説明

金属ガラス複合構造物及び金属ガラス複合構造物の製造方法

【課題】延性などの多様な特性を実現し易い金属ガラス複合構造物と、金属ガラス複合構造物を大寸法に製造し易い製造方法とを提供する。
【解決手段】構成金属元素が異なる複数の金属ガラス相を含有した構造を有する金属ガラス複合構造物30であり、複数種類の金属ガラス粒子11、12が混合された金属ガラス粒子混合物10を作製し、放電プラズマ焼結法等により焼結させることで製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複数種類の金属ガラス相を含有する金属ガラス複合構造物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、多数の合金系で単相の金属ガラス相を含有する金属ガラスが開発されており、例えば非特許文献1、2には、2種類の金属ガラス相を含有する2相金属ガラス複合物が報告されている。
【0003】
非特許文献1、2では、混合熱が正となるために互いに混ざり合わないZr、La、Y等の金属元素と、ガラス形成能を高めるAl、Ni、Cu等の金属元素とが含有された多元共晶組成を選び、これらの金属元素を溶融して急冷し、急冷中に分相を進行させることで、組成比が異なると共に、凝固後に安定に存在できる2相の金属ガラス相を形成している。
【0004】
このような非特許文献1、2等に記載の金属ガラス複合物や、従来の単相の金属ガラスの多くは、鋳造方法により液体から高速急冷することで作製されていた。従って、形状や大きさなどが冷却速度により制限され、大寸法の金属ガラス構造物を得ることが困難であった。そのため、作製可能な金属ガラスは、特定の合金系における直径数mm以下の小寸法のものに限られていた。
【0005】
金属ガラスの実用化を目指すには、大寸法のものを得ることが要求される。この要求に対する解決策として、金属ガラス粉末を用いた粉末冶金成形法が知られており、大寸法の形状を有する金属ガラス構造物を作製することが可能である。
【0006】
例えば特許文献1では、所定の金属ガラスの粉末を放電プラズマ焼結法により焼結することで金属ガラス構造物を作製している。
【0007】
放電プラズマ焼結法では、パルス状電気エネルギーをFe基軟磁性金属ガラス合金の粉末中に直接に投入することで加熱するので、通常のホットプレス等の焼結法と比べ、低温で短時間に焼結することが可能であり、同種のFe基軟磁性金属ガラスの粉末同士を、軟磁性特性等の特性を損なうことなく、緻密に焼結して金属ガラス構造物を製造することが可能であることが報告されている。
【0008】
なお、非特許文献3には、金属ガラス合金を熱処理することにより、金属ガラス中にナノ結晶を分散させた組織を得ることで、延性を向上することが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−204296号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】A. Inoue, S. Chen, and T. Masumoto, "Zr-Y base amorphous alloys with two glass transitions and two supercooled liquid regions", Mater. Sci. Eng. A, 179 - 180, 1994, 346 - 350.
【非特許文献2】A.A. Kundig, M. Ohnuma, D.H.Ping, T. Ohkuba, and K. Hono, "In situ formed two-phase metallic glass with surface fractal microstructure", Acta Mater., 52, 2004, 2441 - 2448.
【非特許文献3】A. Inoue and A. Takeuchi, "Recent progress in bulk glassy, nanoquasicrystalline and nanocrystalline alloys", Mater. Sci. Eng.A, 375 - 377, 2004, 16 - 30.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、単相の金属ガラス相からなる金属ガラス構造物の場合、その金属ガラス相に応じた特性が得られるのみで、多様な特性を有する金属ガラス構造物を形成することはできなかった。
【0012】
また、放電プラズマ焼結法により製造された単相の金属ガラス構造物では、極めて緻密に金属ガラス相が結合されることで超高強度等を実現できるものの、転位のような欠陥が存在しないことから、剪断帯による変形が唯一の変形機構となる。そのため、ほとんど延性を示さず、超高強度構造材料や機能材料等としての応用が制限されていた。
【0013】
一方、上記非特許文献1、2等のように複数の金属ガラス相を含有する金属ガラス複合物では、複数の金属ガラス相を含有するものの、各金属ガラス相の構成金属元素は同じであり、多様な特性を有する金属ガラス複合物を形成することはできなかった。また、このような金属ガラス複合物では、形状や大きさなどが冷却速度により制限されることから、大寸法の金属ガラス複合物を形成することはできなかった。
【0014】
本発明の第1の目的は、上記課題に鑑み、延性などの多様な特性を実現し易い金属ガラス複合構造物を提供することにあり、第2の目的は、そのような金属ガラス複合構造物を大寸法に製造し易い製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記第1の目的を達成するため、本発明の金属ガラス複合構造体は、構成金属元素が異なる複数種類の金属ガラス相を含有することを特徴とする。
【0016】
上記構成において、金属ガラス複合構造体は、複数種類の金属ガラス相と共に、結晶質金属相及びセラミックス相の一方又は双方を含有していてもよい。
【0017】
上記構成において、金属ガラス複合構造物はNi基金属ガラス相とFe基金属ガラス相とを含有していてもよい。
【0018】
Ni基金属ガラス相がNi52.5Nb10Zr15Ti15Pt7.5からなり、Fe基金属ガラス相は、Fe73Si17Nbからなるものであってもよい。
【0019】
上記第2の目的を達成するため、本発明の金属ガラス複合構造物の製造方法は、構成金属元素が異なる複数種類の金属ガラス粒子が混合された金属ガラス粒子混合物を作製し、金属ガラス粒子混合物を加圧しつつ、金属ガラス粒子混合物に直接パルス電流を通電することにより焼結させることを特徴とする。
【0020】
上記構成において、本製造方法では、Ni基金属ガラス粒子及びFe基金属ガラス粒子を混合して金属ガラス粒子混合物を作製してもよい。
【0021】
金属ガラス粒子混合物を、Ni52.5Nb10Zr15Ti15Pt7.5からなるNi基金属ガラス粒子とFe73Si17NbからなるFe基金属ガラス粒子とを混合して含有させて作製してもよい。
【0022】
金属ガラス粒子混合物を、金属ガラス粒子と共に結晶質金属粒子及びセラミックス粒子のうちの一方又は双方を混合して作製してもよい。
【0023】
上記構成において、全ての金属ガラス粒子のガラス遷移温度より低い焼結温度で、金属ガラス粒子混合物を焼結してもよい。
【0024】
上記第2の目的を達成するため、本発明の金属ガラス複合構造物の製造方法は、構成金属元素が異なる複数種類の金属ガラス粒子が混合された金属ガラス粒子混合物を作製し、全ての金属ガラス粒子のガラス遷移温度より低い温度で、金属ガラス粒子混合物を加熱及び加圧して焼結させてもよい。
【発明の効果】
【0025】
本発明の金属ガラス複合構造物によれば、構成金属元素が異なる複数種類の金属ガラス相を含有するので、各金属ガラス相の特性に基づき、単相の金属ガラスでは得られない延性などの多様な特性を得ることができる。
【0026】
本発明の金属ガラス複合構造物の製造方法によれば、複数種類の金属ガラス粒子が混合された金属ガラス粒子混合物を、加圧しつつ直接パルス電流を通電することにより焼結させ、或いは、全ての金属ガラス粒子のガラス遷移温度より低い温度で加熱及び加圧することにより焼結させるので、急速昇温と急速冷却とが可能である。そのため、各金属ガラス粒子に基づく各金属ガラス相を形成して緻密に大寸法の形状に形成し易く、上述のような多様な特性を有する金属ガラス複合構造物を製造することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施の形態に係る金属ガラス複合構造物の製造方法を説明する図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る他の製造方法を説明する図である。
【図3】実施例で作製された各金属ガラス粒子の走査型電子顕微鏡像であり、(a)はNi52.5Nb10Zr15Ti15Pt7.5からなる金属ガラス粒子、(b)はFe73Si17Nbからなる金属ガラス粒子である。
【図4】(a)は実施例で製造された金属ガラス粒子複合構造物の断面を示す走査型電子顕微鏡像であり、(b)、(c)は各金属ガラス相のEDS分析結果の図である。
【図5】(a)は実施例1の金属ガラス複合構造物について、金属ガラス相間の界面を示す透過型電子顕微鏡像であり、(b)は界面に対応する選択領域回折のパターンを示す。
【図6】実施例1の金属ガラス複合構造物について、金属ガラス相間の界面を図5より拡大して示す高分解能透過電子顕微鏡像である。
【図7】(d)、(e)は、図5(a)のTEM像中の各位置に対応するEDS分析結果を示す。
【図8】本発明の実施例で作製された各金属ガラス粒子と、金属ガラス粒子複合構造物とのX線回折分析結果を示す図である。
【図9】本発明の実施例で作製された各金属ガラス粒子と、実施例1の金属ガラス複合構造物との示差走査熱量測定結果を示す図である。
【図10】本発明の実施例1に係る金属ガラス複合構造物の圧縮強度と延びとの関係の測定結果を示す図である。
【図11】本発明の実施例1の金属ガラス複合構造物の磁化特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、この発明の実施の形態について説明する。
【0029】
この実施の形態に係る金属ガラス複合構造物は、互いに異なる複数種類の金属ガラス相が、各金属ガラス相としての構造を維持した状態で含有された構造物である。この構造物の形状は任意に設定可能である。また、厚みは薄くてもよいが、実用化のために厚肉であるのが好適である。特に制限されるものではないが、例えば5mm以上の厚みを有していてもよい。
【0030】
各金属ガラス相は、それぞれ3種以上の金属元素から構成された金属ガラスの相であり、この金属ガラス複合構造物では、構成金属元素の少なくとも一部が互いに異なる金属ガラス相が2種類以上含有されている。
【0031】
各金属ガラス相を構成する金属ガラスとしては、例えば主成分金属がNiからなるNi基金属ガラス、Fe基金属ガラス、Cu基金属ガラス、Zr基金属ガラス、Ti基金属ガラス、Mg基金属ガラス、Pd基金属ガラス等、公知の各種の金属ガラスを適宜選択することができる。
【0032】
Ni基金属ガラスとしては、例えば一般式(1)に挙げるものであってもよい。Ni基金属ガラスは、高強度及び高耐食性を有していることが知られている。
NiNbZrTiPt (1)
式(1)中、aは60−x、bは10、cは15、dは15、eはxを示し、xは60未満の正の数である。具体的には、例えばNi52.5Nb10Zr15Ti15Pt7.5のような金属ガラスを例示できる。
【0033】
Fe基金属ガラスとしては、例えば一般式(2)に挙げるものであってもよい。Fe基金属ガラスは、優れた軟磁性特性を有していることが知られている。
FeSiNb (2)
式(2)中、hは0.75×(100−y)、iは0.10×(100−y)、jは0.15×(100−y)、kはyを示し、yは100未満の正の数である。具体的には、例えばFe73Si17Nbのような金属ガラスを例示できる。
【0034】
この実施の形態に係る金属ガラス複合構造物は、異なる組成の金属ガラスからなる相が2種類以上含有されている。各種類の金属ガラス相は、各金属ガラス相を構成する金属元素、即ち、構成金属元素の少なくとも一つが互いに異なる相であることが必要である。各構成金属元素に基づいて、それぞれ機械的、電気的、磁気的或いは化学的特性などの各種の特性が互いに異なるため、各相が混在することで、各相の特性に基づく新たな特性を実現し易いからである。また、延性を向上させ易いということから、組成が互いに異なる複数種類の金属ガラス相が含有されていることが特に好適である。
【0035】
このような互いに異なる金属ガラス相としては、主成分となる金属元素の一つだけではなく、全ての構成金属元素が異なっていてもよい。異なる種類の金属ガラス相の主成分金属が、混合熱が正となる金属の組み合わせとなれば、後述する製造時に各金属ガラス相を維持し易いなどの理由で、特に好適である。
【0036】
より具体的には、例えばNi52.5Nb10Zr15Ti15Pt7.5等のNi基金属ガラス相と、Fe73Si17Nb等のFe基金属ガラス相とを含有する金属ガラス複合構造物では、Ni基金属ガラスに基づく高い超高強度及び耐食性を備えると共に、Fe基金属ガラス相に基づく良好な軟磁性特性を備え、しかも、延性を有する金属ガラス複合構造物となる。このような特性を有する金属ガラス複合構造物は、例えば機械部品、電気回路部品等の材料に好適に使用することができる。
【0037】
さらに、含有される金属ガラス相の種類が3種類以上であっても、同様に各金属ガラス相に応じた特性や延性を得ることが可能である。
【0038】
なお、各金属ガラス相の存在割合は、製造可能な限り、所望の特性に応じて適宜設定することが可能である。
【0039】
また、この金属ガラス複合構造物には、各金属ガラス相と共に、結晶質金属相及びセラミックス相の一方又は双方が含有されていてもよい。結晶質金属相を構成する結晶質金属としては、例えばW、Cuのような金属元素の結晶を例示できる。
【0040】
また、セラミックス相としては、例えばSiC、ZrOのようなセラミックスなどを例示できる。
【0041】
これらの相を含有させることで、金属ガラス複合構造物の延性をより向上し、例えば5%以上の延伸も実現可能である。
【0042】
この実施の形態に係る金属ガラス複合構造物では、これらの複数種類の金属ガラス相、結晶質金属相、セラミックス相が出来るだけ緻密に接合されていることが望ましく、好ましくは金属ガラス複合構造物の相対密度が97%以上、特に、相対密度が99%以上であることが好適である。相対密度が過剰に小さいと、低強度のポーラス金属ガラス複合構造物となり易いからである。
【0043】
さらに、このような金属ガラス複合構造物では、各金属ガラス相が、出来るだけ均一に分散されているのがよい。また、金属ガラス相間がより明確な界面で接合されていると共に、界面が出来るだけ連続していることが好ましく、各相間の界面に結晶構造や不純物が出来るだけ存在しないことが好ましい。なお、各相間の界面又は界面近傍の各金属ガラス相の内部には、各金属ガラス相としての構造を維持できる範囲で、他の金属ガラス相の構成金属元素が拡散されていてもよい。
【0044】
以上のような金属ガラス複合構造物によれば、後述する実施例から明らかな通り、構成金属元素が異なる複数種類の金属ガラス相を含有するので多様な特性を得易い。即ち、各金属ガラス相が金属ガラスとしての構造を維持した状態で含有されることで、各金属ガラス相の特性に基づいた各種の新たな特性を実現し易く、機械的、電気的、磁気的、或いは化学的特性等の各種の特性が異なる複数種類の金属ガラス相を、目的に応じて組み合わせることで所望の特性を実現することも可能である。
【0045】
しかも、この金属ガラス複合構造物は、各相が高度に緻密に接合され、構造中に転位などの欠陥が存在しなくても、複数種類の金属ガラス相が混在することで、金属ガラス複合構造物を構成した各金属ガラス相が単独で緻密に接合された金属ガラス構造体に比べ、大きな延性を確保することが可能である。
【0046】
次に、金属ガラス複合構造物の製造方法の一例について説明する。
図1は、この実施の形態に係る製造方法を説明する図である。まず、互いに異なる構成金属元素からなる複数種類の金属ガラス粒子が混合されている金属ガラス粒子混合物10を作製し、この金属ガラス粒子混合物10を焼結装置20で焼結することにより、金属ガラス複合構造物30を製造する。
【0047】
金属ガラス粒子混合物10は、第1の金属ガラス粒子からなる第1粉末11と、第2の金属ガラス粒子からなる第2粉末12とを作製し、出来るだけ均一に混合することで作製する。第1粉末11と第2粉末12は、別々に作製して混合してもよく、両者を混合状態で作製してもよい。さらに、予め作製されている粉末を用いることも可能である。
【0048】
第1粉末11及び第2粉末12の各金属ガラス粒子は、焼結されることで上述のような金属ガラス相を形成する材料である。各金属ガラス粒子は、上述のような金属ガラスからなる微細な粒子であればよいが、平均粒径が125μm以下で形状が球形状の粒子であれば、焼結時により緻密に焼結させ易いことから好適である。また、各種類の金属ガラス粒子として、ガラス遷移温度と結晶化開始温度との間の温度領域が少なくとも一部重複するものを選択すれば、各種類の金属ガラス粒子をそれぞれ軟化させる焼結条件を設定し易くて好適である。
【0049】
第1粉末11及び第2粉末12を作製するには、例えばモールド鋳造法、ガスアトマイズ法等、各種の金属ガラス粒子の作製方法を採用することが可能である。
ガスアトマイズ法を用いる場合、例えば各金属ガラス粒子を構成する高純度の単体金属を、各金属ガラス粒子の組成となるように混合し、高純度に精製されたアルゴン等の不活性ガス中で溶融し、各金属ガラス粒子のマスターインゴットを作製する。そして、各マスターインゴットを所望の金属ガラス複合構造物30の組成に応じて用い、減圧下で再溶融し、ノズルから射出しつつ高圧アルゴンガスによりエッチングすることで、金属ガラス粒子混合物10を作製することができる。
【0050】
次いで、得られた金属ガラス粒子混合物10を、焼結装置20により所定条件下で加熱及び加圧して焼結させることで、金属ガラス複合構造物30を製造する。
焼結は、例えばホットプレス法、熱間静水圧プレス法等を利用して所定の焼結温度で加熱すると共に加圧することで焼結してもよい。また、放電プラズマ焼結法を利用して、金属ガラス粒子混合物10を加圧しつつ金属ガラス粒子混合物10に直接パルス電流を通電することで焼結してもよい。さらに、他の粉末冶金法を利用することも可能である。
【0051】
焼結時の圧力は、目的の金属ガラス複合構造物30の厚みや形状等に応じて適宜設定可能であるが、緻密に焼結し易いことから、例えば200MPa以上、好ましくは300MPa以上の圧力としてもよい。
【0052】
焼結時の温度は、各金属ガラス粒子中に結晶化を防止するために、第1粉末11及び第2粉末12を構成する金属ガラスの結晶化開始温度より低い温度とするのがよく、好ましくは、ガラス遷移温度より低い温度とする。
【0053】
この実施の形態では、一例として、放電プラズマ焼結法を用いて、第1粉末11及び第2粉末を焼結しており、金属ガラス粒子混合物10を所望の形状の成形型21内に配置し、上下の加圧部22,22間で加圧し、パルス電流源23から、上下の加圧部22,22間にパルス電流を負荷し、所定の保持時間、その状態を維持することで焼結する。焼結時には、金属ガラス粒子混合物10や目的の金属ガラス複合構造物30の形状等に基づき、所定の焼結温度となるようにパルス電流や保持時間を調整する。
【0054】
放電プラズマ焼結法では、典型的には数千アンペアの平均電流のパルス電流が、直接焼結される金属ガラス粒子混合物10に通電されることで、種々の物理化学的現象を誘起して、金属ガラス粒子混合物10を焼結する。このとき、放電生成やスパッタ効果により、粒子表面の不純物層を除去したり表面酸化膜を破壊し、粒子間にネック部分を形成する。さらに、ネック部分に集中する電流及びジュール熱で、粒子間、特に、相対密度の低い部位の接触界面の温度を平均温度より高くしたり、ネック部分と粒子コア部との間の温度差による原子のマイグレーションを増加させ、ネック部分を成長させる。しかも、低温で短い保持時間に高圧下で変形される高粘性流により、金属ガラス相間の構成金属成分の相互拡散を、界面に近接する領域において生じさせる。
【0055】
そのため、急速昇温及び急速冷却を実現し、金属ガラス相の結晶化を防止しつつ、互いに異なる種類の金属ガラス粒子同士を、各粒子の金属ガラスとしての構造を維持して特性を損なうことなく接合することが可能であり、同時に、異なる種類の金属ガラス相間に結晶相や欠陥等の発生を防止して極めて緻密に焼結することが可能である。
【0056】
なお、この製造方法では、第1粉末11及び第2粉末12からなる金属ガラス粒子混合物10を用いた例について説明したが、金属ガラス粒子の粉末は何ら2種類に限定されない。また、例えば図2に示すように、金属ガラス粒子からなる粉末に、結晶質金属粒子やセラミックス粒子からなる粉末15を混合して金属ガラス粒子混合物10を作製し、その後、上記と同様にして、金属ガラス複合構造物30を製造することも可能である。
【0057】
以上のような金属ガラス複合構造物30の製造方法によれば、構成金属元素が異なる複数種類の金属ガラス粒子の粉末11,12が混合された金属ガラス粒子混合物10を、加圧及び加熱したり、加圧しつつパルス電流を通電することにより焼結させるので、各金属ガラス粒子に基づく各金属ガラス相を形成して大寸法の形状に焼結することができる。
【実施例1】
【0058】
以下に示す実施例により、本発明をさらに詳細に説明する。
原料となる高純度のNi、Nb、Zr、Ti、Ptを、高純度アルゴン雰囲気中で、アーク溶解法を用いて溶融状態とし、Ni52.5Nb10Zr15Ti15Pt7.5合金のマスターインゴットを作製した。
また、Fe、Si、B、Nbを、同じく高純度アルゴン雰囲気中で、アーク溶解法を用いて溶融状態とし、Fe73Si17Nb合金のマスターインゴットを作製した。
【0059】
次いで、各マスターインゴットを、減圧下、石英管中で誘導加熱コイルを用いて約1273K〜1473Kの温度で再溶融し、直径0.8mmのノズルから射出し、動圧約8.3MPaの高圧アルゴンガスにより微粉砕することで、それぞれ金属ガラス粒子からなる粉末を作製した。
【0060】
図3は、実施例1で作製した各金属ガラス粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)像であり、“A”相はNi52.5Nb10Zr15Ti15Pt7.5からなる金属ガラス粒子、“B”相はFe73Si17Nbからなる金属ガラス粒子である。電子の加速電圧は10kVであり、倍率は300倍である。図3から分かるように、各金属ガラス粒子の粒径は何れも63μm以下であった。
【0061】
両金属ガラス粒子からなる粉末を体積比1:1で出来るだけ均一に混合することで、実施例1の金属ガラス粒子混合物を作製した。
作製した金属ガラス粉末混合物を予備成形後、放電プラズマ焼結装置(住友石炭鉱業株式会社製、model SPS3.20MK−IV、商標)を用い、減圧下、焼結温度773K、負荷圧力600MPaで、パルス繰り返し周波数が10回ON、2回OFFのようなパルス電流を通電し、保持時間10分として焼結することにより、実施例1の金属ガラス複合構造物を作製した。この金属ガラス複合構造物は直径20mm及び高さ約5mmの円柱形状であった。
【0062】
なお、実施例1との比較のために、Ni52.5Nb10Zr15Ti15Pt7.5からなる金属ガラス粒子のみを用いる他は、実施例1の金属ガラス複合構造物と同様にして、比較例1の金属ガラス構造物を作製した。
【0063】
以下に実施例1及び比較例1の金属ガラス複合構造物の観察及び測定結果を説明する。
まず、実施例1により得られた金属ガラス複合構造物の密度を、テトラブロモエタンを用いて、アルキメデス法により測定したところ、相対密度は99.0%以上であった。
【0064】
次に、実施例1の金属ガラス複合構造物の微細構造を、走査型電子顕微鏡(SEM)、エネルギー分散型X線分析装置(EDS)を備えた透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、観察及び測定した。
【0065】
図4(a)に実施例1の金属ガラス複合構造物の断面のSEM像を示すと共に、図4(b)及び(c)にSEM像中の各相に対応するEDS分析結果を示す。
図4(a)〜(c)から明らかなように、図4(a)中の明るい領域A相がNi52.5Nb10Zr15Ti15Pt7.5からなる金属ガラス相であり、暗い領域B相がFe73Si17Nbからなる金属ガラス相であることを確認した。
【0066】
また、図4(a)から明らかなように、各相は均一に分散され、各相間の界面が明確であると共に連続しており、Ni基金属ガラス相とFe基金属ガラス相とが緻密に良好に結合されていた。結晶相の形成を示すコントラストは観察されなかった。実施例1の金属ガラス複合構造物では、SEMイメージ内に数個の空孔が存在するだけであった。
【0067】
図5(a)に実施例1の金属ガラス複合構造物について、金属ガラス相間の界面のTEM像を示し、図5(b)に界面に対応する選択領域回折のパターンを示し、図6に、金属ガラス相間の界面を図5(a)より拡大した高分解能透過電子顕微鏡(HRTEM)像を示し、図7(d)、(e)に、図5中のTEM像中のd点及びe点に対応するEDS分析結果を示す。
TEM試料は、実施例1の金属ガラス複合構造物から薄い箔状を切り出し、機械的に薄くし、アルゴンイオンでエッチングして電子透過性にした。この際、結晶化を誘起する高エネルギーのイオンビームを使用しないで、約2.0keVの低エネルギーでエッチングした。
【0068】
図5(a)、図6から明らかなように、矢印で示すような明瞭な界面が観察された。界面及び各相内には、結晶相の形成を示す検出可能なコントラストは観察されなかった。また、図5(b)から明らかなように、2つの異なる金属ガラス相の存在を示す2つのハローリングが観察された。このSADパターンのハローリングは、結晶性がないことを示している。
さらに、図7(d)、(e)から明らかなように、界面に近接する領域において、構成元素金属の相互拡散が観察された。多量のFeがA相のNi基金属ガラス相中で検知されているため、Feの拡散率が構成金属元素中でもっとも高いものと推定された。
【0069】
次に、実施例1の金属ガラス複合構造物の2相金属ガラス構造をX線回折法により確認した。
図8は、各金属ガラス粒子と実施例1の金属ガラス複合構造物とについて、単色Cu−Kα源による反射型のX線回折の測定結果を示す図である。図8において、縦軸はX線回折強度(任意目盛)を示し、横軸は角度(°)、即ち、X線の原子面への入射角(θ)の2倍に相当する角度を示す。図中、曲線a、bはそれぞれNi基金属ガラス粒子とFe基金属ガラス粒子の結果を示し、曲線cは実施例1の金属ガラス複合構造物の結果を示す。
【0070】
図8から明らかなように、曲線cでは結晶からの回折を示す強いピークは観察されないと共に、曲線a、bの重ね合わせを示し、金属ガラス複合構造物の曲線cの位置や強度がNi基金属ガラス粒子及びFe基金属ガラス粒子の曲線a、bの値と対応している。即ち、実施例1の金属ガラス複合構造物がNi基金属ガラス相とFe基金属ガラス相との2相金属ガラス構造を有することを確認した。
【0071】
次に、各金属ガラス粒子と実施例1の金属ガラス複合構造物とについて、示差走査熱量を示差走査熱量計により測定し、ガラス遷移温度Tgと、結晶化開始温度Txとを求めた。
図9の曲線a、bは、Ni基金属ガラス粒子とFe基金属ガラス粒子とのDSC曲線を示し、曲線cは、実施例1の金属ガラス複合構造物のDSC曲線を示す。縦軸は熱量(任意目盛)であり、横軸は温度(K)である。
なお、通常のDSC曲線で相転移が起きる現象を調べる際には発熱反応が観測されるのに対し、金属ガラスでは吸熱反応が観測される。そのため、過冷却液体領域を意識して、縦軸の下向き矢印で吸熱を表現している。また、測定において、加熱速度は0.67K/sとした。
【0072】
図9から明らかな通り、曲線cに示される実施例1の金属ガラス複合構造物の結晶化の挙動は、各金属ガラス粒子とは相違し、曲線a、bに示される各金属ガラス粒子の挙動を組み合わせたものとなっている。曲線cに示されるように、867KでFe基ガラス相の結晶化が開始し、次いで、Ni基ガラス相の結晶化が開始していた。
【0073】
次に、実施例1の金属ガラス複合構造物の圧縮試験を行うと共に、Ni52.5Nb10Zr15Ti15Pt7.5からなる金属ガラス粒子のみを用いた比較例1の金属ガラス構造物の圧縮試験を行った。圧縮試験の結果を図10に示す。
【0074】
圧縮試験は、幅2.5mm、厚み2.5mm、高さ5.0mmの四角柱形状の測定片を作製し、汎用機械式テスト機(島津製作所社製、Autograph AG−X、商標)を用い、一軸加圧下で5×10−4−1の初期ひずみ速度に対応する一定のクロスヘッド速度で、圧縮強度と延びとの関係を測定することで行った。
図10から明らかな通り、実施例1の金属ガラス複合構造物の試験片の圧縮破壊強度は2600MPaであり、Ni52.5Nb10Zr15Ti15Pt7.5からなる金属ガラスより高く、延性が向上していることが確認された。
【0075】
次に、実施例1の金属ガラス複合構造物の飽和磁化強度を含む磁気的特性を、振動試料型磁力計(VSM、東英工業株式会社製、商標)により測定した。
図11は、実施例1の金属ガラス複合構造物の磁化特性を測定した結果である。飽和磁化強度(Is)は0.61Tであった。
【0076】
実施例1の金属ガラス複合構造物は、延性の向上と共に、ランダムに分散されたFe73Si17Nbからなる金属ガラス相に基づき、良好な軟磁性特性を有していることが確認された。
【0077】
本発明は、上記実施例に限定されることなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々の変形が可能であり、それらも本発明の範囲内に含まれる。例えば第1及び第2粉末11、12は、他のNi基金属ガラスやFe基金属ガラスからなるものであってもよく、さらに他の金属ガラスからなるものであってもよいことなどは勿論である。
【符号の説明】
【0078】
10 金属ガラス粒子混合物
11 金属ガラス粒子からなる第1粉末
12 金属ガラス粒子からなる第2粉末
15 結晶質金属粒子又はセラミックス粒子からなる粉末
20 焼結装置
30 金属ガラス複合構造物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成金属元素が異なる複数種類の金属ガラス相を含有することを特徴とする、金属ガラス複合構造物。
【請求項2】
複数種類の前記金属ガラス相と共に、結晶質金属相及びセラミックス相の一方又は双方を含有することを特徴とする、請求項1に記載の金属ガラス複合構造物。
【請求項3】
Ni基金属ガラス相とFe基金属ガラス相とを含有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の金属ガラス複合構造物。
【請求項4】
前記Ni基金属ガラス相は、Ni52.5Nb10Zr15Ti15Pt7.5からなり、前記Fe基金属ガラス相は、Fe73Si17Nbからなることを特徴とする、請求項3に記載の金属ガラス複合構造物。
【請求項5】
構成金属元素が異なる複数種類の金属ガラス粒子が混合された金属ガラス粒子混合物を作製し、
上記金属ガラス粒子混合物を加圧しつつ、該金属ガラス粒子混合物に直接パルス電流を通電することにより焼結させることを特徴とする、金属ガラス複合構造物の製造方法。
【請求項6】
Ni基金属ガラス粒子及びFe基金属ガラス粒子を混合して前記金属ガラス粒子混合物を作製することを特徴とする、請求項5に記載の金属ガラス複合構造物の製造方法。
【請求項7】
Ni52.5Nb10Zr15Ti15Pt7.5からなる前記Ni基金属ガラス粒子と、Fe73Si17Nbからなる前記Fe基金属ガラス粒子とを混合して前記金属ガラス粒子混合物を作製することを特徴とする、請求項6に記載の金属ガラス複合構造物の製造方法。
【請求項8】
前記金属ガラス粒子と共に、結晶質金属粒子及びセラミックス粒子のうちの一方又は双方を混合して、前記金属ガラス粒子混合物を作製することを特徴とする、請求項5乃至7の何れかに記載の金属ガラス複合構造物の製造方法。
【請求項9】
全ての前記金属ガラス粒子のガラス遷移温度より低い焼結温度で、前記金属ガラス粒子混合物を焼結することを特徴とする、請求項5乃至8の何れかに記載の金属ガラス複合構造物の製造方法。
【請求項10】
構成金属元素が異なる複数種類の金属ガラス粒子が混合された金属ガラス粒子混合物を作製し、
全ての上記金属ガラス粒子のガラス遷移温度より低い温度で、上記金属ガラス粒子混合物を加熱及び加圧して焼結させることを特徴とする、金属ガラス複合構造物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−255053(P2010−255053A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−107145(P2009−107145)
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年2月8日 インターネットアドレス「http:www.elsevier.com/locate/intermet」に発表
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】