説明

重合性組成物及び架橋性樹脂

【課題】電気回路基板に使用する電気材料等として好適な架橋性樹脂を得ることができる重合性組成物、及びそれを用いて得られる架橋性樹脂、並びに電気絶縁性、密着性、機械的強度、耐熱性、誘電特性などに優れた成形体等を提供する。
【解決手段】シクロオレフィンモノマー、ルテニウムカルベン錯体、および式(A):PR123(式(A)中、R1〜R3は、それぞれ独立に、水素原子、アルケニル基、シクロアルキル基またはアリール基を表し、該シクロアルキル基およびアリール基は、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基またはアリール基で置換されていてもよく、R1〜R3のうち、少なくとも一つはアルケニル基を含む基または水素原子であり、且つR1〜R3のうちの一つ又は二つが水素原子であるときは、残りのR1〜R3はアルケニル基、シクロアルキル基またはアリール基である。)で表されるホスフィン化合物、を含有する重合性組成物を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合性組成物及び架橋性樹脂に関する。より詳細には、電気回路基板に使用する、電気材料等として好適な架橋性樹脂を得ることができ、経時の粘度上昇抑制と高い重合転化率とを両立させた重合性組成物、該重合性組成物を用いて得られる架橋性樹脂、及び前記重合性組成物又は該架橋性樹脂を用いて得られる電気絶縁性、密着性、機械的強度、耐熱性、誘電特性などに優れた成形体等に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性ノルボルネン系樹脂を有機過酸化物などの架橋剤で架橋させることによって架橋成形品が得られることが知られている。例えば、特許文献1には、熱可塑性水素化開環ノルボルネン系樹脂に、有機過酸化物及び架橋助剤を添加し、均一に分散させてノルボルネン系樹脂組成物を得、この組成物を繊維材に含浸させて、プリプレグに成形し、基板と積層し、次いで加熱加圧成形して架橋・熱融着させて、架橋成形品を得ることが記載されている。そして特許文献1には、該架橋成形品が層間絶縁膜、防湿層形成用フィルムなどとして有用であると記載されている。
【特許文献1】特開平6−248164号公報
【0003】
特許文献2には、ノルボルネン系モノマーを、ルテニウムカルベン錯体及び架橋剤の存在下にメタセシス重合させて、ポリシクロオレフィンを製造し、次いで、後硬化(後架橋)させる方法が開示されている。この特許文献2の方法によって高密度に架橋したポリマーが得られると教示している。
【特許文献2】特表平11−507962号公報
【0004】
さらに、特許文献3には、ノルボルネン系モノマー、ルテニウムカルベン錯体、連鎖移動剤及び架橋剤を含む重合性組成物を塊状重合して架橋性の熱可塑性樹脂を得、この架橋性熱可塑性樹脂を基板等に積層し、架橋して、複合材料を得ることが開示されている。
【特許文献3】特開2004−244609号公報
【0005】
しかしながら、一般にルテニウムカルベン錯体は、活性が高く、重合速度が極めて早いため、重合性組成物を繊維材に含浸させ、プリプレグに成形する前に重合硬化してしまう場合があった。
【0006】
そこで、特許文献4には、トリシクロペンチルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリフェニルホスフィンなどのゲル化調節添加剤とルテニウム又はオスミウムカルベン錯体とを含有する重合性組成物が開示されている。
【特許文献4】特表2000−504359号公報
【0007】
特許文献5には、ルテニウムカルベン錯体と、PR123で表され、R1〜R3のいずれか一つが −CH2r (rは水素原子又は炭化水素基)で表される一級炭化水素基である化合物とを併用してノルボルネン系モノマーを塊状重合させるノルボルネン系樹脂の製造方法が開示されている。PR123で表される化合物として、具体的には、トリ−n−ブチルホスフィン、メチルジフェニルホスフィンが開示されている。
【特許文献5】特開2002−327045号公報
【0008】
しかし、本発明者らの検討によると、特許文献4又は5に記載の重合性組成物は、重合反応の進行を抑制する効果が不十分である事が判った。すなわち、前記プリプレグ等の製造において、重合性組成物の重合反応が進行してしまうため、粘度上昇によって繊維材等への含浸性が不十分となったり、得られる樹脂の分子量の制御が困難であるという問題があった。さらに、重合性組成物の粘度上昇を抑えるために多量にゲル化調節添加剤等を添加すると単量体の重合転化率が低下した。このように経時の粘度上昇抑制と高い重合転化率とは相反する関係を持つ特性であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、電気回路基板に使用する電気材料等として好適な架橋性樹脂を得ることができ、経時の粘度上昇抑制と高い重合転化率とを両立させた重合性組成物、及びそれを用いて得られる架橋性樹脂、並びに電気絶縁性、密着性、機械的強度、耐熱性、誘電特性などに優れた成形体等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、シクロオレフィンモノマー、およびルテニウムカルベン錯体を含む重合性組成物に、さらに、特定のホスフィン化合物を配合することによって、経時による粘度上昇を抑えること及び単量体の重合転化率を高くすることの相反する要求を両方とも満足させることができ、繊維材への均一な含浸が可能となり、電気絶縁性、密着性、機械的強度、耐熱性、誘電特性などに優れた成形体が安定的に高効率で生産できることを見出した。本発明は、この知見に基づき、さらに検討し、完成するに至ったものである。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の態様を含むものである。
(1) シクロオレフィンモノマー、ルテニウムカルベン錯体、および
式(A) : PR123
(式(A)中、R1〜R3は、それぞれ独立に、水素原子、アルケニル基、シクロアルキル基またはアリール基を表し、
上記シクロアルキル基およびアリール基は、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基またはアリール基を置換基として有していてもよく、
1〜R3のうち、少なくとも一つはアルケニル基を含む基または水素原子であり、
1〜R3のうちの一つ又は二つが水素原子であるときは、残りのR1〜R3はアルケニル基、シクロアルキル基またはアリール基である。)で表されるホスフィン化合物、
を含有する重合性組成物。
(2) 前記のR1〜R3の少なくとも一つが水素原子またはアルケニル基である前記の重合性組成物。
(3) 前記アルケニル基がビニル基である前記の重合性組成物。
(4) さらに連鎖移動剤を含有する前記の重合性組成物。
(5) さらに架橋剤を含有する前記の重合性組成物。
【0012】
(6) 前記の重合性組成物を塊状重合して得られる架橋性樹脂。
(7) 前記の重合性組成物を支持体に塗布または含浸し、塊状重合して得られる、架橋性樹脂複合体。
(8) 前記の架橋性樹脂を架橋してなる架橋体。
【0013】
(9) 前記の架橋性樹脂の成形体を支持体上で架橋する工程を含む、架橋樹脂複合体の製造方法。
(10) 前記の架橋性樹脂複合体を架橋してなる架橋樹脂複合体。
(11) 前記架橋を別の支持体上で行って得られる、前記の架橋樹脂複合体。
(12) 前記の重合性組成物を塊状重合する工程を含む、架橋性樹脂の製造方法。
(13) 前記塊状重合を100〜200℃で行う、前記の架橋性樹脂の製造方法。
(14) 前記の重合性組成物を支持体に塗布または含浸し、塊状重合する工程を含む、架橋性樹脂複合体の製造方法。
【0014】
(15) 前記の架橋性樹脂を架橋する工程を含む、架橋体の製造方法。
(16) 前記の架橋性樹脂の成形体を支持体上で架橋する工程を含む、架橋樹脂複合体の製造方法。
(17) 前記塊状重合を100〜200℃で行う、前記の架橋性樹脂複合体の製造方法。
(18) 前記の架橋性樹脂複合体を架橋する工程を含む、架橋樹脂複合体の製造方法。
(19) 前記架橋を別の支持体上で行う、前記の架橋樹脂複合体の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の重合性組成物は、経時による粘度上昇を抑えること及び単量体の重合転化率を高くすることの相反する要求を両方とも満足させることができ、繊維材への均一な含浸が可能である。
本発明の重合性組成物を塊状重合し次いで架橋させると、電気絶縁性、密着性、機械的強度、耐熱性、誘電特性などの特性に優れた架橋体が安定的に高効率で生産できる。
この架橋体を、フィルム状の基材に積層することによって、又は繊維材と複合することによって、上記特性を備えた複合体を得ることができる。
本発明の重合性組成物を用いて得られた架橋体、及び複合体は、電気回路基板に使用する電気材料等として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
[重合性組成物]
本発明の重合性組成物は、シクロオレフィンモノマー、ルテニウムカルベン錯体、およびホスフィン化合物を含有するものである
(1)シクロオレフィンモノマー
重合性組成物を構成するシクロオレフィンモノマーとして、例えば、ノルボルネン系モノマーが挙げられる。ノルボルネン系モノマーは、ノルボルネン環を含むモノマーである。具体的には、ノルボルネン類、ジシクロペンタジエン類、テトラシクロドデセン類などが挙げられる。これらは、アルキル基、アルケニル基、アルキリデン基、アリール基などの炭化水素基や、カルボキシル基又は酸無水物基などの極性基が置換基として含まれていてもよい。また、ノルボルネン環の二重結合以外に、さらに二重結合を有していてもよい。これらの中でも、極性基を含まない、すなわち炭素原子と水素原子のみで構成されるノルボルネン系モノマーが好ましい。ノルボルネン系モノマーを構成する環の数は、3〜6であるものが好ましく、3または4であるものがより好ましく、4であるものが特に好ましい。
【0017】
極性基を含まないノルボルネン系モノマーとしては、2−ノルボルネン、5−メチル−2−ノルボルネン、5−エチル−2−ノルボルネン、5−ブチル−2−ノルボルネン、5−ヘキシル−2−ノルボルネン、5−デシル−2−ノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−ビニル−2−ノルボルネン、5−プロペニル−2−ノルボルネン、などの環の数が2であるノルボルネン類;
【0018】
5−シクロヘキシル−2−ノルボルネン、5−シクロペンチル−2−ノルボルネン、5−シクロヘキセニル−2−ノルボルネン、5−シクロペンテニル−2−ノルボルネン、5−フェニル−2−ノルボルネンなどの環の数が3であるノルボルネン類;ジシクロペンタジエン、メチルジシクロペンタジエン、ジヒドロジシクロペンタジエン(トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−8−エンとも言う。)などの環の数が3であるジシクロペンタジエン類;
【0019】
テトラシクロ[9.2.1.02,10.03,8]テトラデカ−3,5,7,12−テトラエン(1,4−メタノ−1,4,4a,9a−テトラヒドロ−9H−フルオレンとも言う。)、テトラシクロ[10.2.1.02,11.04,9]ペンタデカ−4,6,8,13−テトラエン(1,4−メタノ−1,4,4a,9,9a,10−ヘキサヒドロアントラセンとも言う。)などの環の数が4であるノルボルネン類;
テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−メチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−エチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−メチレンテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−エチリデンテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−ビニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−プロペニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、などの環の数が4であるテトラシクロドデセン類;
【0020】
9−シクロヘキシルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−シクロペンチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−シクロヘキセニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−シクロペンテニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−フェニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エンなどの環の数が5であるテトラシクロドデセン類;
ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]ペンタデカ−4,10−ジエン、ペンタシクロ[9.2.1.14,7.02,10.03,8]ペンタデカ−5,12−ジエン、ヘキサシクロ[6.6.1.13,6.110,13.02,7.09,14]ヘプタデカ−4−エンなどの環の数が5以上であるその他のノルボルネン系モノマー;などが挙げられる。
【0021】
極性基を含むノルボルネン系モノマーとしては、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸メチル、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−メタノール、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4,5−ジカルボン酸、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4,5−ジカルボン酸無水物、5−ノルボルネン−2−カルボン酸メチル、2−メチル−5−ノルボルネン−2−カルボン酸メチル、酢酸5−ノルボルネン−2−イル、5−ノルボルネン−2−メタノール、5−ノルボルネン−2−オール、5−ノルボルネン−2−カルボニトリル、2−アセチル−5−ノルボルネン、7−オキサ−2−ノルボルネンなどが挙げられる。
【0022】
また、本発明においては、シクロブテン、シクロペンテン、シクロオクテン、シクロドデセン、1,5−シクロオクタジエンなどの単環シクロオレフィン及び置換基を有するそれらの誘導体を上記ノルボルネン系モノマーに添加して重合に供することができる。これらのシクロオレフィンモノマーは1種単独で若しくは2種以上を組み合わせて用いることができる。2種以上のモノマーを併用し、そのブレンド比を変化させることで、得られる架橋性樹脂成形体のガラス転移温度や溶融温度を自由に制御することが可能である。単環シクロオレフィン類及びそれらの誘導体の添加量は、シクロオレフィンモノマーの全量に対して、好ましくは40質量%以下、より好ましくは20質量%以下である。添加量が40質量%を超えると、塊状重合により得られる重合体の耐熱性が不十分となる場合がある。
【0023】
(2)ルテニウムカルベン錯体
重合性組成物を構成するルテニウムカルベン錯体は、シクロオレフィンモノマーを、メタセシス開環重合させるものであれば特に限定されない。
ルテニウムカルベン錯体は、ルテニウム原子を中心にして、イオン、原子、多原子イオン及び/又は化合物が複数結合してなる錯体である。
【0024】
ルテニウムカルベン錯体は、塊状重合時の触媒活性が優れているので、後架橋可能な架橋性樹脂の生産性に優れ、残留未反応モノマーに由来する臭気が少ない架橋性樹脂を得ることができる。また、ルテニウムカルベン錯体は、酸素や空気中の水分に対して比較的安定であって、失活しにくいので、大気下でも架橋性樹脂の生産が可能である。
【0025】
ルテニウムカルベン錯体は、例えば、下記の式(1)又は式(2)で表されるものである。
【0026】
【化1】

【0027】
式(1)及び(2)において、R5及びR6は、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、又はハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子若しくは珪素原子を含んでもよい炭素数1〜20の炭化水素基を表す。X1及びX2は、それぞれ独立して任意のアニオン性配位子を示す。L1及びL2はそれぞれ独立して、ヘテロ原子含有カルベン化合物又は中性電子供与性化合物を表す。また、R5とR6は互いに結合して環を形成してもよい。さらに、R5、R6、X1、X2、L1及びL2は、任意の組合せで互いに結合して多座キレート化配位子を形成してもよい。
【0028】
ヘテロ原子とは、周期律表第15族及び第16族の原子を意味し、具体的には、N、O、P、S、As、Se原子などを挙げることができる。これらの中でも、安定なカルベン化合物が得られる観点から、N、O、P、S原子などが好ましく、N原子が特に好ましい。
【0029】
ヘテロ原子含有カルベン化合物は、カルベン炭素の両側にヘテロ原子が隣接して結合していることが好ましく、さらにカルベン炭素原子とその両側のヘテロ原子とを含むヘテロ環が構成されているものがより好ましい。また、カルベン炭素に隣接するヘテロ原子には嵩高い置換基を有していることが好ましい。
【0030】
ヘテロ原子含有カルベン化合物としては、下記の式(3)又は式(4)で示される化合物が挙げられる。重合性組成物の粘度の上昇をより抑制できるとの観点からは、式(4)で示される化合物が好ましい。
【0031】
【化2】

【0032】
(式中、R7〜R10は、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、又はハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子若しくは珪素原子を含んでもよい炭素数1〜20個の炭化水素基を表す。また、R7〜R10は任意の組合せで互いに結合して環を形成していてもよい。)
【0033】
前記式(3)または式(4)で表される化合物としては、1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン、1,3−ジ(1−アダマンチル)イミダゾリジン−2−イリデン、1−シクロヘキシル−3−メシチルイミダゾリジン−2−イリデン、1,3−ジメシチルオクタヒドロベンズイミダゾール−2−イリデン、1,3−ジイソプロピル−4−イミダゾリン−2−イリデン、1,3−ジ(1−フェニルエチル)−4−イミダゾリン−2−イリデン、1,3−ジメシチル−2,3−ジヒドロベンズイミダゾール−2−イリデンなどが挙げられる。
【0034】
また、前記式(3)または式(4)で示される化合物のほかに、1,3,4−トリフェニル−2,3,4,5−テトラヒドロ−1H−1,2,4−トリアゾール−5−イリデン、1,3−ジシクロヘキシルヘキサヒドロピリミジン−2−イリデン、N,N,N’,N’−テトライソプロピルホルムアミジニリデン、1,3,4−トリフェニル−4,5−ジヒドロ−1H−1,2,4−トリアゾール−5−イリデン、3−(2,6−ジイソプロピルフェニル)−2,3−ジヒドロチアゾール−2−イリデンなどのヘテロ原子含有カルベン化合物も用い得る。
【0035】
前記式(1)及び式(2)において、アニオン(陰イオン)性配位子X1、X2は、中心金属原子から引き離されたときに負の電荷を持つ配位子であり、例えば、F、Cl、Br、Iなどのハロゲン原子、ジケトネート基、置換シクロペンタジエニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、カルボキシル基などを挙げることができる。これらの中でもハロゲン原子が好ましく、塩素原子がより好ましい。
【0036】
また、中性の電子供与性化合物は、中心金属から引き離されたときに中性の電荷を持つ配位子であればいかなるものでもよい。その具体例としては、カルボニル、アミン類、ピリジン類、エーテル類、ニトリル類、エステル類、ホスフィン類、チオエーテル類、芳香族化合物、オレフィン類、イソシアニド類、チオシアネート類などが挙げられる。これらの中でも、ホスフィン類、エーテル類及びピリジン類が好ましく、トリアルキルホスフィンがより好ましい。
【0037】
前記式(1)で表されるルテニウムカルベン錯体としては、ベンジリデン(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチル−4,5−ジブロモ−4−イミダゾリン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチル−4−イミダゾリン−2−イリデン)(3−フェニル−1H−インデン−1−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(3−メチル−2−ブテン−1−イリデン)(トリシクロペンチルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチル−オクタヒドロベンズイミダゾール−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン[1,3−ジ(1−フェニルエチル)−4−イミダゾリン−2−イリデン](トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチル−2,3−ジヒドロベンズイミダゾール−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、
【0038】
ベンジリデン(トリシクロヘキシルホスフィン)(1,3,4−トリフェニル−2,3,4,5−テトラヒドロ−1H−1,2,4−トリアゾール−5−イリデン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジイソプロピルヘキサヒドロピリミジン−2−イリデン)(エトキシメチレン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)ピリジンルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(2−フェニルエチリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチル−4−イミダゾリン−2−イリデン)(2−フェニルエチリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチル−4,5−ジブロモ−4−イミダゾリン−2−イリデン)[(フェニルチオ)メチレン](トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチル−4,5−ジブロモ−4−イミダゾリン−2−イリデン)(2−ピロリドン−1−イルメチレン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリドなどのヘテロ原子含有カルベン化合物および中性の電子供与性化合物が結合したルテニウム錯体化合物;
【0039】
ベンジリデンビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(3−メチル−2−ブテン−1−イリデン)ビス(トリシクロペンチルホスフィン)ルテニウムジクロリドなどの2つの中性電子供与性化合物が結合したルテニウム錯体化合物;
【0040】
ベンジリデンビス(1,3−ジシクロヘキシルイミダゾリジン−2−イリデン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデンビス(1,3−ジイソプロピル−4−イミダゾリン−2−イリデン)ルテニウムジクロリドなどの2つのヘテロ原子含有カルベン化合物が結合したルテニウム錯体化合物;などが挙げられる。
【0041】
また、前記式(1)において、R5とL1が結合している錯体化合物として、下記の式(5)〜(7)で表される化合物が挙げられる。式(5)中のiPrはイソプロピル基を表す。Mesは下記式で示される基を表す。
【0042】
【化3】

【0043】
前記式(2)で表されるルテニウムカルベン錯体としては、(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(フェニルビニリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(t−ブチルビニリデン)(1,3−ジイソプロピル−4−イミダゾリン−2−イリデン)(トリシクロペンチルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ビス(1,3−ジシクロヘキシル−4−イミダゾリン−2−イリデン)フェニルビニリデンルテニウムジクロリドなどが挙げられる。
【0044】
これらのルテニウムカルベン錯体の中でも、前記式(1)で表され、かつ配位子として前記式(4)で表される化合物を1つ有するものが最も好ましい。
【0045】
これらのルテニウムカルベン錯体は、Org. Lett., 1999年, 第1巻, 953頁, Tetrahedron. Lett., 1999年, 第40巻, 2247頁などに記載された方法によって製造することができる。
【0046】
ルテニウムカルベン錯体の使用量は、(ルテニウム金属原子:シクロオレフィンモノマー)のモル比で、通常1:2,000〜1:2,000,000、好ましくは1:5,000〜1:1,000,000、より好ましくは1:10,000〜1:500,000の範囲である。
【0047】
ルテニウムカルベン錯体は必要に応じて、少量の不活性溶剤に溶解又は懸濁して使用することができる。かかる溶媒としては、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、流動パラフィン、ミネラルスピリットなどの鎖状脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、トリメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジエチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、ジシクロヘプタン、トリシクロデカン、ヘキサヒドロインデン、シクロオクタンなどの脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;ニトロメタン、ニトロベンゼン、アセトニトリルなどの含窒素炭化水素;ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどの含酸素炭化水素;などが挙げられる。これらの中では、工業的に汎用な芳香族炭化水素や脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素の使用が好ましい。また、ルテニウムカルベン錯体としての活性を低下させないものであれば、液状の老化防止剤、液状の可塑剤、液状のエラストマーを溶剤として用いてもよい。
【0048】
ルテニウムカルベン錯体は、重合活性を制御し、重合反応率を向上させる目的で活性剤(共触媒)と併用することもできる。活性剤としては、アルミニウム、スカンジウム、スズのアルキル化物、ハロゲン化物、アルコキシ化物及びアリールオキシ化物などを例示することができる。
【0049】
活性剤としては、トリアルコキシアルミニウム、トリフェノキシアルミニウム、ジアルコキシアルキルアルミニウム、アルコキシジアルキルアルミニウム、トリアルキルアルミニウム、ジアルコキシアルミニウムクロリド、アルコキシアルキルアルミニウムクロリド、ジアルキルアルミニウムクロリド、トリアルコキシスカンジウム、テトラアルコキシチタン、テトラアルコキシスズ、テトラアルコキシジルコニウムなどが挙げられる。
活性剤の使用量は、(ルテニウム金属原子:活性剤)のモル比で、通常、1:0.05〜1:100、好ましくは1:0.2〜1:20、より好ましくは1:0.5〜1:10の範囲である。
【0050】
(3)ホスフィン化合物
本発明の重合性組成物を構成するホスフィン化合物は、式(A) : PR123 で表されるものである。
式(A)中、R1〜R3は、それぞれ独立に、水素原子、アルケニル基、シクロアルキル基またはアリール基である。R1〜R3のうち少なくとも一つはアルケニル基を含む基または水素原子である。ここで、「アルケニル基を含む基」は、アルケニル基、またはアルケニル基を置換基として有するシクロアルキル基もしくはアリール基である。また、R1〜R3のうちの一つ又は二つが水素原子であるときは、残りのR1〜R3はアルケニル基、シクロアルキル基またはアリール基である。
このようなホスフィン化合物を添加することにより、室温以下での重合反応の進行を抑制することができる。また、分子内にアルケニル基を有しているホスフィン化合物を用いると、重合性組成物を加熱して重合反応が進行すると、得られる重合体の分子内に該ホスフィン化合物が取り込まれるので、樹脂中に残留することがない。そのため、架橋時に揮発してフクレの原因となることが抑制されるので好ましい。
【0051】
アルケニル基としては、ビニル、1−プロペニル、2−プロペニル、イソプロペニル、1−ブテニル、2−ブテニル、3−ブテニル、1−ペンテニル、2−ペンテニル、3−ペンテニル、4−ペンテニル、1−ヘキセニル、2−ヘキセニル、3−ヘキセニル、4−ヘキセニル、5−ヘキセニル等が挙げられる。これらのうちビニル基が好ましい。
アルケニル基を置換基として有するシクロアルキル基もしくはアリール基としては、スチリル、ビニルシクロヘキシル、ビニルシクロペンチル及びアリルシクロヘキシルなどが挙げられる。
【0052】
シクロアルキル基としては、シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル等が挙げられる。
アリール基としては、フェニル、1−ナフチル、2−ナフチル等が挙げられる。
該シクロアルキル基およびアリール基は、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基またはアリール基が置換基として有していてもよい。
なお、アルキル基としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、n−ヘプチル、n−オクチル、n−ノニル、n−デシル等が挙げられる。
【0053】
式(A)で表されるホスフィン化合物としては、ジシクロヘキシルホスフィン、ビニルジフェニルホスフィン、アリルジフェニルホスフィン、トリアリルホスフィン、スチリルジフェニルホスフィン、などが挙げられる。中でも、室温以下での重合反応の進行を抑制する効果が大きいので、ジシクロヘキシルホスフィンおよびビニルジフェニルホスフィンが好ましく、ジシクロヘキシルホスフィンが特に好ましい。
式(A)で表されるホスフィン化合物の量は、(ルテニウム金属原子:ホスフィン化合物)のモル比で、通常、1:0.01〜1:100、好ましくは1:0.1〜1:10、より好ましくは1:0.1〜1:5の範囲である。
【0054】
(4)連鎖移動剤
本発明の重合性組成物は、重合反応の連鎖移動剤をさらに含有することが好ましい。連鎖移動剤を含むことにより、室温以下での重合反応の進行を抑制することができる。
連鎖移動剤としては、通常、置換基を有していてもよい鎖状のオレフィン類を用いることができる。
具体的には、1−ヘキセン、2−ヘキセンなどの脂肪族オレフィン類;スチレン、ジビニルベンゼン、スチルベンなどの芳香族基を有するオレフィン類;ビニルシクロヘキサンなどの脂環式炭化水素基を有するオレフィン類;エチルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;メチルビニルケトン、1,5−ヘキサジエン−3−オン、2−メチル−1,5−ヘキサジエン−3−オンなどのビニルケトン類;アクリル酸スチリル、エチレングリコールジアクリレート;アリルトリビニルシラン、アリルメチルジビニルシラン、アリルジメチルビニルシラン;アクリル酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル;アリルアミン、2−(ジエチルアミノ)エタノールビニルエーテル、2−(ジエチルアミノ)エチルアクリレート、4−ビニルアニリン;などが挙げられる。
【0055】
これらの連鎖移動剤の中でも、式(B):CH2=CH−Y−OCO−CR4=CH2で表される化合物が好ましい。式(B)中のYはアルキレン基、R4は水素原子又はメチル基である。
アルキレン基の炭素数は特に制限されないが、通常1〜20、好ましくは4〜12である。この構造の連鎖移動剤を用いることで、より強度の高い架橋樹脂成形体または架橋樹脂複合体を得ることが可能になる。
式(B)で表される化合物としては、メタクリル酸アリル、メタクリル酸3−ブテン−1−イル、アクリル酸アリル、アクリル酸3−ブテン−1−イル、メタクリル酸ウンデセニル、メタクリル酸ヘキセニルなどが挙げられる。中でも、メタクリル酸ウンデセニルおよびメタクリル酸ヘキセニルが特に好ましい。
【0056】
連鎖移動剤の添加量は、前記シクロオレフィンモノマーの全量に対して、通常0.01〜10質量%、好ましくは0.1〜5質量%である。連鎖移動剤の添加量がこの範囲であるときに、重合反応率が高く、しかも後架橋可能な熱可塑性樹脂を効率よく得ることができる。
【0057】
(5)架橋剤
重合性組成物は、塊状重合後に架橋性を有する樹脂とするために、架橋剤を含有することが好ましい。架橋剤は架橋性の官能基を有する化合物である。該官能基としては、例えば、炭素−炭素二重結合、カルボン酸基、酸無水物基、水酸基、アミノ基、活性ハロゲン原子、エポキシ基などが挙げられる。
【0058】
架橋剤としては、例えば、ラジカル発生剤、エポキシ化合物、イソシアネート基含有化合物、カルボキシル基含有化合物、酸無水物基含有化合物、アミノ基含有化合物、ルイス酸などが挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの中でも、ラジカル発生剤、エポキシ化合物、イソシアネート基含有化合物、カルボキシル基含有化合物、酸無水物基含有化合物の使用が好ましく、ラジカル発生剤、エポキシ化合物、イソシアネート基含有化合物の使用がより好ましく、ラジカル発生剤の使用が特に好ましい。
【0059】
ラジカル発生剤としては、有機過酸化物、ジアゾ化合物、非極性ラジカル発生剤などが挙げられる。
有機過酸化物としては、例えば、t−ブチルヒドロペルオキシド、p−メンタンヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシドなどのヒドロペルオキシド類;ジクミルペルオキシド、t−ブチルクミルペルオキシド、α,α’−ビス(t−ブチルペルオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、ジ−t−ブチルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)−3−ヘキシン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサンなどのジアルキルペルオキシド類;ジプロピオニルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシドなどのジアシルペルオキシド類;2,2−ジ(t−ブチルペルオキシ)ブタン、1,1−ジ(t−ヘキシルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)−2−メチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサンなどのペルオキシケタール類;t−ブチルペルオキシアセテート、t−ブチルペルオキシベンゾエートなどのペルオキシエステル類;t−ブチルペルオキシイソプロピルカルボナート、ジ(イソプロピルペルオキシ)ジカルボナートなどのペルオキシカルボナート;t−ブチルトリメチルシリルペルオキシドなどのアルキルシリルペルオキサシド類およびペルオキシケタール類;などが挙げられる。中でも、メタセシス重合反応に対する障害が少ない点で、ジアルキルペルオキシドおよびペルオキシケタール類が好ましい。
【0060】
ジアゾ化合物としては、例えば、4,4’−ビスアジドベンザル(4−メチル)シクロヘキサノン、4,4’−ジアジドカルコン、2,6−ビス(4’−アジドベンザル)シクロヘキサノン、2,6−ビス(4’−アジドベンザル)−4−メチルシクロヘキサノン、4,4’−ジアジドジフェニルスルホン、4,4’−ジアジドジフェニルメタン、2,2’−ジアジドスチルベンなどが挙げられる。
【0061】
本発明に用いられる非極性ラジカル発生剤としては、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン、2,3−ジフェニルブタン、1,4−ジフェニルブタン、3,4−ジメチル−3,4−ジフェニルヘキサン、1,1,2,2−テトラフェニルエタン、2,2,3,3−テトラフェニルブタン、3,3,4,4−テトラフェニルヘキサン、1,1,2−トリフェニルプロパン、1,1,2−トリフェニルエタン、トリフェニルメタン、1,1,1−トリフェニルエタン、1,1,1−トリフェニルプロパン、1,1,1−トリフェニルブタン、1,1,1−トリフェニルペンタン、1,1,1−トリフェニル−2−プロペン、1,1,1−トリフェニル−4−ペンテン、1,1,1−トリフェニル−2−フェニルエタンなどが挙げられる。
【0062】
これらのラジカル発生剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。2種以上のラジカル発生剤を併用し、そのブレンド比を変化させることで、得られる架橋性樹脂のガラス転移温度や溶融状態を自由に制御することが可能である。
【0063】
架橋剤の使用量は、シクロオレフィンモノマー100質量部に対して、通常0.1〜10質量部、好ましくは0.5〜5質量部である。架橋剤の量があまりに少ないと架橋が不十分となり、高い架橋密度の架橋樹脂が得られなくなるおそれがある。架橋剤の量が多すぎる場合には、架橋効果が飽和する一方で、所望の物性を有する熱可塑性樹脂及び架橋樹脂が得られなくなるおそれがある。
【0064】
また本発明においては、架橋剤としてラジカル発生剤を用いた場合、その架橋反応を促進させるために、架橋助剤を使用することができる。架橋助剤としては、p−キノンジオキシムなどのジオキシム化合物;ラウリルメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクレートなどのメタクリレート化合物;ジアリルフマレートなどのフマル酸化合物:ジアリルフタレートなどのフタル酸化合物、トリアリルシアヌレートなどのシアヌル酸化合物;マレイミドなどのイミド化合物;などが挙げられる。架橋助剤の使用量は特に制限されないが、シクロオレフィンモノマー100質量部に対して、通常0〜100質量部、好ましくは0〜50質量部である。
【0065】
(6)その他の添加剤
前記重合性組成物には、各種の添加剤、例えば、重合反応遅延剤、ラジカル架橋遅延剤、強化材、改質剤、酸化防止剤、難燃剤、充填剤、着色剤、光安定剤などを含有させることができる。これらは、後述するモノマー液又は触媒液に予め溶解又は分散させて用いることができる。
【0066】
重合反応遅延剤としては、例えば、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィンなどの前記式(A)で表されるホスフィン化合物以外のホスフィン化合物;アニリン、ピリジンなどのルイス塩基;が挙げられる。
また、ノルボルネン系モノマーと共重合可能な環状オレフィン系モノマーのうち、分子内に1,5−ジエン構造や1,3,5−トリエン構造を有する環状オレフィンは重合反応遅延剤としても機能する。このような化合物としては、1,5−シクロオクタジエン、5−ビニル−2−ノルボルネンなどが挙げられる。
【0067】
ラジカル架橋遅延剤としては、アルコキシフェノール類、カテコール類、ベンゾキノン類が挙げられ、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシアニソールなどのアルコキシフェノール類が好ましい。
【0068】
強化材としては、ガラス繊維、ガラス布、紙基材、ガラス不織布などが挙げられる。改質剤としては、天然ゴム、スチレン−ブタジエン共重合体(SBR)、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体(SIS)、エチレン−プロピレン−ジエンターポリマー(EPDM)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)及びこれらの水素化物などのエラストマーなどが挙げられる。酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系、リン系、アミン系などの各種のプラスチック・ゴム用酸化防止剤などが挙げられる。これらの酸化防止剤は単独で用いてもよいが、二種以上を組合せて用いることが好ましい。
【0069】
難燃剤としては、リン系難燃剤、窒素系難燃剤、ハロゲン系難燃剤、水酸化アルミニウムなどの金属水酸化物系難燃剤、三酸化アンチモンなどのアンチモン化合物、などが挙げられる。難燃剤は単独で用いてもよいが、二種以上を組合せて用いることが好ましい。
【0070】
充填剤としては、ガラス粉末、セラミック粉末、シリカなどが挙げられる。これら充填剤は、二種類以上を併用してもよい。充填剤として、シランカップリング剤等で表面処理したものを用いることもできる。充填剤の量は、シクロオレフィンモノマー100質量部に対し、通常0〜600質量部、好ましくは50〜500質量部、より好ましくは50〜300質量部である。
【0071】
着色剤としては、染料、顔料などが用いられる。染料の種類は多様であり、公知のものを適宜選択して使用すればよい。
【0072】
本発明の重合性組成物は、その調製する方法によって特に制約されない。重合性組成物は、例えば、ルテニウムカルベン錯体を適当な溶媒に溶解若しくは分散させた液(以下、「触媒液」ということがある。)を調製し、別にシクロオレフィンモノマーに充てん剤、難燃剤などの添加剤を必要に応じて配合した液(以下、「モノマー液」ということがある。)を調製し、該モノマー液に触媒液を添加し、攪拌することによって調製できる。触媒液の添加は次に述べる塊状重合を行う直前に行うことが好ましい。また、式(A)で表されるホスフィン化合物、必要に応じて添加される連鎖移動剤、架橋剤などは、モノマー液と触媒液を混合する前にモノマー液及び/又は触媒液に添加してもよいし、モノマー液と触媒液とを混合した後に添加してもよい。
【0073】
[架橋性樹脂及び架橋性樹脂複合体]
本発明の架橋性樹脂は、前記重合性組成物を塊状重合することによって得られる。
重合性組成物を塊状重合する方法としては、(a)重合性組成物を支持体に注ぐか又は塗布し、塊状重合する方法、(b)重合性組成物を型内に注ぎこみ、塊状重合する方法、(c)重合性組成物を支持体に含浸し塊状重合する方法などが挙げられる。なお、(a)又は(c)の方法によって前記重合性組成物を塊状重合すると、支持体と架橋性樹脂とを含む架橋性樹脂複合体が得られる。
【0074】
(a)の方法によれば、架橋性樹脂と支持体とから形成される架橋性樹脂複合体が得られる。ここで用いる支持体としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート、ナイロンなどの樹脂;鉄、ステンレス、銅、アルミニウム、ニッケル、クロム、金、銀などの金属材料;などからなるものが挙げられる。その形状は特に限定されないが、金属箔又は樹脂フィルムの使用が好ましい。例えば、支持体に銅箔を用いた場合、樹脂付き銅箔(Resin Coated Copper(RCC))を得ることができる。これら金属箔又は樹脂フィルムの厚さは、作業性などの観点から、通常1〜150μm、好ましくは2〜100μm、より好ましくは3〜75μmである。これらの支持体の表面は平滑であることが好ましい。また、これらの支持体表面は、スチリルトリメトキシシランなどのシランカップリング剤などで表面処理をしてあることが好ましい。
【0075】
重合性組成物を支持体へ塗布する方法は特に制限されず、スプレーコート法、ディップコート法、ロールコート法、カーテンコート法、ダイコート法、スリットコート法などの公知の塗布方法が挙げられる。
【0076】
塊状重合反応はルテニウムカルベン錯体が機能する温度まで重合性組成物を加熱することによって開始される。
重合性組成物を所定温度に加熱する方法としては特に制約されず、加熱プレート上に載せて加熱する方法、プレス機を用いて加圧しながら加熱(熱プレス)する方法、加熱したローラーで押圧する方法、加熱炉を用いる方法などが挙げられる。
熱プレス又はローラーによって得られる架橋性樹脂のフィルムは、厚さが通常15mm以下、好ましくは10mm以下、より好ましくは5mm以下である。
【0077】
(b)の方法によれば、任意の形状の架橋性樹脂の成形体を得ることができる。その形状としては、シート状、フィルム状、柱状、円柱状、多角柱状等が挙げられる。
【0078】
ここで用いる型としては、従来公知の成形型、例えば、割型構造すなわちコア型とキャビティー型を有する成形型を用いることができ、それらの空隙部(キャビティー)に重合性組成物を注入して塊状重合させる。コア型とキャビティー型は、目的とする成形品の形状にあった空隙部を形成するように作製される。また、成形型の形状、材質、大きさなどは特に制限されない。また、ガラス板や金属板などの板状成形型と所定の厚さのスペーサーとを用意し、スペーサーを2枚の板状成形型で挟んで形成される空間内に重合性組成物を注入することにより、シート状又はフィルム状の架橋性樹脂成形体を得ることができる。このようにして得られる架橋性樹脂のフィルムは、厚さが通常15mm以下、好ましくは10mm以下、より好ましくは5mm以下である。
【0079】
重合性組成物を成形型のキャビティー内に充填する際の充填圧力(注入圧)は、通常0.01〜10MPa、好ましくは0.02〜5MPaである。充填圧力が低すぎると、キャビティー内周面に形成された転写面の転写が良好に行われない傾向にあり、充填圧が高すぎると、成形型の剛性を高くしなければならず経済的ではない。型締圧力は通常0.01〜10MPaの範囲内である。
【0080】
(c)の方法で用いられる支持体は、繊維材である。この方法によれば、架橋性樹脂が繊維材に含浸された架橋性樹脂複合体であるプリプレグを得ることができる。ここで用いる繊維材の材質は、有機及び/又は無機の繊維であり、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ビニロン繊維、ポリエステル繊維、アミド繊維、金属繊維、セラミック繊維などの公知のものが挙げられる。これらは1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。繊維材の形状としては、マット、クロス、不織布などが挙げられる。また、これらの繊維材はその表面がシランカップリング剤などで表面処理をしてあることが好ましい。
【0081】
重合性組成物の繊維材への含浸は、例えば、重合性組成物の所定量を、スプレーコート法、ディップコート法、ロールコート法、カーテンコート法、ダイコート法、スリットコート法等の公知の方法により繊維材に塗布し、必要に応じてその上に保護フィルムを重ね、上側からローラーなどで押圧することにより行うことができる。本発明の重合性組成物は、室温以下での重合反応の進行が遅く、粘度の上昇が抑制されているため、繊維材に均一に含浸させることができる。重合性組成物を繊維材に含浸させた後、含浸物を所定温度に加熱することにより、重合性組成物を塊状重合させることができ、それによって架橋性樹脂が含浸されたプリプレグが得られる。
【0082】
含浸物の加熱方法は特に限定されず、前記(a)の方法と同様の方法が採用でき、含浸物を基材上に設置して加熱してもよい。また、繊維材を設置した型内に重合性組成物を注入し、重合性組成物を含浸させてから前記(b)の方法に従い塊状重合してもよい。
【0083】
本発明の重合性組成物は従来の樹脂ワニスと比較して低粘度であり、繊維材に対する含浸性に優れるので、繊維材に架橋性樹脂を均一に含浸させることができる。
また、本発明の重合性組成物は反応に関与しない溶媒等の含有量が少ないので、繊維材に含浸させた後に溶媒を除去するなどの工程が不要であり、生産性に優れ、残存溶媒による臭気やフクレ等も生じない。
さらに、本発明の架橋性樹脂は保存安定性に優れるので、得られるプリプレグは保存安定性に優れる。
【0084】
上記(a)、(b)及び(c)のいずれの方法においても、重合性組成物を重合させるための加熱温度は、通常50〜250℃、好ましくは100〜200℃である。重合時間は適宜選択すればよいが、通常、10秒間から20分間、好ましくは5分間以内である。
【0085】
重合性組成物を所定温度に加熱することにより重合反応が開始する。この重合反応は発熱反応であり、一旦塊状重合反応が開始すると、反応液の温度が急激に上昇し、短時間(例えば、10秒間から5分間程度)でピーク温度に到達する。重合反応時の最高温度があまりに高くなると、架橋反応が起きて架橋体になってしまい、後架橋可能な架橋性樹脂が得られないおそれがある。したがって、重合反応のみを完全に進行させ、架橋反応が進行しないようにするためには、塊状重合反応時のピーク温度を、前記ラジカル発生剤の1分間半減期温度以下、好ましくは230℃以下、より好ましくは200℃未満に制御することが好ましい。
【0086】
本発明の架橋性樹脂は、架橋可能な樹脂である。ここで「架橋可能な」は、樹脂を加熱することによって、架橋反応が進行して架橋体になり得るということである。
また、本発明の架橋性樹脂複合体は、該架橋性樹脂と前記支持体とが一体化されてなる複合材料である。
【0087】
本発明の架橋性樹脂は、前述した重合性組成物の塊状重合反応がほぼ完全に進行するので、残留モノマーが少なくなっており、モノマーに由来する臭気等で作業環境が悪化することがない。また、式(A)のホスフィン化合物中のアルケニル基が重合反応し樹脂に結合しているので、架橋反応時の加熱によって、架橋体からブリードアウトするなどのことが起きず、成形性に優れており、また、インピーダンスのばらつきを小さくできる。
さらに、前記の非極性ラジカル発生剤として分解温度の高いものを用いると、架橋時において、架橋性樹脂が適度に流動し、金属箔などの支持体との密着性、配線板への埋め込み性が良好になる。また、得られる架橋体の誘電損失(tanδ)が著しく小さくなっており、電気特性に優れている。
【0088】
本発明の架橋性樹脂は、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類、ジクロロメタン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素等の溶媒に可溶であることが好ましい。また、熱可塑性を示すので、架橋反応が起きない程度の温度で溶融成形を行うことによって様々な形状を形成できる。
【0089】
本発明の架橋性樹脂の成形体は、一部分が架橋体になっているものであってもよい。例えば、型内で重合性組成物を塊状重合したときには、型の中心部分は重合反応熱が発散しにくいので、型内の一部の温度が高くなりすぎる場合がある。高温部では架橋反応が起き、架橋体になってしまうことがある。しかし、熱を発散しやすい表面部が後架橋可能な架橋性樹脂で形成されていれば、本発明の架橋性樹脂の成形体としての効果を十分に享受できる。架橋性樹脂の複合体においても、同様に架橋性樹脂の一部が架橋体になっていてもよい。
【0090】
本発明の架橋性樹脂は、塊状重合がほぼ完全に進行して得られるものであるので、保管中にさらに重合反応が進行するという恐れがない。本発明の架橋性樹脂は架橋剤(非極性ラジカル発生剤)を含有しているが、架橋反応を起す温度以上に加熱しない限り、表面硬度が変化するなどの不具合が生じず、保存安定性に優れている。
【0091】
[架橋体]
本発明の架橋体は前記架橋性樹脂を架橋してなるものである。
架橋性樹脂の架橋は、例えば、本発明の架橋性樹脂を加熱溶融するなどして、架橋性樹脂が架橋反応を起す温度以上に維持することによって行うことができる。架橋性樹脂を架橋させるときの温度は、前記塊状重合時のピーク温度より20℃以上高いことが好ましく、通常170〜250℃、好ましくは180〜220℃である。また、架橋する時間は特に制約されないが、通常数分間から数時間である。
【0092】
架橋性樹脂がシート状又はフィルム状の成形体である場合には、該成形体を基材に必要に応じて積層し、熱プレスする方法が好ましい。熱プレスするときの圧力は、通常0.5〜20MPa、好ましくは3〜10MPaである。熱プレスは、真空または減圧雰囲気下で行ってもよい。熱プレスは、平板成形用のプレス枠型を有する公知のプレス機、シートモールドコンパウンド(SMC)やバルクモールドコンパウンド(BMC)などのプレス成形機を用いて行なうことができる。
【0093】
[架橋樹脂複合体]
本発明の架橋樹脂複合体は、前記架橋体と支持体とを含んでなるものである。
本発明の架橋樹脂複合体は、前述の架橋性樹脂複合体を架橋することによって得られる。また、架橋性樹脂成形体を支持体上で加熱して架橋することによって、または、架橋性樹脂複合体を別の支持体上で加熱して架橋することによっても得られる。
【0094】
架橋性樹脂成形体又は架橋性樹脂複合体を支持体上で加熱して架橋する方法としては、板状、フィルム状に成形された架橋性樹脂を、熱プレスによって、支持体に積層させ、さらに加熱を続けることによって架橋性樹脂を架橋することができる。熱プレスの条件は、前記架橋性樹脂を架橋する場合と同様である。
ここで用いられる新たな支持体としては、銅箔、アルミ箔、ニッケル箔、クロム箔、金箔、銀箔などの金属箔;プリント配線板;導電性ポリマーフィルム、他の樹脂フィルムなどのフィルム類;などが挙げられる。また、該支持体としてプリント配線板を用いると、多層プリント配線板を製造することができる。
銅箔などの金属箔やプリント配線板上の導電層は、その表面が、シランカップリング剤、チオール系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、各種接着剤などで処理されているものが好ましい。これらのうちシランカップリング剤で処理されているものが特に好ましい。
【0095】
本発明の架橋性樹脂は流動性及び密着性に優れているので、平坦性に優れ、かつ、支持体との密着性に優れた複合体を得ることができる。本発明の複合体は、例えば、支持体として厚さ18μmの超平滑(SLP)銅箔を用いた場合には、JIS C6481に基づいて測定した剥離強度が、好ましくは0.6kN/m以上、より好ましくは0.8kN/m以上である。
【0096】
本発明の架橋体及び複合体は、電気絶縁性、機械的強度、耐熱性、誘電特性などに優れている。また複合体は、支持体との密着性が良好であり、電気材料として好適である。
【実施例】
【0097】
次に実施例及び比較例を挙げ、本発明を詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。また、以下の実施例及び比較例において、「部」及び「%」は特に断りのない限り、質量基準である。
【0098】
本実施例では以下の方法に従って評価を行った。
(粘度上昇率)
調製直後の重合性組成物1.5mlについて、E型粘度計を用いて、25℃、回転数10rpmで粘度を測定した。該重合性組成物を20℃に保持した恒温槽内で保管し、4時間後の粘度を同様に測定し、下式により粘度の上昇率を求め、以下の基準で評価した。
粘度上昇率=(4時間後の粘度/調製直後の粘度−1)×100(%)
A:粘度上昇率が20%未満
B:20%以上、100%未満
C:100%以上、1,000%未満
D:粘度が高すぎて測定不可
【0099】
(ガラスクロス含浸性)
プリプレグを目視により観察し、重合性組成物のガラスクロスへの含浸性を以下の基準で評価した。
A:プリプレグに空隙が見られなかった。
B:プリプレグに空隙があった。
C:ガラスクロスへ含浸出来ず、プリプレグを作製出来なかった。
【0100】
(重合転化率)
プリプレグの中央部分を一部切り取り、ガスクロマトグラフィーで残留モノマー量を測定した。残留モノマー量から重合転化率を算出し、以下の基準で評価した。
A:重合転化率が98%以上
B:95%以上、98%未満
C:90%以上、95%未満
D:重合せず
【0101】
(重量平均分子量(Mw))
プリプレグの中央部分を一部切り取り、テトラヒドロフランを展開溶媒とする、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーによる測定結果を標準ポリスチレンの分子量に換算して求めた。
【0102】
(積層性)
積層板における、回路パターンへの樹脂の埋め込み性を目視にて確認した。
A:回路パターンへの樹脂の埋め込み性は良好であった。
B:回路パターン中に、樹脂が埋め込まれなかった部分が見られた。
C:回路パターンに全く樹脂が埋め込まれなかった。
【0103】
実施例1 ジシクロヘキシルホスフィンを使用した例
ガラス製フラスコ内で、式(8)で表されるベンジリデン(1,3−ジメシチル−4−イミダゾリン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド 0.04部を、テトラヒドロフラン 0.7部に溶解させて、ルテニウム濃度が0.05モル/リットルの溶液を調製した。これにジシクロヘキシルホスフィン 0.008部(ルテニウム:ホスフィンのモル比=1:1)を添加し溶解させて触媒溶液を得た。
【0104】
【化4】

【0105】
ガラス瓶に、テトラシクロ[6.2.1.13.6.02.7]ドデカ−4−エン 100部、シランカップリング剤で表面処理したシリカ粒子 100部、難燃剤としてアンチモン酸化物(PATOX−M、日本精鉱社製) 27部及びエタン−1,2−ビス(ペンタブロモフェニル)(SAYTEX8010、ALBEMARLE社製) 13部を入れ、均一に混合した。これに、連鎖移動剤としてメタクリル酸ウンデセニル(エコノマーML、新中村化学社製) 2.8部、及びラジカル発生剤としてジ−t−ブチルパーオキサイド(カヤブチルD、化薬アクゾ社製) 1.04部を攪拌しながら加え、モノマー液を得た。このモノマー液に、前記触媒溶液 0.33部を加えて、触媒溶液が均一に分散するように攪拌し、重合性組成物を調製した。
【0106】
調製から4時間経過後に、前記重合性組成物 70部を、ポリエチレンテレフタレートフィルム(タイプQ51、厚さ75μm、帝人デュポンフィルム社製)の上に流延し、その上にガラスクロス(2116−シランカップリング剤処理品、厚さ75μm)を敷き、さらにその上に上記重合性組成物70部を流延した。その上からさらにポリエチレンテレフタレートフィルムをかぶせて、ローラーを用いて重合性組成物をガラスクロス全体に含侵させた。150℃に熱した加熱炉中で、2分間加熱し、重合性組成物を塊状重合させてプリプレグを得た。
【0107】
このプリプレグを100mm角の大きさに切り出し、これをIPC−SM−840−Aの回路パターンが形成されたコア材上に載せ、熱プレスにて、積層板を得た。熱プレスの条件は、圧力3MPaで保持しながら、4℃/分の昇温速度で220℃まで温度を上昇させ、10分間保持して行った。評価結果を表1に示す。
【0108】
【表1】

【0109】
実施例2 ビニルジフェニルホスフィンを使用した例
ジシクロヘキシルホスフィン 0.008部に代えて、ビニルジフェニルホスフィン 0.008部(ルテニウム:ホスフィンのモル比=1:1)を使用した以外は、実施例1と同様にして重合性組成物、プリプレグおよび積層板を得た。評価結果を表1に示す。
【0110】
実施例3 アリルジフェニルホスフィンを使用した例
ジシクロヘキシルホスフィン 0.008部に代えて、アリルジフェニルホスフィン 0.008部(ルテニウム:ホスフィンのモル比=1:1)を使用した以外は、実施例1と同様にして重合性組成物、プリプレグおよび積層板を得た。評価結果を表1に示す。
【0111】
実施例4〜6
ベンジリデン(1,3−ジメシチル−4−イミダゾリン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド 0.04部に代えて、式(9)で表される(1,3−ジメシチル−4−イミダゾリン−2−イリデン)(2−ピロリドン−1−イルメチレン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド 0.04部(ルテニウム:ホスフィンのモル比=1:1)を使用した以外は、それぞれ実施例1〜3と同様にして重合性組成物、プリプレグおよび積層板を得た。評価結果を表2に示す。
【0112】
【化5】

【0113】
実施例7 トリアリルホスフィンを使用した例
ジシクロヘキシルホスフィン 0.008部に代えて、トリアリルホスフィン 0.006部(ルテニウム:ホスフィンのモル比=1:1)を使用した以外は、実施例4と同様にして重合性組成物、プリプレグおよび積層板を得た。評価結果を表2に示す。
【0114】
【表2】

【0115】
実施例8〜10
ベンジリデン(1,3−ジメシチル−4−イミダゾリン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド 0.04部に代えて、式(10)で表されるベンジリデン(1,3−ジメシチル−イミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド 0.04部(ルテニウム:ホスフィンのモル比=1:1)を使用した以外は、それぞれ実施例1〜3と同様にして重合性組成物、プリプレグおよび積層板を得た。評価結果を表3に示す。
【0116】
【化6】

【0117】
【表3】

【0118】
比較例1 ホスフィン化合物を使用しなかった例
ビニルジフェニルホスフィンを添加しなかった以外は、実施例7と同様にして重合性組成物を調製した。該重合性組成物は、調製から4時間後には粘度が高くなりすぎてガラスクロスへ含浸出来ず、プリプレグおよび積層板を作製出来なかった。
【0119】
比較例2 トリフェニルホスフィンを使用した例
ジシクロヘキシルホスフィン 0.008部に代えて、トリフェニルホスフィン 0.01部(ルテニウム:ホスフィンのモル比=1:1)を使用した以外は、実施例7と同様にして重合性組成物を調製した。該重合性組成物は、調製から4時間後には粘度が高くなりすぎてガラスクロスへ含浸出来ず、プリプレグを作製出来なかった。
【0120】
比較例3 トリフェニルホスフィンを大量に使用した例
トリフェニルホスフィンの量を0.05部(ルテニウム:ホスフィンのモル比=1:5)とした以外は、比較例2と同様にして重合性組成物を調製した。該重合性組成物は、調製から4時間後には粘度が高くなりすぎてガラスクロスへ含浸出来ず、プリプレグを作製出来なかった。
【0121】
比較例4 トリフェニルホスフィンを大量に使用した例
トリフェニルホスフィンの量を0.1部(ルテニウム:ホスフィンのモル比=1:10)とした以外は、比較例2と同様にして重合性組成物、プリプレグおよび積層板を得た。評価結果を表4に示す。重合性組成物の経時による粘度上昇は抑えられたが、トリフェニルホスフィンの過剰添加により、重合転化率が低下した。また分子量の制御ができず、Mwが4.0万と大きくなった。
【0122】
【表4】

【0123】
比較例5 トリ−n−ブチルホスフィンを使用した例
ジシクロヘキシルホスフィン 0.008部に代えて、トリ−n−ブチルホスフィン 0.006部(ルテニウム:ホスフィンのモル比=1:1)を使用した以外は、実施例7と同様にして重合性組成物を調製した。該重合性組成物は、調製から4時間後には粘度が高くなりすぎてガラスクロスへ含浸出来ず、プリプレグを作製出来なかった。評価結果を表5に示す。
【0124】
比較例6 トリ−n−ブチルホスフィンを大量に使用した例
トリ−n−ブチルホスフィンの量を0.03部(ルテニウム:ホスフィンのモル比=1:5)とした以外は、比較例5と同様にして重合性組成物、プリプレグおよび積層板を得た。評価結果を表5に示す。重合性組成物の経時による粘度上昇は抑えられたが、トリ−n−ブチルホスフィンの過剰添加により、重合転化率が低下した。また分子量の制御ができず、Mwが4.3万と大きくなった。
【0125】
比較例7 トリ−n−ブチルホスフィンを大量に使用した例
トリ−n−ブチルホスフィンの量を0.06部(ルテニウム:ホスフィンのモル比=1:10)とした以外は、比較例5と同様にして重合性組成物を得た。評価結果を表5に示す。重合性組成物の経時による粘度上昇は抑えられたが、トリ−n−ブチルホスフィンの過剰添加により重合反応が進行せず、プリプレグおよび積層板を作製出来なかった。
【0126】
【表5】

【0127】
以上の結果から、式(A)で表されるホスフィン化合物を配合した重合性組成物は、経時による粘度上昇を抑えること及び単量体の重合転化率を高くすることの相反する要求を両方とも満足させることができ、繊維材への均一な含浸が可能となることがわかる。また該重合性組成物を塊状重合し次いで架橋させると、電気回路基板などに用いる絶縁膜やプリプレグに応用できることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロオレフィンモノマー、ルテニウムカルベン錯体、および
式(A) : PR123
(式(A)中、R1〜R3は、それぞれ独立に、水素原子、アルケニル基、シクロアルキル基またはアリール基を表し、
上記シクロアルキル基およびアリール基は、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基またはアリール基を置換基として有していてもよく、
1〜R3のうち、少なくとも一つはアルケニル基を含む基または水素原子であり、
1〜R3のうちの一つ又は二つが水素原子であるときは、残りのR1〜R3はアルケニル基、シクロアルキル基またはアリール基である。)
で表されるホスフィン化合物、
を含有する重合性組成物。
【請求項2】
前記のR1〜R3の少なくとも一つが水素原子またはアルケニル基である請求項1記載の重合性組成物。
【請求項3】
前記アルケニル基がビニル基である請求項2記載の重合性組成物。
【請求項4】
さらに連鎖移動剤を含有する請求項1〜3のいずれかに記載の重合性組成物。
【請求項5】
さらに架橋剤を含有する請求項1〜4のいずれかに記載の重合性組成物。
【請求項6】
請求項5に記載の重合性組成物を塊状重合して得られる架橋性樹脂。
【請求項7】
請求項5に記載の重合性組成物を塊状重合する工程を含む、架橋性樹脂の製造方法。
【請求項8】
前記塊状重合を100〜200℃で行う、請求項7に記載の架橋性樹脂の製造方法。
【請求項9】
請求項5に記載の重合性組成物を支持体に塗布または含浸し、塊状重合する工程を含む、架橋性樹脂複合体の製造方法。
【請求項10】
請求項6に記載の架橋性樹脂を架橋する工程を含む、架橋体の製造方法。
【請求項11】
請求項6に記載の架橋性樹脂の成形体を支持体上で架橋する工程を含む、架橋樹脂複合体の製造方法。
【請求項12】
前記塊状重合を100〜200℃で行う、請求項9に記載の架橋性樹脂複合体の製造方法。
【請求項13】
請求項9に記載の製造方法で得られた架橋性樹脂複合体を架橋する工程を含む、架橋樹脂複合体の製造方法。
【請求項14】
前記架橋を別の支持体上で行う、請求項13に記載の架橋樹脂複合体の製造方法。

【公開番号】特開2008−184565(P2008−184565A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−20492(P2007−20492)
【出願日】平成19年1月31日(2007.1.31)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】