説明

重荷重用空気入りタイヤの製造方法

【課題】インナーライナーにインスレーションを介してカーカスプライを貼り合せた重荷重用空気入りタイヤにおいて波打現象を効果的に抑えることができる重荷重用空気入りタイヤの製造方法を提供する。
【解決手段】インナーライナー6の外側にカーカスプライ5を、インスレーション7を介して貼り合せてカーカス部2を形成するカーカス部2形成工程と、カーカス部2を有する生タイヤを加硫する加硫工程とを備えており、カーカス部2形成工程は、インスレーション7を成形するインスレーション7成形工程と、インスレーション7に、照射電圧200〜600kV、照射線量50〜200kGYの電子線を照射する電子線照射工程とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーカスプライとインナーライナーとの間にインスレーションを介在させた重荷重用空気入りタイヤの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
はじめに重荷重用空気入りタイヤについて、図面を用いて説明する。図2は、重荷重用空気入りタイヤの断面図である。図3は、重荷重用空気入りタイヤの一部を拡大した断面図である。図2に示すように、重荷重用空気入りタイヤ1は、カーカス部2と、路面と接するトレッド部3と、ビード部4とを備えている。
【0003】
カーカス部2は、インナーライナー6の外側にインスレーション7を介してカーカスプライ5を貼り合せて構成されている。インナーライナー6は、ブチルゴムで作製されており、カーカスプライ5との接着力が弱い。このため、カーカスプライとインナーライナーの間に、接着性に優れたインスレーションを介在させている。
【0004】
また、図3に示すように、カーカスプライ5は、複数本のカーカスコード8をトッピングゴム9で被覆したものである。
【0005】
そして、カーカス部2を有する生タイヤは、加硫機で加硫されることにより重荷重用空気入りタイヤが製造される。
【0006】
このようにして製造される重荷重用空気入りタイヤのカーカスコード8同士の間隔Dは、図3に示すように、タイヤ1の断面位置によって変わり、バットレス位置Z、最大幅位置Y、ビード側位置Xのうち、バットレス位置Zで最も広くなっている。
【0007】
そして、インスレーション7の材料となる練りゴムのムーニー粘度[ML(1+4) 130℃]が45未満になった場合、加硫の際、ゴムが流れてインナーライナー6やインスレーション7のゴムゲージが薄くなる。特に、バットレス位置Zでは、カーカスコード8同士の間隔Dが広いため、薄肉化が顕著に表れる。
【0008】
このように薄くなった部分では、インスレーション7がカーカスコード8の間に吸い上げられて波打現象が生じ、さらにインスレーション7とインナーライナー6の間にも波打現象が生じる(図3参照)。そして、波打現象が生じない部分では、カーカスプライ5とインスレーション7の硬度差があっても、歪み集中による破壊は起こりにくいが、波打部分11では、カーカスプライ5とインスレーション7の硬度差による歪みの集中により破壊が起こるという問題がある。
【0009】
このため、インスレーションを厚くすることも考えられるが、タイヤの重量が増加するという問題がある。
【0010】
そこで、前記練りゴムのムーニー粘度を大きくすることが考えられるが、ムーニー粘度が60を超えるように設定した場合、前記練りゴムの加工性が低下し、インスレーション7を所望の形状に形成できないという不具合が生じる。このため、前記練りゴムのムーニー粘度を45〜60の範囲内で管理してインスレーション7を成形することで波打現象を抑制していたが、従来の技術では波打現象を十分に抑制することができなかった。
【0011】
波打現象を抑える方法として、上記以外にも種々の方法が研究されていたが、他に大きな悪影響を与えず波打現象を効果的に抑えるための有効な技術はなかった。
【0012】
なお、波打現象を抑える方法として、カーカスプライに電子線を照射してカーカスプライのトッピングゴムを半加硫化することにより、生タイヤの加硫時のゴム流動を抑えて波打現象の発生をなくす技術が提案されていた(例えば、特許文献1)が、この技術は、インスレーションを用いず、インナーライナーにカーカスプライを直接貼り合せた構造を対象とした技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2008−132736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記の問題に鑑み、インナーライナーにインスレーションを介してカーカスプライを貼り合せた重荷重用空気入りタイヤにおいて波打現象を効果的に抑えることができる重荷重用空気入りタイヤの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項1に記載の発明は、
インナーライナーの外側にカーカスプライを、インスレーションを介して貼り合せてカーカス部を形成するカーカス部形成工程と、
前記カーカス部を有する生タイヤを加硫する加硫工程と
を備えており、
前記カーカス部形成工程は、
前記インスレーションを成形するインスレーション成形工程と、
前記インスレーションに、照射電圧200〜600kV、照射線量50〜200kGYの電子線を照射する電子線照射工程と
を備えている
ことを特徴とする重荷重用空気入りタイヤの製造方法である。
【0016】
請求項2に記載の発明は、
前記インスレーションの原料となる練りゴムのムーニー粘度を45〜60に設定して混練し、
前記加硫工程での加硫後のインスレーションのゴム硬度(JIS)を61〜67、加硫後のプライのゴム硬度(JIS)を67〜73に設定して前記インスレーションに電子線を照射する
ことを特徴とする請求項1に記載の重荷重用空気入りタイヤの製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、生タイヤの加硫前にインスレーションに適切な照射電圧と照射線量の電子線を照射して、インスレーションを適度に半加硫化させることにより、インスレーションのゲージを厚くすることなく、波打現象を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明を適用して製造した重荷重用空気入りタイヤの要部断面図である。
【図2】重荷重用空気入りタイヤの断面図である。
【図3】重荷重用空気入りタイヤの一部を拡大した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
図1は、本発明を適用して製造した重荷重用空気入りタイヤの要部断面図である。なお、図2及び図3に示す従来例と同一部位には同一符号を付している。
【0021】
1.重荷重用空気入りタイヤの製造方法
重荷重用空気入りタイヤの製造方法は、インナーライナー6の外側にカーカスプライ5を、インスレーション7を介して貼り合せてカーカス部2を形成するカーカス部形成工程と、カーカス部2を有する生タイヤを加硫する加硫工程とを備えている(図1参照)。
【0022】
(1)カーカス部形成工程
カーカス部形成工程は、押出機により、またはカレンダー装置によりインスレーション7を成形するインスレーション成形工程と、インナーライナー6の外側にカーカスプライ5をインスレーション7を介して貼り合せる貼り合わせ工程と、インスレーション7に電子線を照射する電子線照射工程とを有している。
【0023】
(イ)インスレーション成形工程
インスレーション成形工程は、インスレーション7の原料となる練りゴムをムーニー粘度が45〜60の範囲になるように混練してインスレーション7を所望の形状に成形する工程である。
【0024】
(ロ)電子線照射工程
電子線照射工程は、カーカスプライを貼り合わせる前に照射電圧および照射線量を適切に設定した電子線をインスレーション7に照射する工程である。電子線の照射電圧は200〜600kVであり、好ましくは300〜600kVである。600kVを超えると透過能力が大きくなり過ぎインナーライナー6(ブチルゴム層)を透過してブチルゴムを変質させるため好ましくない。また、電子線の照射線量は50〜200kGYであり、好ましくは80〜150kGYである。
【0025】
(2)加硫工程
加硫工程は、インナーライナー6にカーカスプライ5を貼り合せた後に、トレッド部などを設けて生タイヤを成形した後、加硫する工程である。
【0026】
加硫工程では、加硫後のゴム硬度(JIS)がインスレーション7で61〜67となり、カーカスプライ5で67〜73となるように加硫を行なう。
【0027】
(3)その他
なお、カーカスプライ5を形成する工程や、カーカス部2にトレッド部3及びビード部4を貼り合わせて生タイヤを形成する工程等、上記以外の工程は、従来と同様の方法で行われる。
【0028】
2.本実施の形態の効果
生タイヤの加硫前に、照射電圧および照射線量を適切に設定した電子線をインスレーション7に照射しているため、図1に示すように、インスレーション7が半加硫化し、生タイヤの加硫中におけるゴム流れが抑制され、インスレーションのゲージを厚くすることなく、ゴムの吸い上がりによりインスレーション7とカーカスプライ5との間の波打現象を抑制することができる。
【実施例】
【0029】
(実施例1〜8、従来例、および比較例1〜3)
本例は、上記の実施の形態において、EBR(電子線)の照射電圧および照射線量、ムーニー粘度、加硫後のインスレーションのゴム硬度について、表1のように設定し、タイヤサイズが11R22.5で、プライ・ブレーカをスチール製とした重荷重用空気入りタイヤを製造した。なお、加硫後のインスレーションのゴム硬度は、標準的な数値である64に設定した。
【0030】
上記のようにして製造された実施例1〜8、従来例、および比較例1〜3の重荷重用空気入りタイヤについて、表1に掲げた各項目について測定した。
【0031】
波打量は、タイヤを解体してゴムゲージの段差をマイクロスコープで測定した値である。
【0032】
EBR照射後のインスレーションの接着力は、タックメーターにより80℃時のサンプルシートのタック値を測定して求めた。そして、求めたタック値について、従来例を100として指数化して表示した。指数が小さいほど、接着力が弱いことを表わす。
【0033】
また、プライ/インナーライナー間ゴムゲージG(mm)の算出数値は、図1に示すとおりインナーライナー6とインスレーション7との接着面からカーカスコード8までの間隔であり、小さいほど、ゲージが薄いことを表わす。そして、ゴムゲージGと共に、従来例を100とした指標も併せて表示した。
【0034】
【表1】

【0035】
(考察)
すべての実施例1〜8において、波打現象が発生せず、インスレーションの接着力についても支障のない値となることが確認できた。これは照射電圧、照射線量が適切であり、電子線照射によりインスレーションが適度に半加硫化したためと考えられる。
【0036】
一方、同じく電子線照射を行った比較例1〜3のうち、比較例1、2は、波打現象が発生した。一方、比較例3は、波打現象は発生しなかったが、インスレーションの接着力が大きく低下した。これは、比較例1、2は、照射線量が少なすぎ、比較例3は、照射線量が多すぎたためと考えられる。なお、電子線照射を行わなかった従来例については、大きな波打現象が発生した。
【0037】
プライ/インナーライナー間ゴムゲージは、実施例の場合、従来例および比較例1、2よりも小さくなり、重荷重用空気入りタイヤを軽量化できることが確認できた。
【0038】
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、上記の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0039】
1 重荷重用空気入りタイヤ
2 カーカス部
3 トレッド部
4 ビード部
5 カーカスプライ
6 インナーライナー
7 インスレーション
8 カーカスコード
9 トッピングゴム
11 波打部分
D カーカスコード同士の間隔
G プライ/インナーライナー間ゴムゲージ
X ビード側位置
Y 最大幅位置
Z バットレス位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インナーライナーの外側にカーカスプライを、インスレーションを介して貼り合せてカーカス部を形成するカーカス部形成工程と、
前記カーカス部を有する生タイヤを加硫する加硫工程と
を備えており、
前記カーカス部形成工程は、
前記インスレーションを成形するインスレーション成形工程と、
前記インスレーションに、照射電圧200〜600kV、照射線量50〜200kGYの電子線を照射する電子線照射工程と
を備えている
ことを特徴とする重荷重用空気入りタイヤの製造方法。
【請求項2】
前記インスレーションの原料となる練りゴムのムーニー粘度を45〜60に設定して混練し、
前記加硫工程での加硫後のインスレーションのゴム硬度(JIS)を61〜67、加硫後のプライのゴム硬度(JIS)を67〜73に設定して前記インスレーションに電子線を照射する
ことを特徴とする請求項1に記載の重荷重用空気入りタイヤの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−183783(P2012−183783A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−49843(P2011−49843)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】