説明

金属ライナー用カップおよびその製造方法

【課題】強度や耐久性能にばらつきのない圧力容器用の金属ライナー用カップ並びにその製造方法を提供する。
【解決手段】 底部および側面からなるカップ形状で軸対称のキャビティ4と、キャビティ4の底部中心に連通し、キャビティ4の軸線方向に沿って形成された円柱空間5と、円柱空間5に充填された金属素材6を押圧するパンチ7とからなる成形装置Aを用い、空間5に円柱形の金属素材6を、パンチ7でキャビティ4内に押し込むことにより、金属ライナー用カップBを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は圧力容器等に用いる金属ライナー用カップおよびその製造方法に関し、さらに詳細には、燃料電池車用の水素タンクのような容器の径が比較的大きく、長さが短い金属ライナー用カップおよび製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
次世代自動車の動力源として、燃料電池を用いることが検討されている。一般に燃料電池車では水素燃料を充填する圧力容器が搭載されるが、車載用であることから、容器長さが制限される一方で、大容量であること、軽量であることが要求される。このような要求を満足できる圧力容器として、アルミやアルミ合金製の金属ライナーで容器本体を形成し、その外周面に高剛性繊維を巻回した補強繊維層が設けられた圧力容器が利用されている。
【0003】
このような圧力容器に使用される金属ライナーは、例えば特許文献1並びに特許文献2に示すように、凹部を有するダイス上に素材となる円盤状の金属板材を置き、その上方からパンチを押し込んで金属板材をプレス加工(絞り加工)することによりカップの形状を製造している。
【0004】
また別の金属ライナーの製造方法として、図6に示すように、ダイス11の凹部10内に金属素材12を入れ、上方から図7に示すようにパンチ13を押し込んで金属素材12をカップ14の形状に押出し成形(後方押出し成形)する方法が用いられる。
いずれの場合も、金属ライナー用のカップは、次工程で開口部が狭くなるように加工されて口部が成形され、所望の形状の圧力容器が製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−337561号公報
【特許文献2】特開平5−050152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、圧力容器用の金属ライナー用のカップは、絞り加工あるいは後方押出し成形によって成形していた。しかし、前者の絞り加工(プレス加工)による方法では、絞り加工前に予め素材を円板状に切り出す加工が必要になり、工程が増え、手間がかかるとともに加工コストが増す。また、大きな板材から複数の円板に切り出す際に隣接する円板の間に端材が生じ、材料の歩留まりを向上させることが困難であった。
【0007】
また、形成された金属ライナー用カップは、絞り加工による不均一なメタルフロー(鍛流線ともいう)の影響を受けるため、カップから形成されるライナー円筒部の強度は場所によって異なり、耐久性能がばらついていた。詳しくいえば、図8(a)に示すように、円板状に切り出された板材Aのメタルフローは圧延加工により矢印に示すように一定の方向に流れているが、パンチによる絞り加工がなされると、図8(b)に示すようにパンチで板材Aが中心対称に押圧されることになり、図中の位置(P1)と位置(P2)と位置(P3)とでメタルフローの方向が異なることになり、このためライナー円筒部の強度は場所によって異なって耐久性能がばらつくといった問題点があった。
【0008】
一方、図6並びに図7の後方押出し成形では、金属素材12をパンチ13でカップ状に押し出すためには大径の容器を一挙に成形するため大きなパンチ荷重が必要になる。そのため、パワーが大きい大型の成形装置が必要になる。さらに、後方押出し成形で成形されたライナーも、底部でのメタルフローが入り乱れてランダムに発生し、胴部(側壁部)のメタルフローが延伸方向(胴部の軸芯方向)に沿って発生するので、強度並びに耐久性能が製品の場所によってばらつくといった問題点があった。
【0009】
そこで本発明は、底部のメタルフローが底部中心から放射方向に向かって形成され、側面のメタルフローが前記底部のメタルフローから連続してカップの軸線に沿って形成されているようにし、これにより、メタルフローが均一で、強度や耐久性能にばらつきのない金属ライナー用カップを提供することを目的とする。
また、本発明は、成形装置の円柱空間に円柱形の金属素材を入れた状態で、金属素材をパンチでキャビティ内に押し込むことにより、側方押出し成形でカップの底部を形成し、さらに押出し成形を続けることで側面を形成するようにし、これにより、メタルフローが均一な金属ライナー用カップの製造方法を提供することを目的とする。
【0010】
さらに、本発明は、強度や耐久性能にばらつきのない金属ライナー用カップを、構造が簡単でコンパクトな装置により、低荷重、低コストで効率的に製作することのできる新しい製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、カップ形状をこれまでになかった新しい方法で製造することにより、メタルフローの方向が制御された金属ライナー用カップを形成することができるようになったものである。
【0012】
すなわち、本発明の金属ライナー用カップは、底部および側面からなるカップ形状で軸対称の金属ライナー用カップであって、底部のメタルフローが底部中心から放射方向に向かって形成され、側面のメタルフローが前記底部のメタルフローから連続してカップの軸線に沿って形成されているようにしたものである。
【0013】
そして、本発明の金属ライナー用カップは、底部および側面からなるカップ形状で軸対称のキャビティが形成されるとともに、キャビティの底部中心に連通し、キャビティの軸線方向に沿って素材充填用の円柱空間が形成された金型と、円柱空間に充填された金属素材を押圧するパンチとからなる成形装置を用いる。そして、この成形装置の円柱空間に円柱形の金属素材を入れた状態で、金属素材をパンチでキャビティ内に押し込むことにより、側方押出し成形でカップの底部を形成し、さらに押出し成形を続けることで側面を形成するようにして金属ライナー用のカップを製造する。
【発明の効果】
【0014】
本製造方法によれば、円柱空間に充填された金属素材は、側方押出しにより底部中心から放射状に成形されていき、さらにカップの軸線方向に沿って側面が成形されていく。このように軸対称にカップが形成されていくのでメタルフローも底部は放射状になり、側面は軸線に沿って形成されるので均質なメタルフローの金属ライナー用カップが形成される。
また、円柱空間の径を、キャビティの内径より小さくできるのでパンチの荷重を小さくすることができ、コンパクトな成形装置を実現できる。
さらにその際、一般の押出し加工のように断面減少率を大きくとるときに発生する大荷重は本法では発生せず、上下の加圧面積が一定で、一定据え込み圧縮時の荷重に加えて、側方に材料が流動する際の方向変換と接触摩擦力のみとなり、荷重は一般の押出し加工法より低くなる。
また、円柱状の金属素材を使用するので、円柱形の棒材を適当な長さに切り出せばよく成形加工前に行う素材の前処理が容易である。また、端材として廃棄される部分もほとんど発生しない。
【0015】
上記発明において、金属ライナー用カップは、底部中心の外側に円柱形の凸部が一体に形成されるようにしてもよい。円柱形の金属素材の後端部分を残すことにより、次工程以降の加工の際に、この部分を支持部とすることができ、次工程(例えば口部を形成するスピニング加工)での支持が容易になる。
【0016】
また、金属ライナー用カップの底部と側面との境界部分(いわゆる肩部分)は軸線方向に沿って湾曲するように形成してもよい。
このようにすれば、滑らかに連続するメタルフローが形成されるので、強度や耐久性能にばらつきのない均質な容器を安定して作成できる。
【0017】
また、金属ライナー用カップがアルミ、アルミ合金、のいずれかであるのが好ましい。
金属素材としてのアルミ、アルミ合金等の金属は、側方押出し成形が容易に行えるので、加工コストを低減することができる。
【0018】
また、上記金属ライナー用カップの製造方法において、金型は、キャビティの内面を形成するマンドレル、素材充填用の円柱空間が形成され、かつ、キャビティの外面のうち底部および底部に続く側面を形成する上部ダイス、キャビティの外面のうち上部ダイスに続く側面を形成する下部ダイスを備えるようにしてもよい。
【0019】
金型をマンドレル、上部ダイス、下部ダイスの3つに分割することにより、成形された金属ライナーをキャビティから取り出す際に、簡単に取り出すことができる。
【0020】
また、上記製造方法において、マンドレルおよび前記上部ダイスにより形成されるキャビティの底部と側面との境界部分は、軸線方向の断面が曲線になるように形成されるようにしてもよい。
【0021】
これにより、押し出された金属素材は底部キャビティから側面部のキャビティに滑らかに流れやすくなり、連続するメタルフローが形成されるので、強度や耐久性能にばらつきのない均質な容器を安定して作成できる。
【0022】
また、上記製造方法において、金属素材は円柱状のアルミ、アルミ合金であるのが好ましい。これらの金属は側方押出し成形が容易に行えるので、加工コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明にかかる圧力容器用の金属ライナー用カップを製造するための装置の一実施例を示す断面図。
【図2】図1の成形装置により成形した金属ライナー用カップの断面図。
【図3】図2の金属ライナー用カップに口部を成形した金属ライナーの断面図。
【図4】図1の成形装置により成形した別の形態の金属ライナー用カップの断面図。
【図5】図4の金属ライナー用カップの凸部にネジ加工をしたときの断面図。
【図6】従来の後方押出し成形による金型を示す断面図。
【図7】図5の後方押出し成形でパンチを押し下げた状態を示す断面図。
【図8】従来の絞り加工によるメタルフローの方向を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下において本発明にかかる金属ライナー用カップ並びにその製造方法の詳細を実施の形態を示す図面に基づいて詳細に説明する。
【0025】
図1は本発明の金属ライナー用カップを製造する際に使用される成形装置の一実施例を示す断面図である。成形装置Aは、上部ダイス1、下部ダイス2と、マンドレル3とが分解可能に組み合わされ、これらの接合面の間に金属ライナー用還付を成形するためのキャビティ4が形成されている。このキャビティ4は軸線(軸芯)Xを中心にして軸対称であり、カップ形状の底部となる皿状空間部4aと側面(いわゆる胴部)となる円筒状空間部4bとからなり、皿状空間部4aを上にした状態で形成されている。
【0026】
キャビティ4の上方には、皿状空間部4aに連通し、キャビティ4の軸線(軸芯)Xに沿って、上部ダイス1を貫通する円柱空間5が設けられている。円柱空間5は金属素材6を導入するための孔である。円柱空間5の直径は、キャビティ4の筒状空間部4bの内径よりも小径にしてある。この径が小さいほど、後述するパンチ7による押圧荷重を小さくできるが、筒状空間部4bの内径Dに対し、0.2D〜0.8Dにするのが好ましい。なお、円柱空間5の直径を、加工に使用する円柱状の金属素材6の外径に合わせておくことにより、円柱空間5に挿入する前に行う金属素材6に対する加工を簡略化できる。
【0027】
なお、金型(上部ダイス1、下部ダイス2、マンドレル3)の組み立てを容易にするためのガイドとして、ベースプレート21、支柱22、リングガイド23、上部プレート24を設けるようにしてある。
【0028】
そして円柱空間5には、金属素材6を押圧するためのパンチ7が挿入される。金属素材6の材質は、アルミ、アルミ合金が特に好ましいが、成形可能な素材であればその材質は限定されない。
【0029】
次に、上記の成形装置Aによる加工動作について説明する。円柱空間5内に、円柱空間5と同径の円柱状の金属素材6を、キャビティ4の軸線Xと金属素材6の軸線とを一致させた状態で挿入する。そして、この金属素材6をパンチ7で押圧し、キャビティ4内に押し込むことにより、図2に示す金属ライナー用カップBを側方押出し成形で製造していく。パンチ7で金属素材5がキャビティ4に押し込まれる初期の段階で、金属素材5は延伸されてキャビティ4の皿状空間部4aの中心部から該空間部4aの湾曲した肩部に向かって放射方向に流動する。この際、円柱状の金属素材6の軸線とキャビティ4の軸線Xとを一致させてあるので、延伸された金属は皿状空間部4aの中心から放射方向に向かって円を描くように均等に流動する。
【0030】
次いで、延伸された金属は、皿状空間部4aの湾曲した肩部から筒状空間部4bに流入し、筒状空間部4aに沿って下方に流動する。その結果、金属ライナー用カップBのメタルフローは、図2の矢印で示すように、底部では底部中心から放射方向に向かって形成され、側面(胴部)では底部のメタルフローから連続して軸線X方向に沿って均等に形成されることになる。これにより、円筒状胴部のどの部位をとっても均一な強度となって製品のばらつきのない高品質の金属ライナー用カップを得ることができる。
【0031】
このようにして製造された金属ライナー用カップBは、次工程で、周知のスピニング加工等により開口部を絞り込むことによって、図3に示すように口部8を狭くした容器状の金属ライナーB’に成形される。
【0032】
なお、次工程での加工を容易にするため、図4に示すように、金属ライナーBの底部外側に凸部9を形成しておいてもよい。これは、パンチ7で円柱空間5内の金属素材6を押し出す際に、金属素材6の一部を残しておくことにより簡単に形成できる。このようにすることで、次工程で口部8を加工する際に、チャックで凸部9を支持することができるようになり、スピニング加工後に切り落とせば、最終的に図2の形状にすることもできる。さらに凸部9の別の利用方法として、図5に示すように、凸部9にネジ穴9aを形成するようにして、金属ライナー用カップBを固定することもできる。
【0033】
以上、本発明の代表的な実施例について説明したが、本発明は必ずしも上記の実施形態に特定されるものではない。例えば、成形装置Aのキャビティ4の形状を、メタルフローに影響を与えない範囲で修正を加えることにより底部の肉厚と胴部の肉厚を代えたり、あるいは次工程で口部を絞り加工するための肉厚部分を胴部の開口部付近に形成するようにしてもよい。
【0034】
また、上記実施形態では、上部ダイス1を上に配置しマンドレル3を下に配置しているが、上下逆に配置した金型としてもよい。
さらに、上部ダイス1の底部の材料流入初期部分にマンドレル3と形成されるギャップは一定ではなく、初期に大きく段階的に小さくし、最終的に所定の肉厚にすることによって、成形性の向上、成形荷重の低減が可能となる。また上部ダイス1を分割にし、復動プレスをすることによって、ギャップに流入する肉厚を制御することもできる。
その他本発明では、その目的を達成し、請求の範囲を逸脱しない範囲内で適宜修正、変更することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の金属ライナー用カップは、水素その他の各種加圧物質を充填するための圧力容器に用いられ、特に、燃料電池自動車の水素用燃料タンク等に適用される。
【符号の説明】
【0036】
A 成形装置
B 金属ライナー用カップ
4 キャビティ
4a キャビティの皿状空間部
4b キャビティの筒状空間部
5 素材充填用空間
6 金属素材
7 パンチ
8 口部
9 凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部および側面からなり、軸対称の金属ライナー用カップであって、底部のメタルフローが底部中心から放射方向に向かって形成され、側面のメタルフローが前記底部のメタルフローから連続して軸線に沿って形成されていることを特徴とする金属ライナー用カップ。
【請求項2】
前記カップの底部中心の外側に円柱形の凸部が一体に形成される請求項1に記載の金属ライナー用カップ。
【請求項3】
前記カップの底部と側面との境界部分は軸線方向に湾曲するように形成された請求項1または請求項2のいずれかに記載の圧力容器用金属ライナー。
【請求項4】
前記カップがアルミ、アルミ合金、のいずれかである請求項1または請求項3のいずれかに記載の金属ライナー用カップ。
【請求項5】
底部および側面からなるカップ形状で軸対称のキャビティが形成されるとともに、前記キャビティの底部中心に連通し、前記キャビティの軸線方向に沿って素材充填用の円柱空間が形成された金型と、前記円柱空間に充填された金属素材を押圧するパンチとからなる成形装置を用いて、前記円柱空間に円柱形の金属素材を入れた状態で、前記金属素材をパンチでキャビティ内に押し込むことにより、カップを製造することを特徴とする金属ライナー用カップの製造方法。
【請求項6】
前記金型は、前記キャビティの内面を形成するマンドレル、前記素材充填用の円柱空間が形成され、かつ、前記キャビティの外面のうち底部および底部に続く側面を形成する上部ダイス、前記キャビティの外面のうち上部ダイスに続く側面を形成する下部ダイスを備えた請求項5に記載の金属ライナー用カップの製造方法。
【請求項7】
前記マンドレルおよび前記上部ダイスにより形成されるキャビティの底部と側面との境界部分は、軸線方向に沿って湾曲するように形成された請求項6に記載の金属ライナー用カップの製造方法。
【請求項8】
金属素材が棒状のアルミ、アルミ合金のいずれかである請求項5〜請求項7のいずれかに記載の金属ライナー用カップの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−183444(P2011−183444A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−53496(P2010−53496)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 1.刊行物に発表 発行者名 社団法人軽金属学会 刊行物名 「第117回秋期大会講演概要集」 発行年月日 平成21年10月14日
【出願人】(593166462)サムテック株式会社 (12)
【Fターム(参考)】