説明

金属シートの検査方法および電池の製造方法

【課題】表面に複数の凸部が形成された金属シートにおいて、凸部が形成されていない欠損箇所を効率よくかつ確実に検出する。
【解決手段】表面に複数のミクロンオーダーの凸部がミクロンオーダーの間隔で形成された金属シートに、同軸落射照明または斜方照明により、光軸に対して垂直な方向に幅を有する光を照射し、凸部が形成されていない欠損箇所を検出する。さらに、検出結果に基づいて欠損箇所を切除することにより、高容量で、充放電サイクル特性などの電池性能の低下が少ない電池を得るのに有効な電極を作製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属シートの検査方法および電池の製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は主に、電池などに利用される電極集電体の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、高容量および高エネルギー密度を有し、高出力が可能であり、他の二次電池に比べて小型化および軽量化が容易なことから、各種電子機器、電動ドリルなどの電源として汎用されている。電子機器には、たとえば、パーソナルコンピュータ、携帯電話、携帯情報端末(PDA)、モバイル機器、ビデオカム、携帯ゲームなどの携帯用電子機器が挙げられる。また、リチウムイオン二次電池を、電気自動車、ハイブリッド自動車などの主電源または補助電源、非常用蓄電システム、深夜電力蓄電システムなどの電源、無停電電源などに利用するための研究が進められている。
【0003】
リチウムイオン二次電池には、リチウムを吸蔵および放出可能な活物質が利用されている。このうち、負極活物質は、リチウムの吸蔵および放出に伴って可逆的に膨張および収縮を繰り返すものが多い。負極活物質の膨張および収縮は、負極活物質層の集電体からの剥離、負極の変形などを引き起こし、電池の充放電サイクル特性、電池容量などの電池性能を低下させる。現在、負極活物質として汎用されている炭素材料は、膨張および収縮の程度が小さい。したがって、炭素材料を含むリチウムイオン二次電池では、負極活物質層の剥離、負極の変形などは起こり難い。もし変形が起こったとしても比較的軽微であり、実使用に支障をきたすほど電池性能の低下はない。
【0004】
また、携帯用電子機器の目覚しい普及に伴い、携帯用電子機器の多機能化が急速に進んでいる。それと共に、リチウムイオン二次電池にもより一層の高容量化が求められる中、炭素材料よりも容量の高い合金系負極活物質について、種々の提案がなされている(たとえば、特許文献1、2参照)。合金系負極活物質は、リチウムと合金化することによりリチウムを吸蔵し、リチウムを可逆的に吸蔵および放出する物質である。合金系負極活物質の一例としては、珪素、珪素化合物、錫、錫化合物などが挙げられる。しかしながら、合金系負極活物質は大きく膨張および収縮し、負極活物質層の剥離、負極の変形などを引き起こし易い。
【0005】
このような問題に鑑み、表面に複数のミクロンオーダーの凸部が形成された負極集電体が提案されている(たとえば、特許文献3、4参照)。特許文献3では、集電体用の金属箔に塑性変形などを施すことにより、金属箔表面に複数の凸部を形成している。さらに、特許文献4では、個々の凸部表面に、合金系負極活物質を含有する柱状体を形成することにより、合金系負極活物質の膨張および収縮に伴って発生する応力を緩和している。特許文献4の技術は、合金系負極活物質を含有する負極活物質層の剥離、負極の変形などを防止する上で、有効である。
【0006】
金属箔の塑性変形方法は、たとえば、特許文献3に具体的に開示されている。すなわち、凸部の寸法(高さおよび径)、形状および配置に対応する凹部が表面に形成されたロールと、表面の平滑なロールとを圧接させ、この圧接部分に金属箔を通過させると、金属箔の片面に複数の凸部が形成される。塑性変形法によれば、凸部を有する集電体を工業的規模で効率良く製造できる。しかしながら、塑性変形法には、金属箔の塑性変形が部分的に不十分になり、欠損箇所が発生するおそれがある。欠損箇所とは、凸部が形成されない部分である。
【0007】
欠損箇所に柱状体を形成すると、柱状体が剥落し易くなり、充放電サイクルなどの電池性能が低下するおそれがある。また、柱状体ではなくて薄膜状の活物質層が形成され、負極活物質層の剥離、負極の変形などを引き起こすおそれがある。このため、集電体表面における凸部の欠損箇所を取り除いて、電池を製造する必要がある。しかしながら、凸部は、高さおよび径ならびに他の凸部との軸線間距離がミクロンオーダーに設定されているため、製造工程において欠損箇所を選択的に検知するのは非常に困難である。
【0008】
一方、被検査物の表面に、同軸落射照明または斜方照明により光を照射し、光の照射面をカメラにより撮影し、得られる画像を解析し、被検査物表面の欠陥を検出する技術は公知である。たとえば、ワークを水平に載置し、同軸落射照明により光軸と同軸上にCCDカメラを配置し、ワーク全面に均等量の光を照射する金属面の検査方法が提案されている(たとえば、特許文献5参照)。
【0009】
特許文献5の方法では、ワークに同軸落射照明で光を照射し、CCDカメラで撮影された画像をグレースケールの画像処理装置で解析し、ワーク表面および底面の傷を暗部領域として検出している。ここで、ワーク底面とは、ワークの厚み方向においてワーク表面とは反対側の面である。特許文献5のワークは、具体的には、コインなどである。コインには、通常様々な刻印が押されており、刻印の壁面は同軸落射照明では暗部領域として検出される。したがって、傷を正確に検出するには、刻印壁面に相当する暗部領域の位置を確認し、除外する操作が必要になる。このように、特許文献5の方法では、同軸落射照明の照射による反射光を検知するだけでは、所望の傷を正確に検出できない。
【0010】
また、光透過性の検査対象物に対して、一方の面に同軸落射方式で赤色光を照射し、他方の面に青色光を照射し、斜め方向から散乱方式で緑色光を照射する検査装置が提案されている(たとえば、特許文献6参照)。光透過性の検査対象物とは、マイクロレンズアレイを内部に含むガラス基板である。この検査装置によれば、同軸落射方式で照射した赤色光の反射光から、マイクロレンズアレイ表面の突起や欠けなどの欠陥部分を明部領域として検出している。しかしながら、特許文献6の検査装置では、検査対象物が光透過性の物体であるため、突起および欠けの両方を一括して検出する。したがって、欠けのみを選択的に検出することはできない。
【0011】
このように、同軸落射照明や斜方照明は、従来は、検査対象物の表面にある突起、突起の部分的な欠け、亀裂などを検出するためだけに利用されている。
【特許文献1】特開平10−233211号公報
【特許文献2】特開2006−172792号公報
【特許文献3】特開2008−123939号公報
【特許文献4】特開2008−124003号公報
【特許文献5】特開平7−110305号公報
【特許文献6】特開2000−9591号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、表面に複数の凸部が形成された金属シートにおいて、凸部が形成されていない欠損箇所を容易に検出できる金属シートの検査方法およびこの検査方法を利用して高容量および高出力の電池を効率よく製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。そして、寸法がミクロンオーダーである複数の凸部がミクロンオーダーの間隔で表面に形成された金属シートに対し、同軸落射照明または斜方照明によりその表面に光を照射する構成を見出した。そして、この構成によれば、金属シート表面の凸部よりも寸法の小さい極微小突起や欠け、亀裂などが検出されるのではなく、凸部が形成されていない部分のみ選択的に検出されることを見出した。本発明者らは、これらの知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち本発明は、表面に複数のミクロンオーダーの凸部がミクロンオーダーの間隔で形成された金属シートに、同軸落射照明または斜方照明により、光軸に対して垂直な方向に幅を有する光を照射し、凸部が形成されていない欠損箇所を検出する金属シートの検査方法に係る。
【0015】
金属シートの表面に形成された1つの凸部とそれに隣り合う凸部との軸線間長さは、10〜50μmであることが好ましい。
凸部の高さは2〜10μmおよび凸部の径は5〜30μmであることが好ましい。
凸部の形状は円形、楕円形、多角形または菱形であることが好ましい。
【0016】
光が照射されている金属表面をカメラで撮影し、得られる撮影画像から欠損箇所を検出することが好ましい。
光は青色光であることが好ましい。
青色光は青色発光ダイオード光であることがさらに好ましい。
【0017】
本発明の実施形態の1つでは、同軸落射照明により金属シート表面に光が照射され、凸部の欠損箇所が明部領域として検出される。
本発明の他の実施形態では、斜方照明により金属シート表面に対して40°〜50°の入射角で光が照射され、凸部の欠損箇所が暗部領域として検出される。
金属シートは電池用集電体であることが好ましい。
【0018】
また本発明は、正極作製工程と、負極作製工程と、電極群作製工程と、電池組立工程とを含む電池の製造方法であって、
負極作製工程は、金属箔表面に塑性変形により複数の凸部を形成する集電体作製工程と、複数の凸部が形成された金属箔表面を請求項1〜10のいずれか1つの金属シートの検査方法により検査し、凸部の欠損箇所を検出してマーキングする検査工程と、複数の凸部が形成された金属箔表面に負極活物質層を形成して負極を得る活物質層形成工程とを含み、かつ
電極群作製工程は、負極作製工程で得られる負極と正極作製工程で得られる正極との間にセパレータを介在させて、前記負極と前記正極とを積層または捲回するに際し、前記負極から、マーキングに基づいて凸部の欠損箇所を含む負極集電体およびその表面に形成された負極活物質層を切除する電池の製造方法に係る。
【発明の効果】
【0019】
本発明の検出方法によれば、表面にミクロンオーダーの微小な突起である凸部が多数形成された金属シートにおいて、凸部が形成されていない欠損箇所を容易にかつ効率良く検出できる。したがって、金属シートを電池用集電体として用い、凸部表面に活物質層を形成する場合には、欠損箇所を検出して除去することにより、ほぼ全ての凸部に活物質層がほぼ均一に形成され、電池の高容量化に有効な電極が得られる。また、本発明の電池の製造方法によれば、本発明の検出方法を利用することにより、高容量および高出力で、充放電サイクル特性などの電池性能に優れた電池を工業的規模で効率良く製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の金属シートの検査方法は、同軸落射照明または斜方照明を利用する検査方法であり、検査対象物の金属シートが、表面にミクロンオーダーの寸法を有する多数の凸部がミクロンオーダーの間隔で形成された金属シートであることを特徴とする。
従来の同軸落射照明または斜方照明を利用する検査方法では、平滑な表面を有する金属シートなどを検査対象物とし、該金属シートの表面にある突起、傷などを検出することが行われている。これに対し、本発明では、従来と同様に同軸落射照明または斜方照明を利用するにもかかわらず、金属シート表面の突起、傷などが検出されるのではなく、突起である凸部が形成されていない欠損箇所が検出される。特に、電池の集電体に用いられる金属シートには、主に金属シートがロールに巻かれて保存されることなどに起因して、金属シートの長手方向に延びる直線状の傷(ヘアライン)が多数発生する。しかし、本発明の検査方法によれば、ヘアラインを欠損箇所として誤検知することがない。
【0021】
本発明の検査方法において、このような効果が得られる理由は十分明らかではないが、次のように推測される。本発明の検査対象物は、特定の寸法を有する多数の凸部が表面に形成された金属シートである。この金属シートに同軸落射照明により光を照射すると、欠損箇所ではそのまま反対方向に反射され、反射光の強度は照射光とほぼ変わらない。一方、欠損箇所の周囲に存在する凸部と凸部との間では、反射光は多数の散乱光になり、照射光に比べて光の強度が低下する。その結果、CCDカメラにより撮影した画像において、欠損箇所が、その周囲よりも明るい明部領域として検出されるものと考えられる。
【0022】
また、多数の凸部が形成された金属シートに斜方照明により光を照射すると、欠損箇所では光が斜め方向に反射され、欠損箇所の周囲では複数の凸部の存在により反射光は散乱光になる。この場合、斜め方向の反射光よりも散乱光である反射光の方が、強度が大きい。したがって、CCDカメラにより撮影した画像において、欠損箇所が、その周囲よりも暗い暗部領域として検出されるものと考えられる。
【0023】
本発明の検査方法において、検査対象になる金属シートは、その表面に複数の凸部が形成されている。凸部の寸法はミクロンオーダーであり、1つの凸部とそれに隣り合う凸部との間隔もミクロンオーダーである。このような金属シートに同軸落射照明または斜方照明により光を照射することにより、金属シート表面の突起、傷(特にヘアライン)などが検出されるのではなく、欠損箇所の選択的な検出が可能になる。また、欠損箇所の検出に際し、余計な明部領域または暗部領域の除去操作を行う必要もない。なお、凸部は、金属シートの片面または両面に形成される。
【0024】
図1は、本発明の検査方法において、検査対象になる金属シート1の構成を模式的に示す斜視図である。金属シート1は、基材部5および凸部6を含む。基材部5は、金属シート1の本体をなすシート状部分であり、そのほぼ平坦な表面5aには、複数の凸部6が形成されている。なお、本実施形態では基材部5の厚み方向の一方の表面5aに凸部6が形成されているが、両方の表面に凸部6が形成されていてもよい。また、凸部6は、基材部5の表面5aに形成され、表面5aから外方に延びる突起である。凸部6は、その寸法がミクロンオーダーであり、1つの凸部6とそれに隣り合う凸部6との間隔(軸線間距離)もミクロンオーダーである。表面5aにおける凸部6の配置は特に制限されず、たとえば、千鳥配置、格子配置、六方最密充填配置などである。
【0025】
欠損箇所をより明確に検出するためには、凸部6とそれに隣り合う凸部6との軸線間距離が、10〜50μmであることが好ましい。さらに、軸線間距離が前記範囲にあり、かつ、凸部6の高さが2〜10μmであり、凸部6の径が5〜30μmであることが好ましい。凸部6の高さとは、金属シート1の表面に垂直な方向において、該表面から、凸部6の最先端点までの長さである。また、凸部6の径は、金属シート1の表面に平行な方向における凸部6の断面において、最も長い断面径である。
【0026】
凸部6の高さおよび径は、金属シート1の厚み方向の断面を走査型電子顕微鏡で観察することにより求められる。より具体的には、顕微鏡視野の中で凸部6の高さを測定し、たとえば、100個の凸部6の高さの平均値として求められる。また、凸部6の径は、顕微鏡の視野の凸部断面において、金属シート表面に平行な最も長い線を検出し、その長さを測定し、たとえば、100個の凸部6の径の平均値として求められる。なお、金属シート1表面とは、金属シート1の凸部6が形成された表面、すなわち基材部5の表面5aである。
【0027】
本実施形態では、凸部6の形状は円形であるが、これに限定されず、たとえば、楕円形、多角形、菱形などでもよい。多角形としては、三角形、四角形、六角形などが好ましい。これらの中でも、楕円形、菱形などが好ましい。凸部6が前記のような形状を有することにより、欠損箇所の検出がさらに容易になる。凸部6の形状は、金属シート1の凸部6が形成された表面5aが水平面に一致するように金属シート1を配置し、金属シート1を真上から見た時の凸部6の形状である。
【0028】
凸部6の軸線は、凸部6の形状が円形であれば、その円の中心を通って、金属シート1の表面5aに垂直な方向に延びる仮想線である。凸部6の形状が真円でない円形であれば、軸線は、その円形を内包する最も小さな真円の中心を通る。凸部6の形状が楕円形であれば、軸線は、その楕円を内包する最も小さな真円の中心を通って、金属シート1の表面5aに垂直な方向に延びる仮想線である。また、凸部6の形状が多角形または菱形であれば、軸線は、多角形または菱形の対角線の交点を通って、金属シート1の表面5aに垂直な方向に延びる仮想線である。多角形が正多角形でなければ、軸線は、その多角形を内包する最も小さな正多角形の対角線の交点を通る。このとき、多角形およびそれを内包する最も小さな正多角形は、辺の数が同じである。
【0029】
また、凸部6の先端部分は、金属シート1の凸部6が形成された表面5aにほぼ平行な平面であることが好ましい。この平面は、部分的に凹凸があっても差し支えない。これにより、照射光の凸部6の表面での乱反射が一層顕著になり、欠損箇所の検出能力が向上する。
【0030】
欠損箇所は、金属シート1の凸部6が形成された面5aに存在し、凸部6が形成されていないほぼ平坦な部分である。欠損箇所は、図示しない2個以上の微小凸部が集まって存在する部分をも包含する。微小凸部とは、その高さが、前記した凸部6の高さの35%未満であることを特徴とする。微小凸部は、高さ以外の構成は、凸部6と同様である。
【0031】
欠損箇所は、不規則に形成され、その面積もばらつきがある。たとえば、欠損箇所が数個〜数百個程度の微小凸部の集合体であれば、合金系負極活物質を含有する柱状体を形成しても、電池性能に悪影響を及ぼさず、却って合金系負極活物質の膨張および収縮により発生する応力を緩和できる場合がある。しかしながら、微小凸部の集合体である欠損箇所であっても、欠損箇所の数が多くなると、電池性能が低下するのを避けることができない。なお、欠損箇所が、凸部および微小凸部が存在しない平坦面であれば、欠損箇所の面積に関係なく、電池性能に何らかの悪影響を及ぼすものと考えられる。したがって、本発明の方法で欠損箇所を取り除くことにより、合金系負極活物質を含有する柱状体が負極集電体全面にほぼ均一に形成されるので、高容量を有する電池を工業的規模で安定的に製造できる。
【0032】
金属シート1の材質は特に制限されないが、たとえば、ステンレス鋼、ニッケル、銅、銅合金などが挙げられる。また、金属シートの厚さも特に制限されないが、好ましくは1〜50μm、さらに好ましくは10〜40μm、特に好ましくは10〜30μmである。ここでの厚さは、凸部6の高さを除いた値である。
【0033】
表面5aに複数の凸部6が形成された金属シート1は、たとえば、金属箔などの薄肉状金属板に凹凸を形成する技術を利用して製造できる。具体的には、凸部用ロールを使用する。凸部用ロールは、軸線方向の表面に凸部の寸法、形状および配置に対応する凹部が形成されている。薄肉状金属板の片面に凸部を形成する場合は、凸部用ロールと表面の平滑なロールとをそれぞれの軸線が平行になるように圧接させ、その圧接部分に薄肉状金属板を通過させて加圧すればよい。これにより、薄肉状金属板の表面で塑性変形が起こり、凸部が形成される。この場合、表面の平滑なロールは、少なくとも表面が弾性材料で形成されていることが好ましい。
【0034】
また、薄肉状金属板の両面に凸部を形成する場合は、2本の凸部用ロールをそれぞれの軸線が平行になるように圧接させ、その圧接部分に薄肉状金属板を通過させて加圧成形すればよい。ロールの圧接圧は各種条件に応じて適宜選択される。各種条件としては、たとえば、薄肉状金属板の材質、厚み、凸部の形状、寸法、成形後の金属シートの厚さ(凸部高さを含まない厚さ)の設定値などが挙げられる。
【0035】
凸部用ロールは、たとえば、セラミックロールの表面に、凸部の形状、寸法および配置に対応する凹部を形成することにより製造できる。セラミックロールには、たとえば、芯ロールと、溶射層とを含むものが用いられる。芯ロールは、たとえば、鉄、ステンレス鋼などからなるロールである。溶射層は、芯ロール表面に、酸化クロムなどのセラミック材料を均一に溶射することによって形成される。溶射層に凹部が形成される。凹部の形成には、たとえば、セラミックス材料などの成形加工に用いられる一般的なレーザを使用できる。
【0036】
別形態の凸部用ロールは、芯ロールと、下地層と、溶射層とを含む。芯ロールはセラミックロールの芯ロールと同じである。下地層は、芯ロール表面に形成される。下地層表面には、凸部6の形状、寸法、配置に対応する凹部が形成される。凹部を有する下地層は、たとえば、片面に凹部を有する樹脂シートを成形し、この樹脂シートの凹部が形成された面とは反対側の面を、芯ロール表面に巻き付けて接着することにより形成できる。
【0037】
樹脂シートに含有される合成樹脂としては、機械的強度の高いものが好ましく、たとえば、不飽和ポリエステル、熱硬化性ポリイミド、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂、ポリアミド、ポリエーテルエーテルケトン、フッ素樹脂などの熱可塑性樹脂が挙げられる。溶射層は、酸化クロムなどのセラミック材料を下地層の表面の凹凸に沿うように溶射することによって形成される。したがって、下地層に形成される凹部は、溶射層の層厚を考慮して、設計寸法よりも溶射層の層厚分だけ大きめに形成される。
【0038】
別形態の凸部用ロールは、芯ロールと、超硬合金層とを含む。芯ロールはセラミックロールの芯ロールと同じである。超硬合金層は芯ロールの表面に形成され、炭化タングステンなどの超硬合金を含む。超硬合金層は、芯ロールに、円筒状に形成した超硬合金を焼き嵌めするかまたは冷やし嵌めすることによって形成できる。超硬合金層の焼き嵌めとは、円筒状の超硬合金を暖めて膨張させ、芯ロールに嵌めることである。また、超硬合金層の冷やし嵌めとは、芯ロールを冷却して収縮させ、超硬合金の円筒に挿入することである。超硬合金層の表面には、たとえば、レーザ加工によって凸部の形状、寸法、配置に対応する凹部が形成される。
【0039】
別形態の凸部用ロールは、硬質鉄系ロールの表面に、たとえば、レーザ加工によって凸部の形状、寸法および配置に対応する凹部が形成されたものである。硬質鉄系ロールは、たとえば、金属箔の圧延製造に用いられる。硬質鉄系ロールの具体例としては、ハイス鋼、鍛鋼などからなるロールが挙げられる。ハイス鋼には、モリブデン、タングステン、バナジウムなどの金属が添加し、熱処理して硬度を高めた鉄系材料である。鍛鋼は、よう鋼を鋳型に鋳込んで造られた鋼塊またはその鋼塊から製造された鋼片を加熱し、プレスおよびハンマーで鍛造し、または圧延および鍛造することにより鍛錬成形し、これを熱処理することによって製造される鉄系材料である。
【0040】
本発明の検査方法では、上記のようにして、表面5aに複数の凸部6が形成された金属シート1を検査対象物にする。
本発明の検査方法は、たとえば、基台、同軸落射照明、カメラ、画像処理手段および検出手段を含む検査装置を用いて実施され、たとえば、明度のコントラストを利用して欠損箇所を検出する。
【0041】
基台は水平で平滑な面を有し、該面に金属シート1が載置される。基台は、たとえば、基台をX軸方向およびY軸方向に往復動可能に支持する移動手段を含む。また、基台には、させる搬送手段が設けられていてもよい。搬送手段は、検査前の金属シート1を搬入して基台の面に載置し、検査後の金属シート1を外部に搬出する。
【0042】
同軸落射照明は、基台に載置された金属シート1の凸部が形成された表面に光を照射する。同軸落射照明は、基台とカメラとの間において、同軸落射照明から金属シート1に照射される光の光軸と、カメラに内蔵されるレンズの光軸とが同軸になるように配置される。同軸落射照明は、たとえば、光源と反射手段とを含む。同軸落射照明は、光源から出射される光を反射手段で反射し、金属シート1に対して垂直に照射するように構成される。
【0043】
同軸落射照明の光源としては特に制限はなく、各色の光を発する光源を使用できる。その中でも、青色光を発する光源が好ましく、青色発光ダイオード(青色LED)が特に好ましい。青色光を利用することにより、欠損箇所とそれ以外の部分との明度のコントラストが一層明瞭になり、欠損箇所の検出が容易になる。反射手段としては、たとえば、ハーフミラー、同軸落射プリズム内蔵型レンズなどが挙げられる。
【0044】
カメラとしては特に制限されないが、CCDカメラ、ラインセンサカメラなどが好ましい。また、カメラの解像度は、好ましくは0.05mm/pix以下、さらに好ましくは0.04mm/pix以下である。これにより、0.1mm以上の長さまたは幅を有する欠損箇所の検出が可能になる。また、カメラに代えて、CMOSセンサなどの光学センサを用いても良い。
【0045】
また、同軸落射照明による金属シート1への光の照射は、観察領域が均一光量になるように調光した光学系で照射するのが望ましい。このためには、照射光が光軸に対して幅を持つように調整するのが好ましい。たとえば、8000画素のラインセンサで100mm幅を観察する場合、100mm幅を均一に照射する120mm〜140mm幅の集光バー照明を使用する。このように、観察領域に応じて、同軸落射照明から照射される光の、光軸に対して垂直な方向の幅を適宜調整すればよい。これにより、欠損箇所とそれ以外の部分との明度のコントラストが一層顕著になる。
【0046】
画像処理手段は、カメラにより撮影された画像に対し、欠損箇所を検出できるように画像処理を施す。画像処理手段としては公知のものを使用でき、たとえば、2値化処理、微分処理などを行う画像処理手段が挙げられる。画像処理手段として、たとえば、レーザ顕微鏡、電子顕微鏡、蛍光顕微鏡などの顕微鏡を用いても良い。本検査方法では、欠損箇所とそれ以外の部分との明度のコントラストが極めて明瞭である。したがって、カメラで撮影された画像を顕微鏡で拡大表示し、目視観察することによっても、欠損箇所を確実に検出できる。
【0047】
検出手段には、たとえば、表示手段を含むコンピュータなどを使用できる。表示手段としては、たとえば、ブラウン管、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイなどのディスプレスを含むモニタが挙げられる。コンピュータのCPUには、欠損箇所判定データなどの、欠損箇所を検出するためのデータが予め入力されている。欠損箇所判定データは、たとえば、欠損箇所の明度のデータである。コンピュータは、表示手段に表示される画像処理済画像または拡大画像から濃淡データを読み取り、この濃淡データと欠損箇所判定データとを比較して欠損箇所を検出する。また、コンピュータに表示される拡大画像から、目視観察により欠損箇所を検出してもよい。
【0048】
カメラ、画像処理手段および検出手段は電気的に接続されている。カメラで撮影された画像は画像処理手段に出力され、画像処理手段で画像処理または拡大表示処理が施された後、表示手段に出力され、ディスプレイなどに表示される。
さらに、検出手段による検出結果に応じて、欠損箇所をマーキングするマーキング手段を含んでいてもよい。マーキング手段は、金属シート1の検査対象面または検査対象面とは反対側の面に、たとえば、レーザマーカ、インクジェットヘッドなどを用いて、マークを印字または印刷する。マークの形状は特に制限されず、たとえば、文字、記号、図形などが挙げられる。検査対象面には後工程で負極活物質層が形成されるので、視認性などを考慮すると、反対側の面にマーキングするのが好ましい。
【0049】
本発明の検査方法によれば、同軸落射照明により金属シート1の表面に光を照射し、光が照射されている金属シート1の表面をカメラで撮影し、得られる撮影画像からたとえば明度の相違により、欠損箇所を検出できる。同軸落射照明を利用すると、欠損箇所は明部領域として検出され、それ以外の部分は暗部領域になる。
【0050】
すなわち、同軸落射照明により光を照射すると、欠損箇所はたとえ微小凸部が存在するとしても、ほぼ平坦な面であるため、照射光は照射方向と反対側のほぼ一方向に反射される。すなわち、欠損箇所からの反射光は、照射光とほぼ同程度の強度を有している。一方、欠損箇所の周囲にはミクロンオーダーの寸法を有する凸部が多数存在しているため、照射光は凸部の表面に当たって乱反射し、散乱する。したがって、反射光の強度は、照射光の強度よりも十分に低くなる。このため、欠損箇所とそれ以外の部分とで明度の差が明瞭になり、欠損箇所の検出が可能になる。
【0051】
また、本発明の検査方法において、同軸落射照明に代えて斜方照明を利用する場合、光源から出射される光が、金属シート1の表面に対して0°を超え、90°未満の入射角で該表面に照射されるように、光源の位置を適宜選択すればよい。光源からの照射光の入射角は、好ましくは40〜50°、さらに好ましくは45°である。入射角を前記範囲から選択することにより、欠損箇所とそれ以外の部分との明度のコントラストが顕著になり、欠損箇所を容易に検出できる。光源としては、同軸落射照明に用いられるのと同様の光源を使用でき、同軸落射照明と同様に、青色光を発する光源が好ましく、青色発光ダイオードがさらに好ましい。
【0052】
斜方照明を利用する欠損箇所の検出は、同軸落射照明に代えて斜方照明を利用する以外は、同軸落射照明を利用する欠損箇所の検出と同様にして実施できる。斜方照明により光を照射すると、欠損箇所はたとえ微小凸部が存在するとしても、ほぼ平坦な面であるため、照射光は入射角と略同じ出射角で入射方向とは反対側に反射される。すなわち、欠損箇所からの反射光は、カメラに対して斜め方向に進むので、カメラが検知する欠損箇所の光強度は低くなる。
【0053】
これに対し、欠損箇所の周囲にはミクロンオーダーの寸法を有する凸部が多数存在しているため、斜めからの照射光でも、凸部の表面に当たって乱反射し、散乱する。したがって、カメラのレンズの光軸にほぼ平行な光軸を有する反射光も発生する。前記のよう反射光がカメラにより撮影される。その結果、欠損箇所とそれ以外の部分とで明度の差が明瞭になり、欠損箇所の検出が可能になる。欠損箇所の明度は、それ以外の部分の明度よりも低くなり、欠損箇所が暗部領域として表示され、それ以外の部分が明部領域として表示される。なお、斜方照明を利用する検出方法では、一方の方向から光を照射してもよく、正反対の2方向から光を照射しても良い。
【0054】
本発明の検査方法において、従来技術のように検査対象物表面の極めて微細な突起、傷(クラック、ピンホール)などを検出しないのは、次のような理由によるものと推測される。金属シート表面にミクロンオーダーの寸法を有する多数の凸部が形成されている。このため、照射光が凸部表面に当たって散乱し、光強度の低い反射光が多数発生する。照射光が、たとえば、凸部と凸部との間の金属シート表面にあるクラックに当たって反射しても、他の多数の反射光と識別することは非常に困難である。したがって、傷などを欠損箇所と誤認識することがなく、欠損箇所を選択的にかつ確実に検出できる。
【0055】
本発明の電池の製造方法は、正極作製工程と、負極作製工程と、電極群作製工程と、電池組立工程とを含む。正極作製工程と負極作製工程は、いずれを先に実施しても良く、同時に実施しても良い。
本発明の電池の製造方法は、負極作製工程および電極群作製工程に特徴を有している。以下、各工程について説明する。
【0056】
[正極作製工程]
本工程では、正極集電体に正極合剤スラリーを塗布し、乾燥し、圧延して正極活物質層を形成し、正極を作製する。
正極集電体の厚み方向の片面または両面に正極活物質層が形成される。正極集電体としては、この分野で常用されるものを使用でき、たとえば、多孔性または無孔の導電性基板が挙げられる。多孔質導電性基板には、メッシュ体、ネット体、パンチングシート、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群成形体(不織布など)などがある。無孔の導電性基板には、箔、シート、フィルムなどがある。導電性基板の材料には、たとえば、ステンレス鋼、チタン、アルミニウム、アルミニウム合金などの金属材料、導電性樹脂などが挙げられる。導電性基板の厚さは特に制限されないが、好ましくは1〜50μm、さらに好ましくは5〜20μmである。
【0057】
正極合剤スラリーは、正極活物質を含有し、さらに必要に応じて導電剤、結着剤などを含有しても良い。
正極活物質としてはこの分野で常用されるものを使用でき、たとえば、リチウム含有複合金属酸化物、カルコゲン化合物、二酸化マンガンなどが挙げられる。これらの中でも、リチウム含有複合金属酸化物、カルコゲン化合物などが好ましく、リチウム含有複合金属酸化物が特に好ましい。
【0058】
リチウム含有複合金属酸化物は、リチウムと1または複数の遷移金属とを含む金属酸化物である。リチウム含有複合酸化物は、遷移金属の一部が1または複数の異種元素によって置換されてもよい。異種元素としては、たとえば、Na、Mg、Sc、Y、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Cr、Pb、Sb、Bなどが挙げられ、Mn、Al、Co、Ni、Mgなどが好ましい。
【0059】
リチウム含有複合金属酸化物の具体例としては、たとえば、LixCoO2、LixNiO2、LixMnO2、LixCoyNi1-y2、LixCoy1-yz、LixNi1-yyz、LixMn24、LixMn2-yy4、LiMPO4、Li2MPO4F(前記各式中、MはNa、Mg、Sc、Y、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Cr、Pb、Sb、VおよびBよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を示す。x=0〜1.2、y=0〜0.9、z=2.0〜2.3である。)などが挙げられる。ここで、リチウムのモル比を示すx値は、充放電により増減する。
カルコゲン化合物としては、たとえば、二硫化チタン、二硫化モリブデンなどが挙げられる。正極活物質は1種を単独で使用できまたは2種以上を併用できる。
【0060】
導電剤としてはこの分野で常用されるものを使用でき、たとえば、天然黒鉛、人造黒鉛などのグラファイト類、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック類、炭素繊維、金属繊維などの導電性繊維類、フッ化カーボン、アルミニウムなどの金属粉末類、酸化亜鉛ウィスカーなどの導電性ウィスカー類、酸化チタンなどの導電性金属酸化物、フェニレン誘導体などの有機導電性材料などが挙げられる。導電剤は1種を単独で使用できまたは必要に応じて2種以上を組み合わせて使用できる。
【0061】
結着剤としても、この分野で常用されるものを使用でき、たとえば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレン、ポリプロピレン、アラミド樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアクリルニトリル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸ヘキシル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸ヘキシル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリエーテル、ポリエーテルサルホン、ポリヘキサフルオロプロピレン、スチレン−ブタジエンゴム、エチレン−プロピレンジエン共重合体、カルボキシメチルセルロースなどが挙げられる。
【0062】
また、結着剤として、2種以上のモノマー化合物からなる共重合体を使用してもよい。モノマー化合物としては、たとえば、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル、フッ化ビニリデン、クロロトリフルオロエチレン、エチレン、プロピレン、ペンタフルオロプロピレン、フルオロメチルビニルエーテル、アクリル酸、ヘキサジエンなどが挙げられる。結着剤は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0063】
正極合剤スラリーは、正極活物質および必要に応じて導電剤、結着剤などを、有機溶媒に溶解または分散させることによって調製できる。有機溶媒としては、この分野で常用されるものを使用でき、たとえば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルアミン、アセトン、シクロヘキサノンなどが挙げられる。有機溶媒は1種を単独でまたは2種以上を混合して使用できる。
【0064】
正極合剤スラリーが正極活物質、導電剤および結着剤を併用する場合、それらの使用割合は適宜選択できる。好ましくは、正極活物質の使用割合が正極活物質、導電剤および結着剤の合計量(以下「固形分量」とする)の80〜97重量%、導電剤の使用割合が固形分量の1〜20重量%、および結着剤の使用割合が固形分量の1〜10重量%である。前記使用割合の範囲の中から、3成分の合計量が100重量%になる量を適宜選択すればよい。
【0065】
[負極作製工程]
本工程は、集電体作製工程、検査工程および活物質層形成工程を含む。
(集電体作製工程)
本工程では、金属箔または金属フィルムの表面に塑性変形により複数の凸部を形成し、金属シート1を作製する。金属シート1は、上記で示した方法と同様にして作製できる。この金属シート1は、負極集電体として使用される。
【0066】
(検査工程)
本工程では、集電体作製工程で得られる金属シート1を検査し、欠損箇所を検出する。欠損箇所にはマーキングが行われ、マークが施される。欠損箇所の検出およびマーキングは、上記した本発明の検出方法に従って実施される。全てのマークの位置を、座標化および数値化し、コンピュータ、CPU(中央演算処理装置)などにデータとして入力しておき、後の電極群作製工程でこのデータを利用して欠損箇所を切除しても良い。
【0067】
(活物質層形成工程)
本工程では、検査工程でマーキングが施された金属シート1に対して、負極活物質層が形成され、負極が得られる。
負極活物質層は、複数の柱状体を含む。柱状体は合金系負極活物質を含有し、金属シート1の凸部表面に形成される。通常は、1つの凸部に1つの柱状体が形成される。柱状体は、凸部表面から、金属シート1の外方に延びている。柱状体が延びる方向は、金属シート1の表面に垂直またはほぼ垂直な方向である。また、柱状体が延びる方向は、金属シート1の表面に垂直な方向に対して傾き(角度)を有する方向でもよい。
【0068】
また、複数の柱状体は、隣り合う他の柱状体と離隔している。このため、合金系負極活物質の膨張および収縮による応力が緩和され、柱状体が凸部から剥離し難くなり、負極の変形も起こり難い。また、柱状体の高さは特に制限はないが、好ましくは1〜50μmである。柱状体の高さは、金属シート1の表面に垂直な方向において、凸部の最先端部分から柱状体の最先端部分までの長さである。柱状体の高さは、凸部の高さと同様に負極の厚み方向の断面を顕微鏡観察し、たとえば、100個の柱状体の平均値として求められる。
【0069】
合金系負極活物質としてはこの分野で常用されるものを使用でき、たとえば、珪素を含有する合金系負極活物質、錫を含有する合金系負極活物質などが挙げられる。
珪素を含有する合金系負極活物質としては、たとえば、珪素、珪素酸化物、珪素窒化物、珪素含有合金、珪素化合物などが挙げられる。珪素酸化物としては、たとえば、組成式:SiOa(0.05<a<1.95)で表される酸化珪素が挙げられる。珪素窒化物としては、たとえば、組成式:SiNb(0<b<4/3)で表される窒化珪素が挙げられる。
【0070】
珪素含有合金としては、たとえば、珪素とFe、Co、Sb、Bi、Pb、Ni、Cu、Zn、Ge、In、SnおよびTiよりなる群から選ばれる1または2以上の元素を含む合金が挙げられる。珪素化合物としては、たとえば、珪素、珪素酸化物、珪素窒化物または珪素含有合金に含まれる珪素の一部がB、Mg、Ni、Ti、Mo、Co、Ca、Cr、Cu、Fe、Mn、Nb、Ta、V、W、Zn、C、NおよびSnよりなる群から選ばれる1または2以上の元素で置換された化合物が挙げられる。
【0071】
錫を含有する合金系負極活物質としては、たとえば、錫、錫酸化物、錫含有合金、錫化合物などが挙げられる。錫酸化物としては、たとえば、SnO2、組成式:SnOd(0<d<2)で表される酸化錫などが挙げられる。錫含有合金としては、たとえば、Ni−Sn合金、Mg−Sn合金、Fe−Sn合金、Cu−Sn合金、Ti−Sn合金などが挙げられる。錫化合物としては、たとえば、SnSiO3、Ni2Sn4、Mg2Snなどが挙げられる。
合金系負極活物質は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0072】
図2は、柱状体の実施形態の1つである積層柱状体7(以下単に「柱状体7」とする)の構成を模式的に示す縦断面図である。柱状体7は、図2に示すように、好ましくは、8個の柱状塊7a、7b、7c、7d、7e、7f、7g、7hの積層体として形成される。
【0073】
柱状体7を形成するに際しては、まず、凸部6の頂部およびそれに続く側面の一部を被覆するように柱状塊7aを形成する。次に、凸部6の残りの側面および柱状塊7aの頂部表面の一部を被覆するように柱状塊7bを形成する。すなわち、図2において、柱状塊7aは凸部6の頂部を含む一方の端部に形成され、柱状塊7bは部分的には柱状塊7aに重なるが、残りの部分は凸部6の他方の端部に形成される。
【0074】
さらに、柱状塊7aの頂部表面の残りおよび柱状塊7bの頂部表面の一部を被覆するように柱状塊7cが形成される。すなわち、柱状塊7cは主に柱状塊7aに接するように形成される。さらに、柱状塊7dは主に柱状塊7bに接するように形成される。以下同様にして、柱状塊7e、7f、7g、7hを交互に積層することによって、柱状体7が形成される。なお、本実施形態では8個の柱状塊を積層するが、積層する個数は特に限定されず、2個以上に任意の数の柱状塊を積層できる。
【0075】
柱状体7は、たとえば、蒸着法によって形成できる。図3は、柱状体7の形成に用いられる電子ビーム式蒸着装置30の構成を模式的に示す縦断面図である。図3では、蒸着装置30内部の各部材も実線で示す。
蒸着装置30は、チャンバー31、第1の配管32、固定台33、ノズル34、ターゲット35、図示しない電子ビーム発生装置、電源36および図示しない第2の配管を含む。
【0076】
チャンバー31は内部空間を有する耐圧性の容器状部材であり、その内部に第1の配管32、固定台33、ノズル34およびターゲット35を収容する。
第1の配管32は、一端がノズル34に接続され、他端がチャンバー31の外方に延びて図示しないマスフローコントローラを介して図示しない原料ガスボンベまたは原料ガス製造装置に接続される。原料ガスとしては、たとえば、酸素、窒素などが挙げられる。第1の配管32は、ノズル34に原料ガスを供給する。
【0077】
固定台33は板状部材であり、角変位または回転自在に支持され、その厚み方向の一方の面に金属シート1(負極集電体)を固定できるように設けられる。固定台33の回転は、図3における実線で示される位置と一点破線で示される位置との間で行われる。実線で示される位置は、固定台33の金属シート1を固定する側の面が鉛直方向下方のノズル34を臨み、固定台33と水平方向の直線とが成す角の角度がα°である位置である。一点破線で示される位置は、固定台33の金属シート1を固定する側の面が鉛直方向下方のノズル34を臨み、固定台33と水平方向の直線とが成す角の角度が(180−α)°である位置である。角度α°は、形成しようとする柱状体7の寸法などに応じて適宜選択できる。
【0078】
ノズル34は、鉛直方向において固定台33とターゲット35との間に設けられ、第1の配管32の一端が接続されている。ノズル34は、ターゲット35から鉛直方向上方に上昇してくる合金系負極活物質の蒸気と第1の配管32から供給される原料ガスとを混合し、固定台33表面に固定される金属シート1表面に供給する。
【0079】
ターゲット35は合金系負極活物質またはその原料を収容する。電子ビーム発生装置は、ターゲット35に収容される合金系負極活物質またはその原料に電子ビームを照射して加熱し、これらの蒸気を発生させる。
【0080】
電源36はチャンバー31の外部に設けられ、電子ビーム発生装置に電気的に接続され、電子ビームを発生させるための電圧を電子ビーム発生装置に印加する。
第2の配管は、チャンバー31内の雰囲気になるガスを導入する。
なお、蒸着装置30と同じ構成を有する電子ビーム式蒸着装置が、たとえば、アルバック(株)から市販されている。
【0081】
電子ビーム式蒸着装置30によれば、まず、金属シート1を固定台33に固定し、チャンバー31内部に酸素ガスを導入する。この状態で、ターゲット35において合金系負極活物質またはその原料に電子ビームを照射して加熱し、その蒸気を発生させる。本実施の形態では、合金系負極活物質として珪素を使用する。発生した蒸気は鉛直方向上方に上昇し、ノズル34を通過する際に、原料ガスと混合された後、さらに上昇し、固定台33に固定された金属シート1の表面に供給され、図示しない凸部6表面に、珪素と酸素とを含む層が形成される。
【0082】
このとき、固定台33を実線の位置に配置することによって、凸部表面に図2に示す柱状塊7aが形成される。次に、固定台33を一点破線の位置に回転させることによって、図2に示す柱状塊7bが形成される。このように固定台33の位置を交互に回転させることによって、図2に示す8つの柱状塊の積層体である柱状体7が生成し、負極活物質層が形成される。なお、本実施形態では、柱状体は8つの柱状塊の積層体として形成されるが、それに限定されず、2以上の任意の個数の柱状塊の積層体として形成できる。
【0083】
また、合金系負極活物質がたとえばSiOa(0.05<a<1.95)で表される珪素酸化物である場合、柱状体7の厚み方向に酸素の濃度勾配が出来るように、柱状体7を形成してもよい。具体的には、集電体21に近接する部分で酸素の含有率を高くし、集電体21から離反するに従って、酸素含有量を減らすように構成すればよい。これによって、凸部6と柱状体7との接合性をさらに向上させることができる。
なお、ノズル34から原料ガスを供給しない場合は、珪素または錫単体を主成分とする柱状体7が形成される。
【0084】
このようにして、欠損箇所にマーキングが施された負極が作製される。負極は、通常、長尺状に形成され、巻き取りローラなどに巻き取られた状態で次の電極作製工程に供される。なお、本発明では、必要に応じて、負極活物質層を形成する前に、マーキングに基づいて金属シート1から欠損箇所を切除しても良い。
【0085】
[電極群作製工程]
本工程では、前工程で欠損箇所にマーキングが施された負極から、マーキングに基づいて凸部の欠損箇所を含む部分を切除しつつ、正極作製工程で得られる正極と負極とをセパレータを介して積層または捲回する。これにより、積層型電極群または捲回型電極群が得られる。
【0086】
負極が長尺状であり、巻き取りローラなどに巻き取られた状態で供給される場合、欠損箇所の切除は、たとえば、コンピュータ、CPUなどを利用して行われる。コンピュータには、予め、当該負極における全ての欠損箇所の位置が、座標化され、数値化されて入力されている。コンピュータは、巻き取りローラから供給された負極の長さを常時計測し、欠損箇所において負極の供給を停止させる。これにより、積層または捲回が停止する。
【0087】
コンピュータは、たとえば、電池1個に使用する負極の長さを基準にして、欠損箇所を切除する。すなわち、欠損箇所が存在する場合は、その欠損箇所を含めた電池1個分の長さを切除する。切除は、カッターなどの裁断器を備えた切除手段により、マークに基づいて欠損箇所を含む部分を負極の幅方向に帯状に切除する。切除後に、電極群の積層または捲回が再開される。
また、負極の一面に負極活物質層が形成され、かつ負極の他面に欠損箇所のマークが付されている場合には、監視用センサを用いて欠損箇所を除去しても良い。すなわち、監視センサによって、負極のマークが付けられた面を常時監視し、欠損箇所を示すマークを認識した時点で負極の供給を停止し、上記と同様にして欠損箇所を切除してもよい。
【0088】
本工程において、正極と負極との間に配置されるセパレータには、所定のイオン透過度、機械的強度、絶縁性などを併せ持つシートまたはフィルムが好ましく用いられる。セパレータの具体例としては、たとえば、微多孔膜、織布、不織布などの、多孔性シートまたは多孔性フィルムが挙げられる。微多孔膜は単層膜および多層膜(複合膜)のいずれでもよい。単層膜は1種の材料からなる。多層膜は1種の材料からなる単層膜の積層体または異なる材料からなる単層膜の積層体である。
【0089】
セパレータには各種樹脂材料を使用できるが、耐久性、シャットダウン機能、電池の安全性などを考慮すると、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンが好ましい。なお、シャットダウン機能とは、電池の異常発熱時に貫通孔が閉塞し、それによりイオンの透過を抑制し、電池反応を遮断する機能である。必要に応じて、微多孔膜、織布、不織布などを2層以上積層してセパレータを構成してもよい。
【0090】
セパレータの厚さは一般的には10〜300μmであるが、好ましくは10〜40μm、より好ましくは10〜30μm、さらに好ましくは10〜25μmである。また、セパレータの空孔率は好ましくは30〜70%、より好ましくは35〜60%である。ここで空孔率とは、セパレータ13の体積に占める、セパレータ13中に存在する細孔の総容積の比である。
【0091】
[電池組立工程]
本工程では、電極群作製工程で得られる電極群を用い、電池を組み立てる。
まず、電極群における正極の正極集電体には、正極リートの一端が接続される。正極リードは、たとえば、アルミニウム製である。また、負極の負極集電体には、負極リードの一端が接続される。負極リードは、たとえば、ニッケル製である。この電極群の長手方向の両端に、それぞれ絶縁板を装着し、これを金属製円筒型電池ケースに収容し、正極リードの他端を封口板に接続し、負極リードの他端を電池ケースの底部内面に接続する。
【0092】
次に、電池ケース内に非水電解質を注液し、電池ケースの開口にガスケットを介して封口板を装着し、電池ケースの開口端部を封口板に向けてかしめ付けて電池ケースを封口する。電池ケースの外周面には、樹脂製ラベルなどが装着される。これにより、電池が得られる。
【0093】
ここで使用される非水電解質は、溶質(支持塩)と非水溶媒とを含み、さらに必要に応じて各種添加剤を含む。溶質は通常非水溶媒中に溶解する。液状非水電解質は、主に、セパレータに含浸される。
【0094】
溶質としては、この分野で常用されるものを使用でき、たとえば、LiClO4、LiBF4、LiPF6、LiAlCl4、LiSbF6、LiSCN、LiCF3SO3、LiCF3CO2、LiAsF6、LiB10Cl10、低級脂肪族カルボン酸リチウム、LiCl、LiBr、LiI、LiBCl4、ホウ酸塩類、イミド塩類などが挙げられる。
【0095】
ホウ酸塩類としては、ビス(1,2−ベンゼンジオレート(2−)−O,O’)ホウ酸リチウム、ビス(2,3−ナフタレンジオレート(2−)−O,O’)ホウ酸リチウム、ビス(2,2’−ビフェニルジオレート(2−)−O,O’)ホウ酸リチウム、ビス(5−フルオロ−2−オレート−1−ベンゼンスルホン酸−O,O’)ホウ酸リチウムなどが挙げられる。
【0096】
イミド塩類としては、ビストリフルオロメタンスルホン酸イミドリチウム((CF3SO22NLi)、トリフルオロメタンスルホン酸ノナフルオロブタンスルホン酸イミドリチウム((CF3SO2)(C49SO2)NLi)、ビスペンタフルオロエタンスルホン酸イミドリチウム((C25SO22NLi)などが挙げられる。溶質は1種を単独で用いてもよくまたは必要に応じて2種以上を組み合わせて用いてもよい。溶質の非水溶媒に対する溶解量は、0.5〜2モル/Lの範囲内とすることが望ましい。
【0097】
非水溶媒としては、この分野で常用されるものを使用でき、たとえば、環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステル、環状カルボン酸エステルなどが挙げられる。環状炭酸エステルとしては、たとえば、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)などが挙げられる。鎖状炭酸エステルとしては、たとえば、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)などが挙げられる。環状カルボン酸エステルとしては、たとえば、γ−ブチロラクトン(GBL)、γ−バレロラクトン(GVL)などが挙げられる。非水溶媒は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0098】
添加剤としては、たとえば、充放電効率を向上させる材料、電池を不活性化させる材料などが挙げられる。充放電効率を向上させる材料は、たとえば、負極上で分解してリチウムイオン伝導性の高い被膜を形成し、充放電効率を向上させる。その具体例としては、たとえば、ビニレンカーボネート(VC)、4−メチルビニレンカーボネート、4,5−ジメチルビニレンカーボネート、4−エチルビニレンカーボネート、4,5−ジエチルビニレンカーボネート、4−プロピルビニレンカーボネート、4,5−ジプロピルビニレンカーボネート、4−フェニルビニレンカーボネート、4,5−ジフェニルビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、ジビニルエチレンカーボネート、これらのカーボネート類の水素原子の一部がフッ素原子で置換された化合物などが挙げられる。これらの中でも、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、ジビニルエチレンカーボネートなどが好ましい。これらのカーボネート類は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0099】
電池を不活性化させる材料は、たとえば、電池の過充電時に分解して電極表面に被膜を形成することによって電池を不活性化する。このような材料としては、たとえば、ベンゼン誘導体が挙げられる。ベンゼン誘導体としては、フェニル基と、フェニル基に隣接する環状化合物基とを含むベンゼン化合物が挙げられる。環状化合物基としては、たとえば、フェニル基、環状エーテル基、環状エステル基、シクロアルキル基、フェノキシ基などが好ましい。ベンゼン誘導体の具体例としては、たとえば、シクロヘキシルベンゼン、ビフェニル、ジフェニルエーテルなどが挙げられる。ベンゼン誘導体は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。ただし、ベンゼン誘導体の液状非水電解質における含有量は、非水溶媒100体積部に対して10体積部以下であることが好ましい。
【0100】
本発明の製造方法により得られる電池は円筒型電池に限定されず、たとえば、角型、コイン型、ラミネートフィルム型などの各種形状に構成できる。
【実施例】
【0101】
以下に、参考例、実施例および比較例を挙げ、本発明を具体的に説明する。
(参考例1)
径50mmの鉄製ロール表面に酸化クロムを溶射して厚さ100μmのセラミック層を形成した。このセラミック層の表面に、レーザ加工により、直径11μm、深さ10μmであり、形状が円形である凹部(孔)を形成した。複数の凹部を最密充填配置した。また、1つの凹部とそれに隣り合う凹部との軸線間距離は20μmとした。このようにして凸部用ロールを作製した。
【0102】
一方、全量に対して0.03重量%の割合でジルコニアを含有する合金銅箔(商品名:HCL−02Z、厚さ20μm、日立電線(株)製)を、アルゴンガス雰囲気中、600℃で30分間加熱し、焼き鈍しを行った。
【0103】
上記で得られた凸部用ロールと、ステンレス鋼製ロール(径50mm)とをそれぞれの軸線が平行になるように圧接させた。圧接圧は線圧で2t/cmに設定した。この2つのロールの圧接部分に上記の合金銅箔を通過させ、合金銅箔の表面を塑性変形させ、金属シート1を作製した。凸部100個について高さおよび径を測定して求めた凸部平均高さは6μm、凸部平均径は10μm、1つの凸部とそれに隣り合う凸部との軸線間距離は20μmであった。
【0104】
(実施例1)
本実施例では、図5に示す検査装置10を用いた。図5は、検査装置10の構成を簡略化して示す斜視図である。検査装置10は、カメラ12、LED照明13、同軸落射プリズム内蔵型レンズ14(以下単に「レンズ14」と略記する)および図示しない基台(試料載置テーブル)を含む。試料11は、参考例1で得られた、表面に複数のミクロンオーダーの凸部を有する合金銅箔である。なお、図5では、試料11の表面に形成された複数の凸部の図示を省略する。
【0105】
カメラ12は、8000画素CCDカメラ(DALSA社製)であり、カメラ視野200mm、撮像分解能25μm/pixに設定した。LED照明13は、青色CCD集光照明器具(CCS社製)を用いた。カメラ12のレンズの光軸と、レンズ14の光軸と、試料11に照射される青色光の光軸とが一致するように、カメラ12、LED照明13およびレンズ14を配置した。なお、青色光は、LED照明13から出射され、レンズ14によって反射され、試料11に照射される。基台は図示しない移動手段により往復動可能に支持され、移動手段は、基台を水平面におけるX軸方向(矢符13の方向)およびY軸方向に移動させる。基台は、レンズ14の鉛直方向下方に配置された。
【0106】
試料11を基台に置き、基台を100mm/secの速度で矢符13の一方の方向に走行させ、LED照明から青色光を照射し、カメラ12により試料11表面を撮影した。比較のため、試料11表面の同じ位置をキーエンス社製レーザ顕微鏡で撮影した。図5は、試料である合金銅箔の表面状態を示す写真である。図5(a)は、本発明の方法で撮影された写真である。図5(b)は、レーザ顕微鏡で撮影された写真である。より詳しくは、図5(b)は、図5(a)における二点破線で囲まれた領域20をレーザ顕微鏡で撮影した写真である。
【0107】
図5(a)と図5(b)との比較から、図5(a)で検出される明部領域(領域20)と、図5(b)に示す凸部が形成されていない領域(欠損箇所)とが一致することが判る。その結果、本発明の検査方法によれば、欠損箇所を確実に検出できることが判る。このようにして検出された欠損箇所にマーキングを施した後、凸部が形成された合金銅箔から、マーキング部分を切除して、40mm×40mmの負極集電体を切り出した。
【0108】
(実施例2)
(1)正極の作製
平均粒径約10μmのコバルト酸リチウム(LiCoO2、正極活物質)粉末10g、アセチレンブラック(導電剤)0.3g、ポリフッ化ビニリデン粉末(結着剤)0.8gおよびN−メチル−2−ピロリドン(NMP)5mlを充分に混合して正極合剤ペーストを調製した。この正極合剤ペーストを厚み20μmのアルミニウム箔(正極集電体)の片面に塗布し、乾燥し、圧延して、正極活物質層を形成した。その後、1辺30mmの正方形状に正極を切り出した。得られた正極において、アルミニウム箔の片面に担持された正極活物質層は、厚み70μm、30mm×30mmのサイズであった。アルミニウム箔の正極活物質層が形成される面とは反対側の面に正極リードを接続した。
【0109】
(2)負極の作製
実施例1で得られた負極集電体を用い、負極集電体の凸部表面に柱状体を形成し、複数の柱状体の集合体である負極活物質層を形成した。
負極活物質層は、図3に示す電子ビーム式蒸着装置50と同じ構造を有する市販の蒸着装置((株)アルバック製)を用いて、負極集電体表面に形成された凸部に形成した。蒸着における条件は次の通りである。なお、寸法40mm×40mmの負極集電体を固定した固定台が、水平方向の直線に対する角度α=60°の位置(図3に示す実線の位置)と、角度(180−α)=120°の位置(図3に示す一点破線の位置)との間を交互に角変位するように設定した。これにより、図2に示すような柱状塊が8層積層された柱状体を複数形成した。この柱状体は凸部の頂部および頂部近傍の側面から、凸部の延びる方向に成長していた。
【0110】
負極活物質原料(蒸発源):ケイ素、純度99.9999%、(株)高純度化学研究所製
ノズルから放出される酸素:純度99.7%、日本酸素(株)製、
ノズルからの酸素放出流量:80sccm
角度α:60°
電子ビームの加速電圧:−8kV
エミッション:500mA
蒸着時間:3分
【0111】
形成された負極活物質層の厚み(柱状体の平均高さ)は16μmであった。負極活物質層の厚みは、負極の厚み方向の断面を走査型電子顕微鏡で観察し、凸部表面に形成された負極活物質層100個について、凸部頂点から負極活物質層頂点までの長さそれぞれを求め、得られた100個の測定値の平均値として求められる。また、負極活物質層に含まれる酸素量を燃焼法により定量したところ、負極活物質層を構成する化合物の組成がSiO0.5であることが判った。
【0112】
次に、負極活物質層の表面にリチウム金属を蒸着した。リチウム金属を蒸着することによって、負極活物質層に初回充放電時に蓄えられる不可逆容量に相当するリチウムを補填した。リチウム金属の蒸着は、アルゴン雰囲気下にて、抵抗加熱蒸着装置((株)アルバック製)を用いて行った。抵抗加熱蒸着装置内のタンタル製ボートにリチウム金属を装填し、負極活物質層がタンタル製ボートを臨むように負極を固定し、アルゴン雰囲気内にて、タンタル製ボートに50Aの電流を通電して10分間蒸着を行った。
【0113】
(3)電池の作製
ポリエチレン微多孔膜(セパレータ、商品名:ハイポア、厚さ20μm、旭化成(株)製)を介して正極活物質層と負極活物質層とが対向するように、正極、ポリエチレン微多孔膜および負極を積層し、電極群を作製した。この電極群を、電解質とともにアルミニウムラミネートシートからなる外装ケースに挿入した。電解質には、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを体積比1:1の割合で含む混合溶媒に、LiPF6を1.0mol/Lの濃度で溶解させた非水電解液を用いた。次に、正極リードおよび負極リードを外装ケースの開口部から外装ケースの外部に導出し、外装ケース内部を真空減圧しながら、外装ケースの開口部を溶着させて、本発明のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0114】
(比較例1)
参考例1で得られた金属シート1を、欠損箇所の検出を行うことなく、そのま40mm×40mm切り出し、負極集電体として使用する以外は、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を作製した。
【0115】
(試験例1)
実施例2および比較例1で得られたリチウムイオン二次電池について、次のようにして、充放電サイクル特性を評価した。なお、いずれのリチウムイオン二次電池も、負極にリチウムを蒸着して不可逆容量を補填していることから、電池の容量が正極の容量で規制される電池設計になる。すなわち、電池電圧が放電カットである2.5V時に、リチウム基準で正極の電位が3V、負極の電位が0.5Vであり、正極の電位降下によって放電が終了する。結果を表1に併記する。
【0116】
[充放電サイクル特性]
実施例2および比較例1のリチウムイオン二次電池を、それぞれ20℃の恒温槽に収納し、定電流充電、定電圧充電、20分間の休止および放電という充放電サイクルを300サイクル繰り返した。サイクル1回目の全放電容量に対する、サイクル300回目の全放電容量の割合を百分率値として求め、サイクル容量維持率とした。
【0117】
定電流充電:電池電圧が4.2Vになるまで1Cレート(1Cとは1時間で全電池容量を使い切ることができる電流値)の定電流で充電した。
定電圧充電:電流値が0.05Cになるまで定電圧で充電した。
放電:電池電圧が2.5Vになるまで放電した。
【0118】
また、300サイクル経過後の負極を目視で観察し、「剥がれ」および「しわ」の有無を調べた。「剥がれ」とは負極活物質層の負極集電体からの剥がれである。「しわ」とは負極面に形成されるしわである。「しわ」の発生は、負極の変形を意味する。評価結果は、「サイクル後の極板状態」として表1に示した。
【0119】
【表1】

【0120】
実施例2の電池では、負極集電体の欠損箇所が切除されているので、負極活物質層を構成する柱状体の集電体からの剥離が最低限に留められた。このため、サイクル容量維持率ひいては充放電サイクル特性が顕著に向上した。
【0121】
これに対し、比較例1の電池では、欠損箇所が切除されていないため、欠損箇所において、柱状体が形成され難くなり、薄膜状の負極活物質が形成され易くなる。薄膜状の負極活物質では、膨張時に大きな応力が発生しやすくなり、集電体ひいては負極の変形、柱状体の集電体からの剥離などが発生する。このため、充放電サイクルを繰り返すとサイクル容量維持率が急激に低下し、充放電サイクル特性が劣化するとともに、負極の変形が起こったものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明の検査方法を実施すると、負極活物質が合金系負極活物質である場合に、集電体として用いられる金属シート1表面における欠損箇所を確実にかつ工業的に有利に検出できる。また、本発明の検査方法を利用する電池の製造方法では、たとえば、リチウムイオン二次電池が得られる。このリチウムイオン二次電池は、高容量を有し、高出力が可能であり、しかも充放電サイクル特性などの電池性能の低下が非常に少ない。したがって、特に、パーソナルコンピュータ、携帯電話、モバイル機器、携帯情報端末(PDA)、ビデオカメラなどの携帯用電子機器の電源として有用である。また、ハイブリッド電気自動車、燃料電池自動車などにおいて主電顕および補助電源、電動工具、掃除機、ロボットなどの駆動用電源、プラグインHEVの動力源、非常用蓄電システム、深夜電力蓄電システムなどの電源、無停電電源などとしての利用も期待される。
【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1】本発明の検査方法において、検査対象になる金属シート1の構成を模式的に示す斜視図である。
【図2】柱状体の実施形態の1つである積層柱状体の構成を模式的に示す縦断面図である。
【図3】電子ビーム式蒸着装置の構成を模式的に示す縦断面図である。
【図4】本発明の金属シートの検査方法を実施するための検査装置の構成を簡略化して示す斜視図である。
【図5】複数の凸部が形成された合金銅箔の表面状態を示す写真である。図5(a)は本発明の方法で撮影された写真である。図5(b)はレーザ顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0124】
1 金属シート
5 基材部
6 凸部
7 積層柱状体
7a,7b,7c,7d,7e,7f,7g,7h 柱状塊
10 検査装置
11 試料
12 カメラ
13 LED照明
14 同軸落射プリズム内蔵型レンズ
30 電子ビーム式蒸着装置
31 チャンバー
32 第1の配管
33 固定台
34 ノズル
35 ターゲット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に複数のミクロンオーダーの凸部がミクロンオーダーの間隔で形成された金属シートに、同軸落射照明または斜方照明により、光軸に対して垂直な方向に幅を有する光を照射し、凸部が形成されていない欠損箇所を検出する金属シートの検査方法。
【請求項2】
金属シートの表面に形成された1つの凸部とそれに隣り合う凸部との軸線間長さが10〜50μmである請求項1に記載の金属シートの検査方法。
【請求項3】
凸部の高さが2〜10μmおよび凸部の径が5〜30μmである請求項1または2に記載の金属シートの検査方法。
【請求項4】
凸部の形状が円形、楕円形、多角形または菱形である請求項1〜3のいずれか1つに記載の金属シートの検査方法。
【請求項5】
光が照射されている金属表面をカメラで撮影し、得られる撮影画像から欠損箇所を検出する請求項1〜4のいずれか1つに記載の金属シートの検査方法。
【請求項6】
光が青色光である請求項1〜5のいずれか1つに記載の金属シートの検査方法。
【請求項7】
青色光が青色発光ダイオード光である請求項6に記載の金属シートの検査方法。
【請求項8】
同軸落射照明により金属シート表面に光が照射され、凸部の欠損箇所が明部領域として検出される請求項1〜7のいずれか1つに記載の金属シートの検査方法。
【請求項9】
斜方照明により金属シート表面に対して40°〜50°の入射角で光が照射され、凸部の欠損箇所が暗部領域として検出される請求項1〜7のいずれか1つに記載の金属シートの検査方法。
【請求項10】
金属シートが電池用集電体である請求項1〜9のいずれか1つに記載の金属シートの検査方法。
【請求項11】
正極作製工程と、負極作製工程と、電極群作製工程と、電池組立工程とを含む電池の製造方法であって、
負極作製工程は、金属箔表面に塑性変形により複数の凸部を形成する集電体作製工程と、複数の凸部が形成された金属箔表面を請求項1〜10のいずれか1つの金属シートの検査方法により検査し、凸部の欠損箇所を検出してマーキングする検査工程と、複数の凸部が形成された金属箔表面に負極活物質層を形成して負極を得る活物質層形成工程とを含み、かつ
電極群作製工程は、負極作製工程で得られる負極と正極作製工程で得られる正極との間にセパレータを介在させて、前記負極と前記正極とを積層または捲回するに際し、前記負極から、マーキングに基づいて凸部の欠損箇所を含む負極集電体およびその表面に形成された負極活物質層を切除する電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−8266(P2010−8266A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−168777(P2008−168777)
【出願日】平成20年6月27日(2008.6.27)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】