説明

金属チタンの製造方法

【課題】連続処理によって、四塩化チタンを金属チタンに還元する、金属チタンの製造方法および装置を提供する。
【解決手段】本発明による製造方法は、RFコイルを備えたプラズマトーチによりRF熱プラズマフレームを発生させる段階と、RF熱プラズマフレームへ四塩化チタンおよびマグネシウムを供給して四塩化チタンを金属チタンに還元させる段階と、塩化マグネシウムの沸点以上且つ金属チタンの沸点以下の雰囲気で金属チタンを集積または堆積させる段階とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広く言えば、金属チタンを製造する方法および装置に関するものである。具体的には、本発明は、RFプラズマ反応装置内で金属マグネシウムを利用して四塩化チタンを還元することにより金属チタンを製造する方法および装置に係るものである。
【背景技術】
【0002】
チタンは、軽量で比強度が大きく耐食性に優れており、航空機、医療、自動車など様々な分野にわたって広く利用されている。チタンの使用量は、年率約5%程度の割合で増加している。一方、チタンは、地殻に10番目に多く存在する元素であり、資源としても豊富な元素である。チタンの需要は着実に拡大しているが、その製造量は需要を満足する程充分に増加していない。チタンの現行の工業的精錬方法であるクロール法は、生産効率が低く、スポンジチタンの形態で金属チタンを製造するからである。
【0003】
クロール法においては、チタン鉱石(主成分TiO)に塩素ガスおよびコークス(C)を添加して四塩化チタン(TiCl)を製造し、続いてそれを純化させる。純化した四塩化チタンを、マグネシウムで還元することにより、金属チタンを製造する。その工程は下記の反応による。
【0004】
TiCl+2Mg→Ti+2MgCl (1)
【0005】
クロール法による金属チタンの製造工程を図1に示す。酸化チタンTiOから成るチタン鉱石は、塩素ガスおよびコークスと反応して、四塩化チタンを生成する(ステップ2)。四塩化チタンを、精製および純化する(ステップ3)。室温では液体である四塩化チタンは、次に、溶融マグネシウムの保持された反応容器内で還元される(ステップ4)。還元された四塩化チタンはスポンジチタンになる。反応物は、他の容器に移されて、塩化マグネシウムの沸点以上の温度に加熱して、生成した塩化マグネシウムおよび未反応のマグネシウムをチタン製品から取り除く。蒸発した塩化マグネシウムは真空引きによって排気する(ステップ5)。スポンジチタンは、容器から取り出され、切断および粉砕される(ステップ6)。任意選択で、アルミニウムまたはバナジウムなどの合金化元素が添加される(ステップ7)。粉砕されたチタンは、圧縮成形され、電極に成形され(ステップ8)、電極は溶解される(ステップ9)。溶融金属は、アトマイズされて微細球形粉末が作製されて(ステップ10)焼結される(ステップ11)か、または鋳造されて(ステップ12)圧延されて展伸材とされる(ステップ13)。クロール法は、複雑なバッチプロセスであり、金属チタンの製造に長時間を要する。例えば、9トンのチタン用のバッチでは、7〜9日を必要とする。
【0006】
クロール法では、ステンレス鋼製の還元反応容器内に予め800℃以上の溶融Mgを満たし、四塩化チタン液を容器に導入して、容器内のMgと反応させることにより金属チタンを生成させる。生成された金属チタンはMg液中に沈下する。一方、反応の副生成物であるMgClは液体のままMg液中に残る。このように、反応混合物には、金属チタンとMgClおよびMgからなる液体が含まれる。上記の生成反応が終わってから、高温真空分離プロセスを経て、多孔質チタンのスポンジケーキが得られる。なお、チタンは活性的であり、大気中の窒素、酸素と反応しやすいため、大気への露出を極力抑える必要があり、原料装入後は、反応容器は密閉される。
【0007】
マグネシウムによる反応および分離工程によって、チタンスポンジケーキは大きな塊として得られる。しかし、スポンジケーキはその中心部と外皮部とで含有する固溶酸素や不純物元素量が大きく異なるため、その後の真空アーク溶解(VAR)用電極としてはそのまま使用できず、スポンジケーキの中心部と表皮部から得られるものを分別する破砕・粉砕処理が不可欠となる。
【0008】
このように、還元反応および分離処理がバッチ式で行われること、さらに、破砕・粉砕処理が必要であることから、クロール法によって金属チタンを製造するには併せて10日前後の非常に長い製造期間を要し、結果的に製造コストが極めて高くなる。
【0009】
また、クロール法の実例として、反応容器を2個を対にして使うことによって、還元反応により生成したスポンジケーキにそのまま真空分離処理を行うことを可能としている。しかし、この方法は品質の安定には一定の効果があるが、市場の要求に答える程の生産効率の改善は得られていない。
【0010】
このため、チタンを生産する方法が数多く提案されている。
【0011】
2004年3月30日付発行のFray等の米国特許第6712952には、溶融塩中で酸化チタンを電解してチタンを得る方法が開示されている。しかし、品質および生産効率上の欠点があり、大規模製造には適していない。
【0012】
特開平7−252550号は、四塩化チタンをアルカリ金属またはアルカリ土類金属で還元することにより金属チタンを製造する方法を開示する。反応によりチタンとアルカリ金属またはアルカリ土類金属塩化物の混合物を得る。その混合物を上下開放型るつぼ中に供給し、プラズマトーチにより加熱して、混合物中のチタンを溶融させ、残留ハロゲン化物を蒸発させながら、チタンを凝固させて、るつぼから引き抜いてインゴットとする。このように、副生成物等の分離工程と、インゴット製造工程が一つの工程で行われる。
【0013】
特開平7−278691号は、四塩化チタンをマグネシウムを使って還元することにより金属チタンを製造する別の方法を開示する。開放上端および下端を有する坩堝に金属チタンが入れられて、例えば高周波加熱または高周波加熱プラズマ加熱により溶解される。
次に、四塩化チタンおよびマグネシウムが、チタン浴に投入される。このようにして、チタンインゴットが連続製造される。
【0014】
特開昭58−110626号は、アークジェットを発生させるために、例えばアルゴン、ヘリウム、及び/又は水素などの混合気体をアーク加熱電極間に通す。アークジェットは、反応容器に放射され、溶融マグネシウムまたはナトリウムが、四塩化チタンとともに容器に投入される。四塩化チタンがマグネシウムまたはナトリウムにより還元されて反応容器の壁面に付着する。
【0015】
米国特許第4080194号も、アークジェットにより加熱された反応チャンバに四塩化チタンおよびマグネシウムまたはナトリウムを投入して、還元されたチタンをインゴットモールドに集積させてインゴットを形成する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開平7−252550号公報
【特許文献2】特開平7−278691号公報
【特許文献3】特開昭58−110626号公報
【特許文献4】米国特許第4080194号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、金属チタンを生産する新たな方法および装置を提供することに関するものである。本発明の具体例としては、インゴットまたは粉末形態で金属チタンを生産する新たな方法および装置を提供することに係るものである。さらに、本発明の具体例によれば、高周波プラズマ反応器において金属マグネシウムを用いて四塩化チタンを還元する連続製造方法に関するものである。さらに、別の具体例によれば、本発明は、金属チタンの大規模製造に適した方法に関するものである。さらに別の具体例によれば、四塩化チタンを還元する方法であって、四塩化チタンの還元が金属マグネシウムを使って行われ、続く形成された金属チタンの凝縮が溶融チタン液滴の形態で行われて、固体粒体又はインゴットとして収集され、同時に気相中に残る副生成物である塩化マグネシウムを工程中に分離する方法に関するものである。
【0018】
本発明によれば、金属チタンの製造方法であって、RFコイルを備えた誘導プラズマトーチを使って、RF熱プラズマフレームを発生させる段階と、四塩化チタンおよび金属マグネシウム粉末をRF熱プラズマフレームに供給して四塩化チタンを金属チタンに還元させる段階と、金属チタンを四塩化チタンの沸点以上の温度かつ金属チタンの沸点以下の温度で金属チタンを収集または析出させる段階を含む、金属チタンの製造方法が提供される。
【0019】
本発明の具体例によれば、RF熱プラズマフレームは、アルゴン、水素、ヘリウム又はこれらの混合気体を使って生成される。
【0020】
本発明の具体例によれば、四塩化チタンは、液体または気体の形態で供給できる。
【0021】
本発明の具体例によれば、マグネシウムは、固体粉末または融液の形態で供給できる。
【0022】
本発明の具体例によれば、製造された金属チタン気体の金属チタン液滴への選択的な凝集が、反応容器の適切な温度制御によって達成できる。
【0023】
本発明は、金属チタンを製造する装置が提供され、この装置は、
RF熱プラズマフレームを発生させるためのRFコイルを具備したプラズマトーチプラズマ動作ガスを供給するためのガス供給部、並びにRF熱プラズマフレームへ四塩化チタンおよびマグネシウムを供給する原材料供給部とを備えたヘッド部と、
塩化マグネシウムの沸点以上かつ金属チタンの沸点以下の温度領域に設けられた収集器を具備する、ヘッド部の下流に連結されたチャンバと
チャンバに接続された排気部と
を含む、金属チタン製造装置が提供される。
【0024】
本発明の具体例によれば、本発明は、還元剤としてマグネシウムを使用して四塩化チタンを金属チタンに還元する、金属チタンの製造方法に関するものである。
【0025】
本発明の具体例によれば、本発明は、高純度の金属チタンを製造する方法に関するものである。本発明に係る方法および装置は、定量的にかつ操作容易に、副生成物である塩化マグネシウムをその場で取り除くという効果を有する。
【0026】
本発明の具体例によれば、本発明は、還元したチタン製品を分離工程において同時に溶融させる、金属チタンの製造方法に関するものである。
【0027】
本発明の具体例によれば、本発明は、粉末又はインゴットの形態の金属チタン製造方法に関するものである。
【0028】
本発明の具体例によれば、本発明は、還元したチタン製品を分離工程において同時に溶融させ、次に焼結させる、金属チタンの粉末又はインゴットを製造する方法に関するものである。
【0029】
以上に記載された、およびその他の目的、効果および構成は、添付の図面を参照のうえ以下の例示の実施例の非限定的説明を読むことにより、より明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】先行技術であるクロール法による金属チタンの作製工程を示す図。
【図2】本発明の実施例による金属チタン製造装置の側面断面図。
【図3】本発明の実施例による金属チタン製造装置の側面断面図。
【図4】図3に示された装置のヘッド部の拡大側面断面図。
【図5】本発明の実施例2により作製された黒鉛坩堝に堆積したチタンのX線回折パターンを示す図。
【実施例】
【0031】
本願は、金属チタンを製造するための新規な方法および装置を開示するものである。
図2および図3に、本発明の実施例による四塩化チタンから金属チタンを製造するための装置20の側面断面図を示す。この装置は、RF熱プラズマフレームを発生させるためのRFコイル30を具備したプラズマトーチ24、プラズマ動作ガスを供給するためのガス供給部28、並びに四塩化チタンおよびマグネシウムをRF熱プラズマフレームに供給する供給部26を有するヘッド部50を含む。この装置は、さらに、ヘッド部50の下流に連結されたチャンバ22、およびチャンバ22の下流に接続された排気ユニット52を有する。チャンバ22は、排気ユニット52を接続するためのポート38が設けられている。排気ユニット52は真空ポンプであることが好ましい。排気ユニット52は、塩化マグネシウムの蒸気をチャンバから排気して、排気ユニット52内に収集する。
【0032】
本発明の一例によれば、チャンバ22の側壁の少なくとも一部の周りに加熱ヒータを設けることができ、このヒータによりチャンバ内の温度を所定温度に加熱するようにできる。なお、チャンバ22の内壁は、塩化物蒸気への耐食性を有する材料により設けることができる。塩化物蒸気への耐食性を有する材料の一例としては、黒鉛を使用できる。本発明の他の例としては、チャンバ22は、チャンバ22内部又は外部に設けられたコイルを有するヒータを使って加熱できる。後者の場合、チャンバ22の加熱は、チャンバ22の黒鉛壁を誘導加熱することにより行うことができる。加熱ヒータやRF熱プラズマの加熱および反応発熱の総合制御により、チャンバ22内の温度を所定温度に制御できるようにする。この実施例では、チャンバ22内の温度は、塩化マグネシウムの沸点以上に保持すべきである。
【0033】
本発明の一例によれば、プラズマトーチ24は、水冷された概ね円筒形状のチューブの周囲にRFコイル30が配置されたものである。具体例としては、プラズマトーチ24は、水冷されたガラスでできた概ね円筒形状のチューブの周囲に、RFコイル30を有する。さらに、別の具体例としては、プラズマトーチ24は、水冷されたセラミックスでできた概ね円筒形状のチューブの周囲に、RFコイル30を有する。RFコイル30はRF電源32に接続され、円筒形状のチューブ内の空間に、電磁誘導によりプラズマフレームを発生させる。
【0034】
プラズマトーチ24の上部には、RF熱プラズマフレーム34へ四塩化チタンおよびマグネシウムを供給する供給部26が配置されている。四塩化チタンは液体またはガス化した気体の状態で、キャリアガス(例えばアルゴンガス)と合わせて供給部26の第1のノズルから供給される。マグネシウムは、溶融した液状または粉末の形態で供給部26の第2のノズルを通してRF熱プラズマフレームに供給される。このように、四塩化チタンとマグネシウムとは別々の流路から供給されるので、プラズマフレームに到達するまでには混合されない。四塩化チタンとマグネシウムはプラズマ領域に供給された際に混合され、高温のプラズマフレーム内で還元反応が生じる。四塩化チタンとマグネシウムはプラズマフレーム内で瞬時に蒸発し、四塩化チタン蒸気はマグネシウム蒸気により還元されて、金属チタン蒸気および塩化マグネシウム蒸気を形成する。一例では、四塩化チタンおよびマグネシウムは、供給部26のノズルからRFプラズマフレームの中心軸線に向かって供給される。別の例では、四塩化チタンおよびマグネシウムは、供給部26の複数のノズルからRFプラズマフレームの中心軸線に向かって供給される。さらに別の例では、ノズルには複数の流路が設けられる。更に別の例では、ノズルには、単一の流路が設けられている。
【0035】
プラズマトーチ24には、プラズマ動作ガス供給部28がさらに設けられている。一例では、プラズマ動作ガス供給部28は四塩化チタンおよびマグネシウムの供給部26に近接して設けられ、プラズマ動作ガスが、プラズマトーチの中央軸線方向にセントラルガスおよびシースガスとして流れるようにされる。
【0036】
製造された金属チタンを収集する収集器36がチャンバ22内に設けられる。収集器36は金属チタン製品の融点を超える温度に対して耐熱性のあるものでなければならない。一例では、収集器36として、黒鉛製の坩堝を用いる。黒鉛は、プラズマの高温にも耐熱性があり、金属チタンが汚染されることもない。チタンと炭素材料とはカーバイト反応の恐れがあるが、実際に粉末状態のチタンが回収され、収集器表面との接触面積が少なく、問題とならないことが確認できた。四塩化チタンとマグネシウムは、プラズマフレームの中心軸線に沿って供給されるので、プラズマフレームの中心軸線に収集器を配置すると、実質的に生成される金属チタンのほぼ全てを回収することができる。さらに別の例では、収集器はチタンでできた坩堝である。生成される金属チタンの収集に適した他の材料も使用でき、当業者が適宜選択可能である。
【0037】
本発明の具体例としては、チタン収集の効率を高めるために、プラズマトーチ24を含む反応容器領域と収集器36との間にノズルが配置できる。ノズルの詰まりを避け、還元処理を完全に行い、チタン回収の効率を高めるために、反応容器領域および収集器36を含む領域を独立に且つ正確に温度制御することが求められる。
【0038】
本発明は、RFプラズマを用いて、四塩化チタンを金属チタンに精製する。DCプラズマは電極間に高電圧を印加させるので電極の融解に起因する汚染が生成され、チタンに混入する可能性がある。一方、RFプラズマはコイルの高周波電力の電磁誘導によりプラズマを発生させるために、プラズマフレームは電極材料との接触がなく、生成されるチタンに汚染を発生させるおそれはない。さらに、RFプラズマには表皮効果があり、プラズマフレームの外周部が高温帯に、中心部が比較的低温帯となる。そのため、四塩化チタンおよびマグネシウムを供給する供給部の先端をプラズマフレームの中心部に差し込むことができ、四塩化チタンおよびマグネシウムのプラズマフレームへの安定的な供給を可能にできる。さらに、RFプラズマでは、DCプラズマに比較して低電力で体積の大きなフレームを作ることができ、プラズマフレームの流速を小さくすることができる。このことにより、反応が確実に進行できるものと考えられる。そのため、RFプラズマではDCプラズマに比較して四塩化チタンの還元反応を安定的に確保できる。
【0039】
プラズマ動作ガスは、ガス供給部28を通じて供給され、RF電力はRF電力源32を使って供給される。本発明の一例では、プラズマ動作ガスは、アルゴン(Ar)、ヘリウム(He)、水素(H)およびそれらの混合ガスから選択できる。他のプラズマ動作ガスも知られており、これらの使用は当業者が適宜選択できる。一例では、チタンと反応して不純物や汚染が発生するのを避けるためには不活性ガスを使用する。さらに別の例では、プラズマ動作ガスは、アルゴンとヘリウムの混合ガスが用いられる。
【0040】
アルゴンとヘリウムの混合ガスを用いる場合には、動作圧力又はAr/He比率などのファクターを制御することにより、プラズマフレームの形状、プラズマ熱伝導率や粘性、イオン化状態を制御できる。
【0041】
金属マグネシウム粉末および四塩化チタンは、供給部26から供給される。本発明の一例では、供給材料である金属マグネシウムおよび四塩化チタンは、RF熱プラズマフレーム34の中心軸線に沿って供給される。プラズマフレームは、3000〜10000℃の高温状態にある。供給材料をRF熱プラズマフレーム34の中心軸線に沿って供給することにより、その供給材料はプラズマフレーム内により長く滞在でき、これにより、還元反応を確実に行なうことができる。
【0042】
本実施例では、金属マグネシウムが還元物質として使用されるが、他の還元物質としては、カリウム、ナトリウム等のアルカリ金属、カルシウム等のアルカリ土類金属、アルミニウム等の軽金属が使用可能である。その他の還元物質も使用できる。それらは、当業者の選択範囲である。
【0043】
製造される金属チタンは、プラズマフレーム34と収集器36との距離に応じて、チタン粉末、スポンジ金属、またはインゴットの形態を作製できる。収集器36がフレームに近く、収集器36に衝突する際にチタンが溶融または半溶融状態であれば、収集器36にはチタンが気孔を有するバルク状、すなわち、スポンジチタンとなって集積する。他方、収集器36がフレームから遠く離れて設置されると、収集器36に衝突する前にチタンが凝固するので、微細な粉末チタンが収集器36に捕捉される(すなわち、粉末が収集器36に集積する)。また、収集器36を誘導高周波加熱用ヒータを用いて別個に加熱して、的確に温度管理を行うことができる。この方法によれば、収集される金属チタンの形態を独立して制御することができる。
【0044】
チタンは酸素や窒素と反応しやすく、反応生成物として酸化物または窒化物といった汚染物を形成しやすい。このような望ましくない副反応を避けるために、生成された金属チタンの空気への接触は極力低減する必要がある。本実施例においては、ポート38を通してプラズマ動作ガスや反応生成ガス(例えば塩化マグネシウム)をチャンバ22から排気し、チャンバ内を1気圧よりもやや高い圧力に維持する。ヘッド部50およびチャンバ22を含む金属チタンの製造装置20内を1気圧よりもやや高い圧力に維持することにより、金属チタンの空気への接触が実質的に防止でき、金属チタンの製造を連続的に行うことが可能になる。
【0045】
チャンバ22は、塩化マグネシウムの沸点以上の温度、かつ金属チタンの沸点以下の温度に保持される必要がある。このことにより、未反応の金属マグネシウムおよび副生成物である塩化マグネシウムを含む蒸気流体から金属チタン製品を完全に分離することができる。チタンの1気圧における融点は1668℃、沸点は3262℃であるのに対して、塩化マグネシウムの沸点は1412℃、マグネシウムの沸点は1080℃、四塩化チタンの沸点は136℃である。収集器36の温度は、金属マグネシウム、塩化マグネシウムの沸点以上の温度かつ金属チタンの沸点以下の温度に保持される必要がある。それにより、金属チタンだけが固相または液相で存在できる。収集器36の温度は、反応副生成物や未反応残留物が全て気相となる温度にする必要がある。反応副生成物や未反応残留物が、気相状態で存在すると、金属チタンと容易に分離することが可能になり、チャンバに接続された排気部52によってチャンバ22外へ排気可能となる。チタンの沸点は3262℃であるため、チャンバ内の雰囲気は3262℃以下とする。一例では、チャンバ22内の雰囲気の温度上限は2000℃である。別の例では、チャンバ22内の雰囲気は1668℃以下である。
【0046】
チャンバ22から排出された排気は、塩化マグネシウムを回収するために処理できる。塩化マグネシウムは、マグネシウムに還元されて、再び四塩化チタンの還元材として使用できる。
【0047】
収集器36から回収されたチタンは、溶解処理を行うことができる。一例では、アトマイズにより粉末製造を行う工程に供することができる。チャンバ22内の収集器36の位置を注意深く調整することにより、チタン粉末が本発明の工程で直接製造できる。更に別の例では、溶解されたチタンは鋳造され、塑性加工されて、展伸材とされることもできる。
【0048】
実験例
本発明に係る方法及び装置の金属チタンの製造における有効性を示す実験例を以下説明する。図3は、金属チタン製造のための以下の実験に使用された装置の側面断面図を示す。この装置は、プラズマトーチとして、内径50mmのセラミックスの円筒形チューブに誘導コイルを5ターン巻き付け、60kWの電源に接続したものを有している。供給部26は、その出口が実質的にコイルの中心に位置するようにトーチに設置されている。チャンバ22がヘッド部50の下側に配置され、チャンバ内には、黒鉛製収集器36がプラズマフレームの中心軸線に沿って下方に配置されている。チャンバには、排気装置52に接続された排気用ポート38が設けられている。
【0049】
四塩化チタンは、圧出式溶液ポンプを用いて供給された。D50が40μmのマグネシウム粉末を、回転式粉末供給器を通して供給された。排気ガス(二塩化マグネシウムを含む)は、サイクロトロンに通され、次にフィルタを通され、ガスが冷却されて、未反応のマグネシウムおよび副生成物である塩化マグネシウムが回収された。D50は、サンプル中の50体積%の粒がD50の値(すなわち、40μm)未満となることを表している。
【0050】
実施例1および2のプラズマ動作条件(出力、ガス圧力、プラズマ動作ガス組成)、TiCl供給速度、Mg供給速度、および処理後の黒鉛製収集器中の堆積物量を表1に示す。プラズマ動作ガスとしては、アルゴンとヘリウムの混合ガスを用い、実施例1では、Ar/Heは77/15(l/min)、実施例2では68/15(l/min)の混合ガスが、ガス圧力101kPaの下でトーチ内に噴射され、RFコイルにそれぞれ50kW、46kWの電力を印加して高周波を発生させてプラズマフレームを発生させた。供給部を通して、四塩化チタン36.3g/min、マグネシウム7.5g/minを22分間(実施例1)、四塩化チタン40.0g/min、マグネシウム9.7g/minの供給量を30分間(実施例2)プラズマフレーム中に供給した。処理後、黒鉛製収集器(黒鉛坩堝)中の堆積物を取り出し、誘導結合プラズマ(ICP)質量分析法により定量分析を行った。
黒鉛坩堝の外壁温度を熱伝対で測定したところ、実施例1では平均1100℃、実施例2では平均1080℃であった。黒鉛坩堝の中心部に堆積した金属チタンの表面はチタンが溶けた痕跡があり、黒鉛坩堝の中心部はチタンの融点1668℃を超えていたと認められる。
【0051】

【0052】
実施例1では97.92%、実施例2では98.74%のチタンが含まれて入ることがわかった。堆積物のX線回折を行ったところ、単相の金属チタンによる回折ピークが得られた。図5に実施例2により得られた堆積物のX線回折パターンを示す。誘導結合プラズマ(ICP)質量分析およびX線回折の結果から、堆積物は、高純度の金属チタンであることが確認された。
【0053】
以上述べたように、本発明による金属チタン製造方法および装置の構成を一例として説明したが、この構成に限定されるものではなく、請求の範囲から離脱することなく種々の変更が可能であることは言うまでもない。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属チタンの製造方法において、該方法が、
(a)RFコイルを備えたプラズマトーチによりRF熱プラズマフレームを発生させる段階と、
(b)前記RF熱プラズマフレームへ四塩化チタンおよびマグネシウムを供給して、四塩化チタンを金属チタンに還元させる段階と、
(c)塩化マグネシウムの沸点以上且つ金属チタンの沸点以下の雰囲気で金属チタンを収集または堆積させる段階と
を含む、金属チタンの製造方法。
【請求項2】
前記還元させる段階が、四塩化チタンおよびマグネシウムを前記RF熱プラズマフレームの中心軸線に向かって供給する段階を含む請求項1に記載の金属チタンの製造方法。
【請求項3】
供給されるマグネシウムが粉末または融液である請求項1または請求項2に記載の金属チタンの製造方法。
【請求項4】
供給される四塩化チタンが液体または気体である請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載された金属チタンの製造方法。
【請求項5】
前記収集または堆積させる段階の雰囲気温度が1412℃〜2000℃である請求項1に記載の金属チタンの製造方法。
【請求項6】
金属チタン製造装置において、該装置が、
(a)RF熱プラズマフレームを発生させるためのRFコイルを具備したプラズマトーチ、プラズマ動作ガスを供給するためのガス供給部、並びに前記RF熱プラズマフレームへ四塩化チタンおよびマグネシウムを供給するための供給部を備えたヘッド部と、
(b)塩化マグネシウムの沸点以上かつ金属チタンの沸点以下の温度領域に設けられた収集器を具備した、前記ヘッド部の下流に連結されたチャンバと、
(c)前記チャンバに接続された排気部と
を含む、金属チタン製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−242946(P2009−242946A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−81334(P2009−81334)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【出願人】(503389611)テクナ・プラズマ・システムズ・インコーポレーテッド (10)
【Fターム(参考)】