説明

金属薄肉構造体並びに金属薄板の鍛造成形加工方法及び装置

【課題】本発明は、金属薄板に大きな荷重を加えることなく鍛造加工により成形できるとともに寸法精度が高く成形された金属薄肉構造体及びその鍛造成形加工方法及び装置を提供することを目的とするものである。
【解決手段】上型100のパンチ部104により金属薄板Mの周辺領域に荷重が加わり、鍛造押出し加工されて金属が流動するようになるが、金属薄板Mの中央領域には板押え部105により荷重が加わった状態となっているため、周辺領域から外方に向かって流動するようになる。その際に、背圧プレート206が油圧により上昇して型ガイド部204がダイ部203の側面に沿って上昇し、それに伴って型ガイド面204bがパンチ部104の側面104cとの間に所定の間隔を空けて上昇するようになる。そのため、金属薄板Mの周辺領域から外方に向かって流動した金属は、型ガイド面204bの上昇に誘導されて側面104cとの間の隙間に流入するようになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属薄板を用いて鍛造加工により一体成形された金属薄肉構造体並びにその鍛造成形加工方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属薄板を用いて筐体や容器といった金属薄肉構造体を成形する加工方法としては、曲げ加工、張り出し加工、深絞り加工等が挙げられるが、鍛造加工による方法も提案されている。例えば、特許文献1では、マグネシウム合金製鍛造薄肉成形体の製造方法が記載されており、荒鍛造加工用金型のポンチ肩部(またはダイ角部)の半径を、仕上鍛造加工用金型のポンチ肩部(またはダイ角部)の半径の2〜7倍とした金型を使用し、マグネシウム合金薄板素材を少なくとも荒鍛造及び仕上鍛造の複数工程で高温鍛造することにより主要部の肉厚がほぼ1.5mm以下の成形体に成形する点が記載されている。また、特許文献2では、板厚3mm以下のマグネシウム合金製薄板素材を、壁部の立ち上がり内側角部および/または外側角部の面取りまたは半径が1mm以下、ポンチまたはダイに窪み部分を有した金型を用い、素材温度200〜540℃で、成形荷重1〜30ton/cm2 、鍛造速度1〜500mm/秒、圧下率75%以下で荒鍛造した後、圧下率30%以下で仕上鍛造し、主要部肉厚1.5mm以下にする点が記載されている。
【特許文献1】特開2000−246386号公報
【特許文献2】特開2001−170734号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
金属薄板を用いて金属薄肉構造体を成形加工する場合、その板厚のままで曲げ加工を行うといった成形は簡単に行うことができるが、板厚を薄くする加工を行う場合には、割れやしわといった欠陥が生じやすくなる。また、鍛造加工においてもプレス成形を行う場合には、板厚を薄くして加工を行おうとすると大きな荷重を加える必要があり、そのための設備コストが大きくなる。
【0004】
したがって、例えば、マグネシウム合金材料を用いて金属薄肉構造体を成形加工する場合には、鋳造の一種であるダイカスト法、樹脂の射出成形と類似のチクソモールディング法が一般に用いられているが、内部欠陥が多い、溶接工程等の工程数が多いといった課題がある。
【0005】
そこで、本発明は、金属薄板に大きな荷重を加えることなく鍛造加工により成形できるとともに寸法精度が高く成形された金属薄肉構造体及びその鍛造成形加工方法及び装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る金属薄肉構造体は、金属薄板の周辺領域を鍛造押出し加工により成形した金属薄肉構造体であって、中央領域よりも周辺領域が薄肉に形成された底面部の周囲に一体成形された周壁部を備えていることを特徴とする。
【0007】
本発明に係る金属薄板の鍛造成形加工方法は、金属薄板の中央領域に所定の荷重を加えた状態で、金属薄板の周囲に配置された型ガイド面を金属薄板の加工面と交差する方向に移動させながら金属薄板の中央領域以外の周辺領域に押出し加工荷重を加えて周壁部を一体成形することを特徴とする。さらに、前記金属薄板の周辺領域は、成形する周壁部の容積に対応して前記金属薄板の外周端から内側に画定されることを特徴とする。さらに、温間鍛造の温度領域で行われることを特徴とする。
【0008】
本発明に係る金属薄板の鍛造成形加工装置は、金属薄板の中央領域に対向して配設された板押え部及び金属薄板の中央領域以外の周辺領域に対向して配設されたパンチ部を備えた上型と、前記板押え部及び前記パンチ部に対向して配設されるダイ部及び当該ダイ部の周囲に上下動可能に配設されるとともに前記パンチ部の側面との間に所定の間隔を空けて型ガイド面が形成された型ガイド部を備えた下型と、前記上型及び下型を相対的に移動させて前記パンチ部及び前記ダイ部の間に押出し加工荷重を加える加工荷重印加手段と、前記板押え部を金属薄板の中央領域に圧接させて所定の荷重を加える押え荷重印加手段と、前記型ガイド部を上下動させる移動手段とを備えていることを特徴とする。さらに、前記上型及び前記下型には、前記金属薄板を加熱する加熱手段が設けられていることを特徴とする。さらに、前記押え荷重印加手段は、荷重を加えるバネ部材を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、上記のような構成を備えることで、金属薄板の周辺領域のみ鍛造押出し加工により成形しているので、小さい荷重で鍛造加工が行うことが可能となり、低コストで寸法精度の高い金属薄肉構造体を得ることができる。そして、底面部から周壁部にかけて鍛造押出し加工で成形することで、軽量で欠陥のない強度の高い構造体となる。
【0010】
すなわち、鍛造加工によりプレス成形する場合、金属薄板に対して大きな荷重を加えなければ加工することができないが、こうした大きな荷重を加える必要があるのは金属薄板の中央領域であり、周辺領域をプレス成形する場合には比較的小さな荷重で加工することができる。そして、周辺領域を鍛造押出し加工により薄くしながら流動させて周壁部を成形すれば、筐体や容器状の金属薄肉構造体を精度よく簡単に鍛造成形加工することが可能となる。つまり、周壁部の成形に必要な量を供給する周辺領域のみ鍛造押出し加工すればよいため、小さい領域のみ荷重を加えればよく鍛造荷重か小さくて済む。
【0011】
そして、金属筐体のような金属薄肉構造体では、底面部から周壁部にかけて湾曲する部分に応力が集中して破壊が発生しやすいが、鍛造押出し加工により成形することで薄肉でも十分な強度を有する構造体とすることができる。
【0012】
本発明に係る金属薄板の鍛造成形加工方法は、金属薄板の中央領域に所定の荷重を加えた状態で周辺領域に押出し加工荷重を加えるので、鍛造押出し加工による周辺領域に生じる流動が中央領域に向かうことなく外方に向かうようになり、効率よく周壁部を成形することができる。そして、金属薄板の周囲に配置された型ガイド面を金属薄板の加工面と交差する方向に移動させながら鍛造押出し加工を行うことで、鍛造押出し加工により流動して外方に向かった金属材料は、型ガイド面に誘導されて金属薄板の加工面と交差する方向に流動して周壁部を成形することができる。このように周辺領域から外方にほぼ均一に流動していくのでスムーズに鍛造押出し加工を行うことができ、割れやしわ等の欠陥がほとんど生じない。
【0013】
そして、金属薄板の周辺領域を、成形する周壁部の容積に対応して金属薄板の外周端から内側に画定すれば、周壁部の高さを設計通りに鍛造成形加工することができる。
【0014】
また、温間鍛造の温度領域で鍛造押出し加工を行うことで、マグネシウム合金材料等の常温では鍛造押出し加工が困難な材料についても容易に鍛造成形加工できる。
【0015】
本発明に係る金属薄板の鍛造成形加工装置は、押え荷重印加手段により金属薄板の中央領域に上型の板押え部を圧着させて所定の荷重を加え、加工荷重印加手段により金属薄板の周辺領域をパンチ部及びダイ部で挟み込んで押出し加工荷重を加えるように構成されているので、鍛造押出し加工による流動が中央領域に向かうことなく確実に外方に向かうようにすることができる。そして、下型の型ガイド部を移動手段により上下動するように構成されているので、鍛造押出し加工により外方に向かって流動する金属材料を型ガイド部の型ガイド面が移動しながらパンチ部の側面との間に誘導して確実に周壁部に成形することができる。したがって、一度のプレス成形により金属薄肉構造体を成形でき、効率よく鍛造成形加工を行うことが可能となる。
【0016】
また、上型及び下型に金属薄板を加熱する加熱手段を設けることで、金属薄板を上型及び下型の間にセットすれば、金属薄板を温間鍛造の温度領域に安定した状態で維持することができる。
【0017】
また、押え荷重印加手段が、荷重を加えるバネ部材を備えていることで、常時一定の荷重が板押え部に加えられるため、安定した状態で金属薄板をダイ部に圧着させて保持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明に係る実施形態について詳しく説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明を実施するにあたって好ましい具体例であるから、技術的に種々の限定がなされているが、本発明は、以下の説明において特に本発明を限定する旨明記されていない限り、これらの形態に限定されるものではない。
【0019】
図1は、本発明に係る鍛造成形加工装置に関する概略構成図である。この例では、鍛造成形加工装置としてサーボプレス1を用いている。サーボプレス1は、クランク機構、エキセン機構、リンク機構等の駆動力伝達機構が内蔵されたクラウン2と、クラウン2内の駆動力伝達機構にプランジャ4を介して連結されたスライド3と、ボルスタ6が取り付けられたベッド7と、ベッド7の上面に立設されてクラウン2を支持するアプライト8とを備えている。そして、スライド3の下面には上型100が取付固定されており、ボルスタ6の上面には下型200が取付固定されている。
【0020】
図2は、サーボプレス1の動作制御に関する概略構成図である。スライド3は、サーボモータ9により駆動されるスライド駆動部5により上下方向に移動制御されるようになっており、コントローラ10からの駆動制御信号によりサーボモータ9の回転駆動制御が行われてスライド3の位置調整が行われる。サーボプレス1は、スライド3の下死点位置補正装置が設けられており、コントローラ10は、スライド位置検知器11からの検知信号に基づいて位置調整モータ12を回転駆動して位置調整機構13を動作させて位置補正を行うようになっている。
【0021】
上述のサーボプレス1では、サーボモータ9によりスライド3の位置制御を精密に行えるため、後述するように上型及び下型に加熱手段を取り付けて上型及び下型を金属薄板に接触させた位置に調整して加熱することができるようになり、加熱工程からプレス工程を1台の装置で連続して行うことが可能となる。したがって、高効率で低コストの鍛造成形加工が実現できる。
【0022】
図3は、上型100及び下型200に関する概略構成図である。図3では、スライド3に固定された上型100が下方に移動して下型200に圧着したプレス状態を示している。
【0023】
上型100は、スライド3の下面に取付固定されるベース101と、ベース101の下面に断熱板Tを介して固定される取付基台102と、取付基台102の下面に断熱板Tを介して固定されるバネ保持部103と、バネ保持部103の下面に断熱板Tを介して固定されるパンチ部104と、パンチ部104の中央部分に穿設された取付穴106に嵌合する板押え部105とを備えている。バネ保持部103の内部には、圧縮バネ部材107を収容する収容部108が形成されている。
【0024】
ベース101及び取付基台102の中央部分に穿設されて連通する取付穴109には背圧ロッド110が挿着されており、その下端部は収容部108内まで延設されている。板押え部105の上端部にはフランジ部105bが形成されており、パンチ部104の上面に配設された断熱板Tの上面にフランジ部105bが配設されている。そして、フランジ部105の上面は、断熱板Tを介して圧縮バネ部材107が圧接して下方に付勢されるようになっており、また背圧ロッド110の下端部が当接するように設定されている。
【0025】
パンチ部104の内部にはヒータHが挿着されており、ヒータHを加熱することでパンチ部104全体が加熱されるようになっている。
【0026】
下型200は、ボルスタ6の上面に取付固定されるベース201と、ベース201の上面に断熱板Tを介して固定された取付基台202と、取付基台202の上面に断熱板Tを介して固定されたダイ部203と、ダイ部203の周囲に上下動可能に配設された型ガイド部204を備えている。
【0027】
ベース201の中央部分には取付穴205が穿設されており、取付穴205には背圧プレート206が嵌着されている。型ガイド部204の下部から延設されたロッド部204aは、取付基台202に穿設された孔部を貫通して背圧プレート206の上面に当接するように設定されている。
【0028】
ダイ部203及び型ガイド部204の内部にはヒータHが挿着されており、ヒータHを加熱することでダイ部203及び型ガイド部204全体が加熱されるようになっている。
【0029】
パンチ部104の下面には、中央部分が突出するように押圧部104aが形成されており、押圧部104aの下面が金属薄板の加工面104bとなる。押圧部104aの内部に板押え部105が貫通してその下面が加工面104bの中央部分に露出して圧接面105aとなっている。
【0030】
ダイ部203の上部は、押圧部104aに対向するように形成された押圧部203aが形成されており、押圧部203aの上面は、加工面104b及び圧接面105aに対向して加工面104bの外形とほぼ合致するように形成された加工面203bとなっている。押圧部203aの側面の全周にわたって型ガイド部204の内側面に形成された型ガイド面204bが当接しており、型ガイド部204aが押圧部203aの側面に沿って上昇すると、型ガイド面204bは、パンチ部104の押圧部104aの側面104cに沿って上昇するようになる。その際に、押圧部104aの側面104cと型ガイド面204bとの間には所定の間隔が空くように設定されている。
【0031】
図4は、背圧ロッド110及び背圧プレート206に圧力を加える背圧装置の一例を示す概略構成図である。この例では、エアコンプレッザ20から供給される圧縮空気を用いて油圧ピストン21を動作させて油圧を発生させてシリンダ24及び25を作動させ背圧ロッド110及び背圧プレート206にそれぞれ圧力を加えている。油圧管路には、バルブ22、油圧ゲージ23及びリリーフバルブ24を取り付けて所定の荷重がシリンダを介して背圧ロッド110及び背圧プレート206に加わるように設定する。
【0032】
なお、背圧装置として油圧を用いる例を説明したが、油圧以外に機械的に圧力を加えるようにしてもよく、特に限定されない。
【0033】
図5及び6は、上型100及び下型200により金属薄板Mの鍛造押出し加工を行う場合の工程を示す説明図である。図5では、上型100が上昇した位置に設定されて背圧ロッド110及び背圧プレート206には、油圧がかけられていない状態となっている。この状態では、板押え部105が圧縮バネ部材107により下方に付勢されてパンチ部104の上面に配設された断熱板Tの上面に押圧されている。そのため、板押え部105の下面の圧接面105aがパンチ部104の下面の加工面104bよりもわずかに下方に突出した状態となっている。
【0034】
また、背圧プレート206は、油圧がかかっていないため自重で下方異動してベース201に当接した状態となっており、それに伴い型ガイド部204も下方に移動してダイ部203の下部の段差部に係止した状態となっている。この状態では、型ガイド部204の上面がダイ部203の加工面203bよりもわずかに突出した状態となる。そして、金属薄板Mは、予め全体に潤滑剤を塗布して加工面203bに嵌め込むように載置される。加工の際に加熱が必要な場合には、予めヒータHに通電して加熱しておく。
【0035】
次に、図6に示すように、上型100を下方に移動してパンチ部104の加工面104bが金属薄板Mの上面の周辺領域に接触した状態になるように位置を微調整する。この状態では、板押え部105の圧接面105aが金属薄板Mの中央領域に当接して押し込まれた状態となるため、圧縮バネ部材107の付勢力により金属薄板Mの中央領域が圧接されてダイ部203の加工面203bとの間に保持される。
【0036】
金属薄板Mは、パンチ部104、ダイ部203及び型ガイド部204に囲まれた状態となるため、ヒータHからの熱により全体が均一に所定温度となるように加熱される。温間鍛造などのように予め金属薄板を成形温度に設定する必要がある場合には、こうして上型及び下型で予め金属薄板を加熱することができ、効率的に加工を行うことが可能となる。冷間鍛造を行う場合には、図6に示す加熱工程は省略して鍛造押出し加工を行うようにすればよい。
【0037】
所定温度に金属薄板を加熱した後背圧ロッド110及び背圧プレート206に油圧が加えられるとともに上型100及び下型200に鍛造押出し加工に必要な荷重が加えられる。図3は、鍛造押出し加工が行われている状態を示している。背圧ロッド110に油圧が加えられることで板押え部105が圧下されて金属薄板Mの中央領域に圧接した圧接面105aから所定の荷重が加えられた状態となり、そうした状態で金属薄板Mの周辺領域に対向するパンチ部104の加工面104bが圧下されてダイ部203の加工面203bとの間で鍛造押出し加工が行われる。
【0038】
図7は、鍛造押出し加工が行われる部分の一部拡大図である。鍛造押出し加工により金属薄板Mの周辺領域に荷重G1が加えられて流動するようになるが、金属薄板Mの中央領域には荷重G2が加わった状態となっているため、周辺領域から外方に向かって流動するようになる。その際に、背圧プレート206が油圧により上昇して型ガイド部204がダイ部203の側面に沿って上昇し、それに伴って型ガイド面204bがパンチ部104の側面104cとの間に所定の間隔を空けて上昇するようになる。そのため、金属薄板Mの周辺領域から外方に向かって流動した金属は、点線の矢印で示すように、型ガイド面204bの上昇に誘導されて側面104cとの間の隙間に流入するようになる。こうして鍛造押出し加工により金属薄板Mの周囲に周壁部が成形されるようになる。
【0039】
そして、パンチ部104の加工面104の圧下位置により型ガイド面204bと側面104cとの間に流入する金属量が変化するため、圧下位置を調整することで周壁部の高さを調整することができる。
【0040】
図8は、矩形状の金属薄板Mを用いた場合の中央領域M0及び周辺領域M1を画定した例を示す平面図である。この例では、金属薄板Mは、平面視正方形状で四隅が丸められた形状をしており、こうした形状では、周辺領域は、四辺に対応して外周端から距離d1だけ内側に入った境界線により画定されるとともに四隅では距離d1よりも長い距離d2だけ内側に入った境界線で画定される。こうした周辺領域の画定は、周壁部の形成に必要な容積に対応して設定すればよい。この例では、周囲に同じ高さの周壁部を形成するために、四辺から等距離に周辺領域を画定しているが、四隅の周壁部にはさらに多くの容積が必要となるため周辺領域の幅を大きく設定している。
【0041】
このように、金属薄板Mの周囲に成形する周壁部の容積と予め算出しておき、それに対応して周辺領域の各部分において流動する容積がどの程度必要かを計算してその領域を画定するようにすればよい。また、こうして画定した中央領域に合致するように板押え部105の圧接面105aを形成し、周辺領域に合致するようにパンチ部104の加工面104bを形成する。
【0042】
図9は、図8の金属薄板Mを鍛造押出し加工により成形した金属薄肉構造体Cに関する斜視図(図9(a))及びA−A断面図(図9(b))である。金属薄肉構造体Cは、底面部において鍛造押出し加工された周辺領域に対応する部分C1が鍛造押出し加工されていない中央領域に対応する部分C0よりも薄肉に形成されており、周囲に周壁部C2が所定の高さで形成されている。鍛造押出し加工により周辺領域から金属が流動するため周辺部分C1は中央部分C0よりも薄くなり、流動した分が周壁部C2として成形される。そのため、周辺部分C1から周壁部C2にかけて鍛造押出し加工されるので、鍛造による欠陥のない十分な強度を備えた構造体となっている。
【0043】
図10は、平面視円形状の金属薄板M’を用いた場合の中央領域M0’及び周辺領域M1’を画定した例を示す平面図である。この例では、金属薄板M’の外周から内側に距離d1’だけ内側に入った境界線により画定する。こうして画定した中央領域M0’及び周辺領域M1’に合せて板押え部105の圧接面105a及びパンチ部104の加工面104bを形成して鍛造押出し加工を行うことで、周囲に周壁部を成形することができる。
【0044】
金属薄板の平面形状は、上述した矩形状や円形状以外の形状にも対応することが可能で、角部等の周壁部の成形に多くの容積の金属が必要な箇所については、周辺領域の幅を広く設定すればよい。
【0045】
図11は、板押え部105に関する変形例を示す概略図である。この例では、板押え部105を周辺押え部105A及び中心押え部105Bに分割し、断面がドーナツ状に形成された周辺押え部105A内に中心押え部105Bが嵌合して摺動可能に取り付けられている。そして、周辺押え部105Aは、上述したように、背圧ロッド110から油圧が印加されるが、中心押え部105Bには図示せぬ弾性部材により下方に付勢されて一定の押圧力G3で押圧するようになっている。そのため、油圧により荷重が加えられる領域を板押え部105の周辺だけとなり、荷重を加える領域を小さくすることができる。
【0046】
板押え部105で押圧する中央領域が広くなってくると、中央領域全体を所定の荷重で押圧した状態を維持するためにはその分大きな荷重を板押え部105に加える必要がある。しかしながら、パンチ部104により鍛造押出し加工された際に中央領域への流動を抑止するためには、押圧領域の周辺に所定の荷重を加えておけばよく、必ずしも領域全体に加えておく必要はない。図11に示す変形例では、油圧により荷重を加える領域を小さくすることができるので、板押え部105の押圧する領域が広がったとしてもそれに対応して大きな荷重を加える必要はなくなる。
【0047】
なお、金属薄板の材料としては、ステンレス鋼材料、アルミニウム及びその合金材料、マグネシウム合金材料、銅及びその合金材料、チタン及びその合金材料等が挙げられる。アルミニウム及びその合金材料の場合には、常温で鍛造押出し加工が可能なことから、図6で説明したような加熱工程は不要となる。マグネシウム合金材料の場合には、材料を加熱して温間鍛造で鍛造押出し加工を行うようにすればよい。
【実施例】
【0048】
金属薄板として、マグネシウム合金材料(ASTM規格;AZ31B)からなり、厚さ1.2mm、45mm角の矩形状に形成されたものを用いた。サーボプレス(コマツ産機株式会社製、H1F45;プレス能力45tonf、最大加工速度530mm/秒)を使用し、図3に示す上型及び下型を取り付けて鍛造成形加工を行った。金属薄板の中央領域は矩形状に設定した。
【0049】
金属薄板は、上型及び下型の間に10秒間保持することで加熱した。加熱温度は、350℃に設定した。温度の測定は、金属薄板表面の温度を赤外線サーモグラフィを用いて確認した。
【0050】
パンチ部の圧下率R(%)を、金属薄板の周辺領域の加工前の厚さt0及び加工後の厚さtを用いて以下のとおり定義し、0〜60%に変化させて行った。
R=(t0−t)/t0×100
また、背圧ロッド及び背圧プレートに加えられる荷重pについては、1.02〜5.86MPaに変化させて行った。
【0051】
成形された構造体の周壁部及び底面部については、欠陥のない十分な強度を備えたものであった。実験結果を図12に示す。図12では、横軸及び縦軸にそれぞれ圧下率R及び成形された周壁部の高さhをとり、背圧荷重p毎の測定結果をグラフ化している。実験結果をみると、背圧荷重pによる周壁部の高さhの変化はあまり認められず、小さい荷重pでも圧下率Rを変化させることで周壁部の高さを調整できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、携帯端末、携帯電話、デジタルカメラ等の小型電子機器の筐体構造に好適であり、ノートブック型のパソコンといった軽量化が要請される電子機器に用いることで、より軽く十分な強度を有する優れた筐体を鍛造成形加工することができる。また、複写機やプリンタといった精密機器に用いることで、寸法精度の高い部品を鍛造成形加工することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明に係る鍛造成形加工装置に関する概略構成図である。
【図2】サーボプレスの動作制御に関する概略構成図である。
【図3】上型及び下型に関する概略構成図である。
【図4】背圧ロッド及び背圧プレートに関する背圧装置の概略構成図である。
【図5】上型及び下型による金属薄板の鍛造押出し加工に関する説明図である。
【図6】上型及び下型による金属薄板の鍛造押出し加工に関する説明図である。
【図7】鍛造押出し加工が行われる部分の一部拡大図である。
【図8】矩形状の金属薄板に関する中央領域及び周辺領域を示す平面図である。
【図9】図8の金属薄板を成形した金属薄肉構造体に関する斜視図及びA−A断面図である。
【図10】円形状の金属薄板に関する中央領域及び周辺領域を示す平面図である。
【図11】板押え部に関する変形例を示す概略図である。
【図12】圧下率Rを変化させた場合の周壁部の高さhの変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0054】
1 サーボプレス
100 上型
104 パンチ部
105 板押え部
107 圧縮バネ部材
110 背圧ロッド
200 下型
203 ダイ部
204 型ガイド部
206 背圧プレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属薄板の周辺領域を鍛造押出し加工により成形した金属薄肉構造体であって、中央領域よりも周辺領域が薄肉に形成された底面部の周囲に一体成形された周壁部を備えていることを特徴とする金属薄肉構造体。
【請求項2】
金属薄板の中央領域に所定の荷重を加えた状態で、金属薄板の周囲に配置された型ガイド面を金属薄板の加工面と交差する方向に移動させながら金属薄板の中央領域以外の周辺領域に押出し加工荷重を加えて周壁部を一体成形することを特徴とする金属薄板の鍛造成形加工方法。
【請求項3】
前記金属薄板の周辺領域は、成形する周壁部の容積に対応して前記金属薄板の外周端から内側に画定されることを特徴とする請求項2に記載の鍛造成形加工方法。
【請求項4】
温間鍛造の温度領域で行われることを特徴とする請求項2又は3に記載の鍛造成形加工方法。
【請求項5】
金属薄板の中央領域に対向して配設された板押え部及び金属薄板の中央領域以外の周辺領域に対向して配設されたパンチ部を備えた上型と、前記板押え部及び前記パンチ部に対向して配設されるダイ部及び当該ダイ部の周囲に上下動可能に配設されるとともに前記パンチ部の側面との間に所定の間隔を空けて型ガイド面が形成された型ガイド部を備えた下型と、前記上型及び下型を相対的に移動させて前記パンチ部及び前記ダイ部の間に押出し加工荷重を加える加工荷重印加手段と、前記板押え部を金属薄板の中央領域に圧接させて所定の荷重を加える押え荷重印加手段と、前記型ガイド部を上下動させる移動手段とを備えていることを特徴とする金属薄板の鍛造成形加工装置。
【請求項6】
前記上型及び前記下型には、前記金属薄板を加熱する加熱手段が設けられていることを特徴とする請求項5に記載の鍛造成形加工装置。
【請求項7】
前記押え荷重印加手段は、荷重を加えるバネ部材を備えていることを特徴とする請求項5又は6に記載の鍛造成形加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−36699(P2008−36699A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−217581(P2006−217581)
【出願日】平成18年8月9日(2006.8.9)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 研究集会名 平成17年度 博士前期課程 公聴会 主催者名 国立大学法人福井大学 開催日 平成18年2月16日 発行者名 国立大学法人福井大学 刊行物名 2005年度(平成17年度)学位論文要旨集 発行年月日 平成18年2月16日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度経済産業省近畿経済産業局「地域申請コンソーシアム研究開発事業(マグネシウム合金製携帯電子機器製造のための超精密複合鍛造技術の開発)に係る委託契約に基づく研究開発」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける出願
【出願人】(504145320)国立大学法人福井大学 (287)
【出願人】(391015638)アイテック株式会社 (16)
【出願人】(594054782)株式会社西村金属 (5)
【Fターム(参考)】