説明

金属の分離

本発明は混合酸化物試料中に金属酸化物として含まれる金属の分離のための、(i)融解塩の電解質に混合酸化物を添加し、酸化物を陰極で電気分解すること(ここで陰極のポテンシャルが融解塩中に存在するカチオンからの金属の析出より酸素のイオン化を優先するように制御され、適用される電位差が他の金属酸化物を犠牲にして1金属酸化物の選択的還元を容易にするようなものである)、および(ii)遷移金属、ランタニドもしくはアクチニド系の少なくとも1種からの金属の酸化物を含んで成る残りの金属酸化物から金属を分離すること、を含んで成る方法を提供する。その方法は2種以上の金属酸化物の混合物を含んで成る混合酸化物試料に適用でき、そして特別の適用は混合ジルコニウムおよびハフニウム酸化物中に含まれるジルコニウムおよびハフニウムの分離にあり、そこでハフニウムの除去は原子力発電産業における使用のための燃料被覆加工におけるジルコニウムの使用を容易にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属酸化物の混合物からの金属の分離法に関し、他の金属が酸化物の形態で残りながら、特定の酸化物の金属への選択的還元を基にする。本発明の方法は遷移金属、ランタニドおよびアクチニド類の分離に特別の用途を見いだす。
【背景技術】
【0002】
先行技術は融解された塩媒体中の金属および金属酸化物の分離における融解された塩の使用を教示している。本明細書で使用される用語「融解された塩」は高温で融解する塩化リチウムのような塩および、更に室温で典型的には液体であるかもしくは約300℃までの温度で融解するイオン性液体を包含することが意図される。これらの方法は原子力産業に特別の用途を見いだし、そこで2種の十分に確立された方法が放射線照射済み核燃料の処置に利用可能である。
【0003】
これらの方法の第1のドミトロフグラード(Dimitrovgrad)SSC−RIAR法は粉末二酸化ウラン燃料と反応させるために化学的酸化剤(塩素および酸素ガス)を利用して、融解塩に可溶性の、UOClのようなより高度の酸化状態の化合物を形成する。電気化学セル中でウラン化合物は陰極でUOに還元されて、固体析出物を形成する。この方法は技術的および環境的双方の制限を有する。
【0004】
アルゴンヌ国立ラボラトリー(Argonne National Laboratory)(ANL)により開発された第2の方法は基本的には、陽極でウランを酸化するために電流を使用して、融解塩の電解質中にウランイオンを形成する電気精錬法である。陰極でウランは還元されてウラン金属として電着される。
【0005】
ANL法は金属供給物を必要とする。酸化物の燃料が処理されなければならない場合は、ウラン酸化物(通常UOペレット)を金属に還元する必要がある。この還元法は500〜600℃のLiClもしくはLiCl/KCl融解塩中のリチウム金属を使用して化学的に実施される。あるいはまた、Cu−Mg−Ca合金および融解CaCl塩を伴う塩輸送法を使用することができる。しかし、双方の還元法においては、副生成物LiOおよびCaOをそれぞれ、電気分解段階で融解塩の相から回収する必要がある。これは事実上2段階法を意味する。
【0006】
酸化物から金属供給物を生成するリチウム還元法の欠点はLiO副生成物の生成である。これは方法を経済的にするために再利用を必要とし、これはリチウム金属の電気分解による回収により実施される。従ってこれは還元段階、次にリチウム回収段階を含んで成る2段階法である。
【0007】
より最近、特許文献1において、金属酸化物を含んで成る電極が融解塩と接触され、融解塩のカチオンの析出ポテンシャルより低いポテンシャルが適用され、それにより金属酸化物からの酸素の除去を容易にさせる、金属酸化物からの酸素の除去のための方法が提唱されている(特許文献1参照)。
【0008】
その後、特許文献2中に使用済み核燃料中に存在する金属酸化物を金属形態に還元するための単一段階法が開示され、その方法は融解塩電解質の存在下で酸化物を陰極電気分解することを含んで成り、そこで陰極のポテンシャルは融解塩中に存在するカチオンからの金属の析出より酸素のイオン化を優先させるように制御される(特許文献2参照)。
【0009】
従ってその方法は副生成物としてのみ酸素、一酸化炭素および二酸化炭素を生成して、金属酸化物燃料を金属形態に還元するための一段階の電気化学法の使用を伴う。陰極のポテンシャルは融解塩中に酸素のイオン化のみが起り、カチオン(例えばCaイオン)の析出が起らないように維持、制御される。典型的には酸化物は酸化ウランもしくは照射済み酸化ウランのようなアクチニド酸化物を含んで成る。
【0010】
次にこの方法が開発され、原子力発電産業においてしばしば要請される使用済み核燃料中に存在するような金属酸化物の混合物からの金属の分離に適用された。従って他のアクチニド金属の酸化物と一緒にウランおよびプルトニウム酸化物の混合物は更に、例えば核分裂生成物と関連するような他の化学的に活性な金属の酸化物で汚染されるかも知れない。特許文献3は、一方で他のより強く正に帯電した金属が酸化物の形態で残ることを確保しながら、使用済み核燃料中に認められるような混合物からウランおよび、ウランより貴金属の金属の分離を可能にし、融解塩の電気精錬過程中の供給物としての使用に適した形態のこれらの金属の提供を容易にする、照射済み燃料の処理法を教示している(特許文献3参照)。
【0011】
しかし、本発明者は、原子力産業およびより広範な化学産業内双方において、金属酸化物の混合物からの金属の分離の要求がしばしば存在し、そしてこれらの産業内の確立された方法がしばしば、これらの分離能に不適切な方法を提供することを認識した。従って、一方では前記のような先行技術は大部分、原子力発電産業内への適用およびもっとも特別には、アクチニド金属を伴う方法に焦点を当ててきたが、広範な産業においてしばしば、その多数がアクチニド系の一員ではない広範な金属を分離することが必要である。
【0012】
従って、本発明は、他の金属が酸化物として残る一方で、1酸化物の遊離金属への還元をもたらす異なる酸化物の異なる還元ポテンシャルに基づく、金属の電気化学的分離方法を提供することを探求する。この方法で分離することができると考えられる金属の例には遷移金属、ランタニドおよびアクチニドが含まれる。
【特許文献1】欧州特許第1088113号明細書
【特許文献2】国際出願公開第01/41152号パンフレット
【特許文献3】英国同時係属特許出願(PCT/GB)第02/02402号明細書
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0013】
従って、本発明に従うと、金属酸化物として混合酸化物試料中に含まれる金属の分離法が提供され、ここでその方法は
(i)融解塩の電解質に混合酸化物を添加し、酸化物を陰極電気分解すること、そこで陰極のポテンシャルが融解塩中に存在するカチオンからの金属の析出より酸素のイオン化を優先するように制御され、そして適用された電位差がその他の金属酸化物を犠牲にして1種の金属酸化物の選択的還元を容易にするようなものであり、そして
(ii)残りの金属酸化物からその金属を分離すること、
を含んで成り、そこで金属酸化物が遷移金属、ランタニドもしくはアクチニド系のうちの少なくとも1種からの金属の酸化物を含んで成る。
【0014】
陰極のポテンシャルは、融解塩中で酸素のイオン化のみが起り、カチオン(例えばCaイオン)の析出が起らないように、そして更に1種の金属の還元が円滑に起る一方、他の金属が還元されずに陽極に酸化物として残ることを確保するように維持、制御される。生成される唯一の副生成物は酸素、一酸化炭素および二酸化炭素ガスである。
【0015】
その方法は混合酸化物試料中に酸化物として含まれる遷移、ランタニドおよびアクチニド系の多様な金属の分離に適用することができる。本方法の広範な有用性および多様性は2種以上の金属酸化物の混合物からの金属の分離へのその適用により具体的に示される。従って、前記の系の1、2、もしくは3種の酸化物を含んで成る混合酸化物試料中に酸化物として含まれる遷移、ランタニドおよびアクチニド系金属の分離に本発明の方法を適用することができる。言い換えると、本発明の方法は以下の組み合わせ物:
(a)遷移金属酸化物のみ、
(b)ランタニド酸化物のみ、
(c)アクチニド酸化物のみ、
(d)少なくとも1種の遷移金属酸化物および少なくとも1種のランタニド酸化物、
(e)少なくとも1種の遷移金属酸化物および少なくとも1種のアクチニド酸化物、
(f)少なくとも1種のランタニド酸化物および少なくとも1種のアクチニド酸化物、もしくは
(g)少なくとも1種の遷移金属酸化物および少なくとも1種ランタニド酸化物および少なくとも1種のアクチニド酸化物、
のいずれかを含んで成る混合酸化物試料からの金属の分離を容易にする。
【0016】
本方法の好ましい適用の特別の1例はジルコニウム酸化物の試料中に酸化物として存在するハフニウムの分離における例である。ジルコニウム金属はジルコニウム合金被覆加工において原子力発電産業で広範に使用される。しかし、ハフニウムは核反応容器中で毒として働き、従って被覆加工時のこの物質の取り込みの前にジルコニウム金属から除去しなければならないことは極めて重要である。その除去は、ハフニウム酸化物を不変に残しながら、ジルコニウム金属へのジルコニウム酸化物の還元を容易にするために適切な電位差が適用される本発明の方法により容易にされる。
【0017】
混合酸化物は任意の物理的形態にあることができ、これは概括的にそれがもたらされた特定の用途により左右される。例えばそれは不規則なサイズおよび形態の固形片として提供されるかも知れず、しかしまた、粉末、非晶質塊もしくは高密度の集塊を含んで成るかも知れない。とにかく、物質はそれが電気分解中陰極として働くような電気回路への接続により本発明の方法に従って処理することができる。回路への接続は当業者に周知の任意の標準法により実施することができる。
【0018】
混合酸化物は好ましくは電気化学セルの陰極と接触される。陰極は網のバスケットの形態であることができる。融解塩の電解質は任意の適切な融解塩もしくはそれらの塩の混合物、例えば塩化物塩、好ましくはCaClおよび/もしくはBaClであることができる。陽極は炭素のような任意の適切な不活性陽極であることができる。
【0019】
それにより金属が残りの金属酸化物から分離される分離段階は当業者に周知の任意の多数の方法を含んで成ることができる。従って、例えば単純な溶解および溶媒抽出法を適用することができ、あるいはまた、加熱およびスラッグ法が適当であると考えられる。更なる代替法として、分離を実施するために更なる電気化学法を使用することができる。
【0020】
場合により、選択された金属酸化物の還元は、一方で1種もしくは複数の他の金属酸化物からのその金属の分離を異なる融解塩組成物中で実施しながら、1種の特定の融解塩中で実施することができる。あるいはまた、2方法を同一融解塩中で実施することができる。
【0021】
本発明の1態様を実施するために、炭素陽極および網のバスケットの陰極を有する電気分解セルが集成される。混合酸化物試料を網のバスケット中に入れる。電解質は融解塩もしくは、例えば、CaClもしくはBaClのような塩化物塩を含んで成るこれらの塩の混合物から成る。電圧は陽極と陰極間にかけられる。陰極において、反応は固体表面への酸素原子の拡散、次に反応:
O+2e→ O2−
に従うイオン化を伴う。生成される酸化物イオンは電解質中に溶解し、陽極に移動され、そこでそれらは再酸化されて酸素ガスを生成する。更なる副生成物には一酸化炭素および二酸化炭素が含まれる。陰極のポテンシャルは、陰極に起っている反応が酸素イオン化であり、融解塩中のカチオンの析出ではなく、そして選択された金属酸化物のみが還元されることを確保するために第3の照合電極により制御することができる。高温における電気分解は酸素拡散速度を促進し、それにより更に、金属析出よりむしろイオン化を促進する。
【0022】
電気分解後に、混合酸化物試料は1種類の金属が金属形態に還元され、他方、他の金属がそれらの酸化物の形態で残って、陰極に金属/金属酸化物の固体混合物の形態で残される。次にこの金属/金属酸化物生成物が適切な分離処理を受ける。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物として混合酸化物試料中に含まれる金属の分離法であって、
(i)融解された塩の電解質に混合酸化物を添加し、酸化物を陰極で電気分解すること、そこで陰極のポテンシャルが融解塩中に存在するカチオンからの金属の析出より酸素のイオン化を優先させるように制御され、そして適用される電位差がその他の金属酸化物を犠牲にして1金属酸化物の選択的還元を容易にするようなものである、そして
(ii)残りの金属酸化物から金属を分離すること、
を含んで成り、そこで
前記金属酸化物が遷移金属、ランタニドもしくはアクチニド系の少なくとも1種からの金属の酸化物を含んで成る、方法。
【請求項2】
前記混合酸化物試料が2種以上の金属酸化物の混合物を含んで成る請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記金属がジルコニウムおよびハフニウムを含んで成り、そして前記混合酸化物試料が混合ジルコニウム酸化物およびハフニウム酸化物を含んで成る請求項1もしくは2記載の方法。
【請求項4】
混合酸化物が不規則なサイズおよび形状の固体片、粉末、非晶質塊(mass)もしくは高密度の集塊(agglomerate)として提供される請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
酸化物が陰極を形成する網(mesh)のバスケット中に配置される請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
融解された塩の電解質が少なくとも1種の塩化物塩を含んで成る請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
塩化物塩がCaClもしくはBaClである請求項6記載の方法。
【請求項8】
陽極が炭素陽極である請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
残りの金属酸化物からの金属の分離段階が溶解および溶媒抽出法、加熱およびスラグ法または電気化学法の使用により実施される請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
選択された金属酸化物の前記還元が1種の融解塩中で実施され、他方他の1種もしくは複数の金属酸化物からの金属の分離が異なる融解塩組成物中で実施される、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
選択された金属酸化物の前記還元および他の1種もしくは複数の金属酸化物からの金属の前記分離が同一融解塩中で実施される請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。

【公表番号】特表2006−509104(P2006−509104A)
【公表日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−556519(P2004−556519)
【出願日】平成15年12月2日(2003.12.2)
【国際出願番号】PCT/GB2003/005238
【国際公開番号】WO2004/050955
【国際公開日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【出願人】(502056190)ブリテイツシユ・ニユークリア・ヒユーエルズ・ピー・エル・シー (1)
【Fターム(参考)】