説明

酸素雰囲気で融解処理された試料中の元素分析方法および元素分析装置

【課題】 酸素雰囲気で融解処理された試料中の元素分析において、測定値に対する信頼性の確保し、測定精度の高い元素分析方法および元素分析装置を提供すること。
【解決手段】 試料Sを内部に設置し融解処理を行う融解炉1、溶融炉1に酸素を供給する酸素供給路1a、溶融炉1から供出されるサンプルガスの二次処理を行う二次処理系20、二次処理がされたサンプルガス中の特定成分濃度を測定するガス分析計2を有する元素分析装置であって、二次処理系20に活性炭を内蔵した吸着処理部3を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素雰囲気で融解処理された試料中の元素分析方法および元素分析装置に関するもので、特に、微量の炭素や水素などを含む硫黄を主成分とする試料中の炭素などの元素を測定対象とする元素分析方法および元素分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼やアルミニウムなどの金属あるいは硫黄単体などの素材中には、水素、酸素あるいは炭素等の元素が含まれることによって、その特性が大きく異なることから、こうした元素を簡便かつ正確に測定できる元素分析方法および元素分析装置の要請が強い。かかる複数の元素を測定対象とする元素分析装置においては、通常、融解式分析法が用いられる。具体的には、金属試料中の微量の炭素および硫黄を定量分析する方法として、酸素気流中で金属試料を燃焼させ、試料中の炭素または硫黄を二酸化炭素または二酸化硫黄に変え、酸素ガスとともに赤外線吸収セルに送り、赤外線吸収強度から含有率を求める燃焼−赤外線吸収法があり、いくつかの分析方法や分析装置が提案されている。
【0003】
例えば、図9に示すような構成の分析装置において、気密な酸化物ガス発生室21内に金属試料22を挿入し、酸化物ガス発生室21内に酸素を供給しながら、金属試料22に不活性ガスプラズマを照射し、発生した酸化物ガスを酸素または不活性ガスにより定量装置23,24に搬送して定量する。不活性ガスプラズマの照射により試料22の一部が溶融される。試料22中の炭素および硫黄は高温加熱され励起され、酸素と反応して酸化物ガスとなる。プラズマの照射条件および時間は一定であるので、常に一定重量の試料22が溶融される。検出器23で検出された強度は経時的に連続して記録され、積算される。積算量は一定重量の試料22中の炭素または硫黄量に対応するので、炭素または硫黄含有量を求めることができる(例えば特許文献1参照)。
【0004】
また、図10に示すように、高周波加熱炉38内に、耐熱性に優れた高融点素材の酸化物およびこの酸化物に埋設された高周波誘導加熱により発熱する電導性発熱体33よりなる試料用容器32をるつぼとして設け、高周波加熱炉38内に酸素ガスを供給しながら前記電導性発熱体33の発熱により非電導性試料31を燃焼させ、この非電導性試料31中に含まれる炭素および/または硫黄を、例えば赤外線検出器37によって分析するように構成されている試料中の元素分析装置を挙げることができる(例えば特許文献2参照)。
【0005】
一方、硫黄粉末など硫黄単体は、種々の化学品の原料であり、合成繊維、医薬品、ゴムの加硫剤などに多用され、これに含有する炭素や水素などを正確に分析することが要請されている。原理的には、上記同様、燃焼−赤外線吸収法を用いた分析方法および分析装置の適用が可能であり、実用可能な分析方法および分析装置が待たれていた。
【0006】
【特許文献1】特開平05−18962号公報
【特許文献2】特開2000−321265号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記分析方法および分析装置では、以下のような課題が生じることがあった。
(1)炭素および硫黄の分析においては、NDIRによって、炭素は二酸化炭素と一酸化炭素に変換し、硫黄は二酸化硫黄に変換し、それぞれの赤外線吸収スペクトル強度を計測し、それぞれ濃度を算出している。通常、これらの赤外線吸収スペクトルは、それぞれ別の波長域にて測定を行っているが、二酸化硫黄の測定波長域の一部が二酸化炭素の測定波長域に重なり、炭素分析値に干渉影響を与えることがある。
(2)また、硫黄単体やゴムなどの高濃度の硫黄を含む試料中の炭素分析では、燃焼により高濃度の二酸化硫黄が発生する。炭素濃度が高い場合には、炭素分析値に与える干渉影響は無視することができ、またソフト演算で干渉影響の補正を行うことができるが、極微量の炭素分析では、干渉影響によって、炭素分析値に無視できない影響を与える。
(3)また、ゴムなどの試料については、炭素成分がゴムの諸特性に大きな影響を及ぼすことから、炭素濃度が比較的高い場合であっても、こうした影響を受けない分析装置の強い要請があった。
【0008】
そこで、本発明はこうした問題点を解決し、酸素雰囲気で融解処理された試料中の元素分析において、測定値に対する信頼性の確保し、測定精度の高い元素分析方法および元素分析装置を提供することを目的とする。つまり、微量の炭素や水素などを含む硫黄を主成分とする試料中の炭素などの元素を測定対象とする元素分析において、融解処理後のサンプルガスから測定誤差となる成分を除去等の二次処理を行い、他の共存成分の測定に影響を与えることなく、高い選択的を有する測定を可能とする元素分析方法および元素分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、以下に示す元素分析方法および元素分析装置によって上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0010】
本発明は、微量の炭素や水素などを含む硫黄を主成分とする試料を、酸素雰囲気で融解処理し、得られたサンプルガスを、所定の二次処理後にガス分析計に導入する元素分析方法であって、該二次処理の1つとして、活性炭を用いて吸着処理することを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、微量の炭素や水素などを含む硫黄を主成分とする試料を対象とし、該試料を内部に設置し融解処理を行う融解炉、該溶融炉に酸素を供給する酸素供給路、前記溶融炉から供出されるサンプルガスの二次処理を行う二次処理系、該二次処理がされたサンプルガス中の特定成分濃度を測定するガス分析計を有する元素分析装置であって、前記二次処理系に活性炭を内蔵した吸着処理部を有することを特徴とする。
【0012】
上述のように、微量の炭素や水素などを含む硫黄を主成分とする試料を分析対象とする元素分析においては、従前の元素分析と異なり、酸素雰囲気での融解処理によって発生した高濃度の二酸化硫黄が検出系に導入されることによって、微量の炭素や水素成分の測定に対して干渉影響による無視できない誤差が生じる。本発明は、二次処理系に活性炭を吸着処理剤として用いることが、こうした二酸化硫黄の干渉影響を低減させることに好適であることを見出し、検証の結果、他の共存成分の測定に影響を与えることなく、高い選択的を有する測定が可能であることを実証した。
【0013】
つまり、二次処理を行う条件として、(条件1)二酸化硫黄と二酸化炭素の選択的分離、および(条件2)酸素雰囲気で融解処理されたサンプルガス中の酸素に対する影響の排除、が必要とされ、種々の吸着剤あるいは反応物質等を検討した結果、活性炭を吸着処理剤として用いることが、最適であるとの検証結果を得たものである。(条件1)については、活性炭に対する二酸化硫黄と二酸化炭素の動的な吸着特性を実証した結果からの知見を基にしたもので、(条件2)については、高濃度の二酸化硫黄による活性炭の不燃効果によるものと推定できる実証結果から知見を基にしたものである。いずれも、従前の常識的な化学的・物理的な知識では排除される条件において、異なる角度からのアプローチによって新たな知見が得られたものである。
【0014】
これによって、微量の炭素や水素などを含む硫黄を主成分とする試料を分析対象とし、酸素雰囲気で融解処理された試料中の元素分析においても、測定値に対する信頼性の確保し、測定精度の高い元素分析方法を提供することが可能となった。ここで、「微量成分」とは、成分濃度1000ppm(wt)以下をいい、「超微量成分」とは、成分濃度100ppm(wt)以下をいう。
【0015】
本発明は、上記酸素雰囲気で融解処理された試料中の元素分析方法であって、前記試料中の炭素を測定対象の1つとし、前記活性炭について、予め複数回サンプルガスによる吸着処理を行ったことを特徴とする。
【0016】
上記のように、硫黄を主成分とする試料中の微量成分の炭素の測定においては、二酸化硫黄が分解・処理が非常に難しい物質であることから、上記(条件1)および(条件2)を満たす二次処理としては、活性炭による吸着処理が好適であることを見出した。一方、試料を溶融処理して得られたサンプルガスは、実質酸素濃度100%に近いガスであり、これが活性炭と接して通過するとき、その一部と反応して二酸化炭素が生じる可能性があり、特に試料中の炭素濃度が超微量成分の場合に誤差要因となることが判った。本発明において、さらに検証した結果、二次処理系において使用する場合、予め複数回サンプルガスによる吸着処理を行った活性炭については、(条件2)二酸化硫黄の活性炭に対する不燃効果を強化することができることが推定され、硫黄を主成分とする試料中の炭素濃度が100ppm(wt)以下の測定においても、測定誤差として無視できることを実証することができた。これによって、超微量の炭素や水素などを含む硫黄を主成分とする試料を分析対象とし、酸素雰囲気で融解処理された試料中の元素分析においても、測定値に対する信頼性の確保し、測定精度の高い元素分析方法を提供することが可能となった。
【0017】
本発明は、上記酸素雰囲気で融解処理された試料中の元素分析方法であって、前記活性炭について、粒径が0.1〜1.0mmさらに好ましくは0.4〜0.6mmであることを特徴とする。
【0018】
上記のように、活性炭による吸着処理が、上記(条件1)および(条件2)を満たす二次処理として好適であることを実証することができた。一方、活性炭は、その原材料や製造方法によって様々な形状(粉末状、粒状、破砕状、繊維状、ハニカム状など)を有するとともに、吸着能力にも差異がある。具体的には、被吸着物質に対する最適な活性炭の吸着条件は、細孔径などによって規制される静的な吸着特性に加え、例えば、二酸化炭素と二酸化硫黄の競合吸着によって規制される動的な吸着特性から支配される。本発明において、検証した結果、活性炭の特定範囲の粒径に対して、上記(条件1)および(条件2)を満たすとともに、迅速に安定な吸着処理条件を確保することができるという、優れた吸着機能を有することを見出した。
【0019】
本発明は、上記酸素雰囲気で融解処理された試料中の元素分析装置であって、前記吸着処理部に対して、上流側の前記サンプル導入路および下流のサンプル導入路と接続するバイパス流路を配設し、該吸着処理部を含む循環流路を形成することを特徴とする。
上記のように、本発明は、高濃度の二酸化硫黄と、低濃度の二酸化炭素などの測定対象の酸化物を含む酸素ベースのガスという非常に特殊な条件のサンプルガスが、活性炭に対して如何なる動的な挙動を示すかという知見を、元素分析に利用したものである。このとき、使用する活性炭の事前の処理などによって吸着特性の安定化を図るとともに、吸着処理部を含む二次処理系において循環流路を形成し、吸着処理部に対して複数回のサンプルガスとの接触を図ることによって、さらなる吸着特性の安定化を確保し、高い選択的を有する測定が可能となる。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明によって、微量の炭素や水素などを含む硫黄を主成分とする試料中の炭素または炭素を含む複数の元素を測定対象とする元素分析において、吸着処理剤として活性炭を用いることによって、他の共存成分の測定に影響を与えることなく、融解処理後のサンプルガスから測定誤差となる成分を除去等の二次処理を行い、選択性の高い測定が可能となった。また、従前分析が困難であったゴムなどの試料についても、微量の炭素成分を精度よく測定することが可能となった。従って、酸素雰囲気で融解処理された試料中の元素分析において、測定値に対する信頼性の確保し、測定精度の高い元素分析方法および元素分析装置を提供することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。この発明に係る酸素雰囲気で融解処理された試料中の元素分析方法および元素分析装置(以下「本装置」という。)は、試料を融解処理する一次処理系、および、サンプルガスの二次処理を行い、その中の二酸化炭素などを測定するガス分析計を有する二次処理系からなり、サンプルガス二次処理流路中に、活性炭を収容する吸着処理部を配設する構成からなる。適切な一次および二次処理を行うことによって、他の共存成分の影響を排除し、測定値に対する信頼性および高い測定精度を有する元素分析方法を確保する場合に適している。
【0022】
<本装置の基本的な構成例>
図1は、本装置の基本的な構成として、微量の水素および炭素を含み硫黄を主成分とする試料Sを、一次処理系10において、融解炉1によって酸素雰囲気で融解処理する場合を例示する(第1構成例)。第1構成例においては、さらに、得られたサンプルガスを、二次処理系20において、フィルタ4、吸着処理部3、精製処理部5を介して赤外線吸光式分析計(NDIR)2に導入し、サンプルガス中の二酸化炭素を測定する。また、これらの操作を制御して、試料中の炭素成分濃度を算出する操作制御部30からなり、図1に例示する構成において、以下の手順に沿って、測定操作される。
【0023】
〔第1構成例における測定操作について〕
(a1)一次処理系10
(a1−1)磁製ルツボ1a内に硫黄粉末等の試料Sを投入し、この磁製ルツボ1aを融解炉1内部にセットする。
(a1−2)酸素供給路1bから酸素を融解炉1に導入し、磁製ルツボ1a内の試料Sを酸素雰囲気とする。融解炉1は、試料Sに対し短時間で高温化することができることが好ましく、電極炉あるいは高周波炉などが好適である。
(a1−3)酸素雰囲気において融解炉1を作動させ、試料Sを融解処理する。融解処理開始から所定時間(サンプルガス導入時間)Taの間、融解炉1内に酸素を流通させ、得られたサンプルガスを、二次処理系20に導入する。このとき、サンプルガス中には、酸素をベースとして、水分と二酸化炭素および微量の一酸化炭素と窒素が含まれる。このとき、酸素は、測定成分を含むサンプルガスを二次処理系20から排出するための時間Tb分をさらに流通させる。このとき、所定流量Laに設定することによって、サンプルガスの総量V( V=La×Ta )を設定することができる。
【0024】
(b1)二次処理系20によるサンプルガスの精製
(b1−1)融解炉1からのサンプルガスを、フィルタ4によって除塵し、吸着処理部3によってサンプルガス中の二酸化硫黄を吸着処理し、精製処理部5によって水分除去等清浄化した後、NDIR2に導入する。これによって、サンプルガス中の二酸化炭素を精度よく測定することができる。このとき、サンプルガス導入時間Taの間の測定値を積算することによって、試料中の炭素成分を測定することができる。
【0025】
(b1−2)吸着処理部3において、サンプルガス中に含まれる二酸化硫黄は、予め吸着処理部3に内蔵された活性炭によって、吸着される。上記(a1)融解炉1によって処理された場合には、二酸化硫黄および酸素が主成分となり、理想的には、二酸化硫黄が吸着処理され後は、酸素を主成分とし二酸化炭素および水分を含むサンプルガスとなる。実際には、こうした選択的な吸着分離が難しいことから、上述のように、(条件1)および(条件2)を満たすように、活性炭に対する前処理やサンプルガスの吸着処理部3への導入方法の改善を図っている。詳細は後述する。
【0026】
(b1−3)次に、このサンプルガスを精製処理部5に導入し、サンプルガス中の水分が除去される。このように清浄化されたサンプルガスが精製処理部5から供出される。精製処理部5は、二酸化炭素の測定に際して誤差となる水分を除去するもので、二酸化炭素に対して反応や吸着等によるロスの発生がなければ、特に試剤の制限はなく、例えば、過塩素酸マグネシウムや塩化カルシウムなどを基本組成とする試剤などを用いることができる。また、サンプルガス中の一酸化炭素が多い場合には、精製処理部5において、予め所定の温度に加熱した酸化剤(例えば、白金触媒など)によって酸化され、二酸化炭素に変換することも可能である。ただし、試料の性状によっては、これらの処理のいくつかあるいは全てを省略することが可能である。
【0027】
(c1)サンプルガスのNDIRによる測定
(c1−1)上記(b1)の精製工程を経たサンプルガスが、二酸化炭素ガス分析計として機能するNDIR2に導入されて、サンプル中の二酸化炭素ガスを測定する。測定は、所定流量Laに設定することによって、サンプルガスの総量V( V=La×Ta )について、瞬時値を積算することによって、試料の処理によって発生した炭素成分の総量を測定することができる。
【0028】
(c1−2)分析計としての校正には、ゼロ校正と感度校正(スパン校正)があるが、本装置の場合には、ゼロ校正は、通常必要とされない。つまり、上記(b1−1)において、サンプルガス中の二酸化炭素がNDIR2に導入されて出力の変化が生じるまでの不活性ガスのみを測定しているNDIR2の出力が、ゼロであり、毎回の測定の基準として実質的にゼロ校正が行われることになる。また、本装置におけるNDIR2のスパン校正については、実測するサンプルガスと同じ酸素をベースガスとすることが好ましく、定期的にあるいは毎回の測定開始前に校正することが好ましい。
【0029】
以上の操作において、融解炉1を含む各処理部は、操作制御部30によって、事前の準備およびその動作を調整・制御されることが好ましい。試料の組成や性状、あるいは特異な分析条件などの入力操作を可能にし、こうした入力を基に、融解炉1における電極炉あるいは高周波炉の作動や酸素の導入量など、分析計の校正を含む元素分析装置の全体を制御するとともに、NDIR2からの出力信号に基づく濃度演算などを行うことが好ましい。
【0030】
〔吸着処理部3について〕
吸着処理部3は、活性炭が内蔵可能な構造を有するものであれば特に制限はない。
(1)活性炭の種類
二酸化炭素と二酸化硫黄に対する吸着特性が異なれば、その原材料や製造方法を問わず活性炭の種類に特に制限はない。また、粉末状、粒状、破砕状、繊維状、ハニカム状など形状についても、特に制限はないが、吸着処理部3に内蔵しやすく、圧力損失の少ない構造から、粒状、破砕状、繊維状、ハニカム状などが好ましく、実証結果では、粒状、破砕状の活性炭がより好ましい。
(2)活性炭の性状
吸着処理部3に内蔵される活性炭は、粒径が0.1〜1.0mmさらに好ましくは0.4〜0.6mmであることが好ましい。粒径が0.1mm以下の活性炭は、吸着能力に優れているが、圧力損失が大きく取り扱いが煩雑となることから好ましくなく、粒径が1.0mm以上の活性炭は、吸着に必要とされる実効表面積を確保することが困難である。
(3)活性炭の吸着特性
被吸着物質に対する最適な活性炭の吸着条件は、細孔径などによって規制される静的な吸着特性に加え、二酸化炭素と二酸化硫黄の競合吸着によって規制される動的な吸着特性から支配される。本発明において、以下に詳述するように、活性炭に対する二酸化硫黄と二酸化炭素の吸着メカニズムと活性炭の反応メカニズムを検証し、その優れた吸着機能を利用することが可能であることを見出した。
【0031】
<二酸化硫黄と二酸化炭素の吸着メカニズムと活性炭の反応メカニズムについて>
本発明の本質は、検証過程における、二次処理段階での二酸化硫黄と二酸化炭素の吸着のメカニズムに対して得られた知見が大きく寄与するものである。と同時に、サンプルガスのベースとなる酸素と吸着剤である活性炭との反応による二酸化炭素の発生メカニズムに対して得られた知見が大きく寄与するものである。つまり、正確なメカニズムの解明は今後の検討課題であるが、本装置の使用条件においては、吸着剤に求められる2つの条件として、(条件1)二酸化硫黄と二酸化炭素の選択的分離、および(条件2)酸素雰囲気で融解処理されたサンプルガス中の酸素に対する影響の排除、を挙げることができる。
【0032】
(条件1)二酸化硫黄と二酸化炭素の選択的分離
理想的には、活性炭が二酸化硫黄のみを吸着し、二酸化炭素を吸着しないことが好ましい。しかし、いずれの化合物も酸化物であり、吸着特性の差はあれ、通常考えられる選択的分離はできない。特に、二酸化硫黄の濃度が高く、二酸化炭素の濃度が低い条件下において、二酸化硫黄の吸着による分離はできなかった。そこで、本発明者は、二酸化硫黄と二酸化炭素の吸着のメカニズムについて、静的な吸着特性と動的な吸着特性の両面から検証することが必要であると推考した。静的な吸着特性では、二酸化硫黄と二酸化炭素について、分子面積も比較的近い数値であり(0.14〜0.24vs0.17:化学便覧IIp.92)、分子篩による分離も難しく、入手が容易な種々の吸着剤を検討したが、いずれも、選択的分離機能を有するものは見出すことができなかった。次に、動的な吸着特性による選択的分離の可能性について試行的に検証を行った。その結果、二酸化炭素については、一次的な吸着後脱着するという二次的挙動をすることが判った。また、活性炭に対する競合吸着において、二酸化硫黄と二酸化炭素が競合した場合、二酸化硫黄が優先して吸着し、二酸化炭素についての吸脱着の挙動に大きな変化がない一方、二酸化硫黄が吸着された状態において、二酸化炭素の二次的挙動である脱着時間が早くなることが判った。従って、これらを含むサンプルガスを吸着処理部に導入した場合、所定時間後に脱着する二酸化炭素を測定することによって、二酸化硫黄の影響を受けにくい条件を確保することができる。つまり、吸着処理部へサンプルガスを導入するタイミングとNDIRにおいて出力を取り出すタイミングと時間幅を設定することによって、再現性の高い正確な測定が可能となることが判った。
【0033】
(条件2)酸素雰囲気で融解処理されたサンプルガス中の酸素に対する影響の排除
上記のように、競合吸着の特異性から、吸着剤として活性炭が使用可能であることが判ったが、酸素雰囲気で融解処理されたサンプルガスは酸素ベースであり、活性炭との反応性について検証が必要となる。むしろ従前の常識的な化学的・物理的な知識では、酸素との反応が推定される活性炭は、当初から排除されることが多い。実際に、酸素100%のサンプルガスを活性炭に接触させると数10〜数100ppmの二酸化炭素が発生することが実証され、この状態では、サンプルガス中の二酸化炭素と発生した二酸化炭素との区別ができなかった。従って、こうした酸化反応を抑止する手段、つまり活性炭に対する不燃処理が必要となる。しかしながら、(条件1)を満たす不燃処理は、容易ではなかった。本発明者はさらに、吸着処理部から供出されるガス中の組成の経時的な変化およびその繰り返しに伴う変化などを詳細に検証する過程において、サンプルガス中の二酸化硫黄が、活性炭に対する不燃効果を有することを推定した。特に、本装置の測定対象が硫黄を主成分である試料を融解処理したサンプルガス中には高濃度の二酸化硫黄が存在することから、これを利用することによって、活性炭に対する不燃処理が可能となった。具体的には、予め複数回同一試料の測定行い、サンプルガスによる吸着処理を行った活性炭を用いることによって、再現性の高い正確な測定が可能となることが判った。あるいは、後述するように、吸着処理部を含む循環流路を形成し、所定回数サンプルガスを吸着処理部に導入することによって、同様の効果を得ることが可能となる。
【0034】
以上の検証事項については、以下の実証結果から、これらのメカニズムについて所定の知見を得たので、これについて説明する。
【0035】
〔実証試験1〕:二酸化硫黄による干渉影響の確認
(1)実験条件
1.000%の二酸化硫黄(窒素ベース)を装置に導入し、二酸化硫黄による干渉影響を確認した。
(2)実験結果
図2に例示するように、NDIRの二酸化炭素の信号ピークが現れ、高濃度の二酸化硫黄が炭素分析値に影響を与えることが確認された。
【0036】
〔実証試験2〕:活性炭からのガスの発生の確認
(1)実験条件
活性炭に一酸化炭素や二酸化炭素が吸着されている可能性があるため、活性炭(8g)を試薬管に入れ装置にセット後、キャリアガスを流し吸着ガス成分の脱離を確認した。
(2)実験結果
図3に例示するように、NDIRの二酸化炭素の信号ピークが現れ、活性炭に吸着されていたガスが脱離し、一酸化炭素や二酸化炭素が検出された。測定前に不活性ガスによる事前のパージを行うことを検討した結果、120sec以上のパージによって安定的に活性炭からのガスの発生を抑えることができることが判った。
【0037】
〔実証試験3〕:二酸化硫黄吸着による新たな活性炭からのガスの発生の確認
(1)実験条件
活性炭が二酸化硫黄を吸着時に、新たなガスが発生する可能性があるため、1.000%の二酸化硫黄(窒素ベース)を活性炭に吸着させた場合の炭素信号および分析値について確認を行った。
(2)実験結果
NDIRの二酸化炭素信号が検出されず、活性炭が二酸化硫黄を吸着するときに炭素分析に影響を与えるような新たなガスは発生していないことが確認できた。
【0038】
〔実証試験4〕:活性炭への二酸化炭素の吸着の有無の確認
(1)実験条件
活性炭が燃焼時に発生した二酸化炭素を吸着する可能性があるため、1.263%の二酸化炭素(窒素ベース)を装置に導入し確認を行った。活性炭を用いない標準仕様での炭素分析値を比較対象とした。
(2)実験結果
図4に示すように、活性炭の使用有無により、炭素の信号ピーク形状は異なったが、下表2に示すように、分析値への影響はほとんどなかった。ピークの形状が異なる原因については、二酸化炭素が活性炭を通過するときに、一次的な吸着後脱着するという二次的挙動をするためと考えられる。
【表1】

【0039】
〔実証試験5〕:活性炭への二酸化硫黄の吸着効果の確認
(1)実験条件
活性炭に予め二酸化硫黄を吸着させた場合の二酸化炭素測定における影響を確認するため、炭素濃度0.0080%の標準試料を、活性炭無し、活性炭への二酸化硫黄吸着前、活性炭への二酸化硫黄吸着後の3つの条件で測定した。
(2)実験結果
図5に示すように、活性炭を用いることによって、二酸化炭素のピークの出現が遅くなるが、活性炭への二酸化硫黄吸着処理後では、吸着前に比較して明らかに早くピークが出現した。また、二酸化炭素の分析値については、活性炭無しと活性炭への二酸化硫黄吸着後ではほぼ同じ値となり、二酸化炭素の吸着による残留あるいは脱着遅れはないことが判った。一方、活性炭への二酸化硫黄吸着前では、分析値が若干低くなり、二酸化炭素の吸着による残留あるいは脱着遅れが見られた。
【0040】
〔実証試験6〕
(1)実験条件
図1に例示する構成の本装置において、試料を硫黄粉体とし、吸着処理部3に新規の活性炭を充填し、同一試料を10回続けて、元素分析を行った。そのとき、ガス分析計として二酸化炭素と同時に二酸化硫黄の濃度分析が可能なNDIR2を用い、二酸化炭素と二酸化硫黄の濃度変化を追跡した。吸着処理部3は、予め不活性ガス(窒素ガス)によるパージ処理を行った。
【0041】
(2)実験結果
10回の測定結果を、図6(A)〜(J)に示す。この結果から、本発明の本質である上記2つのメカニズムについて考察する。
【0042】
(2−1)二酸化炭素については、時間軸Xに対して、140sec近傍からサンプルガス中の二酸化炭素の立上りが始まり、170sec近傍で立下りが終了するパターンが10回ともに繰り返された。その濃度積算量は、既知試料中の炭素濃度と相関があり、つまり、全量が一旦吸着された後、脱着していることを示すものである。また、1回目の測定において、測定当初から70secまでのピークは、活性炭と酸素との酸化反応によって発生した二酸化炭素によるものであると推定され、150secからの二酸化炭素の立上り時においても他の9回と異なり大きなピークを形成しているのは、サンプルガス中の二酸化炭素が活性炭から脱着する時に、それまでに発生し吸蔵していた二酸化炭素が同時に放出されたものと推定される。2回目の測定においては、未だ同様の現象が生じていると推定されるが、大幅に減少している。3回目以降の測定においては、殆んどこの現象はみられない。この傾向は、二酸化硫黄の吸着現象を追跡すると、その動きに連動していることが判る。つまり、サンプルガス中の二酸化炭素によるピークは、二酸化硫黄の吸着の安定化とともに安定し、それ以外の二酸化炭素の発生は、二酸化硫黄の吸着により大幅に減少し、不燃効果があることを示している。
【0043】
(2−2)二酸化硫黄については、1回目および2回目の100secまでは、優先して活性炭に吸着され、それ以降徐々に吸着能力が低下しているが、3〜6回目の測定までは、濃度の絶対値および濃度変化のパターンも非常に安定していることが判った。7回目以降は、さらに、吸着能力が低下し徐々に測定当初から高い濃度を示す結果となった。濃度変化のパターンについては、200sec前後をボトムとする傾向に変化はなかった。また、二酸化炭素の濃度変化との関係から、(条件1)活性炭に対する競合吸着において、二酸化硫黄と二酸化炭素が競合した場合、二酸化硫黄が優先して吸着することが判り、(条件2)活性炭と酸素の反応において、吸着した二酸化硫黄が不燃効果を有することが判った。
【0044】
(2−3)また、図6(A)〜(J)の太線部の時間帯における各成分の濃度積分値を求め、この結果を下表2に纏めて示す。3〜6回目の測定において、二酸化炭素および二酸化硫黄濃度ともに安定していることが判る。7回目以降は、全体的な二酸化硫黄濃度の上昇とともに、その干渉影響による二酸化炭素濃度の測定誤差による増加が見られた。
【表2】

【0045】
〔実証試験7〕:活性炭の寿命確認
(1)実験条件
活性炭の寿命について、吸着処理部に活性炭約8gを詰め、硫黄粉末1回の測定質量を0.1gで測定を行い確認した。
(2)実験結果
下表3に示すように、約50回までは、安定した炭素分析値を得ることができた。
【表3】

【0046】
〔実施例〕
以上の実証試験の結果を基に、実際の元素分析装置(堀場製作所製、EMIA−920V)を用いて、実際の試料について分析した。
(1)分析条件
(1−1)一次処理として、高周波炉を5secおよび35secの2段階にて融解処理した。事前に不活性ガスによるパージを120sec行った。
(1−2)硫黄粉末の試料質量を0.05gと0.1gの両方にて、分析を行った。このとき、硫黄粉末に600ppmのL(+)アスコルビン酸溶液を10〜50μL添加し、炭素成分60〜300ppm相当の試料とした。
(1−3)該試料を、硫黄粉末をそのまま溶融させた場合と、タングステン1.5g、スズ0.3gという同じ助燃剤を用いた条件で溶融させた場合について、分析を行った。
(2)分析結果
図7に例示するように、(1−3)のいずれの場合も、活性炭を用いた測定による炭素分析値の直線性が確認された。
【0047】
<本装置の第2構成例>
図8(A)および(B)は、本装置の第2構成例として、吸着処理部3に対して、上流側のサンプル導入路3aおよび下流のサンプル導入路3bと接続するバイパス流路Bを配設し、循環ポンプ6を設けて、吸着処理部3を含む循環流路を形成する場合を例示する。図8(A)においては、フィルタ4と吸着処理部3の中間、および吸着処理部3と精製処理部5の中間から分岐する場合を例示し、図8(B)においては、二次処理系20の入口とフィルタ4の中間、およびNDIR2と二次処理系20の出口の中間から分岐する場合を例示したが、分岐する位置はこれに限定されるものでない。
【0048】
このような循環流路を構成し、循環ポンプ6を駆動することによって循環流を形成し、一次処理されて得られたサンプルガスを吸着処理部3に対して複数回導入・供出を繰り返すことによって、吸着処理部3に内蔵された活性炭に対してサンプルガス中の二酸化硫黄濃度との間に吸着平衡を形成し、安定状態を形成することができる。つまり、上記〔実証試験6〕における2回の事前測定、あるいは〔実証試験7〕における5回の事前測定を、さらに少ない短い回数にしても、以降の測定において同等の精度を確保することが可能となる。
【0049】
なお、図8(B)のように、NDIR2で測定した後のガスによって循環流を形成する場合には、循環流の流速を、測定周期に合わせることによって、吸着処理部3における二酸化硫黄の吸着状態を把握することが可能となる。従って、循環回数の設定や次回の試料測定の時期の設定などが可能となる。また、試料の組成の変動や一次処理条件の変更があっても、それに応じた循環流を形成し、最適な二次処理を行うことが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
以上は、酸素雰囲気での融解による元素分析において、主として測定対象が炭素の場合について述べたが、他の元素との組合せ、例えば試料中の炭素/水素、炭素/水素/窒素などを測定対象とする場合においても、あるいはガス融解式以外の一次処理方法を用いた元素分析方法あるいは元素分析装置についても適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明に係る元素分析装置の第1構成例を示す説明図。
【図2】二酸化炭素測定用NDIRにおける二酸化硫黄の干渉影響を示す説明図。
【図3】活性炭からのガスの発生状態を示す説明図。
【図4】活性炭への二酸化炭素の吸着状態を示す説明図。
【図5】活性炭への二酸化硫黄の吸着状態を示す説明図。
【図6A】本発明に係る元素分析装置の第1構成例における測定結果を示す説明図。
【図6B】本発明に係る元素分析装置の第1構成例における測定結果を示す説明図。
【図7】本発明に係る元素分析装置による実試料の測定結果を示す説明図。
【図8】本発明に係る元素分析装置の第2構成例を示す説明図。
【図9】従来技術に係る元素分析装置の1の構成を例示する説明図。
【図10】従来技術に係る元素分析装置の他の構成を例示する説明図。
【符号の説明】
【0052】
1 融解炉
1a 磁製ルツボ
1b 酸素供給路
2 赤外線吸光式分析計(NDIR)
3 吸着処理部
3a 上流側のサンプル導入路
3b 下流のサンプル導入路
4 フィルタ
5 精製処理部
6 循環ポンプ
10 一次処理系
20 二次処理系
30 操作制御部
B バイパス流路
S 試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微量の炭素や水素などを含む硫黄を主成分とする試料を、酸素雰囲気で融解処理し、得られたサンプルガスを、所定の二次処理後にガス分析計に導入する元素分析方法であって、該二次処理の1つとして、活性炭を用いて吸着処理することを特徴とする酸素雰囲気で融解処理された試料中の元素分析方法。
【請求項2】
前記試料中の炭素を測定対象の1つとし、前記活性炭について、予め複数回前記サンプルガスによる吸着処理を行ったことを特徴とする請求項1記載の酸素雰囲気で融解処理された試料中の元素分析方法。
【請求項3】
前記活性炭について、粒径が0.1〜1.0mmさらに好ましくは0.4〜0.6mmであることを特徴とする請求項1または2記載の酸素雰囲気で融解処理された試料中の元素分析方法。
【請求項4】
微量の炭素や水素などを含む硫黄を主成分とする試料を対象とし、該試料を内部に設置し融解処理を行う融解炉、該溶融炉に酸素を供給する酸素供給路、前記溶融炉から供出されるサンプルガスの二次処理を行う二次処理系、該二次処理がされたサンプルガス中の特定成分濃度を測定するガス分析計を有する元素分析装置であって、前記二次処理系に活性炭を内蔵した吸着処理部を有することを特徴とする酸素雰囲気で融解処理された試料中の元素分析装置。
【請求項5】
前記吸着処理部に対して、上流側の前記サンプル導入路および下流のサンプル導入路と接続するバイパス流路を配設し、該吸着処理部を含む循環流路を形成することを特徴とする請求項4記載の酸素雰囲気で融解処理された試料中の元素分析装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6A】
image rotate

【図6B】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2008−157799(P2008−157799A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−348017(P2006−348017)
【出願日】平成18年12月25日(2006.12.25)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】