説明

金属微粒子とその製造方法とその含有組成物ならびにその用途

【課題】金属ナノロッドを簡易にかつ大量に製造することができ、しかも粒径の調整が容易な製造方法と、この製造方法によって得た金属微粒子を提供する。
【手段】水溶液中で金属イオンを化学的に還元することによってロッド状の金属微粒子を製造する方法において、還元能を有するアミン類と、実質的に還元能を有さないアンモニウム塩とを含有する水溶液を用い、アミン類の弱い還元力をアンモニウム塩の界面活性作用の存在下で利用することによって、金属ナノロッドが緩やかに生成する反応場を形成することによって、目的の光吸収特性を有する金属ナノロッドを容易に得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長軸が400nm以下、短軸が15nm以下であって、アスペクト比が1より大きいロッド状の金属微粒子(以下、金属ナノロッドと云う)と、その新規製造方法、およびその含有組成物、並びにその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
金属の微粒子に光を照射するとプラズモン吸収と呼ばれる共鳴吸収現象が生じる。この吸収現象は金属の種類と形状によって吸収波長が異なる。例えば、球状の金微粒子が水に分散した金コロイドは530nm付近に吸収域を持つが、微粒子の形状を短軸10nmのロッド状にすると、ロッドの短軸に起因する530nm付近の吸収の他に、ロッドの長軸に起因する長波長側の吸収を有することが知られている(非特許文献1)。
【0003】
金属ナノロッドの合成方法として、電気化学的方法(非特許文献2)、化学的方法(非特許文献3)光化学的方法(非特許文献4)が従来から知られている。また、塗料や樹脂組成物の着色材として形状が球状の貴金属微粒子を作製する方法として、貴金属の化合物を溶媒に溶解し、高分子量分散剤を添加後、還元する方法が知られている(特許文献1)。さらに、金属配線パターンを形成することを目的として、固体表面に担持させたプラズモン吸収する無機微粒子を直径100nm未満およびアスペクト比1以上に成長させた微細ロッドにして使用することが知られている(特許文献2)。
【0004】
電気化学的方法は、アノードより溶出する金属イオンをカソードで還元し、界面活性剤の作用でロッド状微粒子に成長させる方法であり、電解装置、金板、白金板、銀板等の高価な通電用電極、超音波照射器などを必要とし、製造できる量は装置の大きさによって制限されるため、大量生産には不向きである。また、超音波照射器の劣化や、銀の溶出量によって金属ナノロッドのアスペクト比が左右され、再現性が不調な傾向がある。
【0005】
化学的方法は、まず成長核となる微細な金属種を調整し、別に調整した成長液に金属種を添加してロッド形状に成長させる方法であり、種の可使時間が数時間単位と短く、2段階ないし3段階と段階的に金属微粒子を成長させる煩雑な操作を必要とし、さらに再現性が得られ難く、製造できる金属ナノロッドの濃度も低いと云う問題がある。
【0006】
光化学的方法は界面活性剤含有溶液中の金属イオンに紫外線を長時間照射し、金属ナノロッドを生成させる方法であり、紫外線露光器などの高価な機器を必要とし、また製造できるのは光照射している範囲に限定されるため、製造量に制限があり大量生産に向かない。
【0007】
特許文献1の製造方法では、還元剤としてアミン類を使用する例が示されているが、界面活性剤と併用するものではなく、また高分子量型の分散剤を添加しているが、これは生成した貴金属微粒子の保護コロイドとして使用しており、貴金属微粒子を形成するときの軸方向の成長を制御するものではない。従って、製造される貴金属微粒子は球状微粒子であり、ロッド状の金属微粒子は得られない。そして、この製造方法によって得られる球状金微粒子のプラズモン発色は青、青紫、赤紫等であり、また球状銀微粒子の場合は黄色であり、これらの吸収は金の場合530nm付近、銀の場合400nm付近に限定され、使用可能な色は限られている。
【0008】
さらに、従来の製造方法において、固体表面で金属微粒子を成長させるものは、この金属微粒子が固体表面に担持された状態であるため各種溶媒、バインダーに分散させることができず、塗料化することができない。
【非特許文献1】S-S.Chang et al,Langmuir,1999,15,p701-709
【非特許文献2】Y.-Y. Yu, S.-S. Chang, C.-L. Lee, C. R. C. Wang, J. Phys. Chem. B, 101, 6661 (1997)
【非特許文献3】N.R.Jana, L.Gearheart, C.J.Murphy, J. Phys. Chem. B, 105, 4065 (2001)
【非特許文献4】F.Kim, J.H.Song, P.Yang, J. Am. Chem. Soc., 124, 14316 (2002)
【特許文献1】特開平11−80647号公報
【特許文献2】特開2001−064794号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来の製造方法における上記問題を解決したものであって、金属ナノロッドを簡易にかつ大量に製造することができ、しかも粒径の調整が容易な製造方法と、この製造方法によって得た金属微粒子を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば以下の構成からなる金属微粒子の製造方法が提供される。
〔1〕水溶液中で金属イオンを化学的に還元することによってロッド状の金属微粒子を製造する方法において、還元能を有するアミン類と、実質的に還元能を有さないアンモニウム塩とを含有する水溶液を用い、該アンモニウム塩の存在下で上記アミン類によって金属イオンを還元することを特徴とする金属微粒子の製造方法。
〔2〕上記(1)の方法において、アミン類と併用するアンモニウム塩として次式(1)で示す4級アンモニウム塩を用いる金属微粒子の製造方法。
CH3(CH3)n+(CH3)3Br- (n=1〜17の整数) …式(1)
〔3〕上記(1)または(2)の方法において、アンモニウム塩と併用するアミン類として次式(2)〜(3)によって示される1種または2種以上のアルキルアミンまたはアルカノールアミンを用いる金属微粒子の製造方法。
NR3 (R:Cn2n+1 n=1〜8の整数) …式(2)
N(ROH)3 (R:Cn2n n=1〜8の整数) …式(3)
〔4〕上記(3)の方法において、アミン類として、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、または2,2',2''−ニトリロトリエタノールを用いる金属微粒子の製造方法。
〔5〕上記(1)または(2)の方法において、アンモニウム塩と併用するアミン類として次式(4)〜(5)によって示される1種または2種以上のアルキルアミンを用いる金属微粒子の製造方法。
2NR (R:Cn2n+1 n=1〜8の整数) …式(4)
HNR2 (R:Cn2n+1 n=1〜8の整数) …式(5)
〔6〕式(1)によって示されるアンモニウム塩の水溶液中の濃度が0.01〜1.0mol/Lである上記[2]〜[5]の何れかに記載する金属微粒子の製造方法。
〔7〕式(2)〜(5)によって示されるアミン類の水溶液中の濃度が0.001〜10wt%である上記[2]〜[6]の何れかに記載する金属微粒子の製造方法。
〔8〕式(2)〜(5)によって示されるアミン類の電離指数(pka値)が7.0〜12.5である上記[2]〜[7]の何れかに記載する金属微粒子の製造方法。
〔9〕 アミン類とアンモニウム塩の濃度を調整することによって粒子径を制御する上記[1]〜[6]の何れかに記載する金属微粒子の製造方法。
〔10〕 上記アミン類およびアンモニウム塩を含有する水溶液にケトン類を添加し、金属微粒子のアスペクト比を調整する上記[1]〜[8]の何れかに記載する金属微粒子の製造方法。
【0011】
また、本発明によれば以下の構成からなる金属微粒子とその用途が提供される。
〔11〕上記[1]〜[10]の何れかの方法によって製造された、長軸が400nm以下、短軸が15nm以下であってアスペクト比が1より大きいロッド状の金属微粒子。
〔12〕上記[1]〜[10]の何れかの方法によって製造され、かつ非水溶媒に親和性のある側鎖を有する非水分散剤によって表面処理された金属微粒子。
〔13〕上記[1]〜[10]の何れかの方法によって製造され、かつ金属微粒子表面のアンモニウム塩残留量が、金属微粒子100重量部に対して15重量部以下に除去ないし低減された金属微粒子。
〔14〕上記[1]〜[10]の何れかの方法によって製造された金属微粒子、または上記[11]〜[13]の何れかに記載された金属微粒子を含有する組成物。
〔15〕金属微粒子と共にバインダー(樹脂)、および分散媒を含有する上記[14]の金属微粒子含有組成物。
〔16〕金属微粒子と共に、染料、顔料、蛍光体、金属酸化物、金属ナノ繊維の1種または2種以上を含有する上記[14]または[15]の金属微粒子含有組成物。
〔17〕上記[14]〜[16]の何れかに記載した金属微粒子含有組成物によって形成された塗料組成物、塗膜、フィルム、または板材の形態を有する光吸収材。
〔18〕上記[1]〜[10]の何れかの方法によって製造された金属微粒子、または上記[11]〜[13]の何れかに記載された金属微粒子を含有する光学フィルター材料、配線材料、電極材料、触媒、着色剤、化粧品、近赤外吸収剤、偽造防止インク、電磁波シールド材、表面増強蛍光センサー、生体マーカー、ナノ導波路、記録材料、記録素子、偏光材料、薬物送達システム(DDS)用薬物保持体、バイオセンサー、DNAチップ、検査薬。
【0012】
〔具体的な説明〕
以下、本発明を実施形態に基づいて具体的に説明する。
本発明の製造方法は、水溶液中で金属イオンを化学的に還元することによってロッド状の金属微粒子を製造する方法において、還元能を有するアミン類と、実質的に還元能を有さないアンモニウム塩とを含有する水溶液を用い、該アンモニウム塩の存在下で上記アミン類によって金属イオンを還元することを特徴とする金属微粒子の製造方法である。
【0013】
一般にアミン類は弱い還元力を有するが、本発明はアミン類の弱い還元力をアンモニウム塩の界面活性作用の存在下で利用することによって、金属ナノロッドが緩やかに生成する好適な反応場を提供し、従来報告されている粒子径よりも微細な金属ナノロッドを製造できるようにしたものである。
【0014】
アミン類と併用するアンモニウム塩は、例えば、次式(1)で示す4級アンモニウム塩が用いられる。
CH3(CH3)n+(CH3)3Br- (n=1〜17の整数) …式(1)
この4級アンモニウム塩は水溶性の陽イオン性界面活性剤であり、水に溶解した場合、その濃度によって様々な会合体(ミセル)を形成することが知られている。一般に、このアンモニウム塩の濃度が上昇するのに比例して、球状ミセル、棒状ミセル、板状ミセルと変化する。本発明の製造方法では、このアンモニウム塩濃度を調整し、上記ミセル構造の規則性を利用することによって、ロッド状の金属微粒子を球状の金属微粒子よりも優先的に製造する。
【0015】
上記式(1)で示すアンモニウム塩の中では、n=16のヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(CT16AB)が好ましい。CT16AB以外のアンモニウム塩を用いるとCT16ABを用いた場合よりも球状微粒子の生成量が多くなる傾向がある。CT16ABの水溶液濃度は、0.01〜1.0mol/Lが適当であり、好ましくは0.08〜0.80mol/Lの濃度範囲がよい。CT16AB濃度が0.01mol/Lよりも低いと球状微粒子の生成量が多くなり、また併用するアミン類の溶解量が低下する傾向がある。一方、CT16AB濃度が1.0mol/Lよりも大きいと、溶液の粘度が高いため、反応が長時間かかる傾向があり、またコスト的に不利である。
【0016】
アンモニウム塩と併用するアミン類は、例えば、次式(2)〜(5)によって示される1種または2種以上のアルキルアミンまたはアルカノールアミンが用いられる。
NR3 (R:Cn2n+1 n=1〜8の整数) …式(2)
N(ROH)3 (R:Cn2n n=1〜8の整数) …式(3)
2NR (R:Cn2n+1 n=1〜8の整数) …式(4)
HNR2 (R:Cn2n+1 n=1〜8の整数) …式(5)
【0017】
上記アルキルアミンないしアルカノールアミンは、アルキル鎖長が長くなるにつれ疎水性の性質が強くなり、水に溶け難い性質を示すが、上記アンモニウム塩と併用し、このアンモニウム塩の乳化作用を利用して反応水溶液に混合することができる。なお、これらのアミン類は電離指数(pka)が7.0〜12.5の範囲のものが好ましい。
【0018】
上記アルキルアミンないしアルカノールアミンの好ましい例としては、式(2)で示されるpka値が10.0付近のトリアルキルアミン、式(3)で示されるpka値が約7.8の2,2',2''−ニトリロトリエタノールなどが挙げられる。これらのアミン類はその還元速度が球状微粒子の生成を低減し、ロッド状微粒子を優先的に生成するのに適する。
【0019】
上記トリアルキルアミンの具体例としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、トリヘキシルアミンが好ましい。特にこれらのうち、トリエチルアミンは短軸が細く長軸の短いロッド状の金属微粒子を得るのに有利である。また、トリブチルアミンおよびトリペンチルアミンは球状微粒子の生成を抑制してロッド状金属微粒子の収率を高める効果がある。なお、アルキル鎖長がこれ以上大きいと、反応水溶液中への溶解性が低下する傾向がある。また、アルカノールアミンの2,2',2''−ニトリロトリエタノールも球状微粒子の生成を抑制してロッド状金属微粒子の収率を高める効果がある。
【0020】
なお、水素化ホウ素ナトリウム、ヒドラジン、アスコルビン酸などの従来使用されている還元剤は比較的強い還元力を有するために金属イオンの還元が急速であり、粒子径が比較的大きな球状金属微粒子になる傾向が強く、金属ナノロッドを得ることは難しい。
【0021】
これらアミン類の反応水溶液中の濃度は0.001〜10wt%が適当であり、好ましくは0.01〜5.0wt%の濃度がよい。この濃度が10wt%よりも多いと、アンモニウム塩を含む反応水溶液中にアミン類が完全に溶解しないばかりでなく、金属イオンの還元反応が急激に起こり、球状微粒子の生成が多くなる傾向がある。一方、この濃度が0.001wt%よりも少ないと、金属イオンを完全に還元できず、また金属イオンを還元できても長時間を要する傾向がある。
【0022】
アミン類とアンモニウム塩の濃度を調整することによって、金属微粒子の粒子径を制御することができ、従来の粒子径よりも微細な金属ナノロッドを得ることができる。具体的には、アミン類とアンモニウム塩はおのおの上記濃度範囲になるように混合されている。この濃度範囲内で、例えばアミン類の濃度を高めることによって還元力が高まり、合成初期の段階で金ナノロッドへ成長する種微粒子の数が増加し、種微粒子が成長するにつれて合成溶液中の金属イオンが消費されるため、粒子径が微細な段階で成長が停止し、粒子径の微細な金属ナノロッドになる傾向がある。一方、例えばアンモニウム塩の濃度を高めることによって、合成溶液の粘度が高まり、金属イオンの還元反応や金属ナノロッドの成長反応が遅くなるため、大きな粒子径が生成しやすい急激な反応を抑制でき、粒子径の微細な金属ナノロッドになる傾向がある。
【0023】
アミン類とアンモニウム塩を含む反応水溶液には必要に応じて各種添加剤を添加してもよく、特にケトン類の添加により、金属微粒子のアスペクト比を調整することができる。ケトン類の中でもアセトンが最適であり、その添加量は水溶液中で0〜2wt%が好ましい。この添加量が少ないとアスペクト比は小さく、球状微粒子の生成は増える傾向がある。一方、この添加量が多いとアスペクト比は大きくなる。なお、上記添加量が2wt%よりも多いと、アスペクト比は大きくなるが、金属ナノロッドの長軸長さが一定にならない傾向があり、金属ナノロッドの粒子径分布が広くなり、シャープな吸収が得られないばかりでなく、球状微粒子の生成量が増える傾向がある。この他に、銀を添加することによって金属ナノロッドのアスペクト比を調整することができる。
【0024】
本発明の製造方法は、アミン類とアンモニウム塩とを含む水溶液中で金属ナノロッドを製造するので、得られる金属ナノロッドの表面にはアンモニウム塩が吸着している。このアンモニウム塩は親水性であるので、アンモニウム塩が表面に吸着した状態の金属ナノロッドは有機溶媒(非水溶媒)に抽出することが難しい。
【0025】
このアンモニウム塩が表面に吸着した状態の金属ナノロッドを、非水溶媒に親和性のある側鎖を有する分散剤(非水分散剤と云う)で表面処理することによって、非水溶媒中で安定に分散させることができる。このような非水分散剤としては、数平均分子量が100〜10000、好ましくは1000〜3000であって金属ナノロッドに対して吸着性の高い元素、例えば、金属が金、銀、銅の場合、窒素、硫黄の何れかを吸着部位として主鎖中に有し、非水溶媒に親和性のある複数の側鎖を有する高分子化合物が用いられる。なお、数平均分子量が1000未満であると、非水溶媒中での分散安定性が充分ではなく、10000を超えると非水溶媒中への溶解性が低下して安定性が損なわれ、また分散剤自体が不純物となり金属ナノロッドの性能(例えば、電気特性)が低下する。
【0026】
非水分散剤の具体的な市販品の例としては、ソルスパース13940、ソルスパース24000SC、ソルスパース28000、ソルスパース32000(以上、アビシア社製品の商品名)、フローレンDOPA-15B、フローレンDOPA―17(以上、共栄社化学社製品の商品名)、アジスパーPB814、アジスパーPB711(以上、味の素ファインテクノ社製品の商品名)、ディスパービック160、ディスパービック161、ディスパービック162、ディスパービック163、ディスパービック183、ディスパービック184、ディスパービック185(以上、ビックケミー・ジャパン社製品の商品名)などを用いることができる。例えば、ソルスパース24000SCは金属ナノロッドに対して吸着性の高い元素である窒素を吸着部位として主鎖中に多数有し、側鎖は芳香族類、ケトン類、エステル類などの非水溶媒に対して高い溶解性を有するいわゆる〔櫛型構造〕の分散剤であり、この分散剤が金属ナノロッド表面に窒素部位で吸着した状態を形成することによって、金属微粒子が非水溶媒中に安定分散することができる。
【0027】
硫黄を含有する非水分散剤としては、硫黄を含み非水溶媒中に溶解可能なものであればよく、ブタンチオール、ヘキサンチオール、オクタンチオール、デカンチオール、ドデカンチオールなどが用いられる。
【0028】
金属微粒子を非水分散剤で表面処理する方法としては、非水分散剤を非水溶媒に溶解した液を用い、この液を金属ナノロッド水分散液中に添加し、さらに金属ナノロッド表面に吸着しているCTnAB等のアンモニウム塩を溶解ないし脱離させる溶液(脱離液)を添加し、表面のアンモニウム塩を非水分散剤によって置換する方法を適用することができ、この表面処理によって、反応水溶液中で製造した金属ナノロッドを非水溶媒中に抽出することができる。
【0029】
なお、CTnAB等のアンモニウム塩を溶解ないし脱離させる脱離液としては、親水性であってアンモニウム塩の溶解度を高めるものであればよい。このような溶液としては、メタノール、エタノールといったアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類を用いることができる。
【0030】
非水分散剤の使用量は、非水溶媒100重量部に対して0.00001〜20重量部が適当であり、好ましくは0.0001〜10重量部が適当である。この添加量が多過ぎるとコスト的に不利であり、さらに非水分散剤自体が不純物となって金属ナノロッドの性能が低下する。一方、この添加量が少な過ぎると十分な表面処理効果が得られず、金属ナノロッドが非水溶媒中で安定に分散せず、凝集しやすくなる。
【0031】
また、非水溶媒に対する金属ナノロッド水分散液(金属ナノロッド0.3重量部含有)の容量は非水溶媒の0.01〜10倍量が適当であり、0.1〜1倍量が好ましい。金属ナノロッド水分散液の容量が上記範囲内を外れると金属ナノロッドが非水溶媒中に安定に抽出されない。
【0032】
金属ナノロッド表面のアンモニウム塩を低減ないし除去する方法として、上記表面処理のほかに、(イ)貧溶媒添加による沈降法、(ロ)遠心分離等を適用することができる。貧溶媒添加による沈降法は、金属ナノロッドの表面に吸着しているアンモニウム塩の貧溶媒を金属ナノロッド分散液中に添加し、金属ナノロッドを沈降させ、上澄みに抽出されるアンモニウム塩を除去する方法である。遠心分離法は金属ナノロッド分散液を遠心分離機にかけて沈降させ、上澄みに抽出されるアンモニウム塩を除去する方法である。
【0033】
上記表面処理法、貧溶媒による沈降法、遠心分離法を組み合わせることによって、金属ナノロッド表面のアンモニウム塩を効率的に除去することができる。例えば、非水溶媒トルエンに親和性のある非水分散剤を使用して金属ナノロッドの表面処理を行い、少量のトルエン中に金属ナノロッドを抽出し、金属ナノロッドトルエンペーストにすると同時にアンモニウム塩の大部分を除去する。得られたペーストに貧溶媒であるエタノールを添加し、トルエンに親和性のある非水分散剤で被覆された金属ナノロッドを凝集させる。この凝集物の沈降スピードを加速するため遠心分離を行い、金属ナノロッド凝集物を短時間で沈降させる。上記アンモニウム塩はエタノールに溶解するため、上澄みのエタノール層(一部トルエン)にアンモニウム塩が抽出される。この上澄み液を分離して金属ナノロッドを回収する。
【0034】
なお、沈降したトルエンに親和性のある分散剤で被覆された金属ナノロッドは少量のトルエンで再分散するので、有機分を低減したペーストを作製することが可能である。上記処理操作を繰り返すことによって、アンモニウム塩を除去ないし低減した金属ナノロッドを得ることができる。金属ナノロッド100重量部に対し、アンモニウム塩を15重量部以下、好ましくは5重量部以下まで低減させたものが導電性材料として好適である。
【0035】
本発明の上記製造方法によって、例えば、短軸が15nm以下、好ましくは5nm以下の金属ナノロッドを容易にかつ効率よく製造することができる。金属ナノロッドはそのアスペクト比を調整することによって吸収波長域が変化し、金属種が金の場合、可視光(530nm付近)から近赤外域までの幅広い特定吸収波長を示す。
【0036】
本発明の金属ナノロッドは長軸が400nm以下、好ましくは200nm以下である。金属ナノロッドの長軸が400nm以下であると、肉眼で粒子として認識し難く、フィルター用途等で塗布したとき透明性の高い塗膜が得られる。さらに、本発明の金属ナノロッドはアスペクト比(長軸長さ/短軸長さ)が1より大きいロッド状のものである。なお、アスペクト比が1の金属微粒子は球状粒子であり、光吸収域が金の場合は530nm付近、銀の場合は400nm付近に限られ、可視光および近赤外光の任意の波長に対する選択的な吸収効果が得られない。
【0037】
本発明の金属微粒子(金属ナノロッド)を、例えば分散媒と共にバインダー(樹脂)に混合することによって金属ナノロッド含有組成物を得ることができる。バインダー(樹脂)としては、通常塗料用や成型用に利用されている可視光線から近赤外光領域の光に対して透過性がある各種樹脂が特に制限無く使用できる。例えばアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリビニルアルコール、等の各種有機樹脂や、ラジカル重合性のオリゴマーやモノマー(場合により硬化剤やラジカル重合剤開始剤と併用する)、アルコキシシランを樹脂骨格に用いたゾルゲル溶液、などが代表的なものとして挙げられる。
【0038】
本発明の金属ナノロッド含有組成物において、必要に応じて配合する溶媒としては、バインダー(樹脂)が溶解もしくは安定に分散するような溶媒を適宜選択すればよく、具体的には、水、メタノール、エタノール、プロパノール、ヘキサノール、エチレングリコール等のアルコール、エチレングリコール等のアルコール、キシレン、トルエン等の芳香族炭化水素、シクロヘキサン等の脂環式炭化水素、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル、エチレングリコールモノブチルエーテル等のエーテル等、あるいはこれらの混合物が代表的なものとして挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0039】
金属ナノロッドの添加量は、バインダー100重量部に対して、0.01〜1900重量部が適当であり、好ましくは、光学用途ではバインダー100重量部に対して0.1〜50重量部、導電性用途ではバインダー100重量部に対して566〜1900重量部がよい。光学用途の場合、添加量がそれより少ないと吸収が少なく、目的の着色(近赤外域の場合は透過率の低減)が得られない。また添加量がそれより多いと金属ナノロッドどうしが凝集してシャープな吸収が得られない。導電性用途の場合は、金属ナノロッドの添加量がそれより少ないとバインダーの絶縁効果の影響が大きくなるので高い導電特性が得られにくい。また、添加量が多いと金属ナノロッドどうしの凝集が起こりやすく、塗料組成物としての保存安定性が悪くなる。
【0040】
バインダー(樹脂)に配合する金属ナノロッドは、非水溶媒に親和性のある側鎖を有する非水分散剤によって表面処理、あるいは貧溶媒沈降法や遠心分離法などによってアンモニウム塩残留量を低減したものが好ましい。非水分散剤によって表面処理したものは、光学用途の場合、非水分散剤の量は金属ナノロッドに対して5〜50wt%、好ましくは8〜30wt%がよい。この範囲以外では、金属ナノロッドどうしが凝集しやすくなる。また、導電材の用途の場合には、非水分散剤の量は金属ナノロッドに対して8〜15wt%が好ましい。添加量がそれ以上であると導電性が悪くなる。
【0041】
金属ナノロッド含有組成物は、目的に応じて、染料、顔料、蛍光体、金属酸化物、金属ナノ繊維の1種、または2種以上を添加してもよい。さらに必要に応じて、レべリング剤、消泡剤、その他の各種添加剤などを添加してもよい。なお、金属ナノロッドは同一種、または異なる二種ないし三種以上のものを組み合わせて用いることができる。
【0042】
本発明の金属ナノロッド含有組成物は、塗料組成物、塗膜、フィルム、または板材など多様な形態で用いることができ、この光吸収材形成用組成物によって形成されたフィルター層を有する光吸収材を得ることができる。具体的には、例えば、(イ)可視光線・近赤外光を吸収したい基材に直接に塗布もしくは印刷し、可視光線・近赤外光吸収フィルターとしての硬化塗膜を形成させる。(ロ)本発明の組成物をフィルム状や板状等に形成し、その組成物を可視光線・近赤外光吸収フィルターとして可視光線・近赤外光を吸収したい基材に積層もしくは包囲する。(ハ)本発明の組成物によって形成した上記塗膜やフィルムなどの形成物を透明なガラス製もしくはプラスチック製の基材に積層させ、その積層体を可視光線・近赤外光吸収フィルターとして可視光線・近赤外光を吸収したい基材に積層もしくは包囲して用いる。上記各使用形態において、光吸収フィルターの厚さは概ね0.01μm〜1mmが適当であり、コストや光透過性等を考慮すると0.1μm〜100μmが好ましい。
【0043】
本発明の上記組成物によって形成した塗膜やフィルム、板材などをフィルター層として有するものは、例えば、可視光・近赤外光カットフィルム、可視光・近赤外光カットフィルター、または可視光・近赤外光カットガラスなどの耐熱性に優れた光吸収材として用いることができる。
【0044】
本発明の金属ナノロッドは、金属種、粒子形、アスペクト比に応じた波長吸収特性を有する。例えば、金属種が金の場合、アスペクト比によって530nm付近より高い波長でプラズモン吸収特性を有し、また金に基づく高い耐熱性、耐候性、耐薬品性を有するので、光学フィルター材料、高級着色剤、近赤外吸収剤、偽造防止インク用吸収剤、バイオセンサー、DNAチップ、表面増強蛍光センサー用増感剤などの材料として好適である。また、金は生体に安全な材料であることから、食品添加用着色剤、化粧品用着色剤、生体マーカー、薬物送達システム(DDS)用薬物保持体、検査薬などの材料として使用することができる。また、金は高い導電性を示すことから、配線材料、電極材料、電磁波シールド材として使用可能である。この他に、ナノロッドの形状異方性に基づいて偏光材料、記録材料、記録素子、ナノ導波路として使用可能である。さらに、微粒子で表面積が大きいので触媒反応の場を提供する材料として好適である。
【発明の効果】
【0045】
本発明の製造方法は、先に述べたように、アミン類の弱い還元力をアンモニウム塩の界面活性作用の存在下で利用することによって、金属ナノロッドが緩やかに生成する反応場が形成され、従来のものより微細な金属ナノロッドを製造することができ、短軸に起因するプラズモン吸収を格段に抑制することができる。また、本発明の製造方法は、併用するアミン類とアンモニウム塩の混合比を調整することによって金属ナノロッドのアスペクト比を制御することができるので、目的の光吸収特性を有する金属ナノロッドを容易に得ることができる。さらに、本発明の製造方法によれば、金属ナノロッドを簡易にかつ大量に製造することができるので実用に適する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
本発明を実施例および比較例によって以下に具体的に示す。なお、各例は金ナノロッドに関するものであり、主に530nm〜1150nmの波長域における光吸収機能を示しているが、金属ナノロッドの種類や長さ、組成等の条件などを変更することによってそれ以上の高波長の波長域についても同様の光吸収機能を有することができる。なお、分光特性は日本分光株式会社製品のV−570で測定した。比抵抗値は三菱化学株式会社製品のロレスタ−GPで測定した。各例の製造条件と結果を表1〜表3に示した。また、各例で得た金属ナノロッドの光学特性を図1〜図2示した。
【実施例1】
【0047】
0.08mol/Lのヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(CT16AB)水溶液10mlにトリエチルアミン(pka=10.7)0.05mlを添加して溶解した。これにアスペクト比の調整剤として0.01mol/L硝酸銀水溶液0.6mlを添加した。この水溶液に0.024mol/L塩化金酸水溶液を0.8ml添加し、直後にアセトン0.2mlを添加し、30℃で4時間保持した。この結果、短軸約4nm、長軸約20nm、アスペクト比約5、吸収波長ピーク810nm付近の金ナノロッドを得た。
【実施例2】
【0048】
0.56mol/Lのヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(CT16AB)水溶液10mlに、2、2’、2”−ニトリロトリエタノール(pka=7.8)0.10mlを添加して溶解した。これに0.01mol/L硝酸銀水溶液0.42mlを添加した。この水溶液に0.024mol/L塩化金酸水溶液を0.8ml添加し、直後にアセトン0.2mlを添加し、30℃で48時間保持した。この結果、短軸約8nm、長軸約88nm、アスペクト比約11、吸収波長ピーク1150nm付近の金ナノロッドを得た。
【実施例3】
【0049】
0.08mol/Lのヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(CT16AB)水溶液10mlにトリエチルアミン(pka=10.7)0.05mlを添加して溶解した。これに0.01mol/L硝酸銀水溶液0.6mlを添加した。この水溶液に0.024mol/L塩化金酸水溶液を0.8ml添加し、アセトンは添加しなかった。30℃で4時間保持した。この結果、短軸約3.4nm、長軸約6.8nm、アスペクト比約2、吸収波長ピーク658nm付近の金ナノロッドを得た。
【実施例4】
【0050】
0.56mol/Lのヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(CT16AB)水溶液10mlにトリ-n-ブチルアミン0.09mlを添加して溶解した。これにアスペクト比の調整剤として0.01mol/L硝酸銀水溶液0.6mlを添加した。この水溶液に0.024mol/L塩化金酸水溶液を0.8ml添加し、直後にアセトン0.2mlを添加し、30℃で24時間保持した。この結果、短軸約8nm、長軸約49nm、アスペクト比約6、吸収波長ピーク980nm付近の金ナノロッドを得た。
【実施例5】
【0051】
0.56mol/Lのヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(CT16AB)水溶液10mlにトリ-n-ペンチルアミン0.1mlを添加して溶解した。これにアスペクト比の調整剤として0.01mol/L硝酸銀水溶液0.6mlを添加した。この水溶液に0.024mol/L塩化金酸水溶液を0.8ml添加し、直後にアセトン0.2mlを添加し、30℃で48時間保持した。この結果、短軸約8nm、長軸約88nm、アスペクト比約11、吸収波長ピーク1200nm付近の金ナノロッドを得た。
【実施例6】
【0052】
実施例1で製造した金ナノロッド水分散液250重量部に、含窒素分散剤ソルスパース24000SCを1wt%溶解したトルエン100重量部を添加し、3分間攪拌した。この混合液中にエタノール500重量部を添加し、さらに5分間攪拌し、攪拌終了後、24時間静置した。混合液は、下層が透明な水層、上層が金ナノロッドの分散したトルエン層と明確に2層分離した。上層を回収しICPにて金含有量を測定したところ、分散剤で表面処理された金属ナノロッドは非水溶媒中へほぼ抽出されていた。また、保存安定性を確認したところ、90日以上分散安定であった。
【実施例7】
【0053】
実施例1で製造した金ナノロッド水分散液250重量部に、含硫黄分散剤のドデカンチオールを1wt%溶解したn−ヘキサン100重量部を添加し、3分間攪拌した。この混合液中にアセトン500重量部を添加し、さらに5分間攪拌し、攪拌終了後、24時間静置した。混合液は、下層が透明な水層、上層が金ナノロッドの分散したn−ヘキサン層と明確に2層分離した。上層を回収しICPにて金含有量を測定したところ、分散剤で表面処理された金属ナノロッドは非水溶媒中へほぼ抽出されていた。また、保存安定性を確認したところ、90日以上分散安定であった。
【実施例8】
【0054】
実施例4で抽出した金ナノロッドトルエン分散液をエバポレーターでトルエンを除去し、金ナノロッドを5wt%含有するトルエンペーストを作製した。これをTg−DTAで加熱残分を測定したところ、このペーストは25wt%の有機分(CT16AB、ソルスパース24000SC、トリエチルアミン)を含有していた。ペースト100重量部にソルスパース24000SCの貧溶媒であるエタノール100重量部を添加すると、ソルスパース24000SCと金ナノロッドの凝集物が発生した。この溶液を40000Gで30分間遠心分離を行い、凝集物を沈降させ、CT16ABとトリエチルアミンを含有した上澄みのエタノール溶液を除去した。この沈降物をトルエンで再分散し、金ナノロッドを5wt%含有するトルエン分散液を得た。これをTg−DTAで加熱残分を測定したところ、このペーストは0.5wt%まで有機分が減少していた。この金ナノロッドトルエンペーストをバーコーター#40で塗布し、300℃で30分間過熱し、加熱後の塗膜の比抵抗を測定したところ、比抵抗は1×10-5Ω・cmであった。
【実施例9】
【0055】
実施例3で製造した金ナノロッドについて、実施例4と同様の表面処理を行い、さらに、実施例6と同様にペースト化、有機分の除去を行なって残存有機分を0.5wt%にし、この金ナノロッドを5wt%含む金ナノロッドトルエン分散液を得た。この金ナノロッドトルエンペーストをバーコーター#40で塗布し、300℃で30分過熱し、加熱後の塗膜の比抵抗を測定したところ比抵抗は1×10-4Ω・cmであった。
【実施例10】
【0056】
短軸5nm、長軸35nm(アスペクト比7.0、吸収波長ピーク950nm)の金ナノロッド、バインダー、溶媒を表4に示す割合で混合して塗料化し、光吸収形成用組成物を調製した。この塗料をスピンコーターでガラス基板に塗布し、5分間静置後、高圧水銀ランプにて紫外線を照射し硬化させ、光吸収材フィルターを形成した。このフィルターについて透過率を測定した。この結果を表4に示した。また、分光特性を図2に示した。可視光域の透過率は60%と高い透過性を示し、金ナノロッドのプラズモン吸収ピークである950nm付近の透過率は11%と優れたカット率を示した。
【比較例】
【0057】
〔比較例1〕
0.08mol/Lのドデシル硫酸ナトリウム水溶液10mlにトリエチルアミン(pka=10.7)0.05mlを添加して溶解した。これに0.01mol/L硝酸銀水溶液0.6mlを添加した。この水溶液に0.024mol/L塩化金酸水溶液を0.8ml添加し、直後にアセトン0.2mlを添加し、30℃で保持した状態で4時間保管した。この結果、得られた金微粒子はアスペクト比約1の球状金微粒子であり、ロッド状の微粒子は得られなかった。
【0058】
〔比較例2〕
実施例1で製造した金ナノロッド水分散液250重量部に、トルエン100重量部を添加し、3分間攪拌した。この混合液にエタノール500重量部を添加し、5分間攪拌し、攪拌終了後、24時間静置した。生成した金属ナノロッドは非水溶媒中へ殆ど抽出されず、金ナノロッドに吸着していたCT16ABがエタノールによって、金ナノロッド表面から脱離し溶解したため、金ナノロッドどうしが凝集し、容器底に塊状に沈降し、水、非水溶媒中へは再分散しなかった。
【0059】
〔比較例3〕
実施例4で抽出した金ナノロッドトルエン分散液からエバポレータでトルエンを除去し、金ナノロッドを5wt%含むトルエンペーストを作製した。これをTg−DTAで加熱残分を測定したところ、このペーストは25wt%の有機分(CT16AB、ソルスパース24000SC、トリエチルアミン)を含有していた。この金ナノロッドトルエンペーストをバーコーター#40で塗布し、300℃で30分過熱し、加熱後の塗膜の比抵抗を測定したところ導電性は確認されなかった。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【0062】
【表3】

【0063】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】実施例1〜3、比較例1の金微粒子の波長吸収グラフ
【図2】実施例8の金微粒子の波長吸収グラフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶液中で金属イオンを化学的に還元することによってロッド状の金属微粒子を製造する方法において、還元能を有するアミン類と、実質的に還元能を有さないアンモニウム塩とを含有する水溶液を用い、該アンモニウム塩の存在下で上記アミン類によって金属イオンを還元することを特徴とする金属微粒子の製造方法。
【請求項2】
請求項1の方法において、アミン類と併用するアンモニウム塩として次式(1)で示す4級アンモニウム塩を用いる金属微粒子の製造方法。
CH3(CH3)n+(CH3)3Br- (n=1〜17の整数) …式(1)
【請求項3】
請求項1または2の方法において、アンモニウム塩と併用するアミン類として次式(2)〜(3)によって示される1種または2種以上のアルキルアミンまたはアルカノールアミンを用いる金属微粒子の製造方法。
NR3 (R:Cn2n+1 n=1〜8の整数) …式(2)
N(ROH)3 (R:Cn2n n=1〜8の整数) …式(3)
【請求項4】
請求項3の方法において、アミン類として、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、または2,2',2''−ニトリロトリエタノールを用いる金属微粒子の製造方法。
【請求項5】
請求項1または2の方法において、アンモニウム塩と併用するアミン類として次式(4)〜(5)によって示される1種または2種以上のアルキルアミンを用いる金属微粒子の製造方法。
2NR (R:Cn2n+1 n=1〜8の整数) …式(4)
HNR2 (R:Cn2n+1 n=1〜8の整数) …式(5)
【請求項6】
式(1)によって示されるアンモニウム塩の水溶液中の濃度が0.01〜1.0mol/Lである請求項2〜5の何れかに記載する金属微粒子の製造方法。
【請求項7】
式(2)〜(5)によって示されるアミン類の水溶液中の濃度が0.001〜10wt%である請求項2〜6の何れかに記載する金属微粒子の製造方法。
【請求項8】
式(2)〜(5)によって示されるアミン類の電離指数(pka値)が7.0〜12.5である請求項2〜7の何れかに記載する金属微粒子の製造方法。
【請求項9】
アミン類とアンモニウム塩の濃度を調整することによって粒子径を制御する請求項1〜8の何れかに記載する金属微粒子の製造方法。
【請求項10】
上記アミン類およびアンモニウム塩を含有する水溶液にケトン類を添加し、金属微粒子のアスペクト比を調整する請求項1〜9の何れかに記載する金属微粒子の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜10の何れかの方法によって製造された、長軸が400nm以下、短軸が15nm以下であってアスペクト比が1より大きいロッド状の金属微粒子。
【請求項12】
請求項1〜10の何れかの方法によって製造され、かつ非水溶媒に親和性のある側鎖を有する非水分散剤によって表面処理された金属微粒子。
【請求項13】
請求項1〜10の何れかの方法によって製造され、かつ金属微粒子表面のアンモニウム塩残留量が、金属微粒子100重量部に対して15重量部以下に除去ないし低減された金属微粒子。
【請求項14】
請求項1〜10の何れかの方法によって製造された金属微粒子、または請求項11〜13の何れかに記載された金属微粒子を含有する組成物。
【請求項15】
金属微粒子と共にバインダー(樹脂)、および分散媒を含有する請求項14の金属微粒子含有組成物。
【請求項16】
金属微粒子と共に、染料、顔料、蛍光体、金属酸化物、金属ナノ繊維の1種または2種以上を含有する請求項14または15の金属微粒子含有組成物。
【請求項17】
請求項14〜16の何れかに記載した金属微粒子含有組成物によって形成された塗料組成物、塗膜、フィルム、または板材の形態を有する光吸収材。
【請求項18】
請求項1〜10の何れかの方法によって製造された金属微粒子、または請求項11〜13の何れかに記載された金属微粒子を含有する光学フィルター材料、配線材料、電極材料、触媒、着色剤、化粧品、近赤外線吸収剤、偽造防止インク、電磁波シールド材、表面増強蛍光センサー、生体マーカー、ナノ導波路、記録材料、記録素子、偏光材料、薬物送達システム(DDS)用薬物保持体、バイオセンサー、DNAチップ、検査薬。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−118036(P2006−118036A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−148350(P2005−148350)
【出願日】平成17年5月20日(2005.5.20)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(000003322)大日本塗料株式会社 (275)
【Fターム(参考)】