説明

重送したシートの分離を行うシート搬送装置及び画像読取装置

【課題】重送したシートを自動で再分離することが可能で、シート搬送作業の効率が向上させることができるシート搬送装置を提供する。
【解決手段】シートトレイに載置されたシート束からシートを1枚ずつ分離して給紙し、給紙されたシートを挟持して搬送するシート搬送装置において、回転軸の方向が互いに異なる搬送ローラ対を備え、搬送ローラ対の一方は、シートの搬送方向に搬送するように配置され、搬送ローラ対の他方は、シートの搬送方向に対して斜行して搬送するように配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート搬送装置及び画像読取装置に関し、特に、シートトレイに載置されたシート束からシートを1枚ずつ分離して搬送する搬送機構で発生したシートの重送の分離技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のシート搬送装置を備えた画像読取装置では、2枚以上のシートが重なった状態で装置内に送られる重送が発生した場合、ジャム(詰まり)や画像の読み取り不良等が生じるおそれがある。どちらの場合もユーザが、シートを取り除く作業やシートの再セット等が必要となり、その間は装置を停止させなければならない。そこで、重送を検知した場合、重送したシートをシートトレイの方向に所定距離だけ逆搬送させ、分離機構を再度使って分離を行うシート搬送装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第5384631号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来のシート搬送装置では、シート間の密着性が強いために重送が生じていることから、同じ分離機構を再度使っても確実に分離できるとは限らない。
【0005】
本発明の目的は、重送したシートの分離を容易に行うことができ、シート搬送の効率を向上させるシート搬送装置及び画像読取装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1記載のシート搬送装置は、シートトレイに載置されたシート束からシートを1枚ずつ分離して給紙する給紙手段と、前記給紙手段から給紙されたシートを挟持して搬送し、回転軸の方向が互いに異なる搬送ローラ対を有する第1の搬送手段と、前記第1の搬送手段により搬送されるシートをさらに搬送する第2の搬送手段と、を有し、前記搬送ローラ対の一方は、前記給紙シートを前記第2の搬送手段のシートの搬送方向に搬送するように配置され、前記搬送ローラ対の他方は、前記給紙シートを前記第2の搬送手段のシートの搬送方向に対して斜めに搬送するように配置されていることを特徴とする。
【0007】
また、上記目的を達成するために、請求項10記載の画像読取装置は、シート束を載置するシートトレイと、前記シートトレイに載置された前記シート束からシートを1枚ずつ分離して給紙する給紙手段と、前記給紙手段から給紙されたシートを挟持して搬送し、回転軸の方向が互いに異なる搬送ローラ対を有する第1の搬送手段と、前記第1の搬送手段により搬送されるシートをさらに搬送する第2の搬送手段と、前記第2の搬送手段により搬送されたシートの画像を読み取る読取手段と、を有し、前記搬送ローラ対の一方は、前記給紙シートを前記第2の搬送手段のシートの搬送方向に搬送するように配置され、前記搬送ローラ対の他方は、前記給紙シートを前記第2の搬送手段のシートの搬送方向に対して斜めに搬送するように配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、回転軸の方向が互いに異なる搬送ローラ対の一方をシートの搬送方向に搬送するように配置し、他方をシートの搬送方向に対して斜めに搬送するように配置する。これにより、重送したシートの分離を容易に行うことができ、シート搬送の効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るシート搬送装置を具備した画像読取装置の概略図である。
【図2】図1のADFとリーダ部と画像コントローラ部の制御系の概略ブロック図である。
【図3】図1の引き抜きローラ部の概略図であり、図3(a)は図1の矢印A方向から見た概略図、図3(b)は図1の矢印B方向から見た概略図である。
【図4】図4(a)〜(d)は、引き抜きローラ部におけるシートの挙動を説明するための図である。
【図5】第1の実施の形態におけるCPUによる引き抜きローラ部のシート分離処理のフローチャートである。
【図6】図6(a)〜(c)は、重送したシートの判定方法を説明するための図である。
【図7】シート幅検知部によって検知されるシートのシート検知幅の変化の異なる度合いを示す図である。
【図8】図8(a)〜(d)は、引き抜きローラ部によるシートのレジストローラへの押し込み動作を説明するための図である。
【図9】本発明の第2の実施の形態に係るシート搬送装置を具備した画像読取装置におけるADFを上方から見た部分透視図である。
【図10】図10(a)〜(c)は、引き抜きローラ部におけるシートの挙動を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
【0011】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係るシート搬送装置を具備した画像読取装置の概略構成を示す図である。
【0012】
図1において、画像読取装置は、自動原稿送り部(以下「ADF」とする)100と、画像読取部(以下「リーダ部」とする)200とで構成される。ADF100は、1枚以上のシートからなるシート束Sを載置するシートトレイ30を有する。シート束Sのシートは、給紙動作の開始前の状態では、分離パッド21によりADF内に入らないよう規制されている。そして、給紙動作の開始により、シート束S上に押し付けられた給紙ローラ1の駆動によってシート(給紙シート)がADF内に引き寄せられ、分離パッド21と分離ローラ2によって最上面のシートだけが搬送路上に給紙される。
【0013】
実際には、シートの紙種や表面の摩擦力の違いから、分離パッド21と分離ローラ2によって必ずしも最上面のシート1枚だけを分離することができない場合がある。本実施の形態では、この時点で1枚に分離されないで2枚が重なった状態で給紙されたシートを重送したシートとする。
【0014】
分離パッド21と分離ローラ2の位置からシートの搬送方向に沿った下流側には分離センサ10が配置されている。分離センサ10は、センサ出力に基づいて分離後のシート間隔を検知するために使用される。分離センサ10の位置から下流側には、シートの搬送方向(以下、単に「搬送方向」とする)に交差する方向(例えば直交する方向)に沿って複数のシート検知センサが並べられたシート幅検知部11が配置されている。シート幅検知部11では、給紙されたシートがレジストローラ4に突き当たるまでの間の所定のタイミングで、複数のシート検知センサの検知有無に基づき、給紙したシートの幅の検知が行われる。なお、シート幅検知部11はCCDやCIS等のアレイ状のセンサで構成されていてもよい。
【0015】
シート幅検知部11を通過したシートは、引き抜きローラ部(第1の搬送ユニット)3により搬送されてレジストローラ4に突き当てられる。シートの到達時点ではレジストローラ4の回転駆動が停止しているため、シート先端は先に進めない状態となる。その状態で引き抜きローラ部3がシートをレジストローラ4側へ押し込む動作によって、シートにはたわみが形成される。ここまでの搬送過程においてシートの先端が搬送方向に対して斜めになる斜行状態となっていた場合でも、このレジストローラ4でのシートのたわみ形成により斜行が解消される。その後、レジストローラ4を回転駆動させることによりシートが第1搬送ローラ5およびローラ7へ送られ、これらのローラによって、さらに流し読みガラス201上に送られる。リーダ部200では、プラテンガラス201を通してシートの表面画像を読み取る。
【0016】
シートはその後、第2搬送ローラ(第2の搬送ユニット)6により搬送され、ローラ16と裏面読み取りガラス18との間を通過する。そして、排紙フラッパ20および排紙ローラ8を介してシート排紙トレイ31に排出される。
【0017】
裏面画像読取部17は、シートの画像情報を光学的に読み取り、光電変換した画像信号を後段に出力するユニットであり、ローラ16に対向した裏面読み取りガラス18の奥側に位置する。裏面画像読取部17では、シートがローラ16と裏面読み取りガラス18との間隙を通過する間にシートの裏面画像を読み取る。
【0018】
シート検知センサ12,13,14は、センサ位置にシートがあるかないかを検知する。また図示しないが、シート搬送経路に沿って搬送ガイドが設けられ、これによりシートが搬送方向に直交する方向(以下、「主走査方向」とも呼ぶ)の所定の範囲より外に出ないよう規制されている。
【0019】
リーダ部200もまた、シートの画像情報を光学的に読み取り、光電変換した画像信号を後段に出力するユニットである。リーダ部200は、プラテンガラス201、プラテンガラス202、スキャナユニット209、第2ミラー205、第3ミラー206、レンズ207、CCD(Charge Coupled Device)208を備える。なお、スキャナユニット209は照明ランプ203と第1ミラー204を有する。
【0020】
シート表面の画像を読み取る際には、予めスキャナユニット209をプラテンガラス201の下に移動させておく。そして、その状態で照明ランプ203を点灯し、流し読みガラス面上を通過するシートの表面からの反射光を第1〜第3ミラー204,205、206を介してレンズ207に導き、CCD208上に結像させる。この過程を経てシートの表面画像は、CCD208で光電変換され、デジタル画像信号となる。
【0021】
図2は、図1のADF100とリーダ部200と画像コントローラ部300の制御系の概略ブロック図である。
【0022】
リーダ部200において、中央処理装置(以下「CPU」とする)251は、ADF100およびリーダ部200の制御を行っている。CPU251には、プログラム格納用のメモリであるROM252と、作業領域用のメモリであるRAM253が接続される。ROM252には、リーダ部200およびADF100の制御用プログラムが格納されており、RAM253には、制御で使用される入力データや作業用のデータが格納される。
【0023】
CPU251には、スキャナユニット209を移動させる光学系モータを駆動するためのドライバ回路であるモータドライバ部256と、表面画像読取部260が接続されている。表面画像読取部260は、上述した照明ランプ203、CCD208と、CCD208の出力をデジタル画像信号に変換する信号制御部259とから構成される。CPU251は、モータドライバ部256及び表面画像読取部260を制御して、原稿表面の画像読み取りを行う。
【0024】
シート間隔補正処理部254は、給紙されたシートのシート間隔(先行シートの後端と後続シートと先端の間隔)に応じて信号制御部259のパラメータ補正を行う。なお、本実施の形態では、紙間は時間のパラメータとして扱うが、距離のパラメータであってもよい。画像処理部255は、表面画像読取部260及び裏面画像読取部17で読み取られた画像信号を処理し、タイミング信号を生成して画像コントローラ部300に転送する。画像バッファ261は、画像処理部255によって制御され、表面画像読取部260あるいは裏面画像読取部17で読み取られた画像信号を一時的に格納するためのものである。
【0025】
ADF100には、CPU251の入出力ポートが接続される。出力ポートには、各種搬送用のローラを駆動するためのモータ群103、ソレノイド群101、クラッチ群102が接続されている。一方、入力ポートには、シートの搬送タイミング信号を生成するための各種センサ群104、搬送過程においてシートサイズを検出するためのシート幅検知部11が接続されている。
【0026】
CPU251は、ROM252に格納された制御プログラムを実行することでADF100におけるシート搬送動作を制御する。裏面画像読取部17は、裏面画像読み取りのための照明ランプ307、CIS(contact image sensor)308、及び信号制御部107を備える。裏面画像読取部17は、CPU251に接続され、当該CPU251からの制御信号に応じてシートの裏面画像を読み取って画像処理部255に転送する。
【0027】
画像バッファ261に格納された画像信号は、タイミング信号に同期して画像処理部255に読み出され、コントローラIF部350を通して順次画像コントローラ部300へと転送される。
【0028】
画像コントローラ部300は、リーダ部200とは別に画像コントロール用のCPU301、ROM302、RAM303を持つ。画像処理部255から画像コントローラ部300に送られた画像信号は、画像入出力部304で入出力制御が行われ、送られてきた順に画像データとして画像メモリ305に蓄積される。
【0029】
画像処理部310は、画像入出力部304から入力された画像信号、あるいは画像メモリ305に蓄積された画像データに対して各種画像処理を行う。操作部309は、画面表示により本装置の状態をユーザに通知することが可能であり、また本装置に対するユーザの動作指示の入力を行う。操作部309に入力された指示に応じて、CPU301は、画像メモリ305から画像データを読み出し、外部インターフェイス312に接続される電話回線やネットワークを通して他の装置やパーソナルコンピュータに画像や情報を転送する等の処理を実行する。
【0030】
本実施の形態では、リーダ部200における表面画像読取部にCCDを、ADF100における裏面画像読取部にCISを使用しているが、これらに限らず、画像読み取り可能なセンサであれば何を使ってもよい。
【0031】
次に、引き抜きローラ部3について詳細に説明する。
【0032】
図3(a)、(b)は、図1の引き抜きローラ部3の概略構成を示す図であり、図3(a)は図1の矢印A方向から見た概略図、図3(b)は図1の矢印B方向から見た概略図である。
【0033】
引き抜きローラ部3は、上下1対の上側ローラ3aと下側ローラ3bとの搬送ローラ対で構成される。上側ローラ3aと下側ローラ3bは、それらの間にシートPを挟持して回転することにより、シートPを搬送方向に搬送する。上側ローラ3aと下側ローラ3bは個別のモータ(図2のモータ群103に含まれる)で回転駆動される。
【0034】
上側ローラ3aと下側ローラ3の回転軸は、同じ方向ではなく、異なる方向に延びている。具体的には、下側ローラ3bは、給紙ローラ1や分離ローラ2、及びレジストローラ4と同じ方向(シートの搬送方向に直交する方向)の回転軸を持ち、シートPをストレートに下流方向に搬送させる搬送ローラである。一方、上側ローラ3aは、搬送方向に直交する方向に対して水平方向に傾きを持たせた斜送ローラである。本実施の形態では、下側ローラ3bに対する上側ローラ3aの傾斜角度は20度とする。なお、この傾斜角度は、ローラの材質や大きさ、摩擦力等に応じて変更されるもので、20度に限定されるものではない。また、上側ローラ3aの回転軸の方向と下側ローラ3bの回転軸の方向との関係は上記と逆であってもよい。
【0035】
また、上側ローラ3aがシートに与える搬送力は下側ローラ3bがシートに与える搬送力とは異なるように構成されている。その理由については後述する。
【0036】
さらに、上側ローラ3aと下側ローラ3bは、接触/離間状態を切り替えることが可能な構造を有する。これはローラ間にシートがない状態において、軸方向が異なるローラを直に接触させて回転させた場合に、削れや変形といったローラへのダメージが想定されるためである。上側ローラ3aと下側ローラ3bの接触/離間切り替えは、CPU251からの制御信号に応じて、上述したソレノイド群101の特定のソレノイドが駆動することによってなされる。即ち、この特定のソレノイドは、上側ローラ3aと下側ローラ3bの接触/離間状態を切り替える切替ユニットとして機能する。なお、上側ローラ3aと下側ローラ3b間の接触と離間を切り替える構造や方法についてはどのようなものであってもよい。
【0037】
次に、引き抜きローラ部3におけるシートPの挙動について図4(a)〜図4(d)を参照して説明する。なお、同図には、引き抜きローラ部3として斜送ローラ(上側ローラ3a)のみが図示されているが、前述したように対向位置する位置に不図示の搬送ローラ(下側ローラ3b)が配置されているものとする。また、引き抜きローラ部3の近傍には、レジストレーションローラ4(下側ローラ3b)のシート搬送方向に交差する方向におけるシートの幅を検知するシート幅検知部11が配置されている。
【0038】
図4(a)は、シートPが引き抜きローラ部3に到達する前の状態を示す図である。図示の状態では、シートPが正常に分離された1枚シートになっているか、あるいは2枚が重なった重送となっているかは見かけ上わからない。そして、シートPが引き抜きローラ部3に到達すると、上側ローラ3aと下側ローラ3bを離間状態から接触状態に切り替えるように駆動制御する。
【0039】
ここで、上側ローラ3aと下側ローラ3bのシートに対する搬送力について説明する。なお、この搬送力は、上側ローラ3aと下側ローラ3bのそれぞれに対する各モータの駆動力やローラ自体の摩擦力、2つの搬送ローラの回転軸の角度差等をパラメータとして得られるものとする。
【0040】
まず、搬送されてきたシートPが1枚だった場合について説明する。
【0041】
図4(b)は、搬送力が上側ローラ3a>下側ローラ3bとなるように予め設定した場合の状態例を示す図である。この場合は、上側ローラ3aの搬送力が勝るためにシートPは斜行し、且つ斜めに搬送される。一方、図4(c)は、搬送力が上側ローラ3a<下側ローラ3bとなるように予め設定した場合の状態を示す図である。この場合、下側ローラ3bの搬送力が勝るためにシートPは直進する。
【0042】
次に、搬送されてきたシートPが重送だった場合について説明する。
【0043】
重送したシートに対して、上側ローラ3aと下側ローラ3bが接触状態に切り替えられた時点で、重送したシートの上側のシートPは上側ローラ3aにより斜め方向の力を受けることとなる。一方、下側のシートPaは、下側ローラ3bにより搬送方向に対してストレートに力を受ける。その結果、重送したシートにおける上面側のシートと下面側のシートとでねじれを生じ、図4(d)に示すように、シートPと重なっていたシートPaが分離されることとなる。この場合、上側ローラ3aと下側ローラ3bとでどちらの搬送力が大きくても分離の挙動はあまり変わらないことがわかっている。なお、上側ローラ3aの搬送力により斜行したシートは、レジストローラ4により斜行が補正される。また、斜行が補正され、レジストレーションローラ4により搬送されるシートは、レジストレーションローラ4がその軸方向にシフトすることにより、搬送方向に直交する幅方向におけるシート位置が調整される構成であってもよい。
【0044】
図5は、本実施の形態におけるCPU251による引き抜きローラ部3のシート分離処理のフローチャートである。
【0045】
まず、CPU251は、画像コントローラ部300からの読み取り動作開始の指示に応じて、ADF上のシートのピックアップ動作を開始するように制御する(ステップS800)。具体的には、給紙ローラ1をONして駆動/降下させてシート束Sの上面に接触させ、シートPを分離ローラ2へと送り込む。それと同時に分離ローラ2で最上面のシートPの分離を試み、分離したシートPを装置内部へと搬送する。
【0046】
次に、CPU251は、ピックアップ動作の開始から所定時間経過後に、シート幅検知部11によるシート幅の検知を開始させる(ステップS801)。
【0047】
その後、CPU251は、シートPが引き抜きローラ部3に到達するまで待ち(ステップS802)、シートPが引き抜きローラ部3に到達する直前に、予め離間状態にしてあった引き抜きローラ部3を接触状態に切り替えると共に回転させる(ステップS803)。そして、CPU251は、上側ローラ3aと下側ローラ3bを駆動制御して、図4(d)に示すように、シートPの引き抜き(分離)を行う(ステップS803)。
【0048】
次に、CPU251は、ステップS803とほぼ同期してピックアップ動作を終了させ、引き抜きローラ部3によるシートの引き抜き動作を行い易くする(ステップS804)。具体的には、給紙ローラ1の駆動を停止して上昇/停止させてシート束Sから離間させ、また分離ローラ2の駆動を停止することにより、引き抜きローラ部3による引き抜き動作を容易にさせる。
【0049】
次に、CPU251は、シート幅検知部11によるシート検知幅の変化に基づいて、搬送中のシートPが重送しているかどうかの判定を行う(ステップS805)。
【0050】
ここで、シートの重送判定について図6(a)〜図6(c)、図7を参照して説明する。
【0051】
本実施の形態では、シート幅検知部11のシート検知幅に基づいて重送判定を行っている。
【0052】
図6(a)は、シートPが引き抜きローラ部3に到達する前の状態の一例を示す図である。
【0053】
図示例では、シート幅検知部11がシートPを検知したときのシート検知幅L0は、シートPのシート幅と同じである。
【0054】
図6(b)は、搬送力が上側ローラ3a>下側ローラ3bである条件下、1枚のシートPが引き抜きローラ部3に到達して、搬送力が上側ローラ3a>下側ローラ3bであることにより、斜行状態になっている図である。
【0055】
図示例のシート幅検知部11によるシートPのシート検知幅をL1とする。図示例では、シートPが斜行させられるためにL1>L0となる。なお、搬送力が上側ローラ3a<下側ローラ3bである条件下では、1枚のシートPが引き抜きローラ部3に到達した際には、シートPはそのまま直進する。そのため、シート幅検知部11によるシートPのシート検知幅は、図6(a)と同様にL0である。
【0056】
図6(c)は、重送したシートが引き抜きローラ部3に到達し、分離がはじまった状態を示す図である。
【0057】
図示例のシート幅検知部11によるシートPのシート検知幅をL2とする。シート幅検知部11により検知された見かけのシート幅L1、L2は、シートの搬送/分離の過程で変化していく。引き抜きローラ部3にシートが到達後の、シート幅検知部11で検知されたシート幅の変化の異なる度合いを示したグラフが図7である。図7に示すグラフの縦軸がシート検知幅、横軸が経過時間tである。t0はシート幅検知部がシート先端でシート幅を検知するタイミングであり、t1はシートが引き抜きローラ部3へ到達するタイミングである。
【0058】
図7において、1枚時のシート検知幅L1はシートの先端がシート幅検知部11で検知され始めてからシートが引き抜きローラ部3に到達するまでは一定である。図6(b)に示す搬送力が上側ローラ3a>下側ローラ3bに設定されている条件下では、シートが引き抜きローラ部3に到達した後は、シートが進むにつれ斜行が大きくなり、1枚時のシート検知幅L1は従って徐々に値が大きくなっていく。なお、L1の増加はシートPの斜行が上側ローラ3aの傾きと同じになった時点で止まる。それに対し、重送時には、上側シートPが斜行していくのに対して下側シートPaはそのまま搬送されていくため、シート検知幅L2の変化分すなわちグラフの傾きはL1の傾きより大きくなる。なお、L2の値は、シートPの斜行が上側ローラ3aの傾きと同じになった時点が最大となる。
【0059】
従って、引き抜きローラ部3にシートPが到達後におけるシート検知幅の変化を経時的に参照していくことにより、その変化度合いが、例えば、図示の所定の閾値Tを越えた場合には、搬送されてきたシートが重送していると判定することができる。
【0060】
なお、本実施の形態では、シート幅検知センサによるシート検知幅の変化に基づいて重送判定を行ったが、重送判定の方法はこれに限らず、別途専用のセンサを設けてもよい。
【0061】
図5のステップS806における判定結果が重送であった場合、CPU251は、引き抜きローラ部3の下側ローラ3bの駆動を停止あるいは減速させ、主として上側ローラ3aを駆動する搬送に切り替える(ステップS807)。これにより、分離されるべきシートの上側のシートだけが先に搬送されることになる。その後、CPU251は、上側シートのレジストローラ4への到達を待つ(ステップS808)。次に、上側シートがレジストローラ4へ到達し、レジストローラ4に突き当てられ、上側シートの斜行が補正されると、CPU251は、レジストローラ4を駆動し、上側ローラ3aを下側ローラ3bから離間させ、上側ローラ3aの駆動を停止させる(ステップS809)。
【0062】
ここで、引き抜きローラ部3によるシートのレジストローラ4への押し込み動作について図8(a)〜(d)を参照して説明する。
【0063】
図8(a)は、シートPがレジストローラ4に到達する前の斜行している状態を示す図である。なお、図8(a)〜(d)の各図における上側は、レジストローラ4、引き抜きローラ部3、シートPを真上から見た図であり、下側はそれらを真横からみた図である。
【0064】
なお、図8(a)〜(d)において、斜線で描かれたローラは駆動状態であることを表している。
【0065】
図8(b)に示す状態では、シートPは、その先端がレジストローラ4に到達しているが、レジストローラ4が停止状態であるためにシートPは先に進めない。その一方で、シートPは後ろから引き抜きローラ部3によって押し込まれているために、シートPにたわみの形成が始まっている状態である。
【0066】
図8(c)は、引き抜きローラ部3による押し込みが終了し、シートPのループの形成が終了した状態を示す図である。この段階では、シートの応力と搬送ガイド(不図示)の規制により、レジストローラ4に突き当てられた状態でシート先端部の斜行が取り除かれている。そして、所定のタイミングでレジストローラ4が回転駆動されることにより、シートは、図8(d)に示すように、斜行がとれた状態でその先の画像読み取り位置へと搬送されていく。
【0067】
図5に戻り、ステップS810では、CPU251は、シートPがレジストローラ4によって下流側に搬送され、分離が完了するのを待つ。分離完了はレジストローラ4の駆動開始から上側シートの後端がレジストローラを通過するまでの時間が経過することにより判断される。シートの分離完了を確認すると、CPU251は、レジストローラ4の駆動を停止し、引き抜きローラ部3の上側ローラ3aの離間を解除し、上下両方のローラの駆動を再開(ステップS811)させ、重送したシートの下側のシートがレジストローラ4に向けて搬送され、ステップS812に進む。ステップS812以降の処理は、ステップS806でシートが重送でなかった場合と同じになる。
【0068】
ステップS806における判定結果が重送でなかった場合には、CPU251は、そのままシート搬送を続けてシートをレジストローラ4に到達させる。そして、レジストローラ4への到達を確認(ステップS812)した後、CPU251は、所定のタイミングで引き抜きローラ部3の駆動を停止し、上側ローラ3aと下側ローラ3bとを離間状態に戻す(ステップS813)。最後に、CPU251は、シート幅検知部11を停止させて(ステップS814)、シート幅検知及び幅検知信号の経時変化に基づく重送の検知処理を終了し、一連のシートの引き抜き処理を終了する。
【0069】
なお、本実施の形態のシート搬送装置においては、レジストローラ4のシート搬送方向と同じ搬送方向となる下側ローラ3bの搬送力を上側ローラ3aの搬送力よりも小さいものとするが、上側ローラ3aの搬送力<下側ローラ3bの搬送力であってもよい。
【0070】
このように、上記実施の形態によれば、重送したシートを分離するために、回転軸の方向が互いに異なる搬送ローラ対の一方をシートを搬送方向に搬送するように配置し、他方をシートを搬送方向に対して斜行して搬送するように配置する。これにより、重送したシートの再分離を容易に行うことができ、シート搬送の効率を向上させることができる。また、装置を停止させる必要がないので、シート搬送の効率を向上させることができる。
【0071】
なお、上記実施の形態では、引き抜きローラ部3の位置から搬送方向に沿った下流側にはレジストローラ4が配置されていることから、図5のステップS808,S812において、レジストローラ4への到達有無を判定している。しかしながら、引き抜きローラ部の下流側に配置されるものはレジストローラに限定されるものではなく、他のローラであってかまわない。
【0072】
次に、本発明の第2の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0073】
図9は、本発明の第2の実施の形態に係るシート搬送装置を具備した画像読取装置におけるADF1100を上方から見た部分透視図である。
【0074】
図9に示すように、ADF1100は、1枚以上のシートからなるシート束Sを載置するシートトレイ1030を有する。このシートトレイ1030は、トレイの手前側(図中下側)が装置の前方に斜めにせり出した形態、つまりトレイの手前側のシートガイド部材1040が搬送方向(図中の左右方向)に対して角度を付けて設置されている。このような配置とすることにより、装置前方(図中の下側)に立ったユーザがシート束Sをシートトレイ1030上に載置する際に、手を伸ばしてシート束Sを載置させる動きをせずに済む。すなわち、人間工学的により自然な形でシート束が載置可能となる。
【0075】
一方、シートトレイ1030の奥側(図中上側)には、搬送方向と同一の方向に沿ってスペースが設けられている。これは、シートトレイ1030の手前側に載置されたシート束Sから搬送方向に対して斜めに引き込まれたシートが、搬送方向に沿って方向転換する際に、シートの後端が自由に動けるようにするためである。
【0076】
分離ローラ1002はその軸方向が、シートガイド部材1040がシート束側辺と接する部分の傾きに対して直交する方向となるよう、引き込み角度が設定されている。このADF1100の断面図は、第1の実施の形態で説明した図1とほぼ同じとなるため割愛する。ただし、図1におけるシートトレイ30の他に、給紙ローラ1、分離パッド21、分離ローラ2、分離センサ10が搬送方向に対するシートトレイ1030の角度に応じて斜めに配置されている。
【0077】
引き抜きローラ部1003の搬送ローラ対は、一方の上側ローラがシートの搬送方向にシートを搬送するように配置され、他方の下側ローラがシートトレイ上のシート束Sの引き込み方向と同じ方向に配置している。すなわち、下側ローラは、シートの搬送方向に対してシートを斜めに搬送するように配置されている。
【0078】
引き抜きローラ部1003の搬送ローラ対の搬送力については、シートを搬送方向に沿った方向に搬送する上側ローラの方が下側ローラよりも大きくなるように構成されている。
【0079】
なお、本実施の形態における画像読取装置の制御ブロック図とその説明については、第1の実施の形態におけるものと同じであるため割愛する。
【0080】
次に、引き抜きローラ部1003でのシートPの挙動について図10(a)〜(c)を参照して説明する。なお、同図には、図示されていないが、上述したように下側ローラがシートトレイ1030からのシートの引き込み方向となるように配置されている。シート幅検知部1011はシートガイド部1040に直交するように配置され、その構成は第1の実施の形態におけるシート幅検知部11の構成と同様である。
【0081】
図10(a)は、シートPが引き抜きローラ部1003に到達する以前の状態である。第1の実施の形態と同様に、この状態ではシートPが1枚であるか重送しているかは見かけ上わからない。また、この時点では引き抜きローラ部1003が離間状態になっている点も第1の実施の形態と同様である。
【0082】
図10(b)は、シートPが1枚だった場合である。引き抜きローラ部1003が接触状態に切り替えられるが、上側ローラの搬送力が大きいため、シートPはシート搬送方向に沿った向きに方向転換されることとなる。
【0083】
図10(c)は、シートPが重送だった場合である。同様にシートPの到達を待って、引き抜きローラ部1003が接触状態に切り替えられる。こちらの場合には、重送したシートの上側のシートについては、上側ローラからの力を受けて搬送方向に沿った向きの力を受ける。一方で下側のシートは、下側ローラからの力を受けて給紙方向の力を受けることにより、結果、重送したシートの上面と下面とでねじれが生じて重送したシートの分離が行われる。
【0084】
本実施の形態の引き抜きローラ部1003における制御についても、第1の実施の形態における制御手順と同じになるため割愛する。
【0085】
このように、シートトレイを手前側にせり出させてユーザがシートの載置をやりやすい形態としたシート搬送装置においても、引き抜きローラ部1003を互いに異なる搬送方向を持った1対のローラで構成する。これにより、シートの搬送方向を下流側の搬送ローラ(例えばレジストレーションローラ4)の搬送方向に沿った向きに切り替え、かつ給紙時に重送した場合でも確実に再分離させることが可能となる。
【0086】
上記第1及び第2の実施の形態では、シート搬送装置を備える画像読取装置について説明したが、これに限らず、上記構成に画像形成部(プリンタ部)を加えた画像形成装置であっても本発明の適用が可能である。
【符号の説明】
【0087】
3 引き抜きローラ部
3a 上側ローラ
3b 下側ローラ
4 レジストローラ
11 シート幅検知部
100 ADF
200 リーダ部
251 CPU
300 画像コントローラ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートトレイに載置されたシート束からシートを1枚ずつ分離して給紙する給紙手段と、
前記給紙手段から給紙されたシートを挟持して搬送し、回転軸の方向が互いに異なる搬送ローラ対を有する第1の搬送手段と、
前記第1の搬送手段により搬送されるシートをさらに搬送する第2の搬送手段と、を有し、
前記搬送ローラ対の一方は、前記給紙シートを前記第2の搬送手段のシートの搬送方向に搬送するように配置され、前記搬送ローラ対の他方は、前記給紙シートを前記第2の搬送手段のシートの搬送方向に対して斜めに搬送するように配置されていることを特徴とするシート搬送装置。
【請求項2】
前記第1の搬送手段により搬送されるシートが重送しているか否かを判定する重送判定手段と、
前記重送判定手段によりシートが重送していると判定された場合に、当該重送したシートを挟持している前記搬送ローラ対の一方の回転を停止あるいは減速させるよう制御する制御手段とを更に備えることを特徴とする請求項1記載のシート搬送装置。
【請求項3】
前記第1の搬送手段の近傍に配置され、前記第1の搬送手段による搬送方向に交差する方向におけるシートの幅を検知するシート幅検知手段を更に備え、
前記重送判定手段は、前記第1の搬送手段によってシートが搬送される間に、前記シート幅検知手段で検知されるシート幅の変化に基づいて、シートが重送しているか否かを判定することを特徴とする請求項2記載のシート搬送装置。
【請求項4】
前記シート幅検知手段は、前記第2の搬送手段のシートの搬送方向に交差する方向に配置された複数のセンサから構成されていることを特徴とする請求項3記載のシート搬送装置。
【請求項5】
前記搬送ローラ対をその一方と他方が接触させられる接触状態と離間させられる離間状態との間で切り替える切替手段を更に備えることを特徴とする請求項1記載のシート搬送装置。
【請求項6】
前記切替手段は、予め離間状態にしておいた前記搬送ローラ対をシートが到達することに同期して接触状態に切り替えることを特徴とする請求項5記載のシート搬送装置。
【請求項7】
前記搬送ローラ対の一方による搬送力と前記搬送ローラ対の他方による搬送力とを異なるように構成することを特徴とする請求項1記載のシート搬送装置。
【請求項8】
シートトレイへのシート束の載置をガイドするガイド部材を有し、シート束の側辺に接する前記ガイド部材の部分は、シートの搬送方向に対して角度を付けて設置されていることを特徴とする請求項7記載のシート搬送装置。
【請求項9】
前記搬送ローラ対の一方のシートの搬送方向は前記第2の搬送手段のシートの搬送方向と同じであり、前記搬送ローラ対の一方による搬送力は、前記搬送ローラ対の他方による搬送力よりも大きいことを特徴とする請求項8記載のシート搬送装置。
【請求項10】
シート束を載置するシートトレイと、
前記シートトレイに載置された前記シート束からシートを1枚ずつ分離して給紙する給紙手段と、
前記給紙手段から給紙されたシートを挟持して搬送し、回転軸の方向が互いに異なる搬送ローラ対を有する第1の搬送手段と、
前記第1の搬送手段により搬送されるシートをさらに搬送する第2の搬送手段と、
前記第2の搬送手段により搬送されたシートの画像を読み取る読取手段と、を有し、
前記搬送ローラ対の一方は、前記給紙シートを前記第2の搬送手段のシートの搬送方向に搬送するように配置され、前記搬送ローラ対の他方は、前記給紙シートを前記第2の搬送手段のシートの搬送方向に対して斜めに搬送するように配置されていることを特徴とする画像読取装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−214294(P2012−214294A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−64026(P2012−64026)
【出願日】平成24年3月21日(2012.3.21)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】