説明

金クラスター錯体から製造された触媒を用いるヒドロ酸化法

炭素数3又はそれ以上を有するオレフィン、例えばプロピレンをヒドロ酸化して、オレフィンオキシド、例えばプロピレンオキシドを生成するための方法及び触媒。この方法は、ナノ多孔質チタン含有担体上に沈着された金ナノ粒子を含むヒドロ酸化触媒及び水素の存在下で反応条件下においてオレフィンを酸素と接触させることを含む。ヒドロ酸化触媒は、金―配位子クラスター錯体を担体上に沈着させて触媒前駆体を形成し、次いで前記触媒前駆体を加熱及び/又は化学処理してヒドロ酸化触媒組成物を形成することによって製造する。ヒドロ酸化触媒は、安定した触媒活性、向上した寿命及び改善された水素効率を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2006年11月17日に出願された米国仮出願第60/859,738号の利益を請求する。この出願を引用することによって本明細書中に組み入れる。
発明の分野
本発明は、プロピレンオキシドのようなオレフィンオキシドを形成するための、水素の存在下における酸素によるプロピレンのようなオレフィンのヒドロ酸化(hydro-oxidation)のための改良された方法及び触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
プロピレンオキシドのようなオレフィンオキシドは、ポリウレタン及び合成エラストマーの製造において一般的に有用なポリエーテルポリオールを形成するためのアルコールのアルコキシル化に用いられる。オレフィンオキシドはまた、溶媒及び界面活性剤として有用なプロピレングリコールのようなアルキレングリコール及びイソプロパノールアミンのようなアルカノールアミンの製造における重要な中間体である。
【0003】
炭素数3又はそれ以上のオレフィン(C3+オレフィン)の酸素による直接酸化は、ここ数十年にわたって産業界で注目されているテーマである。酸素によるプロピレンのプロピレンオキシドへの直接酸化に、多大な努力が傾けられた。このような方法は、プロピレンオキシドを得るための周知のクロロヒドリン及び有機ヒドロペルオキシド法を含む、現在実施されている間接的多段製造法に代わるものとして求められている。銀触媒が、酸素によるプロピレンのプロピレンオキシドへの直接酸化を約70モル%以下の選択率で触媒できることは知られている。不都合なことに、この方法は、アクロレイン、アセトン及びプロピオンアルデヒドを含む部分酸化副生成物(by-product)並びに完全酸化副生成物、即ち一酸化炭素及び二酸化炭素を有意な量で生成する。
【0004】
過去10年にわたって、多くの特許が、水素の存在下における酸素による炭素数3又はそれ以上のオレフィンの直接ヒドロ酸化によるオレフィンオキシドの形成を開示している。ヒドロ酸化用の触媒は、チタニア又はチタノ珪酸塩ゼオライトのようなチタン含有担体上に沈着された、金、銀並びに貴金属、例えばパラジウム及び白金、更に任意的に、1種又はそれ以上の促進剤、例えばアルカリ、アルカリ土類及び希土類元素を含むことが開示されている。特に、金又は金と銀及び/若しくは貴金属との組合せ(例えばパラジウムとの二元金属触媒)が多数の特許活動の対象であり、いくつかの特許は、触媒活性種として酸化された金を開示し、他の特許は粒径が1ナノメーター(nm)超で約100nm未満の金属の金を開示している。チタン含有担体上に沈着された金、銀及び/又は貴金属を含む触媒を用いたC3+オレフィンのヒドロ酸化を目的とする代表的な特許としては、特許文献1〜9が挙げられる。前記先行技術においては、触媒は金、銀及び/又は1種若しくはそれ以上の貴金属の可溶性塩並びに1種又はそれ以上の促進剤の可溶性塩の1種又はそれ以上の溶液の含浸又はその溶液からの沈殿によって製造される。前記先行技術は、このようなヒドロ酸化法に関して、C3+オレフィンオキシド、とりわけプロピレンオキシドへの高い選択率を開示している。約90モル%より高いプロピレンオキシド選択率が達成可能であり、95モル%を越えるプロピレンオキシドへの選択率も報告されている。
【0005】
このような進歩にもかかわらず、ヒドロキシ酸化ルートがオレフィンオキシドを製造するための現在の製造方法に取って代わることができるまでには、先行技術のいくつかの問題に対処する必要がある。第一に、水素効率を改善する必要がある。水素は、オレフィンオキシドの生成に必要な反応体である。生成されるオレフィンオキシド1モルについて、オレフィンのヒドロ酸化は化学量論的当量の水を生成する。1つ又はそれ以上の不所望な副反応によって、例えば酸素による水素の直接酸化によって、追加の水が更に形成され得る。水素効率は、生成物流中の水対オロフィンオキシド、例えば水対プロピレンオキシド(H2O/PO)のモル比を測定することによって確認できる。望ましくは、この比は1/1であるが、実際には、プロセス操作中の任意の特定の時点では通常はより高い比が観察される。更に、現在の先行技術の触媒によれば、水の形成及び水/オレフィンオキシドのモル比が時間と共に許容され得ないほど増加する。プロセス全体にわたって周期的に水/オレフィンのモル比を追跡することは有益であるが、水/オレフィン累積モル比の方が全水素効率をより良く示すことができる。本発明のためには、用語「水/オレフィンオキシド累積モル比(cumulative water/olefin molar ratio)」は、全運転時間にわたる水/オレフィンオキシド平均モル比、望ましくは、少なくとも3時間毎に、好ましくは少なくとも2時間毎に、より好ましくは1時間毎に取った水濃度及びオレフィンオキシド濃度の測定値から平均されたものを意味する。先行技術の方法においては、時間の経過と共に、水/オレフィンオキシド累積モル比は増加し、多くの場合、約10/1超を上回り、これは許容できないほど高い。
【0006】
第二に、先行技術の方法は、典型的には約70〜約170℃の温度で行われる。この温度範囲を超えると、また、触媒によっては多くの場合この範囲内でも先行技術の方法はオレフィンオキシドへの選択率の低下並びに不所望な部分酸化生成物(例えばプロピオンアルデヒド、アセトン、アクロレイン)、完全酸化生成物(即ち一酸化炭素及び二酸化炭素)、水素化生成物(例えばプロパン)及び水への選択率の増加を示す。更に、先行技術の触媒は、温度の増加につれて急速に失活する傾向がある。活性及び選択率が安定でありながら、より高い温度、例えば160℃又はそれ以上で運転することが、より高温の水共生成物(co-product)(スチーム)を必要に応じて下流プラントの運転に利用できるので、望ましい。それによって得られる熱統合(heat integration)は、プラントの経済性及び管理に有益であり得る。
【0007】
第三に、ヒドロ酸化法の全体的経済性を見極める際には、触媒中の金、銀及び貴金属の量を考慮しなければならない。金、銀及び貴金属が高価であることは周知であり、従って、ヒドロ酸化触媒に必要なそれらの量の減少は付加価値を与えるであろう。
【0008】
第四に、最も重要なことであるが、先行技術のヒドロ酸化触媒は、時間の経過と共に活性が次第に低下し、数日後には活性レベルの低下(reduced level of activity)に達する。このような時には、ヒドロ酸化法は中断しなければならず、また、触媒は再生しなければならない。触媒再生の間隔を広げ且つ全触媒寿命を延長するためには、より長い運転時間にわたって触媒の活性を安定化させることが必要である。ここで使用する「触媒寿命」は、ヒドロ酸化法の開始から、1回又はそれ以上の再生後の触媒が充分な活性を失って、特に商業的見地から許容され得なくなってしまう時点までを測定した時間を意味する。
【0009】
本発明者らは、非特許文献1が、プロピレンオキシドの形成のための水素の存在下における酸素によるプロピレンのヒドロ酸化用の、チタノ珪酸塩担体の外面上に金粒子を含む触媒を開示していることに注目した。この触媒は、塩化金(III)の水溶液からの従来の沈着沈殿(deposition-precipitation)によって製造される。
【0010】
更に、非特許文献2に示されるようないくつかの参考文献が、金−ホスフィン配位子クラスター錯体から製造された、チタニアに担持されたナノ金触媒を開示している。特許文献10は、酸化チタン被覆アルミナのような担体上に金粒子を含む不均一触媒を開示している。この金粒子は物理的には、約1×10-9〜約0.1の範囲の浸透深さ比(Penetration Depth Ratio)で蒸着される蒸気である。これらの参考文献には、ヒドロ酸化法に関する記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】EP−A1−0,709,360
【特許文献2】WO98/00413
【特許文献3】WO98/00414
【特許文献4】WO98/00415
【特許文献5】US6,255,499
【特許文献6】WO03/062196
【特許文献7】WO96/02323
【特許文献8】WO97/25143
【特許文献9】WO97/47386
【特許文献10】WO2005/030382
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】T.Alexander Nijhuis,et al.,Industrial Engineering and Chemical Research,38(1999),884−891
【非特許文献2】T.V.Choudhary,et al.,Journal of Catalysis,207,247−255(2002)
【発明の概要】
【0013】
本発明は、水素の存在下において、オレフィン及び酸素から直接オレフィンオキシドを製造するヒドロ酸化法を提供する。この方法は、水素及びヒドロ酸化触媒の存在下において、炭素数3又はそれ以上のオレフィンを、対応するオレフィンオキシドを生成させるのに充分なプロセス条件下で、酸素と接触させることを含んでなる。本発明の方法において使用するヒドロ酸化触媒は、ナノ多孔質(nanoporous)チタン含有担体の粒子上に沈着された金ナノ粒子を含む。この触媒は、触媒前駆体の形成に充分な条件下でナノ多孔質チタン含有担体上に金−配位子クラスター錯体を沈着させ、次いでヒドロ酸化触媒の形成に充分な条件下で前記触媒前駆体を加熱及び/又は化学処理することを含む方法によって製造する。
【0014】
本発明の新規方法は、水素の存在下において、炭素数3又はそれ以上のオレフィン及び酸素から直接オレフィンオキシドを製造するのに有用である。本発明の方法の利点は以下に説明するが、このような説明は、本件特許請求の範囲に記載した方法に何ら制限を課すべきでない。第一の利点として、本発明の方法は、典型的には、約25日超、好ましくは約30日超の延長された運転時間にわたって安定な触媒活性を達成する。延長された運転時間は、触媒再生間隔を有益に増加させ、ひいては触媒寿命を増加させる。更に、好ましい実施態様において、本発明の方法は、オレフィンオキシドを持続した運転時間にわたって約90モル%超、好ましくは約93モル%超の選択率で有益に生成する。他の酸化生成物としては、二酸化炭素、アクロレイン、アセトン、アセトアルデヒド及びプロピオンアルデヒドが挙げられるが、これらは生成されるとしても、以下に記載するように許容され得る量で生成される。先行技術の方法に比較して、本発明の方法は、オレフィンオキシド選択率の低下及び部分酸化副生成物の増加をほとんどもたらすことなく、より高い温度で行うことができる。実際には先行技術の方法は典型的には約70〜約170℃の温度で実施されるのに対し、本発明の方法は実際には約160〜約300℃の温度で行い、それによって改善された温度柔軟性を提供する。水が方法発明の共生成物であるので、より高温での操作が必要な場合には、それはより多数のスチームクレジット(steam credit)を提供できる。従って、本発明の方法は総合プラント設計に組み込むことができ、スチームから得られた熱は追加のプロセスの駆動に、例えば共生成物の水からのオレフィンオキシドの分離に使用する。先行技術の方法に比較して、本発明の方法は、水/オレフィンオキシド累積モル比によって測定した場合に、改善された水素効率を示す。本発明においては、約8/1未満、好ましくは約6/1未満の水/オレフィンオキシド累積モル比を全運転時間にわたって達成できる。本発明の方法は、先行技術の方法に比較して、触媒活性を低下させることなく、チタン含有担体上の金担持量をより少なくして有利に実施できる。約10〜約20,000百万分率(ppm)、好ましくは約50〜約1,000ppmの金担持量を経済的に有利に用いることができる。
【0015】
第二の態様において、本発明は、ナノ多孔質チタン含有担体の粒子上に沈着された金ナノ粒子を含んでなる新規触媒組成物を提供する。この触媒は、触媒前駆体の形成に充分な条件下で、金−配位子クラスター錯体をナノ多孔質チタン含有担体上に沈着させ、次いで触媒組成物の形成に充分な条件下で、前記触媒前駆体を加熱及び/又は化学処理することを含む方法によって製造する。
【0016】
第三の態様において、本発明は、本発明の前記触媒組成物の製造方法を提供する。この方法は、触媒前駆体組成物の形成に充分な条件下で、金−配位子クラスター錯体をナノ多孔質チタン含有担体上に沈着させ、次いでナノ多孔質チタン含有担体の粒子上に沈着された金ナノ粒子を含む触媒組成物を形成するのに充分な条件下で、前記触媒前駆体組成物を加熱及び/又は化学処理することを含んでなる。
【0017】
第四の態様において、本発明は、ナノ多孔質チタノ珪酸塩担体の粒子上に沈着された金−配位子クラスター錯体を含んでなる触媒前駆体組成物を提供する。
【0018】
本発明の触媒前駆体組成物は、本発明の触媒組成物の製造に有益に使用される。この触媒組成物自体は、炭素数3又はそれ以上のオレフィンを、水素の存在下で、酸素によって対応するオレフィンオキシドに直接且つ選択的に転化させる前記ヒドロ酸化法において有益に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】Au9−配位子クラスター化合物から製造した本発明の触媒実施態様及び水素の存在下でプロピレンを酸素によって酸化する実施例1において例示した本発明の方法における、プロピレン転化率対時間のグラフ及びプロピレンオキシドへの選択率対時間のグラフを示す。
【図2】実施例1に例示した方法実施態様に関する、時間に対する水対プロピレンオキシドの累積モル比のグラフを示す。
【図3】Au9−配位子クラスター化合物から製造した本発明の触媒実施態様を用いる実施例2に例示した本発明の方法における、プロピレン転化率対時間のグラフ及びプロピレンオキシドへの選択率対時間のグラフを示す。
【図4】実施例2に例示した方法実施態様に関する、時間に対する水対プロピレンオキシドの累積モル比のグラフを示す。
【図5】Nanogold(登録商標)銘柄Au−配位子クラスター錯体から製造した本発明の触媒実施態様を用いる実施例3に例示した本発明の方法における、プロピレン転化率対時間のグラフ及びプロピレンオキシドへの選択率対時間のグラフを示す。
【図6】実施例3に例示した方法実施態様における、時間に対する水対プロピレンオキシドの累積モル比のグラフを示す。
【図7】混合Pt−Au6クラスター錯体から製造した触媒及び水素の存在下で、プロピレンを酸素と反応させる実施例4に例示した方法実施態様における、時間に対する水対プロピレンオキシドの累積モル比のグラフを示す。
【図8】Positively Charged Nanoprobes銘柄Au−配位子クラスター錯体から製造した本発明の触媒実施態様を用いる実施例5に例示した本発明の方法における、プロピレン転化率対時間のグラフ及びプロピレンオキシドへの選択率対時間のグラフを示す。
【図9】実施例5に例示した方法実施態様における時間に対する水対プロピレンオキシドの累積モル比のグラフを示す。
【図10】Negatively Charged Nanoprobes銘柄Au−配位子クラスター錯体から製造した本発明の触媒実施態様を用いる実施例6に例示した本発明の方法における、プロピレン転化率対時間のグラフ及びプロピレンオキシドへの選択率対時間のグラフを示す。
【図11】実施例6に例示した方法実施態様における時間に対する水対プロピレンオキシドの累積モル比のグラフを示す。
【図12】Au55配位子−クラスター錯体から製造した本発明の触媒実施態様を用いる実施例7に例示した本発明の方法における、プロピレン転化率対時間のグラフ及びプロピレンオキシドへの選択率対時間のグラフを示す。
【図13】実施例7に例示した方法実施態様における時間に対する水対プロピレンオキシドの累積モル比のグラフを示す。
【図14】Nanogold(登録商標)銘柄Au−配位子クラスター錯体から製造した本発明の触媒実施態様を用いる実施例8に例示した本発明の方法における、プロピレン転化率対時間のグラフ及びプロピレンオキシドへの選択率対時間のグラフを示す。
【図15】実施例8に例示した方法実施態様における時間に対する水対プロピレンオキシドの累積モル比のグラフを示す。
【図16】比較実験1に記載したクロロ金酸を含む触媒を用いる比較方法における、プロピレン転化率対時間のグラフ及びプロピレンオキシドへの選択率対時間のグラフを示す。
【図17】比較実験1に例示した比較方法における時間に対する水対プロピレンオキシドの累積モル比のグラフを示す。
【図18】比較実験2に記載したクロロ金酸を含む触媒を用いる比較方法における、プロピレン転化率対時間のグラフ及びプロピレンオキシドへの選択率対時間のグラフを示す。
【図19】比較実験2に例示した比較方法における時間に対する水対プロピレンオキシドの累積モル比のグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の新規ヒドロ酸化法は、炭素数3又はそれ以上のオレフィンを水素及びヒドロ酸化触媒の存在下において、対応するオレフィンオキシドの製造に充分なプロセス条件下で酸素と接触させることを含んでなる。任意的に、オレフィン、酸素及び水素を含む反応体は、以下に記載するような1種又はそれ以上の希釈剤と共に供給できる。オレフィン、酸素、水素及び任意的な稀釈剤の相対モル量は目的とするオレフィンオキシドの製造に充分な任意の量であることができる。本発明の好ましい実施態様において、オレフィンはC3〜C12オレフィンであり、これを対応するC3〜C12オレフィンオキシドに転化させる。より好ましい実施態様において、オレフィンはC3〜C8オレフィンであり、これを対応するC3〜C8オレフィンオキシドに転化させる。最も好ましい実施態様において、オレフィンはプロピレンであり、オレフィンオキシドはプロピレンオキシドである。
【0021】
本発明の方法に使用するヒドロ酸化触媒は、ナノ多孔質チタン含有担体の粒子上に沈着された金ナノ粒子を含み、この触媒は、触媒前駆体の形成に充分な条件下で金−配位子クラスター錯体をナノ多孔質チタン含有担体上に、沈着させ、次いで触媒の形成に充分な条件下で前記触媒前駆体を加熱及び/又は化学処理することを含む方法によって製造する。
【0022】
本発明のためには、用語「金ナノ粒子」は、約0.6nm超〜約50nm未満、好ましくは約0.7nm超〜約10nm未満の範囲の直径(又は非球形粒子の場合には最大寸法)を有する金粒子を広範に意味する。
【0023】
本発明のためには、用語「チタン含有担体」は、チタンが固体骨格構造の一体成分であるか、又はチタンが固体骨格構造にグラフトされているか、又は骨格及びグラフト化チタンの組合せが存在する任意の固体を意味する。チタン含有担体に関する用語「ナノ多孔質(nanoporous)」は、担体の骨格構造内の流路(channel)、細孔及び/又はキャビティの存在を意味し;前記流路、細孔又はキャビティは約0.2〜約50nmの直径(又は最大寸法)を有する。流路、細孔及び/又はキャビティの分布に制限はなく、これらは固体骨格全体に規則的又は不規則に分布できる。流路自体は一次元、二次元又は三次元であることができる。
【0024】
本明細書中で使用する用語「配位子(ligand)」は、1つ又はそれ以上の金属原子(この場合には触媒中の金或いは任意の他の金属、例えば銀又はパラジウム若しくは白金のような貴金属)に結合した任意の有機又は無機の中性分子又は荷電イオンを意味する。本明細書中で使用する用語「配位子」は単数及び複数形を含み、従って配位子を1個だけ含むクラスター錯体、又は同一であっても異なってもよい2個若しくはそれ以上の配位子を含むクラスター錯体を含むことができる。
【0025】
本明細書中で使用する用語「錯体(complex)」は、1個又はそれ以上の電子の多い分子及び/又はイオン(配位子)と1個又はそれ以上の電子の少ない原子又はイオン(例えば金属)との結合によって形成される配位化合物を意味する。この場合には、電子の少ない原子又はイオンは、以下に説明するように、金、又は金と銀との組合せ、又は金と貴金属との組合せ、又は金、銀及び貴金属の組合せである。この記述は、クラスター錯体中の金又は他の金属原子の全てが、電子が少ないことを意味しない。金及び/又は他の金属原子のいくつかは電子が少なく且つ1個又はそれ以上の配位子に結合することができ、他の金及び/又は金属原子は電子が少なくなく、配位子に結合するのではなく他の金属原子に結合することができる。
【0026】
本明細書中で使用する用語「クラスター」は、2個又はそれ以上の複数の金原子を含む金原子の集団又は群を意味する。
【0027】
好ましい実施態様において、金−配位子クラスター錯体は、ナノ多孔質チタン含有担体の細孔径より大きい直径(又は最大寸法)を有する。このような好ましい実施態様は、金−配位子クラスター錯体、ひいては金ナノ粒子がナノ多孔質チタン含有担体の細孔又は流路又はキャビティに入ることができず、従って担体の外面上に実質的に残存することを実質的に保証する。
【0028】
別の好ましい実施態様において、金−配位子クラスター錯体は、アミン、イミン、アミド、イミド、ホスフィン、チオール、チオレート及びそれらの混合物からなる群から選ばれた1つ又はそれ以上の配位子を有する金−配位子クラスター錯体を含む。別の好ましい実施態様において、金−配位子クラスター錯体は金−有機リン配位子クラスター錯体、より好ましくは金−有機ホスフィン配位子クラスター錯体を含む。
【0029】
別の好ましい実施態様において、チタン含有担体は、ナノ多孔質チタノ珪酸塩、より好ましくはMFI結晶構造のナノ多孔質チタノ珪酸塩を含む。MFI構造のチタノ珪酸塩は、約0.54nm±0.04nmの最大細孔径を有する。ナノ多孔質チタノ珪酸塩がMFI構造を有するより好ましい実施態様において、金−配位子クラスター錯体は好ましくは約0.54nm(5.4オングストローム)より大きい直径(又は最大寸法)を有する。
【0030】
更に別の好ましい実施態様において、ヒドロ酸化触媒は更に、以下に詳述するような、触媒の性能を向上させる任意の元素状金属又は金属イオンと定義される促進剤を含む。より好ましくは、促進剤は銀、周期表の第1族、第2族、ランタニド系希土類元素及びアクチニド系元素、それらの塩並びに/又はそれらの他の化合物、更にそれらの混合物(CRC Handbook of Chemistry and Physics,75thed.,CRC Press,1994に記載)から選ばれる。
【0031】
別の態様において、本発明は、ナノ多孔質チタノ珪酸塩担体の粒子上に沈着された金−配位子クラスター錯体を含む触媒前駆体組成物を提供する。
【0032】
炭素数3又はそれ以上の任意のオレフィン又はこのようなオレフィンの混合物を、本発明の方法に使用できる。2個又はそれ以上のオレフィン結合を含む化合物であるモノオレフィン、例えばジエンが適当である。オレフィンは炭素及び水素原子のみを含む単純な炭化水素であることもできるし;或いは、オレフィンは任意の炭素原子において不活性置換基で置換されることもできる。ここで使用する用語「不活性」は、置換基が本発明の方法において実質的に非反応性であることを必要とする。適当な不活性置換基としては、ハロゲン化物、エーテル、エステル、アルコール及び芳香族部分;好ましくはクロロ、C1〜C12エーテル、C1〜C12エステル及びC1〜C12アルコール部分並びにC6〜C12芳香族部分が挙げられるが、これらに限定するものではない。本発明の方法に適当なオレフィンの非限定的例としては、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、2−メチルプロペン、1−ペンテン、2−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、2−メチル−2−ブテン、1−ヘキセン、2−ヘキセン、3−ヘキセン及び同様にメチルペンテン、エチルブテン、ヘプテン、メチルヘキセン、エチルペンテン、プロピルブテン、オクテン類(好ましくは1−オクテン)の種々の異性体並びにこれらの他の高級類似体;更にブタジエン、シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエン、スチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン、アリルアルコール、アリルエーテル、アリルエチルエーテル、酪酸アリル、酢酸アリル、アリルベンゼン、アリルフェニルエーテル、アリルプロピルエーテル及びアリルアニソールが挙げられる。好ましくは、オレフィンは非置換又は置換C3〜C12オレフィン、より好ましくは非置換又は置換C3〜C8オレフィンである。最も好ましくは、オレフィンはプロピレンである。前記オレフィンの多くは市販されており;その他は当業者に知られた化学的方法によって製造できる。
【0033】
使用するオレフィンの量は、対応するオレフィンオキシドがその方法において製造されるならば、広範囲にわたって変化し得る。一般に、オレフィンの量は、具体的なプロセス特性、例えば反応器の設計、具体的なオレフィン並びに経済的理由及び安全性の問題によって異なる。当業者ならば、特定のプロセス特性に適当なオレフィン濃度範囲を決定する方法がわかるであろう。本明細書の開示に鑑みて、オレフィンの量は、オレフィン、酸素、水素及び任意的な希釈剤の総モルに基づき、典型的には約1モル%超、好ましくは約5モル%超、より好ましくは約10モル%超である。オレフィンの量は、オレフィン、酸素、水素及び任意的な希釈剤の総モルに基づき、典型的には約99モル%未満、好ましくは約80モル%未満、より好ましくは約60モル%未満である。
【0034】
本発明の方法には酸素も必要である。空気又は本質的に純粋な分子状酸素を含む任意の酸素源を許容できる。オゾン及び亜酸化窒素のような窒素酸化物を含む他の酸素源も適当であることができる。分子状酸素が好ましい。使用する酸素の量は、その量が目的とするオレフィンオキシドの製造に充分であるならば、広範囲にわたって変化できる。酸素の量は、オレフィン、水素、酸素及び任意的な希釈剤の総モルに基づき、好ましくは約0.01モル%超、より好ましくは約1モル%超、最も好ましくは約5モル%超である。酸素の量は、オレフィン、水素、酸素及び任意的な希釈剤の総モルに基づき、好ましくは約30モル%未満、より好ましくは約25モル%未満、最も好ましくは約20モル%未難である。約20モル%を越える場合には、酸素濃度はオレフィン−水素−酸素混合物の引火範囲に入る可能性がある。
【0035】
本発明の方法には水素も必要である。水素の不存在下では、触媒の活性は著しく低下する。例えば炭化水素及びアルコールの脱水素化によって得られた分子状水素を含む任意の水素源を本発明の方法に供給できる。本発明の別の実施態様においては、水素はオレフィン酸化反応器中で、例えばプロパン若しくはイソブタンのようなアルカン又はイソブタノールのようなアルコールの脱水素化によって現場発生させることができる。或いは、水素は、必要な水素を本発明の方法に供給できる触媒−水素化物錯体又は触媒−水素錯体を発生させるのに使用できる。空気中の極微量の水素は、本発明の方法に必要量の水素を供給するには少なすぎる。追加水素の供給源を、本発明の方法に供給するか又は本発明の方法において発生させることが必要である。
【0036】
その量がオレフィンオキシドの製造に充分であるならば、任意の量の水素を本発明の方法において使用できる。水素の適当な量は、オレフィン、水素、酸素及び任意的な希釈剤の総モルに基づき、典型的には約0.01モル%超、好ましくは約0.1モル%超、より好ましくは約3モル%超である。水素の適当な量は、オレフィン、水素、酸素及び任意的な希釈剤の総モルに基づき、典型的には約50モル%未満、好ましくは約30モル%未満、より好ましくは約20モル%未満である。
【0037】
前記反応体の他に、希釈剤を使用することが望ましいが、その使用は任意的である。本発明の方法は発熱を伴うので、希釈剤は生成される熱を除去及び散逸する手段を有益に提供する。更に、希釈剤は、反応体が引火しない濃度領域(concentration regime)を拡大する。希釈剤は、本発明の方法を阻害しない任意の気体又は液体であることができる。選択する具体的な希釈剤は、方法を実施する方式によって異なるであろう。例えば、方法を気相で実施する場合には、適当な気体希釈剤としては、ヘリウム、窒素、アルゴン、メタン、二酸化炭素、スチーム及びそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定するものではない。方法を液相で実施する場合には、希釈剤は任意の酸化安定性且つ熱安定性液体であることができる。適当な液体希釈剤の例としては、脂肪族アルコール、好ましくはC1〜C10脂肪族アルコール、例えばメタノール及びt−ブタノール;塩素化脂肪族アルコール、好ましくはC1〜C10塩素化アルカノール、例えばクロロプロパノール;塩素化炭化水素、好ましくはC1〜C10塩素化炭化水素、例えばジクロロエタン並びにクロロベンゼン及びジクロロベンゼンを含む塩素化ベンゼン;芳香族炭化水素、好ましくはC6〜C15芳香族炭化水素、例えばベンゼン、トルエン及びキシレン類;エーテル、好ましくはC2〜C20エーテル、例えばテトラヒドロフラン及びジオキサン;更に液体ポリエーテル、ポリエステル及びポリアルコールが挙げられる。
【0038】
希釈剤を気相で用いる場合には、希釈剤の量は、オレフィン、酸素、水素及び希釈剤の総モルに基づき、典型的には約0モル%超、好ましくは約0.1モル%超、より好ましくは約15モル%超である。希釈剤を気相で用いる場合には、希釈剤の量は、オレフィン、酸素、水素及び希釈剤の総モルに基づき、典型的には約90モル%未満、好ましくは約80モル%未満、より好ましくは約70モル%未満である。液体稀釈剤(又は溶媒)を液相で用いる場合には、液体希釈剤(又は溶媒)の量は、オレフィン及び希釈剤の総重量に基づき、典型的には約0重量%超、好ましくは5重量%超である。液体稀釈剤を液相で用いる場合には、液体希釈剤の量は、オレフィン及び希釈剤の総モルに基づき、典型的には約99重量%未満、好ましくは約95重量%未満である。
【0039】
前記で開示したオレフィン、酸素、水素及び希釈剤の濃度は、適当には、本明細書中に開示した反応器の設計及びプロセスパラメーターに基づく。当業者ならば、本明細書中に開示した濃度以外の濃度を本発明の方法の他の種々の工学的実現に適当に使用できることがわかるであろう。
【0040】
本発明のヒドロ酸化法において有益に使用される触媒は、ナノ多孔質チタン含有担体の粒子上に沈着された金ナノ粒子を含む。金は主に金属の金(元素状又はゼロ価の金)として存在する。これに関連して、用語「主に(predominantly)」は、約80重量%超、好ましくは約85重量%超、より好ましくは約90重量%超の金属の金を意味する。酸化された金は、触媒によるヒドロ酸化サイクルの間に過渡種(transient species)として又は何らかの安定化された形態で、0超〜+3の任意の酸化状態で存在できる。酸化状態及び/又はそれらの相対量を測定できる任意の分析法、例えばX線光電子分光法(XPS)又は紫外線−可視拡散反射分光計(UV−VIS DRS)上で測定されるミー散乱(Mie scattering)を用いて、金の酸化状態を求めることができる。XPSがおそらく好ましく、それはKratos Axis 165 XPS測定器若しくはPHI 540 XPS測定器又はそれらの任意の同等物上で収集できる。
【0041】
未使用又は使用済みの形態の触媒組成物上の、及び触媒前駆体組成物上の、金粒子を可視化するために、高分解能透過電子分光法(HRTEM)を有益に使用できる。2Å又はそれ以上の点分解能を有する任意の高分解能透過電子顕微鏡をこの目的で使用できる。典型的には、TEM計数統計は好みに応じて平均粒径又はメジアン粒径を求めるのに使用する。(「平均粒径(average particle size)」は、(サンプル中の全粒子の粒径の和)÷(サンプル中の粒子の個数)によって算出する。「メジアン粒径」は、粒子の50%の粒径がそれより小さく且つ粒子の50%の粒径がそれより大きい粒径である。)TEM計数統計を解説している参考文献については、A.K.Dayte,et al.,Catalysis Today,111(2000),59-67(引用することによって本明細書中に組み入れる)を参照されたい。本発明の触媒組成物は、HRTEMによって測定した場合に、直径(又は非球形粒子の場合には最大寸法)が典型的には約0.6nm超から、好ましくは約0.7nm超から、典型的には約50nm未満まで、好ましくは約20nm未満まで、より好ましくは約10nm未満まで、更に好ましくは約8nm未満までの範囲の金ナノ粒子の分布を含む。最も好ましい実施態様において、未使用の触媒の金のメジアン粒径は、HRTEMによって測定した場合に、約0.8nm〜約8.0nm未満の範囲である。金ナノ粒子は、任意の特定の形態に限定されるものではない。例えば二重層、ラフト、半球、球、偏球形(例えば扁平球)、立方八面体及びそれらの切頭異形を含む任意の形状を発見できる。
【0042】
更に、X線吸収微細構造分光法(XAFS)を、シンクロトロンX線光源(例えばAdvanced Photon Source,Argonne National Laboratory又はNational Synchrotron Light Source,Brookhaven National Laboratory,USA)上について行って、任意の形態の触媒(未使用若しくは使用済みの)又は触媒前駆体における金の平均粒径又はメジアン粒径についての情報を提供できる。手法は、金粒径と相関する配位数(又は隣接金原子の数)の大きさによって異なる。XAFSはまた、金の平均酸化状態についての情報を提供できる。
【0043】
担体が0.2〜1nmの細孔径を有する本発明の触媒の好ましい実施態様において、金ナノ粒子は、ナノ多孔質チタン含有担体の粒子の外面(exterior surface)又は外側面(external surface)上に実質的に配置される。本発明のためには、ナノ多孔質チタン含有担体の「外面」は、担体の粒子又は凝集塊を取り囲む外側面又は外皮を含む。外面は、全ての突起部分、また、深さよりも幅が大きい亀裂の表面を含む。これに対して、「内面又は内側面」は、全ての細孔、流路、キャビティ及び幅よりも深さが大きい亀裂の壁を含む。本発明の好ましい実施態様において担体の外面に実質的に配置される金ナノ粒子に関しては、用語「実質的に」は、金ナノ粒子の約90%超、好ましくは約95%超が担体外面に配置されることを意味する。従って、金ナノ粒子の約10%未満、好ましくは約5%未満がチタン含有担体の内面に存在する。
【0044】
金ナノ粒子の大きさ及び位置は、透過電子顕微鏡法(TEM)又は走査型透過電子顕微鏡法(STEM)によって、好ましくは透過電子顕微鏡断層撮影法(TEM)によって観察できる。TEM断層撮影法は、電子顕微鏡法による三次元構造決定を可能にする。サンプルをTEMによって異なる回転角で、例えば0°、15°、20°、40°などで視察し、得られた画像のコンパイルから当業者は金粒子が外面又は内壁のいずれに配置されているかを確認できる。TEM断層撮影法は、120kVにおいて操作されるFEI Tecnai−12 TEM(FEI COMPNAY(登録商標),Serial#D250)を用いて実施できる。顕微鏡は典型的には、完全にコンピューター制御されたCAMPUS(著作権)ステージを装着している。傾斜列(tilt series)の獲得の間に、画像化(イメージング)及び傾斜条件を制御するために、FEI銘柄断層撮影法ソフトウェアパッケージを使用できる。傾斜列のアラインメント及び3−D体積の再構成は、Inspect3D(著作権)ソフトウェア(FEI Compnay(登録商標))を用いて実施できる。3−D体積の可視化及び操作には、Amira(著作権)Software(version 3.1.1,FEI Compnay(登録商標))を用いることができる。
【0045】
TEM及びTEM断層撮影法の測定を可能にするために以下の出版物を提供する(これらの出版物全てを引用することによって本明細書中に組み入れる):Willams,D.B.and Carter,C.B.,Transmission Electron Microcopy I-Basics,Chapter 1,Plenum Press,New York,1996;FEI company,Advanced Tecnai TEM software for easy acquisition,reconstruction and visualization; Flannery,B.P.,Deckmean,H.W.,Robergy,W.G.,and D’Amico,K.L.,Science 1987,237,1439;Hoppe,W. and Hegerl,R.,Three-dimensional structure determination by elecron microscopy(nonperiodic specimens),Hawkes,P.W.(Ed.),Computer Processing of Electron Microscope Images,Springer,Berlin,Heidelberg,New,York,1980;Frank,J.,Three-dimensional Electron Microscopy of Macromolecular Assemblies,Academic Press,San Diego,1996;Midgley,P.A. and Weyland,M.,”3D Electron Microscopy in the Physical Sciences; the Development of Z-contrast and EFTEM tomography”,Ultramicroscopy,2003,96,413-431。
【0046】
本発明の方法は、先行技術の方法に比較して、触媒上のより少ない金担持量で実際の操作を実現する。金担持量は、触媒組成物の総重量に基づき、一般に約10ppm超、好ましくは約50ppm超、より好ましくは約100ppm超である。金担持量は、触媒組成物の総重量に基づき、典型的には約20,000ppm未満、好ましくは約5,000ppm未満、より好ましくは約1,000ppm未満である。
【0047】
「チタン含有担体(titanium-containing support)」は、チタンが固体骨格構造の一体成分であるか、又はチタンが固体構造にグラフトされているか、又は骨格及びグラフト化若しくは沈着チタンの組合せが存在する任意の固体であることができる。チタン含有担体を述べる用語「ナノ多孔質」は、幅(又は最大寸法)が約0.2〜約50nmの範囲である担体の骨格構造内の流路(channel)、細孔(pore)及び/又はキャビティの存在を意味する。このような多孔質構造には、約2nm以下の細孔幅とされるミクロ細孔及び約2〜50nmの細孔幅とされるメソ細孔がある。幅が50nmより大きい、粒子間の又は粒子内部のより大きい空隙スペースは、用語「ナノ多孔質」には含まれない、前述のように、流路、細孔及び/又はキャビティの分布は規則的又は不規則であることができ;細孔及び/又は流路は一次元、二次元又は三次元であることができる。チタン含有担体は結晶質、準結晶質又は非晶質であることができる。このような担体中には、チタンは本質的に非金属チタンとして存在する。
【0048】
チタン含有担体中の細孔幅の分布は、例えば窒素ガスを窒素の沸点の温度において周囲大気圧で用いて吸熱等温線から求めることができる。担体の表面積は、Brunauer−Emmett−Teller(BET)気体吸着法によって測定できる。これらの手法のより完全な解説については、American National Standard Testing Method,ASTM D 3663-78及びIUPAC,K.S.W.Sing,et al.,”Reporting Physisorption Data for Gas/Solid Systems-with special Reference to the Determination of Surface Area and Porosity”,Pure & Applied Chemistry,Vol.57,No.4(1985),pp.603-619(これらを引用することによって本明細書中に組み入れる)を参照されたい。ナノ多孔質チタン含有担体は、BET法によって測定した場合、一般に約5m2/g超、好ましくは約50m2/g超、より好ましくは約150m2/g超の表面積を有する。
【0049】
適当な担体としては、チタン含有非晶質及び結晶質シリカ、例えばシリカライト若しくはMCM−41、アルミナ、金属珪酸塩、例えばアルミノ珪酸塩及び好ましくはチタノ珪酸塩、促進剤金属珪酸塩、例えば第1族及び第2族並びにランタニド系及びアクチニド系元素の珪酸塩、更に他の耐火性酸化物又は従来の担体材料が挙げられるが、これらに限定するものではない。
【0050】
約5m2/gより大きい表面積を有する結晶質又は非晶質の化学量論的又は非化学量論的促進剤金属チタン酸塩も、担体として適当であることができる。その非限定的例としては、第1族、第2族並びにランタニド系及びアクチニド系金属のこのようなチタン酸塩が挙げられる。適当には、促進剤金属チタン酸塩は、チタン酸マグネシウム、チタン酸カルシウム、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸カリウム、チタン酸リチウム、チタン酸セシウム、チタン酸ルビジウム並びにエルビウム、ルテチウム、トリウム及びウランのチタン酸塩からなる群から選ばれる。更に適当な担体としては、約5m2/gより大きい表面積を有する、アナターゼ、ルチル及びブルッカイト型の二酸化チタンを含む、非晶質又は結晶質チタン酸化物を適当に使用できる。
【0051】
好ましいチタン含有担体はWO98/00413、WO98/00414、WO98/00415及びUS−B1−6,255,499に記載されており、これらの参考文献を全て引用することによって本明細書中に組み入れる。
【0052】
チタンを担体上又は担体中に固着させる例において、チタン担持量は、本発明の方法において活性触媒を生じさせる任意の量であることができる。チタン担持量は、以下に記載するような任意の結合剤を含む担体の重量に基づき、典型的には約0.02重量%超、好ましくは約0.1重量%超である。チタン担持量は、任意の結合剤を含む担体の重量に基づき、典型的には約35重量%未満、好ましくは約10重量%未満である。チタンが、促進剤金属チタン酸塩におけるような担体の化学量論的成分である場合には、担体中のチタンの重量百分率は35重量%より大きいことが可能であることを理解すべきである。
【0053】
より好ましい実施態様において、担体はナノ多孔質チタノ珪酸塩、更に好ましくはチタノ珪酸塩ゼオライトを含む。更に好ましいチタン含有担体は、TS−1、TS−2、Ti−ベータ、Ti−MCM−41、Ti−MCM−48、Ti−SBA−15及びTi−SBA−3から選ばれたナノ多孔質チタノ珪酸塩を含む。最も好ましいチタノ珪酸塩は、X線回折(XRD)によって測定した場合に室温(21℃)で斜方晶であるMFI構造を有する準結晶質チタノ珪酸塩を含む。このような担体及びその製造方法は、US6,255,499に開示されており、この特許を引用することによって本明細書中に組み入れる。
【0054】
好ましいチタノ珪酸塩担体の珪素対チタン原子比(Si:Ti)は、本発明の方法において活性で選択的なヒドロ酸化触媒を提供する任意の比であることができる。一般に有利なSi:Ti原子比は約5:1又はそれ以上、好ましくは約50:1又はそれ以上である。一般に有利なSi:Ti原子比は約1,000:1又はそれ以下、好ましくは約300:1又はそれ以下である。
【0055】
前記チタン含有担体の任意の組合せ又は混合物を本発明の触媒に使用できる。
【0056】
チタン含有担体は、触媒粒子に適当な任意の形態、例えばビーズ、ペレット、球、ハニカム、モノリス、押出物及びフィルムの形態に付形できる。任意的に、チタン含有担体は、触媒粒子を結合させ且つ/又は触媒の強度若しくは耐損耗性を改善するために、第2の担体と共に押出すか、第2の担体に結合させるか、又は第2の担体に担持させることができる。例えば、チタン含有担体の薄膜を、ビーズ、ペレット又は押出物に付形された副担体上に調製するのが望ましい場合がある。適当な副担体としては、炭素及び任意の耐火性酸化物、例えばシリカ、チタニア、アルミナ、アルミノ珪酸塩及びマグネシア;セラミック、例えばセラミック炭化物及び窒化物並びに任意の金属担体が挙げられる。一般に、第2担体の量は、以下の条件で触媒(金及びチタン含有担体)並びに副担体の総合重量に基づき、約0〜約95重量%の範囲である、結合剤又は副担体がチタニアである場合には典型的には、総チタニアは、副担体を含む触媒の総重量に基づき、約35重量%以下の量で存在する。特に断らない限り、チタン含有担体に添加する、チタン含有担体と物理的に混合する、チタン含有担体と共に押出す、又はチタン含有担体中に組み入れる全ての結合剤は、チタン含有担体の一成分と見なすものとする。
【0057】
結合剤を含まない多孔質チタン含有担体の粒子は、直径(又は最大寸法)が好ましくは約50nmより大きく且つ約2ミクロン(μm)未満である。より好ましくは、結合剤を含むナノ多孔質チタン含有担体の粒子は、直径(又は最大寸法)が約50nmより大きく且つ1μm未満である。
【0058】
現時点では、本発明のヒドロ酸化触媒は好ましくは、触媒前駆体の製造に充分な条件下で金−配位子クラスター錯体をナノ多孔質チタン含有担体上に沈着させ、その後に本発明のヒドロ酸化触媒組成物の形成に充分な条件下で前記触媒前駆体を加熱及び/又は化学処理することを含む方法によって製造する。本発明の好ましい実施態様においては、チタン含有ナノ多孔質担体の細孔径よりも大きい直径(又は最大寸法)を有する金−配位子クラスター錯体を用いるのが好ましい。このようなクラスター錯体は、担体の細孔、流路又はキャビティに本質的に入ることができず、従ってこれらの好ましい実施態様において、クラスター錯体は実質的に担体の外面に結合する。金−配位子クラスター錯体は、ヒドロ酸化触媒の製造に使用される先行技術の金コロイド懸濁液に優るいくつかの利点を提供する。第一に、金−配位子クラスター錯体は、比較的純粋な単分散型の単離可能な固体である傾向がある。他の安定な化合物と同様に、金−配位子クラスター錯体は、酸素及び/水との接触を回避するための多大な努力をすることなく取り扱うことができる。しかし、本発明者らは、以下のいくつかの好ましい取り扱い方法を推奨する。
【0059】
金−配位子クラスター錯体中に見られる典型的な金クラスターは、2個、好ましくは約4個超、より好ましくは約5個超の金原子を含む。典型的なクラスターは約10,000個未満、好ましくは約500個未満の金原子を含む。チタン含有担体上に沈着させる金−配位子クラスター錯体に特に好ましいのは、以下の個数の金原子を含む金−配位子クラスター錯体である:Au3、Au4、Au5、Au6、Au7、Au8、Au9、Au10、Au11、Au12、Au13、Au20、Au55及びAu101。現時点では、Au55がより好ましい。クラスター中の金原子の個数が増加すると、正確に単分散したクラスターの製造において問題が生じる可能性がある。従って、金原子の個数には若干の変動が予想される。金原子20個又はそれ以上のクラスターの場合には、金原子の個数に±10%の変動が予想され得る。例えば、Au20、Au55及びAu101は、Au(20±2)、Au(55±5)及びAu(101±10)と定義するのがより適切である。
【0060】
混合金−銀又は金−貴金属クラスター錯体(貴金属はルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム及び/又は白金から選ばれる)、好ましくは金−銀、金−パラジウム及び/又は金−白金−配位子クラスター錯体に見られるように、金−配位子クラスター錯体は任意的に、任意の個数の他の金属原子を含むことができる。貴金属は存在することはできるが、オレフィンの水素化の増加、例えばプロピレンからのプロパンの形成の増加をもたらす可能性がある。従って、パラジウム又は白金のような貴金属が存在する場合には、水素化を減少させるために、銀を触媒に添加するのが有益である(即ちAu/Ag/貴金属)。本発明の好ましい実施態様において、金−配位子クラスター錯体は、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金及びそれらの混合物から選ばれた貴金属を含まない。
【0061】
本発明は、金クラスター中原子の結合方法に限定するものではない。金原子は、Au−Au結合によって互いに直接結合させることもできるし;或いは1つの金原子を、Au−O−Auのように酸素又は硫黄のような中間原子を介して別の金原子に結合させることもできるし;或いは金原子を銀又は貴金属のような別の金原子に直接(例えばAu−Ag又はAu−Pd)又は前述のように中間原子を介して結合させることもできる。
【0062】
金−配位子クラスター錯体に適当な配位子の非限定的例としては、有機リン配位子、例えば有機モノホスフィン、有機ポリホスフィン、有機モノホスファイト及び有機ポリホスファイト配位子並びにチオレート類[例えば-S(CH211(CH3)]、チオール類[HS(CH211(CH3)]、アミン(例えば第一及び第二アミン並びにアミノアルコール)、イミン、アミド(例えばパルミトイルアミド)、イミド(例えばマレイミド、スクシンイミド、フタルイミド)、一酸化炭素及びハロゲン化物(F、Cl、Br、I)並びにそれらの混合物が挙げられる。好ましい配位子は有機リン配位子であり、そのより好ましい種にはトリ有機ホスフィン、例えばトリアリールホスフィン、トリアルキルホスフィン、アルキルジアリールホスフィン及びジアルキルアリールホスフィンがあり、より好ましくは各アルキルはC1〜C20アルキルであり且つ各アリールはC6〜C20アリールである。本発明への使用に適当な金−配位子クラスター錯体の非限定的例としては、以下のもの:
(Ph3PAu)3OBF4
[(AuPPh33O]PF6
Au5(PPh34Cl
Au6(PPh36(BF42
Au6(PPh36(NO32
Au6(PPh36(PF62
Au8(PPh38(NO32
Au8(PPh37(NO32
Au9(PPh38(NO33
Au10(PPh35(C654
Au11Cl3{(m−CF3643P}7
Au11(PPh37(PF63
[Au13(PMe2Ph)10Cl2](PF63
Au13(PPh34[S(CH211(CH3)]4
[Au13(PPh2CH2PPh26](NO34
Au55(Ph2PC64SO3Na・2H2O)12Cl6
Au55(PPh312Cl6
[式中、Phはフェニルであり、Meはメチルである]
並びにStrem Chemicals and Nanoprobes,Incorporatedを含む会社から市販されている金−配位子クラスター化合物及び錯体、例えばNanoprobes Catalogue number 2010、2022、2023と識別される金−配位子クラスター錯体が挙げられる。混合金−貴金属配位子クラスター錯体の適当な非限定的な種としては、以下のものが挙げられる:
[(PPh3)Pt(AuPPh36](NO32
[(PPh3)(CO)Pt(AuPPh36](PF62
[Pd(AuPPh38](NO32
[H4(PPh32Re(AuPPh35](PF62
[PPh3Pt(AuPPh36](PF62
[H(PPh3)Pt(AuPPh37](NO3
[Pt(AuPPh37(Ag)2](NO33
[Pd(AuPPh38](PF62
[Pt(AuPPh38](NO32
[Pt(AuPPh38](PF62
[(PPh3)Pt(AuPPh38(Ag)](NO32
[Pt2(AuPPh310(Ag)13]Cl7
[Pt(AuPPh38Ag](NO33
[式中、Phはフェニルである]。金のみ、金−銀、金−貴金属及び金―貴金属−銀配位子クラスター錯体を含む任意の前記金−配位子クラスター錯体の混合物も適当に使用できる。言うまでもなく、前記式中のホスフィン配位子は、トリ(トリル)ホスフィン又はビス(ジフェニルホスフィノ)メタンのような任意の他の同等のトリ有機ホスフィン配位子と置き換えることができる。更に、前記の好ましい式中の任意の陰イオンを同等の陰イオンで置き換えることができる。より好ましい金−配位子クラスター錯体は、Nanoprobes,Incorporatedから購入できる、約1.4nmの金平均粒径を有するNanogold(登録商標)銘柄の金−配位子クラスター錯体である。
【0063】
担体への沈着前に、金−配位子クラスター錯体は、配位子及び錯体の特定決定のために、赤外分光法及び/又は溶液核磁気共鳴(NMR)分光法(例えば1H、13C又は31P NMR)によって分析できる。混合金−貴金属配位子クラスター錯体を含む金−配位子クラスター錯体は、商業的供給源から購入することもできるし、或いは当業界において文献記載された方法によって合成することもできる。以下の出版物(これら全てを引用することによって本明細書中に組み入れる)は、金−配位子クラスター錯体の合成及びそれらの特性決定についての説明を提供する:Nesmeyanov,A.N.,et al.,Journal of Organometallic Chemistry 1980,201,343-349;Briant,C.E.,et al.,J.Chem.Soc.,Chem.Commun.1981,201;Briant,C.E.,et al.,Journal of Organometallic Chemistry 1983,254,C18-C20;Van der Velden,J.W.A.,et al.,Inorganic Chemistry 1983,22,1913-1918;Schmid,G.,et al.,Polyhedron 1988,7,605-608;Ito,L.N.,et al.,Inorg.Chem.1989,28,2026-2028;Ito,L.N.,et al.,Inorg.Chem.1989,28,3696-3701;Schmid,G.,Inorganic Syntheses 1990,27,214-18;Ramamoorthy,V.,et.al.,J.Am.Chem.Soc.1992,114,1526-1527;Laguna,A.,et al.,Organometallics 1992,11,2759-2760;Rapoport,D.H.,et al.,J.Phys.Chem.B.1997,101,4175-4183;Warner,M.G.,et al.,Chem.Mater.2000,12,3316-3320;Nunokawa,K.,et al.,Bulletin of the Chemical Society of Japan 2003,76,1601-1602;Negishi,Y.,et al.,J.Am.Chem.Soc.2004,126,6518-6519;及びShichibu,Y.,et al.,J.Am.Chem.Soc.2005,127,13464-13465。
【0064】
生成される触媒が本発明のヒドロ酸化法において活性を示すならば、チタン含有担体上への金−配位子クラスター錯体の沈着方法に制限はない。適当な沈着方法の非限定的例としては、含浸、沈着沈殿、噴霧乾燥、イオン交換、固固反応及び凍結乾燥が挙げられる。含浸が好ましい。含浸は、必要に応じて、初期湿潤度(incipient wetness)の点まで又はそれより大きいか若しくは小さい湿潤度の点まで、金−配位子クラスター錯体を含む溶液、懸濁液又はコロイドを用いて担体を湿潤させることを含む。含浸条件は、具体的な金−配位子クラスター錯体、溶液又は懸濁液中におけるその濃度及び使用する個々の担体によって異なり得る。担体は、必要に応じて複数回の含浸によって処理できる。
【0065】
一般に、沈着の温度は、概ね周囲以下(sub-ambient)(約−100℃とみなされる)〜約300℃の範囲である。適当な溶媒としては、水及び有機溶媒が挙げられるがこれらに限定するものではなく、有機溶媒はアルコール(例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール)、エステル、ケトン(例えばアセトン)、脂肪族及び芳香族炭化水素及びハロカーボン(例えば塩化メチレン)、並びにアルキレングリコール、例えばエチレングリコール及びジエチレングリコールを含む。水と有機溶媒との混合物も適当に使用される。典型的には、溶液を使用する場合には、金−配位子クラスター錯体の濃度は約0.00001M〜その飽和点まで、好ましくは約0.0001〜約0.5Mの範囲である。任意的に、溶液は、以下に記載するような、例えば促進剤金属イオン(例えばLi+、Na+、K+、Rb+、Cs+、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、La3+及びSm3+)を含む陽イオン性及び/又は陰イオン性添加剤並びに陰イオン性種、例えばハロゲン化物、硫酸塩、燐酸塩、炭酸塩、ホウ酸塩、硝酸塩及びカルボン酸塩、例えば酢酸塩、乳酸塩、クエン酸塩、マレイン酸塩、桂皮酸塩、更にそれらの混合物を含むことができる。一般に、沈着は周囲圧力において空気下で実施する。沈着が完了したら、触媒前駆体組成物は常法によって単離できる。沈着溶液を濾過、遠心分離又はデカントして、触媒前駆体を回収することもできるし;或いは溶媒を蒸発させるか又は留去して、触媒前駆体を回収することもできる。得られた触媒前駆体組成物は必要に応じて室温で乾燥させ、今後の使用のために貯蔵することができる。水分への暴露を減少させるために、冷凍庫中における空気下での貯蔵が好ましい。
【0066】
ナノ多孔質チタン含有担体の粒子上に沈着された金−配位子クラスター錯体を含む触媒前駆体組成物は、任意の最新の分析法によって特定決定することができる。触媒前駆体の化学組成の確認には、例えば中性子放射化分析(neutron activation analysis)(NAA)又はX線螢光(XRF)を使用できる。配位子がまだ結合しているクラスターを可視化するには、STMを使用できる。金の酸化状態の確認には、XPSを使用できる。高分解能電子エネルギー損失分光法(HREELS)も低濃度における金又は他の金属の測定に有用であることができる。
【0067】
その後、触媒前駆体を、本発明の触媒の形成に充分な条件下で加熱及び/又は化学処理する。不活性雰囲気における加熱が1つの適当な方法である。不活性雰囲気としては、窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン及び同様の貴ガス並びにメタン、二酸化炭素、スチーム及びプロパンのようなアルカン炭化水素を含む希釈剤が挙げられる。或いは、以下に記載するように、同時化学処理を伴う加熱、例えば、酸化剤下における焼成又は還元剤下における加熱も適当であり、好ましいであろう。加熱温度は関連する個々の配位子によって異なるが、約50℃超、好ましくは約100℃超〜約800℃、より好ましくは約120〜約500℃の範囲であることができる。好ましいホスフィン配位子クラスター錯体の場合には、好ましい加熱温度は約120〜約400℃の範囲である。
【0068】
化学処理は、加熱を伴っても伴わなくても、適当に使用される。化学処理は、触媒前駆体組成物を反応性化学物質、例えば還元剤又は酸化剤と接触させることを含む。適当な酸化剤の非限定的例としては、本質的に純粋な酸素、空気、オゾン、窒素酸化物、過酸化水素及びそれらの混合物が挙げられる。任意的に、酸化剤は、前述の不活性ガスで稀釈することができる。好ましい酸化剤は空気又は酸素とヘリウムのような不活性ガスとの混合物である。適当な還元剤の非限定的例としては、水素、アルケン(好ましくはC1〜C10アルケン、例えばプロピレン)、水素化ホウ素ナトリウム、ジボラン、ホルムアルデヒド、亜硝酸ナトリウム、シュウ酸、一酸化炭素、過酸化水素及びそれらの混合物が挙げられる。本発明者らは、過酸化水素が酸化剤としても還元剤としても働くことができることに注目している。好ましい還元剤は、水素(任意的に不活性ガスで稀釈)である。不活性ガス希釈剤を酸化剤又は還元剤と併用する場合には、希釈剤中の酸化剤又は還元剤の濃度は適当には約1〜約99容量%の範囲であることができる。任意的な操作として、前駆体組成物を過酸化水素で洗浄するか、又は溶液若しくは懸濁液中で水素化ホウ素ナトリウムと反応させることができる。別法として、触媒前駆体を、ヒドロ酸化法の前にヒドロ酸化反応器中で水素又は酸素下で現場加熱することによって、本発明の触媒に転化することができる。より好ましい処理は、水素又は不活性ガスで稀釈された水素下で、より好ましくは約200〜約300℃の温度において、触媒を現場加熱することを含む。
【0069】
加熱及び/又は化学処理は、本発明のヒドロ酸化触媒の形成に充分な時間実施する。典型的には、約15分〜約5時間の期間で充分である。加熱及び/又は化学処理の個々の条件並びにその温度に応じて、金−配位子結合は破壊される場合もあるし、破壊されない場合もある。X線螢光(XRF)は、配位子が加熱及び/又は化学処理の間に前駆体組成物から除去されたことを確認するのに有用であることができるが、配位子の除去は本発明の活性なヒドロ酸化触媒を得るための必要条件ではない。
【0070】
任意的に、本発明の触媒及び触媒前駆体組成物は促進剤又は促進剤の組合せを含むことができる。本発明の酸化法において触媒の性能を向上させる任意の元素状金属、金属イオン又はそれらの組合せを促進剤として使用できる。性能の向上をもたらす因子としては、オレフィンの転化の増大、オレフィンオキシドへの選択性の増大、水の生産能の低下、触媒寿命の増加及び水/オレフィンオキシドのモル比、好ましくはH2O/POの低下が挙げられるが、これらに限定するものではない。典型的には、促進剤イオンの価数は+1〜+7の範囲であるが、金属種(ゼロ価)も存在できる。適当な促進剤の非限定的例は、元素周期表の第1族〜第12族の金属並びに希土類ランタニド系及びアクチニド系を含む(CRC Handbook of Chemistry and Physics,75thed.,CRC Press,1994に記載)。好ましくは、促進剤は銀;リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム及びセシウムを含む第1族金属;ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム及びバリウムを含む第2族金属;ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム及びルテチウムを含むランタニド系希土類金属;並びにアクチニド系金属、具体的にはトリウム及びウラニウムから選ばれる。より好ましくは、促進剤は、銀、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、エルビウム、ルテチウム、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム及びそれらの組合せから選ばれる。
【0071】
1種又はそれ以上の促進剤を用いる場合には、促進剤の総量は、触媒の総重量に基づき、一般に約0.001重量%超、好ましくは約0.005重量%超である。促進剤の総量は、触媒の総重量に基づき、一般に約20重量%未満、好ましくは約15重量%未満である。
【0072】
促進剤は、金−配位子クラスター錯体と同時にチタン含有担体に沈着させることができ、或いは別の工程において、金−配位子クラスター錯体の前又は後に沈着させる。チタン含有担体を触媒製造の間に作成しようとする場合には、促進剤をチタン供給源と同時に非Ti担体材料に沈着させることができ、或いは別の工程で、チタン供給源の前又は後に沈着させる。典型的には、促進剤は、1種又はそれ以上の促進剤金属塩及び任意的に他の添加剤を含む有機溶液又は懸濁液から沈着させる。促進剤の任意の塩、例えばフッ化物、塩化物及び臭化物のような促進剤ハロゲン化物;硝酸塩、ホウ酸塩、珪酸塩、硫酸塩、燐酸塩、水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩及びカルボン酸塩、特に酢酸塩、オキシレート(oxylate)、桂皮酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、クエン酸塩を使用できる。前記塩の混合物も使用できる。有機溶媒を使用する場合には、例えばアルコール、エステル、ケトン並びに脂肪族及び芳香族炭化水素を含む任意の種々の既知の有機溶媒であることができる。通常、担体は、担体を金−配位子クラスター錯体の溶液と接触させるのに用いるのと同様な条件下で、促進剤の塩の溶液を接触させる。促進剤を沈着させた後、洗浄は任意的である。洗浄を行う場合には、洗浄液は、好ましくは所望の促進剤の塩を含む。その後、金−配位子クラスター錯体の沈着後処理に関して前述したのと同様にして、不活性ガス中での促進剤含浸担体の加熱及び/又は還元剤若しくは酸化剤による化学処理を行うことができる。
【0073】
本発明の方法は、気相法又は液相法に適当な任意の従来の設計の反応器中で実施できる。これらの設計は広範に、回分反応器、固定床反応器、輸送床反応器、流動床反応器、移動床反応器、細流床(trickle bed)反応器及びシェル&チューブ反応器、並びに連続流通反応器及び不連続流通反応器並びにスイング反応器設計を含む。オレフィン、水素及び酸素は一緒に接触させることができる。別法として、この方法は段階的に実施することもでき、その場合には触媒を最初に酸素と接触させ、その後に酸素化触媒をプロピレンと水素との混合物と接触させる。好ましくは、この方法は気相中で実施し、反応器は、生じた熱を除去するために熱伝達性を考慮して設計される。この目的で設計された好ましい反応器には、固定床反応器、シェル&チューブ反応器、流動床反応器及び移動床反応器、並びに並列に接続され且つ交替で使用される複数の触媒床から構成されるスイング反応器がある。
【0074】
本明細書中で記載した酸化のためのプロセス条件は、引火性領域及び非引火性領域にわたってかなり変動できる。しかし、オレフィン、水素及び酸素の非引火性混合物と引火性混合物を区別する条件を認識することは有益である。従って、所定のプロセス温度及び圧力に関して、使用する場合には希釈剤も含む反応体組成物の引火範囲及び非引火範囲を示す組成図を作成するか又は参照にすることができる。前述のより好ましい反応体混合物は、本発明の方法を下記の好ましい温度及び圧力で実施する場合には、引火性領域外にあると考えられる。それでも、当業者によって設計されるような引火性領域内の操作も可能である。
【0075】
この方法は、通常は約160℃超、好ましくは約180℃超の温度で実施する。この方法は、通常は約300℃未満、好ましくは約280℃未満の温度で実施する。圧力は、通常は約大気圧〜約500psig(3,448kPa)、好ましくは約100psig(690kPa)〜約300psig(2,069kPa)の範囲である。
【0076】
流通反応器(flow reactor)中においては、反応体の滞留時間及び反応体対触媒のモル比は典型的には空間速度によって測定する。気相法の場合は、オレフィンの気体毎時空間速度(GHSV)は広範囲に変動できるが、典型的にはオレフィン約10ml/ml(触媒)/時(h-1)超、好ましくは約100h-1超、より好ましくは約1,000h-1超である。オレフィンのGHSVは典型的には約50,000h-1未満、好ましくは約35,000h-1未満、より好ましくは約20,000h-1未満である。また、気相法の場合は、オレフィン、酸素、水素及び任意的な希釈剤を含む供給流の総気体毎時空間速度(GHSV)は、広範囲にわたって変動できるが、典型的には気体約10ml/ml(触媒)/時(h-1)超、好ましくは約100h-1超、より好ましくは約1,000h-1超である。オレフィン、酸素、水素及び任意的な希釈剤を含む供給流のGHSVは、典型的には約50,000h-1未満、好ましくは約35,000h-1未満、より好ましくは約20,000h-1未満である。同様に、液相法の場合は、オレフィン成分の重量毎時空間速度(WHSV)は広範囲にわたって変動できるが、典型的にはオレフィン約0.01g/g(触媒)/時(h-1)超、好ましくは約0.05h-1超、より好ましくは約0.1h-1超である。オレフィンのWHSVは、典型的には約100h-1未満、好ましくは約50h-1未満、より好ましくは約20h-1未満である。酸素、水素及び希釈剤成分の気体毎時空間速度及び重量毎時空間速度は、望ましい相対モル比を考慮に入れて、オレフィンの空間速度から求めることができる。
【0077】
炭素数が少なくとも3のオレフィンを水素及び前述の触媒の存在下で酸素と接触させる場合には、対応するオレフィンオキシド(エポキシド)が高い選択率及び良好な生産能で生成される。好ましいオレフィンオキシドはプロピレンオキシドである。
【0078】
本発明の方法におけるオレフィンの転化率は、具体的なオレフィン、温度、圧力、反応体モル比及び触媒型を含む、使用した具体的なプロセス条件によって異なり得る。本発明のためには、用語「転化率(conversion)」は、反応して生成物を形成するオレフィンのモル百分率と定義する。典型的には、約1.0モル%超のオレフィン転化率が達成される。オレフィン転化率は、好ましくは約1.5モル%超、より好ましくは約2.0モル%超である。
【0079】
オレフィンオキシドへの選択率は、使用する具体的プロセス条件によって異なり得る。本発明のためには、用語「選択率(selectivity)」は、個々の生成物、望ましくはオレフィンオキシドを形成する反応オレフィンのモル百分率と定義する。金−配位子クラスター錯体が貴金属を含まない好ましい実施態様において、本発明の方法は、予想外に高い選択率でオレフィンオキシドを生成する。オレフィンオキシドへの選択率は、典型的には約80モル%超、好ましくは約85モル%超、より好ましくは約90モル%超である。
【0080】
プロピレンオキシド(g)/触媒(kg)/時(g PO/kg cat−h)として測定される触媒の生産能は、具体的な使用触媒並びにプロセス条件、例えば温度、圧力及び供給速度によって異なる。生産能は典型的には約200g PO/kg cat−h超、約250g PO/kg cat−h超、より好ましくは約300g PO/kg cat−h超である。
【0081】
水素効率は有利なことに、先行技術の方法よりも高い。従って、総運転時間全体にわたって平均された水/プロピレンオキシド累積モル比は低い。より具体的には、水/オレフィンオキシド累積モル比は典型的には約1:1超であるが、約8:1未満、好ましくは約6:1未満である。
【0082】
本発明の触媒は、寿命改善の証拠を示す。本明細書中で使用する用語「寿命(lifetime)」は、酸化法の開始から、1回又はそれ以上の再生後の触媒が充分な活性を失って、特に商業的見地から、許容され得ないようになるまでを測定した時間を意味する。その長い寿命の証拠として、触媒は、先行技術のヒドロ酸化触媒に比較して、より長い期間、活性が安定化され且つ失活がほとんどない状態で活性であり続ける。固定床反応器中では、典型的には約25日超、好ましくは約30日超の運転時間を実現できる。より好ましい実施態様においては、本発明の触媒は、ほとんど失活のない状態で約40日までの間運転された。
【0083】
活性が許容され得ないほど低いレベルまで低下したら、好ましい実施態様において本発明の触媒は再生できる。触媒を本明細書中に記載したヒドロ酸化法のために再活性化させるならば、当業者に一般に知られている任意の触媒再生法を本発明の触媒に使用できる。1つの適当な再生方法は、酸素、水素、水、オゾン又はそれらの混合物及び任意的に前述の不活性ガスを含む再生ガスの雰囲気下で失活触媒を約150〜約500℃の温度において加熱することを含む。好ましい再生温度は約200〜約400℃の範囲である。好ましくは、酸素、水素又は水が再生ガスの約2〜約100モル%を構成する。再生時間は使用する再生剤によって異なるが、典型的には約2分超〜約20時間までの範囲であることができる。
【0084】
本発明は、以下の実施例を考察することによって更に明確になるであろう。これらの実施例は本発明の使用を単に例示することを目的とする。本発明の他の実施態様は、当業者には、本明細書又は本明細書中に開示した本発明の実施を考察することによって明らかとなるであろう。特に断らない限り、全ての百分率はモル%に基づいて示してある。
【0085】
以下の分析方法を、触媒前駆体及び触媒組成物の確認に用いる。
【0086】
元素分析: Au、Ti、Si及び促進剤金属濃度は中性子放射化分析(NAA)によって、PはX線螢光(XRF)によって測定する。
【0087】
TEM標本作成: 触媒粒子(14/30 U.S.メッシュ;1410/595μm)を圧潰し、T.Pellaから購入した、レイシーカーボン(lacey-carbon)担体メッシュを有するCu TEMグリッド(例えばカタログ番号01883)上に分散させる。
【0088】
分析TEMのための計測装置: 電解放射電子銃(field emission gun)TEM(JEOL 2010F Serial no.EM138714−25)を、従来のTEMモード及び暗視野モードの両方でナノ多孔質担体上の金属ナノ粒子の画像化に使用する。TEMは、加速電圧200keVで操作する。
【0089】
従来のTEM画像を、Gatanマルチスキャン・デジタルカメラ(Model MSC794)を用いて記録する。高角度環状暗視野(HAADF)画像も、Gatan Digiscanソフトフェアを用いて512×512又は1024×1024ピクセルの画像サイズで取り込む。
【0090】
結晶質チタノ珪酸塩触媒担体の一般的合成法
Si 1.0:Ti 0.0067:H2O 25:TPA 0.16のモル組成を有する水性反応混合物中でテトラエチルオルトシリケート(TEOS)、チタンn−ブトキシド及びテトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(TPAOH)を用いて、チタノ珪酸塩担体のナノメーターサイズの結晶(最大寸法約/平均500nm)を合成する。窒素をパージした50LカーボイにTEOS(20.11kg)を加える。それとは別に、窒素をパージしたボックス中の撹拌容器中に、TEOS(1.84kg)及びTi−ブトキシド(239.5g)を加える。この容器中の混合物を次に、TEOSを含む前記50Lカーボイ中に注ぐ。カーボイをシールし、振盪することによって激しく混合する。第2の50Lカーボイ中で、脱イオン水(41.79kg)をTPAOH(8.57kg)と混合する。TPAOH/H2O混合物をシールし、激しく混合する。得られたTPAOH/H2O溶液を一晩冷蔵庫に入れ、今後の使用まで氷上に置くことによって低温に保つ。
【0091】
Ti−ブトキシド/TEOS混合物を、−5℃の温度に設定されたジャケットを有する、窒素がパージされた反応器中に真空装填によって加える。冷却されたTPAOH/H2O溶液を、約65分間にわたって150rpmで撹拌しながら反応器中にポンプ注入する。移し終えたら、反応器を60〜65℃に加熱する(約20分間にわたって)。この温度を4.5時間保持する。温度を最大加熱速度で160℃まで増加させ(約50分)、96時間保持する。次いで、反応器を、チタノ珪酸塩結晶の回収のために20℃に冷却する。
【0092】
チタノ珪酸塩結晶は、フロキュレーションによって回収する。1.0M HNO3溶液を用いて、激しい撹拌とpH監視を同時に行いながら酸をゆっくり添加することによって、前記合成溶液の生成物を8.0±0.2のpHに調整する。pH調整後、スラリーを約300〜600rpmで遠心分離する。pHを調整したスラリーを、ポリエチレン遠心分離布フィルターバッグに通して濾過して、結晶を回収する。母液を再循還させ、総固形分の約96%が回収されるまで、遠心分離バッグに複数回通す。次に、新鮮な脱イオン水を固体ケークに通して、過剰のTPAOH及び未反応前駆体を洗い流す。湿潤固体ケークを新鮮な脱イオン水中に分散させる。結晶が分散されたら、懸濁液を室温で連続攪拌する。前述のようにして遠心分離を行った後に、湿潤固形分を取り出し、空気雰囲気中で80℃において乾燥させることによって、最終固体を回収する。得られた固形分を圧潰し、篩にかけて、14/30 U.S.メッシュフラクション(1410/595μm)を単離する。この物質をマッフル炉中において空気中で以下のようにして焼成する:室温から550℃まで2.5℃/分で昇温させ、続いて550℃に10時間保持し、続いて室温まで自冷させる。この操作を静的モードで実施する。即ち、炉に意図的には空気流を導入しない。生成物は、XRDによって測定した場合に、MFI構造の多孔質チタノ珪酸塩物質を含む。チタノ珪酸塩生成物は、NAAによって測定した場合に、150:1のバルクSi:Ti比を示す。
【0093】
実施例1
前述のようにして製造したナノ多孔質チタノ珪酸塩担体のサンプルを110℃において1時間オーブン乾燥させる。水(75g)及びNaOAc(0.737g)を混合することによって、酢酸ナトリウム(NaOAc)水溶液を製造する。NaOAc溶液(70.01g)を、添加の間中振盪しながら、チタノ珪酸塩担体(100.00g)を含むフラスコ中に滴加する。フラスコを真空オーブンに移し、室温で30分間真空下に置き、続いて振盪及び室温で30分間の真空適用を2サイクル行う。次いで、サンプルを真空下で70℃(±5℃,昇温時間25分)まで加熱し、1時間保持する。加熱を停止し、サンプルを室温まで冷却し、一晩真空下に保持する。真空オーブンを窒素でパージし、サンプルを取り出す。この物質を14/30 U.S.メッシュ(1410/595μm)に再分粒し(re-size)、瓶に詰める。
【0094】
NaOAc含浸チタノ珪酸塩担体の一部を110℃において1時間オーブン乾燥させる。Au9(PPh38(NO33(0.0040g)をアセトン(2.873g)及びメタノール(0.900g)と混合することによって、金−配位子クラスター溶液を製造する。金−配位子クラスター溶液(0.738g)を、NaOAc−含浸チタノ珪酸塩担体(1.10g)に加える。サンプルにカバーをし、50分間放置し、次いで真空オーブンに移し、続いて100℃において30分間真空下で加熱する。次に、サンプルを室温まで冷却し、一晩真空下に保持して、触媒前駆体組成物を生成する。元素分析: Au,267±5ppm;Na,1690±90ppm;Ti,4770±90ppm;Si,43±1%;P,31±5ppm。
【0095】
触媒前駆体組成物を処理して、本発明の触媒を形成する。これを以下のようにしてプロピレンのプロピレンオキシドへのヒドロ酸化において試験する。触媒前駆体組成物(0.5g)を固定床連続流通反応器に装填し、以下のようにして状態調整して本発明の触媒を形成する。ヘリウム中10体積%の水素の流れを開始する。反応器を室温から250℃まで120℃/時の速度で加熱し、250℃に1時間保持し、次いで100℃まで冷却する。次に、反応器にヘリウムを供給し、160℃に加熱し、1時間保持する。その後、温度を140℃まで低下させ、次いでプロピレン、酸素及び水素からなる供給材料(プロピレン30%、酸素10%、残りはヘリウム;空間速度250cc/分;100psig(690kPa))を導入する。温度を140℃に8時間保持し、8時間にわたって160℃に温度を増加させ、次いで更に温度を最大で約240℃まで増加させながら、触媒評価を実施する。生成物は、オンライン・ガスクロマトグラフを用いて分析する。結果を表Iに示し、図1及び2にグラフで示してある。プロピレン転化率、ピロピレンオキシド選択率及び水/プロピレンオキシド累積モル比の測定値を、全運転時間にわたって概ね1時間毎に取る。表及び図中に示した測定値は、運転の開始から概ね12時間毎及び24時間毎に(又は1日2回)記録した値である。
【0096】
【表1】

【0097】
【表2】

【0098】
使用触媒の元素分析は、以下の組成を明らかにしている:Au,230±5ppm;Na,1670±90ppm;Ti,4670±90ppm;Si,42±1%;P,5±2ppm。
【0099】
結果は、230℃を超える運転温度において約41日間の運転時間にわたって約89モル%の実質的に横ばいのプロピレンオキシド選択率を示す。H2O/PO累積モル比は、同じ41日の期間の間にわずか4.3から約5.2までゆっくりと上昇する。転化率は初期増加及びピーク、次いで定常であるがゆっくりした低下を示す。
【0100】
実施例2
前述のようにして製造したチタノ珪酸塩担体の一部を110℃において1時間オーブン乾燥させる。水(4.979g)及びCsOAc(0.052g)を混合することによって、酢酸セシウム(CsOAc)水溶液を製造する。CsOAc溶液(1.54g)を、チタノ珪酸塩担体(2.20g)に滴加する。サンプルを真空オーブンに移し、真空下で70℃に加熱し、1時間保持する。加熱を停止し、サンプルを室温まで冷却させ、一晩真空下に保持する。真空オーブンを窒素でパージし、サンプルを取り出し、瓶に詰める。
【0101】
CsOAc含浸チタノ珪酸塩担体の一部を110℃において1時間オーブン乾燥させる。Au9(PPh38(NO33(0.0040g)をアセトン(2.873g)及びメタノール(0.900g)と混合することによって、金−配位子クラスター溶液を製造する。得られた金−配位子クラスター溶液(0.742g)を、CsOAc/チタノ珪酸塩担体(1.10g)に加える。サンプルにカバーをし、50分間保持する。次いで、サンプルを真空オーブンに移し、続いて100℃において30分間真空下で加熱する。次に、サンプルを室温まで冷却し、一晩真空下に保持して、触媒前駆体組成物を生成する。元素分析: Au,233±5ppm;Cs,4340±90ppm;Ti 4720±90ppm;Si,41±1%;及びP,24±3ppm。触媒前駆体組成物を、プロピレンヒドロ酸化反応器中で状態調整して、本発明の触媒組成物を得る。これを、プロピレンのヒドロ酸化において試験する。状態調整及びヒドロ酸化はいずれも実施例1に記載したようにして行う。結果を表IIに示し、図3及び4にグラフで示してある。
【0102】
【表3】

【0103】
【表4】

【0104】
使用触媒の元素分析は、以下の組成を明らかにしている:Au,230±5ppm;Cs,4220±90ppm;Ti,4790±90ppm;Si,41±1%;P,検出できず。使用触媒のTEMはメジアン粒径4.4nmの金ナノ粒子を示している。
【0105】
結果は、220℃を超える運転温度において約41日間の運転時間にわたって約91モル%の実質的に横ばいのプロピレンオキシド選択率を示す。H2O/PO累積モル比は、同じ41日の期間の間に3.8から約4.4までごくわずかに上昇する。転化率は初期増加及びピーク、次いで定常であるがゆっくりした低下を示す。
【0106】
実施例3
実施例2に記載したようにして製造したCsOAc含浸チタノ珪酸塩担体の一部を110℃において1時間オーブン乾燥させる。Nanogold(登録商標)銘柄のAu−配位子クラスター錯体(30nmol;1.4nm金粒子,Nanoprobes,Incorporated,Catalog no.2010)を冷メタノール(0.81g)と共に振盪することによって、金クラスター溶液を製造する。この溶液を冷凍庫中に5分間入れ、次いで溶液の全容量をCsOAc/チタノ珪酸塩担体(1.2g)に加える。サンプルにカバーをして、冷凍庫中で1時間保持する。サンプルを真空オーブンに移し、室温に1時間保持し、約30分にわたって105℃に加熱し、105℃に60分間保持し、室温に冷却し、次いで一晩真空下に保持して、本発明の触媒前駆体組成物を生成する。元素分析: Au,286±5ppm;Cs,4380±90ppm;Ti,4870±90ppm;Si,42±1%;P,15±3ppm。次に、触媒前駆体組成物を反応器中で状態調整して、本発明の触媒組成物を得る。これを、プロピレンのヒドロ酸化において試験する。状態調整及びヒドロ酸化はいずれも実施例1に記載したようにして行う。結果を表IIIに示し、図5及び6にグラフで示してある。
【0107】
【表5】

【0108】
【表6】

【0109】
使用触媒の元素分析は、以下の組成を明らかにしている:Au,278±5ppm;Cs,4250±90ppm;Ti,4450±90ppm;Si,40±1%;P,12±3ppm。使用触媒のTEMはメジアン粒径2.3nmの金ナノ粒子を示している。
【0110】
結果は、200℃を超える運転温度において約25日間の運転時間の間中、95モル%超又は95モル%に近い、高いプロピレンオキシド選択率を示す。概ね最初の4日後に、反応温度の調節によって、転化率を約2%に保持する。水/PO累積モル比は20日超にわたって4未満であり続ける。
【0111】
実施例4
金−貴金属−配位子クラスター錯体(PPh3)Pt(AuPPh36(NO32を、Mueting,A.M.,et al.,Inorganic Syntheses(1992),29,279-98に記載された既刊文献法によって製造する。クラスター錯体(5.0mg)をガラスバイアル中で塩化メチレン(10g)に溶解させ、それに酢酸ナトリウム(1.35重量%)を含む結晶質チタノ珪酸塩(1.00g)を加える。結晶質チタノ珪酸塩は、前記実施例1において使用したチタノ珪酸塩と同様である。固体を溶液中で手動で旋回させ、その間にクラスター化合物をチタノ珪酸塩に吸着させる。過剰の塩化メチレン溶液をデカントして固体を分離し、触媒前駆体組成物を乾燥皿上に単離する。前駆体組成物を空気下で4時間乾燥させ、続いて真空オーブン中で70℃において1時間乾燥させる。固体(0.50g)を管型反応器(316SS;外径0.25インチ)中に装填し、流動He下で160℃において1時間乾燥させて、本発明の触媒を形成する。140℃に冷却後、圧力を100psig(690kPa)ではなく94psig(648kPa)にする以外は前記実施例1と同様にして、触媒をプロピレンのヒドロ酸化において評価する。結果を表IV及び図7に示す。
【0112】
【表7】

【0113】
【表8】

【0114】
これらのデータは、混合Au−Pt−ホスフィン配位子クラスター錯体から製造した触媒が、始動後、最大69.9時間までの運転時間の間中、9〜約10%のプロピレン転化率をもたらすことを示している。プロピレンオキシドへの選択率は10%以下であり;プロパンが主な生成物である。重要なことは、始動後に、H2O/PO累積モル比が69.9時間の運転時間の間中、6〜7で定常であり続ける。
【0115】
実施例5
実施例2に記載したようにして製造したCsOAc含浸チタノ珪酸塩担体の一部を136℃において1時間オーブン乾燥させる。Positively Charged Nanogold(登録商標)Au−配位子クラスター錯体(30nmol;分子当たり数個の第一アミン基を含む1.4nm金粒子,Nanoprobes,Incorporated,Catalog no.2022)を冷メタノール(1.403g)と混合することによって、金クラスター溶液を製造する。次に、この溶液(0.77g)をCsOAc/チタノ珪酸塩担体(1.10g)に加える。サンプルにカバーをして、室温に30分間保持する。サンプルを真空オーブンに移し、100℃に加熱し、100℃に60分間保持し、室温に冷却し、次いで一晩真空下に保持して、本発明の触媒前駆体組成物を生成する。次いで、触媒前駆体組成物を反応器中で状態調整して、本発明の触媒組成物を形成する。これを、プロピレンのヒドロ酸化において試験する。状態調整及びヒドロ酸化はいずれも実施例1に記載したようにして行う。結果を表Vに示し、図8及び9にグラフで示してある。
【0116】
【表9】

【0117】
実施例6
Positively Charged Nanogold(登録商標)Au−配位子クラスター錯体の代わりに、Negatively Charged Nanogold(登録商標)Au−配位子クラスター錯体(30nmol;分子当たり複数個のカルボン酸基を含む1.4nm金粒子,Nanoprobes,Incorporated;Catalog no.2023)を用いる以外は、実施例5を繰り返す。結果を表6並びに図10及び11に示す。
【0118】
【表10】

【0119】
実施例7
実施例2に記載したようにして製造したCsOAc含浸チタノ珪酸塩担体の一部を136℃において1時間オーブン乾燥させる。Au55[P(C65312Cl6(0.0040g;Strem Chemicals,Incorporated)をクロロホルム(4.616g)と混合することによって、金クラスター溶液を製造する。次に、この溶液(1.420g)をCsOAc/チタノ珪酸塩担体(1.20g)に加える。サンプルにカバーをして、室温に約50分間保持する。サンプルを真空オーブンに移し、100℃に加熱し、100℃に30分間保持し、室温に冷却し、次いで一晩真空下に保持して、本発明の触媒前駆体組成物を生成する。触媒前駆体組成物を反応器中で状態調整して、本発明の触媒組成物を形成する。これを、プロピレンのヒドロ酸化において試験する。状態調整及びヒドロ酸化はいずれも実施例1に記載したようにして行う。結果を表VII並びに図12及び13示す。
【0120】
【表11】

【0121】
実施例8
実施例2に記載したようにして製造したCsOAc含浸チタノ珪酸塩担体の一部を136℃において1時間オーブン乾燥させる。水(4.704g)と酢酸バリウム(0.0131g)を混合することによって、酢酸バリウム水溶液を製造する。酢酸バリウム溶液(0.387g)をCsOAc/チタノ珪酸塩担体(0.55g)に加える。サンプルを真空オーブンに移し、真空下で70℃に加熱し、1時間保持する。加熱を停止し、サンプルを室温まで冷却し、一晩真空下に保持する。CsOAc/酢酸バリウム/チタノ珪酸塩担体の一部を136℃において1時間オーブン乾燥させる。Nanogold(登録商標)Au−配位子クラスター錯体(30nmol;1.4nm金粒子,Nanoprobes,Incorporated;Catalog no.2010)を冷メタノール(2.185g)と混合することによって金クラスター溶液を製造する。次に、この溶液(0.375g)をCsOAc/酢酸バリウム/チタノ珪酸塩担体(0.55g)に加える。サンプルにカバーをして、冷凍庫中で50分間保持する。サンプルを真空オーブンに移し、100℃に加熱し、100℃に60分間保持し、室温に冷却し、次いで一晩真空下に保持して、本発明の触媒前駆体組成物を生成する。次に、触媒前駆体組成物を反応器中で状態調整して、本発明の触媒組成物を形成する。これを、プロピレンのヒドロ酸化において試験する。状態調整及びヒドロ酸化はいずれも実施例1に記載したようにして行う。結果を表VIII並びに図14及び15に示す。
【0122】
【表12】

【0123】
実施例9〜16
以下のようにして一連の触媒を製造する。前述のようにして製造したチタノ珪酸塩担体の一部を136℃において1時間オーブン乾燥させる。水(5g)と以下のアルカリ金属塩:実施例9:酢酸リチウムLiOAc、0.018g;実施例10:酢酸ナトリウムNaOAc,0.0224g;実施例11:酢酸カリウムKOAc,0.0271g;実施例12:酢酸ルビジウムRbOAc,0.0390g;実施例13:炭酸セシウムCs2CO3,0.0440g;実施例14:蟻酸セシウムCsOCH(O),0.048g;実施例15:炭酸水素セシウムCsHCO3,0.054g;及び実施例16:シュウ酸セシウム,0.048gを混合することによって、アルカリ金属塩水溶液を製造する。アルカリ金属塩水溶液を、湿潤度70重量%の含浸でチタノ珪酸塩担体に加える。サンプルを真空オーブンに移し、真空下で室温に30分間保持し、真空下で70℃加熱し、次いで真空下で70℃に1時間保持する。加熱を停止し、サンプルを室温まで冷却させ、一晩真空下に保持する。アルカリ金属塩含浸チタノ珪酸塩担体の一部を136℃において1時間オーブン乾燥させる。Nanogold(登録商標)Au−配位子クラスター錯体(Nanoprobes,Incorporated;Catalog no.2010;1.4nm金粒子;実施例9〜12については60nmol;実施例13〜16については30nmol)を冷メタノール(2.173g)と混合することによって金クラスター溶液を製造する。次に、この溶液(0.36〜0.39g)をアルカリ金属塩含浸チタノ珪酸塩担体(0.56g)に加える。サンプルにカバーをして、冷凍庫中で約90分間保持する。サンプルを真空オーブンに移し、100℃に加熱し、100℃に30分間保持し、室温に冷却し、次いで一晩真空下に保持して、本発明の触媒前駆体組成物を生成する。次に、触媒前駆体組成物を反応器中で状態調整して、本発明の触媒組成物を形成する。これを、プロピレンのヒドロ酸化において試験する。状態調整及びヒドロ酸化は実施例1に記載したようにして行う。結果を各触媒に関して表IX及びXに示す。
【0124】
【表13】

【0125】
【表14】

【0126】
実施例17
前述のようにして製造したチタノ珪酸塩担体の一部を136℃において1時間オーブン乾燥させる。水(5.022g)と塩化セシウム(CsCl)(0.0454g)を混合することによって、CsCl水溶液を製造する。CsCl溶液(1.053g)をチタノ珪酸塩担体(1.50g)に加える。サンプルを真空オーブンに移し、真空下で室温に30分間保持し、真空下で70℃に加熱し、次いで真空下で70℃に1時間保持する。加熱を停止し、サンプルを室温まで冷却させ、一晩真空下に保持する。CsCl/チタノ珪酸塩担体の一部を136℃において1時間オーブン乾燥させる。Nanogold(登録商標)Au−配位子クラスター錯体(30nmol;1.4nm金粒子;Nanoprobes,Incorporated;Catalog no.2010)を冷メタノール(2.155g)と混合することによって、金クラスター溶液を製造する。次に、この溶液(0.373g)をCsCl/チタノ珪酸塩担体(0.55g)に加える。サンプルにカバーをして、冷凍庫中で約60分間保持する。サンプルを真空オーブンに移し、100℃に加熱し、100℃に30分間保持し、室温に冷却し、次いで一晩真空下に保持して、本発明の触媒前駆体組成物を生成する。次に、触媒前駆体組成物を反応器中で状態調整して、本発明の触媒組成物を形成する。これを、プロピレンのヒドロ酸化において試験する。状態調整及びヒドロ酸化はいずれも前記実施例1に記載したようにして行う。結果を表XIに示す。
【0127】
【表15】

【0128】
実施例18
塩化セシウム(0.0228g)及び酢酸セシウム(0.0261g)を水(5.001g)と混合し且つ得られたCsCl/CsOAc溶液(1.047g)を実施例17の塩化セシウム溶液の代わりにチタノ珪酸塩担体上に含浸させる以外は、実施例17を繰り返す。結果を表XIに示す。
【0129】
実施例19
水(35.013g)とトリフルオロ酢酸セシウム(Fluka,6M,0.304mL)を混合することによって溶液を製造し且つ得られたトリフルオロ酢酸セシウム溶液(1.395g)を実施例17の塩化セシウム溶液の代わりにチタノ珪酸塩担体(2.00g)上に含浸させる以外は、実施例17を繰り返す。結果を表XIに示す。
【0130】
実施例20
以下のようにして酢酸セシウム及びトリフルオロ酢酸セシウムを含む溶液を製造し且つ塩化セシウム溶液の代わりにチタノ珪酸塩上に沈着させる以外は、実施例17を繰り返す。水(35.013g)とトリフルオロ酢酸セシウム(Fluka,6M,0.304mL)を混合することによって、トリフルオロ酢酸セシウム水溶液を製造する。水(17.500g)と酢酸セシウム(0.1830g)を混合することによって、酢酸セシウム水溶液を製造する。前記トリフルオロ酢酸セシウム溶液2.5mLと前記酢酸セシウム溶液2.5mLを混合することによって、酢酸セシウムとトリフルオロ酢酸セシウムの混合溶液を製造する。次いで、混合溶液(1.397g)をチタノ珪酸塩(2.00g)上に沈着させ、実施例17の操作を、本質的に変更することなく続ける。結果を表XIに示す。
【0131】
実施例21
実施例2に記載したようにして製造したCsOAc含浸チタノ珪酸塩担体の一部を500℃において1時間焼成する。Au55[P(C65312Cl6(0.0040g;Strem Chemicals,Incorporated)をクロロホルム(4.616g)と混合することによって、金クラスター溶液を製造する。次に、この溶液(1.442g)を焼成担体(1.20g)に加える。サンプルにカバーをして、室温に約50分間保持する。サンプルを真空オーブンに移し、100℃に加熱し、100℃に30分間保持し、室温に冷却し、次いで一晩真空下に保持して、本発明の触媒前駆体組成物を生成する。次に、触媒前駆体組成物を反応器中で状態調整して、本発明の触媒組成物を形成する。これを、プロピレンのヒドロ酸化において試験する。状態調整及びヒドロ酸化はいずれも実施例1に記載したようにして行う。結果を表XIIに示す。
【0132】
【表16】

【0133】
比較実験1
先行技術のヒドロ酸化触媒を、クロロ金酸から製造し、等温プロセス条件下における水素の存在下での酸素によるプロピレンのヒドロ酸化において評価する。前記実施例1に記載したようにして製造したチタノ珪酸塩担体の一部を110℃において1時間オーブン乾燥させる。水(5.01g)、酢酸ナトリウム(0.098g)及びテトラクロロ金(III)酸三水和物(hydrogen tetrachloroaurate trihydrate)(HAuCl4・3H2O,0.022g)を混合することによって、水溶液を製造する。金溶液(0.772g)をチタノ珪酸塩担体(1.10g)に加える。サンプルを真空オーブンに移し、70℃に加熱し、次いで真空下で70℃に1時間保持する。加熱を停止し、サンプルを室温まで冷却させ、一晩真空下に保持する。次に、サンプルを前記実施例1に記載したようにしてプロピレンのヒドロ酸化において試験する。反応器の温度を160℃に上昇させ、運転期間中、同温度に保持する。結果を表XIII並びに図16及び17に示す。
【0134】
【表17】

【0135】
表XIII並びに図16及び17を、本発明に代表的な前記表及び図と比較すると、本発明の触媒に比較して、先行技術の触媒の活性は速く劣化し、水/PO累積比が速く増加することがわかる。
【0136】
比較実験2
先行技術のヒドロ酸化触媒を、クロロ金酸から製造し、本質的に一定なプロピレン転化率下で運転を行うために温度調節を用いる、水素の存在下での酸素によるプロピレンのヒドロ酸化において評価する。前記実施例1に記載したようにして製造したチタノ珪酸塩担体の一部を110℃において1時間オーブン乾燥させる。水(5.00g)、酢酸ナトリウム(0.098g)及びテトラクロロ金(III)酸三水和物(0.022g)を混合することによって、水溶液を製造する。この溶液(1.40g)をチタノ珪酸塩担体(2.00g)に加える。サンプルを真空オーブンに移し、70℃に加熱し、次いで真空下で70℃に1時間保持する。加熱を停止し、サンプルを室温まで冷却させ、一晩真空下に保持する。次に、サンプルを実施例1に記載したようにしてプロピレンのヒドロ酸化において試験する。反応器の温度を種々の間隔で上昇させて、プロピレン転化率を概ね1.5〜2.1%に保持する。結果を表XIV並びに図18及び19に示す。
【0137】
【表18】

【0138】
表XIV並びに図18及び19を、本発明に代表的な前記表及び図と比較すると、本発明の触媒に比較して、先行技術の触媒の活性は速く劣化し、水/PO累積比が速く増加することがわかる。
【0139】
実施例22〜24
3種の混合金属クラスター触媒を以下のようにして製造する。塩化メチレン(15mL)を混合金属クラスター錯体:実施例22−Pt(AuPPh38(NO32,16mg;実施例23−Pt(AuPPh38Ag(NO33,15mg;実施例24−Pt(AuPPh37Ag2(NO33,14mgと混合することによって、クラスター錯体溶液を製造する。実施例4に記載したようにして製造したNaOAc含浸チタノ珪酸塩担体の一部(2.00g)を激しく振盪しながら、前記クラスター錯体溶液に加え、過剰の液体をデカントによって除去する。サンプルをフード中で1時間乾燥させ、続いて70℃において1時間真空乾燥させる。触媒前駆体を、実施例1に記載したようにしてプロピレンのヒドロ酸化において試験し、結果を表XVに示す。
【0140】
【表19】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒前駆体の形成に充分な条件下で、金−配位子クラスター錯体をチタン含有担体上に沈着させ、次いで触媒の形成に充分な条件下で、前記触媒前駆体を加熱及び/又は化学処理することによって製造された、ナノ多孔質チタン含有担体の粒子上に沈着された金ナノ粒子を含んでなる触媒組成物。
【請求項2】
前記金の80重量%超が金属状の金である請求項1に記載の触媒組成物。
【請求項3】
前記金ナノ粒子が0.8nm〜8nm未満の範囲のメジアン粒径を有する請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記金ナノ粒子の90%超がナノ多孔質チタン含有担体粒子の外面上に存在し、前記担体が0.2〜1nmの範囲の細孔径を有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記金を、触媒の総重量に基づき、10ppm超で且つ20,000ppm未満の量で担体上に担持させる請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記ナノ多孔質チタン含有担体が50m2/g超の表面積を有する請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
前記ナノ多孔質チタン含有担体がTS−1、TS−2、Ti−β、Ti−MCM−41、Ti−MCM−48、Ti−SBA−15及びTi−SBA−3からなる群から選ばれたナノ多孔質チタノ珪酸塩である請求項1〜6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
前記ナノ多孔質チタノ珪酸塩がMFI結晶構造及び5:1超〜1,000:1未満のSi:Ti原子比を有する請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
チタン含有担体上のチタンの担持が、担体及び任意のバインダーの重量に基づき、0.02重量%超〜35重量%未満である請求項1〜8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
前記触媒が、シリカ、アルミナ、アルミノ珪酸塩、チタニア、マグネシア、炭素又はそれらの混合物から選ばれた第2担体又は結合剤に結合され;且つ任意的に、触媒−第2組合せ担体がビーズ、ペレット、球、ハニカム、モノリス、押出物又はフィルムの形態で提供される請求項1〜9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
前記触媒が銀、第1族、第2族、ランタニド系希土類及びアクチニド系元素並びにそれらの組合せから選ばれた少なくとも1種の促進剤を、触媒組成物の重量に基づき、任意的に、0.001重量%超〜20重量%未満の範囲の量で更に含む請求項1〜10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
前記促進剤が銀、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、エルビウム、ルテニウム及びそれらの組合せから選ばれる請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記配位子が有機燐化合物、チオレート、チオール、アミン、イミン、アミド、イミド、一酸化炭素、ハロゲン化物及びそれらの混合物から選ばれる請求項1〜12のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項14】
前記金クラスターがAu3、Au4、Au5、Au6、Au7、Au8、Au9、Au10、Au11、Au12、Au13、Au(20±2)、Au(55±5)及びAu(101±10)及びそれらの混合物からなる群から選ばれ;且つ任意的に、前記クラスターが更に銀を含む請求項1〜13のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項15】
前記金−配位子クラスター錯体が、(Ph3PAu)3OBF4、[(AuPPh33O]PF6、Au5(PPh34Cl、Au6(PPh36(BF42、Au6(PPh36(NO32、Au6(PPh36(PF62、Au8(PPh38(NO32、Au8(PPh37(NO32、Au9(PPh38(NO33、Au10(PPh35(C654、Au11Cl3{(m−CF3643P}7、Au11(PPh37(PF63、[Au13(PMe2Ph)10Cl2](PF63、Au13(PPh34[S(CH211(CH3)]4、[Au13(PPh2CH2PPh26](NO34、Au55(Ph2PC64SO3Na・2H2O)12Cl6、Au55(PPh312Cl6(前記金配位子錯体は約1.4nmの金平均粒径を有する)及びそれらの混合物から選ばれる(ここで前記錯体中のPhはフェニルであり、Meはメチルである)請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
前記金−配位子クラスター錯体がルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム及び白金並びにそれらの混合物から選ばれる貴金属を更に含み、且つ任意的に銀を更に含む請求項1〜14のいずれかに記載の組成物。
【請求項17】
前記金―配位子クラスター錯体が[(PPh3)(CO)Pt(AuPPh36](PF62、[(PPh3)Pt(AuPPh36](NO32、[Pd(AuPPh38](NO32、[H4(PPh32Re(AuPPh35](PF62、[PPh3Pt(AuPPh36](PF62、[H(PPh3)Pt(AuPPh37](NO3)、[Pt(AuPPh37(Ag)2](NO33、[Pd(AuPPh38](PF62、[Pt(AuPPh38](NO32、[Pt(AuPPh38](PF62、[(PPh3)Pt(AuPPh38(Ag)](NO32及び[Pt2(AuPPh310(Ag)13]Cl7並びにそれらの混合物から選ばれる請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
前記触媒前駆体が不活性雰囲気で100〜800℃の温度において加熱されたか、又は前記触媒前駆体が100〜800℃の温度において酸化剤下で処理されるか若しくは還元剤下で処理された請求項1〜17のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項19】
前記還元剤が水素、C1〜C10アルケン、水素化ホウ素ナトリウム、ジボラン、亜硝酸ナトリウム、ホルムアルデヒド、一酸化炭素、シュウ酸、過酸化水素及びそれらの混合物から選ばれるか;又は前記酸化剤が酸素、空気、オゾン、窒素酸化物、過酸化水素及びそれらの混合物から選ばれる請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
オレフィンオキシドの形成に充分な反応条件下で、水素及び請求項1〜19のいずれか1項に記載の組成物を含む触媒の存在下において、炭素数が少なくとも3のオレフィンを酸素と接触させることを含んでなるオレフィンオキシドの製造方法。
【請求項21】
前記オレフィンがC3〜C12モノオレフィン又はジオレフィンである請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記オレフィンがプロピレン、ブタジエン、シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエン、スチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン、アリルアルコール、ジアリルエーテル、アリルエチルエーテル、酪酸アリル、酢酸アリル、アリルベンゼン、アリルフェニルエーテル、アリルプロピルエーテル、アリルアニソール及びそれらの混合物から選ばれる請求項20又は21に記載の方法。
【請求項23】
前記オレフィンを1モル%超〜99モル%未満の量で使用し、前記酸素を0.01モル%〜30モル%未満の量で使用し且つ前記水素を0.01モル%超〜50モル%未満の量で使用する(ここで前記量はオレフィン、酸素、水素及び使用する場合には希釈剤の総モルに基づく)請求項20〜22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記方法を気相中で実施する場合には、ヘリウム、窒素、アルゴン、メタン、二酸化炭素、スチーム及びそれらの混合物からなる群から選ばれた希釈剤を使用し;又は前記方法を液相中で実施する場合には、C6〜C15芳香族炭化水素、塩素化C1〜C10炭化水素、C1〜C10脂肪族アルコール、塩素化C1〜C10アルカノール、C2〜C20エーテル並びに液体ポリエーテル、ポリアルコール及びポリエステルから選ばれた希釈剤を使用する請求項2〜24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
希釈剤を気相中で、オレフィン、酸素、水素及び希釈剤の総モルに基づき、0モル%超〜90モル%未満の量で使用するか;又は液体希釈剤(若しくは溶媒)を液相中で、オレフィン及び希釈剤の総合重量に基づき、5重量%超〜95重量%未満の量で使用する請求項20〜24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記ヒドロ酸化プロセスを160℃超〜300℃未満の温度及び大気圧〜500psig(3,448kPa)の圧力において実施する請求項20〜25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
前記ヒドロ酸化プロセスを気相中で10h-1超〜50,000h-1未満のオレフィンの気体毎時空間速度において実施するか;又は前記ヒドロ酸化プロセスを液相中で0.01h-1超〜100h-1未満のオレフィンの重量毎時空間速度において実施する請求項20〜26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
前記ヒドロ酸化プロセスを、回分反応器、固定床反応器、輸送床反応器、移動床反応器、流動床反応器、細流床反応器、シェル&チューブ反応器、連続流通反応器、不連続流通反応器及びスイング反応器から選ばれた反応器中で実施する請求項20〜27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
ナノ多孔質チタノ珪酸塩担体の粒子上に沈着された金−配位子クラスター錯体を含んでなる触媒前駆体組成物。
【請求項30】
前記金―配位子クラスター錯体が0.54nm±0.04nmより大きい直径(又は最大寸法)を有する請求項29に記載の触媒前駆体組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公表番号】特表2010−510048(P2010−510048A)
【公表日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−537275(P2009−537275)
【出願日】平成19年11月7日(2007.11.7)
【国際出願番号】PCT/US2007/083859
【国際公開番号】WO2008/063880
【国際公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【出願人】(502141050)ダウ グローバル テクノロジーズ インコーポレイティド (1,383)
【Fターム(参考)】