説明

金属感の光沢を有するアルミニウム基金属部材

【課題】梨地肌の少なくとも一部表面を金属感の光沢がある塗装表面とした装飾性の高いアルミニウム基金属部材を提供する。
【解決手段】所定の形状を有し少なくとも一部が凸凹の梨地肌となりかつ少なくとも一部の該梨地肌を構成する該凸凹の凸部の頂部が研磨された鏡面となっているアルミニウム基金属製の金属本体11と、鏡面となっている凸部を持つ梨地肌の部分を含む金属本体11の少なくとも一部表面に一体的に形成されたカラークリアー塗装膜14とを有し、該カラークリアー塗装膜14で覆われた該鏡面を含む部分が金属感の光沢を有する金属感表面となっていることを特徴とするアルミニウム基金属部材。カラークリアー塗装膜14の着色成分により微弱な拡散反射光が吸収され独特の金属感を持つ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
アルミニウムホイール等の装飾的外観をもつアルミニウム基金属部材に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム基金属は、軽量性、加工性、放熱性等の特徴を利用しサッシ、ホイール等に広く使用されている。アルミニウム基金属部材の外観をより装飾性のあるものとするため、ダイキャスト、鋳造等で製造されたアルミニウム部品をバフ研摩等で鏡鏡面とし、さらにクリアーコート膜を形成し耐食性と美観を併せ持つアルミニウム部品としている。アルミニウムホイールにみられるように金属感を出すためにクロムメッキ、アルミ箔を含む塗料での塗装あるいは蒸着加工を施している場合もある。
【0003】
一方、最近の傾向として木材等に見られるように、使用している材料そのものが有している外観を美的に利用することが多くなってきている。この場合には、材料そのものの有している外観を維持するため、透明塗料等を使用して防食加工等を施し耐久性を保つようにしている。
【特許文献1】特開2003−25495号公報
【特許文献2】特開2002−88492号公報
【特許文献3】特開2004−17738号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
装飾性の高いアルミニウム部品等のアルミニウム基金属部材にあっては、常に新たな美観を有するものが求められている。本発明においては、前記メタリック感を有するアルミニウム面と異なる金属感を有し光沢のあるアルミニウム基金属材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者はアルミニウム部品の装飾性を高めるため多くの試行錯誤を繰り返し、梨地肌の表面にバフ研摩等で梨地肌の凸部表面を鏡表面としたアルミニウム製品のその鏡表面にカラークリアー塗装膜を形成することにより、これまでのアルミニウム製品にはなかった金属感の光沢を有するものとなることを確認し本発明を完成させたものである。
【0006】
すなわち、本発明のアルミニウム基金属部材は、所定の形状を有すると共に表面の少なくとも一部が凸凹の梨地肌となりかつ少なくとも一部の該梨地肌を構成する該凸凹の凸部の頂部が研磨された鏡面となっているアルミニウム基金属製の金属本体と、該鏡面となっている該凸部を持つ該梨地肌の部分を含む該金属本体の少なくとも一部表面に一体的に形成されたカラークリアー塗装膜とを有し、該カラークリアー塗装膜で覆われた該鏡面を含む部分が金属感の光沢を有する金属感表面となっていることを特徴とするものである。
【0007】
アルミニウム系金属製の金属本体の梨地肌の鏡表面から出る光がカラークリアー塗膜のカラー成分によりアルミニウム基金属独特の白い輝きが抑制される。そしてカラークリアー塗装膜の透明部分の厚さによりその塗膜の内部から反射光が出るようになり、色彩をもった金属が軟らかな色浅い独特な輝きかたをすることになる。
【0008】
アルミニウム部材は、鋳造、鍛造或いはダイカスト等により所定の形状に形成される。鋳造ではその金型によりアルミニウム部品の表面が梨地肌となり、また凸凹が不均一な表面を均一にするためショットブラストにより梨地肌とすることもある。また鍛造ではその後の切削加工により所定の形状とし、その切削跡を消し表面を均一にするためにショットブラストにより梨地肌としている。ダイカストにおいても同様にその表面を均一にするためショットブラストにより梨地肌とする場合がある。ショットブラストにより方向性のない仕上げ面となり、微細な切削仕上げのき裂等がなくなる等の効果がある。
【0009】
ここで梨地肌とは通常梨地肌として知られる表面に凹凸が有李、その凹凸を視認できるものをいう。
【0010】
本発明の金属本体は、この梨地肌を形成する凸凹部の凸部の頂部をバレル研磨あるいはバフ研磨して鏡面に仕上げ、梨地肌表面の凸部の頂部が小さい鏡面となって分散した表面、あるいは、梨地肌の凹部が鏡面となったマトリックス中に分散した表面を持つ。この研磨の程度により金属感の僅かに異なるものとすることができる。
【0011】
ここで鏡面とはバフ研磨等で磨き上げられた状態の表面をいう。鏡というと一般的にはガラス鏡をいい、ガラス板の銀鏡反応による銀メッキをしその裏面を用いるものをいうが、古来から使用されてきた金属鏡を言う場合もあるる。本発明の鏡面はこの金属鏡を指すものである。鏡は反射光を利用するものであるが、反射光には鏡面反射と拡散反射によるものとがある。鏡面反射は光源の映り込み現象が起き明るく光って見える。鏡面反射では入射光の角度に等しい角度から見たとき最も明るく見え視点の角度がずれるにつれて急激に明るさは低下する。拡散反射では、入射した光が金属表面の微細な傷に入り込みランダムな反射を繰り返したあと再び表面から外に向かって出ていく。金や銅を除いて金属は全てよく似た銀白色をしているが、この白っぽいのは拡散反射のためである。拡散反射では明るさは視線の方向に依存せず拡散反射が強いほどその発色が鮮やかに見える。また光を反射する割合を反射率というが、反射率が高いほど鏡に近くなる。反射率が高いとその物体自体の色は見にくくなり反射率が同じ場合には拡散反射が低いほど鏡に近い感じとなる。
【0012】
本発明はこの原理を利用したものである。すなわちバフ研磨等で磨き上げられた鏡面は微細な傷を持ち入射光の一部は拡散反射する。この拡散反射とカラークリアー塗装膜の着色成分により金属の銀白色は消えてカラークリアーの着色成分の発色がカラクリアー塗装膜の内部より生じているかのように鮮やかに見えることとなる。このようにして少なくとも梨地肌の一部を構成する凸凹部の凸部を鏡面研磨しカラクリアー塗装して、これまでにない有色の金属感のある光沢を有するアルミニウム基金属部材を提供するものである。
【0013】
金属本体の少なくとも梨地肌を構成する凸凹部の凸部を梨地肌の場所により研磨の程度に変化をもたせることも可能である。鏡面は研磨された凸凹部の頂部の鏡面の面積が大きい鏡面部分と面積が小さい鏡面部分とをもちカラークリアー塗装膜で覆われたアルミニウム基金属部材とすることもできる。前述のように拡散反射の程度をかえて変化を持たせ意匠性を高めるものである。
【0014】
本発明のアルミニウム基金属部材は、そのカラークリアー塗装上にクリアー塗装膜からなるトップコート塗装膜を持つものでも良い。トップコート塗装膜により深いところから反射光が生じている感じとなり、またトップコート塗装膜に紫外線吸収剤を配合し、カラークリアー塗装膜を紫外線から護る作用を持たせることができる。
【0015】
また、アルミニウム基金属部材の金属本体の鏡表面とカラークリアー塗装膜の間にプライマー塗装膜を設けることもできる。プライマー塗装膜により金属本体とカラークリアー塗装膜との密着性が向上する。
【0016】
プライマー層、トップコート層も透明性を有することが必要である。
【0017】
本発明のアルミニウム基金属部材としてはアルミホイール、アルミシリンダー、ボトムケース等の装飾性が要求されるアルミ部品をあげることができる。
【0018】
カラークリアー塗装膜の色彩は、自由に選択することができる。
【0019】
本発明のアルミニウム基金属部材は、金属本体とカラークリアー塗層膜とを有する。金属本体はアルミニウム基金属製で所定の形状を有しかつ少なくとも表面の一部が梨地肌であり、その梨地肌を構成する凸凹部の凸部の少なくとも一部が鏡面となっているものをいう。アルミニウム基金属とはアルミニウム及びアルミニウムを主成分とするアルミニウム合金をいう。所定形状を有しとは、鋳造、鍛造、ダイキャスト、機械加工、押出加工等により所定の形状に形成されていることをいう。板材や所定の断面をもつ押し出し材も含まれる。具体的には、アルミホイールの形状、シリンダーの筒状、燃料タンク等が所定形状に該当する。
【0020】
アルミニウム部品とはアルミニウム基金属製で所定の形状を有するものをいう。
【0021】
梨地肌は一般的にはショットブラストにより形成される。サンドブラストは海砂、けい砂等を圧縮空気と共にノズルから吹き付けて加工する加工法である。砂類でなく鋼粒子を用いることがありそれをショットブラストともいう。アルミニウム基金属本体は、その表面の少なくともその一部が梨地肌であれば、その加工法はショットブラスト、サンドブラスト、液体ホーニングその他加工の方法は問わない。
【0022】
鏡表面とはバフ研磨等で磨き上げられた状態の表面をいう。鏡のように顔が映る状態であることが好ましい。
【0023】
なお、鏡表面は、バフ研磨、バレル研磨等の研磨方法で得られる鏡表面に限定されない。機械加工、その他の方法であれ表面が円滑で通常のバフ研磨と同質及びそれ以上の平滑なものであれば良い。
【0024】
前処理とは、塗装工程の前にある工程をいう。研磨で付着した金属粉を除去し、脱脂・水洗、化成処理・水洗等を施す工程をいう。化成処理には、クロメート処理あるいはノンクロメート処理などがある。
【0025】
カラークリアー塗装膜は、クリアー塗料に着色剤を入れたカラークリアー塗料を塗布して得られる塗装膜である。この塗装膜は色つきの透明膜ということができる。着色剤としては、顔料、染料を使用することができる。顔料、染料のビヒクルに対する配合割合は使用する色彩により異なり、好みに応じて自由に選択することができるし、カラークリアー塗装膜の膜厚は必要とされる透明度により自由に選択することができる。
【0026】
なお、カラークリアー塗装膜は紫外線吸収剤の成分を含んでいても良い
【発明の効果】
【0027】
本発明のアルミニウム基金属部材はその表面の一部が金属感のある光沢を有しかつ梨地肌の研磨の程度によりなだらかな模様状となりカラークリアー塗装膜の内部より反射光が生じているように見え色彩を有するものである。この金属感の光沢はこれまでのメッキ等の使用と異なり素材そのものの性質から生ずるものであり、その光沢には柔らかさがあり高級感を有するものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明の代表的な実施例を下記に説明する。
【実施例1】
【0029】
本実施例のアルミニウム基金属部材であるアルミニウムホイール1の平面図を図1に、要部断面拡大図を図2に示す。このアルミニウムホイール1はアルミニウム合金製の金属本体11とクロメート処理層12とプライマー層13とカラークリアー塗装膜14とからなる。
【0030】
金属本体11は加工用アルミニウム合金を金型を用いて重力鋳造したもので、ハブ部111とスポーク部112とフランジ部113とから構成されている。スポーク部112はその中央部に長手方向に延びる中央溝114を持つ。この金属本体11は次のようにして調製した。
【0031】
まず鋳物の状態から前側(表側)の表面全体をステンレス製の粒度約0.8mmの粒子を空気圧1〜2Kg/cm2にて約3分間ショットブラスト処理しアルミニウムホイールの表側を全面梨地肌とした。次に中央溝114を除く、ハブ部111、スポーク部112及びフランジ部113の表面を約10分間バレル研磨し、梨地肌を構成する凹凸部の凸部の先端部を研磨して頭部のみが幾分平らな鏡面とした。さらにスポーク部112の表面をバフ研磨し、ほぼ平らな鏡面とした。スポーク部112の中央溝114はバレル研磨、パフ研磨を受けておらず梨地肌に近い表面を残した。
【0032】
このようにして得られた金属本体11より金属粉等の研磨くずを除去し、アルカリ脱脂・水洗、クロメート処理・水洗し、クロメート処理層12を形成した。その後、金属本体の表面側の表面をエポキシ系プライマー塗装しプライマー層13を形成した。そしてその後、約3%の透明の第二酸化鉄系顔料と紫外線防止剤を含むアクリル系塗料からなるカラークリアー塗装を施しカラークリアー塗装膜14を形成した。
【0033】
プライマー層13の塗膜厚は平均約10μmであり、カラークリアー塗装膜14の塗装膜は平均約20μmであった。このようにして本実施例のアルミニウムホイール1を製造した。
【0034】
このアルミニウムホイール1の前面の外観は、そのフランジ部113は同じ色彩ながら拡散反射の度合いが強く、ホイールの輪郭が鮮明に見える金属感のあるものであった。ハブ部111においても同様な金属感のあるものであった。これらの部分を図1中に斜線部分として示す。
【0035】
スポーク部112は鏡面に近いため金属感のある光沢で黄色が強調されたように見えた。またスポーク部112の中央溝114は、輝きがほとんどなく、くっきりとその溝が見えるものであった。この部分を図1中に交差線部分として示す。
【0036】
なお、参考までに、ショットブラストされた後の梨地肌(図1中の交差線部分)の表面荒さ測定結果を図3のaに、バレル研磨した後の、梨地肌を構成する凹凸部の凸部の先端部を研磨して頭部のみが幾分平らな鏡面とした鏡面加工梨地肌(図1中の斜線部分)の表面荒さ測定結果を図3のbに、ほぼ鏡面と成っているスポーク部112の表面荒さ測定結果を図3のcにそれぞれ示す。
【0037】
図3の線図の横方向の測定長さは2.5cmであり、aのRmaxは74.6μm、bのRmaxは46.9μm、cのRmaxは10.6μmであった。aの梨地肌の荒さに比較し、bの鏡面加工梨地肌の荒さは約20μm荒さが減少している。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】実施例1のアルミニウムホイールの平面図である。
【図2】実施例1のアルミニウムホイールの要部拡大断面図である。
【図3】実施例1のアルミニウムホイールの金属本体の表面荒さ測定線図である。
【符号の説明】
【0039】
1:アルミニウムホイール 11:金属本体
12:クロメート処理層 13:プライマー層
14:カラークリアー塗装膜 111:ハブ部
112:スポーク部112 113:フランジ部113
114:中央溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の形状を有すると共に表面の少なくとも一部が凸凹の梨地肌となりかつ少なくとも一部の該梨地肌を構成する該凸凹の凸部の頂部が研磨された鏡面となっているアルミニウム基金属製の金属本体と、
該鏡面となっている該凸部を持つ該梨地肌の部分を含む該金属本体の少なくとも一部表面に一体的に形成されたカラークリアー塗装膜とを有し、
該カラークリアー塗装膜で覆われた該鏡面を含む部分が金属感の光沢を有する金属感表面となっていることを特徴とするアルミニウム基金属部材。
【請求項2】
前記鏡面は研磨された前記頂部の前記鏡面の面積が大きい大鏡面部分と該鏡面の面積が小さい小鏡面部分とを持つ請求項1記載のアルミニウム基金属部材。
【請求項3】
前記カラークリアー塗装膜上にクリアー塗装膜を持つ請求項1又は2記載のアルミニウム基金属部材。
【請求項4】
前記金属本体の表面とカラークリアー塗装膜の間にプライマー塗装膜をもつ請求項2ないし3のアルミニウム基金属部材。
【請求項5】
前記所定形状はホイール形状である請求項2ないし4のアルミニウム基金属部材。
【請求項6】
前記所定形状はシリンダー形状である請求項2ないし4のアルミニウム基金属部材。
【請求項7】
前記カラークリアー塗装膜はのカラーは、ブロンズ、レッド、イエロー、ブラック、ブルー又はブラウンである請求項2ないし5記載のアルミニウム基金属部品。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2007−69405(P2007−69405A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−257498(P2005−257498)
【出願日】平成17年9月6日(2005.9.6)
【出願人】(305033837)有限会社村松研磨工業 (5)
【出願人】(305033848)竜洋塗装工業有限会社 (1)
【出願人】(305033859)
【Fターム(参考)】