説明

量子効率測定方法、量子効率測定装置、および積分器

【課題】量子効率の測定時における再励起(二次励起)に起因する誤差を低減できる量子効率測定方法、量子効率測定装置、およびそれに向けられた積分器を提供する。
【解決手段】本実施の形態に従う量子効率測定方法においては、積分空間内に配置された試料SMPに励起光を照射して発生する光(蛍光)を測定することで量子効率を測定する。この際、試料SMPを透過後の励起光が積分空間内に反射するような状態で、試料SMPに吸収される励起光を測定し、試料SMPを透過後の励起光が積分空間内に反射しないような状態で、試料SMPから発生する光(蛍光)を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子効率を測定するための装置、方法およびそれに向けられた積分器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、蛍光ランプやディスプレイの開発が急速に進んでいる。このような開発に伴って、それらに用いられる蛍光体の性能をより正確に評価する指標として、量子効率が着目されている。一般的に、量子効率は、試料(典型的には、蛍光体)に吸収された光量子数に対して当該試料から発生した光量子数の割合を意味する。
【0003】
たとえば、非特許文献1には、このような量子効率を測定する典型的な構成が開示されている。このような構成に代えて、特開平09−292281号公報(特許文献1)、特開平10−142152号公報(特許文献2)、および特開平10−293063号公報(特許文献3)などには、量子効率を測定するための代替の構成が開示されている。
【0004】
上述したような量子効率を測定するための構成は、主として、固体試料、あるいは、固体状に成型された試料における量子効率の測定に向けられている。すなわち、励起光を試料に照射して、その試料から発光する蛍光を捕捉することで量子効率が測定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平09−292281号公報
【特許文献2】特開平10−142152号公報
【特許文献3】特開平10−293063号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】大久保・重田、「NBS標準蛍光体の量子効率の測定」、照明学会誌、社団法人照明学会、1999年、第83巻、第2号、p.87−93
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
たとえば、EL(Electro Luminescent)発光に用いられる蛍光体は、粉末状である場合も多く、このような場合には、試料を溶媒に溶かして溶液の状態で測定される。このような溶液の量子効率を測定する場合には、溶液試料を透光性の容器に封入した上で、当該容器内の溶液試料に励起光を照射することで蛍光を発生させる。
【0008】
しかしながら、このような測定系では、再励起(二次励起)による測定誤差が問題となり得る。すなわち、溶液試料を透過した後の励起光が積分球の内部などで反射して溶液試料に再入射することによって、本来より多くの蛍光が発光するような現象が生じ得る。
【0009】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、量子効率の測定時における再励起(二次励起)に起因する誤差を低減できる量子効率測定方法、量子効率測定装置、およびそれに向けられた積分器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のある局面に従う量子効率測定方法は、積分空間を有する積分器内の所定位置に試料を配置するステップと、積分器に設けられた第1の窓を通じて励起光を所定位置に配置された試料に照射するとともに、積分器の励起光の光軸とは交差しない位置に設けられた第2の窓を通じて積分空間内のスペクトルを第1のスペクトルとして測定するステップと、第1の窓と対向し、かつ、積分器内の励起光の光軸が交差する励起光入射部分を、試料を透過後の励起光が積分空間内に反射しないように構成するステップと、励起光が積分空間内に反射しないようにされた後、第1の窓を通じて励起光を所定位置に配置された試料に照射するとともに、第2の窓を通じて積分空間内のスペクトルを第2のスペクトルとして測定するステップと、第1のスペクトルのうち励起光の波長範囲に対応する成分と、第2のスペクトルのうち励起光を受けて試料が発する光の波長範囲に対応する成分とに基づいて、試料の量子効率を算出するステップとを含む。
【0011】
好ましくは、積分器の励起光入射部分には、励起光を通過させるための第3の窓が形成されており、構成するステップは、積分器の内面と実質的に同一の反射特性を有する栓部材で第3の窓が塞がれている状態から、当該栓部材を取除くステップを含む。
【0012】
好ましくは、本量子効率測定方法は、所定位置に標準体を配置するステップと、第1の窓を通じて励起光を所定位置に配置された標準体に照射するとともに、第2の窓を通じて積分空間内のスペクトルを第3のスペクトルとして測定するステップとをさらに含む。試料の量子効率を算出するステップは、第1のスペクトルのうち励起光に対応する成分と、第3のスペクトルのうち励起光の波長範囲に対応する成分との差分を試料に吸収された光成分として算出するステップを含む。
【0013】
この発明の別の局面に従う量子効率測定装置は、その内部に積分空間を有する積分器と、積分器に設けられた第1の窓を通じて励起光を積分空間内に照射するための光源と、積分器の励起光の光軸とは交差しない位置に設けられた第2の窓を通じて積分空間内のスペクトルを測定するための測定器と、積分器内の励起光の光軸上に試料または標準体を配置するための保持部と、第1の窓と対向し、かつ、積分器内の励起光の光軸が交差する励起光入射部分を、励起光を積分空間内に反射する状態と、励起光を積分空間内に反射しない状態とに切替るための切替機構と、保持部に試料が配置されており、かつ、励起光入射部分が励起光を反射する状態にされている場合に、測定器によって測定される第1のスペクトルと、保持部に試料が配置されており、かつ、励起光入射部分が励起光を反射しない状態にされている場合に、測定器によって測定される第2のスペクトルとに基づいて、試料の量子効率を算出するための演算部とを含む。
【0014】
好ましくは、切替機構は、積分器の励起光入射部分に設けられている励起光を通過させるための第3の窓と、第3の窓に装着される積分器の内面と実質的に同一の反射特性を有する栓部材とを含む。
【0015】
さらに好ましくは、切替機構は、積分器の外側から第3の窓に対応付けて装着される光吸収部をさらに含む。
【0016】
好ましくは、積分器は、内面に光拡散反射層を有する半球部と、半球部の開口を塞ぐように配置された平面ミラーとを含み、第1の窓は、平面ミラー上の半球部の実質的な曲率中心を含む位置、および、半球部の頂点を含む位置のいずれかに設けられる。
【0017】
好ましくは、積分器は、内面に光拡散反射層を有する球体であり、保持部は、球体の中心部に試料および標準体を配置できるように構成される。
【0018】
この発明のさらに別の局面に従えば、その内部に積分空間を有する積分器を提供する。本積分器は、第1の窓を通じて積分空間内に照射される励起光の光軸上に試料または標準体を配置するための保持部と、積分空間内のスペクトルを測定するために、励起光の光軸とは交差しない位置に設けられた第2の窓を通じて光を導くための光取出部と、第1の窓と対向し、かつ、積分器内の励起光の光軸が交差する励起光入射部分を、励起光を積分空間内に反射する状態と、励起光を積分空間内に反射しない状態とに切替るための切替機構とを含む。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、量子効率の測定時において、再励起(二次励起)に起因する誤差を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に関連する量子効率測定装置の全体構成を示す模式図である。
【図2】図1に示す量子効率測定装置において提供される仮想的な積分空間を示す図である。
【図3】量子効率の測定原理を説明するための図である。
【図4】本発明に関連する量子効率測定装置を用いて試料の量子効率を測定するための手順を説明するための図である。
【図5】図4に示す測定手順によって測定されるスペクトルの一例を示す図である。
【図6】本発明の第1の実施の形態に従う量子効率測定装置の全体構成を示す模式図である。
【図7】図6に示す栓部材のより詳細な構造の一例を示す図である。
【図8】本発明の第1の実施の形態に従う量子効率測定装置を用いて第1のスペクトルを測定する状態を示す図である。
【図9】本発明の第1の実施の形態に従う量子効率測定装置を用いて第2のスペクトルを測定する状態を示す図である。
【図10】本発明の第1の実施の形態に従う量子効率測定装置を用いて第3のスペクトルを測定する状態を示す図である。
【図11】本発明の第1の実施の形態に従う量子効率測定装置を用いて量子効率を測定するため手順を示すフローチャートである。
【図12】本発明の第1の実施の形態の変形例に従う量子効率測定装置を用いて試料SMPの量子効率を測定するための手順を説明するための図である。
【図13】本発明の第2の実施の形態に従う量子効率測定装置の全体構成を示す模式図である。
【図14】本発明の第3の実施の形態に従う量子効率測定装置の全体構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中の同一または相当部分については、同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0022】
[A.概要]
本実施の形態に従う量子効率測定方法においては、積分空間内に配置された試料に励起光を照射して発生する光(蛍光)を測定することで量子効率を測定する。この際、試料を透過後の励起光が積分空間内に反射するような状態で、試料に吸収される励起光を測定し、試料を透過後の励起光が積分空間内に反射しないような状態で、試料から発生する光(蛍光)を測定する。
【0023】
このように2段階の計測処理を行なうことで、再励起(二次励起)による測定誤差を低減する。
【0024】
[B.関連技術]
まず、本発明に関連する量子効率測定装置について説明する。
(b1.装置構成)
図1は、本発明に関連する量子効率測定装置400の全体構成を示す模式図である。図1には、半球型の積分器40を用いて、サンプル(試料)SMPの量子効率を測定する量子効率測定装置400を示す。
【0025】
積分器40は、半球部1と、半球部1の実質的な曲率中心Oを通り、かつ半球部1の開口部を塞ぐように配置された円板状の平面ミラー10とからなる。積分器40は、その内部に積分空間を形成する。半球部1の曲率中心Oとは、代表的に半球部1の内面側についての幾何学的な中心を意味する。
【0026】
半球部1は、その内面(内壁)に光拡散反射層1aを有する。この光拡散反射層1aは、代表的に、硫酸バリウムやPTFE(polytetrafluoroethylene)などの光拡散材料を塗布または吹付けることによって形成される。平面ミラー10は、半球部1の内面側に鏡面反射(正反射)する反射層10aを有する。平面ミラー10の反射層10aが半球部1の内面に対向配置されることで、半球部1についての虚像が生成される。上述したように、平面ミラー10は半球部1の曲率中心Oを通るように配置されるので、平面ミラー10により生成される虚像は、一定の曲率をもつ半球状になる。半球部1の内面で定義される空間(実像)と、平面ミラー10により生成される虚像とを組合せると、全球型の積分器を用いた場合と実質的に同じ照度分布を得ることができる。
【0027】
すなわち、積分器40においては、半球部1の内面で定義される空間(実像)と、平面ミラー10により生成される虚像とを組合せた空間が実質的な積分空間となる。
【0028】
積分器40には、平面ミラー10の中心部に試料窓16が形成されている。量子効率測定装置400は、この積分器40に設けられた試料窓16を通じて励起光を積分空間内に照射するための光源装置60を含む。
【0029】
光源装置60は、励起光を発生させるための光源を含む。この光源としては、たとえば、キセノン放電ランプ(Xeランプ)や白色LED(Light Emitting Diode)などが用いられる。試料SMPの量子効率を測定する場合には、励起光として、対象の試料SMPに応じた特定の単一波長を有する単色光(たとえば、200〜400nm内の単一波長を有する紫外単色光)を用いるのが好ましい。そのため、光源装置60は、光源が発生する光のうち、目的の単色光を選択するための波長帯域透過フィルタを含む。
【0030】
光源装置60が発生する励起光は、光ファイバ62によって、試料窓16に対応付けて配置された照射部64へ導かれる。そして、励起光は、照射部64から積分空間内に照射されて、光軸Ax1に沿って伝搬する。
【0031】
積分器40内の励起光の光軸上に試料SMPまたは標準体REFを配置するための保持部22が配置される。この保持部22は、その中心に空洞が形成された筒状の筐体であり、その中心部に透光性の容器(セル)を配置することが可能である。このセルは、透光性の材質からなり、その内部に、溶液状の試料SMPまたは標準体REFが封入される。
【0032】
照射部64から照射された励起光は、保持部22に保持されたセルを透過して、半球部1の頂点に向かう。励起光の照射によって試料SMPの蛍光体が励起され、蛍光体から蛍光が発生する。この発生した蛍光の強度は、後述するような方法によって測定される。
【0033】
標準体REFは、典型的には、溶液状の試料SMPを調製するために用いられる溶媒が用いられる。すなわち、標準体REFが封入されたセルは、溶液状の試料SMPが封入されたセルから蛍光体を除いて、代わりに溶媒を加えたものに相当する。
【0034】
積分器40には、平面ミラー10の中心部に観測窓18がさらに形成されている。観測窓18は、積分器40内の励起光の光軸Ax1とは交差しない位置に設けられる。量子効率測定装置400は、この積分器40に設けられた観測窓18を通じて積分空間内の照度(スペクトル)を測定するための測定器70をさらに含む。この観測窓18を通じて測定される照度は、半球部1の内面で定義される空間(実像)と、平面ミラー10により生成される虚像とからなる全球型の積分器を用いた場合に、その内壁面に現れる照度に相当する。
【0035】
たとえば、図2に示すように、積分器40内に試料SMPまたは標準体REFを配置すると、試料SMPまたは標準体REFについて、実像および虚像が現れる。たとえば、励起光を受けて試料SMPが発光すると、図2に示す積分空間内においては、2つの試料SMPがそれぞれ発光した場合と同様の照度分布を得ることができる。
【0036】
平面ミラー10の外側には、観測窓18を通じて積分空間内の光の一部を測定器70へ導くための光取出部26が設けられる。光取出部26は、観測窓18を覆う筐体26aを含む。筐体26a内には、測定器70へ光を導くための光ファイバ26dおよび光ファイバ26dに接続されたファイバ端部26bが設けられている。筐体26a内には、観測窓18を通じて入射する光の伝搬方向を約90°変換した上で、ファイバ端部26bに導くための反射部26cが設けられている。
【0037】
測定器70は、光ファイバ26dによって導入された光のスペクトルを測定する。典型的に、測定器70は、回折格子および回折格子の回折方向に関連付けられたラインセンサ等を含んで構成され、入力された光の波長毎の強度を検出する。蛍光体の量子効率を測定する場合には、試料SMPへ照射する励起光の波長範囲と、試料SMPから発生する蛍光の波長範囲とは異なったものとなっているので、測定器70の測定範囲は、光源装置60から照射される励起光の波長範囲および励起光を受けて試料SMPで発生する蛍光の波長範囲の両方をカバーするように適合される。
【0038】
量子効率測定装置400は、測定器70と接続され、測定器70の検出結果を用いて、試料SMPの量子効率を算出するための演算部80を含む。演算部80は、典型的には、汎用的なアーキテクチャを有しているコンピュータであり、予めインストールされたプログラム(命令コード)を実行することで、後述するような量子効率の算出機能を提供する。このような機能を提供するプログラムは、CD−ROM(Compact Disc Read Only Memory)などの記録媒体に格納されて頒布され、あるいは、ネットワークを介して配信される。このような量子効率を算出するプログラムは、他のプログラムの一部に組込まれて提供されるものであってもよい。この場合には、他のプログラムが提供するモジュールを利用して処理が実現されることも可能であるため、量子効率を算出するプログラム自体に当該他のプログラムが提供するモジュールが含まれない場合もある。
【0039】
さらに、プログラムにより提供される機能の一部もしくは全部を専用のハードウェア回路として実装してもよい。たとえば、演算部80が提供する機能の全部を測定器70に組込んでもよい。
【0040】
積分器40には、平面ミラー10の中心から離れた位置に観測窓14が形成されている。観測窓14は、主として、積分器40内の状態を観測するための窓であり、通常の測定時には、積分空間内に外乱光が入射しないように、栓部材28で塞がれる。
【0041】
量子効率測定装置400においては、積分器40が暗箱8内に収納されることが好ましい。測定精度を高めるためには、積分器40の積分空間への外乱光の入射を制限することが好ましいからである。
(b2.測定原理)
次に、図1に示す量子効率測定装置400を用いて、試料SMPの量子効率(内部量子収率)η内部を測定する原理および手順について説明する。
【0042】
図1に示す量子効率測定装置400を用いた量子効率測定においては、光源装置60からの励起光を標準体(溶媒のみ)に照射した場合に測定されるスペクトル(励起光スペクトル)を基準にして、光源装置60からの励起光を試料(試料+溶媒)に照射した場合に測定されるスペクトル(試料スペクトル)が評価される。
【0043】
図3は、量子効率の測定原理を説明するための図である。特に、図3(a)には、レフェレンス(溶媒)測定の状態を示し、図3(b)には、試料(溶液)測定の状態を示す。本実施の形態に従う量子効率測定では、図3(a)に示すように、光源装置60からの励起光(光源光スペクトルE(λ))を標準体REF(溶媒のみ)に照射した場合に測定されるスペクトルを励起光スペクトルE(λ)として取得する。この励起光スペクトルE(λ)は、図3(b)に示す試料測定時に試料SMPに吸収される光エネルギー(励起エネルギー)を算出するための基準値となる。すなわち、励起光スペクトルE(λ)は、光源装置60から照射される光エネルギーのうち、溶媒および容器(セル)での吸収分を除いた光エネルギーに相当する。
【0044】
また、図3(b)に示すように、光源装置60からの励起光(光源光スペクトルE(λ))を試料SMPに照射した場合に測定される透過光のスペクトルを透過光スペクトルR(λ)として取得する。このとき、励起光によって試料SMP中の蛍光物質が励起されて蛍光(蛍光スペクトルP(λ))が発生する。そのため、励起光が標準体REF(溶媒のみ)を透過した場合に測定される励起光スペクトルE(λ)と、励起光が試料SMPを透過した場合に測定される透過光スペクトルR(λ)との差が、蛍光発生に使用された光エネルギー(吸収エネルギーAb)に相当する。
【0045】
発生した蛍光の蛍光スペクトルP(λ)から蛍光の有する光エネルギーを測定することができるので、この蛍光の有する光エネルギーと蛍光発生に使用された光エネルギーとの比率が量子効率(内部量子収率)η内部となる。また、励起光スペクトルE(λ)に対する透過光スペクトルR(λ)の比率が試料SMPについての励起光の透過率となる。
【0046】
たとえば、光源装置60が発生する励起光の波長範囲をλ〜λとし、試料SMPが発生する蛍光の波長範囲をλ〜λとすると、量子効率(内部量子収率)η内部は、以下に示すような(1)式で表わすことができる。
【0047】
【数1】

【0048】
なお、(1)式の分母および分子において、スペクトルに波長λが乗じられているのは、スペクトル(光強度)を光量子数に変換するためである。
【0049】
図4は、本発明に関連する量子効率測定装置400を用いて試料SMPの量子効率を測定するための手順を説明するための図である。特に、図4(a)には、レフェレンス(溶媒)測定の状態を示し、図4(b)には、試料(溶液)測定の状態を示す。図5は、図4に示す測定手順によって測定されるスペクトルの一例を示す図である。
【0050】
図4(a)に示すように、保持部22に標準体REFが配置された上で、光源装置60(図1)から励起光を照射することで、積分空間内のスペクトル(透過光スペクトルE(λ))が測定される。
【0051】
また、図4(b)に示すように、保持部22に試料SMPが配置された上で、光源装置60(図1)から励起光を照射することで、積分空間内のスペクトル(透過光スペクトルR(λ)および蛍光スペクトルP(λ))が測定される。なお、本発明に関連する量子効率測定装置400では、励起光および蛍光の波長範囲の両方をカバーする検出範囲を有する測定器70を用いるので、図4(b)に示す状態においては、透過光スペクトルR(λ)および蛍光スペクトルP(λ)を同時に測定することができる。なお、蛍光体の量子効率を測定する場合には、励起光としては紫外線が用いられ、発生する蛍光は可視光線であるので、両者を波長軸上で分離することは容易である。
【0052】
すなわち、図4(a)および図4(b)に示すそれぞれの測定を行なうことで、理想的には、図5に示すようなスペクトルが測定される。なお、図4(a)および図4(b)に示す測定はいずれの順序で実行してもよい。
(b3.再励起)
次に、上述のような量子効率の測定方法において生じる再励起について説明する。
【0053】
再度、図4(b)を参照して、試料SMPに励起光を照射した場合には、光源装置60からの励起光が試料SMPに直接的に入射することで発生する蛍光(一次励起光L1により発生する蛍光)と、試料SMPを透過した励起光が半球部1の内壁面などで反射して試料SMPに再入射することで発生する蛍光(二次励起光L2により発生する蛍光)との両方が生じ得る。このような二次励起光L2による蛍光の発生は「再励起現象」または「二次励起現象」とも称される。
【0054】
その結果、積分器40内部の積分空間には、これらの蛍光を合計した照度が現れる。すなわち、図5に示すように、量子効率を算出するためには、一次励起光L1によって発生する蛍光の蛍光スペクトルP(λ)を測定すべきであるが、現実的には、二次励起光L2によって発生する蛍光の分だけ大きな蛍光スペクトルP’(λ)が測定されてしまう。その結果、本来算出すべき値より大きな値の量子効率が算出されてしまう。
【0055】
以下に示す本発明の実施の形態に従う量子効率測定装置においては、このような再励起(二次励起)による測定誤差を低減することを1つの目的としている。
【0056】
[C.第1の実施の形態]
(c1.装置構成)
図6は、本発明の第1の実施の形態に従う量子効率測定装置100の全体構成を示す模式図である。図6に示す量子効率測定装置100は、試料SMPの量子効率を測定するための積分空間を半球型の積分器50Aを用いて形成する。
【0057】
積分器50Aには、半球部1の頂点部に励起光通過窓12が形成されている。励起光通過窓12は、試料窓16と対向し、かつ、積分器50A内の励起光の光軸Ax1が交差する励起光が入射部分する部分に位置する。すなわち、励起光通過窓12が開放状態であれば、光源装置60から照射された励起光のうち、試料SMPを透過した後の成分(二次励起光)は、積分器50Aの外部へ排出されることになる。
【0058】
励起光通過窓12には、半球部1の内面にある光拡散反射層1aと実質的に同一の反射特性を有する栓部材30が装着される。励起光通過窓12に栓部材30が装着されて、励起光通過窓12が閉塞状態であれば、光源装置60から照射された励起光のうち、試料SMPを透過した後の成分(二次励起光)は、積分器50Aの内部へ拡散反射されることになる。
【0059】
すなわち、励起光通過窓12と栓部材30とは、励起光(二次励起光)を積分空間内に反射する状態と、励起光(二次励起光)を積分空間内に反射しない状態とに切替るための切替機構として機能する。
【0060】
図7は、図6に示す栓部材30のより詳細な構造の一例を示す図である。
図7(a)に示す栓部材30は、基材32と励起光通過窓12とほぼ同じ半径を有する反射部31とからなる。反射部31の積分空間側の表面には、半球部1の光拡散反射層1aと同様の拡散材料(たとえば、PTFE焼結体や硫酸バリウムなど)からなる反射層が形成されている。そのため、励起光通過窓12に栓部材30が装着されると、積分器50Aが提供する積分空間は、図1に示す量子効率測定装置400の積分器40が提供する積分空間と実質的に同一となる。
【0061】
励起光通過窓12に栓部材30を装着する方法の一例として、図7(a)には、励起光通過窓12の周囲に設けられた磁石34を用いる構成を示す。すなわち、栓部材30の基材32が金属からなり、この基材32と磁石34との間の磁力によって、栓部材30を半球部1に接合する。
【0062】
代替の構成として、半球部1と栓部材30との間を螺子止めすることで、励起光通過窓12を閉塞してもよい。具体的には、図7(b)に示すように、栓部材30の反射部31の外周部分に螺子溝36を形成するとともに、励起光通過窓12の内周側に螺子溝36と螺合するための螺子溝38を形成する。これにより、励起光通過窓12に栓部材30を装着することができる。
【0063】
積分器50Aにおける積分効率を高める観点からは、励起光通過窓12の開口面積は可能な限り小さいことが好ましい。一例として、IES(Illuminating Engineering Society of North America)のLM−79−08として規定される“Electrical and Photometric Measurements of Solid-State Lighting Products(ソリッドステートの照明製品の電気および光度の測定)”の基準によれば、積分器内部の反射層の面積は、90%〜98%が推奨されている。たとえば、積分器内部の反射層の面積を98%に維持するためには、半球部1の曲率半径をRとし、励起光通過窓12の半径をrとすると、(2)式のような関係式を満たす必要がある。なお、半球型の積分器40においては、励起光通過窓12の虚像も現れるため、(2)式においては、励起光通過窓12の開口面積を2倍としている。
【0064】
2×πr/4πR≦0.02 …(2)
r/R≦0.2
すなわち、励起光通過窓12の半径rは、半球部1の曲率半径Rの20%以下にすることが好ましい。
【0065】
たとえば、照射部64から射出される励起光が7mm×7mmの角型の断面を有するとした場合を考える。このとき、半球部1の曲率半径を約7cm(直径φ5.5インチ)とすると、励起光通過窓12の半径rは、14mm(直径φ28mm)となる。すなわち、励起光通過窓12の最大許容サイズは、7mm×7mmの断面を有する励起光より十分に大きい。さらに、半球部1の曲率半径を約4.2cm(直径φ3.3インチ)とすると、励起光通過窓12の半径rは、8.4mm(直径φ28mm)となる。この場合であっても、励起光通過窓12の最大許容サイズは励起光の断面積より十分に大きい。
【0066】
したがって、上述のような励起光通過窓12を設けたとしても、実用上、測定精度への影響は無視することができる。
【0067】
なお、照射部64に励起光を平行光に変換するための光学系を設けてもよい。このような光学系を採用することで、試料SMPおよび標準体REFを透過する励起光のビーム径が拡大することを防止できる。
【0068】
図6に示す本発明の第1の実施の形態に従う量子効率測定装置100は、半球部1の頂点部に励起光通過窓12が形成されている点を除いて、図1に示す本発明に関連する量子効率測定装置400と同様であるので、その他の部位についての詳細な説明は繰返さない。
(c2.測定原理)
次に、図6に示す量子効率測定装置100を用いて、試料SMPの量子効率(内部量子収率)η内部を測定する原理および手順について説明する。
【0069】
図6に示す量子効率測定装置100を用いた量子効率測定においては、以下の3つの状態においてそれぞれ測定される第1〜第3のスペクトルが用いられる。
【0070】
(1) 第1のスペクトルE(1)(λ):保持部22に試料SMPが配置されており、かつ、励起光通過窓12が二次励起光を反射する状態にされている場合(栓部材30が装着されている状態)
(2) 第2のスペクトルE(2)(λ):保持部22に試料SMPが配置されており、かつ、励起光通過窓12が二次励起光を反射しない状態にされている場合(栓部材30が取り外されている状態)
(3) 第3のスペクトルE(3)(λ):保持部22に標準体REFが配置されており、かつ、励起光通過窓12が二次励起光を反射する状態にされている場合(栓部材30が装着されている状態)
上述のように測定される第1〜第3のスペクトルE(1)(λ)〜E(3)(λ)を用いて、透過光スペクトルR(λ)、蛍光スペクトルP(λ)、励起光スペクトルE(λ)がそれぞれ算出される。
【0071】
図8は、本発明の第1の実施の形態に従う量子効率測定装置100を用いて第1のスペクトルE(1)(λ)を測定する状態を示す図である。図9は、本発明の第1の実施の形態に従う量子効率測定装置100を用いて第2のスペクトルE(2)(λ)を測定する状態を示す図である。図10は、本発明の第1の実施の形態に従う量子効率測定装置100を用いて第3のスペクトルE(3)(λ)を測定する状態を示す図である。
【0072】
図8に示すように、第1のスペクトルE(1)(λ)は、保持部22に試料SMPが配置されており、かつ、励起光通過窓12に栓部材30が装着されて二次励起光を反射する状態で測定される。この測定された第1のスペクトルE(1)(λ)のうち、励起光の波長範囲(λ〜λ)の部分が図5に示す透過光スペクトルR(λ)として算出される。
【0073】
図9に示すように、第2のスペクトルE(2)(λ)は、保持部22に試料SMPが配置されており、かつ、励起光通過窓12から栓部材30が取り外されて二次励起光を反射しない状態で測定される。この測定された第2のスペクトルE(2)(λ)のうち、蛍光の波長範囲(λ〜λ)の部分が図5に示す蛍光スペクトルP(λ)として算出される。
【0074】
図10に示すように、第3のスペクトルE(3)(λ)は、保持部22に標準体REFが配置されており、かつ、励起光通過窓12に栓部材30が装着されて二次励起光を反射する状態で測定される。この測定された第3のスペクトルE(3)(λ)のうち、励起光の波長範囲(λ〜λ)の部分が図5に示す励起光スペクトルE(λ)として算出される。
【0075】
そして、演算部80は、上述のような手順で算出される透過光スペクトルR(λ)、蛍光スペクトルP(λ)、および励起光スペクトルE(λ)を用いて、試料SMPの量子効率(内部量子収率)η内部を算出する。
【0076】
すなわち、本発明の第1の実施の形態においては、図8に示すように、上述した本発明に関連する量子効率測定装置400(図4(b))と同様の方法で、透過光スペクトルR(λ)が測定される一方で、図9に示すように、試料SMPに再励起(二次励起)が生じないような状態で蛍光スペクトルP(λ)が測定される。このような2段階でスペクトルを測定することで、再励起(二次励起)に起因する誤差を低減できる。
【0077】
なお、図9および図10に示すように、励起光が積分器内で繰返し反射している状態においてスペクトルを測定するためには、予め、エネルギー校正をしておくことが好ましい。このエネルギー校正では、分光エネルギーが既知の光を積分器に照射し、そのときに測定されるスペクトルを基準として、測定されたスペクトルを補正する。これにより、試料SMPに吸収される光エネルギー(励起エネルギー)を正確に測定できる。
(c3.測定手順)
図11は、本発明の第1の実施の形態に従う量子効率測定装置100を用いて量子効率を測定するため手順を示すフローチャートである。
【0078】
図11を参照して、ユーザは、量子効率測定装置100を用意するとともに、測定対象の試料SMPおよび標準体REFが封入されたセルを用意する(ステップS2)。そして、上述した第1〜第3のスペクトルE(1)(λ)〜E(3)(λ)を測定する。なお、各スペクトルの測定順序は特に制限されることなく、最終的に、量子効率を算出する際に3つのスペクトルが測定されていればよい。図11に示す例では、第1のスペクトル、第2のスペクトル、および、第3のスペクトルの順で測定する例を示す。
【0079】
ステップS10において、ユーザは、積分器40の保持部22に試料SMPを配置する。すなわち、ユーザは、積分器40の積分空間内の所定位置に試料SMPを配置する。このとき、積分器40の観測窓14は、栓部材28で塞がれているものとする。
【0080】
続くステップS12において、ユーザは、試料SMPについてのスペクトルを測定する。すなわち、積分器40の試料窓16を通じて光源装置60からの励起光を試料SMPへ照射するとともに、積分器40の観測窓18を通じて積分空間内のスペクトルを測定器70にて測定する。この測定器70により測定されたスペクトルが第1のスペクトルE(1)(λ)となる。
【0081】
続くステップS14において、演算部80が測定器70により測定された第1のスペクトルE(1)(λ)のデータを格納する。
【0082】
ステップS20において、ユーザは、積分器40の保持部22に配置された試料SMPを維持したままで、積分器40内の励起光の光軸Ax1が交差する励起光入射部分(励起光通過窓12)を、試料SMPを透過後の励起光(二次)が積分空間内に反射しないように構成する。すなわち、ユーザは、二次励起光を通過させるための励起光通過窓12が栓部材30で塞がれている状態から、栓部材30を取除いた状態に変更する。
【0083】
続くステップS22において、ユーザは、試料SMPについてのスペクトルを測定する。すなわち、積分器40の試料窓16を通じて光源装置60からの励起光を試料SMPへ照射するとともに、積分器40の観測窓18を通じて積分空間内のスペクトルを測定器70にて測定する。この測定器70により測定されたスペクトルが第2のスペクトルE(2)(λ)となる。
【0084】
続くステップS24において、演算部80が測定器70により測定された第2のスペクトルE(2)(λ)のデータを格納する。
【0085】
ステップS30において、ユーザは、積分器40の保持部22に標準体REFを配置する。すなわち、ユーザは、積分器40の積分空間内の所定位置に標準体REFを配置する。
【0086】
続くステップS32において、ユーザは、積分器40内の励起光の光軸Ax1が交差する励起光入射部分(励起光通過窓12)を、標準体REFを透過後の励起光が積分空間内に反射するように構成する。すなわち、ユーザは、二次励起光を通過させるための励起光通過窓12が開放されている状態から、栓部材30で塞がれている状態に変更する。
【0087】
続くステップS34において、ユーザは、標準体REFについてのスペクトルを測定する。すなわち、積分器40の試料窓16を通じて光源装置60からの励起光を標準体REFへ照射するとともに、積分器40の観測窓18を通じて積分空間内のスペクトルを測定器70にて測定する。この測定器70により測定されたスペクトルが第3のスペクトルE(3)(λ)となる。
【0088】
続くステップS36において、演算部80が測定器70により測定された第2のスペクトルE(2)(λ)のデータを格納する。
【0089】
以上の処理によって、第1〜第3のスペクトルE(1)(λ)〜E(3)(λ)が測定されると、演算部80による量子効率の算出処理が実行される。
【0090】
ステップS40において、演算部80は、第1のスペクトルE(1)(λ)のうち励起光の波長範囲に対応する成分を透過光スペクトルR(λ)として算出する。続くステップS42において、演算部80は、第2のスペクトルE(2)(λ)のうち蛍光の波長範囲に対応する成分を蛍光スペクトルP(λ)として算出する。続くステップS44において、演算部80は、第3のスペクトルE(3)(λ)のうち励起光の波長範囲に対応する成分を励起光スペクトルE(λ)として算出する。
【0091】
ステップS46において、演算部80は、ステップS40〜S44において算出された、透過光スペクトルR(λ)、蛍光スペクトルP(λ)、および励起光スペクトルE(λ)を用いて、上述の(1)式に従って、試料SMPの量子効率(内部量子収率)η内部を算出する。このとき、演算部80は、第1のスペクトルE(1)(λ)のうち励起光に対応する透過光スペクトルR(λ)と、第3のスペクトルE(3)(λ)のうち励起光に対応する励起光スペクトルE(λ)との差分を試料SMPに吸収された光成分として算出する。
【0092】
ステップS48において、演算部80は、算出した量子効率(内部量子収率)η内部の値を出力する。なお、出力形態としては、演算部80に接続されたディスプレイなどにその値を表示する形態、演算部80に接続された上位コンピュータなどにその値を伝送する形態、演算部80に接続されたプリンタなどからその値をプリントする形態などが考えられる。
【0093】
上述したように、第1〜第3のスペクトルE(1)(λ)〜E(3)(λ)の測定は任意に順序で行なうことができる。すなわち、図11に示すステップS10〜S14、ステップS20〜S24、およびステップS30〜S36の処理単位で順序を入れ替えることが可能である。さらに、複数の試料SMPを連続的に測定する場合には、ステップS30〜S36に示す励起光スペクトルE(λ)の算出処理を1回だけ実行しておき、複数の試料SMPについて、この算出された励起光スペクトルE(λ)を共通的に利用してもよい。
(c4.変形例)
上述の第1の実施の形態においては、第2のスペクトルE(2)(λ)の測定時に、栓部材30を取除く場合について例示したが、積分空間に外乱光が入射しないように、励起光を吸収するような部材を装着してもよい。
【0094】
図12は、本発明の第1の実施の形態の変形例に従う量子効率測定装置を用いて試料SMPの量子効率を測定するための手順を説明するための図である。特に、図12(a)には、第1のスペクトルE(1)(λ)および第3のスペクトルE(3)(λ)の測定状態を示し、図12(b)には、第2のスペクトルE(2)(λ)の測定状態を示す。
【0095】
すなわち、図12(a)に示す第1のスペクトルE(1)(λ)および第3のスペクトルE(3)(λ)の測定状態は、上述の図8および図10と同様であるが、図12(b)に示す第2のスペクトルE(2)(λ)の測定状態においては、積分器50Aの外側から励起光通過窓12に対応付けて光吸収部90が装着される。
【0096】
光吸収部90は、典型的には、ライトトラップと称される光学部品であり、励起光通過窓12を通過した二次励起光が積分空間内に反射しないように二次励起光を吸収する。同時に、光吸収部90は、励起光通過窓12を通じて積分空間内に外乱光が入射することを防止する機能も果たす。
【0097】
あるいは、励起光の波長範囲の光を選択的に吸収するような光デバイスを励起光通過窓12に装着してもよい。この場合には、二次励起光のみが吸収され、試料SMPから発生する蛍光は、励起光通過窓12の部分で反射することになる。
【0098】
[D.第2の実施の形態]
図13は、本発明の第2の実施の形態に従う量子効率測定装置200の全体構成を示す模式図である。図13に示す量子効率測定装置200は、図6に示す量子効率測定装置100の積分器50Aにおいて、励起光通過窓12と試料窓16との間の位置関係を入れ換えたものに相当する。
【0099】
すなわち、積分器50Bにおいては、平面ミラー10の中心部に二次励起光を通過させるための励起光通過窓13が形成されており、半球部1の頂点部に励起光を積分空間内に照射するための試料窓17が形成されている。励起光通過窓13は、試料窓17と対向し、かつ、積分器50B内の励起光の光軸Ax2が交差する励起光が入射部分する部分に位置する。励起光通過窓13が開放状態であれば、光源装置60から照射された励起光のうち、試料SMPを透過した後の成分(二次励起光)は、光軸Ax2を伝搬した後に積分器50Bの外部へ排出されることになる。
【0100】
図13に示す本発明の第2の実施の形態に従う量子効率測定装置200は、上述の点を除いて、図6に示す本発明に関連する量子効率測定装置100と同様であるので、その他の部位についての詳細な説明は繰返さない。また、量子効率の測定手順などについても、上述の第1の実施の形態と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
【0101】
[E.第3の実施の形態]
上述の第1および第2の実施の形態においては、半球型の積分器を用いる構成について例示したが、全球型の積分器を用いても同様に測定が可能である。
【0102】
図14は、本発明の第3の実施の形態に従う量子効率測定装置300の全体構成を示す模式図である。図14に示す量子効率測定装置300は、試料SMPの量子効率を測定するための積分空間を全球型の積分器50Cを用いて形成する。
【0103】
積分器50Cは、その内面(内壁)に光拡散反射層2aを有する全球部2を含む。この光拡散反射層2aは、代表的に、硫酸バリウムやPTFEなどの光拡散材料を塗布または吹付けることによって形成される。
【0104】
積分器50Cにおいては、その内面側についての実質的な曲率中心Oを通る光軸Ax3上に、光源装置60からの励起光を積分空間内に照射するための照射窓56と、試料SMPを透過した後の二次励起光を積分器50Cの外部へ排出させるための励起光通過窓58とが対向して形成されている。励起光通過窓58には、全球部2の内面にある光拡散反射層2aと実質的に同一の反射特性を有する栓部材30が装着される。励起光通過窓58に栓部材30が装着されて、励起光通過窓58が閉塞状態であれば、光源装置60から照射された励起光のうち、試料SMPを透過した後の成分(二次励起光)は、積分器50Cの内部へ拡散反射されることになる。
【0105】
すなわち、励起光通過窓58と栓部材30とは、励起光(二次励起光)を積分空間内に反射する状態と、励起光(二次励起光)を積分空間内に反射しない状態とに切替るための切替機構として機能する。
【0106】
積分器50Cの内部には、積分器内の励起光の光軸Ax3上に試料SMPまたは標準体REFを配置するための保持部51が設けられており、溶液状の試料SMPまたは標準体REFを封入したセル52が保持部51によって積分空間内に吊下げられる。すなわち、保持部51は、球体である積分器50Cの中心部に試料SMPおよび標準体REFを配置できるように構成される。
【0107】
積分器50Cには、励起光の光軸Ax3とは交差しない位置に観測窓54が形成されている。この観測窓54を通じて積分空間内の照度(スペクトル)が測定される。すなわち、試料SMPに対して励起光を照射することで発生する蛍光は、積分器50Cの内面で多重反射され積分(均一化)される。この光の一部は、観測窓54を通じて、光取出部26から測定器70へ導かれる。なお、試料SMPで生じた蛍光が直接的に観測窓54に入射しないように、保持部51と観測窓54との間にバッフル53が設けられる。
【0108】
上述の量子効率測定装置100および200と同様に、量子効率測定装置300を用いた量子効率測定においても、以下の3つの状態においてそれぞれ測定される第1〜第3のスペクトルが用いられる。
【0109】
(1) 第1のスペクトルE(1)(λ):保持部51に試料SMPが封入されたセル52が配置されており、かつ、励起光通過窓58が二次励起光を反射する状態にされている場合(栓部材30が装着されている状態)
(2) 第2のスペクトルE(2)(λ):保持部51に試料SMPが封入されたセル52が配置されており、かつ、励起光通過窓58が二次励起光を反射しない状態にされている場合(栓部材30が取り外されている状態)
(3) 第3のスペクトルE(3)(λ):保持部51に標準体REFが封入されたセル52が配置されており、かつ、励起光通過窓58が二次励起光を反射する状態にされている場合(栓部材30が装着されている状態)
上述のように測定された第1〜第3のスペクトルE(1)(λ)〜E(3)(λ)を用いて、透過光スペクトルR(λ)、蛍光スペクトルP(λ)、励起光スペクトルE(λ)がそれぞれ算出される。そして、これらの算出されたスペクトルを用いて、試料SMPの量子効率が算出される。
【0110】
具体的な量子効率の測定手順については、上述の第1の実施の形態と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
【0111】
[F.作用効果]
本実施の形態に従う量子効率測定方法においては、試料SMPを透過後の二次励起光が積分空間内に反射するような状態で、試料SMPに吸収される励起光(透過光スペクトル)を測定するとともに、試料SMPを透過後の二次励起光が積分空間内に反射しないような状態で、試料SMPから発生する蛍光スペクトルを測定する。このように測定された蛍光スペクトルは、再励起(二次励起)の影響を受けない。したがって、測定される量子効率への再励起(二次励起)に起因する誤差を低減できる。
【0112】
また、本実施の形態に従う量子効率測定装置においては、積分器に設けられた励起光通過窓に栓部材を装着し、あるいは、取り外すだけで、試料SMPを透過後の二次励起光が積分空間内に反射するような状態と、試料SMPを透過後の二次励起光が積分空間内に反射しないような状態とを簡単に切替ることができる。これにより、試料SMPの量子効率の測定に要する時間を短縮することができる。
【0113】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0114】
1 半球部、1a,2a 光拡散反射層、2 全球部、8 暗箱、10 平面ミラー、10a 反射層、12,13,58 励起光通過窓、14,18,54 観測窓、16,17 試料窓、22,51 保持部、26 光取出部、26a 筐体、26b ファイバ端部、26c,31 反射部、26d,62 光ファイバ、28,30 栓部材、32 基材、34 磁石、36,38 螺子溝、40,50A,50B,50C 積分器、52 セル、53 バッフル、56 照射窓、60 光源装置、64 照射部、70 測定器、80 演算部、90 光吸収部、100,200,300,400 量子効率測定装置、REF 標準体、SMP 試料。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
積分空間を有する積分器内の所定位置に試料を配置するステップと、
前記積分器に設けられた第1の窓を通じて励起光を前記所定位置に配置された前記試料に照射するとともに、前記積分器の前記励起光の光軸とは交差しない位置に設けられた第2の窓を通じて前記積分空間内のスペクトルを第1のスペクトルとして測定するステップと、
前記第1の窓と対向し、かつ、前記積分器内の前記励起光の光軸が交差する励起光入射部分を、前記試料を透過後の励起光が前記積分空間内に反射しないように構成するステップと、
励起光が前記積分空間内に反射しないようにされた後、前記第1の窓を通じて前記励起光を前記所定位置に配置された前記試料に照射するとともに、前記第2の窓を通じて前記積分空間内のスペクトルを第2のスペクトルとして測定するステップと、
前記第1のスペクトルのうち前記励起光の波長範囲に対応する成分と、前記第2のスペクトルのうち前記励起光を受けて前記試料が発する光の波長範囲に対応する成分とに基づいて、前記試料の量子効率を算出するステップとを備える、量子効率測定方法。
【請求項2】
前記積分器の前記励起光入射部分には、前記励起光を通過させるための第3の窓が形成されており、
前記構成するステップは、前記積分器の内面と実質的に同一の反射特性を有する栓部材で前記第3の窓が塞がれている状態から、当該栓部材を取除くステップを含む、請求項1に記載の量子効率測定方法。
【請求項3】
前記所定位置に標準体を配置するステップと、
前記第1の窓を通じて前記励起光を前記所定位置に配置された前記標準体に照射するとともに、前記第2の窓を通じて前記積分空間内のスペクトルを第3のスペクトルとして測定するステップとをさらに備え、
前記試料の量子効率を算出するステップは、前記第1のスペクトルのうち前記励起光に対応する成分と、前記第3のスペクトルのうち前記励起光の波長範囲に対応する成分との差分を前記試料に吸収された光成分として算出するステップを含む、請求項1または2に記載の量子効率測定方法。
【請求項4】
その内部に積分空間を有する積分器と、
前記積分器に設けられた第1の窓を通じて励起光を前記積分空間内に照射するための光源と、
前記積分器の前記励起光の光軸とは交差しない位置に設けられた第2の窓を通じて前記積分空間内のスペクトルを測定するための測定器と、
前記積分器内の前記励起光の光軸上に試料または標準体を配置するための保持部と、
前記第1の窓と対向し、かつ、前記積分器内の前記励起光の光軸が交差する励起光入射部分を、前記励起光を前記積分空間内に反射する状態と、前記励起光を前記積分空間内に反射しない状態とに切替るための切替機構と、
前記保持部に前記試料が配置されており、かつ、前記励起光入射部分が前記励起光を反射する状態にされている場合に、前記測定器によって測定される第1のスペクトルと、前記保持部に前記試料が配置されており、かつ、前記励起光入射部分が前記励起光を反射しない状態にされている場合に、前記測定器によって測定される第2のスペクトルとに基づいて、前記試料の量子効率を算出するための演算部とを備える、量子効率測定装置。
【請求項5】
前記切替機構は、前記積分器の前記励起光入射部分に設けられている前記励起光を通過させるための第3の窓と、前記第3の窓に装着される前記積分器の内面と実質的に同一の反射特性を有する栓部材とを含む、請求項4に記載の量子効率測定装置。
【請求項6】
前記切替機構は、前記積分器の外側から前記第3の窓に対応付けて装着される光吸収部をさらに含む、請求項5に記載の量子効率測定装置。
【請求項7】
前記積分器は、
内面に光拡散反射層を有する半球部と、
前記半球部の開口を塞ぐように配置された平面ミラーとを含み、
前記第1の窓は、前記平面ミラー上の前記半球部の実質的な曲率中心を含む位置、および、前記半球部の頂点を含む位置のいずれかに設けられる、請求項4〜6のいずれか1項に記載の量子効率測定装置。
【請求項8】
前記積分器は、内面に光拡散反射層を有する球体であり、
前記保持部は、前記球体の中心部に前記試料および前記標準体を配置できるように構成される、請求項4〜6のいずれか1項に記載の量子効率測定装置。
【請求項9】
その内部に積分空間を有する積分器であって、
第1の窓を通じて前記積分空間内に照射される励起光の光軸上に試料または標準体を配置するための保持部と、
前記積分空間内のスペクトルを測定するために、前記励起光の光軸とは交差しない位置に設けられた第2の窓を通じて光を導くための光取出部と、
前記第1の窓と対向し、かつ、前記積分器内の前記励起光の光軸が交差する励起光入射部分を、前記励起光を前記積分空間内に反射する状態と、前記励起光を前記積分空間内に反射しない状態とに切替るための切替機構とを備える、積分器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−196735(P2011−196735A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−61804(P2010−61804)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(000206967)大塚電子株式会社 (50)
【Fターム(参考)】