説明

金属シュウ酸塩から形成されたろう付けを含むデバイスの製造方法

【課題】金属シュウ酸塩から形成されたろう付けを含むデバイスの製造方法を提供する。
【解決手段】少なくとも1つのろう付けb1,b2によって互いに接合された少なくとも支持体Sおよび部品を含むデバイスの製造方法であって、ろう付け作業が金属シュウ酸塩から出発して行われることを特徴とする製造方法に関する。好都合には、これはシュウ酸銀またはシュウ酸銀とシュウ酸銅との混合物であり、部品および/または支持体Sは、金または銅を含む膜で覆われており、この膜が前記ろう付けb1、b2と接触し、部品は場合によりパワー部品である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野は、特にGaAs、GaN、またはSiCを主成分とすることができるパワー部品であって、たとえば人工衛星に搭載されることがあり、したがって高温および高圧にさらされる場合もあるパワー部品用のろう付けタイプの金属界面の分野である。
【0002】
図1は、パッケージ底部Bを含むパワー部品の一例を示しており、支持体Sの両側の上の2つのろう付けbおよびbは、電子部品が発生した熱エネルギーを除去することができ、ろう付けbはパワー部品Compと接触しており、金仕上げは、化学的観点から安定である高品質の電気的および熱的接触を保証するために必要であり、矢印FThは、部品Compの動作中に発生した熱流の方向を示している。
【0003】
ある種のろう付け方法では低融点の合金が使用される。しかし、これらの合金は:
− 金属間種の形成、および組み合わされる表面の不均一な被覆に関連した平凡な機械的性質(Au−Sn系ろう付けの場合);
− 母材の温度がGaN型の部品とともに増加する傾向があると想定される場合の低い耐熱性(Ag−Sn、Cu−Sn、およびAuSnのろう付けの場合);
− 組み立てられる部品の表面上の配置される特に金を含む仕上げ層との過度に高い反応性(In−Snの場合)
の種々の欠点を有する。
【0004】
さらに、非常に良好な熱伝導性および好都合な機械的性質を有することができる現在の金系または銀系のろう付けは、それらの融点を考慮すると実施が困難であり、このことは、ある種の金系の共融合金の融点を提供する図2中に示されるように、融点が非常に高いことが示されており、そのため処理が困難となる。
【0005】
同様に、市販の銀系のナノスケールのインクおよび/またはペーストがすでに提案されており、これらは典型的には300℃未満の低い融点を有し、特に、プラスチック基板上に導体を形成するためのものである。それにもかかわらず、これらのインクおよび/またはペーストは、高い多孔度を有し、したがって高圧に対する抵抗性が低いので、特に本発明が対処するパワー部品には適合していない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この状況において、本発明の主題は、金の堆積に対して適合性があり、非常に良好な熱伝導性と同時に高圧に対する良好な抵抗性が保証されるろう付けを形成するための独自の方法である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の基本的な考え方は、分解温度が低い金属シュウ酸塩によって金属のろう付けを行うことにある。その分解中、シュウ酸塩からナノスケールの金属クラスターまたは粒子が生成され、その溶融温度はバルク状態の金属の溶融温度よりも低い。これらの粒子は、非常に大きな表面/体積比をさらに有し、そのため焼結する傾向が高い。この特性は、ろう付け作業に好都合であり、局所的なコーティングに相当する「ディスペンシング/ピックアンドプレース」(dispensing/pick&place)製造手段に対して依然として適合性がある。
【0008】
シュウ酸銀またはシュウ酸銀とシュウ酸銅との混合物の場合、分解によって非常に発熱する。この局所的なエネルギー入力によって、組み立てられるすべての部品に使用されるろう付け温度より高温に上昇させることができる。エネルギーの供給は局所的であり非常に短時間であるので、これによって焼結、さらには生成された金属の溶融が促進されるが、ろう付けされる電子部品の劣化は起こらない。
【0009】
シュウ酸塩粒子の大きさおよび形状、ならびにろう付けされるペースト中のシュウ酸塩粒子の分散性も制御することによって、均一でそして亀裂のないろう付けの形成がさらに促進される。
【0010】
特に、本発明の主題は、少なくとも1つのろう付けによって互いに接合された少なくとも支持体および部品を含むデバイスの製造方法であって、ろう付け作業が金属シュウ酸塩から出発して行われることを特徴とする製造方法である。金属シュウ酸塩は、好ましくは17〜80の間の誘電率を有する水性アルコール性溶媒中に溶解させたシュウ酸またはシュウ酸アンモニウムによる可溶性金属塩の化学沈殿によって得られる。
【0011】
小さなサイズの粒子は、好ましくは、これらの溶媒が低い誘電率を有し、2つの溶液の濃度が高いか、またはさらには飽和に近い場合に得ることができる。
【0012】
本発明の一変形形態によると、シュウ酸塩は、シュウ酸銀、またはシュウ酸銀とシュウ酸銅との混合物である。
【0013】
本発明の一変形形態によると、部品および/または支持体は表面に金または銅を含む膜を含み、その上に前記ろう付けが形成される。
【0014】
本発明の一変形形態によると、ろう付けは、金属シュウ酸塩を含有する懸濁液から形成される。
【0015】
本発明の一変形形態によると、ろう付けは、金属シュウ酸塩を含むペーストから形成される。
【0016】
懸濁液は、ペーストよりも低いシュウ酸塩含有率および低い粘度を特徴とし、好ましくは薄いろう付けを形成するために使用されることを留意されたい。
【0017】
本発明の一変形形態によると、ろう付け作業は次のステップ:
− 金属シュウ酸塩を含有するろう付けするための懸濁液またはペーストを作製するステップ;
− 前記支持体および/または前記部品の表面上に前記懸濁液または前記ペーストを堆積するステップ;
− 前記懸濁液または前記ペーストによって支持体および部品を組み立てるステップ;
− あらかじめ形成した組立体を加熱するステップ
をさらに含む。
【0018】
本発明の一変形形態によると、前記懸濁液または前記ペーストの作製は次のステップ:
− 水性または水性アルコール性媒体中で、可溶性金属塩をシュウ酸または可溶性シュウ酸塩によって化学沈殿させるステップ;
− 銅および銀を含むシュウ酸塩混合物の場合は約40nmを超え、シュウ酸銀の場合は約0.1ミクロンを超える粒度が結果として得られる、制御された粒度および形態的特性を有するシュウ酸塩沈殿物を得るステップ;
− 形成された沈殿物を洗浄するステップ;
− 制御された粘度の懸濁液またはペーストを得るための選択された濃度で、水性または水性アルコール性媒体中のシュウ酸塩の懸濁液を得るステップ
を含む。
【0019】
本発明の一変形形態によると、シュウ酸塩系懸濁液は吹き付けによって堆積される。
【0020】
本発明の一変形形態によると、シュウ酸塩系懸濁液はインクジェットによって堆積される。
【0021】
本発明の一変形形態によると、シュウ酸塩系ペーストはコーティングによって堆積される。
【0022】
本発明の一変形形態によると、シュウ酸塩系ペーストはスクリーン印刷によって堆積される。
【0023】
本発明の一変形形態によると、本発明の方法は、金属シュウ酸塩を主成分とする前記懸濁液または前記ペーストによって支持体および部品を組み立てる前に、前記懸濁液または前記ペーストの堆積物を乾燥させるステップを含む。
【0024】
本発明の一変形形態によると、乾燥ステップは、空気中または一次真空下約100℃の温度で、または凍結乾燥法によって行われる。
【0025】
本発明の一変形形態によると、組立体の加熱は約200℃の温度で行われる。
【0026】
本発明の一変形形態によると、組立体の加熱は約150℃/hを超える加熱速度で行われる。
【0027】
本発明の一変形形態によると、部品は、特にGaAs、GaN、またはSiCを主成分とすることができるパワー部品である。
【0028】
非限定的に提供される以下の説明を読むことと、添付の図面とによって、本発明がより理解され、別の利点が明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】ろう付けによってパッケージ底部に接合されたパワー部品の一例を示している。
【図2】種々の金系共融合金の融点を示している。
【図3】温度の関数としてのシュウ酸銀の分解曲線を示している。
【図4】従来のろう付けの場合、および本発明により形成したろう付けの場合の、温度の関数としての電力損失を示している。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の方法は、特に、たとえば図1中に示されるパッケージ底部であってよい支持体上に組み立てられる部品を含むデバイスを製造するための、好都合にはシュウ酸銀Agまたはシュウ酸銀Agとシュウ酸銅CuCとの混合物であってよい金属シュウ酸塩を主成分とするろう付けの形成を含む。
【0031】
本発明による方法の一例の種々のステップを以下に示す。
【0032】
第1のステップ:ろう付けするための懸濁液またはペーストの作製
可溶性銀塩または銅塩のシュウ酸または可溶性シュウ酸塩による化学沈殿は、水性または水性アルコール性媒体中の制御された条件下で行われる。
【0033】
このため、後述の実施例は以下のように行うことができる。
【0034】
実施例1:
150mlの蒸留水中に溶解させた25.480gの硝酸銀AgNOの溶液Aと、750mlの蒸留水中に溶解させた47.276gのシュウ酸H・2HOの溶液Bとから出発して、250rpmのブレード回転により撹拌される、水中のシュウ酸による沈殿によってシュウ酸銀を生成する(粉末P1)。
【0035】
塩溶液Aは、蠕動ポンプを使用して制御された速度(v=30ml/分)でシュウ酸溶液中に投入する。塩溶液を添加する場所は、シュウ酸溶液の表面上で分散させる。
【0036】
すべての銀溶液を加えた後、撹拌を30分間続ける。
【0037】
次に洗浄作業を行う:
沈殿終了時に得られた懸濁液は次に、母液から沈殿物を分離するために遠心分離する:
− 回収した沈殿物を蒸留水中の懸濁液に30分間戻し、硝酸イオンを除去するために蒸留水で洗浄する。この洗浄を少なくとも4回繰り返す;
− 最後の洗浄のため、水の代わりに95%エタノールを使用する;
− 最後の遠心分離の終了後に得られた沈殿物を60℃のオーブン中で48時間乾燥させる。粉砕の後、シュウ酸塩粉末P1が得られる。
【0038】
この方法で得られたシュウ酸銀粒子は、長さが5〜10μmで直径が2〜5μmの棒状の形態を有する。
【0039】
調製されたシュウ酸銀は、変換を防止するために好ましくは暗所で保管される。
【0040】
実施例2:
溶液Aの水の代わりに150mlのエチレングリコールを使用したことを除けば、実施例1に記載される手順と類似の手順によりシュウ酸銀を調製する。
【0041】
同様に、溶液B中では、47.276gのシュウ酸H・2HOを溶解させるために、蒸留水の代わりに750mlのブタノールが使用される。
【0042】
実施例1に記載の手順と同一の手順により沈殿物を回収する。
【0043】
こうして調製したシュウ酸銀粒子(粉末P2)は、0.5〜1ミクロン程度の大きさを有する。これらも暗所で保管する。
【0044】
実施例3:
5mlの水と25mlのエタノールとからなる混合物中に溶解させた24.16gの硝酸銅Cu(NO・3HOの溶液Aと、200mlのペンタノール中に溶解させた13.48gのシュウ酸H・2HOの溶液Bとから出発して、250rpmのブレード回転により撹拌される、シュウ酸による沈殿によってシュウ酸銅を生成する(粉末P3)。
【0045】
塩溶液Aは、蠕動ポンプを使用して制御された速度(v=60ml/分)シュウ酸溶液中に投入する。塩溶液を添加する場所は、シュウ酸溶液の表面で分散させる。
【0046】
すべての銅溶液を加えた後、撹拌を20分間続ける。
【0047】
次に洗浄作業を行う:
沈殿終了時に得られた懸濁液は次に、母液から沈殿物を分離するために遠心分離する。回収した沈殿物を蒸留水中の懸濁液に30分間戻し、硝酸イオンを除去するために蒸留水で洗浄する。2回目の洗浄終了時に得られる懸濁液が安定に維持されるので、洗浄は2回だけ繰り返す。粉末P3は、水中の懸濁液中で維持することもできるし、または懸濁液から取り出した後に80℃で数時間乾燥させることもできる。
【0048】
粉末P3を構成するシュウ酸銅粒子は、50nm未満の大きさを有する米粒状の形態を有する。
【0049】
このように、シュウ酸銀またはシュウ酸銅の沈殿物は、制御された粒度および形態的特性を有して得られる。溶液Aを溶液Bに徐々に加えることで、比較的狭い粒度分度が得られやすくなり、水よりも低い誘電率を有する溶媒を使用することで、サブミクロンサイズの粒子が形成される。溶液AおよびBが高濃度であることも、小さな粒子を得るために好都合である。
【0050】
次に、シュウ酸塩を、懸濁液またはペーストを得るために選択された濃度の水性または水性アルコール性媒体中(たとえばエチレングリコールおよび水中)の懸濁液にする。
【0051】
メノウ乳鉢を使用して、実施例1に記載されるように生成した質量5gの粉末P1を、5gのエチレングリコールと混合する。次に、ペーストS1が得られ、これは、後述の手順による銀ろう付けを形成するために使用することができる。
【0052】
粉末P2を使用して上記と同じ手順によりペーストS2を調製することもできる。
【0053】
メノウ乳鉢を使用して、実施例2に記載されるように生成した質量5gの粉末P2を、25gのエチレングリコールと混合する。次に、懸濁液S3が得られ、これは、後述の手順による銀ろう付けを形成するために使用することができる。
【0054】
メノウ乳鉢を使用して、実施例2および3に記載されるように生成した質量15gの粉末P2および質量5gの粉末P3を40gのエチレングリコールと混合する。次に、懸濁液S4が得られ、これは、後述の手順による銀−銅ろう付けを形成するために使用することができる。
【0055】
メノウ乳鉢を使用して、実施例2および3に記載されるように生成した質量13.4gの粉末P2および質量6.6gの粉末P3を40gのエチレングリコールと混合する。次に懸濁液S5が得られ、これは、後述の手順による銀−銅ろう付けを形成するために使用することができる。
【0056】
第2のステップ:懸濁液またはペーストの使用:
ろう付けするための懸濁液は、たとえば吹き付け、インクジェット方法、はけ塗りなどによって、あるいはろう付けするためのペーストは、コーティングまたはスクリーン印刷によって、部品またはその支持体上に堆積される。
【0057】
次に、空気中または一次真空下、100℃未満の温度で乾燥される。
【0058】
次に、部品/ろう付けされる懸濁液またはペースト/シュウ酸塩で覆われる要素の支持体の組立体を、組立プロセスを行うために第2の部品と接触させる。
【0059】
2つのシュウ酸塩系層を接触させるために、部品および支持体の両方の面をコーティングすることも可能である。
【0060】
第3のステップ:ろう付けの形成:
最後に、典型的には約150℃/hを超える加熱速度および最高200℃を超える温度での急速な加熱によってろう付けを形成する。このステップ中、形成プロセス中にろう付けの緻密化を促進するために、組み立てられる部品に軽い圧力を加えることができる。
【0061】
ろう付けの形成の3つの実施例3、4、および5を以下に示す。
【0062】
実施例3
厚さ約200μmのペースト(S2)を4mm×4mmの金基板上に堆積する。次にペーストを一次真空下、周囲温度で2時間乾燥させる。乾燥後、組立プロセスを行うために、基板を第2の金の部品で覆う。
【0063】
第2の部品上に小さな荷重をかけることで、3000g/cmの圧力を加えることができる。組立体をオーブン中に入れ、ろう付けを形成するために150℃/hで300℃まで加熱する。2つの部品の間で得られる銀金属層の厚さは100μm程度である。
【0064】
次に、ろう付けによって組み立てられた部品を分離するためには、40Nを超える剪断応力を加える必要がある。
【0065】
実施例4
厚さ約200μmのペースト(S2)を4mm×4mmの非常に清浄な銅基板上に堆積する。次にペーストを一次真空下、周囲温度で2時間乾燥させる。乾燥後、組立プロセスを行うために、基板を、第2の先だって清浄にした銅部品で覆う。
【0066】
第2の部品上に小さな荷重をかけることで、3000g/cmの圧力を加えることができる。銅支持体の酸化を防止するために酸素を除去した中性雰囲気(NまたはAr)下のオーブン中に組立体を入れ、ろう付けを形成するために150℃/hで300℃まで加熱する。2つの部品の間で得られる銀金属層の厚さ100μm程度である。
【0067】
実施例5
厚さ約200μmの懸濁液(S4)を4mm×4mmの金基板上に堆積する。次に懸濁液を一次真空下、周囲温度で2時間乾燥させる。乾燥後、組立プロセスを行うために、基板を第2の金の部品で覆う。
【0068】
第2の部品上に小さな荷重をかけることで、3000g/cmの圧力を加えることができる。組立体をオーブン中に入れ、ろう付けを形成するために150℃/hで300℃まで加熱する。2つの部品の間で得られる金属の銀および銅の層の厚さは100μm程度である。
【0069】
実施例6
厚さ約200μmの懸濁液(S5)を4mm×4mmの金基板上に堆積する。次にペーストを一次真空下、周囲温度で2時間乾燥させる。乾燥後、組立プロセスを行うために、基板を第2の金の部品で覆う。
【0070】
第2の部品上に小さな荷重をかけることで、3000g/cmの圧力を加えることができる。組立体をオーブン中に入れ、ろう付けを形成するために150℃/hで300℃まで加熱する。2つの部品の間で得られる金属の銀および銅の層の厚さは100μm程度である。
【0071】
提案したろう付け材料の技術的利点は、200℃以降で、電子部品とそれらの支持体との間に高熱伝導率の接合を形成できることと関連している。この材料では、宇宙用途が意図された高い散逸電力の電子部品を正確にろう付けする現在の実現性のみが得られる。しかしマイクロエレクトロニクスの分野における他の用途を見いだすことができる。提案した材料の特性および性能は以下によって得られる:
− 曲線3a中のにおける温度の関数としての得られる熱流束、質量減少と関連する曲線3bで図示される図3中に示されるような、シュウ酸銀の分解による局所的熱利得(焼結の促進);
− 分解の第1段階での低融点銀ナノ粒子の形成により焼結が促進されること;
− シュウ酸塩の大きさ、形態および粒度のばらつきの制御によって、ろう付けが均一になり、亀裂がなくなること。
【0072】
銀系ろう付けの場合100Wm−1−1を超える熱伝導率を典型的には実現できる。
【0073】
ろう付けの散逸性部品との界面から、ベースプレートとも一般に呼ばれる支持体に向かって流れる熱流または熱流束は:
【数1】

の形態となり、式中:
− −dQ/dt:単位時間当たりに高温部から低温部に流れる熱の量;
− K:ろう付けの熱伝導率;
− A:熱流束に対して垂直方向のろう付けの表面積;
− ΔT:(高温)散逸性部品と(低温)ベースプレートとの間の正の温度差;
− S:ろう付けの厚さ
である。
【0074】
ベースプレートは、ろう付けの熱伝導率よりも高い熱伝導率を有する固体材料からなるため、ろう付けによって熱流が制限され、それによって部品が冷却される。熱流の式から求められるように、熱流を促進するため、すなわちφを大きくするために、ろう付けの厚さをできるだけ薄くする必要がある。
【0075】
実際には、2つの部品(部品+ベースプレート)を組み立てながら、良好な伝導性および部品表面全体の温度の良好な均一性に対して有害となる空隙(ろう付けを有さない)が残らないようにするために、表面の欠陥、あるいは部品およびベースプレートの平面性の欠陥を「修正する」ために十分な厚さのろう付け材料を挿入することが得策となる。ろう付け材料が、材料の大きな減少が生じずに、単に溶融または焼結する場合、ろう付けに必要な熱処理の前後での材料の厚さの変動はわずかとなる。初期の孔隙が場合により除去されることのみが、このばらつきに関与しうる。他方、シュウ酸銀またはシュウ酸銀とシュウ酸銅との混合物の場合、ろう付け中に生じる熱分解は以下の化学反応:
AgC→2Ag+2CO
CuC→Cu+2CO
によって表すことができ、二酸化炭素の減少と関連する物質収支は、図3、特に曲線3bで表され、曲線3aは発生した熱流束に関するものである。
【0076】
さらに、モル質量および密度は、シュウ酸銀の場合でそれぞれ259.8g・mol−1および5g・cm−3であり、銀金属の場合で215.8g・mol−1および10.5g・cm−3であることが既知であり、シュウ酸塩の完全に緻密化した粒子から、これも孔隙を有さない金属粒子への分解によって、初期体積の約2.5分の1になる。
【0077】
さらに、モル質量および密度は、シュウ酸銅の場合でそれぞれ151.5g・mol−1および3.5g・cm−3であり、同金属の場合で63.5g・mol−1および8.96g・cm−3であり、シュウ酸塩の完全に緻密化した粒子から、これも孔隙を有さない金属粒子への分解によって、初期体積の約6分の1になる。
【0078】
したがって、シュウ酸銀またはシュウ酸銀とシュウ酸銅との混合物の場合、ろう付け作業中に厚さが大きく減少すると予想され、非常に低い熱抵抗が得られる非常に薄いろう付けを好都合に形成することができる。
【0079】
最後に、シュウ酸塩(特にシュウ酸銀およびシュウ酸銅)は、特定の毒性の問題をまったく示さないことに留意されたい。分解後、純粋なAgの層が得られ、環境汚染の危険性は全くない。
【0080】
本出願人は、金およびスズAuSnを主成分とする従来技術のろう付けを含む部品(図4の全ての点Pi4)、およびシュウ酸塩の分解から始まる本発明によるろう付けを含む部品(図4のすべての点Pj4)によって得られる、特定の出力における温度を比較した。本発明によるろう付けに基づく部品ではより低い温度が実現され、したがって、より良好に冷却されていると思われる。したがって、本発明の種類のろう付けは、より良好に熱を除去することができる。
【符号の説明】
【0081】
S 支持体
B パッケージ底部
Th 矢印
ろう付け
ろう付け
3a 熱流束の曲線
3b 質量減少の曲線
i4 従来技術のろう付けの点
j4 本発明によるろう付けの点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのろう付けによって互いに接合された少なくとも支持体および部品を含むデバイスの製造方法であって、ろう付け作業が、金属シュウ酸塩から出発して行われ、前記金属シュウ酸塩が、好ましくは17〜80の間の誘電率を有する水性アルコール性溶媒中に溶解させたシュウ酸またはシュウ酸アンモニウムによる可溶性金属塩の化学沈殿によって得られることを特徴とするデバイスの製造方法。
【請求項2】
前記シュウ酸塩が、シュウ酸銀またはシュウ酸銀とシュウ酸銅との混合物であることを特徴とする請求項1に記載のデバイスの製造方法。
【請求項3】
前記部品および/または前記支持体は表面に、金または銅を含む膜を含み、その上に前記ろう付けが形成されることを特徴とする請求項1または2に記載のデバイスの製造方法。
【請求項4】
前記ろう付けが、金属シュウ酸塩を含有する懸濁液から形成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のデバイスの製造方法。
【請求項5】
前記ろう付けが、金属シュウ酸塩を含有するペーストから形成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のデバイスの製造方法。
【請求項6】
前記ろう付け作業が次のステップ:
− 金属シュウ酸塩を含有するろう付けするための懸濁液またはペーストを作製するステップ;
− 前記支持体および/または前記部品の表面上に前記懸濁液または前記ペーストを堆積するステップ;
− 前記懸濁液または前記ペーストによって前記支持体および前記部品を組み立てるステップ;
− あらかじめ形成した組立体を加熱するステップ
をさらに含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のデバイスの製造方法。
【請求項7】
前記懸濁液または前記ペーストの前記作製が:
− 水性または水性アルコール性媒体中で、可溶性金属塩をシュウ酸または可溶性シュウ酸塩によって化学沈殿させるステップ;
− 銅を含むシュウ酸塩の場合は40nmを超え、シュウ酸銀の場合は約0.1ミクロンを超える粒度が結果として得られる、制御された粒度および形態的特性を有するシュウ酸塩沈殿物を得るステップ;
− 形成された沈殿物を洗浄するステップ;
− 制御された粘度の懸濁液またはペーストを得るための選択された濃度で、水性または水性アルコール性媒体中のシュウ酸塩の懸濁液を得るステップ
を含むことを特徴とする請求項6に記載のデバイスの製造方法。
【請求項8】
前記シュウ酸塩系懸濁液が吹き付けによって堆積されることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のデバイスの製造方法。
【請求項9】
前記シュウ酸塩系懸濁液がインクジェットによって堆積されることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のデバイスの製造方法。
【請求項10】
前記シュウ酸塩系ペーストがコーティングによって堆積されることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のデバイスの製造方法。
【請求項11】
前記シュウ酸塩系ペーストがスクリーン印刷によって堆積されることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のデバイスの製造方法。
【請求項12】
金属シュウ酸塩を主成分とする前記懸濁液または前記ペーストによって前記支持体および部品を組み立てる前に、前記懸濁液または前記ペーストの堆積物を乾燥させるステップを含むことを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載のデバイスの製造方法。
【請求項13】
前記乾燥ステップが約100℃の温度において空気中または一次真空下で行われることを特徴とする請求項12に記載のデバイスの製造方法。
【請求項14】
前記組立体の前記加熱が約200℃の温度で行われることを特徴とする請求項1〜13のいずれか一項に記載のデバイスの製造方法。
【請求項15】
前記組立体の前記加熱が約150℃/hを超える加熱速度で行われることを特徴とする請求項1〜14のいずれか一項に記載のデバイスの製造方法。
【請求項16】
前記部品が、GaAs、GaN、またはSiCを主成分とすることができるパワー部品であることを特徴とする請求項1〜15のいずれか一項に記載のデバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−16802(P2013−16802A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−146225(P2012−146225)
【出願日】平成24年6月29日(2012.6.29)
【出願人】(505157485)テールズ (231)
【出願人】(510215628)ユニベルシテ ポール サバティエ トゥールーズ トロワズィエーム (3)
【出願人】(509197324)サントル ナショナル ド ラ ルシェルシュ シアンティフィク (10)
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
【Fターム(参考)】