説明

金属基材から皮膜を選択的に除去する方法

【課題】金属基材、例えば超合金部品からの低アルミニウム(Al)含有の皮膜を基材から選択的に除去する方法を提供する。
【解決手段】アルミニウムを皮膜内部に拡散させる。この皮膜を、式HAFを有する1種以上の酸及びこの酸の前駆体を含む水性組成物と接触させる。式中のAはSi、Ge、Ti、Zr、Al及びGaからなる群から選択され、xは1〜6である。除去される皮膜はMcrAl(X)材料であることが多い。基材は金属、通常超合金である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、基材から皮膜を除去する方法に関する。具体的には、本発明は、金属基材、例えば超合金部品からの低アルミニウム(Al)含量皮膜の除去に関する。
【背景技術】
【0002】

タービンエンジン部品のような金属物品に耐酸化性及び遮熱性を付与するために様々な皮膜が用いられている。動翼、ノズル、燃焼器及びトランジションピースのようなガスタービンのホットセクション部品で現在使われている皮膜は、一般に拡散皮膜とオーバーレイ皮膜の2種類の皮膜のいずれかに属する。最先端の拡散皮膜は概してニッケルアルミナイド、白金アルミナイド又はニッケル白金アルミナイドのようなアルミナイド型合金からなる。
【0003】
オーバーレイ皮膜は通例MCrAl(X)の組成を有しており、MはNi、Co、Fe及びこれらの組合せからなる群の元素であり、XはY、Ta、Si、Hf、Ti、Zr、B、C及びこれらの組合せからなる群の元素である。拡散皮膜を形成するには、皮膜成分を物品に付着させ、それらの成分を物品基材の元素と反応させて高温拡散によって皮膜を形成する。対照的に、オーバーレイ皮膜は一般に基材と反応させずにそのまま堆積させる。
【0004】
ガスタービンを供用に付すと、通常保護皮膜は、基材の検査及び補修が行えるように様々な部品から除去しなければならない。皮膜の除去は、通例、部品をストリッピング溶液に浸漬することで行われる。各種の皮膜を金属基材から除去するために現在様々なストリッピング技術が利用可能である。これらの技術は通常、意図した材料のみを除去するために相当程度の選択性を示さなければならない一方で、一般に部品の所望の構造を保たなければならない。
【0005】
Al系皮膜を、式HAFを有する酸を含む水性組成物と接触させることによってその皮膜を選択的に除去する方法が既に記載されている。通常、式中のAはSi、Ge、Ti、Zr、Al及びGaからなる群から選択され、xは1〜6である。これらの方法は一般にAl系オーバーレイ皮膜及び拡散皮膜を基材から選択的に除去するのに有効である。
【特許文献1】米国特許第6833328号明細書
【特許文献2】米国特許第6863738号明細書
【特許文献3】米国特許第5403669号明細書
【特許文献4】米国特許第6559416号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2005/0031781号明細書
【特許文献6】米国特許出願公開第2005/0031877号明細書
【特許文献7】欧州特許出願公開第1162286号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
Al含量約12重量%未満のMCrAl(X)皮膜は、それよりもAl含量の高いものより良好な高温(例えば、2000〜2100°Fの範囲)クリープ及び応力破壊耐性を有し得ることが認められており、そのためアルミニウム含量約12重量%未満のMcrAl(X)皮膜の方が多用されている。しかし、これらの低Al含量の皮膜は、上記選択的ストリッピング法に対して抵抗性が高い。これらの低Al含量の皮膜を除去するのに有効な選択的ストリッピング法がないと、非常に強い非選択的な酸又は過激な機械的方法のような非選択的な方法を用いなければならないが、いずれも基材に損傷を起こす可能性がある。皮膜除去工程中に基材を損傷するリスクを低減するために、低Al含量の皮膜を基材から選択的に除去するのに有効な方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態は、アルミニウムを皮膜内部に拡散させるという、基材から皮膜を選択的に除去する方法によって上述の問題を解決する。
【0008】
式HAFを有する1種以上の酸及びこの酸の前駆体を含む水性組成物と皮膜を接触させる。式中のAはSi、Ge、Ti、Zr、Al及びGaからなる群から選択され、xは1〜6である。
【0009】
これら及びその他の利点及び特徴は、添付の図面を参照した本発明の実施形態に関する以下の詳細な説明からより容易に理解されよう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
上記の通り、低アルミニウム含量の皮膜、例えば、組成MCrAl(X)を有し、MがNi、Co、Fe及びこれらの組合せからなる群の元素であり、XがY、Ta、Si、Hf、Ti、Zr、B、C及びこれらの組合せからなる群の元素であり、Al含量が約12重量%未満であるものは、公知の選択的ストリッピング法に対して極めて抵抗性が高い。しかし、この低Al含量の皮膜内部に追加のAlを拡散させると、低Al含量の皮膜を選択的ストリッピングで除去することができる。
【0011】
一実施形態では、コロイドシリカとアルミニウム系粉末の粒子とを含むスラリーで低Al含量の皮膜を処理することによって低Al含量の皮膜内部にAlを拡散させる。用語「コロイドシリカ」は、水その他の溶媒の媒体中にシリカの微粒子を含むあらゆる分散液を包含して意味する。コロイドシリカの分散液は様々な化学品製造業者から酸性又は塩基性の形態で入手可能である。また、様々な形状、例えば球状、中空、多孔性、棒状、板状、フレーク又は繊維状のシリカ粒子並びに不定形シリカ粉末を使用することができる。球状シリカ粒子が利用されることが多い。これらの粒子は通常約10〜約100nmの範囲の平均粒径を有する。
【0012】
組成物中に存在するコロイドシリカの量は様々な要因に依存する。これらの要因としては、例えば、使用するアルミニウム系粉末の量、並びに以下に記載するような有機安定化剤の存在及び量がある。加工処理条件、例えば、どのようにスラリーを形成し皮膜に塗布するかということも考慮すべき事項である。通常、コロイドシリカは、組成物全体のパーセントとしてシリカ固形分を基準にして約5〜約20重量%で存在する。幾つかの実施形態では、この量は約10〜約15重量%の範囲である。
【0013】
スラリー組成物はさらにアルミニウム系粉末を含んでいる。この粉末は、皮膜内部に拡散させるアルミニウム源として機能する。アルミニウム系粉末は、Valimet社(米国カリフォルニア州ストックトン)のような幾つかの市販元から入手することができる。この粉末は通常球状粒子の形態である。しかし、コロイドシリカについて上記したような他の形態であることも、又はワイヤー、例えばワイヤーメッシュの形態であることもできる。
【0014】
様々な標準的サイズのアルミニウム系粉末粒子を使用することができる。粉末粒子の大きさは、皮膜のタイプ、スラリーを皮膜に塗布する際の技術、スラリー中に存在する他の成分の種類及び成分の相対量のような幾つかの要因に依存する。通常、これらの粉末粒子は約0.5〜約200μmの範囲の平均粒径を有する。幾つかの実施形態では、粉末粒子は約1〜約50μmの範囲の平均粒径を有する。他の実施形態では、平均粒径は約1〜約20μmの範囲である。粉末粒子はガスアトマイゼーション法で製造されることが多いが、他の技術、例えば回転電極法も使用することができる。
【0015】
本願で用いる「アルミニウム系粉末」は、存在する全元素を基準にして約75重量%以上のアルミニウムを含有するものとして定義される。この粉末は、例えば、白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、オスミウム及びイリジウムのような1種以上の白金族元素を含有していてもよい。希土類金属、例えばランタン、セリウム及びエルビウムのようなランタニドも可能である。スカンジウム及びイットリウムのような、ランタニドと化学的に類似の元素も含めることができよう。幾つかの場合において、鉄、クロム及びコバルトの1種以上を含ませることが望ましいこともあろう。また、当業者には自明であろうが、アルミニウム系粉末は様々な他の元素及び他の物質を不純物レベルで、例えば約1重量%未満含有していてもよい。上記任意の元素の組合せから形成される粉末を製造するための技術も当技術分野で周知である。
【0016】
アルミニウム系粉末の組成とスラリーの組成は大部分が、皮膜に塗布するのに必要とされるアルミニウムの量に依存する。スラリー中のアルミニウムの量は約0.5〜約45重量%の範囲であることが多い。他の実施形態では、アルミニウムの量は約30〜約40重量%の範囲である。皮膜のための特定の要件、すなわち、その表面領域に応じて、これらのアルミニウムレベルを調節することができる。
【0017】
一実施形態では、アルミニウムはアルミニウム−ケイ素合金の形態で存在する。多くの場合、合金は粉末形態であり、Valimet社のような企業から入手可能である。このタイプの合金粉末は通常アルミニウム系粉末について上記した範囲の粒径を有する。これらはガスアトマイゼーション法により形成されることが多い。
【0018】
アルミニウム−ケイ素合金中のケイ素は部分的に合金の融点を低下する役目を果たし、そのため以下に記載するようなアルミナイズ工程が容易になる。幾つかの実施形態では、ケイ素は合金の融点を約610℃未満に低下するのに充分な量で存在する。通常、ケイ素はケイ素とアルミニウムを合わせた重量を基準にして約1〜約20重量%の範囲で合金中に存在する。幾つかの他の実施形態では、ケイ素は約10〜約15重量%の範囲のレベルで存在する。
【0019】
上記粉末の場合と同様に、アルミニウム−ケイ素合金はまた、様々な所望の特性を付与する1種以上の他の元素を含有していてもよい。例として、白金族元素、希土類金属(並びにSc及びY)、鉄、クロム、コバルトなどがある。ときには、少量の不純物が存在することもある。
【0020】
別の実施形態では、スラリーはコロイドシリカとアルミニウム(又はアルミニウム−ケイ素)成分に加えて有機安定化剤を含む。この安定化剤は2以上のヒドロキシル基を含有する有機化合物である。他の実施形態では、安定化剤は3以上のヒドロキシル基を含有する。ときには水混和性の安定化剤も利用されるが、これは重要な要件ではないことが多い。また、2種以上の有機化合物の組合せを安定化剤として使用することもできよう。
【0021】
様々な有機化合物を安定化剤として使用することができる。非限定例として、エタンジオール、プロパンジオール、ブタンジオール及びシクロペンタンジオールのようなアルカンジオール(「ジヒドロキシアルコール」ともいう)がある(これらのジヒドロキシアルコールのあるものは「グリコール」といわれ、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール及びジエチレングリコールがある)。これらのジオールは様々な有機基、すなわちアルキル又は芳香族基で置換されていてもよい。置換体の非限定例として、2−メチル−1,2−プロパンジオール、2,3−ジメチル−2,3−ブタンジオール、1−フェニル−1,2−エタンジオール及び1−フェニル−1,2−プロパンジオールがある。有機安定化剤の別の例は、グリセロール、C(OH)である。この化合物は「グリセリン」といわれることもある。グリセロールは脂肪、すなわちグリセリドから容易に得ることができる。4以上のヒドロキシ基を含有する化合物(これらのうちの幾つかは「糖アルコール」といわれる)も使用することができる。一例として、ペンタエリスリトール、C(CHOH)、は適切な安定化剤であることができる。ソルビトール及び類似のポリヒドロキシアルコールはその他の例の代表である。
【0022】
2以上のヒドロキシ基を含有する様々なポリマー材料も有機安定化剤として使用することができる。非限定例としては、ホスファチジン酸(ホスホグリセリド)のような様々な脂肪(グリセリド)がある。炭水化物は、使用できる材料の別の広範な種類の代表である。用語「炭水化物」は、ポリヒドロキシアルデヒド、ポリヒドロキシケトン又は加水分解によりこれらを生成することができる化合物を包含する。この用語には、グルコース、スクロース及びフラクトースのような糖と共にラクトースような材料が包含される。多くの関連化合物、例えば、セルロース及びデンプンのような多糖又はアミロースのような多糖内の成分も使用することができよう。これらの化合物のいずれかの水溶性誘導体も当技術分野で公知であり、本発明に使用することができる。コスト、入手容易性及び有効性のような要因に基づいて、グリセロール及びグリコールのようなジヒドロキシアルコールが有機安定化剤として利用されることが多い。
【0023】
使用すべき有機安定化剤の量は様々な要因に依存する。これらの要因としては、存在する安定化剤の特定のタイプ、安定化剤のヒドロキシル含量、その水混和性、スラリー組成物の粘度に対する安定化剤の影響、スラリー組成物中に存在するアルミニウムの量、アルミニウムの粒径、アルミニウム粒子の表面−容積比、スラリーを製造するのに使用した特定の技術及びスラリー組成物中に存在し得る他の成分の種類がある。
【0024】
幾つかの実施形態では、有機安定化剤は、水又はあらゆるその他の水性成分との接触中アルミニウム又はアルミニウム−ケイ素成分を化学的に安定化するのに充分な量で存在する。本明細書中で、用語「化学的に安定化する」とは、スラリーが望ましくない化学反応を実質的に含まないままでいることを示すために使用する。これらは、組成物の粘度及び/又は温度を許容できないレベルまで増大するような反応である。例えば、温度又は粘度の許容できない増大とは、スラリー組成物を、例えばスプレーにより基材に容易に塗布するのを妨げ得るようなものである。通常、スラリー組成物中に存在する有機安定化剤の量は組成物の総重量を基準にして約0.1〜約20重量%の範囲である。他の実施形態では、この範囲は約0.5〜約15重量%である。
【0025】
前述のように、スラリーは通常水性である。換言すれば、スラリーは、主として水である液体担体、すなわち、コロイドシリカを処置することが多い媒体を含んでいる。本願で用いる「水性」とは、揮発性成分の約65%以上が水である組成物をいう。幾つかの実施形態では、揮発性成分の約80%以上が水である。従って、限られた量の他の液体を水と混和して使用してもよい。他の液体又は「担体」の非限定例としては、アルコール、例えばエタノールのような主鎖中の炭素原子数が1〜4の低級アルコールがある。ハロゲン化炭化水素溶媒は別の例である。特定の担体組成物の選択は、スラリーによる基材の処理中必要とされる蒸発速度、スラリーと基材の接着に対する担体の影響、担体に対する添加剤及びその他の成分の溶解性、担体に対する粉末の「分散性」、担体が皮膜を濡らしスラリーのレオロジーを変える能力、並びに取扱い要件、コスト要件及び環境/安全性の問題のような様々な要因に依存する。当業者はこれらの要因を考慮することによって最も適当な担体組成物を選択することができる。
【0026】
使用する液体担体の量は通常、スラリーの固体成分を懸濁状態に保つのに充分な最小量である。スラリーを皮膜に塗布するのに使用する技術に応じて、上記レベルより多い量を使用してスラリーの粘度を調節することができる。一般に、液体担体はスラリー全体の約30〜約70重量%からなる。
【0027】
スラリー中に様々な他の成分を使用してもよい。それらの多くは化学的加工処理及びセラミック加工処理の分野で周知である。これらの添加剤の非限定例は増粘剤、分散剤、解膠剤、沈殿防止剤、消泡剤、結合材、可塑剤、皮膚軟化剤、界面活性剤及び潤滑剤である。一般に、添加剤はスラリー全体の重量を基準にして約0.01〜約10重量%の範囲のレベルで使用する。
【0028】
スラリーがコロイドシリカとアルミニウム−ケイ素合金を主体としている実施形態の場合、スラリーを製造するのに特に重要な段階はない。慣用のブレンド装置を使用することができ、また剪断粘度は液体担体の添加によって調節することができる。成分の混合は、室温で、又は例えば温水浴その他の技術を用いて約60℃までの温度で行うことができる。混合は、得られるスラリーが均一になるまで行う。上記添加剤を使用する場合は、通常主要成分を混合した後に添加するが、これは部分的に添加剤の性質に依存する。
【0029】
アルミニウム系粉末及びコロイドシリカと共に有機安定化剤を利用する実施形態の場合、一定のブレンド順序を通常利用する。例えば、有機安定化剤は通常最初に、アルミニウム系粉末と水性担体とが接触する前に、アルミニウム系粉末と混合する。コロイドシリカの限られた部分、例えば、定められた量の半分以下を、この時点で(そしてゆっくり)含ませて混合物の剪断特性を高めることもできる。実質的な量の水性成分の不在下で安定化剤とアルミニウムを最初に接触させることによって、このタイプのスラリーの安定性が大幅に増大する。
【0030】
次に、コロイドシリカの残りの部分を加え、ブレンド中に十分に混合する。他の任意の添加剤もこの時点で加えることができる。幾つかの場合において、残りのコロイドシリカを加える前に、一定期間、例えば約24時間以下、又はそれ以上待つのが望ましいことがある。この待ち期間は安定化剤によるアルミナの「濡れ性」を高めることがあるが、常に必要とは思われない。当業者は過度の実験を伴わずに待ち期間のスラリーの安定性に対する影響を確認することができる。ブレンド温度は上記の通りである。
【0031】
上述の順序は有機安定化剤を利用するスラリーに塗布することができる。しかし、成分を混合するための他の技術も可能である。例えば、全ての主要成分を迅速に混合すれば、アルミニウム成分とコロイドシリカの有害な反応を抑制又は最小にすることができるであろう。しかし、この工程は温度及び/又は粘度の突然の増大を極めて綿密にモニターしなければならない。
【0032】
スラリーは、当技術分野で公知の様々な技術で皮膜に塗布することができる。例えば、スラリーは、皮膜へのスリップキャスト、刷毛塗り、浸漬、スプレー、注ぎ、ロール塗工又はスピンコーティングできる。スプレー皮膜は翼形部のような物品にスラリーを塗布する最も簡単な方法であることが多い。スラリーの粘度は、使用する液体担体の量を変えることによって容易にスプレー用に調節することができる。スプレー装置は当技術分野で周知である。手動又は自動化スプレーガンモデル、エアスプレー及び重力供給モデルなどを始めとする塗工用スプレーガンが適切である。特定のスラリースプレー操作のニーズを満たすための様々なスプレーガン設定(例えば、圧力及びスラリー容積)の調節は容易に行うことができる。
【0033】
スラリーは単層又は多層に塗布することができる。所望の量のアルミニウムを皮膜に供給するために多層が必要となることがある。一連の層を使用する場合、各層を付着させた後に熱処理を行ってスラリーの揮発性成分の除去を促進することができる。十分な厚さのスラリーを塗布した後、追加の任意の熱処理を行って有機溶媒や水のような揮発性物質をさらに除去してもよい。熱処理条件は部分的にスラリー中の揮発性成分の種類に依存する。代表的な加熱法は約80〜約200℃の範囲の温度で約5〜約120分である。加熱時間を長くして低い加熱温度を補うことができ、その逆も可能である。
【0034】
次いで、乾燥スラリーを、皮膜の所望の部分、すなわち全表面又はその一部分にアルミニウムを拡散させるのに充分な温度に加熱する。このアルミナイズ段階に必要な温度は、皮膜及び基材の組成、スラリーの特定の組成及び厚さ、並びに向上したアルミニウム濃度の所望の深さを始めとする様々な要因に依存する。通常、拡散温度は約650〜約1100℃の範囲内であり、他の実施形態では約800〜約950℃の温度を利用する。これらの温度はまた、存在するあらゆる有機化合物、例えばグリセロールのような安定化剤を完全に除去するのにも十分高い。拡散熱処理はあらゆる便利な技術、例えば、オーブン内で真空中又はアルゴンガス下での加熱により行うことができる。
【0035】
拡散熱処理に必要な時間は上記要因の多くに依存する。一般に、この時間は約30分〜約8時間の範囲である。幾つかの場合において、段階的熱処理が望ましい。極めて一般的な例として、温度を約650℃に上げ、そこに一定期間保ち、その後次第に約850℃まで上昇させることができよう。或いは、温度を最初に650℃のような閾値温度に上昇させた後、連続的に、例えば1℃/分で上昇させて、200分で約850℃の温度に達するようにすることができよう。一般的な技術分野の熟練者(例えば、パック−アルミナイズの分野で働く人)は所与の皮膜とスラリーに対して最も適当な時間−温度関係を選択することができる。上記のような工程は、既に存在する皮膜内部にアルミニウムを拡散させるのに極めて有効である。記載したように低Al含量の皮膜内部にアルミニウムを拡散させると、その皮膜を、有利なことに基材と負の相互作用をしない特定のストリッピング工程で除去可能なようにするのに充分な程にその皮膜のAl含量が増大する。これにより、当技術分野では、コストが低減し、部品の稼動寿命が増大するという点で、大きな恩恵を受ける。新たにアルミニウムが注入された皮膜で利用されるストリッピング工程について以下に詳述する。
【0036】
新たにアルミニウムが注入された皮膜を基材から選択的に剥ぎ取るために水性組成物を使用する。幾つかの実施形態の水性組成物は式HAFを有する酸を含んでいる。この式で、AはSi、Ge、Ti、Zr、Al及びGaからなる群から選択される。添え字xは1〜6、より典型的には1〜3の量である。このタイプの物質は市販されているか、又は過度の努力を要することなく製造することができる。幾つかの実施形態では、酸HSiF又はHZrFを利用する。他の実施形態では、HSiFを利用する。最後に挙げた物質は「ヒドロフルオロケイ酸」、「フルオロケイ酸」及び「ヘキサフルオロケイ酸」のような幾つかの名称で呼ばれる。
【0037】
AF酸の前駆体も使用できる。本願で用いる「前駆体」とは、化合して当該酸若しくはそのジアニオンAF−2を形成することができるか、又は反応性条件下、例えば熱、撹拌、触媒などの作用により当該酸若しくはそのジアニオンに変換されることができるあらゆる化合物又は化合物群をいう。従って、例えば、酸は反応容器内その場で形成することができる。
【0038】
一例として、前駆体は、ジアニオンがイオン結合している金属塩、無機塩又は有機塩でよい。非限定例としては、Ag、Na、Ni、K及びNHの塩、並びに第四アンモニウム塩のような有機塩がある。水溶液中では塩の解離により酸が生成する。HSiFの場合、使用することができる便利な塩はNaSiFである。
【0039】
当業者は、水性組成物中でHAFを形成する化合物の使用に通じている。例えば、HSiFは、ケイ素含有化合物とフッ素含有化合物の反応によりその場で形成することができる。ケイ素含有化合物の一例はSiOであり、フッ素含有化合物の一例はフッ化水素酸(すなわち、水性フッ化水素)である。
【0040】
単一の酸として使用する場合、HAF酸は、基材に悪影響を与えずに上記皮膜を除去するのに有効である。通常、使用する酸のレベルは、除去される皮膜の組成と量、基材上の皮膜材料の位置、基材のタイプ、基材と皮膜の熱履歴(例えば、相互拡散のレベル)、基材を処理組成物に暴露する際の技術、処理に使用する時間と温度及び溶液中の酸の安定性のような様々な要因に依存する。
【0041】
一般に、HAF酸は、水性組成物中に約0.05〜約5Mの範囲のレベルで存在し、ここでMはモル濃度を表す。通常、このレベルは約0.2〜約3.5Mの範囲である。HSiFの場合、この濃度は約0.2〜約2.2Mの範囲であることが多い。HAF酸及び以下に記載する他の成分の量は、基材からの皮膜の除去に対する特定の組成物の効果を観察することによって容易に調節することができる。
【0042】
水性組成物は、1種以上の追加の酸を、すなわち「主要な」酸HAFに加えて含有していてもよい。追加の酸を使用すると、酸性溶液が枯渇し易い基材の接近しにくい領域からの皮膜の除去を高めることがある。幾つかの実施形態では、追加の酸は、純水中で約3.5未満のpHを有している。他の実施形態では、追加の酸は、主要な酸、すなわちHAF物質のpH(純水中)未満のpHを有する。従って、HSiFの場合、追加の酸は約1.3未満のpHを有するものであり得る。
【0043】
様々なタイプの酸、例えば鉱酸又は有機酸を追加の酸として使用できる。非限定例としては、リン酸、硝酸、硫酸、塩酸、フッ化水素酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、酢酸、過塩素酸、亜リン酸、ホスフィン酸、アルキルスルホン酸(例えば、メタンスルホン酸)及びこれらのものの任意の混合物がある。当業者は、観察された有効性並びに入手容易性、主要な酸との相溶性、コスト及び環境上考慮すべき事項のような他の要因を基にして最も適当な追加の酸を選択することができる。また、主要な酸に関して上記した通り、酸の前駆体(例えば、塩)を使用してもよい。本発明の幾つかの実施形態では、追加の酸は、リン酸、硝酸、硫酸、塩酸、フッ化水素酸及びこれらの混合物からなる群から選択される。他の実施形態では(例えば、主要な酸がHSiFである場合)、追加の酸はリン酸であり得る。
【0044】
使用する追加の酸の量は主要な酸の種類及び前記要因の多くに依存する。通常、追加の酸は組成物中に約0.1〜約20Mのレベルで存在する。幾つかの実施形態では(例えば、リン酸の場合)、その範囲は約0.5〜約5Mである。また、他の実施形態では約2〜約4Mのレベルで追加の酸を使用する。長めの処理時間及び/又は高めの処理温度で酸の低めのレベルを補うことができ、その逆も言える。追加の酸に対する最も適当なレベルを決定するために容易に実験をすることができる。
【0045】
水性組成物は様々な機能を果たす様々な他の添加剤を含んでいてもよい。これらの添加剤の非限定例は、抑制剤、分散剤、界面活性剤、キレート化剤、湿潤剤、解膠剤、安定化剤、沈殿防止剤及び消泡剤である。当業者は特定のタイプのかかる添加剤及びその使用のための有効なレベルに通じている。組成物に対する抑制剤の一例は上記酢酸のような比較的弱い酸である。かかる物質は組成物中の主要な酸の活性を下げる傾向がある。これは、幾つかの場合において、例えば基材表面の点食の可能性を低下するために望ましい。
【0046】
物品を水性組成物で処理するには様々な技術を使用することができる。例えば、様々なタイプのスプレーガンを用いて組成物を物品に連続的にスプレーすることができる。単一のスプレーガンを使用してもよい。或いは、一連のガンを使用することができ、ガンの列(又は多数のガンの列)に平行して又は貫通して物品を通すことができる。代わりの実施形態では、皮膜除去組成物を物品を覆って降り注ぐことができる(そして連続的に循環させる)。
【0047】
幾つかの実施形態では、物品を水性組成物の浴内に浸漬する。このような浸漬(いかなるタイプの容器でもよい)により、除去しようとする皮膜と水性組成物との最大程度の接触が可能になることが多い。浸漬時間と浴温度は除去しようとする皮膜のタイプ及び浴内に使用する酸(又は複数種の酸)のような上記要因の多くに依存する。通常、浴は、ほぼ室温〜約100℃の範囲の温度に維持し、基材をその中に浸漬する。他の実施形態では、温度は約45〜約90℃の範囲に維持する。浸漬時間は大きく変化し得るが、通常は約10分〜約72時間の範囲であり、幾つかの実施形態では約1〜約20時間である。長めの浸漬時間は低めの浴温度を補うことができる。浴から取り出した後(又は上記のいずれかの技術で皮膜と接触させた後)、基材を通例、湿潤剤のような他の慣用の添加剤を含有していてもよい水で濯ぐ。
【0048】
一実施形態は、基材からの皮膜の除去を促進する電気化学ストリッピング系を含んでいる。図1は、電解液浴容器12を含むかかる系10を概略的に示している。この浴は、電解液14、例えばHAFの水性組成物を前記他の添加剤1種以上と共に含有している。電解液浴容器12は、浴成分のいずれとも非反応性である任意の適切な材料から形成される。容器12の形状と容積は、その容器12が電極と電解液14を収容するのに充分な大きさである限りにおいて、用途に応じて変化し得る。本発明の電気化学ストリッピング系は1以上の電極を有している。2つの電極16と18が図1に示されている。電極の数は、処理される物品の大きさと形状のような様々な要因に依存して変化する。各電極16と18は、被覆された物品20の表面に電場を向けるように構成された適当な幾何形状に形成されている。電極16と18は一般に非消耗性であり、電気化学ストリッピング工程を通してそのままでいる。
【0049】
電気化学ストリッピング系10でストリッピングしようとする物品20を容器12内に配置する。この物品20を、少なくとも部分的に1以上の前記皮膜で覆う。物品20は、電極16と18の間に配置し、電極16及び18と物品20の選択された被覆表面との間で電場が確立され得るように位置付ける。物品20の一部と電極16及び18とが浸るのに充分な量の電解液14を容器12に供給する。物品20の一部分22、例えばタービン部品のダブテールセクションがストリッピングを必要としない場合、この部分は電解液14の液面より上に保つことができる。或いは、この部分22を物理的にマスクして電場を遮蔽することができる。さらに別法としては、例えば電極16と18の位置を変えることによってこの部分22にかかる電場を最小にする。電気化学的にストリッピングしようとする部分22は電解液14中に浸らなければならない。
【0050】
電源24により、電気化学ストリッピング系内に電場を確立する。電源24は通常直流(DC)であり、切替が可能である。多くの場合、定電圧モードで作動する。電源24は接続線26、28及び30を介して電極16及び18に電流を流す。電極16及び18は電源24の負端子に接続される。物品20からの皮膜のストリッピングは皮膜と反応する電解液14からなる。電解液14は電荷を物品20に運び、電流の作用の下で皮膜が物品20からストリッピングされる。
【0051】
この実施形態のストリッピング特性は様々なパラメーターにより定められる。これらのパラメーターは材料の除去速度、従ってストリッピング工程の効率に影響を及ぼす。非限定的で代表的なパラメーターは、電極の幾何形状、電源の電圧又は電流(制御されるパラメーターに依存する)、電解液濃度、溶媒組成物、撹拌の使用の有無、加工処理時間、物品20と電極16及び18との距離、並びに電解液14の温度である。電気化学的機械加工技術に通じているものであれば、この実施形態に関連するストリッピングパラメーターの多くに通じているであろう。
【0052】
ストリッピングパラメーターは作動範囲にわたって変化し得る。例えば、DC電源24の電圧は、微量の電圧(用語「微量」とは、小さいが測定可能な値を意味する)から約30Vまで変化し得る。ときには、電流をパルスにして、荷電イオン性副生物が電極境界層から出ていくようにすることができる。しかし、パルス化電源適用はその実施形態にとってそれほど重要ではない。物品20と電極16及び18との間の距離は通例約0.1インチ(0.25cm)〜約10インチ(25.4cm)の範囲で変化する。
【0053】
電解液14の温度は約100℃までに維持することができる。幾つかの実施形態では、この温度は約50℃未満に、他の実施形態では温度範囲は約5〜約30℃である。
【0054】
ストリッピング時間(すなわち、電解液中への浸漬時間)はかなり変化し得る。適当な時間の選択に影響を及ぼす要因としては、除去される皮膜の組成、並びにその微細構造、密度及び厚さがある。電気化学ストリッピング時間は密度が高くなり、また皮膜が厚くなると増大し得る。通常、この時間は約1分〜約36時間、場合によっては約5分〜約8時間の範囲である。他の幾つかの場合、浸漬時間は約10分〜約3時間の範囲である。
【0055】
通常、基材は金属材料である。本願で用いる「金属」とは、主として金属又は金属合金から形成されているが、幾らかの非金属成分を含んでいてもよい基材をいう。金属材料の非限定例は、鉄、コバルト、ニッケル、アルミニウム、クロム、チタン及びこれらのいずれかを含む混合物(例えば、ステンレス鋼)からなる群から選択される1種以上の元素を含むものである。
【0056】
極めて多くの場合、金属材料は超合金である。かかる材料は引張強さ、クリープ耐性、耐酸化性及び耐食性の点で高温性能が公知である。超合金は通例ニッケル基、コバルト基又は鉄基であるが、ニッケル基及びコバルト基合金が高性能用途用に好ましい。ベース元素、通例ニッケル又はコバルトは、超合金中の重量で単一最多の元素である。具体的なニッケル基超合金は、約40重量%以上のNiと、コバルト、クロム、アルミニウム、タングステン、モリブデン、チタン及び鉄からなる群の1種以上の成分とを含む。具体的なコバルト基超合金は、約30重量%以上のCoと、ニッケル、クロム、タングステン、モリブデン、タンタル、マンガン、炭素及び鉄からなる群の1種以上の成分とを含む。
【0057】
基材の実際の構造は広く変化し得る。例示として、基材は家庭用品(例えば、料理用品)又は印刷回路基板の形態であり得る。多くの実施形態では、超合金基材は燃焼器ライナー、燃焼器ドーム、シュラウド又は翼形部の形態である。バケット又は動翼及びノズル又は静翼を始めとする翼形部は、本発明の実施形態に従ってストリッピングされる典型的な基材である。本発明は、基材の平坦な領域から、並びに窪み、中空領域又は穴(例えば、フィルム冷却孔)を含むことがある湾曲した又は不規則な表面から皮膜を除去するのに有用である。
【0058】
限られた数の実施形態のみに関連して本発明を詳細に説明して来たが、本発明がかかる開示された実施形態に限定されないことは容易に理解されるであろう。むしろ、本発明は、これまでに説明しなかったが本発明の思想と範囲内に入る同等のあらゆる変形、変更、置換又は等価な配列を含むように修正可能である。また、本発明の様々な実施形態について記載して来たが、本発明の局面は記載した実施形態の一部のみを含み得るもの了解されたい。従って、本発明は以上の記載に限定されると考えられるものではなく、特許請求の範囲によってのみ規定されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に従って構築された選択的ストリッピング系の説明図である。
【符号の説明】
【0060】
電気化学ストリッピング系 10
電解液浴容器 12
電解液 14
電極 16
電極 18
物品 20
部分 22
電源 24
接続 26
接続 28
接続 30

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材から皮膜を選択的に除去する方法であって、
皮膜内部にアルミニウムを拡散させ、
皮膜を式HAF(式中、AはSi、Ge、Ti、Zr、Al及びGaからなる群から選択され、xは1〜6である。)の1種以上の酸又はその前駆体を含む水性組成物に接触させる
ことを含んでなる方法。
【請求項2】
皮膜内部にアルミニウムを拡散させることが、
コロイドシリカとアルミニウム系粉末粒子とを含み、六価クロムを実質的に含まないスラリーの1以上の層を皮膜に塗布し、
揮発性成分をスラリーから除去するとともに皮膜内部へのアルミニウムの拡散を惹起するのに充分な条件下でスラリーを熱処理する
ことを含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記スラリーがさらに2以上のヒドロキシル基を含有する1種以上の有機安定化剤を含む、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記水性組成物がHSiF又はHZrF化合物を含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記基材を水性組成物の浴に浸漬する、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記基材を浸漬する際に水性組成物の浴に電流を流す、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記皮膜がMCrAl(X)からなり、MがNi、Co、Fe及びこれらの組合せからなる群から選択される元素であり、XがY、Ta、Si、Hf、Ti、Zr、B、C及びこれらの組合せからなる群から選択される元素である、請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記皮膜が約12重量%未満のアルミニウム含量を有する、請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記基材が、鉄、コバルト、ニッケル、アルミニウム、クロム、チタン及びこれらのいずれかを含む混合物からなる群から選択される1種以上の元素を含む金属材料である、請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記金属材料が超合金からなる、請求項9記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−150708(P2008−150708A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−313011(P2007−313011)
【出願日】平成19年12月4日(2007.12.4)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】