説明

重合体、有機電界発光素子用材料、有機電界発光素子用組成物、有機電界発光素子、有機EL表示装置及び有機EL照明

【課題】本発明の重合体は、湿式成膜法により積層化が可能である。また高い正孔輸送能及び電気化学的安定性を有することから有機電界発光素子用材料として有用である。
また、本発明の有機電界発光素子は、駆動電圧が低く、発光効率が高く、また駆動安定性に優れる。更に、本発明の有機EL表示装置及び有機EL照明は、高品質である。
【解決手段】特定の構造を有する重合体において、更に、下記式(1)を満たすことを特徴とする、重合体。
IPmax−IPmin≦0.1eV (1)
(上記式(1)中、
IPmaxは、前記重合体中に2種以上含まれる下記式(I−1)で表される部分構造のうちの、最大のイオン化ポテンシャルを表し、
IPminは、前記重合体中に2種以上含まれる下記式(I−1)で表される部分構造のうちの、最小のイオン化ポテンシャルを表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は重合体に関し、特に、有機電界発光素子の正孔注入層及び正孔輸送層として有用な重合体、該重合体を含有する有機電界発光素子用材料、有機電界発光素子用組成物及び有機電界発光素子、並びに、この有機電界発光素子を有する有機EL表示装置及び有機EL照明に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機薄膜を用いた電界発光素子(即ち、有機電界発光素子)の開発が行われている。有機電界発光素子における有機薄膜の形成方法としては、例えば、真空蒸着法と湿式成膜法が挙げられる。
湿式成膜法は真空プロセスが要らず、大面積化が容易で、1つの層及びその形成用の塗布液に様々な機能をもった複数の材料を混合することが容易である等の利点がある。しかし、湿式成膜法は積層化が困難である。このため、真空蒸着法により製造した素子に比べて湿式成膜法で製造した素子は駆動安定性に劣り、一部を除いて実用レベルに至っていない。特に、湿式成膜法では、有機溶剤及び水系溶剤を使用するなどして二層の積層は可能であるが、三層以上の積層化は困難であった。 このような積層化における課題を解決するために、特許文献1には、下記のようなフルオレン環及び架橋性基を含む重合体(Q−1)が提案され、これらの架橋性基が反応した場合に得られる網目状重合体が有機溶剤に不溶となることを利用して積層化を行うことが開示されている。しかしながら、これらの材料は正孔輸送能が低く、これらの材料を用いて素子を作製した場合、駆動電圧が高く発光効率が低い上、素子寿命が低いといった問題があり、素子の特性としては不十分であった。
【0003】
【化1】

【0004】
また、特許文献2〜4には、主鎖中にメチレン基を有する、トリアリールアミン構造を含む重合体を、エレクトロクロミック素子、有機電界発光素子、電子写真感光体に用いることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2008−038747号パンフレット
【特許文献2】国際公開第1999−032926号パンフレット
【特許文献3】特開2001−064642号公報
【特許文献4】特開2003−316043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記重合体(Q−1)が架橋により網目状重合体となると、架橋前は剛直な主鎖構造がまがったりねじれたりして、電荷輸送能及び酸化還元安定性が著しく低下する。さらには、重合体の主鎖構造のπ共役系同士が、凝集、J会合することにより、新たな著しく低い一重項励起準位及び三重項励起準位が生成する。著しく低い一重項励起準位及び三重項励起準位は、それぞれ、一重項励起状態及び三重項励起状態を失活させ、蛍光発光素子及び燐光発光素子の発光効率の低下をもたらす。
【0007】
このため、特許文献1の技術により得られる有機電界発光素子の駆動電圧は高く、発光効率は低いという課題があった。
また特許文献2〜4では、主鎖にメチレン基を有するトリアリールアミン化合物が例示されているが、塗布後に不溶とするための架橋性基などの記載はなく、特許文献2〜4に記載の技術では、塗布法による積層化は困難であった。更に、駆動電圧が高く、また発光効率が低いという課題があった。
【0008】
そこで、本発明は、上記問題点を鑑みて、正孔輸送能及び電気化学的安定性に優れ、積層化が可能であり、通電によって分解などが起こりにくい重合体、有機電界発光素子用材料及び有機電界発光素子用組成物を提供することを目的とする。
本発明はまた、低い電圧で駆動可能で、且つ発光効率が高く有機電界発光素子、並びに、高品質の有機EL表示装置及び有機EL照明を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、湿式成膜法で形成される、正孔注入層、正孔輸送層および発光層を有する有機電界発光素子の駆動電圧が高く、発光効率が低い要因は、正孔注入層もしくは正孔輸送層における正孔輸送能の低さが一因であることを見出した。
さらに、検討を行った結果、重合体中における特定の部分構造の、最大のイオン化ポテンシャルと、最小のイオン化ポテンシャルの差が大きいことが、重合体の正孔輸送能が低い一因であることを見出して、本発明に到達した。
【0010】
即ち、本発明は、下記式(I)で表される繰り返し単位からなる重合体であって、該重合体は、架橋性基を含み、且つ、式(I)で表される繰り返し単位を2種以上含み、更に、下記式(1)を満たすことを特徴とする重合体、有機電界発光素子用材料、有機電界発光素子用組成物、有機電界発光素子、有機EL表示装置及び有機EL照明に存する。
【0011】
【化2】

【0012】
(上記式(I)中、Ar〜Arは、各々独立して、置換基を有していてもよい芳香族環基又は該芳香族環を2〜5個連結した基を表す。
Xは、−O−、−S−、及び−CR−のいずれか一つを表し、
及びRは、各々独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有してもよい芳香族環基又は該芳香族環を2〜4個連結した基を表す。
【0013】
は、1〜5の整数を表す。)
IPmax−IPmin≦0.1eV (1)
(上記式(1)中、
IPmaxは、前記重合体中に2種以上含まれる下記式(I−1)で表される部分構造のうちの、最大のイオン化ポテンシャルを表し、
IPminは、前記重合体中に2種以上含まれる下記式(I−1)で表される部分構造のうちの、最小のイオン化ポテンシャルを表す。)
【0014】
【化3】

【発明の効果】
【0015】
本発明の重合体は、湿式成膜法により積層化が可能である。また高い正孔輸送能及び電気化学的安定性を有することから有機電界発光素子用材料として有用である。
また、本発明の有機電界発光素子は、駆動電圧が低く、発光効率が高く、また駆動安定性に優れる。更に、本発明の有機EL表示装置及び有機EL照明は、高品質である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の有機電界発光素子の構造の一例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、これらの内容に特定されない。
本発明において「芳香族環」とは、「芳香族炭化水素環」及び「芳香族複素環」の双方を示す。
【0018】
また、本発明において、「IP」は「イオン化ポテンシャル」を表し、「EA」は「電子親和力」を表すものとする。
<重合体>
先ず、本発明の重合体の構造について説明する。
[重合体の構造]
本発明の重合体は、下記式(I)で表される繰り返し単位からなる重合体であって、該重合体は、架橋性基を含み、且つ、式(I)で表される繰り返し単位を2種以上含む。
【0019】
【化4】

【0020】
(上記式(I)中、Ar〜Arは、各々独立して、置換基を有していてもよい芳香族環基又は該芳香族環を2〜5個連結した基を表す。
Xは、−O−、−S−、及び−CR−のいずれか一つを表し、
及びRは、各々独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有してもよい芳香族環基又は該芳香族環を2〜4個連結した基を表す。
【0021】
は、1〜5の整数を表す。)
(構造上の特徴)
前記式(I)で表される繰り返し単位は、主鎖にsp3原子(−O−、−S−、及び−CR−)を主鎖中に有することで、重合体を架橋させた後でも、π共役系の広がりを抑制しうるため、一重項励起準位及び三重項励起準位を高く維持しうる。
【0022】
この為、本発明の重合体を用いて形成された層を有する有機電界発光素子は、駆動電圧がより低く、また、励起子を失活し難いため、発光効率がより高いものとなる。
( Ar〜Arについて)
Ar〜Arは、置換基を有していてもよい芳香族環基又は該芳香族環を2〜5個連結した基を表す。
【0023】
芳香族炭化水素環基としては、例えば、1又は2個の遊離原子価を有する、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、アセナフテン環、フルオランテン環、フルオレン環などの、6員環の単環又は2〜5縮合環のなどの基が挙げられる。
芳香族複素環基としては、例えば、1又は2個の遊離原子価を有する、フラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シノリン環、キノキサリン環、フェナントリジン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環、アズレン環などの、5又は6員環の単環又は2〜4縮合環などの基が挙げられる。
【0024】
中でも、有機溶剤に対する溶解性及び耐熱性の点から、Ar〜Arは、1又は2個の遊離原子価を有する、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、トリフェニレン環、ピレン環、チオフェン環、ピリジン環、フルオレン環からなる群より選ばれる環の基が好ましい。
式(I)中のAr〜Arは、芳香族環を2〜5個連結した基であってもよい。
【0025】
芳香族環を連結する個数としては、通常2つ以上、また通常5つ以下、好ましくは4つ
以下である。
このような基としては、例えば、ビフェニレン基、ターフェニレン基などが挙げられ、4,4’−ビフェニレン基が好ましいものとして挙げられる。 前記式(I)中のAr〜Arにおける芳香族環基が有していてもよい置換基としては、下記(置換基群Z)の項で記載のものが挙げられる。
【0026】
(置換基群Z)
例えばメチル基、エチル基等の、炭素数が通常1以上であり、通常24以下、好ましくは、12以下であるアルキル基;
例えばビニル基等の、炭素数が通常2以上であり、通常24以下、好ましくは12以下であるアルケニル基;
例えばエチニル基等の、炭素数が通常2以上であり、通常24以下、好ましくは12以下であるアルキニル基;
例えばメトキシ基、エトキシ基等の、炭素数が通常1以上であり、通常24以下、好ましくは12以下であるアルコキシ基;
例えばフェノキシ基、ナフトキシ基、ピリジルオキシ基等の、炭素数が通常4以上、好ましくは5以上であり、通常36以下、好ましくは24であるアリールオキシ基;
例えばメトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の、炭素数が通常2以上であり、通常24以下、好ましくは12以下であるアルコキシカルボニル基;
例えばジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等の、炭素数が通常2以上であり、通常24以下、好ましくは12以下であるジアルキルアミノ基;
例えばジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基、N−カルバゾリル基等の、炭素数が通常10以上、好ましくは12以上であり、通常36以下、好ましくは24以下のジアリールアミノ基;
例えばフェニルメチルアミノ基等の、炭素数が通常7であり、通常36以下、好ましくは24以下であるアリールアルキルアミノ基;
例えばアセチル基、ベンゾイル基等の、炭素数が通常2であり、通常24以下、好ましくは12であるアシル基;
例えばフッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子;
例えばトリフルオロメチル基等の、炭素数が通常1以上であり、通常12以下、好ましくは6以下のハロアルキル基;
例えばメチルチオ基、エチルチオ基等の、炭素数が通常1以上であり、通常24以下、好ましくは12以下のアルキルチオ基;
例えばフェニルチオ基、ナフチルチオ基、ピリジルチオ基等の、炭素数が通常4以上、好ましくは5以上であり、通常36以下、好ましくは24以下であるアリールチオ基;
例えばトリメチルシリル基、トリフェニルシリル基等の、炭素数が通常2以上、好ましくは3以上であり、通常36以下、好ましくは24以下であるシリル基;
例えばトリメチルシロキシ基、トリフェニルシロキシ基等の、炭素数が通常2以上、好ましくは3以上であり、通常36以下、好ましくは24以下であるシロキシ基;
シアノ基;
例えばフェニル基、ナフチル基等の、炭素数が通常6以上であり、通常36以下、好ましくは24以下である芳香族炭化水素環基;
例えばチエニル基、ピリジル基等の、炭素数が通常3以上、好ましくは4以上であり、通常36以下、好ましくは24以下である芳香族複素環基。
【0027】
これらの置換基の中でも、有機溶剤に対する溶解性の点から、炭素数1〜12のアルキル基及び炭素数1〜12のアルコキシ基が好ましい。 また、上記各置換基がさらに置換基を有していてもよく、その例としては前記(置換基群Z)に例示した基が挙げられる。
Ar〜Arの置換基の式量としては、さらに置換した置換基を含めて、500以下が好ましく、250以下がさらに好ましい。
【0028】
上記範囲内であると、重合体の電荷輸送能が良好である点で好ましい。
さらに式量に関していえば、Ar〜Arの式量は、通常65以上、好ましくは75以上であり、通常500以下、好ましくは300以下、より好ましくは200以下である。
上記範囲内であると、重合体の有機溶剤に対する溶解性が良好である点で好ましい。 尚、nが2以上である場合、一つの繰り返し単位中に含まれる複数のAr及びArは、各々独立に、同じでもよく異なっていてもよい。
【0029】
(nについて)
は、1〜5の整数を表す。
重合体の、有機溶剤に対する溶解性が良好である点で、nは、1〜3が好ましく、特に1〜2が好ましい。
(Xについて)
Xは、−O−、−S−、及び−CR−のいずれか一つを表す。R及びRは、各々独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有してもよい芳香族環基を表す。
【0030】
該アルキル基としては、直鎖でも分岐アルキルであってもよく、例えば、炭素数1〜12のものが挙げられる。
また、R及びRにおける芳香族環基は、前記(Ar〜Arについて)の項で記載した芳香環に対応する1個の遊離原子価を有する基が挙げられる。
更に、R及びRは、芳香族環を2以上直接連結した基であってもよく、これらは前記(Ar〜Arについて)の項で記載したものと同様である。
【0031】
式(I)中のXは、重合体の有機溶剤に対する溶解性が良好である点で、−CR−であることが特に好ましい。
(架橋性基について)
本発明の重合体は、架橋性基を含むことで、熱及び/又は活性エネルギー線の照射により起こる反応(難溶化反応)の前後で、有機溶剤に対する溶解性に大きな差を生じさせることができる。
【0032】
架橋性基とは、熱及び/又は活性エネルギー線の照射により近傍に位置するほかの分子の同一又は異なる基と反応して、新規な化学結合を生成する基のことをいう。
架橋性基としては、架橋がしやすいという点で、例えば、架橋性基群Tに表す基が挙げられる。
[架橋性基群T]
【0033】
【化5】

【0034】
(前記式中、
21〜R23は、各々独立に、水素原子又は置換基を有していてもよいアルキル基を表す。
Ar21は置換基を有していてもよい芳香族環基を表す。)
エポキシ基、オキセタン基などの環状エーテル基、ビニルエーテル基などのカチオン重
合によって不溶化反応する基が、反応性が高く不溶化が容易な点で好ましい。中でも、カチオン重合の速度を制御しやすい点でオキセタン基が特に好ましく、カチオン重合の際に素子の劣化をまねく場合があるヒドロキシル基が生成しにくい点でビニルエーテル基が好ましい。
【0035】
シンナモイル基などアリールビニルカルボニル基、ベンゾシクロブテン環由来の基などの環化付加反応する基が、電気化学的安定性をさらに向上させる点で好ましい。 また、架橋性基の中でも、不溶化後の構造が特に安定な点で、ベンゾシクロブテン環由来の基が特に好ましい。
具体的には、下記式(III)で表される基であることが好ましい。
【0036】
【化6】

【0037】
(式(III)中のベンゾシクロブテン環は、置換基を有していてもよい。また、置換基同士が、互いに結合して環を形成してもよい。)
架橋性基は、分子内の芳香族環基に直接結合してもよいが、2価の基を介して結合してもよい。この2価の基としては、−O−基、−C(=O)−基又は(置換基を有していてもよい)−CH2−基から選ばれる基を任意の順番で1〜30個連結してなる2価の基を
介して、芳香族環基に結合することが好ましい。
【0038】
(架橋性基の割合)
本発明の重合体は、1つのポリマー鎖の中に有する架橋性基は、好ましくは平均1以上、より好ましくは平均2以上、また好ましくは200以下、より好ましくは100以下である。
また、本発明の重合体が有する架橋性基の数は、分子量1000あたりの数で表すことができる。
【0039】
本発明の重合体が有する架橋性基の数を、分子量1000あたりの数で表した場合、分子量1000あたり、通常3.0個以下、好ましくは2.0個以下、さらに好ましくは1.0以下、また通常0.01以上、好ましくは0.05以上である。
上記範囲内であると、クラックなどが起き難く、平坦な膜が得られ易かったり、架橋密度が適度であるため、架橋反応後の層中に残る未反応の架橋性基が少ないため、得られる素子の寿命に影響し難かったりする。
【0040】
更に、架橋反応後の、有機溶剤に対する難溶性が十分であるため、湿式成膜法での多層積層構造が形成し易い。 ここで、重合体の分子量1000あたりの架橋性基の数は、重合体からその末端基を除いて、合成時の仕込みモノマーのモル比と、構造式から算出する。
例えば、後述の合成例1で合成した目的ポリマー1の場合で説明する。
【0041】
目的ポリマー1において、末端基を除いた繰り返し単位の分子量は平均743.7312であり、また架橋性基は、1繰り返し単位当たり平均0.0653個である。これを単純比例により計算すると、分子量1000あたりの架橋性基の数は、0.088個と算出される。
(架橋性基を有する位置について)
本発明の重合体が架橋性基を含む場合、架橋性基を有する位置は、本発明の効果を損な
わない限り特に制限はないが、架橋がし易い点で、前記式(I)のArにおける芳香族環に置換基として有することが特に好ましい。
【0042】
尚、前記式(I)において、nが2以上である場合、一つの繰り返し単位中にArは2以上含まれるが、これらは同じであっても異なっていてもよい。
つまり、架橋性基を置換基として有するArと、架橋性基を有さないArが、一つの繰り返し単位中にあってもよい。
(繰り返し単位の種類について)
尚、本発明の重合体は、前記式(I)で表される繰り返し単位を2種以上含む。
【0043】
本発明の重合体中が、式(I)で表される繰り返し単位を2種以上含むとは、繰り返し単位間で、Ar〜Ar、X及びnの少なくともいずれかが異なることを意味する。
[式(II)で表される繰り返し単位について]
式(I)で表される繰り返し単位は、重合体の有機溶剤に対する溶解性が良好である点で、更に下記式(II)で表される繰り返し単位であることが好ましい。
【0044】
【化7】

【0045】
(上記式(II)中、R11及びR12は前記R及びRと、Ar11〜Ar13は前記Ar〜Arと、nは、前記nと同義である。
尚、上記式(II)における、IPmax及びIPminは、各々重合体中に2種以上含まれる下記式(II−1)で表される部分構造の最大のイオン化ポテンシャル及び最小のイオン化ポテンシャルを表す。)
【0046】
【化8】

【0047】
(R11及びR12について)
11及びR12は、各々、前記式(I)におけるR及びRと同義である。具体例及び好ましい態様も同様である。
(Ar11〜Ar13について)
Ar11〜Ar13は、前記Ar〜Arと同義である。具体例及び好ましい態様も
同様である。
【0048】
[式(1)について]
本発明の重合体は、下記式(1)を満たす。
IPmax−IPmin≦0.1eV (1)
(上記式(1)中、
IPmaxは、前記重合体中に2種以上含まれる下記式(I−1)で表される部分構造のうちの、最大のイオン化ポテンシャルを表し、
IPminは、前記重合体中に2種以上含まれる下記式(I−1)で表される部分構造のうちの、最小のイオン化ポテンシャルを表す。)
【0049】
【化9】

【0050】
IPmaxとは、前記重合体中に2種以上含まれる前記式(I−1)で表される部分構造(以下、「計算対象ユニット」と称する場合がある)のうち、最も大きいイオン化ポテンシャルを表す。前記式(I−1)で表される部分構造のうちとは、異なる2種以上の前記式(I−1)で表される部分構造間におけるものである。
IPminとは、前記重合体中に2種以上含まれる前記式(I−1)で表される部分構造のうち、最も小さいイオン化ポテンシャルを表すものであり、この場合における「前記式(I−1)で表される部分構造のうち」も前記と同様である。
【0051】
例えば、ある重合体中に、計算対象ユニットA、B、C、D、Eがあり、各計算対象ユニットのIPをIP(α)(αは計算対象ユニット名)とし、IPの序列がIP(A)>IP(B)>IP(C)>IP(D)>IP(E)である場合、IPmaxはIP(A)、IPminはIP(E)となる。
上記の通り決定したIPmax及びIPminを用いて算出される、IPmax−IPmin(以下、「式(1)の右辺値」と称する場合がある)は、通常0.1eV以下、好ましくは0.05eV以下、更に好ましくは0.03eV以下である。
【0052】
上記範囲内であると、重合体全体として、正孔をトラップし易い部分構造が少なくなることから、重合体の正孔輸送能が高くなり、これより有機電界発光素子において低い駆動電圧で駆動する。また、正孔輸送層中に注入された正孔が、正孔輸送層にトラップされることなく、発光層に運ばれ、発光層内で再結合することから、有機電界発光素子において高い発光効率で駆動する。
【0053】
[式(2)について]
本発明の重合体は、下記式(2)を満たすことが更に好ましい。
EAmax−EAmin≦0.1eV (2)
(上記式(2)中、
EAmaxは、前記重合体中に2種以上含まれる前記式(I−1)で表される部分構造のうちの、最大の電子親和力を表し、
EAminは、前記重合体中に2種以上含まれる前記式(I−1)で表される部分構造のうちの、最小の電子親和力を表す。)
EAmax−EAmin(以下、「式(2)の右辺値」と称する場合がある)は、好ましくは0.1eV以下、より好ましくは、0.05eV以下さらに好ましくは0.03eVである。
【0054】
上記範囲内であると、電子親和力の大きい前記式(I−1)で表される部分構造に電子が局在化して重合体が分解してしまうことが少ないため、有機電界発光素子を形成する材料として用いた場合、得られる素子の駆動寿命が長くなる為好ましい。
以下に、本発明におけるIP及びEAの計算方法を示す。
[IPの計算方法]
本発明におけるIPは、下記の方法により計算を行う。
【0055】
(STEP1:恣意性をなくすため統計物理に満たす十分な数のサンプリング初期分子構造の発生)重合体に含まれる各計算対象ユニットに関し、分子モデリングにて立体分子構造を作成する。十分な数の構造のサンプリングを行うためこの段階では計算負荷の少ない古典的な手法を用いサンプリングを実施する。
該立体分子構造に対し、Stochastic Monte Carlo法を用いて初期分子構造をサンプリングする。Stochastic Monte Carlo法はランダム分子構造発生することとエネルギーポテンシャルを計算することで統計的に分子構造をサンプリングする有効な手法である(Allen, M.P.; Tildesley, D. J. Computer Simulation of Liquids; Clarendon Press: Oxford, U.K., 1987) 。
【0056】
Stochastic Monte Carlo法で構造をサンプリングする手法では、まずモデリングにて作成された仮の立体分子構造に対して、ランダムにその構造を変化させ、新しい構造を発生する。そしてその新旧二つ構造のエネルギー値を用い、構造間の遷移確率を計算する。さらに[0,1]の範囲で一つ乱数を発生し、その乱数が遷移確率より小さいか等しい場合に
、新しい構造はより安定な構造として採用する。また乱数が遷移確率より大きい場合には、新たな構造がエネルギー的に安定ではないため、古い構造の方を安定な構造として採用する。このような手続きを繰り返すことによりエネルギーポテンシャル面でのエネルギー的な安定な局所構造(ローカルミニマム構造)を複数求める。その際ローカルミニマム構造の数は十分にBoltzman分布の構造平均を再現できるように発生する必要がある。本発明では最終的に全部で10個のローカルミニマム構造を発生することとした。
【0057】
Stochastic Monte Carlo法の計算では、分子エネルギーを計算するときに最大ランダムオフセットを0.05nmと設定し、また力場はMMFF94 (Halgren, T.A. J. Comput. Chem. 1996, 17, 490)を用いた。実際の計算はChemBio3D Ultra 12.0 (Molecular Modeling Software by CambridgeSoft Corporation) を用いて実行した。
(STEP2:量子化学計算による立体分子構造の最適化)
前記(STEP1)で求めた10個のローカルミニマム分子構造に対して、さらにより信頼性のおけるローカルミニマム分子構造を得るために、量子化学計算での構造最適化を行う必要がある。この際最初から精度の高い非経験的量子化学計算を実施するより、まず一度比較的計算負荷の低い半経験的量子化学計算により構造最適化計算を経由した上で、更に精度の高い非経験的量子化学計算を実施した方がトータルの計算時間の短縮化が出来る。
【0058】
STEP2の半経験的量子化学計算による構造最適化ではPM6法(Stewart, J.J.P. J. Mol. Model. 2007, 13, 1173)を用い基底状態の最適化計算を行う。その上でより計算精度の
高い非経験的分子軌道計算として密度汎関数法(Density Functional Theory、略してDFT)を用いた。その時汎関数としてはハイブリッド型のB3LYP(Becke, A.D. J. Chem. Phys.
1993, 98, 5648)を用い、基底関数は6-31G**を使って最終的に10個の基底状態のローカ
ルミニマムの立体構造を計算した。このようにして求めた10個の精度の高いローカルミニマムの最適化構造をIPを見積もるための分子構造とする。
【0059】
尚、全ての分子最適化計算はGaussian09プログラム(Gaussian 09, Revision A.1, M. J. Frisch, G. W. Trucks, H. B. Schlegel, G. E. Scuseria, M. A. Robb, J. R. Cheeseman, G. Scalmani, V. Barone, B. Mennucci, G. A. Petersson, H. Nakatsuji, M. Caricato, X. Li, H. P. Hratchian, A. F. Izmaylov, J. Bloino, G. Zheng, J. L. Sonnenberg, M. Hada, M. Ehara, K. Toyota, R. Fukuda, J. Hasegawa, M. Ishida, T. Nakaji
ma, Y. Honda, O. Kitao, H. Nakai, T. Vreven, J. A. Montgomery, Jr., J. E. Peralta, F. Ogliaro, M. Bearpark, J. J. Heyd, E. Brothers, K. N. Kudin, V. N. Staroverov, R. Kobayashi, J. Normand, K. Raghavachari, A. Rendell, J. C. Burant, S. S. Iyengar, J. Tomasi, M. Cossi, N. Rega, J. M. Millam, M. Klene, J. E. Knox, J. B. Cross, V. Bakken, C. Adamo, J. Jaramillo, R. Gomperts, R. E. Stratmann, O. Yazyev, A. J. Austin, R. Cammi, C. Pomelli, J. W. Ochterski, R. L. Martin, K. Morokuma, V. G. Zakrzewski, G. A. Voth, P. Salvador, J. J. Dannenberg, S. Dapprich, A. D. Daniels, O. Farkas, J. B. Foresman, J. V. Ortiz, J. Cioslowski, and D. J. Fox, Gaussian, Inc., Wallingford CT, 2009.)を用いて実行する。
【0060】
(STEP3:IPの算出)
上記(STEP2:量子化学計算による立体分子構造の最適化)で非経験的量子化学計算により最終的に得られた10個のローカルミニマム構造でのHOMOの軌道エネルギーの値を利用して、それぞれのローカルミニマムにおいてIP値をヤナックの定理 (i.e. DFT計算で得られた分子のエネルギーは占有軌道に対しての微分値はその分子の軌道エネルギーに相同する。(Janak, J.F. Phys. Rev. B.1978, 12, 7165)) に基づいてIP=−(HOMOの軌道エネルギー値)の式により算出する(同様にEA=-(LUMOの軌道エネルギー)で算出す
る)。さらに10個のローカルミニマムに対するIPの値から平均値(IPの平均値)を求めた。本発明における目的の重合体の単位ユニットのIP値とは、該IPの平均値を意味する(同様に目的の重合体の単位ユニットのEAは、EAの平均値を意味する)。
【0061】
[EAの計算方法]
本発明におけるEAは、前記(STEP1:分子構造の発生)〜(STEP2:構造の最適化)と同様にして行う。
更に、前記(STEP3:IPの算出)において、同様に(STEP2:構造の最適化)で最終的に得られた10個の最適化構造LUMOエネルギー値を利用して、それぞれEA値がヤナックの定理に基づき軌道エネルギーからEA=−(LUMOの軌道エネルギー値)で算出する。それらEAの平均値は目的の重合体の単位ユニットのEA値とする。
【0062】
[式(1)及び(2)を満たす手段]
本発明において、式(1)を満たす方法としては、例えば下記が挙げられる。
(a)2以上の異なる繰り返し単位を含む重合体において、異なる繰り返し単位間での、Ar〜Arにおける複素環又は芳香族環を、各々同じとする。
(b)架橋性基は、sp3原子を介して芳香族環基と連結する。更に、架橋性基を含まない繰り返し単位ユニットにおいても、同様のsp3原子が芳香族環基に結合するのが好ましい。
【0063】
例えば、後述する本願実施例1では、フルオレンの9位に−(CH)−(sp3原子)を介してベンゾシクロブテン環基(架橋性基)が導入されており、架橋性基を含まないユニットに関しては、フルオレンの9位にアルキル基(−(CH)−CH)が導入されている。
また、例えば、後述する本願実施例2では、ビフェニル基の4位にアルキル基を介して
架橋性基が導入されている。架橋性基を含まないユニットに関しては、ビフェニル基の4位に−(CH)−CHを含む。
【0064】
(c)ポリマーの重合したのちポリマーの両末端を末端処理剤と反応させ、末端の繰り返し単位についても芳香族基の組み合わせとアルキル基の置換位置を同一にする。(例えば実施例1の場合は、臭素を有する末端は、ビフェニル基とフルオレンを有する化合物1
5で処理し、アミノ基を有する末端は、化合物10と反応させる。)
[具体例]
本発明の重合体の好ましい具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0065】
【化10】

【0066】
【化11】

【0067】
【化12】

【0068】
【化13】

【0069】
【化14】

【0070】
【化15】

【0071】
【化16】

【0072】
【化17】

【0073】
【化18】

【0074】
(重量平均分子量など)
本発明の重合体の重量平均分子量(Mw)は、通常3,000,000以下、好ましくは1,000,000以下、より好ましくは500,000以下、さらに好ましくは200,000以下であり、また通常1,000以上、好ましくは2,500以上、より好ましくは5,000以上、さらに好ましくは20,000以上である。
【0075】
上記範囲内であると、有機溶剤に対する溶解性が高く、成膜性が良好であり、また重合体のガラス転移温度、融点及び気化温度が高く、重合体の耐熱性が良好である点で好ましい。
また、本発明の重合体における数平均分子量(Mn)は、通常2,500,000以下、好ましくは750,000以下、より好ましくは400,000以下であり、また通常
500以上、好ましくは1,500以上、より好ましくは3,000以上である。
【0076】
さらに、本発明の重合体における分散度(Mw/Mn)は、好ましくは3.5以下であり、さらに好ましくは2.5以下、特に好ましくは2.0以下である。尚、分散度は値が小さい程よいため、下限値は理想的には1である。該重合体の分散度が、上記範囲内であると、精製が容易で、また溶剤に対する溶解性や電荷輸送能が良好である。
本発明においては、重量平均分子量が20,000以上で、且つ分散度が2.5以下であることが、重合体の特性上特に好ましい。
【0077】
通常、この重量平均分子量はSEC(サイズ排除クロマトグラフィー)測定により決定される。SEC測定では高分子量成分ほど溶出時間が短く、低分子量成分ほど溶出時間が長くなるが、分子量既知のポリスチレン(標準試料)の溶出時間から算出した校正曲線を用いて、サンプルの溶出時間を分子量に換算することによって、重量平均分子量が算出される。
【0078】
(物性)
本発明の重合体のガラス転移温度は、通常50℃以上、80℃以上、より好ましくは100℃以上、また、通常300℃以下である。
上記範囲内であると、重合体の耐熱性が優れ、得られる素子の駆動寿命が向上する点で好ましい。
【0079】
また、本発明の重合体のイオン化ポテンシャルは、通常4.5eV以上、好ましくは4.8eV以上、また、通常6.0eV以下、好ましくは5.7eV以下である。
上記範囲内であると、重合体の正孔輸送能が優れ、得られる素子の駆動電圧が低下するため好ましい。
[重合体の製造方法]
本発明の重合体の製造方法は特には制限されず、本発明の重合体が得られる限り任意である。例えば、Suzuki反応による重合方法、Grignard反応による重合方法、Yamamoto反応による重合方法、Ullmann反応による重合方法、Buchwald−Hartwig反応による重合方法等などによって製造できる。
【0080】
Ullmann反応による重合方法及びBuchwald−Hartwig反応による重合方法の場合、例えば、ジハロゲン化アリール(XはI、Br、Cl、F等のハロゲン原子を表す。)と式1級アミノアリール又は2級ジアミノアリールとを反応させることにより、本発明の重合体が合成される。
なお、前記の重合方法において、通常、N−アリール結合を形成する反応は、例えば炭酸カリウム、tert−ブトキシナトリウム、トリエチルアミン等の塩基存在下で行う。また、例えば銅やパラジウム錯体等の遷移金属触媒存在下で行うこともできる。
【0081】
Suzuki反応のよる重合方法の場合、例えば、ホウ素誘導体(Rは任意の置換基であり、通常、ヒドロキシル基又は環を形成してもよいアルコキシ基を表す。)とジハロゲン化アリールを反応させることにより、本発明の重合体が合成される。
尚、前記の重合方法において、通常、ホウ素誘導体とジハロゲン化物との反応工程は例えば炭酸カリウム、tert−ブトキシナトリウム、トリエチルアミン等の塩基存在下で行う。また、必要に応じて、例えば銅やパラジウム錯体等の遷移金属触媒存在下で行うこともできる。さらにホウ素誘導体との反応工程では、例えば、炭酸カリウム、りん酸カリウム、tert−ブトキシナトリウム、トリエチルアミン等の塩基、及び、パラジウム錯体等の遷移金属触媒の存在下で行うことができる。
【0082】
また、カルボニル化合物やジビニル化合物と、アミノ基のp−位が水素原子であるトリ
アリールアミンとを、トリフルオロメタンスルホン酸や硫酸などの酸触媒下で重合することによっても、本発明の重合体を合成することができる。<有機電界発光素子材料>
本発明の重合体は、有機電界発光素子材料として用いられることが好ましい。つまり、本発明の重合体からなる有機電界発光素子材料であることが好ましい。
【0083】
有機電界発光素子材料として用いられる場合は、有機電界発素子における正孔注入層及び/又は正孔輸送層を形成する材料、つまり電荷輸送材料として用いることが好ましい。
また、有機電界発光素子を簡便に製造できることから、本発明の重合体は、湿式成膜法で形成される有機層に用いることが好ましい。
<有機電界発光素子用組成物>
本発明の有機電界発光素子用組成物は、本発明の重合体を少なくとも1種含有する。なお、本発明の有機電界発光素子用組成物は、本発明の重合体を1種類含有するものであってもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び任意の比率で含有するものであってもよい。
【0084】
本発明の有機電界発光素子用組成物が含有する本発明の重合体の含有量は、通常0.01〜70重量%、好ましくは0.1〜60重量%、さらに好ましくは0.5〜50重量%である。
上記範囲内であると、形成した有機層に欠陥が生じ難く、また膜厚ムラが生じ難いため好ましい。
【0085】
(溶剤)
本発明の有機電界発光素子用組成物は、通常、溶剤を含有する。この溶剤は、本発明の重合体を溶解するものが好ましい。具体的には、本発明の重合体を、通常0.05重量%以上、好ましくは0.5重量%以上、さらに好ましくは1重量%以上溶解する溶剤が好適である。
【0086】
溶剤の例を挙げると、トルエン、キシレン、メチシレン、シクロヘキシルベンゼン等の芳香族系溶剤;1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン等の含ハロゲン溶剤;エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテルアセタート(PGMEA)等の脂肪族エーテル、1,2−ジメトキシベンゼン、1,3−ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2−メトキシトルエン、3−メトキシトルエン、4−メトキシトルエン、2,3−ジメチルアニソール、2,4−ジメチルアニソール等の芳香族エーテル等のエーテル系溶剤;酢酸エチル、酢酸n−ブチル、乳酸エチル、乳酸n−ブチル等の脂肪族エステル;酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸イソプロピル、安息香酸プロピル、安息香酸n−ブチル等の芳香族エステル等のエステル系溶剤;などの有機溶剤が挙げられる。なお、溶剤は、1種類を用いてもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び任意の比率で併用してもよい。
【0087】
中でも、本発明の有機電界発光素子用組成物に含有される溶剤としては、20℃における表面張力が、通常40dyn/cm未満、好ましくは36dyn/cm以下、より好ましくは33dyn/cm以下である溶剤が好ましい。
本発明の有機電界発光素子用組成物を塗布後、重合体を架橋して層を形成する場合、下地との親和性が高いことが好ましい。膜質の均一性は有機電界発光素子の発光の均一性及び安定性に大きく影響するためである。したがって、湿式成膜法に用いる有機電界発光素子用組成物には、よりレベリング性が高く均一な塗膜を形成しうるように表面張力が低いことが求められる。そこで前記のような低い表面張力を有する溶剤を使用することにより、本発明の重合体を含有する均一な層を形成することができ、ひいては均一な架橋層を形成できるようにすることが好ましいのである。
【0088】
低表面張力の溶剤の具体例としては、前述したトルエン、キシレン、メチシレン、シクロヘキシルベンゼン等の芳香族系溶剤、安息香酸エチル等のエステル系溶剤、アニソール等のエーテル系溶剤、トリフルオロメトキシアニソール、ペンタフルオロメトキシベンゼン、3−(トリフルオロメチル)アニソール、エチル(ペンタフルオロベンゾエート)等が挙げられる。
【0089】
また一方で、本発明の有機電界発光素子用組成物に含有される溶剤としては、25℃における蒸気圧が、通常10mmHg以下、好ましくは5mmHg以下であり、通常0.1mmHg以上であるものが好ましい。このような溶剤を使用することにより、有機電界発光素子を湿式成膜法により製造するプロセスに好適で、本発明の共役ポリマーの性質に適した有機電界発光素子用組成物を調製することができるからである。
【0090】
このような溶剤の具体例としては、前述したトルエン、キシレン、メチシレン等の芳香族系溶剤、エーテル系溶剤及びエステル系溶剤が挙げられる。
ところで、水分は有機電界発光素子の性能劣化を引き起こす可能性があり、中でも特に連続駆動時の輝度低下を促進する可能性がある。そこで、湿式成膜中に残留する水分をできる限り低減するために、前記の溶剤の中でも、25℃における水の溶解度が1重量%以下であるものが好ましく、0.1重量%以下である溶剤がより好ましい。
【0091】
本発明の有機電界発光素子用組成物に含有される溶剤の濃度は、通常10重量%以上、好ましくは30重量%以上、より好ましくは50重量%以上、特に好ましくは80重量%以上である。これにより形成される層の平坦さ及び均一さを良好にすることができる。
さらに、本発明の有機電界発光素子用組成物は、形成しようとする有機層の種類等に応じて、本発明の重合体以外のポリマー、発光材料、正孔輸送性化合物、電子輸送性化合物、電子受容性化合物などを含有していてもよい。
【0092】
なお、本発明の有機電界発光素子用組成物は、その他の成分を、1種類だけ含有していてもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び任意の比率で含有していてもよい。
本発明の有機電界発光素子用組成物は、正孔注入層を形成するために用いる場合、低抵抗化する点で、さらに電子受容性化合物を含有することが好ましい。
電子受容性化合物としては、酸化力を有し、本発明の重合体から一電子受容する能力を有する化合物が好ましい。具体的には、電子親和力が4eV以上である化合物が好ましく、5eV以上の化合物である化合物がさらに好ましい。
【0093】
この様な化合物として、周期表の第15〜17族に属する元素に、少なくとも一つの有機基が炭素原子で結合した構造を有するイオン化合物であることが好ましく、特に、下記式(I−1)で表わされる化合物であることが好ましい。
【0094】
【化19】

【0095】
式(I−1)中、R11は、A1と炭素原子で結合する有機基を表わし、R12は、任意の
置換基を表わす。R11及びR12は、互いに結合して環を形成していてもよい。
11としては、A1との結合部分に炭素原子を有する有機基であれば、本発明の趣旨に
反しない限り、その種類は特に制限されない。R11の分子量は、置換基を含めた値で、通常1000以下、好ましくは500以下の範囲である。
【0096】
11の好ましい例としては、正電荷を非局在化させる点から、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基が挙げられる。中でも、正電荷を非局在化させるとともに熱的に安定であることから、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基が好ましい。
芳香族炭化水素基としては、5又は6員環の単環又は2〜5縮合環由来の1価の基であり、正電荷を当該基上により非局在化させられる基が挙げられる。その具体例としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、アセナフテン環、フルオレン環等の由来の一価の基が挙げられる。
【0097】
芳香族複素環基としては、5又は6員環の単環又は2〜4縮合環由来の1価の基であり、正電荷を当該基上により非局在化させられる基が挙げられる。その具体例としては、フラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、トリアゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シノリン環、キノキサリン環、フェナントリジン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環、アズレン環等の由来の一価の基が挙げられる。
【0098】
アルキル基としては、直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基であって、その炭素数が通常1以上、また、通常12以下、好ましくは6以下のものが挙げられる。具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、2−プロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
アルケニル基としては、炭素数が通常2以上、通常12以下、好ましくは6以下のものが挙げられる。具体例としては、ビニル基、アリル基、1−ブテニル基等が挙げられる。
【0099】
アルキニル基としては、炭素数が通常2以上、通常12以下、好ましくは6以下のものが挙げられる。具体例としては、エチニル基、プロパルギル基等が挙げられる。
12は、本発明の趣旨に反しない限り特に制限されない。R12の分子量は、置換基を含めた値で、通常1000以下、好ましくは500以下の範囲である。
12の例としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、アミノ基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリーロキシカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、スルホニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、シアノ基、水酸基、チオール基、シリル基等が挙げられる。
【0100】
中でも、R11と同様、電子受容性が大きい点から、A1との結合部分に炭素原子を有す
る有機基が好ましく、例としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基が好ましい。特に、電子受容性が大きいとともに熱的に安定であることから、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基が好ましい。
アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基としては、R11について先に説明したものと同様のものが挙げられる。
【0101】
アミノ基としては、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アシルアミノ基等が挙げられる。
アルキルアミノ基としては、炭素数が通常1以上、また、通常12以下、好ましくは6以下のアルキル基を1つ以上有するアルキルアミノ基が挙げられる。具体例としては、メ
チルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジベンジルアミノ基等が挙げられる。
【0102】
アリールアミノ基としては、炭素数が通常3以上、好ましくは4以上、また、通常25以下、好ましくは15以下の芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を1つ以上有するアリールアミノ基が挙げられる。具体例としては、フェニルアミノ基、ジフェニルアミノ基、トリルアミノ基、ピリジルアミノ基、チエニルアミノ基等が挙げられる。
アシルアミノ基としては、炭素数が通常2以上、また、通常25以下、好ましくは15以下のアシル基を1つ以上有するアシルアミノ基が挙げられる。具体例としては、アセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基等が挙げられる。
【0103】
アルコキシ基としては、炭素数が通常1以上、また、通常12以下、好ましくは6以下のアルコキシ基が挙げられる。具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基等が挙げられる。
アリールオキシ基としては、炭素数が通常3以上、好ましくは4以上、また、通常25以下、好ましくは15以下の芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を有するアリールオキシ基が挙げられる。具体例としては、フェニルオキシ基、ナフチルオキシ基、ピリジルオキシ基、チエニルオキシ基等が挙げられる。
【0104】
アシル基としては、炭素数が通常1以上、また、通常25以下、好ましくは15以下のアシル基が挙げられる。具体例としては、ホルミル基、アセチル基、ベンゾイル基等が挙げられる。
アルコキシカルボニル基としては、炭素数が通常2以上、また、通常10以下、好ましくは7以下のアルコキシカルボニル基が挙げられる。具体例としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等が挙げられる。
【0105】
アリールオキシカルボニル基としては、炭素数が通常3以上、好ましくは4以上、また、通常25以下、好ましくは15以下の芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を有するものが挙げられる。具体例としては、フェノキシカルボニル基、ピリジルオキシカルボニル基等が挙げられる。
アルキルカルボニルオキシ基としては、炭素数が通常2以上、また、通常10以下、好ましくは7以下のアルキルカルボニルオキシ基が挙げられる。具体例としては、アセトキシ基、トリフルオロアセトキシ基等が挙げられる。
【0106】
アルキルチオ基としては、炭素数が通常1以上、また、通常12以下、好ましくは6以下のアルキルチオ基が挙げられる。具体例としては、メチルチオ基、エチルチオ基等が挙げられる。
アリールチオ基としては、炭素数が通常3以上、好ましくは4以上、また、通常25以下、好ましくは14以下のアリールチオ基が挙げられる。具体例としては、フェニルチオ基、ナフチルチオ基、ピリジルチオ基等が挙げられる。
【0107】
アルキルスルホニル基及びアリールスルホニル基の具体例としては、メシル基、トシル基等が挙げられる。
スルホニルオキシ基の具体例としては、メシルオキシ基、トシルオキシ基等が挙げられる。
シリル基の具体例としては、トリメチルシリル基、トリフェニルシリル基など挙げられる。
【0108】
以上、R11及びR12として例示した基は、本発明の趣旨に反しない限りにおいて、更に他の置換基によって置換されていてもよい。置換基の種類は特に制限されないが、例とし
ては、上記R11及びR12、としてそれぞれ例示した基の他、ハロゲン原子、シアノ基、チオシアノ基、ニトロ基等が挙げられる。中でも、イオン化合物(電子受容性化合物)の耐熱性及び電子受容性の妨げにならない観点から、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基が好ましい。
【0109】
式(I−1)中、A1は、長周期型周期表の第17族に属する元素であることが好まし
く、電子受容性及び入手容易性の観点から、周期表の第5周期以前(第3〜第5周期)の元素が好ましい。即ち、A1としてはヨウ素原子、臭素原子、塩素原子のうち何れかが好
ましい。
特に、電子受容性、化合物の安定性の面から、式(I−1)におけるA1が臭素原子又
はヨウ素原子であるイオン化合物、特に好ましくは、ヨウ素原子であるイオン化合物が最も好ましい。
【0110】
式(I−1)中、Z1n1-は、各々独立に、対アニオンを表わす。対アニオンの種類は特に制限されず、単原子イオンであっても錯イオンであってもよい。但し、対アニオンのサイズが大きいほど負電荷が非局在化し、それに伴い正電荷も非局在化して電子受容能が大きくなるため、単原子イオンよりも錯イオンの方が好ましい。
は、各々独立に、対アニオンZ1n1-のイオン価に相当する任意の正の整数である。nの値は特に制限されないが、何れも1又は2であることが好ましく、1であることが最も好ましい。
【0111】
1n1-の具体例としては、水酸化物イオン、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、シアン化物イオン、硝酸イオン、亜硝酸イオン、硫酸イオン、亜硫酸イオン、過塩素酸イオン、過臭素酸イオン、過ヨウ素酸イオン、塩素酸イオン、亜塩素酸イオン、次亜塩素酸イオン、リン酸イオン、亜リン酸イオン、次亜リン酸イオン、ホウ酸イオン、イソシアン酸イオン、水硫化物イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、ヘキサクロロアンチモン酸イオン;酢酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、安息香酸イオン等のカルボン酸イオン;メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸イオン等のスルホン酸イオン;メトキシイオン、t−ブトキシイオン等のアルコキシイオンなどが挙げられ、テトラフルオロホウ素酸イオン及びヘキフルオロホウ素酸イオンが好ましい。
【0112】
また、対アニオンZ1n1-としては、化合物の安定性、溶剤への溶解性の点で、更に、サイズが大きいという点で、負電荷が非局在化し、それに伴い正電荷も非局在化して電子受容能が大きくなるため、式(I−2)で表わされる錯イオンが特に好ましい。
【0113】
【化20】

【0114】
式(I−2)中、E3は、各々独立に、長周期型周期表の第13族に属する元素を表わ
す。中でもホウ素原子、アルミニウム原子、ガリウム原子が好ましく、化合物の安定性、合成及び精製のし易さの点から、ホウ素原子が好ましい。
式(I−2)中、Ar31〜Ar34は、各々独立に、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を表わす。芳香族炭化水素基、芳香族複素環基の例示としては、R11について先に
例示したものと同様の、5又は6員環の単環又は2〜4縮合環由来の1価の基が挙げられる。中でも、化合物の安定性、耐熱性の点から、ベンゼン環、ナフタレン環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環由来の1価の基が好ましい。
【0115】
Ar31〜Ar34として例示した芳香族炭化水素基、芳香族複素環基は、本発明の趣旨に反しない限りにおいて、更に別の置換基によって置換されていてもよい。置換基の種類は特に制限されず、任意の置換基が適用可能であるが、電子吸引性の基であることが好ましい。
Ar31〜Ar34が有してもよい置換基として好ましい電子吸引性の基を例示するならば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;シアノ基;チオシアノ基;ニトロ基;メシル基等のアルキルスルホニル基;トシル基等のアリールスルホニル基;ホルミル基、アセチル基、ベンゾイル基等の、炭素数が通常1以上、通常12以下、好ましくは6以下のアシル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の、炭素数が通常2以上、通常10以下、好ましくは7以下のアルコキシカルボニル基;フェノキシカルボニル基、ピリジルオキシカルボニル基等の、炭素数が通常3以上、好ましくは4以上、通常25以下、好ましくは15以下の芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を有するアリールオキシカルボニル基;アミノカルボニル基;アミノスルホニル基;トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基等の、炭素数が通常1以上、通常10以下、好ましくは6以下の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基にフッ素原子、塩素原子などのハロゲン原子が置換したハロアルキル基、などが挙げられる。
【0116】
中でも、Ar31〜Ar34のうち少なくとも1つの基が、フッ素原子又は塩素原子を置換基として1つ又は2つ以上有することがより好ましい。特に、負電荷を効率よく非局在化する点、及び、適度な昇華性を有する点から、Ar31〜Ar34の水素原子がすべてフッ素原子で置換されたパーフルオロアリール基であることが最も好ましい。パーフルオロアリール基の具体例としては、ペンタフルオロフェニル基、ヘプタフルオロ−2−ナフチル基、テトラフルオロ−4−ピリジル基等が挙げられる。
【0117】
本発明における電子受容性化合物の分子量は、通常100〜5000、好ましくは300〜3000、更に好ましくは400〜2000である。
上記範囲内であると、正電荷及び負電荷が十分に非局在化し、電子受容能が良好で、また電荷輸送の妨げになり難い点で好ましい。
以下に、本発明における電子受容性化合物の具体例を示すが、本発明はこられに限定されるものではない。
【0118】
【表1】

【0119】
【表2】

【0120】
【表3】

【0121】
【表4】

【0122】
【表5】

【0123】
尚、電子受容性化合物は1種類を単独で用いてもよく、また2種類以上を任意の組み合わせ、及び比率で用いてもよい。
<有機電界発光素子の構成>
本発明の有機電界発光素子は、基板上に、陽極、陰極、及び該陽極と該陰極の間に有機層を有する有機電界発光素子において、該有機層が前記有機電界発光素子用組成物を用いて、湿式成膜法で形成された層を含む。
【0124】
ここで有機層には、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、正孔阻止層、電子輸送層、電子注入層が挙げられるが、前記有機電界発光素子用組成物を用いて、湿式成膜法で形成された層が、正孔注入層及び/又は正孔注入層であることが好ましく、正孔注入層であることが特に好ましい。
また、本発明の有機電界発光素子においては、正孔注入層、正孔輸送層及び発光層を含有し、該正孔注入層、正孔輸送層及び発光層の全てが湿式成膜法により形成されたものであるのが好ましい。
【0125】
以下に、本発明の方法で製造される有機電界発光素子の層構成及びその形成方法等について、図1を参照して説明する。
図1は本発明にかかる有機電界発光素子の構造例を示す断面の模式図であり、図1において、1は基板、2は陽極、3は正孔注入層、4は正孔輸送層、5は発光層、6は正孔阻止層、7は電子輸送層、8は電子注入層、9は陰極を各々表す。
【0126】
尚、本発明において湿式成膜法とは、例えば、スピンコート法、ディップコート法、ダイコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、スプレーコート法、キャピラリーコート法、インクジェット法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法等の湿式で成膜される方法をいう。これらの成膜方法の中でも、スピンコート法、スプレーコート法、インクジェット法が好ましい。
【0127】
これは、本発明の有機電界発光素子用組成物の液性に合うためである。
[基板]
基板は有機電界発光素子の支持体となるものであり、石英やガラスの板、金属板や金属箔、プラスチックフィルムやシート等が用いられる。特にガラス板や、ポリエステル、ポリメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスルホン等の透明な合成樹脂の板が好ましい。合成樹脂基板を使用する場合にはガスバリア性に留意する必要がある。基板のガスバリア性が小さすぎると、基板を通過した外気により有機電界発光素子が劣化することがあるので好ましくない。このため、合成樹脂基板の少なくとも片面に緻密なシリコン酸化膜等を設けてガスバリア性を確保する方法も好ましい方法の一つである。
【0128】
[陽極]
陽極は発光層側の層への正孔注入の役割を果たすものである。
この陽極は、通常、アルミニウム、金、銀、ニッケル、パラジウム、白金等の金属、インジウム及び/又はスズの酸化物等の金属酸化物、ヨウ化銅等のハロゲン化金属、カーボンブラック、或いは、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子等により構成される。
【0129】
陽極の形成は通常、スパッタリング法、真空蒸着法等により行われることが多い。また、銀等の金属微粒子、ヨウ化銅等の微粒子、カーボンブラック、導電性の金属酸化物微粒子、導電性高分子微粉末等を用いて陽極を形成する場合には、適当なバインダー樹脂溶液に分散させて、基板上に塗布することにより陽極を形成することもできる。さらに、導電性高分子の場合は、電解重合により直接基板上に薄膜を形成したり、基板上に導電性高分子を塗布して陽極を形成することもできる(Appl.Phys.Lett.,60巻,2711頁,1992年)。
【0130】
陽極は通常は単層構造であるが、所望により複数の材料からなる積層構造とすることも可能である。
陽極の厚みは、必要とする透明性により異なる。透明性が必要とされる場合は、可視光の透過率を、通常60%以上、好ましくは80%以上とすることが好ましい。この場合、陽極の厚みは通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、また、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下程度である。不透明でよい場合は陽極の厚みは任意であり、陽極は基板と同一でもよい。また、さらには、上記の陽極の上に異なる導電材料を積層することも可能である。
【0131】
陽極に付着した不純物を除去し、イオン化ポテンシャルを調整して正孔注入性を向上させることを目的に、陽極表面を紫外線(UV)/オゾン処理したり、酸素プラズマ、アルゴンプラズマ処理したりすることは好ましい。
[正孔注入層]
正孔注入層は、陽極から発光層へ正孔を輸送する層であり、通常、陽極上に形成される。本発明の有機電界発光素子においては、正孔注入層は、本発明の有機電界発光素子用組成物を湿式成膜法にて形成した層であることが好ましい。
【0132】
本発明の有機電界発光素子用組成物以外の方法で、正孔注入層を形成する場合、正孔注入層の形成方法は真空蒸着法でも、湿式成膜法でもよく、特に制限はないが、ダークスポット低減の観点から正孔注入層を湿式成膜法により形成することが好ましい。
正孔注入層の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上、また、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下の範囲である。
【0133】
{湿式成膜法による正孔注入層の形成}
湿式成膜により正孔注入層を形成する場合、通常は、正孔注入層を構成する材料を適切な溶剤(正孔注入層用溶剤)と混合して成膜用の組成物(正孔注入層形成用組成物)を調製し、この正孔注入層形成用組成物を適切な手法により、正孔注入層の下層に該当する層(通常は、陽極)上に塗布して成膜し、乾燥することにより正孔注入層を形成する。
【0134】
(正孔輸送性化合物)
正孔注入層形成用組成物は通常、正孔注入層の構成材料として正孔輸送性化合物及び溶剤を含有する。
正孔輸送性化合物は、通常、有機電界発光素子の正孔注入層に使用される、正孔輸送性を有する化合物であれば、重合体などの高分子化合物であっても、単量体などの低分子化合物であってもよいが、高分子化合物であることが好ましい。
本発明においては、この高分子化合物として前記本発明の重合体を用いるのが好ましい。また、他の正孔輸送性化合物も用いることができる。
【0135】
他の正孔輸送性化合物としては、陽極から正孔注入層への電荷注入障壁の観点から4.5eV〜6.0eVのイオン化ポテンシャルを有する化合物が好ましい。他の正孔輸送性化合物の例としては、芳香族アミン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ベンジルフェニル誘導体、フルオレン基で3級アミンを連結した化合物、ヒドラゾン誘導体、シラザン誘導体、シラナミン誘導体、ホスファミン誘導体、キナクリドン誘導体、ポリアニリン誘導体、ポリピロール誘導体、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポリチエニレンビニレン誘導体、ポリキノリン誘導体、ポリキノキサリン誘導体、カーボン等が挙げられる。
【0136】
尚、本発明において誘導体とは、例えば、芳香族アミン誘導体を例にするならば、芳香族アミンそのもの及び芳香族アミンを主骨格とする化合物を含むものであり、重合体であっても、単量体であってもよい。
正孔注入層の材料として用いられる正孔輸送性化合物は、このような化合物のうち何れか1種を単独で含有していてもよく、2種以上を含有していてもよい。2種以上の正孔輸送性化合物を含有する場合、その組み合わせは任意であるが、芳香族三級アミン高分子化合物1種又は2種以上と、その他の正孔輸送性化合物1種又は2種以上とを併用することが好ましい。
【0137】
上記例示した中でも非晶質性、可視光の透過率の点から、芳香族アミン化合物が好ましく、特に芳香族三級アミン化合物が好ましい。ここで、芳香族三級アミン化合物とは、芳香族三級アミン構造を有する化合物であって、芳香族三級アミン由来の基を有する化合物も含む。 芳香族アミン化合物の種類は特に制限されず、低分子化合物であっても高分子化合物であってもよいが、表面平滑化効果の点から、重量平均分子量が1000以上、及び1000000以下の高分子化合物(繰り返し単位が連なる重合型炭化水素化合物)が好ましい。
【0138】
芳香族三級アミン高分子化合物の好ましい例としては、下記式(3)で表わされる繰り返し単位を有する高分子化合物も挙げることができる。
【0139】
【化21】

【0140】
(上記式(3)中、Arb1及びArb2は、各々独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環基、又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表わす。Arb3
Arb5は、各々独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環基、又は置換基
を有していてもよい芳香族複素環基を表わす。Zbは、下記の連結基群の中から選ばれる
連結基を表わす。また、Arb1〜Arb5のうち、同一のN原子に結合する二つの基は互いに結合して環を形成してもよい。)
【0141】
【化22】

【0142】
(上記各式中、Arb6〜Arb16は、各々独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環、又は置換基を有していてもよい芳香族複素環の1価以上の基を表わす。Rb
及びRb2は、各々独立して、水素原子又は任意の置換基を表わす。)
Arb1〜Arb16としては、任意の芳香族炭化水素環又は芳香族複素環の1価以上の基が適用可能である。これらの基は各々同一であっても、互いに異なって いてもよい。
また、これらの基は、更に任意の置換基を有していてもよい。
【0143】
式(I)で表される繰り返し単位を有する芳香族三級アミン高分子化合物の具体例としては、国際公開第2005/089024号パンフレットに記載のものが挙げられる。
また、正孔輸送性化合物としては、ポリチオフェンの誘導体である3,4−ethylenedioxythiophene(3,4−エチレンジオキシチオフェン)を高分子量ポリスチレンスルホン酸中で重合してなる導電性ポリマー(PEDOT/PSS)もまた好ましい。また、このポリマーの末端をメタクリレート等でキャップしたものであってもよい。
【0144】
尚、正孔輸送性化合物は、下記[正孔輸送層]の項に記載の架橋性重合体であってもよい。該架橋性重合体を用いた場合の成膜方法についても同様である。
正孔注入層形成用組成物中の、正孔輸送性化合物の濃度は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、膜厚の均一性の点で通常0.01重量%以上、好ましくは0.1重量%以上、さらに好ましくは0.5重量%以上、また、通常70重量%以下、好ましくは60重量%以下、さらに好ましくは50重量%以下である。この濃度が大きすぎると膜厚ムラが生じる可能性があり、また、小さすぎると成膜された正孔注入層に欠陥が生じる可能性がある。
【0145】
(電子受容性化合物)
正孔注入層形成用組成物は正孔注入層の構成材料として、電子受容性化合物を含有していることが好ましい。
電子受容性化合物とは、酸化力を有し、上述の正孔輸送性化合物から一電子受容する能力を有する化合物が好ましく、具体的には、電子親和力が4eV以上である化合物が好ましく、5eV以上の化合物である化合物がさらに好ましい。
【0146】
このような電子受容性化合物としては、例えば、前記<有機電界発光素子用組成物>で記載したものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
正孔注入層或いは正孔注入層形成用組成物中の電子受容性化合物の正孔輸送性化合物に対する含有量は、通常0.1モル%以上、好ましくは1モル%以上である。但し、通常100モル%以下、好ましくは40モル%以下である。
【0147】
(その他の構成材料)
正孔注入層の材料としては、本発明の効果を著しく損なわない限り、上述の正孔輸送性化合物や電子受容性化合物に加えて、さらに、その他の成分を含有させてもよい。その他の成分の例としては、各種の発光材料、電子輸送性化合物、バインダー樹脂、塗布性改良剤などが挙げられる。なお、その他の成分は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0148】
(溶剤)
湿式成膜法に用いる正孔注入層形成用組成物の溶剤のうち少なくとも1種は、上述の正孔注入層の構成材料を溶解しうる化合物であることが好ましい。また、この溶剤の沸点は通常110℃以上、好ましくは140℃以上、中でも200℃以上、通常400℃以下、中でも300℃以下であることが好ましい。溶剤の沸点が低すぎると、乾燥速度が速すぎ、膜質が悪化する可能性がある。また、溶剤の沸点が高すぎると乾燥工程の温度を高くする必要があし、他の層や基板に悪影響を与える可能性がある。
【0149】
溶剤として例えば、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、アミド系溶剤などが挙げられる。
エーテル系溶剤としては、例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテルアセタート(PGMEA)等の脂肪族エーテル;1,2−ジメトキシベンゼン、1,3−ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2−メトキシトルエン、3−メトキシトルエン、4−メトキシトルエン、2,3−ジメチルアニソール、2,4−ジメチルアニソール等の芳香族エーテル、等が挙げられる。
【0150】
エステル系溶剤としては、例えば、酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n−ブチル等の芳香族エステル、等が挙げられる。
芳香族炭化水素系溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、シクロヘキシルベンゼン、3−イロプロピルビフェニル、1,2,3,4−テトラメチルベンゼン、1,4−ジイソプロピルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、メチルナフタレン等が挙げられる。
【0151】
アミド系溶剤としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、等が挙げられる。
その他、ジメチルスルホキシド等も用いることができる。
これらの溶剤は1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いてもよい。
【0152】
(成膜方法)
正孔注入層形成用組成物を調製後、この組成物を湿式成膜により、正孔注入層の下層に該当する層(通常は、陽極)上に塗布成膜し、乾燥することにより正孔注入層を形成する。 塗布工程における温度は、組成物中に結晶が生じることによる膜の欠損を防ぐため、10℃以上が好ましく、50℃以下が好ましくい。
【0153】
塗布工程における相対湿度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.01ppm以上、通常80%以下である。
塗布後、通常加熱等により正孔注入層形成用組成物の膜を乾燥させる。加熱工程において使用する加熱手段の例を挙げると、クリーンオーブン、ホットプレート、赤外線、ハロゲンヒーター、マイクロ波照射などが挙げられる。中でも、膜全体に均等に熱を与えるためには、クリーンオーブン及びホットプレートが好ましい。
【0154】
加熱工程における加熱温度は、本発明の効果を著しく損なわない限り、正孔注入層形成用組成物に用いた溶剤の沸点以上の温度で加熱することが好ましい。また、正孔注入層に用いた溶剤が2種類以上含まれている混合溶剤の場合、少なくとも1種類がその溶剤の沸点以上の温度で加熱されるのが好ましい。溶剤の沸点上昇を考慮すると、加熱工程においては、好ましくは120℃以上、好ましくは410℃以下で加熱することが好ましい。
【0155】
加熱工程において、加熱温度が正孔注入層形成用組成物の溶剤の沸点以上であり、かつ塗布膜の十分な不溶化が起こらなければ、加熱時間は限定されないが、好ましくは10秒以上、通常180分以下である。加熱時間が長すぎると他の層の成分が拡散する傾向があり、短すぎると正孔注入層が不均質になる傾向がある。加熱は2回に分けて行ってもよい。
【0156】
<真空蒸着法による正孔注入層の形成>
真空蒸着により正孔注入層を形成する場合には、正孔注入層の構成材料(前述の正孔輸送性化合物、電子受容性化合物等)の1種又は2種以上を真空容器内に設置されたるつぼ
に入れ(2種以上の材料を用いる場合は各々のるつぼに入れ)、真空容器内を適当な真空ポンプで10-4Pa程度まで排気した後、るつぼを加熱して(2種以上の材料を用いる場合は各々のるつぼを加熱して)、蒸発量を制御して蒸発させ(2種以上の材料を用いる場合は各々独立に蒸発量を制御して蒸発させ)、るつぼと向き合って置かれた基板の陽極上に正孔注入層を形成させる。なお、2種以上の材料を用いる場合は、それらの混合物をるつぼに入れ、加熱、蒸発させて正孔注入層を形成することもできる。
【0157】
蒸着時の真空度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.1×10−6Torr(0.13×10−4Pa)以上、通常9.0×10−6Torr(12.0×10−4Pa)以下である。蒸着速度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.1Å/秒以上、通常5.0Å/秒以下である。蒸着時の成膜温度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、好ましくは10℃以上で、好ましくは50℃以下で行われる。
【0158】
[正孔輸送層]
本発明に係る正孔輸送層の形成方法は真空蒸着法でも、湿式成膜法でもよく、特に制限はないが、ダークスポット低減の観点から正孔輸送層を湿式成膜法により形成することが好ましい。
正孔輸送層は、正孔注入層がある場合には正孔注入層の上に、正孔注入層が無い場合には陽極の上に形成することができる。また、本発明の有機電界発光素子は、正孔輸送層を省いた構成であってもよい。
【0159】
正孔輸送層を形成する材料としては、正孔輸送能が高く、かつ注入された正孔を効率よく輸送することができる材料であることが好ましい。そのために、イオン化ポテンシャルが小さく、可視光の光に対して透明性が高く、正孔移動度が大きく、安定性に優れ、トラップとなる不純物が製造時や使用時に発生しにくいことが好ましい。また、多くの場合、発光層に接するため、発光層からの発光を消光したり、発光層との間でエキサイプレックスを形成して効率を低下させたりしないことが好ましい。
【0160】
このような正孔輸送層の材料としては、従来、正孔輸送層の構成材料として用いられている材料であればよく、前記本発明の重合体を架橋した網目状重合体及び前述の正孔注入層に使用される正孔輸送性化合物として例示したものが挙げられる。また、アリールアミン誘導体、フルオレン誘導体、スピロ誘導体、カルバゾール誘導体、ピリジン誘導体、ピラジン誘導体、ピリミジン誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、フェナントロリン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、シロール誘導体、オリゴチオフェン誘導体、縮合多環芳香族誘導体、金属錯体などが挙げられる。
【0161】
また、例えば、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリアリールアミン誘導体、ポリビニルトリフェニルアミン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリアリーレン誘導体、テトラフェニルベンジジンを含有するポリアリーレンエーテルサルホン誘導体、ポリアリーレンビニレン誘導体、ポリシロキサン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)誘導体等が挙げられる。これらは、交互共重合体、ランダム重合体、ブロック重合体又はグラフト共重合体のいずれであってもよい。また、主鎖に枝分かれがあり末端部が3つ以上ある高分子や、所謂デンドリマーであってもよい。
【0162】
中でも、ポリアリールアミン誘導体やポリアリーレン誘導体が好ましい。
ポリアリールアミン誘導体としては、下記式(II−1)で表される繰り返し単位を含む重合体であることが好ましい。特に、下記式(II−1)で表される繰り返し単位からなる重合体であることが好ましく、この場合、繰り返し単位それぞれにおいて、Ara
はArbが異なっているものであってもよい。
【0163】
【化23】

【0164】
(式(II−1)中、Ar及びArは、各々独立して、置換基を有していてもよい芳香族環基を表す。)
置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環基としては、例えば、1又は2個の遊離原子価を有するベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、アセナフテン環、フルオランテン環、フルオレン環などの、6員環の単環又は2〜5縮合環由来の基及びこれらの環が2環以上直接結合で連結してなる基が挙げられる。
【0165】
置換基を有していてもよい芳香族複素環基としては、例えば、1又は2個の遊離原子価を有する、フラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シノリン環、キノキサリン環、フェナントリジン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環、アズレン環などの、5又は6員環の単環又は2〜4縮合環由来の基及びこれらの環が2環以上直接結合で連結してなる基が挙げられる。
【0166】
溶剤に対する溶解性及び耐熱性の点から、Ara及びArbは、各々独立に、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、トリフェニレン環、ピレン環、チオフェン環、ピリジン環、フルオレン環からなる群より選ばれる環由来の基やベンゼン環が2環以上連結してなる基(例えば、ビフェニル基(ビフェニル基)やターフェニレン基(ターフェニレン基))が好ましい。
【0167】
中でも、ベンゼン環由来の基(フェニル基)、ベンゼン環が2環連結してなる基(ビフェニル基)及びフルオレン環由来の基(フルオレニル基)が好ましい。
Ara及びArbにおける芳香族環基が有していてもよい置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、ジアルキルアミノ基、ジアリールアミノ基、アシル基、ハロゲン原子、ハロアルキル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、シリル基、シロキシ基、シアノ基、芳香族環基などが挙げられる。
【0168】
ポリアリーレン誘導体としては、前記式(II−1)におけるAraやArとして例
示した置換基を有していてもよい、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基などのアリーレン基をその繰り返し単位に有する重合体が挙げられる。
ポリアリーレン誘導体としては、下記式(III−1)及び/又は下記式(III−2)からなる繰り返し単位を有する重合体が好ましい。
【0169】
【化24】

【0170】
(式(III−1)中、Ra、Rb、Rc及びRdは、各々独立に、アルキル基、アルコキシ基、フェニルアルキル基、フェニルアルコキシ基、フェニル基、フェノキシ基、アルキルフェニル基、アルコキシフェニル基、アルキルカルボニル基、アルコキシカルボニル基、又はカルボキシ基を表す。t及びsは、各々独立に、0〜3の整数を表す。t又はsが2以上の場合、一分子中に含まれる複数のRa又はRbは同一であっても異なっていてもよく、隣接するRa又はRb同士で環を形成していてもよい。)
【0171】
【化25】

【0172】
(式(III−2)中、Re及びRfは、各々独立に、上記式(III−1)におけるRa
、Rb、Rc又はRdと同義である。u及びvは、各々独立に、0〜3の整数を表す。u又
はvが2以上の場合、一分子中に含まれる複数のRe及びRfは同一であっても異なっていてもよく、隣接するRe又はRf同士で環を形成していてもよい。Xは、5員環又は6員環を構成する原子又は原子群を表す。)
Xの具体例としては、―O―、―BR―、―NR―、―SiR2―、―PR―、―SR
―、―CR2―又はこれらが結合してなる基である。尚、Rは、水素原子又は任意の有機
基を表す。本発明における有機基とは、少なくとも一つの炭素原子を含む基である。
【0173】
また、ポリアリーレン誘導体としては、前記式(III−1)及び/又は前記式(III−2)からなる繰り返し単位に加えて、さらに下記式(III−3)で表される繰り返し単位を有することが好ましい。
【0174】
【化26】

【0175】
(式(III−3)中、Arc〜Arjは、各々独立に、置換基を有していてもよい、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を表す。w及びxは、各々独立に0又は1を表す。)
Arc〜Arjの具体例としては、前記式(II)における、Ara及びArbと同様である。
上記式(III−1)〜(III−3)の具体例及びポリアリーレン誘導体の具体例等は、特開2008−98619号公報に記載のものなどが挙げられる。
【0176】
湿式成膜法で正孔輸送層を形成する場合は、上記正孔注入層の形成と同様にして、正孔輸送層形成用組成物を調製した後、湿式成膜後、加熱乾燥させる。
正孔輸送層形成用組成物には、上述の正孔輸送性化合物の他、溶剤を含有する。用いる溶剤は上記正孔注入層形成用組成物に用いたものと同様である。また、成膜条件、加熱乾燥条件等も正孔注入層の形成の場合と同様である。
【0177】
真空蒸着法により正孔輸送層を形成する場合もまた、その成膜条件等は上記正孔注入層の形成の場合と同様である。
正孔輸送層は、上記正孔輸送性化合物の他、各種の発光材料、電子輸送性化合物、バインダー樹脂、塗布性改良剤などを含有していてもよい。
正孔輸送層はまた、架橋性化合物を架橋して形成される層であってもよい。架橋性化合物は、架橋性基を含む化合物であって、架橋することにより網目状高分子化合物を形成する。
【0178】
この架橋性基の例を挙げると、オキセタン、エポキシなどの環状エーテル由来の基;ビニル基、トリフルオロビニル基、スチリル基、アクリル基、メタクリロイル、シンナモイル等の不飽和二重結合由来の基;ベンゾシクロブテン由来の基などが挙げられる。
架橋性化合物は、モノマー、オリゴマー、ポリマーのいずれであってもよい。架橋性化合物は1種のみを有していてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で有していてもよい。
【0179】
架橋性化合物としては、架橋性基を含む正孔輸送性化合物を用いることが好ましい。
正孔輸送性化合物としては、上記の例示したものが挙げられ、これら正孔輸送性化合物に対して、架橋性基が主鎖又は側鎖に結合しているものが挙げられる。特に架橋性基は、アルキレン基等の連結基を介して、主鎖に結合していることが好ましい。また、特に正孔輸送性化合物としては、架橋性基を含む繰り返し単位を含む重合体であることが好ましく、上記式(II)や式(III−1)〜(III−3)に架橋性基が直接又は連結基を介して結合した繰り返し単位を有する重合体であることが好ましい。
【0180】
正孔輸送性化合物の例を挙げると、ピリジン誘導体、ピラジン誘導体、ピリミジン誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、フェナントロリン誘導体、カルバゾール誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体等の含窒素芳香族化合物誘導体;トリフェニルアミン誘導体;シロール誘導体;オリゴチオフェン誘導体、縮合多環芳香族誘導体、金属錯体などが挙げられる。その中でも、ピリジン誘導体、ピラジン誘導体、ピリミジン誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、フェナントロリン誘導体、カルバゾール誘導体等の含窒素芳香族誘導体;トリフェニルアミン誘導体、シロール誘導体、縮合多環芳香族誘導体、金属錯体などが好ましく、特に、トリフェニルアミン誘導体がより好ましい。
【0181】
架橋性化合物を架橋して正孔輸送層を形成するには、通常、架橋性化合物を溶剤に溶解又は分散した正孔輸送層形成用組成物を調製して、湿式成膜により成膜して架橋させる。
正孔輸送層形成用組成物には、架橋性化合物の他、架橋反応を促進する添加物を含んでいてもよい。架橋反応を促進する添加物の例を挙げると、アルキルフェノン化合物、アシルホスフィンオキサイド化合物、メタロセン化合物、オキシムエステル化合物、アゾ化合物、オニウム塩等の重合開始剤及び重合促進剤;縮合多環炭化水素、ポルフィリン化合物、ジアリールケトン化合物等の光増感剤;などが挙げられる。
【0182】
また、さらに、レベリング剤、消泡剤等の塗布性改良剤;電子受容性化合物;バインダー樹脂;などを含有していてもよい。
正孔輸送層形成用組成物は、架橋性化合物を通常0.01重量%以上、好ましくは0.05重量%以上、さらに好ましくは0.1重量%以上、通常50重量%以下、好ましくは20重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下含有する。
【0183】
このような濃度で架橋性化合物を含む正孔輸送層形成用組成物を下層(通常は正孔注入層)上に成膜後、加熱及び/又は光などの活性エネルギー照射により、架橋性化合物を架橋させて網目状高分子化合物を形成する。
成膜時の温度、湿度などの条件は、前記正孔注入層の湿式成膜時と同様である。
成膜後の加熱の手法は特に限定されない。加熱温度条件としては、通常120℃以上、好ましくは400℃以下である。
【0184】
加熱時間としては、通常1分以上、好ましくは24時間以下である。加熱手段としては特に限定されないが、成膜された層を有する積層体をホットプレート上に載せたり、オーブン内で加熱するなどの手段が用いられる。例えば、ホットプレート上で120℃以上、1分間以上加熱する等の条件を用いることができる。
光などの活性エネルギー照射による場合には、超高圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、ハロゲンランプ、赤外ランプ等の紫外・可視・赤外光源を直接用いて照射する方法、あるいは前述の光源を内蔵するマスクアライナ、コンベア型光照射装置を用いて照射する方法などが挙げられる。光以外の活性エネルギー照射では、例えばマグネトロンにより発生させたマイクロ波を照射する装置、いわゆる電子レンジを用いて照射する方法が挙げられる。照射時間としては、膜の溶解性を低下させるために必要な条件を設定することが好ましいが、通常、0.1秒以上、好ましくは10時間以下照射される。
【0185】
加熱及び光などの活性エネルギー照射は、それぞれ単独、あるいは組み合わせて行ってもよい。組み合わせる場合、実施する順序は特に限定されない。
このようにして形成される正孔輸送層の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、また通常300nm以下、好ましくは100nm以下である。
[発光層]
正孔注入層の上、又は正孔輸送層を設けた場合には正孔輸送層の上には発光層が設けられる。発光層は、電界を与えられた電極間において、陽極から注入された正孔と、陰極か
ら注入された電子との再結合により励起されて、主たる発光源となる層である。
【0186】
{発光層の材料}
発光層は、その構成材料として、少なくとも、発光の性質を有する材料(発光材料)を含有するとともに、好ましくは、正孔輸送の性質を有する化合物(正孔輸送性化合物)、あるいは、電子輸送の性質を有する化合物(電子輸送性化合物)を含有する。発光材料をドーパント材料として使用し、正孔輸送性化合物や電子輸送性化合物などをホスト材料として使用してもよい。発光材料については特に限定はなく、所望の発光波長で発光し、発光効率が良好である物質を用いればよい。さらに、発光層は、本発明の効果を著しく損なわない範囲で、その他の成分を含有していてもよい。なお、湿式成膜法で発光層を形成する場合は、何れも低分子量の材料を使用することが好ましい。
【0187】
(発光材料)
発光材料としては、任意の公知の材料を適用可能である。例えば、蛍光発光材料であってもよく、燐光発光材料であってもよいが、内部量子効率の観点から、好ましくは燐光発光材料である。また、青色は蛍光発光材料を用い、緑色や赤色は燐光発光材料を用いるなど、組み合わせて用いてもよい。
【0188】
なお、溶剤への溶解性を向上させる目的で、発光材料の分子の対称性や剛性を低下させたり、或いはアルキル基などの親油性置換基を導入したりすることが好ましい。
以下、発光材料のうち蛍光発光材料の例を挙げるが、蛍光色素は以下の例示物に限定されるものではない。
青色発光を与える蛍光発光材料(青色蛍光色素)としては、例えば、ナフタレン、ペリレン、ピレン、クリセン、アントラセン、クマリン、p−ビス(2−フェニルエテニル)ベンゼン及びそれらの誘導体等が挙げられる。
【0189】
緑色発光を与える蛍光発光材料(緑色蛍光色素)としては、例えば、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体、Al(C96NO)3などのアルミニウム錯体等が挙げられる。
黄色発光を与える蛍光発光材料(黄色蛍光色素)としては、例えば、ルブレン、ペリミドン誘導体等が挙げられる。
赤色発光を与える蛍光発光材料(赤色蛍光色素)としては、例えば、DCM(4−(dicyanomethylene)−2−methyl−6−(p−dimethylaminostyryl)−4H−pyran)系化合物、ベンゾピラン誘導体、ローダミン誘導体、ベンゾチオキサンテン誘導体、アザベンゾチオキサンテン等が挙げられる。
【0190】
燐光発光材料としては、例えば、長周期型周期表(以下、特に断り書きの無い限り「周期表」という場合には、長周期型周期表を指すものとする。)第7〜11族から選ばれる金属を含む有機金属錯体が挙げられる。
周期表第7〜11族から選ばれる金属として、好ましくは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金等が挙げられる。
【0191】
錯体の配位子としては、(ヘテロ)アリールピリジン配位子、(ヘテロ)アリールピラゾール配位子などの(ヘテロ)アリール基とピリジン、ピラゾール、フェナントロリンなどが連結した配位子が好ましく、特にフェニルピリジン配位子、フェニルピラゾール配位子が好ましい。ここで、(ヘテロ)アリールとは、アリール基又はヘテロアリール基を表す。
【0192】
燐光発光材料として、具体的には、トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム、トリス(2−フェニルピリジン)ルテニウム、トリス(2−フェニルピリジン)パラジウム、ビス(2−フェニルピリジン)白金、トリス(2−フェニルピリジン)オスミウム、トリ
ス(2−フェニルピリジン)レニウム、オクタエチル白金ポルフィリン、オクタフェニル白金ポルフィリン、オクタエチルパラジウムポルフィリン、オクタフェニルパラジウムポルフィリン等が挙げられる。
【0193】
発光材料として用いる化合物の分子量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常10000以下、好ましくは5000以下、より好ましくは4000以下、さらに好ましくは3000以下、また、通常100以上、好ましくは200以上、より好ましくは300以上、さらに好ましくは400以上の範囲である。発光材料の分子量が小さ過ぎると、耐熱性が著しく低下したり、ガス発生の原因となったり、膜を形成した際の膜質の低下を招いたり、或いはマイグレーションなどによる有機電界発光素子のモルフォロジー変化を来したりする場合がある。一方、発光材料の分子量が大き過ぎると、有機化合物の精製が困難となってしまったり、溶剤に溶解させる際に時間を要したりする傾向がある。
【0194】
なお、上述した発光材料は、いずれか1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
発光層における発光材料の割合は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.05重量%以上、通常35重量%以下である。発光材料が少なすぎると発光ムラを生じる可能性があり、多すぎると発光効率が低下する可能性がある。なお、2種以上の発光材料を併用する場合には、これらの合計の含有量が上記範囲に含まれるようにする。
【0195】
(正孔輸送性化合物)
発光層には、その構成材料として、正孔輸送性化合物を含有させてもよい。ここで、正孔輸送性化合物のうち、低分子量の正孔輸送性化合物の例としては、前述の正孔注入層における(低分子量の正孔輸送性化合物)として例示した各種の化合物のほか、例えば、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニルに代表される、2個以上の3級アミンを含み2個以上の縮合芳香族環が窒素原子に置換した芳香族ジアミン(特開平5−234681号公報)、4,4’,4”−トリス(1−ナフチルフェニルアミノ)トリフェニルアミン等のスターバースト構造を有する芳香族アミン化合物(Journal of Luminescence,1997年,Vol.72−74,pp.985)、トリフェニルアミンの四量体から成る芳香族アミン化合物(Chemical Communications,1996年,pp.2175)、2,2’,7,7’−テトラキス−(ジフェニルアミノ)−9,9’−スピロビフルオレン等のスピロ化合物(Synthetic Metals,1997年,Vol.91,pp.209)等が挙げられる。
【0196】
なお、発光層において、正孔輸送性化合物は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
発光層における正孔輸送性化合物の割合は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.1重量%以上、通常65重量%以下である。正孔輸送性化合物が少なすぎると短絡の影響を受けやすくなる可能性があり、多すぎると膜厚ムラを生じる可能性がある。なお、2種以上の正孔輸送性化合物を併用する場合には、これらの合計の含有量が上記範囲に含まれるようにする。
【0197】
(電子輸送性化合物)
発光層には、その構成材料として、電子輸送性化合物を含有させてもよい。ここで、電子輸送性化合物のうち、低分子量の電子輸送性化合物の例としては、2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3,4−オキサジアゾール(BND)や、2,5−ビス(6’−(2’,2”−ビピリジル))−1,1−ジメチル−3,4−ジフェニルシロール(PyPyS
PyPy)や、バソフェナントロリン(BPhen)や、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(BCP、バソクプロイン)、2−(4−ビフェニリル)−5−(p−ターシャルブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(tBu−PBD)や、4,4’−ビス(9−カルバゾール)−ビフェニル(CBP)等が挙げられる。なお、発光層において、電子輸送性化合物は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0198】
発光層における電子輸送性化合物の割合は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.1重量%以上、通常65重量%以下である。電子輸送性化合物が少なすぎると短絡の影響を受けやすくなる可能性があり、多すぎると膜厚ムラを生じる可能性がある。なお、2種以上の電子輸送性化合物を併用する場合には、これらの合計の含有量が上記範囲に含まれるようにする。
【0199】
{発光層の形成}
本発明に係る湿式成膜法により発光層を形成する場合は、上記材料を適切な溶剤に溶解させて発光層形成用組成物を調製し、それを用いて成膜することにより形成する。
発光層を本発明に係る湿式成膜法で形成するための発光層形成用組成物に含有させる発光層用溶剤としては、発光層の形成が可能である限り任意のものを用いることができる。発光層用溶剤の好適な例は、上記正孔注入層形成用組成物で説明した溶剤と同様である。
【0200】
発光層を形成するための発光層形成用組成物に対する発光層用溶剤の比率は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.01重量%以上、通常70重量%以下、である。なお、発光層用溶剤として2種以上の溶剤を混合して用いる場合には、これらの溶剤の合計がこの範囲を満たすようにする。
また、発光層形成用組成物中の発光材料、正孔輸送性化合物、電子輸送性化合物等の固形分濃度としては、通常0.01重量%以上、通常70重量%以下である。この濃度が大きすぎると膜厚ムラが生じる可能性があり、また、小さすぎると膜に欠陥が生じる可能性がある。
【0201】
発光層形成用組成物を湿式成膜後、得られた塗膜を乾燥し、溶剤を除去することにより、発光層が形成される。具体的には、上記正孔注入層の形成において記載した方法と同様である。湿式成膜法の方式は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されず、前述のいかなる方式も用いることができる。
発光層の膜厚は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常3nm以上、好ましくは5nm以上、また、通常200nm以下、好ましくは100nm以下の範囲である。発光層の膜厚が、薄すぎると膜に欠陥が生じる可能性があり、厚すぎると駆動電圧が上昇する可能性がある。
【0202】
[正孔阻止層]
発光層と後述の電子注入層との間に、正孔阻止層を設けてもよい。正孔阻止層は、発光層の上に、発光層の陰極側の界面に接するように積層される層である。
この正孔阻止層は、陽極から移動してくる正孔を陰極に到達するのを阻止する役割と、陰極から注入された電子を効率よく発光層の方向に輸送する役割とを有する。
【0203】
正孔阻止層を構成する材料に求められる物性としては、電子移動度が高く正孔移動度が低いこと、エネルギーギャップ(HOMO、LUMOの差)が大きいこと、励起三重項準位(T1)が高いことが挙げられる。このような条件を満たす正孔阻止層の材料としては、例えば、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(フェノラト)アルミニウム、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(トリフェニルシラノラト)アルミニウム等の混合配位子錯体、ビス(2−メチル−8−キノラト)アルミニウム−μ−オキソ−ビス−(2−メ
チル−8−キノリラト)アルミニウム二核金属錯体等の金属錯体、ジスチリルビフェニル誘導体等のスチリル化合物(特開平11−242996号公報)、3−(4−ビフェニルイル)−4−フェニル−5(4−tert−ブチルフェニル)−1,2,4−トリアゾール等のトリアゾール誘導体(特開平7−41759号公報)、バソクプロイン等のフェナントロリン誘導体(特開平10−79297号公報)などが挙げられる。さらに、国際公開第2005−022962号公報に記載の2,4,6位が置換されたピリジン環を少なくとも1個有する化合物も、正孔阻止層の材料として好ましい。
【0204】
なお、正孔阻止層の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
正孔阻止層の形成方法に制限はない。従って、湿式成膜法、蒸着法や、その他の方法で形成できる。
正孔阻止層の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.3nm以上、好ましくは0.5nm以上、また、通常100nm以下、好ましくは50nm以下である。
【0205】
[電子輸送層]
発光層と後述の電子注入層の間に、電子輸送層を設けてもよい。
電子輸送層は、素子の発光効率をさらに向上させることを目的として設けられるもので、電界を与えられた電極間において陰極から注入された電子を効率よく発光層の方向に輸送することができる化合物より形成される。
【0206】
電子輸送層に用いられる電子輸送性化合物としては、通常、陰極又は電子注入層からの電子注入効率が高く、かつ、高い電子移動度を有し注入された電子を効率よく輸送することができる化合物を用いる。このような条件を満たす化合物としては、例えば、8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体(特開昭59−194393号公報)、10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリンの金属錯体、オキサジアゾール誘導体、ジスチリルビフェニル誘導体、シロール誘導体、3−ヒドロキシフラボン金属錯体、5−ヒドロキシフラボン金属錯体、ベンズオキサゾール金属錯体、ベンゾチアゾール金属錯体、トリスベンズイミダゾリルベンゼン(米国特許第5645948号明細書)、キノキサリン化合物(特開平6−207169号公報)、フェナントロリン誘導体(特開平5−331459号公報)、2−t−ブチル−9,10−N,N’−ジシアノアントラキノンジイミン、n型水素化非晶質炭化シリコン、n型硫化亜鉛、n型セレン化亜鉛などが挙げられる。
【0207】
なお、電子輸送層の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
電子輸送層の形成方法に制限はない。従って、湿式成膜法、蒸着法や、その他の方法で形成することができる。
電子輸送層の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常1nm以上、好ましくは5nm以上、また、通常300nm以下、好ましくは100nm以下の範囲である。
【0208】
[電子注入層]
電子注入層は、陰極から注入された電子を効率よく発光層へ注入する役割を果たす。電子注入を効率よく行なうには、電子注入層を形成する材料は、仕事関数の低い金属が好ましい。例としては、ナトリウムやセシウム等のアルカリ金属、バリウムやカルシウムなどのアルカリ土類金属等が用いられ、その膜厚は通常0.1nm以上、5nm以下が好ましい。
【0209】
さらに、バソフェナントロリン等の含窒素複素環化合物や8−ヒドロキシキノリンのア
ルミニウム錯体などの金属錯体に代表される有機電子輸送化合物に、ナトリウム、カリウム、セシウム、リチウム、ルビジウム等のアルカリ金属をドープする(特開平10−270171号公報、特開2002−100478号公報、特開2002−100482号公報などに記載)ことにより、電子注入・輸送性が向上し優れた膜質を両立させることが可能となるため好ましい。この場合の膜厚は、通常、5nm以上、中でも10nm以上が好ましく、また、通常200nm以下、中でも100nm以下が好ましい。
【0210】
なお、電子注入層の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
電子注入層の形成方法に制限はない。従って、湿式成膜法、蒸着法や、その他の方法で形成することができる。
[陰極]
陰極は、発光層側の層(電子注入層又は発光層など)に電子を注入する役割を果たすものである。
【0211】
陰極の材料としては、前記の陽極に使用される材料を用いることが可能であるが、効率よく電子注入を行なうには、仕事関数の低い金属が好ましく、例えば、スズ、マグネシウム、インジウム、カルシウム、アルミニウム、銀等の適当な金属又はそれらの合金が用いられる。具体例としては、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、アルミニウム−リチウム合金等の低仕事関数合金電極が挙げられる。
【0212】
なお、陰極の材料は、1種のみを用いても BR>謔ュ、2種以上を任意の組み合わせ及
び比率で併用してもよい。
陰極の膜厚は、通常、陽極と同様である。
さらに、低仕事関数金属から成る陰極を保護する目的で、この上にさらに、仕事関数が高く大気に対して安定な金属層を積層すると、素子の安定性が増すので好ましい。この目的のために、例えば、アルミニウム、銀、銅、ニッケル、クロム、金、白金等の金属が使われる。なお、これらの材料は、1種のみで用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0213】
[その他の層]
本発明に係る有機電界発光素子は、その趣旨を逸脱しない範囲において、別の構成を有していてもよい。例えば、その性能を損なわない限り、陽極と陰極との間に、上記説明にある層の他に任意の層を有していてもよく、また、任意の層が省略されていてもよい。
[電子阻止層]
他の任意の層としては、例えば、電子阻止層が挙げられる。
【0214】
電子阻止層は、正孔注入層又は正孔輸送層と発光層との間に設けられ、発光層から移動してくる電子が正孔注入層に到達するのを阻止することで、発光層内で正孔と電子との再結合確率を増やし、生成した励起子を発光層内に閉じこめる役割と、正孔注入層から注入された正孔を効率よく発光層の方向に輸送する役割とがある。特に、発光材料として燐光材料を用いたり、青色発光材料を用いたりする場合は電子阻止層を設けることが効果的である。
【0215】
電子阻止層に求められる特性としては、正孔輸送性が高く、エネルギーギャップ(HOMO、LUMOの差)が大きいこと、励起三重項準位(T1)が高いこと等が挙げられる。さらに、本発明においては、発光層を本発明に係る有機層として湿式成膜法で作製する場合には、電子阻止層にも湿式成膜の適合性が求められる。このような電子阻止層に用いられる材料としては、F8−TFBに代表されるジオクチルフルオレンとトリフェニルアミンの共重合体(国際公開第2004/084260号パンフレット)等が挙げられる。
【0216】
なお、電子阻止層の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
電子阻止層の形成方法に制限はない。従って、湿式成膜法、蒸着法や、その他の方法で形成することができる。
さらに陰極と発光層又は電子輸送層との界面に、例えばフッ化リチウム(LiF)、フッ化マグネシウム(MgF2)、酸化リチウム(LiO)、炭酸セシウム(II)(C
sCO)等で形成された極薄絶縁膜(0.1〜5nm)を挿入することも、素子の効率を向上させる有効な方法である(Applied Physics Letters,1997年,Vol.70,pp.152;特開平10−74586号公報;IEEE Transactions on Electron Devices,1997年,Vol.44,pp.1245;SID 04 Digest,pp.154等参照)。
【0217】
また、以上説明した層構成において、基板以外の構成要素を逆の順に積層することも可能である。例えば、図1の層構成であれば、基板上に他の構成要素を陰極、電子注入層、電子輸送層、正孔阻止層、発光層、正孔輸送層、正孔注入層、陽極の順に設けてもよい。
さらには、少なくとも一方が透明性を有する2枚の基板の間に、基板以外の構成要素を積層することにより、本発明に係る有機電界発光素子を構成することも可能である。
【0218】
また、基板以外の構成要素(発光ユニット)を複数段重ねた構造(発光ユニットを複数積層させた構造)とすることも可能である。その場合には、各段間(発光ユニット間)の界面層(陽極がITO、陰極がAlの場合は、それら2層)の代わりに、例えば五酸化バナジウム(V)等からなる電荷発生層(Carrier Generation Layer:CGL)を設けると、段間の障壁が少なくなり、発光効率・駆動電圧の観点からより好ましい。
【0219】
さらには、本発明に係る有機電界発光素子は、単一の有機電界発光素子として構成してもよく、複数の有機電界発光素子がアレイ状に配置された構成に適用してもよく、陽極と陰極がX−Yマトリックス状に配置された構成に適用してもよい。
また、上述した各層には、本発明の効果を著しく損なわない限り、材料として説明した以外の成分が含まれていてもよい。
【0220】
<有機EL表示装置>
本発明の有機EL表示装置は、上述の本発明の有機電界発光素子を用いたものである。本発明の有機EL表示装置の型式や構造については特に制限はなく、本発明の有機電界発光素子を用いて常法に従って組み立てることができる。
例えば、「有機ELディスプレイ」(オーム社、平成16年8月20日発行、時任静士、安達千波矢、村田英幸著)に記載されているような方法で、本発明の有機EL表示装置を形成することができる。
【0221】
<有機EL照明>
本発明の有機EL照明は、上述の本発明の有機電界発光素子を用いたものである。本発明の有機EL照明の型式や構造については特に制限はなく、本発明の有機電界発光素子を用いて常法に従って組み立てることができる。
【実施例】
【0222】
次に、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
[モノマーの合成]
(化合物1の合成)
【0223】
【化27】

【0224】
窒素雰囲気下、4,4’−(1,3−ジメチルブチリデン)ジフェノール(15g,55.48mmol)、トリエチルアミン(22.46g,221.92mmol)、塩化メチレン(150mL)を入れ、0℃で撹拌した。そこへトリフルオロメタンスルホン酸無水物(37.56g,133.16mmol)を加え、室温で6時間撹拌した。反応混合物に水と1N塩酸を入れ塩化メチレンで抽出、有機層を水と1N塩酸の混合液で洗浄後、食塩水で洗浄、硫酸マグネシウムで乾燥、減圧下で濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/塩化メチレン=3/1)にて精製することで化合物1(19.1g)を得た。
(化合物2の合成)
【0225】
【化28】

【0226】
窒素雰囲気下、化合物1(19.1g,35.73mmol)、ビスピナコラートジボラン(21.78g,85.76mmol)、酢酸カリウム(17.89g,182.25mmol)の脱水ジメチルスルホキシド(157mL)懸濁液を60℃に加熱後、ジクロロ[1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]パラジウム(II)ジクロロメタン付加物(1.46g,1.79mol)を加えた、温度を80℃に上昇させ、4時間攪拌した。室温まで放冷後、反応混合物に水を入れ、析出した結晶を濾取し、塩化メチレンに溶解させ、硫酸マグネシウムと白土を入れ、攪拌後、濾過し、濾液を濃縮、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/塩化メチレン=1/1)にて精製し、ヘキサンで懸洗することで化合物2(7.9g)を得た。
(化合物3の合成)
【0227】
【化29】

【0228】
素雰囲気下、化合物2(13.2g,26.92mmol)、4−ブロモヨードベンゼン(17.67g,62.47mmol)、トルエン(268mL)、エタノール(13
4mL)溶液に、室温でテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(1.56g,1.35mmol)、2M三りん酸カリウム水溶液(67mL)を加え、8時間半還流させた。室温まで放冷後、反応混合物をトルエンで抽出、有機層を水で洗浄、硫酸マグネシウムで乾燥、減圧下で濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/塩化メチレン=8/1)にて精製、濃縮後ヘキサンを少量入れて結晶を析出させることでモノマー3(8.3g)を得た。
(化合物4の合成)
【0229】
【化30】

【0230】
窒素気流中、500mlフラスコに、4,4’−(1,3−ジメチルブチリデン)ジフェノール(25.52g)を塩化メチレン(200ml)に懸濁させ、氷水浴でピリジン(10ml)を加え溶解した。その後、パラトルエンスルホン酸無水物(17.5ml)と塩化メチレン(100ml)の混合溶液を50分間かけて滴下した。氷水浴を外して1時間撹拌した後、塩化メチレン120mlを加え、水で分液洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した。ろ過し、有機層を濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグフィー(ヘキサン:酢酸エチル=3:1)で精製することにより、化合物4(10.2g)を得た。
(化合物5の合成)
【0231】
【化31】

【0232】
窒素気流中、500mlフラスコに、化合物4(10.2g)、ビスピナコラートジボロン(7.66g)、酢酸カリウム(8.4g)、ジクロロ(ジフェニルホスフィノフェロセン)(塩化メチレン)パラジウム(0.63g)およびジメチルスルホキシド(80ml)を入れ、80℃で9時間撹拌した。その後塩化メチレン(200ml)を加え水で分液洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥した。ろ過し、有機層を濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグフィー(ヘキサン:酢酸エチル=4:1)で精製することにより、化合物5(8.5g)を得た。
(化合物6の合成)
【0233】
【化32】

【0234】
窒素気流中、1Lフラスコに、化合物5(8.5g)、4−ブロモベンゾシクロブテン(5.0g)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(1.27g)、トルエン(50ml)、エタノール(25ml)および2Mりん酸三カリウム(30ml)を入れ、還流下6時間撹拌した。冷却後、トルエン(50ml)を加え、水で分液洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥した。ろ過し、有機層を濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグフィー(ヘキサン:酢酸エチル=4:1)で精製することにより、化合物6(6.2g)を得た。
(化合物7の合成)
【0235】
【化33】

【0236】
窒素気流中、500mlフラスコに、化合物6(6.2g)を塩化メチレン(50ml)に懸濁させ、氷水浴でトリエチルアミン(13ml)を加え溶解した。その後、パラトルエンスルホン酸無水物(7.2ml)と塩化メチレン(10ml)の混合溶液を50分間かけて滴下した。氷水浴を外して1時間撹拌した後、塩化メチレン100mlを加え、水で分液洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した。ろ過し、有機層を濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグフィー(ヘキサン:酢酸エチル=85:15)で精製することにより、化合物7(7.6g)を得た。
(化合物8の合成)
【0237】
【化34】

【0238】
窒素気流中、500mlフラスコに、化合物7(7.6g)、4−アセトアミドフェニルボロン酸(3.28g)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(1.63g)、トルエン(40ml)、エタノール(20ml)および2M りん酸三カリウム(20ml)を入れ、還流下5時間撹拌した。冷却後、トルエン(50ml)を加え、水で分液洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥した。ろ過し、有機層を濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグフィー(ヘキサン:酢酸エチル=4:1〜2:1
)で精製することにより、化合物8(5.0g)を得た。
(化合物9の合成)
【0239】
【化35】

【0240】
窒素気流中、500mlナスフラスコに、化合物8(5.0g)、50%KOH水溶液(114g)及びエタノール(100ml)を加え、3時間還流下撹拌した。冷却後、トルエン(100ml)を加え、水で分液洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥した。ろ過し、有機層を濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグフィー(ヘキサン:酢酸エチル=4:1)で精製することにより、化合物9(4.1g)を得た。
(化合物10の合成)
【0241】
【化36】

【0242】
p−n−ヘキシルフェニルボロン酸(18.2g、88.37mmol)、p−ヨードブロモベンゼン(25.0g、88.37mmol)、りん酸三カリウム(56.2g、265.11mmol)、及びトルエン(250ml)、エタノール(125ml)、水(125ml)を仕込み、系内を十分に窒素置換して80℃まで加温した。テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(1.0g、865μmol)を加え、80℃で2
時間半、攪拌した。反応液に水を加え、酢酸エチルで抽出を行った。有機層を濃縮し、カラムクロマトグラフィー(展開液:ヘキサン)により精製した。40℃で減圧乾燥することにより、化合物10(25.58g、収率91.3%)を得た。
化合物3のHPLC純度は99.6面積%であった。
(化合物11の合成)
【0243】
【化37】

【0244】
窒素気流中、500mlフラスコに、ジ(4−ブロモフェニル)アミン(12.55g)、パラトリルボロン酸(12.58g)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(1.32g)、トルエン(150ml)、エタノール(50ml)および2Mり
ん酸三カリウム(80ml)を加え、2.5時間還流下撹拌した。室温まで冷却したのち、反応液を水、飽和食塩水で洗浄し、油層に塩化メチレン(500ml)およびテトラヒドロフラン(1.2L)を加え溶解させ、硫酸マグネシウムで乾燥した。ろ過し、有機層
を濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグフィー(ヘキサン:塩化メチレン=3:1〜塩化メチレンのみ)で精製することにより、化合物11(11.5g)を得た。
(化合物13の合成)
【0245】
【化38】

【0246】
フラスコに、窒素気流下で化合物12(19.26g、93.48mmol)、4−ブロモアニリン(13.4g、77.90mmol)、トルエン120mL及びエタノール60mLを入れ室温で攪拌した。これに2M炭酸ナトリウム水溶液60mLを入れ、30分間、室温で窒素バブリングを行った。次いでテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(2.7g、2.34mmol)を入れ、窒素下で5時間加熱還流した。放冷後、有機層を濃縮し、カラムクロマトグラフィー(展開液:ヘキサン/酢酸エチル=6/1)により精製した。60℃で減圧乾燥することにより、化合物13(8.8g、収率45%)を得た。
(化合物15の合成)
【0247】
【化39】

【0248】
フラスコに、窒素気流下で化合物10(4.27g、13.4mmol)、化合物14(5.72g、16.4mmol)、乾燥トルエン42mLを入れ、30分間、室温で窒素バブリングを行った。次いでトリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(185mg、0.20mmol)、ジフェニルホスフィノフェロセン(457mg,0.82mmol)、ナトリウムt−ブトキシド(2.4g、25.0mmol)を入れ、窒素下95℃で1時間撹拌した。放冷後、水とトルエンを加え分液洗浄し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥、ろ過後濃縮した。得られるオイルをカラムクロマトグラフィー(展開液:ヘキサン/酢酸エチル=95/5)により精製し、化合物15(3.96g、収率50.4%)を得た。化合物15のHPLC純度は99.2面積%であった。
(化合物16の合成)
【0249】
【化40】

【0250】
窒素気流中、2−ブロモフルオレン(10.0g)、脱水テトラヒドロフラン(200ml)を仕込み、−78℃に冷却した。1.14Mリチウムジイソプロピルアミドのテトラヒドロフラン溶液(34ml)を滴下し、そのまま3時間反応した。n−ヘキシルブロマイド(6.33g)を滴下し、室温まで徐々に昇温した。2時間攪拌した後、反応液に水と飽和塩化アンモニウム水溶液を加え、ヘキサン、酢酸エチルで抽出し、有機層を水洗し、濃縮した。さらに、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン)で精製することにより、化合物16(10.1g)を得た。
(化合物17の合成)
【0251】
【化41】

【0252】
窒素気流中、4−ブロモベンゾシクロブタン(16.0g)、脱水テトラヒドロフラン(175ml)を仕込み、−78℃に冷却した。1.64Mブチルリチウムのテトラヒドロフラン溶液(53.3ml)を滴下し、そのまま1時間反応した。1,6−ジブロモヘキサン(21.3g)を滴下し、室温まで徐々に昇温した。2時間攪拌した後、反応液に水と飽和塩化アンモニウム水溶液を加え、ヘキサン、酢酸エチルで抽出し、有機層を水洗し、濃縮した。続いて30mmHgの減圧下で160℃に加熱し、不用成分を留去した。さらに、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン)で精製し、化合物17(13.7g)を得た。
(化合物18の合成)
【0253】
【化42】

【0254】
窒素気流中、化合物16(8.4g)、脱水テトラヒドロフラン(150ml)を仕込み、−78℃に冷却した。1.14Mリチウムジイソプロピルアミドのテトラヒドロフラ
ン溶液(24.6ml)を滴下し、―20℃まで昇温しそのまま20分反応した。化合物17(6.60g)を滴下し、室温まで徐々に昇温した。2時間攪拌した後、反応液に水と飽和塩化アンモニウム水溶液を加え、ヘキサン、酢酸エチルで抽出し、有機層を水洗し、濃縮した。さらに、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン)で精製することにより、化合物18(11.0g)を得た。
【0255】
[ポリマーの合成]
(合成例1:目的ポリマー1の合成)
【0256】
【化43】

【0257】
化合物14(1.869g、6.818mmol)、化合物18(0.130g、0.476mmol)、化合物3(2.000g、3.647mmol)及びtert-ブトキシ
ナトリウム(2.383g、24.8mmol)、トルエン(20ml)を仕込み、系内を十分に窒素置換して、65℃まで加温した(溶液A)。トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウムクロロホルム錯体(0.0755g、0.0729mmol)のトルエン3ml溶液に、トリ−t−ブチルホスフィン(0.118g、0.584mmol)を加え、65℃まで加温した(溶液B)。窒素気流中、溶液Aに溶液Bを添加し、1.5時間、加熱還流反応した。化合物3、14及び18が消失したことを確認し、化合物3(1.841g)を追添加した。1.5時間加熱還流し、反応液を放冷して、反応液をエタノール500ml中に滴下し、粗ポリマー1を晶出させた。
【0258】
得られた粗ポリマー1をトルエン100mlに溶解させ、化合物15(0.427g)、tert-ブトキシナトリウム(2.24g)を仕込み、系内を十分に窒素置換して、65
℃まで加温した(溶液C)。トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウムクロロホルム錯体(0.038g)のトルエン3ml溶液に、トリ−t−ブチルホスフィン(0.059g)を加え、65℃まで加温した(溶液D)。窒素気流中、溶液Cに溶液Dを添加し、4時間、加熱還流反応した。この反応液に、化合物10(0.694g)、再調液した溶液Dを添加し、さらに、2時間、加熱還流反応した。反応液を放冷し、エタノール50
0mlに滴下し、エンドキャップした粗ポリマー1を得た。
【0259】
このエンドキャップした粗ポリマー1をトルエンに溶解し、アセトンに再沈殿し、析出したポリマーを濾別した。粗ポリマー1をトルエンに溶解し、希塩酸にて洗浄し、アンモニア含有エタノールにて再沈殿した。濾取したポリマーをカラムクロマトグラフィーにより精製し、目的ポリマー1を得た(2.1g)。
重量平均分子量(Mw)=7.5万
数平均分子量(Mn)=4.9万
分散度(Mw/Mn)=1.52
(合成例2:目的ポリマー2の合成)
【0260】
【化44】

【0261】
化合物13(1.743g、6.877mmol)、化合物9(0.180g、0.417mmol)、化合物3(2.000g、3.647mmol)及びtert−ブトキシナトリウム(2.383g、24.8mmol)、トルエン(20ml)を仕込み、系内を十分に窒素置換して、65℃まで加温した(溶液A)。トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウムクロロホルム錯体(0.0755g、0.0729mmol)のトルエン3ml溶液に、トリ−t−ブチルホスフィン(0.118g、0.584mmol)を加え、65℃まで加温した(溶液B)。窒素気流中、溶液Aに溶液Bを添加し、2.1時間、加熱還流反応した。化合物3、9及び13が消失したことを確認し、化合物3(1.98g)を追添加した。1.5時間加熱還流し、反応液を放冷して、反応液をエタノール500ml中に滴下し、粗ポリマー2を晶出させた。
【0262】
得られた粗ポリマー2をトルエン100mlに溶解させ、化合物11(0.463g)、tert-ブトキシナトリウム(2.24g)を仕込み、系内を十分に窒素置換して、65
℃まで加温した(溶液C)。トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウムクロロホルム錯体(0.038g)のトルエン3ml溶液に、トリ−t−ブチルホスフィン(0.059g)を加え、65℃まで加温した(溶液D)。窒素気流中、溶液Cに溶液Dを添加し、2時間、加熱還流反応した。この反応液に、化合物11(1.275g)、再調液した溶液Dを添加し、さらに、4時間、加熱還流反応した。反応液を放冷し、エタノール500mlに滴下し、エンドキャップした粗ポリマー2を得た。
【0263】
このエンドキャップした粗ポリマー2をトルエンに溶解し、アセトンに再沈殿し、析出したポリマーを濾別した。粗ポリマー2をトルエンに溶解し、希塩酸にて洗浄し、アンモニア含有エタノールにて再沈殿した。濾取したポリマーをカラムクロマトグラフィーにより精製し、目的ポリマー2を得た(1.7g)。
重量平均分子量(Mw)=7.8万
数平均分子量(Mn)=5.1万
分散度(Mw/Mn)=1.54
<重合体の部分構造のIP及びEaの計算値の算出>
(参考例1:目的ポリマー1に関する計算)
本発明の式(I)に倣って表記した目的ポリマー1を下記に示す。
【0264】
【化45】

【0265】
上記目的ポリマー1における測定対象ユニットは、下記測定対象ユニット(1−1)及び(1−2)の2種となる。
該測定対象ユニットに関して、下記[IPの計算方法]および [EAの計算方法]によりIP、EA計算値を算出した。結果を表1に示す。
【0266】
【化46】

【0267】
【表6】

【0268】
上記表1より、
IPmax=IPmin=4.79(eV)
EAmax=EAmin=0.94(eV)
である。これより、式(1)及び(2)の右辺値は、各々下記の通りである。
式(1):IPmax−IPmin=0
式(2):EAmax― EAmin=0
[IPの計算方法]
(STEP1:恣意性をなくすため統計物理に満たす十分な数のサンプリング初期分子構造の発生)重合体に含まれる各計算対象ユニットに関し、分子モデリングにて立体分子構造を作成した。
【0269】
該立体分子構造に対し、Stochastic Monte Carlo法を用いて初期分子構造をサンプリングした。
Stochastic Monte Carlo法で構造をサンプリングする手法では、まずモデリングにて作成された仮の立体分子構造に対して、ランダムにその構造を変化させ、新しい構造を発生させた。そしてその新旧二つ構造のエネルギー値を用い、構造間の遷移確率を計算した。さらに[0,1]の範囲で一つ乱数を発生し、その乱数が遷移確率より小さいか等しい場合
に、新しい構造はより安定な構造として採用した。また乱数が遷移確率より大きい場合には、新たな構造がエネルギー的に安定ではないため、古い構造の方を安定な構造として採用した。該手続きを繰り返し、エネルギーポテンシャル面でのエネルギー的な安定な局所構造(ローカルミニマム構造)を複数求めた。その際ローカルミニマム構造の数は十分にBoltzman分布の構造平均を再現できるように発生させた。最終的に全部で10個のローカルミニマム構造を発生させた。
【0270】
Stochastic Monte Carlo法の計算では、分子エネルギーを計算するときに最大ランダムオフセットを0.05nmと設定し、また力場はMMFF94 (Halgren, T.A. J. Comput. Chem. 1996, 17, 490)を用いた。実際の計算はChemBio3D Ultra 12.0 (Molecular Modeling Software by CambridgeSoft Corporation) を用いて実行した。
(STEP2:量子化学計算による立体分子構造の最適化)
前記(STEP1)で求めた10個のローカルミニマム分子構造に対して、量子化学計算での構造最適化を行った。
【0271】
STEP2の半経験的量子化学計算による構造最適化ではPM6法(Stewart, J.J.P. J. Mol. Model. 2007, 13, 1173)を用い基底状態の最適化計算を行った。その上でより計算精度
の高い非経験的分子軌道計算として密度汎関数法を用いた。その時汎関数としてはハイブリッド型のB3LYP(Becke, A.D. J. Chem. Phys. 1993, 98, 5648)を用い、基底関数は6-31G**を使って最終的に10個の基底状態のローカルミニマムの立体構造を計算した。このよ
うにして求めた10個の精度の高いローカルミニマムの最適化構造をIPを見積もるための分子構造とした。
【0272】
尚、全ての分子最適化計算はGaussian09プログラム(Gaussian 09, Revision A.1, M. J. Frisch, G. W. Trucks, H. B. Schlegel, G. E. Scuseria, M. A. Robb, J. R. Chees
eman, G. Scalmani, V. Barone, B. Mennucci, G. A. Petersson, H. Nakatsuji, M. Caricato, X. Li, H. P. Hratchian, A. F. Izmaylov, J. Bloino, G. Zheng, J. L. Sonnenberg, M. Hada, M. Ehara, K. Toyota, R. Fukuda, J. Hasegawa, M. Ishida, T. Nakajima, Y. Honda, O. Kitao, H. Nakai, T. Vreven, J. A. Montgomery, Jr., J. E. Peralta, F. Ogliaro, M. Bearpark, J. J. Heyd, E. Brothers, K. N. Kudin, V. N. Staroverov, R. Kobayashi, J. Normand, K. Raghavachari, A. Rendell, J. C. Burant, S. S. Iyengar, J. Tomasi, M. Cossi, N. Rega, J. M. Millam, M. Klene, J. E. Knox, J. B. Cross, V. Bakken, C. Adamo, J. Jaramillo, R. Gomperts, R. E. Stratmann, O. Yazyev, A. J. Austin, R. Cammi, C. Pomelli, J. W. Ochterski, R. L. Martin, K. Morokuma, V. G. Zakrzewski, G. A. Voth, P. Salvador, J. J. Dannenberg, S. Dapprich, A. D. Daniels, O. Farkas, J. B. Foresman, J. V. Ortiz, J. Cioslowski, and D. J. Fox, Gaussian, Inc., Wallingford CT, 2009.)を用いて実行した。
【0273】
(STEP3:IPの算出)
上記(STEP2:量子化学計算による立体分子構造の最適化)で非経験的量子化学計算により最終的に得られた10個のローカルミニマム構造でのHOMOの軌道エネルギーの値を利用して、それぞれのローカルミニマムにおいてIP値をヤナックの定理に基づいてIP=−(HOMOの軌道エネルギー値)の式により算出した(同様にEA=-(LUMOの軌道エネルギ
ー)で算出する)。さらに10個のローカルミニマムに対するIPの値から平均値(IPの平
均値)を求めた。
【0274】
[EAの計算方法]
前記(STEP1:分子構造の発生)〜(STEP2:構造の最適化)と同様にして行った。
更に、前記(STEP3:IPの算出)において、同様に(STEP2:構造の最適化)で最終的に得られた10個の最適化構造LUMOエネルギー値を利用して、それぞれEA値がヤナックの定理に基づき軌道エネルギーからEA=−(LUMOの軌道エネルギー値)で算出する。それらEAの平均値は目的の重合体の単位ユニットのEA値とした。 (参考例2:目的ポリマー2に関する計算)
本発明の式(I)に倣って表記した目的ポリマー2を下記に示す。
【0275】
【化47】

【0276】
上記目的ポリマー2における測定対象ユニットは、下記測定対象ユニット(2−1)〜(2−3)の3種となる。
該測定対象ユニットに関して、実施例1と同様にして、IP及びEAの計算値を算出した。
結果を表2に示す。
【0277】
【化48】

【0278】
【表7】

【0279】
上記表2より、
IPmax=IPmin=4.84(eV)
EAmax=EAmin=0.89(eV)
である。これより、式(1)及び(2)の右辺値は、各々下記の通りである。
式(1):IPmax−IPmin=0
式(2):EAmax― EAmin=0
(比較例1:比較ポリマー1に関する計算)
【0280】
【化49】

【0281】
上記目的ポリマー3における測定対象ユニットは、下記測定対象ユニット(A−1)〜(A−5)の3種となる。
該測定対象ユニットに関して、実施例1と同様にして、IP及びEAの計算値を算出した。
結果を表4に示す。
【0282】
【化50】

【0283】
【表8】

【0284】
上記表4より、
IPmax = 4.92
IPmin = 4.79
EAmax = 0.94
EAmin = 0.76
である。これより、式(1)及び(2)の右辺値は、各々下記の通りである。
【0285】
式(1):IPmax ―IPmin=0.13
式(2):EAmax― EAmin=0.18
(実施例1)
図1に示す有機電界発光素子を作製した。
17.5mm×35mm(厚さ0.7mm)サイズのガラス基板を、界面活性剤水溶液による超音波洗浄、超純水による水洗、超純水による超音波洗浄、超純水による水洗の順で洗浄後、窒素ブローで乾燥させ、最後に紫外線オゾン洗浄を行なった。
【0286】
このガラス基板の上にインジウム・スズ酸化物(ITO)透明導電膜を70nm成膜したもの(スパッタ成膜品)を通常のフォトリソグラフィ技術により2mm幅のストライプにパターニングして陽極を形成した。陽極を形成した基板を、アセトンによる超音波洗浄、純水による水洗、イソプロピルアルコールによる超音波洗浄の順で洗浄後、窒素ブローで乾燥させ、最後に紫外線オゾン洗浄を行った。
【0287】
正孔注入層を形成するポリマー材料として、下記式に表す構造の高分子化合物P−1(重量平均分子量(Mw):52000、分散度:1.55)、電子受容性化合物として、下記式に表す構造の化合物A−1および溶剤として安息香酸エチルを含有する正孔注入層形成用組成物を調製した。組成物中、該高分子化合物P−1は4.0重量%、該化合物A−1は0.8重量%の濃度とした。この組成物を、スピナ回転数2700rpm、スピナ回転時間30秒、大気中にてスピンコート法により、上記陽極上に成膜し、230℃で1時間加熱することにより、該高分子化合物P−1を架橋させ、乾燥させることにより、膜厚65nmの均一な薄膜(正孔注入層)を形成した。
【0288】
【化51】

【0289】
引き続き、正孔輸送層を形成するポリマー材料として、合成例1で合成された目的ポリ
マー1(重量平均分子量(Mw):7.5万、分散度:1.52)および溶剤としてシクロヘキシルベンゼンを含有する正孔輸送層形成用組成物を調製した。組成物中、目的ポリマー1は、1.4重量%の濃度とした。この組成物を、スピナ回転数1800rpm、スピナ回転時間30秒、大気中にてスピンコート法により、上記正孔注入層上に成膜し、230℃で1時間、大気中にて加熱することにより、該目的ポリマー1を乾燥させることにより、膜厚20nmの均一な薄膜(正孔輸送層)を形成した。
【0290】
【化52】

【0291】
続いて、正孔輸送層上に下記に表す構造を有する有機化合物(C1)を蒸着した。蒸着時の真空度は1.3×10−4Pa、蒸着速度は1.6〜1.8Å/秒の範囲で制御し、膜厚は60nmとした。
【0292】
【化53】

【0293】
その後、蒸着装置に設置し、陰極蒸着用のマスクとして2mm幅のストライプ状シャドーマスクを、陽極のITOストライプとは直交するように素子に密着させて、装置内の真空度が2.3×10−4Pa以下になるまで排気を行った。
電子注入層として、先ずフッ化リチウム(LiF)を、モリブデンボートを用いて、蒸着速度0.1Å/秒、0.5nmの膜厚でC1上に成膜した。蒸着時の真空度は2.6×10−4Paであった。
【0294】
次に、陰極としてアルミニウムを同様にモリブデンボートにより加熱して、蒸着速度1.0〜4.9Å/秒の範囲で制御し、膜厚80nmのアルミニウム層を形成した。蒸着時の真空度は2.6×10−4Paであった。以上の2層の蒸着時の基板温度は室温に保持した。
以上の様にして、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子が
得られた。この素子の発光特性は、1cd/m時の駆動電圧が2.82V、1000cd/m時の発光効率が2.61lm/Wであった。
【0295】
結果を表5に示す。
(比較例1)
正孔輸送層を形成するポリマー材料として、下記式に表す構造の比較ポリマー1(重量平均分子量(Mw):7.5万、分散度:1.52)を用いた以外は、実施例1と同様にして、有機電界発光素子を作製した。
【0296】
以上の様にして、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子が得られた。この素子の発光特性は、1cd/m時の駆動電圧が2.87V、1000cd/m時の発光効率が2.26lm/Wであった。結果を表5に示す。
【0297】
【化54】

【0298】
【表9】

【0299】
表5に示すが如く、本発明の重合体を用いて得られた素子は、駆動電圧が低く、また発光効率が高い。
【符号の説明】
【0300】
1 基板
2 陽極
3 正孔注入層
4 正孔輸送層
5 発光層
6 正孔阻止層
7 電子輸送層
8 電子注入層
9 陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表される繰り返し単位からなる重合体であって、
該重合体は、架橋性基を含み、且つ、式(I)で表される繰り返し単位を2種以上含み、
更に、下記式(1)を満たすことを特徴とする、重合体。
【化1】

(上記式(I)中、Ar〜Arは、各々独立して、置換基を有していてもよい芳香族環基又は該芳香族環を2〜5個連結した基を表す。
Xは、−O−、−S−、及び−CR−のいずれか一つを表し、
及びRは、各々独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有してもよい芳香族環基又は該芳香族環を2〜4個連結した基を表す。
は、1〜5の整数を表す。)
IPmax−IPmin≦0.1eV (1)
(上記式(1)中、
IPmaxは、前記重合体中に2種以上含まれる下記式(I−1)で表される部分構造のうちの、最大のイオン化ポテンシャルを表し、
IPminは、前記重合体中に2種以上含まれる下記式(I−1)で表される部分構造のうちの、最小のイオン化ポテンシャルを表す。)
【化2】

【請求項2】
前記式(I)で表される繰り返し単位が、更に下記式(II)で表されることを特徴とする、請求項1に記載の重合体。
【化3】

(上記式(II)中、R11及びR12は前記R及びRと、Ar11〜Ar13は前記Ar〜Arと、nは、前記nと同義である。
尚、上記式(II)における、IPmax及びIPminは、各々重合体中に2種以上含まれる下記式(II−1)で表される部分構造の最大のイオン化ポテンシャル及び最小
のイオン化ポテンシャルを表す。)
【化4】

【請求項3】
更に、下記式(2)を満たすことを特徴とする、請求項1又は2に記載の重合体。
EAmax−EAmin≦0.1eV (2)
(上記式(2)中、
EAmaxは、前記重合体中に2種以上含まれる前記式(I−1)又は(II−1)で表される部分構造のうちの、最大の電子親和力を表し、
EAminは、前記重合体中に2種以上含まれる前記式(I−1)又は(II−1)で表される部分構造のうちの、最小の電子親和力を表す。)
【請求項4】
前記架橋性基が、下記架橋性基群Tの中から選ばれる基である請求項1〜3のいずれか一項に記載の重合体。
<架橋性基群T>
【化5】

(前記式中、
21〜R23は、各々独立に、水素原子又は置換基を有していてもよいアルキル基を表す。
Ar21は置換基を有していてもよい芳香族環基を表す。)
【請求項5】
重量平均分子量(Mw)が20,000以上であり、分散度(Mw/Mn;Mnは数平均分子量を表す。)が2.5以下であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の重合体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の重合体からなることを特徴とする、有機電界発光素子用材料。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の重合体及び溶剤を含有することを特徴とする、有機電界発光素子用組成物。
【請求項8】
基板上に、陽極、陰極、及び該陽極と該陰極の間に有機層を有する有機電界発光素子において、
該有機層が、請求項7に記載の有機電界発光素子用組成物を用いて、湿式成膜法で形成された層を含むことを特徴とする、有機電界発光素子。
【請求項9】
前記湿式成膜法で形成された層が、正孔注入層及び/又は正孔輸送層であることを特徴とする、請求項8に記載の有機電界発光素子。
【請求項10】
前記の正孔注入層及び正孔輸送層並びに発光層を有し、
前記の正孔注入層、正孔輸送層及び発光層の全てが湿式成膜法により形成された請求項9に記載の有機電界発光素子。
【請求項11】
請求項8〜10いずれか一項に記載の有機電界発光素子を有することを特徴とする、有機EL表示装置。
【請求項12】
請求項8〜10のいずれか一項に記載の有機電界発光素子を有することを特徴とする、有機EL照明。

【図1】
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【公開番号】特開2013−18946(P2013−18946A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−155872(P2011−155872)
【出願日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】