説明

酸化物超電導導体用基材及び酸化物超電導導体

【課題】イオンビームアシスト法(IBAD法)により形成される中間層の結晶配向性を高め、かつ、中間層の成膜条件が広範囲となるよう促す特性を有するベッド層を備えた酸化物超電導体用基材及びそれを用いた酸化物超電導導体の提供。
【解決手段】本発明の酸化物超電導導体用基材は、金属基材21上に、X酸化物(Xは、Yb、Gd、Ho、LaまたはSmを示す。)、又は、前記X酸化物とYから選択される2種以上が混合された混合酸化物よりなるベッド層22と、ベッド層22上にイオンビームアシスト法により成膜された中間層23とを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物超電導導体用基材及び酸化物超電導導体に関する。
【背景技術】
【0002】
RE−123系酸化物超電導体(REBaCu7−n:REはYを含む希土類元素のいずれか)は、液体窒素温度以上で優れた超電導特性を示すことから、実用上極めて有望な素材とされており、この酸化物超電導体を線材に加工して電力供給用の導体として用いることが強く要望されている。
このRE−123系酸化物超電導導体の作製には、結晶配向性の高い基材上に結晶配向性の良好な酸化物超電導層を形成する必要がある。これは、この種の希土類系酸化物超電導体の結晶が、その結晶軸のa軸とb軸方向には電気を流しやすいが、c軸方向には電気を流し難いという電気的異方性を有しており、基材上に酸化物超電導層を形成する場合の下地となる基材においても、結晶配向性を良好とする必要がある。
【0003】
このようなRE−123系酸化物超電導導体に用いる基材として、図6に示す如くテープ状の金属基材100上に、IBAD(Ion Beam Assisted Deposition:イオンビームアシスト)法によって中間層110を積層形成した構造が知られている(例えば、特許文献1参照)。
上述のIBAD法により形成される中間層110とは、熱膨張率や格子定数等の物理的な特性値が金属基材100と酸化物超電導層との中間的な値を示す材料、例えばMgO、YSZ(イットリア安定化ジルコニウム)、SrTiO等によって構成されている。このような中間層110は、金属基材100と酸化物超電導層との物理的特性の差を緩和するバッファー層として機能する。また、IBAD法によって成膜されることにより、中間層110の結晶は高い結晶配向性を有している。
【0004】
中間層110は、例えば図6に示す如く立方晶系の結晶構造を有する微細な結晶粒120が、多数、結晶粒界を介し接合一体化されてなり、各結晶粒120の結晶軸のc軸は基材100の上面(成膜面)に対し直角に向けられ、各結晶粒120の結晶軸のa軸同士及びb軸同士は、互いに同一方向に向けられて面内配向されている。そして、各結晶粒120のa軸(あるいはb軸)同士は、それらのなす角(図7に示す粒界傾角K)を30度以内にして接合一体化されている。
この中間層110の結晶面内配向性が高い方がその上に成膜される酸化物超電導層も高い結晶配向性となり、この結晶面内配向性が高く有るほど、臨界電流、臨界磁場、臨界温度等の超電導特性が優れた酸化物超電導導体を得ることができる。
また、金属テープの基材上に中間層と金属酸化物からなるキャップ層と酸化物超電導層を積層し、キャップ層の結晶配向性を中間層より更に高めることにより、優れた結晶配向性を有する酸化物超電導層を形成する技術も知られている(特許文献2参照)。
【0005】
上述の如く高配向度の基材を得ることは、希土類系酸化物超電導導体を作製する上で重要な役割を果たすので、本発明者らは鋭意研究開発を進めており、その過程において、IBAD法を用い、極めて薄い厚さであっても優れた配向性を示すMgOの中間層を形成する技術を開発している。
また、本発明者らは、より高配向性の酸化物超電導層を備えた酸化物超電導導体を研究するに際し、IBAD法により形成される中間層の下地となるベッド層についても精力的に研究を進めている。このベッド層は、その上にIBAD法により形成される中間層の結晶配向性をさらに高めると同時に、酸化物超電導層形成後の熱処理時において金属基材からの不要な元素拡散を抑制する目的で設けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−71359号公報
【特許文献2】特開2008−130255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
現在、酸化物超電導線材の長尺化が進められており、Km級への長尺化が要求されている。酸化物超電導線材を長尺化するには、当然のことながら、IBAD法によるMgOの中間層(以下、「IBAD−MgO」と称することがある。)も長尺線材に成膜する必要がある。しかしながら、IBAD−MgOなどの中間層の成膜条件(例えば、成膜面上に供給されるMgO分子とアシストビームイオンの比など)は、非常に狭い領域内にコントロールする必要があり、アシストイオンビームが安定しない場合、長尺線材の成膜開始部から終了部まで安定して高配向なMgOを成膜することが困難となる虞がある。そのため、アシストイオンビームが不安定な場合でも、高配向性のIBAD−MgOなどの中間層が成膜可能な、すなわち、中間層の成膜条件が広範囲となるよう促す特性を有するベッド層の開発が必要とされている。
また、酸化物超電導導体の中間層はIBAD−MgOに限らず、上述した如くIBAD法により種々の中間層が開発されているので、これらに好適なベッド層の提供が望まれている。
【0008】
本発明は、このような従来の実情に鑑みてなされたものであり、IBAD法により形成される中間層の結晶配向性を高め、かつ、中間層の成膜条件が広範囲となるよう促す特性を有するベッド層を備えた酸化物超電導体用基材及びそれを用いた酸化物超電導導体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本願発明者らは、IBAD法により形成される中間層の下地となる層構造について鋭意研究を重ねた結果、ベッド層として有用な材料を見出し、本願発明に至った。
すなわち、本発明の酸化物超電導導体用基材は、金属基材上に、X酸化物(Xは、Yb、Gd、Ho、LaまたはSmを示す。)、又は、前記X酸化物とYから選択される2種以上が混合された混合酸化物よりなるベッド層と、該ベッド層上にイオンビームアシスト法により成膜された中間層とを備えることを特徴とする。
本発明の酸化物超電導導体用基材は、前記X酸化物のXが、YbまたはGdであることが好ましい。
本発明の酸化物超電導導体用基材は、前記金属基材と前記ベッド層との間に、拡散防止層が介在されてなることが好ましい。
また、本発明の酸化物超電導導体用基材は、前記中間層の上に、キャップ層を介して酸化物超電導層が積層されて酸化物超電導導体の基材として適用されることが好ましい。
さらに、本発明は、上記酸化物超電導導体用基材の上に、キャップ層と酸化物超電導層とを備えてなる酸化物超電導導体を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、金属基材上にIBAD−MgOなどの中間層を成膜する場合の下地として、X酸化物(Xは、Yb、Gd、Ho、LaまたはSmを示す。)、又は、X酸化物とYから選択される2種以上が混合された混合酸化物よりなるベッド層を設けることにより、IBAD−MgO層などの中間層の結晶配向性を高めることができる。さらに、このような構成のベッド層を設けたことにより、アシストイオンビームが不安定な場合でも、高配向性のIBAD−MgOなどの中間層が成膜可能な、すなわち、中間層の成膜条件が広範囲となるよう促す特性を有するベッド層を備えた酸化物超電導導体用基材となる。従って、本発明の酸化物超電導導体用基材の中間層の結晶配向性は良好であり、この上にキャップ層や酸化物超電導層を形成することにより、酸化物超電導層の結晶配向性は優れたものとすることができるので、良好な超電導特性を有する酸化物超電導導体を提供することができる
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る酸化物超電導導体用基材の一例を示す構成図である。
【図2】本発明に係る酸化物超電導導体用基材の他の例を示す構成図である。
【図3】本発明に係る酸化物超電導導体の一例を示す構成図である。
【図4】イオンビームアシスト法により成膜する装置の一例を示す概略構成図である。
【図5】図4に示す装置に適用されるイオンガンの構造の一例を示す概略構成図である。
【図6】金属テープ上にIBAD法により形成した中間層の一例を示す構成図である。
【図7】IBAD法により形成した中間層の結晶粒を示す構成図である。
【図8】実施例1でIBAD−MgO層上に成膜されたCeO層の(220)極点図である。
【図9】実施例2でIBAD−MgO層上に成膜されたCeO層の(220)極点図である。
【図10】実施例3でIBAD−MgO層上に成膜されたCeO層の(220)極点図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明について詳細に説明する。
図1は、本発明に係る酸化物超電導導体用基材Aの積層構造の一例を示す構成図である。本実施形態の酸化物超電導導体用基材Aは、図1に示すように、金属基材21と、その上に成膜されたX酸化物(Xは、Yb、Gd、Ho、LaまたはSmを示す。)、又は、X酸化物とYから選択される2種以上が混合された混合酸化物よりなるベッド層22と、イオンビームアシスト法(IBAD法)により成膜された中間層23と、その上に成膜されたキャップ層24とを備えた積層構造を有しており、このキャップ層24上に後述の如く酸化物超電導層を成膜することで酸化物超電導導体が構成される。
【0013】
金属基材21を構成する材料としては、強度及び耐熱性に優れた、Cu、Ni、Ti、Mo、Nb、Ta、W、Mn、Fe、Ag等の金属又はこれらの合金を用いることができる。特に、好ましいのは、耐食性及び耐熱性の点で優れているステンレス、ハステロイ(登録商標)、その他のニッケル系合金である。あるいは、これらに加えてセラミック製の基材、非晶質合金の基材などを用いても良い。なお、金属基材21は、本実施形態ではテープ状のものを用いているが、これに限定されず、例えば、板材、線材、条体等の種々の形状のものを用いることができる。
【0014】
ベッド層22は、耐熱性が高く、界面反応性をより低減するためのものであり、その上に配される中間層23の配向性を得るために機能する。ベッド層22は、X酸化物(Xは、Yb、Gd、Ho、LaまたはSmを示す。)、又は、このX酸化物とYから選択される2種以上が混合された混合酸化物から構成することができる。ベッド層22を構成する材料としては、具体的には、Yb、Gd、Ho、La、Sm、Yb−Gd、Y−Yb、Y−Gd、Yb−Ho、Y−Ho、Gd−Ho、Yb−La、Yb−Sm、Y−Sm、Gd−La、Gd−Sm、Y−La、Ho−La、Ho−Sm、La−Sm、Yb−Gd−Y、Yb−Gd−Ho、Yb−Y−Ho、Gd−Y−Ho等が挙げられる。ここで、ベッド層22を構成する混合酸化物において、X酸化物とYから選択される2種以上の混合比は特に限定されず、適宜調整することができる。
【0015】
このようなX酸化物、又は、X酸化物とYから選択される2種以上が混合された混合酸化物からなるベッド層22を用いることで、その上に形成するIBAD−MgOなどの中間層23をより高配向性のものとすることができる。さらに、このような構成のベッド層22を用いることで、アシストイオンビーム等の成膜条件が長時間に亘る成膜工程において安定しない場合でも、高配向性のIBAD−MgOなどの中間層23を成膜可能とすることができる。
上述したベッド層22を構成する材料の中でも、Yb、Gd、Yb−Gd、Y−Yb及びY−Gdは、その上に形成するIBAD−MgOなどの中間層23の結晶配向性を向上させる効果、及び、中間層23の成膜条件を広範囲となるように促す効果が高く、特に、Yb、Yb−Gd、Y−Ybは優れたベッド層22として機能する。
【0016】
ベッド層22の膜厚は、6〜100nmの範囲であることが好ましく、10〜70nmの範囲であることがより好ましい。ベッド層22の膜厚が6nm未満の場合、上に形成されるIBAD−MgOの中間層23の配向性が不十分となる可能性がある。さらに、ベッド層22が6nm未満であると、ベッド層22のみを基材21上に設けた構造の場合に、後述する酸化物超電導層形成後の熱処理などにおいて基材21側からの元素拡散を抑制する効果が不足するおそれがある。一方、ベッド層22の膜厚が100nmを超えると、ベッド層22と中間層23を含めた全体の層厚が厚くなるので、全体の成膜に時間を要することとなり、製造コスト、製造効率の面で不利となる。
なお、ベッド層22の結晶配向性は本願発明では特に問わないので、ベッド層22は特別な成膜法で形成する必要はなく、従来公知の成膜法を適用することができる。ベッド層22の成膜法としては、例えば、イオンビームスパッタ法、電子ビーム蒸着法、パルスレーザー蒸着法(PLD法)、化学気相成長法(CVD法)などが挙げられる。
【0017】
中間層23は、IBAD法によって形成された蒸着膜であり、金属基材21と後述する酸化物超電導層との物理的特性(熱膨張率や格子定数等)の差を緩和するバッファー層として機能するとともに、この上に形成されるキャップ層24の結晶配向性を制御する配向制御膜として機能する。この中間層23を成膜する場合にイオンビームアシストスパッタ装置を用いてイオンビームアシストスパッタ法を実施するが、それらの説明については後述する。
【0018】
中間層23を構成する材料としては、これらの物理的特性が金属基材21と酸化物超電導導体膜との中間的な値を示すものが用いられる。このような中間層23の材料としては、例えば、MgO、イットリア安定化ジルコニウム(YSZ)、GdZr、CeO等を挙げることができ、その他、パイロクロア構造、希土類−C構造、ペロブスカイト型構造又は蛍石型構造を有する適宜の化合物を用いることができる。これらの中でも、中間層23の材料としては、MgO、YSZ、あるいは、GdZrを用いることが好ましい。特に、MgOやGdZrは、IBAD法における配向度を表す指標であるΔΦ(FWHM:半値全幅)の値を小さくできるため、中間層23の材料として特に適している。また、特に、MgOを中間層23の材料として用いる場合には、(100)軸が基板表面の法線方向に配向した4回対称性のMgOであるのが好ましい。
【0019】
中間層23の膜厚は、1〜1000nm(1.0μm)の範囲、例えば数nm程度とすることができるが、これらの範囲や値に制限されるものではない。特に、X酸化物、又は、X酸化物とYから選択される2種以上が混合された混合酸化物からなるベッド層22を用いることにより、中間層23の膜厚を薄くしても結晶配向性の良好なものを得ることが可能となり、中間層23がIBAD−MgOの場合に膜厚数nm以上で確実に結晶配向性の良好な膜を生成できる。
中間層23の膜厚が1.0μmを超えて厚くなると、中間層23の成膜方法として用いるIBAD法の蒸着速度が比較的低速であることから、中間層23の成膜時間が長くなり経済的に不利となる。
一方、中間層23の膜厚が1nm未満であると、中間層23自身の結晶配向性を制御することが難しくなり、この上に形成されるキャップ層24の配向度制御が難しくなり、さらにキャップ層24の上に形成される酸化物超電導層の配向度制御も難しくなる。その結果、酸化物超電導導体は臨界電流が不十分となる可能性がある。
【0020】
キャップ層24は、その上に設けられる酸化物超電導層の配向性を制御する機能を有するとともに、酸化物超電導層を構成する元素の中間層23への拡散や、成膜時に使用するガスと中間層23との反応を抑制する機能などを有する。
キャップ層24としては、特に、中間層23の表面に対してエピタキシャル成長するととともに、横方向(面方向)に粒成長(オーバーグロース)して、結晶粒が面内方向に選択成長するという過程を経て成膜される自己配向化する膜であることが好ましい。このように選択成長しているキャップ層24は、中間層23よりも更に高い面内配向度が得られる。
【0021】
キャップ層24を構成する材料としては、このような機能を発現し得るものであれば特に限定されないが、例えば、CeO、LaMnO、SrTiO、Y、Al等を用いるのが好ましい。
キャップ層24の構成材料としてCeOを用いる場合、キャップ層24は、全体がCeOによって構成されている必要はなく、Ceの一部が他の金属原子又は金属イオンで置換されたCe−M−O系酸化物を含んでいてもよい。
【0022】
キャップ層24の適正な膜厚は、その構成材料によって異なり、例えばCeOによってキャップ層24を構成する場合には、50〜5000nmの範囲、より好ましくは100〜5000nmの範囲などを例示することができる。キャップ層24の膜厚がこれらの範囲から外れると、十分な配向度が得られない場合がある。
キャップ層24を成膜するには、パルスレーザー蒸着法(PLD法)、スパッタリング法などで形成することができるが、大きな成膜速度を得られる点でPLD法を用いることが望ましい。
なお、本実施形態ではキャップ層24を有する酸化物超電導導体用基材Aを例示したが、本発明はこれに限定されず、キャップ層24を有さない構成とすることも可能である。
【0023】
また、本発明に係る酸化物超電導導体用基材は図1に示す構造に限るものではなく、図2に示す如く、図1に示す構成に加えて、金属基材21とベッド層22との間に、拡散防止層19が介在された積層構造としていても良い。
【0024】
拡散防止層19は、金属基材21の構成元素拡散を防止する目的で形成されたもので、
窒化ケイ素(Si)、酸化アルミニウム(Al、「アルミナ」とも呼ぶ)、あるいは希土類金属酸化物等から構成され、その厚さは例えば10〜400nmである。
拡散防止層19の厚さが10nm未満になると、金属基材21の構成元素の拡散を十分に防止できない虞がある。一方、拡散防止層19の厚さが400nmを超えると、拡散防止層19の内部応力が増大し、これにより、酸化物超電導導体用基材Bを構成する各層が金属基材21から剥離しやすくなる虞がある。
また、拡散防止層19の結晶性は特に問われないので、通常のスパッタ法等の成膜法により形成すればよい。
【0025】
上述の如く拡散防止層19とベッド層22の2層構造とするのは、ベッド層22の上に中間層23や後述する酸化物超電導層等の他の層を形成する場合に、必然的に加熱されたり、熱処理される結果として熱履歴を受ける場合、金属基材21の構成元素の一部がベッド層22を介して酸化物超電導層側に拡散することを抑制するためであり、拡散防止層19とベッド層22の2層構造とすることで、金属基材21側からの元素拡散を効果的に抑制することができる。
なお、本発明においては、金属基材21と中間層23との間に介在する積層構造は、拡散防止層19とベッド層22の2層構造に限定されるものではない。
【0026】
図3は本発明に係る酸化物超電導導体の一例を示すもので、この形態の酸化物超電導導体30は、前述の酸化物超電導導体用基材Bのキャップ層24の上に、酸化物超電導層37と安定化層38を形成してなる基本構造とされている。
酸化物超電導層37の材料としては、RE−123系酸化物超電導体(REBaCu7−n:REはY、La、Nd、Sm、Eu、Gd等の希土類元素)を用いることができる。RE−123系酸化物の中でも好ましくは、Y123(YBaCu7−n)又はGd123(GdBaCu7−n)等を用いることができるが、その他の酸化物超電導体、例えば、(Bi、Pb)CaSrCuなる組成等に代表される臨界温度の高い他の酸化物超電導体からなるものを用いても良いのは勿論である。
酸化物超電導層37の厚みは、0.5〜5μm程度であって、均一な厚みであることが好ましい。酸化物超電導層37は、PLD法、スパッタ法、TFA−MOD法(トリフルオロ酢酸塩を用いた有機金属堆積法、塗布熱分解法)等の成膜法で成膜することができる。また、酸化物超電導層37の膜質は均一であることが好ましく、酸化物超電導層37の結晶のc軸とa軸とb軸もキャップ層24の結晶に整合するようにエピタキシャル成長して結晶化しており、結晶配向性が優れたものとなっている。
【0027】
安定化層38は、酸化物超電導層37の超電導特性の安定化などの目的で形成されたもので、AgやAg合金、Cuなどの良電導性金属材料からなる。なお、本実施形態では安定化層38を有する酸化物超電導導体30を例示したが、本発明はこれに限定されず、安定化層38を有さない構成とすることも可能である。
【0028】
次に、前述の構造の酸化物超電導導体用基材の製造方法について説明する。
まず、前述の材料からなるテープ状などの長尺の金属基材21を用意し、この金属基材21上に、イオンビームスパッタ法、電子ビーム蒸着法、パルスレーザ蒸着法(PLD法)、化学気相蒸着法(CVD法)などの成膜法によってAlあるいはYなどの拡散防止層19を形成する。
次に、イオンビームスパッタ法、電子ビーム蒸着法、パルスレーザ蒸着法(PLD法)、化学気相蒸着法(CVD法)などの成膜法によって、X酸化物、又は、X酸化物とYから選択される2種以上が混合された混合酸化物からなるベッド層22を形成する。
次に、IBAD法によってMgOなどの中間層23を形成する。また、この中間層23上に、金属ターゲットを用いる反応性DCスパッタ法などによってキャップ層4を形成する。
本実施形態の説明では、以下、イオンビームアシストスパッタ装置とそれを用いたイオンビームアシスト法(IBAD法)により中間層23を成膜する場合について説明する。
【0029】
まず、本実施形態で用いるIBAD法による成膜装置について説明する。
図4は、IBAD法による中間層(IBAD−MgO等)を製造する装置の一例を示すものであり、この例の装置は、スパッタ装置にイオンビームアシスト用のイオンガンを設けた構成となっている。
この成膜装置は、金属基材21上にベッド層22が成膜された基材Aを保持する基材ホルダ51と、この基材ホルダ51の斜め上方に所定間隔をもって対向配置された板状のターゲット52と、基材ホルダ51の斜め上方に所定間隔をもって対向され、かつ、ターゲット52と離間して配置されたイオンガン53と、ターゲット52の下方においてターゲット52の下面に向けて配置されたスパッタビーム照射装置54を主体として構成されている。また、図中符号55は、ターゲット52を保持したターゲットホルダを示している。
また、図4に示す装置は図示略の真空容器に収納されていて、基材Aの周囲を真空雰囲気に保持できるようになっている。更に前記真空容器には、ガスボンベ等の雰囲気ガス供給源が接続されていて、真空容器の内部を真空等の低圧状態で、かつ、アルゴンガスあるいはその他の不活性ガス雰囲気または酸素を含む不活性ガス雰囲気にすることができるようになっている。
【0030】
なお、基材A(金属基材21)として長尺の金属テープを用いる場合は、真空容器の内部に金属テープの送出装置と巻取装置を設け、送出装置から連続的に基材ホルダ51に基材Aを送り出し、続いて巻取装置で巻き取ることでテープ状の基材上に多結晶薄膜を連続成膜することができるように構成することが好ましい。
基材ホルダ51は内部に加熱ヒータを備え、基材ホルダ51の上に位置された基材Aを所用の温度に加熱できるようになっている。また、基材ホルダ51の底部には、基材ホルダ51の水平角度を調整できる角度調整機構が付設されている。なお、角度調整機構をイオンガン53に取り付けてイオンガン53の傾斜角度を調整し、イオンの照射角度を調整するようにしても良い。
【0031】
ターゲット52は、目的とする中間層23を形成するためのものであり、目的の組成の多結晶薄膜と同一組成あるいは近似組成のもの等を用いる。ターゲット52として具体的には、MgOあるいはGZO等を用いるがこれらに限るものではなく、形成しようとする多結晶薄膜に見合うターゲットを用いれば良い。
イオンガン53は、容器の内部に、イオン化させるガスを導入し、正面に引き出し電極を備えて構成されている。そして、ガスの原子または分子の一部をイオン化し、そのイオン化した粒子を引き出し電極で発生させた電界で制御してイオンビームとして照射する装置である。ガスをイオン化するには高周波励起方式、フィラメント式等の種々のものがある。フィラメント式はタングステン製のフィラメントに通電加熱して熱電子を発生させ、高真空中でガス分子と衝突させてイオン化する方法である。また、高周波励起方式は、高真空中のガス分子を高周波電界で分極させてイオン化するものである。
本実施形態においては、図5に示す構成の内部構造のイオンガン53を用いる。このイオンガン53は、筒状の容器56の内部に、引出電極57とフィラメント58とArガス等の導入管59とを備えて構成され、容器56の先端からイオンをビーム状に平行に照射できるものである。
【0032】
イオンガン53は、図4に示すようにその中心軸を基材Aの上面(金属基材21上のベッド層22の上面;成膜面)に対して傾斜角度θでもって傾斜させて対向されている。この傾斜角度θは30〜60度の範囲が好ましいが、MgOの場合に特に45度前後が好ましい。従ってイオンガン53は基材Aの上面に対して傾斜角θでもってイオンを照射できるように配置されている。なお、イオンガン53によってベッド層形成後の基材Aに照射するイオンは、He、Ne、Ar、Xe、Kr 等の希ガスのイオン、あるいは、それらと酸素イオンの混合イオン等で良い。
スパッタビーム照射装置54は、イオンガン53と同等の構成をなし、ターゲット52に対してイオンを照射してターゲット52の構成粒子を叩き出すことができるものである。なお、本発明装置ではターゲット52の構成粒子を叩き出すことができることが重要であるので、ターゲット52に高周波コイル等で電圧を印加してターゲット52の構成粒子を叩き出し可能なように構成し、スパッタビーム照射装置54を省略しても良い。
【0033】
次に前記構成の装置を用いて金属基材21上のベッド層22上にMgOの中間層23を形成する場合について説明する。金属基材21上のベッド層22上に中間層23を形成するには、MgOのターゲットを用いるとともに、角度調整機構を調節してイオンガン53から照射されるイオンを基材ホルダ51の上面に45度前後の角度で照射できるようにする。次に基材を収納している容器の内部を真空引きして減圧雰囲気とする。そして、イオンガン53とスパッタビーム照射装置54を作動させる。
スパッタビーム照射装置54からターゲット52にイオンを照射すると、ターゲット52の構成粒子が叩き出されてベッド層22上に飛来する。そして、ベッド層22上に、ターゲット52から叩き出した構成粒子を堆積させると同時に、イオンガン53からArイオンと酸素イオンの混合イオンを照射する。このイオン照射する際の照射角度θは、例えばMgOを形成する際には、45度前後の範囲とすることができる。
【0034】
以上の方法によりベッド層22上に薄くとも良好な結晶配向性でIBAD−MgO層を形成することができる。ここで、本実施形態では、IBAD−MgO層の生成に良好な下地となるX酸化物、又は、X酸化物とYから選択される2種以上が混合された混合酸化物からなるベッド層22を設けているので、数nm〜50nm程度の極めて薄い膜厚であっても、十分な結晶配向性を有するIBAD−MgO層を成膜することができる。
【0035】
なお、このIBAD−MgO層(中間層23)上にCeOなどのキャップ層24を通常の成膜法により成膜することで、結晶配向性に優れたIBAD−MgOの中間層23の表面に対してエピタキシャル成長するとともに、横方向(面方向)に粒成長(オーバーグロース)して、結晶粒が面内方向に選択成長するという過程を経て成膜させることで、中間層23よりも更に高い面内配向度のキャップ層24を得られる。
【0036】
従って本実施形態の構造では、X酸化物、又は、X酸化物とYから選択される2種以上が混合された混合酸化物からなるベッド層22を設けることにより、わずか数nm〜20nm程度の膜厚のIBAD−MgOの中間層23であっても、その上に結晶配向性が良好なCeOなどのキャップ層24を成膜することができる。
また、この酸化物超電導導体用基材A、Bを用いて形成した酸化物超電導導体にあっては、金属基材21の上に形成する膜の総厚を抑制できるので、酸化物超電導導体を製造する場合の成膜時間を削減することができ、製造コストの削減に寄与する。
【0037】
本発明によれば、金属基材上にIBAD−MgOなどの中間層を成膜する場合の下地として、X酸化物(Xは、Yb、Gd、Ho、LaまたはSmを示す。)、又は、X酸化物とYから選択される2種以上が混合された混合酸化物よりなるベッド層を設けることにより、IBAD−MgO層などの中間層の結晶配向性を高めることができる。さらに、このような構成のベッド層を設けたことにより、アシストイオンビームが不安定な場合でも、高配向性のIBAD−MgOなどの中間層が成膜可能な、すなわち、中間層の成膜条件が広範囲となるよう促す特性を有するベッド層を備えた酸化物超電導導体用基材となる。従って、本発明の酸化物超電導導体用基材の中間層の結晶配向性は良好であり、この上にキャップ層や酸化物超電導層を形成することにより、酸化物超電導層の結晶配向性は優れたものとすることができるので、良好な超電導特性を有する酸化物超電導導体を提供することができる
【実施例】
【0038】
以下、実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1〜14、及び比較例1〜7)
長尺テープ状の幅1cmのハステロイ(登録商標)金属基材上に、スパッタ法によりAlの拡散防止層を成膜した。Al層の成膜温度は室温で、膜厚は100nmとした。
次に、このAlの拡散防止層上に、イオンビームスパッタ法により表1及び表2記載の物質をベッド層として同表記載の膜厚で成膜した。
続いて、金属基材上に拡散防止層とベッド層が成膜された各試料に対して、IBAD法によりMgOのターゲットを用いてアシストビームイオンを入射角45°で照射しながらMgOのターゲットにイオンビームを照射してターゲット粒子を叩き出し、各試料のベッド層上に4回対称のIBAD−MgOの中間層を成膜した。IBAD−MgOの中間層は、膜厚は5nmとし、アシストイオンガンの電流値は900mAとして成膜を行った。
【0039】
次に、これらの試料に対し、MgO(220)のX線正極点測定を行うために、イオンビームスパッタ法により、IBAD−MgOの中間層上に厚さ200nmのMgO層を成膜温度300℃でエピタキシャル成膜した。得られた各試料に対し、MgO(220)のX線正極点測定を行い、最上面のエピタキシャル成長MgO層の面内配向度ΔΦを測定した。その結果を表1及び表2に示す。
また、上記で作製した金属基材上に拡散防止層、ベッド層、IBAD−MgOの中間層が順に成膜された各試料に対し、IBAD−MgOの中間層上に、パルスレーザー蒸着法(PLD法)により800℃で450nmのCeOのキャップ層を形成した。そして、このキャップ層のCeO(220)のX線正極点測定を行い、面内配向度ΔΦを測定した。結果を表1及び表2に併記した。また、実施例1〜3のキャップ層のCeO(220)正極点図を図8〜10に示す。なお、表1において、「×」は無配向を示す。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

【0042】
図8〜10、表1及び表2の結果より、本発明に係る実施例1〜14では、X酸化物、又は、X酸化物とYから選択される2種が混合された混合酸化物からなるベッド層を設けることにより、結晶配向性の良好なIBAD−MgOの中間層が得られた。また、実施例1〜14では、わずか5nmの膜厚の4回対称IBAD−MgOの中間層の上に直接CeOを成膜することにより、結晶配向性の良好なCeOのキャップ層が得られた。従って、このキャップ層上に酸化物超電導層を成膜するならば、キャップ層の結晶配向性に習うように酸化物超電導層の結晶配向性を向上することができるので、結晶配向性に優れた酸化物超電導層を成膜することができ、良好な超電導特性を有する酸化物超電導導体を提供できることが明らかである。
【0043】
(実施例15〜17、及び比較例8)
上記実施例1〜14及び比較例1〜7と同様にして、ハステロイ(登録商標)金属基材上、Alの拡散防止層(膜厚100nm)、表3記載の物質および厚さのベッド層を順次成膜した試料を作製した。次に、この各試料のベッド層上に、アシストイオンガンの電流値を30%低下させたこと以外は、上記実施例1〜14及び比較例1〜7と同様にして、4回対称のIBAD−MgOの中間層を膜厚5nmで成膜した。
得られた各試料に対し、上記実施例1〜14及び比較例1〜7と同様にして、エピタキシャル成長MgO層の面内配向度ΔΦ、及び、CeOキャップ層の面内配向度ΔΦを測定した。その結果を表3に示す。
【0044】
【表3】

【0045】
表3の結果より、本発明に係る実施例15〜17では、アシストイオンガンの電流値を30%低下させて、成膜条件を悪化させた場合においても、結晶配向性の良好なIBAD−MgOの中間層が得られた。従って、本発明によれば、中間層の成膜条件が広範囲となるよう促す特性を有するベッド層を備えた酸化物超電導体用基材を提供することができることが明らかである。
また、実施例15〜17では、わずか5nmの膜厚の4回対称IBAD−MgOの中間層の上に直接CeOを成膜することにより、結晶配向性の良好なCeOのキャップ層が得られた。従って、このキャップ層上に酸化物超電導層を成膜するならば、キャップ層の結晶配向性に習うように酸化物超電導層の結晶配向性を向上することができるので、結晶配向性に優れた酸化物超電導層を成膜することができ、良好な超電導特性を有する酸化物超電導導体を提供することができることが明らかである。
【符号の説明】
【0046】
A、B…酸化物超電導導体用基材、19…拡散防止層、21…金属基材、22…ベッド層、23…中間層、24…キャップ層、30…酸化物超電導導体、37…酸化物超電導層、38…安定化層、52…ターゲット、53…イオンガン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材上に、X酸化物(Xは、Yb、Gd、Ho、LaまたはSmを示す。)、又は、前記X酸化物とYから選択される2種以上が混合された混合酸化物よりなるベッド層と、該ベッド層上にイオンビームアシスト法により成膜された中間層とを備えることを特徴とする酸化物超電導導体用基材。
【請求項2】
前記X酸化物のXが、YbまたはGdであることを特徴とする請求項1に記載の酸化物超電導導体用基材。
【請求項3】
前記金属基材と前記ベッド層との間に、拡散防止層が介在されてなることを特徴とする請求項1または2に記載の酸化物超電導導体用基材。
【請求項4】
前記中間層の上に、キャップ層を介して酸化物超電導層が積層されて酸化物超電導導体の基材として適用されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の酸化物超電導導体用基材。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の酸化物超電導導体用基材の上に、キャップ層と酸化物超電導層とを備えてなることを特徴とする酸化物超電導導体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−129466(P2011−129466A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−289405(P2009−289405)
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】