説明

酸化物複合膜、該膜形成用塗布液、該塗布液の製造方法及び該膜の造膜方法。

【課題】高硬度かつ可撓性を有し、基材表面や表層の保護機能に優れると共に、防汚能力を有する、各種基材の表面に形成される酸化物複合膜、該膜形成用塗布液、該塗布液の製造方法及び該膜の造膜方法を提供する。
【解決手段】本発明による酸化物複合膜は、酸化チタンと、酸化ジルコニウムおよび/または酸化ハフニウムとを含む複合物から基材表面に形成されていることを特徴とする。該酸化物複合膜は、酸化チタン(A)と、酸化ジルコニウムおよび/または酸化ハフニウム(B)とが、モル比でA:B=1:0.01〜1:0.5の割合で含有されていることが望ましい。酸化物複合膜を造膜する方法は、酸化チタンと、酸化ジルコニウムおよび/または酸化ハフニウムとの複合物が水中に分散している酸化物複合膜形成用塗布液を基体に塗布して常温以上400℃以下の熱線又は/及び紫外線の電磁波を照射して固着硬化させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種基材の劣化、および表面摩耗を低減することで、基材およびそれらに囲まれた部分を長期に渡って保護し、商品価値を維持することができる可撓性を有する酸化物複合膜、該膜形成用塗布液、該塗布液の製造方法及び該膜の造膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日常提供される各種製品は、屋内外で使用される時、厳しい自然環境条件や使用条件により、製品の各部位の基材表面が劣化したり表面磨耗したり、光酸化による劣化などでその製品価値が低下する。そのため、長期に渡りその基材表面を保護するための機能膜が求められていた。また、その表面は保護機能とともに、防汚性能や浄化性能、基材劣化防止性能、退色防止性能、および各種の電気的性能を付与することで、より付加価値の高い保護機能を有する耐久性の高い透明ハードコート薄膜が求められていた。
【0003】
現状は、これらのハードコート膜は、アクリルまたはシリコン系樹脂を主成分とするハードコート塗料を用いて、樹脂成形品(例:ポリカーボネート板)表面に成膜することで、基材の耐候性や耐擦傷性などを向上させている。また、車輌などに対しては、所謂、無機系(SiおよびSi系化合物と有機物の複合物)塗膜が使用されている。無機系ハードコート膜では、Siで硬度を維持し有機物(フッ素、シリコーンなど)で可撓性を発現し、塗膜と基材との固着性を発現させる。然し、それらの塗膜ではSi以上の硬度性能の達成は難しく、また、多くの場合は、基材表面に対し高硬度であり、光触媒性能をはじめとする各種の電気的特性を付与すること、およびその表面に親水性や撥水性を付与することは困難であった。
【0004】
特に耐擦傷性や耐摩耗性などの物理的強度の向上と、柔軟性および基材の熱収縮や曲げに追従する可撓性を兼ね備えることと、常温からの低い温度で成膜した場合には基材表面と膜との密着性を満足させることは困難であった。ましてや、それらの膜形成用塗布液は、使用に際して環境に悪影響の少ない完全な水分散液とすることはできなかった。また、酸化ジルコニウムや酸化ハフニウムが高硬度の膜を形成するということは既に知られていた。
【0005】
【特許文献1】特開2004−16901号公報
【特許文献2】特開平10−259320号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、各種基材の表面に、耐擦傷性や耐摩耗性を付与するとともに、各種基材の熱収縮や変形に対し追従でき、基材が有機・無機を問わず、接着剤を使用することなく固着性能に優れ、誘電膜や導電膜や基材表面や基材表層の保護と同時に、目的に合せて汚れの主成分である有機物・無機ガスを分解する能力を有する酸化物複合膜および該膜形成用塗布液を提供することである。
【0007】
また、本発明の別の目的は、誘電分極による正電荷した膜表面と、正電荷した有機酸化物の反撥離脱や基材の保護性能を有する正電荷膜等各機能膜を、常温〜400℃以下の熱線または/及び紫外線等の電磁波を照射することによる高硬度かつ可撓性を有する膜の造膜方法、および該膜形成用塗布液の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は以下の構成の本発明によって達成される。
1.酸化チタンと、酸化ジルコニウムおよび/または酸化ハフニウムとを含む複合物から基材表面に形成されていることを特徴とする酸化物複合膜。
2.酸化チタンが、ペルオキソ基で修飾されたアモルファス型および/またはアナターゼ型酸化チタンである前記1に記載の酸化物複合膜。
3.酸化チタン(A)と、酸化ジルコニウムおよび/または酸化ハフニウム(B)とが、モル比でA:B=1:0.01〜1:0.5の割合で含有されている前記1に記載の酸化物複合膜。
4.基材が、熱硬化樹脂、熱可塑性樹脂、金属、ガラス、セラミック、コンクリート材、および石材から選ばれる少なくとも1種からなる前記1に記載の酸化物複合膜。この基材には、表面が塗装されている基材も含まれる。
5.酸化チタンと、酸化ジルコニウムおよび/または酸化ハフニウムとの複合物が水中に分散していることを特徴とする酸化物複合膜形成用塗布液。
6.チタンの化合物または有機チタン化合物とジルコニウムの化合物および/またはハフニウムの化合物とを含む溶液を、アルカリ性溶液により中和して各金属の水酸化物の混合物を形成する工程と、該混合物を酸化剤により酸化して超微粒子過酸化物とする工程とを有することを特徴とする酸化物複合膜形成用塗布液の製造方法。
7.酸化物複合膜形成用塗布液を基体に塗布して常温以上400℃以下の熱線又は/及び紫外線の電磁波を照射して固着硬化させる、酸化物複合膜の造膜方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、各種基材の表面に、耐擦傷性や耐摩耗性を付与するとともに、各種基材の熱収縮や変形に対し追従でき、基材が有機・無機を問わず、接着剤を使用することなく固着性能に優れ、基材表面や基材表層の保護と同時に、誘電性や導電性を付与したり、目的に合せて汚れの主成分である有機物・無機ガスを分解又は静電反発する能力を有する酸化物複合膜および該膜形成用塗布液を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に好ましい実施の形態を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。
【0011】
本発明の酸化物複合膜は、ペルオキソ基を有する酸化チタン微粒子と酸化ジルコニウムおよび/または酸化ハフニウムが共存して形成されており、それらの酸化物の性状が超微粒子または粉末である膜である。
【0012】
また、本発明の塗布液は、ジルコニウム化合物および/またはハフニウム化合物の存在下に、四価チタンの化合物の溶液と塩基性溶液とを反応させて、チタンの水酸化物とジルコニウムの水酸化物および/またはハフニウムの水酸化物との混合物を形成し、その後、該混合物を酸化剤でペルオキソ化することにより調製される。なお、当該塗布液に含有されるペルオキソ基を有する酸化チタン超微粒子は、アモルファス型およびアナターゼ型の何れでもよいし、両者が混在するものでもよい。アナターゼ型による酸化チタン−酸化ジルコニウムおよび/または酸化ハフニウム複合膜は、酸化チタンの光触媒機能を妨げることはない。
【0013】
また、ペルオキソ基で修飾された酸化チタンを含む上記複合酸化物に、新たに銅、ニッケル、マンガン、コバルト、鉄または亜鉛の酸化物を加えた複合膜においては、元来光触媒活性を有するアナターゼ型、ブルッカイト型あるいはルチル型の酸化チタンは、上記金属酸化物を一定濃度以上添加することで光触媒活性を示さなくなり、また、アモルファス型酸化チタンを含む複合膜を加熱して、結晶型をアナターゼ型に転移しても光触媒活性を発現することはない。これらの現象は、前記複属酸化物同士の電位差によって発現すると考えられる。
【0014】
その結果、前記酸化チタン含有複合酸化物を分散してなる本発明の塗布液は、その溶媒が水、アルコールなどの有機溶液であり、該塗布液を基材に塗布して薄膜を形成すると、該被覆された基材の劣化や染料や顔料の退色防止など、太陽光や蛍光灯、各種電磁波によって引き起こされる光酸化による基材の劣化を低減する効果がある。また、上記薄膜は高硬度表面特性と可撓性とを有する。
【0015】
本発明で使用する酸化チタンとしては、一般的な酸化チタン粉末の製造方法である塩酸法や硫酸法による製造方法を適用してもよいし、各種の液体分散酸化チタンの製造方法を適用してもよい。また、酸化ジルコニウムおよび酸化ハフニウムは、以下に述べる各種の酸化チタン分散液のペルオキソ化以前または以後を問わず、酸化チタンと複合化することができる。その例としては、従来から知られているゾル−ゲル法と以下の3通りの方法がある。
<第1の製造方法>
四塩化チタンなどの四価チタンの化合物とアンモニアなどの塩基とを反応させて、水酸化チタンを形成する。次に、この水酸化チタンを酸化剤でペルオキソ化し、超微細粒子のアモルファス型過酸化チタンを形成し、加熱処理することによりアナターゼ型過酸化チタンに転移させることも可能である。上記の各工程のいずれかにおいて酸化ジルコニウムおよび酸化ハフニウムの少なくともいずれか1つを混合する。もしくは、アモルファス型過酸化チタンの形成と同様の工程をジルコニウムの化合物および/またはハフニウムの化合物を利用して各々の過酸化物を形成し、後に所定量の過酸化物を混合する方法がある。
【0016】
次に、図1に上記第1の製造方法の一例を示す。図示される製造方法では、四塩化チタン水溶液とアンモニア水などの塩基性溶液とを、酸化ジルコニウムおよび酸化ハフニウムの少なくとも1つが共存する状態で、または他の機能性を付与する場合は、銅、ニッケル、マンガン、コバルト、鉄または亜鉛の化合物の少なくともいずれか1つを新たに混合し、当該金属の水酸化物およびチタンの水酸化物の混合物を生成させる。
【0017】
その際の反応混合液の濃度および温度については、特に限定されるわけではないが、希薄かつ常温とすることが好ましい。この反応は中和反応であり、反応混合液のpHは7前後に調整されることが好ましい。このようにして得られたチタンの水酸化物と他の金属の水酸化物との混合物を純水で洗浄した後、過酸化水素水でペルオキソ化すれば、アモルファス型のペルオキソ基を有する酸化物微細粒子を含有する水性分散液、すなわち本発明の塗布液を製造することができる。
【0018】
また、上記方法で使用するペルオキソ化用酸化剤は特に限定されるものではなく、チタンのペルオキソ化物、すなわち過酸化チタンが形成できるものであれば各種のものが使用できるが、過酸化水素が好ましい。酸化剤として過酸化水素水を使用する場合は、過酸化水素の濃度は特に制限されることはないが、30〜40質量%のものが好適である。ペルオキソ化前には、水酸化チタン分散液はを冷却することが好ましい。その際の冷却温度は1〜5℃が好ましい。
<第2の製造方法>
四塩化チタンなどの四価チタンの化合物を酸化剤でペルオキソ化し、これとアンモニアなどの塩基とを反応させて超微細粒子のアモルファス型過酸化チタンを形成し、加熱処埋することによりアナターゼ型過酸化チタンに転移させ、上記の各工程のいずれかにおいて前記金属酸化物の少なくともいずれか1つを混合する。
<第3の製造方法>
四価チタンの化合物と酸化剤および塩基とを同時に反応させて、水酸化チタンの形成とそのペルオキソ化とを同時に行い、超微細粒子のアモルファス型過酸化チタンを形成し、加熱処埋することによりアナターゼ型過酸化チタンに転移させ、このいずれかの過程に前記金属酸化物の少なくともいずれか1つを混合する。なお、上記の製造方法において、アモルファス型過酸化チタンと、これを加熱して得られるアナターゼ型過酸化チタンとの混合物を本発明の塗布液の成分として使用できることは言うまでもない。
<ゾル−ゲル法による製造方法>
チタンアルコキシドに、水、アルコールなどの溶媒、酸または塩基触媒を混合撹拌し、チタンアルコキシドを加水分解させ、超微粒子の酸化チタンのゾル溶液を生成する。この加水分解の前後のいずれかに、ジルコニウムの化合物および/またはハウニウムの化合物、さらに必要に応じて銅、マンガン、ニッケル、コバルト、鉄および亜鉛の化合物の少なくともいずれか1つが混合される。なお、このようにして得られる酸化チタンは、ペルオキソ基を有するアモルファス型である。
【0019】
また、上記チタンアルコキシドとしては、一般式:Ti(OR')(ただし、R’はアルキル基)で表示される化合物、または上記一般式中の1つあるいは2つのアルコキシド基(OR’)がカルボキシル基あるいはβ−ジカルボニル基で置換された化合物、あるいはそれらの混合物が好ましい。
【0020】
上記チタンアルコキシドの具体例としては、Ti(O-isoCH)、Ti(O-nCH)、Ti(O-CHCH(CH)CH)、Ti(O-C17H35)、Ti(O-isoCH)[CO(CH)CHCOCH]、TiO-nCH)[OCHN(CHOH)]、Ti(OH)[OCH(CH)COOH]、Ti(OCHCH(CH)CH(OH)CH)、 Ti(O-nCH)(OCOC17H35)などが挙げられる。
【0021】
また、前記第1〜第3の製造方法と上記ゾル−ゲル法によるチタン塩溶液と他の金属化合物から別々に水酸化物を作成し、それらを混合したうえで酸化剤を加えてもよいし、各々別々に中和反応させ、ジルコニウムの過酸化物やハフニウムの過酸化物を形成し、それらの過酸化物を所要の濃度となるように、その後に混合してもよい。
【0022】
以下本発明で使用する各原料を説明する。
<四価チタンの化合物>
本発明の酸化物複合膜、その製造用塗布液において使用する四価チタンの化合物としては、塩基と反応させた際に、オルトチタン酸(HTiO)とも呼称される水酸化チタンを形成できるものであれば、各種のチタン化合物が使用でき、例えば、四塩化チタン、硫酸チタン、硝酸チタン、燐酸チタンなどのチタンの水溶性無機酸塩がある。それ以外にも蓚酸チタンなどのチタンの水溶性有機酸塩も使用できる。なお、これらの各種チタン塩の中では、水溶性に特に優れ、かつ塗布液中にチタン以外の成分が残留しない点で、四塩化チタンが好ましい。
【0023】
また、四価チタンの化合物の溶液を使用する場合は、当該溶液の濃度は、水酸化チタンのゲルが形成できる範囲であれば特に制限されるものではないが、比較的希薄な溶液が好ましい。具体的には、四価チタンの化合物の溶液濃度は、5〜0.01質量%が好ましく、0.9〜0.3質量%がより好ましい。
<塩基>
上記四価チタンの化合物と反応させる塩基は、四価チタンの化合物と反応して水酸化チタンを形成できるものであれば、各種のものが使用可能であり、例えば、アンモニア、苛性ソーダ、炭酸ソーダ、苛性カリなどが挙げられるが、アンモニアが好ましい。また、上記の塩基の溶液を使用する場合は、当該溶液の濃度は、水酸化チタンのゲルが形成できる範囲であれば特に制限されるものではないが、比較的希薄な溶液が好ましい。具体的には、塩基溶液の濃度は、10〜0.01質量%が好ましく、3.0〜0.1質量%がより好ましい。特に、塩基溶液としてアンモニア水を使用した場合のアンモニアの濃度は、10〜0.01質量%が好ましく、3.0〜0.1質量%がより好ましい。
<酸化剤>
上記で形成された水酸化チタンを酸化する酸化剤としては、酸化後、ペルオキソ化物が形成できるものであれば各種の酸化剤が制限なく使用できるが、製造された被膜形成液中に、金属イオンあるいは酸イオンなどの残留物の生じない過酸化水素が望ましい。
<チタン化合物以外の金属化合物>
四価チタンの塩溶液と共存させるジルコニウム化合物およびハフニウム化合物、さらにこれらの化合物と併用してもよい銅、マンガン、ニッケル、コバルト、鉄または亜鉛の化合物としては、それぞれ以下のものが例示できる。
Zr化合物:Zr(OH)、ZrCl、ZrO、ZrSiO、ZrClO・8HO
Hf化合物:Hf(OH)、HfCl、HfO
Ni化合物:Ni(OH)、NiCl
Co化合物:Co(OH)NO、Co(OH)、CoSO、CoCl
Cu化合物:Cu(OH)、Cu(NO)、CuSO、CuCl、Cu(CHCOO)
Mn化合物:MnNO、MnSO、MnCl
Fe化合物:Fe(OH)、Fe(OH)、FeCl
Zn化合物:Zn(NO)、ZnSO、ZnCl
本発明の塗布液中の過酸化チタン濃度(共存するジルコニウム、ハフニウム、銅、マンガン、ニッケル、コバルト、鉄または亜鉛の酸化物を含む合計量)は、0.05〜15質量%が好ましく、0.1〜5質量%がより好ましい。また、ジルコニウム、ハフニウム、銅、マンガン、ニッケル、コバルト、鉄、亜鉛の酸化物の配合量については、酸化チタンと前記金属成分とのモル比で、1:0.01〜1:0.5が好ましく、1:0.03〜1:0.2がより好ましい。
【0024】
前記酸化チタンと酸化ジルコニウムおよび/または酸化ハフニウムの複合酸化物に銅、マンガン、ニッケル、コバルト、鉄または亜鉛の酸化物を用いる効果は以下の通りである。
【0025】
本発明で使用する銅、マンガン、ニッケル、コバルト、鉄または亜鉛の少なくともいずれか1つを酸化物としてドープした複合酸化チタン膜が形成された基材は、紫外線(太陽光)や光酸化反応を引き起こす短波長側の電磁波に起因する基材表面の酸化劣化の促進を防止もしくは低減することが可能になる。これら光酸化反応は、電磁波により空気中や有機物中の酸素や水分から・OH(水酸化ラジカル)、1O(一重項酸素)が生成され、これらが基材内外部で酸化劣化を起こすといわれている。
【0026】
本発明により形成される複合膜は、このラジカルの不安定な活性状態を安定化することができるため、有機物質や無機物質からなる基材表面が、紫外線(太陽光)やラジカル生成可能な電磁波によって光酸化劣化するのを防止もしくは低下させることが可能になり、樹脂劣化、色劣化(退色)や基材の劣化を防止し、無機物の表面の酸化劣化を低減することができる。また、本発明により形成される複合膜は、造膜表面の正電荷と正電荷した汚染物質との静電反発により、汚れ付着を低減することができる。
【0027】
さらに本発明による複合膜は、低温で基材表面に固着することが可能であるばかりか、基板の熱伸縮に追従する可撓性を有しながら高硬度膜となる。基材に対する塗布液の塗布方法としては、例えば、ロールコート、グラビアコート、スピンコート、ディップコート、バーコート、スプレイコートなどの公知の方法がそのまま使用でき、特に限定されない。また、塗布にあたっては、各種色相の染料や顔料を塗布液に添加して着色塗布液として使用してもよい。
【0028】
上記塗布後の成膜における成膜温度は常温〜400℃であり、成膜温度条件が200℃以上の場合は、熱線のみによる成膜でもよい。成膜温度条件が200℃未満の場合は400nm以下を含有する電磁波を基板の種類に合せて選択して照射することが好ましい。照射時間は長波長>短波長の関係がある。上記複合膜の厚みは通常0.02μm〜2.0μmであり、望ましくは0.05〜1.0μmである。
【0029】
上記本発明の塗布液が塗布されて複合酸化物膜が形成される基材としては特に限定されず、素材的には、ポリカーボネート板、アクリル板、PETフィルム、ポリサルフォンやポリエーテルサルフォン等のエンプラによる樹脂成形品などの有機物、金属、ガラス、セラミック、コンクリート材、石材などの無機物が挙げられ、基材にいわゆる無機系塗装や有機高分子樹脂塗装を施したものや焼付基板も含まれる。製品形態としては、例えば、建材、土木、工作物、電子部品、自動車、列車、航空機、機器、機械装置、設備機器、電気製品、メガネ、装身具、家具、照明器具などが挙げられる。これらの基材の表面は勿論着色されていてもよい。
【実施例】
【0030】
次に比較例および実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。なお、文中「%」とあるのは質量基準である。
比較製造例1−1(アモルファス型酸化チタンの過酸化物を含有する塗布液(誘電性機能)の調製)
純水1,000mlに50%四塩化チタン溶液(住友シチックス(株)製)20gを添加撹拌し、さらに純水を加え2,000mlにメスアップした溶液を準備する。これに25%アンモニア水(高杉製薬(株)製)を10倍に希釈したアンモニア水を滴下してpH7.0に調整して水酸化チタンを沈殿させた。この沈殿物を純水で上澄み液の導電率が0.8mS/m以下になるようデカンテーション洗浄を繰り返し、導電率が0.790mS/mになったところで洗浄を終了すると、固形分濃度0.73%の水酸化物が712g作製された。次いで、この分散液を1〜5℃に冷却しながら35%過酸化水素水(タイキ薬品工業(株)製)を56g添加し16時間撹拌すると黄褐色の0.88%濃度のアモルファス型過酸化チタン分散液(比較製造例の塗布液)763gが得られた。

比較製造例1−2(アナターゼ型チタニアの過酸化物水分散液(光触媒機能)の調整)
比較製造例1−1溶液を200g計量し、100℃の温度で5時間加熱して淡黄色縣濁のアナターゼ型過酸化チタン水分散液が1.22%固形分濃度で140g得られた。

実施例1−1(アモルファス型酸化チタンと酸化ジルコニウムとの複合過酸化物を含む塗布液(誘電性機能)の調製)
純水1,000mlに50%四塩化チタン溶液(住友シチックス(株)製)20gとZrClO・8HO(三塩化ジルコニウム:和光純薬工業(株)製)1.696gを完全に溶かした溶液に純水を加え2,000mlにメスアップした溶液を準備する。これに25%アンモニア水(高杉製薬(株)製)を10倍に希釈したアンモニア水を滴下してpH7.0に調整して水酸化ジルコニウムと水酸化チタンの混合物を沈殿させた。この沈殿物を純水で上澄み液の導電率が0.8mS/m以下になるようデカンテーション洗浄を繰り返し、導電率が0.702mS/mになったところで洗浄を終了すると、0.79%濃度の水酸化物が626g作製された。次いで、この分散液を室温下で35%過酸化水素水(タイキ薬品工業(株)製)を56g添加し16時間撹拌すると、黄褐色の0.88%濃度のジルコニウムが酸化物としてドープされたアモルファス型過酸化チタンを含む本発明の塗布液680gが得られた。

実施例1−2(アナターゼ型酸化チタンと酸化ジルコニウムとの複合過酸化物を含む塗布液(光触媒機能)の調製)
実施例1−1で得られた塗布液を200g計量し、100℃の温度で5時間加熱すると、ジルコニウムが酸化物としてドープされた淡黄色のアナターゼ型過酸化チタンを含む本発明の塗布液が1.22%固形分濃度で140g得られた。

実施例2(アモルファス型酸化チタンと酸化ジルコニウムと酸化銅との複合過酸化物を含む塗布液(光酸化低減機能)の調製)
純水1,000mlに50%四塩化チタン溶液(住友シチックス(株)製)20gとZrClO・8HO(三塩化ジルコニウム:和光純薬工業(株)製)1.696gと97%CuCl・2HO(塩化第二銅)(日本化学産業(株)製)1.852gを完全に溶かした溶液に純水を加え2,000mlにメスアップした溶液を準備する。これに25%アンモニア水(高杉製薬(株)製)を10倍に希釈したアンモニア水を滴下してpH7.0に調整して水酸化銅と水酸化ジルコニウムと水酸化チタンの混合物を沈殿させた。この沈殿物を純水で上澄み液の導電率が0.8mS/m以下になるようデカンテーション洗浄を繰り返し、導電率が0.784mS/mになったところで洗浄を終了すると、0.82%濃度の複合水酸化物が592g作製された。次いで、この分散液を室温下で35%過酸化水素水(タイキ薬品工業(株)製)を112g添加し16時間撹拌するとCuイオンが400ppmとジルコニウムが酸化物としてドープされた緑黄色の0.95%濃度のアモルファス型過酸化チタンを含む本発明の塗布液700gが得られた。

実施例3−1(アモルファス型酸化チタンと酸化ハフニウムとの複合過酸化物を含む塗布液(誘電性機能)の調製)
純水1,000mlに50%四塩化チタン溶液(住友シチックス(株)製)20gとHfCl(塩化ハフニウム:三津和化学(株))1.686gを完全に溶かした溶液に純水を加え2,000mlにメスアップした溶液を準備する。これに25%アンモニア水(高杉製薬(株)製)を10倍に希釈したアンモニア水を滴下してpH7.0に調整して水酸化ハフニウムと水酸化チタンとの混合物を沈殿させた。この沈殿物を純水で上澄み液の導電率が0.8mS/m以下になるようデカンテーション洗浄を繰り返し、導電率が0.772mS/mになったところで洗浄を終了すると、0.90%濃度の混合水酸化物が491g作製された。次いで、この分散液を室温下で35%過酸化水素水(タイキ薬品工業(株)製)を112g添加し16時間撹拌すると黄褐色の0.97%濃度の酸化ハフニウムがドープされたアモルファス型過酸化チタンを含む本発明の塗布液600gが得られた。

実施例3−2(アナターゼ型酸化チタンと酸化ハフニウムとの複合過酸化物を含む塗布液(光触媒機能)の調製)
実施例3−1の塗布液を200g計量し、100℃の温度で5時間加熱すると、ハフニウムが酸化物としてドープされた淡黄色のアナターゼ型過酸化チタンを含む本発明の塗布液が1.32%固形分濃度で142g得られた。

実施例4(アモルファス型酸化チタンと酸化ハフニウムと銅酸化物との複合過酸化物を含む塗布液(光酸化低減機能)の調製)
純水1,000mlに50%四塩化チタン溶液(住友シチックス(株)製)20gとHfCl(塩化ハフニウム:三津和化学(株))1.686gと97%CuCl・2HO(塩化第二銅)(日本化学産業(株)製)1.852gを完全に溶かした溶液に純水を加え2,000mlにメスアップした溶液を準備する。これに25%アンモニア水(高杉製薬(株)製)を10倍に希釈したアンモニア水を滴下してpH7.0に調整して水酸化銅と水酸化ハフニウムと水酸化チタンとの混合物を沈殿させた。この沈殿物を純水で上澄み液の導電率が0.8mS/m以下になるようデカンテーション洗浄を繰り返し、導電率が0.710mS/mになったところで洗浄を終了すると、0.79%濃度の水酸化物が603g作製された。次いで、この分散液を室温下で35%過酸化水素水(タイキ薬品工業(株)製)を112g添加し16時間撹拌するとCuイオンが400ppmとハフニウムが酸化物としてドープされた緑黄色の0.85%濃度のアモルファス型過酸化チタンを含む本発明の塗布液712gが得られた。
<成膜基板の作製>
基板作製実施例1−1(誘電性機能)および1−2(光触媒機能)
実施例1−1で作製した塗布液を用いて、ガラス板とコロナ処理したポリカーボネート板にGS工法(ガーゼスクイズ工法)でそれぞれ膜厚100nmの膜を作製し、これを基板作製実施例1−1とした。また、同様に実施例1−2で作成した塗布液を用いて作成したものを基板作製実施例1−2とした。また、これら各々の塗布液を赤インク消色評価用として白色タイルにスプレー工法で膜厚100nmの膜を作製した。

基板作製実施例2(光酸化低減機能)
実施例2で作製した塗布液に界面活性剤SH3746M(東レ・ダウコーニング(株))を0.1%添加し、該塗布液を用いて、ガラス板およびコロナ処理したポリカーボネート板にGS工法(ガーゼスクイズ工法)でそれぞれ膜厚100nmの膜を作製し、これを基板作製実施例2とした。また、上記塗布液を赤インク消色評価用として白色タイルにスプレー工法で膜厚100nmの膜を作製した。

基板作製実施例3−1(誘電性機能)および3−2(光触媒機能)
実施例3で作製した塗布液を用いて、ガラス板およびコロナ処理したポリカーボネート板にGS工法(ガーゼスクイズ工法)でそれぞれ膜厚100nmの膜を作製し、これを基板作製実施例3−1とした。また、同様に実施例3−2で作成した塗布液を用いて成膜したものを基板作製実施例3−2とした。また、これら各々の塗布液を赤インク消色評価用として白色タイルにスプレー工法で膜厚100nmの膜を作製した。

基板作製実施例4(光酸化低減機能)
実施例4で作製した塗布液に界面活性剤SH3746M(東レ・ダウコーニング(株))を0.1%添加した塗布液を用いて、ガラス板およびコロナ処理したポリカーボネート板にGS工法(ガーゼスクイズ工法)でそれぞれ膜厚100nmの膜を作製し、これを基板作製実施例4とした。また、上記塗布液を用いて白色タイルに赤インク消色評価用としてスプレー工法で膜厚100nmの膜を作製した。

基板作製比較例1(誘電性機能)、基板作製比較例1−2(光触媒機能)
比較製造例1−1で作製した塗布液を、ガラス板およびコロナ処理したポリカーボネート板にGS工法(ガーゼスクイズ工法)でそれぞれ膜厚100nmの膜を作製し、これを基板作製比較例1とした。また、上記塗布液を用いて白色タイルに赤インク評価試験用としてスプレー工法で膜厚100nmの膜を作製した。
比較製造例1−2で作製したアナターゼ型過酸化チタン分散液を基板作製比較例1と同様の方法で作製し、これを基板作製比較例1−2とした。
【0031】
評価方法:
評価1
基板作製実施例1−1、2、3−1、4、および対照として基板作製比較例1で得られたガラスとポリカーボネート基板の各試験片を、表1および表2に記載の加熱温度条件及びUV照射条件によって、恒温恒湿庫中で加熱し、下記の装置で紫外線(UV)照射を行い、膜の評価を行なった。紫外線照射条件は下記の通りである。
・高圧水銀灯装置:セン社製 紫外線照射装置 HLR−400D−1
ランプHL400DL
・低圧水銀灯装置:セン社製 光表面処理装置 PL16−110D−1
ランプUE1101N−4
・UV−A照射装置:東芝ライテック社製20Wブラックライト
10cm隔離 1,100μw/cm

・透明性:加熱およびUV照射後、外光を反射透過させ基板の透明性を視覚判断した。○は透明性良好を示す。
・膜の熱追従性(表面クラック):加熱およびUV照射後、レーザー顕微鏡(キーエンス製)PROFILE MICROSOCOPE VF-7510にて3ヶ所確認で表面クラックの有無を視覚判断した。○はクラック発生が無いことを示し、△クラック発生が僅かにあったものを示す。
・鉛筆硬度:三菱鉛筆(ユニ)H〜9Hまでを用意し、定圧で芯を滑らせ表面の傷発生の有無を上記と同様にして判定した。評価結果では、傷を発生させなかった鉛筆の最高硬度を示した。
・耐摩耗性(ティッシュ擦り):(株)クレシア製 ケイドライ ワイパー132−Sを四つ折にし、指の圧力を定圧にしながら基板上を往復させ、その後、レーザー顕微鏡(キーエン製)PROFILE MICROSOCOPE VF-7510にて傷の有無を確認した。ティッシュ擦りの回数は200回を最大とし、10回毎に傷の発生の有無を確認した。評価結果において、特に表示がなければ200回でも無傷状態であったことを示す。200回に到る前に、傷の発生を多数確認した場合は、その10回前の回数を表示した。
【0032】
以上の結果を表1および表2に示す。


評価2
基板作製実施例1−1、2、3−1、4および基板作製比較例1で得られた赤色着色白タイルを並列配置し、その上に20Wブラックライト(ナショナル社製)を設置し、1,100μw/cmの強度で紫外線を照射した。これを42時間にわたって継続し、色彩計CR―200(ミノルタ社製)を用いて赤色の消色評価を行った。結果を表3に示す。

評価3
基板作製実施例1−2、3−2および基板作製比較例1−2で得られた赤色着色白タイルを並列配置し、20Wブラックライト(東芝ライテック社製)を10cm隔離で照射(1,100μw/cm)して経時の消色率を評価した。結果を表4に示す

上記評価2および評価3における消色率は以下の計算式から求めた。
消色率
=100−√((L2-L0)+(a2-a0)+(b2-b0))/ √((L1-L0)+(a1-a0)+(b1-b0))×100
赤インク着色前の各基板の色:(L0,a0,b0)
赤インク着色後の各基板の色:(L1,a1,b1)
紫外線照射後の各基板の色:(L2,a2,b2)

【0033】
評価結果:
評価1から、無機基板であるガラスを使用しての評価では、酸化チタンと、酸化ジルコニウム及び/または酸化ハフニウムを複合化することで、形成された酸化物複合膜の物理的強度が優れていることが判る。また、造膜するために、加熱処理だけに依らず高圧水銀灯もしくは低圧水銀灯による紫外線照射との併用、あるいは加熱処理を行わずに高圧水銀灯もしくは低圧水銀灯による紫外線照射単独による処理が有効であることがわかる。
高分子基板であるポリカーボネートを使用しての評価では、ガラスと同様の傾向が見られるが、いずれにしても、酸化チタンと、酸化ジルコニウム及び/または酸化ハフニウムを複合化することで酸化物複合膜の物理的強度が向上し、加熱だけでなく高圧水銀灯もしくは低圧水銀灯もしくはブラックライトによる紫外線照射との併用、または高圧水銀灯もしくは低圧水銀灯による紫外線照射単独処理が強固な膜とするために有効な条件である。
【0034】
光触媒評価基板である基板作製実施例1−2、3−2及び基板作製比較例1−2についても評価1と同様の評価を実施したところ、評価1に準じた評価結果であった。
【0035】
また、評価2及び3から、誘電分極現象を利用した膜表面正電荷による酸化分解低減および光触媒機能は、本発明により形成された酸化物複合膜の機能上問題がないことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
以上の如き本発明によれば、各種基材の表面に、耐擦傷性や耐摩耗性を付与するとともに、各種基材の熱収縮や変形に対し追従でき、基材が有機・無機を問わず、接着剤を使用することなく固着性能に優れ、基材表面や基材表層の保護と同時に、目的に合せて汚れの主成分である有機物・無機ガスを分解したり静電反発する能力を有する酸化物複合膜および該膜形成用塗布液を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の塗布液の製造方法を説明する図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化チタンと、酸化ジルコニウムおよび/または酸化ハフニウムとを含む複合物から基材表面に形成されていることを特徴とする酸化物複合膜。
【請求項2】
酸化チタンが、ペルオキソ基で修飾されたアモルファス型および/またはアナターゼ型酸化チタンである請求項1に記載の酸化物複合膜。
【請求項3】
酸化チタン(A)と、酸化ジルコニウムおよび/または酸化ハフニウム(B)とが、モル比でA:B=1:0.01〜1:0.5の割合で含有されている請求項1に記載の酸化物複合膜。
【請求項4】
基材が、熱硬化樹脂、熱可塑性樹脂、金属、ガラス、セラミック、コンクリート材、および石材から選ばれる少なくとも1種からなる請求項1に記載の酸化物複合膜。
【請求項5】
酸化チタンと、酸化ジルコニウムおよび/または酸化ハフニウムとの複合物が水中に分散していることを特徴とする酸化物複合膜形成用塗布液。
【請求項6】
チタンの化合物または有機チタン化合物とジルコニウムの化合物および/またはハフニウムの化合物とを含む溶液を、アルカリ性溶液により中和して各金属の水酸化物の混合物を形成する工程と、該混合物を酸化剤により酸化して超微粒子過酸化物とする工程とを有することを特徴とする酸化物複合膜形成用塗布液の製造方法。
【請求項7】
請求項5に記載の酸化物複合膜形成用塗布液を基体に塗布して常温以上400℃以下の熱線又は/及び紫外線の電磁波を照射して固着硬化させる、酸化物複合膜の造膜方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2007−22844(P2007−22844A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−206520(P2005−206520)
【出願日】平成17年7月15日(2005.7.15)
【出願人】(501016054)サスティナブル・テクノロジー株式会社 (12)
【Fターム(参考)】