説明

金属充填装置

【課題】凹面化、空隙、ボイドなどを生じることなく、対象物の微細空間を金属充填材によって満たし、低コスト化と処理効率の向上とを実現しうる金属充填装置を提供すること。
【解決手段】金属充填装置は、微細空間の開口面の一つが開放された状態で、その開口面の反対側から対象物2を支持する第1の支持体10と、前記開口面側から第1の支持体10と接合して、対象物2を処理室A内に封入する第2の支持体11と、処理室Aに溶融金属Mを供給する溶融金属供給部12と、処理室A内の圧力を制御する圧力制御部13とを備えており、微細空間内に溶融金属Mが充填された後、その溶融金属が冷却により硬化するまで、処理室Aに圧力を与える加圧手段を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物に存在する微細空間に溶融金属を充填し硬化させる金属充填装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、半導体デバイスによって代表される電子デバイスや、マイクロマシン等においては、内部に高アスペクト比を持つ微細な導体充填構造、接合構造又は機能構造を形成しなければならないことがある。このような場合、予め選択された充填材を微細空間内に充填することによって、導体充填構造、接合構造及び機能構造等を実現する技術が知られている。しかし、高アスペクト比を持つ微細空間内に、空隙や硬化後変形などを生じさせることなく、その底部まで充填材を充分に充填することは困難を極める。
【0003】
例えば、半導体デバイスの製造に用いられるウエハ処理の場合を例にとると、ウエハには、電極等を形成するための多数の微細空間(孔)が設けられており、その微細空間は、孔径が例えば数十μm以下であり、非常に小さい。しかも、このような微小孔径の微細空間に対して、ウエハの厚みはかなり厚く、微細空間のアスペクト比が5以上になることも多い。電極を形成するためには、このような微小で、高アスペクト比の微細空間に、その底部に達するように、導電材料を確実に充填しなければならないので、当然、高度の充填技術が要求される。
【0004】
電極形成技術としては、導電金属成分と有機バインダとを混合した導電性ペーストを用いる技術も知られているが、導電性に優れ、損失が低く、しかも高周波特性に優れた溶融金属材料を用いる冶金的な技術が注目されている。そのような技術は、例えば特許文献1
〜3に開示されている。
【0005】
まず、特許文献1及び2は、溶融金属埋め戻し法を採用した金属充填装置により、微細空間(貫通孔)内に金属を充填する技術を開示している。溶融金属埋め戻し法とは、対象物(ウエハ)の置かれている雰囲気を減圧し、次いで減圧状態を保ったまま、前記対象物を溶融金属に挿入し、次いで前記溶融金属の雰囲ガス圧を加圧して、金属挿入前後における雰囲ガス圧差により前記空間に溶融金属を充填し、次いで対象物を溶融金属槽から引き上げて、大気中で冷やす方法である。
【0006】
係る金属充填装置は、チャンバ内に2つの部屋が上下に並んで設けられており、両方の部屋は、加圧/減圧手段が備えられ、開閉バルブにより互いに仕切られている。そして、対象物であるウエハは、宙吊り状態で搬送治具に把持固定され、下側の部屋に設置された溶融金属槽に浸漬された後、微細空間内の溶融金属を硬化させるために、上側の部屋に移動させられて冷却される。
【0007】
しかし、この金属充填装置には、次のような問題点がある。
(a)対象物を溶融金属槽から引き上げるとき、微細空間内の溶融金属が、溶融金属の持つ表面張力などの影響により槽内の溶融金属によって吸引されてしまったり、たらたら漏れてしまったり、あるいは空間内で丸まったりする。
(b)したがって、対象物を溶融金属槽から引き上げて冷やすと、微細空間内の金属表面が、対象物の表面よりも低い位置まで凹面状にくぼんでしまうことがある。このため、外部との間の電気的導通が不完全になることがある。
(c)上述した問題点を解決するためには、凹面を埋めるべく、再度、溶融金属を供給しなければならない。しかも、凹面を埋めるためには、供給された金属の表面を、対象物の表面よりも高く突出させる必要があるから、金属の表面を対象物の表面と一致させるための工程、例えばCMP(Chemical Mechanical Polishing)工程が必要になる。これらは、工程の複雑化、それに伴う歩留りの低下など招く要因となる。
(d)更に大きな問題点は、上述したような複雑な工程を要するにもかかわらず、微細空間の、特に底部に、溶融金属の充填の不十分な空隙等が生じてしまうことである。
(e)また、係る装置は、構造が複雑化しているため、維持管理が容易ではなく、コスト面でも不利である。
【0008】
次に、特許文献3は差圧充填方式を採用した金属充填装置を開示している。この差圧充填方式では、微細空間が形成された対象物(試料)と、この対象物に取り付けた金属シートとを真空チャンバ内に配置した後、真空チャンバ内を減圧し、金属シートを加熱手段により溶融させ、次いで真空チャンバ内を不活性ガスで大気圧以上に加圧する。これにより、溶融した金属が微細空間内に真空吸入される。次いで真空チャンバを開放して、試料表面に残った溶融状態の金属を取り除き、その後、大気中で室温冷却する。
【0009】
特許文献3の記載によれば、溶融金属埋め戻し法(特許文献1)と比べて、溶融金属の熱容量が少ないから、試料に反りや割れが生じないこと、余剰金属を最小限に抑制することができ、コスト低減を図ることができることなどの効果があるとされている。
【0010】
しかし、特許文献3に記載された差圧充填方式では、溶融金属が微細空間の底部まで完全には充填されず、内部に空隙が生じてしまう。
【0011】
また、試料表面に残った溶融状態の金属を取り除くので、その工程において、微小隙間に充填されている溶融金属の一部(上端側)も削り取られてしまう。このため、依然として凹面の問題が残る。
【0012】
さらに、係る装置によると、予め対象物の形状に合わせて成形した金属シートを用意する手間、及び、この金属シートをはんだボールなどで対象物の上に取り付ける手間とがかかってしまうため、コスト面と処理効率の面からも問題がある。
【0013】
実際、差圧充填方式により製造されたウエハ及びそれを用いたデバイスが、未だ市場に提供されていないのは、上述した問題点が解決できていないことの証左である。
【0014】
微細空間へ溶融金属を充分に充填する際に生じる技術的困難性は、半導体デバイス用ウエハ処理の場合に限って問題となるものではない。他の電子デバイスや、マイクロマシン等においても、同様に問題となり得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2002−237468号公報
【特許文献2】特開2006−203170号公報
【特許文献3】特開2002−368082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の課題は、凹面化、空隙、ボイドなどを生じることなく、対象物の微細空間を金属充填材によって満たし、低コスト化と処理効率の向上とを実現しうる金属充填装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上述した課題を解決するため、本発明に係る金属充填装置は、対象物に存在する微細空間に溶融金属を充填して硬化させる装置であって、支持体と、溶融金属供給部と、加圧手段とを含んでいる。前記支持体は、前記対象物を処理する処理室を有し、前記処理室は前記対象物を設置する設置面を有している。前記溶融金属供給部は、前記設置面に設置された前記対象物に存在する前記微細空間に前記溶融金属を充填する。前記加圧手段は、前記対象物及び前記微細空間内に充填された溶融金属を加圧し、前記加圧の状態を、前記溶融金属が冷却により硬化するまで維持する。
【0018】
上述したように、本発明に係る金属充填装置では、支持体に備えられた処理室が、対象物を設置する設置面を有しており、設置面に設置された対象物の微細空間に、溶融金属供給部により、溶融金属を充填するようになっているから、対象物を溶融金属槽から引き上げる操作が不要である。このため、微細空間内の溶融金属が、溶融金属の持つ表面張力などの影響により、槽内の溶融金属によって吸引されてしまったり、たらたら漏れてしまったり、あるいは空間内で丸まったりする等の問題を生じる余地がない。従って、空隙やボイドなどを生じることなく、微細空間を金属体によって満たすことができる。
【0019】
また、本発明に係る金属充填装置は、加圧手段を含んでおり、この加圧手段は、対象物及び微細空間内に充填された溶融金属を加圧し、加圧の状態を、前記溶融金属が冷却により硬化するまで維持するから、溶融金属を微細空間の底部まで充分に充填するとともに、熱収縮による金属の変形を抑えることができる。このため、空隙やボイドなどを生じることなく、微細空間を金属体によって満たすことができる。
【0020】
ここで、微細空間が貫通孔である場合、支持体は、処理室に開放された微細空間の開口面の反対側から対象物を支持するため、対象物の支持面にある他方の開口面を閉塞することができる。したがって、微細空間内の溶融金属は、開放された開口面から一方向の圧力が印加され、しっかりと微細空間内に押し込まれ、閉塞された他方の開口面から溶融金属が漏れることはない。
【0021】
一方、微細空間が非貫通孔である場合も同様に、開口面から一方向の圧力が印加され、溶融金属が漏れることがないのは言うまでも無い。
【0022】
このようにして、本発明に係る金属充填装置によると、微細隙間で冷却された際に生じる溶融金属の凹面化も回避しえる。このため、外部との電気的導通を確実に確保し得る。
【0023】
更に、金属体の凹面化を回避することによって、冷却後の溶融金属の再供給やCMP工程等が不要であり、作業工程の簡素化、歩留りの向上などに寄与しえる。
【0024】
上述した加圧手段は、ガス圧、プレス圧、射出圧、転圧、磁力または遠心力から選択された少なくとも1種で与えられる。このうち、ガス圧を採用する場合、処理室内の圧力を制御する圧力制御部を設け、この圧力制御部を、加圧手段として兼用することもできる。
【0025】
また、射出圧を採用する場合には、加圧手段及び溶融金属供給部を、射出機によって構成する。射出機によっては、処理室に溶融金属を射出して供給するとともに、微細空間内に充填された溶融金属が冷却により硬化するまで、その射出圧を処理室に与えるようにする。さらに、プレス圧を採用する場合には、加圧手段として、プレス機を用いればよい。
【0026】
加圧操作において、硬化工程の初期の段階では、静圧のみならず、動圧も積極的に利用し、動圧によるダイナミックな押込み動作を行わせることが好ましい。この手法によれば、溶融金属を、微細空間の底部まで確実に到達させ、底部に未充填領域が生じるのを、更に確実に回避することができるようになる。
【0027】
更に好ましくは、溶融金属供給部は、開口面上にその金属薄膜が生じるように溶融金属を供給するとよい。これにより、金属薄膜の受けた強制外力によって、溶融金属を微細空間の内部に確実に押込むことができる。
【0028】
このように溶融金属供給部が開口面上にその金属薄膜が生じるように溶融金属を供給した場合は、溶融金属を硬化させた後、開口面上の金属薄膜を再溶融し、再溶融された金属薄膜を拭き取る手段を、金属充填装置に備えるとよい。再溶融時の熱は、微細隙間の内部の硬化金属体にも加わるが、硬化金属体の持つ熱容量が金属薄膜の熱容量よりも著しく大きいため、金属薄膜が再溶融しても、硬化金属体の再溶融までは進展しない。このため、金属薄膜だけを拭き取り、凹面部を持たない平坦な面を形成することができる。これとは異なって、開口面上に残った金属薄膜を、再溶融させずに、機械的に除去してもよい
【発明の効果】
【0029】
以上述べたように、本発明によれば、凹面化、空隙、ボイドなどを生じることなく、対象物の微細空間を金属充填材によって満たし、低コスト化と処理効率の向上とを実現しうる金属充填装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係る金属充填装置の構成を示す図である(充填前)。
【図2】本発明に係る金属充填装置の構成を示す図である(充填後)。
【図3】微細空間に金属を充填する過程を表す図である。
【図4】微細空間に金属を充填する過程を表す図である。
【図5】微細空間に金属を充填する過程を表す図である。
【図6】微細空間に金属を充填する過程を表す図である。
【図7】微細空間に金属を充填する過程を表す図である。
【図8】本発明に係る金属充填装置において、加圧冷却を省略して得られた半導体ウエハ(シリコンウエハ)の断面SEM写真である。
【図9】本発明に係る金属充填装置において、加圧冷却を経て得られた半導体ウエハ(シリコンウエハ)の断面SEM写真である。
【図10】本発明に係る金属充填装置の他の実施例を示す図である(充填前)。
【図11】本発明に係る金属充填装置の他の実施例を示す図である(充填後)。
【図12】金属充填装置に外力発生手段を設けた実施例を示す図である(外力発生前)。
【図13】金属充填装置に外力発生手段を設けた実施例を示す図である(外力発生後)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
図1は、本発明に係る金属充填装置の構成を示す図である。本発明に係る金属充填装置は、対象物に存在する微細空間に溶融金属を充填して硬化させるものである。本実施形態においては、対象物2として半導体デバイス用ウエハを挙げるが、これに限定されない。本発明は、対象物2に存在する微細空間21に溶融金属を充填し固化する場合に、広く用いられるもので、例えば、他の電子デバイスや、マイクロマシン等において、内部に微細な導体充填構造、接合構造又は機能部分を形成する場合に、広く用いることが可能である。ある場合には、電子デバイスやマイクロマシン以外の通常の大きさを有するデバイスに用いることもできる。
【0032】
また、対象物2は、溶融金属から放散される熱に対する耐熱性を有するものであれば、金属、合金、金属酸化物、セラミックス、ガラス、プラスチックもしくはそれらの複合材、又は、それらの積層体の別を問わず、広く用いることができる。更に、対象物2の外形形状は、平板状に限らず、任意の形状をとることができる。図示の平板状は、単に説明の便宜のために選択された一例に過ぎない。
【0033】
対象物2としてウエハが選択された場合、その物性、構造などは、対象とするデバイスの種類によって異なる。例えば、半導体デバイスの場合には、Siウエハ、SiCウエハ又はSOIウエハ等が用いられる。受動電子回路デバイスの場合には、誘電体、磁性体又はそれらの複合体の形態をとることがある。MRAM (Magnetoresistive Random Access Memory)、MEMS (Micro Electro Mechanical Systems)又は光デバイスなどの製造においても、その要求に沿った物性及び構造を持つウエハが用いられる。ウエハにおいて、微細空間は、一般には、貫通孔、非貫通孔(盲孔)又はビア・ホールと称される。この微細空間は、例えば、孔径が10μm〜60μmである。ウエハ自体の厚みは、通常、数十μmである。したがって、微細空間はかなり高いアスペクト比を持つことになる。これが、溶融金属Mを微細空間に充填する際の問題点を生じる大きな理由となるのである。
【0034】
金属充填装置1は、第1の支持体10及び第2の支持体11を含む支持体と、溶融金属供給部12と、圧力制御部13とを備えている。
【0035】
第1の支持体10は、図3に示すように、微細空間21の開口面Hの一つが開放された状態で、その開口面Hの反対側から対象物2を支持する。即ち、対象物2は、第1の支持体10の一面上に設置される。本実施形態では、微細空間21として貫通孔を挙げており、対象物2の支持面上にある開口面H’は、第1の支持体10によって閉塞されている。
【0036】
微細空間21は、少なくとも1つの開口面Pが、対象物2の雰囲気(図3の符号A)に露呈している必要はあるが、その口形、経路及び数等は任意である。本実施形態のような貫通孔である必要はないし、非貫通孔であってもよい。あるいは、図示の縦方向のみならず、これと直交する横方向に連なるような複雑な形状であってもよい。微細空間21は、意図的に形成したものに限らない。意図せずに、発生したものであってもよい。
【0037】
一方、第2の支持体11は、開放された開口面H側から第1の支持体10と組み合わされて、対象物2のための処理室Aを画定する。ここで、組み合わせの形態は、本実施形態のように凸凹嵌合であっても、他の態様であってもよいが、第2の支持体11と第1の支持体10の間に気密性のある処理室Aを形成することが好ましい。
【0038】
溶融金属供給部12は、処理室Aに溶融金属Mを供給する。溶融金属供給部12は、溶融槽を有し、配送パイプP1を介して、第2の支持体11に設けられた金属供給路111と接続されている。この金属供給路111は、処理室Aに連なっている。また、配送パイプP1には、バルブC1が取り付けられている。バルブC1は、溶融金属Mを供給するとき、機械的制御によって、あるいは手動によって開放される。
【0039】
図2は、処理室Aに溶融金属が供給された状態を表している。溶融金属供給部12は、処理室Aが溶融金属Mで満たされるように供給する。
【0040】
溶融金属Mを構成する金属材料は、対象物2の種類及びその目的に応じて、その組成分が選択される。溶融金属4は、一般には、単一金属元素によって構成されるものではなく、合金化を前提とした複数金属元素を含有する。例えば、対象物2が、半導体ウエハであって、微細空間21の内部に、導体を形成することが目的であれば、Ag、Cu、Au、Pt、Pd、Ir、Al、Ni、Sn、In、Bi、Znの群から選択された少なくとも1種の金属元素を含む金属成分を用いることができる。接合構造を得ようとする場合には、接合される対象物2との間の接合性を考慮した金属成分が選択される。
【0041】
上述した金属成分は、好ましくは、ナノコンポジット構造を有する。ここに、ナノコンポジット構造とは、粒径が好ましくは500nm以下の多結晶体を言う。ナノコンポジット構造を有する金属成分を用いることの利点は、溶融金属Mの全体としての融点を低下させ得る点にある。
【0042】
融点を低下させるもう一つの手法は、高融点金属成分(Ag、Cu、Au、Pt、Pd、Ir、Al、Ni)と、低融点金属成分(Sn、In、Bi)とを組み合わせことである。
【0043】
溶融金属材料には、好ましくは、ビスマス(Bi)を含有させる。ビスマス(Bi)を含有させることの利点は、ビスマス(Bi)の冷却時体積膨張特性を利用して、微細空間21内に空隙やボイドのない金属導体を形成するのに寄与することができる点にある。
【0044】
更に、微細空間21の底部が導体によって閉じられている場合、上述した溶融金属Mを流し込む前に、微細空間21内に貴金属ナノ粒子を供給しておき、しかる後に、溶融金属Mを流し込む工程を採ることも有効である。この工程を経ることにより、貴金属ナノ粒子の有する触媒作用により、導体に形成されることのある酸化膜を還元し、溶融金属4と導体との間に電気抵抗の低い接合を形成することができる。貴金属には金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)及びオスミウム(Os)が含まれる。これらの元素のうちでも、金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)から選択された少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0045】
溶融金属供給部12は、一例として、200〜300℃の範囲で金属を溶融させることができる。この溶解温度は、上述したように、金属成分の組み合わせの選択、及び、ナノ化によって調整し、又は低下させることができる。
【0046】
圧力制御部13は、処理室A内の圧力を制御する。圧力制御部13は、減圧時、処理室A内の圧力を、例えば真空度10-3Pa程度まで減圧する。一方、加圧時は、N2ガスなどの不活性ガスを供給して、溶融金属材料の酸化を防止しつつ、そのガス圧を加圧するのが好ましい。処理室A内のガス圧は、一例であるが、0.6〜1kgf/cmの範囲で設定することができる。このガス圧に到達するまでの昇圧−時間特性をコントロールすることにより、好適な動圧を発生させることができる。
【0047】
圧力制御部13は、制御パイプP2を介して、第2の支持体11に設けられた圧力伝達路112と接続されている。この圧力伝達路112は、処理室Aに連なっている。
【0048】
また、制御パイプP2には、バルブC2が取り付けられている。バルブC2は、処理室Aを加減圧するとき、機械的制御によって、あるいは手動によって開放される。
【0049】
圧力制御部13は、溶融金属供給部12が溶融金属Mを供給するのに先立って、処理室A内の圧力を減圧する。このため、上述した差圧充填が実現される。
【0050】
本発明の重要な特徴の一つとして、金属充填装置1は、微細空間21内に溶融金属Mが充填された後、その溶融金属Mが冷却により硬化するまで、処理室Aに圧力を与える加圧手段14を有する。この加圧手段14は、ガス圧、プレス圧、射出圧、又は転圧から選択された少なくとも1種の加圧力を与える。
【0051】
本実施形態においては、上述した加圧手段14として、プレス圧を印加するプレス機を採用することができるし、又は、上述した圧力制御部13を加圧手段として兼用することによって、ガス圧を印加する構成とすることもできる。あるいは、第2の支持体11の内面側にローラ機構を設ければ、転圧を採用することもできる。これらの加圧手段の加圧時間の制御は、手動で行っても良いし、機械的に行っても良い。
【0052】
プレス圧を用いる場合は、加圧手段14は、プレス機の加圧軸15を介して第2の支持体11と接続され、微細空間21内に溶融金属Mが充填された後、第2の支持体11にプレス圧を与えることにより、第2の支持体11を対象物2に向かって押圧する。これにより、微細空間21内の溶融金属Mを底部までしっかりと充填することができる。
【0053】
次に、本発明に係る金属充填装置1の作用効果を説明する。図3〜図7は、微細空間21に溶融金属Mを充填する過程を示している。ここで、図示する部分は、図1における対象物2の周囲を拡大したものである。
【0054】
図3に示す状態において、対象物2を第1の支持体10の上にセットし、その上から第2の支持体11を、対象物2を覆うように第1の支持体10と組み合わせる。この操作は、手動で行っても良いし、機械的に行っても良い。これにより、対象物2の周りに処理室Aが形成される。
【0055】
セットの完了後、コックC2を開き、圧力制御部13により処理室Aを減圧させる。減圧の完了後、コックC2を閉塞する。
【0056】
次に、図4に示す状態において、コックC2を開き、溶融金属供給部12から溶融金属Mを供給する。このとき、処理室Aは、予め減圧されているから、差圧によって溶融金属Mが充填される。これにより、開口面Hを通って、微細空間21にも溶融金属Mが充填される。
【0057】
このとき、処理室Aは、開口面Hのある面上において薄板形状をなすように形成されているため、溶融金属供給部は、開口面H上にその金属薄膜Fが形成されるように、溶融金属Mを供給することができる。
【0058】
次に、図5に示す状態において、自然冷却、あるいは、液体窒素や液体ヘリウムなどによる強制冷却手段によって、充填された溶融金属Mを冷却し硬化させる。このとき、上述した加圧手段によって、硬化するまで溶融金属Mに圧力Pを与える。これにより、溶融金属Mを微細空間21の底部まで充分に充填することができる。
【0059】
最後に、図6のように、ヒータなどの加熱手段16によって、金属薄膜Fを再溶融させ、図5のように、再溶融した金属薄膜Fを、例えばスキージ17などの金属膜除去手段により拭き取り除去する。この後工程によれば、対象物2の外面を平坦化しえる。しかも、拭き取りという簡単な操作で済み、従来と異なって、溶融金属冷却後の溶融金属Mの再供給やCMP工程等が不要であるから、工程の簡素化、歩留りの向上などに寄与することができる。必要であれば、硬化工程に準じて、更に、再加圧し、その後に冷却する工程を実行してもよい。もっとも、この後工程は、金属薄膜Fを除去し、対象物2の一面を平坦化するためのものであるから、平坦化の必要がない場合には、省略することもできる。
【0060】
再溶融時の熱は、微細隙間21の内部で硬化している硬化金属体Gにも加わるが、硬化金属体Gの持つ熱容量が金属薄膜Fの熱容量よりも著しく大きいため、金属薄膜Fが再溶融しても、硬化金属体Gの再溶融までは進展しない。このため、金属薄膜Fだけを拭き取ることができる。金属薄膜Fを、再溶融させずに、機械的に削除してもよい。
【0061】
次に、本発明の効果をSEM(Scanning Electron Microscope)写真によって説明する。図8は、加圧冷却を省略して得られた半導体ウエハ(シリコンウエハ)の断面SEM写真、図9は加圧冷却を経て得られた半導体ウエハ(シリコンウエハ)の断面SEM写真である。
【0062】
まず、図8のSEM写真と見ると、対象物たるウエハ2の微細空間21の内部に充填されている硬化金属体Gの上端側に、凹面部X1が生じており、しかも、その底部にも、硬化金属体Gの充填されていない空隙部X2が生じている。硬化金属体Gの周囲と、微細空間21の内側面との間にも、空隙の存在が認められる。
【0063】
これに対して、図9のSEM写真を見ると、ウエハ2の微細空間21の内部に充填されている硬化金属体Gの上端面は、ウエハ2の上面に連続して連なる平坦面となっており、凹面部は認められない。硬化金属体Gの下端面は、微細空間21の底部に密接しており、底部空隙は見えない。更に、硬化金属体Gの外周面は、微細空間21の内側面に密接しており、空隙の存在は認められない。
【0064】
なお、この図2及び図3に係る結果が得られたときの条件を以下に示す。
減圧時の処理室内圧力:10-3(Pa)
対象物:ガラス保護膜を有する300mm×50μmのシリコンウエハ
微細空間の寸法:開口径15μm、底部孔径10μm
溶融金属の組成分:Sn、In、Cu、Bi
溶融金属の溶解温度:250℃
加圧冷却時のプレス圧:2.0kgf/cm
再溶融のための溶解温度:250℃
再加圧の圧力:2.0kgf/cm
【0065】
これまで述べてきたように、本発明に係る金属充填装置1によると、対象物2は、支持体11と蓋体12の間にある処理室A内に保持され、対象物2に存在する微細空間21の開口面Hの一つが開放されている。そして、圧力制御部13が処理室A内の圧力を減少させた後に、溶融金属供給部12が処理室Aに溶融金属Mを供給することによって、差圧により溶融金属Mが開放された開口面Hを通って微細空間内21に充填される。
【0066】
充填後、溶融金属Mが冷却により硬化するまで、加圧手段により処理室Aに圧力Pを与えるから、その間、処理室A内にある対象物2の微細空間21内の溶融金属Mも加圧される。
【0067】
したがって、溶融金属Mを微細空間21の底部まで充分に充填するとともに、熱収縮による金属の変形を抑えることができる。このため、空隙やボイドなどを生じることなく、微細空間21を金属体によって満たすことができる。
【0068】
ここで、微細空間21が貫通孔である場合、第1の支持体10は、処理室Aに開放された微細空間21の開口面Hの反対側から対象物2を支持するため、対象物2の支持面にある他方の開口面H’を閉塞することができる。したがって、微細空間21内の溶融金属Mは、開放された開口面Hから一方向の圧力Pが印加され、しっかりと微細空間21内に押し込まれ、閉塞された他方の開口面H’から溶融金属が漏れることはない。
【0069】
一方、微細空間21が非貫通孔である場合も同様に、開口面Hから一方向の圧力が印加され、溶融金属Mが漏れることがないのは言うまでも無い。
【0070】
このようにして、本発明に係る金属充填装置1によると、微細隙間21で冷却された際に生じる溶融金属Mの凹面化も回避しえる。このため、外部との電気的導通を確実に確保し得る。
【0071】
更に、金属体の凹面化を回避することによって、冷却後の溶融金属の再供給やCMP工程等が不要であり、作業工程の簡素化、歩留りの向上などに寄与しえる。
【0072】
また、本発明に係る金属充填装置1は、第1の支持体10と第2の支持体11を接合することによって、対象物2を保持する処理室Aを作り出し、これとは別個独立して溶融金属供給部12と圧力制御部13を備えている。したがって、本発明に係る金属充填装置1は、上述したような従来からの複雑な構造を有しておらず、更に言うと、金属の充填にあたり、金属シートの成形及び取り付けの手間も必要としない。これにより、本発明に係る金属充填装置1によって、低コスト化と処理効率の向上とを実現しうる。
【0073】
次に、図10及び図11を参照して、他の実施形態について説明する。ここで、前述した実施形態と重複する構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0074】
本実施形態と前述した実施形態の相違点は、溶融金属Mの供給手段である。本実施形態の溶融金属供給部18は、スクリュー押出しを用いた射出機であって、略円筒形状のバレル181と、バレル2内部に回転自在に取り付けられたスクリュー182と、スクリュー182の上端面と接続され、これを回転駆動するモータm1と、溶融金属Mを貯留してバレル181内に供給するホッパ183とを備えている。
【0075】
バレル181は、第2の支持体11と下面において接続され、下面には、第2の支持体11に設けられた供給路113とバレル181内部を連通させるために開口が形成されている。さらに、供給路113は、処理室Aに連なっている。
【0076】
また、ホッパ183には、ヒータなどの加熱手段が設けられ、溶融金属を均一の温度に保っている。攪拌手段を備えておき、溶融金属Mを攪拌してもよい。
【0077】
溶融金属Mの供給に当たって、ホッパ183は、バレル181内部に溶融金属Mを流し込み、同時にモータm1がスクリュー182を回転駆動する。これにより、溶融金属Mは、バレル181から射出され、図11に示すように、供給路113を通って処理室Aに供給される。このとき、この溶融金属供給部18に上述した加圧手段を設け、微細空間21内に充填された溶融金属Mが冷却により硬化するまで、その射出圧を前記処理室に与えることもできる。
【0078】
既に述べたガス圧とプレス圧を含め、このような圧力を利用する場合、硬化過程の初期の段階では、静圧のみならず、動圧も積極的に利用し、動圧によるダイナミックな押込み動作を行わせることができる。これにより、空隙やボイドの発生をより確実に抑制するとともに、充填溶融金属Mが、微細空間21の底部に、より一層確実に到達するように操作することができる。
【0079】
また、加圧手段による硬化過程における加圧は、溶融金属の供給過程における加圧から独立して実行してもよいし、連続的な関係で実行してもよい。連続的な関係で実行された場合は、両加圧は、一つの加圧工程として吸収されることになる。その典型例は、圧力制御部13によってガス圧を与える場合と、溶融金属供給部18によって射出圧を与える場合である。もっとも、一つの加圧工程として、一体化した場合でも、印加圧力を調整することが好ましい。
【0080】
このような加圧に加えて、磁力または遠心力から選択された少なくとも一種の外力を与えるようにしてもよい。図12及び図13は、装置1が、遠心力の外力発生手段を有する場合の実施形態を示している。ここで、既に説明した部分は、第1の支持体10及び第2の支持体11を除き、図示を省略している。
【0081】
この外力発生手段は、モータm2に接続されて回転駆動され、垂直方向に屹立した回転軸191と、この回転軸191の上端部において水平方向に取り付けられた支軸192と、支軸192の両端部において2つの第1の支持体10及び第2の支持体11を、それぞれぶら下げるためのワイヤ193とを含む。
【0082】
硬化過程において、モータm2が回転することによって、回転軸191と支軸192はR方向に回転する。このとき、2つの第1の支持体10及び第2の支持体11には、遠心力fが働くことによって、図13に示すように回転の中心から外側に向かって引っ張られる。このため、微細空間21内の溶融金属Mにも、同様に遠心力fが作用する。したがって、遠心力fによる圧力を加えることができ、より一層確実に、溶融金属Mを微細空間21の底部まで充填することができる。
【0083】
このような外力を印加する場合、硬化過程の初期の段階では、静圧のみならず、動圧も積極的に利用し、動圧によるダイナミックな押込み動作を行わせることが好ましい。この手法によれば、溶融金属Mを、微細空間21の底部まで確実に到達させ、底部に未充填領域が生じるのを、更に確実に回避することができるようになる。
【0084】
本実施形態では外力として遠心力を採用した例を挙げたが、一方で磁力を採用した場合、例えば第1の支持体10内部に磁石を埋め込んでおき、その磁力によって溶融金属Mを微細空間21内部に引き込むこともできる。
【0085】
以上、好ましい実施例を参照して本発明の内容を具体的に説明したが、本発明の基本的技術思想及び教示に基づいて、当業者であれば、種々の変形態様及び説明されない他の適用技術分野を想到しえることは自明である。
【符号の説明】
【0086】
1 金属充填装置
10 支持体
11 蓋体
12、18 溶融金属供給部
13 圧力制御部
14 押圧部
2 対象物
21 微細空間
A 処理室
f 遠心力
F 金属薄膜
G 硬化金属体
H,H’ 開口面
M 溶融金属

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物に存在する微細空間に溶融金属を充填して硬化させる金属充填装置であって、支持体と、溶融金属供給部と、加圧手段とを含んでおり、
前記支持体は、前記対象物を処理する処理室を有し、前記処理室は前記対象物を設置する設置面を有しており
前記溶融金属供給部は、前記処理室内において、前記設置面に設置された前記対象物に存在する前記微細空間に前記溶融金属を充填するものであり、
前記加圧手段は、前記対象物及び前記微細空間内に充填された溶融金属を加圧し、前記加圧の状態を、前記溶融金属が冷却により硬化するまで維持する。
【請求項2】
請求項1に記載された装置であって、前記加圧は、ガス圧、プレス圧、射出圧、転圧、遠心力又は磁力から選択された少なくとも1種で与えられる。
【請求項3】
請求項1に記載された装置であって、前記加圧手段はプレス機である。
【請求項4】
請求項1に記載された装置であって、圧力制御部を含んでおり、前記圧力制御部は、前記処理室内の圧力を制御する。
【請求項5】
請求項4に記載された装置であって、前記圧力制御部は、前記溶融金属を冷却し硬化させる前に、前記対象物の存在する処理室内の雰囲気を減圧状態から増圧し、前記溶融金属を前記微細空間に流し込む制御ステップを含む。
【請求項6】
請求項4に記載された装置であって、前記圧力制御部は、前記加圧手段として兼用され、前記溶融金属を冷却し硬化させる前に、前記対象物の存在する前記処理室内の雰囲気を減圧状態から増圧する制御ステップを含み、前記加圧力は、前記増圧されたガス圧で与えられる。
【請求項7】
請求項1に記載された装置であって、前記溶融金属供給部及び前記加圧手段は、射出機によって構成される。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−283034(P2010−283034A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−133363(P2009−133363)
【出願日】平成21年6月2日(2009.6.2)
【特許番号】特許第4505540号(P4505540)
【特許公報発行日】平成22年7月21日(2010.7.21)
【出願人】(504034585)有限会社ナプラ (55)
【Fターム(参考)】