説明

金属を担持した担体と炭素含有化合物を接触させて得たカーボンナノチューブを含む透明導電性フィルム

【課題】直径が細く、物性が均一で特性が高いカーボンナノチューブ含有組成物を使用した透明導電性フィルムを提供する。
【解決手段】金属を担持した担体と、炭素含有化合物を接触させて得たカーボンナノチューブを使用して透明導電性フィルムを作成する。金属を担持する担体はシリカ、アルミナ、マグネシア、チタニア、ゼオライト、ケイ素を主成分とするメソポーラス材料が好ましく、金属はV、Mo、Fe、Co,Ni,Pd、Pt,Rh,W,Cuのうち少なくとも1種が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性コーティングに関する。より詳細には、本発明は透明導電性コーティング材を製造するのに用いる、特にカーボンナノチューブと定義される領域の中空状ナノファイバー含有透明導電性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
透明導電性フィルムは当技術分野で公知である。一般に、このようなフィルムは乾式または湿式のいずれかの方法によって電気絶縁性基板上に形成される。乾式法では、PVD(スパッタリング、イオンプレーティング、および真空蒸着を含む)またはCVDが、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化アンチモンスズ(ATO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(FZO)など金属酸化物型の導電性透明フィルムの形成に使用される。一方、湿式法では上記混合酸化物などの導電性粉末とバインダーとを使用して、導電性コーティング組成物が調整される。乾式法では、優れた透明性と優れた導電性の両方を有するフィルムが得られるが、減圧システムを必要とする複雑な装置が必要であり、生産性は低い。また、写真用フィルムやショーウィンドーなどの連続的または大型の基板への適応が困難なのも問題である。一方、湿式法では、比較的単純な装置でよく、生産性も高く、連続的または大型の基板への適応も容易である。湿式法で使用される導電性粉末は、得られるフィルムの透明性に干渉しないようにするために平均一次粒径が0.5μm以下の非常に微細な粉末である。透明コーティングフィルムを得るためには可視光を吸収せず、可視光を制御的に散乱させるために、導電性粉末は可視光の最短波長の半分以下(0.2μm)の平均一時粒径を有する。
【0003】
本質的に導電性となる有機ポリマーおよびプラスチックの開発は1970年代後半から始まっていて、これらの成果としてポリアリニン、ポリチオフェン、ポリピロール、およびポリアセチレンなどのポリマーを主成分とする導電性材料が得られている。
【0004】
非常に有意義な発見はカーボンナノチューブの発見であり、最初に広く報告されたのは1991年である(非特許文献1)。カーボンナノチューブは実質的にグラファイトの1枚面を巻いて筒状にした形状を有しており、1層に巻いたものを単層カーボンナノチューブ(SWNT)、2層に巻いたものを2層カーボンナノチューブ(DWNT)、多層に巻いたものを多層カーボンナノチューブ(MWNT)という(非特許文献2)。カーボンナノチューブは、高い機械的強度、高い導電性を有することから、燃料電池やリチウム2次電池用負極材として、また、樹脂、金属や有機半導体との複合材料からなる高強度樹脂、導電性樹脂、透明導電フィルム、金属電解粉、電磁波シールド材の材料として期待されている。いずれの用途の場合にも、高純度のカーボンナノチューブが要求されており、カーボンナノチューブとしては直径の細い単層や2層のカーボンナノチューブが有利であり、グラファイト層の欠陥が少ない方が特性的に優れている。カーボンナノチューブを用いた導電フィルムの報告例はいくつかあるが(特許文献1、特許文献2)、使用されたカーボンナノチューブがアーク放電法や化学気相成長法などで合成されたものである。(非特許文献3参照)。アーク放電法により合成されたカーボンナノチューブはグラファイト層の欠陥が少ないナノチューブが得られるが、アモルファスカーボンなんどの不純物が多いためにカーボンナノチューブの特性が十分発揮できない欠点がある。また、化学気相成長法により合成されたカーボンナノチューブは不純物が少なく、安価で製造可能であるが、生成したカーボンナノチューブはグラファイト層の欠陥が多いため、欠陥の少ないグラファイト層を形成させるには後処理として2000℃程度の熱処理を必要とする。仮にこの高温処理すると、高い特性を有する直径の細い単層や2層のカーボンナノチューブが消失し、残った多層のカーボンナノチューブでは本来の特性が出にくくなる。
【特許文献1】特表2000−511245号公報
【特許文献2】特開2005−008893号公報
【非特許文献1】ニューサイエンティスト(New Scientist),「スルー ザナノチューブ(Through the Nanotube)」1996.7.6発行,第28−31ページ,ピー・ボール(P.Ball)著
【非特許文献2】アメリカン サイエンティスト(American Scientist),第85巻,1997年7月−8月,「フラーレン ナノチューブス(Fullerene Nanotubes):C1,000,000 アンド ビヨンド(and Beyond)」,ビー・アイ・ヤコブソン(B.I.Yakobson),アール・イー・スモーリー(R.E. Smalley)著
【非特許文献3】斉藤弥八、坂東俊治、カーボンナノチューブの基礎、株式会社コロナ社、第17ページ、23ページ、47ページ
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記のような事情に鑑みなされたものであり、直径が細く、物性が均一で特性が高いカーボンナノチューブ含有組成物を使用した透明導電性フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する本発明の透明導電性フィルムは以下の通りである。
【0007】
(1)金属を担持した担体と、炭素含有化合物を接触させて得たカーボンナノチューブを含む透明導電性フィルム。
【0008】
(2)金属を担持した担体がシリカ、アルミナ、マグネシア、チタニア、ゼオライト、およびケイ素を主成分とするメソポーラス材料から選ばれる少なくとも1種である(1)記載のカーボンナノチューブを含む透明導電性フィルム。
【0009】
(3)金属を担持した担体がゼオライトおよび/またはケイ素を主成分とするメソポーラス材料である(2)記載のカーボンナノチューブを含む透明導電性フィルム。
【0010】
(4)金属がV、Mo、Fe、Co,Ni,Pd、Pt,Rh,W,およびCuから選ばれる少なくとも1種である(1)〜(3)のいずれか記載のカーボンナノチューブを含む透明導電性フィルム。
【0011】
(5)金属がFe、Co,およびNiから選ばれる少なくとも1種である(4)記載のカーボンナノチューブを含む透明導電性フィルム。
【0012】
(6)炭素含有化合物がメタン、エタン、エチレン、アセチレン、ベンゼン、トルエン、メタノール、エタノール、アセトン、ジエチルエーテル、および一酸化炭素から選ばれる少なくとも1種である(1)〜(5)のいずれか記載のカーボンナノチューブを含む透明導電性フィルム。
【0013】
(7)炭素含有化合物がメタン、エタン、アセチレン、エタノール、およびジエチルエーテルから選ばれる少なくとも1種である(6)記載のカーボンナノチューブを含む透明導電性フィルム。
【0014】
(8)カーボンナノチューブが、金属を担持した担体を200〜950℃の一定温度に保持する際に窒素、アルゴン、水素のいずれかまたは混合ガスを流すことによって得たカーボンナノチューブであることを特徴とする(1)〜(7)のいずれか記載のカーボンナノチューブを含む透明導電性フィルム。
【0015】
(9)金属を担持した担体と炭素含有化合物を接触させる温度が600〜950℃である(1)〜(8)のいずれか1項記載のカーボンナノチューブを含む透明導電性フィルム。
【0016】
(10)カーボンナノチューブの主成分が単層または2層カーボンナノチューブである(1)〜(9)のいずれか1項記載のカーボンナノチューブを含む透明導電性フィルム。
【0017】
(11)カーボンナノチューブの総本数の50%以上が直径1.0〜3.0nmの2層カーボンナノチューブであることを特徴とする(1)〜(10)のいずれか記載のカーボンナノチューブを含む透明導電性フィルム。
【0018】
(12)カーボンナノチューブの純度がカーボン組成物中の90%以上であり、かつ、カーボンナノチューブの総本数の50%以上が2層カーボンナノチューブであり、任意に選択した2層カーボンナノチューブの片端から他端までを透過型電子顕微鏡で観察したときにチューブ中の屈曲部間距離の平均が50nm以上であるカーボンナノチューブを含むことを特徴とする(1)〜(11)のいずれか記載のカーボンナノチューブを含む透明導電性フィルム。
【0019】
(13)カーボンナノチューブの総本数の50%以上が直径1.0〜3.0nmの単層カーボンナノチューブであることを特徴とする(1)〜(10)のいずれか記載のカーボンナノチューブを含む透明導電性フィルム。
【0020】
(14)(1)〜(13)のいずれか記載のカーボンナノチューブを含む透明導電性フィルムからなる透明帯電防止層。
【0021】
(15)(14)記載の透明帯電防止層を少なくとも片面に有するシート。
【0022】
(16)(14)記載の透明帯電防止層を少なくとも片面に有するパネル。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、より高い導電性を付与可能な透明導電性フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明は、中空状ナノファイバー、特にカーボンナノチューブと定義される領域の中空状ナノファイバー含有組成物に関し、さらに詳しくは、金属を担持した担体と、炭素含有化合物を接触させて得られるカーボンナノチューブを製造する際に、金属を担持した担体を減圧、一定温度にて一定時間保持した後に炭素含有化合物と接触させて得たカーボンナノチューブを含むフィルムを特徴とする。
【0025】
本発明で用いるカーボンナノチューブはグラファイト層に欠陥の少ない高品質なカーボンナノチューブを製造する方法である触媒化学気相成長法(化学気相成長法の中で担体に金属を担持した触媒を用いる方法)により得られる極細の中空状炭素ナノファイバーである。好ましい実施形態は、特願2002−346424、特願2002−346046、特願2004−255257、特願2005−037127等で報告された方法で合成したカーボンナノチューブである。
【0026】
本発明で用いるカーボンナノチューブの合成に使用する触媒は、金属を担体に担持したものである。この金属を担持する担体としては特に限定されないが、主成分としてシリカ、アルミナ、マグネシア、チタニア、ゼオライト、およびケイ素を主成分とするメソポーラス材料が好ましい。
【0027】
ゼオライトとは、分子サイズの細孔径を有する結晶性無機酸化物からなるものである。ここに分子サイズとは、世の中に存在する分子のサイズの範囲であり、一般的には、0.2nmから2nm程度の範囲を意味する。さらに具体的には、結晶性シリケート、結晶性アルミノシリケート、結晶性メタロシリケート、結晶性メタロアルミノシリケート、結晶性アルミノフォスフェート、あるいは結晶性メタロアルミノフォスフェート等で構成された結晶性マイクロポーラス物質のことである。
【0028】
結晶性シリケート、結晶性アルミノシリケート、結晶性メタロシリケート、結晶性メタロアルミノシリケート、結晶性アルミノフォスフェート、結晶性メタロアルミノフォスフェートとしては、特に種類は制限されないが、例えば、アトラス オブ ゼオライト ストラクチュア タイプス(マイヤー、オルソン、バエロチャー、ゼオライツ、17(1/2)、1996)(Atlas of Zeolite Structure types(W. M. Meier, D. H. Olson, Ch. Baerlocher, Zeolites, 17(1/2),1996))に掲載されている構造をもつ結晶性無機多孔性物質が挙げられる。また、ゼオライトは本文献に掲載されているものに限定されるものではなく、近年次々と合成されている新規な構造を有するゼオライトも含む。好ましい構造は、入手が容易なFAU型、MFI型、MOR型、BEA型、LTL型、LTA型であるが、これに限定されない。
【0029】
ゼオライトは、その骨格が4面体の中心にSi又はAlやチタン等のヘテロ原子(Si以外の原子)、4面体の頂点に酸素を有するシリケート構造を有している。従って、4価の金属がその4面体構造の中心に入るのが最も安定であり、耐熱性が期待できる。したがって、理論的にはAl等の3価の成分を実質的に含まないか、或いは少ないゼオライトのほうが耐熱性が高い。これらの製造法としては、従来公知の水熱合成法などで直接合成するか、後処理で3価の金属を骨格から抜く方法が好んで用いられる。
【0030】
メソポーラス材料とは、2〜50nm程度の直径を有する細孔を持つ材料である。界面活性剤と無機物質の協奏的な自己組織化により合成される。メソポーラス材料は大きい比表面積と高い安定性など、触媒や吸着剤としての優れた基本物性を有する。この様な材料のメソポーラス細孔は、担体上でカーボンナノチューブを合成する際に金属担持する細孔として有用である。代表的物質としてメソポーラスシリカが挙げられる。メソポーラスシリカの結晶構造は特に限定されないが、例えば、モービル社が開発したヘキサゴナル構造をもつMCM−41、キュービック構造をもつMCM−48、層状すなわちラメラ構造をもつMCM−50があり、特に規則的な六角形の細孔が平行に配列したMCM−41構造が好んで用いられる。
【0031】
またゼオライト等にメソポーラス細孔を形成することも可能である。酸またはアルカリ処理を施して、メソポーラス細孔を形成させる方法もある。
【0032】
酸処理とは、酸化物を酸に接触させる処理であり、使用する酸は特に限定されないが、フッ化水素酸、硫酸、塩酸、硝酸またはこれら混合物が好ましい。
【0033】
酸処理よる酸化物のメソポーラス細孔形成法は特に限定されない。例えば0.01〜1.00Mの酸の水溶液中に、1〜100gの酸化物を含浸し、0〜100℃で充分に攪拌して分散混合した後、水洗し、50〜200℃で乾燥することによりメソポーラス細孔を形成することができる。
【0034】
またアルカリ処理とは、酸化物にアルカリを接触させて、メソポーラス細孔を形成する方法であり、いくつかのアルカリによる処理を挙げることができる。使用するアルカリは特に限定されないが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム、水酸化バリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムまたはこれら混合物が好ましい。特に、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましい。
【0035】
アルカリ処理による酸化物のメソポーラス細孔形成法は特に限定されない。例えば0.01〜1.00Mのアルカリの水溶液中に、1〜100gの酸化物を含浸し、0〜100℃で充分に攪拌して分散混合した後、水洗し、50〜200℃で乾燥することによりメソポーラス細孔を形成することができる。
【0036】
液体窒素温度での窒素の物理吸着から、本発明で用いる担体の比表面積および細孔分布を求めることができる。BET法として知られる手法を用い、減圧下に置いた担体に窒素を徐々に投入し、高真空から大気圧の窒素の吸着等温線をとり、大気圧まで到達したら徐々に窒素を減らしていき、窒素の脱着等温線をとるようにすればよい。本手法により求めた比表面積が300m/g以上であれば、その担体は多孔質であることを示し、外表面上に触媒粒子を担持しやすいことを意味する。
【0037】
細孔径が1nmから10nmの領域を含むメソポーラス部分の細孔径分布を求めるためには、通常脱着等温線を使用して計算する。細孔径分布を求める理論式としては、Dollimore−Heal法(以下、D−H法と略称)が知られている。本発明で定義する細孔径分布は窒素の脱着等温線からD−H法で求めたものである。一般に細孔径分布は、横軸に細孔径をとり、縦軸にΔVp/ΔRp(Vp:吸着した窒素を液化させた場合の体積、Rp:細孔の半径)をとることで求められるが、本発明における細孔容量は、このグラフの面積から求めることができる。細孔分布測定で1〜10nmの領域に少なくとも一つ以上のピークを有することで、その担体がメソポーラス細孔を有することを意味し、メソポーラス細孔径に近い大きさの金属粒子を担持しやすいことを意味する。
【0038】
本発明で用いるカーボンナノチューブの合成に使用する触媒を形成する金属の種類は特に限定されないが、3〜12族の金属、特に好ましくは、5〜11族の金属が用いられる。中でも、V,Mo,Mn,Fe,Co,Ni,Pd,Pt,Rh、W、Cu等が特に好ましく、さらに好ましくは、Fe,Co,Niが用いられる。ここで金属とは、0価の状態とは限らない。反応中では0価の金属状態になっていると推定できるが、広く金属を含む化合物又は金属種という意味で解釈してよい。また金属は微粒子であることが好ましい。微粒子とは粒径が0.5〜10nmであることが好ましい。金属が微粒子であると細いカーボンナノチューブが生成しやすい。
【0039】
金属は1種類だけを担持させても、2種類以上を担持させてもよいが、好ましくは、2種類以上を担持させるようにした方がよい。2種類の金属を担持させる場合は、Fe,Co,Niを含むことが特に好ましい。
【0040】
担体に対する金属の担持方法は、特に限定されない。例えば、担持したい金属の塩を溶解させた非水溶液中(例えばエタノール溶液)又は水溶液中に、担体を含浸し、充分に分散混合した後、乾燥させ、窒素、水素、不活性ガスまたはその混合ガス又は真空中で高温(300〜600℃)で加熱することにより、担体に金属を担持させることができる(含浸法)。
【0041】
このようにして得られた金属を担持した担体を管状炉に設置された石英製、アルミナ製等の耐熱性の反応管内に保持する。管状炉は縦型、横型等が有るが保持方法は石英、アルミナ等のセラミックス製ボートや不織布、フェルトなどの上もしくは、内部に保持するなどの方法がある。
【0042】
このようにして得られた金属を担持した担体を、炭素含有化合物と接触させる前に1x10−2Pa〜1x10Paの圧力、200〜950℃の一定温度で5〜120分保持する。圧力は1x10−1Pa〜1x10Paが好ましく、温度は300〜900℃が好ましく、保持時間は10〜60分が好ましい。従来、触媒を使用した中空状ナノファイバーの製造では、金属を担持した担体を反応温度まで一定の速度で昇温させる方法が一般的であるが、本発明では、炭素含有化合物を接触させる前に減圧の状態で200〜950℃の一定温度で5から120分保持することが重要である。1x10−2Pa〜1x10Paの圧力、200〜950℃で熱処理をすることで、担体に担持した金属触媒の活性化が進行すると考えられる。圧力上限は、1x10Paまでが好ましく、さらに好ましい圧力の上限は、1x10Paである。好ましい温度は、250℃以上であり、さらに好ましくは300℃以上である。温度が下限値よりも低いと、金属触媒の活性化の進行が遅くなり、温度が上限値よりも高いと、金属の凝集や担体の熱による劣化など好ましくない変化が発生する場合がある。また、熱処理の時間は5分以上であり、5分以上、金属を担持した担体を昇温することなく、ほぼ一定に保つことが重要である。好ましくは、10分以上、さらに好ましくは30分以上保持する。また熱処理時間は最大で120分であり、100分以下が好ましく90分以下がさらに好ましい。熱処理時間が長すぎると生産性の悪化を招くだけでなく、触媒金属の凝集や担体の劣化など好ましくない変化が発生するおそれがある。
【0043】
また、この熱処理をする際は、窒素、アルゴン、水素またはこれらの混合ガスを上記圧力を保てる状態で流すのが好ましい。
【0044】
さらに、金属を担持した担体の熱による前処理は、反応器の中で実施しても良いし、熱処理を実施した後、金属を担持した担体を反応器に充填する方法を採用しても良い。炭素含有化合物と接触させる反応器の中で、熱による前処理を実施する場合は、反応器の構造を利用して、前処理を実施するのが好ましい。たとえば、反応器が縦型の場合、セラミックス製の耐熱性不織布、フィルターなどに金属を担持した担体を把持し、そのまま加熱し、一定の温度圧力に保ち、一定時間放置する。このとき、圧力が範囲内となるよう、アルゴンなどの気体を流して調整するのが好ましい。また、圧力を一定にした後、温度を上げる方法なども採用できる。
【0045】
反応器が横型の場合は、金属を担持した担体をセラミックス製の耐熱性の容器などに入れ、熱による前処理をすることができる。
【0046】
減圧での熱処理をする装置としては、耐圧/耐熱性で不活性な容器等が好ましく使用できる。
【0047】
このように前もって熱処理を施した金属を担持した担体と炭素含有化合物とを接触させる温度は、600〜950℃が好ましく、さらに好ましくは700℃〜900℃の範囲がよい。温度が600℃よりも低いと、カーボンナノチューブの収率が悪くなり、また温度が950℃よりも高いと、使用する反応器の材質に制約があると共に、カーボンナノチューブ同士の接合が始まり、カーボンナノチューブの形状のコントロールが困難になる。熱による前処理が終了した後、炭素含有化合物を接触させながら反応器を反応温度にしてもよいし、前処理終了後、反応器を反応温度にしてから、炭素含有化合物の供給を開始しても良い。また、反応温度に加熱した炭素含有化合物を金属が担持された担体に接触させても良い。
【0048】
使用する炭素含有化合物は、特に限定されないが、好ましくは炭化水素又は一酸化炭素を使うとよい。
【0049】
炭化水素は芳香族であっても、非芳香族であってもよい。芳香族の炭化水素では、例えばベンゼン、トルエン、キシレン、クメン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、トリメチルベンゼン、ナフタレン、フェナントレン、アントラセン又はこれらの混合物などを使用することができる。また、非芳香族の炭化水素では、例えばメタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、エチレン、プロピレンもしくはアセチレン、又はこれらの混合物等を使用することができる。炭化水素には、また酸素を含むもの、例えばメタノール若しくはエタノール、プロパノール、ブタノールのごときアルコール類、アセトンのごときケトン類、及びホルムアルデヒドもしくはアセトアルデヒドのごときアルデヒド類、トリオキサン、ジオキサン、ジメチルエーテル、ジエチルエーテルのごときエーテル類、酢酸エチルなどのエステル類又はこれらの混合物であってもよい。これらの中でも、特にメタン、エタン、アセチレン、エタノール、ジエチルエーテルが最も好ましい炭素含有化合物である。
【0050】
本発明に使用されるカーボンナノチューブの精製、単離のために担体材料や触媒金属を除く必要がある。担体材料や金属触媒は、酸などで取り除くことができる。例えば、担体としてゼオライト、金属触媒としてコバルトを使った場合には、特願2003−126211に記述されたように、フッ化水素酸でゼオライトを、塩酸でコバルトを取り除くことができる。また、特願2004−047182に記述されたように、水酸化ナトリウム水溶液でもゼオライトを取り除くことができる。さらに、特願2003−331240に記述されたように、有機溶媒と水との2液を用いた分離方法で、ゼオライトおよびコバルトとカーボンナノチューブを分離して個別に回収することもできる。また、特願2003−126211に記述されたように、触媒金属の量を高度に取り除きたい場合には、焼成処理を行ってから酸で処理するとよい。それは、金属がグラファイトなどの炭素化合物で覆われているため、一度触媒周りの炭素を焼きとばしてから酸処理すれば、金属を効率よく除去することができるからである。
【0051】
本発明に使用されるカーボンナノチューブは、以下の要件を満たしていることが特徴である。
【0052】
すなわち、透過型電子顕微鏡で任意に選択した100本のカーボンナノチューブ中、50本以上が単層、または2層カーボンナノチューブである。その測定方法は、例えば、透過型電子顕微鏡で100万倍の観察を行い、150nm四方の視野の中で視野面積の10%以上がカーボンナノチューブで、かつ複数の視野中から任意に抽出した100本のカーボンナノチューブ中の50本以上が単層、または2層カーボンナノチューブであり、上記測定を10箇所について行った平均値で評価する。
【0053】
また、本発明では、透過型電子顕微鏡で任意に選択した100本の単層、または2層カーボンナノチューブ中、80本以上がその外径が1.0nmから3.0nmの範囲内にある。その測定方法は、例えば、透過型電子顕微鏡で100万倍の観察を行い、複数の視野中から任意に抽出した100本の単層、または2層カーボンナノチューブの外径を測定し、80本以上がその外径が1.0nmから3.0nmの範囲内にあり、上記測定を10箇所について行った平均値で評価する。
【0054】
また、任意に選択した2層カーボンナノチューブの片端から他端までを透過型電子顕微鏡で観察したときにチューブ中の屈曲部間距離の平均が50nm以上である。ここで、2層カーボンナノチューブ中の屈曲部とは、カーボンナノチューブのグラファイト構造中に炭素5員環と7員環が存在することによる屈曲を言い、透過型電子顕微鏡写真でカーボンナノチューブが折れ曲がって観察される部分のことを言う。本発明にある2層カーボンナノチューブでは、透過型電子顕微鏡で選んだ任意の2層カーボンナノチューブについて片端から他端までを顕微鏡内で観察し、1本のチューブ中の屈曲部から屈曲部までの距離の平均を求め、それを10本以上の2層カーボンナノチューブについて平均した結果が、50nm以上である。屈曲部から屈曲部までの距離が長ければ長いほど、2層カーボンナノチューブの直線性は向上し、導電性、熱伝導性が高い2層カーボンナノチューブとなる。屈曲部間距離は長いほど好ましいため、100nm以上がより好ましく、500nm以上がさらに好ましく、1μm以上が最も好ましい。
【0055】
本発明のフィルムの形成方法としては、有機または無機透明被膜を形成しうるバインダー中にカーボンナノチューブを含有する被覆組成物を適当な基板(ガラスまたは透明プラスチック)に塗布し、バインダーに応じた適当な手段で塗膜を乾燥、または硬化させる方法と適当な溶媒に分散させたカーボンナノチューブを含有する被覆組成物液を基板に塗布して乾燥後、必要に応じてその上から有機または無機透明被膜を形成させるバインダーを塗布して乾燥、または硬化させて保護膜を作成する方法がある。このバインダーが乾燥、または硬化して、有機または無機透明マトリックスとなる。
【0056】
この被覆組成物は組成物全固形物に対して、カーボンナノチューブを0.01〜1重量%、好ましくは0.05〜0.75重量%、より好ましくは0.1〜0.5重量%の量で含有している。
【0057】
バインダーとしては、従来より導電性塗料に使用されている各種の有機および無機バインダー、すなわち透明な有機または無機ポリマーまたはその前駆体が使用できる。
【0058】
有機バインダーは熱可塑性、熱硬化性、あるいは紫外線、電子線などの放射線硬化性のいずれであってもよい。適当な有機バインダーの例としては、ポリオレフィン系(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリアミド系(ナイロン6、ナイロン11、ナイロン66、ナイロン6、10等)、ポリエステル系(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、シリコーン系ポリマー、ビニル系樹脂(ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリアクリレート、ポリスチレン誘導体、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール等)、ポリケトン、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリアセタール、フッ素樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラニン樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、セルロース系ポリマー、蛋白質類(ゼラチン、カゼイン等)、キチン、ポリペプチド、多糖類、ポリヌクレオチドなど有機ポリマー、ならびこれらのポリマーの前駆体(モノマー、オリゴマー)がある。これらは単に溶剤の蒸発により、あるいは熱硬化または光もしくは放射線照射による硬化により有機ポリマー系透明被膜(マトリックス)を形成することができる。
【0059】
有機ポリマー系バインダーとして好ましいのは、放射線もしくは光によりラジカル重合硬化可能な不飽和結合を有する化合物であり、これはビニル基ないしビニリデン基を有するモノマー、オリゴマー、あるいはポリマーである。この種のモノマーとしてはスチレン誘導体(スチレン、メチルスチレン等)、アクリル酸もしくはメタクリル酸またはそれらの誘導体(アルキルアクリートもしくはメタクリレート、アリルアクリレートもしくはメタクリレート等)、酢酸ビニル、アクリロニトリル、イタコン酸等がある。オリゴマーあるいはポリマーは、主鎖に二重結合を有する化合物または直鎖の両末端にアクリロイルもしくはメタクリロイル基を有する化合物が好ましい。この種のラジカル重合硬化性バインダーは、高硬度で耐擦過性に優れ、透明度の高い導電フィルム膜を形成することができる。
【0060】
無機ポリマー系バインダーの例としては、シリカ、酸化錫、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム等の金属酸化物のゾル、あるいは無機ポリマーの前駆体となる加水分解または熱分解性の有機リン化合物および有機ボロン化合物、ならびに有機シラン化合物、有機チタン化合物、有機ジルコニウム化合物、有機鉛化合物、有機アルカリ土類金属化合物などの有機金属化合物がある。加水分解性または熱分解性の有機金属化合物の具体的例は、アルコキシドまたはその部分加水分解物、酢酸塩などの低級カルボン酸塩、アセチルアセトンなどの金属錯体である。
【0061】
これらの1種もしくは2種以上の無機ポリマー系バインダーを焼成すると、酸化物または複合酸化物からなるガラス質の無機ポリマー系透明被膜(マトリックス)を形成することができる。無機ポリマー系マトリックスは、一般にガラス質であり、高硬度で耐擦過性に優れ、透明性も高い。
【0062】
本発明の被覆組成物は、一般に溶剤を使用するが、光または放射線硬化性の有機ポリマー系バインダーの場合には、常温で液状のバインダーを選択することにより、溶剤を存在させずに100%反応系のバインダー、あるいはこれを非反応性液状樹脂成分で希釈した無溶剤の組成物とすることができる。それにより、被膜の硬化乾燥時に溶媒の蒸発が起こらず、硬化時間が大幅に短縮され、かつ溶媒回収操作が不要となる。
【0063】
溶剤はバインダーを溶解しうる任意の溶剤でよい。有機ポリマー系バインダーの場合には、炭化水素類(トルエン、キシレン等)、塩素含有炭化水素類(メチレンクロリド、クロロホルム、クロロベンゼン等)、エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフラン、メチルセロソルブ等)、エーテルアルコール(エトキシエタノール、メトキシエトキシエタノール等)、エステル類(酢酸メチル、酢酸エチル等)、ケトン類(シクロヘキサノン、メチルエチルケトン等)、アルコール類(エタノール、イソプロパノール、フェノール等)、低級カルボン酸(酢酸等)、アミン類(トリエチルアミン、トリメタノールアミン等)、窒素含有極性溶媒(N、N−ジメチルホルムアミド、ニトロメタン、N−メチルピロリドン等)、硫黄化合物類(ジメチルスルホキシド等)などがある。有機ポリマーが親水性である場合、および無機ポリマー系バインダーの場合には、水、アルコール類、アミン類などの極性溶媒が使用される。バインダーの使用量は、塗布に適した粘性の被覆組成物を得るのに十分な量であればよい。
【0064】
本発明の透明導電性フィルム形成用被覆組成物は上記のカーボンナノチューブとバインダー、溶剤あるいはカーボンナノチューブと溶剤他に分散剤(界面活性剤、カップリング剤)架橋剤、安定化剤、沈降防止剤、着色剤、電荷調製剤、滑剤等の添加剤を配合することができ、それらの種類、量について特に制限はない。
【0065】
本発明の被覆組成物は、上記成分を塗装製造に慣用の混合分散機(例えばボールミル、サンドミル、ロールミル、アトライター、デゾルバー、ペイントシェーカー等)を用いて混合することにより製造できる。
【0066】
この組成物の塗布は、公知の塗布方法、例えば吹き付け塗装、浸漬コーティング、スピンコーティング、ナイフコーティング、キスコーティング、グラビアコーティング、スクリーン印刷、インクジェット印刷、パット印刷、他の種類の印刷、またはロールコーティングなどによって塗布することができる。基体は特に制限されないが、ガラス、透明プラスチックのように絶縁性で透明なものが好ましい。
【0067】
塗布後、必要により加熱して塗膜の乾燥ないし焼付(硬化)を行うと、本発明のフィルムが得られる。加熱条件は、バインダー種に応じて適当に設定する。バインダーが光または放射線硬化性の場合には、加熱硬化ではなく、塗布後直ちに塗膜に光または放射線を照射することにより塗膜を硬化させる。放射線としては電子線、紫外線、X線、ガンマー線等のイオン化性放射線が使用でき、照射線量はバインダー種に応じて決定する。
【0068】
本発明のフィルムの厚さは、中程度の厚さから非常に薄い厚さまでの範囲の範囲をとる。例えば、本発明のフィルムは約0.5nm〜約1000μmの間の厚さとなりうる。好ましい実施形態ではフィルムの厚さは約0.005〜約1000μmとなりうる。別の好ましい実施形態ではフィルムの厚さは約0.05〜約500μmである。また、別の好ましい実施形態ではフィルムの厚さは約1.0〜約200μmである。さらに別の好ましい実施形態ではフィルムの厚さは約1.0〜約50μmである。
【0069】
本発明のフィルムは、優れた透明性および低ヘイズを示す。例えば、本発明のフィルムは、全光透過率が少なくとも約60%であり、可視光のヘイズ値が約2.0%以下である。好ましい実施形態では、フィルムの全光透過率は約80%以上である。別の好ましい実施形態では、フィルムの全光透過率は85%以上である。また、別の好ましい実施形態では、フィルムの全光透過率は90%以上である。さらに、別の好ましい実施形態では、フィルムの全光透過率は95%以上である。別の好ましい実施形態では、フィルムのヘイズ値は1.0%未満である。また、別の好ましい実施形態では、フィルムのヘイズ値は0.5%未満である。
【0070】
本発明のフィルムは、ESD保護、EMI/RFIシールド、低視認性、ポリマーエレクトロニクス(例えば、OLEDディスプレイの透明導電層、ELランプ、プラスチックチップなど)など透明導電性コーティングの種々の用途に有用である。導電性の種々の目標を有する用途にフィルムを適合させるために、本発明のフィルムの表面抵抗は容易に調整可能である。例えば、ESD保護のための目標抵抗範囲は10〜1010Ω/cmであれば一般に許容される。さらに、EMI/RFIシールドの導電性コーティングの抵抗は<10Ω/cmであれば一般に許容される。さらに、透明性の低視認性コーティングは通常<10Ω/cm、好ましくは<10Ω/cmであれば一般に許容される。ポリマーエレクトロニクスおよび元々導電性を持つポリマー(ICP)の場合、抵抗値は通常<10Ω/cmである。したがって、好ましい実施形態では、フィルムの表面抵抗は約1010Ω/cm未満の範囲内である。ESD保護のためのフィルムの表面抵抗は好ましくは約10〜1010Ω/cm範囲内である。さらに、EMI/RFIシールドの導電性コーティングの抵抗は好ましくは約10〜10Ω/cm範囲内である。さらに、透明性の低視認性コーティングは10Ω/cm未満の範囲内であり、好ましくは10Ω/cm未満の範囲内である。ポリマーエレクトロニクスおよび元々導電性を持つポリマー(ICP)の場合、好ましく抵抗値は10−2〜10Ω/cmの範囲内である。
【0071】
また、本発明のフィルムの体積抵抗は約10−2Ω・cm〜1010Ω・cmの範囲内である。体積抵抗はASTM D4496−87およびASTM D257−99で規定される。
【0072】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、下記の実施例は例示のために示すものであって、いかなる意味においても、本発明を限定的に解釈するものとして使用してはならない。
【実施例】
【0073】
<実施例1>
(カーボンナノチューブ組成物の合成)
酢酸第1鉄(アルドリッチ社製)0.01gと酢酸コバルト4水和物(ナカライテスク社製)0.21gとをエタノール(ナカライテスク社製)40mLに加え、超音波洗浄機で10分間懸濁した。この懸濁液にチタノシリケートTS−1粉末(エヌイーケムキャット社製)2.0gを加え、超音波洗浄機で10分間処理し、60℃の恒温下でメタノールを除去することにより、TS−1の結晶表面に金属塩を担持した固体触媒を得た。
【0074】
内径32mmの石英管中央部の石英ボート上に、上記で調製した固体触媒1.0gをとり、アルゴンガスを600cc/分で供給した。石英管を電気炉中に設置して、中心温度を800℃に加熱した(昇温時間30分)。800℃になったところで、高純度アセチレンガス(高圧ガス工業製)を5cc/分で30分間供給した後、アセチレンガスの供給をやめ、温度を室温まで冷却し、カーボンナノチューブを含有する組成物を取り出した。得られたカーボンナノチューブを含有する組成物0.4gを大気雰囲気で400℃(昇温時間40分)に加熱した。400℃で60分保持した後、室温まで冷却した。さらに、このカーボンナノチューブを含有する組成物を濃度2.5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液200mL中に投入後、80℃に保持しながら5時間撹拌した。その後、孔径10μmのメンブレンフィルターで吸引濾過し、固液分離した。得られた固形物を蒸留水1Lで洗浄後、濃度5.1mol/Lの硫酸50mL中に投入し、80℃に保持しながら2時間撹拌した。その後、濾紙(Toyo Roshi Kaisha製、Filter Paper 2号、125mm)を用いて固形物を分離した。濾紙上の固形物を、蒸留水500mLで洗浄後、60℃で乾燥してカーボンナノチューブ組成物を回収率90%で得た。
【0075】
(カーボンナノチューブを含む透明導電性フィルム)
50mLの容器に上記で得たカーボンナノチューブ組成物4.8mg、ドデシルベンゼンスルホン酸ソフト型(東京化成製)150mgを量りとり、クロロホルム30mLを加えて、超音波ホモジナイザー出力240W、30分間で処理した。得られた懸濁液に
エチルセルロース(和光純薬製)360mgを加えて溶解後、さらに超音波ホモジナイザー出力240W、30分間で処理し、導電性被覆組成物を調製した。この被覆組成物をポリステルフィルム上にバーコーター(No.8)を用いて数回塗布し、室温で乾燥させた。得られた塗布フィルムの表面抵抗値は3.36×10Ω/cm、全光透過率75%であった。
【0076】
<実施例2>
30mLの容器に<実施例1>で得たカーボンナノチューブ組成物5.0mg、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(東京化成製)250mgを量りとり、蒸留水2.5mLを加えて、超音波洗浄機で30分間処理した。得られた懸濁液にポリスチレンスルホンナトリウム(アルドリッチ製)260mg、蒸留水4.0mLを加えて溶解後、さらに超音波洗浄機で30分間処理し、導電性被覆組成物を調製した。この被覆組成物をポリステルフィルム上にバーコーター(No.8)を用いて数回塗布し、室温で乾燥させた。得られた塗布フィルムの表面抵抗値は2.50×10Ω/cm、全光透過率70%であった。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明によれば、ESD保護、EMI/RFIシールド、低視認性、ポリマーエレクトロニクス(例えば、OLEDディスプレイの透明導電層、ELランプ、プラスチックチップなど)などの用途に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】実施例2で得られたカーボンナノチューブ含有塗布フィルムの写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属を担持した担体と、炭素含有化合物を接触させて得たカーボンナノチューブを含む透明導電性フィルム。
【請求項2】
金属を担持した担体がシリカ、アルミナ、マグネシア、チタニア、ゼオライト、およびケイ素を主成分とするメソポーラス材料から選ばれる少なくとも1種である請求項1記載のカーボンナノチューブを含む透明導電性フィルム。
【請求項3】
金属を担持した担体がゼオライトおよび/またはケイ素を主成分とするメソポーラス材料である請求項2記載のカーボンナノチューブを含む透明導電性フィルム。
【請求項4】
金属がV、Mo、Fe、Co,Ni,Pd、Pt,Rh,W,およびCuから選ばれる少なくとも1種である請求項1〜3のいずれか1項記載のカーボンナノチューブを含む透明導電性フィルム。
【請求項5】
金属がFe、Co,およびNiから選ばれる少なくとも1種である請求項4記載のカーボンナノチューブを含む透明導電性フィルム。
【請求項6】
炭素含有化合物がメタン、エタン、エチレン、アセチレン、ベンゼン、トルエン、メタノール、エタノール、アセトン、ジエチルエーテル、および一酸化炭素から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜5のいずれか1項記載のカーボンナノチューブを含む透明導電性フィルム。
【請求項7】
炭素含有化合物がメタン、エタン、アセチレン、エタノール、およびジエチルエーテルから選ばれる少なくとも1種である請求項6記載のカーボンナノチューブを含む透明導電性フィルム。
【請求項8】
カーボンナノチューブが、金属を担持した担体を200〜950℃の一定温度に保持する際に窒素、アルゴン、水素のいずれかまたは混合ガスを流すことによって得たカーボンナノチューブであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項記載のカーボンナノチューブを含む透明導電性フィルム。
【請求項9】
金属を担持した担体と炭素含有化合物を接触させる温度が600〜950℃である請求項1〜8のいずれか1項記載のカーボンナノチューブを含む透明導電性フィルム。
【請求項10】
カーボンナノチューブの主成分が単層または2層カーボンナノチューブである請求項1〜9のいずれか1項記載のカーボンナノチューブを含む透明導電性フィルム。
【請求項11】
カーボンナノチューブの総本数の50%以上が直径1.0〜3.0nmの2層カーボンナノチューブであることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項記載のカーボンナノチューブを含む透明導電性フィルム。
【請求項12】
カーボンナノチューブの純度がカーボン組成物中の90%以上であり、かつ、カーボンナノチューブの総本数の50%以上が2層カーボンナノチューブであり、任意に選択した2層カーボンナノチューブの片端から他端までを透過型電子顕微鏡で観察したときにチューブ中の屈曲部間距離の平均が50nm以上であるカーボンナノチューブを含むことを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項記載のカーボンナノチューブを含む透明導電性フィルム。
【請求項13】
カーボンナノチューブの総本数の50%以上が直径1.0〜3.0nmの単層カーボンナノチューブであることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項記載のカーボンナノチューブを含む透明導電性フィルム。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1項記載のカーボンナノチューブを含む透明導電性フィルムからなる透明帯電防止層。
【請求項15】
請求項14記載の透明帯電防止層を少なくとも片面に有するシート。
【請求項16】
請求項14記載の透明帯電防止層を少なくとも片面に有するパネル。

【図1】
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【公開番号】特開2006−269311(P2006−269311A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−87700(P2005−87700)
【出願日】平成17年3月25日(2005.3.25)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】