説明

金属ドープ酸化チタン微粒子の製造方法

【課題】 ゾルゲル法、固相反応法、イオン注入法などの従来の方法に比べて生産効率が高く、かつ容易に可視光線の領域でも光触媒活性を有する金属ドープ酸化チタン微粒子を製造する方法を提供すること。
【解決手段】 金属チタン、加水分解性チタン化合物、加水分解性チタン化合物の低縮合物、水酸化チタン、メタチタン酸、及び水酸化チタンの低縮合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種のチタン化合物を過酸化水素水と混合して得られるチタン含有水性液(A)を、チタン以外の金属の塩(B)及び安定化剤(C)の存在下で加熱処理して得られた溶液から分離及び乾燥することにより金属ドープ酸化チタン微粒子を得ることを特徴とする金属ドープ酸化チタン微粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、簡便かつ生産性に優れた金属ドープ酸化チタン微粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、酸化チタン系光触媒の利用が各方面でなされている。特に空気浄化、水質浄化など生活環境の清浄化への応用や、高度の親水化作用を利用したセルフクリーニング機能の応用などが顕著である。
【0003】
酸化チタンの光触媒作用は有効波長範囲が紫外線域にあるが、太陽光線のうち紫外線は4%程度にすぎず、太陽光の下での有効活用を図るため、紫外線域から可視光線域まで光触媒作用の有効波長範囲を拡大するための研究が活発に行われている。
【0004】
その1つの有力な方法として、光触媒活性を有する酸化チタンに窒素や特定の金属などをドーピングする方法がある。半導体に特定の金属をドーピングすることで半導体中に不純物準位が生じ、半導体の吸収バンドに新たな吸収帯が生じることが知られており、それを応用したものである(例えば、特許文献1、特許文献2等参照。)。
【0005】
金属をドーピングする方法としては、一般にゾルゲル法、固相反応法、イオン注入法などが知られているが、ゾルゲル法では、加水分解及び重合反応を均一に起こさせるため、反応系中のチタン濃度を1%以下の低濃度に制限することが一般的であり、生産効率が低いという問題や、分解生成物の除去に手間がかかる等の問題がある。一方、固相反応法では反応を均一に起こさせるため、高温で長時間の反応が必要であり、生産性に欠けるという問題がある。またイオン注入法では大きなエネルギーで金属イオンを酸化チタン中に注入するため、大掛かりな設備が必要となってくる。
【0006】
【特許文献1】特開2000−140636号公報
【特許文献2】特開平11−255514号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、ゾルゲル法、固相反応法、イオン注入法などの従来の方法に比べて生産効率が高く、かつ容易な、金属ドープ酸化チタン微粒子の製造方法を提供することにある。さらに本発明の目的は、上記方法により製造される金属ドープ酸化チタン微粒子及びそれを用いた光触媒体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、特定のチタン化合物を過酸化水素水と混合して得られるチタン含有水性液に、ドーピングしようとする金属の塩および安定化剤を添加し、これを加熱処理するだけで容易に金属ドープ酸化チタン微粒子が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
かくして本発明は、金属チタン、加水分解性チタン化合物、加水分解性チタン化合物の低縮合物、水酸化チタン、メタチタン酸、及び水酸化チタンの低縮合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種のチタン化合物を過酸化水素水と混合して得られるチタン含有水性液(A)を、チタン以外の金属の塩(B)及び安定化剤(C)の存在下で加熱処理して得られた溶液から分離及び乾燥することにより金属ドープ酸化チタン微粒子を得ることを特徴とする金属ドープ酸化チタン微粒子の製造方法に関する。
【0010】
また、本発明は、上記の製造方法を用いて得られる金属ドープ酸化チタン微粒子に関する。
【0011】
さらに、本発明は、上記の金属ドープ酸化チタン微粒子を用いて得られることを特徴とする可視光線の領域でも光触媒活性を有する光触媒体に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の金属ドープ酸化チタン微粒子の製造方法は、特定のチタン化合物を過酸化水素水と混合して得られるチタン含有水性液に、ドーピングしようとする金属(ドーパント金属)の塩と安定化剤を添加し、これを加熱して処理するだけで比較的低温、短時間で容易に可視光線の領域でも光触媒活性を有する金属ドープ酸化チタンの微粒子を製造できるものであり、有害な副生成物が生成しないため環境負荷が少なく、また、酸化チタン微粒子中にドーパント金属を均一に導入することができ、ドーパント金属の導入量を容易に制御できる利点を有するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の金属ドープ酸化チタン微粒子の製造方法は、金属チタン、加水分解性チタン化合物、加水分解性チタン化合物の低縮合物、水酸化チタン、メタチタン酸、及び水酸化チタンの低縮合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種のチタン化合物を過酸化水素水と混合して得られるチタン含有水性液(A)を、チタン以外の金属の塩(B)および安定化剤(C)の存在下で加熱処理を行うことにより、金属ドープ酸化チタン微粒子を製造するものである。
【0014】
チタン含有水性液(A)
本発明の(A)成分であるチタン含有水性液は、金属チタン、加水分解性チタン、加水分解性チタン低縮合物、水酸化チタン、メタチタン酸、及び水酸化チタン低縮合物から選ばれる少なくとも1種のチタン化合物と過酸化水素水とを反応させて得られるチタンを含む水性液である。該水性液としては、上記したものであれば特に制限なしに従来から公知のものを適宜選択して使用することができる。
【0015】
上記した加水分解性チタンは、チタンに直接結合する加水分解性基を有するチタン化合物であって、水、水蒸気などの水分と反応することにより水酸化チタンを生成するものである。また、加水分解性チタンにおいて、チタンに結合する基の全てが加水分解性基であっても、もしくはその1部が加水分解された水酸基であってもどちらでも構わない。該加水分解性基としては、上記した様に水分と反応することにより水酸化チタンを生成するものであれば特に制限されないが、例えば、低級アルコキシル基やチタンと塩を形成する基(例えば、ハロゲン原子(塩素等)、水素原子、硫酸イオン等)などが挙げられる。
【0016】
加水分解性基として低級アルコキシル基を含有する加水分解性チタンとしては、特に一般式 Ti(OR)(式中、Rは同一もしくは異なって炭素数1〜5のアルキル基を示す)のテトラアルコキシチタンが好ましい。炭素数1〜5のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等が挙げられる。
【0017】
加水分解性基としてチタンと塩を形成する基を有する加水分解性チタンとしては、塩化チタン、硫酸チタン等が代表的なものとして挙げられる。
【0018】
また、加水分解性チタン低縮合物は、上記した加水分解性チタン同士の低縮合物である。
【0019】
加水分解性チタン低縮合物又は水酸化チタン低縮合物における縮合度は2〜30程度が好ましく、特に縮合度2〜10の範囲内のものを使用することが好ましい。
【0020】
チタン含有水性液(A)としては、上記したチタン化合物と過酸化水素水とを反応させることにより得られるチタンを含む水性液であれば、従来から公知のものを特に制限なしに使用することができる。具体的には下記のものを挙げることができる。
【0021】
(1)含水酸化チタンのゲルあるいはゾルに過酸化水素水を添加して得られるチタニルイオン過酸化水素錯体あるいはチタン酸(ペルオキソチタン水和物)水溶液(特開昭63-35419号公報及び特開平1-224220号公報参照)。
【0022】
(2)塩化チタンや硫酸チタン水溶液と塩基性溶液から製造した水酸化チタンゲルに過酸化水素水を作用させ、合成することで得られるチタニア膜形成用液体(特開平9-71418号公報及び特開平10-67516号公報参照)。
【0023】
また、上記したチタニア膜形成用液体において、チタンと塩を形成する基を有する塩化チタンや硫酸チタン水溶液とアンモニアや苛性ソーダ等のアルカリ溶液とを反応させることによりオルトチタン酸と呼ばれる水酸化チタンゲルを沈殿させる。次いで水を用いたデカンテーションによって水酸化チタンゲルを分離し、良く水洗し、さらに過酸化水素水を加え、余分な過酸化水素を分解除去することにより、黄色透明粘性液体を得ることができる。
【0024】
沈殿した該オルトチタン酸はOH基同志の重合や水素結合によって高分子化したゲル状態にあり、このままではチタンを含む水性液としては使用できない。このゲルに過酸化水素水を添加するとOH基の一部が過酸化状態になりペルオキソチタン酸イオンとして溶解、あるいは、高分子鎖が低分子に分断された一種のゾル状態になり、余分な過酸化水素は水と酸素になって分解し、無機膜形成用のチタンを含む水性液として使用できるようになる。
【0025】
このゾルはチタン原子以外に酸素原子と水素原子しか含まないので、乾燥や焼成によって酸化チタンに変化する場合、実質的に、水と酸素しか発生しないため有機成分の除去が不要で、従来より低温でも比較的密度の高い結晶性の酸化チタン膜を作成することができる。
【0026】
(3)塩化チタンや硫酸チタンの無機チタン化合物水溶液に過酸化水素を加えてぺルオキソチタン水和物を形成された後に、塩基性物質を添加して得られた溶液を放置もしくは加熱することによってペルオキソチタン水和物重合体の沈殿物を形成した後に、少なくともチタン含有原料溶液に由来する水以外の溶解成分を除去した後に過酸化水素を作用させて得られるチタン酸化物形成用溶液(特開2000-247638号公報及び特開2000-247639号公報参照)。
【0027】
本発明で使用するチタン含有水性液(A)において、過酸化水素水中にチタン化合物を添加して製造されたものを使用することが好ましい。チタン化合物としては、特に一般式Ti(OR)(式中、Rは同一もしくは異なって炭素数1〜5のアルキル基を示す)で表される加水分解して水酸基になる基を含有する加水分解性チタンやその加水分解性チタン低縮合物を使用することが製造の容易性、得られるチタン含有水性液の貯蔵安定性などの点から好ましい。
【0028】
加水分解性チタン及び/又はその低縮合物(以下、これらのものを単に「加水分解性チタンa」と略す)と過酸化水素水との混合割合は、加水分解性チタンa10重量部に対して過酸化水素水が過酸化水素換算で0.1〜100重量部、特に1〜20重量部の範囲内であることが好ましい。過酸化水素換算で0.1重量部未満になるとキレート形成が十分でなく白濁沈殿してしまう。一方、100重量部を超えると未反応の過酸化水素が残存し易く貯蔵中に危険な活性酸素を放出するので好ましくない。
【0029】
過酸化水素水の過酸化水素濃度は特に限定されないが3〜30重量%の範囲内であることが取り扱いやすさ、塗装作業性に関係する生成液の固形分の点などから好ましい。
【0030】
また、加水分解性チタンaを用いてなるチタン含有水性液(A)は、加水分解性チタンaを過酸化水素水と反応温度1〜70℃の範囲内で10分間〜20時間程度反応させることにより製造することができる。
【0031】
加水分解性チタンaを用いてなるチタン含有水性液(A)は、加水分解性チタンaと過酸化水素水と反応させることにより、加水分解性チタンが水で加水分解されて水酸基含有チタン化合物を生成し、次いで過酸化水素が生成した水酸基含有チタン化合物に配位するものと推察され、この加水分解反応及び過酸化水素による配位が同時近くに起こることにより得られるものであり、室温域で安定性が極めて高く長期の保存に耐えるキレート液を生成する。
【0032】
従来の製法で用いられる水酸化チタンゲルはTi−O−Ti結合により部分的に三次元化しており、このゲルと過酸化水素水を反応させて得られた物と本発明に用いるチタン含有水性液(A)とでは組成及び安定性において本質的に異なるものである。
【0033】
チタン以外の金属の塩(B)
チタン以外の金属の塩(B)としては、例えば、鉄、銅、バナジウム、ルテニウム、モリブデン、ニオブ、タンタル、クロム、アルミニウム、ビスマス、エルビウム、ガリウム、ガトリニウム、ボロミウム、インジウム、ランタン、マンガン、白金、ロジウム、スカンジウム、サマリウム、スズ、テルビウム、ツリウム、タングステン、イットリウム、イッテルビウム、ジムニウムなどの金属の塩を挙げることができるが、中でも鉄、銅、バナジウム、ルテニウム、モリブデン、ニオブ及びタンタルからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属の塩であることが好ましく、特に金属の塩が金属の錯塩であることが好ましい。特に好ましい金属の塩(B)としては、例えば硝酸鉄、塩化ニオブ、塩化タンタル、塩化ルテニウム、塩化エルビウム、タングステン酸アンモニウム、硫酸バナジル、ペンタエトキシタンタル、ペンタエトキシニオブなどを挙げることができる。
【0034】
金属の塩(B)の添加量は、チタン含有水性液(A)中のチタン原子1個に対して金属原子として0.0005〜0.03個、特に0.001〜0.02個の範囲内が好ましい。
【0035】
安定化剤(C)
安定化剤(C)は、前記チタン含有水性液(A)中のチタン化合物を安定に水中に存在させるために用いられるものである。またこの安定化剤(C)によりチタン含有水性液(A)を安定化させることにより、ゾルゲル法などの従来法よりもチタン濃度を高くすることができ、そのため酸化チタンの生産性を高めることができる。安定化剤(C)としては、例えば、リン酸系化合物、有機酸、塩基性化合物、β−ジケトン及びβ−ケトエステルなどが好ましいものとして挙げられる。
【0036】
上記リン酸系化合物としては、例えば、亞リン酸、強リン酸、三リン酸、次亞リン酸、次リン酸、トリメタリン酸、二亞リン酸、二リン酸、ピロ亞リン酸、ピロリン酸、メタ亞リン酸、メタリン酸、リン酸(オルトリン酸)、及びリン酸誘導体等のモノリン酸類及びこれらの塩類;トリポリリン酸、テトラリン酸、ヘキサリン酸、及び縮合リン酸誘導体等の縮合リン酸及びこれらの塩類;等が挙げられる。これらの化合物は1種もしくは2種以上組合せて使用することができる。また、上記した塩を形成するアルカリ化合物としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、アンモニウム等の有機又は無機アルカリ化合物が挙げられる。さらに、リン酸系化合物として水に溶解性のあるものを使用することが好ましい。
【0037】
リン酸系化合物としては、特に、リン酸、ピロリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、テトラリン酸ナトリウム、メタリン酸、メタリン酸アンモニウム、ヘキサメタリン酸ナトリウムなどが、チタン分散液の貯蔵安定性に優れた効果を発揮することから、このものを使用することが好ましい。
【0038】
上記有機酸としては、例えば、酢酸、シュウ酸、グリコ−ル酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、グルコン酸等の有機カルボン酸、有機スルフォン酸、有機スルフィン酸、フェノ−ル、チオフェノ−ル、有機ニトロ化合物、有機リン酸、1−ヒドロキシエタン−1、1−ジホスホン酸、アミノトリメチレンホスホン酸、N,N−ビス(2−ホスホエチル)ヒドロキシアミン、N,N−ビス(2−ホスホメチル)ヒドロキシアミン、2−ヒドロキシエチルホスホン酸ジメチルエーテルの加水分解物、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸等の有機亞リン酸などが挙げられる。また、有機酸の塩としては、有機酸にアルカリ化合物を配合してなるものである。該塩を形成するアルカリ化合物としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、アンモニウム等の有機又は無機アルカリ化合物が挙げられる。これらの化合物は1種もしくは2種以上組合せて使用することができる。さらに、有機酸として水に溶解性のあるものを使用することが好ましい。
【0039】
有機酸としては、特に、グリコ−ル酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、グルコン酸等のヒドロキシカルボン酸;1−ヒドロキシエタン−1、1−ジホスホン酸等のヒドロキシル基含有有機亞リン酸;2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸等のカルボキシル基含有有機亞リン酸が、チタン分散液の貯蔵安定性に優れた効果を発揮することから、このものを使用することが好ましい。
【0040】
上記塩基性化合物としては、アンモニア、有機塩基性化合物、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物などがある。塩基性化合物としては、特に、アンモニア、ジメチルエタノールアミン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、トリエチルアミン、モルホリン、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等がチタン分散液の貯蔵安定性に優れた効果を発揮することから、このものを使用することが好ましい。
【0041】
また上記β−ジケトン及びβ−ケトエステルとしては、例えばアセチルアセトン、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸−n−プロピル、アセト酢酸−i−プロピル、アセト酢酸−n−ブチル、アセト酢酸−sec−ブチル、アセト酢酸−t−ブチル、2,4−ヘキサン−ジオン、2,4−ヘプタン−ジオン、3,5−ヘプタン−ジオン、2,4−オクタン−ジオン、2,4−ノナン−ジオン、5−メチル−ヘキサン−ジオンなどが挙げられ、これらは1種もしくは2種以上組合せて使用することができる。これらのうち、特にアセチルアセトン、アセト酢酸エチルがチタン分散液の貯蔵安定性の点から、このものを使用することが好ましい。
【0042】
安定化剤(C)の配合割合は、チタン含有水性液(A)の固形分100重量部に対して、1〜400重量部、特に10〜200重量部の範囲内であることがチタン含有水性液(A)、チタン以外の金属の塩(B)および安定化剤(C)を配合した水分散液の貯蔵安定性の点から好ましい。
【0043】
金属ドープ酸化チタン微粒子の製造
金属ドープ酸化チタン微粒子は、チタン含有水性液(A)、チタン以外の金属の塩(B)および安定化剤(C)を配合し、70〜300℃の温度で1〜5時間程度加熱処理を行い、得られた金属ドープ酸化チタン微粒子の水分散液から微粒子を分離、乾燥させることにより得ることができる。上記加熱処理としては、水熱処理を用いることが好ましく、例えば、オートクレーブ中にチタン含有水性液(A)、チタン以外の金属の塩(B)および安定化剤(C)を配合し、圧力0.1〜20MPa、特に圧力2〜5MPaで、温度70〜300℃、特に100〜200℃の条件で1〜5時間程度水熱処理をすることにより金属ドープ酸化チタン微粒子の水分散液を得ることができる。得られた金属ドープ酸化チタン微粒子の水分散液は半透明の懸濁液または沈殿が生じる程度の分散液になることが多い。かくして得られた金属ドープ酸化チタン微粒子の水分散液は静置または遠心分離によって微粒子を分離し、必要に応じてアルコールおよび/又は水によって洗浄し、その後80〜100℃の温度で数時間乾燥させることにより金属ドープ酸化チタン微粒子を得ることができる。
【0044】
上記のようにして得られた金属ドープ酸化チタン微粒子は可視光線の領域でも光触媒活性を有するものであり、そのままで用いることもできるが、通常はバインダー成分と混合して光触媒活性を有する成形体とするか、バインダー成分と混合し、必要に応じて希釈剤によって希釈してコーティング剤とし、被塗物に塗布して光触媒活性を有する被膜を形成させることにより用いることができる。
【0045】
上記バインダー成分としては、無機バインダー及び有機バインダーのいずれであってもよいが、光により劣化しにくいものであることが好ましく、シリカ、アルミナ、フッ素樹脂、シリコーン樹脂などが好ましいものとして挙げられる。
【0046】
本発明の金属ドープ酸化チタン微粒子を用いた成形体や被膜は光触媒活性を有するものであり、有機物を分解するため、雑菌や細菌をなくしたり、汚れのこびりつきや臭いの発生を防ぐ用途に好適であり、また、光触媒活性による成形体又は被膜の表面の親水化作用によって、防汚性や防曇性を必要とする用途にも好適に用いることができる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下、「部」および「%」はそれぞれ「重量部」および「重量%」を意味する。本発明は以下の実施例に制限されるものではない。
【0048】
チタン含有水性液の製造
製造例1
テトラiso−プロポキシチタン10部を30%過酸化水素水10部と脱イオン水100部の混合物中に20℃で1時間かけて撹拌しながら滴下した。その後25℃で2時間熟成することで黄色透明の少し粘性のあるチタン含有水性液を得た。チタン含有水性液に含まれるチタンの濃度はTiO換算で2.3%である
金属ドープ酸化チタン微粒子の製造
実施例1
製造例1で得られたチタン含有水性液に硝酸鉄及びクエン酸を、該チタン含有水性液中のチタン原子1molに対して硝酸鉄0.01mol及びクエン酸0.6molとなるように添加して2時間撹拌し、透明な溶液を得た。該溶液を100ml用のオートクレーブに50ml導入し、圧力3MPa及び温度200℃の条件で1時間水熱処理を行った。水熱処理で得られた微粒子分散液をろ過し、脱イオン水でよく洗浄した後、80℃で5時間真空乾燥を行い鉄ドープ酸化チタン粉末(T1)を得た。
【0049】
実施例2
実施例1において、クエン酸の代わりにエチレンジアミンテトラ酢酸二アンモニウムを使用する以外は実施例1と同様にして製造し、鉄ドープ酸化チタン粉末(T2)を得た。
【0050】
実施例3
製造例1で得られたチタン含有水性液に五塩化ニオブ及びクエン酸を、該チタン含有水性液中のチタン原子1molに対して五塩化ニオブ0.01mol及びクエン酸0.6molとなるように添加して2時間撹拌し、透明な溶液を得た。該溶液を100ml用のオートクレーブに50ml導入し、圧力3MPa及び温度200℃の条件で1時間水熱処理を行った。水熱処理で得られた微粒子分散液をろ過し、脱イオン水でよく洗浄した後、80℃で5時間真空乾燥を行いニオブドープ酸化チタン粉末(T3)を得た。
【0051】
実施例4
実施例3において、クエン酸の代わりにエチレンジアミンテトラ酢酸二アンモニウムを使用する以外は実施例3と同様にして製造し、ニオブドープ酸化チタン粉末(T4)を得た。
【0052】
実施例5
製造例1で得られたチタン含有水性液に硫酸バナジル及びクエン酸を、該チタン含有水性液中のチタン原子1molに対して硫酸バナジル0.01mol及びクエン酸0.6molとなるように添加して2時間撹拌し、透明な溶液を得た。該溶液を100ml用のオートクレーブに50ml導入し、圧力3MPa及び温度200℃の条件で1時間水熱処理を行った。水熱処理で得られた微粒子分散液をろ過し、脱イオン水でよく洗浄した後、80℃で5時間真空乾燥を行いバナジウムドープ酸化チタン粉末(T5)を得た。
【0053】
実施例6
実施例5において、クエン酸の代わりにエチレンジアミンテトラ酢酸二アンモニウムを使用する以外は実施例5と同様にして製造し、バナジウムドープ酸化チタン粉末(T6)を得た。
【0054】
実施例7
製造例1で得られたチタン含有水性液に五塩化ニオブ及びリンゴ酸を、該チタン含有水性液中のチタン原子1molに対して五塩化ニオブ0.01mol及びリンゴ酸0.6molとなるように添加して2時間撹拌し、透明な溶液を得た。該溶液を100ml用のオートクレーブに50ml導入し、圧力3MPa及び温度200℃の条件で1時間水熱処理を行った。水熱処理で得られた微粒子分散液をろ過し、脱イオン水でよく洗浄した後、80℃で5時間真空乾燥を行いニオブドープ酸化チタン粉末(T7)を得た。
【0055】
実施例8
実施例7において、リンゴ酸の代わりにアセチルアセトンを使用する以外は実施例7と同様にして製造し、ニオブドープ酸化チタン粉末(T8)を得た。
【0056】
金属ドープしていない酸化チタン微粒子の製造
比較例1
製造例1で得られたチタン含有水性液を100ml用のオートクレーブに50ml導入し、圧力3MPa及び温度200℃の条件で1時間水熱処理を行った。水熱処理で得られた微粒子分散液をろ過し、脱イオン水でよく洗浄した後、80℃で5時間真空乾燥を行い酸化チタン粉末(T9)を得た。
【0057】
光触媒活性の評価
上記実施例で得られた金属ドープ酸化チタン粉末及び比較例で得られた酸化チタン粉末について下記試験方法に従って光触媒活性を評価した。得られた結果を後記表1に示す。
【0058】
光触媒活性:石英ガラス製の反応容器に濃度20ppmの酢酸水溶液100部を配合し、該溶液中に金属ドープ酸化チタン粉末又は酸化チタン粉末0.05部を添加した。光源として100Wの高圧水銀ランプを用い、紫外線カットフィルターにより450nm以下の波長の光をカットして、この溶液へ照射し、光照射開始から2時間後の溶液中の酢酸濃度を液体クロマトグラフィーで定量した。光照射後の酢酸濃度が低いほど光触媒活性が高いといえる。
【0059】
【表1】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属チタン、加水分解性チタン化合物、加水分解性チタン化合物の低縮合物、水酸化チタン、メタチタン酸、及び水酸化チタンの低縮合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種のチタン化合物を過酸化水素水と混合して得られるチタン含有水性液(A)を、チタン以外の金属の塩(B)及び安定化剤(C)の存在下で加熱処理して得られた溶液から分離及び乾燥することにより金属ドープ酸化チタン微粒子を得ることを特徴とする金属ドープ酸化チタン微粒子の製造方法。
【請求項2】
チタン含有水性液(A)に含まれるチタンの濃度が、TiO換算で0.1〜10重量%であることを特徴とする請求項1に記載の金属ドープ酸化チタン微粒子の製造方法。
【請求項3】
チタン以外の金属の塩(B)が、鉄、銅、バナジウム、ルテニウム、モリブデン、ニオブ及びタンタルからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属の塩である請求項1又は2に記載の金属ドープ酸化チタン微粒子の製造方法。
【請求項4】
安定化剤(C)が、リン酸系化合物、有機酸、塩基性化合物、β−ジケトン及びβ−ケトエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物である請求項1〜3のいずれか一項に記載の金属ドープ酸化チタン微粒子の製造方法。
【請求項5】
加熱処理が、圧力0.1〜20MPa及び加熱温度70〜300℃の条件で水熱処理をする工程を含むものである請求項1〜4のいずれか一項に記載の金属ドープ酸化チタン微粒子の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の製造方法を用いて得られる金属ドープ酸化チタン微粒子。
【請求項7】
請求項6に記載の金属ドープ酸化チタン微粒子を用いて得られることを特徴とする可視光線の領域でも光触媒活性を有する光触媒体。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の製造方法を用いて得られる金属ドープ酸化チタン微粒子を含有する成形体。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の製造方法を用いて得られる金属ドープ酸化チタン微粒子を含有するコーティング剤。


【公開番号】特開2006−21991(P2006−21991A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−165310(P2005−165310)
【出願日】平成17年6月6日(2005.6.6)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】