説明

重心角推定方法及び同方法によって制御される倒立車輪型走行体

【課題】倒立車輪型走行体において、必要最小限のセンサを用いて、倒立状態及び補助輪接地状態の両状態における重心角(搭乗者や搭載物と倒立車輪型走行体との合成重心角)を推定する方法を提供する。
【解決手段】補助輪が接地せず駆動輪のみで倒立する倒立状態と補助輪が接地する補助輪接地状態とを有する搭乗可能な倒立車輪型走行体について、倒立状態及び補助輪接地状態の各運動方程式に基づいて状態オブザーバを設計し、補助輪接地状態の状態オブザーバの状態方程式にはアフィン項を導入し、倒立状態及び補助輪接地状態の各状態オブザーバを用いて、両状態での搭乗者又は搭載物に起因する倒立車輪型走行体全体の重心角の変動分及び外乱、及び補助輪接地状態での床反力を推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搭乗者や搭載物と倒立車輪型走行体との合成重心角を推定する方法、及び同方法によって制御される倒立車輪型走行体に関する。より詳細には、本発明は、倒立状態及び補助輪接地状態の両方において搭乗者や搭載物と倒立車輪型走行体との合成重心角を推定する方法、及び同方法によって制御される倒立車輪型走行体に関する。
【背景技術】
【0002】
倒立車輪型走行体、特に倒立車輪型二輪走行体は、占有面積が小さく、小回りが利く等の理由から、例えば搭乗型倒立二輪移動ロボット等の倒立車輪型走行体の開発が近年盛んに行われてきている(例えば、特許文献1、特許文献2を参照)。かかる倒立車輪型走行体は、駆動輪の駆動により搭乗者や搭載物と倒立車輪型走行体との合成重心位置を修正して安定状態を維持しつつ移動するように制御される。このような搭乗者や搭載物と倒立車輪型走行体との合成重心位置の修正を行うためには、搭乗者や搭載物と倒立車輪型走行体との合成重心角を検知する必要がある。
【0003】
例えば、走行体の重心位置や重心角は、搭乗者の体重、体格、癖、及び障害等、並びに搭載物(例えば、荷物等)の重量及び形状等によって大きく異なるため、倒立車輪型二輪走行体の重心角も搭乗者や搭載物の性状等によって大きく異なる。従って、前述のように搭乗者や搭載物と倒立車輪型走行体との合成重心角を検知して搭乗者や搭載物と倒立車輪型走行体との合成重心位置の修正を行うには、搭乗者や搭載物にセンサを取り付ける等して、それらの重量や重心を測定し、得られた測定値に基づいて搭乗者や搭載物と倒立車輪型走行体との合成重心角を算出することが考えられる。かかる構成としては、例えば、複数のジャイロセンサと複数の傾斜センサとから構成されるセンシングユニットを用いて重心角を実測することが提案されている(例えば、特許文献3を参照)。しかしながら、かかる対応策は、走行体の大型化や重量化、製造コストの増大、制御システムの複雑化等の懸念を招く虞がある点から、必ずしも好ましくない。
【0004】
一方、上記のように搭乗者や搭載物と倒立車輪型走行体との合成重心角を直接測定するのではなく、例えば、走行体の加減速現象を測定し、走行体の速度偏差の大きさに基づいて目標姿勢角を補正することにより、安定な倒立走行を実現しようとする試みもなされている(例えば、特許文献2を参照)。しかしながら、このような間接的なフィードバック補正では、安定な倒立走行状態を確立するまでに過渡的な状態が存在し、例えば、制動距離を厳密に制御することが難しい等、高性能な倒立走行制御は困難であるという問題点がある。また、搭乗者や搭載物と走行体との合成重心角を、限られた既存のセンサによって正確に算出するのは困難である。
【0005】
ところで、倒立車輪型走行体においては、搭乗者の乗り降りや搭載物の積み降ろしの際の安定性を確保し、転倒を防止するために、走行体の(駆動輪の)前後に補助輪が設けられる場合がある(例えば、特許文献2を参照)。この場合、補助輪が接地している状態(例えば、搭乗待ち状態や、補助輪を接地して走行する減速走行状態。以降、「補助輪接地状態」と称する)においては、補助輪が床から受ける床反力もまた走行体の重心角に影響を及ぼす。また、補助輪接地状態から、補助輪が接地せず走行体が駆動輪のみで倒立している状態(以降、「倒立状態」と称する)への遷移を連続的かつ円滑なものとするためには、補助輪接地状態における搭乗者や搭載物と走行体との合成重心角を検知する必要がある。
【0006】
上記のように補助輪接地状態における搭乗者や搭載物と走行体との合成重心角を検知するためには、補助輪が床から受ける床反力を検出するセンサ等を設けることが考えられる。しかしながら、前述と同様に、かかる対応策は、走行体の大型化や重量化、製造コストの増大、制御システムの複雑化等の懸念を招く虞がある点から必ずしも好ましくない。
【0007】
従って、補助輪接地状態においても、補助輪が床から受ける床反力を検出するセンサ等を設けずに、床反力を推定して、搭乗者や搭載物と走行体との合成重心角を推定する必要がある。しかしながら、従来技術においては、倒立状態及び補助輪接地状態の両状態、特に補助輪接地状態における倒立車輪型走行体全体の重心角(搭乗者や搭載物と倒立車輪型走行体との合成重心角)や床反力を推定しようとする試みはなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第5,975,225号明細書
【特許文献2】特開2009−201321号公報
【特許文献3】米国特許第6,332,103号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述のように、倒立車輪型走行体において、走行体の大型化や重量化、製造コストの増大、制御システムの複雑化等の懸念を回避しつつ、倒立走行の制御性能の向上、補助輪接地状態から倒立状態への連続的かつ円滑な遷移の実現等を達成し得る方法を確立することが、当該技術分野において要求されている。
【0010】
即ち、本発明の目的は、倒立車輪型走行体において、必要最小限のセンサを用いて、倒立状態及び補助輪接地状態の両状態における倒立車輪型走行体全体の重心角(搭乗者や搭載物と倒立車輪型走行体との合成重心角)を推定する方法並びに同方法によって制御される倒立車輪型走行体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的は、
駆動輪と、
前記駆動輪の車軸によって支持される本体部と、
前記本体部に可動式に連接されたアーム部と、
前記アーム部の前記本体部とは反対側に回転可能に連接された補助輪と、
前記駆動輪を駆動する駆動輪駆動手段と、
前記アーム部を駆動するアーム駆動手段と、
前記倒立車輪型走行体の実状態を検出する検出手段と、
前記検出部によって検出される実状態と目標状態との偏差に基づいて前記駆動輪駆動部又は前記アーム駆動部を制御して、前記目標状態を達成する制御手段と、
を備え、
前記補助輪が接地せず、前記駆動輪のみで倒立する倒立状態と、
前記補助輪が接地する補助輪接地状態と、
を有する搭乗可能な倒立車輪型走行体全体の重心角推定方法であって、
前記倒立状態及び前記補助輪接地状態のそれぞれについての動力学的運動方程式に基づいて状態オブザーバを設計すること、
前記補助輪接地状態についての前記状態オブザーバの状態方程式にアフィン項を導入すること、
前記倒立状態についての前記状態オブザーバを用いて、前記倒立状態における搭乗者又は搭載物の質量及び重心位置に起因する前記倒立車輪型走行体全体の重心角の変動分(Δη)及び外乱(w)を推定すること、並びに
前記補助輪接地状態についての前記状態オブザーバを用いて、前記補助輪接地状態における搭乗者又は搭載物の質量及び重心位置に起因する前記倒立車輪型走行体全体の重心角の変動分(Δη)、前記補助輪が床から受ける床反力(f)、及び前記外乱(w)を推定すること、
を特徴とする、倒立車輪型走行体全体の重心角推定方法
によって達成される。
【0012】
また、上記目的は、
駆動輪と、
前記駆動輪の車軸によって支持される本体部と、
前記本体部に可動式に連接されたアーム部と、
前記アーム部の前記本体部とは反対側に回転可能に連接された補助輪と、
前記駆動輪を駆動する駆動輪駆動手段と、
前記アーム部を駆動するアーム駆動手段と、
前記倒立車輪型走行体の実状態を検出する検出手段と、
前記検出部によって検出される実状態と目標状態との偏差に基づいて前記駆動輪駆動部又は前記アーム駆動部を制御して、前記目標状態を達成する制御手段と、
を備え、
前記補助輪が接地せず、前記駆動輪のみで倒立する倒立状態と、
前記補助輪が接地する補助輪接地状態と、
を有する搭乗可能な倒立車輪型走行体であって、
前記制御手段が、
前記倒立状態及び前記補助輪接地状態のそれぞれについての動力学的運動方程式に基づいて状態オブザーバを設計すること、
前記補助輪接地状態についての前記状態オブザーバの状態方程式にアフィン項を導入すること、
前記倒立状態についての前記状態オブザーバを用いて、前記倒立状態における搭乗者又は搭載物の質量及び重心位置に起因する前記倒立車輪型走行体全体の重心角の変動分(Δη)及び外乱(w)を推定すること、並びに
前記補助輪接地状態についての前記状態オブザーバを用いて、前記補助輪接地状態における搭乗者又は搭載物の質量及び重心位置に起因する前記倒立車輪型走行体全体の重心角の変動分(Δη)、前記補助輪が床から受ける床反力(f)、及び前記外乱(w)を推定すること、
を特徴とする、倒立車輪型走行体
によって達成される。
【発明の効果】
【0013】
搭乗可能な倒立車輪型走行体において、新たなセンシングユニットの増設等を伴わずに、倒立状態における搭乗者又は搭載物の質量及び重心位置に起因する倒立車輪型走行体全体の重心角の変動分(Δη)及び外乱(w)を推定すること、並びに補助輪接地状態における搭乗者又は搭載物の質量及び重心位置に起因する倒立車輪型走行体全体の重心角の変動分(Δη)、補助輪が床から受ける床反力(f)、及び外乱(w)を推定すること、が可能となる。
【0014】
上記により、倒立車輪型走行体において、必要最小限のセンサを用いて、走行体の大型化や重量化、製造コストの増大、制御システムの複雑化等の懸念を回避しつつ、倒立走行の制御性能の向上、補助輪接地状態から倒立状態への連続的かつ円滑な遷移の実現等を達成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】倒立状態にある、本発明の1つの実施態様に係る倒立車輪型走行体の構成を示す概略図である。
【図2】補助輪接地状態にある、本発明の1つの実施態様に係る倒立車輪型走行体の構成を示す概略図である。
【図3】倒立状態にある、本発明の1つの実施態様に係る倒立車輪型走行体についての状態オブザーバによる状態変数ベクトル推定値を実状態に収束させるフィードバックシステムを表すブロック線図である。
【図4】補助輪接地状態にある、本発明の1つの実施態様に係る倒立車輪型走行体についての状態オブザーバによる状態変数ベクトル推定値を実状態に収束させるフィードバックシステムを表すブロック線図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、搭乗可能な倒立車輪型走行体において、新たなセンシングユニットの増設等を伴わずに、倒立状態における搭乗者又は搭載物の質量及び位置に起因する倒立車輪型走行体全体の重心角の変動分(Δη)及び外乱(w)、並びに補助輪接地状態における搭乗者又は搭載物の質量及び位置に起因する倒立車輪型走行体全体の重心角の変動分(Δη)、補助輪が床から受ける床反力(f)、及び外乱(w)を推定する方法を提供することを目的とする。
【0017】
前述のように、補助輪接地状態における倒立車輪型走行体全体の重心角(搭乗者や搭載物と倒立車輪型走行体との合成重心角)や床反力を推定しようとする試みはなされていない。しかしながら、本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究の結果、補助輪接地状態についての状態オブザーバの状態方程式にアフィン項を導入することにより、必要最小限のセンサを用いて、補助輪接地状態における倒立車輪型走行体全体の重心角(搭乗者や搭載物と倒立車輪型走行体との合成重心角)のみならず、補助輪接地状態において補助輪が床から受ける床反力(f)をも推定することができることを見出した。
【0018】
即ち、本発明の第1態様は、
駆動輪と、
前記駆動輪の車軸によって支持される本体部と、
前記本体部に可動式に連接されたアーム部と、
前記アーム部の前記本体部とは反対側に回転可能に連接された補助輪と、
前記駆動輪を駆動する駆動輪駆動手段と、
前記アーム部を駆動するアーム駆動手段と、
前記倒立車輪型走行体の実状態を検出する検出手段と、
前記検出部によって検出される実状態と目標状態との偏差に基づいて前記駆動輪駆動部又は前記アーム駆動部を制御して、前記目標状態を達成する制御手段と、
を備え、
前記補助輪が接地せず、前記駆動輪のみで倒立する倒立状態と、
前記補助輪が接地する補助輪接地状態と、
を有する搭乗可能な倒立車輪型走行体全体の重心角推定方法であって、
前記倒立状態及び前記補助輪接地状態のそれぞれについての動力学的運動方程式に基づいて状態オブザーバを設計すること、
前記補助輪接地状態についての前記状態オブザーバの状態方程式にアフィン項を導入すること、
前記倒立状態についての前記状態オブザーバを用いて、前記倒立状態における搭乗者又は搭載物の質量及び重心位置に起因する前記倒立車輪型走行体全体の重心角の変動分(Δη)及び外乱(w)を推定すること、並びに
前記補助輪接地状態についての前記状態オブザーバを用いて、前記補助輪接地状態における搭乗者又は搭載物の質量及び重心位置に起因する前記倒立車輪型走行体全体の重心角の変動分(Δη)、前記補助輪が床から受ける床反力(f)、及び前記外乱(w)を推定すること、
を特徴とする、倒立車輪型走行体全体の重心角推定方法である。
【0019】
駆動輪は、同一回転軸線上に左右対称に配される(即ち、同軸の回転軸を有する)一対の車輪として構成される。倒立車輪型走行体の本体部は、駆動輪の回転軸線に対して直交する方向に傾動可能な状態で、駆動輪の車軸によって支持される。尚、左右の駆動輪のそれぞれには、駆動輪を駆動するための駆動輪駆動手段が接続されている。駆動輪駆動手段としては、当該技術分野において広く使用されている種々の駆動装置を使用することができ、例えば電動モータ等を動力源として含む駆動装置を使用することができる。
【0020】
ところで、本発明に係る倒立車輪型走行体は、搭乗者が搭乗可能な走行体である。また、当然のことながら、本発明に係る倒立車輪型走行体には、搭載物を搭載することも可能である。従って、例えば、本発明に係る倒立車輪型走行体の本体部は、搭乗者が搭乗したり、搭載物を搭載したりするための機構(例えば、座席、荷台等)を備える。
【0021】
また、本体部にはアーム部が可動式に連接されており、アーム部の他端(本体部とは反対側)には補助輪が回転可能に連接されている。アーム部は、補助輪接地状態においては同補助輪が床面に接地して、駆動輪と共に倒立車輪型走行体を支持する一方、倒立状態においては補助輪が床面に接地せず(即ち、倒立車輪型走行体の支持には寄与せず)、駆動輪のみが倒立車輪型走行体を支持するように、アーム駆動手段によって制御される。アーム駆動手段としては、当該技術分野において広く使用されている種々の駆動装置を使用することができ、例えばサーボモータ等を動力源として含む駆動装置を使用することができる。
【0022】
倒立車輪型走行体の実状態を検出する検出手段としては、例えば、個々の駆動装置(例えば、駆動輪駆動手段やアーム駆動手段を構成するモータ)の回転角や回転角速度を検出するエンコーダ、本体部のピッチ角やピッチ角速度を検出するジャイロセンサ等が挙げられる。尚、本体部のピッチ角やピッチ角速度を測定するセンサとしては、ジャイロセンサに限られず、例えば、重力加速度センサや重り吊り下げ型傾斜角度計等、ピッチ角やピッチ角速度の計測に用いることができる種々の計測器を使用することができる。倒立車輪型走行体の構成は既知であるので、倒立車輪型走行体の本体部の重心角は、このようなセンサによって検出されるピッチ角に基づいて求めることができる。
【0023】
前述のように、かかる倒立車輪型走行体は、駆動輪の駆動により搭乗者や搭載物と倒立車輪型走行体との合成重心位置を修正して安定状態を維持しつつ移動するように制御される。上記検出手段は、このような重心位置の修正を行うために、倒立車輪型走行体の実状態として、例えば、駆動輪駆動手段やアーム駆動手段を構成するモータの回転角や回転角速度、本体部のピッチ角やピッチ角速度等を検出する。このようにして検出されたピッチ角やピッチ角速度から、倒立車輪型走行体の本体部の重心角や重心角速度を算出する。
【0024】
上記のように検出手段によって検出された倒立車輪型走行体の実状態は、例えば、検知手段から送出される出力信号として、制御手段に送られる。制御手段は、検出部によって検出される実状態と目標状態との偏差に基づいて駆動輪駆動部又はアーム駆動部を制御して、目標状態を達成する。制御手段は、例えば、制御コンピュータを含んでなり、制御コンピュータは、例えば、CPU、ROM、RAM等から構成される。制御コンピュータは、例えば、ROMに格納された制御プログラムを実行することにより、検知手段から送出される出力信号に基づいて、走行体の実状態と目標状態との偏差を算出し、走行体の目標状態を達成するための制御指令値を算出する。制御コンピュータによって算出された制御指令値は駆動輪駆動部又はアーム駆動部に出力され、同制御指令値に基づいて駆動輪又はアーム部が制御される。
【0025】
上記のように、倒立車輪型走行体において目標状態を達成するには、倒立車輪型走行体全体の重心角等を検知する必要がある。しかしながら、前述のように、本発明に係る倒立車輪型走行体は、搭乗者が搭乗可能な走行体である。かかる搭乗型走行体の重心位置や重心角は、搭乗者の体重、体格、癖、及び障害等、並びに搭載物の重量及び形状等によって大きく変動する。従って、上記のように倒立車輪型走行体全体の重心角を検知して重心位置の修正を行うには、搭乗者や搭載物にセンサを取り付ける等して、それらの重量や重心位置を測定し、得られた測定値に基づいて重心角を算出することが考えられる。
【0026】
しかしながら、上記のように新たなセンシングユニットの増設等による対応策は、走行体の大型化や重量化、製造コストの増大、制御システムの複雑化等の懸念を招く虞がある点から、必ずしも好ましくない。また、搭乗者や搭載物に複雑なセンサを取り付けることは現実的ではなく、好ましくない。従って、本発明に係る倒立車輪型走行体全体の重心角推定方法においては、新たなセンシングユニットを増設すること無く、前述のような既存の検出手段によって検知される実状態に基づき、搭乗者や搭載物に起因する重心角の変動分を状態オブザーバを用いて推定し、倒立車輪型走行体全体の重心角を検知する。
【0027】
更に、本発明に係る倒立車輪型走行体は、前述のように、補助輪が床面に接地せず(即ち、倒立車輪型走行体の支持には寄与せず)、駆動輪のみが倒立車輪型走行体を支持する倒立状態と、補助輪が床面に接地して、駆動輪と共に倒立車輪型走行体を支持する補助輪接地状態との、2つの状態を有する。
【0028】
前者の倒立状態においては、種々の外乱(例えば、物理パラメータ誤差や線形化誤差による外乱)もまた走行体の駆動輪や本体部の運動方程式に影響を及ぼす。一方、後者の補助輪接地状態においては、補助輪が床から受ける床反力もまた走行体の重心角に影響を及ぼす。補助輪接地状態における安定性を向上させたり、補助輪接地状態から倒立状態への遷移を連続的かつ円滑なものとしたりするためには、補助輪接地状態における搭乗者や搭載物と走行体との合成重心角を検知する必要がある。従って、補助輪接地状態における搭乗者や搭載物と走行体との合成重心角を検知するためには、補助輪が床から受ける床反力を検出する必要がある。しかしながら、前述と同様に、床反力を検出するための新たなセンシングユニット等を増設することは、走行体の大型化や重量化、製造コストの増大、制御システムの複雑化等の懸念を招く虞がある点から好ましくない。
【0029】
そこで、本発明に係る倒立車輪型走行体全体の重心角推定方法においては、床反力センサ等の新たなセンシングユニットを増設すること無く、前述のような既存の検出手段によって検知される実状態に基づき、倒立状態における外乱や補助輪接地状態において補助輪が床から受ける床反力及び外乱を、状態オブザーバを用いて推定し、倒立車輪型走行体全体の重心角を検知する。
【0030】
尚、前述のように、当該技術分野においては、倒立車輪型走行体の制御方法として種々の試みが提案されているが、本発明に係る倒立車輪型走行体全体の重心角推定方法のように、補助輪接地状態における倒立車輪型走行体全体の重心角(搭乗者や搭載物と倒立車輪型走行体との合成重心角)や床反力を推定して、搭乗者や搭載物と走行体との合成重心角を推定しようとする試みは従来なされていない。
【0031】
しかしながら、本発明に係る倒立車輪型走行体全体の重心角推定方法においては、倒立状態及び補助輪接地状態における倒立車輪型走行体の運動方程式に基づいて状態オブザーバをそれぞれ設計する。倒立状態については、倒立状態用のオブザーバを用いて、倒立状態における搭乗者又は搭載物の質量及び位置に起因する倒立車輪型走行体全体の重心角の変動分(Δη)及び外乱(w)を推定する。
【0032】
一方、補助輪接地状態については、前述のように、補助輪接地状態用のオブザーバの状態方程式にアフィン項が導入される。これにより、前述のような既存の検出手段によって検知される実状態に基づいて、補助輪接地状態における搭乗者又は搭載物の質量及び位置に起因する倒立車輪型走行体全体の重心角の変動分(Δη)のみならず、補助輪が床から受ける床反力(f)及び外乱(w)をも推定することができる。即ち、アフィン項は、重力の影響、より具体的には補助輪が床から受ける床反力の影響を反映させるために、状態オブザーバに導入されるものである。
【0033】
前述のように、当該技術分野においては本発明に係る倒立車輪型走行体全体の重心角推定方法のように補助輪接地状態についての状態オブザーバの状態方程式にアフィン項を導入するモデルはこれまでに提案されていない。本発明に係る倒立車輪型走行体全体の重心角推定方法においては、アフィン項を導入することにより、補助輪接地状態において補助輪が床から受ける床反力(f)を推定することが可能となった。これにより、本発明に係る倒立車輪型走行体全体の重心角推定方法においては、倒立状態についての状態オブザーバを用いて、倒立状態における搭乗者又は搭載物の質量及び位置に起因する倒立車輪型走行体全体の重心角の変動分(Δη)及び外乱(w)を推定することができることに加えて、アフィン項が導入された補助輪接地状態についての状態オブザーバを用いて、補助輪接地状態における搭乗者又は搭載物の質量及び位置に起因する倒立車輪型走行体全体の重心角の変動分(Δη)、補助輪が床から受ける床反力(f)、及び外乱(w)をも推定することができるようになった。
【0034】
従って、本発明に係る倒立車輪型走行体全体の重心角推定方法によれば、搭乗可能な倒立車輪型走行体において、新たなセンシングユニットの増設等を伴わずに、倒立状態及び補助輪接地状態の両状態における搭乗者又は搭載物の質量及び位置に起因する倒立車輪型走行体全体の重心角の変動分(Δη)及び外乱(w)、並びに補助輪接地状態において補助輪が床から受ける床反力(f)を推定し、倒立状態及び補助輪接地状態の両状態を通じて、倒立車輪型走行体全体の重心角を制御することができる。
【0035】
その結果、本発明に係る倒立車輪型走行体全体の重心角推定方法によれば、倒立車輪型走行体において、必要最小限のセンサを用いて、走行体の大型化や重量化、製造コストの増大、制御システムの複雑化等の懸念を回避しつつ、倒立走行の制御性能の向上、補助輪接地状態から倒立状態への連続的かつ円滑な遷移の実現等を達成することが可能となる。また、本発明に係る倒立車輪型走行体全体の重心角推定方法によれば、倒立車輪型走行体全体の重心角の変動分(Δη)を推定することができるので、例えば、搭乗者の乗り出しや、搭載物の引っ掛かり等の危険現象に伴う倒立車輪型走行体全体の重心角の変動を検出し、倒立車輪型走行体の転倒、搭乗者や搭載物の落下等の事態を未然に防ぐこともできる。
【0036】
ところで、前述のように、本発明に係る倒立車輪型走行体全体の重心角推定方法においては、倒立状態及び補助輪接地状態のそれぞれについての動力学的運動方程式に基づいて状態オブザーバが設計される。ここで、倒立状態及び補助輪接地状態のそれぞれについての状態オブザーバの設計の概略について説明する(詳細については後述する)。
【0037】
本発明の1つの実施態様において、先ず、本実施態様に係る倒立車輪型走行体の倒立状態における運動方程式が下式(8)に示す状態方程式及び出力方程式で表されるとする。
【0038】
【数1】

【0039】
上式中、
【0040】
【数2】

である。
【0041】
上記状態方程式及び出力方程式に基づき、本実施態様に係る倒立車輪型走行体の倒立状態における状態オブザーバが下式(9)に示す状態方程式及び出力方程式によって表される。
【0042】
【数3】

【0043】
上式中、
【0044】
【数4】

【0045】
である。
【0046】
一方、本実施態様に係る倒立車輪型走行体の補助輪接地状態における運動方程式が下式(26)に示す状態方程式及び出力方程式で表されるとする。
【0047】
【数5】

【0048】
上式中、
【0049】
【数6】

【0050】
である。
【0051】
上記状態方程式及び出力方程式に基づき、本実施態様に係る倒立車輪型走行体の補助輪接地状態における状態オブザーバが下式(27)に示す状態方程式及び出力方程式によって表される。
【0052】
【数7】

【0053】
上式中、
【0054】
【数8】

【0055】
である。
【0056】
上記のように、本実施態様においては、倒立車輪型走行体の倒立状態及び補助輪接地状態における状態オブザーバを、それぞれ式(9)及び式(27)に示す状態方程式及び出力方程式によって表す。式(9)及び式(27)に含まれるシステム行列及び出力行列で構成される可観測行列は何れもフルランクであることから(詳細については後述する)、それぞれの状態オブザーバにおいてオブザーバゲインを適切に設計することにより、それぞれの状態オブザーバにおける状態変数ベクトル推定値は実状態への漸近的収束値を得ることができる。
【0057】
換言すれば、本実施態様に係る倒立車輪型走行体全体の重心角推定方法においては、式(9)及び式(27)に示す状態方程式及び出力方程式によって表わされる、それぞれ倒立状態及び補助輪接地状態における状態オブザーバを用いて、倒立状態及び補助輪接地状態における搭乗者又は搭載物の質量及び位置に起因する倒立車輪型走行体全体の重心角の変動分(Δη)及び外乱(w)、並びに補助輪接地状態において補助輪が床から受ける床反力(f)を推定する。
【0058】
即ち、本発明の第2態様は、
前記第1態様に係る倒立車輪型走行体全体の重心角推定方法であって、前記倒立状態ついての前記状態オブザーバが下式(9)に示す状態方程式及び出力方程式によって表され、
【0059】
【数9】

【0060】
上式中、
【0061】
【数10】

【0062】
であり、
一方、前記補助輪接地状態についての前記状態オブザーバが下式(27)に示す状態方程式及び出力方程式によって表され、
【0063】
【数11】

【0064】
上式中、
【0065】
【数12】

【0066】
であることを特徴とする、倒立車輪型走行体全体の重心角推定方法である。
【0067】
前述のように、本発明に係る倒立車輪型走行体全体の重心角推定方法においては、搭乗者又は搭載物の質量及び位置等に起因する倒立車輪型走行体全体の重心角の変動分(Δη)、外乱(w)、及び補助輪が床から受ける床反力(f)を既知の観測値に基づいて推定する。即ち、本発明に係る倒立車輪型走行体の運動方程式の状態変数ベクトルには、既知の変量と未知の変量とが含まれる。尚、既知の観測値としては、対象となる倒立車輪型走行体が備える検出手段の種類に応じて種々のパラメータを選択することができる。
【0068】
本発明の1つの実施態様においては、倒立状態にある倒立車輪型走行体の運動方程式の状態変数ベクトルには、例えば、搭乗者や搭載物が乗る前の倒立車輪型走行体の重心角、搭乗者や搭載物が乗る前の倒立車輪型走行体の重心角速度、及び駆動輪の回転角速度という観測値に加えて、倒立車輪型走行体全体の重心角(搭乗者や搭載物と倒立車輪型走行体との合成重心角)の搭乗者や搭載物が乗る前の倒立車輪型走行体の重心角からの変動分(Δη)及び外乱(w)という未知の成分も含まれる。ここで、外乱としては、例えば、物理パラメータ誤差や線形化誤差による外乱が想定される。
【0069】
また、補助輪接地状態にある倒立車輪型走行体の運動方程式の状態変数ベクトルには、例えば、搭乗者や搭載物が乗る前の倒立車輪型走行体の重心角速度、駆動輪の回転角速度、及び補助輪アーム(アーム部)の回転角(q)という観測値に加えて、倒立車輪型走行体全体の重心角(搭乗者や搭載物と倒立車輪型走行体との合成重心角)の搭乗者や搭載物が乗る前の倒立車輪型走行体の重心角からの変動分(Δη)や補助輪接地状態において補助輪が床から受ける床反力(f)という未知の成分も含まれる。
【0070】
即ち、本発明の第3態様は、
前記第2態様に係る倒立車輪型走行体全体の重心角推定方法であって、前記倒立状態においては状態変数ベクトルとして下式(7)を用いて前記Δη及び前記外乱wを推定し、前記補助輪接地状態においては状態変数ベクトルとして下式(25)を用いて前記Δη及び前記f、及び前記外乱wを推定し、
【0071】
【数13】

【0072】
【数14】

【0073】
上式中、
【0074】
【数15】

【0075】
であることを特徴とする、倒立車輪型走行体全体の重心角推定方法である。
【0076】
上述のように、本発明の前記第1態様乃至前記第3態様に係る倒立車輪型走行体全体の重心角推定方法によれば、倒立車輪型走行体において、必要最小限のセンサを用いて、走行体の大型化や重量化、製造コストの増大、制御システムの複雑化等の懸念を回避しつつ、倒立走行の制御性能の向上、補助輪接地状態から倒立状態への連続的かつ円滑な遷移の実現等を達成することが可能となる。
【0077】
また、本発明の前記第1態様乃至前記第3態様の何れかに係る倒立車輪型走行体全体の重心角推定方法は、倒立車輪型走行体全体の重心角の変動分(Δη)を推定することができるので、重心角の変動を伴う危険現象を検出する手段としても有効である。より具体的には、例えば、倒立車輪型走行体全体の重心角(搭乗者や搭載物と倒立車輪型走行体との合成重心角)の本体部の重心角からの変動分(Δη)が予め定められた所定値よりも大きい場合に警告を発して危険現象の発生を搭乗者等に知らせることにより、倒立車輪型走行体の転倒、搭乗者や搭載物の落下等の好ましくない事態を未然に防ぐことができる。尚、上記危険現象としては、例えば、搭乗者の乗り出しや、搭載物の引っ掛かり等が挙げられる。
【0078】
即ち、本発明の第4態様は、
前記第1態様乃至前記第3態様の何れかに係る倒立車輪型走行体全体の重心角推定方法であって、前記Δηが予め定められた所定値よりも大きい場合に警告を発することを特徴とする、倒立車輪型走行体全体の重心角推定方法である。
【0079】
尚、上記警告の手段としては、例えば、ブザーや音声等の聴覚に訴えるもの、搭乗者等が使用する操作用画面における表示等の視覚に訴えるもの、及び搭乗者の座席や装着具の振動等の体感に訴えるもの等が挙げられるが、特定の構成に限定されるものではない。
【0080】
ところで、本発明の前記第1態様乃至前記第4態様に係る倒立車輪型走行体全体の重心角推定方法によって制御される倒立車輪型走行体においては、上述のように、必要最小限のセンサを用いて、走行体の大型化や重量化、製造コストの増大、制御システムの複雑化等の懸念を回避しつつ、倒立走行の制御性能の向上、補助輪接地状態から倒立状態への連続的かつ円滑な遷移の実現等を達成することが可能となる。また、上記のように、当該走行体は、重心角の変動を伴う危険現象を検出する手段を有することとなるので、より安全性の高い走行体となり得る。
【0081】
即ち、本発明の第5態様は、
駆動輪と、
前記駆動輪の車軸によって支持される本体部と、
前記本体部に可動式に連接されたアーム部と、
前記アーム部の前記本体部とは反対側に回転可能に連接された補助輪と、
前記駆動輪を駆動する駆動輪駆動手段と、
前記アーム部を駆動するアーム駆動手段と、
前記倒立車輪型走行体の実状態を検出する検出手段と、
前記検出部によって検出される実状態と目標状態との偏差に基づいて前記駆動輪駆動部又は前記アーム駆動部を制御して、前記目標状態を達成する制御手段と、
を備え、
前記補助輪が接地せず、前記駆動輪のみで倒立する倒立状態と、
前記補助輪が接地する補助輪接地状態と、
を有する搭乗可能な倒立車輪型走行体であって、
前記制御手段が、
前記倒立状態及び前記補助輪接地状態のそれぞれについての動力学的運動方程式に基づいて状態オブザーバを設計すること、
前記補助輪接地状態についての前記状態オブザーバの状態方程式にアフィン項を導入すること、
前記倒立状態についての前記状態オブザーバを用いて、前記倒立状態における搭乗者又は搭載物の質量及び重心位置に起因する前記倒立車輪型走行体全体の重心角の変動分(Δη)及び外乱(w)を推定すること、並びに
前記補助輪接地状態についての前記状態オブザーバを用いて、前記補助輪接地状態における搭乗者又は搭載物の質量及び重心位置に起因する前記倒立車輪型走行体全体の重心角の変動分(Δη)、前記補助輪が床から受ける床反力(f)、及び外乱(w)を推定すること、
を特徴とする、倒立車輪型走行体である。
【0082】
また、本発明の第6態様は、
前記第5態様に係る倒立車輪型走行体であって、前記倒立状態ついての前記状態オブザーバが下式(9)に示す状態方程式及び出力方程式によって表され、
【0083】
【数16】

【0084】
上式中、
【0085】
【数17】

【0086】
であり、
一方、前記補助輪接地状態についての前記状態オブザーバが下式(27)に示す状態方程式及び出力方程式によって表され、
【0087】
【数18】

【0088】
上式中、
【0089】
【数19】

【0090】
であることを特徴とする、倒立車輪型走行体である。
【0091】
更に、本発明の第7態様は、
前記第6態様に係る倒立車輪型走行体であって、前記倒立状態においては状態変数ベクトルとして下式(7)を用いて前記Δη及び前記外乱wを推定し、前記補助輪接地状態においては状態変数ベクトルとして下式(25)を用いて前記Δη、前記f、及び前記外乱wを推定し、
【0092】
【数20】

【0093】
【数21】

【0094】
上式中、
【0095】
【数22】

【0096】
であることを特徴とする、倒立車輪型走行体である。
【0097】
また更に、本発明の第8態様は、
前記第5態様乃至前記第7態様の何れかに係る倒立車輪型走行体であって、前記Δηが予め定められた所定値よりも大きい場合に警告を発する重心角警告手段を更に備えることを特徴とする、倒立車輪型走行体である。
【0098】
尚、上述の第5態様乃至前記第8態様の何れかに係る倒立車輪型走行体の構成、及び同走行体の制御において実行される重心角等の推定方法や危険状態の警告方法は、前記第1態様乃至前記第4態様に関する説明において述べたものと同様であるので、ここでの説明は割愛する。
【0099】
以上のように、本発明によれば、搭乗可能な倒立車輪型走行体において、新たなセンシングユニットの増設等を伴わずに、倒立状態における搭乗者又は搭載物の質量及び重心位置に起因する倒立車輪型走行体全体の重心角の変動分(Δη)及び外乱(w)を推定すること、並びに補助輪接地状態における搭乗者又は搭載物の質量及び重心位置に起因する倒立車輪型走行体全体の重心角の変動分(Δη)、補助輪が床から受ける床反力(f)、及び外乱(w)を推定すること、が可能となる。
【0100】
上記により、倒立車輪型走行体において、必要最小限のセンサを用いて、走行体の大型化や重量化、製造コストの増大、制御システムの複雑化等の懸念を回避しつつ、倒立走行の制御性能の向上、補助輪接地状態から倒立状態への連続的かつ円滑な遷移の実現、更には重心角の変動を伴う危険現象の防止等の利点を達成することが可能となる。
【0101】
以下、本発明の特定の実施態様に係る倒立車輪型走行体全体の重心角推定方法につき、添付図面を参照しつつ説明する。但し、以下に述べる説明はあくまで例示を目的とするものであり、本発明の範囲が以下の説明に限定されるものと解釈されるべきではない。
【実施例】
【0102】
先ず、本実施例において、本発明の特定の実施態様に係る倒立車輪型走行体全体の重心角推定方法が適用される倒立車輪型走行体について説明する。図1及び図2は、前述のように、それぞれ倒立状態及び補助輪接地状態にある、本発明の1つの実施態様に係る倒立車輪型走行体の構成を示す概略図である。
【0103】
A1.倒立状態における倒立車輪型走行体全体の重心角
倒立状態における倒立車輪型走行体全体の重心角の推定について説明する。先ず、倒立状態における倒立車輪型走行体全体の重心角について詳しく説明する。図1に示すように、本実施態様に係る倒立車輪型走行体100の本体部120は、駆動輪110の車軸111を通って略水平方向に延びる水平部と車軸111から略鉛直方向に延びる鉛直部とからなる逆T字型の図形によって模式的に表されており、斜線が施されている。前述のように、本体部120は駆動輪110の車軸111によって支持されている。尚、鉛直部の途中に描かれている丸印mは倒立車輪型走行体100の本体部120の重心を表す。
【0104】
前述のように、上記水平部の両端には、それぞれ補助輪141及び142を他端に備えるアーム部131及び132が、連接部位133及び134を介して可動式に連接されている。尚、図1に示されている倒立車輪型走行体100は倒立状態にあるため、アーム部131及び132は、それぞれが備える補助輪141及び142が接地しない角度に保持されている。
【0105】
本実施態様に係る倒立車輪型走行体100については、上記のように搭乗者150が搭乗する態様を想定して説明するが、他の実施態様に係る倒立車輪型走行体は、上記搭乗手段に代えて又は上記搭乗手段に加えて、荷物等の搭載物を搭載するための搭載手段を備えることもできる。また、本実施態様に係る倒立車輪型走行体100においては、上記のように、補助輪接地状態においては駆動輪110と共に本体部120を支持する補助輪及びアーム部が倒立車輪型走行体100の進行方向(図中、灰色の矢印にて表示)のみならず、進行方向の反対側にも設けられている。しかしながら、他の実施態様に係る倒立車輪型走行体においては、補助輪及びアーム部が倒立車輪型走行体の進行方向の前後の何れか一方の側にのみ設けられていてもよい。
【0106】
また、本実施態様に係る倒立車輪型走行体100は搭乗者が搭乗可能であり、搭乗者150は上記鉛直部の上端にリンク151を介してリンクされた棒状の図形として模式的に表されている。実際には、搭乗者150は、本体部120に設けられた搭乗者用シート等の搭乗手段(図示せず)に着座する等して、本実施態様に係る倒立車輪型走行体100に搭乗する。尚、同棒状の図形の他端に描かれている丸印mは搭乗者150の重心を表す(搭乗者150の質量はm)。
【0107】
図1に示すもう1つの丸印mは、倒立車輪型走行体100の本体部の重心m(倒立車輪型走行体100の本体部120の質量はm)と搭乗者150の重心mとの合成重心を表す。即ち、倒立車輪型走行体100本体部120のと搭乗者150との総質量はmであり、丸印m1に位置する。図1に示すように、倒立車輪型走行体100の本体部120の重心mは鉛直方向(点線で示す)からηだけ傾いた線上にある。即ち、倒立車輪型走行体100の本体部120の重心角はηである。そこへ重心mを呈する搭乗者150が姿勢角ηにて搭乗することにより、倒立車輪型走行体100の重心は丸印mから丸印mへと変動し、倒立車輪型走行体100の重心角はηからΔηだけ変動して合成重心角(η+Δη)となった。
【0108】
A2.倒立状態における倒立車輪型走行体全体の重心角の推定原理
搭乗者150の重心mや搭乗者150が搭乗することによる倒立車輪型走行体100の重心角の変動分Δηは未知である。また、倒立車輪型走行体100の本体部120と搭乗者150との合成重心角(η+Δη)は、運動方程式を通して、倒立車輪型走行体100の動きに影響を及ぼす。このことを利用して、倒立車輪型走行体100の運動方程式と、限られた観測値とにより、未知である重心角変動分Δη(及び外乱w)を推定する。
【0109】
A3.倒立状態における倒立車輪型走行体全体の運動方程式の導出
倒立状態においては、倒立車輪型走行体100の本体部120と搭乗者150との合成重心mを質量中心とする車輪型1リンク倒立振子として倒立車輪型走行体100をモデリングする。車輪型1リンク倒立振子の運動方程式は下式(1)で与えられる。
【0110】
【数23】

【0111】
上式中、
【数24】

【0112】
ここで、η:倒立車輪型走行体100の重心角、θ:駆動輪110の回転角、Δη:倒立車輪型走行体100の重心角の変動分、m:倒立車輪型走行体100と搭乗者150との総質量、m:駆動輪110の質量、l:合成重心の車軸111からの距離、I:倒立車輪型走行体100と搭乗者150との車軸111周りの慣性モーメント、Jml:駆動輪駆動モータ(図示せず)のロータの慣性モーメント、J:駆動輪110の軸周りの慣性モーメント、n:駆動輪駆動機構のギア比(モータ:駆動輪=1:n)、r:駆動輪110の半径、f:車軸111と本体部120との間の粘性摩擦係数、u:駆動輪駆動モータの駆動トルク値、g:重力加速度、φ:質量・重心距離・慣性モーメント・摩擦係数等からなる物理パラメータベクトル、である。
【0113】
次に、重心角が0である点の近傍において式(1)の非線形方程式の線形近似を行う。先ず、重心角が0である点の近傍において、重心角の急激な変化が無いものとすると、
【0114】
【数25】

【0115】
とすることができる。従って、式(1)で表される倒立車輪型走行体100の運動方程式は、近似的に下式(2)によって表現することができる。
【0116】
【数26】

【0117】
上式中、
【0118】
【数27】

【0119】
更に、M(φ)は正則であるので、下式(3)のように式(2)を整理することができる。
【0120】
【数28】

【0121】
上式中、
【0122】
【数29】

【0123】
式(3)より、本実施態様に係る倒立車輪型走行体100は、駆動輪110の駆動トルクuを加えることにより、式(3)に沿って倒立走行運動を行うことが解る。ここで、式(3)の右辺に含まれる変量Δηは、搭乗者150の質量及び重心位置(m)に起因する倒立車輪型走行体100全体の重心角の変動分(Δη)であり、既存のセンサ等の検出手段によって検出されない未知の値であることに留意されたい。
【0124】
ところで、前述のように、本実施態様に係る倒立車輪型走行体100には、必要最小限のセンサが検出手段(図示せず)として設置されている。また、倒立車輪型走行体100が備える制御手段(図示せず)は、検出手段(センサ)から得られる観測値に応じて、適切な制御入力uを生成することより、安定な倒立運動制御を行うことができる。一般的に、上記観測値は、重力加速度方向(鉛直方向)に対する搭乗者や搭載物が乗る前の倒立車輪型走行体100の重心角(倒立車輪型走行体100の本体部120のピッチ角から求められる)、倒立車輪型走行体100の重心角速度(倒立車輪型走行体100の本体部120のピッチ角速度から求められる)、本体部120(倒立車輪型走行体100)に対する駆動輪110の回転角速度であり、以下のベクトルで記述することができる。
【0125】
【数30】

【0126】
式(4)の右辺の第2成分である倒立車輪型走行体100の本体部120の重心角速度は、例えば、倒立車輪型走行体100に設置されるジャイロセンサによって検出することができる。検出された本体部120の重心角速度を積分することにより、第1成分である倒立車輪型走行体100の本体部120の重心角を得ることができる。駆動輪110の回転角速度は、駆動輪駆動モータの回転軸に設置されるエンコーダによる観測値の近似微分により計算することができる。駆動輪110の回転角度はエンコーダにより測定することができるが、駆動輪110と床面190との間に滑り現象があるため、駆動輪110の回転角度そのものは観測値としては使用しない。
【0127】
A4.重心変動分を推定するための基本モデルの作成
続いて、搭乗者150の質量及び重心位置(丸印m)に起因する倒立車輪型走行体100の重心角の変動分(Δη)を推定するための基本モデルを作成する。重心角の変動分(Δη)を推定する際、式(3)で表される運動方程式に含まれる物理パラメータが既知である必要がある。しかしながら、倒立車輪型走行体100の重心位置や重心角は搭乗者150の体重、体格、癖、及び障害等(荷物等の搭載物を搭載する場合は、その重量及び形状等)によって大きく変動するため、物理パラメータを正確に把握することは現実には困難である場合が多い。
【0128】
そこで、制御対象である倒立車輪型走行体100の運動方程式を表す式(3)を、物理パラメータのノミナル値を用いて、ノミナルモデルと外乱とで表現すると、下式(5)のように表現することができる。
【0129】
【数31】

【0130】
上式中、φは物理パラメータベクトルφのノミナル値、wは外乱、そしてDは外乱の入る経路である。
【0131】
外乱wは、物理パラメータ誤差や線形化誤差による外乱を表し、駆動輪110の運動方程式には大きい値として現れる一方、倒立車輪型走行体100の運動方程式には相対的に小さい値で現れることを確認した。これにより、本実施態様においては、駆動輪110の運動方程式に入る外乱に注目し、外乱w及び外乱wの入る経路Dを以下のように規定する。
【0132】
【数32】

【0133】
式(5)を用いて、制御入力としての駆動輪駆動モータのトルク値u、上述の各種センサによって検出される観測量yに基づいて、状態オブザーバを適切に設計することにより、未知変量である重心角変動分Δηを推定することができる。
【0134】
A5.状態オブザーバの設計
次に、状態オブザーバの設計について説明する。未知変量である重心角変動分Δη及び外乱wを推定するため、下式(7)で表される状態変数ベクトルを規定する。
【0135】
【数33】

【0136】
上記のように、状態変数ベクトルの第1成分乃至第3成分は観測量であり、第4成分及び第5成分は未知な重心角変動分Δη及び外乱wである。尚、重心角変動分Δη及び外乱wは、それぞれ別個の独立変量である。
【0137】
式(7)で表される状態変数ベクトルを用いて式(5)を変換すると、下式(8)のように表すことができる。
【0138】
【数34】

【0139】
上式中、
【0140】
【数35】

【0141】
ここで、数値計算により、式(8)によって表されるシステムの可観測行列(C,A)はフルランクであることを確認した。即ち、未知変量である重心角変動分Δηを及び外乱wを含む状態変数ベクトルは、オブザーバの設計により推定可能であると判断される。
【0142】
ところで、状態オブザーバの役割は、式(8)に含まれるシステム行列と観測量yに基づいて、式(8)で表わされる制御対象と並行して運用し、状態変数ベクトルを推定することである。その推定値から、重心角変動分Δηを及び外乱wを得ることができる。状態オブザーバは下式(9)によって表すことができる。
【0143】
【数36】

【0144】
上式中、
【0145】
【数37】

【0146】
A6.オブザーバゲインの決定
式(9)で表される状態オブザーバにおいては、出力偏差(出力ベクトルyとその推定値との差)をフィードバックすることにより、オブザーバの状態変数ベクトル推定値を、倒立車輪型走行体の実状態に収束させる。かかるフィードバックシステムを表すブロック線図を図3に示す。
【0147】
図3からも容易に理解されるように、状態オブザーバによる推定の収束速度は、フィードバックゲインLの大きさに影響される。フィードバックゲインLが大きいことは観測値である出力ベクトルyの重み付けが大きいことに等しく、状態オブザーバによる推定値の算出は、観測値を優先して行われることとなる。即ち、モデルの影響は小さくなり、出力偏差による推定状態の更新速度は高くなる。しかし、フィードバックゲインLを大きくすることには、観測値に含まれるノイズ等に影響され易いというデメリットが伴う。
【0148】
一方、状態オブザーバのフィードバックゲインLが小さいことは観測値である出力ベクトルyの影響が小さくなることを意味する。この場合、状態オブザーバによる推定値の算出は、主に基本モデルに従うこととなり、出力偏差による推定値の更新速度が低くなるものの、観測ノイズによる影響が小さくなるため、推定精度が高くなるというメリットがある。
【0149】
このように、状態オブザーバのフィードバックゲインLは、状態変数ベクトルの各成分の動作周波数や推定の目的に応じて適宜設定することができる。本発明に係る倒立車輪型走行体全体の重心角推定方法において用いられる状態オブザーバは、変化率の遅い重心角の変動及び定常外乱の推定を目的とするものであるので、推定の速度及び精度の両方共が高いことが要求される。従って、本実施態様においては、最適制御問題を解いてオブザーバゲインを求めることとした。以下に詳細に説明する。
【0150】
オブザーバゲインの決定方法について以下に説明する。式(8)によって表される制御対象及び式(9)によって表されるオブザーバから、状態推定偏差(状態変数ベクトルxとその推定値との差)を計算する。状態推定偏差の動的方程式は下式(10)となる。
【0151】
【数38】

【0152】
式(10)において、(A+LC)の固有値は(A+C)の固有値と等しいことから、式(8)のオブザーバゲインの設計問題は、下式(11)におけるフィードバックゲインLの設計問題と等しいと言うことができる。
【0153】
【数39】

【0154】
従って、最適なフィードバックゲインLを求めるには、下式(12)によって表される最適レギュレーション問題を解けばよいことが解る。
【0155】
【数40】

【0156】
ここで、(Q,R)は重み行列である。(Q,R)を適当に設定することにより、状態推定偏差の収束速さと出力偏差の大きさとのトレードオフを調整することができる。このようにして得られた式(12)の最適解Lを用いて、式(10)の閉ループシステム行列の固有値を得ることができる。
【0157】
【数41】

【0158】
上式中、λ(*)は行列(*)の固有値を意味する。状態変数ベクトルxの各成分の収束状況に応じて、下式(14)に示すように、式(10)の偏差システムの固有値を、式(13)から得られる最適値から移動させて、望む位置に配置することもできる。
【0159】
【数42】

【0160】
上式中、αは設計パラメータであり、シミュレーションや予備実験結果により、状態推定偏差の各成分の収束速さに応じて適切に定めることができる。また、下式(15)に示すように、上記のように配置した固有値が得られるように、式(9)によって表される状態オブザーバのフィードバックゲインLを定めることができる。
【0161】
【数43】

【0162】
倒立状態における倒立車輪型走行体の状態オブザーバ設計の最終段階としては、上記のようにして設計された、式(15)によって表される連続系状態オブザーバを離散化することにより離散系状態オブザーバを設計し、例えば、倒立車輪型走行体の制御手段が備える制御コンピュータにて実装することとなる。
【0163】
以上、倒立状態における倒立車輪型走行体の状態オブザーバ設計について詳細に説明してきた。続いて、補助輪接地状態における倒立車輪型走行体全体の重心角オブザーバについて以下に詳細に説明する。
【0164】
B1.補助輪接地状態における倒立車輪型走行体全体の重心角
補助輪接地状態においては、前後の補助輪又は前後の補助輪の片方が接地し、駆動輪と倒立車輪型走行体の本体部と補助輪回転アーム(アーム部)と補助輪とが、床面と共に幾何的に閉リンク系を構成し、補助輪の接地点にて床反力を受ける。図2に示す補助輪接地状態においては、図1に示す倒立状態とは異なり、進行方向(図中、灰色の矢印にて表示)の前側の補助輪が床面に接地している。即ち、図2に示す補助輪接地状態においては、補助輪回転アーム(アーム部)131が、連接部位133を中心として回転角度qだけ下向きに回転した位置にあり、補助輪141が床面190に接地している。この補助輪141の床面190への接地点においては、床面からの床反力fが鉛直方向上向きに作用している。
【0165】
上記のように補助輪141が床面190に接地していることを除けば、図2に示す状態は図1に示す状態と基本的に同様である。即ち、図2においても、角度η+Δηは倒立車輪型走行体100の本体部120と搭乗者150との合成重心角である。厳密には、全体としての重心角は、倒立車輪型走行体100の本体部120と搭乗者150との合成重心(丸印m)を質量中心とする車輪型1リンク倒立振子の重心と補助輪回転アーム(アーム部)の重心からなる合成重心である。しかしながら、一般的には、補助輪回転アーム(アーム部)131又は132の質量は、倒立車輪型走行体100の本体部120と搭乗者150との総質量と比較して十分に小さい。従って、全体としての重心角はη+Δηとほぼ一致すると考えられる。但し、搭乗者150の質量及び重心位置(丸印m)に起因する倒立車輪型走行体100の重心角の変動分(Δη)はセンサ等の検出手段によって測定されない未知変量である。
【0166】
補助輪接地状態において、重心角は変更可能である。例えば、補助輪回転アーム(アーム部)131を駆動することより、倒立車輪型走行体100の接地姿勢を変更して、重心角を調整することができる。また、駆動輪110の駆動により、倒立車輪型走行体100の本体部120の重心角を変更し、倒立車輪型走行体100全体の重心角を変更することも可能である。このようにして倒立車輪型走行体100全体の重心角を適切に調整することにより、安定な接地走行又は補助輪接地状態から倒立状態への安定な立ち上がり動作を実現することができる。
【0167】
B2.補助輪接地状態における倒立車輪型走行体全体の重心角の推定原理
補助輪接地状態における重心運動は、駆動輪110と倒立車輪型走行体100の本体部120と搭乗者150の車輪型倒立振子運動方程式及び補助輪アーム(アーム部)の回転運動方程式によって記述することができる。また、補助輪141は接地点において床面からの床反力fを受ける。床反力fは倒立車輪型走行体100の運動に影響を及ばすが、床反力センサ等の検出手段を設けない限り、床反力fは未知の変量となる。従って、補助輪接地状態においては、倒立状態と比較して更に1つの情報が不足した状態となるため、補助輪接地状態における重心の検知は、倒立状態における重心の検知よりも困難である。
【0168】
そこで、本実施態様においては、倒立車輪型走行体100の運動特性に基づいて、床反力センサ等の検出手段を新たに設けること無く、既存の限られた検出手段による観測値により、補助輪接地状態における倒立車輪型走行体全体の未知の重心角変動分Δη及び床反力fをそれぞれ分離して推定することを提案する。補助輪接地状態における倒立車輪型走行体全体の未知の重心角変動分Δη及び床反力fの具体的な推定手順については以下に詳細に説明する。
【0169】
B3.補助輪接地状態における倒立車輪型走行体の運動方程式の導出
補助輪が接地していない場合の補助輪回転アーム(アーム部)の運動方程式は下式(16)で表すことができる。
【0170】
【数44】

【0171】
上式中、
【数45】

【0172】
ここで、η:倒立車輪型走行体100の本体部120の重心角、q:補助輪アーム(アーム部)の回転角、mLB:補助輪回転アーム(アーム部)の質量、lLB:補助輪回転アーム(アーム部)の重心からアーム回転軸までの距離、ILB:補助輪回転アーム(アーム部)の重心周りの慣性モーメント、Jm3:アーム部駆動モータ(図示せず)のロータの慣性モーメント、n:アーム部駆動機構のギア比(モータ:アーム部=1:n)、f:アーム部回転関節(連接部)のの粘性摩擦係数、u:アーム部駆動モータの駆動トルク値、g:重力加速度、φ:質量・重心距離・慣性モーメント・摩擦係数等からなる物理パラメータベクトル、である。
【0173】
補助輪が接地していない倒立状態における倒立車輪型走行体100の本体部120及び駆動輪110の運動方程式は式(1)として既に求めた。ここで、式(1)を利用する。但し、倒立状態における平衡状態は重心が車軸111の真上にあるのに対して、補助輪接地状態における平衡状態は1つだけではなく、任意の接地姿勢を取り得る。従って、式(1)の非線形方程式を線形近似する際、その線形近似点は、本体部120の重心角を0(ゼロ)とする代わりに、ある時点での倒立車輪型走行体100の重心角ηとして、非線形関数のテーラー変換を行う。
【0174】
【数46】

【0175】
また、倒立車輪型走行体全体の重心角の変動分Δηや本体部120の重心角η、駆動輪110の回転角θの変化率が十分に低いとすると、以下のように近似することができる。
【0176】
【数47】

【0177】
従って、式(1)で表される倒立車輪型走行体100の運動方程式は、近似的に下式(17)によって表現することができる。
【0178】
【数48】

【0179】
更に、補助輪接地状態における運動では、駆動輪110と倒立車輪型走行体100の本体部120と補助輪回転アーム(アーム部131)は、床面と共に閉リンク系を構成し、倒立車輪型走行体100の本体部120の重心角ηとアーム部131の回転角qは、下式(18)に示すように幾何学的に拘束される。
【0180】
【数49】

【0181】
上式中、rは駆動輪110の接地点から倒立車輪型走行体100の本体部120のアーム部支持フレームの付け根(前述の水平部と鉛直部との接合点)までの距離であり、rは補助輪の半径であり、dは車軸111と補助輪回転アーム関節(連接点133)までの距離である。また、LLBは補助輪の中心から補助輪回転アーム関節(連接点133)までの距離である。
【0182】
上式(18)によって表される接地拘束条件から偏微分を求めると、その偏微分行列はヤコビ行列Jであり、補助輪の接地点において床面から受ける床反力fの入る経路である。上記ヤコビ行列Jの転置行列を下式(19)に示す。
【0183】
【数50】

【0184】
従って、補助輪接地状態における倒立車輪型走行体100の連立運動方程式は、倒立車輪型走行体100の本体部120と搭乗者150との合成重心(図2に示す丸印m)を質量中心とする車輪型1リンク倒立振子の運動方程式、駆動輪110の回転角の運動方程式としての式(17)、補助輪141のアーム部131の運動方程式としての式(16)式、及び上記ヤコビ行列Jを介して作用する床反力fから、下式(20)として表現することができる。
【0185】
【数51】

【0186】
上式中、
【0187】
【数52】

【0188】
下式(21)に示すように、式(20)で表される補助輪接地状態における運動方程式の慣性行列は正則である。
【0189】
【数53】

【0190】
従って、式(20)の両辺に慣性行列の逆行列を左側から掛けると、式(20)を下式(22)として表現することができる。
【0191】
【数54】

【0192】
上式中、
【0193】
【数55】

【0194】
補助輪接地状態における運動方程式(22)と倒立状態における運動方程式(3)とを比較してみると、式(22)には補助輪回転アームの角度変量q、床反力f、重力項b、及び補助輪回転アームの駆動入力uが含まれる点において、式(22)の方がより複雑になっていることがわかる。
【0195】
B4.重心変動分を推定するための基本モデルの作成
式(22)の右辺に含まれる各係数行列は、倒立車輪型走行体100の本体部120の重心角ηとアーム部131の回転角qの関数であり、η及びqの値に応じて変化する。本体部120の可動範囲は相対的に小さく、アーム部131の可動範囲も限られているため、式(22)の右辺の各係数行列中の(η,q)の値を(η,q)の変動範囲の中間点(η,q)に固定することで式(22)によって表されるシステムを下式(23)のように単純化することができる。また、物理パラメータφを正確に把握することは現実には困難である場合が多いため、物理パラメータのノミナル値を用いて、ノミナルモデルと外乱とで表現すると、式(22)を下式(23)のように表すことができる。
【0196】
【数56】

【0197】
前述のように、上式中の(η,q)は、(η,q)の変動範囲の中間点である。また、φは物理パラメータベクトルφのノミナル値、wは外乱、Dは外乱wの入る経路である。尚、式(23)の右辺に含まれる変量Δηは、搭乗者150の質量及び重心位置(m)に起因する倒立車輪型走行体100の重心角の変動分(Δη)であり、既存のセンサ等の検出手段によって検出できない未知の値であり、また床反力fは床反力センサ等の検出手段を新たに設けない限り観測できない未知の値であることに留意されたい。
【0198】
尚、式(23)における外乱wは物理パラメータ誤差や外力外乱等による外乱を表す。本実施態様においては、倒立車輪型走行体の駆動輪の運動方程式に現れる外乱(式(23)の2行目)に注目し、外乱w及び外乱wの入る経路Dを以下のように規定する。
【0199】
【数57】

【0200】
式(4)に関する記述において説明したように、倒立車輪型走行体100には必要最小限の検出手段(センサ等)が設置されている。補助輪接地状態においては、式(4)に含まれる観測値に加えて、アーム部の回転角度qをエンコーダ等の検出手段により測定することができる。尚、アーム部の回転角速度は、エンコーダ等による観測値の近似微分によって算出する。即ち、下式(24)に示すように、補助輪接地状態における既知変量は以下の通りである。
【0201】
【数58】

【0202】
式(23)におけるbは観測値に基づいて算出することができる。従って、補助輪接地状態における倒立車輪型走行体100の連立運動方程式(23)と、式(23)に与えられる制御トルクu及びuと、式(24)に示す観測値に基づいて状態オブザーバを設計し、未知変量である補助輪接地状態における倒立車輪型走行体全体の重心角変動分Δη及び床反力fを推定することができる。
【0203】
B5.状態オブザーバの設計
次は、補助輪接地状態における重心オブザーバの設計を説明する。未知である倒立車輪型走行体100の重心角変動分Δη及び床反力fを推定するため、補助輪接地状態における状態変数ベクトルを下式(25)のように規定する。
【0204】
【数59】

【0205】
上式(25)に示すように、補助輪接地状態における状態変数ベクトルの上部3成分は既知の観測変量であり、下部3成分は未知変量である重心角変動分Δη、床反力f、及び外乱wである。即ち、上式(25)に示す状態変数ベクトルにおいて、重心角変動分Δη、床反力f、及び外乱wを分離した独立変量としている。
【0206】
補助輪接地状態において、オブザーバの推定速度が重心角変動分Δηの変化及び床反力fの変化より十分に速い場合は、重心角変動分Δη及び床反力fの変化率を0(ゼロ)と近似することができる。これにより、式(23)の補助輪接地状態における運動方程式は、式(25)で定義される状態変数ベクトルを用いて、下式(26)のように表現し直すことができる。
【0207】
【数60】

【0208】
上式中、
【0209】
【数61】

【0210】
ここで、数値計算により、式(26)によって表されるシステムの可観測行列
【0211】
【数62】

【0212】
はフルランクであることを確認した。これにより、未知な重心角変動分Δη、床反力f、及び外乱wを含む補助輪接地状態における状態変数ベクトルは、オブザーバの設計により推定可能であると判断される。
【0213】
ところで、式(26)の状態方程式にはアフィン項bが存在するため、一般的な線形システムとは異なる特殊な系となる。しかし、線形アフィンシステムの状態オブザーバ設計は一般的には見当たらない。ここで、アフイン項bが観測量の関数であることを利用して、アフィン項bをオブザーバに導入し、下式(27)のような線形アフインオブザーバを作成する。
【0214】
【数63】

【0215】
上式中、
【数64】

【0216】
B6.オブザーバゲインの決定
式(27)で示される補助輪接地状態における状態オブザーバについても、式(9)で表される倒立状態における状態オブザーバと同様に、出力偏差(出力ベクトルとその推定値との差)をフィードバックすることにより、オブザーバの状態変数ベクトル推定値を、倒立車輪型走行体の実状態に収束させる。補助輪接地状態における、かかるフィードバックシステムを表すブロック線図を図4に示す。
【0217】
式(27)の線形アフィンオブザーバにおいても、オブザーバゲインを適切に設計することにより、同オブザーバから得られる状態推定値を、式(26)によって表される倒立車輪型走行体100の状態に漸近的に収束させることができる。
【0218】
オブザーバゲインの決定方法について以下に説明する。先ず、式(26)によって表される制御対象及び式(27)によって表される状態オブザーバから、状態推定偏差(状態変数ベクトルとその推定値との差)を計算する。状態推定偏差の動的方程式は下式のように表される。
【0219】
【数65】

【0220】
式(27)と式(26)とから、下式(28)に示す状態推定偏差の微分方程式が得られる。
【0221】
【数66】

【0222】
上式(28)によって表される補助輪接地状態における状態推定偏差の微分方程式は、式(10)によって表される倒立状態における状態推定偏差の微分方程式と同じ形であることがわかる。従って、補助輪接地状態における状態オブザーバのゲインは、倒立状態における状態オブザーバのゲインLと同じ手順で設計するすることができる。
【0223】
補助輪接地状態における状態オブザーバのゲインを適切に設計することにより、式(27)によって表される状態オブザーバから得られる状態推定値を、式(26)によって表される倒立車輪型走行体100の状態に漸近的に収束させることができる。
【0224】
式(27)によって表される補助輪接地状態の状態オブザーバは、式(9)によって表される倒立状態の状態オブザーバと同様に、オブザーバゲインの大きさによって、推定状態の収束速度が定まる。つまり、状態オブザーバから得られる特性方程式の極の大きさによつて、推定の収束速度が決まる。オブザーバのゲインが大きいことは観測値の重みが大きいことに等しく、状態オブザーバにおける推定値の算出においては観測値が優先されることとなる。即ち、状態推定におけるモデルの影響は小さくなり、観測値による推定値の更新速度が高くなる。しかしながら、オブザーバのゲインが大きいと、観測値に含むノイズ等に影響され易い。
【0225】
一方、オブザーバゲインが小さいことは観測値の影響が小さくなることを意味する。この場合、オブザーバの推定値算出は主に基本モデルに従うことになり、観測値による推定値の更新速度は低くなる一方、観測ノイズの影響が弱いため、推定精度が高い。従って、補助輪接地状態の状態オブザーバのフィードバックゲインは、補助輪接地状態における状態変数ベクトルの各成分の動作周波数及び推定の目的に応じて、適宜設定することができる。本発明に係る倒立車輪型走行体全体の重心角推定方法において用いられる状態オブザーバは、変化率の遅い重心角の変動及び床反力の推定を目的とするものであるので、推定の速度及び精度の両方共が高いことが要求される。従って、本実施態様においては、最適制御問題を解いて、得られる極の近くにオブザーバの極を配置する。詳細は以下に説明する。
【0226】
式(28)によって記述される補助輪接地の状態推定偏差システムの係数行列は、
【0227】
【数67】

【0228】
であり、この固有値は、
【0229】
【数68】

【0230】
の固有値と同じであるので、式(28)のオブザーパゲインの設計問題は、下式(29)のフィードバックゲインの設計問題と等しい。
【0231】
【数69】

【0232】
従って、最適なフィードバックゲインを求めるには、下式(30)によって表される最適レギュレーション問題を解けばよいことが解る。
【0233】
【数70】

【0234】
ここで、
【0235】
【数71】

【0236】
は重み行列である。同重み行列を適当に設定することにより、状態推定偏差の収束速さと出力偏差の大きさとのトレードオフを調整することができる。このようにして得られた式(30)の最適解を用いて、式(29)の閉ループシステム行列の固有値を得ることができる。
【0237】
【数72】

【0238】
上式中、λ(*)は行列(*)の固有値を意味する。下式(32)に示すように、式(28)の偏差システムの固有値を、式(30)及び式(31)から得られる固有値から移動させて、望む位置に配置することもできる。
【0239】
【数73】

【0240】
上式中、右辺の第2項は設計パラメータであり、シミュレーションや予備実験結果により、状態推定偏差の各成分の収束速さに応じて適切に定めることができる。また、下式(33)に示すように、上記のように配置した固有値が得られるように、式(27)によって表される状態オブザーバのフィードバックゲインを定めることができる。
【0241】
【数74】

【0242】
以上のように設計した状態オブザーバによる推定値から、補助輪接地状態における倒立車輪型走行体100全体の重心角の変動分(Δη)及び補助輪141が床面から受ける床反力fを得ることができる。
【0243】
補助輪接地状態における倒立車輪型走行体の状態オブザーバ設計の最終段階としては、上記のようにして設計された、式(27)によって表される連続系状態オブザーバを離散化することにより離散系状態オブザーバを設計し、例えば、倒立車輪型走行体の制御手段が備える制御コンピュータにて実装することとなる。
【0244】
以上、倒立状態及び補助輪接地状態における倒立車輪型走行体の状態オブザーバ設計について詳細に説明してきた。このように、本発明によれば、搭乗可能な倒立車輪型走行体において、新たなセンシングユニットの増設等を伴わずに、倒立状態における搭乗者又は搭載物の質量及び重心位置に起因する倒立車輪型走行体全体の重心角の変動分(Δη)及び外乱(w)を推定すること、並びに補助輪接地状態における搭乗者又は搭載物の質量及び重心位置に起因する倒立車輪型走行体全体の重心角の変動分(Δη)、補助輪が床から受ける床反力(f)、及び外乱(w)を推定すること、が可能となる。
【0245】
上記により、倒立車輪型走行体において、必要最小限のセンサを用いて、走行体の大型化や重量化、製造コストの増大、制御システムの複雑化等の懸念を回避しつつ、倒立走行の制御性能の向上、補助輪接地状態から倒立状態への連続的かつ円滑な遷移の実現、更には重心角の変動を伴う危険現象の防止等の利点を達成することが可能となる。
【0246】
以上、本発明を説明することを目的として、特定の構成を有する倒立車輪型走行体について特定の手順にて倒立車輪型走行体全体の重心角変動分等の推定を行う幾つかの実施態様について説明してきたが、本発明の範囲は、これらの例示的な実施態様に限定されるものではなく、特許請求の範囲及び明細書に記載された事項の範囲内で、適宜修正を加えることができることは言うまでも無い。
【符号の説明】
【0247】
100…倒立車輪型走行体、110…駆動輪、111…駆動輪車軸、120…本体部、131…アーム部(進行方向前側)、132…アーム部(進行方向後側)、133…連接部位(進行方向前側)、134…連接部位(進行方向後側)、141…補助輪(進行方向前側)、142…補助輪(進行方向後側)、150…搭乗者、151…リンク、及び190…床面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動輪と、
前記駆動輪の車軸によって支持される本体部と、
前記本体部に可動式に連接されたアーム部と、
前記アーム部の前記本体部とは反対側に回転可能に連接された補助輪と、
前記駆動輪を駆動する駆動輪駆動手段と、
前記アーム部を駆動するアーム駆動手段と、
前記倒立車輪型走行体の実状態を検出する検出手段と、
前記検出部によって検出される実状態と目標状態との偏差に基づいて前記駆動輪駆動部又は前記アーム駆動部を制御して、前記目標状態を達成する制御手段と、
を備え、
前記補助輪が接地せず、前記駆動輪のみで倒立する倒立状態と、
前記補助輪が接地する補助輪接地状態と、
を有する搭乗可能な倒立車輪型走行体全体の重心角推定方法であって、
前記倒立状態及び前記補助輪接地状態のそれぞれについての運動方程式に基づいて状態オブザーバを設計すること、
前記補助輪接地状態についての前記状態オブザーバの状態方程式にアフィン項を導入すること、
前記倒立状態についての前記状態オブザーバを用いて、前記倒立状態における搭乗者又は搭載物の質量及び重心位置に起因する前記倒立車輪型走行体全体の重心角の変動分(Δη)及び外乱(w)を推定すること、並びに
前記補助輪接地状態についての前記状態オブザーバを用いて、前記補助輪接地状態における搭乗者又は搭載物の質量及び重心位置に起因する前記倒立車輪型走行体全体の重心角の変動分(Δη)、前記補助輪が床から受ける床反力(f)、及び外乱(w)を推定すること、
を特徴とする、倒立車輪型走行体全体の重心角推定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の倒立車輪型走行体全体の重心角推定方法であって、前記倒立状態ついての前記状態オブザーバが下式(9)に示す状態方程式及び出力方程式によって表され、
【数1】

上式中、
【数2】

であり、
一方、前記補助輪接地状態についての前記状態オブザーバが下式(27)に示す状態方程式及び出力方程式によって表され、
【数3】

上式中、
【数4】

であることを特徴とする、倒立車輪型走行体全体の重心角推定方法。
【請求項3】
請求項2に記載の倒立車輪型走行体全体の重心角推定方法であって、前記倒立状態においては状態変数ベクトルとして下式(7)を用いて前記Δη及び前記外乱(w)を推定し、前記補助輪接地状態においては状態変数ベクトルとして下式(25)を用いて前記Δη、前記f、及び前記外乱(w)を推定し、
【数5】

【数6】

上式中、
【数7】

であることを特徴とする、倒立車輪型走行体全体の重心角推定方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の倒立車輪型走行体全体の重心角推定方法であって、前記Δηが予め定められた所定値よりも大きい場合に警告を発することを特徴とする、倒立車輪型走行体全体の重心角推定方法。
【請求項5】
駆動輪と、
前記駆動輪の車軸によって支持される本体部と、
前記本体部に可動式に連接されたアーム部と、
前記アーム部の前記本体部とは反対側に回転可能に連接された補助輪と、
前記駆動輪を駆動する駆動輪駆動手段と、
前記アーム部を駆動するアーム駆動手段と、
前記倒立車輪型走行体の実状態を検出する検出手段と、
前記検出部によって検出される実状態と目標状態との偏差に基づいて前記駆動輪駆動部又は前記アーム駆動部を制御して、前記目標状態を達成する制御手段と、
を備え、
前記補助輪が接地せず、前記駆動輪のみで倒立する倒立状態と、
前記補助輪が接地する補助輪接地状態と、
を有する搭乗可能な倒立車輪型走行体であって、
前記制御手段が、
前記倒立状態及び前記補助輪接地状態のそれぞれについての運動方程式に基づいて状態オブザーバを設計すること、
前記補助輪接地状態についての前記状態オブザーバの状態方程式にアフィン項を導入すること、
前記倒立状態についての前記状態オブザーバを用いて、前記倒立状態における搭乗者又は搭載物の質量及び重心位置に起因する前記倒立車輪型走行体全体の重心角の変動分(Δη)及び外乱(w)を推定すること、並びに
前記補助輪接地状態についての前記状態オブザーバを用いて、前記補助輪接地状態における搭乗者又は搭載物の質量及び重心位置に起因する前記倒立車輪型走行体全体の重心角の変動分(Δη)、前記補助輪が床から受ける床反力(f)、及び外乱(w)を推定すること、
を特徴とする、倒立車輪型走行体。
【請求項6】
請求項5に記載の倒立車輪型走行体であって、前記倒立状態ついての前記状態オブザーバが下式(9)に示す状態方程式及び出力方程式によって表され、
【数8】

上式中、
【数9】

であり、
一方、前記補助輪接地状態についての前記状態オブザーバのが下式(27)に示す状態方程式及び出力方程式によって表され、
【数10】

上式中、
【数11】

であることを特徴とする、倒立車輪型走行体。
【請求項7】
請求項6に記載の倒立車輪型走行体であって、前記倒立状態においては状態変数ベクトルとして下式(7)を用いて前記Δη及び前記外乱(w)を推定し、前記補助輪接地状態においては状態変数ベクトルとして下式(25)を用いて前記Δη、前記f、及び前記外乱(w)を推定し、
【数12】

【数13】

上式中、
【数14】

であることを特徴とする、倒立車輪型走行体。
【請求項8】
請求項5乃至請求項7の何れか1項に記載の倒立車輪型走行体であって、前記Δηが予め定められた所定値よりも大きい場合に警告を発する重心角警告手段を更に備えることを特徴とする、倒立車輪型走行体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−250569(P2012−250569A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−122834(P2011−122834)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(306020818)トヨタテクニカルディベロップメント株式会社 (13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】