説明

金属多孔体製吸音材及びその製造方法

【課題】高温での耐熱特性及び熱伝導性に優れ、吸音特性の制御が容易で、所望の形態を有する構造体を形成することができる吸音材を提供する。
【解決手段】通気度が、10〜50cm/cm/秒であり、セル数が20〜250個/25mmである金属多孔体製吸音材である。また、金属粉末及び/又は金属酸化物粉末を含むスラリーを、発泡樹脂に含浸することによって塗着した後、スラリーを塗着した発泡樹脂を焼結することにより製造される金属多孔体製吸音材である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸音特性に優れる金属多孔体製吸音材に関する。特に、エンジンやボイラー等のように、高温となる環境における騒音低減のために使用される金属多孔体製吸音材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、騒音源から発せられる騒音を低減するために、様々な材料の吸音材が用いられている。吸音材は音を反射することなく、音のエネルギーの一部を熱エネルギーに変換し吸収する材料である。例えば、自動車のエンジンから発する騒音を低減するために、エンジンルーム内には、通常、吸音材が設置されている。エンジンはかなりの高温となるので、このような場所で使用される吸音材は、吸音性の他に耐熱性も備える必要がある。また、エンジンから発する熱を、吸音材を通して速やかに放熱するために、高い伝熱性も備えることも必要である。
【0003】
耐熱性の吸音材としては、例えば、特許文献1には、温度400℃以上の場所に設置された際にも熱収縮やへたりが無い耐熱性の有機繊維を含む吸音材が記載されている。また、特許文献2には、400〜450℃の高温条件下でも熱劣化がなく安定した吸音特性を発揮するセラミック系繊維を含むシート状の耐熱部材を用いた耐熱性吸音断熱材が記載されている。また、500℃程度での耐熱性を示す吸音材として、特許文献3のような無機粒子を珪酸アルカリ塩である結合層により結合してなる高耐熱性吸音材が提案されている。
【0004】
しかしながら、これらの吸音材においては、500℃を超える高温における耐熱特性、熱伝導性などの性能は十分でなく、吸音特性の制御が難しく、また、所望の形態を有する構造体を形成することが困難であるなどの問題があった。
【0005】
一方、金属粉末に酸化粉末を加えた混合粉を作成し、これを用いてスラリーを形成し、発泡樹脂の骨格表面に金属粉末を付着させ、乾燥させた発泡樹脂を焼成することにより、金属多孔体を作製する技術が特許文献4に開示されている。このように作製された金属多孔体の用途は、触媒又はその担体として、あるいは電池の極板用の材料として用いられことなどに限られていた。
【0006】
金属多孔体を吸音構造体に用いることが特許文献5に記載されているが、この技術は、複数の金属多孔体を、中間空気層を隔てて配置することによって吸音性能を得るものであり、金属多孔体自体が吸音材料となるものではない。
【特許文献1】特開2006−138935号公報
【特許文献2】特開2006−321053号公報
【特許文献3】特開2001−134270号公報
【特許文献4】特開平10−183203号公報
【特許文献5】特開平2000−276178号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、高温での耐熱特性及び熱伝導性に優れ、吸音特性の制御が容易で、所望の形態を有する構造体を容易に形成することができる吸音材を提供することを目的とする。また、その吸音材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、通気度が、10〜50cm/cm/秒であり、セル数が20〜250個/25mmである、金属多孔体製吸音材である。好ましくは、金属多孔体が、金属粉末及び/又は金属酸化物粉末を含むスラリーを、発泡樹脂に含浸することによって塗着した後、スラリーを塗着した発泡樹脂を焼結することにより製造される金属多孔体製吸音材である。また、好ましくは、前記発泡樹脂が、10〜90cm/cm/秒の通気度を有し、スラリーが、300〜1000cpsの粘度を有する、金属多孔体製吸音材である。また、好ましくは、前記発泡樹脂が、20〜80個/25mmのセル数を有する、金属多孔体製吸音材である。また、好ましくは、前記発泡樹脂が、ポリウレタンフォームである金属多孔体製吸音材である。
【0009】
また、本発明は、金属粉末及び/又は金属酸化物粉末を含むスラリーを、発泡樹脂に含浸することによって塗着させる工程と、スラリーを塗着した発泡樹脂を焼結する工程とを含む、金属多孔体製吸音材の製造方法である。好ましくは、前記発泡樹脂が、10〜90cm/cm/秒の通気度を有し、スラリーが、300〜1000cpsの粘度を有する、金属多孔体製吸音材の製造方法である。
【0010】
また、好ましくは、前記発泡樹脂が、20〜80個/25mmのセル数を有する、金属多孔体製吸音材の製造方法である。また、好ましくは、前記発泡樹脂が、ポリウレタンフォームである金属多孔体製吸音材の製造方法である。
【0011】
また、本発明は、内燃機関用金属多孔体製吸音材に関するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、吸音特性の制御が容易で、高温での耐熱特性及び熱伝導性に優れ、所望の形態を有する構造体を容易に形成することができる金属多孔体製吸音材を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の金属多孔体製吸音材は、通気度を10〜50cm/cm/秒とし、セル数を20〜250個/25mmとすることにより、金属多孔体を材料とする吸音材の吸音特性を高めたことに特徴がある。なお、セル数は、JIS−K6400−1 付属書1に基づき測定した値である。このような金属多孔体は、例えば、発泡樹脂に対し、金属粉末及び金属酸化物粉末を含むスラリーを含浸することによって塗着した後、焼結することにより製造することができる。このような製造方法を用いると、発泡樹脂の通気度やスラリーの粘度を調整することによって所定の通気度を有する金属多孔体を得ることができ、それを材料として用いることで、優れた特性を有する吸音材を容易に得ることができる。
【0014】
金属多孔体を形成する金属は、用途によって、ニッケル、銅、鉄、クロム、チタン、銀、金等の金属及びこれらの合金を用いることができる。自動車のエンジン用の吸音材のように、耐熱性を有する場所で使用する場合は、使用温度より十分融点の高い金属を用いて金属多孔体を形成することが好ましい。特にニッケル、鉄、クロム及びこれらの合金は、1400℃という高い融点を有するため、耐熱性に優れているので好ましい。
【0015】
本発明に用いる金属多孔体は、多数の微小なワイヤー状及び/又は膜状の金属がお互いに接続したものである。これらの金属の間には、微小な空隙を有する。このような金属多孔体は、繊維などと比べると、その形状を変えるには一定の力が必要であり、所望の形態を有する構造体として、一定の形を保つことができる。
【0016】
多孔体構造では、その内部での気体の自由な通過が妨げられる。多孔体の両端の気体に所定の差圧がある場合、多孔体内部を単位面積、単位時間あたり通過する気体の体積を通気度という。本発明及び本明細書で用いる通気度とは、厚さの20mmの多孔体に対して、JIS L1096:1999 8.27.1 A法(フラジール形法)により測定した値をいう。
【0017】
本発明の発明者らは、鋭意、研究を重ねた結果、金属多孔体の通気度と吸音特性との間には密接な関係があることを見出した。具体的には、金属多孔体製吸音材は、金属多孔体の通気度を10〜50cm/cm/秒、好ましくは15〜40cm/cm/秒、さらに好ましくは15〜30cm/cm/秒とした場合に、優れた吸音特性を示すことができる。
【0018】
吸音特性は、JIS−A1405−1998に規定する吸音率(垂直入射吸音率)を測定することにより評価することができる。この規定による周波数3000Hzにおける吸音率が70%以上である場合には、吸音特性が優れているといえる。また、周波数3000Hzにおける吸音率が90%以上である場合には、吸音特性がより優れているといえる。また、周波数3000〜5000Hzにおける吸音率が全て70%以上である場合には、吸音特性がさらに優れているといえる。また、周波数3000〜5000Hzにおける吸音率が全て90%以上である場合には、吸音特性が特に優れているといえる。
【0019】
なお、製造条件によっては、製造した金属多孔体内部に多孔体構造が形成されなかった部分(「巣」という)が存在するために、見かけ上、金属多孔体の通気度は本発明の範囲内であるのにもかかわらず、吸音特性は不良となる場合がある。本発明に用いられる金属多孔体は、全体にわたってほぼ同様な多孔体構造を有するものであり、本発明及び本明細書の通気度とは、そのような多孔体構造を有するものに対する測定値である。
【0020】
本発明の金属多孔体製吸音材の材料である金属多孔体は、所定の通気度を有するように製造することが必要である。そのために、発泡樹脂に対し、金属粉末及び/又は金属酸化物粉末を含むスラリーを含浸させることで発泡樹脂の骨格表面に金属粉末を塗着させ、場合により乾燥し、その後、焼結するという製造方法を用いることができる。
【0021】
発泡樹脂の材料として、ポリウレタンフォーム、ポリビニルアルコール発泡体等を用いることができるが、セル数のコントロールが容易であり、金属含浸加工性に優れるポリウレタンフォームを用いることが好ましい。本発明のポリウレタンフォーム(PUフォーム)は、例えば、少なくともポリオール成分、ポリイソシアネート成分及び発泡剤、必要により整泡剤、触媒、架橋剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤等の添加剤を含有するウレタンフォーム原料組成物を、ワンショット法などの公知の製造方法によって反応及び発泡させることによって得ることができる。例えば、ワンショット法では、各成分をミキシングチャンバーに加えると同時に、強力な攪拌によって混合し、ポリウレタンフォームを製造する。
【0022】
ポリウレタンフォームの密度、引裂強さ及びセル数は、ポリオール成分、ポリイソシアネート成分、発泡剤及び整泡剤の種類、添加量及び原料攪拌度合いなどや、ミキシングチャンバー、原料供給タンク及び配管の圧力等を調整することによって制御可能である。
通常、従来の金属多孔体は、電極基板、触媒担持体やフィルターに使用されるものであり、その場合に用いられるポリウレタンフォームは、いわゆる脱膜ポリウレタンフォームが使用される。
【0023】
脱膜ポリウレタンフォームとは、爆発法(熱処理法)、アルカリ処理法等を用いてポリウレタンフォームセル中に存在する膜状の樹脂部分を除去したものである。なお、爆発法(熱処理法)とは、圧力容器中にポリウレタンフォームを充填し、水素及び酸素を混合した爆発性ガスに添加することによって、瞬間的に膜を除去する方法であり、アルカリ処理法とは、ポリウレタンフォームを一定の条件下、例えば水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬させて膜を除去する方法である。通常は、爆発法を用いた脱膜ポリウレタンフォームが金属多孔体用に使用されている。
【0024】
ポリウレタンフォームは、上記脱膜処理により通気度が上昇する。本発明の吸音材に用いる金属多孔体の通気度は50cm/cm/秒以下であることが必要であり、脱膜処理をした場合には通気度が必要以上に高くなるおそれがある。さらに、脱膜処理を行なった場合には、ポリウレタンフォームを後処理にて脱膜加工する必要が生じ、生産性の低下も生じる。そのため、本発明では、好ましくは後処理による脱膜を行わない、未脱膜ポリウレタンフォームを用いる。さらには、アルカリ処理法により脱膜加工を行い、アルカリ処理時間を短縮することにより、完全な脱膜を行わず、中間状態の脱膜として通気度を調整した、中間脱膜ポリウレタンフォームを用いることもできる。
【0025】
本発明の吸音材に用いる金属多孔体の通気度を所定の値とするための方法の一つとして、本発明のポリウレタンフォームのセル数を制御することができる。また、セル数が小さすぎる(セルの径が大きい)と、多孔体の空隙が大きすぎ、所望の吸音特性を得ることができない。また、セル数が大きくなる(セルの径が小さくなる)と金属分散スラリーがポリウレタンフォーム中に未含浸の部分が発生し焼結後に巣が生じる等、金属含浸加工性が極端に低下してしまうので好ましくない。そのため、ポリウレタンフォームのセル数は、20〜80個/25mmが好ましく、25〜60個/25mmがより好ましい。なお、セル数は、JIS−K6400−1 付属書1に基づき測定した値である。
【0026】
ポリウレタンフォームの脱膜状態とセル数を適切な値とすることにより、ポリウレタンフォームの通気度を制御することができる。通気度を所定の値とすることにより、本発明の吸音材に用いる金属多孔体の通気度を所定の値とすることができる。ポリウレタンフォームの通気度の好ましい範囲は、10〜90cm/cm/秒であり、さらに好ましい範囲は、15〜75cm/cm/秒である。
【0027】
次に、ポリウレタンフォームなどの発泡樹脂に対し、金属粉末及び/又は金属酸化物粉末を含むスラリーを含浸させる。
【0028】
この金属多孔体製造方法で用いる金属粉末の平均粒径は1〜10μmであり、酸化物粉末の平均粒径は0.1〜5μmである。金属粉末は平均粒径が1μm以上のものは製造コストが比較的安く、また爆発等の危険を避けることができるため、取扱いが容易である。また10μm以下の場合は発泡樹脂の骨格に塗着した際に厚さが均一になることができる。金属酸化物粉末は、平均粒径が、0.1μmが粉砕限界に近く、また5μm超の場合は発泡樹脂の骨格に塗着した際に厚さの均一度をさらに高めることができる。
【0029】
この金属多孔体製造方法において、金属粉末及び金属酸化物粉末の両方を用いる場合、スラリーに混合する金属酸化物粉末は、金属粉末に比べて平均粒子径が小さいものを用いる。この平均粒子径が小さい金属酸化物粉末の粒子は、スラリーを発泡樹脂の骨格に塗着した際に、平均粒子径が大きい金属粉末の粒子の隙間を埋めて、発泡樹脂の骨格に金属と酸化物の密度が高く、かつ厚さが均一な塗着層を形成することができる。また、この金属と酸化物の密度が高い塗着層は、金属の密度が高いために、焼成されて金属多孔体になった場合に金属多孔体を構成する緻密な骨格となることができる。
【0030】
この金属多孔体製造方法において、金属粉末と金属酸化物粉末の混合粉末は、金属粉末(重量):金属酸化物粉末(重量)が7:3〜1:9の混合割合、さらに好ましくは5:5〜1:9の混合割合となるように調整する。金属酸化物粉末の混合割合がこれよりも少ない場合には、金属粉末の粒子の隙間を埋める金属酸化物粉末が不足し、塗着したスラリーの密度が不十分となるという問題が生じることがある。また、金属酸化物粉末の割合がこれよりも多い場合には、金属多孔体の骨格自体が多孔体となり、脆くなるという問題が生じることがある。
【0031】
この金属多孔体製造方法では、金属粉末又は金属酸化物粉末、若しくは金属粉末と金属酸化物粉末との混合粉に分散媒を加えてスラリーを形成する。所望の金属多孔体を得るためには、スラリーの粘度を所定の範囲に調整することが必要である。通常、スラリーの粘度は、300〜1000cpのものを用いる。300cp未満では金属粉末が沈降してしまい分散性が低下するためであり、1000cpを越える場合、発泡樹脂への含浸性が低下するためである。好ましいスラリーの粘度は、500〜900cpである。分散媒としては、粘度が10〜10,000cpの液状フェノール樹脂とアルコール系希釈剤を含むものを用いてもよいが、アルコール系希釈剤を含まない低分子化合物の水溶性フェノール樹脂を用いると、発泡樹脂の膨潤が少なく、空孔の大きさが揃った金属多孔体が得られる。混合粉末60〜80重量部と分散媒20〜40重量部により、粘度が300〜1000cpのスラリーを形成することができる。発泡樹脂の骨格へのこのスラリーの塗着は、例えばスラリー中に発泡樹脂を含浸することにより行う。
【0032】
スラリーを塗着した発泡樹脂は、必要に応じて乾燥し、その後、焼成する。乾燥は、室温に例えば2時間放置することにより行い、焼成は、例えばニッケルの場合、水素気流中に650℃で10分間焼成した後、さらに水素気流中で1050℃にて15分間焼成することにより行う。この焼成に際しては先ず発泡樹脂が熱分解し消失し、次に金属粉末が焼結する。金属酸化物粉末は、金属粉末の焼結と併行して還元され、焼結する。
【0033】
また、発泡樹脂に金属を塗着する方法は、以下の方法を単独で、又は複数の組合せで用いてもよい。
a)発泡樹脂に導電処理をした後、電気メッキ処理を行なう。
b)発泡樹脂に無電解メッキをした後、さらに電気メッキ処理を行なう。
c)発泡樹脂に物理蒸着メッキした後、さらに電気メッキ処理を行なう。
d)発泡樹脂に金属粉を含む塗料のペーストを塗装した後、焼結する。
e)発泡樹脂に金属化合物を含む塗料のペーストを塗装した後、還元焼結する。
f)発泡樹脂に物理又は化学気相蒸着法により、金属若しくは金属化合物を被覆した後、焼結若しくは還元焼結する。
【0034】
上記のような金属多孔体の製造を適切な条件で行うことにより、通気度が10〜50cm/cm/秒である金属多孔体を得ることができる。金属多孔体の通気度がこの範囲の場合あると、吸音特性に優れた吸音材として用いることができる。なお、金属多孔体のセル数は、金属多孔体製造に用いた発泡ポリウレタンフォームのセル数とは必ずしも一致しない。すなわち、金属多孔体の製造時の焼結・冷却・乾燥工程において、全体が収縮するために、セル径が小さくなり、結果的にセル数は増加するためである。製造条件にもよるが、金属多孔体のセル数は、ポリウレタンフォームのセル数の大略1.1〜3.0倍程度まで増加する。
【0035】
金属多孔体は、所定の吸音材として使用するために、所定の形状及び大きさに成形される。金属多孔体の製造のために上記の方法を用いた場合、金属多孔体の形状及び大きさは、発泡樹脂の形状及び大きさに依存するため、最終的な吸音材の形状及び大きさを考慮に入れた上で、所定の形状及び大きさの発泡樹脂を用いることが好ましい。製造された金属多孔体が吸音材として用いられる形状及び大きさと同じであれば、金属多孔体の製造後の成形を省くことができる。
【0036】
このようにして得られた金属多孔体を材料とする吸音材は、吸音特性に優れ、耐熱特性が良好であり、良好な熱伝導性を有するので、高い耐熱性、放熱性が要求されるような防音のための用途に用いることが好ましい。このような用途は、例えば、自動車のエンジンや排気マフラの近傍の吸音材、ボイラ等から排出される蒸気等の高温の排気ガスを排出する排気塔などである。さらに、本発明の吸音材は、所望の形態を有する構造体を形成することができるので、構造的にしっかりしており、繊維等を用いた場合のように、吸音材を保持するための容器が基本的には不要であるという利点も有する。
【0037】
特に、本発明の金属多孔体製吸音材を、内燃機関やその排気管等の防音材として用いる場合には、内燃機関等が高温になるにも関わらず、その熱を逃がしながら、騒音の発生を低減することができる。このように、本発明の金属多孔体製吸音材を防音材として用いると、騒音が低減され、安定した運転を行うことのできる内燃機関を得ることができる。また、このような内燃機関を用いることにより、騒音の発生を低減した乗用車、トラック、バス等の自動車を得ることができる。本発明の吸音材は、所望の形態を有する構造体を形成することができることから、自動車のようにスペースに余裕のない機械装置であっても、エンジン等の騒音源の少なくとも一部を取り囲むような形状した防音材とすることが容易である。
【実施例】
【0038】
以下、本発明の実施例を記載するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0039】
金属多孔体の製造方法
発泡樹脂に対し、金属粉末及び金属酸化物粉末を含むスラリーを含浸させることで発泡樹脂の骨格表面に金属粉末を塗着させ、場合により乾燥し、その後、焼結することにより、金属多孔体の試料を作製した。その際、表1に示すように、セル数、脱膜処理の方法(脱膜度)及びスラリーの粘度の異なった試料を実施例及び比較例として作製した。
【0040】
発泡樹脂はポリウレタンフォームを用い、表1に示すように、厚さ20mmで所定のセル数を有するポリウレタンフォームを用いた。このポリウレタンフォームに対して、表1に示すような脱膜処理を行なった。なお、表中、「未脱膜」とは、脱膜処理を全く行なわなかったもの、「脱膜」とは爆発法を用いて完全に脱膜を行ったもの、「中間脱膜」とは、アルカリ処理法を用いた脱膜であり、脱膜処理の条件を制御することで脱膜を不完全に行ったため、膜がある程度残っているものをいう。中間脱膜の「(中)」および「(大)」は、脱膜の程度を示し、「(中)」より「(大)」の方の脱膜が進んでいる(アルカリ処理時間が長い)ことを表す。また、通気度はJIS−L−1096:1999 8.27.1 A法(フラジール形法)により測定した。
【0041】
ポリウレタンフォームに含浸させるスラリーは、下記の材料を用いて作製した。
金属粉末: ニッケル
金属粉末の平均粒径: 200メッシュ
なお、分散媒の量を調節することにより、スラリー粘度が700cp(低粘度)及び1200cp(高粘度)の2種類のスラリーを作製した。
【0042】
ポリウレタンフォームの骨格へのこのスラリーの塗着は、スラリー中にポリウレタンフォームを含浸することにより行なった。
【0043】
スラリーを含浸したポリウレタンフォームの乾燥は、室温に例えば2時間放置することにより行なった。乾燥後、水素気流中において650℃で10分間焼成した後、さらに水素気流中において1050℃にて15分間焼成して、金属多孔体を得た。
【0044】
【表1】

【0045】
上記のようにして作製した金属多孔体の性能の測定結果を、表2に示す。
通気度:JIS−L−1096:1999 8.27.1 A法(フラジール形法)により測定した。
見掛密度:JIS−K−7222:2005に準じて測定した。
圧縮強度:作製した金属多孔体を、それぞれ50mm×50mm×厚み20mmにカットし、厚み方向に対して圧縮速度5mm/分にて、15mm圧縮したときの荷重を測定した。得られた荷重(N)を、荷重を加えた面の表面積(2500mm)で割ることにより圧縮強度(MPa)を算出した。
曲げ強度:作製した金属多孔体を、それぞれ幅20mm×厚み15mm×長さ100mmにカットし、3点曲げ試験を実施した。2点のスパン(支点間距離)は80mmで、曲げ試験速度1mm/分での最大荷重から、下記計算式を用いて曲げ強度を算出した。
曲げ強度(MPa)=3LF/2WT
式中、Lは支点間距離(mm)、Fは最大荷重(N)、Wは試験片の幅(mm)、Tは試験片の厚み(mm)である。
吸音特性:JIS−A−1405:1998に規定の吸音率(垂直入射吸音率)を測定した。その結果、周波数3000Hzにおける吸音率が、50%より小さい場合を×、50%以上70%未満を△、70%以上85%未満を○、85%以上を◎として、表2に記載した。
【0046】
表2において、比較例1及び比較例6は、ポリウレタンフォームの脱膜を行なわなかったため、高粘度のスラリーを含浸できず、金属多孔体を得ることができなかった。比較例2、4及び5は、金属多孔体の通気度が50cm/cm/秒より大きいため、良い吸音特性を得ることができなかった。比較例3は、外観上は特に変わりはないが、内部に多孔体構造が形成されなかった部分(巣)が存在したため、通気度測定は不正確となり測定不能とした。
【0047】
それに対して、本発明の実施例は、金属多孔体の通気度が10〜50cm/cm/秒の範囲にあるため、優れた吸音特性を示した。
【0048】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
通気度が、10〜50cm/cm/秒であり、セル数が20〜250個/25mmである金属多孔体製吸音材。
【請求項2】
金属粉末及び/又は金属酸化物粉末を含むスラリーを、発泡樹脂に含浸することによって塗着した後、スラリーを塗着した発泡樹脂を焼結することにより製造される、請求項1記載の金属多孔体製吸音材。
【請求項3】
前記発泡樹脂が、10〜90cm/cm/秒の通気度を有し、スラリーが、300〜1000cpsの粘度を有する、請求項2記載の金属多孔体製吸音材。
【請求項4】
前記発泡樹脂が、20〜80個/25mmのセル数を有する、請求項2又は3記載の金属多孔体製吸音材。
【請求項5】
前記発泡樹脂が、ポリウレタンフォームである、請求項2〜4のいずれか1項記載の金属多孔体製吸音材。
【請求項6】
金属粉末及び/又は金属酸化物粉末を含むスラリーを、発泡樹脂に含浸することによって塗着させる工程と、スラリーを塗着した発泡樹脂を焼結する工程とを含む、金属多孔体製吸音材の製造方法。
【請求項7】
前記発泡樹脂が、10〜90cm/cm/秒の通気度を有し、スラリーが、300〜1000cpsの粘度を有する、請求項6記載の金属多孔体製吸音材の製造方法。
【請求項8】
前記発泡樹脂が、20〜80個/25mmのセル数を有する、請求項6又は7記載の金属多孔体製吸音材の製造方法。
【請求項9】
前記発泡樹脂が、ポリウレタンフォームである、請求項6〜8のいずれか1項記載の金属多孔体製吸音材の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜5のいずれか1項記載の内燃機関用金属多孔体製吸音材。

【公開番号】特開2008−242125(P2008−242125A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−83396(P2007−83396)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【出願人】(000001096)倉敷紡績株式会社 (296)
【出願人】(594172765)株式会社安達工業 (3)
【Fターム(参考)】