説明

金属加工用潤滑油組成物

【課題】極圧剤の添加量を増加せずとも高水準の加工性能を達成することが可能な金属加工用潤滑油組成物を提供すること。
【解決手段】本発明の金属加工用潤滑油組成物は、基油としての炭化水素油と、パーフルオロアルキル基を有する化合物と、極圧剤とを含有する。本発明の金属加工用潤滑油組成物によれば、高水準の加工性能を達成することが可能な金属加工油組成物が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属加工用潤滑油組成物に関し、より詳しくは、アルミニウム、鋼、ステンレス、銅、インコネル、及びそれらを主とする合金などの金属の加工(切削、研削、塑性、絞り、しごき、引き抜き、押し出し及び圧延の各加工)に用いられる潤滑油組成物に関する。特に切削、研削加工に好適に用いられる。
【背景技術】
【0002】
金属加工には、切削加工、研削加工、転造加工、鍛造加工、プレス加工、引き抜き加工、圧延加工などがあり、通常、これらの加工は潤滑油剤を用いて行われる。例えば、切削・研削加工においては、加工に用いられるドリル、エンドミル、バイト、砥石等の工具の寿命延長や被加工物の表面粗さの向上、並びにそれによる加工能率の向上といった機械加工における生産性の向上を目的として、通常、切削・研削加工用油剤が使用されている。
【0003】
切削・研削加工用油剤は、界面活性剤及び潤滑成分を水に希釈して使用する水溶性切削・研削加工用油剤と、鉱物油を主成分として原液のままで使用する不水溶性切削・研削加工用油剤との2種類に大別される。
【0004】
切削・研削加工用油剤の最も基本的でかつ重要な機能としては潤滑作用と冷却作用が挙げられる。一般に、不水溶性切削・研削加工用油剤は潤滑性能に、水溶性切削・研削加工用油剤は冷却性能にそれぞれ優れているが、いずれのタイプであっても潤滑性能又は冷却性能の片方の性能のみあればよいという場合はまれであり、両方の性能が油剤に求められる(例えば、特許文献1、2を参照)。これらの性能を向上させる手段としては、油剤中の極圧剤の添加量を増加させることが考えられる。つまり、極圧剤の添加量を増加させることによって潤滑性が向上し、摩擦が低減した分発熱も減少することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−026517号公報
【特許文献2】特開2009−197183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、極圧剤の増加はコストの増加、工具寿命の低下、また、硫黄系の極圧剤では臭気などの作業環境の問題、塩素系の極圧剤では油剤の焼却廃棄時のダイオキシン発生の問題、などさまざまな課題を有している。なかでも工具寿命の低下は生産性の低下を招くため大きな問題となりうる。そのため、極圧剤の添加量を増さず、工具寿命の低下を起こすことなく、高い加工性能を有する油剤が要望されていた。
【0007】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、極圧剤の添加量を増加せずとも高水準の加工性能を達成することが可能な金属加工用潤滑油組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、炭化水素油に、極圧剤と特定のパーフルオロアルキル基を有する化合物を含有する金属加工用潤滑油組成物を用いることにより上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、鉱油及び合成油から選ばれる少なくとも1種の基油と、パーフルオロアルキル基を有する化合物と、極圧剤とを含有する金属加工用潤滑油組成物を提供する。
【0010】
本発明の金属加工用潤滑油組成物によれば、上記構成を有することで、その加工性能が充分に高められるため、加工効率の向上、工具寿命の向上を高水準でバランスよく達成することが可能となる。
【0011】
上記パーフルオロアルキル基は、パーフルオロアルキルスルホネート基、パーフルオロアルキルカルボニル基及びパーフルオロスルホンアミド基から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0012】
また、本発明の金属加工用潤滑油組成物は、上記パーフルオロアルキル基を有する化合物として、下記一般式(1)で表される構造を有する化合物を含有することが好ましい。
【化1】

[式(1)中、Rは炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数2〜12のアルケニル基を示し、Aは炭素数1〜18のパーフルオロアルキル基を示し、Bは水素原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数2〜12のアルケニル基、炭素数1〜12のアルカノール基、炭素数6〜12のアリール基、又は一般式(2):
【化2】

(式(2)中、Rは水素原子、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数2〜18のアルケニル基又は炭素数6〜18のアリール基を示し、Rは炭素数1〜12のアルキレン基又は炭素数2〜12のアルケニレン基を示す。)
で示される基を示す。]
【0013】
また、本発明の金属加工用潤滑油組成物は、油性剤及び有機酸塩をさらに含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高水準の加工性能を達成することが可能な金属加工油組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0016】
本実施形態に係る金属加工油組成物は、鉱油及び合成油から選ばれる少なくとも1種の基油と、パーフルオロアルキル基を有する化合物と、極圧剤とを含有する。
【0017】
基油は、鉱油又は合成油のいずれであってもよく、あるいはこれらの混合物であってもよい。
【0018】
鉱油としては、例えば、原油を常圧蒸留及び減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の精製処理を適宜組み合わせて精製したパラフィン系鉱油又はナフテン系鉱油が挙げられる。
【0019】
合成油としては、具体的には、プロピレンオリゴマー、ポリブテン、ポリイソブチレン、1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー、エチレンとプロピレンとのコオリゴマー、エチレンと1−オクテンとのコオリゴマー、エチレンと1−デセンとのコオリゴマー等のポリα−オレフィン又はそれらの水素化物;イソパラフィン;モノアルキルベンゼン、ジアルキルベンゼン、ポリアルキルベンゼン等のアルキルベンゼン;モノアルキルナフタレン、ジアルキルナフタレン、ポリアルキルナフタレン等のアルキルナフタレン;ジオクチルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート、ジトリデシルグルタレート等の二塩基酸エステル;トリメリット酸等の三塩基酸エステル;トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、トリメチロールプロパンオレート、ペンタエリスリトール2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等のポリオールエステル;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレンオキシプロピレングリコール、ポリエチレングリコールモノエーテル、ポリプロピレングリールモノエーテル、ポリオキシエチレンオキシプロピレングリコールモノエーテル、ポリエチレングリコールジエーテル、ポリプロピレングリコールジエーテル、ポリオキシエチレンオキシプロピレングリコールジエーテル等のポリグリコール;モノアルキルジフェニルエーテル、ジアルキルジフェニルエーテル、モノアルキルトリフェニルエーテル、ジアルキルトリフェニルエーテル、テトラフェニルエーテル、モノアルキルテトラフェニルエーテル、ジアルキルテトラフェニルエーテル、ペンタフェニルエーテル等のフェニルエーテル;シリコーン油;パーフルオロエーテル等のフルオロエーテル、等が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
パーフルオロアルキル基を有する化合物において、パーフルオロアルキル基は、直鎖でも分岐でもよいが直鎖が好ましく、飽和でも不飽和でもよく、炭素数1以上18以下、好ましくは1以上12以下、より好ましくは1以上6以下、もっとも好ましくは1以上4以下である。炭素数が19以上であると分解性に劣るため外部に放出された際に環境負荷となり得るため好ましくない。
【0021】
パーフルオロアルキル基を有する化合物としては、パーフルオロアルキルスルホンアミド、パーフルオロアルキルのアルキレンオキサイド付加物、パーフルオロアルキルアミン、パーフルオロアルキルスルホン酸、パーフルオロアルキルカルボン酸、及びこれらの塩や誘導体が挙げられる。
【0022】
パーフルオロアルキルスルホンアミドとしては、下記一般式(1)で表される構造を有する化合物が好ましい。
【化3】

[式(1)中、Rは炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数2〜12のアルケニル基を示し、Aは炭素数1〜18のパーフルオロアルキル基を示し、Bは水素原子、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数2〜18のアルケニル基、炭素数1〜18のアルカノール基、炭素数6〜18のアリール基、又は一般式(2):
【化4】

(式(2)中、Rは水素原子、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数2〜18のアルケニル基又は炭素数6〜18のアリール基を示し、Rは炭素数1〜12のアルキレン基又は炭素数2〜12のアルケニレン基を示す。)
で示される基を示す。]
【0023】
Aは直鎖でも分岐でもよいが直鎖が好ましい。また、Aは飽和でも不飽和でもよいが飽和が好ましい。Aの炭素数は、1以上18以下、好ましくは1以上12以下、より好ましくは1以上6以下、もっとも好ましくは1以上4以下である。炭素数が19以上であると分解性に劣るため外部に放出された際に環境負荷となり得るため好ましくない。Bの炭素数は好ましくは2〜12、より好ましくは3〜8、もっとも好ましくは4〜6である。Bは直鎖でも分岐でも良く、飽和でも不飽和でも良い。Rは炭素数1〜8のアルキル基が好ましく、より好ましくは1〜6、もっとも好ましくは1〜4であり、直鎖でも分岐でも良く、飽和でも不飽和でも良い。Rは、油剤組成物として用いる場合は、炭素数6〜18のアルキル基、アルケニル基が好ましく、8〜18のアルキル基、アルケニル基がより好ましく、12〜18のアルキル基、アルケニル基がもっとも好ましい。アルキル基、アルケニル基は直鎖でも分岐でも良いが、分岐が好ましい。加工液組成物として用いる場合は、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数2〜6のアルケニル基が好ましく、1〜4のアルキル基、炭素数2〜4アルケニル基がより好ましく、2〜3のアルケニル基がもっとも好ましい。アルキル基、アルケニル基は直鎖でも分岐でも良く、飽和でも不飽和でも良い。Rは炭素数1〜8のアルキレン基、炭素数2〜8のアルケニレン基が好ましく、炭素数1〜4のアルキレン基が好ましい。
【0024】
パーフルオロアルキルスルホンアミドは、1級アミド、2級アミド、3級アミドのいずれでもよいが、3級アミドが好ましい。
【0025】
パーフルオロアルキルのアルキレンオキサイド付加物としては、下記一般式(3)で表される化合物が好適である。アルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイドなどが挙げられ、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドが好ましい。アルキレンオキサイドの付加モル数は1以上20以下、好ましくは1以上12以下、より好ましくは1以上8以下、もっとも好ましくは1以上6以下である。単一のアルキレンオキサイドの付加物でも良く、複数のアルキレンオキサイドが混ざった付加物でも良い。この場合、アルキレンオキサイド重合部分はブロック重合体でもランダム重合体でも良いが、ランダム重合体が好ましい。
−O−(RO)−A (3)
[式(3)中、Aは炭素数1〜18のパーフルオロアルキルを示し、Rは水素原子、炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数1〜12のアシル基を示し、Rは炭素数2〜4のアルキレン基を示し、aは1〜20の整数を示す。]
【0026】
パーフルオロアルキルアミンとしては、下記一般式(4)で表される化合物が好適である。窒素に結合したパーフルオロアルキル基の数は1〜3個のいずれでも良いが、好ましくは1個である。また、窒素に結合した3−b個のRは水素原子を含んでも含まなくてもよいが、1個が水素原子であることが好ましい。さらに、当該化合物が有し得る水素原子以外のRとしては、アルキル基、アルカノール基が好ましい。なお、Rで示されるアルキル基及びアルカノール基は、それぞれ直鎖でも分岐でもよく、飽和でも不飽和でも良い。
(R(3−b)−N−A (4)
[式(4)中、Aは炭素数1〜18のパーフルオロアルキル基を示し、Rは水素原子、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数1〜18のアルカノール基又は炭素数6〜12のアリール基、炭素数7〜12のアルキルアリール基、炭素数6〜12のシクロアルキル基又は炭素数7〜12のアルキルシクロアルキル基を示し、bは1〜3の整数を示す。]
【0027】
パーフルオロアルキルスルホン酸は、炭素数1〜18のパーフルオロアルキル基を有するスルホン酸である。また、その塩としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アミン塩などが挙げられる。アルカリ金属としてはナトリウム、カリウム、アルカリ土類としてはマグネシウム、カルシウム、バリウムが用いられる。なかでもナトリウム、カリウムが好ましい。アミンとしてはモノアミン、ポリアミン、アルカノールアミン等が挙げられる。
【0028】
モノアミンとしては、炭素数1〜22のアルキル基を1〜3個有するアルキルアミン、炭素数2〜23のアルケニル基を有するアルケニルアミン、メチル基を2個と炭素数2〜23のアルケニル基1個を有するモノアミン、芳香族置換アルキルアミン、炭素数5〜16のシクロアルキル基を有するシクロアルキルアミン、メチル基2個とシクロアルキル基を有するモノアミン、メチル基及び/又はエチル基が置換したシクロアルキル基を有するアルキルシクロアルキルアミンが挙げられる。ここでいうモノアミンには、油脂から誘導される牛脂アミン等のモノアミンも含まれる。
【0029】
ポリアミンとしては、炭素数2〜4のアルキレン基を1〜5個有するアルキレンポリアミン、炭素数1〜23のアルキル基を有するN−アルキルエチレンジアミン、炭素数2〜23のアルケニル基を有するN−アルケニルエチレンジアミン、N−アルキル又はN−アルケニルアルキレンポリアミンが挙げられる。ここでいうポリアミンには油脂から誘導されるポリアミン(牛脂ポリアミン等)も含まれる。
【0030】
アルカノールアミンとしては、炭素数1〜16のアルコールのモノ、ジ、トリアルカノールアミンが挙げられる。
【0031】
スルホン酸塩を構成するスルホン酸は、常法によって製造された公知のものを使用することができる。具体的には、一般に鉱油の潤滑油留分のアルキル芳香族化合物をスルホン化したものやホワイトオイル製造時に副生するいわゆるマホガニー酸等の石油スルホン酸、あるいは洗剤等の原料となるアルキルベンゼン製造プラントから副生するポリオレフィンをベンゼンにアルキル化することにより得られる、直鎖状や分岐鎖状のアルキル基を有するアルキルベンゼンをスルホン化したものやジノニルナフタレン等のアルキルナフタレンをスルホン化したもの等の合成スルホン酸等、が挙げられる。
【0032】
パーフルオロアルキルカルボン酸は、炭素数1〜18のパーフルオロアルキル基にカルボキシル基が結合した化合物である。また、その塩の具体例としては、パーフルオロスルホン酸の塩の場合と同様の塩が挙げられる。
【0033】
上記のパーフルオロアルキル基を有する化合物の含有量は、加工液組成物全量基準で0.01〜5質量%、好ましくは0.05〜3質量%、より好ましくは0.08〜2質量%、もっとも好ましくは0.10〜1質量%である。5質量%を超えると摩擦係数が上昇し加工性に悪影響を及ぼす可能性がある。0.01質量%よりも少ないと効果が得られにくい。
【0034】
本実施形態において極圧剤として用いる極圧剤としては、硫黄系化合物及び/又はりん系化合物を好ましく用いることができる。
【0035】
硫黄化合物としては、金属加工用潤滑油組成物の特性を損なわない限りにおいて特に制限されないが、ジハイドロカルビルポリサルファイド、硫化エステル(硫化エステル油脂含む)、硫化脂肪酸、硫化鉱油、ジチオリン酸亜鉛化合物、ジチオカルバミン酸亜鉛化合物、ジチオリン酸モリブデン化合物及びジチオカルバミン酸モリブデンが好ましく用いられる。
【0036】
ジハイドロカルビルポリサルファイドとは、一般的にポリサルファイド又は硫化オレフィンと呼ばれる硫黄系化合物であり、具体的には下記一般式(5)で表される化合物を意味する。
−S−R (5)
[式(5)中、R及びRは同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数3〜20の直鎖状又は分枝状のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数7〜20のアルキルアリール基あるいは炭素数7〜20のアリールアルキル基を表し、cは2〜6、好ましくは2〜5の整数を表す。]
【0037】
上記一般式(5)中のR及びRとしては、別個に、エチレン又はプロピレンから誘導された炭素数3〜18の分枝状アルキル基であることがより好ましく、エチレン又はプロピレンから誘導された炭素数6〜15の分枝状アルキル基であることが特に好ましい。
【0038】
硫化エステルとしては、具体的には、牛脂、豚脂、魚脂、菜種油、大豆油などの動植物油脂を任意の方法で硫化した、いわゆる硫化油脂や、不飽和脂肪酸(オレイン酸、リノール酸又は上記の動植物油脂から抽出された脂肪酸類などを含む)と各種アルコールとを反応させて得られる不飽和脂肪酸エステルを任意の方法で硫化したもの、及び動植物油脂と不飽和脂肪酸エステルの混合物を任意の方法で硫化したものが挙げられる。
【0039】
硫化脂肪酸としてはオレイン酸、リノール酸又は動植物油脂から抽出された脂肪酸類など、あるいはこれらの混合物を任意の方法で硫化したものが挙げられる。
【0040】
硫化鉱油とは、鉱油に単体硫黄を溶解させたものをいう。ここで、硫化鉱油に用いられる鉱油としては特に制限されないが、具体的には、原油に常圧蒸留及び減圧蒸留を施して得られる潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理などの精製処理を適宜組み合わせて精製したパラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油などが挙げられる。また、単体硫黄としては、塊状、粉末状、溶融液体状等いずれの形態のものを用いてもよいが、粉末状又は溶融液体状の単体硫黄を用いると基油への溶解を効率よく行うことができるので好ましい。なお、溶融液体状の単体硫黄は液体同士を混合するので溶解作業を非常に短時間で行うことができるという利点を有しているが、単体硫黄の融点以上で取り扱わねばならず、加熱設備などの特別な装置を必要としたり、高温雰囲気下での取り扱いとなるため危険を伴うなど取り扱いが必ずしも容易ではない。これに対して、粉末状の単体硫黄は、安価で取り扱いが容易であり、しかも溶解に要する時間が十分に短いので特に好ましい。また、硫化鉱油における硫黄含有量に特に制限はないが、通常、硫化鉱油全量を基準として好ましくは0.05〜1.0質量%であり、より好ましくは0.1〜0.5質量%である。
【0041】
ジチオリン酸亜鉛化合物、ジチオカルバミン酸亜鉛化合物、ジチオリン酸モリブデン化合物及びジチオカルバミン酸モリブデン化合物とは、それぞれ下記一般式(6)〜(9)で表される化合物を意味する。
【化5】

【化6】

【化7】


【化8】

[式(6)〜(9)中、R、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R20、R21、R22、R23及びR24は同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数1以上の炭化水素基を表し、X、X、X及びXはそれぞれ酸素原子又は硫黄原子を表し、XとX、XとXはそれぞれ同一でも異なっていても良い。]
【0042】
本実施形態においては、上記硫黄化合物の中でもジハイドロカルビルポリサルファイド及び硫化エステル、硫化脂肪酸からなる群より選ばれる少なくとも1種が、加工効率及び工具寿命の向上効果が一層高水準で得られるので好ましい。
なお、硫黄系極圧剤は配合し処方とした際に、JIS K2241で規定されるN2種、N3種、N4種のいずれに該当するものでも良いが、特にN3種、N4種でその効果を発揮できる。
【0043】
また、本実施形態において極圧剤として用いるリン化合物としては、具体的には、リン酸エステル、酸性リン酸エステル、酸性リン酸エステルのアミン塩、塩素化リン酸エステル、亜リン酸エステル及びフォスフォロチオネート等が挙げられる。これらのリン化合物は、リン酸、亜リン酸又はチオリン酸とアルカノール、ポリエーテル型アルコールとのエステルあるいはその誘導体が挙げられる。なお、本実施形態において、一分子中にリン原子及び硫黄原子の双方を有する化合物は、便宜的にリン化合物に包含されることとする。
【0044】
本実施形態においては、上記リン化合物の中でも、より高い加工効率及び工具寿命の向上効果が得られることから、リン酸エステル、酸性リン酸エステル、及び酸性リン酸エステルのアミン塩が好ましい。
【0045】
本実施形態に係る金属加工用潤滑油組成物は、極圧剤として、硫黄化合物及びリン化合物の一方のみを含有するものであってもよく、硫黄化合物とリン化合物との双方を含有するものであってもよい。加工効率及び工具寿命の向上効果がより高められる点からは、硫黄化合物、又は硫黄化合物とリン化合物の双方を含有することが好ましく、硫黄化合物とリン化合物との双方を含有することがより好ましい。
【0046】
上記極圧剤の含有量は任意であるが、加工効率の向上及び工具寿命の向上の点から、油剤全量基準で、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは3質量%以上である。また、異常摩耗の防止の点、工具寿命の向上の点から、硫黄化合物の含有量は、潤滑油組成物全量基準で、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは30質量%以下、特に好ましくは20質量%以下である。
【0047】
本実施形態に係る金属加工用潤滑油組成物は、鉱油及び合成油から選ばれる少なくとも1種の基油と、パーフルオロアルキル基を有する化合物と、極圧剤とのみからなるものであってもよいが、一層高い加工効率及び工具寿命の向上効果を達成できる点から、油性剤をさらに含有することが好ましい。油性剤としては、(C1)アルコール(但し、下記(C6)を除く)、(C2)カルボン酸、(C3)不飽和カルボン酸の硫化物、(C4)下記一般式(1)で表される化合物、(C5)下記一般式(2)で表される化合物、(C6)ポリオキシアルキレン化合物、(C7)エステル(但し、基油としてのエステルを除く)、(C8)多価アルコールのハイドロカルビルエーテル、(C9)アミンなどを挙げることができる。
【化9】


[式(10)中、R25は炭素数1〜30の炭化水素基を表し、dは1〜6の整数を表し、eは0〜5の整数を表す。]
【化10】


[式(11)中、R26は炭素数1〜30の炭化水素基を表し、fは1〜6の整数を表し、gは0〜5の整数を表す。]
【0048】
(C1)アルコールのうち一価アルコールとしては、炭素数3〜18の直鎖状のアルコール、炭素数3〜18の分枝状のアルコール又は炭素数5〜10のシクロアルキルアルコール又はアルキルシクロアルキルアルコールが挙げられる。具体的には、直鎖状又は分枝状のプロパノール(n−プロパノール、1−メチルエタノール等を含む)、直鎖状又は分枝状のブタノール(n−ブタノール、1−メチルプロパノール、2−メチルプロパノール等を含む)、直鎖状又は分枝状のペンタノール(n−ペンタノール、1−メチルブタノール、2−メチルブタノール、3−メチルブタノール等を含む)、直鎖状又は分枝状のヘキサノール(n−ヘキサノール、1−メチルペンタノール、2−メチルペンタノール、3−メチルペンタノール等を含む)、直鎖状又は分枝状のヘプタノール(n−ヘプタノール、1−メチルヘキサノール、2−メチルヘキサノール、3−メチルヘキサノール、4−メチルヘキサノール、5−メチルヘキサノール、2,4−ジメチルペンタノール等を含む)、直鎖状又は分枝状のオクタノール(n−オクタノール、2−エチルヘキサノール、1−メチルヘプタノール、2−メチルヘプタノール等を含む)、直鎖状又は分枝状のノナノール(n−ノナノール、1−メチルオクタノール、3,5,5−トリメチルヘキサノール、1−(2’−メチルプロピル)−3−メチルブタノール等を含む)、直鎖状又は分枝状のデカノール(n−デカノール、iso−デカノール等を含む)、直鎖状又は分枝状のウンデカノール(n−ウンデカノール等を含む)、直鎖状又は分枝状のドデカノール(n−ドデカノール、iso−ドデカノール等を含む)、直鎖状又は分枝状のトリデカノール、直鎖状又は分枝状のテトラデカノール(n−テトラデカノール、iso−テトラデカノール等を含む)、直鎖状又は分枝状のペンタデカノール、直鎖状又は分枝状のヘキサデカノール(n−ヘキサデカノール、iso−ヘキサデカノール等を含む)、直鎖状又は分枝状のヘプタデカノール、直鎖状又は分枝状のオクタデカノール(n−オクタデカノール、iso−オクタデカノール等を含む)、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール、ジメチルシクロヘキサノール、シクロヘプタノールなどが挙げられる。
【0049】
また、本実施形態に係るアルコールのうち多価アルコールとしては、水酸基を2〜8個有する多価アルコールが好ましく用いられる。
【0050】
2価アルコール(ジオール)としては、具体的には例えば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール(プロピレングリコール)、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、2−メチル−1,2−プロパンジオール、2ーメチル−1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,3−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,7−ヘプタンジオール、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオールなどが挙げられる。 また、3価以上のアルコールとしては、具体的には例えば、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ジ−(トリメチロールプロパン)、トリ−(トリメチロールプロパン)、ペンタエリスリトール、ジ−(ペンタエリスリトール)、トリ−(ペンタエリスリトール)、グリセリン、ポリグリセリン、1,3,5ーペンタントリオール、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトールなどの多価アルコール、キシロース、アラビノース、リボース、ラムノース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、ソルボース、セロビオース、マルトース、イソマルトース、トレハロース、シュクロース、ラフィノース、ゲンチアノース、メレジトースなどの糖類、ならびにこれらの部分エーテル化物、及びメチルグルコシド(配糖体)などが挙げられる。これらの中でも、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ジ−(トリメチロールプロパン)、トリ−(トリメチロールプロパン)、ペンタエリスリトール、ジ−(ペンタエリスリトール)、トリ−(ペンタエリスリトール)などのヒンダードアルコールが好ましい。
【0051】
アルコールのなかでも、加工性の観点から分岐鎖を有する飽和の一価アルコールが好ましく用いられる。また、多価アルコールを用いた場合は水酸基の一部がエステル化されたいわゆる部分エステルであってもよい。
【0052】
(C2)カルボン酸は一塩基酸でも多塩基酸でもよい。より高い加工効率及び工具寿命が得られる点から、炭素数1〜40の一価のカルボン酸が好ましく、更に好ましくは炭素数5〜25のカルボン酸であり、最も好ましくは炭素数5〜20のカルボン酸である。これらのカルボン酸は、直鎖状でも分岐を有していてもよく、飽和でも不飽和でもよいが、べたつき防止性の点から飽和カルボン酸であることが好ましい。
【0053】
具体的には、一塩基酸としては、通常炭素数2〜24の脂肪酸が用いられ、その脂肪酸は直鎖のものでも分岐のものでもよく、また飽和のものでも不飽和のものでもよい。具体的には、例えば、酢酸、プロピオン酸、直鎖状又は分岐状のブタン酸、直鎖状又は分岐状のペンタン酸、直鎖状又は分岐状のヘキサン酸、直鎖状又は分岐状のヘプタン酸、直鎖状又は分岐状のオクタン酸、直鎖状又は分岐状のノナン酸、直鎖状又は分岐状のデカン酸、直鎖状又は分岐状のウンデカン酸、直鎖状又は分岐状のドデカン酸、直鎖状又は分岐状のトリデカン酸、直鎖状又は分岐状のテトラデカン酸、直鎖状又は分岐状のペンタデカン酸、直鎖状又は分岐状のヘキサデカン酸、直鎖状又は分岐状のヘプタデカン酸、直鎖状又は分岐状のオクタデカン酸、直鎖状又は分岐状のヒドロキシオクタデカン酸、直鎖状又は分岐状のノナデカン酸、直鎖状又は分岐状のイコサン酸、直鎖状又は分岐状のヘンイコサン酸、直鎖状又は分岐状のドコサン酸、直鎖状又は分岐状のトリコサン酸、直鎖状又は分岐状のテトラコサン酸等の飽和脂肪酸、アクリル酸、直鎖状又は分岐状のブテン酸、直鎖状又は分岐状のペンテン酸、直鎖状又は分岐状のヘキセン酸、直鎖状又は分岐状のヘプテン酸、直鎖状又は分岐状のオクテン酸、直鎖状又は分岐状のノネン酸、直鎖状又は分岐状のデセン酸、直鎖状又は分岐状のウンデセン酸、直鎖状又は分岐状のドデセン酸、直鎖状又は分岐状のトリデセン酸、直鎖状又は分岐状のテトラデセン酸、直鎖状又は分岐状のペンタデセン酸、直鎖状又は分岐状のヘキサデセン酸、直鎖状又は分岐状のヘプタデセン酸、直鎖状又は分岐状のオクタデセン酸、直鎖状又は分岐状のヒドロキシオクタデセン酸、直鎖状又は分岐状のノナデセン酸、直鎖状又は分岐状のイコセン酸、直鎖状又は分岐状のヘンイコセン酸、直鎖状又は分岐状のドコセン酸、直鎖状又は分岐状のトリコセン酸、直鎖状又は分岐状のテトラコセン酸等の不飽和脂肪酸、及びこれらの混合物等が挙げられる。これらの中でも、加工効率及び工具寿命の向上並びに取扱性の点から、特に炭素数3〜20の飽和脂肪酸、炭素数3〜22の不飽和脂肪酸及びこれらの混合物が好ましく、炭素数4〜18の飽和脂肪酸、炭素数4〜18の不飽和脂肪酸及びこれらの混合物がより好ましく、炭素数4〜18の不飽和脂肪酸がさらに好ましく、べたつき防止性の点からは炭素数4〜18の飽和脂肪酸がさらに好ましい。
【0054】
多塩基酸としては炭素数2〜16の二塩基酸及びトリメリット酸等が挙げられる。炭素数2〜16の二塩基酸としては、直鎖のものでも分岐のものでもよく、また飽和のものでも不飽和のものでもよい。具体的には例えば、エタン二酸、プロパン二酸、直鎖状又は分岐状のブタン二酸、直鎖状又は分岐状のペンタン二酸、直鎖状又は分岐状のヘキサン二酸、直鎖状又は分岐状のヘプタン二酸、直鎖状又は分岐状のオクタン二酸、直鎖状又は分岐状のノナン二酸、直鎖状又は分岐状のデカン二酸、直鎖状又は分岐状のウンデカン二酸、直鎖状又は分岐状のドデカン二酸、直鎖状又は分岐状のトリデカン二酸、直鎖状又は分岐状のテトラデカン二酸、直鎖状又は分岐状のヘプタデカン二酸、直鎖状又は分岐状のヘキサデカン二酸、直鎖状又は分岐状のヘキセン二酸、直鎖状又は分岐状のヘプテン二酸、直鎖状又は分岐状のオクテン二酸、直鎖状又は分岐状のノネン二酸、直鎖状又は分岐状のデセン二酸、直鎖状又は分岐状のウンデセン二酸、直鎖状又は分岐状のドデセン二酸、直鎖状又は分岐状のトリデセン二酸、直鎖状又は分岐状のテトラデセン二酸、直鎖状又は分岐状のヘプタデセン二酸、直鎖状又は分岐状のヘキサデセン二酸及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0055】
(C3)不飽和カルボン酸の硫化物としては、例えば、上記(B)のカルボン酸のうち、不飽和のものの硫化物を挙げることができる。具体的には、オレイン酸の硫化物を挙げることができる。
【0056】
(C4)上記一般式(10)で表される化合物において、R25で表される炭素数1〜30の炭化水素基の例としては、例えば炭素数1〜30の直鎖又は分岐アルキル基、炭素数5〜7のシクロアルキル基、炭素数6〜30のアルキルシクロアルキル基、炭素数2〜30の直鎖又は分岐アルケニル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数7〜30のアルキルアリール基、及び炭素数7〜30のアリールアルキル基を挙げることができる。これらの中では、炭素数1〜30の直鎖又は分岐アルキル基であることが好ましく、更に好ましくは炭素数1〜20の直鎖又は分岐アルキル基であり、更に好ましくは炭素数1〜10の直鎖又は分岐アルキル基であり、最も好ましくは炭素数1〜4の直鎖又は分岐アルキル基である。炭素数1〜4の直鎖又は分岐アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、直鎖又は分岐のプロピル基及び直鎖又は分岐のブチル基を挙げることができる。
【0057】
水酸基の置換位置は任意であるが、2個以上の水酸基を有する場合には隣接する炭素原子に置換していることが好ましい。dは好ましくは1〜3の整数であり、更に好ましくは2である。eは好ましくは0〜3の整数であり、更に好ましくは1又は2である。一般式(10)で表される化合物の例としては、p−tert−ブチルカテコールを挙げることができる。
【0058】
(C5)上記一般式(11)で表される化合物において、R26で表される炭素数1〜30の炭化水素基の例としては、前記一般式(10)中のR25で表される炭素数1〜30の炭化水素基の例と同じものを挙げることができ、また好ましいものの例も同じである。水酸基の置換位置は任意であるが、2個以上の水酸基を有する場合には隣接する炭素原子に置換していることが好ましい。fは好ましくは1〜3の整数であり、更に好ましくは2である。gは好ましくは0〜3の整数であり、更に好ましくは1又は2である。一般式(11)で表される化合物の例としては、2,2−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレンを挙げることができる。
【0059】
(C6)ポリオキシアルキレン化合物としては、例えば下記一般式(12)又は(13)で表される化合物を挙げることができる。
27O−(R28O)−R29 (12)
[式(12)中、R27及びR29は各々独立に水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を表し、R28は炭素数2〜4のアルキレン基を表し、hは数平均分子量が100〜3500となるような整数を表す。]
X−[(R30O)−R31 (13)
[式(13)中、Xは、水酸基を3〜8個有する多価アルコールの水酸基の水素原子の一部又は全てを取り除いた残基を表し、R30は炭素数2〜4のアルキレン基を表し、R31は水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を表し、iは数平均分子量が100〜3500となるような整数を表し、jはXの水酸基から取り除かれた水素原子の個数と同じ数を表す。]
【0060】
上記一般式(12)中、R27及びR28の少なくとも一方は水素原子であることが好ましい。R27及びR28で表される炭素数1〜30の炭化水素基としては、例えば上記一般式(10)のR25で表される炭素数1〜30の炭化水素基の例と同じものを挙げることができ、また好ましいものの例も同じである。R28で表される炭素数2〜4のアルキレン基としては、具体的には例えば、エチレン基、プロピレン基(メチルエチレン基)、ブチレン基(エチルエチレン基)を挙げることができる。hは、好ましくは数平均分子量が300〜2000となるような整数であり、更好ましくは数平均分子量が500〜1500となるような整数である。
【0061】
また、上記一般式(13)中、Xを構成する3〜8の水酸基を有する多価アルコールの具体例としては、(C1)アルコールの説明で例示した多価アルコールが挙げられる。
【0062】
(C7)エステルの構成アルコールは、一価アルコールでも多価アルコールでもよい。また、(C7)エステルの構成カルボン酸は一塩基酸でも多塩基酸であってもよい。
【0063】
エステルを構成する1価アルコール及び多価アルコールの例としては、(C1)アルコールの説明において例示した1価アルコール及び多価アルコールと同じものを挙げることができる。
【0064】
エステル油性剤を構成するアルコールは、上述したように1価アルコールであっても多価アルコールであってもよいが、より優れた加工効率及び工具寿命が達成可能となる点、並びに流動点の低いものがより得やすく、冬季及び寒冷地での取り扱い性がより向上する等の点から、多価アルコールであることが好ましい。また、多価アルコールのエステルを用いると、切削・研削加工において、加工物の仕上げ面精度の向上と工具刃先の摩耗防止効果がより大きくなる。
【0065】
また、エステル油性剤を構成する酸は、前記の油性剤として示した(C2)カルボン酸としての一塩基酸でも多塩基酸が挙げられる。
【0066】
なお、アルコール成分として多価アルコールを用いた場合、多価アルコール中の水酸基全てがエステル化された完全エステルでもよく、あるいは水酸基の一部がエステル化されず水酸基のままで残っている部分エステルでもよい。また、カルボン酸成分として多塩基酸を用いた場合、多塩基酸中のカルボキシル基全てがエステル化された完全エステルでもよく、あるいはカルボキシル基の一部がエステル化されずカルボキシル基のままで残っている部分エステルであってもよい。
【0067】
エステル油性剤の合計炭素数には特に制限はないが、加工効率及び工具寿命の向上の点から、合計炭素数が7以上のエステルが好ましく、9以上のエステルが更に好ましく、11以上のエステルが最も好ましい。また、ステインや腐食の発生を増大させない点、並びに有機材料との適合性の点から、合計炭素数が60以下のエステルが好ましく、45以下のエステルがより好ましく、26以下のエステルが更に好ましく、24以下のエステルが一層好ましく、22以下のエステルが最も好ましい。
【0068】
(C8)多価アルコールのハイドロカルビルエーテルを構成する多価アルコールとしては、本願発明にかかるアルコール化合物の多価アルコールと同じである。
【0069】
これらの多価アルコールの中でも、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール(エチレングリコールの3〜10量体)、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール(プロピレングリコールの3〜10量体)、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,2−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、トリメチロールアルカン(トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン等)及びこれらの2〜4量体、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、1,2,4−ブタントリオール、1,3,5−ペンタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,3,4−ブタンテトロール、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトール等の2〜6価の多価アルコール及びこれらの混合物等が好ましい。さらにより好ましくは、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビタン、及びこれらの混合物等である。これらの中でも、加工効率及び工具寿命の向上の点から、グリセリンが最も好ましい。
【0070】
多価アルコールのハイドロカルビルエーテルとしては、上記多価アルコールの水酸基の一部又は全部をハイドロカルビルエーテル化したものが使用できる。加工効率及び工具寿命の向上の点からは、多価アルコールの水酸基の一部をハイドロカルビルエーテル化したもの(部分エーテル化物)が好ましい。ここでいうハイドロカルビル基とは、炭素数1〜24のアルキル基、炭素数2〜24のアルケニル基、炭素数5〜7のシクロアルキル基、炭素数6〜11のアルキルシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数7〜18のアルキルアリール基、炭素数7〜18のアリールアルキル基等の炭素数1〜24の炭化水素基を表す。
【0071】
これらの中では、加工効率及び工具寿命の向上の点から、炭素数2〜18の直鎖又は分枝のアルキル基、炭素数2〜18の直鎖又は分枝のアルケニル基が好ましく、炭素数3〜12の直鎖又は分枝のアルキル基、オレイル基(オレイルアルコールから水酸基を除いた残基)がより好ましい。
【0072】
(C9)アミンとしては、モノアミンが好ましく使用される。モノアミンの炭素数は、好ましくは6〜24であり、より好ましくは12〜24である。ここでいう炭素数とはモアミンに含まれる総炭素数の意味であり、モノアミンが2個以上の炭化水素基を有する場合にはその合計炭素数を表す。
【0073】
本実施形態で用いられるモノアミンとしては、第1級モノアミン、第2級モノアミン、第3級モノアミンの何れもが使用可能であるが、加工効率及び工具寿命の向上の点から、第1級モノアミンが好ましい。
【0074】
モノアミンの窒素原子に結合する炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アルキルシクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基等の何れもが使用可能であるが、加工効率及び工具寿命の向上の点から、アルキル基又はアルケニル基であることが好ましい。アルキル基、アルケニル基としては、直鎖状のものであっても分岐鎖状のものであっても良いが、加工効率及び工具寿命の向上の点から、直鎖状のものが好ましい。
【0075】
本実施形態で用いられるモノアミンの好ましいものとしては、具体的には例えば、ヘキシルアミン(全ての異性体を含む)、ヘプチルアミン(全ての異性体を含む)、オクチルアミン(全ての異性体を含む)、ノニルアミン(全ての異性体を含む)、デシルアミン(全ての異性体を含む)、ウンデシルアミン(全ての異性体を含む)、ドデシルアミン(全ての異性体を含む)、トリデシルアミン(全ての異性体を含む)、テトラデシルアミン(全ての異性体を含む)、ペンタデシルアミン(全ての異性体を含む)、ヘキサデシルアミン(全ての異性体を含む)、ヘプタデシルアミン(全ての異性体を含む)、オクタデシルアミン(全ての異性体を含む)、ノナデシルアミン(全ての異性体を含む)、イコシルアミン(全ての異性体を含む)、ヘンイコシルアミン(全ての異性体を含む)、ドコシルアミン(全ての異性体を含む)、トリコシルアミン(全ての異性体を含む)、テトラコシルアミン(全ての異性体を含む)、オクタデセニルアミン(全ての異性体を含む)(オレイルアミン等を含む)及びこれらの2種以上の混合物などが挙げられる。これらの中でも、加工効率及び工具寿命の向上の点から、炭素数12〜24の第1級モノアミンが好ましく、炭素数14〜20の第1級モノアミンがより好ましく、炭素数16〜18の第1級モノアミンがさらに好ましい。
【0076】
本実施形態においては、上記油性剤(C1)〜(C9)の中から選ばれる1種のみを用いてもよく、また2種以上の混合物を用いてもよい。これらの中でも、加工効率及び工具寿命の向上の点から、(C1)アルコール、(C2)カルボン酸、(C6)ポリオキシアルキレン化合物、及び(C9)アミンから選ばれる1種又は2種以上の混合物であることが好ましい。
【0077】
上記油性剤の含有量は特に制限はないが、加工効率及び工具寿命の向上の点から、潤滑油組成物全量基準で、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1質量%以上である。また、安定性の点から、油性剤の含有量は、潤滑油組成物全量基準で、好ましくは40質量%以下、より好ましくは45質量%以下、更に好ましくは30質量%以下である。多すぎても添加量に見合った効果が得られず、少なすぎると効果が得られない。
【0078】
また、本実施形態に係る金属加工用潤滑油組成物は、より優れた加工効率及び工具寿命が得られる点から、基油としての炭化水素油と、パーフルオロアルキル基を有する化合物と、極圧剤とに加え、さらに有機酸塩を含有することが好ましい。さらに、有機酸塩を上記の油性剤と併用することもできる。
【0079】
有機酸塩としては、スルフォネート、フェネート、サリシレート、並びにこれらの混合物が好ましく用いられる。これらの有機酸塩の陽性成分としては、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属;マグネシウム、カルシウム、バリウムなどのアルカリ土類金属;アンモニア、炭素数1〜3のアルキル基を有するアルキルアミン(モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノプロピルアミン、ジプロピルアミン、トリプロピルアミンなど)、炭素数1〜3のアルカノール基を有するアルカノールアミン(モノメタノールアミン、ジメタノールアミン、トリメタノールアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノプロパノールアミン、ジプロパノールアミン、トリプロパノールアミンなど)などのアミン、亜鉛などが挙げられるが、これらの中でもアルカリ金属又はアルカリ土類金属が好ましく、カルシウムが特に好ましい。有機酸塩の陽性成分がアルカリ金属又はアルカリ土類金属であると、より高い潤滑性が得られる傾向にある。
【0080】
有機酸塩の全塩基価は、好ましくは50〜500mgKOH/gであり、より好ましくは100〜450mgKOH/gである。有機酸塩の全塩基価が100mgKOH/g未満の場合は有機酸塩の添加による潤滑性向上効果が不十分となる傾向にあり、他方、全塩基価が500mgKOH/gを超える有機酸塩は、通常、製造が非常に難しく入手が困難であるため、それぞれ好ましくない。なお、ここでいう全塩基価とは、JIS K 2501「石油製品及び潤滑油−中和価試験方法」の7.に準拠して測定される過塩素酸法による全塩基価[mgKOH/g]をいう。
【0081】
また、有機酸塩の含有量は、潤滑油組成物全量基準で好ましくは0.1〜30質量%であり、より好ましくは0.5〜25質量%であり、さらに好ましくは1〜20質量%である。有機酸塩の含有量が前記下限値未満の場合、有機酸塩の添加による加工効率及び工具寿命の向上効果が不十分となる傾向にあり、他方、前記上限値を超えると金属加工油組成物の安定性が低下して析出物が生じやすくなる傾向にある。
【0082】
スルフォネートは、任意の方法によって製造されたものが使用可能である。例えば、分子量100〜1500、好ましくは200〜700のアルキル芳香族化合物をスルフォン化することによって得られるアルキル芳香族スルホン酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アミン塩及びこれらの混合物などが使用できる。ここでいうアルキル芳香族スルホン酸としては、一般に鉱油の潤滑油留分のアルキル芳香族化合物をスルフォン化したものや、ホワイトオイル製造時に副生する、いわゆるマホガニー酸などの石油スルホン酸や、洗剤の原料となるアルキルベンゼン製造プラントから副生したり、ポリオレフィンをベンゼンにアルキル化することにより得られる直鎖状又は分枝状のアルキル基を有するアルキルベンゼンをスルフォン化したもの、あるいはジノニルナフタレンなどのアルキルナフタレンをスルフォン化したものなどの合成スルホン酸などが挙げられる。また、上記のアルキル芳香族スルホン酸と、アルカリ金属の塩基(アルカリ金属の酸化物や水酸化物など)、アルカリ土類金属の塩基(アルカリ土類金属の酸化物や水酸化物など)又は上述したアミン(アンモニア、アルキルアミンやアルカノールアミンなど)とを反応させて得られるいわゆる中性(正塩)スルフォネート;中性(正塩)スルフォネートと、過剰のアルカリ金属の塩基、アルカリ土類金属の塩基又はアミンを水の存在下で加熱することにより得られるいわゆる塩基性スルフォネート;炭酸ガスの存在下で中性(正塩)スルフォネートをアルカリ金属の塩基、アルカリ土類金属の塩基又はアミンと反応させることにより得られるいわゆる炭酸塩過塩基性(超塩基性)スルフォネート;中性(正塩)スルフォネートをアルカリ金属の塩基、アルカリ土類金属の塩基又はアミンならびにホウ酸又は無水ホウ酸などのホウ酸化合物と反応させたり、又は炭酸塩過塩基性(超塩基性)スルフォネートとホウ酸又は無水ホウ酸などのホウ酸化合物を反応させることによって製造されるいわゆるホウ酸塩過塩基性(超塩基性)スルフォネート;及びこれらの混合物などが挙げられる。
【0083】
また、フェネートとしては、具体的には、元素硫黄の存在下又は不存在下で、炭素数4〜20のアルキル基を1〜2個有するアルキルフェノールと、アルカリ金属の塩基(アルカリ金属の酸化物や水酸化物など)、アルカリ土類金属の塩基(アルカリ土類金属の酸化物や水酸化物など)又は上述したアミン(アンモニア、アルキルアミンやアルカノールアミンなど)とを反応させることにより得られる中性フェネート;中性フェネートと過剰のアルカリ金属の塩基、アルカリ土類金属の塩基又はアミンを水の存在下で加熱することにより得られる、いわゆる塩基性フェネート;炭酸ガスの存在下で中性フェネートをアルカリ金属の塩基、アルカリ土類金属の塩基又はアミンと反応させることにより得られる、いわゆる炭酸塩過塩基性(超塩基性)フェネート;中性フェネートをアルカリ金属の塩基、アルカリ土類金属の塩基又はアミンならびにホウ酸又は無水ホウ酸などのホウ酸化合物と反応させたり、又は炭酸塩過塩基性(超塩基性)フェネートとホウ酸又は無水ホウ酸などのホウ酸化合物を反応させることによって製造される、いわゆるホウ酸塩過塩基性(超塩基性)フェネート;及びこれらの混合物などが挙げられる。
【0084】
さらに、サリシレートとしては、具体的には、元素硫黄の存在下又は不存在下で、炭素数4〜20のアルキル基を1〜2個有するアルキルサリチル酸と、アルカリ金属の塩基(アルカリ金属の酸化物や水酸化物など)、アルカリ土類金属の塩基(アルカリ土類金属の酸化物や水酸化物など)又は上述したアミン(アンモニア、アルキルアミンやアルカノールアミンなど)とを反応させることにより得られる中性サリシレート;中性サリシレートと、過剰のアルカリ金属の塩基、アルカリ土類金属の塩基又はアミンを水の存在下で加熱することにより得られるいわゆる塩基性サリシレート;炭酸ガスの存在下で中性サリシレートをアルカリ金属の塩基、アルカリ土類金属の塩基又はアミンと反応させることにより得られるいわゆる炭酸塩過塩基性(超塩基性)サリシレート;中性サリシレートをアルカリ金属の塩基、アルカリ土類金属の塩基又はアミンならびにホウ酸又は無水ホウ酸などのホウ酸化合物と反応させたり、又は炭酸塩過塩基性(超塩基性)金属サリシレートとホウ酸又は無水ホウ酸などのホウ酸化合物を反応させることによって製造されるいわゆるホウ酸塩過塩基性(超塩基性)サリシレート;及びこれらの混合物などが挙げられる。
【0085】
本実施形態においては、加工効率及び工具寿命がより高められる点から有機酸塩を配合する場合、硫黄化合物、リン化合物及び有機酸塩の3種を組み合わせて用いることが特に好ましい。有機金属塩の配合量は0.5質量%以上40質量%以下が好ましく、1質量%以上30質量%以下がより好ましく、2質量%以上25質量%以下が最も好ましい。多すぎると添加量に見合った効果が得られず、少なすぎると効果が得られない。
【0086】
また、本実施形態に係る金属加工用潤滑油組成物は酸化防止剤を更に含有していることが好ましい。酸化防止剤の添加により、構成成分の変質によるべたつきを防止することができ、また、熱・酸化安定性を向上させることができる。
【0087】
使用できる酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、その他食品添加剤として使用されているものなどが挙げられる。さらに、上記一般式(6)で表されるジチオリン酸亜鉛化合物を酸化防止剤として用いることもできる。
【0088】
フェノール系酸化防止剤としては、潤滑油の酸化防止剤として用いられる任意のフェノール系化合物が使用可能であり、特に制限されるものでないが、例えばアルキルフェノール化合物が好ましいものとして挙げられる。
【0089】
アミン系酸化防止剤としては、潤滑油の酸化防止剤として用いられる任意のアミン系化合物が使用可能であり、特に限定されるものではないが、例えば、フェニル−α−ナフチルアミン、N−p−アルキルフェニル−α−ナフチルアミン及びp,p’−ジアルキルジフェニルアミンが好ましいものとして挙げられ、具体的には、4−ブチル−4’−オクチルジフェニルアミン、フェニル−α−ナフチルアミン、オクチルフェニル−α−ナフチルアミン、ドデシルフェニル−α−ナフチルアミン及びこれらの混合物などが挙げられる。
【0090】
また、食品添加剤として使用されている酸化防止剤も使用可能であり、上述したフェノール系酸化防止剤と一部重複するが、例えば、例えば、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール(DBPC)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(6−tert−ブチル−o−クレゾール)、アスコルビン酸(ビタミンC)、アスコルビン酸の脂肪酸エステル、トコフェロール(ビタミンE)、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、2−tert−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、3−tert−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、1,2−ジハイドロ−6−エトキシ−2,2,4−トリメチルキノリン(エトキシキン)、2−(1,1−ジメチル)−1,4−ベンゼンジオール(TBHQ)、2,4,5−トリヒドロキシブチロフェノン(THBP)を挙げることができる。
【0091】
これらの酸化防止剤の中でも、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、並びに上記食品添加剤として使用されているものが好ましい。さらに、生分解性を重視する場合には、上記食品添加剤として使用されているものがより好ましく、中でもアスコルビン酸(ビタミンC)、アスコルビン酸の脂肪酸エステル、トコフェロール(ビタミンE)、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール(DBPC)、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、2−tert−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、3−tert−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、1,2−ジハイドロ−6−エトキシ−2,2,4−トリメチルキノリン(エトキシキン)、2−(1,1−ジメチル)−1,4−ベンゼンジオール(TBHQ)、又は2,4,5−トリヒドロキシブチロフェノン(THBP)が好ましく、アスコルビン酸(ビタミンC)、アスコルビン酸の脂肪酸エステル、トコフェロール(ビタミンE)、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール(DBPC)、又は3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシアニソールがより好ましい。
【0092】
酸化防止剤の含有量は特に制限はないが、良好な熱・酸化安定性を維持させるためにその含有量は、潤滑油組成物全量基準で0.01質量%以上が好ましく、更に好ましくは0.05質量%以上、最も好ましくは0.1質量%以上である。一方それ以上添加しても効果の向上が期待できないことからその含有量は10質量%以下であることが好ましく、更に好ましくは5質量%以下であり、最も好ましくは3質量%以下である。
【0093】
また、本実施形態に係る金属加工用潤滑油組成物には、上記した以外の従来公知の添加剤を含有することができる。かかる添加剤としては、例えば、上記したリン化合物及び硫黄化合物以外の極圧剤(塩素系極圧剤を含む);ジエチレングリコールモノアルキルエーテル等の湿潤剤;アクリルポリマー、パラフィンワックス、マイクロワックス、スラックワックス、ポリオレフィンワックス等の造膜剤;脂肪酸アミン塩等の水置換剤;グラファイト、フッ化黒鉛、二硫化モリブデン、窒化ホウ素、ポリエチレン粉末等の固体潤滑剤;アミン、アルカノールアミン、アミド、カルボン酸、カルボン酸塩、スルホン酸塩、リン酸、リン酸塩、多価アルコールの部分エステル等の腐食防止剤;ベンゾトリアゾール、チアジアゾール等の金属不活性化剤;メチルシリコーン、フルオロシリコーン、ポリアクリレート等の消泡剤;アルケニルコハク酸イミド、ベンジルアミン、ポリアルケニルアミンアミノアミド等の無灰分散剤;等が挙げられる。これらの公知の添加剤を併用する場合の含有量は特に制限されないが、これらの公知の添加剤の合計含有量が潤滑油組成物全量基準で0.1〜10質量%となるような量で添加するのが一般的である。
【0094】
なお、本実施形態に係る金属加工用潤滑油組成物は、上述のように塩素系極圧剤などの塩素系添加剤を含有してもよいが、安全性の向上及び環境に対する負荷の低減の点からは、塩素系添加剤を含有しないことが好ましい。また、塩素濃度は、潤滑油組成物全量基準で、1000質量ppm以下であることが好ましく、500質量ppm以下であることがより好ましく、200質量ppm以下であることが更に好ましく、100質量ppm以下であることが特に好ましい。
【0095】
本実施形態に係る金属加工用潤滑油組成物の動粘度は特に制限されないが、加工部位への供給容易性の点から、40℃における動粘度は200mm/s以下であることが好ましく、更に好ましくは100mm/s以下であり、更に好ましくは75mm/s以下であり、最も好ましくは50mm/s以下である。また、当該組成物の40℃における動粘度は、1mm/s以上であることが好ましく、更に好ましくは3mm/s以上であり、最も好ましくは5mm/s以上である。
【0096】
上記構成を有する本実施形態に係る金属加工用潤滑油組成物は、加工効率、工具寿命などの加工性能、更には取扱性に優れるものであるため、金属加工分野の広範な用途において好適に使用することができる。ここでいう金属加工とは、切削・研削加工に限定されず、広く金属加工全般を意味する。また、本実施形態に係る金属加工用潤滑油組成物は、通常給油方式による金属加工の他、極微量油剤供給式切削・研削加工(MQL加工)などに適用可能である。
【0097】
金属加工の種類としては、具体的には、切削加工、研削加工、転造加工、鍛造加工、プレス加工、引き抜き加工、圧延加工等が挙げられる。これらの中でも、本実施形態に係る金属加工用潤滑油組成物は切削加工、研削加工、転造加工などの用途に非常に有用である。
【0098】
本実施形態に係る金属加工油組成物は意図的に水を含有しない不水系でも、水で希釈する水系でも用いることができる。
【0099】
本実施形態に係る潤滑油組成物が水を含有する場合、当該組成物は、水を連続層とし、これに油成分が微細に分散しエマルションを形成した乳化状態、水が油成分に溶解している可溶化状態、又は強攪拌により水と油剤を混合した懸濁状態のいずれの形態をもとりうる。
【0100】
水で希釈する場合は、希釈倍率は使用条件によって任意に選択されるが、一般には原液を重量比で2〜100倍に、好ましくは3〜70倍に水で希釈して実用の金属加工油剤を得るのが通例である。この場合の希釈水には、例えば、水道水、工業用水、イオン交換水、蒸留水が使用可能で、硬水であるか軟水であるかを問わない。
【0101】
エマルション型の場合、本実施形態に係る潤滑油組成物を水で希釈すると、水を連続相とし、これに油成分が微細に分散した状態のエマルションが得られる。この場合、水に分散する油滴の平均粒径は300nm以下、特に100nm以下であることが好ましい。分散油滴の平均粒径が大きいと、オイルピットが生成し易くなって加工製品の表面光沢が損なわれるばかりでなく、金属加工油剤の清浄化に微細なフィルターを使用できなくなるおそれがある。
【実施例】
【0102】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0103】
[実施例1〜41、比較例1〜10]
比較例1〜41及び比較例1〜10においては、それぞれ以下に示す基油a〜c、パーフルオロアルキル基を有する化合物A1〜A6、極圧剤B1〜B4、油性剤C1〜C4及びその他の添加剤D1、D2を用いて、表1〜8に示す組成を有する金属加工用潤滑油組成物を調製した。
(基油)
基油a:鉱油(40℃における動粘度:42mm/s)
基油b:トリメチロールプロパンのトリオレート(40℃における動粘度:49.3mm/s)
基油c:ポリα−オレフィン(40℃における動粘度47mm/s)
(パーフルオロアルキル基を有する化合物)
A1:パーフルオロブチルエチレンオキサイド付加物(平均付加数5)
A2:パーフルオロアルキルアミン(C−NH
A3:パーフルオロブチルスルホン酸ナトリウム塩(C−SONa)
A4:パーフルオロブチルカルボン酸カリウム塩(C−COOK)
A5:パーフルオロブチルスルホンアミド (C−SONH
A6:下記式で示されるパーフルオロアルキルスルホンアミド
【化11】

(極圧剤)
B1:ジ−t−ノニルポリサルファイド(t−ノニル基はプロピレンの3量体から誘導されたもの;1分子中の平均硫黄原子数4.6;硫黄含有量38質量%)
B2:硫化ラード(硫黄含有量11%)
B3:トリメチロールプロパンのトリオレートの硫化物(硫黄含有量13質量%)
B4:トリクレジルホスフェート
B5:硫化オレイン酸(硫黄含有量11質量%)
(油性剤)
C1:オレイルアルコール
C2:オレイン酸
C3:ポリエチレンオキサイドモノオレート(エチレンオキサイド部の平均重合度:4.5)
C4:オクタデシルアミン
(その他の添加剤)
D1:炭酸カルシウム含有過塩基性カルシウムスルフォネート(平均分子量450の石油スルホン酸の過塩基性カルシウム塩;塩基価(過塩素酸法)400mgKOH/g)
D2:2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール
【0104】
(タッピング試験)
実施例1〜41及び比較例1〜10の金属加工用油剤組成物について、アジピン酸ジ2エチルヘキシルを比較標準油として、加工性能を評価した。具体的には、実施例1〜40又は比較例1〜10の各金属加工油剤組成物と、アジピン酸ジ2エチルヘキシルとを交互に用いて、以下に示す条件でタッピング試験を行った。金属加工用油剤組成物の加工部位への供給の際には、直接加工部位に6L/時の条件で吹き付けた。
油剤を水で希釈する場合はホモジナイザーを用い、均一化しているうちに試験に供した。
タッピング条件:
被削材:JIS AC8A(アルミニウム材)
工具径:8mm
タップピッチ:1.25mm
タップすくい角:1.5度
タップ食いつき角:10度
タップ下穴径:7.4mm
回転数:400rpm
標準油:アジピン酸ジ2エチルヘキシル
上記試験におけるタッピングエネルギーを測定し、下記式を用いてタッピングエネルギー効率(%)を算出した。
タッピングエネルギー効率(%)=(比較標準油を用いた場合のタッピングエネルギー)/(金属加工油組成物を用いた場合のタッピングエネルギー)
得られた結果を表1〜8に示す。表中、タッピングエネルギー効率の値が高い程、潤滑性が高いことを意味する。
【0105】
(耐摩耗性評価試験)
実施例1〜41及び比較例1〜10の金属加工用潤滑油組成物について、工具摩耗に対する性能を評価した。具体的には、下記の条件にて10穴、及び150穴加工後の標準油に対するタッピングエネルギー効率を測定し、10番目の穴に対する150番目の値の低下率を求めた。加工数に伴うタッピングエネルギー効率の低下度合いを工具摩耗によるものと判断した。なお、10穴ごとに工具に付着したアルミニウムを10%水酸化ナトリウム溶液で除去し試験をおこなった。得られた結果を表1〜8に示す。
タッピング条件:
被削材:JIS AC8A(アルミニウム材)
工具径:8mm
タップピッチ:1.25mm
タップすくい角:1.5度
タップ食いつき角:10度
タップ下穴径:7.4mm
回転数:360rpm
加工数:10、150穴
標準油:アジピン酸ジ2エチルヘキシル
【0106】
【表1】

【0107】
【表2】

【0108】
【表3】

【0109】
【表4】

【0110】
【表5】

【0111】
【表6】

【0112】
【表7】

【0113】
【表8】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油としての炭化水素油と、
パーフルオロアルキル基を有する化合物と、
極圧剤と
を含有する金属加工用潤滑油組成物。
【請求項2】
前記パーフルオロアルキル基がパーフルオロアルキルスルホネート基、パーフルオロアルキルカルボニル基及びパーフルオロスルホンアミド基から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の金属加工用潤滑油組成物。
【請求項3】
前記パーフルオロアルキル基を有する化合物として、下記一般式(1)で表される構造を有する化合物を含有する、請求項1又は2に記載の金属加工用潤滑油組成物。
【化1】

[式(1)中、Rは炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数2〜12のアルケニル基を示し、Aは炭素数1〜18のパーフルオロアルキル基を示し、Bは水素原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数2〜12のアルケニル基、炭素数1〜12のアルカノール基、炭素数6〜12のアリール基、又は一般式(2):
【化2】

(式(2)中、Rは水素原子、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数2〜18のアルケニル基又は炭素数6〜18のアリール基を示し、Rは炭素数1〜12のアルキレン基又は炭素数2〜12のアルケニレン基を示す。)
で示される基を示す。]
【請求項4】
油性剤及び有機酸塩をさらに含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の金属加工用潤滑油組成物。

【公開番号】特開2012−197329(P2012−197329A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−60546(P2011−60546)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】