傍に反応性の高い活性酸素が生成されている状態において、上記酸化物を加熱する波長域を含む光を照射し、アモルファス酸化膜を加熱することにより、アモルファス酸化膜の水素が離脱した結合手に酸素が導入される。
【0023】
なお、工程Aの処理においては、アモルファス酸化膜の表面が活性化するとともに、その近傍に反応性が高い活性酸素が生成されているので、熱アニールを行わなくとも、アモルファス酸化膜の一部において、アモルファス酸化膜の水素が離脱した結合手に酸素が導入される。
しかしながら、このような酸素導入はアモルファス酸化膜の表層に留まり、当該表層より深い部分における酸素導入は不十分となる。工程Bの熱アニールは、アモルファス酸化膜内への酸素の拡散を促進し、アモルファス酸化膜全体に渡っての酸素導入を実現する。上記工程A、工程Bよりアモルファス酸化膜に半導体特性が付与される。
また、工程Bの熱アニールにより、アモルファス酸化膜の結合手に振動エネルギーが与えられるので、アモルファス酸化膜の分子構造が振動し、その結果当該酸化膜の歪が緩和され、半導体特性が付与される酸化膜は安定な膜となる。
【0024】
従来の熱アニールにより酸化膜に半導体特性を付与して酸化物半導体を使用したTFTの特性向上を行う場合、熱エネルギーによって、水素の脱離および酸素欠陥部への酸素導入を行うことになるので、上記したように400°C程度の高温処理が必要となり、また、処理時間も数時間程度かかる。そのため、耐熱温度が低いフィルム基板上へTFTを設けることは事実上困難であり、また、TFT製造のスループットも大きくなってしまう。
【0025】
一方、本発明によれば、上記したような工程A、工程Bの作用により、下記の効果を奏することができる。
(1)工程Aにおいては、光エネルギーによりアモルファス酸化膜の結合手を切断しているので、従来の熱エネルギーを用いる場合と比較して、短時間にてアモルファス酸化膜から水素を引き抜くことが可能となる。また、アモルファス酸化膜自体の温度もあまり上昇せず、フィルム基板上形成されているアモルファス酸化膜に半導体特性を付与する場合であっても当該フィルム基板に熱によるダメージを与えることはない。
また、工程Aにおいては、酸素含有雰囲気(例えば、大気中)におけるアモルファス酸化膜に対して光照射が行われるので、当該酸化膜近傍においても反応性が高い活性酸素が形成される。よって、従来の熱エネルギーを用いる場合よりも飛躍的にアモルファス酸化膜への酸素導入が可能となる。
(2)工程Bにおいては、既に工程Aにおいて、アモルファス酸化膜の結合手の切断が成されていて、かつ、活性酸素の形成も行われているので、比較的低温の加熱でアモルファス酸化膜全体に渡っての酸素導入を実現することが可能となる。すなわち、フィルム基板の耐熱温度以下の温度で加熱することが可能となる。また、工程Bはアモルファス酸化膜内への酸素の拡散の促進や当該酸化膜の歪の緩和のみを担当するので、従来と比較して加熱時間が短時間となる。
【0026】
すなわち、本発明の工程A、工程Bを含む酸化物半導体を用いた薄膜トランジスタ(TFT)の製造方法によれば、耐熱温度が低い基板にTFTを形成する場合においても上記基板上に形成された酸化物に対して半導体特性を付与することが可能となり、しかも、従来に比べて短時間で実用的な酸化膜を用いたTFTを製造することが可能となる。
【0027】
上記工程Aで使用される波長が230nm以下の紫外線を照射する光源としては、希ガス蛍光ランプあるいはフラッシュランプを用いることができる。
希ガス蛍光ランプとしては、例えば、発光管にキセノン、アルゴン、クリプトンなどの希ガスを封入し、発光管の内周面に少なくとも蛍光体層を設け、一対の外部電極を設けた、波長が230nm以下の紫外線を照射することができるランプを使用する。
また、フラッシュランプは、発光管の内部に例えばキセノンガスを封入し、内部に一対の電極を設けたものであり、後述するように、電極間距離Lが発光管の管径d以上であるフラッシュランプ(ロングアークフラッシュランプともいう)、電極間距離Lが発光管の管径dより小さいフラッシュランプ(ショートアークフラッシュランプともいう)を用いることができる。
【0028】
上記工程Aで使用されるロングアークフラッシュランプとしては、発光管内へのキセノンガスの封入圧力が1.5atm(152kPa)以下のものを用いるのが望ましく、電流密度が4000〜9000A/cm2で点灯させることにより、波長230nm付近に強い放射を得ることができる。また、発光管の破裂といった不具合を回避するために、発光管としては、衝撃波に対して機械的強度が大きいアルミナを用いるのが望ましい。
ショートアークフラッシュランプとしては、発光管内へのキセノンガスの封入圧力が8atm(8.10×105Pa)以下のものを用いるのが望ましく、放電時の放電電流が1500A以上となるように動作させる必要がある。
【0029】
また、上記工程Bで使用される波長800nm以上の波長域を含む光を放出する光源としては、前記したガラス管の内部に例えばキセノンガスを封入し、ガラス管の内部に一対の電極を設けた電極間距離Lが発光管の管径d以上であるフラッシュランプ(ロングアークフラッシュランプ)を用いることができる。
上記ロングアークフラッシュランプの放電時の電流密度を1000〜2000A/cm2とすることにより、波長800nm以上の波長領域において強い放射を得ることができる。
【0030】
工程A用に上記希ガス蛍光ランプを用い、工程B用に上記ロングアークフラッシュランプを用いる場合には、希ガス蛍光ランプを点灯させながら、複数回、上記ロングアークフラッシュランプを点灯させることにより工程Aと工程Bの処理を行うことができる。
また、上記工程A用にロングアークフラッシュランプを使用し、工程B用に上記ロングアークフラッシュランプを用いる場合には、工程A用のフラッシュランプと、工程B用のフラッシュランプを同時に点灯させる。この場合、工程A用のロングアークフラッシュランプの発光時間は、工程B用のフラッシュランプの発光時間より格段に短く、工程A用のフラッシュランプの発光が終了した後も、工程B用のフラッシュランプは発光を持続する。
なお、工程B用のフラッシュランプを点灯させたのち、工程B用のフラッシュランプが発光している間に、上記酸化物に混入する水素が引き抜かれ上記酸化物近傍に活性酸素が生成されるように工程A用のフラッシュランプを点灯させるようにしてもよい。
さらに、上記工程A用にショートアークフラッシュランプを使用し、工程B用に上記ロングアークフラッシュランプを用いる場合には、工程A用のショートアークフラッシュランプを複数回発光させ、ショートアークフラッシュランプの最後の発光タイミングとほぼ同じタイミングで工程B用のロングアークフラッシュランプを発光させる。なお、ショートアークフラッシュランプを複数回点灯させた後に、上記酸化物に混入する水素が引き抜かれ上記酸化物近傍に活性酸素が生成されている状態において、工程B用のロングアークフラッシュランプを発光させても、同様な効果が得られる。
【0031】
2.本発明における薄膜トランジスタの製造装置の構成例
以下、本発明における薄膜トランジスタの製造装置の実施例について説明する。
〔実施例1〕
図1に、本発明における酸化物半導体を用いた薄膜トランジスタの製造工程である前記A,Bの工程を実施するための薄膜トランジスタの製造装置の第1の実施例を示す。
図1に示す製造装置において、基板上に成膜されたアモルファス金属酸化物半導体膜へ光照射するための光源部2は、上記した工程Aの光照射を担当する光源と、工程Bの光照射を担当する光源の二種類の光源から構成される。
【0032】
工程Aの光照射を担当する光源としては、例えば、希ガス蛍光ランプ10が採用され、工程Bの光照射を担当する光源としては、例えば、キセノンフラッシュランプ等のフラッシュランプ20が採用される。
図2に上記希ガス蛍光ランプの構成例を示し、図4にフラッシュランプの構成例を示す。図2、図4に示す構造から明らかなように両ランプ10,20の形状は直管状であり、図1に示すように、両ランプ10,20は複数並列に並べられ、これらのランプ10,20に給電するための給電手段4が設けられる。
両ランプの下方にはワークステージ8が設けられ、ワーク7は当該ワークステージ8上に載置される。ワーク7は、前記したアモルファス金属酸化膜を有する基板である。
【0033】
複数の希ガス蛍光ランプ10の本数、および、間隔は、希ガス蛍光ランプ10から放出される波長230nm以下の紫外線を含む光が、ワーク7全体に照射され、かつ、ワーク7上の上記光の放射照度分布がある程度均一となるように、適宜設定される。
同様に、フラッシュランプ20の本数、および、間隔は、フラッシュランプ20から放出される熱アニール用の赤外線(IR:例えば、波長800nm以上)を含む光が、ワーク7全体に照射され、かつ、ワーク7上の上記光の放射照度分布がある程度均一となるように、適宜設定される。
【0034】
図1に示す例では、両ランプ10,20から放出される光がワーク7全体を照射可能なように、直管状の複数の希ガス蛍光ランプ10と直管状の複数のフラッシュランプ20とが交互に、かつ、並列に配置されている。しかし希ガス蛍光ランプ10からの光、フラッシュランプ20からの光が上記したような状態でワーク7上に照射されるのであれば、この配置に限るものではない。
なお、両ランプ10,20の上方には、両ランプ10,20からそれぞれ放出される光を下方に配置されたワーク7へと反射する反射鏡3a,3bが設けられる。
ここで、後で示すように、希ガス蛍光ランプ10においては、ガラス管内部に蛍光体層が設けられた構造を有する。この蛍光体層は、フラッシュランプ20から放出されるピークパワーの大きい光が照射されるとダメージを受けることが分かった。
よって、本発明の薄膜トランジスタの製造装置における光源部2は、希ガス蛍光ランプ10の蛍光体層にフラッシュランプ20から放出される光が照射されないように構成することが必要となる。
【0035】
図1に示す例においては、フラッシュランプ20から放出される光が希ガス蛍光ランプ10に照射されないように、希ガス蛍光ランプ10の一部を包囲する反射鏡3bが設けられる。上記反射鏡3bは、光源部を構成する各希ガス蛍光ランプ全てに対して設けられる。この反射鏡3bは、フラッシュランプ20から放出される光を遮光して、当該光が希ガス蛍光ランプ10に照射されないようにするとともに、希ガス蛍光ランプ10から放出される光を光源部2の下方に配置されるワーク7へと反射する機能を有する。
反射鏡3aは、例えば、光反射面を鏡面加工したアルミニウム板からなる。同様に、反射鏡3bは、例えば、光反射面を鏡面加工したアルミニウム板からなる。
【0036】
希ガス蛍光ランプ10、フラッシュランプ20を含む光源部2およびワーク7、および、ワークステージ8は、内部が酸素を含有する雰囲気である処理室1内に配置される。なお、ワーク7とワークステージ8のみを処理室1内に配置し、処理室1に光源部2から放出される光を透過する光透過部材を設けて、光源部を処理室外に配置するようにしてもよい。この場合、上記光透過部材は、光源部2から放出される光が当該光透過部材を介してワーク7へ照射されるように、ワーク7が載置されたワークステージ8と光源部2との間に位置するように設けられる。
【0037】
なお、工程Aに採用される光は、酸素含有雰囲気(例えば、大気中)において、基板上に成膜されたアモルファス酸化膜に対し、活性酸素が生成する波長域と酸化膜を活性化する波長域とを含む光であり、酸素含有雰囲気(例えば、大気中)中で著しく吸収される。よって、光源部2とワーク7との距離によっては、ワーク7表面での放射照度が小さくなり、ワーク7近傍での活性酸素の生成や酸化物半導体膜の活性化が不十分となる場合もある。このような不具合が懸念される場合は、希ガス蛍光ランプ10、フラッシュランプ20を含む光源部2とワーク7およびワークステージ8とが配置される処理室1とを、上記のように光透過性窓部材等を用いて空間的に分割し、不活性ガスによるパージ等によって光源部がある空間の酸素含有量をできるだけ低下させ、処理室内のみ酸素を含有する雰囲気とすることが望ましい。
【0038】
上記したように、工程Aの活性酸素生成作用においては、オゾンが生成される。生成されるオゾンが処理室1の外部に流出することは好ましくないため、処理室1は、処理室1内で生成されたオゾンを排出するための排気手段5と接続される。また、処理室1は、大気中のコンタミネーションの処理室1への流入を抑制するエアフィルタ6が設けられた吸入口6aが設けられている。排気手段5を稼動して処理室1内のオゾンを排気すると、吸入口6aより上記コンタミネーションが殆ど除去された酸素含有ガス(大気等)が処理室1内へ流入する。
上記光源部2へ電力を供給する給電手段4、および、排気手段5の動作は、制御部9によって制御される。
【0039】
図2に希ガス蛍光ランプの構成例を示す。
図2に示すように、希ガス蛍光ランプ10は、例えば、直管状の石英(SiO2)ガラス管の両端が封止され、内部にキセノン、アルゴン、クリプトンなどの希ガスが封入された放電空間を有する構造のガラス管13と、一対の外部電極である第1の電極11aおよび第2の電極11bを有する。上記第1および第2の電極11a,11bは、ガラス管13の外周面に互いに離間して管軸方向に沿って配設された帯状の外部電極であり、上記第1および第2の電極11a,11bには、保護膜17が施される。
【0040】
ガラス管13の内周面の光出射方向側に対して反対側の内面に紫外線反射膜14が設けられ(図2(b)参照)、その内周に低軟化点ガラス層15が設けられ、この低軟化点ガラス層15の内周面に、蛍光体層16が設けられる。
紫外線反射膜14は、シリカ粒子(SiO2)とそれ以外の粒子、例えば、アルミナ粒子(Al23)から構成される。
低軟化点ガラス層15は、例えば、ホウケイ酸ガラスやアルミノケイ酸ガラスなどの硬質ガラスからなる。
希ガス蛍光ランプ用の給電手段4は、希ガス蛍光ランプ10の第1の電極11a、第2の電極11b間に高周波電圧を供給するものであり、例えば、直流電源とインバータ回路と昇圧トランスから構成される。直流電源から出力される直流電圧は、直流電源と接続されたインバータ回路により高周波交流電圧等の高周波電圧に変換され、インバータ回路に接続された昇圧トランスにより昇圧されて、希ガス蛍光ランプ10の一対の外部電極11a,11bに印加される。
【0041】
第1の電極11a、第2の電極11b間に高周波電圧が印加されると、両電極11a,11b間に誘電体である石英ガラス(放電容器13)を介在させた放電が形成される。その結果、放電空間18に励起された希ガスエキシマ分子が形成され、この希ガスエキシマ分子が基底状態に遷移する際、エキシマ光が放出される。
このエキシマ光により蛍光体が励起され、蛍光体層16から紫外光が発生する。この紫外光は紫外線反射膜14で反射され、紫外線反射膜14が設けられていない開口部分から外部に放射される(図2に示す光放射方向(同図では下方)に放射される)。
本実施例に用いた希ガス蛍光ランプ10においては、ガラス管13内部にキセノンガスを封入し、誘電体バリア放電によって中心波長172nmの紫外線を発生させ、この光により、蛍光体層を励起して、工程Aに用いられる波長230nm以下の光を含む紫外線を発生させた。
【0042】
図3に、本実施例で使用した希ガス蛍光ランプから放出される光の分光放射スペクトルを示し、同図の横軸は波長(nm)、縦軸は相対放射強度(%)を示す。
図3(a)は、蛍光体としてプラセオジム付活リン酸ランタン系蛍光体LaPO4:Prを用いて、ガラス管内部にキセノンガスを21kPa封入した場合の分光放射スペクトルであり、波長230nm付近に相対放射強度の最大ピークがある。一方、図3(b)は、蛍光体としてネオジウム付活リン酸イットリウム系蛍光体YPO4:Ndを用いて、ガラス管内部にキセノンガスを13.3kPa封入した場合の分光放射スペクトルであり、波長190nm付近に相対放射強度の最大ピークがある。
【0043】
図4にフラッシュランプの構成例を示す。
フラッシュランプ20は、例えば、直管状の石英ガラス管21の両端が封止された構造であり、ランプの長手方向において、両端に第1電極22aと第2電極22bがそれぞれ設けられる。
ガラス管21内には、例えばキセノンガスが封入される。
上記第1、第2電極22a,22bは、発光管であるガラス管21の内部に配置されており、その発光管には、第1電極22aから伸びる外部リード24を封止する封止部23と、第2電極22bから伸びる外部リード24を封止する封止部23がそれぞれ設けられる。
発光管両端より外部へそれぞれ突出する外部リード24は、給電手段に接続される。給電手段は、所定のエネルギーを蓄えるコンデンサを有している。当該コンデンサが充電されると、フラッシュランプ20の一対の電極である第1電極22aと第2電極22bとの間に高電圧が印加される。この状態で、図示を省略したイグナイタ手段によって、電極22a,22b間にトリガがかけられると、フラッシュランプ内で閃光放電が生じてアーク25が発生し、その結果発光管内部のガスが励起され、光が放出される。
図5に、本実施例に使用したキセノンフラッシュランプから放出される光の分光放射スペクトルを示す。同図の横軸は波長(nm)、縦軸は相対放射強度(%)を示す。
【0044】
〔実験1〕
上記した薄膜トランジスタの製造装置を用いて、以下の条件で基板上のIGZO酸化膜を処理して薄膜トランジスタを製造し、当該薄膜トランジスタのゲート電圧対ドレイン電流特性を調べた。
ここで、上記した工程Aに使用した希ガス蛍光ランプの分光放射スペクトルは図3(b)に示すものと同じであり、工程Bに使用したキセノンフラッシュランプの分光放射スペクトルは図5に示すものと同じである。すなわち、工程Aにおいてワークに照射される光は波長190nm付近に相対放射強度の最大ピークがあって波長領域が230nm以下である光である。一方、工程Bにおいてワークに照射される光は、波長領域が300〜1100nm程度であって、波長800nm以上の波長領域の強度が大きい光である。
【0045】
IGZO酸化膜の処理条件は以下の通りである。なお、いずれのワークも大気雰囲気に置かれ、温度は室温である。
(条件1)
IGZO酸化膜への工程Aの光照射処理、および、工程Bの光照射処理なし(as deposition状態)
(条件2)
工程A:希ガス蛍光ランプからの照射光のワーク表面での放射照度2.5mW/cm2、照射時間500秒、すなわち、ワーク表面でのエネルギー2.5mW/cm2×500秒=1.25J/cm2
工程B:キセノンフラッシュランプのフラッシュ照射5回(100s間隔)、なお各発光パルスの発光パルス幅は3ms(半値全幅:FWHM)、各発光におけるワーク表面でのエネルギー7J/cm2
【0046】
条件2の発光タイミングチャートは、図6(a)のようになる。同図の上側のチャートは希ガス蛍光ランプ10の発光状態を示し、下側のチャートはフラッシュランプ20の発光状態を示す。横軸は時間(s)、縦軸は相対光強度である。
すなわち、希ガス蛍光ランプ10の発光開始から100s後に1回目のキセノンフラッシュランプによる発光およびワークへの照射を行い、以後、100s間隔でキセノンフラッシュランプの発光およびワークへの照射を4回(計5回)行った。なお、図6(a)において、キセノンフラッシュランプの発光パルス幅は理解を容易にするため誇張して示されている。
【0047】
(条件3)
工程A:希ガス蛍光ランプからの照射光のワーク表面での放射照度2.5mW/cm2、照射時間800秒、すなわち、ワーク表面でのエネルギー2.5mW/cm2×800秒=2.5J/cm2
工程B:キセノンフラッシュランプのフラッシュ照射8回(100s間隔)、なお各発光パルスの発光パルス幅は3ms(半値全幅:FWHM)、各発光におけるワーク表面でのエネルギー7J/cm2
条件3の発光タイミングチャートは、図6(b)のようになる。同図の上側のチャートは前記したように、希ガス蛍光ランプ10の発光状態を示し、下側のチャートはフラッシュランプ20の発光状態を示す。横軸は時間(s)、縦軸は相対光強度である。
すなわち、希ガス蛍光ランプ10の発光開始から100s後に1回目のキセノンフラッシュランプによる発光およびワークへの照射を行い、以後、100s間隔でキセノンフラッシュランプの発光およびワークへの照射を7回(計8回)行った。なお、図6(b)において、キセノンフラッシュランプの発光パルス幅は理解を容易にするため誇張して示されている。
【0048】
(条件4)
工程A:なし
工程B:キセノンフラッシュランプのフラッシュ照射1回、なお発光パルスの発光パルス幅は3ms(半値全幅:FWHM)、ワーク表面でのエネルギー11J/cm2
【0049】
図7に上記した4つの条件でIGZO酸化膜の処理を行った薄膜トランジスタ(TFT)のゲート電圧対ドレイン電流特性を示す。同図において破線(1)は条件(1)のときの特性曲線であり、実線(2)は条件(2)のときの特性曲線、実線(3)は条件(3)のときの特性曲線、一点鎖線(4)は条件(4)のときの特性曲線である。
【0050】
図7の破線(1)の特性曲線から明らかなように、IGZO酸化膜に光照射処理を行っていない条件(1)の場合、ゲート電圧を変化させてもドレイン電流の変化は殆どなく、1×10-10A程度でほぼ一定である。すなわち、条件(1)の場合、IGZO酸化膜には半導体特性は付与されておらず、IGZO酸化膜は絶縁膜に近い状態であることが分かる。
【0051】
条件(2)の場合、工程Aにおいて、IGZO酸化膜に対して希ガス蛍光ランプから図3(b)に示す分光放射スペクトル特性を有する光エネルギーが1.25J/cm2与えられ、工程Bにおいて、IGZO酸化膜に対してキセノンフラッシュランプから、図5に示す分光放射スペクトル特性を有し、ワーク表面での光エネルギーが7J/cm2となるフラッシュ光が5回照射された。このとき、図7の実線(2)の特性曲線から明らかなように、ゲート電圧−17V付近でドレイン電流の値が急減に増加している。
すなわち、ゲート電圧が約−17Vのとき、TFTはon/off動作を行っているので、IGZO酸化膜には半導体特性は付与されている。
【0052】
条件(3)の場合、工程Aにおいて、IGZO酸化膜に対して希ガス蛍光ランプから図3(b)に示す分光放射スペクトル特性を有する光エネルギーが2.5J/cm2与えられ、工程Bにおいて、IGZO酸化膜に対してキセノンフラッシュランプから、図5に示す分光放射スペクトル特性を有し、ワーク表面での光エネルギーが7J/cm2となるフラッシュ光が8回照射された。このとき、図7の実線(3)の特性曲線から明らかなように、ゲート電圧−7V付近でドレイン電流の値が急減に増加している。
すなわち、ゲート電圧が約−7Vのとき、TFTはon/off動作を行っているので、IGZO酸化膜には半導体特性は付与されている。
【0053】
条件(4)の場合、IGZO酸化膜に対して工程Aの紫外線照射処理は行われず、加熱処理である工程Bのみ行われた。すなわち、IGZO酸化膜に対してキセノンフラッシュランプから図5に示す分光放射スペクトル特性を有し、ワーク表面での光エネルギーが11J/cm2となるフラッシュ光が1回照射された。
このとき、図7の一点鎖線(4)の特性曲線から明らかなように、ゲート電圧を変化させてもドレイン電流の変化は殆どなく、1×10-7A程度でほぼ一定である。すなわち、条件(4)の場合、IGZO酸化膜には半導体特性は付与されておらず、IGZO酸化膜は導電膜に近い状態であることが分かる。
【0054】
以上の結果から、本発明の工程A、工程Bを含む酸化物半導体を用いた薄膜トランジスタ(TFT)の製造方法を採用することにより、基板上に形成された酸化物が室温状態であっても当該酸化物に対して半導体特性を付与することが可能なことが判明した。
ここで、条件(2)と条件(3)とを比較すると、条件(2)におけるゲート電圧の閾値電圧Vthは約−17Vであり、条件(3)における閾値電圧Vthは約−7Vであり、ゲート電圧0VからのVthの値のシフト量ΔVth(=0−Vth)は、条件(3)のときが小さい。
これは、工程Aにおいて、IGZO酸化膜に対して希ガス蛍光ランプから図3(b)に示す分光放射スペクトル特性を有する光エネルギーを与える量が、条件(2)のときより条件(3)のときの方が大きく、条件(3)のときの方が、条件(2)のときと比べると、IGZO酸化膜近傍での活性酸素の生成量が大きく、かつ、IGZO酸化膜表面の活性化度合いが大きいため、アモルファスIGZO薄膜に混入していた水素の引き抜きと酸素欠陥の修復が効率よく行われたものと考えられる。
また、工程Bにおいて、IGZO酸化膜に対してキセノンフラッシュランプから図6に示す分光放射スペクトル特性を有するフラッシュ光の照射回数が条件(2)のときより大きい条件(3)のときの方が、条件(2)のときと比べると、IGZO酸化膜への酸素の拡散が十分に行われたものと考えられる。
【0055】
更には、条件(3)のときよりもIGZO酸化膜に対する紫外線照射処理時間を長くして図3(b)に示す分光放射スペクトル特性を有する光エネルギーを与える量を大きくし、IGZO酸化膜に対してキセノンフラッシュランプから図5に示す分光放射スペクトル特性を有するフラッシュ光の照射回数を大きくすることにより、閾値電圧のシフト量ΔVthをより小さくすることが可能であると考えられる。
一方、工程Aを省略して工程Bの熱アニール作用のみを施した条件(4)の場合、IGZO酸化膜は、半導体特性が付与されていない。これは、工程Aによる水素引き抜き作用と酸素欠陥の修復作用がIGZO膜になされないまま熱アニールが行われているので、酸素欠陥の修復作用の拡散がなされなかったためと考えられる。
従来の技術のように例えば400°Cで1時間の熱処理が施されれば、酸素欠陥の修復が行われIGZO酸化膜に対して半導体特性が付与されるが、条件(4)の場合、ワークが室温状態であって、キセノンフラッシュランプから与えられるエネルギーが11J/cm2程度であるので、従来技術のような酸素欠陥の修復作用にまでは至らなかったものと考えられる。なお、ドレイン電流の値が増加しているのは、IGZO膜表面の不純物が工程Bの光照射によりIGZO膜内部に拡散していったためと考えられる。
【0056】
上記実験では、工程Aにおいては、図3(b)に示す波長190nm付近に相対放射強度の最大ピークがあって波長領域が230nm以下である光をワークに照射した。ここで、工程Aにおいて図3(a)に示す波長230nm付近に相対放射強度の最大ピークがあって波長領域が200〜300nmである光をワークに照射して同様の実験を行ってみたが、実験結果は上記実験と同様の傾向を示した。すなわち、大気雰囲気中に設置され、温度が室温であるワークに対しては、本発明の工程A、工程Bの処理を行ったときのみ、IGZO膜に半導体特性が付与された。
【0057】
なお、閾値電圧のシフト量ΔVthの改善効果は、図3(b)に示す分光放射スペクトル特性の光の場合は、図3(a)に示す分光放射スペクトル特性の光の場合と比較して5〜10倍大きかった。
すなわち、波長190nm付近に相対放射強度の最大ピークがあって波長領域が230nm以下である光をIGZO酸化膜に照射してΔVthの値を所定量小さくする場合の照射時間に対して、波長230nm付近に相対放射強度の最大ピークがあって波長領域が200〜300nmである光をIGZO酸化膜に照射する場合は、前者と同等の量だけΔVthの値を小さくするためには、前者の場合の照射時間の5〜10倍長い時間照射する必要があった。
これは、前者の光の波長領域が後者の光の波長領域より短波長側にあるので、前者の光のフォトンエネルギーが大きく、IGZO酸化膜近傍での活性酸素の生成量ならびにIGZO酸化膜表面の活性化度合いが大きくなり、アモルファスIGZO薄膜に混入していた水素の引き抜きと酸素欠陥の修復がより効率よく行われたためと考えられる。
【0058】
なお、上記した条件(2)、条件(3)において、工程Bに相当するキセノンフラッシュランプによる複数回のフラッシュ照射は、工程Aの希ガス蛍光ランプによる光照射開始後に略同一の光強度かつ等間隔(100s)で行われたが、これに限るものではない。例えば、図8(a)に示すように、希ガス蛍光ランプによる光照射に先んじてキセノンフラッシュランプによるフラッシュ照射を開始してもよい。あるいは、図示を省略するが、希ガス蛍光ランプによる光照射開始のタイミングと同等のタイミングでキセノンフラッシュランプによるフラッシュ照射を開始してもよい。なお、図8の横軸は時間(相対値)、縦軸は相対光強度である。
また、例えば、図8(b)に示すように、等間隔ではあるが1回の照射毎に光強度が小さくなるように照射してもよい。あるいは図8(c)に示すように、略同一の光強度はあるが1回の照射毎に照射間隔が大きくなるように照射してもよい。
このような照射パターンは、アモルファス酸化膜の種類、成膜状態、基板の耐熱温度、酸素拡散の度合い、両ランプからアモルファス酸化膜に与えられるエネルギー等を考慮して適宜決定される。
【0059】
〔実施例1の変形例〕
図9に実施例1として示した本発明による薄膜トランジスタの製造装置の変形例を示す。上記したように、図1に示す薄膜トランジスタの製造装置においては、フラッシュランプ20および希ガス蛍光ランプ10から放出される光を下方に配置されたワーク7へと反射する反射鏡3aに加え、フラッシュランプ20から放出される光が希ガス蛍光ランプ10に照射されないように、希ガス蛍光ランプ10の一部を包囲する反射鏡3bが設けられている。
【0060】
一方、図9に示す変形例においては、両ランプ10,20から放出される光を下方に配置されたワーク7へと反射する反射鏡3において、反射面の一部に、光反射面の反対側の面に凸の複数の突起部3cを設けている。
両ランプ10,20のうち一方のランプ(図9ではランプ10)は上記突起部3cに包囲される位置に配置され、他方のランプ(図9ではランプ20)は、反射鏡3の突起部ではない平坦な反射面に対向する位置に配置される。
ここで、突起部3cの形状、および、この突起部3cに包囲される一方のランプの配置位置、反射鏡3の突起部ではない平坦な反射面に対向する他方のランプの配置位置は、一方のランプから放射される光が他方のランプには照射されないように決定される。必然的に、他方のランプから放射される光は一方のランプには照射されない
【0061】
図9に示す例では、上記突起部3cに包囲される位置に配置されるのは希ガス蛍光ランプ10であって、上記平坦な反射面に対向する位置に配置されるのはフラッシュランプ20である。よって、上記したように反射鏡3の突起部3cの形状、両ランプの配置位置を決定することにより、フラッシュランプ20から放出される光は、希ガス蛍光ランプ10には照射されない。すなわち、フラッシュランプ20から放出されるピークパワーの大きい光は希ガス蛍光ランプ10の蛍光体層には照射されないので、当該蛍光体層はフラッシュランプ20から放出される光によるダメージを受けない。なお、上記突起部3cに包囲される位置にフラッシュランプ20を配置し、上記平坦な反射面に対向する位置に希ガス蛍光ランプ10を配置するようにしてもよい。
【0062】
図1に示す薄膜トランジスタの製造装置においては、別個の部材である反射鏡3aおよび複数の反射鏡3bを用いてフラッシュランプ20から放出される光が希ガス蛍光ランプ10に照射されないようにしている。そのため、部品点数が多くなり、また反射鏡3aに対する複数の反射鏡3bの位置合わせも個別に行う必要がある。
一方、本変形例の反射鏡3の場合は、反射鏡3の反射面の一部に複数の突起部3cを設けた一体化構造であるので、部品点数が少なく、また、図1に示す場合における反射鏡3aに対する複数の反射鏡3bの位置合わせといった作業も不要となる。
【0063】
〔実施例2〕
上記した実施例1の薄膜トランジスタの製造装置においては、工程Aの光照射を担当する光源として、波長230nm以下の紫外線を含む光を放出する希ガス蛍光ランプが採用されていた。
本実施例2の薄膜トランジスタの製造装置においては、工程Aの光照射を担当する光源として、波長230nm以下の波長領域の光の相対放射強度が大きい光を放出するよう調整されたキセノンフラッシュランプが採用され、工程Bの光照射を担当する光源としては、実施例1と同様、波長領域が300〜1100nm程度であって、波長800nm以上の波長領域の強度が大きい光を放出するキセノンフラッシュランプが採用される。
【0064】
一般にフラッシュランプは、電極間距離Lが発光管の管径d以上であるタイプのもの(以下、ロングアークフラッシュランプともいう)と、電極間距離Lが発光管の管径dより小さいタイプのもの(以下、ショートアークフラッシュランプともいう)とに大別される。
先に図4に示したフラッシュランプの構成例はロングアークフラッシュランプのものであり、図4に示す例では電極間距離Lは管径dに比べて顕著に長くなっている。
【0065】
次に、電極間距離Lが発光管の管径dより小さいショートアークフラッシュランプの構成例を図10に示す。
図10に示すとおり、ショートアークフラッシュランプは、例えば、発光管内部に配置される一対の電極の極間が比較的短く、当該一対の電極から伸びる外部リードが全て発光管の一方の端部から外部へ突出する構成である。
具体的には、ショートアークフラッシュランプ30は、発光管を構成する容器形状の石英ガラス等の光透過性バルブ31と、当該光透過性バルブ31の開口部分(容器形状の開口部分)を封止するステム34とからなる構造である。すなわち、光透過性バルブ31の内部はステム34により封止された密閉状態となる。
発光管である光透過性バルブ31の内部には、図10の上下方向に対面する一対の電極32a,32bが配置される。また、一対の電極32a,32bの間には、図10の左右方向に対面する一対のトリガー用電極33a,33bが配置される。また、光透過性バルブ31の内部には、キセノンガスが封入される。
【0066】
上記一対の電極32a,32bおよび一対のトリガ用電極33a,33bから伸びる外部リード35,36はステム34を介して光透過性バルブ31の内部から外部へ突出する。なお、各外部リードはステム34により封止され、光透過性バルブ内部の密閉状態は維持される。ステム34より外部へそれぞれ突出する各外部リード35,36は、給電手段に接続される。給電手段は、所定のエネルギーを蓄えるコンデンサを有している。当該コンデンサが充電されると、ショートアークフラッシュランプの一対の電極である第1電極と第2電極32a,32bとの間に高電圧が印加される。この状態で給電手段がトリガ電極33a,33b間に電力を供給してトリガ電極33a,33b間に放電が発生すると、ショートアークフラッシュランプ内で閃光放電が生じる。
【0067】
上記したように、本実施例2においては、工程Bの光照射を担当する光源として、実施例1と同様、波長領域が300〜1100nm程度であって、波長800nm以上の波長領域の強度が大きい光を放出するキセノンフラッシュランプ等のフラッシュランプが採用される。キセノンフラッシュランプは、図4に示すように、ロングアークフラッシュランプである。
一方、工程Aの光照射を担当する光源として波長230nm以下の波長領域の光の相対放射強度が大きい光を放出するよう調整されたキセノンフラッシュランプを使用する場合、ロングアークフラッシュランプ、ショートアークフラッシュランプの双方が使用可能である。
【0068】
〔1〕ロングアークフラッシュランプ
まず、工程Aの光照射を担当する光源としてロングアークフラッシュランプを使用する場合について考察する。
一般にフラッシュランプから放出される光のスペクトルは、アーク放電によって生成されるプラズマの温度に依存する。ここでロングアークフラッシュランプは、電極間距離Lは発光管の管径d以上であり、電極間放電により発生するプラズマはほぼ発光管内全体に成長する。そのためプラズマ温度は、発光管内圧力、放電時に電極間を流れる電流値とともに発光管の断面積に依存する。ここで、電流密度=(放電時に電極間を流れる電流値)/(発光管の断面積)と定義したとき、ロングアークフラッシュランプから放出される光のスペクトルは、この電流密度と発光管内圧力に依存することが分かった。
【0069】
図11は、発光管にキセノンガスを封入し、発光管内部のキセノンガス圧力を0.6atm(60kPa)とし、発光時の電流密度を5096A/cm2としたとき、フラッシュランプから放出される光の分光放射スペクトルを示す。同図の横軸は波長(nm)、縦軸は相対放射強度である。本ランプにおいては、波長230nm付近に放射強度の最大ピークがある。よって、本ランプは工程Aの光照射を担当する光源として採用することが可能となる。
【0070】
一方、上記したように、工程Bの光照射を担当するキセノンフラッシュランプもロングアークフラッシュランプであり、発光管内部にはキセノンガスが封入されている。前記図5に示すフラッシュランプから放出される光の分光放射スペクトルから明らかなように、本ランプにおいては、波長800nm以上の波長領域において強い放射が見られる。このときの発光条件は、発光管内部のキセノンガス圧力が0.6atm(60kPa)、発光時の電流密度が1910A/cm2であった。
発明者らがキセノンフラッシュランプから放出される光の分光放射スペクトルと電流密度との関係を調査したところ、電流密度が4000〜9000A/cm2であるとき図11に示すような波長230nm付近に強い放射が見られ、工程Aの光照射を担当する光源として有用なことが分かった。また、電流密度が1000〜2000A/cm2であるとき図5に示すような波長800nm以上の波長領域において強い放射が見られ、工程Bの光照射を担当する光源として有用なことが分かった。
【0071】
ここで、工程Aの光照射を担当する光源として波長230nm付近に強い放射が見られるロングアークのキセノンフラッシュランプを使用する場合、4000〜9000A/cm2である大きな電流密度が必要であり、放電時に発生するプラズマ温度はかなり高くなる。発光管の材質が石英ガラスである場合、放電条件によっては上記した高温のプラズマにより石英ガラス製のバルブにダメージを受ける可能性がある。
本ランプの場合、ランプの発光管としては、高温のプラズマに対する耐熱性の高いアルミナからなる発光管を採用することが望ましい。アルミナは石英ガラスより機械的強度が大きいので、放電時に発生する衝撃波に対しても石英ガラスより有利である。
また上記したように、放電時の電流密度が大きいので発光時の発光管内のプラズマ温度はかなり高くなり、また、発光時のキセノンガスの膨張も大きくなる。発明者らが調査したところ、発光管の破裂といった不具合を回避するためには、発光管内へのキセノンガスの封入圧力は1.5atm(152kPa)以下にすることが望ましいことが分かった。更には、発光管の強度を考慮すると、電流密度は9000A/cm2を越えないように設定することが望ましいことが分かった。
【0072】
一方、工程Bの光照射を担当する光源としてロングアークのキセノンフラッシュランプを使用する場合、電極間距離が長いので電流密度が1000A/cm2より小さいと発光管内でのアーク放電が発生し難くなることが分かった。よって、安定にランプを動作させるためには、電流密度は1000A/cm2以上であることが望ましい。
【0073】
〔2〕ショートアークフラッシュランプ
次に、工程Aの光照射を担当する光源としてショートアークフラッシュランプを使用する場合について考察する。
ショートアークフラッシュランプは、電極間距離Lは発光管の管径dより小さく、電極間放電により発生するプラズマは電極間にて生成される。そのためショートアークフラッシュランプから放出される光のスペクトルに影響を及ぼすプラズマ温度は、発光管内圧力、放電時に電極間を流れる電流値、発光管内圧力に依存することが分かった。
【0074】
図12、図13に、ショートアークフラッシュランプの光透過性バルブの内部に封入するキセノンガスの圧力をパラメータとした、ショートアークフラッシュランプから放出される光の分光放射スペクトルを示す。同図の横軸は波長(nm)、縦軸は分光放射強度(μJ/cm2)である。
図12(a)は、光透過性バルブの内部の圧力が2atm(2.03×105Pa)のときの分光放射スペクトルを示す。また、図12(b)、図13(c)、図13(d)は、それぞれ光透過性バルブの内部の圧力が3atm(3.04×105Pa)、5atm(5.07×105Pa)、8atm(8.10×105Pa)のときの分光放射スペクトルを示す。図12、図13において、横軸は波長(nm)、縦軸は分光放射強度(μJ/cm2)である。
【0075】
図12、図13から明らかなように、光透過性バルブ内のキセノンガス圧力が上記したいずれの場合においても、ショートアークフラッシュランプから放出される光には230nm以下の波長の光が含まれる。
特に、光透過性バルブ内のキセノンガス圧力が3atm、5atm、8atmの場合、波長170nm近傍の光強度が大きくなる。これは、キセノンエキシマの発光が大きくなったためと考えられる。
なお、発明者らの調査の結果、光透過性バルブ内のキセノンガス圧力が8atmより上回ると、光透過性バルブの強度の信頼性が低下することが分かった。
よって、本発明の工程Aの光照射を担当する光源としてショートアークフラッシュランプを採用する場合、光透過性バルブの内部のキセノンガス圧力は8atm以下に設定することが好ましい。
【0076】
図14に光透過性バルブの内部に封入するキセノンガスの圧力をパラメータとした、ショートアークフラッシュランプ発光時の放電電流と波長領域150〜240nmにおける積算放射強度との関係を示す。図14において、横軸は電流(A)、縦軸は波長領域150〜240nmにおける積算放射強度(相対値)である。また、パラメータであるキセノンガス圧力値は、2atm(2.03×105Pa)、3atm(3.04×105Pa)、5atm(5.07×105Pa)、8atm(8.10×105Pa)である。
【0077】
図14から明らかなように、キセノンガス圧力がいずれの値においても、ショートアークフラッシュランプ発光時の放電電流の値が1500Aを下回ると波長領域150〜240nmにおける積算放射強度はほぼ0となる。
上記したように、工程Aにおける酸化膜近傍での活性酸素の生成作用や酸化膜表面の活性化作用(すなわち、酸化膜からの水素引き抜き作用と酸化膜の酸素欠陥の修復作用)は、波長230nm以下の紫外線照射により発生する。よって、上記したショートアークフラッシュランプを工程A用のランプとして使用するには、放電電流が1500A以上となるような動作条件で使用する必要がある。
【0078】
以上をまとめると、工程Aの光照射を担当する光源として採用されるショートアークのキセノンフラッシュランプは、発光管内のキセノンガス圧力が8atm以下であって、放電時の放電電流が1500A以上となるように動作させる必要がある。
【0079】
〔実施例2の薄膜トランジスタの製造装置の構成例〕
〔1〕工程A用の光源としてロングアークフラッシュランプを採用する場合
図15に、実施例2における薄膜トランジスタの製造装置の構成例を示す。
図15に示す薄膜トランジスタの製造装置も図1に示す実施例1の薄膜トランジスタの製造製装置と同様、基板上に成膜されたアモルファス金属酸化物半導体膜へ光照射するための光源部2は、上記した工程Aの光照射を担当する光源と、工程Bの光照射を担当する光源の二種類の光源から構成される。
ここで、工程Aの光照射を担当する光源はロングアークのキセノンフラッシュランプ40である。当該キセノンフラッシュランプ40の発光管の材質はアルミナである。また、有効発光長は250mmであって、発光管内部のキセノンガス圧力は0.6atm(60kPa)、発光時の電流密度を5096A/cm2である。このフラッシュランプ40から放出される光の分光放射スペクトルは図11に示す通りである。図11において波長230nm付近に放射強度の最大ピークがあるので、本ランプは工程Aの光照射を担当する光源として機能する。
【0080】
一方、工程Bの光照射を担当する光源もロングアークのキセノンフラッシュランプである。当該キセノンフラッシュランプ20の発光管の材質は石英ガラスである。また、有効発光長は250mmであって、発光管内部のキセノンガス圧力は0.6atm(60kPa)、発光時の電流密度を1910A/cm2である。このフラッシュランプ20から放出される光の分光放射スペクトルは図5に示す通りである。
図5においては波長800nm以上の波長領域において強い放射が確認されるので、本ランプは工程Bの光照射を担当する光源として機能する。
ここで、説明を容易にするために、工程Aの光照射を担当するロングアークのキセノンフラッシュランプをサファイアフラッシュランプ、工程Bの光照射を担当するロングアークのキセノンフラッシュランプをキセノンフラッシュランプと呼称することにする。
【0081】
工程A用のサファイアフラッシュランプ40も工程B用のキセノンフラッシュランプ20も、構造は図4に示す通りである。両者とも形状は直管状であり、図15に示すように、両ランプ20,40は複数並列に並べられる。
両ランプ20.40の下方にはワークステージ8が設けられ、ワーク7は当該ワークステージ8上に載置される。
複数のサファイアフラッシュランプ40の本数、および、間隔は、サファイアフラッシュランプ40から放出される波長230nm以下の紫外線を含む光が、ワーク7全体に照射され、かつ、ワーク7上の上記光の放射照度分布がある程度均一となるように、適宜設定される。
同様に、キセノンフラッシュランプ20の本数、および、間隔は、キセノンフラッシュランプ20から放出される熱アニール用の赤外線を含む光が、ワーク7全体に照射され、かつ、ワーク7上の上記光の放射照度分布がある程度均一となるように、適宜設定される。
【0082】
図15に示す例では、両ランプ20,40から放出される光がワーク7全体を照射可能なように、直管状の複数のサファイアフラッシュランプ40と直管状の複数のキセノンフラッシュランプ20とが交互に、かつ、並列に配置されている。しかし両ランプ20,40からの光が上記したような状態でワーク7上に照射されるのであれば、この配置に限るものではない。
反射鏡3は、例えば、光反射面を鏡面加工したアルミニウム板からなる。実施例1の薄膜トランジスタの製造装置と同様、サファイアフラッシュランプ40、フラッシュランプ20を含む光源部2およびワーク7、および、ワークステージ8は、内部が酸素を含有する雰囲気である処理室1内に配置される。なお、前記したようにワーク7とワークステージ8のみを処理室1内に配置し、処理室1に光源部2から放出される光を透過する光透過部材を設けて、光源部を処理室外に配置するようにしてもよい。
処理室1は、処理室1内で生成されたオゾンを排出するための排気手段5と接続され、また、大気中のコンタミネーションの処理室1への流入を抑制するエアフィルタ6が設けられた吸入口6aが設けられている。排気手段5を稼動して処理室1内のオゾンを排気すると、吸入口6aより上記コンタミネーションが殆ど除去された酸素含有ガス(大気等)が処理室1内へ流入する。光源部2へ電力を供給する給電手段4、および、排気手段5の動作は、制御部9によって制御される。
【0083】
〔2〕工程A用の光源としてショートアークフラッシュランプを採用する場合
図16に、実施例2における薄膜トランジスタの製造装置の別の構成例を示す。
図16に示す薄膜トランジスタの製造装置の構成例は、工程Aの光照射を担当する光源としてショートアークのキセノンフラッシュランプ30を採用し、ショートアークのキセノンフラッシュランプ30に対応した反射鏡3dを使用する以外は、図15に示す薄膜トランジスタの製造装置の構成例と同等である。
ショートアークのキセノンフラッシュランプ30の構造は、図10に示す通りであり、電極間距離は3mmであって、発光管内部のキセノンガス圧力は5atm(507kPa)、電流は5000Aである。このフラッシュランプから放出される光の分光放射スペクトルは図13(c)に示す通りである。図13(c)において波長172nm付近に放射強度の最大ピークがあるので、本ランプは工程Aの光照射を担当する光源として機能する。
【0084】
一方、工程Bの光照射を担当する光源は、図15で示した薄膜トランジスタの製造装置のときと同等のロングアークのキセノンフラッシュランプ20であり、ランプの構造、ランプから放出される光の分光放射スペクトル等も同じであるので、ここでは詳細な説明は省略する。
ここで、説明を容易にするために、工程Aの光照射を担当するショートアークのキセノンフラッシュランプをショートアークフラッシュランプ、工程Bの光照射を担当するロングアークのキセノンフラッシュランプをロングアークフラッシュランプと呼称することにする。
【0085】
図16に示す実施例2の薄膜トランジスタの製造装置において、本発明の工程Aの光照射を担当する光源として用いられるショートアークフラッシュランプ30は、実施例1の工程A用光源である希ガス蛍光ランプや、図15に示す実施例2の工程A用光源であるロングアークフラッシュランプとは異なり、発光部分が小さい。よって、図16に示すように、各ショートアークフラッシュランプ30には、当該ショートアークフラッシュランプ30から放出される光を効率よくワークに照射するために、反射鏡3dが個別に設けられる。
一方、工程Bの光照射を担当するロングアークフラッシュランプ20の形状は図4に示す通り直管状であり、反射鏡3dを備える各フラッシュランプ30間に、一本以上配置される。
両ランプ20,30の下方にはワークステージ8が設けられ、ワーク7は当該ワークステージ8上に載置される。
【0086】
反射鏡3dを備えるショートアークフラッシュランプ30の本数、および、間隔は、上記ランプ30から放出される波長230nm以下の紫外線を含む光が、ワーク7全体に照射され、かつ、ワーク7上の上記光の放射照度分布がある程度均一となるように、適宜設定される。
同様に、工程Bの光源であるロングアークフラッシュランプ20の本数、および、間隔は、ロングアークフラッシュランプ20から放出される熱アニール用の赤外線を含む光が、ワーク7全体に照射され、かつ、ワーク7上の上記光の放射照度分布がある程度均一となるように、適宜設定される。
【0087】
図16に示す例では、工程A用の光源である反射鏡3dを備える各ショートアークフラッシュランプ30間に、二本の工程B用の光源であるロングアークフラッシュランプ20が並列に配置され、また、ショートアークフラッシュランプ30は、二本のロングアークフラッシュランプ20からなるロングアークフラッシュランプ群間に1つ配置されているが、両光源(工程A用の光源、工程B用の光源)から放出される光がワーク全体を略均一に照射されるのであれば、これに限るものではない。
例えば、工程A用のショートアークフラッシュランプは、工程B用のフラッシュランプ群間において、図16の紙面に対して垂直な方向に複数設けてもよい。
反射鏡3、処理室1、排気手段5、エアフィルタ6、給電手段4、制御部9等の構成および動作は、図15で示した薄膜トランジスタの製造装置の場合と同じであるので、ここでは詳細な説明は省略する。
【0088】
〔実験2〕
図15に示した薄膜トランジスタの製造装置を用いて、以下の条件で基板上のIGZO酸化膜を処理して薄膜トランジスタを製造し、当該薄膜トランジスタのゲート電圧対ドレイン電流特性を調べた。
ここで、工程Aに使用した光源は、上記したサファイアフラッシュランプ(発光管にアルミナを用いたロングアークのキセノンフラッシュランプ)であり、発光管内部のキセノンガス圧力は0.6atm(60kPa)、発光時の電流密度を5096A/cm2、このフラッシュランプから放出される光の分光放射スペクトルは図11に示す通りであり、工程Aにおいてワークに照射される光は波長230nm付近に放射強度の最大ピークがある光である。
【0089】
一方、工程Bに使用した光源は、上記したロングアークフラッシュランプ(ロングアークのキセノンフラッシュランプ)であり、発光管内部のキセノンガス圧力は0.6atm(60kPa)、発光時の電流密度を1910A/cm2、このフラッシュランプから放出される光の分光放射スペクトルは図5に示す通りであり、工程Bにおいてワークに照射される光は、波長領域が300〜1100nm程度であって、波長800nm以上の波長領域の強度が大きい光である。
【0090】
IGZO酸化膜の処理条件は以下の通りである。なお、いずれのワークも大気雰囲気に置かれ、温度は室温である。
(条件1)
IGZO酸化膜への工程Aの光照射処理、および、工程Bの光照射処理なし(as deposition状態)・・・実験1の条件1と同じ。
(条件2)
工程A:サファイアフラッシュランプからの照射光のワーク表面でのエネルギー2.3J/cm2、発光パルスの発光パルス幅は0.1ms(半値全幅:FWHM)
工程B:ロングアークフラッシュランプからの照射光のワーク表面でのエネルギー2.7J/cm2、発光パルスの発光パルス幅は5ms(半値全幅:FWHM)
(条件3)
工程A:サファイアフラッシュランプからの照射光のワーク表面でのエネルギー2.8J/cm2、発光パルスの発光パルス幅は0.1ms(半値全幅:FWHM)
工程B:ロングアークフラッシュランプからの照射光のワーク表面でのエネルギー3.2J/cm2、発光パルスの発光パルス幅は5ms(半値全幅:FWHM)
【0091】
なお、条件2、条件3の発光タイミングチャートは、図17のようになる。図17(a)はサファイアフラッシュランプの発光タイミングを示し、図17(b)はキセノンフラッシュランプの発光タイミングを示し、横軸は時間、縦軸は光強度(相対値)である。
すなわち、サファイアフラッシュランプの発光とロングアークフラッシュランプ(キセノンフラッシュランプ)の発光とは同じタイミングで実施した。上記したように、サファイアフラッシュランプの発光パルス幅は0.1ms(半値全幅:FWHM)であり、ロングアークフラッシュランプの発光パルス幅は5ms(半値全幅:FWHM)であるので、サファイアフラッシュランプの発光が終了後もロングアークフラッシュランプの発光はしばらく継続する。
(条件4)
工程A:なし
工程B:ロングアークフラッシュランプからの照射光のワーク表面でのエネルギー2.5J/cm2、発光パルスの発光パルス幅は5ms(半値全幅:FWHM)
【0092】
図18に上記した4つの条件でIGZO酸化膜の処理を行った薄膜トランジスタ(TFT)のゲート電圧対ドレイン電流特性を示す。同図において破線(1)は条件(1)のときの特性曲線であり、実線(2)は条件(2)のときの特性曲線、実線(3)は条件(3)のときの特性曲線、一点鎖線(4)は条件(4)のときの特性曲線である。
図18の破線(1)の特性曲線から明らかなように、IGZO酸化膜に光照射処理を行っていない条件(1)の場合、ゲート電圧を変化させてもドレイン電流の変化は殆どなく、1×10-10A程度でほぼ一定である。すなわち、条件(1)の場合、IGZO酸化膜には半導体特性は付与されておらず、IGZO酸化膜は絶縁膜に近い状態であることが分かる。
【0093】
条件(2)の場合、工程Aにおいて、IGZO酸化膜に対してサファイアフラッシュランプから図11に示す分光放射スペクトル特性を有する光エネルギーが2.3J/cm2与えられ、工程Bにおいて、IGZO酸化膜に対してロングアークフラッシュランプ(キセノンフラッシュランプ)から図5に示す分光放射スペクトル特性を有する光エネルギーが2.7J/cm2与えられた。このとき、図18の実線(2)の特性曲線から明らかなように、ゲート電圧−5V付近でドレイン電流の値が急減に増加している。
すなわち、ゲート電圧が約−5Vのとき、TFTはon/off動作を行っているので、IGZO酸化膜には半導体特性は付与されている。
【0094】
条件(3)の場合、工程Aにおいて、IGZO酸化膜に対してサファイアフラッシュランプから図11に示す分光放射スペクトル特性を有する光エネルギーが2.8J/cm2与えられ、工程Bにおいて、IGZO酸化膜に対してロングアークフラッシュランプから図5に示す分光放射スペクトル特性を有する光エネルギーが3.2/cm2与えられた。このとき、図18の実線(3)の特性曲線から明らかなように、ゲート電圧+2V付近でドレイン電流の値が急減に増加している。
すなわち、ゲート電圧が約+2Vのとき、TFTはon/off動作を行っているので、IGZO酸化膜には半導体特性は付与されている。
【0095】
条件(4)の場合、IGZO酸化膜に対して工程Aの紫外線照射処理は行われず、加熱処理である工程Bのみ行われた。すなわち、IGZO酸化膜に対してロングアークフラッシュランプから図5に示す分光放射スペクトル特性を有する光エネルギーが2.5J/cm2与えられた。
このとき、図18の一点鎖線(4)の特性曲線から明らかなように、ゲート電圧を変化させてもドレイン電流の変化は殆どなく、1×10-10A程度でほぼ一定である。すなわち、条件(4)の場合、IGZO酸化膜には半導体特性は付与されておらず、IGZO酸化膜は、(条件1)の光照射なしのときと状態があまり変わっていないことが分かる。
【0096】
以上の結果から、本発明の工程A、工程Bを含む酸化物半導体を用いた薄膜トランジスタ(TFT)の製造方法を採用することにより、基板上に形成された酸化物が室温状態であっても当該酸化物に対して半導体特性を付与することが可能なことが判明した。
【0097】
ここで、条件(2)と条件(3)とを比較すると、条件(2)におけるゲート電圧の閾値電圧Vthは約−5Vであり、条件(3)における閾値電圧Vthは約+2Vであり、ゲート電圧0VからのVthの値のシフト量ΔVth(=0−Vth)は、条件(3)のときが小さい。
これは、工程Aにおいて、IGZO酸化膜に対してサファイアフラッシュランプから図11に示す分光放射スペクトル特性を有する光エネルギーを与える量が条件(2)のときより大きい条件(3)のときの方が、条件(2)のときと比べると、IGZO酸化膜近傍での活性酸素の生成量が大きく、かつ、IGZO酸化膜表面の活性化度合いが大きく、アモルファスIGZO薄膜に混入していた水素の引き抜きと酸素欠陥の修復が効率よく行われたものと考えられる。
また、工程Bにおいて、IGZO酸化膜に対してロングアークフラッシュランプ(キセノンフラッシュランプ)から図5に示す分光放射スペクトル特性を有する光エネルギーを与える量が条件(2)のときより大きい条件(3)のときの方が、条件(2)のときと比べると、IGZO酸化膜への酸素の拡散が十分に行われたものと考えられる。
【0098】
一方、工程Aを省略して工程Bの熱アニール作用のみを施した条件(4)の場合、IGZO酸化膜は、半導体特性が付与されていない。これは、工程Aによる水素引き抜き作用と酸素欠陥の修復作用がIGZO膜になされないまま熱アニールが行われているので、酸素欠陥の修復作用の拡散がなされなかったためと考えられる。
また、IGZO酸化膜に対して与えられる図5に示す分光放射スペクトル特性を有する光エネルギーが、実験1の条件(4)においては11J/cm2であるのに対し、実験2の条件(4)においては2.5J/cm2と小さいので、IGZO膜の状態が(条件1)の光照射なしのときと状態があまり変わっていないものと考えられる。
【0099】
なお、上記した条件(2)、条件(3)において、サファイアフラッシュランプの発光とロングアークフラッシュランプ(キセノンフラッシュランプ)の発光とは同じタイミングで実施したがこれに限るものではない。サファイアフラッシュランプの発光後もしばらくの間ロングアークフラッシュランプの発光が継続しているのであれば、例えば図19(a)(b)に示すように、サファイアフラッシュランプの発光に先んじてロングアークフラッシュランプが発光するように、両ランプの発光タイミングを設定することも可能である。
このような両ランプの発光タイミングの設定は、アモルファス酸化膜の種類、成膜状態、基板の耐熱温度、酸素拡散の度合い、各ランプからアモルファス酸化膜に与えられるエネルギー等を考慮して適宜決定される。
【0100】
また、工程A用の光源としてショートアークフラッシュランプを採用した図16に示す薄膜トランジスタの製造装置を用いて同様の実験を行ってみた。使用したショートアークフラッシュランプは、上記したように、電極間距離は3mmであって、発光管内部のキセノンガス圧力は5atm(507kPa)、電流は5000Aである。このフラッシュランプから放出される光の分光放射スペクトルは図13(c)に示す通りである。
ここで、ショートアークフラッシュランプ1回の発光によって、IGZO酸化膜に対して図13(c)に示す分光放射スペクトル特性を有する光エネルギーは、約0.072J/cm2であった。また、発光パルスの発光パルス幅は10μs(半値全幅:FWHM)であった。
【0101】
工程A用の光源としてサファイアフラッシュランプを採用した図15に示す薄膜トランジスタの製造装置を用いた場合と比較すると、工程Aにおいて、ショートアークフラッシュランプ1回の発光よってIGZO酸化膜に対して与えられる光エネルギーは、サファイアフラッシュランプ1回の発光によってIGZO酸化膜に対して与えられる光エネルギーよりかなり小さい。
よって、工程Aの光照射を行う場合、ショートアークフラッシュランプを複数回発光させて、そのトータルの光エネルギー量がサファイアフラッシュランプ1回の発光によってIGZO酸化膜に対して与えられる光エネルギーとほぼ同等となるようにした。
【0102】
図20に、ショートアークフラッシュランプを用いた場合の上記実験2の条件2、条件3に相当する発光タイミングチャートの模式図を示す。図20(a)はショートアークフラッシュランプの発光タイミングを示し、図20(b)にキセノンフラッシュランプの発光タイミングを示す。図20(a)に示すように、工程A用のショートアークフラッシュランプを複数回発光させ、ショートアークフラッシュランプの最後の発光タイミングとほぼ同じタイミングで、図20(b)に示すように工程B用のロングアークフラッシュランプ(キセノンフラッシュランプ)を発光させた。なお、ショートアークフラッシュランプの発光周波数は30Hzであった。
このようにして実験を行ったところ、実験結果は上記実験2と同様の傾向を示した。すなわち、大気雰囲気中に設置され、温度が室温であるワークに対しては、本発明の工程A、工程Bの処理を行ったときのみ、IGZO膜に半導体特性が付与された。
【0103】
なお、工程A用のショートアークフラッシュランプと工程B用のロングアークフラッシュランプ(キセノンフラッシュランプ)の発光パターン(発光タイミングチャート)は図20に示すものに限るものではない。例えば、図21(a)(b)に示すように、ショートアークフラッシュランプの発光周波数を大きくしてもよいし、複数回のショートアークフラッシュランプの発光と1回のロングアークフラッシュランプの発光からなる発光パターンセットを複数セット実施してもよい。
また、図示は省略したが、発光パターンセットは複数回のショートアークフラッシュランプの発光と複数回のキセノンフラッシュランプの発光とを組み合わせて構成してもよい。
このような両ランプの発光タイミングの設定は、アモルファス酸化膜の種類、成膜状態、基板の耐熱温度、酸素拡散の度合い、各ランプからアモルファス酸化膜に与えられるエネルギー等を考慮して適宜決定される。
【符号の説明】
【0104】
1 処理室
2 光源部
3,3a,3b,3d 反射鏡
3c 突起部
4 給電手段
5 排気手段
6 エアフィルタ
6a 吸入口
7 ワーク
8 ワークステージ
9 制御部
10 希ガス蛍光ランプ
11a,11b 電極
13 ガラス管
14 紫外線反射膜
15 低軟化点ガラス層
16 蛍光体層
17 保護膜
20 フラッシュランプ
21 石英ガラス管
22a,22b 電極
23 封止部
24 外部リード
30 ショートアークフラッシュランプ
31 光透過性バルブ
32a,32b 電極
34 ステム
33a,33b トリガー用電極
35,36 外部リード
40 サファイアフラッシュランプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に少なくともゲート電極、ソース電極、ドレイン電極、半導体層、ゲート絶縁膜が形成されてなり、上記半導体層がアモルファス金属酸化物からなる薄膜トランジスタの製造方法であって、
酸素含有雰囲気において、
基板上に設けられた上記酸化物に対し、
活性酸素が生成する波長域と上記酸化物を活性化して上記酸化物に混入する水素を引き抜く波長域とを含む光を照射する工程Aと、
上記酸化物に混入する水素が引き抜かれ上記酸化物近傍に活性酸素が生成されている状態において、上記酸化物内への酸素の拡散を促進するよう上記酸化物を加熱する波長域を含む光を照射する工程Bとを含む
ことを特徴とする薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項2】
基板上に少なくともゲート電極、ソース電極、ドレイン電極、半導体層、ゲート絶縁膜が形成されてなり、上記半導体層がアモルファス金属酸化物からなる薄膜トランジスタの製造装置であって、
酸素含有雰囲気中に保持される、上記薄膜トランジスタに光照射する少なくとも1本の第1のランプと、上記薄膜トランジスタに光照射する少なくとも1本の第2のランプと、
上記第1のランプおよび第2のランプから放出される光を上記薄膜トランジスタへ反射する反射鏡と、上記第1のランプおよび第2のランプに電力を供給する給電装置とからなり、
上記第1のランプは、基板上に設けられた上記酸化物に対し、活性酸素が生成する波長域と上記酸化物を活性化して上記酸化物に混入する水素を引き抜く波長域とを含む光を放出するものであり、
上記第2のランプは、基板上に設けられた上記酸化物に対し、上記酸化物に混入する水素が引き抜かれ上記酸化物近傍に活性酸素が生成されている状態において、上記酸化物内への酸素の拡散を促進するよう上記酸化物を加熱する波長域を含む光を放出するものである
ことを特徴とする薄膜トランジスタの製造装置。
【請求項3】
上記第1のランプは、波長230nm以下の波長域を含む光を放出する希ガス蛍光ランプであり、
上記第2のランプは、波長800nm以上の波長域を含む光を放出するフラッシュランプである
ことを特徴とする請求項2記載の薄膜トランジスタの製造装置。
【請求項4】
上記薄膜トランジスタの製造装置は、
フラッシュランプから放出される光が希ガス蛍光ランプに照射されないように遮光する遮光手段を有する
ことを特徴とする請求項3記載の薄膜トランジスタの製造装置。
【請求項5】
上記遮光手段は、希ガス蛍光ランプの一部を包囲する第2の反射鏡である
ことを特徴とする請求項4記載の薄膜トランジスタの製造装置。
【請求項6】
上記遮光手段は、上記反射鏡の反射面の一部に設けられた突起部であり、
上記第1のランプおよび第2のランプのうちの一方は上記突起部に包囲されるように配置され、
上記第1のランプおよび第2のランプのうちの他方は上記反射鏡の突起部ではない平坦な反射面に対向する位置に配置され、
突起部の形状、および、この突起部に包囲される一方のランプの配置位置、反射鏡の突起部ではない平坦な反射面に対向する他方のランプの配置位置は、一方のランプから放射される光が他方のランプには照射されないように決定されている
ことを特徴とする請求項4記載の薄膜トランジスタの製造装置。
【請求項7】
上記第1のランプは、波長230nm以下の波長域を含む光を放出するフラッシュランプであり、
上記第2のランプは、波長800nm以上の波長域を含む光を放出するフラッシュランプである
ことを特徴とする請求項2記載の薄膜トランジスタの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2013−74255(P2013−74255A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−214414(P2011−214414)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000102212)ウシオ電機株式会社 (1,414)
【Fターム(参考)】