説明

酸化物複合材料、その製造方法、電気化学デバイス、および酸化物複合材料を含む触媒

【課題】 金属コーティングされた酸化物を基体材料に担持させた、ナノレベルで構造制御された酸化物複合材料、その製造方法、該酸化物複合材料を使用する電気化学デバイスおよび触媒を提供する。
【解決手段】 本発明の酸化物複合材料は、基体12と、基体12上に付着した酸化物14と、酸化物14を被覆する金属層16とを含む被覆酸化物18とを含んでいる。基体12は、ナノサイズの高アスペクト比を有する粒子とすることができ、具体的には、カーボンナノチューブ、カーボンウィスカー、炭素繊維、またはこれらの混合物からなる群から選択される。また、金属層16は、Cu、Ni、Ag、Au、Pt、Rh、Ru、Pd、Vからなる群から選択される金属、またはCu、Ni、Ag、Au、Pt、Rh、Ru、Pd、Vから選択される少なくとも2種の元素を含む合金とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノレベルで構造を制御した酸化物複合材料に関し、より詳細には、金属コーティングされた酸化物を基体材料に担持させた、ナノレベルで構造制御された酸化物複合材料、その製造方法、該酸化物複合材料を使用する電気化学デバイスおよび触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ナノレベルでの粒子制御技術の進歩に伴い、金属酸化物といった粒子を使用する応用技術が数多く提案されている。これらの技術としては、例えば、クリーンエネルギー、低二酸化炭素放出などの点で燃料電池が注目されている。上述した燃料電池には、種々の触媒および電極材料が使用されており、またその動作温度領域も、溶融塩燃料電池などに使用される1000°K程度、常温付近で動作する燃料電池、および使用する材料特性に応じて、常温付近から溶融塩燃料電池の動作温度までの温度領域、所謂、中温度領域で使用される固体高分子型燃料電池(Polymer Electrolyte Fuel Cell)などが知られている。
【0003】
高温動作燃料電池および低温動作燃料電池は、クリーン発電施設や車両への応用が開始され、地球温暖化への効果が期待されている。一方で、応用的な面では、使用することができる材料の広さ、燃料として使用することができる水素ガスの供給源およびランニングコストといった観点から、常温動作型から中温度領域で動作する燃料電池がより興味を持たれている。このため、種々の複合材料が提案されている。
【0004】
特に、上述した燃料電池の燃料極用の電極材料としては、これまで白金(Pt)触媒を担持させた活性炭などが知られている。従来知られたPt担持材料は、基体材料である活性炭にPtをコーティングまたはPt粒子を付着させた構造を有している。しかしながら、活性炭にPtといった触媒成分を有する金属を付着させるだけでは、触媒毒に対する耐久性が低く、例えば数10ppm程度の一酸化炭素(CO)の存在により触媒能が大きく減少するという不都合があることが知られている。特に燃料電池の普及化・汎用化を達成するため、燃料コストを低減させるべく、天然ガスやバイオマス由来の水素ガスを燃料として使用する場合には、燃料として使用される水素ガスに数10ppm程度のCOガスが含まれることが予測される。このため、従来のPt触媒では未だ充分な性能を得ることができないことが想定される。このような問題は、燃料としてメタノールなどを使用する燃料電池、所謂、DMFC(Direct Methanol Fuel Cell)においても共通の課題となることが予想される。
【0005】
また、触媒毒に対しては、金属酸化物もある程度効果を有していることが知られているものの、金属酸化物単独では触媒活性が低く、触媒を効果的に複合化させる必要があった。COに対する耐久性を改善するために、PtとRu(ルテニウム)とを合金として触媒に使用する検討も行われている。しかしながらその電気化学的性能は未だ充分ではなく、さらに改善することが要求されていた。上述した複合材料の電気化学的特性の改善は、主として電気化学的3層界面を如何にして効率よく生成させて、構造化させるかということに関連する。これまで、電気化学的3層界面を効率的に生成させることにより複合材料の電気化学的特性を改善する試みが種々提案されている。
【0006】
例えば、Matsumotoらは、Chem. Commun., 2004, pp.840-841(非特許文献1)において、基体材料としてカーボンナノチューブ(CNT)を使用し、酸処理による付着サイトを形成させたCNT上にPt微粒子を沈殿法により析出させて担持させた構造のPt−CNT複合材料を提案している。製造された複合材料は、カーボンブラックにPtを担持させた複合材料と比較して、電流密度および電力密度の点で改善された特性を与えることが報告されている。しかしながら、非特許文献1に開示された複合材料は、触媒金属自体をCNT上に担持させることは開示するものの、酸化物を含む複合材料を提供するものではない。また、CNT上に触媒金属が付着することは開示するものの、触媒金属自体は通常高コストなので、さらに触媒金属を効率的に基体上に付着させることが必要とされる。
【0007】
またIoroiらは、Electrochemistry Communications vol. 4, (2002) pp.442-446(非特許文献2)において、CO耐久性を向上させるために三酸化タングステン(WO)、三酸化モリブデン(MoO)などの金属酸化物とPt触媒とを使用する複合材料を提案している。Ioroiらは、まずカーボンブラック粒子に金属酸化物を熱分解により蒸着させ、得られた塊状物を解砕し、その後Pt前駆体であるPt(NO(NHを熱分解することにより三酸化モリブデン被膜の上にPt膜を形成させる方法により複合材料を製造している。得られた複合材料は、電子導電性材料とイオン導電性材料とが複合された構造を有しているものの、解砕工程を経ているために、表面制御性という面で充分ではなく、またドライプロセスにより成膜を行っているため、生産性が充分ではなく、また成膜の均一性、構造制御性に劣るという不都合がある。
【0008】
一方では、貴金属粒子、および無機物微粒子の表面に貴金属を付着させた導電性粒子組成物は、特開2002−334611号公報(特許文献1)に開示されている。特許文献1に開示された導電性粒子組成物は、貴金属粒子などの表面に、より小径の貴金属被覆粒子を付着させることにより製造され、酸化物の粒子と、この酸化物を担持する基体と、に対して被覆制御を行う技術を、何ら開示するものではない。
【0009】
さらに、無機繊維バンドル金属酸化物で被覆し、被覆された無機繊維バンドルをさらに金属で被覆する技術は、特開2001−310157号公報(特許文献2)に開示されている。特許文献2では、無機繊維バンドルを有機金属化合物の加水分解により金属酸化物コーティングし、その後、金属酸化物コーティングされた無機繊維バンドルを、アルミニウム、チタン、クロム、コバルト、亜鉛、スズ、銅またはこれらの合金、ニッケル、クロム、コバルトの超合金などの属融液に挿通して金属コーティングを施している。したがって、特許文献2で開示された技術は、酸化物と、酸化物を担持させた基体とに対して被覆制御を行う技術については何ら開示するものではない。
【0010】
これらの他、特表2002−541320号公報(特許文献3)では、粒子をコーティングする方法であって、コーティングされる粒子と、被膜を形成する材料の前駆体とを臨界条件に近い流体中で接触させ、前駆体を粒子上に析出させ、析出した前駆体を転化して粒子上にコーティングを形成する方法および粒子を開示する。しかしながら、特許文献3は、基体上に担持させた酸化物の粒子と基体とに対して選択的に金属被覆を行なう技術については何ら開示するものではない。また、特表2004−510610号公報(特許文献4)では、指示フィルムに対して部分的に蒸着金属被覆されたフィルムを製造する方法を開示するものの、特許文献4では、部分的に蒸着金属被覆を形成するためにフォトリソグラフィー技術を使用しており、特許文献4に開示された技術は、フォトリソグラフィーのための設備などを使用する必要を生じ、高い効率で容易にナノスケールでの金属被覆を選択的に形成させることはできない。
【0011】
加えて、特許文献4では、生産的には、蒸着された金属は、エッチング液に溶解させて可溶性インキとともに除去されるため、溶解した金属を容易に再利用することはできず、特に貴金属被覆を適用しようとする場合には、ウエーストの発生が著しい問題を生じさせることになる。加えて、特許文献4では、基体上に担持されたナノサイズの酸化物の粒子に対して、酸化物の粒子と、基体とを選択被覆する技術に対しては、何ら開示するものではない。また、上述した文献は、いずれも貴金属の使用量を最小化させつつ、金属コートされた酸化物を含む酸化物複合材料およびその製造方法を開示するものではない。
【0012】
一方、金属粒子と、金属酸化物粒子とを金属基材上に、金属粒子を介して相互に融着した非水電解質二次電池およびその製造方法が、特開平9−283115号公報(特許文献5)に開示されている。特許文献5は、金属粒子を使用して金属酸化物粒子相互を融着固定する技術を開示するのみであり、金属酸化物粒子と基体とに対して異なる被覆量で被膜を形成する技術については何ら開示するものではない。
【非特許文献1】Matsumotoら、Chem. Commun., 2004, pp.840-841
【非特許文献2】Ioroiら、Electrochemistry Communications vol. 4, (2002) pp.442-446
【特許文献1】特開2002−334611号公報
【特許文献2】特開2001−310157号公報
【特許文献3】特表2002−541320号公報
【特許文献4】特表2004−510610号公報
【特許文献5】特開平9−283115号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記従来技術に鑑みてなされたものであり、本発明は、極めて制御された表面特性を有し、かつ安定した界面を提供することができ、触媒特性、酸化物(助触媒)、電子導電性を有する材料からなる酸化物複合材料を提供することを目的とする。また、本発明の他の目的は、上記特性を有する酸化物複合材料を高い効率および安定性で提供することを可能とする酸化物複合材料の製造方法を提供することを目的とする。本発明のさらに他の目的は、上述した酸化物複合材料を使用した電気化学デバイスを提供することを目的とする。本発明のさらに他の目的は、上述した酸化物複合材料を含む触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、鋭意検討の結果、湿式処理により極めて表面制御された酸化物複合材料を提供することができることを見出し、本発明に至ったのである。すなわち、本発明では、高アスペクト比の基体の表面を化学的に処理して高アスペクト比の基体表面に析出サイトを形成させる。その後、酸化物前駆体をウェット・プロセスにより粒子状に選択付着させる。その後、生成した粒子状酸化物を熱処理して酸化物粒子とする。さらに、生成された酸化物には、選択的に金属前駆体ゲルが付着し、酸化物粒子に付着した金属前駆体ゲルを金属へと変換することにより、酸化物粒子を金属被覆することにより、金属により被覆された酸化物を担持し、それ以外の基体部分との付着金属の量を制御した酸化物複合材料が製造できる。
【0015】
すなわち、本発明によれば、基体と、該基体上に付着した酸化物と、該酸化物を被覆する金属層とを含む酸化物複合材料が提供される。前記基体は、ナノサイズの高アスペクト比を有する粒子とすることができる。前記基体は、カーボンナノチューブ、カーボンウィスカー、炭素繊維、またはこれらの混合物からなる群から選択される高アスペクト比の粒子とすることができる。前記金属層は、Cu、Ni、Ag、Au、Pt、Rh、Ru、Pd、V、Sn、Ti、Fe、Co、Cr、Nb、Mo、Caからなる群から選択される金属、またはCu、Ni、Ag、Au、Pt、Rh、Ru、Pd、V、Sn、Ti、Fe、Co、Cr、Nb、Mo、Caから選択される少なくとも2種の元素を含む合金とすることができる。前記酸化物の粒径は、前記基体のサイズよりも小さなサイズであり、前記金属層の厚さは、0.3nm〜5nmとすることができる。酸化物は完全に金属層に被覆されなくてもよい。本発明の前記酸化物複合材料は、電気化学デバイスの触媒とすることができる。
【0016】
また、本発明によれば、酸化物複合材料の製造方法であって、前記製造方法は、
基体に対して酸化物粒子を選択付着させる処理を施す工程と、
処理された前記基体にウェット・プロセスを使用して酸化物粒子を選択的に付着させる工程と、
前記基体と前記基体に付着した前記酸化物粒子とに対し、異なる量で金属前駆体ゲルを付着させる工程と、
前記金属前駆体ゲルから金属層を形成して前記酸化物粒子を金属コーティングする工程を含む、酸化物複合材料の製造方法が提供される。
【0017】
前記基体は、カーボンナノチューブ、カーボンウィスカー、炭素繊維、またはこれらの混合物からなる群から選択される高アスペクト比の粒子とすることができる。前記金属層は、Cu、Ni、Ag、Au、Pt、Rh、Ru、Pd、V、Sn、Ti、Fe、Co、Cr、Nb、Mo、Caからなる群から選択される金属、またはCu、Ni、Ag、Au、Pt、Rh、Ru、Pd、V、Sn、Ti、Fe、Co、Cr、Nb、Mo、Caから選択される合金とすることができる。前記酸化物粒子の粒径は、前記基体のサイズよりも小さなサイズであり、前記金属層を形成する工程は、0.3nm〜5nmの厚さの前記金属層を形成する工程を含むことができる。
【0018】
さらに、本発明によれば、基体と該基体上に付着した酸化物と該酸化物を被覆する金属層とを有する酸化物複合材料を含む電極と、
前記電極から電荷をひき出すための導電配線とを含む、電気化学デバイスを提供することができる。
【0019】
本発明のさらに他の態様によれば、基体と、該基体上に付着した酸化物と、該酸化物を被覆する金属層を有する酸化物複合材料を含む触媒であって、前記基体は、ナノサイズの高アスペクト比を有する粒子である、触媒が提供される。
【0020】
本発明における前記基体は、カーボンナノチューブ、カーボンウィスカー、炭素繊維、またはこれらの混合物からなる群から選択される高アスペクト比の粒子とすることができる。さらに本発明では、前記金属層は、Cu、Ni、Ag、Au、Pt、Rh、Ru、Pd、V、Sn、Ti、Fe、Co、Cr、Nb、Mo、Caからなる群から選択される金属、またはCu、Ni、Ag、Au、Pt、Rh、Ru、Pd、V、Sn、Ti、Fe、Co、Cr、Nb、Mo、Caから選択される少なくとも2種の元素を含む合金とすることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、電子・触媒の両方の特性を充分に提供し、表面特性の制御された高次構造を有する酸化物複合材料を提供することができる。本発明により製造された酸化物復複合材料は、燃料電池の燃料極や空気極、電気分解用電極、各種コーティングなど電子・イオン導電性の両方の導電特性が必要とされる電気化学デバイスのための電極材料として使用することができる。さらに、本発明の酸化物複合材料は、燃料電池の電極として使用される場合、使用される触媒活性を有する貴金属または希少金属の使用量を著しく減少させることができ、燃料電池を含む触媒を使用するプロセスのコストを低下することを可能とする。この結果、本発明の酸化物複合材料は、燃料電池など触媒プロセスの利用性をより向上させ、ひいては地球温暖化の原因物質の1つである二酸化炭素の削減に寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を具体的な実施の形態をもって説明するが、本発明は、後述する実施の形態に限定されるものではない。図1は、本発明の酸化物複合材料10の概略図を示す。図1に示す本発明の酸化物複合材料10は、基体12と、基体12上に付着し、かつ金属でコートされた被覆酸化物18(以下、単に被覆酸化物として参照する。)とから形成されている。被覆酸化物18は、より詳細には、酸化物14と、酸化物14上に堆積した金属層16とを含んでいる。酸化物14は、基体12の表面近傍に形成された付着サイトに局在化して形成されており、それ以外の基体12の表面近傍には、酸化物14が付着しない構造とされる。酸化物14の基体12に対する付着量は、本発明では、概ね酸化物複合材料の質量に対して、10質量%〜90質量%以上の割合となるように酸化物14を付着させることができる。本発明では、基体材料の表面に対して付着サイトを形成させる処理および酸化物前駆体の使用量に応じて変化させることができ、酸化物の粒子の付着量は、本発明を特に制限するものではない。
【0023】
本発明で使用することができる基体12の材料としては、高い導電特性を与える点で高アスペクト比の材料を使用することが好ましい。このような高アスペクト比の材料としては、カーボンナノチューブ(CNT)、炭素繊維、カーボンウィスカーなどの導電性材料などを挙げることができる。また、基体のサイズは、直径が10nm〜300nmであり、長さが30nm〜5μm程度の大きさとすることができ、対応するアスペクト比は、概ね3以上とすることが、良好な導電性を与えるために好ましい。
【0024】
また本発明において使用することができる酸化物としては、主として助触媒特性を示す金属酸化物を使用することができるが、助触媒効果のない酸化物も本発明の構造で金属触媒の使用量の削減に使える。このような金属酸化物としては、ゾルゲル法、沈殿法、共沈法などこれまで知られたいかなる方法を使用して、水酸化物などのゲルを形成させ、その後適切な条件での熱処理で形成することができる酸化物を挙げることができる。より具体的には、本発明で使用することができる金属酸化物としては、酸化スズ(SnO)、酸化チタン(TiO)、三酸化コバルト(CoO)、酸化コバルト(CoO)、酸化タングステン(WO)、酸化モリブデン(MoO)などの他、酸化アルミニウム(Al)、インジウムスズオキサイド(ITO)、酸化インジウム(In)、酸化鉛(PbO)、PZT、酸化ジルコニウム(ZrO)、安定化ジルコニア(Zr1−xCa2−x)、SrCe0.95Yb0.053−δ、酸化ニオビウム(Nb)、酸化トリウム(ThO)、酸化タンタル(Ta)、チタン酸カルシウム(CaTiO)、コバルト酸ランタン(LaCoO)、三酸化レニウム(ReO)、酸化クロム(Cr)、酸化鉄(Fe)、クロム酸ランタン(LaCrO)、チタン酸バリウム(BaTiO)、ZnO−Biなどを挙げることができ、これらの金属酸化物は、酸素不足、または金属不足、または酸素過剰、または不定比の量論的組成を有していてもよく、さらにイオン導電性を有していてもいなくともよい。
【0025】
また本発明で使用することができる酸化物を与えるための前駆体物質としては、より具体的には、Sn、W、Mo、Co、In、Sb、As、Ti、Co、Al、Zr、Yb、Sr、Th、Taなどの、上述した金属を含むアルコキシド、アセテート、金属有機酸塩、金属塩、金属石鹸、ハロゲン化物、など、これまで知られた金属化合物を、適宜所望する特性に適合させるように、単独で、またはいかなる混合物としても使用することができる。
【0026】
さらに、本発明において酸化物を形成させるためには、アルミニウムイソプロピネート、アルミニウムトリセカンダリーブトキシド、モノsec-ブトキシアルミニウムジイソプロピレートなどのトリアルコキシアルミニウム化合物、ジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)チタン、テトライソプロポキシチタン、テトラ-n-ブトキシチタン、テトラキス(2−エチルヘキシルオキシ)チタン、テトラステアリルオキシチタン、テトラステアリルオキシチタン、テトラメトキシチタンなどのテトラアルコキシドチタン化合物、アセチルアセトントリブトキシジルコニウム、テトラ-n-ブトキシジルコニウムなどのテトラアルコキシジルコニウム化合物などを使用することもできる。
【0027】
さらに、本発明において使用することができる金属化合物としては、例えば、アルミニウムエチルアセトアセテートジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムトリス(アセチルアセテート)、アルミニウムビスエチルアセトアセテートモノアセチルアセトネート、チタンキレート化合物、チタンアシレート化合物などを挙げることができる。
【0028】
上述した被覆酸化物18の粒径は、概ね1nm〜30nmとすることができ、より好ましくは、1nm〜10nmの範囲とすることができ、さらに好ましくは、1nm〜5nmとすることができる。また、上述した酸化物14の粒径は、概ね0.5nm〜約30nmとすることができる。
【0029】
また、本発明において金属層16は、酸化または還元処理により金属を与えることができる金属前駆体ゲルから形成される。本発明において金属前駆体ゲルを形成させるために使用することができる水溶液としては、例えば、無電解めっき用の溶液を使用することができ、具体的には、Cu、Ni、Ag、Au、Pt、Rh、Ru、Pd、V、Sn、Ti、Fe、Co、Cr、Nb、Mo、Caを含む塩化物、硫酸塩、硝酸塩、などの塩類、または錯体、キレート化合物、およびこれらのいかなる混合物などを含む水溶液を挙げることができる。また、特にPt膜を形成させる場合には、HPtCl・6HO水溶液やKPtClなどの溶液を使用することができる。本発明において、金属膜を形成させる場合には、酸化物表面に、金属前駆体溶液のpH調整により、金属前駆体ゲルを酸化物表面に付着させ、その後、酸化処理および水素還元処理を施すことにより酸化物表面に付着した金属前駆体ゲルから金属膜を生成させることができる。本発明で酸化物表面上に形成される金属層の膜厚は、概ね0.3nm〜5nmとすることができる。
【0030】
本発明において、基体12に付着サイトを形成させるための処理としては、例えば、酸処理を挙げることができる。付着サイトを生成させるための酸としては、硫酸(HSO)、硝酸(HNO)、塩酸(HCl)、またはこれらの混合物の他、燐酸、ポリ燐酸、フッ化水素酸(HF)などを挙げることができる。さらに、本発明においては、付着サイト生成処理としては、上述した酸処理以外にもプラズマ処理、スパッタリング、蒸着など、適切な付着サイトを提供することができる限り、いかなる処理でも使用することができる。
【0031】
本発明において酸を使用した付着サイトの形成処理を行う場合、その条件は、温度として、40℃〜150℃の範囲とすることができ、処理時間としては、0.5時間〜6時間とすることができる。また、処理のために使用する酸は、希釈した酸でもよく、また希釈しない濃硫酸、濃硝酸、濃塩酸などの酸をそのまま使用することができる。本発明において酸処理条件を過酷にする場合、基体への影響が大きくなり、激しい場合には、基体の構造が破壊される場合もある。このため、本発明の酸を使用した付着サイト形成処理は、80℃で0.5時間〜6時間以下、または140℃で0.5時間〜5時間の条件とすることで、良好な付着サイト形成を行うことができる。
【0032】
さらに本発明の別の実施の形態では、本発明においては、金属前駆体ゲル形成の際に、コロイダルシリカ、コロイダルチタンなどの超微粒子を金属前駆体溶液に分散させておくこともできる。上述した本発明の別の実施の形態では、金属前駆体ゲルを形成させるための溶液に、例えばコロイダルシリカを予め分散させた溶液を添加して金属前駆体ゲルを酸化物に付着させることにより、超微粒子を金属前駆体ゲルに取り込ませておく。その後、金属膜への還元前、または還元後に、例えば超音波処理などによって超微粒子を金属前駆体膜から除去する処理を施す。この処理により、金属層から超微粒子が脱離し、多孔質の金属膜を酸化物上に形成することもできる。
【0033】
図2には、本発明の酸化物複合体の第2の実施の形態を示す。図2(a)が、酸化物複合体の90質量%以上の被覆酸化物が付着した酸化物複合材料の実施の形態であり、図2(b)が酸化物複合体の約10質量%の被覆酸化物が付着した酸化物複合材料の実施の形態である。図2に示した酸化物複合体の実施の形態は、基体12として、それぞれ直径が約10nmのCNT(図2(a))および直径が約30nmのCNT(図2(b))を使用している。図2(a)に示した実施の形態では、基体12に形成された付着サイトに選択的に酸化物14としてSnOまたはSnOが成長したものである。図2に示すように、本発明の酸化物複合材料は、基体材料の初期構造を著しく変化させることなく、酸化物14を担持しているのが示され、良好な表面制御性、形態制御性を有していることが示された。
【0034】
図3には、本発明の酸化物複合体のさらに別の実施の形態を示す。図3(a)は、本発明の酸化物複合体の低倍率TEM写真像であり、図3(b)が、図3(a)の白枠で囲んだ被覆酸化物18の高倍率TEM写真像である。図3(b)に示すように、金属被覆の部分の特性は、背景となっている基体12であるCNTの特性とは異なっていることが示されている。このことは、基体12としてCNTを使用した場合には、金属膜が酸化物に厚く形成される、または金属膜が選択的に形成されることを示している。すなわち、本発明においては、基体12との関係において酸化物に対して異なる量で金属を選択的にコーティングすることが可能であることが示される。
【0035】
すなわち、本発明は、基体全体にわたって金属被覆を行うことなく、また酸化物表面にナノレベルでの金属被膜を形成することを可能とし、希少金属の使用量を著しく低減することを可能とする。より具体的には、直径10nmの粒子が基体上に担持されている場合、粒子全体を金属で形成する場合の金属使用量に対して、8nmの酸化物粒子に対して、膜厚1nmの被膜を形成させることにより、約64%金属使用量を削減でき、さらに、0.5nmの金属被膜を形成させる場合には、約81%金属使用量を削減できる。
【0036】
本発明の酸化物複合材料は、基体上に被覆酸化物が付着した構造を有しており、触媒金属と、酸化物とが、それぞれ電子導電性の基体に接触して高度に構造制御された状態で3層界面を与えることが示され、電解質を電極に加えることによって、イオン伝導のネットワークを形成させ、本発明の酸化物複合材料は、触媒性能、電子およびイオンの両方が反応に寄与することが要求される電気化学デバイスに好適に使用することができる。図4は、本発明の酸化物複合材料を電気化学デバイスとして構成した場合の実施の形態を示す。
【0037】
図4に示した電気化学デバイスは、燃料電池20として構成されており、図4に示した燃料電池20は、より詳細には、燃料物質を格納する燃料供給部22と、燃料の酸化により生成したHと反応する酸素(O)を蓄積する酸素供給部24と、燃料を酸化させ、酸化により生成された電子を系外に供給するための電流取出極26とを含んでいる。燃料供給部22には、水素、メタノールなどの燃料が供給され、酸素供給部24には、空気、酸素など、酸化剤が供給されている。電流取出極26は、燃料供給部22に供給される燃料に露出される燃料極28と、酸素供給部24に供給される酸素に露出される空気極30と、燃料極28と空気極30との間に配置されたイオン導電性の固体電解質32とを備えている。
【0038】
固体電解質32は、これまで知られたいかなる高分子電解質、例えばポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリエステル、ポリアミン、ポリスルフィド、PAN、スルホン酸基を含むフッ素高分子(ナフィオン)などから形成されていて、燃料極28と空気極30との間においてイオンを移動させている。なお、上述した高分子電解質は、さらに一般的には、導電性高分子、緒方直哉編、株式会社講談社サイエンティフィック、第1刷、1990年2月10日発行に記載された化合物を、ドーピングまたは無ドーピングとして使用することができる。
【0039】
また、図4に示した電流取出極26の燃料極28と空気極30には、導電配線36が接続されている。導電配線36は、さらに燃料電池20の外部へと導き出され、負荷34に接続されている。負荷34は、燃料電池20から供給されるエネルギーを消費して電気的エネルギーを他の形態のエネルギーへと変換させている。図4に示した燃料極28は、少なくとも本発明の酸化物複合材料を含む導電性成形体として形成することができる。また、本発明では、本発明の酸化物複合材料は、空気極30としても使用することができる。本発明において酸化物複合材料を含む導電性成形体は、例えば、本発明の酸化物複合材料と電解質を適切なバインダ樹脂および溶媒と混合して塗料とし、固体電解質32表面にスプレー・コーティング、ディップ・コーティングなどのコーティングを使用して形成することができる。また、上述した導電性成形体は、例えば酸化物複合材料を多孔質膜や多孔質プレート状に成形しておき固体電解質の成型時に多孔質体を一体化させることによっても形成させることができる。また、本発明において多孔質体を形成させる場合にはイオン導電性材料を含む結着剤樹脂中に本発明の酸化物複合材料を分散させておき、膜またはプレートに成形後に結着剤樹脂を除去するなどの方法によっても製造することができる。また、多孔質伝導体に直接熱分解法などを用いてカーボンナノチューブなどの基体からなる膜を形成し、酸化物と金属を基体上に担持させ、電解質をコーティングした後、固体電解質32表面に接着することで製造できる。さらに、本発明の各電極は、カーボンペーパなどにより、燃料および酸化剤から電気的接続性を保持させながら分離させることもできる。本発明において導電性成形体の製造および燃料極28の固体電解質への一体化については、これまで知られたいかなる方法を使用しても行うことができる。
【0040】
以下、本発明の酸化物複合材料について実施例を用いてより具体的に説明する。
【実施例】
【0041】
(実施例1)
株式会社マイクロフェーズから入手したCNT、直径10〜30nmを、500℃で1時間、還元性雰囲気中で加熱して精製した。精製したCNTを所定量秤量した。秤量したCNTを、80℃に加熱したconc.HNO(硝酸含量69%、和光試薬特級)蓄えた処理槽に投入した。処理槽中で、CNTを80℃で2時間酸化処理を行い、付着サイトを生成させた。以下、付着サイトを生成させたCNTを付着サイト生成CNTとして参照する。
【0042】
付着サイト生成CNTを洗浄・乾燥後、表面に酸化物粒子を生成させた。酸化物粒子の生成は、以下の手順で行った。付着サイト生成CNTの所定量をメタノール50ml中に加え、超音波分散装置を使用して約10分間分散させた。その後、付着サイト生成CNT分散液中に、100mMのSnCl水溶液を、生成Sn量換算で、使用する付着サイト生成CNTの重量の10%を生成させる量で添加し、攪拌装置で攪拌した。攪拌させながら分散液中に100mlのメタノールを徐々に添加した。メタノールの添加が終了した後、添加したSnClの当量に対して4倍当量の水酸化テトラメチルアンモニウム溶液を滴下してpHを弱アルカリ性とした。この段階で、下記反応式にしたがって、SnClは、水酸化物を形成し、付着サイトに局在化して水酸化物ゲルを形成した(nは、正の整数である。)。
【0043】
【化1】

水酸化物ゲルが付着した付着サイト生成CNTをろ別し、110℃に保持した乾燥機中で2時間空気中で乾燥させた。乾燥後、不活性(Ar)雰囲気中、400℃で6時間、管状炉内で熱処理を行い、水酸化物ゲルを酸化スズ(SnO)に変換して、CNT上に酸化物を担持させた。
【0044】
酸化物を担持させたCNTに対して、以下の処理を行って、酸化物粒子上にPt被膜を形成した。Pt被膜の生成は、以下の手順で行った。
【0045】
10mMのHPtCl・6HO水溶液(塩化白金酸、98.5%、和光試薬特級を用いて調製)5.7mlを、蒸留水20ml中に加えてHPtCl水溶液を製造した。この水溶液中に、SnOを担持させたCNT、約0.1gを投入し、約1時間超音波分散させた。その後分散液を100mlの蒸留水で希釈し、攪拌装置でさらに30分間攪拌した。その後、5.3mlのNaHSO(0.1M)を添加し約70℃に加熱した。溶液が透明となった後、H(濃度10%)を添加し、さらに0.1MのNaOHを使用してpH=5に保持した。その後、攪拌を続け、pHが安定した段階で分散液を煮沸して水酸化物をPtOに変換した。その後分散液を濾過し、濾過物を水洗し、空気中で乾燥させた。
【0046】
乾燥後、生成物を還元性雰囲気(H)中、200℃で2時間加熱し、Ptを還元して金属被膜を形成させ、本発明の酸化物複合材料を製造した。得られた本発明の酸化物複合材料の構造をトンネル電子顕微鏡(TEM:株式会社 日立製作所製、H8100)を使用して観察したところ、CNTの付着サイト上に、Ptコートされた金属酸化物が局在化して担持されているのが観測された。TEM観察による構造制御性を、付着サイトに局在化して担持されたPt被覆金属酸化物の形態の目視により判断した。
【0047】
判断は、金属酸化物は付着サイトに局在化し均一に担持された場合、Ptは金属酸化物をコートしている場合を○とし、制御ができていない場合を△とし、酸化物複合材料の一部または全体が構造破壊を受けている場合などについては×とした。また、Ptの付着量を、原料として使用した付着サイト生成CNTの質量に対する本発明により生成した酸化物複合材料の質量増加により計算したところ、酸化物複合材料の質量に対して、約9質量%のPtが、CNTに担持されていることがわかった。表1には、得られた構造制御性の判断結果と、Ptの付着量を示す。
【0048】
(実施例2)
精製したCNTを所定量秤量し、140℃に加熱したHSO(2M)+HNO(1M)中に投入し、5時間酸化処理を行い、付着サイトを生成させた。その後、別の容器に約1gのSnClと40mlの蒸留水とを投入し、さらに0.7mlの塩酸(HCl:36%、和光試薬特級)を加え、10mgのカーボンナノチューブを入れて、3−5分超音波処理後、室温で45−60分攪拌を行った。
【0049】
製造された酸化物複合材料を実施例1と同様にして評価した。その結果を表1に示す。
【0050】
(比較例1)
精製したCNTを所定量秤量し、140℃に加熱したconc.HSO(97%、和光試薬特級)+conc.HNO混合物を蓄えた処理槽に投入し、6時間酸化処理を行い、付着サイト生成CNTを生成した。得られた付着サイト生成CNTは、付着サイト生成処理時に構造が破壊され、その結果構造制御された酸化物複合材料を提供することができなかった。得られた付着サイト生成処理後のCNTの構造を図5に示す。また、その結果を表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
表1に示されている実施例1ように、本発明により製造された酸化物複合材料は、良好な構造制御性を示し、また、実施例2からは金属酸化物微粒子を高い付着量で担持することができていることが示された。本発明の製造方法によれば、酸化物粒子の担持量を良好に制御することができることが示された。Ptの含有量を制御する場合、酸化物の担持量をコントロールし、それに対して相当なPt量を担持させればよい。さらに、本発明によれば、フォトリソグラフィーなどのパターニング処理を施すことなく、酸化物と基体とに対して選択的に金属コーティングを行うことを可能とし、貴金属溶液は、他の溶解性成分と混合されないので容易に回収・再使用することが可能となることが示された。
【0053】
(実施例3)
本発明により得られた酸化物複合材料を使用して電極を作成し、その電気化学的特性を、COストリッピングボルタンメトリー測定方法および水素の酸化電流の測定方法を使用して評価した。COストリッピングボルタンメトリーおよび水素の酸化電流の測定は、以下の手順で行った。
【0054】
[評価方法]
まず、ガラスセルにHSO(0.5M)溶液を充填し、溶液中にArガスを30分間バブリングして溶存酸素を除した。その後電極をセットし、電極表面のコンタミネーションを除去した(50サイクル、100mVs−1、0.05mV〜1.2mV vs.RHE)。その後、COガスを10分間バブリングして、触媒表面の吸着サイトをCOで被覆した。
【0055】
さらにその後、Arガスを30分間バブリングして、溶液中の溶存COを除去した。定電圧電源を使用して電極に印加する電位を掃引し、COを酸化させ、酸化還元反応により生成した電流を測定した。(電位掃引速度:10mVs−1)。被覆したCOが上記の電位掃引により酸化された後、HSO(0.5M)溶液中で電位掃引を繰り返すことにより、電極上に吸着したHの酸化電流を観測した。
【0056】
[評価電極の作成]
直径6mmのグラッシーカーボン電極(BAS社製)を用意し、紙やすりでグラッシーカーボン電極の表面を平滑化した。その後、アルミナ研磨液(0.01μm、BAS社製)により表面を研磨し、鏡面加工した。鏡面加工したグラッシーカーボン電極を、蒸留水中に浸漬し、蒸留水中で超音波洗浄し、電極表面に固着したアルミナ微粒子を除去し、除去後、電極を乾燥させた。この電極に対し、1mgの本発明の酸化物複合材料の粉末(Pt+SnO+CNT:Ptの量:9質量%:Pt量で0.00018mg)を、0.05質量%のナフィオンを含む5mlの水溶液中に30分間超音波分散させた。得られた分散液10μlを、洗浄・乾燥させたグラッシーカーボン電極上に滴下し、ドライオーブン中で60℃で1時間加熱して電極上に本発明の酸化物複合材料を導電性成形体としてグラッシーカーボン電極上に固定した。
【0057】
(比較例2)
本発明の酸化物複合材料の粉末の替わりに、Ptをカーボンブラック粉末に担持させた市販の触媒粉末(田中貴金属株式会社製、TEC10V50E、Pt:46.0質量%、担体:カーボンブラック)を、Pt量で0.00092mgとなる量で使用した他は同様にして電極を作成し、電気化学的特性の評価を行った。
【0058】
その結果を図6に示す。図6中、(a)は、本発明の酸化物複合材料を触媒として使用した実施例3の結果であり、(b)が、比較例2について得られた結果を示す。また、図6において、実線は、水素の酸化特性を示し、●で示したプロットは、COの酸化特性を示している。図6に示されるように、実施例3および比較例2共に、HおよびCOの酸化特性に起因する低電位側および高電位側のピークが観測されている。図6で、二つの曲線(●と実線)で囲まれた面積は、それぞれ水素およびCOの酸化により与えられた電荷量を表す。
【0059】
図6に示されるように、比較例2では、Ptを0.00092mg、実施例では、Ptを0.00018mg含有する。しかしながら、図6に示すように、−0.11V〜0.123Vの引加電圧の範囲で水素の酸化電流から積分した電荷量は、本発明の酸化物複合材料を触媒として使用した場合(図6(a))、触媒量が約20%であるにも拘わらず、図6(b)に示す比較例2に対して、吸着したHの量が量約89%にしか低下していないことが示される。これをPt量で規格化すると、本発明の酸化物複合材料を触媒として使用した場合、カーボンブラック上にPtを担持させた触媒粒子の活性に対して、約5倍程度、触媒特性を向上させることができることが示された。
【0060】
更に図6に示した高電位側にあるCOの酸化に由来するピークは、図6(b)に示す比較例2では、0.4V以上の電位でしか酸化電流が観測されない。しかしながら、本発明の酸化物複合材料を使用した図6(a)で示した実施例3では、より低電位側にシフトし、約0.2V以上の電位で酸化電流が確認されることが示されている。このことは、本発明の酸化物複合材料を触媒として使用する場合、よりCOを酸化しやすいことを意味している。したがって、COなどの吸着種においても触媒の活性が高いということができ、触媒に対するCO被毒の改善を示すものということができる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明によれば、電子・触媒の両方の特性を充分に提供し、表面特性の制御された高次構造を有する酸化物複合材料を提供することができる。本発明により製造された酸化物複合材料は、燃料電池の燃料極、空気極、電気分解用電極、各種コーティングなど電気化学デバイスのための電極材料として使用することができる。さらに、本発明の酸化物複合材料は、燃料電池の電極として使用される場合、使用、または廃棄される触媒金属といった貴金属または希少金属の使用量を著しく減少させることができ、燃料電池のコストを低下することを可能とする。
【0062】
また、本発明の酸化物複合体は、燃料電池だけではなく、二次電池用電極、酸化還元触媒など、電気特性や触媒特性の要求されるいかなる用途にでも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の酸化物複合材料の概略図。
【図2】本発明の酸化物複合材料のナノサイズ制御された構造を示した図。
【図3】本発明の酸化物複合材料のナノサイズ制御された構造の実施の形態を示した図。
【図4】本発明の電気化学デバイスの実施の形態を示した図。
【図5】比較例で得られた構造制御されていない基体を示した図。
【図6】本発明で得られた酸化物複合材料の電気化学的特性(触媒特性)と、従来の触媒の電気化学特性(触媒特性)とを示した図。
【符号の説明】
【0064】
10…酸化物複合材料、12…基体、14…酸化物、16…金属層、20…燃料電池、22…燃料供給部、24…酸素供給部、26…電流取出極、28…燃料極、30…空気極、32…固体電解質、34…負荷、36…導電配線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、該基体上に付着した酸化物と、該酸化物を被覆する金属層とを含む酸化物複合材料。
【請求項2】
前記基体は、ナノサイズの高アスペクト比を有する粒子である、請求項1に記載の酸化物複合材料。
【請求項3】
前記基体は、カーボンナノチューブ、カーボンウィスカー、炭素繊維、またはこれらの混合物からなる群から選択される高アスペクト比の粒子である、請求項1に記載の酸化物複合材料。
【請求項4】
前記金属層は、Cu、Ni、Ag、Au、Pt、Rh、Ru、Pd、V、Sn、Ti、Fe、Co、Cr、Nb、Mo、Caからなる群から選択される金属、またはCu、Ni、Ag、Au、Pt、Rh、Ru、Pd、V、Sn、Ti、Fe、Co、Cr、Nb、Mo、Caから選択される少なくとも2種の元素を含む合金である、請求項1に記載の酸化物複合材料。
【請求項5】
前記酸化物の粒径は、前記基体のサイズよりも小さなサイズであり、前記金属層の厚さは、0.3nm〜5nmである、請求項1に記載の酸化物複合材料。
【請求項6】
前記酸化物複合材料は、電気化学デバイスの触媒である、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の酸化物複合材料。
【請求項7】
酸化物複合材料の製造方法であって、前記製造方法は、
基体に対して酸化物粒子を選択付着させる処理を施す工程と、
処理された前記基体にウェット・プロセスを使用して酸化物粒子を選択的に付着させる工程と、
前記基体と前記基体に付着した前記酸化物粒子とに対し、異なる量で金属前駆体ゲルを付着させる工程と、
前記金属前駆体ゲルから金属層を形成して前記酸化物粒子を金属コーティングする工程と、
を含む、酸化物複合材料の製造方法。
【請求項8】
前記基体は、カーボンナノチューブ、カーボンウィスカー、炭素繊維、またはこれらの混合物からなる群から選択される高アスペクト比の粒子である、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記金属層は、Cu、Ni、Ag、Au、Pt、Rh、Ru、Pd、V、Sn、Ti、Fe、Co、Cr、Nb、Mo、Caからなる群から選択される金属、またはCu、Ni、Ag、Au、Pt、Rh、Ru、Pd、V、Sn、Ti、Fe、Co、Cr、Nb、Mo、Caから選択される合金である、請求項7に記載の酸化物複合材料の製造方法。
【請求項10】
前記酸化物粒子の粒径は、前記基体のサイズよりも小さなサイズであり、前記金属層を形成する工程は、0.3nm〜5nmの厚さの前記金属層を形成する工程を含む、請求項7に記載の酸化物複合材料の製造方法。
【請求項11】
基体と該基体上に付着した酸化物と該酸化物を被覆する金属層とを有する酸化物複合材料を含む電極と、
前記電極から電荷をひき出すための導電配線とを含む、電気化学デバイス。
【請求項12】
基体と、該基体上に付着した酸化物と、該酸化物を被覆する金属層とを有する酸化物複合材料を含む触媒であって、前記基体は、ナノサイズの高アスペクト比を有する粒子である、触媒。
【請求項13】
前記基体は、カーボンナノチューブ、カーボンウィスカー、炭素繊維、またはこれらの混合物からなる群から選択される高アスペクト比の粒子である、請求項12に記載の触媒。
【請求項14】
前記金属層は、Cu、Ni、Ag、Au、Pt、Rh、Ru、Pd、V、Sn、Ti、Fe、Co、Cr、Nb、Mo、Caからなる群から選択される金属、またはCu、Ni、Ag、Au、Pt、Rh、Ru、Pd、V、Sn、Ti、Fe、Co、Cr、Nb、Mo、Caから選択される少なくとも2種の元素を含む合金である、請求項12に記載の触媒。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2006−193392(P2006−193392A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−9083(P2005−9083)
【出願日】平成17年1月17日(2005.1.17)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】