説明

酸素発生装置を有するカプセル型医療用具

【課題】空気ボンベを搭載することなく、簡単に空気を取り出すことができる酸素発生装置を備えたカプセル型医療用具を得る。
【解決手段】本発明の酸素発生装置を有するカプセル型医療用具は、体腔内に飲み込む医療用具カプセル内に、過酸化水素水のリザーバと、該過酸化水素水が酸素と水に分解する反応を促進する触媒と、該過酸化水素水と触媒との反応量を制御する制御手段と、反応の結果生じた酸素及び水を排出する排出系と、を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カプセル型医療用具に関し、特に酸素発生装置を搭載したカプセル型医療用具に関する。
【背景技術】
【0002】
体腔内に飲み込むカプセル型医療用具として、カプセル型内視鏡が実用化されている。このカプセル型内視鏡は、独立した系であるための問題点の一つに、空気を如何に供給するかという問題がある。内視鏡では体腔の所定部位を膨らませるために空気(無害気体)の排出構造であることが不可欠である。空気ボンベ(加圧ボンベ)を搭載すれば耐圧構造としなければならず、大型化する。また体腔内の目的とする部位に薬液を供給(排出)する薬液デリバリカプセルについても、薬液の排出動力を体内において如何に得るかという問題がある。
【特許文献1】特開2001-245844号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、空気ボンベを搭載することなく、簡単に空気を取り出すことができる酸素発生装置を備えたカプセル型医療用具を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、触媒の存在下で空気と水とへの分解反応が促進される過酸化水素水を搭載しておき、触媒との反応量を制御することで、必要なときに必要な量の酸素と水を得るという着眼に基づいて完成されたものである。
【0005】
すなわち、本発明によるカプセル型医療用具は、体腔内に飲み込むカプセル内に、過酸化水素水のリザーバと、該過酸化水素水が酸素と水に分解する反応を促進する触媒と、該過酸化水素水と触媒との反応量を制御する制御手段と、反応の結果生じた酸素及び水を排出する排出系とを設けたことを特徴としている。
【0006】
反応量制御手段は、触媒の過酸化水素水に対する接触面積を制御する態様と、過酸化水素水自体の触媒に対する供給量を制御する態様とが可能である。
【0007】
カプセル型医療用具として、具体的には少なくともカプセル型内視鏡と薬液デリバリカプセルをあげることができる。カプセル型内視鏡では、反応量制御手段を介して生成され排出系から排出された酸素及び水は、体腔内へ排出し体腔を膨らませる目的で使用することができる。
【0008】
また薬液デリバリカプセルでは、反応量制御手段を介して生成され排出系から排出された酸素及び水は、体腔内へ薬液を排出する排出力として用いることができる。
【0009】
触媒は、例えば二酸化マンガンまたはカタラーゼを用いることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、酸素(と水)を必要なときに容易に取り出すことができるカプセル型医療用具を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明を適用したカプセル型内視鏡10は、図1に示すように、前方(図1の左方)から順に、対物光学系11、生体内を照明する発光ダイオード(LED)12及び固体撮像素子13を備えた信号処理・発光部14、この信号処理・発光部14が出力する画像信号を送信する送受信回路16、駆動電源となる電池17、送受信アンテナ18、酸素発生装置20を備え、これら全体が水密性の密閉カプセル19内に収納されている。
【0012】
カプセル型内視鏡10は、LED12によって照明され透明カバー19aを通して観察される被検部を対物光学系11及び固体撮像素子13を介して撮像する。固体撮像素子13から出力される画像信号は、送受信回路16で変調・増幅されて送信信号となり、送受信アンテナ18を介して体外に送信される。密閉カプセル19は、前端部および後端部が半球状で全体として滑らかな外観の円筒形に形成され、前部に半球状の透明カバー19aが透明材料で形成されている。また、密閉カプセル19の一部に通気非通水性のフィルタを設け、内外の気圧差が生じないようにする。
この通気非通水性のフィルタは、たとえば、疎水性のシートにサブミクロンの孔を有しているものを用いることができる。疎水性のシートが有する孔も疎水性材料からなるため、液体は、孔付近では100μm程度の粒子状を形成し、これよりも径の小さい前記孔を通過することができない。他方、気体はシートの性質(疎水性)に制限されることなく、孔付近においてもサブナノオーダーで存在しているため、孔を通過することができ、密封性を保持しつつカプセル内外の気圧差を調整することができる。
【0013】
酸素発生装置20は、例えば図2、図4、図5に示す酸素発生装置20aから20cにおける実施形態があり、以下に説明する。
【0014】
(酸素発生装置の実施形態1)
酸素発生装置20aは、図2、図3に示すように、過酸化水素水リザーバ21aを有しており、この過酸化水素水リザーバ21a内には、触媒床22aが配置されている。過酸化水素水リザーバ21aには、過酸化水素水40が充填されており、排出パイプ26が開口している。この排出パイプ26はカプセル型内視鏡10の密封カプセル19の外面に開口している(図1参照)。触媒床22aは二酸化マンガンまたはカタラーゼを平面的に展開したもので、その露出面積は、カバー部材23とそのアクチュエータ24を介して変化させることができる。アクチュエータ24は、例えば電磁式のアクチュエータからなっている。
カプセル型内視鏡10内の送受信アンテナ18は、無線駆動信号を受信すると、送受信回路16、ドライバ25及びアクチュエータ24を介してカバー部材23を移動させ、触媒床22aの露出面積を変化させる。すなわち、この実施形態の酸素発生装置20aは、触媒の接触(露出)面積を制御して反応量を調節するタイプである。
【0015】
以上のカプセル型内視鏡10は、酸素発生装置20aの過酸化水素水リザーバ21a内に過酸化水素水40を満たし、カバー部材23により触媒床22aを覆った状態、つまり酸素が十分には発生しない状態において体内に飲み込まれる。そして、カプセル型内視鏡10の対物光学系11、固体撮像素子13、送受信回路16、送受信アンテナ18によって送信される画像信号による内視鏡観察下で、体腔を膨らませる必要が生じたときに、操作者が無線駆動信号を与える。無線駆動信号は送受信アンテナ18によって受信され、送受信回路16、ドライバ25、アクチュエータ24を介してカバー部材23が触媒床22aを露出させる。触媒床22aが露出されると、過酸化水素水リザーバ21内の過酸化水素水40と触媒床22aとが接触し、酸素と水への分解反応が促進される。反応の結果生成する酸素は、排出パイプ26からカプセル型内視鏡10外に排出され、体腔を膨らませる。排出パイプ26から排出されるのは酸素(気体)だけとは限らず、水あるいは過酸化水素水(液体)も排出される可能性があるが、過酸化水素水は消毒用に用いられている薬品であり、少量であれば体内に排出されても体腔内で有害な作用を生じることはない。体腔内に排出してしまった過酸化水素水は、出血があるところでは血液中に含まれるカタラーゼと反応し酸素を発生するので、出血箇所の発見に役立ち、また消毒作用を期待することもできる。
【0016】
(酸素発生装置の実施形態2)
図4に示す酸素発生装置20bは、触媒に対する過酸化水素水の供給量を制御して反応量を調節するタイプの実施形態を示している。
酸素発生装置20bは、操作者の指示を受けて、制御回路29が電磁開閉弁28を開き、過酸化水素水リザーバ21bに蓄える過酸化水素水40を、触媒球27に供給することにより、触媒球27内の触媒と過酸化水素水40が分解反応を起こし、生成する酸素及び水を排出パイプ26からカプセル型内視鏡10に排出する。
過酸化水素水リザーバ21bは、シリンダ63の内部を仕切る可動性の隔壁(ピストン)60を有し、この隔壁60により仕切られる一方にバネ62を設け、他方には過酸化水素水40を充填し、シリンダ63において過酸化水素水40が接触しない面の一部には通気非通水性フィルタ121bを設けている。バネ62は、常に過酸化水素水を排出する方向に働いており、電磁開閉弁28が開いた場合にも酸素や水が過酸化水素水リザーバ21bに流入しない。隔壁60は、自由移動が可能であり、バネ62の押し圧を受けているので、電磁開閉弁28が開くと過酸化水素水40を過酸化水素水リザーバ21bから排出する。通気非通水性フィルタ121bは、密封カプセル19の一部に設けるものと同じものを用いて過酸化水素水リザーバ21b内外の気圧差が生じないように調節する。
触媒球27は、内面に触媒(二酸化マンガン又はカタラーゼ)を展開し、触媒球27には電磁開閉弁28とは別に排出パイプ26が開口しており、この排出パイプ26は密閉カプセル19の外面に開口している。
電磁開閉弁28は、過酸化水素水リザーバ21bと触媒球27を接続し、制御回路29を介して操作者の指示により、開閉する。制御回路29は、操作者が与える無線駆動信号を送受信アンテナ18が受信し、送受信回路16を介して作動し、電磁開閉弁28の開閉を制御する。
【0017】
操作者は、カプセル型内視鏡10の対物光学系11、固体撮像素子13、送受信回路16、送受信アンテナ18によって送信される画像信号による内視鏡観察下で、体腔を膨らませる必要が生じたときに、無線駆動信号を与えると、送受信アンテナ18がこの駆動信号を受信し、送受信回路16、制御回路29を介して電磁開閉弁28を開き、触媒球27内に過酸化水素水40を供給する。触媒球27内に過酸化水素水40を供給すると、触媒球27内面に展開する触媒床22bの存在下で酸素と水への分解反応が生じ、生成した酸素は、排出パイプ26からカプセル型内視鏡10外に排出され、体腔を膨らませる。電磁開閉弁28の開閉時間を管理することにより、触媒球27への過酸化水素水40の供給量を調整し、所望量の酸素を得ることができる。
【0018】
(酸素発生装置の実施形態3)
図5は、図4に示す酸素発生装置20bにおける過酸化水素水リザーバ21bに代えて、バルーンリザーバ21cを利用し、触媒に対する過酸化水素水の供給量を制御して反応量を調節するタイプの別の実施形態を示している。
バルーンリザーバ21cは、過酸化水素水40に対して耐性を有して収縮性のある材料を用い、過酸化水素水40を供給するために十分な収縮力を有している。このバルーンリザーバ21cの一部には、通気非通水性フィルタ121cが設けてある。通気非通水性フィルタ121cは、密封カプセル19の一部に設けるものと同じものを用いてバルーンリザーバ21c内外の気圧差が生じないように調節する。
操作者が体腔内において体腔を膨らませるため、生成する酸素および水をカプセル型内視鏡10外に排出する機構は、酸素発生装置20bと同じである。
【0019】
(薬液デリバリカプセルの実施形態1)
図6は、薬液デリバリカプセル30に本発明を適用した実施形態である。薬液デリバリカプセル30内には、図1に示す酸素発生装置20に代えて薬液供給装置200を配置する。薬液供給装置200には、酸素発生装置20b、排出パイプ26および、必要な薬液を封入した薬液リザーバ31が収納されており、薬液リザーバ31に連通する外部排出パイプ32は薬液デリバリカプセル30の外面に開口している(図1参照)。酸素発生装置20bは、操作者の指示により過酸化水素水40を触媒球27に供給する。薬液リザーバ31は、その内部を可動性の隔壁60により仕切られ、外部排出パイプ32を設ける一方には薬液50を充填し、排出パイプ26を介して触媒球27(図4参照)に連通する他方には、触媒球27内で生成する酸素および水が供給される。
【0020】
以上の薬液デリバリカプセル30は、例えば造影剤観察下で、薬液デリバリカプセル30を体内に飲み込み、薬液デリバリカプセル30が体内の所定の部位に達した時点で、操作者が薬液排出の無線駆動信号を与えると、送受信アンテナ18、送受信回路16、制御回路29を介して電磁開閉弁28が開き、触媒球27内に過酸化水素水40が供給される。触媒球27内に過酸化水素水40が供給されると、触媒球27の内壁に配置する触媒床22bの存在下で酸素と水への分解反応が生じ、生成した酸素及び水は、排出パイプ26から薬液リザーバ31内に送られ、薬液リザーバ31から薬液50を排出するために用いられる。酸素及び水の生成量が増加することにより、薬液リザーバ31内の圧力が上昇し、可動式の隔壁61に圧力が加わり、上昇圧力に応じた量の薬液50が薬液リザーバ31から外部排出パイプ32を介して体内に供給される。薬液リザーバ31に及ぼされる圧力は、電磁開閉弁28を開く時間(発生する酸素の量)によって制御できるから、薬液50の供給量を電磁開閉弁28の開時間によって制御できる。
また、酸素発生装置20bの代わりに、酸素発生装置20a(図3参照)もしくは、酸素発生装置20c(図5参照)を用いることもできる。
【0021】
(薬液デリバリカプセルの実施形態2)
図7は、薬液デリバリカプセル30に本発明を適用した別の実施形態を示す。薬液デリバリカプセル30内には、図1に示す酸素発生装置20に代えて薬液供給装置200を配置する。薬液供給装置200には、必要な薬液を封入した薬液リザーバ31、過酸化水素水供給装置210と排出パイプ26を収納する。薬液リザーバ31には、可動式の隔壁61のバルーンリザーバ21c側の壁面に触媒床22cを配置する。過酸化水素水供給装置210は、バルーンリザーバ21c、電磁開閉弁28、制御回路29を有し、操作者の指示により排出パイプ26を介して過酸化水素水40を薬液リザーバ31に供給する。
【0022】
操作者が薬液排出の無線駆動信号を与えると、送受信アンテナ18、送受信回路16、過酸化水素水供給装置210に配置する制御回路29を介して電磁開閉弁28が開き、排出パイプ26から薬液リザーバ31内に過酸化水素水40が供給される。薬液リザーバ31内に過酸化水素水40が供給されると、可動式の隔壁61のバルーンリザーバ21c側の壁面に配置する触媒床22cの存在下で酸素と水への分解反応が生じ、酸素及び水が生成する。酸素及び水は、これらの生成量が増加することにより、薬液リザーバ31内の圧力が上昇し、可動式の隔壁61に圧力が加わり、上昇圧力に応じた量の薬液50を薬液リザーバ31から外部排出パイプ32を介して体内に供給する。
過酸化水素水供給装置210において、バルーンリザーバ21cに代えて過酸化水素水リザーバ21bを利用することもでき、過酸化水素水供給装置210の代わりに、酸素発生装置20aを利用することもできる。また、酸素発生装置20aを用いる場合には、触媒床22cを配置することを必要としない。
【0023】
以上の実施形態では、カプセル型内視鏡と薬液デリバリカプセルに本発明を適用したが、体内において酸素を発生させる必要のあるカプセル型医療用具一般に本発明は適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明をカプセル型内視鏡に適用した実施形態を示す概念断面図である。
【図2】図1のカプセル型内視鏡の酸素発生装置の具体例を示す概念図である。
【図3】図2のII矢視図である。
【図4】酸素発生装置の別の実施形態を示す概念図である。
【図5】酸素発生装置のさらに別の実施形態を示す概念図である。
【図6】本発明を薬液デリバリカプセルに適用した実施形態を示す概念断面図である。
【図7】本発明を薬液デリバリカプセルに適用した別の実施形態を示す概念断面図である。
【符号の説明】
【0025】
10 カプセル型内視鏡
11 対物光学系
12 LED
13 固体撮像素子
16 送受信回路
18 送受信アンテナ
19 密封カプセル
20a、b、c 酸素発生装置
21a、b 過酸化水素水リザーバ
21c バルーンリザーバ
22a、b、c 触媒床
23 カバー部材
24 アクチュエータ
25 ドライバ
26 排出パイプ
27 触媒球
28 電磁開閉弁
29 制御回路
30 薬液デリバリカプセル
31 薬液リザーバ
32 外部排出パイプ
40 過酸化水素水
50 薬液
60、61 隔壁(ピストン)
62 バネ
63 シリンダ
121 通気非通水性フィルタ
200 薬液供給装置
210 過酸化水素水供給装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体腔内に飲み込む医療用具カプセル内に、過酸化水素水のリザーバと、
該過酸化水素水が酸素と水に分解する反応を促進する触媒と、
該過酸化水素水と触媒との反応量を制御する制御手段と、
反応の結果生じた酸素及び水を排出する排出系と、
を設けたことを特徴とする酸素発生装置を有するカプセル型医療用具。
【請求項2】
請求項1記載のカプセル型医療用具において、上記反応量制御手段は、過酸化水素水に対する触媒の接触面積を制御する酸素発生装置を有するカプセル型医療用具。
【請求項3】
請求項1記載のカプセル型医療用具において、上記反応量制御手段は、触媒に対する過酸化水素水の供給量を制御する酸素発生装置を有するカプセル型医療用具。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項記載のカプセル型医療用具において、カプセル型医療用具はカプセル型内視鏡であり、上記排出系から排出された酸素及び水は、体腔内へ排出される酸素発生装置を有するカプセル型医療用具。
【請求項5】
請求項1ないし3のいずれか1項記載のカプセル型医療用具において、カプセル型医療用具は薬液を体内に運搬する薬液デリバリカプセルであり、上記排出系から排出される酸素及び水は、上記薬液デリバリカプセル内の薬液リザーバから薬液を排出するために用いられる酸素発生装置を有するカプセル型医療用具。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項記載のカプセル型医療用具において、上記触媒は、二酸化マンガンまたはカタラーゼである酸素発生装置を有するカプセル型医療用具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−307(P2006−307A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−178728(P2004−178728)
【出願日】平成16年6月16日(2004.6.16)
【出願人】(000000527)ペンタックス株式会社 (1,878)
【Fターム(参考)】