説明

金属ナノ構造体を表面に備える基板及びその製造方法

【課題】金属ナノ構造体の形状・サイズがより自在にデザインされた金属ナノ構造体を表面に備える基板を製造し得る方法の提供。
【解決手段】複数種類のポリマーが結合したブロックコポリマーを含む層を基板表面に形成した後、当該層を相分離させる工程と、前記層のうち、前記ブロックコポリマーを構成する複数種類のポリマーのうちの少なくとも一種類のポリマーからなる相を選択的に除去し、前記基板表面の一部を露出させる工程と、露出された基板表面に金属イオンを接触させ、基板表面と金属イオンとの間に起こる電気化学反応により、当該基板表面に金属を析出させる工程と、を有する金属ナノ構造体を表面に備える基板の製造方法、並びに当該製造方法により製造された金属ナノ構造体を表面に備える基板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブロックコポリマーの相分離とガルバニック置換反応を利用して、基板表面に金属ナノ構造体が形成された基板を製造する方法、及び当該製造方法を用いて製造された金属ナノ構造体を表面に備える基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、微細な構造体を作製する技術は、多様な分野への応用が期待されている。なかでも、ナノメートルサイズの構造を有する構造体(ナノ材料)は、光学・電気・磁気特性において、それぞれ対応するバルク金属には見られない特異な特性を示すため、基礎研究及び応用研究の両研究面から大きな注目を集めている。例えば、シリンダー状等の中空の三次元構造を有するナノ材料は、包接化学、電気化学、材料、生医学、センサ、触媒、分離技術等を含む様々な分野で役立つことが期待されている。また、ライン状の微細パターンを作製する技術は、集積回路の作製と高集積化に直結するため、半導体分野等において極めて活発に研究開発が行われている。
【0003】
微細な構造体の製造方法としては、リソグラフィー法を用いる方法などが知られている。しかしながら、光・電子線などのリソグラフィー法は、金属膜作製・パターニング・エッチングなどの多くのプロセスが必要となり、煩雑である。よって、より簡便な方法で、大面積かつサイズ・形状が制御された金属ナノ構造体を作製する手法が望まれている。
【0004】
一方で、近年では、互いに非相溶性のポリマー同士を結合させたブロックコポリマーにより形成される相分離構造を利用して、より微細なパターンを形成する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。相分離構造を利用して形成されたナノパターンを鋳型として、金属蒸着法や電解めっき法等により金属ナノ構造体を製造する方法も幾つか報告されている。
このうち、ブロックコポリマーの相分離とガルバニック置換反応を利用して金属ナノ構造体を製造する方法としては、ブロックコポリマーにより形成されたミセルの中に金属イオンを取り込み、金属ナノ構造体を製造する方法が挙げられる(例えば、非特許文献1〜3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−36491号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】ワン(Wang)、他9名、ナノ・レターズ(Nano Letters)、2009年、第9巻第6号、第2384〜2389ページ。
【非特許文献2】アイザワ(Aizawa)、他1名、ケミストリー・オブ・マテリアルズ(Chemistry of Materials)、2007年、第19巻第21号、第5090〜5101ページ。
【非特許文献3】アイザワ(Aizawa)、他1名、ジャーナル・オブ・ジ・アメリカン・ケミカル・ソサエティ(Journal of the American Chemical Society)、2006年、第128巻第17号、第5877〜5886ページ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1〜3に記載されている方法では、金属ナノ構造体はブロックコポリマーのミセル中で形成されるため、球状構造に限定されてしまう。また、球状であるがゆえに、高アスペクト比の構造が原理的に製造不可能である。このように、これらの方法では、形成される金属ナノ構造体の形状自由度が低いという問題がある。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、ブロックコポリマーの相分離とガルバニック置換反応を利用して、基板表面に、形状・サイズがより自在にデザインされた金属ナノ構造体を備える基板を製造し得る方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。
すなわち、本発明の第一の態様は、複数種類のポリマーが結合したブロックコポリマーを含む層を基板表面に形成した後、当該層を相分離させる工程と、前記層のうち、前記ブロックコポリマーを構成する複数種類のポリマーのうちの少なくとも一種類のポリマーからなる相を選択的に除去し、前記基板表面の一部を露出させる工程と、露出された基板表面に金属イオンを接触させ、基板表面と金属イオンとの間に起こる電気化学反応により、当該基板表面に金属を析出させる工程と、を有することを特徴とする金属ナノ構造体を表面に備える基板の製造方法である。
本発明の第二の態様は、前記第一の態様の金属ナノ構造体を表面に備える基板の製造方法により製造される金属ナノ構造体を表面に備える基板である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、基板表面に、形状・サイズがより自在にデザインされた金属ナノ構造体を備える基板を製造し得る方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1における、シリコン基板の表面の走査型電子顕微鏡像である。
【図2】実施例2における、シリコン基板の表面の走査型電子顕微鏡像である。
【図3】実施例3における、シリコン基板の表面の走査型電子顕微鏡像である。
【図4】実施例4における、シリコン基板の表面の走査型電子顕微鏡像である。
【図5】実施例5における、シリコン基板の表面の走査型電子顕微鏡像である。
【図6】実施例6における、シリコン基板の表面の走査型電子顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
≪金属ナノ構造体を表面に備える基板の製造方法≫
本発明の金属ナノ構造体を表面に備える基板の製造方法は、複数種類のポリマーが結合したブロックコポリマーを含む層を基板表面に形成した後、当該層を相分離させる工程と、前記層のうち、前記ブロックコポリマーを構成する複数種類のポリマーのうちの少なくとも一種類のポリマーからなる相を選択的に除去し、前記基板表面の一部を露出させる工程と、露出された基板表面に金属イオンを接触させ、基板表面と金属イオンとの間に起こる電気化学反応により、当該基板表面に金属を析出させる工程と、を有することを特徴とする。
【0013】
複数種類のポリマーが結合したブロックコポリマーを含む層は、相分離により、各ポリマーを主成分とする相に分離することができる。本発明においては、まず、相分離構造中の少なくとも一の相が残存するように、当該相分離構造中の一又は複数の相を選択的に除去することにより、除去された相が形成されていた基板表面のみを露出させる。そして、この露出面にのみ、金属ナノ構造体を形成する。すなわち、基板表面上の金属ナノ構造体の大きさや形状は、ブロックコポリマーを含む層の相分離構造のうち、選択的に除去される相の大きさや形状により規定される。つまり、基板表面に形成させる相分離構造の大きさや形状を適宜調整することにより、所望の形状や大きさの金属ナノ構造体を基板表面に形成させることができる。特に、従来のレジストパターンよりも微細なパターンを形成することが可能な相分離構造を鋳型として用いることにより、非常に微細な形状の金属ナノ構造体を備える基板を形成することができる。
以下、各工程とそこで用いられる材料について、より詳細に説明する。
【0014】
<ブロックコポリマー>
ブロックコポリマーは、複数種類のポリマーが結合した高分子である。ブロックコポリマーを構成するポリマーの種類は、2種類であってもよく、3種類以上であってもよい。本発明においては、ブロックコポリマーを構成する複数種類のポリマーは、相分離が起こる組み合わせであれば特に限定されるものではないが、互いに非相溶であるポリマー同士の組み合わせであることが好ましい。また、ブロックコポリマーを構成する複数種類のポリマー中の少なくとも1種類のポリマーからなる相が、他の種類のポリマーからなる相よりも、容易に選択的に除去可能な組み合わせであることが好ましい。
【0015】
ブロックコポリマーとしては、例えば、スチレン又はその誘導体を構成単位とするポリマーと(メタ)アクリル酸エステルを構成単位とするポリマーとを結合させたブロックコポリマー、スチレン又はその誘導体を構成単位とするポリマーとシロキサン又はその誘導体を構成単位とするポリマーとを結合させたブロックコポリマー、及びアルキレンオキシドを構成単位とするポリマーと(メタ)アクリル酸エステルを構成単位とするポリマーとを結合させたブロックコポリマー等が挙げられる。なお、「(メタ)アクリル酸エステル」とは、α位に水素原子が結合したアクリル酸エステルと、α位にメチル基が結合したメタクリル酸エステルの一方あるいは両方を意味する。
【0016】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸の炭素原子に、アルキル基やヒドロキシアルキル基等の置換基が結合しているものが挙げられる。置換基として用いられるアルキル基としては、炭素原子数1〜10の直鎖状、分岐鎖状、又は環状のアルキル基が挙げられる。(メタ)アクリル酸エステルとしては、具体的には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸アントラセン、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸3,4−エポキシシクロヘキシルメタン、(メタ)アクリル酸プロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0017】
スチレンの誘導体としては、例えば、α−メチルスチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、4−t−ブチルスチレン、4−n−オクチルスチレン、2,4,6−トリメチルスチレン、4−メトキシスチレン、4−t−ブトキシスチレン、4−ヒドロキシスチレン、4−ニトロスチレン、3−ニトロスチレン、4−クロロスチレン、4−フルオロスチレン、4−アセトキシビニルスチレン、ビニルシクロへキサン、4−ビニルベンジルクロリド、1−ビニルナフタレン、4−ビニルビフェニル、1−ビニルー2−ピロリドン、9−ビニルアントラセン、ビニルピリジン等が挙げられる。
【0018】
シロキサンの誘導体としては、例えば、ジメチルシロキサン、ジエチルシロキサン、ジフェニルシロキサン、メチルフェニルシロキサン等が挙げられる。
アルキレンオキシドとしては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、イソプロピレンオキシド、ブチレンオキシド等が挙げられる。
【0019】
本発明においては、スチレン又はその誘導体を構成単位とするポリマーと(メタ)アクリル酸エステルを構成単位とするポリマーとを結合させたブロックコポリマーを用いることが好ましい。具体的には、スチレン−ポリメチルメタクリレート(PS−PMMA)ブロックコポリマー、スチレン−ポリエチルメタクリレートブロックコポリマー、スチレン−(ポリ−t−ブチルメタクリレート)ブロックコポリマー、スチレン−ポリメタクリル酸ブロックコポリマー、スチレン−ポリメチルアクリレートブロックコポリマー、スチレン−ポリエチルアクリレートブロックコポリマー、スチレン−(ポリ−t−ブチルアクリレート)ブロックコポリマー、スチレン−ポリアクリル酸ブロックコポリマー等が挙げられる。本発明においては、特に、PS−PMMAブロックコポリマーを用いることが好ましい。
【0020】
ブロックコポリマーを構成する各ポリマーの質量平均分子量(Mw)(ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリスチレン換算基準)は、相分離を起こすことが可能な大きさであれば特に限定されるものではないが、5000〜500000が好ましく、10000〜400000がより好ましく、20000〜300000がさらに好ましい。
またブロックコポリマーの分散度(Mw/Mn)は1.0〜3.0が好ましく、1.0〜1.5がより好ましく、1.0〜1.2がさらに好ましい。なお、Mnは数平均分子量を示す。
【0021】
なお、以下において、ブロックコポリマーを構成するポリマーのうち、後の工程で選択的に除去されないポリマーをPポリマー、選択的に除去されるポリマーをPポリマーという。例えば、PS−PMMAブロックコポリマーを含む層を相分離した後、当該層に対して酸素プラズマ処理や水素プラズマ処理等を行うことにより、PMMAからなる相が選択的に除去される。この場合、PSがPポリマーであり、PMMAがPポリマーである。
【0022】
本発明において、選択的に除去される相(すなわち、Pポリマーからなる相)の形状や大きさは、ブロックコポリマーを構成する各ポリマーの成分比や、ブロックコポリマーの分子量により規定される。例えば、ブロックコポリマー中に占めるPポリマーの体積当たりの成分比を比較的小さくすることにより、Pポリマーからなる相中にPポリマーからなる相がシリンダー状に存在するシリンダー構造を形成させることができる。一方で、ブロックコポリマー中に占めるPポリマーとPポリマーの体積当たりの成分比を同程度にすることにより、Pポリマーからなる相とPポリマーからなる相とが交互に積層されたラメラ構造を形成させることができる。また、ブロックコポリマーの分子量を大きくすることにより、各相の大きさを大きくすることができる。
【0023】
<基板>
基板は、金属ナノ構造体を表面に備える基板(金属ナノ構造体含有基板)の一部を構成するものである。本発明においては、平板状であって、基板表面が電子供与性を備える基板が用いられる。電子供与性を備える基板であれば、金属イオンとの間で酸化還元反応(ガルバニック置換反応)が起こり得る。このような基板としては、例えば、シリコンウェーハ、銅、クロム、鉄、アルミニウム等の金属製の基板等が挙げられる。その他、ポリカーボネートや、ガラス(石英ガラス等)基板等の表面に、シリコン薄膜等の電子供与性膜を備えることにより、基板表面において酸化還元反応によるガルバニック置換が起こるようにされた基板であってもよい。また、本発明において用いられる基板の大きさや形状は、特に限定されるものではなく、平板状であること以外は、得ようとする金属ナノ構造体含有基板の大きさや形状に応じて適宜選択することができる。
【0024】
<基板洗浄処理>
ブロックコポリマーを含む層を形成する前に、基板表面を洗浄してもよい。基板表面を洗浄することにより、後の中性化反応処理が良好に行える場合がある。
洗浄処理としては、従来公知の方法を利用でき、例えば酸素プラズマ処理、オゾン酸化処理、酸アルカリ処理、化学修飾処理等が挙げられる。例えば、基板を硫酸/過酸化水素水溶液等の酸溶液に浸漬させた後、水洗し、乾燥させる。その後、当該基板の表面に、ブロックコポリマーを含む層を形成することができる。
【0025】
<中性化処理>
中性化処理とは、基板表面を、ブロックコポリマーを構成するいずれのポリマーとも親和性を有するように改変する処理をいう。中性化処理を行うことにより、相分離によって特定のポリマーからなる相のみが基板表面に接することを抑制することができる。このため、ブロックコポリマーを含む層を形成する前に、基板表面に、用いるブロックコポリマーの種類に応じた中性化処理を行っておくことが好ましい。特に、相分離によって基板表面に対して垂直方向に配向されたラメラ構造又はシリンダー構造を形成させるためには、予め基板表面に中性化処理を行っておくことが好ましい。
【0026】
具体的には、中性化処理としては、基板表面に、ブロックコポリマーを構成するいずれのポリマーとも親和性を有する下地剤を含む薄膜(中性化膜)を形成する処理等が挙げられる。
このような中性化膜としては、樹脂組成物からなる膜を用いることができる。下地剤として用いられる樹脂組成物は、ブロックコポリマーを構成するポリマーの種類に応じて、薄膜形成に用いられる従来公知の樹脂組成物の中から適宜選択することができる。下地剤として用いられる樹脂組成物は、熱重合性樹脂組成物であってもよく、ポジ型レジスト組成物やネガ型レジスト組成物等の感光性樹脂組成物であってもよい。
その他、中性化膜は非重合性膜であってもよい。例えば、フェネチルトリクロロシラン、オクタデシルトリクロロシラン、ヘキサメチルジシラザン等のシロキサン系有機単分子膜も、中性化膜として好適に用いることができる。
これらの下地剤からなる中性化膜は、常法により形成することができる。
【0027】
このような下地剤としては、例えば、ブロックコポリマーを構成する各ポリマーの構成単位をいずれも含む樹脂組成物や、ブロックコポリマーを構成する各ポリマーと親和性の高い構成単位をいずれも含む樹脂等が挙げられる。
例えば、PS−PMMAブロックコポリマーを用いる場合には、下地剤として、PSとPMMAの両方を構成単位として含む物樹脂組成物や、芳香環等のPSと親和性が高い部位と、極性の高い官能基等のPMMAと親和性の高い部位の両方を含む化合物又は組成物を用いることが好ましい。
PSとPMMAの両方を構成単位として含む物樹脂組成物としては、例えば、PSとPMMAのランダムコポリマー、PSとPMMAの交互ポリマー(各モノマーが交互に共重合しているもの)等が挙げられる。
【0028】
また、PSと親和性が高い部位とPMMAと親和性の高い部位の両方を含む組成物としては、例えば、モノマーとして、少なくとも、芳香環を有するモノマーと極性の高い置換基を有するモノマーとを重合させて得られる樹脂組成物が挙げられる。芳香環を有するモノマーとしては、フェニル基、ビフェニル(biphenyl)基、フルオレニル(fluorenyl)基、ナフチル基、アントリル(anthryl)基、フェナントリル基等の、芳香族炭化水素の環から水素原子を1つ除いた基、及びこれらの基の環を構成する炭素原子の一部が酸素原子、硫黄原子、窒素原子等のヘテロ原子で置換されたヘテロアリール基等を有するモノマーが挙げられる。また、極性の高い置換基を有するモノマーとしては、トリメトキシシリル基、トリクロロシリル基、カルボキシ基、水酸基、シアノ基、アルキル基の水素原子の一部がフッ素原子で置換されたヒドロキシアルキル基等を有するモノマーが挙げられる。
その他、PSと親和性が高い部位とPMMAと親和性の高い部位の両方を含む化合物としては、フェネチルトリクロロシラン等のアリール基と極性の高い置換基の両方を含む化合物や、アルキルシラン化合物等のアルキル基と極性の高い置換基の両方を含む化合物等が挙げられる。
【0029】
<ガイドパターンの形成1>
基板表面は、ブロックコポリマーを含む層を形成する前に、予めパターンが形成されたガイドパターンを有していてもよい。これにより、ガイドパターンの形状・表面特性に応じた相分離構造の配列構造制御が可能となる。例えば、ガイドパターンがない場合にはランダムな指紋状の相分離構造が形成されるブロックコポリマーであっても、基板表面にレジスト膜の溝構造を導入することにより、その溝に沿って配向した相分離構造が得られる。このような原理でガイドパターンを導入してもよい。またガイドパターンの表面が、ブロックコポリマーを構成するいずれかのポリマーと親和性を備えることにより、基板表面に対して垂直方向に配向されたラメラ構造やシリンダー構造からなる相分離構造を形成しやすくすることもできる。
【0030】
基板表面にガイドパターンを備える基板としては、例えば、予め金属のパターンが形成された基板を用いることができる。また、リソグラフィー法やインプリント法により基板表面にパターンを形成したものを用いることもできる。これら中でも、リソグラフィー法を用いたものが好ましい。例えば、基板表面に、ブロックコポリマーを構成するいずれかのポリマーと親和性を有するレジスト組成物からなる膜を形成した後、所定のパターンが形成されたマスクを介して、光、電子線等の放射線にて選択的露光を行い、現像処理を施すことにより、ガイドパターンを形成することができる。なお、基板に中性化処理を行う場合には、中性化処理後に、中性化膜の表面にガイドパターンを形成することが好ましい。
【0031】
具体的には、例えば、基板表面上に、レジスト組成物をスピンナーなどで塗布し、80〜150℃の温度条件下、プレベーク(ポストアプライベーク(PAB))を40〜120秒間、好ましくは60〜90秒間施し、これに例えばArF露光装置などにより、ArFエキシマレーザー光を所望のマスクパターンを介して選択的に露光した後、80〜150℃の温度条件下、PEB(露光後加熱)を40〜120秒間、好ましくは60〜90秒間施す。次いでこれをアルカリ現像液、例えば0.1〜10質量%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)水溶液を用いて現像処理し、好ましくは純水を用いて水リンスを行い、乾燥を行う。また、場合によっては、上記現像処理後にベーク処理(ポストベーク)を行ってもよい。このようにして、マスクパターンに忠実なガイドパターンを形成することができる。
【0032】
ガイドパターンの基板表面(若しくは中性化膜表面)からの高さは、基板表面に形成されるブロックコポリマーを含む層の厚み以上であることが好ましい。ガイドパターンの基板表面(若しくは中性化膜表面)からの高さは、例えば、ガイドパターンを形成するレジスト組成物を塗布して形成されるレジスト膜の膜厚によって適宜調整することができる。
【0033】
ガイドパターンを形成するレジスト組成物は、一般的にレジストパターンの形成に用いられるレジスト組成物やその改変物の中から、ブロックコポリマーを構成するいずれかのポリマーと親和性を有するものを適宜選択して用いることができる。当該レジスト組成物としては、ポジ型レジスト組成物とネガ型レジスト組成物のいずれであってもよいが、ネガ型レジスト組成物であることが好ましい。
【0034】
また、ガイドパターンが形成された基板表面上にブロック供重合体の有機溶剤溶液が流し込まれた後、相分離を起こすために、熱処理がなされる。このため、ガイドパターンを形成するレジスト組成物としては、耐溶剤性と耐熱性に優れたレジスト膜を形成し得るものであることが好ましい。
【0035】
<ガイドパターンの形成2>
基板表面は、前記のような物理的に凹凸のある構造からなるガイドパターンに代えて、より平面的なガイドパターンを形成してもよい。具体的には、ブロックコポリマーを構成するいずれかのポリマーと親和性を有する領域と、その他の領域とからなるガイドパターンを有していてもよい。
【0036】
平面的なガイドパターンは、例えば、以下のようにして形成することができる。まず、下地剤として、ブロックコポリマーを構成するいずれかのポリマーと親和性を有する感光性レジスト組成物又は電子線により重合あるいは主差断裂をおこす組成物を用い、当該下地剤を基板表面に塗布してレジスト膜を形成した後、所定のパターンが形成されたマスクを介して、光、電子線等の放射線にて選択的露光を行い、現像処理を施すことにより、基板表面に、ブロックコポリマーを構成するいずれかのポリマーと親和性を有する薄膜が所定のパターンに配置される。これにより、下地剤から形成された領域と下地剤が除去された領域とが所定のパターンに配された平面的なガイドパターンを形成することができる。
【0037】
このようなガイドパターンを形成する際に用いられる下地剤としては、薄膜形成に用いられる従来公知の感光性樹脂組成物の中から所望の性質を備えるものを適宜選択して用いることができる。
【0038】
<ブロックコポリマーを含む層の相分離構造の形成>
まず、基板表面にブロックコポリマーを含む層を形成する。具体的には、適用な有機溶剤に溶解させたブロックコポリマーを、スピンナー等を用いて基板表面に塗布する。
ブロックコポリマーを溶解させる有機溶剤としては、用いるブロックコポリマーを溶解し、均一な溶液とすることができるものであればよく、ブロックコポリマーを構成する各ポリマーのいずれとも相溶性の高いものを用いることができる。有機溶剤は単独で用いてもよく、2種以上の混合溶剤として用いてもよい。
【0039】
ブロックコポリマーを溶解させる有機溶剤としては、例えば、γ−ブチロラクトン等のラクトン類;
アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチル−n−ペンチルケトン、メチルイソペンチルケトン、2−ヘプタノンなどのケトン類;
エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールなどの多価アルコール類;
エチレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールモノアセテート、又はジプロピレングリコールモノアセテート等のエステル結合を有する化合物、前記多価アルコール類又は前記エステル結合を有する化合物のモノメチルエーテル、モノエチルエーテル、モノプロピルエーテル、モノブチルエーテル等のモノアルキルエーテル又はモノフェニルエーテル等のエーテル結合を有する化合物等の多価アルコール類の誘導体[これらの中では、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)が好ましい];
ジオキサンのような環式エーテル類や、乳酸メチル、乳酸エチル(EL)、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチルなどのエステル類;
アニソール、エチルベンジルエーテル、クレジルメチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、フェネトール、ブチルフェニルエーテル、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、ペンチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、トルエン、キシレン、シメン、メシチレン等の芳香族系有機溶剤などを挙げることができる。
例えば、ブロックコポリマーとしてPS−PMMAブロックコポリマーを用いる場合には、トルエン等の芳香族系有機溶剤に溶解させることが好ましい。
【0040】
また、基板表面に形成されるブロックコポリマーを含む層の厚みは、形成しようとする金属ナノ構造体の基板表面からの高さ寸法よりも高くなるように適宜設定すればよい。
本発明においては、ブロックコポリマーを含む層の厚さは、相分離が起こるために十分な厚みであればよく、該厚さの下限値としては、特に限定されないが、金属ナノ構造体の強度、金属ナノ構造体が形成された基板の均一性等を考慮すると、5nm以上であることが好ましく、10nm以上であることがさらに好ましい。
【0041】
ブロックコポリマーを含む層が形成された基板を熱処理し、後工程におけるブロックコポリマーの選択除去によって基板表面の少なくとも一部が露出するような相分離構造を形成させる。熱処理の温度は、用いるブロックコポリマーのガラス転移温度以上であり、かつ熱分解温度未満で行うことが好ましい。また、熱処理は、窒素等の反応性の低いガス中で行われることが好ましい。
【0042】
<相分離構造中のPポリマーからなる相の選択除去>
次いで、相分離構造を形成させた後の基板上のブロックコポリマーを含む層のうち、露出しているPポリマーからなる相を選択的に除去する。これにより、Pポリマーからなる相のみが、基板の露出面に残る。これにより、Pポリマーからなる相のうち、基板表面からブロックコポリマーを含む層の表面まで連続して形成されていた相が除去され、基板表面が露出する。
【0043】
このような選択的除去処理は、Pポリマーに対しては影響せず、Pポリマーを分解除去し得る処理であれば、特に限定されるものではなく、樹脂膜の除去に用いられる手法の中から、PポリマーとPポリマーの種類に応じて、適宜選択して行うことができる。また、基板表面に予め中性化膜が形成されている場合には、当該中性化膜もPポリマーからなる相と同様に除去される。また、基板表面に予めガイドパターンが形成されている場合には、当該ガイドパターンは、Pポリマーと同様に除去されない。このような除去処理としては、例えば、酸素プラズマ処理、オゾン処理、UV照射処理、熱分解処理、及び化学分解処理等が挙げられる。
【0044】
なお、選択的除去処理後、金属ナノ構造体形成前に、露出された基板表面を洗浄処理することも好ましい。当該処理としては、前述の基板洗浄処理で挙げられたものと同様の処理を行うことができる。
【0045】
<金属ナノ構造体の形成>
露出された基板表面に金属イオンを接触させ、基板表面と金属イオンとの間に起こる電気化学反応により、当該基板表面に金属を析出させる。基板表面上に残存しているブロックコポリマーを含む層(表面がPポリマーからなる相)が鋳型となり、析出された金属から金属ナノ構造体が形成される。
【0046】
相分離構造が、基板表面に対して垂直方向に配向されたラメラ構造又はシリンダー構造であった場合には、Pポリマーからなる相を選択的に除去することにより、Pポリマーのみから形成されるライン状やホール状の構造が基板上に形成される。このPポリマーからなる構造を鋳型とすることにより、ライン状やシリンダー状の金属ナノ構造体を基板上に直接形成することができる。
【0047】
金属イオンは、基板に含まれている金属よりも標準電極電位が大きいイオンであればよい。金属イオンとしては、例えば、金、銀、銅、ニッケル、コバルト、すず、白金族(パラジウム、白金、ロジウム、ルテニウム)等のイオンが挙げられる。中でも、シリコンウェーハを基板とした場合には、金属イオンとして、金イオン、銀イオン、又は銅イオンであることが好ましい。
【0048】
具体的には、表面の一部を露出させた基板を、金属イオンを含有する水溶液に浸漬させる。金属水溶液への浸漬時間は、露出された基板表面の面積や、所望の金属ナノ構造体の高さや大きさ等を考慮して、適宜調整することができる。金属水溶液への浸漬時間が短すぎると、露出された基板表面の一部に、金属が析出されない領域ができ、形成された金属ナノ構造体の形状が、選択除去されたPポリマーからなる相の形状通りとはならなくなる。浸漬時間が長すぎる場合には、鋳型を超えて金属が析出し、やはり、選択除去されたPポリマーからなる相の形状通りの金属ナノ構造体を形成することができなくなる。
【0049】
金属ナノ構造体を形成させた基板は、そのまま使用してもよく、その後、Pポリマーからなる相等の基板上に残存しているブロックコポリマーを含む層を除去してもよい。例えば、金属ナノ構造体を形成させた基板を水素プラズマ処理することにより、当該基板からPポリマーからなる相等を除去することができる。
【0050】
≪金属ナノ構造体含有基板≫
本発明の金属ナノ構造体を表面に備える基板(本発明の金属ナノ構造体含有基板)は、本発明の金属ナノ構造体を表面に備える基板の製造方法を用いて製造された基板であり、基板表面上に金属ナノ構造体を有するフィルムである。金属ナノ構造体は、基板の表面に直接金属を析出させて形成されているため、化学センサや光学センサ等に使用した際に、樹脂膜等の保護膜が付着している金属ナノ構造体を備える基板よりも感度に優れている。
【0051】
基板が有する金属ナノ構造体、すなわち、基板上に形成された金属ナノ構造体の形状は、特に限定されるものではなく、例えばライン状、シリンダー状、及びその他の3次元構造、ならびにそれらのネットワーク構造や複合構造、繰り返し構造等を採用することができる。
基板が有する金属ナノ構造体は、1個であってもよく、複数個であってもよい。複数個の場合には、各金属ナノ構造体の配置は、特に限定されるものではなく、全ての金属ナノ構造体が並列に配置されていてもよく、放射状に配置されていてもよく、格子状に配置されていてもよく、縞状等のランダムに配置されていてもよい。
【0052】
例えば、金属は電気伝導性や熱伝導性に優れているため、金属ナノ構造体を基板上に適宜配置することにより、基板のある特定の方向にのみ熱や電気を伝導し得るという優れた異方性を有する金属ナノ構造体含有基板とすることができる。熱や電気は、基板中において、金属ナノ構造体のみを媒体として伝導するためである。
具体的には、例えば、複数のライン状の金属ナノ構造体を、基板上に並列に配置することにより、熱や電気は、基板中の金属ナノ構造体と平行な方角に対しては伝導するが、金属ナノ構造体と垂直な方角には全く伝導しないという電気伝導度異方性又は熱伝導度異方性を有する異方性基板とすることができる。
【実施例】
【0053】
次に、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0054】
[実施例1]
シリコン基板を硫酸/過酸化水素水混合液(体積比7:3)に1時間浸漬させた後、当該基板を水洗し、窒素ガスによって風乾した。次いで、当該基板を、フェネチルトリクロロシランのトルエン溶液(0.05体積%)に10分間浸漬させた後、トルエンで洗浄し、窒素ガスによって風乾した。
この基板に、PS−PMMAブロックコポリマー1(PSの分子量:53000、PMMAの分子量:54000、分散度(Poly dispersity index:PDI):1.16)のトルエン溶液(15mg/ml)をスピンコート(回転数:3000rpm、30秒間)した。PS−PMMAブロックコポリマーが塗布された基板を、窒素気流下、200℃で3時間加熱させて相分離構造を形成させた。その後、当該基板を酸素プラズマ処理(10sccm、10Pa、70W、18秒間)を行ってPMMAからなる相を選択的に除去した。これにより、基板上にはPSからなる相が残存し、PMMAからなる相が形成されていたシリコン基板表面のみが露出した。さらに、当該基板を硝酸銀(AgNO)(0.5mM)/フッ化水素(HF)(4.8M)混合水溶液に3分間浸漬させ、当該基板表面に銀ナノ構造体を形成させた。
【0055】
得られた基板の表面を走査型電子顕微鏡で観察した結果を図1に示す。図1の左図は、PMMAの除去処理後の基板表面の電子顕微鏡像であり、PSからなるライン状の相が縞状構造を形成していることが確認された。また、図1の右図は、硝酸銀/フッ化水素混合水溶液への浸漬処理後(銀導入後)の基板表面の電子顕微鏡像であり、図中のPSからなる縞状鋳型内(PSからなるライン同士の間)に、銀が析出している様子が確認された。これらの結果から、PMMAが除去されて表面が露出したシリコン基板表面に、銀ナノ粒子が選択的に析出・生成していることが明らかである。
【0056】
[実施例2]
硝酸銀/フッ化水素混合水溶液への浸漬処理時間を、1分間、2分間、又は3分間とした以外は、実施例1と同様にして、シリコン基板表面上に銀ナノ構造体を形成させた。
硝酸銀/フッ化水素混合水溶液への浸漬処理後(銀導入後)の基板の表面を走査型電子顕微鏡で観察した結果を図2に示す。図2の左図は硝酸銀/フッ化水素混合水溶液への浸漬処理時間を1分間とした場合、図2の中図は浸漬処理時間を2分間とした場合、図2の右図は浸漬処理時間を3分間とした場合の、基板表面の電子顕微鏡像である。これらの結果から、銀溶液への浸漬処理時間が長くなるにつれて、銀粒子がPSからなる縞状鋳型の溝内で成長し、最終的には鋳型溝内をはみ出して成長することが明らかである。
【0057】
[実施例3]
シリコン基板を硫酸/過酸化水素水混合液(体積比7:3)に1時間浸漬させた後、当該基板を水洗し、窒素ガスによって風乾した。次いで、当該基板を、フェネチルトリクロロシランのトルエン溶液(0.05体積%)に10分間浸漬させた後、トルエンで洗浄し、窒素ガスによって風乾した。
この基板に、PS−PMMAブロックコポリマー2(PSの分子量:45000、PMMAの分子量:20000、分散度:1.16)のトルエン溶液(15mg/ml)をスピンコート(回転数:3000rpm、30秒間)した。PS−PMMAブロックコポリマーが塗布された基板を、窒素気流下、190℃で24時間加熱させて相分離構造を形成させた。その後、当該基板を酸素プラズマ処理(10sccm、10Pa、70W、18秒間)を行ってPMMAからなる相を選択的に除去した。これにより、基板上にはPSからなる相が残存し、PMMAからなる相が形成されていたシリコン基板表面のみが露出した。さらに、当該基板を硝酸銀(0.5mM)/フッ化水素(4.8M)混合水溶液に1分間、2分間、又は3分間浸漬させ、当該基板表面に銀ナノ構造体を形成させた。
【0058】
得られた基板の表面を走査型電子顕微鏡で観察した結果を図3に示す。図3の左上図(「PMMA除去処理後」)は、PMMAの除去処理後の基板表面の電子顕微鏡像であり、基板表面上に残存しているPSからなる相により、直径23nmのホール構造が形成されていることが確認された。また、図3の右上図(「銀導入後(1分間)」)は硝酸銀/フッ化水素混合水溶液への浸漬処理時間を1分間とした場合、図3の左下図(「銀導入後(2分間)」)は浸漬処理時間を2分間とした場合、図3の右下図(「銀導入後(3分間)」)は浸漬処理時間を3分間とした場合の、基板表面の電子顕微鏡像であり、PSからなる鋳型ホールに、銀が析出している様子が確認された。浸漬処理時間が1分間であった場合には、形成された銀ナノ構造体の直径は約20nmであり、まだ鋳型ホールを完全に埋め尽くすには至っていない。浸漬処理時間が2分間の場合には、鋳型ホールの直径に相当する24nmのシリンダー状の銀ナノ構造体が形成されており、各鋳型ホールが一つの銀粒子で埋められていた。さらに、浸漬処理時間が3分間の場合には、形成された銀ナノ構造体の直径は、2分間の場合と比べてほとんど増加していないが、鋳型ホールを超えて銀粒子が成長している様子が観察された。
【0059】
[実施例4]
硝酸銀/フッ化水素混合水溶液への浸漬処理時間を、2分間又は3分間とし、さらに浸漬処理後に水素プラズマ処理を、30sccm、10Pa、50Wの条件又は30sccm、10Pa、100Wの条件で行うことにより、基板表面に残留していたPSを選択的に除去した以外は、実施例1と同様にして、シリコン基板表面上に銀ナノ構造体を形成させた。
硝酸銀/フッ化水素混合水溶液への浸漬処理時間を3分間とした場合に得られた基板の表面を走査型電子顕微鏡で観察した結果を、図4に示す。図4中、上段が硝酸銀/フッ化水素混合水溶液への浸漬処理後(銀導入後)の基板表面の電子顕微鏡像であり、図4中、下段が水素プラズマ処理後の基板表面の電子顕微鏡像である。また、図4中、右側の図(「水素プラズマ RF出力:50W」)が、水素プラズマ処理を30sccm、10Pa、50Wの条件で行った場合の基板表面の電子顕微鏡像であり、左側の図(「水素プラズマ RF出力:100W」)が、水素プラズマ処理を30sccm、10Pa、100Wの条件で行った場合の基板表面の電子顕微鏡像である。この結果、水素プラズマ処理の出力を50Wで行った場合には、水素プラズマ処理の前後において、銀ナノ構造体の形状はほとんど変化がない。これに対して、水素プラズマ処理の出力を100Wで行った場合には、水素プラズマ処理によって隣接する銀粒子同士の融合が起こり、銀ナノ構造体の構造変化が観察された。これらの結果から、水素プラズマ処理の出力を調整することにより、電気化学反応により形成された銀ナノ構造体の構造を変形させることなく、鋳型とした樹脂のみを選択的に除去し、基板表面に鋳型構造を反映した銀ナノ構造体を形成できることが明らかである。
【0060】
[製造例1]
下地剤として使用するネガ型レジスト組成物溶液を製造した。
具体的には、下記式(A)−1で表されるポリマー(Mw=40000)を100質量部、下記式(B)−1で表される光酸発生剤((4−ターフェニルチオフェニル)ジフェニルスルフォニウム トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロフォスフェート)を2.5質量部、下記式(C)−1で表される架橋剤を150質量部、及びPGMEAを600質量部混合し、溶解してネガ型レジスト組成物溶液を調製した。なお、式(A)−1中、( )の右下の数値は各構成単位の割合(モル%)を示す。
【0061】
【化1】

【0062】
【化2】

【0063】
【化3】

【0064】
[実施例5]
シリコン基板を硫酸/過酸化水素水混合液(体積比7:3)に1時間浸漬させた後、当該基板を水洗し、窒素ガスによって風乾した。次いで、当該基板表面に、製造例1により製造されたネガ型レジスト組成物溶液をスピンコート(回転数:1000rpm、60秒間)した後、120℃で60秒間加熱した。当該基板を、PGMEAに1分間浸漬させる処理を2回行い、さらにPGMEAで洗浄し、窒素ガスによって風乾した。
この基板に、実施例1等で用いたPS−PMMAブロックコポリマー1のトルエン溶液(15mg/ml)、又は実施例3等で用いたPS−PMMAブロックコポリマー2のトルエン溶液(15mg/ml)をスピンコート(回転数:3000rpm、30秒間)した。PS−PMMAブロックコポリマー1が塗布された基板は、窒素気流下、200℃で3時間加熱し、PS−PMMAブロックコポリマー2が塗布された基板は、窒素気流下、190℃で24時間加熱させることにより、それぞれ相分離構造を形成させた。その後、各基板に対して、酸素プラズマ処理(10sccm、10Pa、70W、18秒間)を行ってPMMAからなる相を選択的に除去した。さらに、当該基板をテトラクロロ金( III )酸(HAuCl)(0.5mM)/フッ化水素(0.48M)混合水溶液に1分間浸漬させ、当該基板表面に金ナノ構造体を形成させた。
【0065】
得られた基板の表面を走査型電子顕微鏡で観察した結果を図5に示す。図5の左図は、PS−PMMAブロックコポリマー1を塗布した基板の基板表面の電子顕微鏡像であり、PSからなる縞状鋳型の溝内に金が析出している様子が確認された。一方、図5の右図は、PS−PMMAブロックコポリマー2を塗布した基板の基板表面の電子顕微鏡像であり、PSからなる鋳型ホールに、金が析出している様子が確認された。これらの結果から、銀の場合と同様に、PMMAが選択的に除去されることにより露出したシリコン基板表面に、PSからなる鋳型構造を反映した金ナノ構造体を形成できることが明らかである。
【0066】
[実施例6]
シリコン基板を硫酸/過酸化水素水混合液(体積比7:3)に1時間浸漬させた後、当該基板を水洗し、窒素ガスによって風乾した。次いで、当該基板表面に、製造例1により製造されたネガ型レジスト組成物溶液をスピンコート(回転数:1000rpm、60秒間)した後、120℃で60秒間加熱した。当該基板を、PGMEAに1分間浸漬させる処理を2回行い、さらにPGMEAで洗浄し、窒素ガスによって風乾した。
この基板に、実施例1等で用いたPS−PMMAブロックコポリマー1のトルエン溶液(15mg/ml)をスピンコート(回転数:3000rpm、30秒間)した後、窒素気流下、190℃で24時間加熱させて相分離構造を形成させた。その後、当該基板を酸素プラズマ処理(10sccm、10Pa、70W、18秒間)を行ってPMMAからなる相を選択的に除去した。さらに、当該基板を硝酸銅(Cu(NO)(5mM)/フッ化水素(0.48M)混合水溶液に1分間浸漬させ、当該基板表面に銅ナノ構造体を形成させた。
【0067】
得られた基板の表面を走査型電子顕微鏡で観察した結果を図6に示す。この結果、PSからなる縞状鋳型の溝内に銅が析出している様子が確認された。この結果から、銀の場合と同様に、PMMAが選択的に除去されることにより露出したシリコン基板表面に、PSからなる鋳型構造を反映した銅ナノ構造体を形成できることが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数種類のポリマーが結合したブロックコポリマーを含む層を基板表面に形成した後、当該層を相分離させる工程と、
前記層のうち、前記ブロックコポリマーを構成する複数種類のポリマーのうちの少なくとも一種類のポリマーからなる相を選択的に除去し、前記基板表面の一部を露出させる工程と、
露出された基板表面に金属イオンを接触させ、基板表面と金属イオンとの間に起こる電気化学反応により、当該基板表面に金属を析出させる工程と、
を有することを特徴とする金属ナノ構造体を表面に備える基板の製造方法。
【請求項2】
前記基板が、表面に下地剤からなる層が予め形成されている請求項1に記載の金属ナノ構造体を表面に備える基板の製造方法。
【請求項3】
前記金属イオンが、金イオン、銀イオン、又は銅イオンである請求項1又は2に記載の金属ナノ構造体を表面に備える基板の製造方法。
【請求項4】
前記ブロックコポリマーが、ポリスチレンとポリメチルメタクリレートからなる請求項1〜3のいずれか一項に記載の金属ナノ構造体を表面に備える基板の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の金属ナノ構造体を表面に備える基板の製造方法により製造された金属ナノ構造体を表面に備える基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−51060(P2012−51060A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−194831(P2010−194831)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【出願人】(000220239)東京応化工業株式会社 (1,407)
【Fターム(参考)】