説明

酸化物単結晶ウエーハおよび酸化物単結晶ウエーハの製造方法ならびにSAWデバイスの製造方法

【課題】SAWデバイスなどの製造工程のスループットを向上すると同時にウエーハの割れを抑えることのできる酸化物単結晶ウエーハおよび酸化物単結晶ウエーハの製造方法ならびにSAWデバイスの製造方法を提供する。
【解決手段】酸化物単結晶ウエーハであって、少なくとも、ウエーハの表側面と、該表側面の反対側の裏側面と、外周面のうち、いずれか一つ以上の面に割れ防止のための絶縁性被膜を有するものである酸化物単結晶ウエーハおよび酸化物単結晶ウエーハの製造方法ならびに上記酸化物単結晶ウエーハにSAWデバイスを形成するSAWデバイスの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脆性材料、特に弾性表面波素子などの作製に用いられるウエーハ上に金属電極でパターンを形成して電気信号を処理する用途等に使用されるタンタル酸リチウム結晶ウエーハやニオブ酸リチウム結晶ウエーハといった酸化物単結晶ウエーハに関する。
【背景技術】
【0002】
タンタル酸リチウム結晶(以後LTと記載する場合がある)、ニオブ酸リチウム結晶(LN)は、弾性表面波(SAW)の信号処理といった電気的特性を利用する用途に使用されている。
【0003】
このような酸化物単結晶ウエーハであるLTウエーハ、LNウエーハを用いたSAWデバイスは例えば非特許文献1にあるように、次のように製造されている。
まず、適当な単結晶育成法、例えばチョクラルスキー法により育成された酸化物単結晶インゴットを所定の形状、方位となるように研削、切断加工を行い、弾性表面波の伝播面に鏡面研磨加工を施し、酸化物単結晶ウエーハを作製する。次に、主にアルミニウムからなる膜を形成し、フォトリソグラフィを使用した微細加工技術により所定形状の電極を形成する。
【0004】
上記のようなSAWデバイスの製造工程では、金属膜の蒸着、レジスト層の形成、除去といった工程で酸化物単結晶ウエーハに熱が加わる工程がある。
そして、昇温あるいは降温といった温度変化が酸化物単結晶ウエーハに与えられると、歪が生じ、ウエーハが割れることがある。例えばタンタル酸リチウム結晶は熱膨張係数に異方性があるため歪が生じやすく、その近傍の表面のキズを起点としてウエーハが割れるものと考えられる。
【0005】
また、上記のような温度変化がLTウエーハ、LNウエーハに与えられると、焦電性によりウエーハの表面に電荷が発生する。ウエーハ表面に蓄積した電荷は空間中に急に放電されることがあり、その際にウエーハが割れることがある。これは、急激な電荷量の変化により歪が生じ、その近傍の表面のキズを起点としてウエーハが割れるものと考えられる。
【0006】
なお、上記温度変化によって熱膨張係数の異方性及び焦電性からウエーハが割れるのは、特にウエーハ外周部、すなわち外周面や表側面・裏側面の縁付近を起点とする場合が多い。
【0007】
また、LTウエーハやLNウエーハと、製造装置や冶具が接触した際に割れることがある。これは接触衝撃によるものと考えられるが、さらに双方の温度差により助長されて割れが発生するものと考えられる。冶具の接触はウエーハ外周部であることが多く、そのためウエーハ外周部を起点とする割れが多い。
【0008】
従って、従来、SAWデバイスの製造工程ではできるだけ温度変化を与えないように工夫をしたり、温度変化を緩やかにする工夫をしているが、これらの工夫のために製造工程のスループットが低下するという不利益が生じている。
【0009】
【非特許文献1】弾性波素子技術ハンドブック オーム社 289−302頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、SAWデバイスなどの製造工程のスループットを向上すると同時に割れの発生を抑えることのできる酸化物単結晶ウエーハおよび酸化物単結晶ウエーハの製造方法ならびにSAWデバイスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであって、酸化物単結晶ウエーハであって、少なくとも、ウエーハの表側面と、該表側面の反対側の裏側面と、外周面のうち、いずれか一つ以上の面に割れ防止のための絶縁性被膜を有するものであることを特徴とする酸化物単結晶ウエーハを提供する(請求項1)。
【0012】
このように、少なくとも、ウエーハの表側面と、該表側面の反対側の裏側面と、外周面のうち、いずれか一つ以上の面に割れ防止のための絶縁性被膜を有するものであれば、ウエーハ表面のキズが上記絶縁性被膜(以下、単に被膜と記載する場合がある)により埋められたものとすることができる。
例えばデバイス製造工程中の熱処理等でウエーハに温度変化が生じ、熱膨張係数の異方性や焦電性から歪が発生しても、上記のように割れの起点となるウエーハ表面のキズは絶縁性被膜で埋められ被われているため、ウエーハが割れるのを効果的に防ぐことができる。表面全てに絶縁性被膜を有するものが最良であるが、例えば外周面のみ被膜されたものであっても割れは外周部より発生する場合が多いので、被膜がない場合に比べ十分に割れを抑制することができる。
なお、ここで言う表面とは表側面、裏側面、外周面といった部分を問わず、露出している全ての面をさす。
【0013】
また、例えばウエーハが製造装置や冶具等と接触した時の、冶具とウエーハとの温度差により生じる急激な変形や、ウエーハへの衝撃を、上記絶縁性被膜を介することにより緩和することができるため、これらを原因とするウエーハの割れの発生を抑制することが可能である。
【0014】
このとき、前記絶縁性被膜は塗布膜であるのが好ましい(請求項2)。
このように、前記絶縁性被膜は、例えばローラーを用いたり、ディップコーティングにより塗布して形成されたものとすることができ、簡易でコストが抑えられたものとすることができる。
【0015】
また、前記酸化物単結晶が、タンタル酸リチウム結晶またはニオブ酸リチウム結晶であることが可能である(請求項3)。
このように、前記酸化物単結晶が、タンタル酸リチウム結晶またはニオブ酸リチウム結晶であれば、焦電性を有しているため電荷が蓄積されるが、急な放電が発生した場合にも、割れの起点となるキズが絶縁性被膜により埋められているため割れを生じにくくすることができ、極めて有効である。
【0016】
さらに、前記絶縁性被膜は、面積抵抗率が1×10Ω以上であるのが好ましい(請求項4)。
このように、前記絶縁性被膜は、面積抵抗率が1×10Ω以上であれば、ウエーハ表面にある程度の電気抵抗を有したものとすることができる。このため、例えばSAWデバイスに使用されるような、ウエーハを絶縁体とみなすような構造で、ある程度の電気抵抗を要するデバイスを製造するのに好適な酸化物単結晶ウエーハとすることができる。
【0017】
前記絶縁性被膜が金属酸化物ポリマーまたは金属酸化物からなるものであるのが好ましい(請求項5)。また、合成樹脂からなるものであっても良い(請求項6)。
このように、前記絶縁性被膜が金属酸化物ポリマーまたは金属酸化物、合成樹脂からなるものであれば、より効果的に、ウエーハ表面のキズが埋められて割れの起点をなくすことができ、また、冶具等との接触時のウエーハの変形やウエーハへの衝撃を緩和することができるものとなる。
そして、ウエーハとよく密着し、剥離しにくく、上記効果を満足に得られるものとすることができる。
特に合成樹脂であれば、被膜形成時に酸化物ウエーハに高温の熱処理を施すことなく例えば紫外線照射により硬化して形成することもできる。
【0018】
さらに、前記絶縁性被膜の厚さが100nm以上1mm以下であるのが好ましい(請求項7)。
このように、前記絶縁性被膜の厚さが特に100nm以上1mm以下であれば、効果的にウエーハの割れの発生を低減することができ、また、ウエーハから剥離しにくい被膜とすることができる。
【0019】
また、本発明は、酸化物単結晶ウエーハを製造する方法であって、酸化物単結晶インゴットをウエーハ状に加工した後、少なくとも、該ウエーハの表側面と、該表側面の反対側の裏側面と、外周面のうち、いずれか一つ以上の面に割れ防止のための絶縁性被膜を形成することを特徴とする酸化物単結晶ウエーハの製造方法を提供する(請求項8)。
【0020】
このように、酸化物単結晶インゴットをウエーハ状に加工した後、少なくとも、該ウエーハの表側面と、該表側面の反対側の裏側面と、外周面のうち、いずれか一つ以上の面に割れ防止のための絶縁性被膜を形成すれば、ウエーハ表面のキズを上記絶縁性被膜により埋めることができ、ウエーハに温度変化が生じても割れにくい酸化物単結晶ウエーハを製造することができる。
上記のように、ウエーハ表面のキズを埋めることによって割れの起点をなくし、例えばデバイス製造工程中の熱処理等でウエーハに温度変化が生じ、熱膨張係数の異方性や焦電性から歪が発生しても、ウエーハに割れが発生するのを抑制することが可能である。
【0021】
また、例えばウエーハが製造装置や冶具等と接触した時の、冶具とウエーハとの温度差による急激な変形や、ウエーハへの接触時の衝撃を緩和することのできる酸化物単結晶ウエーハを製造することができる。
【0022】
このとき、前記絶縁性被膜を塗布により形成するのが好ましい(請求項9)。
このように、前記絶縁性被膜を例えばローラーを用いたり、ディップコーティングにより塗布して形成すれば、簡易かつコストをかけずに効率良く割れにくい酸化物単結晶ウエーハを製造することができる。
【0023】
そして、前記酸化物単結晶を、タンタル酸リチウム結晶またはニオブ酸リチウム結晶とすることができる(請求項10)。
このように、前記酸化物単結晶を、タンタル酸リチウム結晶またはニオブ酸リチウム結晶とすれば、焦電性を有しているが、割れの発生しにくいLTウエーハ、LNウエーハを製造することが可能である。
【0024】
このとき、前記絶縁性被膜として、面積抵抗率が1×10Ω以上のものを形成するのが好ましい(請求項11)。
このように、前記絶縁性被膜として、面積抵抗率が1×10Ω以上のものを形成すれば、ウエーハ表面にある程度の電気抵抗を有した酸化物単結晶ウエーハを製造することができる。これにより、例えばSAWデバイス等のある程度の電気抵抗を要するデバイスを製造するのに好適な酸化物単結晶ウエーハを製造することができる。
【0025】
また、前記絶縁性被膜を金属酸化物ポリマーまたは金属酸化物とするのが好ましい(請求項12)。また、合成樹脂としても良い(請求項13)。
このように、前記絶縁性被膜を金属酸化物ポリマーまたは金属酸化物、合成樹脂とすれば、効果的に、割れの起点となるウエーハ表面のキズを埋めることができ、また、ウエーハと冶具等の接触時における温度差から生じるウエーハの変形やウエーハへの衝撃を緩和することができる。さらにウエーハ表面とよく密着して剥離しにくく、割れ抑制の効果を十分に得ることができる。
また、特に合成樹脂とすれば、高温の熱処理を施さずに被膜を密着形成する場合に極めて有効である。
【0026】
さらに、前記絶縁性被膜の厚さを100nm以上1mm以下とするのが好ましい(請求項14)。
このように、前記絶縁性被膜の厚さを例えば100nm以上1mm以下とすれば、効果的にウエーハの割れの発生を低減することができ、さらに上記被膜が剥離しにくい酸化物単結晶ウエーハを製造することができる。
【0027】
また、本発明の酸化物単結晶ウエーハにSAWデバイスを形成するのが好ましい(請求項15)。
このように、本発明の酸化物単結晶ウエーハにSAWデバイスを形成すれば、例えばデバイス工程における熱処理時や、また、冶具等との接触時等においても割れが発生しにくいため、効率良く、そして生産性高くSAWデバイスを製造することが可能である。
【発明の効果】
【0028】
本発明のような酸化物単結晶ウエーハおよび酸化物単結晶ウエーハの製造方法ならびにSAWデバイスの製造方法であれば、割れの発生しにくい酸化物単結晶ウエーハを得ることができ、さらにはSAWデバイスを生産性高く製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下では、本発明の実施の形態について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
脆性材料であるLTウエーハやLNウエーハのような酸化物単結晶ウエーハを用いたSAWデバイスの製造工程では、例えば金属膜の蒸着等、ウエーハに熱処理を施す工程があり、これらの工程でウエーハに温度変化が生じると、熱膨張係数の異方性や焦電性から歪が生じ、ウエーハ表面のキズを起点としてウエーハに割れが発生することがあった。
また、ウエーハが冶具等と接触した時、ウエーハと冶具との温度差により生じる急激な変形や、接触時の衝撃により割れが発生してしまう問題があった。
また、これらの問題を考慮し、デバイス製造工程の熱処理において温度変化を緩やかにしてしまうと、生産性が低下してしまう。
【0030】
そこで、本発明者は、少なくとも、ウエーハの表側面と裏側面と外周面のうち、いずれか一つ以上の面に割れ防止のための絶縁性被膜をすることによって、効果的にウエーハの割れを防止できることを見出し、このような絶縁性被膜を有する酸化物単結晶ウエーハおよびその製造方法、ならびに上記酸化物単結晶ウエーハを用いたSAWデバイスの製造方法を考え出した。
【0031】
このような酸化物単結晶ウエーハおよびその製造方法であれば、上記絶縁性被膜によって、割れの起点となるキズが埋められて、割れが生じるのを抑制することができ、また、接触時の上記衝撃や変形を緩和して割れの発生を抑えることのできるウエーハとすることができる。
また、上記酸化物単結晶ウエーハにSAWデバイスを形成するSAWデバイスの製造方法であれば、デバイス製造工程の熱処理等で割れが発生しにくく、必要以上に昇降温速度を低下させたりする必要がないので生産性高くSAWデバイスを製造することができる。
本発明者らは、これらのことを見出し、本発明を完成させた。
【0032】
まず、本発明の酸化物単結晶ウエーハについて図を参照して詳細に説明する。
図1に示すように、本発明の酸化物単結晶ウエーハ1は、少なくとも、ウエーハ(酸化物単結晶3)の表側面4と、該表側面4の反対側の裏側面5と、外周面6のうち、いずれか一つ以上の面に割れ防止のための絶縁性被膜2を有している。
【0033】
このとき、酸化物ウエーハ1の使用目的により、被膜2を形成することができない部分が発生することがある。例えば表側面4への形成が問題となる場合、裏側面5への形成が問題ないのであれば、裏側面5に被膜2が形成されていれば良い(図1(A)参照)。また、製品とならないことが多いウエーハの外周部のみに形成するようにしても良い(より正確には、外周面6や、ウエーハの表側面4・裏側面5の縁から数mm幅の部分に被膜が形成されているものとする(図1(B)参照))。この場合、当然、裏側面5及び外周面6に形成されていても良い(図1(C)参照)。ウエーハの表面全て、すなわち表側面4、裏側面5、外周面6の全てに被膜2が形成されているもの(図1(D)参照)が最良であるが、上記のように、いずれか一つ以上の面に形成されていれば被膜がない場合に比べて、後述する効果を十分に得ることができる。特に、割れは外周部から発生することが多いし、外周部はデバイス作成上も問題とならないので、少なくとも被膜を外周部に形成するのが好ましい。
【0034】
上述したように、例えばデバイス製造工程中の熱処理でウエーハの温度が変化した場合、焦電性を有するウエーハであれば、表面に電荷が発生し、放電が生じることがある。このときの急激な電荷量の変化で歪が生じ、ウエーハ表面のキズを起点として割れが発生することがある。
また、熱膨張係数に異方性がある場合は、上記温度変化により歪が発生しやすく、その歪の近傍の表面のキズを起点として割れてしまうことがある。
さらには、ウエーハと冶具等との接触時に、接触による衝撃や、双方の温度差による急激なウエーハの変形から割れることがある。
【0035】
しかしながら、本発明の酸化物単結晶ウエーハであれば、上記絶縁性被膜により、割れの起点となるウエーハ表面のキズが埋められているため、また、接触時の衝撃や変形を緩和することができることから、割れが発生するのを効果的に防止することができる。
【0036】
この絶縁性被膜は塗布膜であるのが好ましく、例えばローラーやバーを用いたり、ディップコーティングやスピンコーティング、あるいはハケによるコーティング等によって、ウエーハ表面に塗布して形成することが可能である。上記のように、塗布によるものであれば、大型の設備を必要とせず、簡易かつコストを抑えて被膜が形成されたものとすることができる。特に、成膜するのに高温熱処理が不要であるので好ましい。
なお、真空蒸着、CVD、スパッタリング等の方法により被膜が形成されたものであっても良い。
【0037】
そして、前記絶縁性被膜は、面積抵抗率が例えば1×10Ω以上であるのが好ましく、例えばSAWデバイスに使用されるような、ウエーハを絶縁体とみなすような構造で、ある程度の電気抵抗を要するデバイスを製造するのに好適な酸化物単結晶ウエーハとすることができる。
【0038】
また、前記絶縁性被膜が金属酸化物ポリマーまたは金属酸化物、合成樹脂からなるものであるのが好ましい。例えば珪素酸化物ポリマー、シリカガラス、アクリル樹脂が挙げられるが、当然これらに限定されるものではない。
被膜がこれらで形成されたものであれば、より効果的に、ウエーハ表面のキズを埋めることができ、ウエーハ割れの起点をなくし、また、ウエーハの変形やウエーハへの衝撃を緩和することができるものとなる。これらはウエーハとよく密着するため剥離が生じにくい点でも好ましい。
さらに、被膜形成時において高温の熱処理を施すのを避ける場合は合成樹脂が最適である。特に、熱処理を全く施さずとも、紫外線照射によって硬化させて被膜を形成することができる光硬化性の樹脂を用いるのが好ましい。
【0039】
そして、前記絶縁性被膜の厚さは100nm以上1mm以下であるのが好ましい。被膜の厚さは特に限定されるものではなく、主に、ウエーハ表面のキズの深さ、面粗さなどからその都度決定することができる。例えば、キズの深さが3μmである場合、このキズを埋めるためには同等の3μm以上が必要となる。
しかしながら、本発明者は鏡面加工を施した酸化物単結晶ウエーハを用意し、被膜の厚さについて鋭意検討を行った結果、100nm以上の厚さであれば、より効果的にウエーハの割れを低減することができることを知見した。さらには、1mm以下の厚さであれば、被膜の剥離の発生を著しく抑制することができることを発見した。
このように、被膜が上記範囲の厚さのものであれば、より割れにくく、また被膜が剥離しにくい良質の酸化物単結晶ウエーハとすることができる。
【0040】
また、例えば酸化物単結晶がタンタル酸リチウム結晶またはニオブ酸リチウム結晶、すなわちLTウエーハ、LNウエーハであれば、焦電性を有するものであるため、特に割れが発生し易いので、極めて本発明が有効である。
なお、本発明は上記のLTウエーハやLNウエーハに限定するものではなく、脆性材料である酸化物単結晶ウエーハ全てに適用することのできるものである。
【0041】
次に、上記のような酸化物単結晶ウエーハを製造する方法について説明する。
まず、例えばチョクラルスキー法によって酸化物単結晶インゴットを育成し、内周刃ブレード用スライサーないしワイヤーソー等を用いて切断して板状のウエーハを得る。次いで得られたウエーハをラッピング工程や研磨工程にかける。
【0042】
なお、前記酸化物単結晶を、例えばタンタル酸リチウム結晶またはニオブ酸リチウム結晶とすることができる。上記のように、焦電性を有するLTウエーハやLNウエーハに対して本発明は特に有効であり、ウエーハの割れを効果的に抑制することが可能である。また、脆性材料であり、割れ易い酸化物単結晶ウエーハ全てに対して当然適用することができ、これらタンタル酸リチウム結晶やニオブ酸リチウム結晶に限定されない。
【0043】
そして、上記のようにして得られたウエーハの少なくとも一つ以上の面に、例えばアルコキシシラン加水分解物を塗布し、熱処理を施す。
アルコキシシラン加水分解物は、例えばSi(OC、CHSi(OC、COHを混合後攪拌し、そこに希塩酸を加えて加水分解を行い、ゾルとして得ることができる。このゾルを用いて、例えばディップコーティングを行うことにより酸化物単結晶ウエーハの表面にアルコキシシラン加水分解物を塗布する。アルコキシシラン加水分解物を塗布すれば、細いキズでも良好に浸透し、最適である。
【0044】
次に、ウエーハに密着させるために低温熱処理を行うが、例えば150℃、1時間であるときは珪素酸化物ポリマーとなり、500℃、1時間であればシリカガラスとなる。熱処理温度は酸化物ウエーハの種類や使用目的により総合的に決定されるものであり、それによって被膜の最終的な形態がポリマー、ガラスあるいはその中間といった架橋構造となる。
【0045】
また、例えばアクリルオリゴマーを酸化物単結晶ウエーハに塗布し、紫外線を照射することによって硬化してアクリル樹脂とすることができる。このように、絶縁性被膜を合成樹脂とすれば、熱処理を施さずとも紫外線照射により被膜を形成することができる。
【0046】
このように、金属酸化物ポリマーまたは金属酸化物、合成樹脂により上記の割れ防止のための絶縁性被膜を形成すれば、割れの起点となるウエーハ表面のキズが細かいものであっても確実に埋めることができるし、また、効果的にウエーハの変形やウエーハへの衝撃を緩和することができる。さらに、ウエーハによく密着し、剥離しにくい被膜とすることができる。
【0047】
また、上記のように、塗布方法はディップコーティングに限定されず、ローラーやバーを使用したり、スピンコーティングやハケ塗りでも良く、ウエーハに塗布するものに対応して決定することができる。このように塗布により被膜を形成することによって、設備も手順も簡便であり、コストをかけずに被膜を形成することが可能である。
この場合、被膜を形成する面については、その酸化物単結晶ウエーハの使用目的に応じて決定されるが、ウエーハの全面に被膜を形成する場合はディップコーティングが好ましく、片面のみに形成する場合はローラーやハケ塗りが好ましく、図1(c)のような片面と外周面に形成する場合はスピンコーティングで行うのが好ましい。もちろん、ウエーハ全面に被膜を形成してから、不要部を除去するようにしても良い。
なお、例えば真空蒸着やCVD、スパッタリングのような方法によって、金属酸化物の被膜を直接形成することも可能である。
【0048】
このとき、前記絶縁性被膜として、面積抵抗率が例えば1×10Ω以上のものを形成するのが好ましい。このようにすれば、SAWデバイスのような、ある程度の電気抵抗を要するデバイスを作製するのに好適な酸化物単結晶ウエーハを製造することが可能である。用途によって所望の面積抵抗率を決定し、その面積抵抗率を満足するように材料を適宜選択して被膜を形成すれば良い。
【0049】
また、前記絶縁性被膜を100nm以上1mm以下の厚さにするとより良い。上記のように、被膜の厚さは特に限定されず、ウエーハ表面のキズの深さや面粗さなどから決定して形成すれば良いが、特に100nm以上の厚さとすれば、100nm未満の場合よりも効果的にウエーハの割れを低減することができ、さらには、1mm以下とすれば、被膜が剥離するのを抑制することができる。このように被膜の厚さを上記範囲に調整することによって、被膜が剥離しにくく、より割れが発生しにくい酸化物単結晶ウエーハを得ることが可能である。
【0050】
以上のようにして酸化物単結晶ウエーハを製造する方法であれば、絶縁性被膜により割れの起点であるウエーハ表面のキズを埋めることができ、ウエーハに温度変化が生じても割れの発生を抑制することが可能な酸化物単結晶ウエーハが得られる。また、冶具等との接触時における衝撃および冶具との温度差による急激な変形を緩和し、割れにくい酸化物単結晶ウエーハを製造することができる。なお、被膜は一つ以上の面に形成すれば良い。ただし、特に割れの起点となりやすい外周面に被膜を形成すると一層効果的である。さらには全ての面に形成するのが最良である。
【0051】
そして、このようにして得られた酸化物単結晶ウエーハに、例えばアルミニウムからなる膜を形成し、フォトリソグラフィによりパターン形成して所定形状の電極を形成してSAWデバイスを製造する。これは従来の通常のSAWデバイス製造工程と同様の工程で得ることができる。
【0052】
このように本発明の酸化物単結晶ウエーハにSAWデバイスを形成すれば、上述したように、このデバイス製造工程において熱処理等を施しても酸化物単結晶ウエーハに割れが発生しにくく、そのため効率良く、必要以上に製造工程における昇降温速度を低下させる必要がないので生産性高くSAWデバイスを製造することが可能である。
【実施例】
【0053】
以下に本発明の実施例および比較例をあげてさらに具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
(実施例1)
LTウエーハの全表面に珪素酸化物ポリマーの被膜を形成した。
LTウエーハは、チョクラルスキー法によりLT単結晶インゴットを引き上げ、ウエーハ状に加工し、研磨加工を施して、直径100mm、厚さ0.35mm、36°Yカット、表側面が鏡面仕上げ、裏側面および外周面は面粗さRaが300〜400nm仕上げのものを用意した。このLTウエーハを信越化学工業製のアルコキシシラン加水分解物のゾル、粘度5×10−3Pa・sの溶液に浸漬し、引上げ後、150℃、1時間の熱処理を行った。このようにして全表面に被膜を有する本発明の酸化物単結晶ウエーハを得た。被膜の厚さは3μmであった。また、面積抵抗率は2.3×1010Ωであった。
【0054】
上記のような本発明のLTウエーハを10枚用意し、以下の強度試験1および密着性試験を行った。
(強度試験1)
ウエーハの抗折強度を測定し、10枚の平均値を評価値とした。
(密着性試験)
また、JIS K5400に準拠し、表側面をカミソリの刃で1mm間隔の縦横11本ずつ切り目を入れて100個のゴバン目を作り、市販粘着テープをよく密着させた後、90度手前方向に急激に剥がした時、被膜が剥離せずに残存したます目数(X)を評価した。この結果をX/100と表記する。
強度試験1の結果、抗折強度は15.3Nであり、密着性試験の結果は100/100であった。
【0055】
(比較例1)
実施例1と同様にしてインゴットを引き上げ、切り出し、研磨加工を施して作製した従来のLTウエーハを10枚用意し、このLTウエーハに被膜を形成せずに、上記強度試験1を行ったところ、抗折強度は8.9Nであった。
【0056】
(実施例2)
LTウエーハ全表面に珪素酸化物の被膜を形成した。
実施例1と同じLTウエーハを実施例1と同じ溶液に浸漬し、引上げ後、500℃、1時間の熱処理を行った。被膜の厚さは2μmであった。面積抵抗率は8.8×1012Ωであった。
強度試験1と同様の試験の結果、抗折強度は19.6Nであった。また、前述の密着性試験を行い、結果は100/100であった。
【0057】
(実施例3)
LNウエーハ全表面に珪素酸化物ポリマーの被膜を形成した。
LNウエーハは直径100mm、厚さ0.35mm、128°Yカット、表側面が鏡面仕上げ、裏側面および外周面は粗さRaが300〜400nm仕上げのものを用いた。このLNウエーハを実施例1と同じ溶液に浸漬し、引上げ後、150℃、1時間の熱処理を行った。被膜の厚さは5μmであった。面積抵抗率は5.1×1010Ωであった。
強度試験1を行い、抗折強度は14.6Nであった。また、密着性試験を行ったところ、100/100であった。
【0058】
(実施例4)
LTウエーハ裏側の面に合成樹脂であるアクリル樹脂の被膜を形成した。
実施例1と同じLTウエーハの裏側の面に三菱レイヨン製ダイヤビームをバーコーターを用いて乾燥後の被膜の厚さが6μmとなるように塗布し、出力120W/cmの高圧水銀灯を光源として紫外線を500mJ/cm照射して硬化させて被膜を形成した。面積抵抗率は3.4×1013Ωであった。
強度試験1を行い、抗折強度は15.2Nであった。また、密着性試験を行ったところ、100/100であった。
【0059】
また、乾燥後の被膜の厚さが50nm、100nm、1mm、1.2mmとなるように被膜を形成した。
強度試験1、密着性試験の結果を以下の表1に示す。表1から判るように、被膜の厚さが100nm以上であればより高い強度が得られる。また、1mm以下であれば、密着性が極めて高いものとすることができることが判る。
【0060】
【表1】

【0061】
(実施例5)
LTウエーハ裏側の面及び外周面に珪素酸化物の被膜を形成した。
実施例1と同様にインゴットから切り出してLTウエーハを用意して、同じようにまず全表面に被膜を形成し、表側の面のみ研磨加工を施し被膜を除去し、鏡面仕上げとした。
強度試験1を行い、抗折強度は12.7Nであった。
【0062】
(実施例6)
LTウエーハの外周面に珪素酸化物の被膜を形成した。
実施例1と同様にインゴットから切り出してLTウエーハを用意して、同じように全表面に被膜を形成し、表側面及び裏側面を研磨加工により被膜を除去し、表側面は鏡面仕上げ、裏側面は粗さRaが300〜400nm仕上げとした。
このようなウエーハを20枚用意し、以下の強度試験2を行った。
(強度試験2)
200mm四方、10mm厚さのステンレス製の板を用意し、ステンレス板の中心の直上80mmのところからウエーハを落下させ、割れなかったウエーハの度合いを評価する。割れなかったウエーハ数を評価値とし、パーセンテージで示す。
結果は、100%であり、すなわち1枚もウエーハは割れなかった。
【0063】
(比較例2)
実施例1と同様にしてインゴットを引き上げ、切り出し、研磨加工を施して作製した従来のLTウエーハを20枚用意し、上記強度試験2を行ったところ、結果は割れなかったウエーハは80%であり、すなわち20%が割れた。
【0064】
(実施例7)
実施例1と同様に割れ防止のための絶縁性被膜を全面に形成した後、デバイスを製造する面の部分の被膜を除去し、それ以外の面において被膜を有する本発明のLTウエーハを100枚用意し、それぞれのウエーハに従来と同様のSAWデバイス製造工程にかけた。すなわち、アルミニウムからなる膜を形成し、フォトリソグラフィによりパターン形成して所定形状の電極を形成してSAWデバイスを製造した。
このSAWデバイス製造工程においてウエーハは1枚も割れなかった。
【0065】
(比較例3)
実施例1と同様にしてインゴットを引き上げ、切り出した後、研磨加工を施したLTウエーハ、すなわち被膜のない従来のLTウエーハを100枚用意し、実施例7と同様のSAWデバイス製造工程を施した。
このSAWデバイス製造工程において、100枚中8枚に割れが生じた。
【0066】
以上のように、本発明の酸化物単結晶ウエーハおよびその製造方法、ならびにSAWデバイスの製造方法であれば、従来の酸化物単結晶ウエーハよりも著しく衝撃に対して強く、冶具等と接触しても割れにくくすることができる。また、例えばLTウエーハやLNウエーハのような焦電性を有する酸化物単結晶ウエーハであり、デバイス工程中の熱処理等によりウエーハに温度変化が生じても割れが抑制されて生産性高くSAWデバイスを製造することが可能である。
【0067】
なお、本発明は、上記形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の酸化物単結晶ウエーハの例を示した概略図である。(A)裏側面に絶縁性被膜を有する例である。(B)外周面に絶縁性被膜を有する例である。(C)裏側面及び外周面に絶縁性被膜を有する例である。(D)全ての表面に絶縁性被膜を有する例である。
【符号の説明】
【0069】
1…酸化物単結晶ウエーハ、 2…絶縁性被膜、
3…酸化物単結晶(ウエーハ状)、 4…表側面、 5…裏側面、
6…外周面。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物単結晶ウエーハであって、少なくとも、ウエーハの表側面と、該表側面の反対側の裏側面と、外周面のうち、いずれか一つ以上の面に割れ防止のための絶縁性被膜を有するものであることを特徴とする酸化物単結晶ウエーハ。
【請求項2】
前記絶縁性被膜は塗布膜であることを特徴とする請求項1に記載の酸化物単結晶ウエーハ。
【請求項3】
前記酸化物単結晶が、タンタル酸リチウム結晶またはニオブ酸リチウム結晶であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の酸化物単結晶ウエーハ。
【請求項4】
前記絶縁性被膜は、面積抵抗率が1×10Ω以上であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の酸化物単結晶ウエーハ。
【請求項5】
前記絶縁性被膜が金属酸化物ポリマーまたは金属酸化物からなるものであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の酸化物単結晶ウエーハ。
【請求項6】
前記絶縁性被膜が合成樹脂からなるものであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の酸化物単結晶ウエーハ。
【請求項7】
前記絶縁性被膜の厚さが100nm以上1mm以下であることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の酸化物単結晶ウエーハ。
【請求項8】
酸化物単結晶ウエーハを製造する方法であって、酸化物単結晶インゴットをウエーハ状に加工した後、少なくとも、該ウエーハの表側面と、該表側面の反対側の裏側面と、外周面のうち、いずれか一つ以上の面に割れ防止のための絶縁性被膜を形成することを特徴とする酸化物単結晶ウエーハの製造方法。
【請求項9】
前記絶縁性被膜を塗布により形成することを特徴とする請求項8に記載の酸化物単結晶ウエーハの製造方法。
【請求項10】
前記酸化物単結晶を、タンタル酸リチウム結晶またはニオブ酸リチウム結晶とすることを特徴とする請求項8または請求項9に記載の酸化物単結晶ウエーハの製造方法。
【請求項11】
前記絶縁性被膜として、面積抵抗率が1×10Ω以上のものを形成することを特徴とする請求項8から請求項10のいずれか一項に記載の酸化物単結晶ウエーハの製造方法。
【請求項12】
前記絶縁性被膜を金属酸化物ポリマーまたは金属酸化物とすることを特徴とする請求項8から請求項11のいずれか一項に記載の酸化物単結晶ウエーハの製造方法。
【請求項13】
前記絶縁性被膜を合成樹脂とすることを特徴とする請求項8から請求項11のいずれか一項に記載の酸化物単結晶ウエーハの製造方法。
【請求項14】
前記絶縁性被膜の厚さを100nm以上1mm以下とすることを特徴とする請求項8から請求項13のいずれか一項に記載の酸化物単結晶ウエーハの製造方法。
【請求項15】
請求項8から請求項14のいずれか一項に記載の方法により製造された酸化物単結晶ウエーハにSAWデバイスを形成することを特徴とするSAWデバイスの製造方法。


【図1】
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【公開番号】特開2007−119302(P2007−119302A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−313854(P2005−313854)
【出願日】平成17年10月28日(2005.10.28)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】