説明

重合体、半導体膜、電極、電極活物質、電気化学素子および蓄電デバイス

【課題】二次電池の電解液等の有機溶媒へ溶出しにくく、可逆的に酸化還元反応を行うことが可能であり、酸化状態あるいは還元状態でも安定である新規な有機化合物の提供。
【解決手段】下記一般式(1)で示される構造を有する重合体であって、式中で、Phはフェニル基であり、XはO原子、S原子、Se原子、またはTe原子、R1、R2は夫々独立した鎖状の飽和又は不飽和炭化水素、環状の飽和又は不飽和炭化水素、フェニル基、水素原子、ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基およびニトロソ基よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。鎖状の飽和又は不飽和炭化水素、環状の飽和又は不飽和炭化水素は、炭素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可逆的に酸化還元が可能な重合体、およびこれを用いた半導体膜、電極、電極活物質、電気化学素子および蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯オーディオデバイス、携帯電話、ラップトップコンピュータといった携帯型電子機器が広く普及しており、こうした携帯型電子機器の電源として種々の二次電池が使用されている。また、携帯型電子機器よりもはるかに大容量の二次電池に対するニーズも高まっている。例えば、省エネルギーの観点、あるいは、二酸化炭素の排出量を低減する観点から、従来の内燃機関を用いた自動車において、電気による駆動力を併用するハイブリット自動車が普及し始めている。このため、用途にかかわらず、出力、容量、繰り返し寿命などの特性がよりいっそう優れた二次電池が求められている。
【0003】
二次電池は、酸化還元反応を利用して電荷を蓄積するため、可逆的に酸化還元反応を行う物質、つまり電荷を蓄積する蓄電材料が、二次電池のこうした特性に大きく影響する。従来の二次電池では、金属や炭素、無機化合物などが蓄電材料として用いられてきた。例えば、現在、広く用いられているリチウム二次電池の場合、蓄電材料である正極活物質および負極活物質として、金属酸化物および黒鉛などが用いられてきた。
【0004】
こうした無機材料に対して、有機化合物を蓄電材料として用いることが検討されている。有機化合物は、無機化合物に比べて多様な分子設計が可能である。このため、有機化合物を活物質として用いる場合、分子設計により、種々の特性を有する活物質を実現することが可能であると考えられる。
【0005】
また、有機化合物は金属に比べて軽量であるため、有機化合物からなる蓄電材料を用いて二次電池を構成する場合、軽量な二次電池を実現することができる。このため、例えば、充電密度は高くなくてもよいが、軽量であることが要求されるハイブリット自動車用の二次電池として好適であると考えられる。ハイブリット自動車用蓄電デバイスとしてキャパシタを用いることも検討されているが、このような利点は、化学反応を利用したキャパシタに有機化合物からなる蓄電材料を用いた場合にも得られる。
【0006】
本願の発明者らは特許文献1および2において、高速の充放電が期待できる新しい蓄電材料としてπ電子共役雲を有する有機化合物を提案し、その反応メカニズムを明らかにしてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−111374号公報
【特許文献2】特開2004−342605号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
蓄電デバイスの電解液には利用可能な電圧範囲を広げるため、非水系溶媒が用いられる。このため、有機化合物を蓄電材料として用いる場合、電解液に蓄電材料が溶出する場合があるという課題が生じる。蓄電材料の電解液への溶解度が高くなくても、充放電を繰り返すことによって蓄電材料が徐々に溶解する場合、繰り返し充放電特性が良好ではない。
【0009】
また安定性が高く、可逆的に酸化還元反応を行う有機化合物は、電子導電特性あるいは磁性の制御によって、有機超伝導体、有機導電体、有機半導体材料として、あるいは有機磁性体材料として用いることが考えられる。こうした用途の有機化合物にも有機溶媒に溶けにくいものが求められる場合がある。しかし、どのような構造の有機化合物であれば、電解液への溶出を抑制し、かつ良好な繰り返し充放電特性、磁性、半導体特性が得られるのか知見がない。
【0010】
本発明は、このような従来技術の課題を解決し、有機溶媒へ溶出しにくく、可逆的に酸化還元反応を行うことが可能であり、酸化状態あるいは還元状態でも安定である新規な有機化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の重合体は下記一般式(1)で示され、
【化1】

一般式(1)中、Phはフェニル基であり、Xは酸素原子、硫黄原子、セレン原子、またはテルル原子、R1、R2はそれぞれ独立した鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基、環状不飽和炭化水素基、フェニル基、水素原子、ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基およびニトロソ基よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。前記鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基および環状不飽和炭化水素基は、それぞれ、炭素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。
【0012】
ある好ましい実施形態において、重合体は、下記一般式(2)で示される構造を有し、
【化2】

一般式(2)中、Xは酸素原子、硫黄原子、セレン原子、またはテルル原子、R1、R2はそれぞれ独立した鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基、環状不飽和炭化水素基、フェニル基、水素原子、ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基およびニトロソ基よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。前記鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基および環状不飽和炭化水素基は、それぞれ、炭素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。
【0013】
ある好ましい実施形態において、重合体は、下記一般式(3)で示される構造を有し、
【化3】

一般式(3)中、Xは酸素原子、硫黄原子、セレン原子、またはテルル原子、R1、R2はそれぞれ独立した鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基、環状不飽和炭化水素基、フェニル基、水素原子、ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基およびニトロソ基よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。前記鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基および環状不飽和炭化水素基は、それぞれ、炭素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0014】
ある好ましい実施形態において、前記Xは硫黄原子である。
【0015】
ある好ましい実施形態において、前記nは4以上である。
【0016】
ある好ましい実施形態において、前記Xは硫黄原子であり、前記R1およびR2は鎖状飽和炭化水素基である。
【0017】
ある好ましい実施形態において、前記Xは硫黄原子であり、前記R1およびR2はそれぞれフェニル基である。
【0018】
ある好ましい実施形態において、前記Xは硫黄原子であり、前記R1およびR2はそれぞれメチル基である。
【0019】
本発明の半導体膜は、上記いずれかに規定される重合体を含む。
【0020】
本発明の電極は、導電性支持体と、前記導電性支持体上に設けられており、上記いずれかに規定される重合体を含む。
【0021】
あるこのましい実施形態において、前記重合体膜は導電性物質を含む。
【0022】
本発明の電極活物質は下記一般式(1)で示され、
【化4】

一般式(1)中、Phはフェニル基であり、Xは酸素原子、硫黄原子、セレン原子、またはテルル原子、R1、R2はそれぞれ独立した鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基、環状不飽和炭化水素基、フェニル基、水素原子、ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基およびニトロソ基よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。前記鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基および環状不飽和炭化水素基は、それぞれ、炭素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。
【0023】
ある好ましい実施形態において、電極活物質は、下記一般式(2)で示される構造を有し、
【化5】

一般式(2)中、Xは酸素原子、硫黄原子、セレン原子、またはテルル原子、R1、R2はそれぞれ独立した鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基、環状不飽和炭化水素基、フェニル基、水素原子、ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基およびニトロソ基よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。前記鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基および環状不飽和炭化水素基は、それぞれ、炭素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。
【0024】
ある好ましい実施形態において、電極活物質は、下記一般式(3)で示される構造を有し、
【化6】

一般式(3)中、Xは酸素原子、硫黄原子、セレン原子、またはテルル原子、R1、R2はそれぞれ独立した鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基、環状不飽和炭化水素基、フェニル基、水素原子、ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基およびニトロソ基よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。前記鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基および環状不飽和炭化水素基は、それぞれ、炭素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。
【0025】
ある好ましい実施形態において、前記Xは硫黄原子である。
【0026】
ある好ましい実施形態において、前記nは4以上である。
【0027】
ある好ましい実施形態において、前記Xは硫黄原子であり、前記R1およびR2は鎖状飽和炭化水素基である。
【0028】
ある好ましい実施形態において、前記Xは硫黄原子であり、前記R1およびR2はそれぞれフェニル基である。
【0029】
ある好ましい実施形態において、前記Xは硫黄原子であり、前記R1およびR2はそれぞれメチル基である。
【0030】
本発明の電気化学素子は、正極と、負極と、前記正極および前記負極の間に配置された電解液とを備え、前記正極および前記負極の少なくとも一方が、上記いずれかに規定される電極活物質を含む電極である。
【0031】
ある好ましい実施形態において、前記電解液が4級アンモニウムカチオンまたはリチウムイオンとアニオンとの塩を含んでいる。
【0032】
本発明の蓄電デバイスは、上記いずれかに規定される電極を有する正極と、リチウムイオンを吸蔵放出可能な負極活物質を含む負極と、前記リチウムイオンとアニオンとからなる塩を含み、前記正極および負極の間に満たされた電解液とを備える。
【0033】
本発明の携帯型電子機器は、上記いずれかに規定される蓄電デバイスを備える。
【0034】
本発明の車両は、上記いずれかに規定される蓄電デバイスを備える。
【発明の効果】
【0035】
本発明の重合体は、テトラカルコゲノフルバレン骨格を主鎖の繰り返し単位に有している。可逆的な酸化還元反応を行うことのできるテトラカルコゲノフルバレン骨格が重合されていることによって、テトラカルコゲノフルバレン骨格を含む分子の分子量が大きくなり、有機溶媒に対する溶解度が低下する。したがって、本発明の蓄電材料は、有機溶媒へ溶解しにくい。
【0036】
また、テトラカルコゲノフルバレン骨格が重合体の主鎖に含まれることによって、テトラカルコゲノフルバレンの有する可逆な酸化還元反応特性を損なうことなく、酸化還元反応を行う部位が重合体の高分子化に寄与するため、酸化還元反応を行わない部分をなるべく小さくした重合体構造を形成することができる。これにより、高いエネルギー密度と、充放電あるいは酸化還元のサイクル特性に優れた蓄電材料を実現することが可能となる。また、高出力、高容量、かつ、繰り返し特性に優れた蓄電デバイスを提供することができる。
【0037】
また、本発明の重合体において、テトラカルコゲノフルバレン骨格は、アセチレンおよびフェニル基(−C≡C−ph−C≡C−)を介して重合され、主鎖を構成している。このため、アセチレンおよびフェニル基がテトラカルコゲノフルバレン骨格間の電子的な相互作用を抑制し、各テトラカルコゲノフルバレン骨格における電気化学的な酸化還元に対する安定性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明による蓄電デバイスの一実施形態であるコイン型蓄電デバイスを示す概略断面図である。
【図2】図1の蓄電デバイスの正極の構造を示す断面図である。
【図3】実施例の蓄電デバイスA1’の充放電カーブを示す図である。
【図4】実施例の蓄電デバイスA1の充放電カーブを示す図である。
【図5】実施例の蓄電デバイスB1の充放電カーブを示す図である。
【図6】実施例の蓄電デバイスC1の充放電カーブを示す図である。
【図7】実施例の蓄電デバイスの一実施形態であるラミネート型蓄電デバイスを示す概略的な断面図である。
【図8】実施例の蓄電デバイスの一実施形態であるラミネート型蓄電デバイスを真上からみた示す概略的な平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本願発明者は、有機溶媒へ溶出しにくく、可逆的に酸化還元反応を行うことが可能であり、酸化状態あるいは還元状態でも安定な有機化合物として、以下の一般式(1)で示される新規な重合体を合成した。
【化7】

【0040】
一般式(1)で示される重合体は、可逆的に酸化還元反応を行う有機化合物であり、テトラカルコゲノフルバレン骨格を主鎖の繰り返し単位に有している。ここで、一般式(1)中、Xはカルコゲン、すなわち、周期表第16元素である。具体的には、カルコゲンは酸素原子、硫黄原子、セレン原子またはテルル原子である。Phはフェニル基の2価基を表し、オルト位、パラ位、メタ位のいずれかに三重結合炭素が結合している。R1、R2はそれぞれ独立した鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基、環状不飽和炭化水素基、フェニル基、水素原子、ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基およびニトロソ基よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基および環状不飽和炭化水素基は、それぞれ、炭素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。
【0041】
一般式(1)中、2つの5員環部からなるテトラカルコゲノフルバレン骨格は、2つの5員環のそれぞれにおいて、不対電子を有するカルコゲン原子と二重結合とを含む。これにより、5員環が非局在化したπ電子共役雲を形成している。このため、テトラカルコゲノフルバレン骨格は、この2つの5員環から1つずつπ電子を放出した酸化状態をとっても安定な状態を維持し得る。
【0042】
以下の式(R1)に示すように、一般式(1)に示すテトラカルコゲノフルバレン骨格が1電子酸化を受けると、2つの5員環のうち一方の電子が引き抜かれ、正に帯電する。このため、対アニオンがテトラカルコゲノフルバレン骨格に1つ配位する。さらに、1電子酸化を受けると、他方の5員環の電子が引き抜かれ、正に帯電する。このため、もう1つ、対アニオンがテトラカルコゲノフルバレン骨格に配位する。
【0043】
酸化された状態でも、テトラカルコゲノフルバレン骨格は安定であり、電子を受け取ることによって還元され、電気的に中性な状態に戻ることができる。したがって、この可逆的な酸化還元反応を利用することにより、テトラカルコゲノフルバレン骨格を、電荷の蓄積が可能な蓄電材料として用いることができる。例えば、一般式(1)で表わされる重合体をリチウム二次電池の正極、つまり正極用の電極活物質に用いる場合、放電時には、テトラカルコゲノフルバレン骨格が電気的に中性の状態、つまり、式(R1)の左側の状態をとる。また、充電状態では、テトラカルコゲノフルバレン骨格が正に帯電した状態、つまり、式(R1)の右側の状態をとる。
【化8】

【0044】
本発明の蓄電材料は、一般式(1)中、2つの5員環部からなるテトラカルコゲノフルバレン骨格が、重合体の主鎖の繰り返し単位に含まれた構造を有している。テトラカルコゲノフルバレンは可逆な酸化還元特性を有する化合物である。しかし、テトラカルコゲノフルバレン骨格を含む誘導体や重合体のすべてが、良好な酸化還元特性を有するわけではなく、誘導体や重合体の構造によっては、酸化還元特性に悪影響を与え、酸化還元特性を失う場合がある。したがって、テトラカルコゲノフルバレンの良好な酸化還元特性を維持し、かつ、有機溶媒への溶解を抑制した重合体を設計する必要がある。一般式(1)に示される重合体は、テトラカルコゲノフルバレンの有する可逆な酸化還元特性と、電解液溶媒への溶解抑制を両立した重合体である。その理由を以下に示す。
【0045】
一般式(1)で示される重合体において、テトラカルコゲノフルバレン骨格は、アセチレンおよびフェニル基(−C≡C−Ph−C≡C−)を介して重合され、主鎖を構成している。このため、アセチレンおよびフェニル基がテトラカルコゲノフルバレン骨格間の酸化還元反応に伴う電子的な反発、電子的な相互作用を抑制し、各テトラカルコゲノフルバレン骨格における電気化学的な酸化還元に対する安定性を高めることができる。その結果、重合体の全てのテトラカルコゲノフルバレン骨格は、可逆な酸化還元特性を損なうことなく、酸化あるいは還元される。これにより、例えば重合体を蓄電材料として用いる場合には、繰り返し特性の良好な、蓄電体を実現することができる。
【0046】
一般式(1)に示されるテトラカルコゲノフルバレン骨格が重合されていることによって、テトラカルコゲノフルバレン骨格を含む分子の分子量が大きくなり、有機溶媒に対する溶解度が低下する。したがって、例えば、有機溶媒を電解液に用いる蓄電デバイスの活物質として一般式(1)に示される重合体を用いた場合、活物質の電解液への溶出が抑制され、サイクル特性の劣化を防止することができる。
【0047】
特に、テトラカルコゲノフルバレン骨格が重合体の主鎖に含まれることによって、酸化還元反応を行う部位が重合体の高分子化に寄与する。したがって、酸化還元反応を行わない部分をなるべく小さくした重合体構造を形成することができる。これにより、高いエネルギー密度と、充放電あるいは酸化還元のサイクル特性に優れた蓄電材料を実現することが可能となる。
【0048】
なおπ電子共役雲を有する重合体として、ポリアニリンやポリチオフェンおよびこれらの誘導体が知られている。これらの重合体はπ電子共役雲を主鎖に含むという点で本発明の蓄電材料の重合体と類似している。しかし、ポリアニリンやポリアセチレンおよびこれらの誘導体では、主鎖全体に共役二重結合による共鳴構造が形成されるため、主鎖から電子を引き抜くと、それにより生じる正電荷は主鎖において、ある程度広がって分布する。このため、隣接する繰り返単位から続けて電子を引き抜こうとした場合、最初の電子を引き抜くことによって生じた正電荷が隣接するユニットにわたって非局在化し、電子的反発によって隣接するユニットから電子を引き抜きにくくなる。その結果、ポリアニリンのすべてアニリンやポリチオフェンのすべてのチオフェンから電子を取り出すことが困難となり、ポリアニリンやポリチオフェンでは、高エネルギー密度を実現することは困難となる。
【0049】
これに対し、一般式(1)に示されるテトラカルコゲノフルバレン骨格の重合体の場合、π電子共役雲はそれぞれの5員環内においてのみ非局在化する。このため、重合体の5員環ごとに酸化還元反応が完結し、ある5員環の酸化状態は、隣接する5員環の酸化還元反応に大きな影響を与えない。このため、重合体に含まれる5員環の数に対応した電子の授受が可能である。つまり、本発明の重合体は蓄電可能なエネルギー容量が高い。
【0050】
前述したように一般式(1)で表わされるテトラカルコゲノフルバレン骨格の重合体が有機溶媒に溶解しないよう、重合体の分子量は大きいことが好ましい。具体的には、一般式(1)で表わされるテトラカルコゲノフルバレン骨格を4以上含むこと、つまり、重合体の重合度(一般式(1)で示すn、以下の一般式または化学式においても同じ)は4以上であることが好ましい。これにより、有機溶媒に溶けにくい重合体が実現する。より好ましくは、重合体の重合度は、10以上であり、更に好ましくは、20以上である。
【0051】
また、一般式(1)で表わされる重合体において、以下の一般式(2)および(3)で示すように、アセチレンはフェニル基のパラ位、または、メタ位に付加していることが好ましい。
【化9】

【化10】

【0052】
一般式(2)および(3)中、Xは硫黄原子であることが好ましい。また、R1およびR2は、それぞれ、鎖状飽和炭化水素基またはフェニル基であることが好ましい。
【0053】
本発明の重合体は、一般式(1)で示される繰り返し単位を含むモノマーを重合させることにより合成することができる。上述した一般式(1)で示す構造を有する限り、どのような方法でモノマーを合成してもよい。しかし、規則性の高い重合体を形成するためには、カップリング反応による重合によって重合体を合成することが好ましい。
【0054】
例えば、以下の式(R2)に示す反応により、一般式(1)の重合体(化合物1)を合成することができる。具体的には、1、3位にヨウ素を置換基として有するテトラチアフルバレン化合物4のヨウ素基と、アセチレン部位を有する化合物5のアセチレン基とを脱ハロゲン化水素重縮合させることにより合成できる。この反応は、薗頭反応として知られるクロスカップリング反応であり、ニッケルやパラジウム触媒および銅触媒が用いられる。例えば、パラジウム触媒の存在下で、まず、酸化的付加反応によって、パラジウム触媒が化合物4に酸化的付加する。また、銅触媒が化合物5と反応し、銅に化合物5が配位した銅アセチリドが生成する。続いて、パラジウムが付加した化合物4と化合物5の銅アセチリドとの間で、交換反応が起こる。さらに配位子の脱離反応に伴う錯体の異性化反応が生じ、ハロゲン化水素の還元的脱離により2置換のアセチレンが生成される。これにより、化合物4と化合物5とがカップリング重合し、化合物1が得られる。本反応で得られた重合体の両末端は、水素原子、もしくは原料として用いた化合物由来のハロゲン元素である。
【0055】
重合体の重合度は、反応溶媒および反応温度を制御することによって制御可能である。薗頭反応のような触媒を用いたカップリング反応では、反応溶媒に対する重合体の溶解度が低下し、沈殿として生成した段階で反応が終了する。したがって、目的とする重合体の溶解度が高い溶媒を反応溶媒として選択することによって、重合度の高い重合体の合成が可能となる。一般式(2)、(3)で表される本発明の重合体は、THF、NMP、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI)、DMSOなどへの溶解性が高く、特にTHF、NMPはカップリング反応に比較的適した溶媒である。したがって、重合度の高い重合体を合成する場合にはTHFやNMPを反応溶媒として用いることが好ましい。より具体的な合成例については、以下の実施例において説明する。
【化11】

【0056】
上述したように本発明の重合体は、テトラカルコゲノフルバレン骨格が、重合体の主鎖の繰り返し単位に含まれる。このため、有機化合物であっても、分子量が大きく、有機溶媒に対する溶解度が低い。また、テトラカルコゲノフルバレン骨格が重合体の主鎖に含まれることによって、酸化還元反応を行う部位が重合体の高分子化に寄与する。したがって、酸化還元反応を行わない部分をなるべく小さくした重合体構造を形成することができる。さらに、アセチレンおよびフェニル基(−C≡C−Ph−C≡C−)を介してテトラカルコゲノフルバレンが重合されることによって、テトラカルコゲノフルバレンの良好な酸化還元特性を維持させたまま、酸化還元反応に対する安定性を高め、かつ、溶媒への溶解を抑制した重合体とすることができる。これにより、高いエネルギー密度と可逆的な酸化還元のサイクル特性に優れた重合体を実現することが可能となる。このような特徴から、本発明の重合体は、蓄電材料として好適に用いられる。また、酸化状態および還元状態が安定しているため、本発明の重合体は、電子状態の変化を利用した有機超伝導体、有機導電体、有機半導体材料として、あるいは有機磁性体材料として好適に用いられる。したがって、本発明の重合体を用いて、電気回路用分子配線、トランジスタ、分子メモリ等のデバイスを実現することができる。また、本発明の重合体は、紫外−可視光の吸収特性を有することから、感光素子や光センサにも適用可能である。以下、本発明の重合体を用いたデバイスの具体的な実施形態を説明する。
【0057】
(第1の実施形態)
本実施形態では、本発明の重合体を膜あるいは層の状態で用いる基本的な形態を説明する。まず、導電性支持体に一般式(1)で示される重合体を含む重合体膜または重合体層が支持された電極を説明する。このような電極は、次の実施形態で説明する蓄電デバイスである二次電池や二次電池以外の電気二重層キャパシタなどに用いてもよいし、生化学反応を利用するバイオチップなどの電気化学素子に好適に用いることができる。
【0058】
この場合、本発明の重合体を含む重合体膜または重合体層は、乾式法、湿式法、気相法の三つの方法により導電性支持体上に形成することができる。まず、乾式法による電極作製法を説明する。
【0059】
乾式法では、一般式(1)で示される重合体と結着剤とを混合し、得られたペーストを導電性支持体上に圧着させる。これにより膜状または層状の重合体が導電性支持体に圧着した電極が得られる。膜の形状としては、緻密膜であっても多孔質膜であってもよいが、乾式法による膜は多孔質になることが一般的である。
【0060】
結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系樹脂、あるいは、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアクリル酸、セルロース系樹脂などの炭化水素系樹脂を用いることができる。安定性の点から、フッ素樹脂を好適に用いることができる。
【0061】
導電性支持体としては、Al、SUS、金、銀等の金属基板、Si、GaAs、GaNのような半導体基板、ITOガラス、SnO2のような透明導電性基板、カーボン、グラファイト等の炭素基板、または、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェンなどの導電性有機基板を用いることができる。
【0062】
また、導電性支持体として、上述の材料によって単独で膜形状を有する緻密膜や網やメッシュのような多孔質膜を用いてもよい。あるいは、非導電性支持体であるプラスチックやガラス上に上述の導電性支持体の材料が膜状に形成されていてもよい。また、重合体および結着剤に加えて、重合体膜または重合体層中の電子伝導性を補助するべく、必要に応じて例えば導電助剤を混合してもよい。導電助剤としては、カーボンブラック、グラファイト、アセチレンブラック等の炭素材料、ポリアニリン、ポリピロール、またはポリチオフェンなどの導電性高分子が用いられる。また、重合体膜または重合体層内部にイオン導電性助剤として、ポリエチレンオキシドなどからなる固体電解質、またはポリメタクリル酸メチルなどからなるゲル電解質を含ませてもよい。
【0063】
次に、湿式法による電極作製法を説明する。湿式法では、一般式(1)で示される重合体を溶媒に混合分散させ、得られたスラリーを導電性支持体上に塗布あるいは印刷し、溶媒を除去することによって、膜または層状に形成することができる。重合体膜または重合体層中に必要に応じて、乾式法と同様に導電助剤、結着剤、イオン伝導性助剤を混合してもよい。導電性支持体には、乾式法で説明したものと同様のものを用いることができる。
【0064】
次に、気相法による電極作製法を説明する。気相法では、一般式(1)で示される重合体を真空中でガス化させ、ガス状態の重合体を導電性支持体上に堆積、製膜することによって、膜状に形成することができる。本方法で用いることのできる製膜方法としては、真空蒸着法や、スパッタリング法、CVD法などの一般的な真空製膜プロセスを用いることができる。また、電極膜中に必要に応じて、乾式法と同様に導電助剤、結着剤、イオン伝導性助剤を混合してもよい。導電性支持体には、乾式法で説明したものと同様のものを用いることができる。
【0065】
本発明の重合体を含む重合体膜および重合体層は、絶縁性または半絶縁性の支持体上に形成してもよい。絶縁性支持体としては、例えば、ガラス基板や樹脂基板など公知の絶縁性基板を用いることができ、半絶縁性支持体としては、例えばシリコン基板を用いることができる。上述した乾式法、湿式法および気相法によって、これらの基板上に重合体膜を形成することができる。
【0066】
この場合、半導体の製造に用いられる種々の不純物元素を重合体膜に添加すれば、本発明の重合体を含む半導体膜を得ることができる。また、分子設計技術を用いて重合体の構造や電子状態を設計することにより、有機超伝導体膜、有機導電体膜、あるいは有機磁性体膜を絶縁性または半絶縁性の支持体上に形成することも可能である。
【0067】
(第2の実施形態)
以下、図面を参照しながら、本発明による重合体を蓄電材料として用いる蓄電デバイスの実施形態を説明する。本実施形態では、リチウム二次電池を例に挙げて本発明による蓄電デバイスおよび本発明による蓄電材料を説明する。しかし、本発明はリチウム二次電池やリチウム二次電池の正極活物質に限られず、化学反応を利用したキャパシタなどにも好適に用いられる。
【0068】
図1は、本発明による蓄電デバイスの一実施形態であるリチウム二次電池を模式的に示した断面図である。図1に示すリチウム二次電池は、正極31と、負極32と、セパレータ24とを備えている。正極31は正極活物質層23および正極集電体22を含み、正極活物質層23は正極集電体22に支持されている。同様に、負極32は負極活物質層26および負極集電体27を含み、負極活物質層26は負極集電体27に支持されている。
【0069】
以下において詳細に説明するように、正極活物質層23は、正極活物質として本発明による蓄電材料、つまり、電極活物質を含む。正極集電体22には、例えば、アルミニウム、金、銀、ステンレス、アルミニウム合金等からなる金属箔や金属メッシュあるいはこれらの金属からなる導電性フィラーを含む樹脂フィルムなどが用いられる。
【0070】
負極活物質層26は負極活物質を含む。負極活物質としては、リチウムを可逆的に吸蔵および放出する公知の負極活物質が用いられる。例えば天然黒鉛や人造黒鉛などの黒鉛材料、非晶質炭素材料、リチウム金属、リチウム含有複合窒化物、リチウム含有チタン酸化物、珪素、珪素を含む合金、珪素酸化物、錫、錫を含む合金、および錫酸化物等のリチウムを可逆に吸蔵放出することのできる材料、もしくは、活性炭などの電気二重層容量を有する炭素材料、π電子共役雲を有する有機化合物材料などを用いることができる。これら負極材料は、それぞれ単独で用いてもよいし、複数の負極材料と混合して用いてもよい。負極集電体27には、例えば銅、ニッケル、ステンレスなど、リチウムイオン二次電池用負極の集電体として公知の材料を用いることができる。正極集電体22と同様、負極集電体27も金属箔や金属メッシュあるいは金属からなる導電性フィラーを含む樹脂フィルムなどの形態で用いることができる。
【0071】
正極活物質層23および負極活物質層26は、それぞれ正極活物質および負極活物質のみを含んでいてもよいし、導電剤および結着剤のいずれか一方、または、両方を含んでいてもよい。導電剤には、正極活物質および負極活物質の充放電電位において、化学変化を起こさない種々の電子伝導性材料を用いることができる。例えば、カーボンブラック、グラファイト、アセチレンブラック等の炭素材料、ポリアニリン、ポリピロール、またはポリチオフェンなどの導電性高分子、炭素繊維、金属繊維などの導電性繊維類、金属粉末類、導電性ウィスカー類、導電性金属酸化物などを単独又はこれらの混合物として用いることができる。また、イオン導電性助剤として、ポリエチレンオキシドなどからなる固体電解質、またはポリメタクリル酸メチルなどからなるゲル電解質を正極中に含ませてもよい。
【0072】
結着剤は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンをはじめとするポリオレフィン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)をはじめとするフッ素系樹脂やそれらの共重合体樹脂、スチレンブタジエンゴム、ポリアクリル酸やその共重合体樹脂などを結着剤として用いることができる。
【0073】
正極31および負極32は正極活物質層23および負極活物質層26がセパレータ24と接するようにセパレータ24を挟んで対向し、電極群を構成している。セパレータ24は、電子伝導性を有しない樹脂によって構成された樹脂層であり、大きなイオン透過度を有し、所定の機械的強度および電気的絶縁性を備えた微多孔膜である。耐有機溶剤性および疎水性に優れるという観点から、ポリプロピレン、ポリエチレンなどを単独または組み合わせたポリオレフィン樹脂が好ましい。セパレータ24の代わりに、電解液を含んで膨潤し、ゲル電解質として機能するイオン伝導性を有する樹脂層を設けてもよい。
【0074】
電極群はケース21の内部の空間に収納されている。また、ケース21の内部の空間には電解液29が注入され、正極31、負極32およびセパレータ24は電解液29に含浸されている。セパレータ24は、電解液29を保持する微細な空間を含んでいるため、微細な空間に電解液29が保持され、電解液29が正極31と負極32との間に配置された状態をとっている。ケース21の開口は、ガスケット28を用いて封口板25により封止されている。
【0075】
電解液29は、非水溶媒と、非水溶媒に溶解する支持塩とから構成される。非水溶媒としては、非水二次電池や非水系電気二重層キャパシタに用いることのできる公知の溶媒を使用可能である。具体的には、環状炭酸エステルを含んでいる溶媒を好適に用いることができる。なぜなら、環状炭酸エステルは、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートに代表されるように、非常に高い比誘電率を有しているからである。環状炭酸エステルの中でもプロピレンカーボネートが好適である。なぜなら、凝固点が−49℃とエチレンカーボネートよりも低く、蓄電デバイスを低温でも作動させることができるからである。
【0076】
また、環状エステルを含んでいる溶媒もまた好適に用いることができる。なぜなら、環状エステルは、γ−ブチロラクトンに代表されるように、非常に高い比誘電率を有していることから、これら溶媒を成分として含むことにより、電解液29の非水溶媒全体として非常に高い誘電率を有することができる。
【0077】
非水溶媒としてこれらの1つのみを用いてもよいし、複数の溶媒を混合して用いてもよい。その他の溶媒として用いることのできる溶媒としては、鎖状炭酸エステル、鎖状エステル、環状あるいは鎖状のエーテル等が挙げられる。具体的には、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、スルホラン、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド等の非水溶媒を用いることができる。
【0078】
支持塩としては、以下のアニオンとカチオンとからなる塩を使用することが可能である。アニオン種としては、ハロゲン化物アニオン、過塩素酸アニオン、トリフルオロメタンスルホン酸アニオン、4フッ化ホウ酸アニオン、6フッ化リン酸アニオン、トリフルオロメタンスルホン酸アニオン、ノナフルオロ−1−ブタンスルホン酸アニオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン、ビス(パーフルオロエチルスルホニル)イミドアニオンなどを用いることができる。カチオン種としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属カチオンや、マグネシウムなどのアルカリ土類金属カチオン、テトラエチルアンモニウムや1,3−エチルメチルイミダゾリウムに代表される4級アンモニウムカチオン等を用いることができる。
【0079】
なお、カチオン種としては、4級アンモニウムカチオンやリチウムカチオンを用いることが好ましい。4級アンモニウムカチオンはイオン移動度が高く、導電率の高い電解液を得ることができること、また対極として反応速度の速い活性炭等の電気二重層容量を有する負極を用いることができることから、高出力な蓄電デバイスを得ることができるからである。また、リチウムカチオンは、対極として反応電位が低く、容量密度の高い、リチウムを吸蔵放出可能な負極を用いることができることから、高電圧、高エネルギー密度な蓄電デバイスを得ることができるからである。
【0080】
図2は、正極31の構造を拡大して示す模式的な断面図である。正極集電体22に支持された正極活物質層23は正極活物質粒子41と、導電剤および結着剤からなる導電剤部42とを含んでいる。導電剤部42は、電解液29を保持しうるように多孔質になっている。図2では、正極活物質粒子41を模式的な円形で示しているが、正極活物質粒子41は、鎖状の重合体が折り重なって凝集した粒子形状を備えている。鎖状の重合体が折り重なることによって粒子の内部にまで電解液29が侵入し得る空孔が形成されている。正極活物質粒子41は、概ね球形状を備えているが、重合体が凝集することによって形成する形状であれば特に制限はない。正極活物質粒子41の大きさは、1μmから10μm程度である。
【0081】
本実施の形態の蓄電デバイスは、テトラカルコゲノフルバレン骨格が、重合体の主鎖の繰り返し単位に含まれる重合体を蓄電材料として備えている。さらに、アセチレンおよびフェニル基(−C≡C−Ph−C≡C−)を介してテトラカルコゲノフルバレンが重合体を構成している。このため、蓄電材料が有機化合物で構成されてはいるが、分子量が大きく、有機溶媒に対する溶解度が低く、かつ良好な酸化還元特性を有する。したがって、有機溶媒を電解液に用いる蓄電デバイスにおいて、良好なサイクル特性を実現できる。また、テトラカルコゲノフルバレン骨格が重合体の主鎖に含まれることによって、酸化還元反応を行う部位が重合体の高分子化に寄与する。したがって、酸化還元反応を行わない部分をなるべく小さくした重合体構造を形成することができる。これにより、高いエネルギー密度と、充放電あるいは酸化還元のサイクル特性に優れた蓄電材料を実現することが可能となる。このような特徴から、本発明の蓄電デバイスは、ハイブリッド自動車などの車両や携帯型電子機器に好適に用いられる。本発明の蓄電デバイスを備えた車両および携帯型電子機器は、蓄電デバイスが軽量であり、また、出力が大きく、かつ、繰り返し寿命が長いという特徴を有する。このため、特に、従来の無機化合物を用いた蓄電デバイスでは達成し難かった軽量化が可能となる。
【0082】
以下、本発明による重合体の合成例、本発明の蓄電デバイスの作製例およびその特性評価を説明する。特に記載の無い限り、試薬はアルドリッチ社製のものをそのまま使用した。
【実施例1】
【0083】
以下、本発明による重合体の合成例を説明する。
【0084】
1.ポリ−(4,4’−ジフェニルテトラチアフルバレン)−(1,3−ジエチニルベンゼン)共重合体(化合物7)の合成
一般式(3)においてXがSであり、R1およびR2がフェニル基であるポリ−(2,6−ジフェニルテトラチアフルバレン)−(1,3−ジエチニルベンゼン)共重合体(化合物7)を以下の式(R3)に示すように、前駆体化合物8の合成を行い、得られた化合物8と化合物9をカップリングすることにより合成した。以下合成法を順に示す。
【化12】

【0085】
1.1 化合物8(4,4’−ジヨード−5,5’−ジフェニルテトラチアフルバレン)の合成
化合物8を以下の式(R4)に従って合成した。
【化13】

【0086】
窒素雰囲気下、50mlのシュレンク管に2.8mlのジイソプロピルアミンおよび15mlのTHFを入れ、−78℃に保持した。そこに13.7mlのブチルリチウムを加え、約1時間攪拌し、リチウムジイソプロピルアミド(LDA)を合成した。次に窒素ガス気流中下、−78℃において、100mlのシュレンク管に3.0gの4,4’−ジフェニルテトラチアフルバレン(アルドリッチ社製)を加え、25mlのTHFに溶解させ−78℃に保持した。この溶液に、先に作製したLDAをゆっくり滴下し、30分攪拌した。その後、9.33gのパーフルオロヘキシルジヨード(4.5ml)を滴下し、1時間攪拌し、さらに室温にて1時間攪拌した。反応後、蒸留水を加え反応を停止させたのち、ろ過、洗浄、再結晶を行い、赤色針状結晶を得た。収率は52%であった。
【0087】
得られた化合物の構造は、H−NMR(CDCl3)、IR測定(KBr法)により同定した。H−NMRの結果、7.4−7.5ppm付近にフェニル基由来の化学シフトが観察された。IR測定の結果、3052cm-1付近にC−H伸縮振動由来のピークが観測された。元素分析の結果、理論値が炭素35.53、水素1.64、硫黄21.05、ヨウ素41.78重量%であるのに対し、実験値は炭素35.43、水素1.68、硫黄22.79、ヨウ素37.77重量%であった。以上の結果から、得られた粉末は化合物8であることを確認した。
【0088】
1.2 化合物7の合成
窒素雰囲気下、30mlのシュレンク管に合成した0.7g(1.15mmol)の化合物8をとり、30mlのTHFを加えた。これに、10.95mg(0.0575mmol)のヨウ化銅を加え、さらに66.4mg(0.0575mmol)のテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(以下、Pd(PPh34)、1mlを加え撹拌した。この溶液に0.0145g(1.15mmol)の化合物9である1,3−ジエチニルベンゼンおよび1mlのトリエチルアミンを加え、60℃で24時間撹拌した。その後、ろ過し、1N塩酸水溶液およびエタノールで生成物を洗浄し、乾燥後赤褐色粉末を得た。収率は62%であった。
【0089】
合成した重合体の構造は、GPCによる分子量分析およびIR測定から同定した。得られた粉末のIR測定(KBr法)を行った結果、692、755、793、1031、1076、1442、1473、1595、2960cm-1付近にピークが観測された。800〜650cm-1付近にTTF骨格由来のC−S伸縮振動が確認された。
【0090】
得られた粉末のGPC測定から、得られた生成物は3つの分子量分布を有することが分かった。それぞれのピーク分子量はポリスチレン換算で37670、1200、680であった。IR測定などの結果から得られた生成物は化合物7で示される単位構造を有しているが、低重合体が含まれていることが推察された。この低重合体を含んだ生成物を化合物7’とした。
【0091】
化合物7’から低重合体を除くために精製を行なった。17mgの生成物7’を7gのN−メチルピロリドンに溶解させ、これを100gのエタノール中に滴下することにより再沈殿をおこなった。得られた生成物の分子量分布を測定したところ、分子量2000以下のピークは見られず、分子量の分布は2000〜10万程度であった。ピーク分子量は38000であった。この生成物を化合物7とする。
【0092】
2.ポリ−(4,4’−ジメチルテトラチアフルバレン)−(1,3−ジエチニルベンゼン)共重合体(化合物10)の合成
一般式(3)においてXがSであり、R1およびR2がメチル基であるポリ−(4,4’−ジメチルテトラチアフルバレン)−(1,3−ジエチニルベンゼン)共重合体(化合物10)を以下の式(R5)に示すように、前駆体化合物11の合成を行い、得られた化合物11と化合物9をカップリングすることにより合成した。以下合成法を順に示す。
【化14】

【0093】
2.1 化合物11(4,4’−ジヨード−5’,5−ジメチルテトラチアフルバレン)の合成
化合物11を以下の式(R6)に従って合成した。
【化15】

【0094】
イソプロピルアミン(1.43g、24mmol)を溶解したTHF溶液に2.6Mのn−ブチルリチウム(0.6ml、1.56mmol)を−78℃で滴下した。10分間攪拌した後、ジメチルテトラチアフルバレン(0.10g、0.43mmol)を−78℃で添加すると、透明な溶液が黄土色の懸濁液に変化した。さらに10分間攪拌後、C613I(3.10g、7.0mmol)を−78℃で加えると、懸濁液が濃い緑色に変化した後、しばらく攪拌を続けることにより、さらに赤色に変化した。−78℃で1時間攪拌した後、反応液を徐々に室温まで昇温し、さらに4時間攪拌を続けた。反応液に水を加え、エーテルで抽出し、エーテル層を乾燥させた後、溶媒を除去することによって暗赤色の固体が得られた。カラム(シリカ、クロロホルム)を用いて濃赤色バンドの部分を回収し、溶媒を除去することにより、濃赤色粘性固体を得た。濃赤色粘性固体にヘキサンを加え、乾燥させることにより、橙色粉末状の生成物を得た。生成物が化合物11(ジヨードジメチルテトラチアフルバレン)であることをH−NMR(CDCl3)およびIR測定(KBr法)により確認した。収量は0.14g(67%)であった。
【0095】
2.2 化合物10の合成
化合物11(0.12g、0.25mmol)および2mlのトリエチルアミンを10mlのN−メチルピロリドン(0.12g、0.25mmol)に溶解し、10分間窒素バブリングを行った後、Pd(PPh34(0.060g、0.05mml)、CuI(0.020g、0.10mmol)および1,3−ジエチニルベンゼン(0.049、0.39mmol)を加え、100℃で攪拌した。溶液の色は暗赤色から濃い赤橙色へと変化した。24時間攪拌した後、反応液を水に投入し、黒赤色の固体を得た。固体をメタノール、アセトンの順で攪拌洗浄した後、桐山ロートで単離し、自然乾燥させ、こげ茶色の生成物を得た。生成物が化合物10であることをH−NMR(CDCl3)およびIR測定(KBr法)により確認した。収量は0.07g(79%)であった。GPC測定から得られたピーク分子量はポリスチレン換算で36484であった。
【0096】
3.ポリ−(4,4’−ジデシルテトラチアフルバレン)−(1,4−ジエチニルベンゼン)共重合体(化合物14)の合成
一般式(2)においてXがSであり、R1およびR2がデシル基であるポリ−(4,4’−ジデシルテトラチアフルバレン)−(1,4−ジエチニルベンゼン)共重合体(化合物14)を以下の式(R7)に示すように、前駆体化合物12の合成を行い、得られた化合物12と化合物13とをカップリングすることにより合成した。以下合成法を順に示す。
【化16】

【0097】
化合物12は以下の式(R8)に従って合成した。
【化17】

【0098】
3.1 化合物12a(1−ブロモ−2−ドデカノール)の合成
1000mlのナスフラスコ中、350mlのジメチルスルホキシド(DMSO)に16.9gの1−ドデカンを溶解し、15mlのH2Oおよび54gのN−ブロモスクシンイミド(NBS)を加え、室温で4時間攪拌した。その後、エーテルで抽出し、乾燥、溶媒を減圧除去した。精製後、無色透明液体を得た。収率は59%であった。
【0099】
3.2 化合物12b(1−ブロモ−2−ドデカノン)の合成
1000mlのナスフラスコ中、110mlのアセトンに14gの化合物12a(1−ブロモ−2−ドデカノール)を溶解し、66mlの蒸留水および11mlの硫酸にあらかじめ溶解させた15gのニクロム酸ナトリウム2水和物を滴下した。室温で1.5時間攪拌後、250mlのエーテルを加え、脱水、溶媒除去後、白色固体を得た。収率は80%であった。
【0100】
3.3 化合物12c(O−エチル−1−キサンチルドデカン−2−オン)の合成
1000mlのナスフラスコ中、400mlのアセトンに9.2gの化合物12b(1−ブロモ−2−ドデカノン)を溶解し、50℃に加熱した。その後、5.6gのキサントゲン酸カリウムを加え、4時間還流した。還流後、蒸留水に反応液を注ぎ、エーテルにて抽出し、乾燥、溶媒除去を行い、黄色結晶を得た。収率は45%であった。
【0101】
3.4 化合物12d(4−デシル−1,3−ジチオール−2−チオン)の合成
1000mlのナスフラスコ中、600mlの脱水トルエンに44gの化合物12c(O−エチル−1−キサンチルドデカン−2−オン)を溶解し、沸点近くまで過熱した。その後、120gの5硫化2リンを徐々に投入し、約20時間還流した。得られた溶液をろ過し、エーテルで抽出、乾燥し、溶媒除去後、赤色油状の目的物を得た。収率は63%であった。
【0102】
3.5化合物12e(2,6−ジデシルテトラチアフルバレン)の合成
窒素ガス気流下、500mlのシュレンク管に3.3gの化合物12d(4−デシル−1,3−ジチオール−2−チオン)を入れ、140mlのアセトンに溶解させた。あらかじめアセトン210mlに溶解させた48gのm−クロロ過安息香酸を滴下した。滴下後30分攪拌し、アセトンを除去後、塩化メチレン220mlに溶解し、均一になったところで20gのヘキサフルオロリン酸ナトリウムを加えた。室温で1時間攪拌し、200mlのアセトニトリルを加えた。15分攪拌し、56mlのトリエチルアミンを加え、さらに1時間攪拌した。その後、エーテルで抽出し、乾燥、溶媒除去後、精製、再結晶を行い、橙色粉末を得た。収率は22%であった。
【0103】
合成した化合物の構造は、H−NMR、IR測定および元素分析から同定した。H−NMR測定の結果、5.62(Sr−H由来)、2.27(α−CH2−由来)、1.53(β−CH2−由来)、1.29(−CH2−由来)、0.88(−CH3由来)の化学シフトが観測された。
【0104】
IR測定(KBr法)の結果、3050、2952、2920、2848、1500−1300cm-1付近にピークが観測された。元素分析の結果については、理論値が炭素64.61、水素9.15、硫黄26.45重量%であるのに対し、実験値は炭素64.64、水素9.18、硫黄26.40重量%であった。以上の結果から、得られた粉末は化合物12eであることが確認された。
【0105】
3.6 化合物12(2,6−ジヨード−3,7−ジデシルテトラチアフルバレン)の合成
窒素ガス気流下、100mlのシュレンク管に1.1gの化合物12e(2,6−ジデシルTTF)を25mlのTHFに溶解し、ドライアイス−メタノール浴で−78℃まで冷却した。その後4.4mlのブチルリチウム(BuLi)を滴下し、10分攪拌した。反応液に、1.5mlのパーフルオロヘキシルヨージド(PFHI)を滴下し、−78℃で1時間攪拌し、続いて室温で1時間攪拌した後、蒸留水を滴下し反応を終了させた。エーテルにて抽出、脱水、溶媒除去後、精製、再結晶を得て橙色粉末を得た。収率は35%であった。
【0106】
合成した化合物の構造は、H−NMR、IR測定、元素分析から同定した。H−NMR測定の結果、2.37(α−CH2−由来)、1.54(β−CH2−由来)、1.27(−CH2−由来)、0.88(−CH3由来)、の化学シフトが観測された。IR測定(KBr法)の結果、2954、2916、2848、1500−1300cm-1付近にピークが観測された。元素分析の結果、理論値が炭素42.39、水素5.75、硫黄17.41、ヨウ素34.45重量%であるのに対し、実験値は炭素42.18、水素5.33、硫黄17.75、ヨウ素36.00重量%であった。以上の結果から、得られた粉末は化合物12であることを確認した。
【0107】
3.7 化合物14の合成
得られた前駆体化合物12と市販の化合物13とを、化合物10の合成と同じ方法により、式(R7)に従って反応させ、茶褐色粉末を得た。収率は40%であった。
【0108】
合成した化合物の構造は、GPCによる分子量分析、IR測定から同定した。得られた粉末のIR測定(KBr法)を行った結果、692、755、793、1031、1076、1442、1473、1595、2960cm-1付近にピークが観測された。800〜650cm-1付近にTTF骨格由来のC−S伸縮振動が確認された。また得られた粉末のGPC測定から得られたピーク分子量はポリスチレン換算で23000であった。以上の結果から、化合物14であることを確認した。
【0109】
(比較例1)
比較のため、テトラチアフルバレン骨格を主鎖ではなく、側鎖に含む化合物15、および、テトラチアフルバレン骨格間にアセチレンおよびフェニル基を含まない化合物16を合成した。
【0110】
1. 化合物15の合成
下記化学式(15)で示される重合体(化合物15)を合成した。化学式(15)の重合体(poly−TTF)は、ポリビニルアルコールとテトラチアフルバレンカルボキシル誘導体を脱水縮合により反応させて合成した。化合物15の重量平均分子量はおよそ50000であった。
【化18】

【0111】
2. 化合物16の合成
下記、化学式(16)で示される重合体(化合物16)を合成した。化学式16で表される重合体は、以下に示す反応式(R9)に従って合成した。
【化19】

【0112】
2.1 化合物16bの合成
デカン−1−エン(化合物16a、126.4g、0.09mol)を2000mlのナスフラスコに取り、DMSO(1500ml)、蒸留水(88ml)、NBS(320g、1.8mol)を加え4時間攪拌した。その後、エーテルで抽出し、乾燥、溶媒を除去し、得られた試料をシリカゲルを用いたカラムクロマトグラフィーで生成し、無色透明液体を得た。収率は98%であった。
【0113】
H−NHR(CDCl3)測定の結果、δ3.76、3.41、2.20、1.58〜1.29、0.89に化学シフトが観測された。IR(NaCl液膜法)測定の結果、3400、2924、2854、1028cm-1にピークが観測された。元素分析の結果は、理論値が炭素50.64、水素8.92、臭素33.69重量%であるのに対し、実験値は、炭素50.46、水素9.06、臭素33.58であった。以上の結果から、得られた液体は化合物16bであることが確認された。
【0114】
2.2 化合物16cの合成
化合物16b(210g、860mmol)を2000mlナスフラスコに取り、アセトン(900ml)に溶解させ、蒸留水(900ml)に硫酸(160ml)、2クロム酸ナトリウム2水和物(260g、880mmol)を溶解させたものを加え1.5時間攪拌した。その後、エーテルを加え、さらに1時間攪拌した。エーテルで抽出し、乾燥、溶媒を除去し、得られた試料をシリカゲルを用いたカラムクロマトグラフィーで生成し、白色固体を得た。収率は92%であった。
【0115】
H−NHR(CDCl3)測定の結果、δ3.93、2.65、1.65〜1.29、0.88に化学シフトが観測された。IR(NaCl液膜法)測定の結果、2926、2854、1718、1066cm-1にピークが観測された。元素分析の結果については、理論値が炭素51.07、水素8.14、臭素33.98重量%であるのに対し、実験値は、炭素50.23、水素7.67、臭素34.59重量%であった。以上の結果から、得られた白色固体は化合物16cであることが確認された。
【0116】
2.3 化合物16dの合成
2000mlのナスフラスコに、アセトン(1400ml)を取り、化合物16c(150g、620mmol)を加え50℃に加熱した。キサントゲン酸カリウム(100g、620mmol)を少量ずつ加え、4時間還流した。その後、蒸留水に反応液を注ぎ、エーテルで抽出した後、乾燥、溶媒除去し、黄色透明液体を得た。収率は77%であった。
【0117】
H−NHR(CDCl3)測定の結果、δ4.63、3.99、2.59、1.66〜1.23、0.88に化学シフトが観測された。IR(NaCl液膜法)測定の結果、2926、2854、1719、1049cm-1にピークが観測された。元素分析の結果については、理論値が炭素56.48、水素8.75、硫黄23.20重量%であるのに対し、実験値は、炭素57.86、水素9.04、硫黄21.79重量%であった。以上の結果から、得られた液体は化合物16dであることが確認された。
【0118】
2.4 化合物16eの合成
2000mlのナスフラスコに、脱水トルエン(1300ml)を取り、化合物16d(130g、450mmol)を溶解し、沸点近くまで加熱した。その後5硫化2リン(171g、770mmol)をゆっくり加え20時間還流した。得られた溶液を濾過し、5硫化2リンを除去、エーテル抽出を行った。乾燥、溶媒除去し、黄色粉末を得た。収率は82%であった。
【0119】
H−NHR(CDCl3)測定の結果、δ6.62、2.59、1.60〜1.25、0.88に化学シフトが観測された。IR(NaCl液膜法)測定の結果、3040、2924、2852、1062cm-1にピークが観測された。元素分析の結果については、理論値が炭素53.61、水素7.36、硫黄39.03重量%であるのに対し、実験値は、炭素54.42、水素6.76、硫黄39.13重量%であった。以上の結果から、得られた粉末は化合物16eであることが確認された。
【0120】
2.5 化合物16fの合成
窒素ガス気流下、500mlのシュレンク管に化合物16e(3.1g、12mmol)を取り、アセトン140mlに溶解させ、20℃に温度を保持した。そこにあらかじめアセトン(210ml)に溶解させたm−クロロ安息香酸(48g、300mmol)を滴下し、滴下後30分攪拌し、アセトン除去後塩化メチレン(220ml)に溶解させた。そこへヘキサフルオロリン酸ナトリウム(20g、120mmol)を加えた。室温で1時間攪拌後、アセトニトリル(200ml)を加え、温度を20℃に保ちながら15分間攪拌し、トリエチルアミン(56ml)を加えさらに1時間攪拌した。その後、エーテル抽出、乾燥、溶媒除去し、橙色粉末を得た。収率は23%であった。
【0121】
H−NHR(CDCl3)測定の結果、δ6.34、2.36、1.44、1.24、0.84に化学シフトが観測された。IR(KBr法)測定の結果、3050、2922、2850、1500〜1300cm-1にピークが観測された。元素分析の結果については、理論値が炭素61.62、水素8.46、硫黄29.91重量%であるのに対し、実験値は、炭素61.90、水素8.52、硫黄30.19重量%であった。以上の結果から、得られた粉末は化合物16fであることが確認された。
【0122】
2.6 化合物16gの合成
窒素ガス気流下、100mlのシュレンク管に化合物16f(0.99g、2.3mmol)を取り、THF(25ml)に溶解させ−78℃まで冷却した。そこにブチルリチウム(4.4ml、1.53mol/Lへキサン溶液)をシリンジで滴下し、10分間攪拌した。その後、トリフルオロヘキシリヨード(PFHI、1.5ml)を滴下し、−78℃で1時間、室温で1時間攪拌し、蒸留水を加え反応を終了させた。その後、エーテルで抽出し、乾燥、溶媒除去し、ヘキサンで再結晶を行ったのち、橙色粉末を得た。収率は40%であった。
【0123】
H−NHR(CDCl3)測定の結果、δ2.42、1.53、1.27、0.89に化学シフトが観測された。IR(KBr法)測定の結果、2952、2922、2852、1500〜1300cm-1にピークが観測された。元素分析の結果については、理論値が炭素38.83、水素8.46、硫黄18.85重量%であるのに対し、実験値は、炭素39.13、水素4.93、硫黄19.44重量%であった。以上の結果から、得られた粉末は化合物16gであることが確認された。
【0124】
2.7 化合物16の合成
窒素ガス気流下、50mlのシュレンク管に、Ni(cod)2(0.28g、1.0mmol)、1,5−cod(0.11g、1.0mmol)を加え、DMF7mlに溶解させた。そこに2,2’−ビピリジン(0.19g、1.2mmol)を加え、溶液の色が紫色になったことを確認したのち化合物16g(0.46g、0.67mmol)を加えた。50℃で24時間攪拌後、メタノールに反応溶液を直接投入した。得られた粉末を洗浄、濾過、メタノールを用い再沈殿を行い、乾燥し、茶色粉末を得た。
【0125】
数平均分子量(Mn)は3600であった。元素分析の結果については、理論値が炭素58.16、水素8.21、硫黄28.24重量%であるのに対し、実験値は、炭素56.31、水素6.96、硫黄26.99重量%であった。以上の結果から、得られた粉末は化合物16であることが確認された。
【実施例2】
【0126】
以下、本発明の蓄電デバイスを作製し、特性を評価した結果を説明する。
【0127】
1. 蓄電デバイス用電極の作製および特性の評価
1.1 蓄電デバイス用電極の作製
化合物7、7’、10および14を用いて実施例の電極を作製した。化合物7は混合前に乳鉢で粉砕してから用いた。乳鉢粉砕後の粒子径はおよそ10μm程度であった。37.5mgの化合物7と導電助剤として100mgアセチレンブラックとを均一に混合し、さらに結着剤としてポリテトラフルオロエチエン25mgを加えて混合し、ペーストを得た。得られたペーストをアルミニウム金網の上に圧着し、真空乾燥を行ない、これを直径13.5mmの円盤状に打ち抜き裁断して電極膜を作製した。重合体化合物の塗布重量は、単位面積あたり1.0mg/cm2であった。同様にして、化合物7’、10および14を用いて電極を作製した。化合物7、7’、10および14を用いた電極を以下、電極A、A’、BおよびCと呼ぶ。
【0128】
また、化合物15、16を用い、実施例の電極Aと同様の方法により、比較例の電極D、Eを作製した。
【0129】
1.2 電極の評価
電極A、A’、BおよびCと比較例の電極D、Eの電気化学的な酸化還元反応に伴う安定性評価を行った。安定性評価セルは、電極A、A’BおよびCと比較例の電極D、Eを作用極とし、対極および参照電極としてそれぞれリチウム金属を電解液に浸したビーカーセル内に配置して構成した。電解液には、炭酸プロピレン(PC)を溶媒とし、6フッ化リン酸リチウムを支持電解質塩として溶解したものを用いた。濃度は1mol/Lに調製した。
【0130】
Li基準に対して、電位3.0−4.0V(Li基準に対して)の範囲で、浸漬電位から貴な方向へ0.05mV/secの走引速度で10回走査し、3回目の走査で得られた走引結果と、10回目の走査で得られた走引結果との比較値によって安定性を評価した。3回目の走査を基準としたのは、電極表面の吸着ガスや、電解液中の溶存酸素による影響を排除し、データを安定して得るためである。なお、以下に説明する電位は、特に断りのない限り全て電位はLi基準である。
【0131】
評価の結果、電極A、A’BおよびCならびに比較例の電極D、Eにおいて、TTF骨格に由来する2段階の酸化還元電流ピークが観測され、これらの電極が酸化還元活性を有していることが確認された。
【0132】
また、比較例の電極Dにおいて、10サイクル目のピーク電流値は3サイクル目の値に比べ20%の減少が見られた。このことから、比較例の電極Dの酸化還元活性は20%低下したと考えられ、安定性が高くないことが推察される。
【0133】
これに対し、電極A、A’、B、Cおよび比較例の電極Eでは、3回目のピーク電流値と10回目のピーク電流値が一致した。これは、本発明による重合体が、酸化還元によって分解したり失活したりせず、酸化還元反応に対して高い安定性を備えていることを示していると考えられる。また、本発明による重合体が電解液中へ溶出していないことを示していると考えられる。
【0134】
したがって、本発明による重合体は、テトラチアフルバレンの良好な酸化還元特性を維持し、かつ、電解液への溶出を抑制するという両立を果たしており、電極活物質として適していることを示している。
【0135】
2. 蓄電デバイスの作製と評価
次に、蓄電デバイスを作製し評価を行った。
【0136】
2.1 蓄電デバイスの作製
電極A、A’BおよびC並びに比較例の電極DおよびEをそれぞれ正極とし、負極として、金属リチウム(厚み300μm)を用いた。負極は、直径15mmの円盤状に打ち抜き、直径15mmの円盤状の集電板(ステンレス製)に貼り付けて作製した。
【0137】
電解液には、炭酸プロピレン(PC)を溶媒とし、6フッ化リン酸リチウムを支持電解質塩として溶解したものを用いた。濃度は1mol/Lに調製した。また、厚さ20μmの多孔質ポリエチレンシートをセパレータとして用いた。電解液は、正極、負極およびセパレータに含浸させた。これら正極、負極およびセパレータを、第2の実施形態で説明した構造を有するコイン型電池のケースに配置し、ガスケットを装着した封口板で挟み、プレス機にてかしめ封口し、コイン型蓄電デバイスを得た。電極A、A’BおよびC並びに比較例の電極D、Eをそれぞれ正極とし得られた蓄電デバイスを蓄電デバイスA1、A1’、B1およびC1ならびに比較例の蓄電デバイスD1およびE1とした。
【0138】
2.2 蓄電デバイスの評価
蓄電デバイスの容量評価及び繰り返し特性評価は、各材料の酸化還元が起こる電位領域を充放電電圧範囲として実施した。具体的には、蓄電デバイスA1、A1’は充電上限電圧を4V、放電下限電圧を3.2Vの電圧範囲とし、蓄電デバイスB1は、充電上限電圧を4.0V、放電下限電圧を3.2Vの電圧範囲、蓄電デバイスC1〜E1は、充電上限電圧を4.0V、放電下限電圧を3.0Vの電圧範囲とした。0.1mAの定電流充放電を行い、充電終了後、放電を開始するまでの休止時間はゼロとした。この充放電を50サイクル繰り返した。蓄電デバイスA1’の1〜2サイクル目の充放電カーブを図3に示す。また、蓄電デバイスA1、B1およびC1の3サイクル目の充放電カーブをそれぞれ図4、図5および図6に示す。
【0139】
蓄電デバイスの容量評価は、3サイクル目の充放電時の放電容量を活物質重量で割った値、すなわち活物質単位重量あたりの放電容量で行った。また、活物質の放電容量の理論容量に対する3サイクル目の充放電時の放電容量を利用率として算出し、百分率で表わした。蓄電デバイスの繰り返し特性評価は、3サイクル目の放電容量に対する50サイクル目の放電容量維持率を求めることによって行った。蓄電デバイスA1、B1およびC1ならびに比較例の蓄電デバイスD1およびE1の容量評価結果、および繰り返し特性評価の結果を表1に示す。
【0140】
【表1】

【0141】
実験の結果、図3に示すように、蓄電デバイスA1’は、3.6Vおよび3.8V付近の電位で充電反応が進行し、3.7Vおよび3.3V付近の電位で放電反応を行なうことが確認できた。しかし、1サイクル目では充電容量に対し、放電容量が約50%に低下した。2サイクル目では、充電容量と放電容量とはほぼ同じであった。
【0142】
蓄電デバイスA1’に用いた化合物7’は3つの分子量分布を持ち、分子量2000以下の領域にピーク分子量が1200および680程度であり、重合度が1〜3程度の低重合体が含まれている。このため、1サイクル目における大きな容量低下は、これらの低重合体が電解液へ溶解し、電極外へ溶出したことによって、正極活物質の量が減少し、蓄電デバイスの容量が低下したと考えられる。
【0143】
また、2サイクル目では充放電量の低下は生じておらず、2サイクル目の充電容量は2サイクル目の放電容量とほぼ一致している。このことから、1サイクル目において低重合体がほぼすべて溶出し、溶出しなかった重合体はその後、分解等することなく良好なサイクル特性を示すと考えられる。
【0144】
図4に示すように低重合体を除去した化合物7を用いた蓄電デバイスA1では、このような1サイクル目における容量変化は見られなかった。このため、ピーク分子量37670の分子量を有する重合体は、電解液への溶出しないことが分かった。化合物7の分子量分布は2000〜10万程度であり、化合物7の繰り返し単位の分子量は500程度であるので、化合物7は4量体以上であると推定される。このことから、本発明の重合体の重合度は、電解液への溶解を抑制するため4以上であることが好ましいことが分かる。
【0145】
同様に図4から図6に示すように、本実施例の蓄電デバイスA1、B1およびC1は、3.6Vおよび3.8V付近の電位で充電反応が進行し、3.7Vおよび3.3V付近の電位で放電反応を行なうことが確認できた。放電容量は84〜150 mAh/gであり、蓄電デバイスA1、B1およびC1は、大きな放電容量を備えていることが分かった。動作電圧および放電容量から、本発明の重合体を用いることにより、高容量で高出力な蓄電デバイスが実現できると考えられる。
【0146】
また、蓄電デバイスA1の50サイクル目の容量維持率は100%であり、蓄電デバイスB1およびC1の50サイクル目の容量維持率の99%および98%でであった。これらの結果から、蓄電デバイスA1、B1およびC1の保持容量は50サイクル程度ではほとんど低下せず、蓄電デバイスA1、B1およびC1は繰り返し特性に優れていることが分かる。これは、本発明の重合体が酸化還元時の安定性に優れていることに起因しているものと考えられる。
【0147】
蓄電デバイスA1、B1およびC1の3サイクル目の放電容量は84mAh/g〜150mAh/gであり、比較的大きな差異がある。これは、化合物の単位質量あたりの放電容量が、テトラチアフルバレン骨格の置換基の分子量に依存するからである。
【0148】
具体的には、蓄電デバイスB1の化合物10ではテトラチアフルバレン骨格の置換基がメチル基であり、比較的置換基の分子量が小さい。このため、3サイクル目の放電容量は150mAh/gと大きい。これに対し、蓄電デバイスA1の化合物7および蓄電デバイスC1の化合物14では置換基がそれぞれフェニル基およびデシル基であり、比較的分子量が大きい。このため、3サイクル目の放電容量は比較例よりも小さくなっている。
【0149】
しかし、比較例の蓄電デバイスD1では50サイクル目の容量維持率が大きく低下している。このため、50サイクル目の放電容量は、60(150×0.4)mAh/gとなる。これに対して、蓄電デバイスAおよびCの50サイクル目の放電容量は、それぞれ、104(104×1)mAh/g、82.3(84×0.98)mAh/gとなり、比較例の値を上回る。したがって、実施例の蓄電デバイスA1およびC1はサイクル特性に優れ、長期にわたって大放電容量を維持できることが分かる。
【0150】
比較例の蓄電デバイスD1の化合物15は、本発明の重合体とは大きく異なる分子構造を備え、テトラカルコゲノフルバレン骨格は主鎖ではなく側鎖に存在する。比較例の蓄電デバイスD1と、本発明の蓄電デバイスA1〜C1の繰り返し特性の違いは、活物質分子構造のみであるから、本発明の重合体を用いることによって、課題であった繰り返し安定性を向上させた蓄電デバイスを実現できることが確認された。
【0151】
また、比較例の蓄電デバイスE1の化合物16は、テトラカルコゲノフルバレン骨格が主鎖に含まれた重合体を備えるという点で、本発明の重合体と類似している。しかし、比較例の蓄電デバイスE1の化合物16は、テトラカルコゲノフルバレン骨格同士が直接結合しており、テトラカルコゲノフルバレン骨格がアセチレンおよびフェニル基(−C≡C−Ph−C≡C−)を介して重合されていないという点で本発明の重合体と分子構造が異なる。
【0152】
比較例の蓄電デバイスE1の理論容量は126mAh/gと大きいものの、実際に得られた放電容量は75mAh/gであり、利用率は60%にとどまる。一方、本発明の蓄電デバイスA1〜C1の利用率は95〜100%と非常に高い値であった。これらの結果から、テトラカルコゲノフルバレン骨格が主鎖に含まれる重合体分子であっても、分子構造によって大きく蓄電デバイス特性が異なること、および、本発明の重合体は、テトラカルコゲノフルバレン骨格がアセチレンおよびフェニル基(−C≡C−Ph−C≡C−)を介して重合されているという分子構造によって、充放電容量の理論値に対する高い利用率が得られる優れた分子構造を備えているということが確認された。
【0153】
このように、実施例の電極および蓄電デバイスは、良好なサイクル特性を発揮する。これは、TTF骨格同士が(−C≡C−Ph−C≡C−)部位を介して結合された重合体構造によるものと推定される。また、テトラチアフルバレン骨格の置換基の分子量を小さくすることにより、単位質量あたりの放電容量を増大させることが可能であり、本発明によれば、軽量かつ高容量の蓄電デバイスを実現できることが分かった。
【0154】
3. 他の蓄電デバイスの作製と評価
上述の蓄電デバイスとは異なる構造を備えた蓄電デバイスを作製し、評価を行った。
【0155】
3.1 蓄電デバイスの作製
図7および図8は、作製したラミネート型リチウム二次電池の模式的な断面および上面を示している。
【0156】
図7に示すように、ラミネート型リチウム二次電池は、正極31と、負極32と、参照極55と、セパレータ24と備えている。正極31は、正極活物質層22と正極集電体23とを含む。また、負極32は負極活物質層26と負極集電体27とを含む。参照電極55は、参照極物質53と参照電極集電体54とを含む。正極集電体23、負極集電体27および参照極電極集電体54には、それぞれ、正極リード51、負極リード52および参照電極リード56が接続されている。
【0157】
正極31および負極32は、正極活物質層23および負極活物質層26がセパレータ24と接するようにセパレータ24を挟んで対向している。参照極55は、参照極物質53が正極集電体23とセパレータ24を挟んで対向するように配置されている。これにより、正極31、負極32および参照極55が電極群を構成している。セパレータ24には多孔質ポリエチレンシートを用いた。電極群を構成する際に短絡が起こらないよう、各集電体に接合されているリードは異なる方向から外部へ取り出される。
【0158】
電極群はたとえば、アルミラミネート性のケース21の内部の空間に収納されている。ケース21の内部の空間には電解液29が注入され、正極31、負極32、参照極55およびセパレータ24は電解液29に含浸されている。セパレータ24は、電解液29を保持する微細な空間を含んでいるため、微細な空間に電解液29が保持され、電解液29が正極31と負極32の間および正極31と参照極55の間に配置された状態をとっている。ケース21は、電極群を配置し、電解液を注入した後に、加熱封口により密閉されている。
【0159】
本実施例では、電極A、B、Cおよび比較例の電極Eをそれぞれ正極とし用い、負極として活性炭電極を用い、参照電極として金属リチウム(厚み300μm)用い、実施例の蓄電デバイスA2、B2、C2および比較例の蓄電デバイスE2を得た。
【0160】
具体的には、正極電極として、電極A、B、Cおよび比較例の電極Eを、15mm角の正方形に打ち抜くこと以外は実施例1と同様にして、正極極板を作製した。正極リード51には正極集電体23と同じアルミニウム網を用いた。
【0161】
負極は以下のようにして作製した。負極活物質として、活性炭粉末(比表面積1700m2/g、平均粒子径2μm)を用いた。活性炭粉末100mgとアセチレンブラック20mgとを均一に混合し、ポリビニルピロリドン20mg、メタノール800mgを加えてスラリーを調整した。このスラリー状の負極合剤を集電体であるアルミニウム箔の上に塗布し、真空乾燥を行い、これを15mm角の正方形状に打ち抜き、裁断して負極を得た。負極活物質の塗布重量は、極板単位面積あたり3.0mg/cm2であった。負極リード52には負極集電体27と同じアルミニウム箔を用いた。
【0162】
参照極は、金属リチウム(厚み300μm)を15mm角の正方形状に打ち抜き、15mm角の正方形状のニッケル製集電板に貼り付けることによって、作製した。参照極リード56にはニ参照電極集電体54と同じニッケル製の板を用いた。
【0163】
炭酸エチレン(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)を体積比1:3で混合した溶媒を用い、塩としてこれに1mol/L濃度となるように6フッ化リン酸リチウムを溶解し、電解液を作製した。なお、電解液は、正極、負極、多孔質ポリエチレンシート(厚み20μm)に含浸させて用いた。
【0164】
3.2 蓄電デバイスの評価
蓄電デバイスA2、B2、C2および比較例の蓄電デバイスE2の評価として、充放電容量評価を行い、ついで充放電サイクル特性評価を行った。本実施例では、負極としてLi金属よりもサイクル特性に優れる活性炭を用いているため、より長いサイクル回数のサイクル特性を評価することができる。
【0165】
蓄電デバイスの充放電容量評価は、充電上限電圧および放電下限電圧をそれぞれ参照電極に対して、4.0Vおよび3.0Vとし、0.1mAで定電流充放電を行うという条件で充放電を3サイクル繰り返すことによって行った。充電終了後、放電を開始するまでの休止時間はゼロに設定した。3サイクル目の容量を蓄電デバイスの初期放電容量とし、3サイクル目の充放電時の放電容量を活物質重量で割った値、すなわち活物質単位重量あたりの放電容量を算出した。また、活物質の放電容量の理論容量に対する値を百分率で表わしたものを利用率として算出た。
【0166】
充放電サイクル特性評価は、充電上限電圧および放電下限電圧をそれぞれ4.0Vおよび3.0Vとし、10mAで定電流充放電を行うという条件で充放電を2000回繰り返した。この10mAの電流値は、充放電容量評価の際の電流値である0.1mAに対して、100倍と非常に大きな電流値であり、充放電速度としては高速な試験条件である。充電終了後、放電を開始するまでの休止時間はゼロに設定した。1000サイクルごとに、上述の充放電容量評価を実施し、その時に得られた放電容量を、初期放電容量に対する容量維持率として算出し、百分率で示した。実験結果を表2に示す。
【0167】
【表2】

【0168】
表2から分かるように、本発明の蓄電デバイスA2、B2、C2は、理論値の95〜100%の初期放電容量を備えており、60%の初期放電容量を備える蓄電デバイスEと比べて、高い初期放電容量を備えていることが分かった。
【0169】
また、蓄電デバイスA2、B2、C2の2000サイクル後の容量維持率は89〜93%であった。このことから、蓄電デバイスA2、B2、C2は、2000回充放電を行っても、初期容量の9割程度を維持することのできる非常に優れたサイクル特性を有していることが確認された。
【0170】
また、電流値10mAの大電流での充放電試験条件で、繰り返し評価が可能であったことから、蓄電デバイスA2、B2、C2が高速充放電が可能であること、すなわち高出力な電極活物質であることが確認された。
【0171】
一方、比較例の蓄電デバイスE2の2000サイクル後の容量維持率は75%であり、蓄電デバイスA2、B2、C2の容量維持率には及ばなかった。
【0172】
これらの結果は、テトラカルコゲノフルバレン骨格が主鎖に含まれる重合体分子であっても、分子構造によって大きく蓄電デバイスの繰り返し特性が異なることを示している。蓄電デバイスA2、B2、C2に用いられている本発明の重合体は、テトラカルコゲノフルバレン骨格がアセチレンおよびフェニル基(−C≡C−Ph−C≡C−)を介して重合されている構造を備えており、この構造が、優れた充放電サイクル特性を示すことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0173】
本発明の重合体は軽量であり、有機溶剤に溶けにくく、安定して高エネルギー密度で可逆的な酸化還元反応を行うことができる。このため、種々の蓄電デバイスに好適に用いられる。このような蓄電デバイスは、高出力、高容量かつ、繰り返し特性に優れる。このため、各種携帯機器、輸送機器、無停電電源などに好適に用いられる。バイオチップをはじめ種々の電気化学素子にも好適に用いられる。
【0174】
また、本発明の重合体は、有機超伝導体、有機導電体、有機半導体材料あるいは有機磁性体材料として好適に用いられる。これらを用いて、電気回路用分子配線、トランジスタ、分子メモリ等のデバイスあるいは、感光素子や光センサに適用可能である。
【符号の説明】
【0175】
21 ケース
22 正極集電体
23 正極活物質層
24 セパレータ
25 封口板
26 負極活物質層
27 負極集電体
28 ガスケット
29 電解液
31 正極
32 負極
41 正極活物質粒子
42 導電剤部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示される構造を有する重合体
であって、
一般式(1)中、Phはフェニル基であり、Xは酸素原子、硫黄原子、セレン原子、またはテルル原子、R1、R2はそれぞれ独立した鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基、環状不飽和炭化水素基、フェニル基、水素原子、ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基およびニトロソ基よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、前記鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基および環状不飽和炭化水素基は、それぞれ、炭素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む重合体。
【化20】

【請求項2】
下記一般式(2)で示される構造を有し、
一般式(2)中、Xは酸素原子、硫黄原子、セレン原子、またはテルル原子、R1、R2はそれぞれ独立した鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基、環状不飽和炭化水素基、フェニル基、水素原子、ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基およびニトロソ基よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、前記鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基および環状不飽和炭化水素基は、それぞれ、炭素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む請求項1に記載の重合体。
【化21】

【請求項3】
下記一般式(3)で示される構造を有し、
一般式(3)中、Xは酸素原子、硫黄原子、セレン原子、またはテルル原子、R1、R2はそれぞれ独立した鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基、環状不飽和炭化水素基、フェニル基、水素原子、ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基およびニトロソ基よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、前記鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基および環状不飽和炭化水素基は、それぞれ、炭素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む請求項1に記載の重合体。
【化22】

【請求項4】
前記Xは硫黄原子である請求項1から3のいずれかに記載の重合体。
【請求項5】
前記nは4以上である請求項1から4のいずれかに記載の重合体。
【請求項6】
前記Xは硫黄原子であり、前記R1およびR2は鎖状飽和炭化水素基である請求項2に記載の重合体。
【請求項7】
前記Xは硫黄原子であり、前記R1およびR2はそれぞれフェニル基である請求項2に記載の重合体。
【請求項8】
前記Xは硫黄原子であり、前記R1およびR2はそれぞれフェニル基である請求項3に記載の重合体。
【請求項9】
前記Xは硫黄原子であり、前記R1およびR2はそれぞれメチル基である請求項3に記載の重合体。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかによって規定される重合体を含む半導体膜。
【請求項11】
導電性支持体と、
前記導電性支持体上に設けられており、請求項1から9のいずれかによって規定される重合体を含む重合体膜と、
を備えた電極。
【請求項12】
前記重合体膜は導電性物質を含む請求項11に記載の電極。
【請求項13】
下記一般式(1)で示される構造を有し、
一般式(1)中、Phはフェニル基であり、Xは酸素原子、硫黄原子、セレン原子、またはテルル原子、R1、R2はそれぞれ独立した鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基、環状不飽和炭化水素基、フェニル基、水素原子、ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基およびニトロソ基よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、前記鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基および環状不飽和炭化水素基は、それぞれ炭素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、電極活物質。
【化23】

【請求項14】
下記一般式(2)で示される構造を有し、
一般式(2)中、Xは酸素原子、硫黄原子、セレン原子、またはテルル原子、R1、R2はそれぞれ独立した鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基、環状不飽和炭化水素基、フェニル基、水素原子、ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基およびニトロソ基よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、前記鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基および環状不飽和炭化水素基は、それぞれ、炭素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項13に記載の電極活物質。
【化24】

【請求項15】
下記一般式(3)で示される構造を有し、
一般式(3)中、Xは酸素原子、硫黄原子、セレン原子、またはテルル原子、R1、R2はそれぞれ独立した鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基、環状不飽和炭化水素基、フェニル基、水素原子、ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基およびニトロソ基よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、前記鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基および環状不飽和炭化水素基は、それぞれ、炭素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む請求項13に記載の電極活物質。
【化25】

【請求項16】
前記Xは硫黄原子である請求項13から15のいずれかに記載の電極活物質。
【請求項17】
前記nは4以上である請求項13から16のいずれかに記載の電極活物質。
【請求項18】
前記Xは硫黄原子であり、前記R1およびR2は鎖状飽和炭化水素基である請求項14に記載の電極活物質。
【請求項19】
前記Xは硫黄原子であり、前記R1およびR2はそれぞれフェニル基である請求項14に記載の電極活物質。
【請求項20】
前記Xは硫黄原子であり、前記R1およびR2はそれぞれフェニル基である請求項15に記載の電極活物質。
【請求項21】
前記Xは硫黄原子であり、前記R1およびR2はそれぞれメチル基である請求項15に記載の電極活物質。
【請求項22】
正極と、負極と、前記正極および前記負極の間に配置された電解液とを備え、
前記正極および前記負極の少なくとも一方が、請求項13から21のいずれかに規定される電極活物質を含む電気化学素子。
【請求項23】
前記電解液が4級アンモニウムカチオンまたはリチウムイオンとアニオンとの塩を含んでいる請求項22に記載の電気化学素子。
【請求項24】
請求項13から21のいずれかに規定される電極活物質を含む正極と、
リチウムイオンを吸蔵放出可能な負極活物質を含む負極と、
前記リチウムイオンとアニオンとからなる塩を含み、前記正極および負極の間に満たされた電解液と、
を備えた蓄電デバイス。
【請求項25】
請求項24に規定される蓄電デバイスを備えた携帯型電子機器。
【請求項26】
請求項24に規定される蓄電デバイスを備えた車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−53358(P2010−53358A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−178610(P2009−178610)
【出願日】平成21年7月31日(2009.7.31)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】