説明

金属ナノ構造体を含む信頼できる耐久性導電膜

導電性ナノ構造体で形成された信頼できる耐久性導電膜を記述する。導電膜は、長時間の強力な露光後にほぼ一定のシート抵抗を示す。一つの実施形態において、複数の金属ナノ構造体を含む金属ナノ構造ネットワーク層を含む、導電膜であって、少なくとも85℃の温度に少なくとも250時間曝露中に20%以下しか変化しないシート抵抗を有する、導電膜を提供する。種々の更なる実施形態においては、導電膜は湿度85%にも曝露される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本願は、米国特許法第119条(e)項の下、2009年5月5日に出願された米国仮特許出願第61/175,745号の優先権を主張し、この米国仮特許出願は、その全体が本明細書中に参考として援用される。
【0002】
背景
技術分野
本開示は、信頼できる耐久性導電膜に関し、特に、強力な長時間の露光下で信頼できる電気的性質を示し、物理的応力に耐えることができる導電膜、及びそれを形成する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
先行技術の説明
導電性ナノ構造体は、そのサブミクロンサイズのために、導電性薄膜を形成することができる。多くの場合、導電性薄膜は、光学的に透明であり、「透明導電体」とも称される。インジウムスズ酸化物(ITO)膜などの導電性ナノ構造体で形成された薄膜は、液晶ディスプレイなどのフラットパネルエレクトロクロミックディスプレイ、プラズマディスプレイ、タッチパネル、エレクトロルミネッセント素子及び薄膜光電池における透明電極として、帯電防止層として、さらに電磁波シールド層として使用することができる。
【0004】
同時係属中の同一人による米国特許出願第11/504,822号、同11/871,767号、及び同11/871,721号は、金属ナノワイヤなどの異方性導電性ナノ構造体を相互接続することによって形成された透明導電体を記載している。ITO膜のように、ナノ構造に基づく透明導電体は、フラットパネルディスプレイ及びタッチスクリーンを含めたエレクトロクロミックディスプレイにおいて薄膜トランジスタと接続されたものなどの透明電極として特に有用である。さらに、ナノ構造に基づく透明導電体は、カラーフィルター及び偏光子のコーティングなどとしても適切である。上記同時係属中の出願を参照によりその全体を本明細書に援用する。
【0005】
高品質のディスプレイシステムに対する需要増大を満足させる、信頼できる耐久性のナノ構造に基づく透明導電体を提供する必要がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
簡単な要旨
導電性ナノ構造体で形成された信頼できる耐久性導電膜を記述する。
【0007】
一実施形態は、複数の金属ナノ構造体を含む金属ナノ構造ネットワーク層を含む、導電膜であって、少なくとも85℃の温度に少なくとも250時間曝露中に20%以下しか変化しないシート抵抗を有する、導電膜を提供する。
【0008】
種々の更なる実施形態においては、導電膜は湿度85%にも曝露される。
【0009】
別の実施形態においては、導電膜は、少なくとも85℃の温度に少なくとも250時間曝露中に10%以下しか変化しない、又は少なくとも85℃の温度に少なくとも500時間曝露中に10%以下しか変化しない、又は少なくとも85℃の温度及び2%以下の湿度に少なくとも1000時間曝露中に10%以下しか変化しない、シート抵抗を有する。
【0010】
種々の実施形態においては、導電膜は、2000ppm未満の銀錯イオンを有する銀ナノ構造ネットワーク層を含み、銀錯イオンとしては硝酸、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物イオン又はその組合せが挙げられる。
【0011】
更なる一実施形態においては、導電膜は、370ppm未満の塩化物イオンを含む。
【0012】
更なる実施形態においては、導電膜は、さらに、第1の腐食防止剤を含む。別の一実施形態においては、導電膜は、さらに、金属ナノ構造ネットワーク層の上にあるオーバーコートを含み、オーバーコートは第2の腐食防止剤を含む。
【0013】
別の一実施形態は、複数の銀ナノ構造体とゼロから2000ppm未満の銀錯イオンとを含む銀ナノ構造ネットワーク層を含む、導電膜を提供する。
【0014】
更なる実施形態においては、銀ナノ構造体は、硝酸、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物イオン又はその組合せを精製除去した銀ナノワイヤである。
【0015】
別の実施形態においては、導電膜は、さらに、1種類以上の粘度調整剤を含み、粘度調整剤は、硝酸、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物イオン又はその組合せを精製除去したHPMCである。
【0016】
ある実施形態においては、導電膜は、光に安定であり、30,000ルーメン光強度下で400時間で20%以下しか変化しないシート抵抗を有する。
【0017】
別の一実施形態は、水性媒体中の銀ナノ構造体の懸濁液を用意すること、銀イオンと銀錯体を形成する能力のあるリガンドを懸濁液に添加すること、懸濁液に、銀ナノ構造体を含む沈降物とハロゲン化物イオンを含む上澄みとを形成させること、及びハロゲン化物イオンを含む上澄みを銀ナノ構造体から分離することを含む、方法を提供する。
【0018】
更なる実施形態においては、リガンドは水酸化アンモニア(NHOH)、シアノ(CN)又はチオサルフェート(S)である。
【0019】
更に別の一実施形態は、複数の銀ナノ構造体、分散剤、及び複数の銀ナノ構造体0.05w/w%当たり0.5ppm以下の銀錯イオンを含む、精製インク調合物を提供する。
【0020】
更なる実施形態においては、精製インク調合物は、硝酸、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物イオン又はその組合せを精製除去した銀ナノワイヤを含む。
【0021】
更なる一実施形態においては、精製インク調合物は、さらに、腐食防止剤を含む。
【0022】
図面において、同一の参照番号は、類似の要素又は行為を示す。図中の要素のサイズ及び相対位置は、必ずしも一定の縮尺で描かれてはいない。例えば、種々の要素の形状、及び角度は、一定の縮尺で描かれてはおらず、これらの要素の一部は、任意に拡大され、位置決めされて、図を読みやすくしている。さらに、描かれた要素の特定の形状は、特定の要素の実際の形状に関する任意の情報を伝えるようには意図されておらず、単に図中の読み取りを容易にするために選択されている。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、精製銀ナノワイヤと未精製銀ナノワイヤで形成された各導電膜におけるシート抵抗の変化の比較結果を示す。
【図2】図2は、精製ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)と未精製HPMCで形成された各導電膜におけるシート抵抗の変化の比較結果を示す。
【図3】図3は、それぞれのインク調合物における、腐食防止剤ありと腐食防止剤なしの各導電膜におけるシート抵抗の変化の比較結果を示す。
【図4】図4は、それぞれのインク調合物における、腐食防止剤ありと腐食防止剤なしの各導電膜におけるシート抵抗の変化の比較結果を示す。
【図5】図5は、それぞれのオーバーコート層における、腐食防止剤ありと腐食防止剤なしの各導電膜におけるシート抵抗の変化の比較結果を示す。
【図6】図6は、それぞれのオーバーコート層における、腐食防止剤ありと腐食防止剤なしの各導電膜におけるシート抵抗の変化の比較結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
発明の詳細な説明
導電性ナノ構造体を相互接続すると、ナノ構造ネットワーク層を形成することができ、1個以上の導電路をナノ構造体間の連続した物理的接触によって確立することができる。このプロセスは、パーコレーションとも称される。ネットワーク全体が導電性になるように電気的パーコレーションしきい値に達する十分なナノ構造体が存在しなければならない。したがって、電気的パーコレーションしきい値は、長距離の接続性を得ることができる臨界値である。典型的には、電気的パーコレーションしきい値は、ナノ構造ネットワーク層における導電性ナノ構造体の充填密度又は濃度と相関する。
【0025】
導電性ナノ構造体
本明細書では「導電性ナノ構造体」又は「ナノ構造体」は、一般には、導電性ナノサイズ構造体を指し、その少なくとも1つの寸法は500nm未満、より好ましくは250nm、100nm、50nm又は25nm未満である。
【0026】
ナノ構造体は、任意の形状又は幾何形態とすることができる。ある実施形態においては、ナノ構造体は、等方性形状(すなわち、アスペクト比=1)である。典型的な等方性ナノ構造体としてはナノ粒子が挙げられる。好ましい実施形態においては、ナノ構造体は、異方性形状(すなわちアスペクト比≠1)である。本明細書ではアスペクト比とは、ナノ構造体の長さと幅(又は直径)の比を指す。異方性ナノ構造体は、典型的には、その長さに沿った長軸を有する。例示的な異方性ナノ構造体としては、本明細書に定義されたナノワイヤ及びナノチューブが挙げられる。
【0027】
ナノ構造体は、中実でも中空でもよい。中実ナノ構造体としては、例えば、ナノ粒子及びナノワイヤが挙げられる。したがって、「ナノワイヤ」とは、中実異方性ナノ構造体を指す。典型的には、各ナノワイヤは、10を超える、好ましくは50を超える、より好ましくは100を超えるアスペクト比(長さ:直径)を有する。典型的には、ナノワイヤは、500nmを超える、又は1μmを超える、又は10μmを超える長さである。
【0028】
中空ナノ構造体としては、例えば、ナノチューブが挙げられる。典型的には、ナノチューブは、10を超える、好ましくは50を超える、より好ましくは100を超えるアスペクト比(長さ:直径)を有する。典型的には、ナノチューブは、500nmを超える、又は1μmを超える、又は10μmを超える長さである。
【0029】
ナノ構造体は、任意の導電性材料で形成することができる。最も典型的には、導電性材料は金属である。金属材料は、元素金属(例えば、遷移金属)又は金属化合物(例えば、金属酸化物)とすることができる。金属材料は、2種類以上の金属を含むバイメタル材料又は金属アロイとすることもできる。適切な金属としては、銀、金、銅、ニッケル、金めっき銀、白金及びパラジウムが挙げられるが、それだけに限定されない。導電性材料は、炭素、グラファイト(炭素の同素体)などの非金属とすることもできる。
【0030】
導電膜
ナノ構造ネットワーク層を調製するために、ナノ構造体の分散液を基体上に堆積させることができ、乾燥又は硬化プロセスが続く。分散液は、「インク組成物」又は「インク調合物」とも称される。インク組成物は、典型的には、ナノ構造体(例えば、金属ナノワイヤ)、液状担体(又は分散剤)、並びに基体上のナノ構造体の分散及び/又はナノ構造体の固定化を容易にする任意に選択される薬剤を含む。これらの薬剤は、典型的には不揮発性であり、界面活性剤、粘度調整剤などが挙げられる。例示的なインク調合物は、同時係属中の米国特許出願第11/504,822号に記載されている。適切な界面活性剤の代表的な例としては、Zonyl(登録商標)FSN、Zonyl(登録商標)FSO、Zonyl(登録商標)FSA、Zonyl(登録商標)FSH、Triton(x100、x114、x45)、Dynol(604、607)、n−ドデシルb−D−マルトシド及びNovekが挙げられる。適切な粘度調整剤の例としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、メチルセルロース、キサンタンガム、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースが挙げられる。適切な溶媒の例としては、水及びイソプロパノールが挙げられる。
【0031】
特定の実施形態においては、界面活性剤と粘度調整剤の比は、好ましくは、約80から約0.01の範囲であり、粘度調整剤と金属ナノワイヤの比は、好ましくは、約5から約0.000625の範囲であり、金属ナノワイヤと界面活性剤の比は、好ましくは、約560から約5の範囲である。インク組成物の成分の比は、使用する基体及び適用方法に応じて変更することができる。ナノワイヤ分散の好ましい粘度範囲は、約1から100cPである。
【0032】
ナノ構造ネットワーク層は、インク付着後、かつ分散剤が少なくともある程度乾燥又は蒸発した後に、形成される。したがって、ナノ構造ネットワーク層は、無作為に分布して相互接続するナノ構造体と、例えば粘度調整剤を含めて、インク組成物の別の不揮発成分とを含む。ナノ構造ネットワーク層は、典型的には構成するナノ構造体の直径のそれに類似した厚さを有する、薄膜の形態を取ることが多い。ナノ構造体数がパーコレーションしきい値に達すると、薄膜は導電性になり、「導電膜」と称される。したがって、別段の記載がない限り、本明細書では「導電膜」とは、例えば粘度調整剤、界面活性剤及び腐食防止剤の1種類以上を含めて、インク組成物の不揮発成分のいずれかと組み合わせられた、ネットワークを構成するパーコレーションナノ構造体で形成されたナノ構造ネットワーク層を指す。ある実施形態においては、導電膜とは、前記ナノ構造ネットワーク層とオーバーコート層、バリア層などの追加の層とを含む、複合膜構造体を指し得る。
【0033】
典型的には、ナノ構造体が長いほど、パーコレーション伝導率を得るのに必要なナノ構造体が少なくなる。ナノワイヤなどの異方性ナノ構造体の場合、電気的パーコレーションしきい値又は充填密度は、ナノワイヤの長さに反比例する。参照によりその全体を本明細書に援用する同時係属中の共同所有された出願11/871,053は、パーコレーションしきい値におけるナノ構造体のサイズ/形状と表面充填密度との理論的及び経験的関係を詳述している。
【0034】
導電膜の導電率は、「膜抵抗」又は「シート抵抗」によって測定されることが多く、オーム/スクエア(又は「Ω/□」)で表される。膜抵抗は、少なくとも表面充填密度、ナノ構造体のサイズ/形状、及びナノ構造体構成要素固有の電気的性質の関数である。本明細書では、薄膜は、10Ω/□以下のシート抵抗を有する場合に伝導性とみなされる。好ましくは、シート抵抗は10Ω/□、3,000Ω/□、1,000Ω/□又は100Ω/□以下である。典型的には、金属ナノ構造体で形成された伝導性ネットワークのシート抵抗は、10Ω/□から1000Ω/□、100Ω/□から750Ω/□、50Ω/□から200Ω/□、100Ω/□から500Ω/□、又は100Ω/□から250Ω/□、又は10Ω/□から200Ω/□、10Ω/□から50Ω/□、又は1Ω/□から10Ω/□の範囲である。
【0035】
光学的には、導電膜は「光透過率」及び「曇価」によって特徴づけることができる。透過率とは、媒体を透過する入射光の割合を指す。入射光とは、波長約400nmから700nmの可視光を指す。種々の実施形態においては、導電膜の光透過率は、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、又は少なくとも85%、少なくとも90%、又は少なくとも95%である。光透過率が少なくとも85%である場合、導電膜は「透明」とみなされる。曇価は、光拡散の指標である。それは、透過中に入射光から分離され、散乱される光の量の割合(すなわち、透過曇価)を指す。主として媒体(例えば、導電膜)の性質である光透過率とは異なり、曇価は、製造に関することが多く、典型的には、媒体における表面粗さ及び埋め込み粒子又は組成不均一性に起因する。種々の実施形態においては、透明導電体の曇価は、10%以下、8%以下、5%以下又は1%以下である。
【0036】
シート抵抗の信頼性
導電膜の安定な電気的及び光学的性質によって見積もられる長期の信頼性は、その性能の重要な指標である。
【0037】
例えば、銀ナノ構造体を含むインク調合物は、典型的にはシート抵抗が1000Ω/□未満かつ光透過率が90%を超える導電膜に成型することができ、LCD、タッチスクリーンなどのディスプレイ装置における透明電極として適切である。例えば、同時係属中の及び共同所有された出願である米国特許出願第11/504,822号、同11/871,767号、同11/871,721号及び同12/106,244号を参照されたい。上記装置のいずれかにおける光路中に位置するときには、導電膜は、装置の通常の耐用年数中に長時間及び/又は強度の光に曝露される。したがって、導電膜は、長期の光安定性を保証するある基準を満たす必要がある。
【0038】
銀ナノ構造体で形成された導電膜のシート抵抗は、露光中に変化又はドリフトし得ることが認められた。例えば、30%を超えるシート抵抗増加が、銀ナノワイヤで形成された導電膜において250〜500時間にわたり周囲光中で認められた。
【0039】
シート抵抗のドリフトも露光強度の関数である。例えば、周囲光の約30から100倍強い促進光条件下では、シート抵抗のドリフトがはるかに速く、より劇的に起こる。本明細書では「促進光条件」とは、連続した強力なシミュレート光に導電膜を曝露する人工的又は試験条件を指す。多くの場合、促進光条件は、導電膜が所与の装置の通常の耐用年数中にさらされる露光量をシミュレートするように制御することができる。促進光条件下では、光強度は、典型的には、所与の装置の作動光強度と比較してかなり高く、したがって、導電膜の信頼性を試験する露光期間を、同じ装置の通常の耐用年数と比較してかなり短縮することができる。
【0040】
走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)などの光学顕微鏡法によって、抵抗率の高い導電膜中の銀ナノワイヤがところどころ破壊され、細くなり、又は構造的に損なわれたようにみえることが観察された。銀ナノワイヤの破損は、パーコレーション部位(すなわち、2本のナノワイヤが接触又は交差する場所)の数を減少させ、伝導路における複数の故障を生み、それは、シート抵抗の増加、すなわち、伝導率の低下を招く。
【0041】
長時間露光後に光によって誘発される銀ナノ構造体の構造上の損傷の発生率を低下させるために、ある実施形態は、促進光条件(30,000ルーメン)下で少なくとも300時間で20%以下、又は少なくとも400時間で20%以下、又は少なくとも300時間で10%以下しか変化しないシート抵抗を有する、銀ナノ構造体の信頼できる光安定性導電膜、及びその製造方法を記述している。
【0042】
長時間露光に加えて、周囲温度及び湿度より高いなどの環境要因、並びに大気の腐食性要素も、膜の信頼性に潜在的に影響を及ぼし得る。したがって、導電膜の信頼性を評価する追加の基準としては、少なくとも250〜500時間(例えば、少なくとも250時間)、85℃及び湿度85%で、10〜30%(例えば、20%以下)しか変化しないほぼ一定のシート抵抗が挙げられる。
【0043】
上記レベルの信頼性を得るために、露光又は環境要素下で銀ナノ構造体の物理的完全性に潜在的に干渉する薬剤を除去し、又は最少化する。さらに、導電膜は、1個以上のバリア層(オーバーコート)、並びに腐食防止剤を取り入れることによって、別の環境要素からも保護される。
【0044】
A.銀錯イオンの除去
硝酸銀、ハロゲン化銀などのある種の感光性銀錯体は、光及び環境要素に曝露された銀ナノ構造ネットワーク層中の細くなった又は切断された銀ナノ構造体に絶えず付随することが認められる。例えば、微量(3500ppm未満)であっても、塩化物イオンは、長時間露光後、及び/又は(例えば、周囲温度及び湿度より高い)ある環境条件下で、銀ナノワイヤで形成された導電膜のシート抵抗を著しく増加させ得る。実施例6〜7に示されるように、標準プロセスによって、すなわち、塩化物イオンを精製除去しないで、調製された導電膜のシート抵抗は、32,000ルーメンで400時間の強力な露光後に急激に(200%を超えて)増加した。対照的に、精製して塩化物イオンを除去した、又は塩化物イオン量を最小化した、導電膜では、シート抵抗は、400時間の強力な露光(32,000ルーメン)後でも安定(5〜20%以下の変化)なままであった。
【0045】
同様に、フッ化物(F)、臭化物(Br)、ヨウ化物(I)イオンなどの別のハロゲン化物イオンも感光性銀錯体を形成する傾向があり、長時間露光後に、及び/又は(例えば、周囲温度及び湿度より高い)ある環境条件下で、導電膜におけるシート抵抗の著しい変化を招き得る。
【0046】
したがって、本明細書では「銀錯イオン」という用語は、硝酸イオン(NO)、フッ化物(F)、塩化物(Cl)臭化物(Br)及びヨウ化物(I)イオンから選択される1クラス以上のイオンを指す。まとめて、さらに、個々に、フッ化物(F)、塩化物(Cl)臭化物(Br)及びヨウ化物(I)イオンはハロゲン化物とも称される。
【0047】
典型的な製造プロセスにおいては、ハロゲン化物及び硝酸イオンは、幾つかの可能な経路によって最終導電膜に導入することができる。まず、微量の銀錯イオンが、銀ナノ構造体の調製又は合成後に副生物又は不純物として存在し得る。例えば、塩化銀(AgCl)は、不溶性副生物であり、同時係属中の共同所有された米国特許出願第11/766,552号に記載の化学合成に従って調製された銀ナノワイヤと共沈殿する。同様に、臭化物(AgBr)及びヨウ化銀(AgI)も、臭化物及び/又はヨウ化物混入物を使用又は導入する銀ナノ構造体の代替合成において不溶性副生物として存在し得る。
【0048】
塩化銀、臭化銀、ヨウ化銀などのある種のハロゲン化銀は、一般に不溶性であり、したがって銀ナノ構造体から物理的に分離することが困難である。したがって、一実施形態は、まずハロゲン化銀を可溶化し、続いて遊離ハロゲン化物イオンを除去することによって、ハロゲン化物イオンを除去する方法を提供する。この方法は、水性媒体中の銀ナノ構造体の懸濁液を用意すること、銀イオンと銀錯体を形成する能力のあるリガンドを懸濁液に添加すること、懸濁液に、銀ナノ構造体を含む沈降物とハロゲン化物イオンを含む上澄みとを形成させること、及びハロゲン化物イオンを含む上澄みを銀ナノ構造体から分離することを含む。
【0049】
イオン化合物として、不溶性ハロゲン化銀(AgX)(式中、XはBr、Cl又はIである。)、銀イオン(Ag)及びハロゲン化物イオン(X)は、下記平衡(1)に示すように、水性媒体中で平衡状態で共存する。例として、塩化銀は、極めて低い解離定数(25℃で7.7×10−10)を有し、平衡(1)はAgClの形成に圧倒的に有利である。(塩化銀、臭化銀、ヨウ化銀などの)不溶性ハロゲン化銀を可溶化するために、下記平衡(2)に示すように、リガンド、例えば、水酸化アンモニア(NHOH)を添加して、銀イオンとの安定な錯体Ag(NHを形成することができる。Ag(NHは、ハロゲン化銀よりもさらに低い解離定数を有し、したがってAg及び遊離ハロゲン化物イオンの形成に有利なように平衡(1)を変化させる。
【0050】
【化1】

遊離ハロゲン化物イオンが不溶性ハロゲン化銀から遊離すると、ハロゲン化物イオンは上澄みに存在し、より重い銀ナノ構造体は沈降物を形成する。したがって、ハロゲン化物イオンは、デカンテーション、ろ過、又は固相から液相を分離する任意の別の手段によって、銀ナノ構造体から分離することができる。
【0051】
銀イオン(Ag)に対して高親和性を有する追加のリガンドの例としては、例えば、シアノ(CN)及びチオサルフェート(S)が挙げられ、それぞれ安定な錯体Ag(CN)及びAg(S3−を形成する。
【0052】
硝酸銀、フッ化銀などの可溶性銀錯体は、銀ナノ構造体の懸濁液を繰り返し洗浄することによって除去することができる。
【0053】
導電膜中の更なる銀錯イオン源は、インク調合物中の銀ナノ構造体以外の1種類以上の成分によって導入される。例えば、市販ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)は、インク調合物において結合剤として頻繁に使用され、微量の塩化物(ほぼ約10ppm)を含む。市販HPMC中の塩化物は、複数回の熱水洗浄によって除去することができる。したがって、塩化物量は約10〜40ppmに削減することができる。
【0054】
あるいは、塩化物は、塩化物レベルが100ppm未満、好ましくは50ppm未満、より好ましくは20ppm未満になるまで、脱イオン水による数日間の透析によって除去することができる。
【0055】
したがって、種々の実施形態は、2000ppm、1500ppm又は1000ppm以下の(NO、F、Br、Cl、I又はその組合せを含めた)銀錯イオンを含む及び有する、銀ナノ構造ネットワーク層の導電膜を提供する。より具体的な実施形態においては、銀錯イオン400ppm以下、又は370ppm以下、又は100ppm以下、又は銀錯イオン40ppm以下が導電膜中に存在する。種々の実施形態においては、銀ナノ構造ネットワーク層は、本明細書に記載のように、精製銀ナノ構造体、又は精製HPMCと組み合わせた精製銀ナノ構造体を含む。上記実施形態のいずれにおいても、銀錯イオンを塩化物イオンとすることができる。
【0056】
さらに、一実施形態は、複数の銀ナノ構造体、分散剤、及び複数の銀ナノ構造体0.05w/w%当たり0.5ppm以下の(NO、F、Br、Cl、I又はその組合せを含めた)銀錯イオンを含む、インク調合物を提供する。更なる一実施形態は、複数の銀ナノ構造体0.05w/w%当たり1ppm以下の銀錯イオンを含むインク調合物を提供する。更なる実施形態においては、インク組成物は、複数の銀ナノ構造体0.05w/w%当たり5ppm以下の銀錯イオンを含む。更なる実施形態においては、インク組成物は、複数の銀ナノ構造体0.05w/w%当たり10ppm以下の銀錯イオンを含む。特定の一実施形態は、0.05w/w%銀ナノ構造体、0.1w/w%HPMC、及び1ppm以下の銀錯イオンを含む、インク調合物を提供する。さらに、上記実施形態のいずれか一つにおいては、銀錯イオンは塩化物イオンである。
B.導電膜の環境信頼性
銀錯イオンの削減又は除去に加えて、導電膜の信頼性は、大気の腐食性要素を含めて、有害な環境影響から銀ナノ構造体を保護することによってさらに高めることができる。例えば、雰囲気中の微量のHSは、銀ナノ構造体の腐食を引き起こし、最終的に導電膜の伝導率の低下を招き得る。ある状況においては、銀ナノ構造体の伝導率に対する環境影響は、銀ナノ構造体及び/又はHPMCが本明細書に記載のように精製された後でさえも、高温及び/又は高湿でより明白になり得る。
【0057】
本明細書に記載のある実施形態によれば、金属ナノワイヤネットワークによって形成される導電膜は、周囲条件で、又は高温及び/又は高湿で、環境要素に耐えることができる。
【0058】
ある実施形態においては、導電膜は、少なくとも85℃の温度に少なくとも250時間曝露中に20%以下しか変化しないシート抵抗を有する。
【0059】
ある実施形態においては、導電膜は、少なくとも85℃の温度に少なくとも250時間曝露中に10%以下しか変化しないシート抵抗を有する。
【0060】
ある実施形態においては、導電膜は、少なくとも85℃の温度に少なくとも500時間曝露中に10%以下しか変化しないシート抵抗を有する。
【0061】
更なる実施形態においては、導電膜は、少なくとも85℃の温度及び最高85%の湿度に少なくとも250時間曝露中に20%以下しか変化しないシート抵抗を有する。
【0062】
更なる実施形態においては、導電膜は、少なくとも85℃の温度及び最高85%の湿度に少なくとも250時間曝露中に20%以下しか変化しないシート抵抗を有する。
【0063】
更なる実施形態においては、導電膜は、少なくとも85℃の温度及び最高85%の湿度に少なくとも500時間曝露中に10%以下しか変化しないシート抵抗を有する。
【0064】
更なる実施形態においては、導電膜は、少なくとも85℃の温度及び2%以下の湿度に少なくとも1000時間曝露中に10%以下しか変化しないシート抵抗を有する。
【0065】
したがって、種々の実施形態は、腐食防止剤を添加して、雰囲気HSの腐食性効果を中和することを記述する。腐食防止剤は、幾つかの機序によってHS曝露から銀ナノ構造体を保護するのに役立つ。ある種の腐食防止剤は、銀ナノ構造体の表面に結合し、HSを含めて、それだけに限定されない腐食性要素から銀ナノ構造体を遮蔽する保護層を形成する。別の腐食防止剤は、HSが銀と反応するよりも容易にHSと反応し、したがってHS捕捉剤として作用する。
【0066】
適切な腐食防止剤としては、出願人の同時係属中の共同所有された米国特許出願第11/504,822号に記載のものが挙げられる。例示的な腐食防止剤としては、ベンゾトリアゾール(BTA)、トリトリアゾール、ブチルベンジルトリアゾールなどのアルキル置換ベンゾトリアゾール、2−アミノピリミジン、5,6−ジメチルベンゾイミダゾール、2−アミノ−5−メルカプト−1,3,4−チアジアゾール、2−メルカプトピリミジン、2−メルカプトベンゾオキサゾール、2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾイミダゾール、リチウム3−[2−(ペルフルオロアルキル)エチルチオ]プロピオナート、ジチオチアジアゾール、アルキルジチオチアジアゾール及びアルキルチオール(アルキルは飽和C−C24直鎖炭化水素鎖である。)、トリアゾール、2,5−ビス(オクチルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、ジチオチアジアゾール、アルキルジチオチアジアゾール、アルキルチオールアクロレイン、グリオキサール、トリアジン、並びにn−クロロスクシンイミドが挙げられるが、それだけに限定されない。
【0067】
腐食防止剤は、任意の手段によって本明細書に記載の導電膜に添加することができる。例えば、腐食防止剤は、インク調合物に混ぜ込むことができ、ナノ構造ネットワーク層内に分散させることができる。インク調合物のある種の添加剤は、界面活性剤及び腐食防止剤として働く決闘(duel)機能を有することができる。例えば、Zonyl(登録商標)FSAは、界面活性剤及び腐食防止剤として機能することができる。それに加えて、又はその代わりに、1種類以上の腐食防止剤を、銀ナノ構造体のナノ構造層の上にあるオーバーコート中に埋め込むことができる。
【0068】
したがって、一実施形態は、複数の銀ナノ構造体を含み、1500ppm未満の銀錯イオンを含む、ナノ構造ネットワーク層と、ナノ構造ネットワーク層の上にあるオーバーコートであって、腐食防止剤を含むオーバーコートとを含む、導電膜を提供する。
【0069】
別の一実施形態は、750ppm未満の銀錯イオンを含み、複数の銀ナノ構造体及び腐食防止剤を含むナノ構造ネットワーク層と、ナノ構造ネットワーク層の上にあるオーバーコートとを含む、導電膜を提供する。
【0070】
更なる一実施形態は、370ppm未満の銀錯イオンを含み、複数の銀ナノ構造体及び第1の腐食防止剤を含むナノ構造ネットワーク層と、ナノ構造ネットワーク層の上にあるオーバーコートであって、第2の腐食防止剤を含むオーバーコートとを含む、導電膜を提供する。
【0071】
上記実施形態のいずれか一つにおいては、銀錯イオンは塩化物イオンである。
【0072】
ある実施形態においては、第1の腐食防止剤はアルキルジチオチアジアゾールであり、第2の腐食防止剤はZonyl(登録商標)FSAである。
【0073】
低ハロゲン化物、低硝酸塩導電膜を対象とする上記実施形態のいずれかにおいては、導電膜は、少なくとも85℃の温度に少なくとも250時間又は少なくとも500時間曝露中に10%以下又は20%以下しか変化しないシート抵抗を有する。ある実施形態においては、導電膜は、2%未満の湿度にも曝露される。別の実施形態においては、導電膜は、最高85%の湿度にも曝露される。
【0074】
オーバーコートは、腐食防止剤を含んでも含まなくても、物理的バリアも形成して、所与の装置の通常の動作状態中に起こり得る温度及び湿度の影響並びにそのあらゆる変動からナノワイヤ層を保護する。オーバーコートは、ハードコート、抗反射層、保護膜、バリア層などの1つ以上とすることができ、そのすべてが、同時係属中の出願第11/871,767号及び同11/504,822号に広範に考察されている。適切なオーバーコートの例としては、ポリアクリル、エポキシ、ポリウレタン、ポリシラン、シリコーン、ポリ(シリカ−アクリル)などの合成高分子が挙げられる。適切な防眩材料は、それだけに限定されないが、シロキサン、ポリスチレン/PMMAブレンド、ラッカー(例えば、酢酸ブチル/ニトロセルロース/ワックス/アルキド樹脂)、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリウレタン、ニトロセルロース及びアクリラートを含めて、当分野で周知であり、そのすべてがコロイド状又はヒュームドシリカなどの光拡散材料を含むことができる。保護膜の例としては、ポリエステル、ポリエチレンテレフタラート(PET)、アクリラート(AC)、ポリブチレンテレフタラート、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、アクリル樹脂、ポリカルボナート(PC)、ポリスチレン、トリアセタート(TAC)、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニルコポリマー、ポリビニルブチラール、金属イオン架橋エチレン−メタクリル酸コポリマー、ポリウレタン、セロハン、ポリオレフィンなどが挙げられるが、それだけに限定されない。特に好ましいのは、AC、PET、PC、PMMA又はTACである。
【0075】
導電膜の耐久性
本明細書に記載のように、オーバーコートは、導電膜のシート抵抗を潜在的に増加させ得る環境要因から下にあるナノ構造ネットワーク層を遮蔽するバリアを提供する。さらに、オーバーコートは、導電膜を構造的に強化することができ、それによって機械的耐久性などのその物理的耐久性を高めることができる。
【0076】
導電膜構造体(オーバーコート層で覆われた伝導層)の機械的耐久性を高めるために、構造体の機械的安定性を高める必要があり、又は別の表面と接触したときに構造体に加わる摩耗を制限する必要があり、又はこれらの手法の組合せが必要である。
【0077】
導電膜とオーバーコートの両方の機械的安定性を高めるために、充填剤粒子をオーバーコート、導電膜又はその両方に埋め込むことができる。粒子直径がオーバーコート層の厚さよりも大きい場合、これらの粒子は、オーバーコートの粗面を作り出す。この粗さによって、(例えば、タッチパネル用途における)別の表面がオーバーコート層又は伝導層に直接接触せず、したがって膜を(例えば、摩耗によって)機械的に損傷させる可能性が低いように、スペーサーが与えられる。さらに、機械的に硬い粒子は、オーバーコートよりも小さくすることもでき、層を構造的に支持し、層の摩耗を低減する。
【0078】
したがって、一実施形態は、複数の銀ナノ構造体を含み、2000ppm未満の銀錯イオンを含むナノ構造ネットワーク層と、ナノ構造ネットワーク層の上にあるオーバーコートであって、充填剤粒子を更に含むオーバーコートとを含む、導電膜を記述する。別の実施形態においては、ナノ構造ネットワーク層は、さらに充填剤粒子を含む。更なる実施形態においては、オーバーコートとナノ構造ネットワーク層の両方は、さらに充填剤粒子を含む。上記実施形態のいずれにおいても、1種類以上の腐食防止剤が、オーバーコート、ナノ構造ネットワーク層又はその両方に存在することもできる。
【0079】
ある実施形態においては、充填剤粒子は、ナノ粒子を含めて、本明細書に定義された(「ナノ充填剤」とも称される)ナノサイズ構造体である。ナノ充填剤は、導電性又は絶縁性粒子とすることができる。好ましくは、ナノ充填剤は光学的に透明であり、複合構造体(伝導層とオーバーコート層)の光学的性質を変えないように、オーバーコート材料と同じ屈折率を有する。例えば、充填剤材料は、構造体の光透過率又は曇価に影響を及ぼさない。適切な充填剤材料としては、(二酸化ケイ素粒子、酸化アルミニウム(Al)、ZnOなどの)酸化物、及び(ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチルなどの)ポリマーが挙げられるが、それだけに限定されない。
【0080】
ナノ充填剤は、典型的には、25%未満又は10%未満又は5%未満の(固体乾燥膜に基づく)w/w%濃度で存在する。
【0081】
代替又は追加の手法として、オーバーコート層の表面エネルギーを低下させると、導電膜に加わる摩耗を低減又は最小化することができる。
【0082】
したがって、一実施形態においては、導電膜は、さらに、オーバーコート層の上にある表面エネルギー低減層を含むことができる。表面エネルギー低減層は、膜に加わる摩耗を低下させることができる。表面エネルギー低減層の例としては、テフロン(登録商標)が挙げられるが、それだけに限定されない。
【0083】
オーバーコートの表面エネルギーを低下させる第2の方法は、オーバーコートに対して窒素又は別の不活性ガス雰囲気中でUV硬化プロセスを実施することである。このUV硬化プロセスは、部分的な又は完全に重合されたオーバーコートの存在のために、より低い表面張力オーバーコートを生成し、より大きな耐久性をもたらす(例えば、実施例11参照)。したがって、一実施形態においては、導電膜のオーバーコートは、不活性ガス下で硬化される。
【0084】
更なる一実施形態においては、追加のモノマーをコーティングプロセス前にオーバーコート溶液に混ぜ込むことができる。これらのモノマーの存在は、コーティング及び硬化プロセス後の表面エネルギーを低下させる。例示的なモノマーとしては、アクリル酸2,2,2−トリフルオロエチル、アクリル酸ペルフルオロブチル、アクリル酸ペルフルオロ−n−オクチルなどのフッ素化アクリラート、分子量350から25,000amuのアクリルオキシプロピル及びメタクリルオキシプロピル末端ポリジメチルシロキサンなどのアクリル化シリコーンが挙げられるが、それだけに限定されない。
【0085】
更なる一実施形態においては、表面エネルギーの低下は、低表面エネルギー材料の極めて薄い(場合によっては単層)をオーバーコート上に移すことによって得られる。例えば、低表面エネルギー材料で既に被覆された基体をオーバーコート表面に積層することができる。積層は、周囲温度又は高温で実施することができる。基体は、市販剥離ライナー(例えば、Rayvenによるシリコーン又は非シリコーン被覆剥離ライナー)などの薄いプラスチックシートとすることができる。剥離ライナーを除去すると、剥離材料の薄層がオーバーコート表面に残り、それによって表面エネルギーをかなり低下させる。この方法の更なる利点は、導電膜構造体が輸送及び取扱い中に剥離ライナーによって保護されることである。
【0086】
本明細書に記載の実施形態のいずれにおいても、導電膜を、場合によっては、高温アニーリングプロセスで処理して、膜の構造上の耐久性を更に高めることができる。
【0087】
本明細書に記載の種々の実施形態を以下の非限定的例によって更に説明する。
【実施例】
【0088】
(実施例1)
銀ナノワイヤの標準的合成
ポリ(ビニルピロリドン)(PVP)の存在下でエチレングリコールに溶解させた硝酸銀の還元によって銀ナノワイヤを合成した。この方法は、例えば、Y.Sun,B.Gates,B.Mayers,&Y.Xia,”Crystalline silver nanowires by soft solution processing”,Nanolett,(2002),2(2):165−168に記載されている。均一な銀ナノワイヤは、遠心分離又は他の公知の方法によって選択的に単離することができる。
【0089】
あるいは、均一な銀ナノワイヤは、適切なイオン添加剤(例えば、塩化テトラブチルアンモニウム)を上記反応混合物に添加することによって、直接合成することができる。こうして製造された銀ナノワイヤは、サイズ選択の別のステップなしに、直接使用することができる。この合成は、出願人の共同所有された同時係属中の米国特許出願第11/766,552号により詳細に記述されており、その出願を本明細書にその全体を援用する。
【0090】
合成は、周囲光中で(標準)、又は生成した銀ナノワイヤの光分解を最小化する暗所で、実施することができる。
【0091】
以下の実施例においては、幅70nmから80nm及び長さ約8μm〜25μmの銀ナノワイヤを使用した。典型的には、より良好な光学的性質(より高い透過率及びより低い曇価)は、より高いアスペクト比のワイヤ(すなわちより長い及びより細い)によって得ることができる。
【0092】
(実施例2)
導電膜の標準的調製
金属ナノワイヤを堆積させるための典型的なインク組成物は、重量で、界面活性剤0.0025%から0.1%(例えば、Zonyl(登録商標)FSO−100の場合、好ましい範囲は0.0025%から0.05%である。)、粘度調整剤0.02%から4%(例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)の場合、好ましい範囲は0.02%から0.5%である。)、溶媒94.5%から99.0%及び金属ナノワイヤ0.05%から1.4%を含む。適切な界面活性剤の代表的例としては、Zonyl(登録商標)FSN、Zonyl(登録商標)FSO、Zonyl(登録商標)FSA、Zonyl(登録商標)FSH、Triton(x100、x114、x45)、Dynol(604、607)、n−ドデシルb−D−マルトシド及びNovekが挙げられる。適切な粘度調整剤の例としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、メチルセルロース、キサンタンガム、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースが挙げられる。適切な溶媒の例としては、水及びイソプロパノールが挙げられる。
【0093】
インク組成物は、基体上に形成される最終導電膜の充填密度の指標である、ナノワイヤの所望の濃度に基づいて調製することができる。
【0094】
基体は、その上にナノワイヤが堆積する任意の材料とすることができる。基体は、剛直でも柔軟でもよい。好ましくは、基体も光学的に透明であり、すなわち、材料の光透過率は可視領域(400nm〜700nm)で少なくとも80%である。
【0095】
剛直基体の例としては、ガラス、ポリカルボナート、アクリルなどが挙げられる。特に、無アルカリガラス(例えば、ホウケイ酸塩)、低アルカリガラス、ゼロ膨張ガラス−セラミックなどの特殊ガラスを使用することができる。特殊ガラスは、特に、液晶ディスプレイ(LCD)を含めた薄いパネルディスプレイシステムに適している。
【0096】
柔軟な基体の例としては、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリエステルナフタラート及びポリカルボナート)、ポリオレフィン(例えば、線状、分枝及び環式ポリオレフィン)、ポリビニル(例えば、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアセタール、ポリスチレン、ポリアクリラートなど)、セルロースエステルベース(例えば、三酢酸セルロース、酢酸セルロース)、ポリエーテルスルホンなどのポリスルホン、ポリイミド、シリコーン及び別の従来の高分子膜が挙げられるが、それだけに限定されない。
【0097】
インク組成物は、例えば、同時係属中の米国特許出願第11/504,822号に記載の方法によって、基体上に堆積させることができる。
【0098】
具体例として、銀ナノワイヤの分散水溶液、すなわち、インク組成物をまず調製した。銀ナノワイヤは幅約35nmから45nm、長さ約10μmであった。インク組成物は、重量で、銀ナノワイヤ0.2%、HPMC0.4%及びTritonx100 0.025%を含む。次いで、インクをガラス上に500rpmの速度で60秒間スピンコートし、続いて50℃で90秒間及び180°で90秒間ポストベークした。被覆膜は、抵抗率約20オーム/sq、透過率96%(基準としてガラスを使用)及び曇価3.3%であった。
【0099】
当業者には理解されるように、他の堆積技術、例えば、狭い流路によって計量された沈降流動、ダイ流動、傾斜上の流動、スリットコーティング、グラビアコーティング、マイクログラビアコーティング、ビーズコーティング、浸漬コーティング、スロットダイコーティングなどを使用することができる。印刷技術を使用して、パターンを用いても用いなくても、インク組成物を基体に直接印刷することもできる。例えば、インクジェット、フレキソ印刷及びスクリーン印刷を使用することができる。
【0100】
さらに、流体の粘度及び剪断挙動、並びにナノワイヤ間の相互作用が、堆積したナノワイヤの分布及び相互接続性に影響を及ぼし得ることが理解される。
【0101】
(実施例3)
透明導電体の光学的及び電気的性質の評価
本明細書に記載の方法によって調製される導電膜を評価して、その光学的及び電気的性質を確定した。
【0102】
光透過率データは、ASTM D1003の方法によって得られた。曇価をBYK Gardner Haze−gard Plusを使用して測定した。表面抵抗率をFluke 175 True RMS Multimeter又は非接触抵抗計Delcomモデル717Bコンダクタンスモニターを使用して測定した。より典型的な装置は、(例えば、Keithley Instrumentsによる)抵抗測定用4点プローブシステムである。
【0103】
ナノワイヤの相互接続性、及び基体の面積率は、光学又は走査型電子顕微鏡下で観察することもできる。
【0104】
(実施例4)
銀ナノワイヤからの塩化物イオンの除去
30kgバッチの銀ナノワイヤを暗所で、ただしそれ以外は実施例1に記載の標準手順に従って調製した。
【0105】
合成及び冷却後、水酸化アンモニウム1200ppmを30kgバッチに添加し、次いでバッチを24個の分離箱に添加して(0.8kg)更に精製した。ナノワイヤで満たされた箱を7日間暗環境中で沈殿させた。次いで、上澄みを流し、水500mlをナノワイヤに添加し、再懸濁させた。ナノワイヤを1日再沈殿させ、次いで上澄みを流した。水150mlをナノワイヤに添加して再懸濁させ、各箱を混ぜ合わせて、1個の容器のナノワイヤ濃縮物にした。
【0106】
精製ナノワイヤ濃縮物の塩化物レベルを中性子放射化によって測定し、標準材料と比較した。表1に、1%Ag濃度に正規化された塩化物結果、及び乾燥膜の塩化物レベルを示す。その結果によれば、精製プロセスによって、塩化物レベルは2分の1に低下した。
【0107】
【表1】

(実施例5)
HPMCの精製
沸騰水1Lを粗製HPMC(Methocel311(登録商標)、Dow Chemicals)250gに撹拌しながら迅速に添加した。混合物を5分間還流撹拌し、次いで予熱されたガラスフリット(M)上で熱ろ過した。湿ったHPMCケーキをすぐに沸騰水1Lに再分散させ、5分間還流撹拌した。熱ろ過と再分散ステップをさらに2回繰り返した。次いで、HPMCケーキを乾燥器中で70℃で3日間乾燥させた。分析結果によれば、ナトリウムイオン(Na)及び塩化物イオン(Cl)の各量は、精製HPMCにおいてかなり減少した(表2)。
【0108】
【表2】

(実施例6)
膜信頼性に対する銀ナノワイヤからの塩化物除去の効果
銀ナノワイヤを含む2種類のインク調合物を精製プロセス及び標準プロセスによって調製した。暗所で合成し、実施例4に記載のプロセスによって塩化物を精製除去したナノワイヤを使用して、第1のインクを調製した。標準様式で(周囲光中で)合成し、塩化物を除去しないナノワイヤを使用して、第2のインクを調合した。
【0109】
実施例5に記載の方法によって調製された高純度HPMCを各インクに使用した。
【0110】
0.6%高純度HPMC51.96gを500mlNALGENE瓶に添加することによって各インクを個別に作製した。精製及び未精製ナノワイヤ(1.9%Ag)10.45gをそれぞれ第1及び第2のインク調合物に添加し、20秒間振とうした。10%Zonyl(登録商標)FSO溶液(FSO−100、Sigma Aldrich、Milwaukee WI)0.2gを更に添加し、20秒間振とうした。DI水331.9g及び25%FSA(Zonyl(登録商標)FSA、DuPont Chemicals、Wilmington、DE)5.21gを瓶に添加し、20秒間振とうした。
【0111】
インクをローラーテーブル上で終夜混合し、真空槽中で−25”Hgで30分間脱気して気泡を除去した。次いで、インクを188μmPET上にスロットダイコーターを使用して圧力17〜19kPaで塗布した。次いで、膜を50℃で5分間、次いで120℃で7分間焼付けした。各インク調合物に対して複数の膜を処理した。
【0112】
次いで、膜をオーバーコートで被覆した。オーバーコートは、琥珀色のNALGENE瓶にアクリラート(HC−5619、Addison Clearwave、Wood Dale、IL)14.95g、イソプロパノール242.5g及びジアセトンアルコール(Ultra Pure Products、Richardson、TX)242.5gを添加することによって調合された。琥珀色の瓶を20秒間振とうした。その後、TOLAD9719(Bake Hughes Petrolite、Sugarland、TX)0.125gを琥珀色の瓶に添加し、20秒間振とうした。次いで、オーバーコート調合物を膜上にスロットダイコーターを使用して圧力8〜10kPaで堆積させた。次いで、膜を50℃で2分間、次いで130℃で4分間焼付けした。次いで、fusion UVシステム(Hバルブ)を使用して、膜をUV光に9フィート/分で曝露して硬化させ、続いて150℃で30分間アニーリングした。
【0113】
膜を2グループに分け、各グループをそれぞれ2つの異なる曝露条件に供した。第1の曝露条件は室温及び室内灯で行われ(対照)、第2の曝露条件は促進光(光強度:32,000ルーメン)で行われた。膜の抵抗を時間の関数として各曝露条件で追跡し、抵抗のパーセント変化(ΔR)を時間の関数として以下の変動プロットでプロットした。
【0114】
図1によれば、対照光条件(周囲光及び室温)下では、抵抗変化、すなわちΔR(Y軸)は、精製プロセスによって調製された膜と標準プロセスによって調製された膜でほぼ同等であった。いずれも約500時間の露光後に大きなドリフトを示さなかった。
【0115】
これに対し、促進光条件下では、標準プロセスによって調製された膜は、約300時間の露光後に抵抗が劇的に増加したが、精製プロセスによって調製された膜はその抵抗が安定なままであった。
【0116】
この実施例によれば、銀ナノワイヤで形成された導電膜の信頼性は、塩化物イオンを銀ナノワイヤから除去することによってかなり向上させることができる。
【0117】
(実施例7)
膜信頼性に対するHPMCからの塩化物除去の効果
2種類のインク調合物を精製銀ナノワイヤを使用して調製した。第1のインク調合物を精製HPMCを使用して調製した(実施例5参照)。第2のインク調合物を市販HPMC(標準)を使用して調製した。
【0118】
導電膜を実施例6に記載の同じプロセスに従って別に調製した。
【0119】
図2によれば、対照光条件下では、精製プロセス及び標準プロセスによって調製された導電膜は、約500時間の露光後に類似の抵抗変化(ΔR)を示した。これに対し、促進光条件下では、両方の導電膜は抵抗変化(ΔR)が増加した。しかし、抵抗変化(ΔR)は、精製HPMCで作製されたものに比べて粗製HPMCで作製された導電膜の方がはるかに劇的であった。
【0120】
この実施例によれば、銀ナノワイヤで形成された導電膜の信頼性は、塩化物イオンをHPMCなどのインク成分から除去することによってかなり向上させることができる。
【0121】
(実施例8)
膜信頼性に対するインク中の腐食防止剤の効果
2種類のインク調合物を精製銀ナノワイヤ及び精製HPMCを使用して調製し(実施例4及び5参照)、その一方に腐食防止剤を更に混ぜ込んだ。
【0122】
0.6%高純度HPMC(Methocel311、Dow Corporation、Midland MI)51.96gを500ml NALGENE瓶に添加することによって、第1のインクを調製した。その後、精製銀ナノワイヤ(1.9%Ag)10.45g、10%Zonyl(登録商標)FSO溶液(FSO−100、Sigma Aldrich、Milwaukee WI)0.2g、DI水331.9g及び腐食防止剤25%FSA(Zonyl(登録商標)FSA、DuPont Chemicals、Wilmington、DE)5.21gを順次添加し、瓶を各成分の添加後20秒間振とうした。
【0123】
第2のインクを、Zonyl(登録商標)FSAを除いた以外は同様に調製した。
【0124】
インクをローラーテーブル上で終夜混合し、真空槽中で−25”Hgで30分間脱気して気泡を除去した。次いで、膜を50℃で5分間、次いで120℃で7分間焼付けした。各インク調合物に対して複数の膜を処理した。
【0125】
次いで、膜をオーバーコートで被覆した。オーバーコートは、琥珀色のNALGENE瓶にアクリラート(HC−5619、Addison Clearwave、Wood Dale、IL)14.95g、イソプロパノール242.5g及びジアセトンアルコール(Ultra Pure Products、Richardson、TX)242.5gを添加することによって調合された。琥珀色の瓶を20秒間振とうした。その後、TOLAD9719(Bake Hughes Petrolite、Sugarland、TX)0.125gを琥珀色の瓶に添加し、20秒間振とうした。次いで、オーバーコート調合物を膜上にスロットダイコーターを使用して圧力8〜10kPaで堆積させた。次いで、膜を50℃で2分間、次いで130℃で4分間焼付けした。次いで、fusion UVシステム(Hバルブ)を使用して、膜をUV光に9フィート/分で曝露して硬化させ、続いて150℃で30分間アニーリングした。
【0126】
各インクタイプを使用して製造した3種類の膜を3つの環境曝露条件、すなわち室温対照、85℃乾燥及び85℃/相対湿度85%に置いた。抵抗のパーセント変化(ΔR)を時間の関数として各曝露条件において追跡した。
【0127】
図3によれば、全3通りの環境曝露条件下で、腐食防止剤を含まない膜は、腐食防止剤を混ぜ込んだ膜よりも著しく抵抗が変化した。
【0128】
図4及び表3は、追加の導電膜試料におけるインク調合物中の腐食防止剤の効果を示す。示したように、腐食防止剤をインク調合物に混ぜ込むと、対応するインク調合物中に腐食防止剤を含まない以外は同様に調製された試料に比べて、抵抗安定性が85℃の高温及び乾燥状態(<2%湿度)において劇的に改善された。例えば、腐食防止剤を含まない試料では、抵抗は、85℃で200時間以内に10%超増加した。腐食防止剤を含む試料では、抵抗変化は、約1000時間10%未満のままであった。
【0129】
高温高湿(85℃/湿度85%)では、インク調合物中の腐食防止剤なしでは、抵抗は、700時間を少し過ぎたところで平均10%を超えて増加した。腐食防止剤を含む場合、抵抗変化は、1000時間を優に超えて10%未満のままであった。
【0130】
【表3】

(実施例9)
膜信頼性に対するオーバーコート中の腐食防止剤の効果
精製銀ナノワイヤ、精製HPMC及び第1の腐食防止剤Zonyl(登録商標)FSAを含むインク調合物を調製した(実施例4、5及び7参照)。より具体的には、0.6%高純度HPMC(Methocel311、Dow Corporation、Midland MI)51.96gを500ml NALGENE瓶に添加することによって、インクを調製した。その後、精製銀ナノワイヤ(1.9%Ag)10.45g、10%Zonyl(登録商標)FSO溶液(FSO−100、Sigma Aldrich、Milwaukee WI)0.2g、DI水331.9g及び25%FSA(Zonyl(登録商標)FSA、DuPont Chemicals、Wilmington、DE)5.21gを順次添加し、瓶を各成分の添加後20秒間振とうした。
【0131】
インクをローラーテーブル上で終夜混合し、真空槽中で−25”Hgで30分間脱気して気泡を除去した。次いで、膜を50℃で5分間、次いで120℃で7分間焼付けした。各インク調合物に対して複数の膜を処理した。
【0132】
次いで、膜を2グループに分けた。一方のグループを、第2の腐食防止剤TOLAD9719を含むオーバーコートで被覆した(実施例8参照)。他方のグループを腐食防止剤を含まないオーバーコートで被覆した。
【0133】
1グループ当たり3種類の膜を3つの環境曝露条件、すなわち室温対照、85℃乾燥及び85℃/相対湿度85%に置いた。抵抗のパーセント変化(ΔR)を時間の関数として各曝露条件において追跡した。
【0134】
図5によれば、全3通りの環境曝露条件下で、オーバーコート中に腐食防止剤を含まない膜は、オーバーコート中に腐食防止剤を含む膜よりも著しく抵抗が変化した。腐食防止剤を含むオーバーコートは、対照及び85℃乾燥条件下で膜信頼性を維持するのに特に有効であった。
【0135】
図6及び表4は、追加の導電膜試料におけるオーバーコート中の腐食防止剤の効果を示す。示したように、腐食防止剤をオーバーコートに混ぜ込むと、オーバーコート中に腐食防止剤を含まない以外は同様に調製された試料に比べて、抵抗安定性が85℃の高温及び乾燥状態(<2%湿度)において劇的に改善された。例えば、オーバーコート中に腐食防止剤を含まない膜では、抵抗は、85℃で200時間以内に10%超増加した。オーバーコート中に腐食防止剤を含む膜では、抵抗変化は、1000時間を優に超えて10%未満のままであった。オーバーコート中に腐食防止剤を含むと、高温及び高湿(85℃/85%)における抵抗安定性が幾らか改善した。オーバーコート中に腐食防止剤を含まない膜では、抵抗は、200時間以内に10%超増加した。オーバーコート中に腐食防止剤を含む膜では、抵抗変化は、300時間後まで10%を超えなかった。
【0136】
【表4】

(実施例10)
膜耐久性に対するオーバーコート中の埋め込みナノ粒子の効果
(塩化物イオンを精製除去した)銀ナノワイヤ0.046%、精製HPMC(Methocel311、Dow Corporation、Midland MI)0.08%、Zonyl(登録商標)FSO界面活性剤(FSO−100、Sigma Aldrich、Milwaukee WI)50ppm及びZonyl(登録商標)FSA(DuPont Chemicals、Wilmington、DE)320ppmを脱イオン水中に含む、インク調合物を調製した。次いで、実施例6〜8に記載のように、ナノワイヤネットワーク層をスロットダイ堆積によって調製した。
【0137】
アクリラート(HC−5619、Addison Clearwave、Wood Dale、IL)0.625%、腐食防止剤TOLAD9719(Bake Hughes Petrolite、Sugarland、TX)0.006%及びイソプロピルアルコールとジアセトンアルコールの50:50溶媒混合物(Ultra Pure Products、Richardson、TX)、並びにITOナノ粒子(VP Ad Nano ITO TC8 DE、40%ITOイソプロパノール溶液、Evonik Degussa GmbH、Essen、Germanyによる)0.12%(固形分基準)を含む、オーバーコート調合物を調製した。
【0138】
オーバーコートをナノワイヤネットワーク層上に堆積して、導電膜を形成した。オーバーコートをUV光及び窒素気流下で硬化させ、50℃、100℃及び150℃で順次乾燥させた。
【0139】
幾つかの導電膜を本明細書に記載の方法によって調製した。導電膜の一部をさらに高温アニーリングプロセスに供した。
【0140】
導電膜の耐久性をタッチパネル装置において導電膜を使用してシミュレートする設定で試験した。より具体的には、導電膜構造体を表面張力37mN/mのガラス基体上のITO表面に接触して置いた。高さ6μmのスペーサードットをまずITO表面に印刷して、圧力がかからないときにはITO表面と導電膜が離れたままであるようにした。導電膜の耐久性試験は、導電膜のオーバーコート側を加圧下でITO表面に接触させながら、半径0.8mmの先端を有するペン重量500gのDelrin(登録商標)針を導電膜構造の裏側で繰り返し滑らせるものであった。導電膜は、100k、200k及び300k往復で良好な耐久性を示した(割れも摩耗もなし)。この耐久性レベルは、導電膜においてアニーリングプロセスを用いても用いなくても認められた。
【0141】
(実施例11)
膜耐久性に対する剥離ライナーの積層による表面エネルギー低減の効果
導電膜を実施例9に従って調製した。導電膜の硬化オーバーコート側の表面エネルギーを約38mN/mで測定した。
【0142】
剥離ライナー膜(Rayven6002−4)を導電膜の硬化オーバーコート上に室温で手持ちのゴム被覆積層ロールを使用して積層した。次いで、積層構造を数時間貯蔵した後、導電膜を使用して耐久性試験用タッチパネルを作製した(実施例9参照)。剥離ライナーの積層は、オーバーコートの表面エネルギーを約38から約26mN/mにかなり低減した。
【0143】
実施例10に記載の耐久性試験とは対照的に、表面エネルギー約62mN/mのガラス基体上の新たに浄化されたITO表面を使用した。この高い表面エネルギーは、極めて反応性の高い表面に起因し、約100k往復で速くも障害を生じた。この場合、オーバーコートは、反応性ITO表面との接触中に摩耗によって損傷を受け、続いて取り除かれ、ナノワイヤが露出して、急速に伝導しなくなった。
【0144】
しかし、オーバーコート表面に剥離ライナーを積層して、オーバーコートの表面エネルギーを低下させると、反応性の高いITO表面に接触する有害な効果が緩和され、耐久性試験は、300k往復後も導電膜に何ら損傷を示さなかった。
【0145】
(実施例12)
耐久性に対する窒素硬化の効果
(塩化物イオンを精製除去した)銀ナノワイヤ0.046%、精製HPMC(Methocel311、Dow Corporation、Midland MI)0.08%、Zonyl(登録商標)FSO界面活性剤(FSO−100、Sigma Aldrich、Milwaukee WI)50ppm及びZonyl(登録商標)FSA(DuPont Chemicals、Wilmington、DE)320ppmを脱イオン水中に含む、インク調合物を調製した。
【0146】
次いで、ナノワイヤが透明ハードコート側に堆積された188um AG/Clr(Anti−Glare/Clear Hard Coat)Polyether terathalate(PET)基体上にインクを堆積させることによって、ナノワイヤネットワーク層を形成した。堆積は、ロールコーター上でスロットダイ堆積によって行われ、次いで乾燥機中で乾燥させて導電膜を製造した。
【0147】
アクリラート(HC−5619、Addison Clearwave、Wood Dale、IL)3.0%、腐食防止剤TOLAD9719(Bake Hughes Petrolite、Sugarland、TX)0.025%及びイソプロピルアルコールとジアセトンアルコールの50:50溶媒混合物(Ultra Pure Products、Richardson、TX)を含む、オーバーコート調合物を調製した。
【0148】
オーバーコートをナノワイヤネットワーク層上に堆積して、導電膜を保護した。二つの実験を実施した。実験1では、オーバーコートをUV光下でUV線量1.0J/cm(UVA)で窒素気流なしで硬化させ、次いで乾燥させた。実験2では、オーバーコートを0.5J/cm(UVA)で高窒素気流中で硬化させた。UV域の酸素含有量は500ppmであった。次いで、膜を乾燥させた。実験1と2の両方の膜タイプを150℃で30分間アニールし、タッチパネルを調製して、上記方法によって耐久性を試験した。硬化ステップ中に窒素気流のない実験1の膜は、100,000往復未満で耐久性試験に不合格になったのに対して(実施例9参照)、窒素気流下で硬化した実験2の膜は、100,000往復を超える耐久性試験に合格した。
【0149】
本明細書で参照された、及び/又は出願データシートに列挙された、上記米国特許、米国特許出願公開、米国特許出願、外国特許、外国特許出願及び非特許刊行物のすべてを参照によりその全体を本明細書に援用する。
【0150】
上記のことから、本発明の特定の実施形態を説明のために本明細書に記載したが、本発明の精神及び範囲から逸脱せずに種々の改変を成し得ることが理解されるであろう。したがって、本発明は、添付の特許請求の範囲による以外は限定されない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の金属ナノ構造体を含む金属ナノ構造ネットワーク層を含む、導電膜であって、少なくとも85℃の温度に少なくとも250時間曝露中に20%以下しか変化しないシート抵抗を有する、導電膜。
【請求項2】
少なくとも85℃の温度に少なくとも250時間曝露中に、前記導電膜が85%の湿度にも曝露される、請求項1に記載の導電膜。
【請求項3】
少なくとも85℃の温度に少なくとも250時間曝露中に10%以下しか変化しないシート抵抗を有する、請求項1に記載の導電膜。
【請求項4】
少なくとも85℃の温度に少なくとも250時間曝露中に、前記導電膜が85%の湿度にも曝露される、請求項3に記載の導電膜。
【請求項5】
少なくとも85℃の温度に少なくとも500時間曝露中に10%以下しか変化しないシート抵抗を有する、請求項1に記載の導電膜。
【請求項6】
少なくとも85℃の温度に少なくとも500時間曝露中に、前記導電膜が85%の湿度にも曝露される、請求項5に記載の導電膜。
【請求項7】
少なくとも85℃の温度及び2%以下の湿度に少なくとも1000時間曝露中に10%以下しか変化しないシート抵抗を有する、請求項1に記載の導電膜。
【請求項8】
前記導電膜が、前記金属ナノ構造ネットワーク層中に2000ppm未満の銀錯イオンを含み、該銀錯イオンとしては硝酸イオン、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン又はそれらの組合せが挙げられる、請求項1から7のいずれか一項に記載の導電膜。
【請求項9】
前記導電膜が、前記金属ナノ構造ネットワーク層中に370ppm未満の塩化物イオンを含む、請求項8に記載の導電膜。
【請求項10】
前記導電膜がさらに第1の腐食防止剤を含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の導電膜。
【請求項11】
前記導電膜が、さらに、前記金属ナノ構造ネットワーク層の上にあるオーバーコートを含み、前記オーバーコートが第2の腐食防止剤を含む、請求項10に記載の導電膜。
【請求項12】
前記金属ナノ構造体が銀ナノワイヤである、請求項1から11のいずれか一項に記載の導電膜。
【請求項13】
複数の銀ナノ構造体とゼロから2000ppm未満の銀錯イオンとを含む銀ナノ構造ネットワーク層を含む、導電膜。
【請求項14】
前記銀ナノ構造体が、硝酸イオン、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン又はそれらの組合せを精製除去した銀ナノワイヤである、請求項13に記載の導電膜。
【請求項15】
前記銀ナノ構造ネットワーク層がさらに1種類以上の粘度調整剤を含む、請求項13に記載の導電膜。
【請求項16】
前記粘度調整剤が、硝酸イオン、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン又はそれらの組合せを精製除去したHPMCである、請求項15に記載の導電膜。
【請求項17】
第1の腐食防止剤を更に含む、請求項13から16のいずれか一項に記載の導電膜。
【請求項18】
前記銀ナノ構造ネットワーク層の上にあるオーバーコートを更に含む、請求項13から17のいずれか一項に記載の導電膜。
【請求項19】
前記オーバーコートが第2の腐食防止剤を含む、請求項18に記載の導電膜。
【請求項20】
30,000ルーメン光強度下で400時間で20%以下しか変化しないシート抵抗を有する、請求項13に記載の導電膜。
【請求項21】
水性媒体中の銀ナノ構造体の懸濁液を用意すること、
銀イオンと銀錯体を形成する能力のあるリガンドを該懸濁液に添加すること、
該懸濁液に、該銀ナノ構造体を含む沈降物とハロゲン化物イオンを有する上澄みとを形成させること、及び
ハロゲン化物イオンを有する該上澄みを該銀ナノ構造体から分離すること
を含む、方法。
【請求項22】
前記リガンドが水酸化アンモニア(NHOH)、シアノ(CN)又はチオサルフェート(S)である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記ハロゲン化物イオンが塩化物イオンである、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
複数の銀ナノ構造体、
分散剤、及び
前記複数の銀ナノ構造体0.05w/w%当たり0.5ppm以下の銀錯イオン
を含む、インク調合物。
【請求項25】
前記銀ナノ構造体0.05w/w%当たり1ppm以下の銀錯イオンを含む、請求項24に記載のインク調合物。
【請求項26】
前記銀ナノ構造体が、硝酸イオン、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン又はそれらの組合せを精製除去した銀ナノワイヤである、請求項24又は請求項25に記載のインク調合物。
【請求項27】
前記粘度調整剤が、前処理されて硝酸イオン、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン又はそれらの組合せを除去したHPMCである、請求項24、請求項25又は請求項26に記載のインク調合物。
【請求項28】
腐食防止剤を更に含む、請求項24から27のいずれか一項に記載のインク調合物。
【請求項29】
前記銀錯イオンが塩化物イオンである、請求項24から28のいずれか一項に記載のインク調合物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−526359(P2012−526359A)
【公表日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−509919(P2012−509919)
【出願日】平成22年5月4日(2010.5.4)
【国際出願番号】PCT/US2010/033618
【国際公開番号】WO2010/129604
【国際公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(510230746)カンブリオス テクノロジーズ コーポレイション (9)
【Fターム(参考)】