説明

重合体の製造方法および重合体

【課題】少なくとも、アセタール骨格を有する単量体と、ラクトン環を有する単量体と、極性基を有する単量体を共重合させて重合体を製造する方法において、アセタール骨格の分解を抑制しつつ、重合体溶液中の重合体を沈殿させて精製できるようにする。
【解決手段】極性基を有する単量体として、水酸基以外の極性基を有する単量体を用い、単量体を共重合させて得られた重合体を含む重合体溶液を、水分含有量が10質量%未満のアルコールと混合して、重合体溶液中の重合体を沈殿させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アセタール骨格と有する構成単位と、極性基を有する構成単位を含む重合体の製造方法、および該製造方法により得られる重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体素子や液晶素子の製造における微細加工の分野においては、リソグラフィー技術の進歩により急速に微細化が進んでいる。その微細化の手法としては、一般に、照射光の短波長化が用いられ、具体的には、従来のg線(波長:438nm)、i線(波長:365nm)に代表される紫外線からDUV(Deep Ultra Violet)へと照射光が変化してきている。
現在では、KrFエキシマレーザー(波長:248nm)リソグラフィー技術が市場に導入され、さらなる短波長化を図ったArFエキシマレーザー(波長:193nm)リソグラフィー技術も導入されている。さらに、次世代の技術として、F2エキシマレーザー(波長:157nm)リソグラフィー技術が研究されている。また、これらとは若干異なるタイプのリソグラフィー技術として、電子線リソグラフィー技術、波長13.5nm近傍の極端紫外光(Extreme Ultra Violet light:EUV光)を用いるEUVリソグラフィー技術についても精力的に研究されている。
【0003】
このような短波長の照射光あるいは電子線に対応できる高解像度のレジストとして、光酸発生剤を含有する「化学増幅型レジスト」が提唱され、現在、この化学増幅型レジストの改良および開発が精力的に進められている。
短波長の光に対して優れた透明性を有するレジスト材料として、(メタ)アクリル酸誘導体を単量体として用いてなる重合体が多数開発されており、一般に、基板密着性を付与する目的でラクトン骨格を有する単量体、光酸発生剤由来の酸により分解して現像液への溶解性を高める目的で酸脱離性単量体、矩形性を付与する目的で極性基を有する単量体を用いた共重合体が製造されている。
【0004】
一般に、溶液中で重合体を製造する方法において、溶液中で単量体を重合させて得られる重合体溶液には、未反応の単量体や低分子量体が含まれるため、例えば、得られた重合体溶液を貧溶媒と混合して重合体を沈殿させる方法で、精製が行われる。
特許文献1には、ラクトン骨格を有する単量体、酸脱離性単量体としてアセタール骨格を有する単量体、極性基を有する単量体として水酸基を有する単量体の共重合体が提案されており、溶液中で共重合反応を行って得られる重合体溶液から、未反応の単量体や生成した低分子量体を除去することを目的として、該重合体溶液とn−ヘプタンを混合して重合体を沈殿させることが記載されている(特許文献1)。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されているような非極性の溶媒を使用した場合、極性基を有する単量体が残留すると、非極性溶媒であるヘプタンに対する溶解性が不十分であることから、残留する単量体を十分に除去することができない場合がある。
この問題を解決するためには、アルコールなどの極性溶媒を用いて重合体を沈殿させる方法が考えられるが、重合体中のアセタール骨格の一部が分解する場合がある。
例えば特許文献2には、酸脱離性基がアセタール構造を有するレジスト用重合体を製造する際に、溶液重合法により得られた重合体溶液から重合体を沈殿させて回収するための回収溶剤として、メタノールや水などの溶解度パラメータが大きい溶剤を使用すると、アセタール構造が分解して、重合体中にカルボン酸が発生してしまう可能性がある旨が記載されている(段落[0008])。
重合体中にカルボン酸が発生すると、該重合体をレジスト組成物に用いたときに、該カルボン酸と酸不安定基との、予定外の反応が生じて、レジスト性能の劣化につながるという不都合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−227160号公報
【特許文献2】特開2006−131739号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、少なくとも、アセタール骨格を有する単量体と、ラクトン環を有する単量体と、極性基を有する単量体を共重合させて重合体を製造する方法において、アセタール骨格の分解を抑制しつつ、重合体溶液中の重合体を沈殿させて精製することができる、重合体の製造方法、および該製造方法で得られる重合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、アセタール骨格を有する単量体と、ラクトン環を有する単量体と、極性基を有する単量体を共重合させて重合体を製造する方法において、極性基が水酸基以外の極性基であれば、貧溶媒としてアルコールを用いて重合体を沈殿させても、アセタール骨格の分解が抑えられることを見出して、本発明に至った。
【0009】
すなわち本発明の重合体の製造方法は、少なくとも、下記一般式(1)で表される単量体(A)と、ラクトン環を有する単量体(B)と、水酸基以外の極性基を有する単量体(C)とを共重合させる重合工程と、該重合工程で得られた重合体を含む重合体溶液を、貧溶媒と混合して、該重合体溶液中の重合体を沈殿させる沈殿工程を有し、前記貧溶媒が、水分含有量が10質量%未満のアルコールであることを特徴とする。
【0010】
【化1】

【0011】
(式中、Rは水素原子またはメチル基を表し、Rは水素原子、または炭素数1〜6の直鎖状もしくは分岐状の炭化水素基を表し、Rは炭素数1〜12の直鎖状、分岐状、または脂環式の炭化水素基を表す。)
また本発明は、本発明の重合体の製造方法により得られる重合体を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、少なくとも、アセタール骨格を有する単量体と、ラクトン環を有する単量体と、極性基を有する単量体を共重合させて重合体を製造する方法において、アセタール骨格の分解を抑制しつつ、重合体溶液中の重合体を沈殿させて精製することができる。
本発明の方法により製造される重合体は、アセタール骨格の分解に起因するカルボン酸などの不純物の生成が良好に抑えられており、例えばレジスト用途などに好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸またはメタクリル酸を意味する。
【0014】
<単量体(A)>
本発明における単量体(A)は、上式(1)で表わされる、アセタール骨格を有する化合物である。単量体(A)は、光酸発生剤由来の酸により分解して、カルボキシ基を生成する。単量体(A)は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
式(1)において、Rは水素原子またはメチル基を表す。
式(1)において、Rは水素原子、または炭素数1〜6の直鎖状、分岐状もしくは脂環式の炭化水素基を表す。該炭化水素基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、シクロペンチル基、ネオペンチル基、1−メチルブチル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基、1,2−ジメチルプロピル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。これらの中でも、重合体のガラス転移温度(Tg)の低下を抑える点で、Rは水素原子またはメチル基が好ましい。
式(1)において、Rは炭素数1〜12の直鎖状、分岐状、または脂環式の炭化水素基を表す。該炭化水素基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基などの直鎖状炭化水素、イソブチル基、t−ブチル基、イソプロピル基、シクロペンチル基、ネオペンチル基、1−メチルブチル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基、1,2−ジメチルプロピル基などの分岐状炭化水素、シクロヘキシル基、イソボルニル基、ノルボルナニル基、アダマンチル基、1−アダマンチルメチル基、2−アダマンチルメチル基、1−アダマンチルエチル基、2−アダマンチルエチル基などの脂環式炭化水素基などが挙げられる。これらの中でも、重合体のガラス転移温度(Tg)の低下を抑える点で、Rは脂環式炭化水素基が好ましい。
【0015】
これらの単量体(A)は、下記一般式(2)で表されるビニルエーテル化合物と(メタ)アクリル酸との反応により合成することができる。本反応は、無触媒、無溶媒で実施することができるが、ビニルエーテル化合物が固体で(メタ)アクリル酸への溶解度が不十分な場合は、適宜溶媒を用いることもできる。
【0016】
【化2】

【0017】
単量体(A)の割合は、感度および解像度の点から、全単量体の合計の仕込み量(100モル%)中、20モル%以上が好ましく、25モル%以上がより好ましい。また、基板等への密着性の点から、60モル%以下が好ましく、55モル%以下がより好ましく、50モル%以下がさらに好ましい。
【0018】
<単量体(B)>
単量体(B)は、ラクトン環を有する単量体である。好ましくはラクトン環を有する(メタ)アクリル酸エステルである。
ラクトン環とは、環内に−C(=O)−O−を含む環構造を意味する。ラクトン環の例としては、4〜20員環程度のラクトン環が挙げられる。単量体(B)におけるラクトン環は、単環であってもよく、ラクトン環に脂環式化合物から誘導される炭素環、芳香族化合物から誘導される炭素環、または複素環が縮合した縮合環であってもよい。
単量体(B)の具体例としては、特に限定されないが、式(B−1)〜(B−8)で表される化合物、該化合物の位置異性体または光学異性体が挙げられる。式(B−1)〜(B−8)において、式中のRは水素原子またはメチル基を表す。
単量体(B)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
単量体(B)の割合は、基板等への密着性の点から、全単量体の合計の仕込み量(100モル%)中、20モル%以上が好ましく、35モル%以上がより好ましい。また、感度および解像度の点から、60モル%以下が好ましく、55モル%以下がより好ましく、50モル%以下がさらに好ましい。
【0019】
【化3】

【0020】
<単量体(C)>
単量体(C)は、水酸基以外の極性基を有する単量体である。好ましくは水酸基以外の極性基を有する(メタ)アクリル酸エステルである。単量体(C)の1分子中における、該極性基の数は1個でもよく、2個以上でもよい。例えば1〜3個が好ましい。
本発明における「水酸基以外の極性基」とは、シアノ基、炭素数1〜12の直鎖状もしくは分岐状のアルコキシ基、アミノ基、およびカルボキシ基(エステル化反応による置換基を有していてもよい)からなる群から選ばれる1種以上を意味する。単量体(A)中のアセタール基の分解抑制の点で、シアノ基、または炭素数1〜12の直鎖状もしくは分岐状のアルコキシ基が好ましく、シアノ基またはメトキシ基が特に好ましい。
単量体(C)の具体例としては、特に限定されないが、式(C−1)〜(C−13)で表される化合物、該化合物の位置異性体または光学異性体が挙げられる。式(C−1)〜(C−13)において、式中のRは水素原子またはメチル基を表す。
単量体(C)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
単量体(C)の割合は、レジストパターン矩形性の点から、全単量体の合計の仕込み量(100モル%)中、1〜30モル%が好ましく、1〜20モル%がより好ましい。
【0021】
【化4】

【0022】
<その他単量体>
本発明の重合体の製造に用いる単量体として、上記単量体(A)〜(C)以外のその他単量体を更に用いてもよい。その他単量体としては、例えば、単量体(A)以外の酸脱離性単量体(D)、脂環式骨格を有する単量体(E)が挙げられる。
なお、本発明において、水酸基を有する単量体は用いない。
【0023】
<単量体(D)>
酸脱離性単量体(D)(以下、単量体(D)という。)は、酸不安定基を有する単量体であり、好ましくは酸不安定基を有する(メタ)アクリル酸エステルである。「酸不安定基」とは、酸により開裂する結合を有する基であり、該結合の開裂により酸不安定基の一部または全部が重合体の主鎖から脱離する。
酸不安定基を有するレジスト用重合体は、レジスト用組成物として用いた場合に、酸によってアルカリに可溶となり、レジストパターン形成を可能とする作用を奏する。
【0024】
単量体(D)としては、公知の酸脱離性単量体が挙げられる。
例えば、炭素数6〜20の脂環式炭化水素基を有し、かつ酸の作用により脱離可能な基を有している(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。該脂環式炭化水素基は、(メタ)アクリル酸エステルのエステル結合を構成する酸素原子と直接結合していてもよく、アルキレン基等の連結基を介して結合していてもよい。
単量体(D)としての(メタ)アクリル酸エステルには、炭素数5〜20の脂環式炭化水素基を有するとともに、(メタ)アクリル酸エステルのエステル結合を構成する酸素原子との結合部位に第3級炭素原子を有する(メタ)アクリル酸エステル;または、炭素数5〜20の脂環式炭化水素基を有するとともに、該脂環式炭化水素基に−COOR’基(R’は置換基を有していてもよい第3級炭化水素基、テトラヒドロフラニル基、テトラヒドロピラニル基、またはオキセパニル基を表す。)が直接または連結基を介して結合している(メタ)アクリル酸エステルが含まれる。
【0025】
単量体(D)の具体例としては、特に限定されないが、式(D−1)〜(D−17)で表される化合物が挙げられる。式(D−1)〜(D−17)において、式中のRは水素原子またはメチル基を表す。
単量体(D)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
単量体(D)の割合は、感度および解像度の点から、全単量体の合計の仕込み量(100モル%)中、単量体(A)と合わせて20モル%以上が好ましく、25モル%以上がより好ましい。また、基板等への密着性の点から、60モル%以下が好ましく、55モル%以下がより好ましく、50モル%以下がさらに好ましい。
【0026】
【化5】

【0027】
<単量体(E)>
脂環式骨格を有する単量体(E)(以下、単量体(E)という。)における脂環式骨格とは、脂環式化合物から誘導される炭素環を意味する。該脂環式骨格における炭素数は5〜20が好ましい。単量体(E)は、好ましくは脂環式骨格を有する(メタ)アクリル酸エステルである。
なお単量体(A)〜(D)のいずれかに含まれる単量体は、単量体(E)には含まれないものとする。
単量体(E)の具体例としては、特に限定されないが、式(E−1)〜(E−9)で表される化合物が挙げられる。式(E−1)〜(E−9)において、式中のRは水素原子またはメチル基を表す。
単量体(E)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
単量体(E)を用いることにより、重合体のドライエッチング耐性を向上させることができる。単量体(E)の割合は、全単量体の合計の仕込み量(100モル%)中、0〜30モル%が好ましく、0〜20モル%がより好ましい。30モル%を超えると、密着性や現像液溶解性が低下する可能性がある。
【0028】
【化6】

【0029】
<重合方法>
[重合工程]
まず、少なくとも単量体(A)〜(C)を共重合させて重合体を生成する。単量体(A)〜(C)とともに、その他の単量体、好ましくは単量体(D)および/または単量体(E)を共重合させてもよい。共重合は、重合開始剤を用いて行われる。
重合方法としては特に限定されず、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の公知の重合方法を用いることができる。
重合開始剤としては、熱により効率的にラジカルを発生するものが好ましい。例えば、アゾ化合物(2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、ジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]等。
)、有機過酸化物(2,5−ジメチル−2,5−ビス(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ(4−tert−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート等。)等が挙げられる。
【0030】
重合工程において、単量体(A)のアセタール骨格の分解を抑制するために、アミン共存下で重合反応を行うことが好ましい。
用いられるアミンとしては、重合中の重合温度よりも高沸点のものであれば特に限定されないが、入手の容易さと重合体を減圧乾燥する際に除去が容易であることから、トリエチルアミン、ピリジンが好ましい。
アミンの添加量は、単量体の総仕込み量を100質量部として0.016質量部以上用いることが好ましい。アミンの使用量が多くても特に問題はないが、経済的観点から10質量部以下であることが好ましい。
【0031】
重合体の質量平均分子量は、特に限定されないが、該重合体をレジスト膜などの膜を形成する成分として用いる場合は1,000〜100,000が好ましく、2,000〜50,000がより好ましく、3,000〜30,000が特に好ましい。質量平均分子量が1,000より小さいと、該重合体を含む液を基板上に塗布・乾燥した際に上手く成膜しないことがあり、100,000より大きいと、均等な膜厚で塗布することが困難となったり、レジストの構成成分として用いた場合にはレジスト特性を低下させたりすることがある。
【0032】
重合方法は、後述の沈殿工程が容易である点、および重合体の分子量を比較的低くできる点から、溶液重合法が好ましい。
溶液重合法において、単量体および重合開始剤の重合容器への供給は、連続供給であってもよく、滴下供給であってもよい。製造ロットの違いによる平均分子量、分子量分布等のばらつきが小さく、再現性の良い重合体が簡便に得られる点から滴下重合法が好ましい。
【0033】
以下、滴下重合法について説明する。
滴下重合法においては、重合容器内を所定の重合温度まで加熱した後、単量体および重合開始剤を、それぞれ独立に、または任意の組み合わせで、重合容器内に滴下する。
単量体は、単量体のみで滴下してもよく、単量体を溶媒(以下、「滴下溶媒」とも記す。)に溶解させた単量体溶液として滴下してもよい。
溶媒(以下、「仕込み溶媒」とも記す。)をあらかじめ重合容器に仕込んでもよく、仕込み溶媒をあらかじめ重合容器に仕込まなくてもよい。仕込み溶媒をあらかじめ重合容器に仕込まない場合、単量体または重合開始剤は、仕込み溶媒がない状態で重合容器中に滴下される。
【0034】
重合開始剤は、単量体に直接に溶解させてもよく、単量体溶液に溶解させてもよく、滴下溶媒のみに溶解させてもよい。
単量体および重合開始剤は、同じ貯槽内で混合した後、重合容器中に滴下してもよく、それぞれ独立した貯槽から重合容器中に滴下してもよく、それぞれ独立した貯槽から重合容器に供給する直前で混合し、重合容器中に滴下してもよい。
単量体および重合開始剤は、一方を先に滴下した後、遅れて他方を滴下してもよく、両方を同じタイミングで滴下してもよい。
滴下速度は、滴下終了まで一定であってもよく、単量体または重合開始剤の消費速度に応じて、多段階に変化させてもよい。
滴下は、連続的に行ってもよく、間欠的に行ってもよい。
【0035】
重合温度は、50〜150℃が好ましい。
溶媒(滴下溶媒または仕込み溶媒)としては、重合に用いる単量体および生成する重合体を溶解するものであればよく、単量体(A)のアセタール骨格の分解を生じ難いものが好ましい。例えば、下記の溶媒が挙げられる。
エーテル類:鎖状エーテル(ジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等。)、環状エーテル(テトラヒドロフラン(THF)、1,4−ジオキサン等。)等。
エステル類:酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(以下、「PGMEA」と記す。)、γ−ブチロラクトン(以下γ−BLと示す)等。
ケトン類:アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等。
アミド類:N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等。
スルホキシド類:ジメチルスルホキシド等。
芳香族炭化水素:ベンゼン、トルエン、キシレン等。
脂肪族炭化水素:ヘキサン等。
脂環式炭化水素:シクロヘキサン等。
溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0036】
滴下重合法の態様として、以下の一部滴下方式を用いると、生成する重合体における単量体組成のばらつき、および単量体単位の連鎖構造のばらつきが抑えられる点で好ましい。
予め反応器内に、単量体を第1の組成で含有する第1の溶液を仕込んでおき、反応器内を所定の重合温度まで加熱した後、該反応器内に、単量体を含有する、1種以上の滴下溶液を滴下する。
仮に、反応器内に予め単量体を仕込むことなく、滴下溶液と同じ単量体組成の溶液を一定時間かけて均一に滴下すると、共重合反応における単量体消費速度が遅い単量体は、重合初期に所望の組成比よりも少ない割合で共重合体中に組み込まれ、単量体組成および連鎖構造のばらつきを招く。
したがって、予め反応器内に仕込んでおく第1の溶液の第1の組成においては、単量体消費速度が遅い単量体の組成比(含有比率)を、重合反応に使用する全ての溶液の総量における該単量体の組成比よりも大きくする。
【0037】
具体的には、反応器内に単量体および重合開始剤を滴下しながら、前記反応器内で2種以上の単量体α1〜αn(nは2以上の整数)を重合して、構成単位α’1〜α’n(ただし、α’1〜α’nは単量体α1〜αnからそれぞれ導かれる構成単位を表す。)からなる重合体(P)を得る重合方法であって、下記(I)および(II)の工程を有する重合方法が好適である。
(I)反応器内に、重合開始剤を滴下する前または重合開始剤の滴下開始と同時に、前記反応器内に、単量体α1〜αnを、各単量体の反応性比に応じて、重合初期から定常状態で重合させる割合の第1の組成で含有する第1の溶液を供給する工程;
(II)得ようとする重合体(P)における構成単位α’1〜α’nの含有比率を表わす目標組成(単位:モル%)がα’1:α’2:…:α’nであるとき、前記反応器内に前記第1の溶液を供給開始した後または前記第1の溶液の供給開始と同時に、前記単量体α1〜αnを、前記目標組成と同じ組成で含有する第2の溶液を供給する工程。
【0038】
この方法において、前記第1の組成は、反応器内に存在する単量体の含有比率が第1の組成であるとき、該反応器内に上記第2の溶液が滴下されると、滴下直後に生成される重合体分子の構成単位の含有比率が目標組成と同じになるように、設計された組成である。この場合、滴下直後に生成される重合体分子における構成単位の含有比率は、滴下された第2の溶液における単量体の含有比率(目標組成)と同じであるから、滴下直後に反応器内に残存する単量体の含有比率は常に一定(第1の組成)となる。したがって、かかる反応器内に第2の溶液の滴下を継続して行うと、常に目標組成の重合体分子が生成し続けるという定常状態が得られる。
したがって、前記第1の組成においては、かかる定常状態が得られる程度に、単量体消費速度が遅い単量体の組成比(含有比率)を、重合反応に使用する全ての溶液の総量における該単量体の組成比よりも大きくする。
【0039】
さらに、共重合反応における単量体消費速度が遅い単量体は、重合後期に所望の組成比よりも多い割合で共重合体中に組み込まれ、単量体組成および連鎖構造のばらつきを招く。
したがって、本方法では、より共重合体組成のばらつきの少ない共重合体を製造しやすい点で、反応器内を所定の重合温度まで加熱した後、反応器内に供給する単量体を含有する滴下溶液を2種以上準備し、そのうち1種を重合後期に滴下することが好ましい。例えば、上記第1の溶液および第2の溶液(滴下溶液)を用いる方法の場合は、これらの溶液とは組成が異なる滴下溶液(第3の溶液)を、第2の溶液の滴下が終了した後に滴下する。
【0040】
重合後期に滴下される滴下溶液においては、単量体消費速度が速い単量体の組成比を、重合反応に使用する全ての溶液の総量における該単量体の組成比よりも大きくすることが好ましい。また、該重合後期に滴下される滴下溶液は、単量体消費速度が最も遅い単量体を含まないことが好ましい。また、重合後期に滴下される滴下溶液に含まれる単量体の合計量が全単量体供給量の0.1〜10質量%、好ましくは0.1〜7.5質量%、さらに好ましくは0.1〜5質量%であることが好ましい。
【0041】
重合開始剤は単量体を含有する滴下溶液に含有させてもよく、単量体とは別に反応器内に滴下してもよい。
滴下速度は、滴下終了まで一定であってもよく、単量体消費に合わせて多段階に変化させてもよい。滴下は、連続的に行ってもよく、間欠的に行ってもよい。
上記第1の溶液および滴下溶液の溶媒としては、上述したような各種溶媒が挙げられる。溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
重合開始剤としては、上述したような各種化合物が挙げられる。
【0042】
[沈殿工程]
本発明においては、重合工程で生成された重合体を含む重合体溶液を、貧溶媒と混合して、該重合体溶液中の重合体を沈殿させることによって、精製を行う。
単量体の共重合反応を溶液重合法で行った場合など、重合工程で生成された重合体が溶媒に溶解している溶液(重合体溶液)の状態で得られる場合には、得られた重合体溶液を、そのまま、または希釈して、沈殿工程に用いることができる。
また、単量体の共重合反応を塊状重合法で行った場合は、得られた重合体を、適宜の溶媒に溶解したものを、沈殿工程における重合体溶液として用いることができる。
【0043】
本発明においては、重合体を沈殿させるための貧溶媒としてアルコールを用いる。アルコールは有機溶剤として公知のアルコール類を用いることができる。具体例としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノールが挙げられる。これらのうち、沈殿した重合体を乾燥させて溶媒を除去する際の効率の点で、低沸点のメタノール、エタノールまたはイソプロパノールが好ましく、メタノールが特に好ましい。
通常、アルコールには水分が含まれており、無水アルコールでも0.5%以下程度の水分が含まれる。本発明において、沈殿工程における貧溶媒として用いるアルコールは、本発明の効果を損なわない範囲で水分を含んでいてもよい。具体的には、アルコールの水分含有量が10質量%未満であればよく、5質量%以下が好ましく、2質量%以下がより好ましい。
すなわち、沈殿工程で用いる貧溶媒は、10質量%未満、好ましくは5質量%以下、より好ましくは2質量%以下の水を含んでいてもよく、残りはアルコールである。
【0044】
重合体溶液と貧溶媒を混合する方法は、両者を一括的に混合してもよいが、重合体溶液を貧溶媒中に滴下する方法が、沈殿した重合体中に残存する単量体および溶媒をより少なくできる点で好ましい。この場合、重合体溶液の滴下速度は特に限定されず、適宜設定することができる。重合体溶液を、ゆっくりと滴下する方が好ましい。
重合体溶液と貧溶媒とを混合した後の液温は、特に限限定されないが、好ましくは0〜50℃で行われる。
重合体溶液と混合する貧溶媒の量は特に限定されないが、重合体溶液に対して体積比で3〜20倍程度が好ましい。
【0045】
本発明の製造方法によれば、少なくとも、アセタール骨格を有する単量体と、ラクトン環を有する単量体と、水酸基以外の極性基を有する単量体とを共重合して得られる重合体を含む重合体溶液から、アセタール骨格の分解を抑えつつ、重合体を沈殿させることができる。したがって、アセタール骨格の分解に起因する不純物の生成が抑えられた重合体が得られる。
【0046】
[後処理工程]
こうして得られた重合体の沈殿物をろ別した後、必要に応じて洗浄を行った後、乾燥させて重合体粉末とする。または、ろ別した後、必要に応じて洗浄を行った後、乾燥せずに湿粉のまま適当な溶媒に溶解させて使用することもできる。
洗浄を行う際に用いる溶媒は、アセタール骨格の分解を生じない貧溶媒であることが好ましく、沈殿工程で使用可能な貧溶媒と、同じ貧溶媒を用いることが好ましい。
本発明の製造方法で得られる重合体は、半導体リソグラフィー用重合体として好適であり、特に化学増幅型レジスト用重合体として好適である。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
以下の例で用いた反応試薬および単量体は、特に記載がないものについては市販品を精製することなくそのまま用いた。
以下の例で使用した単量体(A−1)、(B−1)、(C−1)、(C−14)の構造を下記に示す。
【0048】
【化7】

【0049】
重合体の諸物性は、以下の方法で測定した。
[重合体の質量平均分子量の測定]
約20mgの重合体を5mLのTHFに溶解し、0.5μmメンブランフィルターで濾過して試料溶液を調製し、この試料溶液を東ソー社製、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)を用いて測定した。この測定は、分離カラムは昭和電工社製、Shodex GPC K−805L(商品名)を3本直列に繋いだものを用い、展開溶媒はTHF、流量1.0mL/min、検出器は示差屈折計、測定温度40℃、注入量0.1mLで、標準ポリマーとしてポリスチレンを使用して質量平均分子量を測定した。
【0050】
[アセタール分解比の決定]
H−NMRスペクトルの測定により、アセタールが分解して生成するカルボキシ基(11.9−12.6ppm)とアセタール由来の1H(5.7−5.9ppm)の比率よりアセタールの分解比を決定した。この測定は、日本電子社製、GSX−400型 FT−NMR(商品名)を用いて、濃度が約5質量%の、単量体の重水素化ジメチルスルホキシド溶液を直径5mmφの試験管に入れ、測定温度40℃、測定周波数400MHz、シングルパルスモードにて64回の積算回数で行った。
【0051】
[実施例1]
(重合工程)
滴下ロート、冷却管、温度計、窒素ガス吹き込み口、攪拌子を備えたフラスコに、重合溶媒としてPGMEA(9.5g)を入れ、フラスコ内を窒素置換した後、攪拌を開始して内温80℃まで加熱した。
これとは別に、単量体(A−1)(4.24g、20mmol)、単量体(B−1)の50質量%PGMEA溶液(9.44g、20mmol)、単量体(C−1)(2.05g、10mmol)、トリエチルアミン(0.404g、0.40mmol)、およびジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート(和光純薬工業社製、V601(商品名)、1.136g、5.0mmol)、を、PGMEA(12.4g)に溶解させ、さらに重合禁止剤として4−メトキシフェノール(0.41mg、200ppm)を添加して単量体溶液を調製した。
この単量体溶液を滴下ロートに入れて、フラスコ内の重合溶媒に、4時間かけて滴下した。滴下終了後、内温を80℃に維持したまま、3時間保持して重合体溶液を得た。
【0052】
(沈殿工程)
重合体溶液と混合する貧溶媒として、260mLの無水メタノール(メタノール濃度99.8質量%以上)を用意した。これを40℃に保持し、200rpmの速度で攪拌しながら、前記で得た重合体溶液を滴下し、30分間保持して、白色の析出物の沈殿を得た。
(後処理工程)
沈殿物に残存する単量体を取り除くために、得られた沈殿を濾別し、無水メタノール(260mL)を40℃に加熱したものの中に懸濁させ、200rpmの速度で攪拌しながら、30分間洗浄した。この沈殿を更に濾別し、60℃で36時間乾燥させて重合体を得た。得られた重合体の質量平均分子量(Mw)は8900、Mw/Mn=1.5であった。
H−NMRを測定した結果、アセタールの分解は見られなかった。
【0053】
[比較例1]
実施例1において、単量体(C−1)に替えて、水酸基を有する単量体(C−14)(2.36g、10mmol)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で重合工程および沈殿工程を行った。沈殿工程において、重合体溶液を滴下した際に、メタノール中で重合体が凝集してモチ状になってしまい、重合体を精製することができなかった。
【0054】
[比較例2]
実施例1において、単量体(C−1)に替えて、水酸基を有する単量体(C−14)(2.36g、10mmol)を用いた。また貧溶媒として、無水メタノールに替えて、メタノール(182mL)と水(78mL)の混合溶媒(水分含有量30%)を用いた。そのほかは実施例1と同様の方法で重合工程および沈殿工程を行った。
得られた重合体の質量平均分子量(Mw)は9900、Mw/Mn=1.8であった。
H−NMRを測定した結果、分解比18.1%でアセタールの分解が見られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、下記一般式(1)で表される単量体(A)と、ラクトン環を有する単量体(B)と、水酸基以外の極性基を有する単量体(C)とを共重合させる重合工程と、
該重合工程で得られた重合体を含む重合体溶液を、貧溶媒と混合して、該重合体溶液中の重合体を沈殿させる沈殿工程を有し、
前記貧溶媒が、水分含有量が10質量%未満のアルコールであることを特徴とする重合体の製造方法。
【化1】

(式中、Rは水素原子またはメチル基を表し、Rは水素原子、または炭素数1〜6の直鎖状もしくは分岐状の炭化水素基を表し、Rは炭素数1〜12の直鎖状、分岐状、または脂環式の炭化水素基を表す。)
【請求項2】
請求項1に記載の重合体の製造方法により得られる重合体。

【公開番号】特開2012−162698(P2012−162698A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−26246(P2011−26246)
【出願日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】