説明

重合状態判定装置

【課題】単量体の重合体に対する可溶性を重合反応の際に判定するための重合状態判定装置の提供。
【解決手段】重合液を透過した光を検出することにより、重合液の光透過像に対応する画像情報を取得する取得手段11と、取得された画像情報を一時的に記憶する記憶手段12と、記憶手段から出力された画像情報に基づいて単量体の重合体に対する可溶性を判定する判定手段13と、を備える重合状態判定装置1を提供する。判定手段13は、前記画像情報に基づいて、前記光透過像における光不透過領域を検出することにより、単量体が均一重合するのか不均一重合するのかの判定を行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単量体を懸濁重合させて重合体を得る際の重合状態を判定するための装置に関する。より詳しくは、単量体が均一重合するものか、不均一重合するものかを判定するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
懸濁重合は、大きく分けて重合体が単量体に可溶である反応(以下、「均一重合」という)と重合体が単量体に不溶である反応(以下、「不均一重合」という)とに分けられる。
【0003】
均一重合では、生成する重合体粒子が、単量体に可溶なため単量体中に溶解されたまま重合反応が進行する。均一重合する単量体としては、スチレン、ジクロロブタジエンなどが知られている。これに対して、不均一重合では、重合体粒子が単量体に不溶なため、重合反応の進行に伴って重合体粒子が析出してくる。不均一重合する単量体としては、塩化ビニルや塩化ビニリデン、アクリロニトリルなどがある(非特許文献1参照)。
【0004】
懸濁重合において重合体が単量体に可溶であるのかどうかを判別することはその粉体特性を推定する上で重要な情報となる。公知の単量体であれば、その単量体が均一重合であるか不均一重合であるかを文献等から知ることができる。しかしながら、未知の単量体の場合は、実際に懸濁重合させて得られた重合体について、その可塑剤吸収量などの粉体特性を評価しないと、均一重合であるのか不均一重合であるのかという情報を得ることはできなかった。このため、重合の状態を重合反応の際に判定する手法の開発が望まれていた。
【0005】
重合液中の重合体粒子を観察する方法としては、オンライン解析装置が知られている。オンライン画像解析装置としては、例えば、特許文献2に記載された真球粒子の製造方法や、特許文献3記載の液中粒子の画像解析装置に記載されたものがある。
【非特許文献1】ラジカル重合ハンドブック
【特許文献2】特開2001−004522号公報
【特許文献3】特開2004−069431号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、単量体が均一重合するものか、不均一重合するものかを重合反応の際に判定するための重合状態判定装置及びその用途を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題解決のため、本発明は、重合液を透過した光を検出することにより、重合液の光透過像に対応する画像情報を光学的な画像として取得する取得手段と、取得された画像情報を一時的に記憶する記憶手段と、記憶手段から出力された画像情報に基づいて単量体が均一重合するものか、不均一重合するものかを判定する判定手段と、を備える重合状態判定装置を提供する。
この重合状態判定装置において、上記判定手段は、前記画像情報に基づいて、前記光透過像における光不透過領域を検出することにより、単量体が均一重合するものか、不均一重合するものかの判定を行なう。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る重合状態判定装置により、単量体が均一重合するものか、不均一重合するものかを重合反応の際に判定することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための好適な形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0010】
図1は本発明に係る重合状態判定装置の第一の実施形態を示す図である。
【0011】
図中、符号1で示される重合状態判定装置は、重合液の光透過像に対応する画像情報を取得するための取得手段11と、取得された画像情報を一時的に記憶する記憶手段12と、記憶手段12から出力された画像情報に基づいて単量体が均一重合するものか、不均一重合するものかを判定する判定手段13とを備えている。また、符号14は、判定手段13から出力された判定結果を表示する結果表示手段である。
【0012】
図中、符号2は単量体の重合反応を行なうための重合缶(重合反応槽)であり、符号3は重合缶2内の重合液を重合缶2外へ取り出すための流路である。符号sは、重合缶2内の重合液の液面を表している。
【0013】
重合缶2は、通常の重合反応に用いられるものを使用すればよく、その材質や形状等は特に限定されない。また、重合缶2には、図に示すように、内部の重合液を攪拌するための攪拌装置21や攪拌効率を高めるための邪魔板22を設けてもよい。攪拌装置21は、例えば、三枚後退翼、パドル翼、アンカー翼、マックスブレンド翼、フルゾーン翼などの攪拌翼を用いる方法、ジェットポンプを用いる方法、泡による攪拌、攪拌子を用いる方法などがある。これらの中でも、マックスブレンド翼などの大型翼を使用すると、攪拌が十分に行われるため好ましい。
【0014】
流路3は、重合缶2内の重合液を、導入口31から図中矢印方向へと導入する。導入の方法は、特に限定するものではないが、重合缶2内を与圧させて重合液を導入口31から導入する方法や、流路3に取り付けた真空ポンプやアスピレーターなどで導入口31から吸入する方法などがある。本実施形態では、図に示すように、流路3内へ導入された重合液を排出口32から重合缶2内へ戻し、循環させる構成としている。
【0015】
流路3の一部には、光を透過する材質で構成された重合液撮影部33が設けられている。重合液撮影部33は例えばガラス製とすることができ、これにより、重合液撮影部33において取得手段11が流路3内の重合液の光透過像を撮影できるよう構成している。なお、符号34は、重合液中の空気(気泡)を排出するためのベント孔であり、流路3の導入口31から重合液撮影部33までの間に設けられる(ベント孔34については後述)。なお、流路3の重合液撮影部33以外の材質や、管長及び内外径は特に限定するものではない。
【0016】
取得手段11は撮影機構として機能する。上記の通り、重合液撮影部33は光を透過する材質で構成されているため、重合液撮影部33の反対側や側面(図中下方)から重合液撮影部33へ投射され、重合液撮影部33内の重合液を透過した光(図中点線で示す)を検出することにより、取得手段11において重合液の光透過像を撮影することができる。取得手段11には、通常用いられる撮影装置を用いることが可能であり、高速度CCDカメラが好適に採用できる。
【0017】
この際、図に示すように、重合液撮影部33に対し取得手段11の反対側や側面(図中下方)に光源4を設けることにより、重合液の光透過像をより明瞭に撮影することが可能となる。すなわち、光源4は、例えばキセノンランプ等であって、重合液撮影部33に光を投射する。光源4から投射され、重合液撮影部33内の重合液を透過した光は、取得手段11によって検出される。これにより、取得手段11において、重合液の光透過像をより明瞭に撮影することでき、後述する重合液の光透過像における光不透過領域を感度良く検出することが可能となる。
【0018】
流路3への重合液の導入及び取得手段11による重合液の光透過像の撮影は、重合反応開始後反応終了まで、任意のタイミングで断続的に行なってよく、又は持続的に行なってもよい。
【0019】
取得手段11は、撮影された重合液の光透過像を画像情報へと変換し、記憶手段12へ出力する。記憶手段12へ出力された画像情報は、一時的に記憶された後、さらに判定手段13へと出力される。判定手段13は、この画像情報に基づいて単量体が均一重合するものか、不均一重合するものかを判定する。記憶手段12及び判定手段13は、図に示すように別体に構成してもよく、また一体の構成であってもよい。通常は、汎用のコンピューターを用いて一体として構成される。また、この場合、上記結果表示手段14はコンピューターの表示部(ディスプレイ)に設けることができる。
【0020】
図2は、本発明に係る重合状態判定装置の第二の実施形態を示す図である。
【0021】
図中、符号1で示される重合状態判定装置は、重合缶2内の重合液について、直接その光透過像を撮影する構成とされている。すなわち、上記第一実施形態に係る重合状態判定装置では、重合液を流路3内へ導入し、重合液撮影部33において重合液の光透過像を撮影する構成となっている。これに対し、本実施形態に係る重合状態判定装置では、流路3によって重合液を重合缶2外へ取り出すことなく、直接その光透過像を撮影する。
【0022】
図では、重合缶2の壁面の一部に光源4を配置し、光源4から投射され重合液を透過した光が、重合缶2の対側壁面に配置した取得手段11によって検出されるよう構成している。光源4及び取得手段11の配置位置は、図に示す位置に限定されず、重合缶2内の所望の位置に配置することができる。例えば、重合缶2の壁面(又はその一部)を、光を透過する材質で構成し、重合缶2外の一方から光源4によって光を照射し、重合液を透過した光を反対側に配置した取得手段11により検出するよう構成してもよい。
【0023】
本実施形態に係る重合状態判定装置は、スモールスケールでの重合反応を行なう場合であって、重合缶2の容積が小さい場合に特に好適に用いることができる。取得手段11や記憶手段12、判定手段13等の構成は第一実施形態に係る重合状態判定装置に同じである。
【0024】
以下、判定手段13による単量体が均一重合するものか、不均一重合するものかを判定方法を説明する。初めに、取得手段11によって撮影される重合液の光透過像の具体例を図3に示す。
【0025】
図3(A)は、ジクロロブタジエンを用いた懸濁重合において、取得手段11によって撮影された重合液の光透過像である。図中、符号33,33で示す重合液撮影部33壁面に挟まれた部分(図中矢印で示す)が、重合液の光透過像である。ジクロロブタジエンは、均一重合の単量体として知られている。図3(B)は、アクリロニトリルを用いた懸濁重合において、取得手段11によって撮影された重合液の光透過像である。アクリロニトリルは、不均一重合の単量体として知られている。
【0026】
なお、ジクロロブタジエン及びアクリロニトリルの重合反応条件の詳細は以下の通りである。攪拌機を装備したガラス製重合缶に、イオン交換水368質量部、懸濁剤としてポリビニルアルコールW−20N(電気化学工業社製)2質量部を仕込み、窒素で1時間脱気後、ジクロロブタジエン20質量部に重合開始剤として過酸化ラウロイル0.5質量部を添加したものを仕込んで、60℃に昇温して重合を開始した。図3(A)は、重合開始10分後の重合液の光透過像である。同様に、イオン交換水400質量部、懸濁剤としてポリビニルアルコールW−20N(電気化学工業社製)4.0質量部を仕込み、窒素で1時間脱気後、アクリロニトリル40質量部に重合開始剤として過酸化ラウロイル0.5質量部を添加したものを仕込んで、60℃に昇温して重合を開始した。図3(B)は、重合開始90分後の重合液の光透過像である。
【0027】
図3(A)のジクロロブタジエンでは、符号pで示される重合体粒子が重合液(単量体)中に溶解した状態となっており、重合体粒子滴pは光透過性の透明な粒子として観察される。これに対して、図2(B)のアクリロニトリルでは、重合体粒子滴pが重合液(単量体)中に溶解せずに析出した状態となっており、重合体粒子滴pは光不透過性の黒い粒子として観察される。
【0028】
図中、符号bは気泡であり、重合体粒子滴pに対して大型で、その中心部のみが光透過性となっているのが特徴である。気泡bは、上記第一実施形態に係る重合状態観察装置において、流路3内に重合液を導入する際、導入口31から重合液とともに混入する(図1参照)。上述したベント孔34は、重合液が重合液撮影部33に到達する前に、この気泡bを可能な限り脱気して取り除くことを目的としたものである。
【0029】
図に示されるように、重合液中に生成される重合体粒子滴pは、重合反応が均一重合であるか(図3(A)参照)不均一重合であるか(図3(B)参照)によって、その光透過性が異なる。また、重合液中に混入する気泡bについても、中心部分のみが光透過性であるという特徴において、重合体粒子滴pとは光透過性が異なる。
【0030】
図4は、図3に示した重合液の光透過像を模式化したものである。図4(A)は、均一重合を示す図(図3(A)参照)、図4(B)は、不均一重合を示す図(図3(B)参照)である。
【0031】
上述したとおり、重合液に含まれる重合体粒子滴p及び気泡bは、それぞれ光透過性が異なる。そこで、図3に示した重合液の光透過像に対応する画像情報について、輝度(光透過度)による二値化を行なうと、重合液の光透過像は図4のように模式化することができる。図中、黒い領域は光不透過領域、白い領域は光透過領域を表している。
【0032】
図4(B)中、符号pは、不均一重合において観察される光不透過性の重合体粒子滴を表す。また、符号bは、周辺部が光不透過性であり、かつ、中心部が光透過性である気泡を表す。なお、均一重合において観察される光透過性の重合体粒子滴(符号p)は、便宜上破線により示したが、破線部分については光不透過領域を意味するものではない。
【0033】
図に示されるように、不均一重合(図3(B)参照)では、重合体粒子滴pが光不透過領域として現れる。従って、この重合体粒子滴pに対応する光不透過領域を検出すれば、単量体が均一重合するものか、不均一重合するものかを判定することが可能となる。
【0034】
判定手段13は、このように画像情報に基づいて重合液の光透過像における光不透過領域を検出することにより、単量体が均一重合するものか、不均一重合するものかを判定する。図5は、その判定手順を示すフローチャートである。なお、判定手段13に用いられるプログラムは、汎用の画像解析プログラム又はこれを改変したものを用いればよい。
【0035】
判定手段13は、まず、ステップ1において記憶手段12から出力された画像情報を輝度(光透過性)によって二値化する。
【0036】
次に、ステップ2において、光不透過領域を識別する。ここで識別される光不透過領域は、不均一重合における重合体粒子滴p及び気泡bに由来するものである(図4(B)参照)。
【0037】
続いて、ステップ3で、識別された光不透過領域において、さらに不均一重合における重合体粒子滴に対応する領域を検出する。図4で示したように、不均一重合における重合体粒子滴pは光を完全に透過しないため、重合体粒子滴pに対応する領域は「閉じた光不透過領域」として識別される。これに対して、気泡bは中心部に光透過領域を有するため、「開いた光不透過領域」として識別される。判定手段13、この「閉じた光不透過領域」を識別することにより、不均一重合における重合体粒子滴を、気泡と区別して検出する。
【0038】
判定手段13は、ステップ4で、不均一重合における重合体粒子滴に対応する「閉じた光不透過領域」を検出した場合(図5中「Yes」の場合)には、不均一重合との判定結果を結果表示部14に出力する。また、検出しない場合(図5中「No」の場合)には、再度ステップ1において記憶手段12から出力された画像情報を、輝度(光透過性)によって二値化し、同様の判定手順を行なう。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明に係る重合状態判定装置は、単量体が均一重合するものか、不均一重合するものかを重合反応の際に判定することが可能であるため、例えば、新規単量体の開発において、その単量体が均一重合するものか、不均一重合するものかを迅速かつ容易に判定することができ、開発の短期化、コスト削減に寄与し得る。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明に係る重合状態判定装置の第一の実施形態を示す図である。
【図2】本発明に係る重合状態判定装置の第二の実施形態を示す図である。
【図3】ジクロロブタジエン(A)及びアクリロニトリル(B)重合液の光透過像である。
【図4】均一重合(A)及び不均一重合(B)における重合液の光透過像の模式図である。
【図5】判定手段13の判定手順を示すフローチャートである
【符号の説明】
【0041】
1 重合状態判定装置
11 入力手段
12 記憶手段
13 判定手段
14 結果表示部
2 重合缶
21 攪拌装置
22 邪魔板
3 流路
31 導入口
32 排出口
33 重合液撮影部
34 ベント孔
p 重合体粒子滴
b 気泡

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単量体を懸濁重合させて重合体を得る際の重合液の重合状態を判定する重合状態判定装置であって、
重合液を透過した光を検出することにより、前記重合液の光透過像に対応する画像情報を取得する取得手段と、
取得された前記画像情報を一時的に記憶する記憶手段と、
該記憶手段から出力された前記画像情報に基づいて単量体が均一重合するものか、不均一重合するものかを判定する判定手段と、
を備える重合状態判定装置。
【請求項2】
前記判定手段は、前記画像情報に基づいて、前記光透過像における光不透過領域を検出することにより、単量体が均一重合するものか、不均一重合するものかを判定することを特徴とする請求項1記載の重合状態判定装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−31191(P2009−31191A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−197236(P2007−197236)
【出願日】平成19年7月30日(2007.7.30)
【出願人】(504182255)国立大学法人横浜国立大学 (429)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】