説明

金属構造コンポーネントの製造方法および製造装置

【課題】金属構造コンポーネントの構造の局部的調節を可能にし、同時に安価かつ簡単に実施できる金属構造コンポーネントの製造方法および製造装置を提供することにある。
【解決手段】金属構造コンポーネント、より詳しくは車両の構造コンポーネントを製造する方法であって、鋼部材(16、104)が熱間成形されかつ工具表面(14)との接触により少なくとも数セクションに亘って硬化され、鋼部材の少なくとも2つの部分領域(152、154、162、164)を、硬化中に、互いに異なる冷却速度で冷却し、これらの部分領域の顕微鏡組織が、硬化後に異なるものとなるようにする方法において、熱伝導率が互いに異なる鋼部材の部分領域に対応する工具表面(14)のセクション(32、34、36、38、66、68、70、72)により、互いに異なる冷却速度が発生されることを特徴とする金属構造コンポーネントの製造方法。また本発明は、このような金属構造部品を製造する他の方法、工具およびバッチ炉に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属構造コンポーネント、より詳しくは車両の構造コンポーネントを製造する方法であって、鋼部材が熱間成形されかつ工具表面との接触により少なくとも数セクションに亘って硬化され、鋼部材の少なくとも2つの部分領域を、硬化中に、互いに異なる冷却速度で冷却し、これらの部分領域の顕微鏡組織が、硬化後に異なるものとなるようにする方法に関する。また本発明は、このような金属構造部品を製造する工具およびバッチ炉に関する。
【背景技術】
【0002】
熱間成形金属構造部品が、自動車産業、特に、高い横方向応力を受けるボディ構造のクラッシュ関連領域に広く使用されている。したがって、BピラーおよびBピラー補強体が、高強度熱間成形マンガン−ホウ素鋼で頻繁に作られている。構造コンポーネントの高引っ張り抵抗および引っ張り強度は、このような材料を熱間成形法で加工することにより達成でき、したがって、慣用的に作られる鋼構造コンポーネンツと比較して、必要な金属薄板厚さをかなり低減でき、この方法で軽量構造したがってCO低減への寄与が達成される。完全に熱間成形された金属構造コンポーネンツの欠点は、熱間成形金属構造コンポーネントの破断伸びが比較的小さいことである。したがって、熱間成形金属構造コンポーネンツは横方向応力を受ける領域に成功裏に使用できる。なぜならば、この領域では、高強度特に降伏強度が高いことが金属構造コンポーネンツの座屈を防止するからである。しかしながら、例えば長手方向部材のように長手方向の応力を受ける金属構造コンポーネンツの場合には、熱間成形構造コンポーネンツは使用できない。なぜならば、破断伸びが小さいために金属構造コンポーネンツが均一に曲がらず、エネルギ吸収が比較的小さいために材料が破断する虞れがあるからである。
【0003】
下記特許文献1では、シートバーが、連続炉(straight-flow furnace, Durchlaufofen(英、独訳))内での条件を変えて加熱され、このため、異なる材料温度により、金属構造コンポーネントの異なる強度が成形後に得られる。この方法では、シートバーは、2つの炉チャンバを通るときに別様に焼戻され、したがって、硬化加工において異なる構造領域が確立される。この方法は、破断強度および破断伸びに関して金属構造コンポーネントに達成される異なるゾーンは2〜3に過ぎないという欠点を有している。また、これらのゾーンは、シートバーの流通方向にのみ形成される。鋼部材またはシートバーの流通方向は、一般に、鋼部材またはシートバーの長手方向寸法に一致する。
【0004】
下記特許文献2には、長手方向の応力を受ける領域にも熱間成形金属構造コンポーネンツを用いることを目的とした、高強度および超強度鋼のシートバーを形成する装置および方法が開示されている。この方法は、熱間成形用成形工具が焼戻し手段を有し、この焼戻し手段によって、鋼部材が、所定の異なる温度値への成形中に異なる温度に焼戻される。この方法により、金属構造コンポーネントの顕微鏡組織に局部的に影響を与えることができ、これにより、位置依存材料特性(location-dependent material properties, ortsabhaengigen Materialeigenschaften(英、独訳))を有する金属構造コンポーネンツが作られる。位置依存材料特性とは、材料特性が、金属構造コンポーネントの少なくとも2つの領域で異なることを意味するものと理解すべきである。材料の異なる冷却速度により、異なる形式の構造が達成される。しかしながら、焼戻し手段を備えた成形工具は比較的複雑であり、したがって高価である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】独国特許出願公告第102 56 621(B3)号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第10 2006 019 395(A1)号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の目的は、金属構造コンポーネントの構造の局部的調節を可能にし、同時に安価かつ簡単に実施できる金属構造コンポーネントの製造方法および製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は、請求項1に記載の方法における本発明の第1教示、すなわち熱伝導率が互いに異なる鋼部材の部分領域に対応する工具表面のセクションにより、互いに異なる冷却速度が発生されるとした構成により達成される。
【0008】
成形工具内の鋼部材の冷却は、成形工具の表面の熱伝導率により大きい影響を受けると考えられている。この点に関する熱伝導率とは、より詳しくは熱伝導係数を意味すると考えられている。
【0009】
隣接表面の熱伝導率が高いと鋼部材の急速冷却が生じ、一方、隣接表面の熱伝導率が低いと鋼部材はよりゆっくりと冷却する。工具表面の熱伝導率を利用して冷却速度を調節することにより、焼戻し要素すなわち加熱要素または冷却要素を減少でき、したがってコストを節約できる。また、焼戻し要素の不均一配置または必要な制御を行わなくてよい。これによりコストも低減できる。
【0010】
異なる冷却速度により、鋼部材および製造される金属構造コンポーネントには、異なる
形式の構造が形成される。金属構造コンポーネントの部分領域の冷却速度が27K/秒より大きいと、高強度および小さい破断伸びを有する主としてマルテンサイト構造となる。冷却速度が低いと、中位の強度および中位の破断伸びを有するフェライト−ベイナイト構造、低い強度および大きい破断伸びを有するフェライト−パーライト構造またはこれらの両構造の混合構造が形成される。フェライト−ベイナイト構造およびフェライト−パーライト構造は、860MPaより小さい引っ張り強度を有する。
【0011】
本発明による方法の好ましい実施形態では、工具は、異なる熱伝導率を有する異なる材料の工具表面の少なくとも2つのセクションの領域からなる。異なる材料を適当に選択することにより、簡単に工具表面の熱伝導率に影響を与えることができる。より詳しくは、この方法により、大きく異なる熱伝導率をもつ隣接セクションを形成できる。
【0012】
セクションの数は一般に2つに限定されるものではなく、任意に大きくすることができる。好ましくは少なくとも3つのセクションが設けられ、これにより、金属構造コンポーネントに、異なる形式の構造および強度をもつ3つの部分領域、すなわち主としてマルテンサイト構造をもつ少なくとも1つの部分領域および主としてフェライト−ベイナイト構造および/またはフェライト−パーライト構造をもつ少なくとも2つの他の部分領域が形成される。
【0013】
セクションが鋼、鋼合金および/またはセラミックからなる他の好ましい例示実施形態では、工具に使用する場合に、同時に充分な安定性が得られる特に好ましい熱伝導率が得られる。
【0014】
本発明による方法の他の好ましい例示実施形態では、工具表面の2つのセクションのうちの少なくとも一方が、熱伝導率を低下または増大させる表面コーティングを有している。これにより、工具表面の熱伝導が、表面コーティングにより変えられる。また、これにより、非常に複雑で局部的に変化する熱伝導率が得られ、かつ非常に複雑で局部的に変化する顕微鏡組織を有する金属構造コンポーネンツを製造できる。工具表面のコーティングを容易に交換および/または変更できる。かくして、コーティングを変更することにより、同一工具で、異なる顕微鏡組織をもつ金属構造コンポーネンツを製造できる。
【0015】
本発明の第2教示によれば、上記目的は、金属構造コンポーネント、より詳しくは車両の構造コンポーネントを製造する方法であって、鋼部材が加熱され、加熱された鋼部材は、工具内での冷却により少なくとも部分的に硬化され、硬化後の鋼部材は、異なる顕微鏡組織を有する少なくとも2つの部分領域を有する方法において、鋼部材は、硬化前に、異なる温度を有する少なくとも2つの領域を備えたバッチ炉内で焼戻されることを特徴とする金属構造コンポーネントの製造方法により達成される。
【0016】
バッチ炉とは、加熱すべき鋼部材が加熱中に実質的に移動されない炉を意味するものと理解されよう。したがって、バッチ炉は、鋼部材が、加熱中に、炉を通って連続的に移動される連続炉とは異なっている。
【0017】
鋼部材が、バッチ炉内での硬化前に異なる温度で局部的に焼戻されるならば、製造すべき金属構造コンポーネントの顕微鏡組織に簡単に影響を与えることができると考えられている。この結果生じる硬化工具の表面の局部的に変化する温度差により、異なる冷却速度が生じ、したがって、鋼部材および金属構造コンポーネントに異なる形式の顕微鏡組織が形成される。また、オーステナイト化温度より低い局部的温度および硬化工具内でのその後の冷却により、フェライト−パーライト構造が特別に形成される。
【0018】
本発明の方法は、硬化前の鋼部材の温度が、非常に局部的にかついかなる方向的制限もなくして調節できる点で、従来技術から知られた方法と比較して長所を有している。より詳しくは、本発明の方法によれば、互いに異なる温度を有する多数の異なるセクションが得られる。また、不均一に配置されまたは制御可能な焼戻し手段を備えたより複雑で高価な成形工具を使用しないで済む。
【0019】
本発明の好ましい実施形態では、本発明の第1教示による方法が付加的に遂行される。本発明の第1教示と第2教示との組合せにより、金属構造コンポーネントの顕微鏡組織に与える効果が強化され、これにより、例えば、金属構造コンポーネントの隣接する部分領域に、大きく異なる顕微鏡組織を作ることができる。バッチ炉の領域の配置は、工具表面のセクションの配置に一致することが好ましい。しかしながら、互いに異なる配置を考えることができる。
【0020】
好ましい実施形態では、鋼部材が、バッチ炉内で焼戻される前に、第2炉、より詳しくは連続炉内で加熱されると、鋼部材のより効率的な加熱および焼戻しが達成される。この第2炉内では、好ましくはオーステナイト化温度またはAc温度またはこれより高い温度領域の温度まで特に均一な加熱が行われる。バッチ炉内の焼戻しでは、次に、鋼部材の部分領域が、次の効果加工での目標温度まで加熱または冷却される。この点に関し、特に好ましくは、鋼構造コンポーネントの早期硬化が未だ行われないようにして冷却が行われる。第2炉は、特に、連続炉の形態にすることができる。この方法により、バッチ炉用の金属構造コンポーネントの迅速かつ連続的な用意が可能になる。
【0021】
本発明の他の好ましい実施形態では、鋼部材がプレス工具内で硬化される。この方法では、鋼部材の優れた硬化および次の焼戻しが達成される。鋼部材の硬化は、異なって焼戻された部分領域が、鋼部材の熱伝導により均等化されるのを回避するため、バッチ炉内での焼戻しの直後に行われるのが好ましい。
【0022】
本発明の好ましい実施形態では、バッチ炉が、温度勾配を有する少なくとも1つの領域を有する場合には、金属構造コンポーネントの材料特性の連続プロファイルが達成される。
【0023】
本発明の方法の好ましい実施形態では、鋼部材は、調節可能なガスノズルにより、より詳しくは窒素により、バッチ炉の少なくとも1つの部分領域内で冷却される。
【0024】
ガスノズルによる冷却により、一領域とは異なる温度を有する領域がバッチ炉内で非常に簡単な方法で実現される。より詳しくは、加熱要素の数を減少できる。また、ガスノズルを制御できるため、バッチ炉内のフレキシブルな温度調節が可能になる。したがって、調節装置により、金属構造コンポーネントの異なる形式の異なる領域を形成できる。調節可能なガスノズルは、制御可能な加熱要素に代えて使用でき、またはこれらの加熱要素と組み合わせて使用できる。窒素は安価でありかつ不活性であるため、好ましい冷却ガスとして使用できる。
【0025】
下記例示実施形態は、本発明の第1教示および第2教示に使用できる。
【0026】
本発明による方法の好ましい実施形態では、鋼部材は、直接的または間接的に熱間成形および/またはプレス硬化される。したがってこの方法では、製造方法の実施において高度のフレキシビリティが可能である。間接的熱間成形法では、鋼部材は少なくとも2つの段階、好ましくは、最初に冷間成形し、次に熱間成形することにより形成される。他方、直接的熱間成形法では、単一熱間成形段階で行われる。間接的熱間成形法は、絞り深さが大きい場合に特に有利である。
【0027】
他の実施形態では、部分領域間の少なくとも1つの境界が、金属構造コンポーネントの最大長手方向寸法に対して横方向または傾斜しておよび/または非リニアに形成されている場合には、金属構造コンポーネントの特にフレキシブルな形状を達成できる。したがって、この方法は、部分領域境界を互いに実質的に任意に調節することを可能にする。また、境界領域の遷移領域により、継手連結部より詳しくは溶接シームが損傷を受けるのを回避するため、部分領域間の境界は、鋼部材の継手領域の外側に配置するのが好ましい。
【0028】
本発明による方法の他の実施形態では、鋼部材として、半成品、より詳しくは特別注文ブランク、特別注文溶接ブランク、パッチワークブランクまたは特別注文圧延ブランク、または所定サイズに切断されたシートバーが使用される。したがって、本発明は、位置依存材料特性を有する金属構造コンポーネントの製造での最大フレキシビリティを可能にする。特別注文ブランクとは、異なる材料品質および/またはシート厚さを有する金属シートバーを意味する。特別注文溶接ブランクでは、異なる金属シートバーが互いに溶接される。特別注文圧延ブランクは、フレキシブル圧延法により製造された異なるシート厚さを有している。パッチワークブランクは、パッチワークの態様で他のシートが接合されたシートバーからなる。好ましい実施形態では、マイクロアロイ鋼例えばMHZ340と組合わされたMBW1500、MBW1700またはMBW1900のホウ酸マンガン鋼の鋼部材、および/またはマイクロアロイ鋼例えばMHZ340の鋼部材が使用されるならば、金属構造コンポーネントの非常に優れた材料特性が達成される。
【0029】
本発明の方法の他の好ましい実施形態では、鋼部材は、有機コーティング、より詳しくはラッカーコーティング、好ましくは溶剤ベースまたは水ベース1成分、2成分または多成分スケール保護コーティングを有している。これとは別にまたはこれに加えて、鋼部材には、無機コーティング、好ましくはアルミニウムベースまたはアルミニウム−シリコーンベースコーティング、より詳しくは溶融アルミニウムめっきコーティング(fal)および/または亜鉛ベースコーティングを設けることができる。この方法により、金属構造コンポーネントの表面が機能化され、材料特性を更にフレキシブルに一致させることができる。
【0030】
上記技術的目的は、本発明の第3教示により、車両での、より詳しくはA、BまたはCピラー、側壁、ルーフフレームまたは長手方向部材としての、前記方法の1つにより製造された金属構造部品を使用することにより達成される。金属構造コンポーネントのフレキシブルで局部的に調節可能な材料特性により、これらの金属構造コンポーネンツは、最適態様で、車両の応力より詳しくは衝突時の挙動を改善する最適態様でマッチングされる。
【0031】
上記技術的目的は、本発明の第4教示、すなわち、鋼部材の熱間成形および硬化用工具、より詳しくは本発明による前述の方法の1つを実施する工具において、鋼部材と接触する工具表面が、熱伝導率が異なる複数のセクションからなる工具により達成される。
【0032】
これらの異なるセクションにより、鋼部材の硬化において、異なる冷却速度が簡単な方法で達成され、これにより、製造された金属構造コンポーネントに異なる形式の構造が得られる。より詳しくは、焼戻し要素の数、例えば工具の加熱要素の数を減少できる。
【0033】
工具の好ましい実施形態では、セクションが、異なる熱伝導率を有する異なる材料、より詳しくは鋼、鋼合金および/またはセラミックからなる場合には、熱伝導率の差異を達成できる。
【0034】
他の好ましい実施形態では、鋼部材と接触する工具表面が、少なくとも部分的に、交換可能なセグメント上および/または工具の工具インサート上に配置される。この方法では、交換可能なセグメントまたは工具インサートを工具内にフレキシブルに配置および再配置でき、これにより、異なる構造配置したがって異なる特性を有する金属構造コンポーネンツを1つの工具で製造できる。
【0035】
工具の他の実施形態において、セクションの少なくとも1つが、熱伝導率を低下または増大できる表面コーティングを有する場合には、異なる熱伝導率の簡単な実現を達成できる。より詳しくは、この方法により、熱伝導率の非常に局部的な変化を達成できる。また、表面コーティングは、必要に応じて除去および再塗布できる。
【0036】
また、熱間成形法および/またはプレス硬化法、より詳しくは上記方法の1つを実施する、鋼部材を加熱するバッチ炉において、バッチ炉が少なくとも2つの領域を有し、該領域では互いに異なる温度が確立されるならば、上記技術的目的は、本発明の第5教示により達成される。
【0037】
この方法では、鋼部材は異なる温度に焼戻され、これにより、次の硬化加工において、得られる金属構造コンポーネントに異なる形式の構造が作られる。
【0038】
好ましい実施形態では、バッチ炉の少なくとも1つの領域が、冷却目的の制御可能なガスノズルを有している。これにより、フレキシブルで簡単な態様で、異なる温度を有する領域を実現できる。
【0039】
本発明の他の特徴および長所は、添付図面を参照して述べる複数の例示実施形態の以下の説明において開示する。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】従来技術による金属構造コンポーネントの製造工具を示すものである。
【図2】本発明による工具および方法の第1例示実施形態を示すものである。
【図3】本発明による工具および方法の他の2つの例示実施形態を示すものである。
【図4】本発明による工具および方法の第3例示実施形態を示すものである。
【図5】本発明によるバッチ炉および方法の例示実施形態を示すものである。
【図6】本発明によるバッチ炉および方法の他の例示実施形態を示すものである。
【図7】本発明による方法の他の例示実施形態を示すものである。
【図8】本発明の方法により製造された第1金属構造コンポーネントを示すものである。
【図9】本発明の方法により製造された第2金属構造コンポーネントを示すものである。
【図10】本発明の方法により製造された第3金属構造コンポーネントを示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0041】
図1は、従来技術により金属構造コンポーネントを製造する工具を示す長手方向断面図である。工具2は熱間成形工具として設計されており、下方パンチ4、上方パンチ6並びに2つのフランジカッタ8、10を有している。下方パンチ4および上方パンチ6の互いに対面する表面12、14は、鋼部材16から作られる金属構造コンポーネントの外形に一致するプロファイルを有している。また、上方パンチ6には焼戻し要素18が設けられており、該焼戻し要素18により、上方パンチ6の表面14の領域の温度が調節される。下方パンチ4にも同様な焼戻し要素を設けることができる。互いに隣接する焼戻し要素18間の距離は、互いに異なっており、この構成により表面14が位置依存温度プロファイルを持つ。従来技術の製造方法では、シートバーの形態をなす鋼部材16が、引き離された両パンチ4、6間に配置され、前記パンチ6が前記パンチ4上に下降される。このようにして、シートバーは同時に熱間成形され、位置依存冷却速度で冷却される。これにより、鋼部材に、対応する位置依存構造的変化が生じる。鋼部材16のフランジ領域20は、フランジカッタ8、10を下降させることにより切断される。焼戻し要素18の不均一配置により、工具2は複雑な構造になり、このため、多数の焼戻し要素18が必要になる。
【0042】
図2は、本発明による工具および方法の第1例示実施形態を示す長手方向断面図である。図1および以下の図面に示す対応部品と同じ部品には、同じ参照番号が付与されている。工具30は、下方パンチ4が、異なる熱伝導率を有する異なる材料からなる異なるセクション32、34、36、38を有している点で図1に示した工具2とは異なっている。好ましくは鋼、合金鋼、および/またはセラミックが材料として使用される。この代わりにまたはこれに加えて、上方パンチ6も異なる材料からなる複数のセクションで構成できる。これらのセクションは、表面12、14の領域のみを異なる材料で構成することもできる。個々のセクション32、34、36、38の異なる熱伝導率により、鋼部材16の熱間成形時および硬化時に異なる冷却速度が生じ、これにより、鋼部材16内に異なる顕微鏡組織が形成される。
【0043】
図3aおよび図3bは、本発明による工具および方法の他の2つの例示実施形態を示す長手方向断面図である。これらの図面の各場合には、例えば図2に示した工具とは別の下方パンチが示されている。図3aの下方パンチ50は複数の別々のセグメント52a〜52pからなり、これらのセグメントは、異なる熱伝導率を有する異なる材料で構成できる。かくして、パンチ50の全表面54は位置依存熱伝導率を有し、このため、このパンチ50を含む工具を用いた熱間成形・硬化法では、鋼部材に異なる冷却速度が達成される。幾つかのセグメントまたは全てのセグメント52a〜52pは、基本的に交換できまたは所望に応じて入れ替えることができる。かくして、図3bに示す本発明の工具の例示実施形態の下方パンチ56では、セグメント52f、52jが、異なる材料の他のセグメント52q、52rにより置換されている。また、セグメント52d、52e並びにセグメント52g、52hは、これらの位置が入れ替えられている。入手できるセグメントおよび材料の数に基づいて、熱伝導率が異なる下方パンチ50、56の表面54のセクションをフレキシブルな態様でマッチングさせることができる。もちろん、上方パンチまたは両パンチを別のセグメントでも構成できる。
【0044】
図4は、本発明による工具および方法の他の例示実施形態を示す長手方向断面図である。工具64では、下方パンチ4の表面14はセクション66、68、70、72を有し、これらのうちセクション66、70、72は表面コーティング74、76、78によりコーティングされている。表面コーティング74、76、78は、それぞれのセクションの表面14の熱伝導率を低下または増大させる。非コーティングセクション68では、熱伝導率は、パンチ材料の熱伝導率と同じである。表面コーティングは、例えばラッカー、より詳しくは耐熱ラッカー、好ましくは高耐熱ラッカーである。工具64を使用する金属構造コンポーネントの製造では、異なるコーティングが鋼部材16に異なる冷却速度を生じさせ、この結果、表面構造が位置依存態様で変えられる。表面コーティングは除去できることが好ましく、必要に応じてフレキシブルに適用される。
【0045】
図5は、本発明によるバッチ炉および方法の例示実施形態を示す平面図である。バッチ炉90は、温度が異なる3つの領域92、94、96を有している。かくして、例えば領域96の温度はオーステナイト化温度より高くすることができ、一方、領域94の温度はオーステナイト化温度より低い。領域92は矢印98で示す温度勾配を有し、換言すれば、温度は、領域92の左側100から右側102に向かって上昇する。バッチ炉90内の位置依存温度により、シートバーとして形成されかつバッチ炉90内に配置された鋼部材104は、異なる温度に局部的に加熱または冷却される。この後、シートバーは、バッチ炉から硬化工具、より詳しくはプレス工具に向かって矢印106の方向に搬送される。このとき、シートバーは、局部的に異なる温度により、成形時および硬化時に構造的遷移を受け、これにより、位置依存顕微鏡組織を有する金属構造コンポーネント、したがって位置依存特性が作られる。
【0046】
図6は、本発明によるバッチ炉および方法の他の例示実施形態を示す長手方向断面図である。バッチ炉114は加熱要素116、118を有し、該加熱要素により、バッチ炉114内に配置されたシートバー120が加熱される。シートバー120はローラ122上に置かれ、該ローラにより、矢印123の方向にバッチ炉114に向かって供給されかつバッチ炉114から取出される。加熱要素116にはガスノズル124が設けられており、該ガスノズル124には、ライン126を通してガス、より詳しくは窒素が供給される。ガスノズル124は制御手段128を有し、該制御手段128により、ガスノズル124を通って流れるガスの量が調節される。このようにして、バッチ炉114のこの領域内には有効な低温が確立され、ガスノズル124の領域内のシートバーを冷却できる。ガスノズル124は個々にまたは群で制御され、これにより、異なる温度をもつ領域および/または領域の配置の温度プロファイルをフレキシブルに選択できる。
【0047】
図7は、本発明による方法の他の例示実施形態をフローチャートの形態で示すものである。この方法134では、第1段階136で、鋼部材が、炉内でオーステナイト化温度の領域内の温度まで加熱される。次に第2段階138では、鋼部材が、本発明によるバッチ炉内で焼戻され、これにより鋼部材は、異なる温度を有する部分領域をもつようになる。第3段階140(第3段階は、第2段階138の直後に行われるのが好ましい)では、鋼部材が、工具内で熱間成形および/またはプレス硬化される。熱間成形および/またはプレス硬化する工具は、本発明の第4教示による工具として設計するのが好ましい。第1段階136は任意であり、省略できる。
【0048】
図8は、本発明の方法により製造された車両の一方の側壁の形態をなす金属構造コンポーネント150を示すものである。金属構造コンポーネント150は、該コンポーネント150の硬化時に、異なる温度進行(temperature progressions, Temperaturverlaeufe(英、独訳))に通される2つの部分領域152、154を有している。部分領域152は、オーステナイト化温度より高い温度から高い冷却速度で冷却された。したがって、部分領域152は主としてマルテンサイト構造を有し、このため高強度を有する。部分領域154は、低い冷却速度でおよび/またはオーステナイト化温度より低い温度から冷却される。したがって、部分領域154はフェライト−ベイナイト構造またはフェライト−パーライト構造を有し、このため高い破断伸びを有する。
【0049】
図9に示されかつ本発明の方法により同様に製造された側壁の形態をなす金属構造コンポーネント160は、顕微鏡組織のより複雑な位置依存性を有し、したがって車両の荷重応力により良く適合できる。一方、部分領域162は主としてマルテンサイト構造を有し、特にBピラー166の足を含む部分領域164もフェライト−パーライト構造を有し、したがってより高い破断伸びを有する。このことは、側方ポール試験での構造的および機械的応力のため、サイドスカート168の場合に必要であり、かつIIHSクラッシュで生じる大きい変形に耐えることができるようにするため、Bピラー166の足でも必要である。図示のBピラー166は、所定形状に切断されかつ突合わせ接合されたマンガン−ホウ素鋼およびマイクロアロイ鋼からなる2つのシートバーから形成された特別注文ブランクで製造される。図8に示した側壁と比較して、図9に示す側壁はより複雑な部分領域配置でありかつこれに相応してより複雑な位置依存材料特性を有するため、車両に生じる応力に全体としてより良く適合する。このような金属構造コンポーネンツは、本発明の方法、工具およびバッチ炉により便利かつ簡単に製造できる。
【0050】
図10は、本発明により製造された第3金属構造コンポーネント170を示すものである。金属構造コンポーネント170は非リニア境界173を有し、該非リニア境界は、高強度の第1領域172を、低強度かつ高延性の第2領域171から分離している。本発明の分野における2つの領域間の非リニア境界は、一部が直線または少なくとも一部が曲線で形成され、したがって用途に特定された態様の境界プロファイルとすることができる。金属構造コンポーネント170は、異なる材料特性、例えば異なる強度および/または領域間の移行部を有する領域を本発明の方法により個々に調節できるという事実を示している。本発明による方法は、特に自動車構造用として、金属構造コンポーネンツの異なる顕微鏡組織の理想的で要求に応じたマッチングを行うことができる。
【符号の説明】
【0051】
4 下方パンチ
6 上方パンチ
16、104 鋼部材
30、64 工具
32、34、36、38 セクション
52a〜52r セグメント
74、76、78 表面コーティング
90 バッチ炉
92、94、96 領域
114 バッチ炉
116、118 加熱要素
120 シートバー
124 ガスノズル
128 制御手段
150、160、170 金属構造コンポーネント
173 非リニア境界

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属構造コンポーネント、より詳しくは車両の構造コンポーネントを製造する方法であって、鋼部材(16、104)が熱間成形されかつ工具表面(14)との接触により少なくとも数セクションに亘って硬化され、鋼部材(16、104)の少なくとも2つの部分領域(152、154、162、164)を、硬化中に、互いに異なる冷却速度で冷却し、これらの部分領域(152、154、162、164)の顕微鏡組織が、硬化後に異なるものとなるようにする方法において、熱伝導率が互いに異なる鋼部材(16、104)の部分領域(152、154、162、164)に対応する工具表面(14)のセクション(32、34、36、38、66、68、70、72)により、互いに異なる冷却速度が発生されることを特徴とする金属構造コンポーネントの製造方法。
【請求項2】
前記工具表面(14)の少なくとも2つのセクション(32、34、36、38、66、68、70、72)の領域の工具(30、64)が、異なる熱伝導率を有する異なる材料からなることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記セクション(32、34、36、38、66、68、70、72)が、鋼、鋼合金および/またはセラミックからなることを特徴とする請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記工具表面(14)の2つのセクション(32、34、36、38、66、68、70、72)のうちの少なくとも一方は、熱伝導率を低下または増大させる表面コーティングを有していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
金属構造コンポーネント、より詳しくは車両の構造コンポーネントを製造する方法であって、鋼部材(16、104)が加熱され、加熱された鋼部材(16、104)は、工具(2、30、64)内での冷却により少なくとも部分的に硬化され、硬化後の鋼部材(16、104)は、異なる顕微鏡組織を有する少なくとも2つの部分領域(152、154、162、164)を有する方法において、鋼部材(16、104)は、硬化前に、異なる温度を有する少なくとも2つの領域(92、94、96)を備えたバッチ炉(90、114)内で焼戻されることを特徴とする金属構造コンポーネントの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法にしたがって実施されることを特徴とする請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記鋼部材(16、104)は、バッチ炉(90、114)内での焼戻し前に、第2炉、より詳しくは連続炉内で加熱されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記鋼部材(16、104)はプレス工具内で硬化されることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記バッチ炉(90、114)は、温度勾配を有する少なくとも1つの領域(92)を有していることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記鋼部材(16、104)は、制御可能なガスノズル(124)により、より詳しくは窒素により、バッチ炉の少なくとも1つの部分領域(152、154、162、164)内で冷却されることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記鋼部材(16、104)は、直接的または間接的に熱間成形および/またはプレス硬化されることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
前記部分領域(152、154、162、164)間の少なくとも1つの境界が、鋼部材(16、104)の最大長手方向寸法に対して横方向にまたは傾斜して形成されおよび/または非リニアな態様で形成されていることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
前記鋼部材(16、104)として、半成品、より詳しくは特別注文ブランク、特別注文溶接ブランク、パッチワークブランクまたは特別注文圧延ブランク、または所定サイズに切断されたシートバーが使用されることを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
好ましくは、マイクロアロイ鋼例えばMHZ340と組合わされたMBW1500、MBW1700またはMBW1900の鋼部材(16、104)、および/またはマイクロアロイ鋼例えばMHZ340の鋼部材が使用されることを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
前記鋼部材(16、104)は、有機コーティング、より詳しくはアンチスケール保護コーティング、好ましくは溶剤ベースまたは水ベース1成分、2成分または多成分防アンチスケール保護コーティング、および/または無機コーティング、好ましくはアルミニウムベースまたはアルミニウム−シリコーンベースコーティング、より詳しくは溶融アルミニウムめっきコーティングおよび/または亜鉛ベースコーティングを有していることを特徴とする請求項1〜14のいずれか1項記載の方法。
【請求項16】
車両での、より詳しくはA、BまたはCピラー、側壁、ルーフフレームまたは長手方向部材としての、請求項1〜15のいずれか1項記載の方法により製造された金属構造部品の使用。
【請求項17】
鋼部材の熱間成形および硬化するための、より詳しくは鋼部材(16、104)と接触する工具表面(14)が、熱伝導率が異なる複数のセクション(32、34、36、38、66、68、70、72)からなることを特徴とする、請求項1〜15のいずれか1項記載の方法を実施するための工具。
【請求項18】
前記セクション(32、34、36、38、66、68、70、72)のうちの少なくとも1つは、熱伝導率を低下または増大させる表面コーティング(74、76、78)を有していることを特徴とする請求項17記載の工具。
【請求項19】
前記セクション(32、34、36、38、66、68、70、72)は、異なる熱伝導率を有する異なる材料、より詳しくは鋼、鋼合金および/またはセラミックからなることを特徴とする請求項17または18記載の工具。
【請求項20】
前記鋼部材(16、104)と接触する工具表面(14)は、少なくとも部分的に、交換可能なセグメント(52a〜52r)上および/または工具(2、30、64)の工具インサート上に配置されることを特徴とする請求項17〜19のいずれか1項記載の工具。
【請求項21】
バッチ炉(90、114)が少なくとも2つの領域(92、94、96)を有し、該領域では互いに異なる温度が確立されることを特徴とする、熱間成形法および/またはプレス硬化法の鋼部材を加熱する、より詳しくは請求項1〜15のいずれか1項記載の方法を実施するバッチ炉。
【請求項22】
前記バッチ炉(90、114)の少なくとも1つの領域(92、94、96)は、制御可能な冷却用、より詳しくは窒素用ガスノズル(124)を有していることを特徴とする請求項21記載のバッチ炉。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公表番号】特表2013−503748(P2013−503748A)
【公表日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−527266(P2012−527266)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【国際出願番号】PCT/EP2010/061495
【国際公開番号】WO2011/026712
【国際公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(510041496)ティッセンクルップ スチール ヨーロッパ アクチェンゲゼルシャフト (18)
【氏名又は名称原語表記】ThyssenKrupp Steel Europe AG
【住所又は居所原語表記】Kaiser−Wilhelm−Strasse 100,47166 Duisburg Germany
【Fターム(参考)】