説明

重荷重用空気入りタイヤ及びその製造方法

【課題】ビード耐久性を維持しつつ、成形不良を抑制しうる。
【解決手段】重荷重用空気入りタイヤ1である。カーカスプライ6Aの本体部6aの内側には、空気不透過性ゴム材からなるインナーライナ9が添設される。インナーライナ9のタイヤ半径方向の内端9ieは、ビード部4までのびている。折返し部6bのタイヤ軸方向外側かつビード外側面S1をなすクリンチゴム13のタイヤ軸方向内側には、タイヤ半径方向にのびるインナーサイドウォールゴム層15が配される。インナーサイドウォールゴム層15のタイヤ半径方向の内端15iは、インナーライナ9に接続されることなくインナーライナ9の内端9ieよりもタイヤ軸方向外側で終端する。インナーサイドウォールゴム層15の内端15iと、インナーライナ9の内端9ieとの離間距離W1は、ビードコア5の最大幅W2の0.3〜2.0倍である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビード耐久性を維持しつつ、成形不良を抑制しうる重荷重用空気入りタイヤ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下記特許文献1では、図5に示されるような、重荷重用空気入りタイヤaが提案されている。該重荷重用空気入りタイヤaは、例えば、トレッド部bからサイドウォール部cを経てビード部dのビードコアeに至る本体部f1と、該本体部f1に連なりかつビードコアeの周りで折り返された折返し部f2とを有するカーカスプライfを含むカーカスg、本体部f1の内側に配される空気不透過性ゴム材からなるインナーライナh、折返し部f2のタイヤ軸方向外側かつビード外側面iをなすクリンチゴムj、及び該クリンチゴムjのタイヤ軸方向内側でタイヤ半径方向にのびるインナーサイドウォールゴム層kを具える。
【0003】
前記インナーサイドウォールゴム層kは、軟質かつ粘着性に優れるゴム材から形成される。従って、カーカスプライfの折返し部f2とクリンチゴムjとの間の歪は、このインナーサイドウォールゴム層kによって緩和吸収される。また、インナーサイドウォールゴム層kは、クリンチゴムjの界面mに沿った亀裂等を抑制する。これらの相乗作用により、ビード部dの耐久性が向上される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−052909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記インナーサイドウォールゴム層kは、カーカスプライfのタイヤ軸方向外側を確実に被覆するために、タイヤ半径方向の内端k1から外端k2までの被覆長さnが比較的大きく設定されている。
【0006】
しかしながら、このような大きな被覆長さnを有するインナーサイドウォールゴム層kは、成形時にビードトウp側へと延在すると、インナーライナhのタイヤ半径方向の内端h1と重なることがある。この場合、インナーサイドウォールゴム層kとインナーライナhとの接合面に空気が閉じ込められやすく、ひいてはビード部dの底面dtなどにベアやデントといった成形不良が生じるという問題があった。
【0007】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、インナーサイドウォールゴム層のタイヤ半径方向の内端を、インナーライナの内端よりもタイヤ軸方向外側で終端させるとともに、インナーサイドウォールゴム層の内端と、インナーライナの内端との離間距離を一定の範囲内に規定することを基本として、ビード耐久性を維持しつつ、成形不良を抑制しうる重荷重用空気入りタイヤ及びその製造方法を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のうち請求項1記載の発明は、トレッド部からサイドウォール部を経てビード部のビードコアに至る本体部と、該本体部に連なりかつ前記ビードコアの周りでタイヤ軸方向内側から外側に折り返された折返し部とを有するカーカスプライを含むカーカスを具えた重荷重用空気入りタイヤであって、 前記カーカスプライの本体部の内側に、空気不透過性ゴム材からなるインナーライナが添設され、該インナーライナのタイヤ半径方向の内端はビード部までのび、前記折返し部のタイヤ軸方向外側かつビード外側面をなすクリンチゴムのタイヤ軸方向内側には、タイヤ半径方向にのびるインナーサイドウォールゴム層が配され、前記インナーサイドウォールゴム層のタイヤ半径方向の内端は、前記インナーライナに接続されることなく前記インナーライナの前記内端よりもタイヤ軸方向外側で終端するとともに、該インナーサイドウォールゴム層の内端と、前記インナーライナの内端との離間距離は、ビードコアの最大幅の0.3〜2.0倍であることを特徴とする重荷重用空気入りタイヤである。
【0009】
また請求項2記載の発明は、前記離間距離は、前記ビードコアの最大幅の0.5〜1.8倍である請求項1記載の重荷重用空気入りタイヤである。
【0010】
また請求項3記載の発明は、前記本体部と前記折返し部との間には、前記ビードコアからタイヤ半径方向外側へ先細状にのびるビードエーペックスゴムを具え、前記ビードエーペックスゴムは、前記ビードコア側に配された内エーペックス部と、この内エーペックス部のタイヤ半径方向外側かつ前記折返し部に隣接して配されしかも折返し部をタイヤ半径方向外側に超えてのびる外エーペックス部とからなり、しかも前記外エーペックス部は、前記インナーサイドウォールゴム層と同一のゴム組成物からなる請求項1又は2記載の重荷重用空気入りタイヤである。
【0011】
また請求項4記載の発明は、前記外エーペックス部及びインナーサイドウォールゴム層のゴム組成物の最低トルクMLは、0.9〜1.1N・mである請求項3に記載の重荷重用空気入りタイヤである。
【0012】
また請求項5記載の発明は、前記外エーペックス部と、前記インナーサイドウォールゴム層との間に前記折返し部の外端を接触する外側インスレーションゴムが配されるとともに、該外側インスレーションゴムは、前記インナーサイドウォールゴム層と同一のゴム組成物からなる請求項3又は4記載の重荷重用空気入りタイヤである。
【0013】
また請求項6記載の発明は、前記インナーライナは、ビードトウの近傍に位置してタイヤ軸方向外側に折れ曲がり前記ビードコアのタイヤ半径方向の内側領域で終端する前記内端を有し、かつ、前記インナーサイドウォールゴム層の内端も、前記ビードコアのタイヤ半径方向の内側領域で終端する請求項1乃至5のいずれかに記載の重荷重用空気入りタイヤである。
【0014】
また請求項7記載の発明は、請求項1乃至6の何れかに記載の重荷重用空気入りタイヤを製造する方法であって、タイヤの生カバーを成形する工程と、該生カバーを金型に挿入して加硫成形する加硫工程とを含み、前記生カバーは、前記インナーサイドウォールゴム層の内端と、前記インナーライナの内端との離間距離は、ビードコアの最大幅の0.4〜2.2倍であることを特徴とする重荷重用空気入りタイヤの製造方法である。
【0015】
なお、本明細書では、上記各寸法等を含むタイヤの各部の寸法は、正規リムにリム組みされかつ正規内圧が充填された無負荷の正規状態において特定される値とする。
【0016】
また、前記「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えばJATMAであれば "標準リム" 、TRAであれば "Design Rim" 、ETRTOであれば "Measuring Rim" とする。
【0017】
さらに「正規内圧」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば "最高空気圧" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の重荷重用空気入りタイヤは、カーカスプライの折返し部のタイヤ軸方向外側かつビード外側面をなすクリンチゴムのタイヤ軸方向内側には、タイヤ半径方向にのびるインナーサイドウォールゴム層が配される。該インナーサイドウォールゴム層は、走行中におけるカーカスプライの折返し部とクリンチゴムとの間に生じる歪を緩和、吸収し、クリンチゴムの界面に沿った亀裂等を抑制できる。従って、ビード耐久性が向上する。
【0019】
さらに、インナーサイドウォールゴム層のタイヤ半径方向の内端は、インナーライナに接続されることなくインナーライナの前記内端よりもタイヤ軸方向外側で終端する。これにより、インナーサイドウォールゴム層とインナーライナとの接合面に生じがちな空気の閉じ込み等によるベア、デントといった成形不良が抑制される。
【0020】
しかも、インナーサイドウォールゴム層の内端と、インナーライナの内端との離間距離は、ビードコアの最大幅の0.3〜2.0倍に限定される。このように、離間距離を一定の範囲に規制することにより、インナーライナとインナーサイドウォールゴム層との重なりを確実に防止しつつ、インナーサイドウォールゴム層によって、カーカスプライの折返し部のタイヤ軸方向外側を確実に被覆することができ、ビード耐久性がさらに向上する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の重荷重用空気入りタイヤの一形態を例示する断面図である。
【図2】図1のビード部を拡大して示す断面図である。
【図3】筒状基体を形成する工程を示す断面図である。
【図4】生カバーを形成する工程を示す断面図である。
【図5】従来の重荷重用空気入りタイヤを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図1に示されるように、本実施形態の重荷重用空気入りタイヤ1は、トレッド部2からサイドウォール部3を経てビード部4のビードコア5に至るカーカス6と、このカーカス6のタイヤ半径方向外側かつトレッド部2の内部に配されたベルト層7と、前記カーカス6の内側に配されるインナーライナ9とを具える。
【0023】
前記カーカス6は、トレッド部2からサイドウォール部3を経てビード部4のビードコア5に至る本体部6aと、該本体部6aに連なりかつ前記ビードコア5の周りでタイヤ軸方向内側から外側に折り返された折返し部6bとを有する1枚以上、本例では1枚のカーカスプライ6Aから形成される。
【0024】
また、本実施形態のカーカスプライ6Aは、カーカスコードがタイヤ赤道Cに対して70〜90度の角度で配列されたラジアル構造を有する。前記カーカスコードとしては、スチールコードが好適に使用される。
【0025】
本実施形態のベルト層7は、スチールコードを用いたベルトコードをタイヤ赤道Cに対して例えば60±10度程度の角度で配列した最内のベルトプライ7Aと、タイヤ赤道Cに対して30度以下の小角度で配列したベルトプライ7B、7C、7Dとの4層構造を具える。各ベルトプライ7A、7B、7C、7Dは、例えばベルトコードがプライ間で互いに交差する箇所を1箇所以上設けて重置される。
【0026】
前記インナーライナ9は、例えばブチル系ゴム等を主体とした空気不透過性ゴム材から形成される。また、本実施形態のインナーライナ9のタイヤ半径方向の内端部9iは、ビードコア5よりもタイヤ半径方向内側へのびるとともに、ビードトウ4tの近傍にてタイヤ軸方向外側に折れ曲がり、ビードコア5のタイヤ半径方向の内側領域(ビードコア5をタイヤ半径方向内方に投影した領域)内で終端する内端9ieを有する。このようなインナーライナ9は、ビード底面S2側からもビードコア5を覆って、ビードコア5への空気及び水分の透過を効果的に防ぐことができ、ビード耐久性の向上に役立つ。
【0027】
また、インナーライナ9とカーカスプライ6Aの本体部6aとの間には、インナーライナ9よりも粘着性に優れるゴム材からなる内側インスレーションゴム層11が配される。この内側インスレーションゴム層11のタイヤ半径方向の内端部11iは、インナーライナ9の内端9ieをタイヤ軸方向外側に超えて前記ビードコア5の内方領域内で終端している。このような内側インスレーションゴム層11は、インナーライナ9とカーカス6の本体部6aとを接着力を高め、かつ、両者のせん断歪を吸収するのに役立つ。
【0028】
ここで、前記「粘着性」とは、未加硫状態におけるゴム材料同士の付着力を意味する。このような粘着性を発揮しうるゴムとしては、例えば、ゴム成分100質量部中に、天然ゴム(NR)を60質量部以上、さらに好ましくは80質量部以上配合させたNR系ゴムを採用するのが好ましい。
【0029】
また、本実施形態のビード部4には、図2に拡大して示されるように、カーカスプライ6Aのタイヤ半径方向の内端でU字状に覆うビード補強コード層12と、ビード外側面S1をなすクリンチゴム13と、クリンチゴム13の内端に連なりビード底面S2を形成するチェーファ14とが設けられる。さらに、カーカスプライ6Aの折返し部6bのタイヤ軸方向外側かつクリンチゴム13のタイヤ軸方向内側には、タイヤ半径方向内、外にのびるインナーサイドウォールゴム層15が設けられる。
【0030】
前記ビード補強コード層12は、ビードコア5を包むように、その廻りで折り返された断面略U字状に形成され、例えばスチールコード又は有機繊維コードを並列した1枚のプライからなる。また、ビード補強コード層12は、タイヤ軸方向内側に配される内の巻き上げ部12aと、タイヤ軸方向外側に配される外の巻き上げ部12bとを有して形成される。このようなビード補強コード層12は、ビード部4の曲げ剛性を高め、歪を軽減するのに役立つ。
【0031】
なお、ビード補強コード層12の外の巻き上げ部12bの外端12beとカーカスプライ6Aの折返し部6bの外端6beとの長さL3は、適宜設定することができるが、小さすぎると、各外端12be及び6beが近接して大きな剛性段差が生じるおそれがある。このような観点より、ビード補強コード層12の外の巻き上げ部12bの外端12beとカーカスプライ6Aの折返し部6bの外端6beとの長さL3は、好ましくは6mm以上、より好ましくは8mm以上、さらに好ましくは10mm以上が望ましい。
【0032】
前記クリンチゴム13は、サイドウォールゴム3Gのタイヤ半径方向の内端に連なり、ビードヒール4h近傍までタイヤ半径方向内側にのびている。また、クリンチゴム13は、サイドウォールゴム3Gよりも硬質のゴムからなり、ゴム硬度が、例えば70〜85度の範囲に設定される。このようなクリンチゴム13は、ビード部4のビード外側面S1において、リムと接触による摩耗や損傷を防止するのに役立つ。
【0033】
なお、本明細書において、ゴム硬度は、JIS−K6253に準拠し、23℃の環境下でのデュロメータータイプAによる硬さとする。
【0034】
本実施形態において、前記チェーファ14は、ビードヒール4h近傍からビードトウ4tまでのびて終端する。また、本実施形態のチェーファ14には、硬質のゴムが採用され、好ましくはゴム硬度が70〜85度の範囲で設定される。このようなチェーファ14は、リムに対して高くかつ安定した嵌合圧を発揮するとともに、ビード部4のビード底面S2においてリムとの接触による損傷を確実に防止しうる。
【0035】
また、チェーファ14のビードトウ4t側の端部には、インナーライナ9のタイヤ軸方向内側面9sに沿ってタイヤ半径方向外側へ向かって厚さを漸減しながら延在し、断面略三角形状をなすトウ内側ゴム層16が設けられている。このトウ内側ゴム層16は、ゴム硬度が、例えば70〜85度の硬質のゴムからなり、チェーファ14と同様に、リムに対して安定した嵌合圧を発揮しうる。
【0036】
本実施形態のインナーサイドウォールゴム層15は、カーカスプライ6Aの折返し部6bとクリンチゴム13との間を、タイヤ半径方向内外にのびている。該インナーサイドウォールゴム層15は、クリンチゴム13よりも粘着性に優れるとともに、ゴム硬度が、クリンチゴム13よりも小、とりわけ50〜65度の軟質ゴムから構成される。これにより、インナーサイドウォールゴム層15は、走行中における折返し部6bとクリンチゴム13との間に生じる歪を広範囲に亘って緩和、吸収しうる。従って、その歪に起因するクリンチゴム13の界面に沿った亀裂等を長期に亘って抑制でき、ビード耐久性を向上させ得る。
【0037】
上述のような粘着性を発揮させるために、インナーサイドウォールゴム層15は、ゴム成分100質量部中に、天然ゴム(NR)を60質量部以上、より好ましくは80質量部以上、さらに好ましくは100質量部以上配合させたNR系のゴム組成物で構成されるのが好ましい。
【0038】
前記インナーサイドウォールゴム層15のタイヤ半径方向の外端15oは、折返し部6bの外端6beよりもタイヤ半径方向外側にのび、クリンチゴム13のタイヤ半径方向の外端13o近傍で終端している。
【0039】
一方、インナーサイドウォールゴム層15のタイヤ半径方向の内端15iは、前記ビード補強コード層12の外側を通ってビードコア5のタイヤ半径方向内側にのび、該ビードコア5の内方領域内で終端している。
【0040】
さらに、インナーサイドウォールゴム層15のタイヤ半径方向の内端15iは、インナーライナ9に接続されることなくインナーライナ9の内端9ieよりもタイヤ軸方向外側で終端する。そして、インナーサイドウォールゴム層15の内端15iと、前記インナーライナ9の内端9ieとのタイヤ軸方向の離間距離W1は、ビードコア5のタイヤ軸方向の最大幅W2の0.3〜2.0倍に設定される。
【0041】
このように、インナーサイドウォールゴム層15とインナーライナ9との各内端を接続することなく離間させたことにより、界面を減らし、これらの接続部に生じがちであった空気の閉じ込みを抑制できる。従って、閉じこめられた空気に起因するベアやデントといった成形不良を効果的に防止できる。
【0042】
しかも、インナーサイドウォールゴム層15の内端15iとインナーライナ9の内端9ieとの離間距離W1が、ビードコア5の最大幅W2の0.3〜2.0倍に制限されるので、インナーサイドウォールゴム層15とインナーライナ9との重なりを確実に防止しつつ、各内端を、ビード部4の歪の小さい領域に配置することができる。
【0043】
とりわけ、本実施形態のように、インナーライナ9の内端9ie及びインナーサイドウォールゴム層15の内端15iをともに、ビードコア5の内方領域に配置することにより、前記各内端9ie、15iをビードコア5とリムとで強固に狭持し、これらの内端9ie、15iに起因する損傷を確実に防止しうる点で特に好ましい。なお、上記作用をより発現させるために、インナーサイドウォールゴム層15の内端15iとインナーライナ9の内端9ieとの離間距離W1については、ビードコア5の最大幅W2の好ましくは0.5倍以上、さらに好ましくは0.7倍以上が望ましく、また、好ましくは1.8倍以下、さらに好ましくは1.0倍よりも小、さらに好ましくは0.8倍以下が望ましい。
【0044】
前記インナーサイドウォールゴム層15の最大厚さWt(図2に示す)については、適宜設定できるが、小さすぎると、走行中における折返し部6bとクリンチゴム13との間に生じる歪を十分に吸収できないおそれがあり、逆に、大きすぎると、リムとの嵌合力の低下やタイヤ重量の増加を招くおそれがある。このような観点より、インナーサイドウォールゴム層15の最大厚さWtは、好ましくは0.5mm以上、さらに好ましくは1.0mm以上が望ましく、また、好ましくは2.0mm以下、さらに好ましくは1.5mm以下が望ましい。
【0045】
また、インナーサイドウォールゴム層15の外端15oとカーカスプライ6Aの折返し部6bの外端6beとのタイヤ半径方向の長さL1についても、適宜設定することができるが、小さすぎると、折返し部6bの外端6beでの歪を十分に吸収できないおそれがある。このような観点より、インナーサイドウォールゴム層の外端15oとカーカスプライ6Aの折返し部6bの外端6beとのタイヤ半径方向の長さL1は、好ましくは10mm以上、より好ましくは12mm以上、さらに好ましくは15mm以上が望ましい。
【0046】
同様の観点より、インナーサイドウォールゴム層15の外端15oとビード補強コード層12の外の巻き上げ部12bの外端12beとのタイヤ半径方向の長さL2は、好ましくは20mm以上、より好ましくは22mm以上、さらに好ましくは25mm以上が望ましい。
【0047】
また、インナーサイドウォールゴム層15のゴム組成物の最低トルクMLについても、適宜設定できるが、小さすぎると、ゴムの粘着性を十分に発揮できず、ビード耐久性が低下するおそれがある。さらに、加硫中のインナーサイドウォールゴム層15のゴム流れを抑えることができず、成形不良が生じるおそれもある。逆に、大きすぎても、ゴム流動性が過度に減少し、成形不良が生じるおそれがある。このような観点より、インナーサイドウォールゴム層15のゴム組成物の最低トルクMLは、好ましくは0.9N・m以上、さらに好ましくは1.2N・m以上が望ましく、また、好ましくは1.8N・m以下、さらに好ましくは1.5N・m以下が望ましい。
【0048】
なお、「最低トルクML」は、JIS−K6300に記載の「振動式加硫試験機(キュラストメータ)による加硫試験」に準じ、温度170℃、振幅角±1度、振動数100/分のもとで架橋曲線を測定した値とする。
【0049】
また、図1に示されるように、前記カーカスプライ6Aの本体部6aと折返し部6bとの間には、ビードコア5からタイヤ半径方向外側へ先細状にのびるビードエーペックスゴム8が配され、ビード部4が適宜補強されている。
【0050】
本実施形態のビードエーペックスゴム8は、ビードコア5側に配された内エーペックス部8Aと、この内エーペックス部8Aのタイヤ半径方向外側かつカーカスプライ6Aの折返し部6bに隣接して配されるとともに、折返し部6bをタイヤ半径方向外側に超えてのびる外エーペックス部8Bとから形成される。
【0051】
図2に示されるように、前記内エーペックス部8Aは、ビードコア5からタイヤ半径方向外側へ向かって、その厚さを漸減しながらカーカスプライ6Aの本体部6aに向かって延在し、断面略三角形状に形成される。また、内エーペックス部8Aは、タイヤ半径方向の外端8Aeが、カーカスプライ6Aの折返し部6bの外端6beよりもタイヤ半径方向外側に位置するとともに、ゴム硬度が、例えば85〜98度の硬質のゴムからなる。このような内エーペックス部8Aは、ビード部4の横剛性を確保して、折返し部6bの外端6beに歪が集中するのを抑制しうる。
【0052】
前記内エーペックス部8Aの外端8Aeとカーカスプライ6Aの折返し部6bの外端6beとのタイヤ半径方向の長さL4も適宜設定することができるが、小さすぎると、両外端6be及び8Aeが近接し、その部分に歪が集中しやすくなり、逆に、大きすぎると、ビード部4の横剛性を過度に高め、乗り心地が低下するおそれがある。このような観点より、前記長さL4は、好ましくは2mm以上、さらに好ましくは5mm以上が望ましく、また、好ましくは15mm以下、さらに好ましくは10mm以下が望ましい。
【0053】
他方、外エーペックス部8Bは、内エーペックス部8Aよりも軟質のゴム材からなり、とりわけインナーサイドウォールゴム層15と同一のゴム組成物から形成されるのが好ましい。これにより、外エーペックス部8Bは、カーカスプライの折返し部6bと内エーペックス部8Aとの間に生じる歪を緩和、吸収するのに役立つ。
【0054】
また、本実施形態の外エーペックス部8Bは、ビードコア5のタイヤ軸方向外側面からカーカスプライ6Aの折返し部6bに沿ってタイヤ半径方向外側へのび、タイヤ半径方向の外端8Beが、インナーサイドウォールゴム層15の外端15oよりも外側で終端している。このような外エーペックス部8Bは、硬質の内エーペックス部8Aとカーカスプライ6Aの折返し部6bとの間に生じる歪を好ましく緩和、吸収しうる。
【0055】
なお、外エーペックス部8Bの外端8Beとインナーサイドウォールゴム層15の外端15oとのタイヤ半径方向の長さL5については、好ましくは20mm以上、さらに好ましくは30mm以上が望ましく、また、好ましくは50mm以下、さらに好ましくは40mm以下が望ましい。前記長さL5が小さくなると、両外端が揃って剛性段差が生じるおそれがあり、逆に、大きすぎると、外エーペックス部8Bが必要以上に大きくなるなど、軽量化やコスト削減で不利となるおそれがある。
【0056】
前記外エーペックス部8Bとインナーサイドウォールゴム層15との間には、折返し部6bの外端6beと接触する外側インスレーションゴム17が配されるのが好ましい。この外側インスレーションゴム17は、インナーサイドウォールゴム層15と外エーペックス部8Bとの間を、タイヤ半径方向内、外にのび、タイヤ半径方向の外端17oがインナーサイドウォールゴム層15の外端15oと一致して終端している。
【0057】
このような外側インスレーションゴム17は、主としてカーカスプライ6Aの折返し部6bの外端6beの歪を効果的に緩和しうる。なお、本実施形態の外側インスレーションゴム17は、ビード補強コード層12の外の巻き上げ部12bの外端12beとも接触しており、該外端12beでの歪も効果的に緩和しうる。とりわけ、外側インスレーションゴム17は、インナーサイドウォールゴム層15と同一の柔軟なゴム組成物からなるのが好ましい。これにより、外エーペックス部8B、インナーサイドウォールゴム層15及び外側インスレーションゴム17の各々の界面での接着強度を高めゴム剥離を防止しうるとともに、折返し部6bの外端6be及びビード補強コード層12の外端での損傷をより確実に防止できる。
【0058】
以上のように構成された本実施形態の重荷重用空気入りタイヤ1の製造方法の一例について説明する。この製造方法では、図3、図4に示されるように、タイヤの生カバーTを成形する工程と、生カバーTを金型(図示省略)に挿入して加硫成形する加硫工程とを含んで行われる。
【0059】
前記タイヤの生カバーTを成形する工程では、例えば図3に示されるように、円筒状の成形ドラムDの上に、インナーライナ9、クリンチゴム13、チェーファ14、サイドウォールゴム3G、インナーサイドウォールゴム層15、及び外側インスレーションゴム17が順次巻回される。このとき、インナーサイドウォールゴム層15は、インナーライナ9と、成形ドラムDの軸方向に離間して配される。
【0060】
さらに、その半径方向外側に、内側インスレーションゴム層11、ビード補強コード層12、及びカーカスプライ6Aが順次巻回され、筒状基体18が形成される。
【0061】
そして、この筒状基体18には、ビードエーペックスゴム8を取付けたビードコア5を軸方向の外側から嵌め込まれる。このとき、ビードコア5は、インナーライナ9の端部9tの成形ドラムDの半径方向外側に配される。
【0062】
しかる後、図3、図4に示されるように、筒状基体18のビードコア5、5より外側の外側部18bが、ビードコア5、5間の主部18aへ折り返されるとともに、ビードコア5、5の軸方向の距離を減じながら主部18aをトロイド状に膨張させる。この外側部18bの折返しにより、インナーライナ9の端部9tは、ビードコア5の半径方向内側で、軸方向外側へ折れ曲がり、内端部9iが形成される。また、筒状基体18の主部18aの外周面には、ベルト層7とトレッドゴム2Gなどを予め装着した環状トレッドリング19が圧接され、両者が一体化される。これにより、生カバーTが成形される。
【0063】
生カバーTの状態において、インナーサイドウォールゴム層15の内端15iとインナーライナ9の内端9ieとの離間距離W3は、ビードコア5の最大幅W2の、好ましくは0.4倍以上、さらに好ましくは1.0倍以上が望ましく、また、好ましくは2.2倍以下、さらに好ましくは2.0倍以下が望ましい。前記離間距離W3が小さすぎると、加硫時のゴム流れ等により、インナーサイドウォールゴム層15とインナーライナ9とが接触して、成形不良が生じるおそれがある。逆に、前記離間距離W3が大きすぎると、インナーサイドウォールゴム層15及びインナーライナ9の各端部が、ビードコア5の内方領域から遠ざかり、ビード耐久性が低下するおそれがある。
【0064】
次に、加硫工程では、慣例に従って、生カバーTを金型(図示省略)に挿入して加硫成形される。これにより、本実施形態の重荷重用空気入りタイヤ1を製造しうる。
【0065】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例】
【0066】
図1の基本構造を有し、かつビード部の構造を表1の仕様とした重荷重用空気入りタイヤの生カバーを試作するとともに、加硫成形して重荷重用空気入りタイヤ(サイズ:245/70R19.5)を試作して、それらの性能を比較した。また、比較のために、図5に示されるインナーサイドウォールゴム層がインナーライナまで延在する重荷重用空気入りタイヤの生カバーについても、同様の試験を行なった。
テストの方法は次の通りである。
【0067】
<成形不良>
30本の上記生カバーを金型に挿入して加硫成形し、ビード部近傍にベアやデントといった成形不良が発生したかを肉眼で検査した。評価は、比較例1を100とする指数で示し、数値が低いほど良好である。
【0068】
<製造コスト>
重荷重用空気入りタイヤ30本を製造するのに要した製造コストを、比較例を100とする指数で表示している。数値が小さいほど製造コストが小さく良好である。
【0069】
<ビード耐久性>
ドラム試験機を用い、サイズ7.5×19.5のリムにリム組みし、内圧850kPa、縦荷重43.88kNの条件下にて、速度20km/hで走行させ、ビード部に損傷が発生するまでの走行時間を、比較例1を100とする指数で示している。数値が大きいほど耐久性に優れている。
テスト結果などを表1に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
テストの結果、実施例の重荷重用空気入りタイヤは、ビード耐久性を維持しつつ、成形不良を抑制でき、その結果、製造コストを抑制しうることが確認できた。
【符号の説明】
【0072】
1 重荷重用空気入りタイヤ
2 トレッド部
3 サイドウォール部
4 ビード部
5 ビードコア
6 カーカス
6A カーカスプライ
9 インナーライナ
13 クリンチゴム
15 インナーサイドウォールゴム層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部からサイドウォール部を経てビード部のビードコアに至る本体部と、該本体部に連なりかつ前記ビードコアの周りでタイヤ軸方向内側から外側に折り返された折返し部とを有するカーカスプライを含むカーカスを具えた重荷重用空気入りタイヤであって、
前記カーカスプライの本体部の内側に、空気不透過性ゴム材からなるインナーライナが添設され、
該インナーライナのタイヤ半径方向の内端はビード部までのび、
前記折返し部のタイヤ軸方向外側かつビード外側面をなすクリンチゴムのタイヤ軸方向内側には、タイヤ半径方向にのびるインナーサイドウォールゴム層が配され、
前記インナーサイドウォールゴム層のタイヤ半径方向の内端は、前記インナーライナに接続されることなく前記インナーライナの前記内端よりもタイヤ軸方向外側で終端するとともに、
該インナーサイドウォールゴム層の内端と、前記インナーライナの内端との離間距離は、ビードコアの最大幅の0.3〜2.0倍であることを特徴とする重荷重用空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記離間距離は、前記ビードコアの最大幅の0.5〜1.8倍である請求項1記載の重荷重用空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記本体部と前記折返し部との間には、前記ビードコアからタイヤ半径方向外側へ先細状にのびるビードエーペックスゴムを具え、
前記ビードエーペックスゴムは、前記ビードコア側に配された内エーペックス部と、
この内エーペックス部のタイヤ半径方向外側かつ前記折返し部に隣接して配されしかも折返し部をタイヤ半径方向外側に超えてのびる外エーペックス部とからなり、
しかも前記外エーペックス部は、前記インナーサイドウォールゴム層と同一のゴム組成物からなる請求項1又は2記載の重荷重用空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記外エーペックス部及びインナーサイドウォールゴム層のゴム組成物の最低トルクMLは、0.9〜1.1N・mである請求項3に記載の重荷重用空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記外エーペックス部と、前記インナーサイドウォールゴム層との間に前記折返し部の外端を接触する外側インスレーションゴムが配されるとともに、
該外側インスレーションゴムは、前記インナーサイドウォールゴム層と同一のゴム組成物からなる請求項3又は4記載の重荷重用空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記インナーライナは、ビードトウの近傍に位置してタイヤ軸方向外側に折れ曲がり前記ビードコアのタイヤ半径方向の内側領域で終端する前記内端を有し、かつ、前記インナーサイドウォールゴム層の内端も、前記ビードコアのタイヤ半径方向の内側領域で終端する請求項1乃至5のいずれかに記載の重荷重用空気入りタイヤ。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れかに記載の重荷重用空気入りタイヤを製造する方法であって、
タイヤの生カバーを成形する工程と、該生カバーを金型に挿入して加硫成形する加硫工程とを含み、
前記生カバーは、前記インナーサイドウォールゴム層の内端と、前記インナーライナの内端との離間距離は、ビードコアの最大幅の0.4〜2.2倍であることを特徴とする重荷重用空気入りタイヤの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−105076(P2011−105076A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−260212(P2009−260212)
【出願日】平成21年11月13日(2009.11.13)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】