説明

金属ナノ粒子を用いた接合方法

【課題】金属ナノ粒子を含む接合層の厚さを一定に且つ均一にすることができる接合方法を提供することを課題とする。
【解決手段】被接合材12の下面がスペーサ13に当たるまで、被接合材12を押圧する。この押圧工程により、ペースト層25は、圧縮されて厚さがAになる。スペーサ13は縦横に配列されているため、押圧時に、被接合材12が傾く心配はない。結果、厚さが一定で且つ均一なペースト層25が得られる。
【効果】スペーサ13を用いたことにより、金属ナノ粒子を含む接合層の厚さを一定に且つ均一にすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ナノ粒子を接合要素にする接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2枚の被接合材をロウ材で接合することは広く実用に供されている。近年、ロウ材に代えて、ナノサイズの金属超微粒子(金属ナノ粒子と呼ぶ。)を使用する技術が提案されてきた(例えば、特許文献1(図1)参照。)。
【0003】
特許文献1を次図に基づいて説明する。
図9は従来の接合方法を説明する図であり、(a)において、下の被接合部材101と上の被接合部材102との間に金属ナノ粒子が含まれている接合材料103を介在させる。そして、(b)において、加圧しながら加熱することで、接合構造を完成させる。
【0004】
しかし、特許文献1には、次に示す問題点が含まれている。
第1に、金属ナノ粒子が含まれている接合材料103からは、加熱されると有機ガスが発生することが知られている。接合材料103の面積が大きい場合には、中央部からのガス抜けが悪くなる。ガスが抜けない部位では、有機被膜の除去が不十分になり、焼結結合は不十分になる。結果、所望の接合強度が得られない。
第2に、矢印P、Pのように、押圧した場合に、設備の機械的な誤差や、がたに起因して、上の被接合部材102は僅かであるが傾斜する。すると、接合材料103は厚い部位と薄い部位が発生する。加えて、押圧力の大小のばらつきがあるため、接合材料103は厚さ自体も一定にすることが難しい。
【0005】
上述した第1の問題点を解決し得る接合方法が提案されている(例えば、特許文献2(図3)参照。)。
特許文献2の図3を次図で説明する。
図10は別の従来の接合方法を説明する図であり、下の金属板111に縞状に金属微粒子112を塗布し、上の金属板113を重ね、トンネル114が消失しない程度の圧力で上の金属板113を押し下げながら加熱する。一定時間が圧力を増やし、温度を上げて接合を行う。
【0006】
トンネル114を介してガスが逃がされるので、上述の第1の問題は解決する。
しかし、第2の問題(膜厚の不安定)は解決しないままである。
接合強度を安定化させるには、接合部材の厚さを一定に且つ均一にすることが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−202084公報
【特許文献2】特開2007−330980公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、金属ナノ粒子を含む接合層の厚さを一定に且つ均一にすることができる接合方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、複数の被接合材を金属ナノ粒子で接合する接合方法において、
複数の被接合材と、径が一定の線状のスペーサと、このスペーサの径と同等の幅の遮蔽部を含む塗布パターンが設けられている塗布用マスクと、有機被膜で被覆された金属ナノ粒子を分散媒に分散させてなる金属ナノ粒子ペーストとを準備する工程と、
前記金属ナノ粒子ペースト及び前記塗布用マスクを用いて、前記スペーサの径より大きな厚さの塗膜を一方の被接合材に塗布する塗布工程と、
前記遮蔽部により塗膜に形成された溝部に、前記スペーサを配置するスペーサ配置工程と、
他方の被接合材を重ね合わせる工程と、
前記被接合材同士の間隔が前記スペーサの径に合致するまで、被接合材同士を押圧する工程と、
前記被接合材同士の間隔が前記スペーサの径に合致した状態で前記被接合材同士の間隔を保持し、前記スペーサを除去する工程と、
得られた合体物を焼成する工程と、からなることを特徴とする。
金属ナノ粒子を用いた接合方法。
【0010】
請求項2に係る発明では、得られた合体物を焼成する工程は、得られた合体物を、分散媒が飛散するように加熱する第1加熱工程と、次に、有機被膜がガス化し、金属ナノ粒子が被接合材に拡散接合するよう加圧しながら加熱する第2加熱工程と、からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明では、被接合材同士を押圧する工程で、被接合材同士の間隔がスペーサの径に合致するまで、被接合材同士を押圧する。これで、金属ナノ粒子ペーストの厚さが、スペーサの径と同一になり、金属ナノ粒子を含む接合層の厚さを一定に且つ均一にすることができる。さらに、スペーサによって小面積に分けられた金属ナノ粒子は、一面に塗布された金属ナノ粒子に較べ、接合面方向に接合材と被接合材の熱膨張率の差による応力を緩和する変化幅があるため、割れを防ぐ効果がある。
【0012】
請求項2に係る発明では、焼成する工程を、第1加熱工程と第2加熱工程とからなる。
第1加熱工程で、合体物から分散媒を飛散させる。次に、第2加熱工程で、有機被膜をガス化し、金属ナノ粒子を被接合材に拡散接合する。
スペーサの配置部に空隙ができ、この空隙が分散媒・有機溶媒の脱離ルートとなるので、中心部分のボイドを防ぎ、強固な接合ができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る準備工程を説明する図である。
【図2】本発明に係る塗布工程を説明する図である。
【図3】本発明に係る重ね合わせ工程を説明する図である。
【図4】図3の4矢視図である。
【図5】本発明に係る押圧工程を説明する図である。
【図6】本発明に係る第1加熱工程を説明する図である。
【図7】本発明に係る第2加熱工程を説明する図である。
【図8】接合体に施す剪断強さ試験の説明図である。
【図9】従来の接合方法を説明する図である。
【図10】別の従来の接合方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。
【実施例】
【0015】
本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
図1(a)に示されるように、被接合材11、12を準備する。被接合材11、12は2枚で説明するが、3枚以上であってもよい。
被接合材11、12の材質は、焼結可能な金属材料(金属系複合材を含む。)であれば種類は任意であり、例えば、鋼、ステンレス、銅、アルミニウム、チタン、Al−SiC複合材又は炭素−金属複合材である。
【0016】
これらの被接合材11、12を、洗浄する。洗浄は次の何れかの手順で実施する。
第1の手順は、アセトンで洗浄し、純水で洗い、乾燥させる。
第2の手順は、イソプロピルアルコール(IPA)で洗浄し、純水で洗い、乾燥させる。
第3の手順は、アセトン又はIPAで洗浄し、酸で洗い、純水で洗い、乾燥させる。
第4の手順は、プラズマ洗浄法で洗浄する。
【0017】
図1(b)に示めすスペーサ13を準備する。スペーサ13は径Aが一定の丸棒、角棒(三角断面、四角断面、五角断面などの多角断面棒)に代表される線状の棒、ロッド、ワイヤが採用できる。
【0018】
図1(c)に示めす塗布マスク14を準備する。塗布マスク14は、枠15と、この枠15に張ったスクリーン16とからなり、このスクリーン16は、遮蔽部17、18と透過部19、19とからなる。
(c)の矢視図である(d)に示すように、スクリーン16には、遮蔽部17、18と透過部19、19とからなる塗布パターンが設けられている。そして、透過部19、19間の遮蔽部17の遮蔽幅Bは、スペーサ13は径Aに対応した大きさに設定される。具体的には、A≦Bとする。
【0019】
図1(e)に示めす金属ナノ粒子ペースト20を準備する。この金属ナノ粒子ペースト20は、C、H、Oを含む有機被膜21で被覆された金属ナノ粒子22を、分散媒23に分散させてなる。金属ナノ粒子22の金属は銀が好ましい。また、分散媒23は、エチレングリコール、トルエン、テトラデカン、ブタンジオール、低級アルコールの一種又は複数種を含む。
【0020】
次に、図2に示すように、一方の被接合材11に、塗布マスク14を載せ、スクリーン16上に、想像線で示す金属ナノ粒子ペースト20を載せ、この金属ナノ粒子ペースト20を掻き板24で掻く。すると、金属ナノ粒子ペースト20は透過部19、19を通って被接合材11に至る。なお、金属ナノ粒子ペースト20の塗布厚さCは、スペーサの径A(図1、符号13)より大きく設定する。
【0021】
慎重に塗布マスク14を外すと、図3に示すように、被接合材11の上面に、厚さがCのペースト層25、25が積層されている。そして、隣り合うペースト層25とペースト層25との間に、溝部26が形成されている。この溝部26はスクリーンの遮蔽部(図2、符号17)によって形成されたものである。
【0022】
次に、図4(a)(図3の4矢視図)に示すように、溝部26へ長短のスペーサ13を縦横に収納する。この図での塗布パターンは菱形ベースであるが、塗布パターンが矩形ベースであれば、図4(b)の形態となるため、隣り合うペースト層25とペースト層25との間の溝部26に長短のスペーサ13が縦横に収納される。すなわち、塗布パターンの形状は任意であり、そこに設けられた溝部26に縦横にスペーサ13が収納される。
【0023】
図3に戻って、他方の被接合材12を被せる。続いて、図5に示すように、被接合材12の下面がスペーサ13に当たるまで、被接合材12を押圧する。この押圧工程により、ペースト層25は、圧縮されて厚さがAになる。図4で説明したように、スペーサ13は縦横に配列されているため、図5での押圧時に、被接合材12が傾く心配はない。結果、厚さが一定で且つ均一なペースト層25が得られる。
【0024】
図5に示されるスペーサ13は、次の第1加熱工程の前に、引き抜く。すなわち、図5の形態のままで、スペーサ13だけを図おもて側へ引き抜く。得られた合体物28に次の要領で加熱を施す。
【0025】
図6に示すように、ヒータ29を備えている第1加熱炉30に合体物28を装入する。
そして、この第1加熱炉30で、大気雰囲気中、60〜120℃の温度で、5〜120分間、第1加熱を実施する。この第1加熱工程により、分散媒(図1、符号23)が除去される。
【0026】
次に、合体物28を、図7に示すヒータ31及びプレスパンチ32を備えている第2加熱炉33に装入する。そして、この第2加熱炉33で、プレスパンチ32で抑えながら、大気雰囲気中、150〜300℃の温度で、5〜120分間、第2加熱を実施する。この第2加熱工程により、有機被膜がガス化して除去される。発生ガスは、ペースト層25、25間の溝部26を通るため、円滑に且つ短い時間で排出される。
【0027】
ペースト層25は、加熱処理により、焼結反応が進行する。すなわち、有機被膜が消失したため、金属ナノ粒子(図1、符号22)は、直接被接合材11、12に接触し、焼結反応により、結合する。
【0028】
結果、図8に示すような、金属ナノ粒子からなる接合層35、35で接合された被接合材11、12とからなる積層体36が得られる。
この積層体36に、外力Fを加えることにより剪断強さを求めることができる。剪断強さは、接合層35の面積S(接合層35が複数個の場合は、合計面積)で除した値となる。すなわち、剪断強さ=F/Sの計算により求まる。
【0029】
詳細な条件は省略するが、本発明によれば、次表の実施例の欄に示す通り、接合層の厚さは40μm均一であり、剪断強さは20MPaであった。
【0030】
【表1】

【0031】
普通のスクリーンによる塗布を行い、他の条件は実施例と同一にした比較例では、接合層の厚さは30〜100μmに変動し、剪断強さは9MPaに留まった。
比較例はペースト層における圧縮率にばらつきがあり、その結果、接合層の強度に、ばらつきが生じ、剪断強さが低くなったと考えられる。
【0032】
一方、本発明によれば、ペースト層の厚みが均一になり、その結果、接合層の強度が安定し、剪断強さが高くなったと考えられる。
【0033】
以上に詳しく述べたが、本発明は次のようにまとめることができる。
本発明は、図1に示すように、複数の被接合材11、12と、径Aが一定の線状のスペーサ13と、このスペーサ13の径Aと同等の幅の遮蔽部17を含む塗布パターンが設けられている塗布用マスク14と、有機被膜21で被覆された金属ナノ粒子22を分散媒23に分散させてなる金属ナノ粒子ペースト20とを準備する工程と、
図2に示すように、金属ナノ粒子ペースト20及び前記塗布用マスク14を用いて、スペーサ13の径Aより大きな厚さBの塗膜を一方の被接合材11に塗布する塗布工程と、
図4に示すように、遮蔽部17により塗膜に形成された溝部26に、スペーサ13を配置するスペーサ配置工程と、
図3に示すように、他方の被接合材12を重ね合わせる工程と、
図5に示すように、被接合材同士11、12の間隔がスペーサ13の径Aに合致するまで、被接合材同士11、12を押圧する工程と、
被接合材同士の間隔がスペーサの径に合致した状態で被接合材同士の間隔を保持し、スペーサ13を除去する工程と、
図6に示すように、得られた合体物28を、分散媒が飛散するように加熱する第1加熱工程と、
図7に示すように、有機被膜がガス化し、金属ナノ粒子が被接合材に拡散接合するよう加圧しながら加熱する第2加熱工程と、からなることを特徴とする。
【0034】
尚、第1加熱工程と第2加熱工程とを、焼成工程にまとめることは可能である。焼成工程にまとめることにより、分散媒の処理と、有機被膜の処理とが同時並行的に行われる。2工程を1工程にすることができ、生産性を高めることができ
しかし、焼成工程は、第1加熱工程と第2加熱工程の2工程で実施することが望ましい。分散媒の処理と、有機被膜の処理と、拡散接合処理とのこの順位に実施されるため、スペーサ配置部の空隙からよりよく分散媒と有機溶媒の離脱が行われ、焼結時のボイドを防ぐため強固な高品質の接合層が得られるからである。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、金属板同士を接合する技術に好適である。
【符号の説明】
【0036】
11…一方の被接合材、12…他方の被接合材、13…スペーサ、14…塗布マスク、20…金属ナノ粒子ペースト、21…有機被膜、22…金属ナノ粒子、23…分散媒、26…溝部、28…合体物、30…第1加熱炉、33…第2加熱炉。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の被接合材を金属ナノ粒子で接合する接合方法において、
複数の被接合材と、径が一定の線状のスペーサと、このスペーサの径と同等の幅の遮蔽部を含む塗布パターンが設けられている塗布用マスクと、有機被膜で被覆された金属ナノ粒子を分散媒に分散させてなる金属ナノ粒子ペーストとを準備する工程と、
前記金属ナノ粒子ペースト及び前記塗布用マスクを用いて、前記スペーサの径より大きな厚さの塗膜を一方の被接合材に塗布する塗布工程と、
前記遮蔽部により塗膜に形成された溝部に、前記スペーサを配置するスペーサ配置工程と、
他方の被接合材を重ね合わせる工程と、
前記被接合材同士の間隔が前記スペーサの径に合致するまで、被接合材同士を押圧する工程と、
前記被接合材同士の間隔が前記スペーサの径に合致した状態で前記被接合材同士の間隔を保持し、前記スペーサを除去する工程と、
得られた合体物を焼成する工程と、からなることを特徴とする金属ナノ粒子を用いた接合方法。
【請求項2】
前記得られた合体物を焼成する工程は、
前記得られた合体物を、前記分散媒が飛散するように加熱する第1加熱工程と、
次に、前記有機被膜がガス化し、前記金属ナノ粒子が前記被接合材に拡散接合するよう加圧しながら加熱する第2加熱工程と、からなることを特徴とする請求項1記載の金属ナノ粒子を用いた接合方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−227963(P2010−227963A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−77457(P2009−77457)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】