説明

酸素吸蔵能力の評価方法

【課題】触媒が担持されたハニカム構造体の酸素吸蔵能力を正確に評価することができる酸素吸蔵能力の評価方法を提供する。
【解決手段】空気と燃料との混合比が一定の間隔で変化するように稼動させたエンジン11から排気される排ガスG1を調整用ハニカム構造体13に通すことによって、調整用ハニカム構造体13から酸素濃度が調整された調整ガスG2を排出させるとともに、排出された調整ガスG2中の酸素濃度を測定し、排出させた調整ガスG2を評価対象ハニカム構造体15に通して、評価対象ハニカム構造体15から試料ガスG3を排出させるとともに、排出された試料ガスG3中の酸素濃度を測定し、調整ガスG2中の酸素濃度及び試料ガスG3中の酸素濃度に基づいて、評価対象ハニカム構造体15の酸素吸蔵能力を評価する酸素吸蔵能力の評価方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素吸蔵能力の評価方法に関し、更に詳しくは、触媒が担持されたハニカム構造体の酸素吸蔵能力を正確に評価することができる酸素吸蔵能力の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車用、建設機械用、及び産業用定置エンジン、並びに燃焼機器等から排気される排ガスに含まれる一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)、窒素酸化物(NO)、及び硫黄酸化物(SO)等の被浄化成分を浄化するために、排気通路に触媒(例えば三元触媒)が担持されたハニカム構造体が配置されている。
【0003】
このようなハニカム構造体は、担持された触媒が例えば三元触媒である場合、上記エンジンなどにおける混合気の空燃比(空気と燃料の混合比率)が理論空燃比よりも大きくなると、即ちリーンになると排ガス中に存在する過剰酸素を吸着保持し、ハニカム構造体に供給される混合気の空燃比が理論空燃比よりも小さくなると、即ちリッチになると吸着保持された酸素を放出する酸素吸蔵能力を有するものである。そのため、混合気がリーンになったときには過剰な酸素がハニカム構造体(ハニカム構造体の触媒)に吸着保持されてNOが還元され、混合気がリッチになったときにはハニカム構造体(ハニカム構造体の触媒)に吸着保持された酸素が放出されてHC及びCOが酸化される。このようにして排ガス中のNO、HC及びCOが同時に浄化されることになる。
【0004】
このようなハニカム構造体については、排ガスの浄化が正常に行われるか確認するため製造時や使用時においてその酸素吸蔵能力を評価する必要がある。そこで、ハニカム構造体の酸素吸蔵能力を評価するために、触媒酸素吸蔵能力評価装置が知られている。例えば、触媒酸素吸蔵能力評価装置としては、触媒の下流側の排気通路中の酸素濃度を検出する酸素濃度検出手段と、酸素濃度の時間変化率が所定変化率の範囲内であるか否かを判定する時間変化率判定手段と、時間変化率が所定変化率の範囲内である場合と、所定変化率の範囲外である場合とで、異なる空燃比制御を行う空燃比制御手段と、酸素濃度に基づいて、触媒に吸蔵された酸素量または触媒から放出された酸素量の少なくとも一方を算出し、算出された酸素量に基づいて触媒の酸素吸蔵能力の評価を行う触媒酸素吸蔵能力評価手段と、を備えているものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−152853号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の触媒酸素吸蔵能力評価装置であっても、正確な酸素吸蔵能力を評価することは困難であった。
【0007】
具体的には、ハニカム形状のハニカム構造体において、セルの延びる方向に垂直な断面におけるセルの形状が四角形である場合(四角形セル)と六角形である場合(六角形セル)とでは、セルの形状が、四角形である場合に比べて六角形である方が有効に使用される触媒の量が多い。そのため、六角形セルの方が排ガス中の酸素を有効に吸蔵することができる。従って、一定量の酸素を供給した場合、六角形セルが形成されたハニカム構造体の方が、四角形セルが形成されたハニカム構造体よりも酸素吸蔵能力が高くなるはずである。しかし、特許文献1に記載の触媒酸素吸蔵能力評価装置のような従来の触媒酸素吸蔵能力評価装置では、例えば図7に示すように、四角形セルと六角形セルとにおける酸素吸蔵能力の違いは確認できていなかった。
【0008】
そのため、四角形セルと六角形セルとにおける酸素吸蔵能力の違いが確認できるような(即ち、触媒が担持されたハニカム構造体の酸素吸蔵能力を正確に評価すること可能な)酸素吸蔵能力の評価方法の開発が切望されていた。
【0009】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、触媒が担持されたハニカム構造体の酸素吸蔵能力を正確に評価することができる酸素吸蔵能力の評価方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、空気と燃料との混合比が一定の間隔で変化するように稼動させたエンジンから排気させた排ガスを用いること、及び、上記排ガス中の酸素濃度を調整用ハニカム構造体によって調整し、酸素濃度が調整された排ガス(調整ガス)を、酸素吸蔵能力の評価対象である評価対象ハニカム構造体に供給することによって、上記課題を解決することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明によれば、以下に示す、酸素吸蔵能力の評価方法が提供される。
【0012】
[1] 空気と燃料との混合比が一定の間隔で変化するように稼動させたエンジンから排気される排ガスを調整用ハニカム構造体に通すことによって、前記調整用ハニカム構造体から酸素濃度が調整された調整ガスを排出させるとともに、排出された前記調整ガス中の酸素濃度を測定し、排出された前記調整ガスを評価対象ハニカム構造体に通して、前記評価対象ハニカム構造体から試料ガスを排出させるとともに、排出された前記試料ガス中の酸素濃度を測定し、前記調整ガス中の酸素濃度及び前記試料ガス中の酸素濃度に基づいて、前記評価対象ハニカム構造体の酸素吸蔵能力を評価する酸素吸蔵能力の評価方法。
【0013】
[2] 前記調整ガス中の酸素濃度から前記調整ガス中の酸素量を算出するとともに、前記試料ガス中の酸素濃度から前記試料ガス中の酸素量を算出した後、前記調整ガス中の酸素量から前記試料ガス中の酸素量を差し引くことによって酸素吸蔵量を算出して前記評価対象ハニカム構造体の酸素吸蔵能力を評価する前記[1]に記載の酸素吸蔵能力の評価方法。
【0014】
[3] 2種類の前記混合比を一定の間隔で切り替えて前記エンジンを稼動させる前記[1]または[2]に記載の酸素吸蔵能力の評価方法。
【0015】
[4] 空気に対する燃料の比率が大きくなるような混合比で5秒以上前記エンジンを稼動させた後、燃料に対する空気の比率が大きくなるような混合比で1.0〜30.0秒間前記エンジンを稼動させることを繰り返して前記エンジンから前記排ガスを排出させる前記[1]〜[3]のいずれかに記載の酸素吸蔵能力の評価方法。
【0016】
[5] 前記排ガスの流量を、0.5〜10.0Nm/分とする前記[1]〜[4]のいずれかに記載の酸素吸蔵能力の評価方法。
【0017】
[6] 前記燃料に対する空気の比率が大きくなるような混合比で前記エンジンを稼動させた場合における前記試料ガス中の酸素濃度が、0.1〜2.0体積%となるように前記混合比を調整する前記[4]または[5]に記載の酸素吸蔵能力の評価方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明の酸素吸蔵能力の評価方法によれば、空気と燃料との混合比が一定の間隔で変化するように稼動させたエンジンから排気される排ガスを調整用ハニカム構造体に通すことによって、調整用ハニカム構造体から酸素濃度が調整された排ガス(調整ガス)を排出させるため、評価対象ハニカム構造体に供給されるガス中の酸素濃度が適切な濃度になり、触媒が担持されたハニカム構造体(評価対象ハニカム構造体)の酸素吸蔵能力を正確に(精度良く)評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の酸素吸蔵能力の評価方法の一実施形態で用いる酸素吸蔵能力評価装置を示す模式的に示す平面図である。
【図2】図1に示す酸素吸蔵能力評価装置の一部を拡大して模式的に示す断面図である。
【図3】エンジンにおける空気と燃料との混合比の変化を示すグラフである。
【図4】本発明の酸素吸蔵能力の評価方法の一実施形態で測定された酸素量を示すグラフである。
【図5】本発明の酸素吸蔵能力の評価方法の一実施形態で測定された酸素量の平均値を示すグラフである。
【図6】従来の酸素吸蔵能力の評価方法で測定された酸素量を示すグラフである。
【図7】従来の酸素吸蔵能力の評価方法で測定された酸素量の平均値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0021】
[1]酸素吸蔵能力の評価方法:
本発明の酸素吸蔵能力の評価方法の一実施形態としては、空気と燃料との混合比が一定の間隔で変化するように稼動させたエンジン11(図1参照)から排気される排ガスG1を調整用ハニカム構造体13(図2参照)に通すことによって、調整用ハニカム構造体13から酸素濃度が調整された調整ガスG2(図2参照)を排出させるとともに、排出させた調整ガスG2中の酸素濃度を測定し、排出させた調整ガスG2を評価対象ハニカム構造体15(図2参照)に通して、評価対象ハニカム構造体15から試料ガスG3を排出させるとともに、排出された試料ガスG3中の酸素濃度を測定する。その後、調整ガスG2中の酸素濃度及び試料ガスG3中の酸素濃度に基づいて、評価対象ハニカム構造体15の酸素吸蔵能力を評価する。具体的には、調整ガスG2中の酸素濃度から調整ガスG2中の酸素量を算出するとともに、試料ガスG3中の酸素濃度から試料ガスG3中の酸素量を算出した後、調整ガスG2中の酸素量から試料ガスG3中の酸素量を差し引くことによって酸素吸蔵量を算出する。そして、算出された酸素吸蔵量から評価対象ハニカム構造体15の酸素吸蔵能力を評価することができる。
【0022】
このような酸素吸蔵能力の評価方法によれば、空気と燃料との混合比が一定の間隔で変化するように稼動させたエンジン11から排気される排ガスG1を調整用ハニカム構造体13に通すことによって、調整用ハニカム構造体13から酸素濃度が調整された調整ガスG2を排出させるため、評価対象ハニカム構造体15に供給されるガス(調整ガスG2)中の酸素濃度が適切な濃度になり、触媒が担持されたハニカム構造体(評価対象ハニカム構造体15)の酸素吸蔵能力を正確に(精度良く)評価することができる。
【0023】
ここで、エンジン11から排気される排ガスG1中には、理論上は酸素が含有されない場合(いわゆるリッチ状態)であっても、実際には、エンジン11内で完全に消費されずに残った酸素が存在している。そのため、従来の酸素吸蔵能力の評価方法(特許文献1参照)における評価では、いわゆるリッチ状態であっても排ガスG1中に酸素が存在することに起因して、評価対象ハニカム構造体15の正確な酸素吸蔵能力は評価することはできていなかった。
【0024】
本発明の酸素吸蔵能力の評価方法は、例えば、図1に示すような酸素吸蔵能力評価装置100を用いて行うことができる。図1は、本発明の酸素吸蔵能力の評価方法の一実施形態で用いる酸素吸蔵能力評価装置100を模式的に示す平面図である。図2は、図1に示す酸素吸蔵能力評価装置100の一部を拡大して模式的に示す断面図である。即ち、図2は、調整用ハニカム構造体13と、この調整用ハニカム構造体13を収納する第一缶体17と、酸素吸蔵能力の評価対象である評価対象ハニカム構造体15と、この評価対象ハニカム構造体15を収納する第二缶体19と、第一缶体17と第二缶体19とを連結する連結配管21とを示す断面図である。
【0025】
図1に示す酸素吸蔵能力評価装置100は、エンジン11と、このエンジン11に配設された空気流量計23と、エンジン11に配設された空燃比切替ユニット25と、エンジン11に連結され、エンジン11から排気される排ガスG1が流入する入口17aと酸素濃度が調整された調整ガスG2が排出される出口17bとを有し調整用ハニカム構造体13を収納している第一缶体17と、連結配管21を介してこの第一缶体17に連結されており、酸素吸蔵能力の評価対象である評価対象ハニカム構造体15を収納するための第二缶体19と、この第二缶体19の入口付近の酸素濃度を測定する入口側排ガス分析計27と、第二缶体19の出口付近の酸素濃度を測定する出口側排ガス分析計29と、第二缶体19の入口付近の空燃比を測定する入口側空燃比計31と、第二缶体19の出口付近の空燃比を測定する出口側空燃比計33と、エンジン11に連結された動力計35と、を備えており、空燃比切替ユニット25は、空燃比制御器25aと、この空燃比制御器25aに接続された基準電圧発生器25bと、を備えている。なお、第二缶体19の出口19bには排気配管37が接続されている。連結配管21には、分岐配管21aが形成されており、この分岐配管21aが入口側排ガス分析計27に連結している。排気配管37には、分岐配管37aが形成されており、この分岐配管37aが出口側排ガス分析計29に連結している。
【0026】
このような酸素吸蔵能力評価装置100は、評価対象ハニカム構造体15の酸素吸蔵能力の評価に際して、まず、空気と燃料との混合比が一定の間隔で変化するように稼動させたエンジン11から排気された排ガスG1を、調整用ハニカム構造体13を収納した第一缶体17に導入させて調整用ハニカム構造体13内を通過させる。そして、排ガスG1が調整用ハニカム構造体13内を通過することによって、調整用ハニカム構造体13内の触媒により排ガスG1中の酸素の一部が吸蔵される。そして、排ガスG1中の酸素の一部が吸蔵されることにより、調整用ハニカム構造体13からは酸素濃度が調整された調整ガスG2が排出される。次に、調整ガスG2を、評価対象ハニカム構造体15を収納した第二缶体19に導入することによって評価対象ハニカム構造体15内を通過させる。そして、評価対象ハニカム構造体15内を通過させる調整ガスG2中の酸素濃度を入口側排ガス分析計27で測定するとともに、評価対象ハニカム構造体15から排出されたガス(試料ガスG3)中の酸素濃度を出口側排ガス分析計29で測定する。次に、調整ガスG2中の酸素濃度及び試料ガスG3中の酸素濃度に基づいて、評価対象ハニカム構造体15の酸素吸蔵能力を評価する。具体的には、調整ガスG2中の酸素濃度から調整ガスG2中の酸素量を算出するとともに、試料ガスG3中の酸素濃度から試料ガスG3中の酸素量を算出した後、調整ガスG2中の酸素量から試料ガスG3中の酸素量を差し引いて酸素吸蔵量を算出することによって、評価対象ハニカム構造体15の酸素吸蔵能力を評価することができる。
【0027】
調整ガスG2中の酸素量(g)は、測定された調整ガスG2中の酸素濃度(第二缶体19の入口17a付近の酸素濃度)と、空気流量計23によって測定される空気流量値(Nm/分(標準状態(20℃、1atm)))と、酸素密度値(1.33g/L(標準状態(20℃、1atm)))とから算出することができる。そして、同様に、試料ガスG3中の酸素量(g)は、測定された試料ガスG3中の酸素濃度(第二缶体19の出口17b付近の酸素濃度)と、空気流量計23によって測定される空気流量値(Nm/分(標準状態(20℃、1atm)))と、酸素密度値(1.33g/L(標準状態(20℃、1atm)))とから算出することができる。
【0028】
具体的には、調整ガスG2中の酸素量は、式:調整ガスG2中の酸素量(g)=空気流量値(Nm/分(標準状態(20℃、1atm)))×調整ガスG2中の酸素濃度(体積%)×酸素密度値(1.33g/L(標準状態(20℃、1atm)))によって算出することができ、試料ガスG3中の酸素量(g)は、式:試料ガスG3中の酸素量(g)=空気流量値(Nm/分(標準状態(20℃、1atm)))×調整ガスG3中の酸素濃度(体積%)×酸素密度値(1.33g/L(標準状態(20℃、1atm)))によって算出することができる。
【0029】
エンジン11としては、特に制限はないが、例えば、1.0〜5.0Lのエンジンなどを用いることができる。
【0030】
第一缶体17に収納した調整用ハニカム構造体13は、図2に示すように、一方の端面2から他方の端面4まで貫通し流体の流路となる複数のセル6を区画形成する多孔質の隔壁8を有するハニカム基材10と、このハニカム基材10の隔壁8に担持された触媒と、を備えている。
【0031】
なお、調整用ハニカム構造体13としては、従来公知のものを用いることができる。
【0032】
[1−1]ハニカム基材:
隔壁8の厚さは、0.20mm以下であることが好ましく、0.05〜0.10mmであることが更に好ましく、0.05mm以上で0.065mm未満であることが特に好ましい。0.20mm超であると、排ガスG1がセル6内を通過するときの圧力損失が大きくなることがあり、十分な排ガスG1の流量が得られなくなるおそれがある。なお、隔壁8の厚さは、中心軸に平行な断面を顕微鏡観察する方法で測定した値である。
【0033】
ハニカム基材10(調整用ハニカム構造体13)のセル密度(即ち、ハニカム基材10の中心軸に直交する断面のセル密度)は、1〜310個/cmであることが好ましく、8〜155個/cmであることが更に好ましく、16〜93個/cmであることが特に好ましい。1個/cm未満であると、調整用ハニカム構造体13の強度が低下するおそれがある。一方、310個/cm超であると、圧力損失が大きくなり、十分な排ガスG1の流量が得られなくなるおそれがある。
【0034】
隔壁8の気孔率は、25.0〜50.0%であることが好ましく、35.0〜45.0%であることが更に好ましい。25.0%未満であると、圧力損失が増大し、十分な排ガスG1の流量が得られなくなるおそれがある。一方、50.0%超であると、調整用ハニカム構造体13が脆くなり欠落し易くなることがある。隔壁8の気孔率は、水銀ポロシメータにより測定した値である。
【0035】
調整用ハニカム構造体13の中心軸方向の長さは、30〜150mmであることが好ましく、50〜100mmであることが更に好ましい。30mm未満であると、調整用ハニカム構造体13が短すぎるため、評価中の振動などにより調整用ハニカム構造体13が第一缶体17から外れてしまうおそれがある。また、調整用ハニカム構造体13が短すぎるため、十分な酸素吸蔵能力が得られないおそれがある。一方、150mm超であると、圧力損失が大きくなり、十分な排ガスG1の流量が得られなくなるおそれがある。
【0036】
調整用ハニカム構造体13の外形が円筒形の場合、その底面の直径は、50〜150mmであることが好ましく、90〜120mmであることが更に好ましい。50mm未満であると、圧力損失が大きくなり、調整用ハニカム構造体13が第一缶体17から外れるおそれがある。一方、150mm超であると、排ガスの流れが不均一になるおそれがある。
【0037】
調整用ハニカム構造体13に担持される触媒の単位体積当りの担持量は、100〜300g/Lであることが好ましい。上記担持量が100g/L未満であると、触媒の担持量が少なすぎるため、触媒が劣化した際に十分な触媒性能が得られなくなるおそれがある。一方、300g/L超であると、触媒コートにより目詰まりする(即ち、触媒の担持量が多すぎるため隔壁の細孔が目詰まりする)ため、排ガスG1の十分な流量が得られなくなるおそれがある。
【0038】
ハニカム基材10のセル6の形状は、特に限定されないが、中心軸に直交する断面において、三角形、四角形、五角形、六角形、八角形等の多角形、円形、または楕円形であることが好ましく、その他不定形であってもよい。四角形と八角形との組み合わせであることも好ましい態様である。
【0039】
ハニカム基材10(隔壁8)は、セラミックを主成分とするものである。隔壁8の材質としては、具体的には、炭化珪素、珪素−炭化珪素系複合材料、コージェライト、ムライト、アルミナ、スピネル、炭化珪素−コージェライト系複合材料、リチウムアルミニウムシリケート、及びアルミニウムチタネートからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。これらの中でも、熱膨張係数が小さく、耐熱衝撃性に優れたコージェライトが好ましい。また、「セラミックを主成分とする」というときは、セラミックを全体の90質量%以上含有することをいう。
【0040】
調整用ハニカム構造体13の外形としては、例えば、円筒形、楕円筒形、四角筒形等の底面多角形の筒形状、底面不定形の筒形状等を挙げることができる。
【0041】
調整用ハニカム構造体13は、その最外周に位置する外周壁を有していてもよい。なお、外周壁は、成形時に多孔質基材と一体的に形成させる成形一体壁であることが好ましいが、成形後に、多孔質基材の外周を研削して所定形状とし、セラミックセメント等で外周壁を形成するセメントコート壁であることも好ましい態様である。成形一体壁の場合、外周壁の材質は、調整用ハニカム構造体13の材質と同じであることが好ましい。また、外周壁がセメントコート壁の場合、セメントコート壁の材質としては、共素地にガラス等のフラックス成分を加えた材料等を挙げることができる。また、外周壁の厚さは、5mm未満であることが好ましい。
【0042】
[1−2]触媒:
触媒としては、三元触媒、酸化触媒、NO選択還元用SCR触媒、NO吸蔵触媒などを挙げることができる。
【0043】
三元触媒とは、主に炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NO)を浄化する触媒のことをいう。例えば、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)を含む触媒を挙げることができる。この三元触媒により、炭化水素は水と二酸化炭素に、一酸化炭素は二酸化炭素に、窒素酸化物は窒素に、それぞれ酸化または還元によって浄化される。
【0044】
上記酸化触媒には、貴金属が含有されることが好ましく、この貴金属としては、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、及びパラジウム(Pd)からなる群より選択される1種以上が好ましい。貴金属の合計量は、調整用ハニカム構造体13の単位体積(1L)当り、1.00〜5.00gであることが好ましい。
【0045】
NO選択還元用SCR触媒としては、金属置換ゼオライト、バナジウム、チタニア、酸化タングステン、銀、及びアルミナからなる群より選択される少なくとも1種を含有するものを挙げることができる。また、NO吸蔵触媒としては、アルカリ金属、及び/またはアルカリ土類金属等を挙げることができる。アルカリ金属としては、K、Na、Li等を挙げることができる。アルカリ土類金属としては、Caなどを挙げることができる。
【0046】
調整用ハニカム構造体13は、従来公知のハニカム構造体と同様の方法で作製することができる。
【0047】
[1−3]第一缶体:
第一缶体17は、特に限定されるものではなく、例えば、自動車排ガス等の排ガス浄化用のセラミックハニカムフィルタを収納するために通常用いられるものを用いることができる。第一缶体17としては、ステンレス鋼等の金属からなるものを挙げることができる。第一缶体17の大きさは、調整用ハニカム構造体13にクッション材40を巻きつけた状態で圧入できる大きさであることが好ましい。第一缶体17の入口17aの直径は、具体的には、30〜120mmであることが好ましく、出口17bの直径は、具体的には、30〜120mmであることが好ましい。
【0048】
[1−4]評価対象ハニカム構造体:
本発明の酸素吸蔵能力の評価方法によれば、触媒が担持されたハニカム構造体であれば特に制限なく酸素吸蔵能力を評価することができる。即ち、評価対象ハニカム構造体15のように、一方の端面から他方の端面まで貫通し流体の流路となる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁を有するハニカム基材と、このハニカム基材の隔壁に担持された触媒と、を備えるものや、評価対象ハニカム構造体15に更に上記セルを目封止するように形成された目封止部を備えたハニカム構造体であっても良好に酸素吸蔵能力を評価することができる。
【0049】
[1−5]第二缶体:
第二缶体19は、特に限定されるものではなく、例えば、自動車排ガス等の排ガス浄化用のセラミックハニカムフィルタを収納するために通常用いられるものを用いることができる。第二缶体19としては、ステンレス鋼等の金属からなるものを挙げることができる。第二缶体19の大きさは、評価対象ハニカム構造体15にクッション材40を巻きつけた状態で圧入できる大きさであることが好ましい。第二缶体19の入口19aの直径は、具体的には、30〜120mmであることが好ましく、出口19bの直径は、具体的には、30〜120mmであることが好ましい。
【0050】
本発明の酸素吸蔵能力の評価方法においては、2種類の混合比を一定の間隔で切り替えてエンジンを稼動させることが好ましい。2種類の混合比を設定することによって、簡単な操作で酸素吸蔵能力を評価することができる。なお、本明細書において「空気と燃料との混合比が一定の間隔で変化する」とは、空気と燃料との混合比が異なる燃料ガスを一定の間隔で供給することを意味する。即ち、空気と燃料との混合比がX1:Y1である第一燃料ガスを一定時間供給した後、空気と燃料との混合比がX2:Y2である第二燃料ガスを一定時間更に供給することを意味する。また、本明細書において「2種類の混合比を一定の間隔で切り替え」るとは、空気と燃料との混合比が異なる2種類の燃料ガス(燃料の種類は同じである)を一定の間隔で交互に供給することを意味する。
【0051】
更に、本発明の酸素吸蔵能力の評価方法においては、空気に対する燃料の比率が大きくなるような混合比で5秒間以上エンジン11を稼動させた後、燃料に対する空気の比率が大きくなるような混合比で1.0〜30.0秒間エンジン11を稼動させることを繰り返し行ってエンジン11から排ガスG1を排気させることが好ましい。このように一定の間隔でエンジン11を切り替えることによって、より正確に酸素吸蔵能力を評価することができる。
【0052】
本発明の酸素吸蔵能力の評価方法においては、エンジン11から排気される排ガスG1の流量を、0.5〜10.0Nm/分(標準状態(20℃、1atm))とすることが好ましく、0.5〜5.0Nm/分(標準状態(20℃、1atm))とすることが更に好ましく、0.5〜2.0Nm/分(標準状態(20℃、1atm))とすることが特に好ましい。上記流量が0.5Nm/分未満であると、排ガスG1の流量が少なすぎるため、酸素吸蔵量を十分に評価(測定)することができなくなるおそれがある。また、排ガスG1の流量が減少するため、触媒性能が得られなくなるおそれがある。一方、10.0Nm/分超であると、排ガスG1の流量が増加するため、エンジン11の運転状態が高回転となり測定値がバラツクおそれがある。
【0053】
本発明の酸素吸蔵能力の評価方法においては、燃料に対する空気の比率が大きくなるような混合比(いわゆるリーン状態)でエンジン11を稼動させた場合における試料ガスG3中の酸素濃度を、0.1〜2.0体積%とすることが好ましく、0.1〜1.0体積%とすることが更に好ましい。即ち、リーン状態でエンジン11を稼動させた場合における試料ガスG3中の酸素濃度が、0.1〜2.0体積%(更に好ましくは、0.1〜1.0体積%)となるように混合比(特にリーン状態の混合比)を調整することが好ましい。上記試料ガスG3中の酸素濃度が0.1体積%未満であると、酸素吸蔵量を十分に評価(測定)することができなくなるおそれがある。一方、2.0体積%超であると、エンジン11を正常に運転することができないおそれがある。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0055】
(実施例1)
[測定準備]
まず、図1に示す酸素吸蔵能力評価装置100を用意した。図1に示す酸素吸蔵能力評価装置100は、1.8Lの直列4気筒ガソリンエンジン(以下、単に「エンジン」と記す)11と、このエンジン11に配設された空気流量計23(司測研社製の「LFE−200B」)と、エンジン11に配設された空燃比切替ユニット25と、エンジン11に連結され、エンジン11から排気される排ガスG1が流入する入口17aと酸素濃度が調整された調整ガスG2が排出される出口17bとを有し調整用ハニカム構造体13を収納している第一缶体17と、連結配管21を介してこの第一缶体17に連結されており、酸素吸蔵能力の評価対象である評価対象ハニカム構造体15を収納するための第二缶体19と、この第二缶体19の入口付近の酸素濃度を測定する入口側排ガス分析計27(堀場製作所社製の「MEXA7500(2Line仕様)」)と、第二缶体19の出口付近の酸素濃度を測定する出口側排ガス分析計29(堀場製作所社製の「MEXA7500(2Line仕様)」)と、第二缶体19の入口付近の空燃比を測定する入口側空燃比計31(堀場製作所社製の「MEXA110λ」)と、第二缶体19の出口付近の空燃比を測定する出口側空燃比計33(堀場製作所社製の「MEXA110λ」)と、エンジン11に連結された動力計35(明電舎社製の「FCDY 260kw」)と、を備えており、空燃比切替ユニット25は、空燃比制御器25aと、この空燃比制御器25aに接続された基準電圧発生器25bと、を備えている。なお、第二缶体19の出口17bには排気配管37が接続されている。
【0056】
第一缶体17に収納した調整用ハニカム構造体13は、図2に示すように、一方の端面2から他方の端面4まで貫通し流体の流路となる複数のセル6を区画形成する多孔質の隔壁8を有するハニカム基材10と、このハニカム基材10の隔壁8に担持された触媒と、を備え、セル6の、ハニカム基材10の中心軸に直交する断面における形状が四角形である。調整用ハニカム構造体13は、以下のように作製した。
【0057】
まず、コージェライト化原料として、アルミナ、水酸化アルミニウム、カオリン、タルク、及びシリカを使用し、コージェライト化原料100質量部に、造孔材を13質量部、分散媒を35質量部、有機バインダを6質量部、分散剤を0.5質量部、それぞれ添加し、混合、混練して坏土を調製した。分散媒として水を使用し、造孔材としては平均粒子径1〜10μmのコークスを使用し、有機バインダとしてはヒドロキシプロピルメチルセルロースを使用し、分散剤としてはエチレングリコールを使用した。
【0058】
次に、所定の金型を用いて坏土を押出成形し、セル形状が四角形で、全体形状が円柱形(円筒形)のハニカム成形体を得た。そして、ハニカム成形体をマイクロ波乾燥機で乾燥し、更に熱風乾燥機で完全に乾燥させた後、ハニカム成形体の両端面を切断し、所定の寸法に整えた。その後、ハニカム成形体を熱風乾燥機で乾燥し、更に、1410〜1440℃で、5時間、焼成することによってハニカム焼成体を得た。
【0059】
次に、平均粒子径が100μmであるγAlとCeOとの混合物粒子(比表面積50m/g)をボールミルにて湿式解砕し、細孔を有する平均粒子径5μmの解砕粒子を得た。得られた解砕粒子を、Pt及びRhを含む溶液に浸漬して解砕粒子の細孔内にPt及びRhを担持させた。そして、Pt及びRhを担持させた解砕粒子に、酢酸及び水を加えてコート用スラリーを得た。得られたコート用スラリーに、作製したハニカム焼成体の一方の端部を浸漬し、他方の端部側から吸引することによって隔壁に触媒を担持させた(隔壁に触媒層を形成した)。その後、乾燥させ、600℃で3時間焼成して、調整用ハニカム構造体を得た。
【0060】
なお、担持させた酸化物(γAlとCeO)は、調整用ハニカム構造体の単位体積当たりの担持量が30.0g/Lであり、Ptは、調整用ハニカム構造体の単位体積当たりの担持量が2.0g/Lであり、Rhは、調整用ハニカム構造体の単位体積当たりの担持量が0.5g/Lであった。また、触媒層の平均細孔径は、解砕粒子の平均粒子径と同じ5μmであった。
【0061】
得られた調整用ハニカム構造体は、中心軸方向の長さが105mmであり、一方の端面の直径が103mmであり、ハニカム基材(ハニカム焼成体)の隔壁の厚さが0.089mmであり、セル密度が93個/cmであった。
【0062】
調整用ハニカム構造体13は、一方の端面2が第一缶体17の入口17a側を向くとともに他方の端面4が出口17b側を向くように第一缶体17内に収納されている。第一缶体17内に収納する際には、セラミックス繊維を主成分とするクッション材40で調整用ハニカム構造体13の外周を覆い、その状態で第一缶体17内に圧入して固定した。第一缶体17としては、ステンレス鋼の材質のものを用いた。
【0063】
このように調整用ハニカム構造体13を配置することで、第一缶体17の入口17aから第一缶体17の内部に流入した排ガスG1が、調整用ハニカム構造体13の一方の端面2から調整用ハニカム構造体13に流入し、セル6を通過して他方の端面4から調整ガスG2として排出されることになる。なお、排ガスG1がセル6を通過する際に、排ガスG1と触媒とが接触することによって排ガスG1中の余分な酸素が吸蔵される。従って、酸素濃度が適当な値に調整された調整ガスG2が得られる。そのため、評価対象ハニカム構造体15の酸素吸蔵能力を正確に測定(評価)することができる。
【0064】
次に、酸素吸蔵能力評価装置100の第二缶体19内に、一方の端面2が第二缶体19の入口17a側を向くとともに他方の端面4が出口17b側を向くように、酸素吸蔵能力の測定対象である評価対象ハニカム構造体15を収納した。このように評価対象ハニカム構造体15を配置することで、第二缶体19の入口から第二缶体19の内部に流入した調整ガスG2が、評価対象ハニカム構造体15の一方の端面2から他方の端部4までの間のセル6内を通過することになる。なお、調整ガスG2がセル6を通過する際に、調整ガスG2と触媒とが接触することによって調整ガスG2中の酸素が吸蔵されることになる。
【0065】
評価対象ハニカム構造体15としては、図2に示すように、一方の端面12から他方の端面14まで貫通し流体の流路となる複数のセル16を区画形成する多孔質の隔壁18を有するハニカム基材20と、このハニカム基材20の隔壁18に担持された触媒と、を備え、上記セル16の、ハニカム基材20の中心軸に直交する断面における形状が四角形であるもの(以下、「四角セルハニカム」と記す場合がある)を用いた。また、評価対象ハニカム構造体15(四角セルハニカム15a)としては、中心軸方向の長さが100mmであり、一方の端面の直径が105.7mmであり、ハニカム基材(ハニカム焼成体)の隔壁の厚さが0.089mmであり、隔壁に担持された触媒からなる触媒層の厚さが0.05mmであり、セル密度が93個/cmであるものを用いた。
【0066】
次に、空気流量計23、入口側空燃比計31、及び出口側空燃比計33の電源を入れた。このとき、空燃比切替ユニット25の電源がオフになっていることを確認した。その後、エンジン11を始動させて、約1800rpm/80Nmで水温が75℃以上になるまで暖機運転を行った。その後、入口側排ガス分析計27及び出口側排ガス分析計29を起動させ、入口側排ガス分析計27及び出口側排ガス分析計29の測定準備が完了するまで暖機運転を続けた。
【0067】
[測定試験]
次に、エンジン11を2000rpm/65Nmで運転させた状態で空気流量計23にて空気流量が0.8Nm/分(標準状態(20℃、1atm))になっていることを確認し、測定終了まで上記空気流量を一定に維持する。その後、調整ガスG2の温度が450±5℃で安定するまでエンジン11を稼動させた。その後、入口側排ガス分析計27及び出口側排ガス分析計29のゼロ点とスパン値を校正した。
【0068】
次に、図3に示すように、空燃比切替ユニット25の電源をオンにしてエンジン11の空気過剰率がλ=0.9となる条件でエンジン11を30秒間稼動させ、その後、空気過剰率がλ=1.1となる条件でエンジン11を5秒間稼動させた。この操作を10回繰り返した。なお、図3は、エンジンにおける空気と燃料との混合比の変化を示すグラフである。なお、本明細書において空気過剰率は空燃比から算出した。
【0069】
そして、上記操作を10回繰り返す間、入口側排ガス分析計27及び出口側排ガス分析計29によって、調整ガスG2中の酸素濃度及び試料ガスG3中の酸素濃度を測定した。なお、測定された酸素濃度から酸素量を算出した。図4中、符合「X1」は、調整ガスG2中の酸素量(g)の変化を示すグラフであり、符合「Y1」は、試料ガスG3中の酸素量(g)の変化を示すグラフである。
【0070】
いわゆるリッチ状態における、排ガスG1中の酸素濃度の平均値は、0.16体積%であり、調整ガスG2中の酸素濃度の平均値は、0体積%であり、試料ガスG3中の酸素濃度の平均値は、0体積%であった。また、いわゆるリーン状態における、排ガスG1中の酸素濃度の平均値は、1.83体積%であり、調整ガスG2中の酸素濃度の平均値は、0.65体積%であり、試料ガスG3中の酸素濃度の平均値は、0.55体積%であった。即ち、リッチ状態における調整ガスG2中の酸素濃度の平均値は、0体積%であり、リーン状態になったときに酸素吸蔵能力の正確な測定を妨げる酸素が存在していないことを示している。結果を表1に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
次に、測定した酸素濃度の平均値、空気流量値(Nm/分(標準状態(20℃、1atm)))、及び、酸素密度値(1.33g/L(標準状態(20℃、1atm)))から、第二缶体19の入口19a付近の酸素の質量(酸素量)(g)及び出口17b付近の酸素の質量(酸素量)(g)を算出し、その後、入口17a付近の酸素の質量(g)から出口19b付近の酸素の質量(g)を差し引くことで酸素吸蔵量を算出した。入口19a付近の酸素の質量は、0.563gであり、出口19b付近の酸素の質量は、図5に示すように、0.046gであった。そして、酸素吸蔵量は、0.517gであった。
【0073】
なお、第二缶体19の入口19a付近の酸素の質量(g)及び出口19b付近の酸素の質量(g)は、具体的には、それぞれ、以下の式により算出することができる。
式:酸素量(g)=空気流量値(Nm/分(標準状態(20℃、1atm)))×調整ガスG2(または試料ガスG3)中の酸素濃度(体積%)×酸素密度値(1.33g/L(標準状態(20℃、1atm)))
【0074】
次に、酸素吸蔵能力の評価対象である評価対象ハニカム構造体15(四角セルハニカム)を、以下の評価対象ハニカム構造体15(六角セルハニカム)に代えて、上述した方法と同様の方法で酸素吸蔵量を算出した。
【0075】
評価対象ハニカム構造体15としては、一方の端面から他方の端面まで貫通し流体の流路となる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁を有するハニカム基材と、このハニカム基材の前記隔壁に担持された触媒と、を備え、上記セルの、ハニカム基材の中心軸に直交する断面における形状が六角形であるもの(以下、「六角セルハニカム」と記す場合がある)を用いた。また、評価対象ハニカム構造体15(六角セルハニカム)としては、中心軸方向の長さが100mmであり、一方の端面の直径が105.7mmであり、ハニカム基材(ハニカム焼成体)の隔壁の厚さが0.089mmであり、隔壁に担持された触媒からなる触媒層の厚さが0.05mmであり、セル密度が93個/cmであるものを用いた。
【0076】
評価対象ハニカム構造体15(六角セルハニカム)の場合における、入口19a付近の酸素の質量は、0.563gであり、出口19b付近の酸素の質量は、図5に示すように、0.024gであった。そして、酸素吸蔵量は、0.539gであった。図5は、本発明の酸素吸蔵能力の評価方法の一実施形態で測定された酸素量(g)の平均値を示すグラフである。
【0077】
なお、図4中、符合「Z1」は、六角セルハニカムを評価対象として用いた場合における、試料ガスG3中の酸素量(g)の変化を示すグラフを示している。また、符合「X1」は、調整ガスG2中の酸素量(g)の変化を示すグラフを示しており、四角セルハニカム15aを評価対象として用いた場合と同様にして酸素量(g)が変化することを示している。
【0078】
なお、図4は、本発明の酸素吸蔵能力の評価方法で測定された酸素量(g)を示すグラフであり、四角セルハニカム15aと六角セルハニカムとにおける第二缶体19の出口19b付近の排ガス(調整ガスG2)中の酸素量(g)を示すグラフを重ねて示している。具体的には、図4は、酸素吸蔵能力の評価対象を四角セルハニカム15aとし、空燃比切替ユニット25の電源をオンにしてエンジン11の空気過剰率がλ=0.9となる条件でエンジン11を30秒間稼動させ、その後、上記空気過剰率がλ=1.1となる条件でエンジン11を5秒間稼動させる操作を10回繰り返したときにおける、第二缶体19の出口19b付近の排ガス(調整ガスG2)中の酸素量(g)を示すグラフの一部を示している。更に、図4は、酸素吸蔵能力の評価対象を六角セルハニカムとし、空気過剰率がλ=0.9となる条件でエンジン11を30秒間稼動させ、その後、空気過剰率がλ=1.1となる条件でエンジン11を5秒間稼動させる操作を10回繰り返したときにおける、第二缶体19の出口19b付近の排ガス(調整ガスG2)中の酸素量(g)を示すグラフの一部を示している。
【0079】
(比較例1)
[測定準備]
第一缶体17を使用していないこと以外は、実施例1と同様の酸素吸蔵能力評価装置を用意する。即ち、本比較例で用いた酸素吸蔵能力評価装置は、エンジンと、このエンジンに配設された空気流量計と、エンジンに配設された空燃比切替ユニットと、連結配管を介してエンジンに連結されており、酸素吸蔵能力の評価対象である評価対象ハニカム構造体を収納するための第二缶体と、この第二缶体の入口付近の酸素濃度を測定する入口側排ガス分析計と、第二缶体の出口付近の酸素濃度を測定する出口側排ガス分析計と、第二缶体の入口付近の空燃比を測定する入口側空燃比計と、第二缶体の出口付近の空燃比を測定する出口側空燃比計と、エンジンに連結された動力計と、を備えており、空燃比切替ユニットは、空燃比制御器と、この空燃比制御器に接続された基準電圧発生器と、を備えている。なお、第二缶体の出口には排気配管が接続されている。
【0080】
次に、酸素吸蔵能力評価装置の第二缶体内に、一方の端面が第二缶体の入口側を向くとともに他方の端面が出口側を向くように、酸素吸蔵能力の測定対象である評価対象ハニカム構造体を収納した。
【0081】
評価対象ハニカム構造体としては、まず、上述した四角セルハニカムと同様の四角セルハニカムを用いた。
【0082】
[測定試験]
まず、実施例1と同様にして、第二缶体の入口付近における排ガス中の酸素濃度及び出口付近における排ガス中の酸素濃度を測定した。なお、測定した酸素濃度から酸素量を算出した。図6中、符合「X2」は、第二缶体19の入口19a付近における排ガス中の酸素量(g)の変化を示すグラフであり、符合「Y2」は、四角セルハニカムにおける第二缶体19の出口19b付近における排ガス中の酸素量(g)の変化を示すグラフである。
【0083】
なお、いわゆるリッチ状態における、排ガス中の酸素濃度の平均値は、0.16体積%であり、第二缶体の入口付近における排ガス中の酸素濃度の平均値は、0.16体積%であり、第二缶体の出口付近における排ガス中の酸素濃度の平均値は、0体積%であった。また、いわゆるリーン状態における、排ガス中の酸素濃度の平均値は、1.83体積%であり、第二缶体の入口付近における排ガス中の酸素濃度の平均値は、1.83体積%であり、第二缶体の出口付近における排ガス中の酸素濃度の平均値は、0.69体積%であった。即ち、リッチ状態における、第二缶体の入口付近における排ガス中の酸素濃度の平均値は、0.16体積%であるため、リーン状態になったときにおける酸素吸蔵能力の正確な測定が妨げられることが想定される。結果を表1に示す。
【0084】
次に、測定した酸素濃度の平均値、空気流量値(Nm/分(標準状態(20℃、1atm)))、及び、酸素密度値1.33(g/L)(標準状態(20℃、1atm))から、第二缶体の入口付近の酸素の質量(g)及び出口付近の酸素の質量(g)を算出し、その後、入口付近の酸素の質量(g)から出口付近の酸素の質量(g)を差し引くことで酸素吸蔵量を算出した。入口付近の酸素の質量は、3.51gであり、出口付近の酸素の質量は、図7に示すように、0.32gであった。そして、酸素吸蔵量は、3.19gであった。なお、上記評価は、通常のストイキエンジンを用いたため、λが0.9〜1.1となるように行ったが、直噴型のエンジンを用いる場合、λが0.8〜2.7となるように行うことが可能である。
【0085】
次に、酸素吸蔵能力の評価対象である評価対象ハニカム構造体(四角セルハニカム)を、上述した六角セルハニカムと同様の六角セルハニカムに代えて、上述した方法と同様の方法で酸素吸蔵量を算出した。なお、図6中、符合「Z2」は、六角セルハニカムにおける第二缶体19の出口19b付近における排ガス中の酸素量(g)の変化を示すグラフである。
【0086】
評価対象ハニカム構造体(六角セルハニカム)の場合おける、入口付近の酸素の質量(酸素量)は、3.51gであり、出口付近の酸素の質量(酸素量)は、図7に示すように、0.32gであった。そして、酸素吸蔵量は、3.19gであった。図7は、従来の酸素吸蔵能力の評価方法で測定された酸素量(g)の平均値を示すグラフである。
【0087】
なお、図6は、従来の酸素吸蔵能力の評価方法で測定された酸素量(g)を示すグラフであり、四角セルハニカムと六角セルハニカムにおける出口付近の排ガス中の酸素量(g)を示すグラフを重ねて示している。具体的には、図6は、酸素吸蔵能力の評価対象を評価対象ハニカム構造体とし、空気過剰率がλ=0.9となる条件でエンジンを30秒間稼動させ、その後、空気過剰率がλ=1.1となる条件でエンジンを5秒間稼動させる操作を10回繰り返したときにおける、出口付近の排ガス中の酸素量(g)を示すグラフの一部を示している。更に、図6は、酸素吸蔵能力の評価対象を評価対象ハニカム構造体とし、空気過剰率がλ=0.9となる条件でエンジンを30秒間稼動させ、その後、空気過剰率がλ=1.1となる条件でエンジンを5秒間稼動させる操作を10回繰り返したときにおける、出口付近の排ガス中の酸素量(g)を示すグラフの一部を示している。
【0088】
実施例1及び比較例1から明らかなように、実施例1の酸素吸蔵能力の評価方法は、比較例1の酸素吸蔵能力の評価方法に比べて、触媒が担持されたハニカム構造体の酸素吸蔵能力を正確に評価することができることができることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明の酸素吸蔵能力の評価方法は、触媒が担持されたハニカム構造体の酸素吸蔵能力を評価する際の好適な方法として採用することができる。
【符号の説明】
【0090】
2,12:一方の端面、4,14:他方の端面、6,16:セル、8,18:隔壁、10,20:ハニカム基材、11:エンジン、13:調整用ハニカム構造体、15:評価対象ハニカム構造体、15a:四角セルハニカム、17:第一缶体、17a,19a:入口、17b,19b:出口、19:第二缶体、21:連結配管、23:空気流量計、25:空燃比切替ユニット、25a:空燃比制御器、25b:基準電圧発生器、27:入口側排ガス分析計、29:出口側排ガス分析計、31:入口側空燃比計、33:出口側空燃比計、35:動力計、37:排気配管、40:クッション材、100:酸素吸蔵能力評価装置、G1:排ガス、G2:調整ガス、G3:試料ガス。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気と燃料との混合比が一定の間隔で変化するように稼動させたエンジンから排気される排ガスを調整用ハニカム構造体に通すことによって、前記調整用ハニカム構造体から酸素濃度が調整された調整ガスを排出させるとともに、排出された前記調整ガス中の酸素濃度を測定し、
排出された前記調整ガスを評価対象ハニカム構造体に通して、前記評価対象ハニカム構造体から試料ガスを排出させるとともに、排出された前記試料ガス中の酸素濃度を測定し、
前記調整ガス中の酸素濃度及び前記試料ガス中の酸素濃度に基づいて、前記評価対象ハニカム構造体の酸素吸蔵能力を評価する酸素吸蔵能力の評価方法。
【請求項2】
前記調整ガス中の酸素濃度から前記調整ガス中の酸素量を算出するとともに、前記試料ガス中の酸素濃度から前記試料ガス中の酸素量を算出した後、前記調整ガス中の酸素量から前記試料ガス中の酸素量を差し引くことによって酸素吸蔵量を算出して前記評価対象ハニカム構造体の酸素吸蔵能力を評価する請求項1に記載の酸素吸蔵能力の評価方法。
【請求項3】
2種類の前記混合比を一定の間隔で切り替えて前記エンジンを稼動させる請求項1または2に記載の酸素吸蔵能力の評価方法。
【請求項4】
空気に対する燃料の比率が大きくなるような混合比で5秒以上前記エンジンを稼動させた後、燃料に対する空気の比率が大きくなるような混合比で1.0〜30.0秒間前記エンジンを稼動させることを繰り返して前記エンジンから前記排ガスを排気させる請求項1〜3のいずれか一項に記載の酸素吸蔵能力の評価方法。
【請求項5】
前記排ガスの流量を、0.5〜10.0Nm/分とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の酸素吸蔵能力の評価方法。
【請求項6】
前記燃料に対する空気の比率が大きくなるような混合比で前記エンジンを稼動させた場合における前記試料ガス中の酸素濃度が、0.1〜2.0体積%となるように前記混合比を調整する請求項4または5に記載の酸素吸蔵能力の評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−196298(P2011−196298A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−65593(P2010−65593)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】