説明

金属材料を熱処理するための方法及び装置

【課題】金属材料の浸炭処理においては、Cポテンシャルを好適に制御するためには熱処理室をスキャベンジングする多量のガスが必要であり、スキャベンジングによる損失を小さくする方法を提供する。
【解決手段】熱処理室2.1を備えた加熱室2及び焼き入れ室8を有する工業用炉1内で金属材料を熱処理するための方法に於いて、シールドガスをリサイクルするために、a)工業用炉の加熱室のための、構造的に又は機能的に熱処理室に関連して配置され、かつ触媒床3.1を備えた準備室3に於いて、二酸化炭素、酸素及び水蒸気を、反応ガスとして送り込まれた炭化水素と触媒反応させることにより、一酸化炭素及び水素に変換し、b)触媒床の触媒により、前記反応を加速させ、c)前記反応の後に、シールドガスを制御されたCポテンシャル状態とし、d)このようにして処理された前記シールドガスを、熱処理室から準備室に再循環させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールドガス(Schutzgas)及び反応ガスを用いて、熱処理室を備えた加熱室及び焼き入れ室を有する工業用炉内で金属材料を熱処理するための方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工業用炉内で金属材料を熱処理するために、工業用炉のための触媒を用い、その作用により、反応速度を加速することが知られている。
【0003】
DE 36 32 577には触媒床が、DE 38 88 814には網状の構造を有する触媒状の炉ライニングが、DE 40 05 710にはNi、Mn、Cr及びFeを含む完全に金属的な酸化触媒が、DE 44 16 469には、Ni又はCu触媒を用いた2段階の窒化浸炭が、それぞれ開示されている。
【0004】
DE 691 33 356には、ガス浸炭処理に適用可能な熱処理炉用の触媒に関する従来技術が記載されている。
【0005】
更なる発展形態として、DE 690 13 997には、炉雰囲気内に於ける触媒的な攪拌過程が、DE 694 01 425には、熱処理炉内に於ける酸化ニッケル系の触媒が、DE 299 08 528には、熱処理炉に関連して設けられた触媒装置が、それぞれ開示されている。
【0006】
それ以外の更なる発展形態としては、以下のような従来技術を挙げることができる。GB 1,069,531には、炭化雰囲気内に於ける金属材料の熱処理技術が開示されている。US 3,620,518には、セラミック製内壁に取り付けられ、有効な表面が拡大された酸化ニッケル系の触媒からなるライニングを備えた硬化炉に於ける金属材料の表面の処理が開示されている。US 4,294,436には、ニッケルからなる触媒壁を備え、内部にシールドガス雰囲気が形成された、金属部品を熱処理するための炉が開示されている。US 5,645,808には、ガス流中の炭素化合物を、触媒により酸化する技術が開示されている。US 2006/0081567には、プラズマによる材料処理が開示されている。特開昭62−199761には、炭化水素を熱分解させて得られた浸炭ガスにより、触媒を内蔵した炉内で鋼部材を浸炭する技術が開示されている。
【0007】
このように、上記したようなガス浸炭のための方法或いは炉について、
− 耐火性のライニング、
− Ni、Cu、Mn、Cr、Fe或いはPtからなる金属触媒、
− セラミックライニング上に設けられた触媒層、
− 網状の触媒ライニング、
− 触媒を備えた攪拌機或いは
− 表面積が拡大された触媒ライニング等が公知となっている。
【0008】
このような公知の方法及び装置に於いては、
− シールドガスの節約及び熱損失の低減、
− 浸炭のための炭化水素或いは天然ガスの適切な供給及び
− シールドガスのCポテンシャルの制御並びに制御されない或いは望ましくない反応の排除が望まれる。
【0009】
しかしながら、従来技術には限界があって、工業用炉に於ける触媒の更なる発展によっても、極めて限られた利益が得られるのみである。
【0010】
上記したような従来技術によれば、ガス浸炭処理として、熱処理炉内で金属材料が熱処理される過程に於いて、還元性のシールドガスを用いて炉内雰囲気が換気される。このようなシールドガスは、通常一酸化炭素、水素、水蒸気、二酸化炭素或いは窒素ガスを含むものであって良い。ガス換気は加熱室で実行される。一般に、そのような加熱室は、冷却処理室或いは焼き入れ室に接続されている。これら両室は、通常、ガスを通過させるためのドアにより分離されている。加熱室に供給されたガスは、冷却処理室に到達する。シールドガスは、更に、燃焼部に送られ、バーナにより、着火・燃焼される。
【0011】
このようにして、連続的なスキャベンジング・プロセスが実現するが、冷却処理室に接続された燃焼部に於いて常に大量のガスが消費される。
【0012】
このような技術に於いては、例えば、炉のドアを開き、空気などの好ましくないガスが炉内に導入されたり、急激なCポテンシャルの変更が必要となったり、加熱室を擬似的な熱平衡状態に至らしめる必要がある場合には、熱処理炉を連続的にスキャベンジングする必要がある。加熱室を連続的にスキャベンジングしない場合には、浸炭過程の生成物である二酸化炭素、酸素及び水蒸気の濃度が上昇し、供給される天然ガスによる浸炭反応の速度が低下する。これは、例えば天然ガスからなる反応ガスの濃度を高めても、炭素レベルが低下せざるを得ないことを意味する。それに対して、このようなスキャベンジングを行なうことにより、COやHの濃度を一定にすることにより、Cポテンシャルを好適に制御することができるようになる。
【0013】
炉をスキャベンジングするために、常にガスの消費量が大きくなり、シールドガスの熱エネルギの損失が大きくなり、さらにシステムが開放的であることにより熱効率が低くなるなどの、従来技術に基づく方法の上記したような問題点が発生することは、実証もされている。
【0014】
このように、金属材料を浸炭処理する際に、スキャベンジングによる損失のために、より多くの流量の炭素が必要となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
このような従来技術の問題点に鑑み、本発明の主な目的は、公知の炉構造及び触媒を用い、準備室を備えた加熱室及び焼き入れ室を有する工業用炉で金属材料を熱処理するための方法及び装置に於いて、
− 最少量の一酸化炭素、水素及び窒素に加えて、所定量の二酸化炭素、酸素及び水蒸気を含むシールドガスからなる第1の処理媒体と、
− 浸炭処理に利用可能な反応ガスからなる第2の処理媒体とを用いて、
シールドガスの節約及び熱損失の低減のためにシールドガスをリサイクルし、浸炭のための炭化水素或いは天然ガスの適切な供給を行い、シールドガスのCポテンシャルの制御並びに制御されない或いは望ましくない反応の排除を行なうことにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
このような目的は、本発明によれば、
a)前記工業用炉の加熱室のための、構造的に又は機能的に前記熱処理室に関連して配置され、かつ触媒床を備えた準備室に於いて、前記二酸化炭素、酸素及び水蒸気を、前記反応ガスとして送り込まれた炭化水素と触媒反応させることにより、一酸化炭素及び水素に変換し、
b)前記触媒床の触媒により、前記反応を加速させ、
c)前記反応の後に、前記シールドガスを制御されたCポテンシャル状態とし、
d)このようにして処理された前記シールドガスを、前記熱処理室から前記準備室に再循環させることにより達成される。
【0017】
前記触媒床の前記触媒として、ニッケル、白金、パラジウム又はロジウムが用いることができる。
【0018】
浸炭処理に於ける炭素の移動の各相について、反応ガスからなる炭素を、ガス浸炭のために必要な量だけ供給すると良い。
【0019】
前記反応ガスとして天然ガスを用いることができる。
【0020】
前記熱処理室に於けるガス浸炭を
2CO −> C + CO
CO + H −> C + H
CO −> C + 0.5O
により表され、Cポテンシャルが低下し、CO、HO及びOの体積%が増大するような反応として行なうことができる。
【0021】
前記準備室に於いて、前記触媒床上で、ガス濃縮反応を
2CH + O −> 2CO + 4H
CH + CO −> 2CO + 2H
CH + HO −> CO + 3H
により表され、Cポテンシャルが低下し、CO、HO及びOの体積%が増大するような反応として行なうことができる。
【0022】
本発明に於いては、Cポテンシャルが、常にガス分析及び温度計測により制御される。
【0023】
炭素ポテンシャルの制御のために、Cポテンシャルが低下したときに、供給空気量を増大させ、Cポテンシャルが所望のレベルに増大したときに、炭化水素を供給するように、空気及び炭化水素の供給を制御する。
【0024】
本発明の第1の実施例に於いては、加熱室の熱処理室に於けるCポテンシャルが、触媒床への炭化水素の供給により制御される。
【0025】
本発明の第2の実施例に於いては、加熱室の熱処理室に於けるCポテンシャルが、熱処理室への炭化水素の供給により制御され、炭化水素を再循環させて、触媒床上で反応させることにより制御される。
【0026】
シールドガスは、許容以上の圧力上昇があった場合には、その作動圧力を制御するために、或いは短時間のスキャベンジングが必要となった場合には、燃焼部に導かれて、着火・燃焼されるものであって良い。
【0027】
作動圧力は1〜10mbarであって良い。
【0028】
作動圧力の低下に従って、対応するよう反応ガス及び空気或いはシールドガスの供給を調節すると良く、水素の過剰分が発生した場合には、それを分離すると良い。
【0029】
更に、煤の発生等の好ましくない反応を回避するために、等温過程的に、供給ガスの強制循環を実行すると良い。
【0030】
供給ガスを、加熱室から、冷却することなく再循環的に引き出し、或いは焼き入れ室から、再循環的に引き出すことにより、供給ガスの強制循環を実行することができる。
【0031】
熱処理室を備えた加熱室及び該熱処理室に構造的に又は機能的に関連して配置され、かつ触媒床を備えた準備室並びに焼き入れ室を有する工業用炉内で金属材料を熱処理するための方法を実行するための本発明の装置は、
a)ガス分析を行うように構成され、かつ前記準備室に対応するCポテンシャル制御を行なうCポテンシャル制御部と、
b)再循環されるシールドガスを、制御された量の空気及び反応ガスを供給すると共に循環させる循環装置と、
c)圧力制御部を備え、圧力低下のためのガス吸収の機能を果たす、燃焼部のためのガス密封弁と、
d)前記した要素a)〜c)が、制御回路に機能的に接続されていることを特徴とするものであって良い。
【0032】
前記加熱室から供給ガスを引き出すために、前記加熱室から前記焼き入れ室に至る気密内部ドアが設けられていると良い。
【0033】
更に、前記加熱室から供給ガスを引き出すために、前記加熱室と前記焼き入れ室との間に気密内部ドアが設けられ、前記焼き入れ室に気密外部ドアが設けられていると良い。
【0034】
前記熱処理室が、リサイクルされたシールドガスの供給及び又は炭化水素の供給のための第1の供給部を有すると良い。
【0035】
前記準備室(3)が、炭化水素の供給のための第2の供給部(3.2)を有すると良い。
【0036】
触媒床(3.1)を備えた前記準備室(3)が、前記加熱室(2)から局部的に分離されているものであって良い。
【0037】
前記Cポテンシャル制御部が、Oセンサ、COアナライザ及び温度センサを有するものであって良い。
【0038】
このように、本発明は、二酸化炭素、酸素及び水蒸気を、送り込まれた天然ガス等の炭化水素と触媒反応させることにより、一酸化炭素及び水素に変換されるような、ガス浸炭のための新規なシールドガス再循環システムを提供する。
【0039】
本発明の利点は、既に「消費され」、Cポテンシャルが低いシールドガスを再処理する点にある。
【0040】
触媒作用により、回復反応が加速されるためには、適切な触媒を利用しなければならない。
【0041】
上記したようなCポテンシャルの制御は、別の実施例に於いては、大気分析により好適に行なうことができる。「準備された」シールドガスは、循環システムが形成されるように、また浸炭処理が継続されるように供給される。
【0042】
或る変形実施例では、この再循環システムとして装置側で必要されている要件としては、気密内部ドアや、気密外部ドアがある。ガス密封弁は、作動圧力を制御するために、炉内で許容できない圧力上昇が生じる前に開かれなければならない。作動圧力は、10〜100mm WS、即ち1〜10mbarであると良い。
【0043】
また、適正な圧力を維持するために、反応ガス及び空気或いはシールドガスの供給を調節することができる。
【0044】
大量の炭化水素の供給などの理由で、炉内に許容できない高い水素濃度が発生した場合には、水素を、システムから所定量をもって抜き出すことが必要となる。
【0045】
本発明の利点は、シールドガスを大幅に節約できることにある。燃焼による熱の損失は最小化することができる。また、浸炭処理に於ける炭素の移動の各相について、反応ガスからなる炭素を、ガス浸炭のために必要な量だけ供給しなければならない。
【0046】
本発明の更なる利点は、様々な変形例に応じて、Cポテンシャルを対応した態様をもって制御することができる。従って、炭化水素の直接的な分解によって金属材料を浸炭することが回避される。
【0047】
ガス浸炭は等温過程として実行され、煤の発生等の好ましくない反応を回避することができる。
【0048】
このように、Cポテンシャルが制御された、現場に於ける触媒によるシールドガスの生成を、熱処理炉に於けるガス流の再循環と組み合わせることにより、上記したような様々な利点が得られる。
【0049】
本発明の典型的な方法に於いては、熱処理の各ステップが、シールドガスのリサイクルステップとリンクされている。
【0050】
それにより、発生するHの過剰分を除去することにより、本発明の方法に対して、その円滑な作動を阻害するような影響を排除することができる。
【0051】
本発明の課題をより好適に達成するために、本発明の方法に於いては、CHの分解により、金属材料の浸炭のために必要な量だけ、浸炭処理に於ける炭素の移動の各相について、天然ガス等からなる炭素を供給する。
【0052】
出願人の知り得る限りの、触媒の構成或いは機能に関する従来技術により提供される解決手段に比較して、本発明の方法は、浸炭処理に於ける質的にも新たな効果を提供し得るものである。
【発明の効果】
【0053】
本発明の方法の好適な作用のおかげで、以下に簡単に列挙したような問題点を解決することができる。
− 頻繁なスキャベンジング過程のために、冷却処理室或いは焼き入れ室の燃焼部に於けるガスの消費が多大となり、
− 天然ガス等からなる反応ガスの濃度を高めようとしても炭素レベルが低下し、
− システムが開放的であることにより、シールドガスのエネルギ熱損や、その他の熱損が大きく、
− スキャベンジング過程のために、浸炭処理に必要となる炭素成分フローのためのコストが増大する。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】工業用炉を、本発明の方法に於ける反応を重ね合わせて単純化して示すと共に、その変形形態例を示すダイヤグラム図である。
【発明を実施するための形態】
【0055】
図1は、本発明に於いて用いることのできる工業用炉1を単純化して示す。この工業用炉1は、熱処理室2.1を備えた加熱室2及び触媒床3.1を備えた準備室3を内蔵すると共に、それに付設された焼き入れ室8を有する。
【0056】
触媒床3.1を備えた準備室3は、本実施例の場合、構造的に熱処理室2.1に接続されているが、図示しないが、局部的に接続されているものであっても、或いは機能的に接続されているものであっても良い。
【0057】
触媒床3.1の材料及び構造は、それ自体公知の材料或いは構造からなるものであって良く、自動車の製造技術に関連して公知の触媒システムを用いるものであって良い。
【0058】
本発明は、主に、本発明に基づきリサイクルされたシールドガスを用いて、金属材料を熱処理するための方法を実行するための工業用炉1を含む装置は、
a)触媒床3.1に関連して設けられた、Oセンサ5.1、COアナライザ5.2及び温度センサ5.3を有するCポテンシャル制御部5と、
b)再循環されるシールドガスを、制御された量の空気11及び天然ガス10と共に循環させる循環装置4と、
c)圧力制御部6.2を備え、圧力低下のためのガス抜きの機能を果たす、燃焼部6のためのガス密封弁6.1とを有する。
【0059】
上記した構成要素は、制御回路Rに機能的に接続され、或いは1つの制御サイクルを構成する。
【0060】
熱処理室2.1が、リサイクルされたシールドガスの供給及び又は炭化水素の供給のための第1の供給部2.2を有し、準備室3が、炭化水素の供給のための第2の供給部3.2を有するものであって良い。
【0061】
第1の供給部2.2は、処理方法或いはそれを実行する構造に応じて、シールドガスの供給、シールドガス又は炭化水素の供給或いはシールドガス及び炭化水素の供給を行なうものであって良い。
【0062】
図示された実施例に於いては、ガスを冷却することなく加熱室2から抜き出すために、加熱室2と、後記する焼き入れ室8との間に、気密内部ドア7が設けられている。別実施例では、加熱室2と焼き入れ室8との間に気密内部ドア7が設けられているばかりでなく、焼き入れ室8からガスを抜き出すために、焼き入れ室8に気密外部ドア9が設けられている。何れの実施例も、ガスを通過させるドアを備えている点で従来技術と相違し、更に、その機能を適切に果たすために、制御回路Rに機能的に接続されている。
【0063】
シールドガスを再循環させることを特徴とする本発明の新規な方法は、図示されたような工業用炉1を用いて、以下のようなステップを経て実行される。
【0064】
触媒床3.1を備えた準備室3に於いて、シールドガスとして注入された二酸化炭素、酸素及び水蒸気等からなる成分は、送り込まれた反応ガスとしての炭化水素と触媒反応し、一酸化炭素及び水素へと変換されるように、工業用炉1を制御する。
【0065】
Cポテンシャルは、必要に応じて、Oセンサ5.1、COアナライザ5.2及び温度センサ5.3を利用して、Cポテンシャル制御部5により制御され、調製されたシールドガスを、第1の供給部2.2を経て、再び熱処理室2.1に送り込むように循環させる。
【0066】
熱処理室2.1に於いては、以下のような化学反応が引起され、その間にCポテンシャルが低下し、CO、HO及びOの体積%が増大するようにする。
2CO −> C + CO
CO + H −> C + H
CO −> C + 0.5O
【0067】
図示された実施例では、加熱室2の下方には、触媒床3.1、即ち準備室3が設けられ、以下のような濃縮化学反応が引起され、その間にCポテンシャルが低下し、CO、HO及びOの体積%が増大するようにする。
2CH + O −> 2CO + 4H
CH + CO −> 2CO + 2H
CH + HO −> CO + 3H
【0068】
これらの反応は、熱処理室に再循環させられるシールドガスのリサイクルに関する本発明の条件を満たすものである。
【0069】
当業者であれば、これらの反応は、言うまでもなく、空気及び反応ガスを用いてCポテンシャルを制御するものであることが明らかである。即ち、Cポテンシャルを低下させたければ空気が供給され、Cポテンシャルを増大させたければ炭化水素ガスが供給される。
【0070】
熱処理室2.1に於けるCポテンシャルを調節する必要がある場合には、触媒床3.1上の第2の供給部3.2に炭化水素を供給することにより、Cポテンシャルの制御を行なう。
【0071】
熱処理室2.1に於けるCポテンシャルは、熱処理室2.1に設けられた第1の供給部2.2に炭化水素を供給することによっても制御することができ、それによれば、再循環された炭化水素を触媒床3.1に於いて反応させることができる。
【0072】
場合によっては、例えば、許容以上の圧力上昇があった場合には、その作動圧力を制御するために、或いは短時間のスキャベンジングが必要となった場合には、シールドガスを燃焼部6に導き、着火・燃焼させると良い。
【0073】
例えば、処理過程に支障を来たすような異物を排除するために、処理室をスキャベンジングすることが必要となった場合、或いは、Cポテンシャルを、短時間で、例えば1.3%から0.6%に低下させたい場合も同様である。
【0074】
作動圧力は、1〜10mbarであって良く、高い圧力を採用することができる。
【0075】
作動圧力は、天然ガス10及び空気11等の反応ガス又はシールドガスを対応する圧力をもって供給することにより実現される。
【0076】
本発明の好適な点は、熱処理の過程が、シールドガスの抽出過程と連携して行われ、熱処理が連続的に、中断することなく実行できる点にある。
【0077】
また、発生し得る過剰なH成分を、処理プロセスを中断することなく、問題なく除去することができる。
【0078】
本発明に基づく方法によれば、循環装置4を用いることにより、煤の発生等の好ましくない反応を回避するために、強制循環されるガスの供給が等温過程的になされる。
【0079】
このようにして、本発明に基づく方法によれば、熱処理のためのシールドガスが、図示されない材料に対して、再循環されて供給されるような制御された循環プロセスが実現される。
【0080】
発明者が研究施設内で行なったテストによれば、本発明の利点が明らかとなり、その工業上の利用可能性が検証された。
【符号の説明】
【0081】
1 工業用炉
2 加熱室
2.1 熱処理室
2.2 第1の供給部
3 準備室
3.1 触媒床
3.2 第2の供給部
4 循環装置
5 Cポテンシャル制御部
5.1 Oセンサ
5.2 COアナライザ
5.3 温度センサ
6 燃焼部
6.1 密封弁
6.2 圧力制御装置
7 内部ドア
8 焼き入れ室
9 外部ドア
10 供給炭化水素
11 供給空気
R 制御回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
最少量の一酸化炭素、水素及び窒素に加えて、所定量の二酸化炭素、酸素及び水蒸気を含むシールドガスからなる第1の処理媒体と、浸炭処理に利用可能な反応ガスからなる第2の処理媒体とを用いて、熱処理室(2.1)を備えた加熱室(2)及び焼き入れ室(8)を有する工業用炉(1)内で金属材料を熱処理するための方法であって、
前記シールドガスをリサイクルするために、
a)前記工業用炉(1)の加熱室(2)のための、構造的に又は機能的に前記熱処理室(2.1)に関連して配置され、かつ触媒床(3.1)を備えた準備室(3)に於いて、前記二酸化炭素、酸素及び水蒸気を、前記反応ガスとして送り込まれた炭化水素と触媒反応させることにより、一酸化炭素及び水素に変換し、
b)前記触媒床(3.1)の触媒により、前記反応を加速させ、
c)前記反応の後に、前記シールドガスを制御されたCポテンシャル状態とし、
d)このようにして処理された前記シールドガスを、前記熱処理室(2.1)から前記準備室(3)に再循環させることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記触媒床(3.1)の前記触媒として、ニッケル、白金、パラジウム又はロジウムが用いられることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
浸炭処理に於ける炭素の移動の各相について、反応ガスからなる炭素を、ガス浸炭のために必要な量だけ供給することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記反応ガスとして天然ガスが用いられることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1に記載の方法。
【請求項5】
前記熱処理室(2.1)に於けるガス浸炭を
2CO −> C + CO
CO + H −> C + H
CO −> C + 0.5O
により表され、Cポテンシャルが低下し、CO、HO及びOの体積%が増大するような反応として行ない、
前記準備室(3)に於いて、前記触媒床(3.1)上で、ガス濃縮反応を
2CH + O −> 2CO + 4H
CH + CO −> 2CO + 2H
CH + HO −> CO + 3H
により表され、Cポテンシャルが低下し、CO、HO及びOの体積%が増大するような反応として行なうことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1に記載の方法。
【請求項6】
Cポテンシャルが、ガス分析及び温度計測により制御されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1に記載の方法。
【請求項7】
前記加熱室(2)の前記熱処理室(2.1)に於けるCポテンシャルが、前記触媒床(3.1)への炭化水素の供給により制御されることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1に記載の方法。
【請求項8】
前記加熱室(2)の前記熱処理室(2.1)に於けるCポテンシャルが、前記熱処理室(2.1)への炭化水素の供給により制御され、前記炭化水素を再循環させて、前記触媒床(3.1)上で反応させることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1に記載の方法。
【請求項9】
シールドガスは、許容以上の圧力上昇があった場合には、その作動圧力を制御するために、或いは短時間のスキャベンジングが必要となった場合には、燃焼部(6)に導かれて、着火・燃焼されることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1に記載の方法。
【請求項10】
作動圧力が1〜10mbarであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1に記載の方法。
【請求項11】
作動圧力の低下に従って、対応するよう反応ガス及び空気或いはシールドガスの供給を調節することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1に記載の方法。
【請求項12】
水素の過剰分が発生した場合には、それを除去することを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1に記載の方法。
【請求項13】
等温過程的な煤の発生等の好ましくない反応を回避するために、供給ガスの強制循環を実行することを特徴とする請求項1乃至12のいずれか1に記載の方法。
【請求項14】
前記加熱室(2)から、供給ガスを冷却することなく再循環的に引き出すことにより、供給ガスの強制循環を実行することを特徴とする請求項1乃至12のいずれか1に記載の方法。
【請求項15】
前記焼き入れ室(8)から、供給ガスを再循環的に引き出すことにより、供給ガスの強制循環を実行することを特徴とする請求項1乃至12のいずれか1に記載の方法。
【請求項16】
熱処理室(2.1)を備えた加熱室(2)及び該熱処理室に構造的に又は機能的に関連して配置され、かつ触媒床(3.1)を備えた準備室(3)並びに焼き入れ室(8)を有する工業用炉(1)内で金属材料を熱処理するための方法を実行するための装置であって、
a)ガス分析を行うように構成され、かつ前記準備室(3)に対応するCポテンシャル制御を行なうCポテンシャル制御部(5)と、
b)再循環されるシールドガスを、制御された量の空気及び反応ガスと共に循環させる循環装置(4)と、
c)圧力制御部(6.2)を備え、圧力低下のためのガス吸収の機能を果たす、燃焼部(6)のためのガス密封弁(6.1)と、
d)前記した要素a)〜c)が、制御回路(R)に機能的に接続されていることを特徴とする装置。
【請求項17】
前記加熱室(2)から供給ガスを引き出すために、前記加熱室(2)から前記焼き入れ室(8)に至る気密内部ドア(7)が設けられていることを特徴とする請求項16に記載の装置。
【請求項18】
前記加熱室(2)から供給ガスを引き出すために、前記加熱室(2)と前記焼き入れ室(8)との間に気密内部ドア(7)が設けられ、前記焼き入れ室(8)に気密外部ドア(9)が設けられていることを特徴とする請求項16に記載の装置。
【請求項19】
前記熱処理室(2.1)が、シールドガスの供給及び又は炭化水素の供給のための第1の供給部(2.2)を有することを特徴とする請求項16乃至18のいずれか1に記載の装置。
【請求項20】
前記準備室(3)が、炭化水素の供給のための第2の供給部(3.2)を有することを特徴とする請求項16乃至18のいずれか1に記載の装置。
【請求項21】
触媒床(3.1)を備えた前記準備室(3)が、前記加熱室(2)から局部的に分離されていることを特徴とする請求項16乃至20のいずれか1に記載の装置。
【請求項22】
前記Cポテンシャル制御部(5)が、Oセンサ(5.1)、COアナライザ(5.2)及び温度センサ(5.3)を有することを特徴とする請求項16乃至21のいずれか1に記載の装置。

【図1】
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【公開番号】特開2010−1567(P2010−1567A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−139871(P2009−139871)
【出願日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(501128737)イプセン インターナショナル ゲーエムベーハー (6)
【氏名又は名称原語表記】Ipsen International GmbH
【Fターム(参考)】