説明

金属ナノ粒子ペースト及び導電性基材

【課題】焼成しても、膨れや剥離が生じることがない、導電性基材及びその製造方法を提供する。
【解決手段】金属ナノ粒子(A1)とこの金属ナノ粒子(A1)を被覆する保護コロイド(A2)とで形成された金属コロイド粒子(A)、沸点が100〜250℃である極性溶媒で構成された分散媒(B)、及び沸点又は分解温度が250℃を超え、かつ数平均分子量が200〜2000である親水性化合物で構成されている分散助剤(C)を含む金属ナノ粒子ペーストを調製する。この金属ナノ粒子ペーストを用いると、焼成しても膨れが生じることなく、基材(特に、ITOやFTOなどの金属酸化物で構成された透明電極膜)に強固に密着した焼結膜を形成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明電極や基板の回路を形成するために利用できる金属ナノ粒子ペースト、このペーストを用いた導電性基材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、各種の太陽電池やディスプレイの電極には透明導電膜が利用されており、その導電性を補うために銀などの導体が使用されている。しかし、透明導電膜は、酸化インジウム−酸化錫系複合酸化物(ITO)、フッ素ドープ酸化錫(FTO)などの金属酸化物で構成されており、銀などの貴金属との密着性が弱く、透明導電膜上に銀ペーストを印刷して形成した導体は充分な密着強度が得られないという問題があった。
【0003】
そこで、太陽電池の裏面反射膜と透明基材との密着性を向上させるための方法として、特開2007−294730号公報(特許文献1)には、銀ナノ粒子などの導電性の金属ナノ粒子と、沸点が150℃以上の有機溶媒とを含有する反射導電膜形成塗料を用いる方法が提案されている。この文献には、沸点が150℃以上の有機溶媒として、エチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール、N−メチル−2−ピロリドンなどのアミドが記載されている。
【0004】
また、特開2008−135416号公報(特許文献2)には、金属ナノ粒子が分散媒に分散した太陽電池の電極形成用組成物であって、前記金属ナノ粒子が、75重量%以上の銀ナノ粒子を含有し、炭素数1〜3の有機分子主鎖の保護剤で化学修飾され、かつ一次粒径10〜50nmの粒子を数平均で70%以上含有する電極形成用組成物が提案されている。この文献には、前記分散媒として、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、イソボニルヘキサノール、グリセリン及びエリスリトールからなる群から選択された少なくとも一種が記載されている。さらに、炭素数1〜3の有機分子主鎖の保護剤で化学修飾するために、クエン酸ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム、グリコール酸ナトリウムを使用することが記載されている。
【0005】
これらの反射導電膜形成塗料又は電極形成用組成物は、いずれも銀ナノ粒子で構成されているため、抵抗値の低い電極や配線を形成し、焼成後に緻密な膜を形成できる。しかし、これらの塗料又は組成物では、ペーストの焼成時に発生するガスの抜けが充分でないため、焼成時に膜と基板との間に膨れや剥離が発生し、密着力が低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−294730号公報(特許請求の範囲、段落[0025])
【特許文献2】特開2008−135416号公報(特許請求の範囲、段落[0010]〜[0013])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、焼成しても、膨れや剥離が生じることなく、基材に強固に密着した焼結膜を形成できる金属ナノ粒子ペースト、このペーストを用いた導電性基材及びその製造方法を提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、銀などの貴金属で構成されていても、金属酸化物で構成された基材に対して強固に密着した焼結膜を形成できる金属ナノ粒子ペースト、このペーストを用いた導電性基材及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、金属ナノ粒子を含む特定の金属コロイド粒子と、特定の沸点を有する極性溶媒と、特定の沸点又は分解温度及び分子量を有する親水性化合物とを組み合わせてペースト(濃厚分散液)を調製することにより、焼成しても膨れや剥離が生じることなく、基材に強固に密着した焼結膜を形成できることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明の金属ナノ粒子ペーストは、金属ナノ粒子(A1)とこの金属ナノ粒子(A1)を被覆する保護コロイド(A2)とで形成された金属コロイド粒子(A)、沸点が100〜250℃である極性溶媒で構成された分散媒(B)、及び沸点又は分解温度が250℃を超え、かつ数平均分子量が150〜3000である親水性化合物で構成された分散助剤(C)を含む。前記分散媒(B)は、脂肪族多価アルコール類、セロソルブ類、セロソルブアセテート類、カルビトール類及びカルビトールアセテート類からなる群から選択された少なくとも一種(特にC2−4アルキレングリコール)であってもよい。前記分散助剤(C)は、数平均分子量180〜2200の親水性オリゴマー又はポリマー(特にポリC2−4アルキレングリコール)であってもよい。前記分散媒(B)と前記分散助剤(C)との割合(質量比)は、前者/後者=90/10〜30/70程度であってもよい。前記保護コロイド(A2)は、カルボキシル基を有する有機化合物(A2−1)と高分子分散剤(A2−2)とで構成されていてもよい。前記金属ナノ粒子(A)を構成する金属は、少なくとも貴金属を含む金属(特に銀)であってもよい。前記有機化合物(A2−1)は、C1−16脂肪族カルボン酸及び脂肪族ヒドロキシカルボン酸から選択された少なくとも1種(特にC1−6アルカン酸)であってもよい。前記高分子分散剤(A2−2)は、遊離のカルボキシル基を有していてもよい。
【0011】
本発明には、基材の上に前記金属ナノ粒子ペーストで被膜を形成する工程、及びこの被膜を焼成処理する工程を含む導電性基材の製造方法も含まれる。この製造方法において、前記基材の表面は透明電極膜で構成されていてもよい。前記透明電極膜は、酸化インジウム−酸化錫系複合酸化物(ITO)及びフッ素ドープ酸化錫(FTO)からなる群から選択された少なくとも一種の金属酸化物で形成されていてもよい。さらに、本発明には、前記製造方法により得られた導電性基材も含まれる。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、金属ナノ粒子を含む特定の金属コロイド粒子と、特定の沸点の極性溶媒と、特定の沸点又は分解温度及び分子量を有する親水性化合物とを組み合わせているため、焼成(特に、高温で焼成)しても膨れや剥離が生じることなく、基材に強固に密着した焼結膜を形成できる。特に、銀などの貴金属との密着が困難な金属酸化物で構成された基材(ITO膜やFTO膜などの透明電極膜など)に対しても強固に密着した焼結膜を形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明の金属ナノ粒子ペーストを利用して得られた色素増感型太陽電池のセル構造を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[金属ナノ粒子ペースト]
本発明の金属ナノ粒子ペーストは、金属ナノ粒子(A1)とこの金属ナノ粒子(A1)を被覆する保護コロイド(A2)とで形成された金属コロイド粒子(A)、沸点が100〜250℃である親水性化合物で構成された分散媒(B)、及び沸点又は分解温度が250℃を超え、かつ数平均分子量が100〜3000である親水性化合物で構成された分散助剤(C)を含む。
【0015】
(A)金属コロイド粒子
本発明の金属コロイド粒子(A)は、金属ナノ粒子(A1)と、この金属ナノ粒子(A1)を被覆する保護コロイド(A2)で構成されている。
【0016】
(A1)金属ナノ粒子
金属ナノ粒子(A1)を構成する金属(金属原子)としては、例えば、遷移金属(例えば、チタン、ジルコニウムなどの周期表第4A族金属;バナジウム、ニオブなどの周期表第5A族金属;モリブデン、タングステンなどの周期表第6A族金属;マンガンなどの周期表第7A族金属;鉄、ニッケル、コバルト、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、レニウム、イリジウム、白金などの周期表第8族金属;銅、銀、金などの周期表第1B族金属など)、周期表第2B族金属(例えば、亜鉛、カドミウムなど)、周期表第3B族金属(例えば、アルミニウム、ガリウム、インジウムなど)、周期表第4B族金属(例えば、ゲルマニウム、スズ、鉛など)、周期表第5B族金属(例えば、アンチモン、ビスマスなど)などが挙げられる。金属は、周期表第8族金属(鉄、ニッケル、ロジウム、パラジウム、白金など)、周期表第1B族金属(銅、銀、金など)、周期表第3B族金属(アルミニウムなど)及び周期表第4B族金属(スズなど)などであってもよい。なお、金属(金属原子)は、保護コロイドに対する配位性の高い金属、例えば、周期表第8族金属、周期表第1B族金属などである場合が多い。
【0017】
金属ナノ粒子(A1)は、前記金属単体、前記金属の合金、金属酸化物、金属水酸化物、金属硫化物、金属炭化物、金属窒化物、金属ホウ化物などであってもよい。これらの金属ナノ粒子(A1)は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。金属ナノ粒子(A1)は、通常、金属単体粒子、又は金属合金粒子である場合が多い。なかでも、金属ナノ粒子(A1)を構成する金属は、少なくとも銀などの貴金属(特に周期表第1B族金属)を含む金属(金属単体及び金属合金)、特に貴金属単体(例えば、銀単体など)であるのが好ましい。
【0018】
金属ナノ粒子(A1)はナノメーターサイズである。例えば、本発明の金属コロイド粒子における金属ナノ粒子(A1)の数平均粒子径(平均一次粒子径)は、1〜100nm、好ましくは1.5〜80nm、さらに好ましくは2〜70nm、特に3〜50nm程度であってもよく、通常1〜40nm(例えば、2〜30nm)程度であってもよい。
【0019】
また、本発明の金属コロイド粒子は、粗大粒子をほとんど含んでいなくてもよい。そのため、金属ナノ粒子(A1)の最大一次粒子径は、例えば、200nm以下、好ましくは150nm以下、さらに好ましくは100nm以下である。さらに、金属ナノ粒子(A1)(又は金属コロイド粒子)において、一次粒子径が100nm以上の粒子の割合は、金属(又は金属成分)の質量基準で、例えば、10質量%以下(例えば、0〜8質量%程度)、好ましくは5質量%以下(例えば、0.01〜3質量%)、さらに好ましくは1質量%以下(例えば、0.02〜0.5質量%程度)であってもよい。
【0020】
なお、金属コロイド粒子の粒子径も、通常、前記金属ナノ粒子(A1)の粒子径と略同じ粒子径である。
【0021】
(A2)保護コロイド
保護コロイド(A2)は、金属ナノ粒子に対して物理的又は化学的に親和性を有するか又は結合(水素結合、イオン結合、配位結合などの化学結合など)して安定化する成分であればよい。このような成分は、金属ナノ粒子表面に配位可能な官能基(又は金属原子に対する親和性基)を有する有機化合物である場合が多い。このような配位性官能基(又は配位子)としては、例えば、アミノ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基などの官能基が挙げられる。有機化合物は、これらの官能基を単独で又は二種以上組み合わせて有していてもよい。本発明では、このような官能基を有する有機化合物の中でも、カルボキシル基を有する有機化合物(A2−1)と高分子分散剤(A2−2)との組み合わせが特に好ましい。
【0022】
(A2−1)カルボキシル基を有する有機化合物
有機化合物(A2−1)は、カルボキシル基を有している。このようなカルボキシル基の数は、有機化合物(A2−1)1分子あたり、1以上であれば特に限定されず、例えば、1〜10、好ましくは1〜5、さらに好ましくは1〜3程度であってもよい。
【0023】
なお、有機化合物(A2−1)において、一部又は全部のカルボキシル基は、塩(アミンとの塩、金属塩など)を形成していてもよい。特に、本発明では、カルボキシル基(特に、すべてのカルボキシル基)が、塩[特に、塩基性化合物との塩(アミンとの塩又はアミン塩など)]を形成していない有機化合物(すなわち、遊離のカルボキシル基を有する有機化合物)を好適に使用できる。
【0024】
また、有機化合物(A2−1)は、カルボキシル基を有している限り、カルボキシル基以外の官能基(又は金属化合物又は金属ナノ粒子に対する配位性基など)を有していてもよい。このようなカルボキシル基以外の官能基(又は配位性基)としては、例えば、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子など)、窒素原子、酸素原子、及び硫黄原子から選択された少なくとも1種のヘテロ原子を有する基{又は官能基、例えば、窒素原子を有する基[アミノ基、置換アミノ基(ジアルキルアミノ基など)、イミノ基(−NH−)、窒素環基(ピリジル基などの5〜8員窒素環基、カルバゾール基、モルホリニル基など)、アミド基(−CON<)、シアノ基、ニトロ基など]、酸素原子を有する基[ヒドロキシル基、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などのC1−6アルコキシ基)、ホルミル基、カルボニル基(−CO−)、エステル基(−COO−)、酸素環基(テトラヒドロピラニル基などの5〜8員酸素環基など)など]、硫黄原子を有する基[例えば、チオ基、チオール基、チオカルボニル基(−SO−)、アルキルチオ基(メチルチオ基、エチルチオ基などのC1−4アルキルチオ基など)、スルホ基、スルファモイル基、スルフィニル基(−SO−)など]、これらの塩を形成した基(アンモニウム塩基など)など}などが挙げられる。これらの官能基は、単独で又は2種以上組み合わせて有機化合物(A2−1)が有していてもよい。
【0025】
有機化合物(A2−1)は、これらの官能基のうち、カルボキシル基と塩を形成可能な塩基性基(特に、アミノ基、置換アミノ基、イミノ基、アンモニウム塩基など)を有していない化合物であるのが好ましい。
【0026】
代表的な有機化合物(A2−1)には、カルボン酸が含まれる。このようなカルボン酸としては、例えば、モノカルボン酸、ポリカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸(又はオキシカルボン酸)などが挙げられる。
【0027】
モノカルボン酸としては、例えば、脂肪族モノカルボン酸[飽和脂肪族モノカルボン酸(例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、カプリル酸、カプロン酸、ヘキサン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、シクロヘキサンカルボン酸、デヒドロコール酸、コラン酸などのC1−34脂肪族モノカルボン酸、好ましくはC1−30脂肪族モノカルボン酸など)、不飽和脂肪族モノカルボン酸(例えば、オレイン酸、エルカ酸、リノール酸、アビエチン酸などのC4−34不飽和脂肪族カルボン酸、好ましくはC10−30不飽和脂肪族カルボン酸)]、芳香族モノカルボン酸(安息香酸、ナフトエ酸などのC7−12芳香族モノカルボン酸など)などが挙げられる。
【0028】
ポリカルボン酸としては、例えば、脂肪族ポリカルボン酸[例えば、脂肪族飽和ポリカルボン酸(例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などのC2−14脂肪族飽和ポリカルボン酸、好ましくはC2−10脂肪族飽和ポリカルボン酸など)、脂肪族不飽和ポリカルボン酸(例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、ソルビン酸、テトラヒドロフタル酸などのC4−14脂肪族不飽和ポリカルボン酸、好ましくはC4−10脂肪族不飽和ポリカルボン酸など)など]、芳香族ポリカルボン酸(例えば、フタル酸、トリメリット酸などのC8−12芳香族ポリカルボン酸など)などが挙げられる。
【0029】
ヒドロキシカルボン酸としては、ヒドロキシモノカルボン酸[脂肪族ヒドロキシモノカルボン酸(例えば、グリコール酸、乳酸、オキシ酪酸、グリセリン酸、6−ヒドロキシヘキサン酸、コール酸、デオキシコール酸、ケノデオキシコール酸、12−オキソケノデオキシコール酸、グリココール酸、リトコール酸、ヒオデオキシコール酸、ウルソデオキシコール酸、アポコール酸、タウロコール酸などのC2−50脂肪族ヒドロキシモノカルボン酸、好ましくはC2−34脂肪族ヒドロキシモノカルボン酸、さらに好ましくはC2−30脂肪族ヒドロキシモノカルボン酸など)、芳香族ヒドロキシモノカルボン酸(サリチル酸、オキシ安息香酸、没食子酸などのC7−12芳香族ヒドロキシモノカルボン酸など)など]、ヒドロキシポリカルボン酸[脂肪族ヒドロキシポリカルボン酸(例えば、タルトロン酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸などのC2−10脂肪族ヒドロキシポリカルボン酸など)など]などが挙げられる。
【0030】
なお、これらのカルボン酸は、塩を形成していてもよく、無水物、水和物などであってもよい。なお、カルボン酸は、前記と同様に、塩(特に、アミンとの塩などの塩基性化合物との塩)を形成していない場合が多い。
【0031】
有機化合物(A2−1)は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0032】
これらの有機化合物(A2−1)のうち、脂肪族カルボン酸(例えば、C1−24脂肪族カルボン酸、好ましくはC1−20脂肪族カルボン酸、さらに好ましくはC1−18脂肪族カルボン酸、特にC1−16脂肪族カルボン酸)や、脂肪族ヒドロキシカルボン酸(脂肪族ヒドロキシモノカルボン酸および脂肪族ヒドロキシポリカルボン酸、例えば、C2−34脂肪族ヒドロキシカルボン酸)などのヒドロキシカルボン酸が好ましい。脂肪族カルボン酸の中でも、飽和脂肪族カルボン酸(例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、ステアリン酸などのC1−24アルカン酸(アルカンカルボン酸)、好ましくはC1−20アルカン酸、さらに好ましくはC1−18アルカン酸)が好ましい。また、脂肪族ヒドロキシカルボン酸の中でも、さらに、脂環族ヒドロキシカルボン酸(又は脂環族骨格を有するヒドロキシカルボン酸、例えば、コール酸などのC6−34脂環族ヒドロキシカルボン酸、好ましくはC10−34脂環族ヒドロキシカルボン酸、さらに好ましくはC16−30脂環族ヒドロキシカルボン酸)が好ましい。
【0033】
また、コール酸などの多環式脂肪族ヒドロキシカルボン酸(例えば、縮合多環式脂肪族ヒドロキシカルボン酸、好ましくはC10−34縮合多環式脂肪族ヒドロキシカルボン酸、好ましくはC14−34縮合多環式脂肪族ヒドロキシカルボン酸、さらに好ましくはC18−30縮合多環式脂肪族ヒドロキシカルボン酸)、デヒドロコール酸、コラン酸などの多環式脂肪族カルボン酸(例えば、縮合多環式脂肪族カルボン酸、好ましくはC10−34縮合多環式脂肪族カルボン酸、好ましくはC14−34縮合多環式脂肪族ヒドロキシカルボン酸、さらに好ましくはC18−30縮合多環式脂肪族カルボン酸)などの多環式脂肪族カルボン酸(例えば、C10−50縮合多環式脂肪族カルボン酸、好ましくはC12−40縮合多環式脂肪族カルボン酸、さらに好ましくはC14−34縮合多環式脂肪族カルボン酸、特にC18−30縮合多環式脂肪族カルボン酸)は、嵩高い構造を有しており、金属ナノ粒子の凝集を抑制する効果が大きいためか好ましい。
【0034】
特に、焼成温度で金属ナノ粒子から脱離又は消失し、焼結サイトを形成することにより金属膜の連続性及び導電性を向上できる点から、遊離のカルボキシル基を有する比較的低分子の飽和脂肪族カルボン酸が好ましく、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸などのC1−16アルカン酸(アルカンカルボン酸)、好ましくはC1−12アルカン酸(例えば、C1−6アルカン酸)、さらに好ましくはC1−4アルカン酸、特にC1−3アルカン酸(例えば、C1−2アルカン酸)であってもよい。
【0035】
なお、有機化合物(A2−1)の分子量は、例えば、1000以下(例えば、46〜900程度)、好ましくは800以下(例えば、50〜500程度)、さらに好ましくは300以下(例えば、55〜200程度)であってもよい。
【0036】
また、有機化合物(A2−1)のpKa値は、例えば、1以上(例えば、1〜10程度)、好ましくは2以上(例えば、2〜8程度)程度であってもよい。
【0037】
(A2−2)高分子分散剤
本発明では、保護コロイドを、前記有機化合物(A2−1)と高分子分散剤(A2−2)とで組み合わせて構成するのが好ましい。このような組み合わせで保護コロイドを構成することにより、粗大粒子が著しく少ない金属ナノ粒子を含む金属コロイド粒子が得られる。特に、前記特定の保護コロイドの組み合わせにより、金属ナノ粒子の割合を大きくでき、金属コロイド粒子(及びそのペースト)の保存安定性にも優れている。
【0038】
また、保護コロイドは、短いタイムスケールでは、金属ナノ粒子表面に対して吸着、脱離を繰り返しているが、高分子分散剤で保護した場合、吸着した部分が瞬間的に脱離した場合であっても、立体障害が大きく、また、脱離しても、吸着に関与していた基に代わり他の基が金属ナノ粒子表面に吸着するため、粒子間の凝集や焼結が生じにくい。従って、良好な保存安定性を示す一方、その高い保護能力及び分解温度のため、焼成温度も高温でなければ金属ナノ粒子の焼結は起こらず、高分子分散剤のみでは、低抵抗の導体を得ることはできない。一方、カルボキシル基を有する有機化合物は、通常、金属ナノ粒子表面に対する吸着力は弱く、また、気化温度が低い場合が多い。そのため、低温焼成により低抵抗の導体を得やすいが、室温のような低温においても金属ナノ粒子の凝集、焼結が生じ易く、保存安定性が十分でないため、安定して金属膜などを形成することが困難である。
【0039】
そこで、本発明では、高分子分散剤とカルボキシル基を有する有機化合物とを組み合わせる。このような組み合わせにより、金属ナノ粒子表面には高分子分散剤が吸着した部分、前記有機化合物が吸着した部分が形成されている。そして、前記高分子分散剤が吸着した部分は、強い表面保護能力により安定化されて、保存安定性が向上されている一方、前記有機化合物が吸着した部分は金属ナノ粒子表面から脱離し易く、低温焼結の反応サイトとしての役割を担う。このような反応サイトは、室温程度の雰囲気においては高分子分散剤の作用により保護されているが、比較的低温での焼成温度においてナノ粒子間で焼結反応を開始し、結果として低温焼成でも低抵抗の金属膜などを得ることができるようである。特に、焼成温度が高くなれば、さらに高分子分散剤の保護能力よりも粒子間衝突や焼結性が高くなるため、導電性はバルク並になる。また、高分子分散剤は、基材に対する密着性を向上させる効果があるだけでなく、本発明では基材における高分子分散剤の残存量を小さくできる。従って、本発明では、体積収縮が小さい緻密かつ密着性の高い膜を形成できるため、これらの点も基材に対する密着性に優れるとともに基材に強固に固定され、かつ金属膜の導電性を向上できる要因となっている。
【0040】
高分子分散剤(又は高分子型分散剤)(A2−2)としては、金属ナノ粒子(A1)を被覆可能であれば特に限定されないが、両親媒性の高分子分散剤(又はオリゴマー型分散剤)を好適に使用できる。
【0041】
高分子分散剤としては、通常、塗料、インキ分野などで着色剤の分散に用いられている高分子分散剤(親水性重合体)が例示できる。このような分散剤には、スチレン系樹脂(スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体など)、アクリル系樹脂((メタ)アクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸共重合体、ポリ(メタ)アクリル酸などの(メタ)アクリル酸系樹脂など)、水溶性ウレタン樹脂、水溶性アクリルウレタン樹脂、水溶性エポキシ樹脂、水溶性ポリエステル系樹脂、セルロース誘導体(ニトロセルロース;エチルセルロースなどのアルキルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロースなどのアルキル−ヒドロキシアルキルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのヒドロキシアルキルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどのカルボキシアルキルセルロースなどのセルロースエーテル類など)、ポリビニルアルコール、ポリアルキレングリコール(液状のポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなど)、天然高分子(ゼラチン、デキストリンなど)、ポリエチレンスルホン酸又はその塩、ポリスチレンスルホン酸又はその塩、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物、窒素原子含有高分子化合物[例えば、ポリアルキレンイミン(ポリエチレンイミンなど)、ポリビニルピロリドン、ポリアリルアミン、ポリエーテルポリアミン(ポリオキシエチレンポリアミンなど)などのアミノ基を有する高分子化合物]などが含まれる。
【0042】
代表的な高分子分散剤(両親媒性の高分子分散剤)としては、親水性モノマーで構成された親水性ユニット(又は親水性ブロック)を含む樹脂(又は水溶性樹脂、水分散性樹脂)が含まれる。
【0043】
前記親水性モノマーとしては、例えば、カルボキシル基又は酸無水物基含有単量体(アクリル酸、メタクリル酸などの(メタ)アクリル系単量体、マレイン酸などの不飽和多価カルボン酸、無水マレイン酸など)、ヒドロキシル基含有単量体(2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、ビニルフェノールなど)などの付加重合系モノマー;アルキレンオキシド(エチレンオキシドなど)などの縮合系モノマーなどが例示できる。前記縮合系モノマーは、ヒドロキシル基などの活性基(例えば、前記ヒドロキシル基含有単量体など)との反応により、親水性ユニットを形成していてもよい。親水性モノマーは、単独で又は2種以上組み合わせて親水性ユニットを形成していてもよい。
【0044】
高分子分散剤は、少なくとも親水性ユニット(又は親水性ブロック)を含んでいればよく、親水性モノマーの単独又は共重合体(例えば、ポリアクリル酸又はその塩など)であってもよく、前記例示のスチレン系樹脂やアクリル系樹脂などのように、親水性モノマーと疎水性モノマーとのコポリマーであってもよい。疎水性モノマー(非イオン性モノマー)としては、(メタ)アクリル酸エステル[(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリルなどの(メタ)アクリル酸C1−20アルキル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルなどの(メタ)アクリル酸シクロアルキル、(メタ)アクリル酸フェニルなどの(メタ)アクリル酸アリール、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸2−フェニルエチルなどの(メタ)アクリル酸アラルキルなど]などの(メタ)アクリル系モノマー;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエンなどのスチレン系モノマー;α−C2−20オレフィン(エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブチレン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−ドデセンなど)などのオレフィン系モノマー;酢酸ビニル、酪酸ビニルなどのカルボン酸ビニルエステル系モノマーなどが挙げられる。疎水性モノマーは、単独で又は2種以上組み合わせて疎水性ユニットを構成していてもよい。
【0045】
高分子分散剤がコポリマー(例えば、親水性モノマーと疎水性モノマーとのコポリマー)である場合、コポリマーは、ランダムコポリマー、交互共重合体、ブロックコポリマー(例えば、親水性モノマーで構成された親水性ブロックと、疎水性モノマーで構成された疎水性ブロックとで構成されたコポリマー)、くし型コポリマー(又はくし型グラフトコポリマー)などであってもよい。前記ブロックコポリマーの構造は、特に限定されず、ジブロック構造、トリブロック構造(ABA型、BAB型)などであってもよい。また、前記くし型コポリマーにおいて、主鎖は、前記親水性ブロックで構成してもよく、前記疎水性ブロックで構成してもよく、親水性ブロックおよび疎水性ブロックで構成してもよい。
【0046】
なお、前記のように、親水性ユニットは、アルキレンオキシド(エチレンオキシドなど)で構成された親水性ブロック(ポリエチレンオキシド、ポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシドなどのポリアルキレンオキシド)などの縮合系ブロックで構成することもできる。親水性ブロック(ポリアルキレンオキシドなど)と疎水性ブロック(ポリオレフィンブロックなど)とは、エステル結合、アミド結合、エーテル結合、ウレタン結合などの連結基を介して結合していてもよい。これらの結合は、例えば、疎水性ブロック(ポリオレフィンなど)を変性剤[不飽和カルボン酸又はその無水物((無水)マレイン酸など)、ラクタム又はアミノカルボン酸、ヒドロキシルアミン、ジアミンなど]で変性した後、親水性ブロックを導入することにより形成してもよい。また、ヒドロキシル基やカルボキシル基などの親水性基を有するモノマー(前記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートなど)から得られるポリマーと、前記縮合系の親水性モノマー(エチレンオキシドなど)とを反応(又は結合)させることにより、くし型コポリマー(主鎖が疎水性ブロックで構成されたくし型コポリマー)を形成してもよい。
【0047】
さらに、共重合成分として、親水性の非イオン性モノマーを使用することにより、親水性と疎水性とのバランスを調整してもよい。このような成分としては、2−(2−メトキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノメタクリレート(例えば、数平均分子量200〜1000程度)などのアルキレンオキシ(特にエチレンオキシ)ユニットを有するモノマー又はオリゴマーなどを例示できる。また、親水性基(カルボキシル基など)を変性(例えば、エステル化)することにより親水性と疎水性とのバランスを調整してもよい。
【0048】
高分子分散剤(A2−2)は、官能基を有していてもよい。このような官能基としては、例えば、酸基(又は酸性基、例えば、カルボキシル基(又は酸無水物基)、スルホ基(スルホン酸基)など)、塩基性基(例えば、アミノ基など)、ヒドロキシル基などが挙げられる。これらの官能基は、単独で又は2種以上組み合わせて高分子分散剤(A2−2)が有していてもよい。
【0049】
これらの官能基のうち、高分子分散剤(A2−2)は、酸基又は塩基性基、特に、遊離のカルボキシル基を有しているのが好ましい。
【0050】
また、高分子分散剤(A2−2)が、酸基(カルボキシル基など)を有している場合、少なくとも一部又は全部の酸基(カルボキシル基など)は、塩(アミンとの塩、金属塩など)を形成していてもよいが、特に、本発明では、カルボキシル基(特に、すべてのカルボキシル基)などの酸基が、塩[特に、塩基性化合物との塩(アミンとの塩又はアミン塩など)]を形成していない高分子分散剤[すなわち、遊離の酸基(特にカルボキシル基)を有する高分子分散剤]を好適に使用できる。
【0051】
酸基(特に遊離のカルボキシル基)を有する高分子分散剤(A2−2)において、酸価は、例えば、1mgKOH/g以上(例えば、2〜1500mgKOH/g程度)、好ましくは3mgKOH/g以上(例えば、4〜1200mgKOH/g程度)、さらに好ましくは5mgKOH/g以上(例えば、8〜1000mgKOH/g程度)、特に10mgKOH/g以上(例えば、12〜900mgKOH/g程度)の範囲から選択できる。特に、酸基(特にカルボキシル基)を有する高分子分散剤(A2−2)が、親水性ユニットおよび疎水性ユニットを有する化合物などである場合、酸価は、1mgKOH/g以上(例えば、2〜100mgKOH/g程度)、好ましくは3mgKOH/g以上(例えば、4〜90mgKOH/g程度)、さらに好ましくは5mgKOH/g以上(例えば、6〜80mgKOH/g程度)、特に7mgKOH/g以上(例えば、8〜70mgKOH/g程度)であってもよく、通常3〜50mgKOH/g(例えば、5〜30mgKOH/g)程度であってもよい。酸基を有する高分子分散剤(A2−2)において、アミン価は0(又はほぼ0)であってもよい。
【0052】
なお、高分子分散剤において、上記のような官能基の位置は、特に限定されず、主鎖であってもよく、側鎖であってもよく、主鎖および側鎖に位置していてもよい。このような官能基は、例えば、親水性モノマー又は親水性ユニット由来の官能基(例えば、ヒドロキシル基など)であってもよく、官能基を有する共重合性モノマー(例えば、無水マレイン酸など)の共重合によりポリマー中に導入することもできる。
【0053】
高分子分散剤(A2−2)は単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0054】
なお、高分子分散剤として、特開平11−80647号公報に記載の高分子分散剤(高分子量顔料分散剤)を使用してもよい。
【0055】
また、高分子分散剤は、合成したものを用いてもよく、市販品を用いてもよい。以下に、市販の高分子分散剤(又は少なくとも両親媒性の分散剤で構成された分散剤)を具体的に例示すると、ソルスパース13240、ソルスパース13940、ソルスパース32550、ソルスパース31845、ソルスパース24000、ソルスパース26000、ソルスパース27000、ソルスパース28000、ソルスパース41090などのソルスパースシリーズ[アビシア(株)製];ディスパービック160、ディスパービック161、ディスパービック162、ディスパービック163、ディスパービック164、ディスパービック166、ディスパービック170、ディスパービック180、ディスパービック182、ディスパービック184、ディスパービック190、ディスパービック191、ディスパービック192、ディスパービック193、ディスパービック194、ディスパービック2001、ディスパービック2050などのディスパービックシリーズ[ビックケミー(株)製];EFKA−46、EFKA−47、EFKA−48、EFKA−49、EFKA−1501、EFKA−1502、EFKA−4540、EFKA−4550、ポリマー100、ポリマー120、ポリマー150、ポリマー400、ポリマー401、ポリマー402、ポリマー403、ポリマー450、ポリマー451、ポリマー452、ポリマー453[EFKAケミカル(株)製];アジスパーPB711、アジスパーPAl11、アジスパーPB811、アジスパーPB821、アジスパーPW911などのアジスパーシリーズ[味の素(株)製];フローレンDOPA−158、フローレンDOPA−22、フローレンDOPA−17、フローレンTG−700、フローレンTG−720W、フローレン−730W、フローレン−740W、フローレン−745Wなどのフローレンシリーズ[共栄社化学(株)製];ジョンクリル678、ジョンクリル679、ジョンクリル62などのジョンクリルシリーズ[ジョンソンポリマー(株)製]などが挙げられる。
【0056】
これらのうち、代表的な酸基を有する高分子分散剤には、ポリ(メタ)アクリル酸類[又はポリアクリル酸系樹脂、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸と共重合性単量体(例えば、(メタ)アクリレート、無水マレイン酸など)との共重合体などの(メタ)アクリル酸を主成分とするポリマー、これらの塩(例えば、ポリアクリル酸ナトリウムなどのアルカリ金属塩など)など]、ディスパービック190、ディスパービック194などが挙げられる。また、代表的な塩基性基(アミノ基)を有する高分子分散剤には、ポリアルキレンイミン(ポリエチレンイミンなど)、ポリビニルピロリドン、ポリアリルアミン、ポリエーテルポリアミン(ポリオキシエチレンポリアミンなど)などが挙げられる。
【0057】
高分子分散剤(A2−2)の数平均分子量は、1000〜1000000(例えば、1200〜800000)の範囲から選択でき、例えば、1500〜500000(例えば、1500〜100000)、好ましくは2000〜80000(例えば、2000〜60000)、さらに好ましくは3000〜50000(例えば、5000〜30000)、特に7000〜20000程度であってもよい。
【0058】
金属コロイド粒子(A)において、保護コロイド(A2)(有機化合物(A2−1)及び高分子分散剤(A2−2)の総量)の割合は、固形分換算で、金属ナノ粒子(A1)100質量部に対して、0.01〜100質量部程度の範囲から選択でき、例えば、0.05〜50質量部、好ましくは0.1〜30質量部、さらに好ましくは0.3〜20質量部(特に0.5〜10質量部)程度であってもよい。特に、本発明の金属コロイド粒子において、保護コロイド(A2)の割合は、金属ナノ粒子(A1)100質量部に対して、5質量部以下(例えば、0.1〜5質量部)、好ましくは0.3〜4.5質量部、さらに好ましくは0.5〜4質量部(特に1〜3質量部)程度であってもよい。本発明では、前記特定の組み合わせにより保護コロイドを構成するので、上記のような比較的少ない量の保護コロイドであっても、100nm以上の粗大なナノ粒子の生成を抑制でき、かつ金属ナノ粒子を安定に分散できる。
【0059】
なお、金属コロイド粒子(A)において、有機化合物(A2−1)の割合は、固形分換算で、例えば、金属ナノ粒子(A1)100質量部に対して、0.01〜70質量部程度の範囲から選択でき、例えば、0.05〜50質量部、好ましくは0.1〜40質量部、さらに好ましくは0.3〜30質量部(特に0.5〜20質量部)程度であってもよい。特に、本発明の金属コロイド粒子において、有機化合物(A2−1)の割合は、金属ナノ粒子(A1)100質量部に対して、5質量部以下(例えば、0.1〜5質量部)、好ましくは0.2〜4.5質量部、さらに好ましくは0.3〜4質量部(特に0.5〜3質量部)程度であってもよい。
【0060】
また、金属コロイド粒子(A)において、高分子分散剤(A2−2)の割合は、固形分換算で、例えば、金属ナノ粒子(A1)100質量部に対して、0.005〜50質量部程度の範囲から選択でき、例えば、0.01〜30質量部、好ましくは0.05〜20質量部、さらに好ましくは0.1〜10質量部(特に0.1〜5質量部)程度であってもよい。特に、本発明の金属コロイド粒子において、高分子分散剤(A2−2)の割合は、金属ナノ粒子(A1)100質量部に対して、2質量部以下(例えば、0.01〜2質量部)、好ましくは0.03〜1.5質量部、さらに好ましくは0.05〜1質量部(特に0.1〜0.5質量部)程度であってもよい。
【0061】
さらに、金属コロイド粒子(A)において、有機化合物(A2−1)と高分子分散剤(A2−2)との割合(溶媒などを含む場合は固形分の割合)は、前者/後者(質量比)=99/1〜1/99程度の範囲から選択でき、例えば、98/2〜10/90、好ましくは97/3〜30/70(例えば、86/14〜20/80)、さらに好ましくは95/5〜50/50程度であってもよい。
【0062】
特に、金属コロイド粒子において、ペースト分散安定性よりも導電性を要求される場合には、有機化合物(A2−1)と高分子分散剤(A2−2)との割合は、前者/後者(質量比)=99/1〜60/40、好ましくは97/3〜80/20、さらに好ましくは95/5〜85/15程度であってもよい。高分子分散剤(A2−2)に対して、過剰量の低分子有機化合物(B2)を配合することにより、コロイド粒子の焼結サイトを大きくできるため、導電性を向上できる。
【0063】
なお、前記有機化合物(A2−1)及び高分子分散剤(A2−2)の組み合わせに加えて、さらに他の保護コロイド成分を含んでいてもよい。他の保護コロイド成分は、無機化合物であってもよいが、通常、有機化合物である。
【0064】
他の保護コロイド成分としては、例えば、酸素原子含有有機化合物{例えば、アルコール類[例えば、アルカノール類(ヘキサノール、オクタノール、デカノール、ドデカノール、オクタデカノールなどのC6−20アルカンモノオール)、シクロアルカノール類(シクロヘキサノールなど)、アラルキルアルコール類、多価アルコール類など]、ケトン類[例えば、アルカノン類、シクロアルカノン類、ジケトン類(アセチルアセトンなどのβ−ジケトン類)など]、エステル類(例えば、脂肪酸エステル類、グリコールエーテルエステル類など)、アルデヒド類(カプリルアルデヒド、ラウリルアルデヒド、パルミトアルデヒド、ステアリルアルデヒドなどのC6−20脂肪族アルデヒド)など}、硫黄原子含有有機化合物[例えば、スルホキシド類、スルホン酸類(例えば、アルカンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸などのアレーンスルホン酸など)など]などが挙げられる。これらの他の保護コロイドは、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0065】
他の保護コロイド成分の割合は、前記保護コロイドの組み合わせの総量100質量部に対して、例えば、0.1〜100質量部、好ましくは0.5〜50質量部、さらに好ましくは1〜30質量部程度であってもよい。
【0066】
なお、金属コロイド粒子中の有機化合物(A2−1)、高分子分散剤(A2−2)などの割合は、慣用の方法、例えば、熱分析(例えば、熱質量/示差熱同時分析など)により、測定することができる。
【0067】
(B)分散媒
分散媒(B)としては、前記金属コロイド粒子(又は金属ナノ粒子)(A)との組み合わせにより、ペースト(ペースト状分散液)において十分な粘度を生じさせ、かつ焼成温度において速やかに蒸発可能な極性溶媒(水溶性溶媒)であれば特に限定されず、汎用の極性溶媒が使用できる。なお、溶媒は、新たに混合してもよく、少なくとも後述の金属コロイド粒子の製造において使用する溶媒で構成してもよく、これらを組み合わせてもよい。
【0068】
分散媒(B)の沸点は、100〜250℃の範囲にあればよく、例えば、120〜230℃、好ましくは150〜220℃、さらに好ましくは180〜210℃程度である。分散媒(B)の沸点がこの範囲にあると、ペースト中での金属コロイド粒子の安定性を向上できるとともに、金属ナノ粒子(特に銀ナノ粒子)の焼成温度において、速やかに分散媒が蒸発して飛散され、焼結膜の膨れや剥離を抑制できる。
【0069】
このような極性溶媒には、例えば、水、脂肪族多価アルコール類、セロソルブ類、セロソルブアセテート類、カルビトール類、カルビトールアセテート類、ケトン類、エーテル類、アミド類などが含まれる。これらの極性溶媒は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0070】
これらの極性溶媒のうち、ペーストの保存安定性と焼成による飛散性とのバランスに優れる点から、脂肪族多価アルコール類、セロソルブ類、セロソルブアセテート類、カルビトール類及びカルビトールアセテート類からなる群から選択された少なくとも一種が好ましい。
【0071】
脂肪族多価アルコール類としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオールなどのC2−4アルカンジオール、ジエチレングリコール、グリセリンなどが挙げられる。
【0072】
セロソルブ類としては、例えば、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、プロピルセロソルブ、ブチルセロソルブなどのC1−4アルキルセロソルブ類などが挙げられる。セロソルブアセテート類としては、例えば、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテートなどのC1−4アルキルセロソルブアセテート類などが挙げられる。
【0073】
カルビトール類としては、例えば、メチルカルビトール、エチルカルビトール、プロピルカルビトール、ブチルカルビトールなどのC1−4アルキルカルビトール類などが挙げられる。カルビトールアセテート類としては、例えば、メチルカルビトールアセテート、エチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテートなどのC1−4アルキルカルビトールアセテート類などが挙げられる。
【0074】
これらの極性溶媒のうち、エチレングリコールや1,4−ブタンジオールなどのC2−4アルカンジオールなどが汎用される。
【0075】
分散媒(B)は、前記極性溶媒の特性を損なわない範囲(例えば、分散媒の全質量に対して30質量%以下、好ましくは10質量%以下)で、沸点100℃未満の極性溶媒、疎水性溶媒(非水溶性溶媒)と混合して使用してもよい。
【0076】
沸点100℃未満の極性溶媒としては、例えば、アルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノールなどのC1−4アルカノールなど)、アミド類(ホルムアミドなど)、ケトン類(アセトンなど)、エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフランなど)、有機カルボン酸類(酢酸など)、ハロゲン化炭化水素系溶媒(塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素類など)などが例示できる。
【0077】
疎水性溶媒としては、例えば、炭化水素類(ヘキサン、トリメチルペンタン、オクタン、デカン、ドデカン、テトラデカンなどの脂肪族炭化水素類;シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素類;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;ジクロロメタン、トリクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素類など)、エステル類(酢酸メチル、酢酸エチルなど)、ケトン類(メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなど)、エーテル類(ジエチルエーテル、ジプロピルエーテルなど)などが例示できる。
【0078】
分散媒の極性パラメータ(Snyderによる極性パラメータ)は、例えば、2.8〜11、好ましくは3〜10.5、さらに好ましくは3.1〜10.2程度であってもよい。
【0079】
(C)分散助剤
分散助剤(C)としては、前記分散媒(B)との組み合わせにおいて金属コロイド粒子(A)のペースト中での安定性を保持するとともに、焼成において分散媒(B)の蒸発を促進して膜の膨れや剥離を抑制できる観点から、焼成温度において徐々に分解又は蒸発可能な親水性化合物が利用できる。金属ナノ粒子ペーストを金属コロイド粒子(A)及び前記分散媒(B)で構成する場合、ペーストを焼成(特に、高温で焼成)すると、分散媒(B)が完全に蒸発して飛散する前に、特にペースト表面の金属コロイド粒子が焼結して固化することにより、分散媒が焼結膜の中に閉じこめられた状態となり、焼結膜に膨れや剥離が発生する。これに対して、本発明では、ペースト中に分散助剤(C)を含有させることにより、ペースト表面からの焼結が抑制され、分散助剤(C)が徐々に分解又は蒸発する間に、分散媒(B)が膜中に残存することなく蒸発するためか、焼結膜の膨れや剥離を抑制できる。
【0080】
分散助剤(C)の沸点又は分解温度は、250℃を超えていればよく、焼成温度に応じて適宜選択でき、特に限定されず、例えば、251℃以上(例えば、251〜500℃)、好ましくは252℃以上(例えば、252〜450℃)、さらに好ましくは255℃以上(例えば、255〜350℃)、特に260℃以上(例えば、260〜320℃)であってもよい。本発明では、分散媒(C)の沸点又は分解温度が250℃を超えるため、金属ナノ粒子(特に銀ナノ粒子)の焼成温度において、徐々に蒸発又は分解することにより、前記分散媒(B)の蒸発を促進できる。
【0081】
分散助剤(C)の数平均分子量は150〜3000の範囲から選択でき、例えば、160〜2500、好ましくは180〜2200(例えば、200〜2000)程度であり、例えば、150〜1000(特に180〜800)程度であってもよい。
【0082】
このような親水性化合物は、通常、親水性オリゴマー又はポリマーを利用できる。親水性オリゴマー又はポリマーとしては、前記高分子分散剤において、塗料、インキ分野などで着色剤の分散に用いられている親水性重合体などが例示できる。これらの親水性重合体は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの親水性重合体の中でも、ヒドロキシル基を含有する親水性ポリマー(例えば、ポリアルキレングリコール、ポリビニルアルコール、ヒドロキシアルキルセルロースなど)が好ましく、ポリC2−4アルキレングリコール(例えば、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなど)が特に好ましい。さらに、ポリエチレングリコールは、分散性に優れ、分子量の異なる重合体を容易に入手できる点から汎用される。
【0083】
分散媒(B)と分散助剤(C)との割合(質量比)は、前者/後者=99/1〜10/90程度の範囲から選択でき、例えば、95/5〜20/80、好ましくは90/10〜30/70、さらに好ましくは85/15〜40/60(特に85/15〜50/50)程度であってもよく、通常、90/10〜70/30程度である。両者の割合がこの範囲にあると、金属コロイド粒子(A)の分散安定性を向上でき、かつ焼成における焼結膜の膨れや剥離の発生も抑制できる。
【0084】
このような金属コロイド粒子(A)、分散媒(B)及び分散助剤(C)を含むペースト中において、金属コロイド粒子(A)(又は金属ナノ粒子(A1))は、分散媒(B)及び分散助剤(C)に対して高い分散性を有し、長期間に亘り高い分散安定性を示す。ぺースト中の金属ナノ粒子(A1)の濃度は、例えば、30〜95質量%、好ましくは50〜93質量%、さらに好ましくは60〜90質量%(特に70〜90質量%)程度であってもよい。
【0085】
このような金属ナノ粒子ペーストは、高濃度で金属ナノ粒子(A1)を含んでいても、沈降などを生じることなく長期安定性(保存安定性)に優れている。そのため、例えば、ペーストを長期間保存後、金属膜(焼結膜)を形成しても、金属膜において抵抗値が増大することなく、優れた導電性を維持できる。
【0086】
本発明の金属ナノ粒子ペーストには、用途に応じて、慣用の添加剤、例えば、金属フィラー(数平均粒子径0.2〜10μm程度の銀や金などの貴金属フィラーなど)、着色剤(染顔料など)、色相改良剤、染料定着剤、光沢付与剤、金属腐食防止剤、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤など)、界面活性剤又は分散剤(アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤など)、分散安定化剤、増粘剤又は粘度調整剤、保湿剤、チクソトロピー性賦与剤、レベリング剤、消泡剤、殺菌剤、充填剤などが含まれていてもよい。これらの添加剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0087】
[金属ナノ粒子ペーストの製造方法]
本発明の金属ナノ粒子ペーストにおいて、金属コロイド粒子は、慣用の方法、例えば、前記金属ナノ粒子(A1)に対応する金属化合物を、保護コロイド(B)(及び必要に応じて前記他の保護コロイド)及び還元剤の存在下、溶媒中で還元することにより調製できる。
【0088】
前記金属ナノ粒子(A1)に対応する金属化合物は、例えば、金属酸化物、金属水酸化物、金属硫化物、金属ハロゲン化物、金属酸塩[金属無機酸塩(硫酸塩、硝酸塩、過塩素酸塩などのオキソ酸塩など)、金属有機酸塩(酢酸塩など)など]などであってもよい。なお、金属塩の形態は、単塩、複塩又は錯塩のいずれであってもよく、多量体(例えば、2量体)などであってもよい。これらの金属化合物は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの金属化合物のうち、金属ハロゲン化物、金属酸塩[金属無機酸塩(硫酸塩、硝酸塩、過塩素酸塩などのオキソ酸塩など)、金属有機酸塩(酢酸塩など)など]などを使用する場合が多い。なお、これらの金属化合物は、溶媒に溶解又は分散させて(例えば、水溶液などの水系溶媒の溶液の形態で)用いてもよい。
【0089】
還元剤としては、慣用の成分、例えば、水素化ホウ素ナトリウム類(水素化ホウ素ナトリウム、シアノ水素化ホウ素ナトリウム、水素化トリエチルホウ素ナトリウムなど)、水素化アルミニウムリチウム、次亜リン酸又はその塩(ナトリウム塩など)、ボラン類(ジボラン、ジメチルアミンボランなど)、ヒドラジン、ホルマリン、アミン類、アルコール類(前記例示のアルコール類、例えば、エチレングリコールなど)、フェノール性水酸基を有するカルボン酸(例えば、タンニン酸)などが例示できる。
【0090】
アミン類としては、脂肪族アミン類(例えば、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジメチルエチルアミン、ジエチルメチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、N,N,N′,N′−テトラメチルエチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、N,N,N′,N′−テトラメチル−1,3−ジアミノプロパンなどのアルカンアミン;トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミンなどのポリアルキレンポリアミンなど)、脂環式アミン類(例えば、ピペリジン、N−メチルピペリジン、ピペラジン、N,N′−ジメチルピペラジン、ピロリジン、N−メチルピロリジン、モルホリンなど)、芳香族アミン類(例えば、アニリン、N−メチルアニリン、N,N−ジメチルアニリン、トルイジン、アニシジン、フェネチジンなど)、芳香脂肪族アミン類(例えば、ベンジルアミン、N−メチルベンジルアミン、N,N−ジメチルベンジルアミン、フェネチルアミン、キシリレンジアミン、N,N,N′,N′−テトラメチルキシリレンジアミンなどのアラルキルアミン)、アルコールアミン類[特にアルカノールアミン類、例えば、メチルアミノエタノール、ジメチルアミノエタノール(2−(ジメチルアミノ)エタノール)、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、プロパノールアミン、2−(3−アミノプロピルアミノ)エタノール、ブタノールアミン、ヘキサノールアミン、ジメチルアミノプロパノールなどのC2−10アルカノールアミン、好ましくはC2−6アルカノールアミン]が挙げることができる。
【0091】
これらのうち、水素化ホウ素ナトリウム、第3級アミン(例えば、2−(ジメチルアミノ)エタノール、N−メチルジエタノールアミンなどの第3級アルカノールアミン)、エチレングリコール、タンニン酸などを好適に使用できる。また、安全性などの点で、アミン類、特に、アルカノールアミン類などのアルコールアミン類が好ましい。アルカノールアミン類は、通常、水溶性である場合が多く、水又は水系溶媒を溶媒とする場合には、好適である。
【0092】
これらの還元剤は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0093】
還元剤の使用量は、金属原子換算で前記金属化合物1当量(又は1モル)に対して、1〜30モル(例えば、1.2〜20モル)、好ましくは1.5〜15モル、さらに好ましくは2〜10モル程度であってもよく、通常1〜5モル程度であってもよい。
【0094】
還元反応は、慣用の方法、例えば、温度10〜75℃(例えば、15〜50℃、好ましくは20〜35℃)程度で行うことができる。反応系の雰囲気は、空気、不活性ガス(窒素ガスなど)であってもよく、還元性ガス(水素ガスなど)を含む雰囲気であってもよい。また、反応は、通常、攪拌下(又は攪拌しながら)で行ってもよい。
【0095】
なお、反応溶媒は、前記と同様の溶媒(例えば、水など)を使用できる。反応溶媒は、前記ペーストを構成する前記分散媒(B)を用いてもよく、前記ペーストを構成する分散媒(B)とは異なる溶媒を用いてもよい。具体的には、反応溶媒は、保護コロイドの種類に応じて、前記分散媒(B)の項で例示の極性溶媒及び疎水性溶媒の中から選択でき、通常、保護コロイドが水溶性化合物である場合には、水などの極性溶媒を用いることが多い。極性溶媒は反応系に添加される成分、例えば、還元剤などの溶媒に由来してもよい。一方、保護コロイドが非水溶性化合物である場合には、脂肪族炭化水素類(トリメチルペンタンなど)などの疎水性溶媒を用いることが多く、必要により、疎水性溶媒と極性溶媒(例えば、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール類、アセトンなどのケトン類、ジオキサン、テトラヒドロフランなどの環状エーテル類、ジメチルアセトアミドなどのアミド類など)との混合溶媒を用いてもよい。
【0096】
また、これらの反応溶媒のうち、環境保全性及び簡便性などの観点から、少なくとも水を含む極性溶媒であってもよい。さらに、用途に応じて、溶媒の蒸発を抑制するなどの点から、水にアルコール類(特に、エチレングリコールやグリセリンなどの脂肪族多価アルコール)を組み合わせてもよい。アルコール類の割合は、水100質量部に対して、例えば、0.1〜50質量部、好ましくは1〜30質量部、さらに好ましくは3〜20質量部(特に5〜15質量部)程度であってもよい。
【0097】
反応溶媒中の前記金属化合物の濃度は、金属の質量換算で、例えば、5質量%以上(例えば、6〜50質量%)、好ましくは8質量%以上(例えば、9〜40質量%)、さらに好ましくは10質量%以上(例えば、12〜30質量%)、通常5〜30質量%程度の高濃度であってもよい。本発明では、このような高濃度で反応させても、100nmを超える粗大ナノ粒子の生成を抑制しつつ効率よく金属ナノ粒子を得ることができる。
【0098】
なお、反応溶媒の種類などに応じて反応系のpHを調製してもよい。
【0099】
pH調整は、慣用の方法、例えば、酸(塩酸、硫酸、硝酸、リン酸などの無機酸、酢酸などの有機酸)、アルカリ[水酸化ナトリウム、アンモニアなどの無機塩基、アミン類(例えば、アルキルアミン、アルカノールアミンなどの第三級アミン類などの有機塩基)などの塩基類]を用いて行うことができる。
【0100】
還元反応の終了後、反応混合液を濃縮し、慣用の方法(例えば、遠心分離、メンブレンフィルタ、限外ろ過などのろ過処理など)で精製することにより、溶媒に対して分散性を有する金属コロイド粒子(A)を調製することができる。なお、本発明では、前記特定の組み合わせにより保護コロイドを構成するので、前記のように、比較的少ない量の保護コロイドであっても、粗大ナノ粒子の少ない金属ナノ粒子とすることができ、精製しなくても金属コロイド粒子(A)を調製できる。また、得られた金属コロイド粒子(A)及び溶媒を含む分散液をそのまま又は濃縮してペーストとしてもよく、得られた金属コロイド粒子(A)及び溶媒を含む分散液から反応に使用した溶媒を除去し、新たな異種の溶媒として分散媒(B)(必要により他の添加剤)を加えて新たにペーストを調製してもよい。また、ペーストに、さらに新たな同種又は異種の溶媒や添加剤を加えてもよい。分散助剤(C)の配合は、各方法におけるいずれの段階で添加してもよい。例えば、分散液から反応に使用した溶媒を除去し、新たな異種の分散媒(B)の添加とともに、分散助剤(C)を添加してもよい。
【0101】
ペーストの調製方法としては、撹拌により調製できるが、例えば、乳鉢で金属コロイド粒子(A)と分散媒(B)と分散助剤(C)とを混合して調製してもよい。
【0102】
[導電性基材の製造方法]
本発明の金属ナノ粒子ペーストは、種々の用途に使用できる。例えば、本発明の金属ナノ粒子ペーストは、金属膜(特に導電性膜)を形成するためのペーストとして有用である。特に、本発明の金属ナノ粒子ペーストは、高濃度で金属ナノ粒子を含んでおり、高温で焼成しても膨れや剥離の発生が抑制され、基材のとの密着性に優れているため、各種の基材に対して、所定の層又はパターン(回路パターンなど、特に導電性パターンなど)を有する焼結層(焼結パターン)を形成し、導電性基材を製造するためのペーストとして好適である。以下、前記金属ナノ粒子ペーストを用いて、導電性基材を製造する方法について詳述する。
【0103】
このような方法では、通常、基材に、前記金属ナノ粒子ペースト(又は金属ナノ粒子ペーストの塗布)により、被膜(塗布層又はパターン)を形成(描画)し、形成された被膜(描画パターン)を焼成処理することにより焼結層(焼結膜、焼結パターン、金属膜、焼結体層、導体層)を形成できる。
【0104】
基材(又は基板)としては、特に限定されず、用途に応じて適宜選択できる。基材を構成する材質は、無機材料であってもよく、有機材料であってもよい。無機材料としては、例えば、ガラス類(ソーダガラス、ホウケイ酸ガラス、クラウンガラス、バリウム含有ガラス、ストロンチウム含有ガラス、ホウ素含有ガラス、低アルカリガラス、無アルカリガラス、結晶化透明ガラス、シリカガラス、石英ガラス、耐熱ガラスなど)、金属酸化物(アルミナ、サファイア、ジルコニア、チタニア、酸化イットリウム、酸化インジウム−酸化錫系複合酸化物(ITO)、フッ素ドープ酸化錫(FTO)など)、シリコン半導体などが挙げられる。有機材料としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル系樹脂、スチレン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂[ポリアルキレンアリレート系樹脂(ポリエチレンテレタフタレートなど)、ポリアリレート系樹脂や液晶ポリマーを含む]、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリイミド系樹脂、セルロース誘導体、フッ素樹脂などが挙げられる。これらの材料は、焼成工程を経るため、耐熱性の高い材料、例えば、無機材料、エンジニアリングプラスチック(例えば、芳香族ポリエステル系樹脂(ポリアリレート系樹脂を含む)、ポリイミド系樹脂、ポリスルホン系樹脂など)、液晶ポリマー、フッ素樹脂などが好ましい。
【0105】
これらの材料の中でも、本発明のペーストは焼成しても膨れや剥離の発生が抑制され、基材に対する密着性が高いため、銀などの貴金属との密着性が低い材料、特に、ITOやFTOなどの金属酸化物で構成された基材又はこれらの金属酸化物を表面に有する基材に対して有効である。なお、基材は、表面処理又は易接着処理されていてもよい。表面処理された基材を使用すると、基材に対する金属コロイド粒子(又はその金属膜)の密着性を向上でき、強固に固定された金属膜を得るのに有利である。
【0106】
表面処理としては、酸化処理[表面酸化処理、例えば、放電処理(コロナ放電処理、グロー放電など)、酸処理(クロム酸処理など)、紫外線照射処理、焔処理など]、表面凹凸処理(溶剤処理、サンドブラスト処理など)などの他、基材(基材表面)に、易接着層を形成する方法などが挙げられる。すなわち、有機基材として、易接着層(アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂など)が形成された基材を使用してもよい。
【0107】
なお、表面処理は、基材の表面の一部又は全部に対して施されていればよく、特に、基材(基材表面)のうち、金属膜を形成する部位(表面)に少なくとも形成されていてもよい。すなわち、前記基材が易接着処理された基材であり、この基材のうち易接着処理された部位に金属膜が形成されていてもよい。例えば、少なくとも一方の面に易接着層が形成された基材を使用し、この基材の易接着層が形成された面上に金属膜を形成してもよい。
【0108】
塗布層(パターン)を描画するための描画法(又は印刷法)としては、パターン形成可能な印刷法であれば特に限定されず、例えば、スクリーン印刷法、インクジェット印刷法、凹版印刷法(例えば、グラビア印刷法など)、オフセット印刷法、凹版オフセット印刷法、フレキソ印刷法などが挙げられる。
【0109】
焼結層(又は焼結パターン)の平均厚みは、例えば、0.5〜30μm、好ましくは0.6〜25μm、さらに好ましくは0.8〜15μm(特に1〜12μm)程度であってもよい。本発明では、高濃度で金属ナノ粒子を含むペーストを用いるので、このようなミクロンオーダーの厚膜も効率よく形成できる。
【0110】
焼成処理は、通常、塗布層を所定の焼成温度で加熱(又は焼成又は加熱処理)することにより行うことができる。焼成温度としては、分散助剤(C)が徐々に分解又は蒸発し、膨れや剥離を発生せずに、金属ナノ粒子が融着した連続膜を形成できる限り特に限定されず、適宜選択できる。焼成温度は、金属ナノ粒子(A1)、分散媒(B)及び分散助剤の(C)の種類に応じて、例えば、150〜500℃程度の範囲から選択でき、例えば、160〜400℃、好ましくは180〜350℃(特に200〜320℃)程度であり、例えば、250〜350℃程度であってもよい。
【0111】
また、焼成処理時間(加熱時間)は、焼成温度などに応じて、例えば、10分〜6時間、好ましくは15分〜5時間、さらに好ましくは20分〜3時間程度であってもよい。
【0112】
このようにして焼結層(焼結パターン)が形成される。焼結層は、金属ナノ粒子として導電性金属を用いた場合、高い導電性を有している。従って、本発明の金属ナノ粒子ペーストは、各種の導電性基材に使用されるペースト、例えば、基板の回路形成用素材などに利用されるペースト(アドレス電極・バス電極用の印刷用ペーストやダイボンディング材の原料ペーストなど)や、電極形成用ペーストなどに適している。
【0113】
特に、金属酸化物で構成された基材に対する密着性に優れるため、プラズマディスプレイパネル(PDP)、蛍光表示管(VFD)、液晶ディスプレイ(LCD)、有機及び無機エレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELD)などの表示装置、シリコン半導体系やグレッツェル式(色素増感型)などの太陽電池、タッチパネル式表示装置などに用いられる透明電極の導体として利用するのに適している。
【0114】
図1は、本発明の金属ナノ粒子ペーストを透明電極の導体として利用した一例である色素増感型酸化チタン太陽電池のセル構造を示す概略断面図である。太陽電池1は、色素担持多孔質TiO電極2と対極4との間に電解質3が封入された構造を有している。色素担持多孔質TiO電極2aは、透明電極2aと、その上に形成された銀の焼結パターン2bと、さらに前記透明電極2a及び焼結パターン2bの上に形成された色素担持多孔質TiO層とで構成されている。前記透明電極2aは、ガラス基板2a及びこのガラス基板2aの上に積層されたITO薄膜2aとで構成されており、前記焼結パターン2bは、このITO薄膜2aの上に強固に形成されている。
【0115】
このような色素担持多孔質TiO電極2は、透明電極2aのITO薄膜2aの上に、前記方法により、銀ナノ粒子ペーストを用いて、銀の焼結パターンを形成した後、さらにその焼結パターンの上に、TiOを焼結させることにより得ることができる。
【実施例】
【0116】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0117】
実施例1
(銀コロイド粒子の合成)
硝酸銀66.8g、カルボキシル基を有する有機化合物(A2−1)として酢酸(和光純薬工業(株)製、沸点118℃、炭素数2)10g、高分子分散剤(A2−2)としてカルボキシル基を有する高分子分散剤(ビッグケミー製、「ディスパービック190」、親水性ユニットであるポリエチレンオキサイド鎖と疎水性ユニットであるアルキル基とを有する両親媒性分散剤、溶媒:水、不揮発成分40%、酸価10mgKOH/g、アミン価0)1.0gを、イオン交換水1000gに投入し、激しく撹拌した。これに2−ジメチルアミノエタノール(和光純薬工業(株)製)100gを加えた後、70℃で2時間加熱撹拌した。この反応物を高速遠心分離器(Kokusan製、H−200 SERIES)を用い、7000rpm、1時間遠心分離し、銀ナノ粒子が保護コロイドにより保護された銀コロイド粒子が凝集した沈殿物を回収した。なお、銀ナノ粒子の粒径を透過型電子顕微鏡(TEM)で測定したところ、一次粒子径1〜100nm、数平均粒子径20nmであった。
【0118】
(銀コロイド粒子の分析)
保護コロイドの含有量を熱重量測定装置(TG/DTA、セイコーインスツルメンツ(株)製、EXSTAR6000)で測定したところ、銀100質量部に対して2.5質量部の保護コロイドを含有していた。なお、TG/DTAによる測定は、一分間に10℃の速さで30℃から500℃まで昇温した時の質量減少から算出した。有機化合物(A2−1)と高分子分散剤(A2−2)との質量比は、有機化合物(A2−1)/高分子分散剤(A2−2)=1/3であった。
【0119】
(銀ナノ粒子ペーストの調製及び焼成)
前記合成により調製した銀コロイド粒子に対して、エチレングリコール(和光純薬工業(株)製、沸点197.3℃、極性パラメータ6.9)及びポリエチレングリコール200(PEG200、和光純薬工業(株)製、数平均分子量200)を添加して乳鉢で混合し、銀濃度80質量%の銀ナノ粒子ペーストを調製した。このペーストにおける分散媒(エチレングリコール)と分散助剤(PEG200)との割合(質量比)は、前者/後者=80/20であった。このペーストを、ITO膜で被覆されたガラス基板のITO膜の上に、アプリケータを用いて塗布し、オーブンを用いて200℃で30分間焼成し、ITO膜上に厚み5.3μmの銀膜を形成した。ITO膜と銀膜との間に膨れや剥離は観察されなかった。体積抵抗率を測定したところ、3.9μΩ・cmであった。
【0120】
実施例2
銀ナノ粒子ペーストの調製において、ポリエチレングリコール200の代わりに、ポリエチレングリコール600(PEG600、和光純薬工業(株)製、数平均分子量560〜640)を用いる以外は実施例1と同様にして、銀ナノ粒子ペーストを調製した。このペーストを用いて、実施例1と同様に焼成し、ITO膜上に厚み5.2μmの銀膜を形成した。ITO膜と銀膜との間に膨れや剥離は観察されなかった。体積抵抗率を測定したところ、3.4μΩ・cmであった。
【0121】
実施例3
銀ナノ粒子ペーストの調製において、ポリエチレングリコール200の代わりに、ポリエチレングリコール2000(PEG2000、和光純薬工業(株)製、数平均分子量2000)を用いる以外は実施例1と同様にして、銀ナノ粒子ペーストを調製した。このペーストを用いて、実施例1と同様に焼成し、ITO膜上に厚み5.6μmの銀膜を形成した。ITO膜と銀膜との間に膨れや剥離は観察されなかった。体積抵抗率を測定したところ、3.8μΩ・cmであった。
【0122】
比較例1
銀ナノ粒子ペーストの調製において、ポリエチレングリコール200を添加しない以外は実施例1と同様にして、銀ナノ粒子ペーストを調製した。このペーストを用いて、実施例1と同様に焼成し、ITO膜上に厚み4.8μmの銀膜を形成した。ITO膜と銀膜との間に(銀膜の周囲で)剥離が観察された。体積抵抗率を測定したところ、3.3μΩ・cmであった。
【0123】
比較例2
銀ナノ粒子ペーストの調製において、ポリエチレングリコール200の代わりに、ポリビニルピロリドンK−30(和光純薬工業(株)製、数平均分子量40000)を用いる以外は実施例1と同様にして、銀ナノ粒子ペーストを調製した。このペーストを用いて、実施例1と同様に焼成し、ITO膜上に厚み6.3μmの銀膜を形成した。ITO膜と銀膜との間に膨れや剥離は観察されなかった。体積抵抗率を測定したところ、12.8μΩ・cmであった。
【0124】
実施例4〜6
焼成温度を300℃とする以外は実施例1〜3と同様にして銀膜を形成した。ITO膜上には、それぞれ厚み5.3μm、5.9μm、5.1μmの銀膜が形成された。いずれもITO膜と銀膜との間に膨れや剥離は観察されなかった。体積抵抗率を測定したところ、それぞれ2.1μΩ・cm、2.4μΩ・cm、2.3μΩ・cmであった。
【0125】
実施例7
実施例1で得られた銀コロイド粒子に対して、エチレングリコール及びポリエチレングリコール200を添加して乳鉢で混合し、銀濃度90質量%の銀ナノ粒子ペーストを調製した。このペーストにおける分散媒(エチレングリコール)と分散助剤(PEG200)との割合(質量比)は、前者/後者=50/50であった。このペーストを、ITO膜で被覆されたガラス基板のITO膜の上に、アプリケータを用いて塗布し、オーブンを用いて300℃で30分間焼成し、ITO膜上に厚み5.5μmの銀膜を形成した。ITO膜と銀膜との間に膨れや剥離は観察されなかった。体積抵抗率を測定したところ、2.3μΩ・cmであった。
【0126】
実施例8
銀ナノ粒子ペーストの調製において、エチレングリコールの代わりに、1,4−ブタンジオール(和光純薬工業(株)製、沸点230℃)を用いる以外は実施例4と同様にして、銀ナノ粒子ペーストを調製した。このペーストを用いて、実施例4と同様に焼成し、ITO膜上に厚み5.0μmの銀膜を形成した。ITO膜と銀膜との間に膨れや剥離は観察されなかった。体積抵抗率を測定したところ、2.2μΩ・cmであった。
【0127】
実施例9
銀ナノ粒子ペーストの調製において、エチレングリコールの代わりに、ブチルカルビトールアセテート(和光純薬工業(株)製、沸点246.8℃)を用いる以外は実施例4と同様にして、銀ナノ粒子ペーストを調製した。このペーストを用いて、実施例4と同様に焼成し、ITO膜上に厚み4.9μmの銀膜を形成した。ITO膜と銀膜との間に膨れや剥離は観察されなかった。体積抵抗率を測定したところ、2.3μΩ・cmであった。
【0128】
実施例10
銀ナノ粒子ペーストの焼成において、ITO被覆ガラス基板の代わりに、無アルカリガラス基板(コーニング(株)製、品番1737)を用いる以外は実施例4と同様にして焼成し、無アルカリガラス基板上に厚み6.1μmの銀膜を形成した。無アルカリガラス基板と銀膜との間に膨れや剥離は観察されなかった。体積抵抗率を測定したところ、2.1μΩ・cmであった。
【0129】
実施例11
銀ナノ粒子ペーストの焼成において、ITO被覆ガラス基板の代わりに、アルミナ基板を用いる以外は実施例4と同様にして焼成し、アルミナ基板上に厚み6.3μmの銀膜を形成した。アルミナ基板と銀膜との間に膨れや剥離は観察されなかった。体積抵抗率を測定したところ、2.1μΩ・cmであった。
【0130】
実施例12
銀ナノ粒子ペーストの焼成において、ITO被覆ガラス基板の代わりに、FTO被覆ガラス基板を用いる以外は実施例4と同様にして焼成し、FTO被覆ガラス基板上に厚み5.2μmの銀膜を形成した。FTO膜と銀膜との間に膨れや剥離は観察されなかった。体積抵抗率を測定したところ、2.1μΩ・cmであった。
【0131】
比較例3
銀ナノ粒子ペーストの調製において、ポリエチレングリコール200を添加しない以外は実施例4と同様にして、銀ナノ粒子ペーストを調製した。このペーストを用いて、実施例4と同様に焼成し、ITO膜上に厚み5.1μmの銀膜を形成した。ITO膜と銀膜との間に気泡状の膨れが多数観察された。体積抵抗率を測定したところ、2.4μΩ・cmであった。
【0132】
比較例4
銀ナノ粒子ペーストの調製において、ポリエチレングリコール200の代わりに、ポリビニルピロリドンK−30(和光純薬工業(株)製、数平均分子量40000)を用いる以外は実施例4と同様にして、銀ナノ粒子ペーストを調製した。このペーストを用いて、実施例1と同様に焼成し、ITO膜上に厚み5.9μmの銀膜を形成した。ITO膜と銀膜との間に膨れや剥離は観察されなかった。体積抵抗率を測定したところ、2.7μΩ・cmであった。
【0133】
結果を表1に示す。なお、表1中の「膨れ」の評価については、膨れや剥離の発生がない銀膜を「○」とし、膨れ又は剥離が発生した銀膜を「×」とした。
【0134】
【表1】

【0135】
なお、表1中、「EG」はエチレングリコールを示し、「BD」は1,4−ブタンジオールを示し、「BCA」はブチルカルビトールアセテートを示す。
【0136】
表1から明らかなように、比較例に比べ、実施例では、体積抵抗率が低く、かつ銀膜に膨れも発生しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0137】
本発明の金属ナノ粒子ペーストは、高濃度で金属ナノ粒子を含んでいるため、例えば、金属膜(焼結膜)を形成するためのペーストとして有用である。特に、ITO膜やFTO膜などの透明電極膜との密着性が高いため、プラズマディスプレイパネル(PDP)、蛍光表示管(VFD)、液晶ディスプレイ(LCD)、有機及び無機エレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELD)などの表示装置、シリコン半導体系やグレッツェル式(色素増感型)などの太陽電池、タッチパネル式表示装置などに用いられる透明電極の導体として有効に利用できる。
【符号の説明】
【0138】
1…太陽電池
2…色素担持多孔質TiO電極
2a…透明電極
2a…ガラス基板
2a…ITO薄膜
2b…銀の焼結パターン
2c…多孔質TiO
3…電解質
4…対極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属ナノ粒子(A1)とこの金属ナノ粒子(A1)を被覆する保護コロイド(A2)とで形成された金属コロイド粒子(A)、沸点が100〜250℃である極性溶媒で構成された分散媒(B)、及び沸点又は分解温度が250℃を超え、かつ数平均分子量が150〜3000である親水性化合物で構成された分散助剤(C)を含む金属ナノ粒子ペースト。
【請求項2】
分散媒(B)が、脂肪族多価アルコール類、セロソルブ類、セロソルブアセテート類、カルビトール類及びカルビトールアセテート類からなる群から選択された少なくとも一種であり、かつ分散助剤(C)が、数平均分子量180〜2200の親水性オリゴマー又はポリマーである請求項1記載の金属ナノ粒子ペースト。
【請求項3】
分散媒(B)がC2−4アルキレングリコールであり、かつ分散助剤(C)がポリC2−4アルキレングリコールである請求項1又は2記載の金属ナノ粒子ペースト。
【請求項4】
分散媒(B)と分散助剤(C)との割合(質量比)が、前者/後者=90/10〜30/70である請求項1〜3のいずれかに記載の金属ナノ粒子ペースト。
【請求項5】
保護コロイド(A2)が、カルボキシル基を有する有機化合物(A2−1)と高分子分散剤(A2−2)とで構成されている請求項1〜4のいずれかに記載の金属ナノ粒子ペースト。
【請求項6】
金属ナノ粒子(A)を構成する金属が、少なくとも貴金属を含む金属であり、有機化合物(A2−1)が、C1−16脂肪族カルボン酸及び脂肪族ヒドロキシカルボン酸から選択された少なくとも1種であり、かつ高分子分散剤(A2−2)が、遊離のカルボキシル基を有する請求項5記載の金属ナノ粒子ペースト。
【請求項7】
金属ナノ粒子(A)を構成する金属が銀であり、有機化合物(A2−1)がC1−6アルカン酸である請求項5又は6記載の金属ナノ粒子ペースト。
【請求項8】
基材の上に請求項1〜7のいずれかに記載の金属ナノ粒子ペーストで被膜を形成する工程、及びこの被膜を焼成処理する工程を含む導電性基材の製造方法。
【請求項9】
基材の表面が透明電極膜で構成されている請求項8記載の製造方法。
【請求項10】
透明電極膜が、酸化インジウム−酸化錫系複合酸化物(ITO)及びフッ素ドープ酸化錫(FTO)からなる群から選択された少なくとも一種の金属酸化物で形成されている請求項9記載の製造方法。
【請求項11】
請求項8〜10のいずれかに記載の製造方法により得られた導電性基材。

【図1】
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【公開番号】特開2010−177084(P2010−177084A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−19440(P2009−19440)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)
【Fターム(参考)】