説明

金属コーティングにてカプセル化された非金属蛍光粒子

本発明は、蛍光物質を有する非金属コアと、非金属コアをカプセル化する金属シェルとを含む粒子に関するもので、金属シェルは、前記蛍光物質を励起させる第1波長を有する電磁放射線に対する透過性、及び前記蛍光物質から放射される第2波長を有する電磁放射線に対する反射性を有し、金属シェル内に第2波長を有する電磁放射線を閉じ込める。このシステムによれば、サブミクロン粒子サイズでも、粒子内部に光学空洞モードを励起させることができる。空洞モードは、粒子の誘電体環境の如何なる変化にも非常に敏感である。この感度は、光学ナノバイオセンサの構成のために用いられ得る。前記システムの他の応用としては、球状光波用の微視的ソースがあり、デジタルインラインホログラフィ及びディスプレイ技術で応用を見出すことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属コーティングを有する非金属蛍光粒子を含む光学素子、前記粒子を製造する方法、前記粒子を含む光学装置、及び少量の生物学的又は化学的分子を測定又は検出する分野に適用できる前記粒子を用いる分析方法に関する。
【0002】
本出願は、2006年5月1日に出願された米国仮特許出願第60/796,162号に基づく優先権を主張する特許出願である。前記米国仮特許出願第60/796,162号と、2006年9月21日に出願された他の米国仮特許出願第60/826,483号の全ての内容がここで参照して組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
光学微小空洞は、共振再循環によって光を少量に閉じ込め、可能な用途として、超小型(microscopic)光エミッタ、レーザー、及びセンサなどがあることが立証された(K.J.Vahala、ネイチャー 第424巻、p.839〜846、2004年)。再循環は、微小空洞内に保持される光の波長と伝播方向に、形状に依存する境界条件を与える。これにより、特定の光学モード、いわゆる「空洞モード」のみ許可される。このように許可されたモードのエネルギレベルは微小空洞の形状と光学特性に大きく依存するため、 微小空洞の光学特性は、例えば(例えば、空洞の変形による)力又は(例えば、微小空洞のすぐ近くにおける屈折率の対応する変化による)化学的濃度の変化を検出するために使用できる、非常に敏感な微小光学センサをなす。これと同様に、微小空洞は、例えば、特に微小空洞に又は微小空洞内に分子を閉じ込める表面吸着と、その結果として生じる空洞の周囲又は内部の屈折率の変化によって、生体分子検出のために使用できる。
【0004】
微小空洞の内部における光の閉じ込めは、微小空洞と周囲との間に高反射性の境界を要求する。これは、例えば、光学導波管の内部で、光の誘導と同様、全反射によって達成できる。図1に示すように、微小空洞の屈折率ncavが周囲の屈折率nenvより大きければ、即ちncav>nenvであれば、全反射が行われ得る。しかし、このような場合にも、いわゆる「臨界角」αcrit=arcsin(nenv/ncav)より大きい角度αの場合にのみ全反射が行われる(ここで、αは、反射が行われる空洞の内部に垂直の局部表面から測定される)。このように簡単な考慮事項は、微小空洞の内部に閉じ込められた光の波長に比べて表面粗度が無視できる限り有効である。従って、製造可能な平滑な表面の精度によって、微小空洞の1つの一般的なサイズ下限が与えられる。
【0005】
微小空洞の利用において他の障害は、微小空洞と周囲との間の高反射性界面が要求されることと直接関連する。光の経路は、無吸着媒体で可逆的であるので、界面は、周囲から界面に衝突する光ビーム20に対して高反射性である。このため、高反射性という要件を満たして長い光保存力を提供する空洞内部の光学モードは、外部から微小空洞に接近する光のため、容易に達成できない。
【0006】
Vollmer及び共同研究者(F.Vollmerら、応用物理学レター(Applied Physics Letters)第80巻、p.4057〜4059、2002年)は、微小球の内部の空洞モードの形成のために、光ファイバの無被覆コアとシリカ微小球との間にエバネセント場(evanescent field)カップリングを用いた。この場合、光子は、小さい空気間隙を通じるトンネリングによって、ファイバの高屈折率コアから微小球の高屈折率内部に移動することができる。空気間隙は、数ナノメートル程度でなければならず、正確に制御されなければならない。このため、微小球は、固形マウント(solid mount)に固定されなければならず、Vollmerらの場合、固形マウントとしてバイオセンシング応用のマイクロ流体装置を使った。Vollmerらは、直径300μmのシリカ球の外部表面で、ウシ血清アルブミン(BSA)の吸着によって空洞モードバイオセンシングを検証することができた。彼らは、彼らのセンサスケールの感度が1/Rであることを示したが、ここで、Rは粒径である。
【0007】
Kuwata−Gonokami及び共同研究者(M.Kuwataら、応用物理学の日本ジャーナル 第31巻、p.L99〜L101、1992年)は、空洞モードの形成のために、染色ドープされたポリスチレン(PS)微小球を使った。染料を含む微小球に超短レーザーパルスを照射して、染色分子を励起させた。微小球の表面に小さい入射角αでポンプレーザーパルスを入射することで、光は少ない損失だけで(〜5−10%)光学的に更に稠密な微小球に貫通することができた。微小空洞の内部の励起された染色分子に任意の方向、即ち全反射条件を満たす方向に蛍光を再照射した。これにより、染色分子の放射波長範囲内に収まる全ての空洞モードが形成された。高いポンプ強度で微小空洞レージングが観察された。
【0008】
Halas及び共同研究者は、非金属コアと光バイオセンシングのための金属シェルとからなる一層小さいサイズのコアシェル粒子を提案した(Westら、米国特許第6699724 B1号)。彼らは、特に、数十から数百ナノメートルの粒子領域、即ち1μm未満の外径を有する粒子を研究した。そのような粒子の導電性シェルは、いわゆる「プラズマ振動数」で光学的に励起できるが、このプラズマ振動数は、シェルの自由電子の集合的な振動に対応する。固体金属粒子のプラズマ振動数は、粒子サイズに単に制限された依存性を示し、基本的に、電子密度と有効電子質量のようなバルク材の物理的特性によって与えられ、Halasらは、コアシェル粒子の場合、単に粒子のコアとシェル半径の比を変えることで、可視線から近赤外線までの広い範囲でプラズモン振動数の位置が同調できることを立証することができた(N.Halas、光学及びフォトニクスニュース(Optics&Photonics News)、第13巻、8版、p.26〜31、2002年;S.J.Oldenburgら、物理化学レター(Chemical Physics Letters)、第288巻、p.243〜247、1998年)。Halasらは、プラズマ振動数を、外部シェル表面で吸着された有機分子の表面強化ラマン放射を支持することができる振動数範囲内に切り替えることで、そのような粒子をバイオセンサとして使うことを提案した。これにより、ラマン放射は、タンパク質吸着の質的尺度としての役割を果たすことができる。Halasらは、微小空洞モードの生成又は利用ではなく、プラズマ振動数の同調だけのために、製造された粒子のコアシェル特性を用いたことに留意されたい。そうしているうちに、彼らは、そのようなモードの形成のために、非金属粒子コアに任意の種類の蛍光物質を埋め込むことは提案しなかった。
【0009】
閉鎖された微小空洞のほかにも、開放された微小空洞の利用がバイオセンシングのために提案された。このような微小空洞は、薄い金属膜の微小空孔を含む。光は、薄い膜の面でのみ閉じ込められ、垂直方向では自由である。Blair及び共同研究者(Y.Liuら、ナノ技術 第15巻、p.1368〜1374、2004年;Y.Liu & S.Blair、SPIE会報、第5703巻、p.99〜106、2005年)は、薄い金膜にパターン化されたナノ空洞に吸着された染色標識されたタンパク質の蛍光強化を研究した。彼らは、2の因子による蛍光強化及び6の因子による量子収率の増加を観察した。以下で説明することと対照的に、分析物に付着された蛍光体標識を除いて、空洞モードの形成のための染色分子又は量子ドット(quantum dot)のような付加的な活性媒体が存在しない。このため、観察された効果が少し弱く、個々の微小空洞の大きいスケール組立体でのみ観察可能である。
【0010】
Scherrer及び共同研究者(O.Painterら、サイエンス誌第284巻、p.1819〜1821、1999年)は、2次元光結晶で単一欠陥を有し、1.55μmの波長を有する光を閉じ込める、今まで最も小さい微小空洞体積(0.03μm)を達成した。しかし、彼らは、この空洞体積の計算において、閉じ込められた光子を保持するのに必要な周期的構造の全体サイズを含まなかった。周期的構造の全体サイズは、光結晶に基づくセンサのサイズをサブミクロン程度に縮小することを妨害する可能性がある。
【0011】
金属粒子又は薄い金属膜のプラズマ励起に基づく無標識のバイオセンシングのための多様な方法が存在する。これらの場合、入射される光波は、自由伝播又は局部的な表面プラズモン(金属の自由電子の集合的な振動に対応する)を開始させるのに使われる。そうすると、プラズモンは、金属膜又は金属粒子の閉鎖された環境にエバネセント電磁波を生成する。この環境において、例えば、生体分子吸着によって誘電体特性が変更されると、プラズモン振動は、その共振位置を変更させる。これにより、このような移動は、無標識の光学バイオセンサの読出信号として用いられる。
【0012】
局部的なプラズモン効果を用いる手法の例がUS 2003/0174384 A1、EP 0 965 835 A2及びセンサとアクチュエータ B 2000、63、p.24〜30に挙げられている。自由移動プラズモンを用いる例が米国ニュージャジー州PiscatawayにあるPharmacia Biosensor社のBIAコアシステムに挙げられている。しかし、これらの何れにも、上述したプラズモン効果の増幅のための微小空洞モードは提案されていない。
【0013】
【特許文献1】米国特許第6699724 B1号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2003/0174384 A1号明細書
【特許文献3】欧州特許第 0 965 835 A2号明細書
【非特許文献1】K.J.Vahala,「ネイチャー」,第424巻,2004年,p.839−846
【非特許文献2】F.Vollmerら,「応用物理学レター(Applied Physics Letters)」,第80巻,2002年,p.4057−4059
【非特許文献3】M.Kuwataら,「応用物理学の日本ジャーナル」,第31巻,1992年,p.L99−L101
【非特許文献4】N.Halas,「光学及びフォトニクスニュース(Optics&Photonics News)」,第13巻,8版,2002年,p.26−31
【非特許文献5】「物理化学レター(Chemical Physics Letters)」,第288巻,1998年,p.243−247
【非特許文献6】Y.Liuら,「ナノ技術」,第15巻,2004年,p.1368−1374
【非特許文献7】Y.Liu&S.Blair,「SPIE会報」,第5703巻,2005年,p.99−106
【非特許文献8】O.Painterら,「サイエンス誌」,第284巻,1999年,p.1819−1821
【非特許文献9】「センサとアクチュエータ B 2000」,63,p.24−30
【非特許文献10】Pharmacia Biosensor社,「BIAコアシステム」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
つまり、真のナノセンサの開発に有効であり得る1ミクロン未満のサイズを有する微小空洞、即ち「ナノ空洞」の製造試みは今まで成功していない。本発明者らの研究過程において、このような失敗の主原因を慎重に調査した結果、次のように推定した:
(i)金属コーティングのない非金属空洞(この空洞内では全反射によって、いわゆる「ウィスパリングギャラリーモード(Whispering Gallery Modes、WGM)」のみ励起できる)は、粒子と環境との間の界面における光の平均入射角が徐々に小さくなるため、粒径の減少に伴って損失が急激に増加し、これによって臨界角αcritを超える大きい入射角であるという条件に反するようになる。(ii)また、粒子が小さくなる場合、表面粗度が更に重要になり、界面に対する低い入射角αの方向へ付加的な光の散乱が引き起こされる。
【0015】
このような問題が発明者の調査で最近主題となり、以下で詳述する蛍光物質を励起させるための手段と共に、金属コーティング及び微小空洞の内部に埋め込まれた蛍光物質を用いることで、前記問題を回避することができる発明を考えるようになった。金属コーティングは、表面に対する光の入射角にほとんど依存しない反射率を示す(図1参照)。しかし、このような理由で、金属コーティングは、外部から空洞に衝突する放射線から空洞全体を遮蔽する。このため、空洞モードの形成のための微小空洞の内部に埋め込まれた蛍光物質を励起させるのは困難であり、このため、今まで試みていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、蛍光物質を有する非金属コア及び非金属コアをカプセル化する金属シェルを含む粒子に関するもので、金属シェルは、前記蛍光物質を励起させる第1波長を有する電磁放射線に対する透過性、及び前記蛍光物質から放射される第2波長を有する電磁放射線に対する反射性を有して、金属シェル内に第2波長を有する電磁放射線を閉じ込める。また、前記透過性は、電磁放射線が非金属コアに入ることを可能にする小さい開口を有する金属シェルを用いることで達成できる。金属シェルのそのような小さい開口は、基材又は隣接粒子と接触するシェルの一部に位置したり、又は小さい開口は、π/4λ未満の最大面積を有したりし、ここで、λは開口を通じて透過させようとする光の波長である。
【0017】
前記粒子において、非金属コアは、染色分子、量子ドット、カーボンナノチューブ、ラマンエミッタなどからなる群から選ばれる1種以上の蛍光物質を有することができる。蛍光物質は、非金属コア内に又は非金属コアの表面に存在することができる。非金属コアは、前記2種以上の蛍光物質の混合物状態の蛍光物質を有することができる。単一種又は複数種の混合物であり得る蛍光物質は、コアの体積又は表面に均質又は不均質に分布できる。
【0018】
蛍光物質は、空洞コア又はその表面に整列された、又は、整列されていない方式で配置できる。金属コーティングにてカプセル化された粒子において、空洞コアは、光結晶の全体に周期的に配置された、又は、ランダムに分布された蛍光物質を有する光結晶を含むことができる。
【0019】
本発明で使われる蛍光物質は、第1範囲の波長λexcを有する電磁放射線によって励起でき、第2範囲の波長λemを有する電磁放射線を放射することができる。本発明で使われる金属シェルは、少なくとも蛍光物質によって放射される第2範囲の波長のうち一部で高反射性を示す。そして、蛍光物質の放射波長は、金属シェルの表面プラズモン共振の分光範囲をカバーすることができる。
【0020】
本発明の一実施形態は、金属コーティングにてカプセル化された粒子に関連して説明できるが、ここで、蛍光物質は超短レーザーパルスによって励起され、その結果、基底状態より高い励起状態が形成されて、即ち基本的なレージング条件が少なくとも一時的に満たされる。
また、粒子は、担持基材によって担持でき、金属コーティングの小さい開口は担持基材と接触してのみ存在してもよい。前記金属コーティングの小さい開口は、組立体で隣接空洞と接触してもまた存在してもよい。
【0021】
本発明の粒子において、空洞コアの体積(V)、空洞コアの特性因子(Q)、及び蛍光物質の放射波長(λem)は、空洞内部における関係が不等式(I)を満たすように選択できる:
【数4】

前記空洞コアの体積は、1000μm以下であってよく、より好ましくは100μm以下、最も好ましくは1μm以下であってよい。空洞体積(Vmin)及び空洞コア内部の蛍光物質の放射波長範囲(λem)の少なくとも一部は、条件(II)を満たすように選択でき、
【数5】

因子fは5未満であり、より好ましくは3未満、そして最も好ましくは1未満である。
【0022】
本発明の粒子において、空洞の特性因子は1より大きくてもよく、より好ましくは3より大きく、更に好ましくは5より大きく、更により好ましくは10より大きく、最も好ましくは50より大きくてよい。
【0023】
また、本発明の粒子において、蛍光物質の放射範囲(λem)の少なくとも一部は、下記条件、即ち
【数6】

を保持するように選択でき、ここで、dはλemに対応する蛍光物質の遷移双極子モーメント、ncavは空洞コアの屈折率、Qは(λemに対する)空洞コアの特性因子、そしてVは空洞コアの体積である。
【0024】
本発明の他の態様は、請求項1による粒子を少なくとも2つ含むカップリングされた粒子システムに関するもので、前記粒子は、金属シェル内の1以上の空洞モードが互いにカップリングされるように、互いにほぼ接触して位置される。前記カップリングされた粒子システムは、光子がある空洞から隣接した空洞へ10−6より大きい確率でトンネリングできるように、互いにほぼ接触して位置される粒子を含むことができる。トンネリング確率が10−6未満の場合、観察のための十分な強度のカップリングを達成するのは困難である。本発明のカップリングされた粒子システムにおいて、粒子は、空洞の空洞モードが接触によるモード分裂を示すように、互いにほぼ接触して位置できる。好ましくは、本発明のカップリングされた粒子システムにおいて、以下で説明するように、双方(又は全部)が強いカップリング状況であり得る、互いに接触する空洞のカップリングされたエミッタ/空洞モードは、接触による付加的なカップリングを示す。
【0025】
本発明の他の態様は、上記粒子を含む標的分子を検知するためのバイオセンサに関する。ここで、本発明のバイオセンサの粒子は、蛍光物質を有する非金属コア及び非金属コアをカプセル化する金属シェルを含み、金属シェルは、前記蛍光物質を励起させる第1範囲の波長を有する電磁放射線に対する透過性、及び前記蛍光物質によって放射される第2範囲の波長を有する電磁放射線に対する反射性を有して、金属シェル内に第2波長を有する電磁放射線を閉じ込める。本発明のバイオセンサは、前記粒子と、粒子の外部表面に固定され、かつ、標的分子を捕獲することができる捕獲分子と、第1範囲の波長を有する電磁放射線を放射するための手段と、第2範囲の波長周囲の電磁放射線を検出するための検出器とを含み、粒子からの電磁放射線の変化が標的分子の捕獲を示す。標的分子を検知するためのバイオセンサにおいて、蛍光物質は、外部電磁放射線、好ましくはレーザービーム、最も好ましくは超短パルスレーザービームによって励起され、レンズシステム、ファイバプローブ又は導波管のような光学システムによって検出が行われる。高解像顕微鏡システム、先鋭化ファイバチップ27又は回折限界未満の開口を有する他のタイプの開口部が、ナノスケールセンサの場合に好ましく使用できる。
【0026】
また、本発明は、信号増幅及び/又は内蔵型基準として使われるための上記粒子からなる粒子のアレイ又はクラスタを提供する。表面に吸着された、又は、埋め込まれた粒子のアレイは、例えば、CCDカメラによって界面パターンのモニタリングに適用できる。界面パターンは、個別粒子の条件に大きく依存するので、多数の粒子の並列読出が可能である。本発明の表面吸着された、又は、埋め込まれた粒子のアレイは、ディスプレイ技術及び関連技術用の多重マイクロ光源にもまた適用できる。
【0027】
また、本発明は、浮遊自在の粒子システムを提供するが、ここで、前記粒子は、上記構造を有し、蛍光物質を励起させる第1範囲の波長を有する電磁放射線、及び蛍光物質によって放射される第2範囲の波長を有する電磁放射線の波長に対して、透過性である流体に分散されている。このシステムの浮遊自在の粒子は、空洞モードのより幅広い励起のために、2種以上の蛍光物質を含むことができる。このシステムにおいて、蛍光物質は、2以上の電磁放射線によって励起できる。
【0028】
本発明は、単一基材に担持された粒子システムをまた提供するが、ここで、前記粒子は、上記構造を有し、蛍光物質を励起させる第1範囲の波長を有する電磁放射線、及び蛍光物質によって放射される第2範囲の波長を有する電磁放射線の波長に対して、透過性であるマトリックスに埋め込まれている。単一基材に担持された粒子は、空洞モードのより幅広い励起のために、2種以上の蛍光物質を含むことができる。
【0029】
前記浮遊自在の粒子システム又は単一基材に担持された粒子システムの実施形態は、球面波用マイクロスコピックソースであり得る。そのような浮遊自在の粒子システム又は単一基材に担持された粒子システムは、生物学的相互作用及び現象のインサイチュ(in−situ)及びインビボ(in−vivo)観察のためのデジタルインラインホログラフィにおける使用に適用できる。これらシステムについてはより詳しく後述する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
金属コーティングにてカプセル化された、表面吸着された蛍光非金属粒子における光学空洞モードの励起
光学空洞モードは、図4に示した計画による簡単な方式で励起及び検出できる。
【0031】
計画(I)の場合、蛍光物質3を含み、金属コーティング4にてカプセル化された非金属コア2材からなる粒子1が、金属4に完全にコーティングされ、表面に接触した金属コーティング4に吸着されている。金属コーティング4内の蛍光物質3の励起のために使われる光ビーム20が表面に向かい、基材5の光学特性によって表面で反射及び/又は透過される。空洞の漏洩、即ち空洞の制限された特性因子によって、励起された空洞モードの一部の光21が粒子1から粒子の外部環境へ出て、これは、適切な光学部品、例えば、凸レンズ22によって集光され、光検出器23に導かれる。ナノスケール粒子1の場合、例えば、近接場チップが空洞モードの検出のためにまた使用できる。選択的には、フィルタ又は格子24のような分散要素を含む装置が検出経路に挿入されて、粒子1から出る光22をスペクトル分解検出することができる。
【0032】
計画(II)の場合、粒子1の自由表面のみを金属4でコーティングし、表面と接触する表面領域はコーティングしないことで、粒子1のコア2と基材5との間に光学接触を形成する。用語「光学接触」は、計画(I)に示すように、金属シェル4が基材5と接触している場合に比べて、粒子1のコア2と基材5との間の界面を一方向に横切る光の強化された透過の意味として理解されなければならない。そして、基材5の光学特性を適宜選択すれば、即ち材料が蛍光物質3の励起波長に対して透過性であれば、粒子1内部の蛍光物質の励起がこの接触によって行われ得る。
【0033】
更に、粒子1は、部分的に又は完全に基材5に埋め込まれることができる。後者の場合、基材5は、蛍光物質3の励起及び放射波長で透過性でなければならない。粒子1が先に表面吸着され、そして、金属コーティングの形成後、追加物質に埋め込まれる場合、粒子1は、上記と同様、周囲基材5に対する光学接触を示すことができる。
【0034】
本実施形態の計画に使用できる実際の装置が実施例7に記載されており、実施例8〜11で空洞モード励起及び検出のために用いられている。
【0035】
金属コーティングにてカプセル化された、表面吸着された蛍光非金属粒子のクラスタにおける光学空洞モードの励起
図5は、金属コーティング4にてカプセル化された2種以上の蛍光非金属粒子2を含む光学空洞モードの励起に適したシステムを示す。図5(a)において、個別的にカプセル化され、表面吸着された2つの粒子1が互いにすぐ近くにある。図5(b)において、互いにすぐ近くにある、個別的にカプセル化された2つの粒子1が、基材5と光学接触を形成している。図5(c)において、2つの表面吸着された粒子1が互いに光学接触を形成するが、基材5には光学接触していない。そして、図5(d)において、2つの粒子1が基材5だけでなく、互いに光学接触を形成している。これらの計画は、3以上の粒子1に容易に拡張できる。また、4つの全ての計画の組み合わせも可能である。図4の計画(II)と同様、粒子1と基材5との光学接触は、粒子1の内部に取り囲まれた蛍光物質3の励起のために使用できる。
個別粒子1の場合について既に説明したように、ここで説明する粒子1のクラスタも部分的に又は完全に基材5に埋め込まれることができる。
【0036】
3以上の粒子1を含む構成に関する2つの一般的な例を示すために、図5(e)及び(f)が表面吸着された粒子1の3次元の規則的構造を示す。図5(e)の場合、粒子1は、粒子1らの間又は基材5に対する如何なる光学接触もなしに、個別的に金属コーティング4にてカプセル化されており;図5(f)の場合、粒子1は、基材5だけでなく、隣接した粒子1の間に光学接触を形成しつつ、規則的に配列されている。一般に、粒子1、又は粒子1の(不規則的な又は規則的な)クラスタが、ランダム又は整列された方式で2次元又は3次元構造で表面に分布できる。これにより、光結晶が形成できる。特に、規則的な構造の場合、特定方向の放射、いわゆる構造の「ブラッグ反射」が存在する可能性があり、この場合、個別粒子1の放射は、付加の方式で重畳されて、全体信号を強化する。
【0037】
図5の計画(c)に従って形成された金属コーティングされた三量体における空洞モード励起の証明が、実施例10に挙げられている。
【0038】
バイオセンシングのための金属コーティングにてカプセル化された単一蛍光非金属粒子の利用
図6に示すように、蛍光物質3を含み、金属コーティング4によって取り囲まれた非金属コア2からなる単一粒子1が、次のようにバイオセンサとして利用できる:
粒子1が蛍光物質3の励起及び放射波長に対して透過性である基材5に部分的に埋め込まれる。粒子表面の露出部分が、抗タンパク質マトリックス6及び生物学的認識のための1つ(又はそれ以上)のプローブ分子7でコーティングされる。基材表面は、粒子1の露出されてバイオ機能化された部分が液体セル8に収容されている分析物と接触するように、液体セル8内に設置される。蛍光物質3は、基材5を通じて伝播されて、粒子1を横切る光ビーム20によって光学的にポンピングされる。空洞の制限されたQ因子によって蛍光物質3から放射されて、粒子1の金属コーティング4を透過する光21は、特定の立体角25内で光ファイバ26によって集光される。立体角25は、ファイバ26の開口数と、粒子1の中心からファイバまでの距離とによって与えられる。1μm未満の直径を有する小さい粒子1の場合、光ファイバ26のチップ27は、サブ波長分解(光学近接場チップ)がノイズから信号の適宜識別を提供し得るように製造できる。一般に、そのような尖ったチップ27は、走査型近接場光学顕微鏡(SNOM)によって制御される。
【0039】
金属コーティングにてカプセル化された単一蛍光非金属粒子による光学検知の証明が、実施例11に挙げられている。
【0040】
金属コーティングにてカプセル化された蛍光非金属粒子によるバイオセンシングのための一般的なセットアップ
この章の何れかの実施形態に記載されているように、固体基材5に埋め込まれたり、担持された粒子又は粒子システムが、以下のセットアップによってバイオセンサとして作動できる(図7)。基材5は、粒子1の露出されてバイオ機能化された表面が可能な特定の結合パートナを含む媒体に露出できるように、液体セル内に設置される。図7において、本実施形態の粒子1のサイズがナノサイズに制限されないにもかかわらず、前記粒子1は、ナノ粒子として表示され、より多くの粒子1が、図7に示すような方式でバイオセンシングのために用いられる。蛍光物質3は、レーザー又は他の適切な光源によって生成される光ビーム20によって励起され、粒子1からの放射は、適切な光学システム、例えば、光ファイバによって集光される。そうすると、ファイバは、光を光学分析システムへ導き、このシステムは、検出される光の強度を波長と時間の関数として記録する。
【0041】
好ましい実施形態において、蛍光物質3の励起のために使われる光源は、超短パルスレーザーであり、検出ユニットは、ノイズから超短信号を識別することができる。後者は、ゲーティッドCCDカメラ、又はボックスカー積分器のような高速処理の電子装置に連結されている光電子増倍管によって実行できる。ナノ秒、ピコ秒、そしてフェムト秒領域の十分に短いパルスを有する超短パルスレーザーが、商業的に利用可能である。
【0042】
このような一般的なセットアップの実質的な証明が実施例7に挙げられており、実施例8〜11で空洞モード励起及び検出のために、そして実施例11で光学センシングのために用いられている。
【0043】
バイオセンシングのための金属コーティングにてカプセル化された、カップリングされた蛍光非金属粒子の利用
金属コーティング4にてカプセル化された2つの蛍光非金属粒子2が、次のようにバイオセンシングのために用いられる(図8)。粒子のうち、1つの粒子1Aが、不活性マトリックス6に埋め込まれたバイオ認識用の1つ(又はそれ以上)の特定の結合プローブ分子7を有する。第2粒子1Bは、特定の結合に対して不活性であり、このため、特定の結合を除く条件の変化の尺度である。従って、カップリングされたシステムは、センサの作動の間に環境変化を補正する内部基準を含む。
【0044】
信号の検出のために使われるファイバチップ27は、粒子1A,1Bのうち1つの粒子から又は2つの粒子の全てから集光することができる。粒子1A,1Bは、粒子の空洞モードがスペクトル的に重畳されるように、又は重畳を避けるように製造できる。前者の場合、モード分裂が観察可能になり、後者の場合、環境変化の追跡に更に適した波長で基準が作動できる。従って、両粒子1は、同じ又は異なる蛍光物質3を含むことができ、同じ又は異なる光源によってポンピングできる。また、粒子1は、二量体の形成前に金属コーティング4に個別的に取り囲まれたり(図5参照)、又は全体非金属システムとして全体的な金属コーティング4でコーティングできる。後者の場合、図5の計画(c)に示すように、非金属接触地点が両粒子1の間に形成される。
【0045】
図5の計画(c)に従って形成された金属コーティングの三量体における空洞モード励起の証明が、実施例10に挙げられている。
【0046】
金属コーティングにてカプセル化された、カップリングされた蛍光非金属粒子システム
図9に示すように、粒子カップリングの概念は更に拡張できる。粒子1は、基材5に埋め込まれ、ある空洞から隣接した空洞へ光子がトンネリングできるように、互いにほぼ接触したまま保持される。最上位の粒子1Cは、バイオ機能化が可能なように環境に部分的に露出されている。また、ファイバチップ27への光カップリングを向上させるために、検出ファイバ26に最も近い粒子1Dが部分的に露出できる。図9に示すように、そのような粒子システムは、それぞれ基準なし及び基準ありのバイオセンシングが可能なように、1(A)又は2(B)の寸法のスタックを形成することができる。そのようなシステムの利点は、(i)光学ポンピングのための断面積が更に広いため、出力信号がより高く、(ii)表面対体積の比が更に小さいため、損失がより小さく、(iii)ファイバチップ27と最下位の粒子1Dとが近接しているため、検出が向上するということである。実は、最下位の粒子1Dが、例えば、屈折率整合液によってファイバチップ27に直接光学連結できる。
【0047】
前記実施形態と同じ方式で、粒子1は、粒子クラスタの形成前又は形成後に金属化できる。また、粒子1は、同じ又は異なる種類の蛍光物質3を含むことができる。ファイバチップ27による検出のために、粒子1又はクラスタ全体が任意に選択できる。
【0048】
浮遊自在の粒子及び粒子システム
他の実施形態において、粒子1は、固体基材5に固定されず又は埋め込まれず、分析物の中で浮遊自在の状態で用いられる(図10)。これにより、粒子表面全体がバイオ機能化され、個別粒子1の感度を増加させることができる。粒子1は、独立したり、又はクラスタを形成したりすることができる。また、粒子は、特定の結合プローブ分子7が埋め込まれている不活性マトリックス6を有することができる。特定の結合の検出のために、分析物を含む液体セルは、蛍光物質3の励起及び放射波長で光学接近を提供しなければならない。同じ又は異なる光学窓30は、放射された光21の励起及び検出のために、それぞれ使用できる。また、2以上の光源が励起のために使用できる。粒子1が浮遊自在であるため、この場合、超短光パルスを用いる時間分解励起及び検出が好ましい実施形態である。また、粒子1は、空洞の作動スペクトル範囲を拡張するために、2以上の蛍光物質3を含むことができる。これにより、粒子1の外部表面に吸着された生体分子の量の分析及び判定のために、より多数の空洞モードが使用できる。これは、生体分子の吸着前に粒子1で基準測定が行われないため、単一測定の間にシステムに対する向上された情報取得を要求するので、重要である。
【0049】
基材に安着又は埋め込まれた多くのエミッタの場合の代替検出
金属コーティング4にてカプセル化された多くの蛍光非金属粒子2が、表面5に安着又は(部分的に)埋め込まれてバイオセンシングのために使われる場合、光ファイバ又は光ファイバ束を使った個別信号の検出は、非常に退屈になり得る。そのような場合、代替方法が適用できる(図11)。個別エミッタによって放射される光21は、粒子1の干渉縞がイメージ化されてCCDによって記録されるように、凸レンズ22によって集光され、CCDカメラのチップ28にイメージ化される。個別エミッタの任意の状態変化は、干渉縞に即時の変化をもたらす。分析物の露出前に縞を記録して基準を得ることができる。検出システムの時間分解が十分に高いと、結合及び関連効果の変動のインサイチュ・モニタリングがマイクロスケール及びナノスケールで観察可能になる。変化に対する情報は、フーリエ変換及び関連技術のような分析法によって干渉縞から抽出できる。
【0050】
他の適用
一般に、十〜数百の間の適度なQ因子によって空洞モードを形成する光が空洞から漏れる可能性があるため、本実施形態によって、金属コーティング4にてカプセル化された蛍光非金属粒子は、新しい種類の微視的光源を形成する。ほとんどファブリペロモードが励起されるので、微小空洞は、新しい種類の微視的な球面波源を形成する。空洞が超短パルスレーザーでポンピングされる場合、空洞モードの少なくとも一部は、レージング条件を満たすことができる。そうすると、このモードの場合、球面波レーザーが形成される。そのような小さい球面波光源は、干渉性、放射力及び全体サイズによって様々な用途に有用である。以下でいくつかの例を提示する。
【0051】
インラインホログラフィ:インラインホログラフィは、アベ回折限界未満の分解を有する顕微鏡検査において、サブ波長開口から現れる干渉性の球面波を用いる(W.Xuら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 第98巻、p.11301〜11305、2001年)。
【0052】
球面波は、対象物から部分的に散乱される。そうすると、球面波の散乱されたウェーブレットと散乱されていないウェーブレットとの間の干渉によって発生する干渉縞が、CCDカメラによって記録される。このホログラムは、実際空間イメージに逆変換される。高い空間分解能の外に、前記方法の主な利点は、ホログラムが対象物の3次元情報全体を含むということである。バイオ物質が一般に電磁スペクトルのUV可視線領域で弱く吸収するため、特別な適用分野として生物学及び生化学がある。
【0053】
前記方法の主な問題は、球面波の形成に要求されるピンホール開口の製造及び制御である。直径が数百ナノメートルであるピンホールは、製造及び操作が困難である。ここで、本発明者らの手法は、この問題に対する独特の解法を提供する。球面波は、粒子1から現れる。粒子1は、バイオ機能化され、例えば、さらに磁気化できる。そうすると、調査対象である生物学的サンプル内の任意の位置に位置されて、特定の相互作用を経験することができる。このような相互作用が進行される間、粒子1から現れる球面波は、生物学的事象のインサイチュイメージ化のために使用できる。
【0054】
ディスプレイ技術:球面波用サブ波長源は、基礎的なウェーブレットに対するホイヘンス(Huygens)の原理に類似する。この原理によれば、伝播する全ての光波は、球面波が密に詰め込まれたナノスコピックソースから現れると考えられ、光伝播方向を除く大部分の方向で相殺干渉される。ここで説明する粒子1によって、この原理は、図11に示す手法と同様、実質的に表面に適用できる。粒子1が励起される方式によって干渉縞が制御でき、これによって、新しい種類の光ディスプレイの開発が可能である。
【実施例】
【0055】
上述したように、本実施形態は、バイオナノセンサ、デジタルインラインホログラフィシステムなどのような小型装置の光学素子として有用な粒子1を提供するが、この粒子1は、蛍光物質3を有する非金属コア2と、非金属コア2をカプセル化する金属シェル4とを含み、金属シェル4は、前記蛍光物質3を励起させる第1範囲の波長を有する電磁放射線に対する透過性、及び前記蛍光物質3によって放射される第2範囲の波長を有する電磁放射線に対する反射性を有して、金属シェル4内に第2範囲の波長を有する電磁放射線の少なくとも一部を閉じ込める。本明細書において、以下で記述する用語をそれぞれ明記する意味として使う。
【0056】
用語の定義
表面における反射及び透過:一般に、物質の表面は、衝突する光の一部を更に周囲に反射する能力を有し、他の一部は、物質内に透過されて移動する間に吸収できる。以下で、入射光に対する反射光の出力比を、周囲/物質界面の「反射性」又は「反射率」Rと呼ぶ。従って、入射光に対する透過光の出力比をこの界面の「透過率」Tと呼ぶ。R及びTは、何れも界面の特性であり、即ちその値は、材料とその周囲の双方の光学特性に依存することに留意されたい。また、その値は、入射角及びこの界面に衝突する光の分極に依存する。反射及び伝導に対するフレネル(Fresnel)方程式によって、R及びTを算出することができる。用語「吸収」は、実施例5で定義される。
【0057】
光学空洞:光学空洞は、閉じられた境界領域(空洞の「表面」)によって制限される閉鎖された体積であり、これは、電磁スペクトルの紫外線(UV)、可視線(vis)又は赤外線(IR)領域の光に対して高反射性である。波長依存性の外にも、この境界領域の反射率は、局部的な表面法線に対して境界領域に衝突する光の入射角に依存し得る(図1参照)。光学空洞の内部体積は、真空、空気、又はUV、vis又はIRで高い透過を示す任意の物質からなり得る。特に、透過は、電磁スペクトルのこれら領域の少なくとも一部で高くなければならず、この場合、空洞の表面は、高反射率を示す。
光学空洞は、2つのパラメータ、即ち光学空洞の体積Vと光学空洞の特性因子Qを特徴とする。以下で、用語「光学空洞」は、特性因子Q>1である光学空洞を示す。
【0058】
光学空洞の体積:光学空洞の体積は、幾何学的内部体積によって定義され、この体積は、空洞の表面、即ち高反射性の境界領域によって制限される。
【0059】
特性因子:光学空洞の特性因子(又はQ因子)は、空洞内部に光子を閉じ込めることができる潜在力の尺度である。特性因子は、
【数7】

で定義され、ここで、ω及びλは、それぞれ空洞モードmの振動数と波長であり、Δω及びΔλは、対応する線幅である。後ろの2つの方程式は、Q因子を空洞内部の光学モードの位置と線幅に連結させる。空洞の貯蔵潜在力は、その表面の反射率に依存することは明らかである。従って、Q因子は、波長に依存する。
【0060】
光学空洞モード:光学空洞モード又は単に「空洞モード」は、与えられた空洞に対する電磁場方程式(マクスウェル方程式)の波動解である。これらのモードは、不連続であり、空洞表面における制限的な境界条件によって整数mで数えることができる。従って、空洞の存在時、電磁スペクトルは、許容領域と禁止領域とに分類できる。マクスウェル方程式の全体解は、それぞれ空洞の内部と外部の内部及び外部電磁場で構成される。以下で、用語「空洞モード」は、特に言及しない限り、空洞内部の内部電磁場を示す。波動解は、境界領域、即ち空洞表面の反射率だけでなく、空洞の形状と体積に依存する。従って、前記解は、空洞のQ因子に依存し、波長依存性である。
【0061】
球状空洞の場合、2種の主なタイプの解が存在するが、この場合、波長依存性を容易に推定することができる。単純化のために、以下の考察ではこの推定を使う。図2は、2つの解の間の差を示す。両方とも定常波が形成された。図2(a)は、半径方向に形成された定常波を示すが、図2(b)は、球Sと環境Eとの間に内部境界の円周に沿って形成された定常波(導電性シェルでコーティングされた球Sの場合、定常波が内部シェル境界に形成される)を示す。
【0062】
以下で、ファブリペロ(Fabry−Perot)干渉計で分析することから、半径モードを「ファブリペロモード」(FPM)と呼ぶ。球Sの円周に沿って形成されるモードは、ロンドンのセントポール大聖堂のドームで、百年も前にLord Rayleighが発見した音響現象から類推して「ウィスパリングギャラリーモード」(WGM)と呼ぶ。これらモードの波長依存性に対する単純な数学的記述のために、以下で(説明のために、図2参照)定常波境界条件を使う:
FPMの場合、
【数8】

そして、WGMの場合、
【数9】

ここで、「m」は整数であり、またモードを数えるために使われ、Rは球の半径であり、ncavは空洞内部の屈折率である。
【0063】
空洞モードのモード体積:空洞モードのモード体積は、幾何学的体積で定義され、ここでモードの場強度は消滅されない。一般に、場は、幾何級数的に減少するので、「強度0(zero)」を規定する特定のカットオフ値が実際に設定されなければならない。例えば、カットオフは、最大場強度の0.1%に固定できる。
【0064】
空洞の間の光学カップリング:金属シェルで許容される小さい開口の定義によれば(29ページ参照)、2つの隣接空洞の間の「光学カップリング」は、偶然の場合に、ある空洞から他の空洞へ得られる光強度が予想されるものより高い場合、両空洞の金属シェルにそれぞれ1つずつあるその2つの開口が互いに接触するようになり、これによって、ある空洞から他の空洞へ光が通過するようになるものと定義する。
【0065】
ベーテ(Bethe)限界によれば、半径rである小さい開口スケールを通じる透過率Tphは、
【数10】

であり、ここで、
【数11】

は、半径Rの空洞に位置した面積Aphの開口を通じる公称透過率である。物質セクションにおいて、金属シェル4における小さい開口の許容可能な最大面積を
【数12】

と規定する。最後の方程式から、許容可能な最大開口半径rmax=λ/2が求められ、そこから小さい開口による許容可能な最大透過率が次のように挙げられる:
【数13】

【0066】
そして、隣接した空洞にそれぞれ1つずつ位置した2つの小さい開口が互いに直接接触すると、ある空洞から他の空洞への最大総透過率は、次のように挙げられる:
【数14】

これに基づいて、用語「互いに光学接触する空洞」を、ある空洞から他の空洞へ透過される光の強度TcouplがTtotより大きい場合と定義する。与えられた空洞の1/2空間のみが他の空洞の方向へ光を放射するので、追加の因子1/2を導入して、下記式を得る:
【数15】

ph,0の定義を更に置き換えると、最終的に下記式が求められる:
【数16】

波長が与えられた場合、空洞の屈折率ncav=1と仮定すると、空洞の最も小さい可能半径Rは、式2によって(m=1で)
【数17】

となる。従って、全体として、互いに光学接触する2つの粒子の間の最小透過率に対する安全な上限に逹する:
【数18】

【0067】
この定義は、全体が示す全ての可能なペアリングを考慮し、各ペアに前記基準を適用することで、3以上の空洞のカップリングに容易に拡張できる。
【0068】
観察可能な量子効果
本実施形態は、蛍光物質3を有する非金属コア2及びその非金属コア2をカプセル化する金属シェル4を含む粒子1、小型装置におけるその粒子1の使用、及びそのようなシステムで通常的に発見される外部ポンプ放射線の高い反射損失なしに、外部から光学空洞モードが励起できる閉鎖された金属空洞を前記粒子1に製造する方法を提供する。従って、本実施形態によって空洞モードの高形成が達成できる。金属コーティング4の光学特性によって、空洞は、真の「ナノ空洞」を形成するように、サブミクロンサイズ領域に小型化できる。そのような小さいサイズと高いモード形成において、1ミクロンを超える平均サイズを有する大きな空洞で滅多に観察できない量子効果が、このようなシステムで重要となる。第一に、小さい粒径は、分子吸収に対する空洞モードの位置の強い依存性を引き起こし、これは、根本的に「単分子」ナノバイオセンサの開発に使用できる。第二に、ナノ空洞の内部にモード形成のために使われる蛍光物質3の自発放射率のパーセル(Purcell)強化によって、そのようなナノ空洞の総放射力が大きく強化されて(30以上の因子)、ナノ空洞の小さいサイズにもかかわらず、空洞モードが容易に検出でき、ノイズレベルを超えてうまく留まることができる。最後に、非常に小さい空洞と非常に高い空洞モード形成の場合、空洞モード分裂のような他の量子効果が観察可能になる。ナノ空洞のすぐ近くにおける屈折率に対するモード分裂の依存性は、絶対的な空洞モード位置の追跡と同様、センシング応用のために用いることができる。
【0069】
光子を閉じ込める能力を有する空洞は、与えられた空洞モードmの振動数を満たせば、次のような方式で製造できる:
内部又は表面に染色分子、半導体量子ドット、カーボンナノチューブ、ラマンエミッタなどのような蛍光物質3を有する小さい非金属粒子を、例えば、銀からなる金属シェル4でコーティングする(図3)。ここで、金属シェル4は、上記の定義で紹介した「高反射性の閉鎖された境界領域」として機能する。粒子1のコア2の内部又は表面にある蛍光物質3は、ポンプレーザー又は容易に金属コーティング4に貫通することができる波長で作動する他の強い光源によって励起される。例えば、銀シェルの場合、銀が約320nmで最大透過率を示すので、波長は、約320nmに位置されるように選択できる。蛍光物質3は、金属コーティング4が高反射性を示す波長を放射するように選択される。従って、放射された光子は、空洞内部に閉じ込められ、空洞は、光子を小さい体積で閉じ込める。本実施形態によれば、以下の量子効果が体積とQ因子に依存するシステムで原理的に観察可能であり、これら全てはナノスケールの光学センシングに用いることができる:
【0070】
1.量子干渉
空洞モードは、空洞のQ因子を実質的に規定する空洞表面の反射率だけでなく、空洞の幾何学的形状(体積及び形状)に依存する。球状金属被覆空洞の内部の光子の場合、空洞モードの許容波長は、式2によって非常に近似して記述できる。この簡単な式は、場強度が常に金属コーティング4で消滅されなければならない(図2)という事実から推定される。空洞モードの正確な位置は、球状空洞のサイズに大きく依存する。簡単な計算によって次が得られる:
【数19】

【0071】
1/R依存性により、例えば、粒子1の外部表面で生体分子の吸着によって引き起こされるなどRの変化によって、感度は粒径の減少に伴って増加する。同時に、粒子1の表面は、1/Rに減少するので、増加する移動(shift)を得るためには、粒子1の外部表面に吸着された生体分子が更に少なくなければならない。ナノスケールで、Rが数十ないし数百ナノメートルの範囲内の場合、そのような生体分子の吸着への感度は、最大値に到逹しなければならない。内部で波長λの光子が圧着される空洞の最小体積Vminによってのみ限界が与えられる。CaltechのEli Yablonovitchによれば、Vminは、
【数20】

で与えられ、ここで、ncavは空洞内部の屈折率である(E.Yablonovitch、「光子バンドギャップ工学(Photonic Bandgap engineering)」、公開許可された中間報告書、期間:1998年1月1日〜12月31日、米陸軍研究庁、DAAH 04−96−1−0389)。式5aに基づいて、空洞モードを用いるナノバイオセンサの感度を示すために、簡単な計算を行うことができる(実施例1参照)。λは真空波長を示すので、λ/ncavは単に空洞内部光子の波長である。実際に、式5aによって与えられる限界に到逹するのは難しい。従って、式5aを一般に次の形、
【数21】

で書き、ここで、fは0.25以上である。因子fは、実験的手法が理論的限界にどれ程近く到逹したかを示す尺度としての役割を果たす。例えば、染色ドープされたポリスチレンビーズにおけるウィスパリングギャラリーモードを使った従来技術の実験は、単にf≒135まで低めた値を達成した。光子結晶構造において、全体光子結晶に代わってモード体積のみを考慮したとき、今まで最も低いf値が得られた。そして、f=1.2が達成された(K.J.Vahala、ネイチャー 第424巻、p.839〜846、2004年)。
【0072】
2.パーセル強化
高い感度に加え、システムの放射力が結合検出が可能な程度に十分に高くなければならない。ナノ空洞の放射力は、他の量子効果、いわゆる「パーセル強化」によって強化できる。1946年に、Edward M.Purcellは、無線周波数で一時的な放射可能性に関する彼の研究において、放射振動数の位置が共振と一致すると、共振器に連結された双極子エミッタが増加した一時的な放射を示すことを言及した。従って、光振動数で作動する双極子エミッタの場合、エミッタが光学空洞の内部に位置すると、自発放射率γSEは、
【数22】

で与えられる。ここで、dは双極子エミッタの双極子モーメント、ncavは空洞内部の屈折率、Vは空洞の体積、Qは空洞の特性因子である。εは誘電定数であり、ディラック定数はh/2π(ここで、hはプランク定数)である。空洞内部のγSEと自由エミッタの自発放射率γとの比が「パーセル因子」ηcav(=γSE/γ)と呼ばれ、次のように、
【数23】

で与えられ、ここで、λemはエミッタの放射波長である。空洞内部の自発放射率は、特性因子Qの増加に伴って、また空洞体積Vの減少に伴って増加する。単純化推定の場合、実施例2参照。式7aによれば、もし、
【数24】

であれば、空洞内部の自発放射は、自由エミッタの自発放射を超える。
【0073】
3.エミッタ空洞カップリング
式5aによって与えられるサイズ限界に近接したナノ空洞の場合、追加的な量子効果が作用し始める:双極子エミッタと空洞モードとのカップリング(例えば、Andreaniら、物理的考察B、第60巻、p.13276〜13279)。エミッタの放射振動数が空洞モードの何れかと一致するとλem=λ、モード分裂が生じる可能性があり、これを次のように書くことができる:
【数25】

Δωem及びΔωは、それぞれエミッタと空洞モードの線幅を示し、gは、いわゆる「カップリング定数」であり、次のように挙げられる:
【数26】

ここで、cは光の真空速度、εはマクスウェル関係式ε=ncavが保持される場合の空洞物質の誘電関数である。全ての他の文字は、上記で定義したとおりである。式8によれば、Δωem=Δωの場合、最大モード分裂Δω±が観察され、Δω±=2gとなる。この計算は、空洞内部に単一エミッタの場合に有効である。もし、N個のエミッタが存在すると、分裂は、N0.5に増加する。センサ応用の場合、前述したように、粒子半径Rの変化の関数としてモード分裂の変化を追跡することができる。Rに対するgの依存性は、次のように挙げられる:
【数27】

【0074】
従って、上記1章(量子干渉)で既に説明したように、感度は、空洞サイズの減少に伴って増加する。この効果に基づくナノバイオセンサの予想感度に対する単純化推定の場合、実施例3参照。
【0075】
式8は、下記不等式
【数28】

が満たされる場合にのみ、モード分裂が生じることを示す。また、分裂を実験的に観察可能にするために、2gは、共振の線幅ω±を超えなければならない。即ち
【数29】

である。与えられた空洞でエミッタ空洞カップリングの開始のための安全な下限を得るために、
【数30】

を仮定し、これは、適切なエミッタを選択することで充足できる。そうすると、不等式11及び12は何れも下記式となる:
【数31】

式1及び9を不等式14に代入し、λem=λを用いると、最終的に、実験的に観察可能なモード分裂を得ることができるエミッタと空洞パラメータの条件、即ちエミッタ−空洞カップリングが得られる:
【数32】

【0076】
実施例4は、金属コーティングされたポリスチレン球に対するこの条件の推定を提供する。
【0077】
4.エミッタと金属シェルの表面プラズモンとのカップリング
プラズモンは、金属の自由電子の集合的な振動であり、バルク振動の場合、「プラズマ振動数」は、下記式
【数33】

で簡単に記述され、ここで、nは自由電子密度、eは電子電荷、そしてmは電子質量である。
【0078】
また、そのようなバルク励起の外にも、プラズモンは、表面に沿って(表面プラズモン、sp、例えば、H.Raether、滑らかな表面、粗い表面、そして格子における表面プラズモン(Springer Verlag、ベルリン、1988年)参照)、そして小さい金属粒子内に(局部的な表面プラズモン、lsp、例えば、U.Kreibig及びM.Vollmer、金属クラスタの光学特性(Springer−Verlag、ベルリン、1995年)参照)生成できる。表面プラズモンの場合、真空/金属界面において、励起振動数は、
【数34】

であり、バルクナノ粒子に閉じ込められたプラズモンの場合、励起振動数は、次のように挙げられ、
【数35】

ここで、εenvは粒子環境の誘電定数である。
【0079】
数十ナノメートル程度の直径を有する金ナノ粒子の場合、一般に粒子サイズによって510〜550nmでプラズモン共振が発見される。最近、Halas及び共同研究者らは、コアシェル粒子の場合、金属シェル4のプラズモン励起の位置が単に粒子1のコア対シェルの比にのみ依存し、電磁スペクトルのうち、可視線から近赤外線(NIR)領域の広い範囲で同調できることを立証した(N.Halas、光学及びフォトニクスニュース、第13巻、第8版、p.26〜31、2002年;S.J.Oldenburgら、物理化学レター、第288巻、p.243〜247、1998年)。従って、蛍光物質3又は選択的には粒子1のコア対シェルの比は、蛍光物質3の放射波長が粒子の局部的な表面プラズモン、即ち閉じ込め空洞の励起に一致するように、容易に選択できる。そのような場合、表面プラズモンは、例えば、Westらの米国特許第6699724 B1号に記載されているように、外部からコアシェル粒子に衝突する光を用いる励起に代わって、内部的に、即ち空洞の内部体積から励起できる。そのような新規技術及び光学センシングへの応用に対する立証が、本発明の実施例10及び11に挙げられている。
【0080】
小さい空洞の場合、エミッタ、空洞、及び金属シェル4の表面プラズモンの間のカップリングが予想される。これは、バイオセンシングにおいて重要な関心事であるが、表面プラズモン共振の正確な位置が密接な環境の屈折率に非常に敏感に依存することがよく知られているためである(式18参照)。この依存性は、様々な光学バイオセンサに既に使われている(US 2003/0174384 A1、EP 0 965 835 A2及びセンサとアクチュエータ B 2000、63、p.24〜30、G.Bauerら、Microchimica Acta、第131巻、p.107〜114、1999年)。しかし、ここでは、従来技術に比べて局部的な表面プラズモンのより強い励起を生成するパーセル強化のような量子効果によって、信号対ノイズの比が更に増加すると予想される。
【0081】
使われる物質とリソース
本実施形態の粒子1は、公衆が利用可能な物質を用いることで製造できる。物質に対する以下の説明は、本技術分野の当業者が本明細書の詳細な説明に従って粒子1を構成することを助けるために提供される。
【0082】
空洞物質:コア2の製造のために選択できる物質は、電磁スペクトルのうち、空洞が機能されなければならない部分において、低いか又はほとんどない電気伝導性及び低い吸収率を示すものである。実際に、これは、空洞モードの励起のために選択された蛍光物質3の放射スペクトルの領域である。バイオセンシングに関する文献で既に使われているウィスパリングギャラリーモードの励起(F.Vollmerら、応用物理学レター 第80巻、p.4057〜4059、2002年)とは異なり、物質は光を散乱させることができる。また、コア物質の屈折率の実数部に対する制限がなく、即ち空洞の周囲より大きい屈折率が要求されない。WGMに基づくシステムとのこのような差の原因は、任意の入射角でコア物質の屈折率と無関係に光を反射する空洞の金属コーティングである。従って、従来技術に比べて更に広い範囲の物質が選択できる。例えば、コア物質として光結晶を選択することができ、結晶の外部表面を蛍光物質3でコーティングしたり、又は蛍光物質3を結晶内に均質又は不均質な方式で埋め込むことができる。光結晶は、励起可能な空洞モードの個数を制限することができ、許容されるモードの形成を強化することができ、許容されるモードの極性形成を規定することができる。光結晶における蛍光物質3の分布種類が、不適な光学ポンピングによる所望しないモードを抑制しつつ、所望するモードのみを励起させることを補助することができる。
【0083】
特定の振動数範囲、いわゆる光結晶の「バンドギャップ」内の光の伝播を許可しない2次元又は3次元の非金属周期的構造を含む光結晶の例が、E.YablonovitchによってScientific American(2001年12月発行、p.47〜55)に記載されている。周期的非金属構造に分布されたブラッグ(Bragg)回折によって光の伝播が妨害され、異なって散乱された光子の相殺的干渉を引き起こす。そのような光子結晶の周期性が、例えば、全体周期的構造から無くなった1つの散乱中心体のような点欠陥によって変形されると、ドープされた半導体のバンドギャップ内で発生する局部的な電子エネルギレベルと同様、バンドギャップ内で空間的に閉じ込められる許容された光学モードが発生できる。
【0084】
本実施形態において、光学空洞及び非金属コア2は、球状を示す。そのような球状は非常に有用な形状であるが、空洞と非金属コア2は、原理的に偏球状又は長方形のような任意の形状を有することができる。空洞及びコア2の形状のこのような広い許容性によって、金属シェル4及び粒子1の形状も変わることができる。
【0085】
蛍光物質:蛍光物質3として、励起振動数ωexcで光を吸収し、その後、放射振動数ωem≠ωexcで光を再放射する任意の種類の物質を使うことができる。従って、放射波長範囲の少なくとも一部は、使われなければならない蛍光物質3の励起のための空洞の空洞モードスペクトル内に位置されなければならない。実際に、蛍光染料、半導体量子ドット、カーボンナノチューブ、ラマンエミッタなどを用いることができる。ラマンエミッタは、吸収された光エネルギを部分的に内部振動モードの励起のために用い、励起光の振動数より小さい振動数を有する光を再放射する物質である。励起波長を適宜選択することで、多くの非金属物質がラマン放射を示すことができ、これにより、上述したコア物質が特定の蛍光物質3の付加なしに、ラマン放射のために用いられ得る。本実施形態で使用できる蛍光染料の例を、それぞれのピーク放射波長(単位:nm)と共に示した:PTP(343)、DMQ(360)、ブチル−PBD(363)、RDC360(360)、RDC360−NEU(355)、RDC370(370)、RDC376(376)、RDC388(388)、RDC389(389)、RDC390(390)、QUI(390)、BBD(378)、PBBO(390)、スチルベン3(428)、クマリン2(451)、クマリン102(480)、RDC480(480/470)、クマリン307(500)、クマリン334(528)、クマリン153(544)、RDC550(550)、ローダミン6G(580)、ローダミンB(503/610)、ローダミン101(620)、DCM(655/640)、RDC650(665)、ピリジン1(712/695)、ピリジン2(740/720)、ローダミン800(810/798)、及びスチリル9(850/830)。
【0086】
微小空洞のドープ用蛍光物質3として使用できる半導体量子ドットが、Woggon及び共同研究者らによって記載されている(M.V.Artemyev & U.Woggon、応用物理学レター 第76巻、p.1353〜1355、2000年;M.V.Artemyevら、ナノレター(Nano Letters)第1巻、p.309〜314、2001年)。これにより、量子ドットは、染色分子の蛍光放射が微小空洞モードの形成のために利用できることを示した、Kuwata−Gonokami及び共同研究者らによって記載されたものと類似する方式において、本実施形態に適用できる。染色分子に比べて量子ドットの主な利点は、漂白のような退化に対する安定性が高いということである。
【0087】
与えられたエネルギを有する2以上の光子が、2倍以上のエネルギの光子が放射される前に、物質によって吸収されなければならない場合、多重光子プロセスを考えることができるので、蛍光物質3の励起波長λexcは必ずしも放射波長λemより小さくなければならない(λexc<λem)ものではない。
【0088】
一般に、蛍光物質3は、空洞物質に併合されたり、又はその表面に吸着できる。後者の場合、適切な機能を保証するために、金属コーティングは、空洞物質及び蛍光物質3の両方を取り囲まなければならない。空洞物質に蛍光物質3を併合する場合、蛍光物質3は、均質又は不均質に分布できる。分布は、励起される空洞モードの種類を選択するのに利用できる。例えば、蛍光物質3がコア表面の付近に集中されると、ファブリペロモードよりウィスパリングギャラリーモードがより良く励起される。蛍光物質がコア2の中心に集中されると、ファブリペロモードがより良く励起される。不均質分布の他の例として、蛍光物質3が整列された方式で、即ち蛍光物質3の高い濃度を有する体積の間に一定の間隔で整列できる。そのような場合、回折効果が発生して、明白な方向の空洞励起、分極及びモードの助けになることができる。
【0089】
金属シェル:金属シェル4は、選択された蛍光物質3の励起振動数ωexcで高い透過率を示し、放射振動数範囲ωemの少なくとも一部で高い反射率を示す任意の金属からなり得る。これは、例えば、金属のプラズマ振動数を用いることで達成できるが、プラズマ振動数未満で任意の種類の金属は、電磁放射線に対して透過性となる。一般の金属は、銀、アルミニウム、金、チタン、コバルトなどのような遷移金属である。シェルは、例えば、蒸着又はスパッタリングによって製造されるように、連続的であったり、又はコロイド金属粒子の沈澱及び以後の無電解メッキによって度々得られるように、隣接していることができる(Braun & Natan、ラングミューア(Langmuir)第14巻、p.726〜728、1998年、Jiら、新素材(Advanced Materials)第13巻、p.1253〜1256、2001年、Kaltenpothら、新素材 第15巻、p.1113〜1118、2003年参照)。また、シェル4の厚さは、数ナノメートルから数百ナノメートルまで異なり得る。但し、厳格な要求事項は、Q因子が1より大きい値を有し得るように、金属シェル4の反射性が所望するスペクトル範囲で十分に大きくなければならないということである。球状空洞の場合、Q因子は、下記式によって金属シェル4の反射率から算出でき(又は逆にも可能)、
【数36】

ここで、Rshは金属シェル4の反射率、Dは空洞の直径、λは空洞モードmの波長である。染色ドープされたポリスチレンビーズがコア物質として使われる場合、厚さ50nmの銀シェルで得ることができるQ因子の証明が実施例12に挙げられている。
【0090】
また、金属シェル4に含まれ得る小さい穴を検査した。金属コーティングは、一般に数十ないし数百ナノメートルの厚さを有する。実際に、そのような薄い金属膜は、度々小さい欠陥、いわゆるピンホールを有し、このピンホールは、本実施形態による閉鎖された金属シェル4による非金属粒子2のカプセル化条件に実質的に反する。このような問題を実践的観点及び理論的観点で適宜処理するために、次のように処理した:
【0091】
いわゆる「ベーテ限界」(H.A.Bethe、物理的考察 第66巻、p.163〜182、1944年)によれば、理想的に伝導する平面スケールに形成された小さい開口を介する光透過は(r/λ)となり、ここで、rは開口の半径、λは透過される光の波長である。一旦r<λとなれば、透過率が著しく落ちることは明らかである。従って、r<λ程度の金属シェル4のサブ波長欠陥は如何なる透過にも現れず、これにより、本実施形態の金属シェル4の閉じ込め特性を妨害しない。従って、サブ波長欠陥のみを含む金属シェルは、本実施形態の観点で依然として閉鎖された金属シェル4としてみなされ得る。そのような小さい欠陥は、金属の多結晶質特性によって、即ち熱蒸着又はスパッタリングによる金属膜の形成によって発生し得る。また、コロイド化学と関連した方法(Braun & Natan、ラングミューア 第14巻、p.726〜728、1998年、Jiら、新素材 第13巻、p.1253〜1256、2001年、Kaltenpothら、新素材 第15巻、p.1113〜1118、2003年参照)は、完全に閉鎖された膜よりは隣接した膜を形成する傾向がある。しかし、このような全ての場合に、一般的な欠陥サイズは、数百ナノメートルよりも小さく、これにより、可視線領域の任意の波長λで条件r<λが満たされる。
【0092】
ピンホールの許容可能な最大サイズに対する実際限界を提供するために、球状ではないピンホールを含むようにピンホールの半径に代わって、ピンホールの面積を考慮する。条件r<λの上限はr=λであり、そこから許容可能な最大ピンホール面積πλが算出される。この推定の安全な領域に入るように、許容可能な最大ピンホール面積の上限を多少任意に
【数37】

と設定する。
【0093】
分解可能な最小構造長さdが開口の直径に対応すると仮定すれば、アベ(Abbe)回折限界から同じ結果を導き出すことができる。アベによれば、回折限界光学システムの分解可能な最小構造長さdは、
【数38】

と表わされ、ここで、λはイメージ化に使われた光の波長であり、N.A.は回折限界システムの開口数である。ピンホールの場合、N.A.=1である。従って、d=λになり、ピンホールの許容可能な最大面積Aph=π(λ/2)が得られ、これは、上記結果と同じである。
【0094】
励起光源:空洞の励起のために、光源は、光源の放射が蛍光物質3の励起振動数範囲ωexc内に収まるように選択されなければならない。放射力は、空洞内部における励起及び放射の損失(放射損失、減衰、吸収、散乱)を過剰補償し得るようにならなければならない。従って、実際に、レーザー又は高出力発光ダイオードのような高出力源が適用されるのが好ましい。特に、高出力密度で単に非常に短い時間に空洞モードを励起させる、超短パルスが使用できる。この場合、上記量子効果は、単に短い時間の間に生成され、好ましくは、時間分解読出技術(ゲーティッド(gated)CCDカメラ、高速信号処理の電子装置に連結された光電子増倍管など)で検出できる。
【0095】
実施例1
量子干渉効果に基づく球状空洞に対する感度推定
この実施例は、(式5aに従って)空洞が作動される波長に対して空洞体積が可能な限り小さく選択される場合、生体分子吸着に対する単一空洞の予想感度に対する推定を提供する。例えば、400 Valley Road、Warrington、PA 18976に所在のPolysciences、Inc.から購入可能な実際材料を選択した。
【0096】
前提
1.屈折率ncav=1.60であり、染色分子でドープされたポリスチレンビーズ(染色分子は、放射波長λem=420nmで光を放射する)
2.体積が(10nm)である抗体
【0097】
他の仮定:感度推定を算出するために、次のように仮定する:
1.実際には抗体の屈折率が空洞周囲の屈折率よりも大きいが、空洞物質の屈折率と等しいと仮定する。空洞の外部表面における生体分子の吸着は、蓄積された体積に従って空洞の有効直径を増加させる。金属コーティングは、十分に薄く製造できるので、金属コーティング4の効果を無視する。
2.単一抗体が空洞の全体表面領域に均質に分布されたと考えられる。この場合、直径の変化が最小化し、空洞形状の対称性変化が発生しないので、これは安全な仮定である。後者は、空洞モードにモード分裂のような追加的な効果をもたらすものと知られている。従って、巨大な抗体の吸着による空洞モードの移動は、一層大きいものと予想できる。
【0098】
推定
このような仮定下で、式5aから得られる最小粒子半径は、Rmin=102.5nmとなる。そうすると、(抗体が全体表面領域に均質に分布されたと仮定すると)粒子表面に吸着された単一抗体の場合、Rの有効な変化δRはδR=7.5pmとなる。そこから次が得られる:
【数39】

空洞の作動波長である420nmで、これは1.75cm−1の振動数移動又はΔλ=0.031nmに相応し、従来技術の分光計で容易に検出可能である。従って、単一ナノ空洞による単一抗体検出は、選択された条件下で可能であるとみなされる。センサの入力信号生成のために、多数の抗体が使用できると、空洞は、一層広くなることができる。全体空洞表面に単層の抗体が形成されると仮定すると、δR=10nmが得られる。従って、R=10μmである空洞の場合にも、波長移動は420nmから0.42nm(23.8cm−1に対応する)になり、これにより、容易に検出可能である。この場合、単層の形成のために、(抗体当たり体積(10nm)が与えられると)約12,600,000個の抗体が要求される。従って、更に小さい表面領域を有する更に小さい粒子1の利用が有利である。
【0099】
実施例11において、公称直径が10μmである銀コーティング染色ドープされたポリスチレンビーズが空洞モードをモニタリングすることで、光学センシングに適用された。銀表面にヘキサデカンチオール(HDT)の単層の形成によるモードの共振位置の移動は3nmに達する。この単層の屈折率が約nHDT=1.45であり、これにより、前記計算で抗体に対して予想したものよりも小さい。また、単層の厚さは約2nmに達する。これにより、観察される移動は、前記計算で予想されたものよりも大きく、これは、空洞表面における分子吸着によるサイズの増加のみを説明する。しかし、実施例11において、銀シェルの厚さは50nmに達し、このため、「十分に薄く」ない。従って、表面プラズモン励起からの寄与のような付加的な効果が、ここで説明した基本的な依存性に加えられ、後者を、予想される効果に対する安全な下限として考えられる。
【0100】
実施例2
パーセル強化による単一ナノ空洞の推定放射力
実施例1は、波長(空洞内部に含まれている染料の放射波長)420nmで作動される直径205nmのナノ空洞の感度が、単一抗体検出のために十分に高くなければならないことを示す。しかし、もし、センサが放射する信号が弱すぎると、高い感度だけではナノバイオセンサの構成に役に立たない。従って、本実施例において、実施例1で考察したシステムの予想放射力に関する推定を提供する。
【0101】
他の仮定
1.空洞内部の染色分子は、0.1/nmの密度を有し、有機染色における一般的な双極子モーメントd=2×10−29C×mを有する。
2.また、Q因子をQ=100と仮定し、これは、金属コーティングされた空洞の場合、式19によって金属シェルコーティング4の反射率Rsh=97%に対応し、他の全てのパラメータは、前記挙げられたものと同じである。
【0102】
推定
このような仮定下で、自発放射率γSEは、式6によって染色分子当たり420nmでγSE=7.42×10Hzに達する。空洞内に4500個の染色分子が存在すると(nm当たり0.1個の染色分子に相当する)、これは、総放射力16μWに対応し、従来技術の光学検出システムにより容易に検出可能である(例えば、放射される放射線の収集のために、走査型近接場光学顕微鏡が使用でき、光電子増倍管チューブがその後の検出のために使用できる)。空洞の存在による強化、即ちパーセル因子ηcavはηcav=30に達する。従って、パーセル強化なしに、ナノバイオセンサの信号を検出するのは非常に困難である(〜500nW総パワー)。
【0103】
実施例3
空洞モード分裂によるナノ空洞の感度
式5aによる最小体積に近い小さい空洞サイズで、空洞モードのモード分裂のような他の量子効果が発生し得る。まさにそのサイズ限界で単一空洞モードのみが励起できるので、この分裂は、単一モードの絶対位置の測定よりも、2つの分裂されたモードの間の相対的な区分の決定が可能であるため、非常に興味深い。前者は、より信頼することができ、ナノ空洞環境の変化(温度変化など)による影響が少ないことが判明し得る。従って、モード分裂は、ナノバイオセンサの安定性及び信頼性の改善に関連し得る。式8〜10によって、そして全てのパラメータに対して、前記例と同じ値と仮定すると、R=102.5nmである粒子1の表面に130個の抗体(各体積(10nm))が吸着された場合、約3cm−1のモード分裂の変化を予想することができる。従って、原理的に、モード分裂における変化の利用は、絶対的なピーク位置の観察よりは敏感ではない。しかし、実際には、このような付加的な情報は、空洞モードの絶対位置で検出される移動を解釈するのに役に立ち、ナノバイオセンサの全体的な性能を向上させる。
【0104】
実施例4
エミッタ空洞カップリング
上述したように、強いカップリングを得るための空洞とエミッタパラメータとの関係は、不等式15によって規定される。放射波長λem=420nm、空洞コアの屈折率ncav=1.60、コア半径R=102.5nm、そして蛍光物質3の双極子モーメントd=2×10−29C×mである上記例によれば、空洞のQ因子に対する下限Q=5500を算出することができる。
【0105】
実施例5
金属の反射率及び銀の光学特性
金属シェル4は、選択された蛍光物質3の励起振動数ωexcで低い反射性を示し、また放射振動数範囲ωemの少なくとも一部で高い反射率を示す任意の金属からなり得る。この条件を満たす典型的な金属は、銀、アルミニウム、金、チタニウム、コバルト、銅、クロムなどのような遷移金属である。特に、有用性及び取扱性の観点から、銀、金及び銅が金属シェル4としてより適する。更に、約320nmの波長における低い反射率と、400nmを超える波長における高い反射率との間に銀が最も明確な差を示すものが、図12に示されている。従って、金属シェル4を製造するための材料として銀を選択するのが更に好ましい。
プラズマ振動数で金属反射率の切り替え動作(即ちプラズマ振動数を超える振動数で低い反射率と、プラズマ振動数未満の振動数で高い反射率)の一例として、以下で銀の光学特性を考察する。化学及び物理学のハンドブック(第70版、CRC出版社、Boca Raton、フロリダ、p.E−401)から垂直入射に対する反射率R、屈折率n、及び吸収係数kに関する表にした値を取る。そうすると、複素屈折率NがN=n+ikと表示される。
図13(a)は、波長の関数として銀の反射率Rの表にした値を示している。反射率Rは415nmを超える波長で85%を超え、400nm未満で非常に急減して、約320nmで最小値となることが明らかになり、これは、銀のプラズマ振動数の位置選定に寄与することができる。318nmで反射率はただ4%である。これにより、この波長の光は、高比率で銀に貫通することができる。しかし、金属コーティング4による蛍光物質3の励起のためには、金属に貫通した光が完全に吸収されないことが重要である。一般に、下記式、
【数40】

が保持されるので(ここで、Rは物質の反射率、Aは吸収率、Tは透過率)、単に吸収率が低い場合、反射率が低いと透過率が高くなることが明らかになる。吸収率Aは、物質を介して移動する光の移動距離zに依存し、下記式のようであり、
【数41】

ここで、κはいわゆる「吸収定数」であり、I(z)は距離zだけ移動した光の強度である。式21は、距離z=κ−1だけ移動した後、初期の光強度がexp(−1)≒36.8%と相対的な大きさに低下することを示す。
κは、下記式
【数42】

によって物質の吸収係数kから算出でき、ここで、λは移動する光の真空波長である。銀の吸収係数に関する表にした値から算出される貫通深さκ−1を図13(b)に示した。金属は、示された全体スペクトル範囲の大部分で高い吸収率、即ち小さい貫通深さを示すが、約320nmでシャープな最大値が存在する。これは、前述した低い反射率が低くなった吸収率によって達成され、式20によって、このスペクトル領域で強化された透過率を予想し得ることを意味する。しかし、吸収率が0(zero)ではないので、このスペクトル領域でも、金属は、制限された吸収率を示し、従って、巨視的な銀サンプルが不透明になる。しかし、図13(b)は、厚さ50nm程度の銀の薄い膜は、約37%まで依然として透明でなければならないことを示す。他の波長領域において、即ち可視線領域において、そのような厚さの銀膜は、既に基本的に不透明でなければならない。
銀の光学特性に関する表にした値は、バルクサンプルに対して測定される。従って、厚さが数十ナノメートル程度である銀の薄い膜が、所望する特性、即ち約320nmで高い透過率、そして可視線領域で高い反射率を示すかは疑問である。そうすると、銀は、本実施形態の金属シェルとして使用できる。
銀の薄い膜の透過及び反射特性を立証するために、偏平なポリスチレン基材5(細胞培養皿の蓋、CAT#430165、Corning Inc.,ニューヨーク)に熱蒸着(Auto 306、Edwards High Vacuum Intl、Crawley、イギリス)によって銀を蒸着させ、UV−vis分光計(DUV−630、Beckman−Coulter、イギリス)へ垂直入射時、UV可視線領域における透過を測定した。その結果得られる透過及び吸光(吸光=吸収+反射)スペクトルを銀膜の異なる厚さについて、図14に示した。低い厚さで、銀膜は、吸光及び透過でそれぞれ単に弱い波長依存性を示すが、この依存性は、厚さの増加に伴って著しく増加する。表1は、2つの異なる波長に対してポリスチレン基材に蒸着された銀の薄い膜を介する、実験的に決定された透過率を膜厚の関数として示す。2つの波長における透過率の比が更に与えられると、プラズモン共振未満とそれを超えた場合で銀の切り替え動作が得られる。
約320nmにおける最大透過率は、銀膜の厚さ10nmにおける327nmから厚さ70nmにおける320.6nmに低くなる青色移動(blue−shift)を示す。表1において、高い透過率を有する波長として320.6nm、及び低い透過率を有する可視線領域内の波長の例として496.0nmを選択した。表1で見られるように、薄い銀膜の切り替え動作、即ちT(320.6nm)/T(496.0nm)の比が膜厚35〜70nmで著しく増加する。この比は、厚さの増加に伴って更に増加すると予想されるが、吸収損失の増加とそれに伴うシェル内部における加熱効果によって、一層太い銀膜の使用は好ましくない。複素反射率及びバルク銀の反射率に関する表にした値に基づいて、好ましくは10〜70nm、より好ましくは50〜70nmの厚さを有する銀膜が、本実施形態の金属シェルとして最も適すると推定する。この過程の証拠として、表にした値から計算された、そして測定された総透過率を、2つの異なる波長(図14参照)においてポリスチレン基材にそれぞれ蒸着された厚さ20nmと50nmの銀膜を通じて実験的に決定された総透過率と比べて表2に示した。容易に見られるように、結果は良好な一致を見せ、これにより、銀の厚さの適切な範囲の外挿法の場合、表にした値の使用が妥当になる。
全体的に見て、前記結果は、銀がプラズマ振動数付近で透過率の著しい切り替え動作を示し、30〜100nm範囲の薄膜の銀は、それぞれ本実施形態の金属シェルとして適用し得る程度に、プラズマ振動数と可視線領域との間で十分に一定した透過率を示すことを見せる。
コア2の製造に好ましい材料は、金属シェル4からなる材料によって異なり得る。特に、コア材料は、金属シェル4の製造過程を経なければならない。例えば、低い真空熱蒸着の使用により、コア材料は、蒸着過程における温度上昇によって退化されない可能性がある。従って、高い融点を有する無機コア材料がそのような場合に更に適する。また、コア材料は、コア粒子2の周囲に金属シェル4の形成を容易にする特定の化学官能性を有することができる。これは、例えば、カルボキシル基、ヒドロキシル基、又はアミノ基のような、イオン基又は官能基であり得る。そして、金属シェル4は、例えば、Braun & Natan、及びKaltenpothらによって記載されたように(Braun & Natan、ラングミューア 第14巻、p.726〜728、1998年、Jiら、新素材 第13巻、p.1253〜1256、2001年、Kaltenpothら、新素材 第15巻、p.1113〜1118、2003年参照)、コロイド化学によって形成できる。金属シェル4の電気メッキの場合、コア材料は、要求される電解質の存在下で退化されない可能性がある。実際例として、スルホン化されたポリスチレンビーズがコロイド化学(Kaltenpothら)によって、隣接した金シェルでコーティングできることが文献に報告されている。しかし、例えば、Tollens反応(Antipovら、ラングミューア 第18巻、p.6687〜6693、2002年)によって、銀シェルを形成する場合、カルボキシル基が化学反応に直接関与できるため、カルボキシル化されたポリスチレンビーズがスルホン化されたものよりも更に適することが判明した。
【0106】
【表1】

【0107】
【表2】

【0108】
実施例6
銀コーティングされたポリスチレンの透過及び吸収
金属シェル4によってカプセル化された非金属コア2物質に埋め込まれた蛍光物質3の励起のために、非金属コア2物質内への金属シェルを通じる蛍光物質3の励起波長における光の総透過率が重要である。また、所望しない熱的効果を回避するために、金属シェル内部における吸収損失が過剰過ぎてはならない。一例として、2つの異なる波長に対して、薄い銀膜でコーティングされたポリスチレン基材5の総透過率と吸収率を計算する。与えられた波長の光が周囲(空気又は真空)から銀膜に衝突して、特定の比率でこの膜を透過し、それからポリスチレン基材5に入っていくと仮定する。ポリスチレンに入っていく強度の比率を以下で「総透過率」と呼ぶ。第1界面及び金属への透過率を減少させる損失機構に対する図解が、図15(a)に示されている。式20によれば、透過率Tは、界面における反射損失Rと金属を介する伝播過程における吸収損失Aによって直接影響を受ける。既に上記で使った銀の複素屈折率に関する表にした値を用い、ポリスチレン基材5の屈折率nps=1.59と仮定すれば、反射に対するフレネル公式と式20及び21を用いて垂直入射に関する総透過率を計算することができる。その結果を2つの異なる波長について図15(b)に示した。326nmで界面における反射損失が非常に低く、これにより、入射光の約95%が金属内へ貫通する。金属内部における吸収によって、この強度は、金属を介して伝播する過程で低下し、これにより、点線で表示した銀膜の厚さに依存する。銀/ポリスチレン界面で他の反射損失が発生して、「326nm」と表示した厚い線が得られる。これは、例えば、ポリスチレン基材5への総透過率が銀膜の厚さ20nmで63.6%、及び銀膜の厚さ50nmで45.2%であることを示す。これら2つの銀膜の厚さに対する吸収損失は、黒矢印で表示したように、それぞれ19.5%と41.6%に達する。
【0109】
可視波長496nmに対して同じ計算を行えば、空気/金属界面で95%を超える高い反射率と内部吸収による速い減少が得られる。総透過率は、20nm銀膜の場合、0.21%に達し、50nm膜の場合、0.02%に達する。吸収損失は、それぞれ6.8%と8.4%であり、これは、326nmの場合よりも小さいが、光の少ない部分のみ金属に貫通するためである。この計算は、銀シェルが可視光に対して高反射性の場合にも、多くの部分のUV光が依然として銀コーティングされたポリスチレン粒子に貫通できることを示す。
【0110】
実施例7
微視的粒子における空洞モードの研究のための光学セットアップ
微視的粒子1における空洞モードの励起及び検出に適するセットアップが、図16に示されている。一般に、基材5、選択的な金属コーティング9、及び蛍光粒子1からなるサンプルが、計画(I)の場合、逆顕微鏡(Nikon Eclipse TS 100)のステージに逆に位置したり、又は計画(II)の場合、粒子1が上側に向かうように、即ち顕微鏡の収集レンズ22(Nikon、100×、N.A.1.3オイル)から離れて位置する。このような2つのオプションの主な理由は、収集レンズ22の小さい作業距離(約0.2nm)である。このため、粒子1を有する基材5が検出計画(II)の使用が可能なように、0.2mmよりも薄くならなければならない。薄い基材5を使うとき、粒子1の空洞モードとして誤解され得る干渉効果が生じないようにするために、検出計画(I)によって更に厚いサンプルを分析することができる。
【0111】
粒子1の蛍光励起のために、レーザー放射20が凸の100mmシリカレンズ31(CAT# LA4600−UV、Thorlabs Japan,Inc、日本、東京)を介してサンプルに集中される。ビーム焦点は、数十ミクロンの範囲内であるので、常に単一ビーズより広い。これにより、ビーズを使った基材5のわずかな装飾は、単一ビーズのみの励起に重要である。
粒子1から放射される光は、レンズ22によって集光され、顕微鏡のカメラポートに設置されたカップリング光学部品33を通じて、光ファイバ32(多重モード、200μmコア直径)にカップリングされる。ファイバ32は、その光を検出システムへ導くが、この検出システムは、レーザーの微光を除去するための光吸収フィルタ34(310〜325nmのUVのためのGG400、532nm励起のためのOG550、Schott Glas、Mainz、ドイツ)、高分解能単色化装置35(Triax 550、Horiba Jobin Yvon、日本、京都、又はSP−2500、Nippon Roper、K.K.、日本、東京)及びCCDカメラ36(iDus DV420A−BV、Andor Technology、Belfast、北アイルランド、又はPI−MAX:512、Nippon Roper、K.K.)からなっている。CCDカメラ36は、データ取得及び処理のために、USB連結によってパーソナルコンピュータに連結される。以下で説明する実験で、単色化装置は、300L/mm、600L/mm、及び1200L/mm格子(Triax)又は150L/mm、1200L/mm、及び1800L/mm(SP−2500)を備える。CCDの一般的な取得時間は、シャッターモード作動(iDus及びPI−MAX)の場合、60秒、又はゲーティッドモード作動(PI−MAXのみ)の場合、20kHz繰り返し率で総800000ゲートであった。他の取得時間が使われれば、60秒間取得したスペクトルと直接比較できるように、強度が線形的に比較される。
【0112】
光源として、325nmと442nmでそれぞれ二重波長放射を有する持続波(cw)ヘリウム−カドミウム(HeCd)レーザーが使われたり(Kimmon Lasers、日本、東京)、又は第2高調波生成(532nm)ステージと注文製作の光学パラメトリック生成器(310〜330nm)を備えたパルス型Nd:YAGレーザー(10psパルス持続時間、20kHz繰り返し率)が適用された。p−分極として設定された偏光子の前でλ/2プレートをレーザービーム20内へ回転させて入れることで、レーザー強度を調節することができる。使われるレーザーに関係なく、ビーム20がサンプルにレンズ31を介して導かれる前に、ビーム20は、直径約2mmに設定された絞り開口を介して導かれ、これによりビーム直径は、適切に規定された値に設定される。
レーザー強度を測定するために、PS10Qパワーヘッドを備えたCoherent FieldMateレーザー電力計を使った(Coherent Japan、Inc、日本、東京)。
【0113】
実施例8
薄い銀膜を通じる、蛍光ポリスチレンビーズにおける波長依存性空洞モード励起
プラズマ振動数範囲、そして可視線領域で薄い銀膜の異なる透過率の原理に関する直接証拠として、次の実験を行った。直径10μmのポリスチレン(PS)ビーズ(ポリビーズ(Polybead)カルボン酸10.0ミクロンポリスチレンビーズ、CAT# 18133、Polysciences、Inc、Warrington、ペンシルベニア州)を2つの異なる染料で同時ドープし、2つの染料のうち1つは、約320nmで高い励起効率を有し(クマリン450、CAS# 26078−25−1、Exciton、Dayton、オハイオ州)、他の1つは、532nmで高い励起効率を有する(ナイルレッド、CAS# 7385−67−3、Lambda Fluoreszenz−techno−logie GmbH、Graz、オーストリア)。2つの染料の吸収スペクトルを、使われたレーザーの放射波長と共に図17に示した。ドープのために、2つの染料のそれぞれ250μlの飽和キシレン(CAT#46004−70、Kanto Chemicals Co.,Inc.、日本)溶液を混合した後、50mlの茶色ガラスバイアル内に置かれていた6mlの脱イオン水(Millipore MilliQ>18MΩcm)の上に置いた。それから、100μlの天然ビーズ懸濁液を水副相に導入した。キシレンが完全に蒸発されるまで2相システムを徐々に掻き混ぜた。
【0114】
それから、染色ドープされたコロイド粒子1を、銀コーティングされたガラスカバースリップに次のように位置させた。銀膜の形成のために、80nmの銀(99.99%、Furuuchi、Kagaku K.K.、日本)を、蒸着前1時間の間、オゾン処理(Bioforce Nanosciences,Inc.、Ames、アイオワ州)によって洗浄した〜0.16mmガラスカバースリップ(NEOマイクロカバーガラス、Matsunami Glass,Ind.,Ltd.、日本)に蒸着させた。それから、20μlのドープされたビーズ懸濁液を少し傾いた基材5上に位置させて乾燥させ、10μmのPSビーズを有するわずかなカバレージの銀膜を得た。
【0115】
そのように用意されたサンプルを、図16に示す光学セットアップによって、検出計画(II)を用いて研究した。蛍光励起のために、Nd:YAGレーザーを用い、313nm又は532nmでそれぞれ作動した。検出のために、Triax550単色化装置及びiDUS CCDカメラを適用した。600L/mm格子及び100μmの入口スリット開口を有する単色化装置を主に使った。
【0116】
実験は、UV及び可視光に対してそれぞれ薄い銀膜の異なる透過率を立証するように設計された。銀コーティングされたビーズからの蛍光放射はまた、染料の2つの放射波長範囲における銀シェルの反射率の差によって大きく影響を受ける。従って、染色ドープされたPSビーズは、コーティングされていないまま保持され、これにより、ビーズの蛍光放射における差を銀膜の透過率における差として残しておく。基準のために、ビーズが無コーティングガラスカバースリップにまた位置される。そのような基準実験は、2つの理由から重要である。第一に、ウィスパリングギャラリーモード(WGM)が表面吸着されたPSビーズで励起でき、また図16に示すセットアップで検出できることを立証することができる。第二に、以下に示すように、UV又は可視線レーザー放射で励起されたビーズから同じ程度の蛍光強度を得るのに要求される励起強度が大きく異なる。このような差は、上述したインキング手順及び染料の異なる励起効率によるビーズの染色吸収の差、シリカレンズの色数差、カバースリップにおけるUV光の部分的な吸収、そして染料の2つの異なる放射波長範囲における格子効率及びCCD感度の差によって生じる。また、顕微鏡とファイバカップリング光学製品の付随的な色数差が作用した可能性がある。このような全ての差を適切な方式で解決するために、2つのレーザー波長(313nm及び532nm)の励起強度は、染料の2つの放射波長範囲で基準サンプルを研究するとき、類似する蛍光強度がCCDカメラによってモニタリングされるように調節される。この調節の結果を図18に示した。直径が約10μmであり、無コーティングクマリン450及びナイルレッドドープされたPSビーズから得たスペクトルの原データを示した。1.4mWレーザー強度で313nmのUV励起でスペクトル(a、b、f、g)が得られ、0.004mWの532nm励起でスペクトル(d、e、h)が得られた。同じ有効ビーム直径を保証するために、100mmシリカレンズ(b)の前に位置した同じピンホール(〜2mm直径)を介して2つのビームが導かれたことに留意されたい。球状粒子1からスペクトル(a)及び(e)が得られた。2つの場合、WGMの励起が明確に観察可能である。約600nmでモードのより高い相対強度は、誘導放射を促し、これにより、空洞モードのより高い形成を促す粒子1内部のナイルレッドのより高い濃度によって説明できる。対照的に、キシレンへの過剰露出によってインキング過程の間に球状から変形された奇妙な形状の粒子1からは、スペクトル(b)及び(d)が得られた。WGMは、識別できず、スペクトルは、単に2つの染料の蛍光放射プロファイルを反射する。(CCDで得たスペクトルで度々現れるいくつかの宇宙線の除去を除いて)補正されていない原データを図18に示したため、CCDのピクセルツーピクセル感度の変動を観察することができる。一例として、チップにおける減少された感度領域をスペクトルで(c)で表示した。スペクトル(f)及び(h)は、レーザーをオフにした状態のバックグラウンド測定である。ここで、天井灯から一部微光が観察できる。レーザースポットがPSビーズに焦点の合っていないUVレーザーをオンにした状態で、スペクトル(g)が最後に収集された。これにより、スペクトルは、UV光の吸収によってガラスカバースリップの放射特性と類似する。明らかに、このバックグラウンドがスペクトル(b)に付加され、そうでない場合、スペクトル(d)と類似した線プロファイルを有する。
【0117】
要約すると、基準実験によって2つの結果を得た。第一に、WGMは、クマリン450及びナイルレッドを用いたPSビーズのインキング後、それぞれUVと可視線放射によって表面吸着されたPSビーズで励起できる。第二に、2つの異なる波長領域でWGMの励起及び検出効率における差は、レーザー強度の適宜調節によって解決できる。効率の差は、I(313nm)/I(532nm)=1.40mW/0.004mW=350に達する。
【0118】
次のステップで、ガラスカバースリップにある80nm厚さの銀膜に沈澱されたビーズを図16に示すように研究した。図18の基準実験で使われたものと同じ条件下で全体セットアップを使った。単にサンプルを交換し、ビーズを選択し、ポンプ効率を最大化するために、レーザービームを少し再設定した。それから、レーザー強度を変化させて、各セットに対してスペクトルを記録した。その結果得られるスペクトルを図19に示した。0.12mW(a)、0.56mW(b)、1.05mW(c)、及び1.46mW(d)レーザー強度で、UV励起によってスペクトル(a〜d)がそれぞれ得られた。0.01mW(g)、0.04mW(f)、及び0.06mW(e)レーザー強度で、532nm励起によってスペクトル(e〜g)がそれぞれ得られた。後者の場合、放射強度がレーザー強度の増加に比例しないことに留意しなければならない。このデータセットの場合、算出できる強度比IUV/Ivisは、0.12mW/0.06mW=2〜1.46mW/0.01mW=146であり、即ち強度比は、それぞれUV及び可視線励起を通じて同じ蛍光効率に要求される比である350より常により小さい。これは、532nm励起を使った励起がこのセットの実験で好ましいが、如何なるWGM励起も観察できないことを意味する。しかし、UV励起の場合、予想される要求強度よりも遥かに低い強度でも、モード発達が観察できる。再び、未加工の原データを示した。1.46mWのUVポンプ強度で、約430nmの最大蛍光強度(スペクトル(d))は、約3000CCDカウントに達し、これは図18に示した基準サンプルの場合に発見される強度の最大蛍光強度の33%である。このような減衰は、図15に示したように、80nm厚さの銀膜を介するUV放射線の総透過率における予想された減少と非常に一致する。
【0119】
全体的に見て、ここに記載した発見は、UVと可視線領域で薄い銀膜の透過率における上記計算した差を示すだけでなく、80nm厚さの銀膜を介して染色ドープされたPSビーズを照明することで、空洞モードを励起することができる実現可能性を立証するものである。
【0120】
実施例9
銀コーティングされた蛍光ポリスチレンビーズにおける空洞モードの励起
この実施例で、銀シェルにて完全にカプセル化された染色ドープされたPSビーズ内部における空洞モードの存在が証明される。
【0121】
図8で説明したものと同じ材料及び器具を使った。研究対象サンプルによる2つの構成で、実施例7に記載の光学セットアップを使った。実施例8の実験の間、クマリン450の主な放射が約430nmに位置するにもかかわらず、クマリン450及びナイルレッドにドープされた粒子1がUV放射線で励起されたとき、約600nmで大きい蛍光を見せることを発見した。これに関する2つの理由を説明する。図17によれば、ナイルレッドは、約450nmだけでなく、約320nmで、即ちクマリン450の放射範囲で弱い吸収を示す。従って、UV放射線による直接励起の外に、クマリン450から放射される光がナイルレッドによって再吸収できる。2つの効果が約600nm領域における蛍光放射を引き起こす。このような発見によって、クマリン450及びナイルレッドドープされたPSビーズにおける空洞モードの励起は、検出設定の如何なる変化もなく、即ち蛍光放射の同じ波長範囲で励起波長の関数として研究できる。実施例8のように、レーザーラインの励起強度は励起効率の差を解決するために、そしてレンズ(b)の色数差を補正するために、即ち2つの波長の焦点の異なる位置を補正するために、適宜調節されなければならない。
【0122】
適切に規定された厚さの銀シェルでPSビーズを取り囲むために、実験7で用意したサンプルは、低い真空圧力(2.5×10−3mbar純窒素大気)でPSビーズを有するカバースリップ側に70nmの銀を蒸着させることで、付加的にコーティングされる。この手順で、蒸発された銀原子が残留ガスと衝突することで、ビーズ表面の自由表面領域全体が金属でコーティングされることが保証される。コーティング手順が本願出願人によって米国仮特許出願第60/796,162号にまた開示されている計画(I)として図20に示されている。この計画(I)で、基材5が配置された後(ステップ1)、薄い膜9が基材5に蒸着又はスパッタリングによって蒸着される(ステップ2)。それから、非金属コア2が、例えば、非常に希薄な懸濁液からの滴下コーティングによって、金属膜9上にわずかに配置される(ステップ3)。最後に、適切に規定された厚さの金属層で自由粒子表面全体をコーティングするように、第2金属層4がスパッタリング又は低真空蒸着によって蒸着される(ステップ4)。
【0123】
サンプルは、Nd:YAGレーザーのパルス型出力を用いて320nm又は532nmでそれぞれ励起された。検出のために、実施例8の場合と同じ設定が適用された。
【0124】
図21は、基準実験を示す。実施例8で用意したクマリン450及びナイルレッドドープされたビーズを、6mm厚さの溶融シリカウィンドウ(CAT# WG 41050、Thorlabs Japan,Inc.)上に置き、懸濁液の乾燥後、PSビーズのわずかな装飾を得た。基材5の高い厚さによって、光学セットアップが図16の検出計画(I)に用いられた。300nmを超えるシリカの吸収は、基本的に無視できるので、ガラスカバースリップと関連した実験に比べて、320nmでWGMのUV励起の場合に一層低い励起強度が要求された。0.04mWを使って、図21のスペクトル(b)を得た。0.02mWで532nm放射線によってスペクトル(a)を得た。しかし、如何なるビーズもなく、スペクトル(b)と同じ条件下で最終的にスペクトル(c)を得た。シリカは、UV光を吸収しないので、ガラスカバースリップの場合のように白色光の蛍光は、全く生成されない。従って、スペクトルの基線が基本的に0(zero)になり、即ちCCDカメラのダークノイズと類似する。580nmを超える、ある小さいピークがシーリングライトのネオン線に割り当てられることができる。絶対強度の差を除けば、PSビーズから得られる2つのスペクトルは同じ共振特色を示す。これは、空洞モードが本質的に空洞の物理的特性であり、これにより、空洞の励起方式と関係ないことを強調する。しかし、2つの異なる波長でポンピングされると、モード線幅の若干の変化が染料の誘導放射の差を発生させることができる。
【0125】
全体的に見て、基準実験は、320nmと532nm放射線によってそれぞれ約600nmの領域におけるWGMの励起性を証明する。更に、観察されたモードは、基材5内部の干渉によるものではないことを示す。
【0126】
図22は、上述した低真空熱蒸着によって製造された70nm厚さの銀シェルによってカプセル化された、クマリン450及びナイルレッドドープされたPSビーズから得たスペクトルを示す。ここでは、ガラスカバースリップが実施例8で既に用いられた検出計画(I)と共に使われた。従って、同じエネルギスケールが適用できる。320nmビームに対して2.20mW強度を使い、532nm励起のために0.15mW強度を使った。従って、強度比は約15である。320nm励起によって図22のスペクトル(a)を得た。明らかに、モードスペクトルが観察できる。これと対照的に、532nm放射線を使った励起は、この領域で金属コーティング4の高い反射率によって如何なる信号も全く得られない。2つのスペクトルは、基線補正され、即ちレーザーをオフにした状態で同じ条件下における測定が、2つのスペクトルから差し引かれる。これにより、532nm放射線で照明されたとき、銀コーティングされたPSビーズが蛍光放射をほとんど示さないことが明らかになる。
【0127】
従って、全体的に見れば、本実験は、銀コーティングされた粒子1における空洞モードの存在を立証するだけでなく、銀シェルの切り替え動作の他の例を提示する。
【0128】
実施例10
粒子のクラスタにおける空洞モード励起
この実施例で、銀シェルにて完全にカプセル化された3つの染色ドープされたPSビーズからなるクラスタ内部で、空洞モードの存在が証明される。
【0129】
実施例8と同じ材料が使われる。しかし、ここでは、それぞれ3μmと10μmの公称直径を有するPSビーズは、ナイルレッドとの競争を回避して約450nmでビーズの励起性を最適化するために、単にクマリン450でドープされる。それから、ビーズは、前のようにオゾン洗浄されたガラスカバースリップに滴下コーティングされて、わずかなカバレージを得る。銀シェルの形成のために、50nmの銀(99.99%、Furuuchi、Kagaku K.K.、日本)を、低い真空圧力(5×10−4mbar)でPSビーズを有するカバースリップ側に蒸着させた。上記で既に説明したように、この手順は、ビーズ表面の自由表面領域全体が金属でコーティングされることを保証する。コーティング手順が、米国仮特許出願第60/796,162号にまた開示されている計画(II)として図20に示されている。この計画(II)で、基材5が非金属粒子2のわずかな層で装飾され(ステップ1)、それから、第1金属蒸着4が行われ、例えば、スパッタリング又は低真空蒸着によって粒子2の自由表面全体をコーティングし(ステップ2)、接着テープ40(Kokuyo、日本)が金属コーティングされた粒子2上に固定され(ステップ3)、接着テープ40を引き出して、長方形フレーム41に下方から固定させ(ステップ4)、これによって、以前に基材5と接触した粒子表面部分を露出させ、最後に一番目の蒸着と同じ方式の他の金属蒸着4を行って、完全にかつ均質に金属コーティングされた粒子を得る(ステップ5)。長方形フレーム41は、ポリスチレン細胞培養皿の蓋(CAT# 430165、Corning)からなってよく、50nmの銀の低真空蒸着がPSフレームの開口を通じて繰り返される。この手順によって、適切に規定された厚さの完全に閉鎖された金属空洞が図5の計画(c)によって製造でき、即ち粒子のクラスタが基材だけでなく、互いに無コーティング接触を形成しつつ、1種粒子が完全にカプセル化される。この手順によって、適切に規定された厚さの完全に閉鎖された金属空洞が製造できる。
【0130】
それから、図16の検出計画(II)によってサンプルを研究した。ここでは、励起のために325nm及び0.02mW強度で作動するcw−HeCdレーザーを使い、検出システムは、PI−MAX:512 CCDカメラを備えたSP−2500からなる。150L/mm格子を選択し、入口スリットの幅は12μmと設定した。集積時間は、一般に約60秒であった。図23は、三角形構成で配置された3μmビーズからなる三量体(b)だけでなく、10μm公称直径の単一ビーズ(a)から蛍光放射を示す。2つのスペクトルで空洞モードの存在は、ピークから蛍光放射における起伏として、明白に観察できる。これにより、本実験は、単一球状ビーズよりも複雑なシステムで空洞モードの存在を例示し、図5、8及び9に概略的に示されたように、更に複雑なセンサを構成することができる。
【0131】
実施例11
銀コーティングされた蛍光ポリスチレンビーズの空洞モードを用いた検知
本実施例で、金属コーティング4にてカプセル化された蛍光非金属粒子2が、光学センシングのために用いられ得ることが立証される。以前の実施例のように、蛍光放射は、金属シェルの表面プラズモン共振励起の領域内に入るように選択される。
【0132】
空気と接触する薄い銀膜の表面プラズモン共振は、約
【数43】

に位置し、ここで、λは以前の例で説明したバルク銀のプラズモン共振の波長である。従って、以前の例で使われるクマリン450ドープされた粒子1は、薄い銀膜の表面プラズモン励起の範囲で放射する。この範囲で空洞モードが光学センシングのために使用できるかを立証するために、図23に既に示した単一10μm粒子1にエタノール溶液から単層のヘキサデカンチオール(HDT)を吸着させた。500μmHDT溶液への2時間浸漬の前(a)と後(b)の粒子1から得られる2つのスペクトルを図24に示した。吸着後スペクトルの線形は、吸着前スペクトルの線形と非常に類似するが、空洞モードの共振位置における約3nmの明らかな移動を観察することができる。本研究で使われたビーズの公称寸法が標準表面プラズモン共振イメージングの実際分解限界(〜25μm、例えば、J.M.Brockmanら、Annu.Rev.Phys.Chem.(第51巻、p.41〜63、2000年)参照)よりも小さいが、ここで得られる移動は同じ程度である。これは、本出願で説明するコアシェル粒子1が光学センシングに適用できることを示すだけでなく、感度と水平分解能の観点から、表面プラズモン共振に基づいて、従来技術の光学バイオセンサの興味深い代案を提供できることを示す。図25は、基線の差し引き後、図24のスペクトル(a)を拡大して示す。データが点線で表示されている。実線は、ローレンツプロファイルによって個別空洞モード共振にフィットする。その結果得られるピーク位置、線幅及びモードの特性因子を表3に表わした。
【0133】
実施例12
銀コーティングされた蛍光ポリスチレンビーズの空洞モードQ因子の決定
本実施例で、50nm厚さの銀シェルでコーティングされた染色ドープされたポリスチレンビーズで得ることができるQ因子が決定される。このために、図24のスペクトル(a)を使うが、これは、厚さ50nmの銀シェルにてカプセル化されたクマリン450ドープされたPSビーズから、図20の計画(II)によって得られた。同じサンプルで発見される対応粒子のSEMイメージを図25に示した。
【0134】
空洞モードのバンド幅を簡単に決定できるように、スペクトルは、まずバックグラウンド補正され、即ちスペクトル全体を支配する自発的な蛍光放射が(OriginPro 7.5 SR4(OriginLab Corp.,Northampton、マサチューセッツ州)という基線工具を用いて)差し引かれる。補正されたスペクトルの拡大図が図25に示されている。次のステップで、まずフィット範囲を単一ピークの2つの隣接最小値に制限し、次にフィット(OriginPro 7.5 SR4)を行うことで、ローレンツプロファイルが個別共振にフィットする。図25で、バックグラウンド補正されたスペクトルが点線で表示されており、個別フィット結果は実線で表示されている。データとフィットとの一致は、特にここで最も重要な共振の線幅に対して適当である。
【0135】
表3は、評価されたピークに対するピーク位置、線幅、及び式1によって算出されたQ因子を表わす。Q因子は、平均が170±87である約50〜300の範囲を有する。上記計算(実施例2及び3)で、Q因子=100と仮定して全ての推定が行われた。従って、本発明者らの実験結果は、空洞モード励起が可能に約320nmで依然として十分に透過的な銀シェルで可視線領域で得ることができるQ因子が、理論的に予見の有効性に要求されるものよりも遥かに高いということを立証する。
【0136】
【表3】

【0137】
実施例13
SEMイメージ
最後に、粒子1のSEMイメージを図26から図29に示した。
図26は、実施例11で使われたサンプルの粒子のSEMイメージを示す。図面符号50は、図20の(II)に示す手順によって厚さ50nmの銀シェルで完全にコーティングされたクマリン450ドープされたPSビーズを示し、図面符号51は、図20の(II)によって接着テープ上に置かれた銀を示す。
【0138】
図27は、図5の計画(d)によって製造された銀コーティング粒子のクラスタのSEMイメージを示す。図面符号52は、低真空蒸着(5×10−4mbar窒素大気)によって厚さ50nmの銀シェルでコーティングされた、公称直径750nmの2つのクマリン450ドープされたPS粒子からなる二量体を示し、2つの粒子を連結する銀ブリッジ53が形成されたことが明確に見られる。
【0139】
図28は、図5の計画(d)によって製造された銀コーティング粒子のクラスタのSEMイメージを示す。蛍光非金属粒子の金属コーティング光結晶を形成する方法の可能性を示すための、銀コーティングのクマリン450ドープされた750nmPSビーズの6角形に密に詰め込まれたクラスタである。
【0140】
図29は、表面から粒子のうち一部を除去した後、直径が750nmである銀コーティングのクマリン450ドープされたPSビーズのクラスタのSEMイメージを示す。50nmの銀が低真空条件(5×10−4mbar窒素大気)で表面固定されたビーズ上に蒸着された。基材の表面にある銀クラスタの配置から除去されたビーズの位置が依然として見られ、前記配置は、粒子の間に、以前に存在していた間隙を通じて蒸着の間に形成されたものである。残部粒子は、銀コーティング54及び以前に存在していた粒子との接触地点55を確かに見せる。銀コーティングは、以前の接触地点55で半円形開口を形成する。また、ビーズの基材56との以前の接触地点周囲の基材表面で円形銀開口が観察できる。2つの開口55、56は、約190nmの直径を有し、従って、光子のトンネリングを許可する小さい開口の例である。特に、2つの開口は、Aph<π/4λという条件を満たし、ここで、Aphは開口の面積であり、λは190nmを超える光学波長である。
【0141】
以上、実施形態を参照して本発明を説明した。しかし、前記実施形態に様々な変形又は改善が加えられ得る。
【図面の簡単な説明】
【0142】
【図1】空洞表面の可能な反射特性の例。図1(a):非金属空洞の場合、空洞の屈折率ncavの実数部が環境の屈折率nenvより大きければ、光は、いわゆる「臨界角」αcritより大きい全ての入射角αにおいて、全反射によって閉じ込めることができる。αcritより小さい角度αで表面に衝突する光は、容易に表面を透過することができ、これにより、例えば、空洞内部の蛍光物質の光学ポンピングのために必要時に外部(「o」)から空洞に接近することができる。図1(b):金属コーティングされた空洞の場合、任意の角度で金属コーティングに衝突する光は反射される。これは、空洞内部における光の閉じ込めを容易にするが、例えば、空洞内部の蛍光物質の光学ポンピングのために必要時に外部から空洞への光学接近を妨害する。
【図2】微小空洞の空洞モードに対する単純化推定。図2(a):金属コーティングされた空洞:金属内部の自由電荷キャリアによって、金属コーティングの内部表面における電場は、常に除去されなければならない。従って、そのような空洞モードのみ励起でき、これは、金属コーティングの内部表面に結び目(knot)を有する。この条件から、λ=4ncavR/mとして空洞モードが算出でき、ここで、Rは空洞の内部半径、ncavは空洞の屈折率、mは整数である。図2(b):非金属空洞:光は、臨界角より大きい入射角の場合にのみ、内部空洞表面に閉じ込めることができ、ここで、臨界角は、単に空洞の屈折率ncavが環境の屈折率nenvより大きい場合に限り、90より小さい(図1参照)。このような制限によって、整数mは十分に大きく選択されなければならず、一般にm≒100である。そうすると、球の外周2πRに沿って移動する光は、建設的干渉λ=2πncavR/mの条件を満たせば保存できる。このシステムの直径を1ミクロン未満まで小さくすることは、そのような場合、平均入射角が減少して臨界角未満に落ちるため、今まで達成されなかった。2つの場合において、マクスウェル方程式を用いて厳密に処理すると、空洞モードの半径依存度に対する類似の結果が得られるが、これがここで最も重要である。
【図3】光量子閉じ込め及びナノバイオセンシングのための小さい空洞を製造する新規方法。染色分子、半導体量子ドット、カーボンナノチューブ、ラマンエミッタなどのような蛍光物質を含む非金属粒子が金属シェルでコーティングされる。シェルは、蛍光物質の励起波長λに対して高透過性であるが、放射波長範囲λの少なくとも一部に対して高反射性である。従って、放射波長範囲のその特定部分内において、蛍光に起因して蛍光物質によって放射される光子は、空洞内に閉じ込められる。
【図4】金属コーティングにてカプセル化された表面吸着された蛍光非金属粒子の光学空洞モードの励起及び検出のための計画。計画(I)の場合、蛍光物質を含み、金属コーティングにてカプセル化された非金属コア材料からなる粒子が、金属で完全にコーティングされ、表面に接触した金属コーティングで吸着されている。金属コーティング内の蛍光物質の励起のために使われる光ビーム20が表面に向かい、基材の光学特性によって表面で反射及び/又は透過される。空洞の漏れ、即ち空洞の制限された特性因子によって、励起された空洞モードの一部の光が粒子から粒子の外部環境へ出て、これは、適切な光学部品、例えば、凸レンズによって集光されて、光検出器へ導かれる。選択的には、フィルタ又は格子のような分散要素を含む装置が検出経路に挿入されて、粒子から出る光をスペクトル分解検出することができる。計画(II)の場合、粒子の自由表面のみを金属でコーティングし、表面と接触する表面領域は、コーティングしないことで、粒子のコアと基材との間に光学接触を形成する。基材の光学特性を適宜選択すると、粒子内部の蛍光物質の励起がこの接触によって行われ得る。
【図5】金属コーティングにてカプセル化された2種以上の蛍光非金属粒子を含む光学空洞モードの励起に適したシステムの例。(a)互いにすぐ近くにあり、個別的にカプセル化され、表面吸着された2つの粒子、(b)基材と光学接触を形成しつつ、互いにすぐ近くにある、個別的にカプセル化された2つの粒子、(c)互いに光学接触を形成するが、基材とは光学接触を形成しない、2つの表面吸着された粒子、(d)基材だけでなく、互いに光学接触を形成する2つの粒子。これらの計画は、3以上の粒子で容易に拡張できる。また、4つの全ての計画を組み合わせることもできる。3以上の粒子を含む構造に対する2つの一般的な例を示すために、図5e及び図5fが表面吸着された粒子の3次元の規則的構造を示す。(e)の場合、粒子は、粒子の間、そして基材にも光学接触なしに、金属コーティングにて個別的にカプセル化されており;(f)の場合、粒子は、基材だけでなく、隣接粒子の間に光学接触を形成しつつ、規則的に配列されている。一般に、粒子又は粒子の(不規則的な又は規則的な)クラスタが、ランダム又は整列された方式で2次元又は3次元構造で表面に分布できる。これにより、光結晶が形成できる。
【図6】バイオセンシング応用のための、金属コーティングにてカプセル化された単一蛍光非金属粒子の利用。粒子が基材に部分的に埋め込まれる。粒子表面の露出部分が、抗タンパク質マトリックスと生物学的認識のための1つ(又はそれ以上)のプローブ分子でコーティングされる。基材表面、及び粒子の露出されてバイオ機能化された部分が、プローブ分子7の可能な結合パートナを含む流体を提供する液体セルに設置される。基材は、粒子内部に含まれた蛍光物質の励起及び放射波長に対して透過性である。蛍光物質は、基材を介して伝播する(また、粒子を横切る)光ビーム20によって光学的にポンピングされる。特定の立体角内で蛍光物質から放射されて粒子の金属コーティングを透過する光は、光ファイバによって集光される。立体角は、ファイバの開口数と、粒子中心からファイバまでの距離とによって与えられる。1μm未満の直径を有する小さい粒子の場合、光ファイバのチップは、サブ波長分解(光学近接場チップ)がノイズから信号の適宜識別を保証し得るように製造できる。
【図7】金属コーティングにてカプセル化された蛍光非金属粒子によるバイオセンシングのための一般的なセットアップ。粒子は、図4〜6、8、9及び11に示すように、基材に吸着されたり、又は埋め込まれる。基材は、粒子の露出されてバイオ機能化された表面が、可能な特定の結合パートナを含む媒体に露出できるように、液体セル内に設置される。蛍光物質が光ビーム20によって励起され、粒子からの放射は、適切な光ファイバによって収集される。ファイバは、光を光学分析システムへ導き、このシステムは、検出される光の強度を波長と時間の関数として記録する。
【図8】互いにほぼ接触している金属コーティングにてカプセル化された2つの蛍光非金属粒子、及びこれらのバイオセンシングへの利用。粒子のうち1つの粒子のみがバイオ認識のための1つ(又はそれ以上)の特定の結合プローブ分子7を有する。第2粒子は、特定の結合に対して不活性であるので、特定の結合を除く条件変化の尺度である。従って、カップリングされたシステムは、センサの作動の間、環境変化を補正する内部基準を含む。(図面符号は、図6の場合と同じ意味である)
【図9】金属コーティングにてカプセル化された、カップリングされた蛍光非金属粒子システム。粒子は、基材に埋め込まれ、互いにほぼ接触している。最上位の粒子は、バイオ機能化が可能なように環境に部分的に露出されている。また、ファイバチップへの光カップリングを向上させるために、検出ファイバに最も近い粒子が部分的に露出できる。(A)基準線のないシステム;(B)基準線のあるシステム。(図面符号は、図6の場合と同じ意味である)
【図10】溶液で浮遊自在の、金属コーティングにてカプセル化された蛍光非金属粒子。粒子表面に閉じ込められたプローブ分子(b)の可能な特定の結合パートナを含む液体セル(a)に、粒子が浮遊している。液体セルは、粒子内部の蛍光物質の励起のために使われるポンプ光に透過性である入射窓及び検出窓(o)を通じて粒子1への光学接近を許容し、検出窓は、蛍光物質の放射波長に対して透過性である。放射される光(q)は、凸レンズ(p)によって集光され、光学分析及び検出システムへ導かれる。(図面符号は、図6の場合と同じ意味である)
【図11】基材に埋め込まれた多くのエミッタ(センサ)の場合の代替検出。個別エミッタによって放射される光(c)は、粒子の干渉縞がモニタリングできるように、凸レンズ(b)によって集光され、CCDカメラのチップ(a)にイメージ化される。個別エミッタの任意の状態変化は、干渉縞に即時の変化を引き起こし、この変化を分析することができる。
【図12】異なる波長における金属の反射率(化学及び物理学のハンドブック(Handbook of Chemistry and Physics、第70版、CRC出版社、Boca Raton、フロリダ)からのデータ)。
【図13】(a)バルク銀の反射率を波長の関数として表にした値;出所:化学及び物理学のハンドブック、第70版、CRC出版社、Boca Raton、フロリダ、1989年;(b)屈折率に関する表にされたデータと化学及び物理学のハンドブック(第70版、CRC出版社、Boca Raton、フロリダ、1989年)に挙げられている吸収係数から算出した、バルク銀への光の貫通深さの波長依存性。
【図14】厚さ1mmのプレーンポリスチレン基材に熱蒸着によって蒸着された薄膜の銀の測定された吸光度(a)及び透過率(b)。同じタイプの無コーティングポリスチレン基材を基準として使った。
【図15】(a)空気/金属界面における反射、吸収及び透過の間の関係に関する計画;(b)銀膜厚の関数として、外部から銀コーティングポリスチレン基材に衝突する可視光のこの基材への総透過率。算出は、屈折率に関する表にされたデータ、化学及び物理学のハンドブックに挙げられている銀の吸収係数、及びポリスチレンの公知された屈折率1.59に基づく。
【図16】例で使われた光学セットアップ。(I)0.2mmの作業距離で100×顕微鏡対物レンズによって、厚い基材に置かれた粒子から放射される蛍光の集光が可能なように、倒立顕微鏡のサンプルステージに逆に位置されたサンプル;(II)十分に薄い基材の場合、直立位置に位置されたサンプル。
【図17】ナイルレッド(Nile Red)(a)及びクマリン(Coumarin)450(b)の吸収スペクトル;例として、2つの染料の励起のために使われたレーザー波長を示した:532nmにおけるNd:YAG(c)、325nmにおけるHeCdレーザー(d)、及び313〜320nm範囲におけるNd:YAGポンピングされたパラメトリック共振器(e)。
【図18】313nm及び532nm励起によるクマリン450及びナイルレッドドープされたポリスチレンビーズにおける、ウィスパリングギャラリーモード励起。
【図19】厚さ80nmの銀膜を通じる313nm及び532nm励起によるクマリン450及びナイルレッドドープされたポリスチレンビーズにおける、ウィスパリングギャラリーモード励起。532nmで高い反射と吸収損失によって、WGM励起は、銀膜を通じる透過が相変らず重要な場合であるUV励起(a〜d)の場合にのみ観察できる。
【図20】適切に規定された厚さの金属シェルで完全に取り囲まれた非金属蛍光粒子の製造計画。
【図21】それぞれ532nm(a)及び320nm(b)放射線で励起されるため、ナイルレッドの放射波長範囲でクマリン450及びナイルレッドドープされたポリスチレンビーズにおけるウィスパリングギャラリーモード励起。
【図22】厚さ70nmの銀シェルで取り囲まれた染料塗りのポリスチレンビーズの空洞モード励起;(a)320nm放射線を使った励起;(b)532nm放射線を使った励起。
【図23】厚さ50nmの銀コーティングで取り囲まれたクマリン450及びナイルレッドドープされたポリスチレンビーズにおける空洞モード励起;(a)公称直径10μmの単一ビーズ;(b)公称直径3μmの3つのビーズからなるクラスタ。
【図24】銀表面プラズモン共振の領域で厚さ50nmの銀コーティングで取り囲まれたクマリン450ドープされたポリスチレンビーズにおける空洞モード励起。ビーズは、公称直径10μmを有し、銀シェルに単層のヘキサデカンチオールの吸着前(a)と吸着後(b)の2つのスペクトルを記録し、この吸収は、約3nmの空洞モード位置の移動を引き起こす。
【図25】基線を差し引いた後、図24のスペクトル(a)の拡大図。データを点線で表示した。実線は、ローレンツ(Lorentz)プロファイルによって個別空洞モード共振に適合する。その結果得られるピーク位置、線幅及びモードの特性因子を表3に表わした。
【図26】実施例11で使われたサンプルの粒子の走査電子顕微鏡(SEM)イメージ。
【図27】図5の計画(d)に従って製造された銀コーティング粒子のクラスタのSEMイメージ。
【図28】図5の計画(d)に従って製造された銀コーティング粒子のクラスタのSEMイメージ。
【図29】表面から粒子のうち一部を除去した後、直径750nmの銀コーティングのクマリン450ドープされたPSビーズのクラスタのSEMイメージ。
【符号の説明】
【0143】
1 粒子
1A 粒子
1B 粒子
1C 最上位の粒子
1D 最下位の粒子
2 コア
3 蛍光物質
4 金属
5 基材
6 抗タンパク質マトリックス
7 プローブ分子
8 液体セル
9 金属コーティング
20 光ビーム
21 光
22 凸レンズ
23 光検出器
24 格子
25 立体角
26 光ファイバ
27 ファイバチップ
28 チップ
30 光学窓
31 レンズ
32 光ファイバ
33 カップリング光学部品
34 光吸収フィルタ
35 高分解能単色化装置
36 CCDカメラ
40 接着テープ
41 長方形フレーム
50 PSビーズ
51 銀
52 PS粒子からなる二量体
53 銀ブリッジ
54 銀コーティング
55 接触地点
56 ビーズの基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光物質を有する非金属コアと、
前記非金属コアをカプセル化する金属シェルとを含む粒子であって、
前記金属シェルは、蛍光物質を励起させる第1範囲の波長を有する電磁放射線に対する透過性、及び前記蛍光物質から放射される第2範囲の波長を有する電磁放射線の少なくとも一部に対する反射性を有し、第2範囲の波長のうち前記一部を有する電磁放射線を前記金属シェル内に閉じ込める、粒子。
【請求項2】
前記非金属コアは、染色分子、量子ドット、カーボンナノチューブ、ラマンエミッタからなる群から選ばれた蛍光物質を有する、請求項1に記載の粒子。
【請求項3】
前記蛍光物質は、コア内に含まれるか、又はコア表面に吸着される、請求項1に記載の粒子。
【請求項4】
蛍光物質の放射波長範囲の少なくとも一部は、λexcにて照射されるとき、金属シェルの表面プラズモン共振のスペクトル位置をカバーする、請求項1に記載の粒子。
【請求項5】
前記蛍光物質は、超短レーザーパルスによって励起され、励起状態の密度(population)が基底状態の密度より少なくとも一時的に超過する、即ち基本的なレージング条件が満たされる、請求項1に記載の粒子。
【請求項6】
前記金属シェルは、π/4λ未満の最大面積をそれぞれ有する小さい開口を除いては閉鎖されており、ここで、λは開口を通じて貫通させようとする光の波長である、請求項1に記載の粒子。
【請求項7】
前記金属シェルは、基材又は隣接した粒子と接触するシェルの部分に位置した開口を有している、請求項1に記載の粒子。
【請求項8】
前記粒子は、担持基材によって担持され、小さい開口が担持基材と接触してのみ存在する、請求項1に記載の粒子。
【請求項9】
空洞コアの体積(V)、空洞コアの屈折率(ncav)、空洞コアの特性因子(Q)、及び蛍光物質の放射波長(λem)が、下記不等式(I)
【数1】

を満たすように選択される、請求項1に記載の粒子。
【請求項10】
空洞コアの体積が1000μm以下である、請求項1に記載の粒子。
【請求項11】
空洞コアの体積が100μm以下である、請求項10に記載の粒子。
【請求項12】
空洞コアの体積が1μm以下である、請求項11に記載の粒子。
【請求項13】
空洞体積(Vmin)、空洞の屈折率(ncav)、及びコア内部の蛍光物質の放射波長範囲(λem)の少なくとも1つは、下記条件(II)
【数2】

を満たすように選択され、前記因子fは100未満である、請求項1に記載の粒子。
【請求項14】
前記因子fが10未満である、請求項13に記載の粒子。
【請求項15】
前記因子fが1未満である、請求項14に記載の粒子。
【請求項16】
蛍光物質の放射範囲の少なくとも1つ(λem)、空洞体積V、空洞の屈折率ncav、及び空洞のQ因子が下記条件
【数3】

を保持するように選択され、ここで、λemは蛍光物質の真空放射波長であり、dはλemに対応する蛍光物質の遷移双極子モーメントである、請求項1に記載の粒子。
【請求項17】
前記金属シェルは、銀からなる、請求項1に記載の粒子。
【請求項18】
前記金属シェルは、厚さ10〜70nmの銀からなる、請求項17に記載の粒子。
【請求項19】
前記金属シェルは、厚さ50〜70nmの銀からなる、請求項18に記載の粒子。
【請求項20】
請求項1に記載の粒子を少なくとも2つ含むカップリングされた粒子システムであって、前記粒子は、金属シェル内の空洞モードが互いにカップリングされるように、互いにほぼ接触して位置している、カップリングされた粒子システム。
【請求項21】
前記粒子は、光子が、ある空洞から隣接した空洞へ10−6より大きい確率でトンネリングできるように、互いにほぼ接触して位置している、請求項20に記載のカップリングされた粒子システム。
【請求項22】
前記粒子は、空洞の空洞モードが接触によってモード分裂を示すように、互いにほぼ接触して位置している、請求項20に記載のカップリングされた粒子システム。
【請求項23】
前記蛍光物質は、超短レーザーパルスによって励起されて、励起状態の密度が基底状態の密度より少なくとも一時的に超過する、即ち基本的なレージング条件が満たされる、請求項20に記載のカップリングされた粒子システム。
【請求項24】
標的分子を検知するためのバイオセンサであって、
請求項1に記載の粒子と、
粒子の外部表面に固定され、かつ、標的分子を捕獲することができる捕獲分子と、
第1範囲の波長を有する電磁放射線を放射するための手段と、
第2範囲の波長周囲の波長を有する電磁放射線を検出するための検出器とを含み、
前記粒子からの電磁放射線の変化が標的分子の捕獲を示す、標的分子を検知するためのバイオセンサ。
【請求項25】
蛍光物質が、外部電磁放射線、好ましくはレーザービーム、最も好ましくは超短パルスレーザービームによって励起され、前記検出は、光学システム、好ましくはファイバプローブ又は導波管によって行われる、請求項24に記載の標的分子を検知するためのバイオセンサ。
【請求項26】
信号増幅及び/又は内蔵型基準に使われるための、請求項1に記載の粒子からなる粒子のアレイ又はクラスタ。
【請求項27】
浮遊自在の粒子システムであって、前記粒子は、上記構造を有し、蛍光物質を励起させる第1範囲の波長を有する電磁放射線、及び蛍光物質によって放射される第2範囲の波長を有する電磁放射線に対して透過性である流体に分散されている、浮遊自在の粒子システム。
【請求項28】
単一基材に担持された粒子システムであって、前記粒子は、上記構造を有し、蛍光物質を励起させる第1範囲の波長を有する電磁放射線、及び蛍光物質によって放射される第2範囲の波長を有する電磁放射線に対して透過性であるマトリックスに埋め込まれている、単一基材に担持された粒子システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【公表番号】特表2009−535604(P2009−535604A)
【公表日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−551377(P2008−551377)
【出願日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際出願番号】PCT/JP2007/059443
【国際公開番号】WO2007/129682
【国際公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【出願人】(306008724)富士レビオ株式会社 (55)
【Fターム(参考)】