説明

金属表面に耐食性の層を形成する方法

モノマーの構成単位として、20〜70重量%の窒素複素環含有モノマーと、10〜50重量%の酸性基含有モノマーと、10〜50重量%のビニル芳香族モノマーと、必要に応じて0〜25重量%の他のモノマーを有するコポリマーを使用して、金属表面に腐食制御塗膜を形成する方法、特に一体的前処理層または大気腐食制御用塗膜を形成する方法。
上記組成のコポリマー、および腐食制御塗膜を形成するための配合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腐食制御塗膜を形成する方法に関し、特に、窒素複素環含有モノマーと酸性基含有モノマーとビニル芳香族モノマーとをモノマーの構成単位として含むコポリマーを用いて、金属表面に、一体的前処理層または大気腐食制御用の塗膜を形成する方法に関する。また、本発明は、上記コポリマーと上記腐食制御塗膜の形成用の配合物に関する、
【背景技術】
【0002】
代表的な金属材料から作られる金属性装置や部品、構造物または金属建築物は、腐食から保護する必要がある。金属表面を腐食性媒体の作用からを遮断する塗膜は、腐食制御において重要な位置を占めている。好適な腐食制御塗膜系は、通常、一種以上のバインダー、耐食性顔料、有機腐食制御剤、また適当なら他の補助剤や添加剤を含んでいる。
【0003】
腐食制御塗膜を形成するのに用いられるいろいろな手法が存在する。
薄肉の金属性工作物、例えば自動車のボディーや装置のパネル、建築物の外壁パネルを製造する際には、適当な金属シートを作りこれを適当な手法で連結する。このための原料には、通常、金属の圧延で製造され、保管や輸送用にロール状に巻いた細長い金属板(コイルという)が使われる。
【0004】
過去には腐食制御処理は、実質的には最後の金属性工作物に、例えば溶接で組み立てた自動車のボディーに行われてきたが、最近ではコイル塗装によりコイル金属自体に腐食制御処理を施すことが多くなってきている。
【0005】
コイル塗装では、コイル塗装ラインで、例えばアルミニウムやスチールの細長い金属板またはコイルに、適当な塗装剤を連続的に塗装する。
【0006】
コイル塗装作業の際には、通常必要なら金属コイルをまず洗浄する。従来のコイル塗装作業では、実際の腐食制御処理が二段で行われてきた。
【0007】
−最初に薄い前処理層(< 1μm)を形成する。この層の目的は、耐食性を増加させるとともに、続く塗装膜の金属表面への接着を向上させることである。このための既知の前処理浴としては、Cr(VI)含有浴やCr(III)含有浴、またクロム酸を含まない浴がある。
【0008】
−次いでプライマー層が形成される。その乾燥膜厚は通常約5〜8μmである。このためには、通常適当な焼付けワニス及び/又は光化学硬化性の塗装剤が使用される。
【0009】
目的用途によっては、このように前処理された金属コイル上に、さらに一枚以上の上塗り塗膜が形成される。この塗装は、コイル塗装ラインで引き続いて実施してもよいし及び/又は後ほど実施してもよい。このように塗装された金属コイルの層構造を、模式的に図1に示す。金属(1)上に、従来の前処理層(2)とプライマー塗膜(3)と、一枚以上の異なる上塗塗装膜(4)が形成される。金属コイルを、前処理層(2)とプライマー塗膜(3)とで二段塗装するのは、高コストであり不便である。また、市場ではCr(VI)フリーの腐食制御系がますます求められるようになってきている。したがって、前処理層(2)と有機プライマー層(3)を形成する代わりに、両方の層の機能を持つ単一の一体的前処理層(2’)を形成することには価値がある。例としてこの種の層構造を模式的に図2に示す。この種の一段操作により、塗装金属コイルの製造が大幅に単純化される。
【0010】
例えば建物、橋、電柱、油タンク、パイプライン、発電所または化学プラントのような定置型の金属建築物の場合には、上記のような方法で腐食制御塗膜を形成することができないため、通常、現場でブラシ塗装や噴霧により塗装が行われる。このような腐食制御塗膜の乾燥と硬化は、大気条件下で、すなわち大気温度、大気湿度下で空気の存在下で行われる。この種の腐食制御は、大気腐食制御とも呼ばれ、腐食暴露の程度によって、軽防食や中防食、重防食とよばれる。
【0011】
WO2004/81128には、金属表面不活性化のための、45〜100重量%のビニルイミダゾールを含むポリマーの利用が開示されている。このポリマーは、さらに最大50重量%のN−ビニルラクタム、ビニルヘテロ芳香族化合物、ビニルエステルまたはC1〜C10(メタ)アクリレートと、0〜5重量%の酸基を有する一エチレン性不飽和モノマーを含有していてもよい。
【0012】
EP−A 1288338には、マレイン酸及び/又は無水マレイン酸とオレフィンのコポリマーが開示されている。このマレイン酸単位を、続いて1−(3−アミノプロピル)イミダゾールを用いて.ポリマー類似反応によりイミダゾール単位と反応させて官能化させることができる。このポリマーは、水系の腐食防止剤として有用でありうる。
【0013】
JA−7037034には、2〜40重量%のイミダゾール基含有モノマーと、3〜50重量%のカルボキシル基含有モノマー類と、2〜50重量%のOH基含有モノマーからなるコポリマーが開示されている。他のモノマー、例えばアクリレートが共存していてもよい。このポリマーは、特に電着塗装材料の塗装に使用できる。
【0014】
WO93/07190には、1%〜20重量%のビニルイミダゾール及び/又はジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、0〜50重量%のOH基含有モノマー、0〜50重量%のカルボキシル基含有モノマー、30〜85重量%の他のエチレン性不飽和モノマーからなるコポリマーが開示されている。このコポリマーは、例えば自動車の塗替え材料中のバインダーとして使用できる。
【0015】
JP−A 2001−215712には、酸性モノマー、塩基性モノマーと、さらにアルキル−及び/又はアリール−アンモニウムまたはホスホニウム系のモノマーとからなるコポリマーが開示されている。具体的には開示されているのは、70重量%のN−ビニルイミダゾールと10重量%のメタクリル酸と20重量%のビニルベンジルトリブチルホスホニウム塩化物とのコポリマーと、50重量%のビニルイミダゾールと40重量%のビニルベンジルホスホン酸と20重量%のビニルベンジルトリエチルアンモニウム塩化物とからなるコポリマーである。コモノマーとして、ビニル芳香族炭化水素は開示されていない。
【0016】
DE−A2547970には、0.5〜5重量%のビニルイミダゾール、及び(メタ)アクリル酸エステル、スチレン、ビニルエステルまたはエチレンからなる塗料バインダー用のコポリマーが開示されている。
【0017】
DE1223247には、5〜95重量%のビニルイミダゾールと95〜5重量%のアクリル酸などの他のコモノマーからなる紙サイジング用の水溶性コポリマーが開示されている。
【0018】
しかし、これらの文書中には、最初に定義したコポリマーや、その腐食制御塗膜を形成する方法での利用、また特にコイル金属への一体的な腐食制御塗膜の連続形成方法について述べたものはない。
【0019】
WO2005/078025には、腐食制御剤としてジチオリン酸エステルを含む一体的前処理層とその一体的前処理層を形成する方法が開示されている。現在未公開の、発明者等の出願であるWO2006/084879には、ジチオホスフィン酸を腐食防止剤として含む一体的前処理層の形成方法が開示されている。ポリマー性腐食防止剤の利用は開示されていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明の目的は、改善された腐食制御塗膜を形成する方法を提供することであり、特に一体的前処理層と大気腐食制御塗膜、改善された腐食制御塗膜、及び改善された腐食防止剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
この結果、金属の表面に腐食制御塗膜を形成する方法であって、少なくとも、硬化性または架橋性のバインダー系(A)と、微分散した充填材と顔料、染料の群から選ばれる成分(B)と、ポリマー性の腐食防止剤(C)とからなる配合物を金属の表面に塗布し、上記ポリマー性の腐食防止剤が次のモノマーの構成単位から合成されるコポリマー(C)であることを特徴とする方法を見出した。
【0022】
(C1)20〜70重量%の少なくとも一種の、窒素原子を1から3個有する5員または6員環の芳香族窒素複素環を含む一エチレン性不飽和モノマー、
(C2)10〜50重量%の少なくとも一種の、少なくとも一種の酸基を含む一エチレン性不飽和モノマー、
(C3)10〜50重量%の少なくとも一種の、一エチレン性不飽和芳香族炭化水素、および
(C4)必要に応じて、 0〜25重量%の他の、非−(C1 〜C3)エチレン性不飽和モノマー、
(なおいずれの場合も、その量はコポリマー中の全モノマー構成単位の総量に対する値である)。
【0023】
本発明のある好ましい実施様態においては、本方法は、熱架橋性/又は光化学架橋性のバインダー系を用いて一体的前処理層を形成する方法であり、次いで、この層は熱的及び/又は光化学的に架橋される。
【0024】
本発明の他の好ましい実施様態においては、本方法は、大気条件下で硬化性を示すバインダー系を用いて大気腐食制御する方法であり、この層は塗布後に大気条件下で硬化される。
【0025】
さらに他の側面においては、本発明は、最初に定義したコポリマーを提供し、最初に定めたコポリマーを含む腐食制御塗膜を形成するための調合物を提供する。
【0026】
驚くべきことに、本発明のコポリマーがより優れた腐食制御塗膜を与えることが明らかとなった。このコポリマーは、効果的な腐食防止作用と表面に対する効果的な接着性を示し、塗膜の機械的性質を大きく改善させることがある。さらにヒドロキシル官能基及び/又はアミノ官能基を導入することで、このコポリマーのバインダー系への混合を改善することができる。また、このコポリマーは一定の両親性をもち、塗装材料の界面、例えば金属/塗膜界面、塗膜/環境界面、疎水/親水性界面を安定化させることができる。
【0027】
図面の簡単な説明
図1:従来技術の二段前処理による塗装金属コイルの断面
図2:本発明の一体的合前処理による塗装金属コイルの断面
【0028】
発明の詳細な説明
コポリマー(C)
本発明のコポリマー(C)は、(C1)と(C2)と(C3)のモノマー、および必要に応じて(C4)のモノマーから合成される。いずれの場合も、2種以上の異なるモノマー(C1)、(C2)、(C3)及び/又は、必要に応じてモノマー(C4)を使用してもよいことは言うまでもない。(C1)と(C2)と(C3)および適当なら(C4)以外に、他のモノマーは使用しない。
【0029】
モノマー(C1)
モノマー(C1)は、少なくとも一種の、窒素原子を1から3個有する5員または6員環の芳香族窒素複素環を含む一エチレン性不飽和モノマーを含む。環内に、窒素原子以外に、必要に応じて他のヘテロ原子が存在してもよい。
【0030】
6員環の芳香族の複素環の例としては、特に、ピリジンや2−ビニルピリジンや4−ビニルピリジンなどのピリジン誘導体があげられる。5員環の芳香族複素環の例としては、ピロール、ピラゾール;イミダゾール、1,2,3−トリアゾールまたは1,2,4−トリアゾールがあげられ、具体的には、1−ビニルイミダゾール、4−ビニルイミダゾール、1−ビニルピラゾールまたは1−ビニル−1,2,4−トリアゾールがあげられる。
【0031】
一方、このモノマーは、窒素複素環でその環のH原子が一個のビニル基で置換されたモノマーであってもよい。あるいは、一エチレン性不飽和基が、連結基を経由して複素環につながっていてもよい。
【0032】
モノマー(C1)の窒素複素環は、好ましくはビニルイミダゾールまたは一般式(I)で表されるビニルイミダゾール誘導体である。
【0033】
【化1】

【0034】
この式において、R1、R2、R4、R5の基の一つは、ビニル基である。好ましくは、R1またはR4がビニル基であり、より好ましくはR1がビニル基である。ビニル基でない基は、独立して、HまたはC1〜C12アルキル基、好ましくはC1〜C6アルキル基、より好ましくはメチル基である。好ましくは、残る三つの基のうち二つがHであり、一つがC1〜C12アルキル基、好ましくはC1〜C6アルキル基、より好ましくはメチル基である。特に好ましい化合物の例としては、1−ビニル−イミダゾール、1−ビニル−2−メチルイミダゾールまたは4−ビニルイミダゾールがあげられる。
【0035】
モノマー(C1)が1−ビニルイミダゾールを含むことが極めて好ましい。
【0036】
本発明において、全モノマー(C1)の総量は、コポリマー(C)中の全モノマー構成単位の総量に対して20〜70重量%である。好ましくは、その量は25〜65%であり、より好ましくは30〜60%、非常に好ましくは35〜55重量%である。
【0037】
モノマー(C2)
モノマー(C2)は、少なくとも一種の酸基を有する一エチレン性不飽和モノマーを含む。この酸基は、遊離の酸基であっても、完全あるいは部分的に塩の形となっていてもよい。
【0038】
この酸基は、好ましくは、カルボキシル基やリン酸基、ホスホン酸基、スルホン酸基から選ばれる少なくとも一種の基を有している。
【0039】
COOH基を有するモノマーとしては、例えば(メタ)アクリル酸、ビニル酢酸、クロトン酸またはイソクロトン酸があげられる。このモノマーは、2個のCOOH基を有するモノマーであってもよい。その例としては、マレイン酸や、フマル酸、メチルフマル酸、メチルマレイン酸、ジメチルマレイン酸、また適当ならこれらの環状無水物があげられる。好ましいCOOH基を有するモノマーは、(メタ)アクリル酸とイタコン酸である。
【0040】
リン酸基及び/又はホスホン酸基を有するモノマーの例としては、ビニルホスホン酸、モノビニルホスフェート、アリルホスホン酸、モノアリルホスフェート、3−ブテニルホスホン酸、モノ−3−ブテニルホスフェート、モノ(4−ビニルオキシブチル)ホスフェート、ホスホノキシエチルアクリレート、ホスホノキシエチルメタクリレート、モノ−(2−ヒドロキシ−3−ビニルオキシプロピル)ホスフェート、モノ−(1−ホスホノキシメチル−2−ビニルオキシエチル)ホスフェート、モノ(3−アリルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)ホスフェート、モノ−2−(アリロキシ− 1−ホスホノキシメチルエチル)ホスフェート、2−ヒドロキシ−4−ビニルオキシメチル−1,3,2−ジオキサホスホールまたは2−ヒドロキシ−4−アリルオキシメチル−1,3,2−ジオキサホスホールがあげられる。好ましいリン酸基及び/又はホスホン酸基を有するモノマーは、ビニルホスホン酸である。
【0041】
スルホン酸基を有するモノマーとしては、例えばアリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、スチレンスルホネート、ビニルスルホン酸、アリルオキシベンゼンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸または2−(メタクリロイル)エチルスルホン酸があげられる。好ましいスルホン酸基を有するモノマーはアクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸である。
【0042】
一体的腐食制御塗膜を形成する方法には、リン酸基及び/又はホスホン酸基を有するモノマーをモノマー(C2)として使用することが特に好ましく、
ビニルホスホン酸の使用がさらに好ましい。
【0043】
大気腐食制御の場合、COOH基およびスルホン酸基を有するモノマーをモノマー(C2)として使用することが特に好ましく、イタコン酸の使用がさらに好ましい。
【0044】
本発明において、使用する全モノマー(C2)の総量は、コポリマー(C)の構成単位の全モノマーの総量に対して10〜50重量%である。この量は好ましくは15〜45%であり、より好ましくは20〜40%、非常に好ましくは22〜36重量%である。
【0045】
モノマー(C3)
モノマー(C3)は、少なくとも一種の一エチレン性不飽和芳香族炭化水素を含む。
【0046】
この種類の炭化水素の例としては、特にスチレンおよびスチレンの誘導体、例えばα−メチルスチレン、2−ビニルトルエン、4−ビニルトルエンまたはアリルベンゼンがあげられる。
【0047】
このモノマー(C3)がスチレンを含むことが特に好ましい。
本発明において全モノマー(C3)の総量は、コポリマー(C)の構成単位の全モノマーの総量に対して10〜50重量%である。この量は、好ましくは15〜45%であり、より好ましくは20〜40%、非常に好ましくは25〜35重量%である。
【0048】
モノマー(C4)
本発明において用いられるコポリマー(C)は、さらに、構成単位として、0〜25%、好ましくは0〜15%、より好ましくは0〜10重量%の(C1)や(C2)、(C3)とは異なる、共重合可能な他のエチレン性不飽和モノマー(C4)を含んでいてもよい。この種類のモノマーは、必要なら、コポリマー(C)の性質を微調整するのに使用できる。
【0049】
このモノマー(C4)は、好ましくは(C1)〜(C3)のモノマーとは異なる、一エチレン性不飽和モノマーである。熟練者は、ポリマーの所望の性質や用途に応じて、このようなモノマー(C)の種類や量を適正に選択するであろう。
【0050】
モノマー(C)の例としては、(メタ)アクリル酸のC1〜C18アルキルエステル、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレートまたは2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートがあげられる。他の例としては、メチルビニルエーテルやエチルビニルエーテルなどのビニルエーテルやアリルエーテル、または酢酸ビニルまたはプロピオン酸ビニルなどのビニルエステルがあげられる。また、アクリルアミドやアルキル置換されたアクリルアミドなどの塩基性モノマーを、具体的には、アクリルアミド、メタクリルアミド、N− tert−ブチルアクリルアミドまたはN−メチル(メタ)アクリルアミドを使用することもできる。
【0051】
本発明のある特に好ましい実施様態においては、モノマー(C4)はOH基を有するモノマーを含む。このようなモノマーとしては、特に、(メタ)アクリル酸のC1〜C4ヒドロキシアルキルエステル、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、またはブタン−1,4−ジオールモノアクリレートがあげられ、例えば2−ヒドロキシエチルアクリレートが好ましい。
【0052】
このモノマーは、−NH2基を有するモノマー、または加水分解により−NH2基を形成することのできるモノマーであることも、極めて好ましい。このようなモノマーの一例が、N−ビニルホルムアミドである。
【0053】
OH基及び/又はNH2基は、バインダー系の適当な成分と反応して、コポリマー(C)がバインダーとよく混合するようにさせる。
【0054】
使用する場合、モノマー(C4)の量は、一般的にはコポリマー(C)の構成単位の全モノマーの総量に対して0.1〜25重量%である。この量は、好ましくは1〜15%であり、より好ましくは2〜10%、非常に好ましくは3〜7重量%である。
【0055】
このモノマー(C4)は、2個以上の非共役のエチレン性不飽和二重結合を有する架橋性モノマーであってもよい。その例としては、ジ−及び/又はポリ(メタ)アクリレート類、例えば、エチレングリコールジ−(メタ)アクリレートまたはブタン−1,4−ジオールジ−(メタ)アクリレート、ジ−、トリ−またはテトラエチレングリコールジ−(メタ)アクリレートまたはトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートがあげられる。しかしながら、このコポリマー(C)は過剰に架橋されていてはならない。架橋性モノマーが存在する場合、その量は、一般的には、モノマー類の総量に対して4重量%以下、好ましくは3重量%以下、より好ましくは2重量%以下である。
【0056】
コポリマー(C)の製造
本発明において用いられるコポリマー(C)の製造は、好ましくはフリーラジカル重合で行われる。フリーラジカル重合の実施方法ならびに必要な装置は、原則的には熟練者には公知である。重合は、好ましくは重合開始剤を熱的に分解することで実施される。過酸化物を熱開始剤として使用することが好ましい。もちろん光化学的に重合を実施してもよい。
【0057】
使用可能な溶媒は、好ましくはモノアルコールである。好適なモノアルコールの例としては、C1〜C8アルコキシアルコールがあげられ、特に2−ブトキシエタノールがあげられる。
【0058】
熱開始剤によるフリーラジカル重合は、60〜250℃、好ましくは70〜220℃、より好ましくは80〜200℃、特に100〜170℃で実施される。開始剤の量は、モノマー類の量に対して0.1〜15重量%であり、好ましくは3〜12%、より好ましくは5〜9重量%である。一般に約6重量%の量が推奨される。重合時間は、通常1〜40hであり、好ましくは3〜25h、より好ましくは7〜15hである。必要なら、このコポリマーを、熟練者には公知の方法により単離することができる。
【0059】
重合前、重合中、または重合後に、このポリマーの酸性基を、すべて、好ましくは一部、中和することができる。部分中和により、モノマーがポリマーに導入されやすくなる。
言い換えれば、残存モノマー含量の低いポリマーが得られる。
【0060】
好適な中和用塩基としては、例えば、特に、線状の、環状の及び/又は分岐状のC1〜C8モノ−、ジ−、またはトリアルキルアミン類、直鎖又は分岐鎖のC1〜C8モノ−、ジ−、またはトリアルカノールアミン類、特にモノ−、ジ−またはトリアルカノールアミン類、直鎖又は分岐鎖のC1〜C8アルキルエーテル類、直鎖又は分岐鎖のC1〜C8モノ−、ジ−またはトリアルカノールアミン類、オリゴアミン類、ジエチレントリアミンなどのポリアミン類があげられる。
【0061】
中和は、好ましくは重合前または重合中に行ってもよい。塩基の最適使用量は使用する酸性モノマーにより決まる。使用する酸性モノマーにより、重合中の中和度を設定して、最適残存モノマー量が得られるようにする。リン酸基及び/又はホスホン酸基を有するモノマーを、特にビニルホスホン酸を使用する場合、塩基量は5〜100モル%であり、好ましくは15〜75モル%である。より好ましくは、使用量に対して25モル%である時に、残存モノマー量が最適となる。イタコン酸を使用する場合、塩基の量が、使用量に対して0〜40モル%、好ましくは0〜25モル%の時に、残存モノマー量が最適となる。
【0062】
得られた修飾コポリマーの有機溶液を、直接有機の架橋性配合物の調整に用いてもよい。あるいは、もちろん、熟練者には公知の方法により、このポリマーをこれらの溶液から単離してもよい。
【0063】
水系の製剤とするには、媒熟練者には公知の方法により、適当にこの溶液に水を加えてから有機溶剤を除いてもよい。
【0064】
このコポリマーの分子量Mwは、所望の最終用途の応じて熟練者により選択される。好ましいMwは、3000g/mol〜1000000g/mol、好ましくは4000〜200000g/mol、より好ましくは5000〜1000000g/molである。
【0065】
腐食制御塗膜の形成方法
本発明の方法により金属の表面を、少なくとも一種の硬化性及び/又は架橋性のバインダー系(A)と、微分散した充填材と顔料、染料の群から選ばれる成分(B)と、コポリマー(C)とを含む配合物で処理することにより、原則的には、いかなる金属装置をも腐食から保護することができる。この配合物は、さらに必要に応じて、これらの成分を溶解または分散させるための溶媒あるいは溶媒系(D)を含んでいてもよい。溶媒が存在していることが好ましい。
【0066】
原則として、あらゆる種類の金属を塗装することができる。しかし好ましくは、この基材は、腐食の保護が必要な、金属建材に使用される基本的な金属あるいは合金である。その例としては、特に、鉄や、スチール、亜鉛、亜鉛合金、アルミニウムまたはアルミ合金があげられる。
【0067】
腐食防止製剤の調整用のバインダー系(A)や成分(B)、好適な溶媒は、熟練者には公知である。熟練者は、塗膜の望ましい性質に応じて適当な選択を行うであろう。熟練者が通常使用する方法により、例えば吹付塗装、ブラシ塗装またはコイル塗装により、表面塗装が行われる。
【0068】
金属表面及び/又は金属装置の種類により、特に二種の異なる、好ましい本発明の方法の実施様態が存在する。
【0069】
一体的腐食制御
特に、例えば適当な炉において高温で硬化をさせる、あるいは適当な放射光源を用いて光化学的に硬化をさせる架橋性バインダー系を用いて腐食制御塗膜を塗装する場合に、本発明において用いられるコポリマー(C)の利点が発揮される。この方法は、特に平面状の金属性工作物、例えばシートまたは金属コイルや、可動性の金属性成形物、例えば自動車ボディーや車体構造部品に好適である。
【0070】
本発明のある特に好ましい実施様態においては、本発明の方法は、金属表面に一体的前処理層を形成するのに用いることができる。本発明の一体的前処理層の厚みは1〜25μmである。
【0071】
本発明において「一体的前処理層」とは、前もって表面不活性化や化成塗膜の塗布、リン酸塩処理などの腐食防止前処理を行うことなく、特にCr (VI)化合物を用いる処理を行うことなく、金属表面に直接、本発明の塗膜を塗布することを意味する。この一体的前処理層は、表面不活性化層と有機のプライマー塗膜、さらに必要なら他の塗膜を併合した単一の層である。「金属表面」とは、もちろん全く裸状態の金属をさすのでなく、
金属を大気環境下で取り扱ったり一体化前処理層の塗布前に金属を洗浄したりする場合に不可避的に生成する表面をさす。実際の金属は、例えば水分の層を持っていたり、薄い酸化物または酸化物の水和物の層を持っていることがある。
【0072】
いかなる形状の金属製品の表面にも、一体的前処理層を形成することが可能である。これらは、すべてが金属からなる製品であってもよく、あるいは他の材料、例えばポリマーまたはその複合物からなり金属で塗装されたものであってもよい。
【0073】
しかしながら、この製品は、金属表面をもつシート状の成形物、即ち、他の寸法に較べて厚みが極めて小さい製品であることが特に好ましい。その例としては、パネルや箔、シート、特に金属コイルがあげられ、また、分解、改造、組立などにより、これらを用いて製造した金属表面部品、例えば自動車ボディーやその部品があげられる。この種の金属材料の厚みまたは壁厚は、好ましくは4mm未満であり、例えば0.25〜2mmである。
【0074】
本発明の方法は、鉄、スチール、亜鉛、亜鉛合金、アルミニウムまたはアルミ合金の表面に一体的前処理層を形成するのに好ましく用いることができる。特に、この表面が亜鉛メッキ鉄またはスチールの表面であってもよい。本方法のある好ましい実施様態においては、この表面は、コイル金属の表面、特に電解亜鉛メッキまたは熱浸漬亜鉛メッキされたスチール製コイル金属の表面である。その場合、スチールコイルは片面のみが亜鉛メッキされたものであってもよいし、両面を亜鉛メッキされているものであってもよい。
【0075】
亜鉛合金やアルミ合金、またこれらのスチール塗装への利用は、熟練者には公知である。熟練者は、所望の最終用途に応じて合金成分の種類と量を選択する。典型的な亜鉛合金の構成成分としては、特にAl、Pb、Si、Mg、Sn、CuまたはCdがあげられる。典型的なアルミ合金の構成成分としては、特にMg、Mn、Si、Zn、Cr、Zr、CuあるいはTiがあげられる。なお、「亜鉛合金」には、AlとZnとがほぼ同量含まれるAl/Zn合金も含まれる。この種の合金で塗装されたスチールは市販されている。このスチール自体が、熟練者には公知の典型的な合金成分である。
【0076】
前もって他の有機プライマー塗膜を形成することなく、この一体的前処理層の上に他の塗装膜を直接形成することも可能である。しかし、他の有機プライマー塗膜は無いに越したことがないが、特別な場合には存在してもよいであろう。他の塗装膜の性質は、その金属の希望用途により決められる。
【0077】
バインダー系(A’)
本発明において用いられる一体的前処理層形成用の配合物は、有機溶媒系の配合物、水系のまたは主に水系の配合物、または無溶媒の配合物のいずれであってもよい。この配合物は、少なくとも一種の熱的及び/又は光化学的に架橋性のバインダー系(A’)と、少なくとも一種の微分散した無機充填剤(B’)と、腐食防止剤としての少なくとも一種のコポリマー(C)を含んでいる。
【0078】
この「架橋性のバインダー系」は、原則的に公知のように、フィルムの形成に有効な配合物中の成分である。熱硬化及び/又は光化学硬化の際に、これらのバインダーは高分子のネットワークを形成する。これらは、熱的及び/又は光化学的に架橋する成分を含んでいる。この架橋性成分は、低分子量であっても、オリゴマー、またはポリマーであってもよい。これらは、一般に少なくとも2種の架橋性基を有している。架橋性基は、自分自身と同じ種類の基と反応する反応性官能基であってもよいし、他の反応性官能基と反応するものであってもよい。原則的には公知のように、いろいろな組合せが可能である。このバインダー系は、例えば、それ自体が架橋性を持たないポリマー性のバインダーと、一種以上の低分子量のあるいはオリゴマー状の架橋剤(V)を含んでいてもよい。あるいは、このポリマー性のバインダー自体が、ポリマー上の及び/又は別途用いる架橋剤上の他の架橋性基と反応可能な架橋性基を有していてもよい。特に好ましくは、架橋性基を有する、架橋剤を用いて相互に架橋したオリゴマーまたはプレポリマーを用いることも可能である。
【0079】
熱架橋性または熱硬化性バインダー系は、形成された塗膜が室温より高温に加熱されると架橋する。この種の塗膜系は、熟練者には「焼付けワニス」とよばれている。これらは、室温では反応しないかあまり反応せず、比較的に高温になって初めて反応を開始する架橋性基を有している。本発明の方法の効率を向上するのに特に好適な架橋性のバインダー系は、60℃を超える温度で架橋する系、好ましくは80℃、より好ましくは100℃、非常に好ましくは120℃を超える温度で架橋する系である。100〜250℃で架橋する、好ましくは120〜220℃で、より好ましくは150〜200℃で架橋するバインダー系を用いることが有利である。
【0080】
これらの熱的及び/又は光化学的に架橋性のバインダー系(A’)は、コイル塗装剤の分野では通常よく用いられるバインダー系である。コイル塗装剤を用いて形成された塗膜は十分な柔軟性を示す。コイル塗装剤用のバインダー系はソフトセグメントを含むことが好ましい。好適なバインダーやバインダー系は、原則的には熟練者に公知である。混合することで悪影響がでない限り、異なるポリマーの混合物を用いることも可能であろう。好適なバインダーとしては、例えば、(メタ)アクリレート(コ)ポリマー類、部分加水分解ポリビニルエステル類、ポリエステル類、アルキッド樹脂、ポリラクトン、ポリカーボネート、ポリエーテル、エポキシ樹脂−アミン付加物、ポリウレア、ポリアミド、ポリイミドまたはポリウレタンがあげられる。塗装金属の望ましい最終用途に応じて、熟練者が好適なバインダーを選択する。あらゆる種類の金属表面にあらゆる種類のバインダー系が適当であるとは限らないことは、熟練者にとって明らかである。
【0081】
熱硬化性の系には、ポリエステル(A1’)、エポキシ樹脂(A2’)、ポリウレタン(A3’)またはアクリレート(A4’)系のバインダー系を用いて、本発明を実施することができる。
【0082】
ポリエステル(A1’)
ポリエステル系のバインダーは、原則的には公知のように、低分子量のジカルボン酸とジアルコール、および適当なら他のモノマーとから合成される。他のモノマーとしては、特に分岐作用のあるモノマーが、例えばトリカルボン酸やトリアルコールがあげられる。コイル塗装のためには、通常、比較的低分子量の、好ましくはMnが500〜10000g/mol、好ましくは1000〜5000g/mol、より好ましくは2000〜4000g/molのポリエステルが使用されている。
【0083】
原則的には公知のように、「硬い」または「軟らかい」モノマーを選択することで、ポリエステル系の塗膜の硬度や柔軟性に影響を与えることができる。「硬い」ジカルボン酸としては、例えば、芳香族のジカルボン酸及び/又はその水素添加剤、例えば、イソフタル酸、テレフタル酸、フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸やこれらの誘導体があげられ、特にこれらの無水物やエステル類があげられる。「軟らかい」ジカルボン酸の例としては、炭素数が少なくとも4である脂肪族の1,ω−ジカルボン酸、例えばアジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸があげられる。「硬い」ジアルコールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、または1,4−シクロヘキサンジメタノールがあげられる。「軟らかい」ジアルコールとしては、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、炭素数が少なくもと4である脂肪族の1,ω−ジアルコール、例えば1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオールまたは1,12−ドデカンジオールがあげられる。本発明を実施するのに好ましいポリエステルは、少なくとも一種の「軟らかい」モノマーを含んでいる。
【0084】
塗膜用のポリエステルは市販されている。ポリエステルの詳細は、例えばin 「塗料−飽和ポリエステル塗料」、ウルマン工業化学辞典、6版、2000、電子版に記載されている。
【0085】
エポキシ樹脂(A2’)
エポキシド系のバインダー系は、有機系または水系の製剤に使用される。原則的には公知のように、エポキシ官能性ポリマーは、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテルまたはヘキサンジオールジグリシジルエーテルなどのエポキシ官能性モノマーと、ビスフェノールAまたはビスフェノールFなどのアルコールとの反応により製造される。特に好適なソフトセグメントは、ポリオキシエチレンセグメント及び/又はポリオキシプロピレンセグメントである。これらは、好ましくはエトキシ化及び/又はプロポキシ化ビスフェノールAを使用して導入される。これらのバインダーは、塩化物を含まないことが好ましい。エポキシ官能性ポリマーは市販されており、例えばエポン(登録商標)またはエピコート(登録商標)という商品名で入手可能である。
【0086】
これらのエポキシ官能性バインダーは、さらに官能化されていてもよい。エポキシ樹脂アミン付加物は、例えば、上記エポキシ官能性ポリマーとアミン、特にジエタノールアミンまたはN−メチルブタノールアミンなどの2級アミンとの反応で得られる。
【0087】
エポキシ官能性ポリマーの詳細は、例えば 「エポキシ樹脂」、ウルマン工業化学辞典、6版、2000、電子版に記載されている。
【0088】
ポリアクリレート(A3’)
ポリアクリレート系バインダーは、特に水系の製剤に好適である。好適なアクリレートの例としては、アクリル酸及び/又はアクリル酸誘導体から従来法により得られるエマルジョンポリマーやコポリマー、特にアニオン的に安定化されたアクリレート分散物があげられ、具体的な例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレートまたは2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートなどのアクリル酸エステル類及び/又はスチレンなどのビニル芳香族モノマー類、および適当なら架橋性モノマー類があげられる。バインダーの硬度は、原則的には公知のように、スチレンまたはメチルメタクリレートなどの「硬い」モノマーとブチルアクリレートまたはアクリル酸−2−エチルヘキシルなどの「軟らかい」モノマーの比率を通して、熟練者により調整される。アクリレート分散物の製造において、架橋剤と反応可能な官能基を持つモノマーを使用することが特に好ましい。この反応基は特にOH基である。ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシブチルアクリレートまたはN−メチロールアクリルアミドなどのモノマーを使用し、あるいはエポキシアクリレートを使用し次いで加水分解することにより、ポリアクリレート中にOH基を導入することができる。好適なポリアクリレート分散物は市販されている。
【0089】
ポリウレタン(A4’)
ポリウレタン分散物系のバインダーは、特に水系の製剤に好適である。原則的には公知のように、ポリウレタン分散物は、イオン性セグメント及び/又は親水性セグメントをPU鎖に導入することで分散物を安定化させて製造される。ソフトセグメントとして、全ジオールの量に対して20〜100モル%の比較的高分子量のジオール類、好ましくはMnがおよそ500〜5000g/mol、好ましくは1000〜3000g/molのポリエステルジオールを用いることができる。特に好ましくは、本発明を実施するに当たり、ビス(4−イソシアナトシクロヘキシル)−メタンをイソシアネート成分として含むポリウレタン分散物を用いることができる。この種のポリウレタン分散物は、例えばDE−A19914896に開示されている。好適なポリウレタン分散物が市販されている。
【0090】
熱架橋のために好適な架橋剤は、原則的には熟練者に公知である。
【0091】
好適な架橋剤の例としては、2個以上のエポキシ基が連結基を経由して連結したエポキシド系架橋剤があげられる。その例としては、ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、フタル酸ジグリシジルエーテルなどの二個のエポキシ基を有する低分子量化合物や、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートなどのシクロ脂肪族化合物があげられる。
【0092】
他の好適な架橋剤としては、ヘキサメチロールメラミンなどの高反応性メラミン誘導体、または対応するヘキサメトキシメチルメラミン、ヘキサブトキシメチルメラミンなどのエーテル化物、他の任意に変性されたアミノ樹脂があげられる。この種の架橋剤は市販されており、例えばルイパル(登録商標) (BASF社)として入手可能である。
【0093】
本発明を実施するに当たり、ブロック化ポリイソシアネートを架橋剤として使用することが特に好ましい。ブロッキングの際、イソシアネート基は可逆的にブロッキング剤と反応する。より高温に加熱すると、このブロッキング剤は再び分離する。好適なブロッキング剤の例が、DE−A19914896の第12欄13行〜第13欄2行に開示されている。ε−カプロラクタムでブロックされたポリイソシアネートの使用が特に好ましい。
【0094】
バインダー系の架橋
原則として公知のように、架橋を促進するために配合物に適当な触媒を添加することができる。
【0095】
熟練者は、用いるバインダーと所望の結果に応じて、これら架橋剤から適当なものを選択する。もちろん、混合により悪影響がでない限り異なる架橋剤の混合物を使用することもできる。架橋剤の量は、バインダーの総量に対して10〜35重量%であることが好ましい。
【0096】
例えば、ジエチレントリアミンなどのポリアミン系の架橋剤やアミン付加物またはポリアミノアミドを用いて、このエポキシ官能性ポリマーを架橋することができる。例えば、カルボン酸無水物系の架橋剤または上記メラミン系の架橋剤の使用が好ましい。特に好ましいのは、上記のブロック化ポリイソシアネートである。
【0097】
アクリレート分散物の熱架橋のためには、例えば、上記のメラミン系またはブロック化イソシアネート系の架橋剤を使用することができる。エポキシ官能性架橋剤もまた好適である。
【0098】
ポリウレタン分散物またはポリエステルの熱架橋には、例えばメラミン系またはブロック化イソシアネート系の架橋剤、あるいはエポキシ官能性架橋剤を使用することができる。光化学架橋性の配合物の場合、そのバインダー系(A’)は光化学架橋性の基を有している。「光化学架橋」は、あらゆる種類の高エネルギー放射線、例えばUV、VIS、NIRまたは電子照射(電子線)による架橋を含むものとする。この基は、原則的にはいかなる種類の光化学架橋性基であってもよいが、エチレン性不飽和基であることが好ましい。
【0099】
光化学架橋性のバインダー系は、一般的には、光化学架橋性基を有するオリゴマー状またはポリマー状の化合物を含み、適当ならさらに反応性希釈剤、一般的にはモノマーを含んでいる。反応性希釈剤は、オリゴマー状またはポリマー状の架橋剤より粘度が低く、このため放射線硬化性の系において希釈剤としての役割を持つ。光化学架橋では、このようなバインダー系は、一般に一種以上の光開始剤を含んでいる。
【0100】
光化学架橋性のバインダー系としては、例えば、多官能性の(メタ)アクリレート類、ウレタン(メタ)アクリレート類、ポリエステル(メタ)アクリレート類、エポキシ(メタ)アクリレート類、カーボナート(メタ)アクリレート類、ポリエーテル(メタ)アクリレート類があげられ、適当ならメチル(メタ)アクリレート、ブタンジオールジアクリレート、ヘキサンジオールジアクリレートまたはトリメチロールプロパントリアクリレートなどの反応性希釈剤とともに使用される。好適な放射線硬化性バインダーのより詳細な説明が、WO2005/080484、3頁10行〜16頁35行に記載されている。好適な光開始剤が、同明細書の18頁8行〜19頁10行に記載されている。
【0101】
本発明を実施するに当たり熱的手段と光化学的手段を併用して硬化するバインダー系(二重硬化系ともよばれる)を使用することもできる。
【0102】
本発明において一体的前処理層形成するのに用いられる配合物は、20〜70重量%のバインダー系(A)、好ましくは(A’)を含んでいる。この量は、溶媒または溶媒混合物を除く配合物の全成分の総量に対する値である。この量は、好ましくは30〜60重量%であり、より好ましくは40〜50重量%である。
【0103】
充填材及び/又は顔料(B’)
一体的前処理層を形成する本発明の方法で用いられる配合物は、さらに少なくとも一種の微分散した無機充填剤及び/又は顔料(B’)を含んでいる。この充填材は、さらに例えば疎水化用または親水化用の有機塗料を有していてもよい。この充填材の平均粒度は、10μm以下である。この平均粒度は、好ましくは10nm〜9μm、より好ましくは100nm〜5μmである。球状またはほぼ球状の粒子の場合には、この値は直径をさし、不規則な形状の粒子の場合、例えば針状粒子の場合には、最も長い径をさす。粒度は一次粒子径を意味する。微分散した固体が凝集して大きな粒子となりやすく、使用するには配合物中で強く分散させる必要があることは、熟練者には公知である。この粒度は、その層の望ましい性質に応じて、熟練者により選ばれる。例えば、所望の層厚から決められる。通常、熟練者は、小さな層厚には小さな粒子を選択する。
【0104】
好適な充填材としては、一方では、導電性顔料や充填材があげられる。この種の添加剤は、溶接性を向上させ、続く電着塗装材料の塗装を改善する。好適な導電性充填材や顔料の例としては、リン化物、バナジウム炭化物、窒化チタン、モリブデンスルフイド、グラファイト、カーボンブラックまたはドープ処理硫酸バリウムがあげられる。Zn、Al、Si、Mn、Cr、FeまたはNiなどの金属の金属リン化物、特に鉄リン化物の使用が好ましい。好ましい金属リン化物の例としては、CrP、MnP、Fe3P、Fe2P、Ni2P、NiP2またはNiP3があげられる。
【0105】
非導電性顔料または充填材、例えば微分散非晶質シリカ、アルミナまたは酸化チタンで他の元素でさらにドープされた誘導体を使用することもできる。例えばカルシウムイオンで変性された非晶質シリカを使用することができる。
【0106】
他の顔料の例としては、リン酸亜鉛、メタホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム一水和物などの防食顔料があげられる。
【0107】
異なる顔料及び/又は充填材の混合物を使用することも可能である。これらの顔料は20〜70重量%の量で使用される。正確な量は、得られる層の所望の性質に応じて熟練者により決定される。導電性顔料を用いる場合、その量は、通常、非導電性充填材を用いる場合より大きい。導電性顔料や充填材の好ましい量は40〜70重量%であり、非導電性顔料の好ましい量は20〜50重量%である。
【0108】
コポリマー(C)
一体的前処理層を形成するために、単一のコポリマー(C)を用いてもよいし、二種以上の異なるコポリマー(C)を用いてもよい。原則として、これらの可能なコポリマー(C)の中から、一体的前処理層の望ましい性質に応じて熟練者が好ましいものを選択する。あらゆる種類のバインダー系に、すべての種類のコポリマー(C)が同じように好適でありえないことは、熟練者には公知である。一体的前処理層を形成するに当たり、特にリン酸基及び/又はホスホン酸基を有するコポリマー(C)の使用が好ましい。
【0109】
本発明において用いられるコポリマー(C)の使用量は、通常、溶媒を除く全成分の総量に対して0.25〜40重量%、好ましくは0.5〜30重量%、より好ましくは0.7〜20重量%、非常に好ましくは1.0〜10重量%である。
【0110】
溶媒(D’)
この配合物は、一般的には、表面にこの配合物を均一に形成させるため、これらの成分を溶解及び/又は分散する適当な溶媒を成分(D’)として含んでくる。これらの溶媒は一般的には、塗膜硬化後に除去される。しかし原則的には、無溶媒または実質的に無溶媒の配合物を調整することも可能である。この場合、この配合物は、例えば粉末塗料材または光化学的に硬化する配合物である。
【0111】
好適な溶媒は、本発明の化合物を溶解、分散、または乳化させるものである。これらは、有機溶媒であっても水であってもよい。もちろん、異なる有機溶媒の混合物や、有機溶媒と水の混合物も使用可能である。所望の最終用途に応じて、また用いる本発明の化合物の性質に応じて、これらの溶媒中から、原則的には熟練者が適当なものを選択する。
【0112】
有機溶媒の例としては、トルエンやキシレンなどの炭化水素類、または原油の精留により得られる混合物、例えば特定の沸点範囲の炭化水素留分や、THFなどのエーテル類、ポリエチレングリコールなどのポリエーテル類、ブチルグリコールなどのエーテルアルコール類、ブチルグリコールアセテートなどのエーテルグリコールアセテート類、アセトンなどのケトン類、メタノール、エタノールまたはプロパノールなどのアルコール類があげられる。
【0113】
また、水または主に水系の溶媒混合物を使用することもできる。この水系混合物は、少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも65重量%、より好ましくは少なくとも80重量%の水を含む混合物を意味する。他の成分は水混和性の溶媒である。その例としては、メタノール、エタノールまたはプロパノールなどのモノアルコール類、エチレングリコールやポリエーテルポリオールなどの高級アルコール類、ブチルグリコールやメトキシプロパノールなどのエーテルアルコール類があげられる。
【0114】
溶媒の量は、熟練者により、配合物の望ましい性質や所望の塗布方法に応じて選択される。一般に、層構成成分と溶媒との重量比は、10:1〜1:10であり、好ましくは約2:1であるが、本発明は特にそれに限定されるわけではない。一旦濃縮物を調整し、現場で所望濃度に希釈してもよい。
【0115】
配合物は、配合物成分を、必要なら溶媒とともに強く混合することで製造される。好適な混合装置または分散装置は熟練者には公知である。このコポリマーは、好ましくは、内部の無水物基を加水分解的に開環し及び/又は誘導体化して、また必要なら溶媒交換をして、溶液またはエマルジョンの形で使用される。これらの合成段階において使用されるバインダー系に少なくとも適合性を示すように溶媒を選択する必要があり、同一の溶媒の使用が特に好ましい。
【0116】
助剤及び/又は添加剤(E’)
また、成分(A’)と(B’)、(C)及び必要に応じて加えられる(D’)に加えて、この配合物は、さらに一種以上の助剤及び/又は添加剤(E’)を含んでもよい。このような助剤及び/又は添加剤の目的は、その層の性質を微調整することにある。これらの量は、一般的には溶媒を除く全成分の総量に対して20重量%以下であり、好ましくは10%以下である。
【0117】
好適な添加剤の例としては、「塗料添加物」(“Lackadditive” [Additives for coatings] by Johan Bieleman, Wiley− VCH, Weinheim, New York, 1998)、またはドイツ特許DE 19914896A1、13欄56行〜15欄54行に記載のような、着色含量及び/又は補助顔料、流動性助剤、UV吸収剤、光安定剤、フリーラジカル捕捉剤、フリーラジカル付加重合開始剤、熱架橋触媒、光開始剤及び光共開始剤、スリップ添加剤、重合防止剤、脱泡剤、乳化剤、揮発防止剤、界面活性剤、分散剤、接着性促進剤、流動性調整剤、フィルム成形助剤、流動性調整添加剤(増粘剤)、難燃剤、乾燥剤、皮張り防止剤、他の腐食防止剤、ワックス類、艶消し材があげられる。
【0118】
一体的前処理層の形成
一体的前処理層を形成するに当たり、この配合物を金属表面に塗布する。
処理に先立って、この金属表面を洗浄してもよい。スチールコイルを電解亜鉛メッキや熱浸漬亜鉛メッキなどで金属表面処理した後に直ちに本発明の処理を行う場合は、一般的には前もって洗浄せずに、コイルを本発明の処理溶液に接触させることができる。しかしながら、本発明の塗装の前に処理する金属コイルが保存されていたり及び/又は輸送されている場合は、これらが表面及び内部に腐食防止油を含むため、本発明の塗装に先立って洗浄が必要となる。洗浄は通常の洗剤を用いて、熟練者には公知の方法で実施される。
【0119】
この配合物は、例えば、噴霧、浸漬、流し込み、またはローラー塗布により塗布される。浸漬処理後、過剰の配合物を除くため、工作物を水切り乾燥させる。金属シートや箔等の場合は、絞ったり、絞りロールで過剰の配合物を除くことができる。配合物での塗装は通常室温で行われるが、原則として高温処理の可能性を排除しているわけではない。
【0120】
本発明の方法は、金属コイルを塗装するのに好ましく使用される。コイル塗装作業の場合、塗膜を片面に形成しても両側に形成してもよい。異なる配合物を用いて、上下面を塗り分けてもよい。
【0121】
コイル塗装を連続的なプロセスで行うことが特に好ましい。連続的なコイル塗装ラインは原則的には公知である。これらは、通常、少なくとも一種の塗装装置、乾燥または焼き付け装置及び/又はUV装置、また適当なら、他の前処理または後処理用装置、例えば洗浄または後洗浄装置を含んでいる。コイル塗装ラインの例は、「コイル塗装」(Rompp Lexikon Lacke und Druckfarben, Georg Thieme Verlag, Stuttgart, New York, 1998, page 55)またはドイツ特許DE19632426A1に記載されている。異なる構成のラインを使用してもよいだろう。
【0122】
金属コイルの速度は、用いる配合物の塗布と硬化性に応じて熟練者により決められる。好適な速度は、通常10〜200m/分であり、好ましくは12〜120m/分、より好ましくは14〜100m/分、非常に好ましくは16〜80、特に好ましくは20〜70m/分である。
【0123】
金属コイルの塗装では、本発明で使用する架橋性配合物が、噴霧、浸漬または、好ましくはローラー塗布により塗布される。好ましいロール塗装の場合、回転ピックアップロールが本発明の配合物の入った貯槽に入り込み、塗布する配合物を取り出す。この材料は、ピックアップロールから、直接にあるいは少なくとも一個の移動ロールを経由して回転塗布ロールに移される。この塗装剤は、この塗布ロールから剥ぎ取られて、同一方向または反対方向に動くコイルに移される。本発明によれば、この逆方向塗布、または逆ローラー塗布法、が有利であり、好ましく使用される。本塗布ロールの周速は、好ましくはコイル速度の110〜125%であり、ピックアップロールの周速はコイル速度の20〜40%である。本発明で使用される配合物を、2本のロール間の隙間に直接ポンプで送ってもよい。この方法は、従来ニップフィードと呼ばれている。
【0124】
本発明で用いる配合物を塗布後、その層に存在する溶媒をすべて除去し、その層を架橋する。これは、二つの別工程で行ってもよいし、同時に行ってもよい。溶媒を除くには、適当な装置でこの層を加熱することが好ましい。ガス流を接触させて乾燥を行ってもよい。これら二つの方法を併用してもよい。
【0125】
使用するバインダー系の性質に応じて、この硬化方法を決定する。熱的に行ってもよいし及び/又は光化学的に行ってもよい。
【0126】
熱架橋の場合は、塗膜が加熱される。これは、好ましくは対流伝熱、近赤外線または遠赤外線の照射、及び/又は、鉄系のコイル場合は、誘導加熱により実施される。
【0127】
硬化に要する温度は、特に用いる架橋性バインダー系により決まる。高反応性のバインダー系は、低反応性のバインダー系より低温で硬化できる。一般に、架橋は、少なくとも60℃の温度で行われ、好ましくは少なくとも80℃、より好ましくは少なくとも100℃、非常に好ましくは少なくとも120℃の温度で行われる。特に、架橋を100〜250℃で行ってもよく、好ましくは120〜220℃、より好ましくは150〜200℃で行ってもよい。いずれの場合の温度も、ピーク金属温度(PMT)であり、熟練者がよく用いる方法には(例えば、非接触赤外測定または温度試験テープ)により測定される。
【0128】
加熱時間、すなわち熱硬化所要時間は、本発明に応じて用いる塗装剤により変動する。この時間は好ましくは10秒〜2分である。実質的に対流伝熱を採用する場合には、長さが30〜50m、特に35〜45mで、好ましいコイル速度をもつ強制空気炉が必要となる。強制空気温度は、もちろん塗膜の温度より高く、最高で350℃になりうる。
【0129】
光化学硬化は化学線の照射により進行する。これ以降、化学線の照射とは、近赤外、可視光、紫外線またはエックス線などの電磁照射や、電子線などの粒子照射を意味する. 光化学硬化にUV/VIS照射を用いることが好ましい。照射を、適当なら酸素の非存在下で、例えば不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。この光化学硬化を標準的な温度条件、すなわち塗膜を加熱せずに行ってもよいし、あるいは、光化学架橋を高温で、例えば40〜150℃、好ましくは40〜130℃、特に40〜100℃で行ってもよい。
本発明の方法により、金属表面上に、特に鉄、スチール、亜鉛、亜鉛合金、アルミニウムまたはアルミ合金の表面上に一体的前処理層を形成することができる。一体的前処理層の正確な構造や組成は不明である。この層は、架橋したバインダー系(A)以外に、充填材、コポリマー(C)、また必要に応じて、他の成分を含んでいる。また、金属表面から溶出し再析出した成分、例えば典型的な非晶質のアルミニウムや亜鉛の酸化物や、場合によっては他の金属などが存在しているかもしれない。
【0130】
一体的前処理層の厚みは1〜25μmであり、この層の所望の性質と最終用途に応じて熟練者により決められる。一般に、一体的前処理層の厚みは3〜15μmが好ましいようである。4〜10μmの厚みがさらに好ましく、5〜8μmが特に好ましい。いずれの場合も、この厚みは塗布する組成物の量により定まる。
【0131】
自動車産業へ適用する場合、特定状況下では、本発明の一体的前処理層を形成すると、次の陰極浸漬塗装が不必要となる。この一体的前処理層を陰極電気塗装に置き換える場合は、一体的前処理層を厚くすることが推奨され、その厚みは、例えば10〜25μm、好ましくは12〜25μmである。
【0132】
一体的前処理層を有する金属表面の上に、他の塗装膜を塗布することも可能である。必要な塗装膜の性質や枚数は、塗装金属または成形後の金属部品の望ましい用途に応じて熟練者により決定される。本発明の一体的前処理層は、上塗り塗装を許容し、上塗り装膜と良い接着性を示す。他の塗装膜としては、例えば、カラー塗装膜、クリア塗装膜、または機能的塗装材料などがあげられる。機能的塗装材料の一例は、充填材含量が比較的高い軟質塗装材料である。この塗装材料をカラー塗膜及び/又は上塗り材料の前に塗布して、例えば石ころや引っ掻きによる機械的な損傷から金属と一体的前処理層を保護することが好ましい。
【0133】
他の塗装膜の塗布を、上記のコイル塗装ラインで行ってもよい。その場合、二台以上の塗布装置と、必要に応じて硬化装置が、連続的に設置される。あるいは、腐食制御塗膜を塗布し硬化させた後塗装されたコイルを取り出し、他の塗装を他のラインで後の時点で実施することもできる。塗装金属コイルの他の加工を同じ場所で行ってもよいし、運搬後に他の場所で行ってもよい。この目的のために、例えば着脱可能な保護シートを取り付けてもよい。
【0134】
あるいは、一体的前処理層を有するコイルを、例えば、まず切断・形削り・連結により金属成形部品に加工してもよい。連結は溶接で行ってもよい。その後、得られた成形物上に、上述のように他の塗装膜を形成する。
【0135】
本発明はまた、厚みが1〜25μmの一体的前処理層で塗装された金属表面を持つ成形物、および他の塗装膜を加工した成形物を提供する。「成形物」には、塗装された金属パネルや箔、コイルが含まれ、またこれらから得られる金属部品が含まれる。このような部品は、特にパネルや外装、ライニングに使用されるものである。具体例としては、自動車ボディーまたはその部品、トラックボディー、オートバイやペダル車などの二輪車用フレーム、フェアリングやパネルなどの車両用部品、洗濯機や皿洗い機、洗濯物乾燥機、ガス炉や電動炉、電子レンジ、冷蔵庫や冷凍庫などの家庭用電化装置のケーシング、機械、スイッチングキャビネット、コンピューターのハウジングなどの装置または設備用のパネル、壁面部材、外装部品、天井部品、窓枠、ドア枠または間仕切り材料など建設用構造部品、金属製の家具、金属戸棚、金属棚、家具部品、取付金具があげられる。他の部品としては、ブリキ缶、缶詰缶またはタンクなどの液体や他の物質の保存用の容器があげられる。
【0136】
大気腐食制御
本発明の腐食制御塗膜を形成する方法の第二の好ましい実施様態は、大気腐食を制御する方法である。
【0137】
この大気腐食制御の方法により保護される金属表面は、原則的にあらゆる表面である。しかし、好ましくは金属構造物または金属建築物及び/又はこれらに必要な部品の表面である。金属建築物や構造物は、通常、スチールはり、スチールパイプまたはスチールパネルなどの建設用のスチールを、リベットや溶接またはネジにより対応する建築物に連結したものである。使用の過程でこれらの表面は大気に接触する。また、これらの表面は、使用の過程で、水、土壌または他の腐食性媒体と接触する可能性がある。このような例としては、橋や電柱、タンク、容器、化学プラント、建物、屋根、パイプ、カップリング、フランジ、船、クレーン、ポスト、隔壁があげられる。
【0138】
これらの表面は、特に、鉄、スチール、亜鉛、亜鉛合金、アルミニウムまたはアルミ合金からできている。スチールは、熟練者は既知の典型的な合金成分を含んでいる。その例はすでに述べた。
【0139】
Zn合金またはアルミ合金用の合金成分の例は、上に述べた。例えば、熱浸漬亜鉛めっきや亜鉛焼きなどの熱浸漬方法によりスチール上にZn塗膜またはアルミニウム塗膜を形成することができる。部品が固定されている場合、あるいは位置的に移動が難しい場合は、塗装を熱噴霧(噴霧亜鉛めっき、噴霧アルミめっき)で行うこともできる。
【0140】
大気腐食制御では、通常ブラシ塗装や噴霧により、現場で腐食制御塗装が行われる。この種の腐食制御塗膜は、一般的には、大気条件下で、言い換えれば、例えば大気温度で通常の大気湿度下で空気または大気酸素の存在下で乾燥硬化される。必要なコントロールの程度により、腐食制御塗膜による表面腐食の制御は、軽度、中等度、重度の防食なる。
【0141】
特に好ましくは、この大気腐食制御の方法を、基準C2 (DIN EN−ISO12944による)以上、好ましくは基準C3以上、より好ましくは基準C4以上の腐食に暴露されている金属表面に用いることができる。
【0142】
DIN−EN−ISO12944によれば、腐食性基準は、特定の腐食暴露に12ヶ月間表面に非合金スチールまたは亜鉛を曝した時の単位面積当りの質量減少または厚みの減少により定義される。
【0143】
C2(軽腐食):
非合金スチール:
質量減量>10〜200g/m2
厚み減少>1.3〜25μm
亜鉛:
質量減量>0.7〜5g/m2
厚み減少>0.1〜0.7μm

C3(中腐食):
非合金スチール:
質量減量>200〜400g/m2
厚み減少>25〜50μg
亜鉛:
質量減少>5〜15g/m2
厚み減少>0.7〜2.1μm

C4(重腐食):
非合金スチール:
質量減量>400〜650g/m2
厚み減少>50〜80μm
亜鉛:
質量減量>15〜30g/m2
厚み減少>2.1〜4.2μm

C5−I/M (極高腐食):
非合金スチール:
質量減量>650〜1500g/m2
厚み減少>80〜200μm
亜鉛:
質量減量>30〜60g/m2
厚み減少>4.2〜8.4μm
【0144】
本方法は、好ましくはクロム(VI)フリーな方法、より好ましくはクロムフリな方法である。本発明において、「クロム(VI)フリー」または「クロムフリー」とは。用いる配合物がクロム(VI)化合物のいずれも、あるいはクロム化合物のいずれをもまったく含まず、またその金属表面がクロム(VI)化合物またはクロム化合物で腐食防止前処理がされていないことを意味する。このことは、意図せずに微量のクロムが塗膜中に混入している可能性がないことを意味する。これらは、例えば、クロム含有スチールに塗膜を形成する際に、スチームから溶出した微量のクロムであるかもしれない。
【0145】
本発明の大気腐食制御の方法は、大気条件下で硬化性である少なくとも一種のバインダー系(A”)と、微分散した充填材、顔料または染料の群から選ばれる少なくとも一種の成分(B”)と、少なくとも一種のコポリマー(C)と、少なくとも一種の溶媒(D”)とからなる配合物を用いる本発明により実施される。
【0146】
バインダー系(A”)
大気条件下で硬化性を示すバインダー系(A”)は、腐食制御塗膜や他の塗膜の分野で典型的なバインダーであってもよい。この種のバインダーやバインダー系は、原則的には熟練者に公知である。もちろん、混合により望ましくない効果が発生しない限り、異なるバインダー系の混合物を用いることもできる。
【0147】
以下、「バインダー系」とは、原則的には公知のように、フィルムの形成に関わる配合物の成分をさす。
【0148】
「大気条件下で硬化性を示す」とは、このバインダー系が、表面に塗布後、典型的な環境条件下で、即ちほぼ室温で、空気の存在下で典型的な大気湿度下で、特に新たな装置類を用いることなく、硬化する能力を有していることを意味する。環境にもよるが、代表的な加硫温度は0〜40℃であり、好ましくは5〜35℃で、例えば15〜25℃である。ある特定の同じバインダー系の完全硬化時間が周囲の環境条件により変動する可能性があることは、熟練者には公知である。
【0149】
用いるバインダー系の性質により、いろいろなメカニズムで硬化が進行する。例えば、この硬化が、使用溶媒の蒸発による純粋に物理的な硬化であるかもしれない。あるいは、バインダー系と空気中の酸素との反応による酸化的な硬化であるかもしれない。最後に、化学的な架橋(反応架橋)であるかもしれない。反応性のバインダー系は、架橋性成分を含んでいる。この架橋性成分は、低分子量成分であるか、オリゴマーやポリマーであるかもしれない。この系は、好ましくは一成分系(1K)であるが、二成分系(2K)であるかもしれない。反応性の架橋系は、大気中の水分が硬化成分として作用する湿気硬化型バインダー系を含んでいる。また、あるバインダー系は、異なる硬化方法の組み合わせにより硬化するかもしれない。2K系の場合は、配合物の使用前にそのバインダー成分と硬化成分とを、公知の方法により混合する。
【0150】
本発明は、水可溶性のバインダー系や有機物可溶性のバインダー系を用いて実施することができる。好ましいバインダー系は水系のものである。
【0151】
腐食制御塗膜、特に水系の腐食防止系用のバインダー系は、原則的には熟練者に公知である。その例としては、エポキシ樹脂、ポリアクリレート、スチレン−アクリレートポリマー類、ポリエステル類、アルキッド樹脂、スチレン−ブタジエンポリマーのポリウレタン類があげられる。
【0152】
バインダー(A)の配合物中の量は、溶媒も含めて配合物中の全成分の総量に対して15〜70重量%である。この量は塗膜の望ましい性質に応じて熟練者により設定される。この量は好ましくは20〜60重量%であり、より好ましくは25〜50重量%である。
【0153】
本発明を実施に当たり好ましいバインダー系を以下に述べる。
【0154】
ポリアクリレートまたはスチレン−アクリレートコポリマー(A1”)
本発明のある好ましい実施様態においては、このバインダー系が、水系のまたはほとんど水系のポリアクリレートまたはスチレン−アクリレートコポリマー(A1”)分散液である。
【0155】
腐食制御塗膜形成用のポリアクリレートまたはスチレン−アクリレートコポリマー(A1”)水分散液は、原則的には熟練者には公知である。このポリアクリレート(A1)水分散液は、第一の分散液または第二の分散液である。好適なポリアクリレートは、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレートまたは2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートなどの少なくとも一種のアルキル(メタ)アクリレートを、主モノマーとして有するものである。これらは、好ましくは、他の主たるモノマーとしてビニル芳香族化学物、特にスチレンを有していてもよい。主モノマーの合計量は、一般に少なくとも60重量%であり、好ましくは少なくとも80重量%である。スチレン−アクリレートコポリマーは、上記のアルキル(メタ)アクリレート以外に、主モノマーとして、一般に、少なくとも30重量%、好ましくは少なくとも40重量%、より好ましくは約50重量%のスチレンを含んでいる。ポリアクリレートやスチレン−アクリレートコポリマー(AT)は、さらに他のコモノマーを有していてもよく、ヒドロキシル基、カルボキシル基またはカルボキサミド基などの官能基を有するコモノマーを有していてもよい。その例としては、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、(メタ)アクリルアミドまたはヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類があげられる。他のコモノマーは、好ましくは酸性のコモノマーである。また、必要に応じて、架橋性モノマーを小量、通常4重量%未満、好ましくは2重量%未満含んでいてもよい。その例としては、ブタンジオール(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ−(メタ)アクリレートまたはアリルアクリレートがあげられる。
【0156】
ポリアクリレート(A1”)は、原則的には公知のように、乳化重合により製造される。このようなポリマーやその配合物の他の詳細な説明が例えばEP−A157133、WO99/46337、または「塗料と塗装、2.5.アクリル系塗料」、ウルマン工業化学辞典、6版、2000、電子版に記載されている。熟練者は、塗膜の望ましい性質に応じて、これらのポリアクリレート(A1)の中から適当な選択を行う。
【0157】
本発明の実施上で特に好適なのは、n−ブチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、n−アクリル酸オクチルまたは2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート等の少なくとも一種のエラストマー性のアクリレートと、スチレンとを、主モノマーとして含み、第二のモノマーとして、(メタ)アクリル酸などの少なくとも一種の酸性モノマーを含むスチレン−アクリレートコポリマーである。配合物用のバインダーとして使用するために、酸基の一部または全部が適当な塩基、例えばアンモニアで中和されていてもよい。
【0158】
用いるポリアクリレートのガラス転移温度Tgは、一般に、0〜60℃の範囲、好ましくは5〜40℃の範囲(DIN EN−ISO11357によりDSC法で測定)である。このガラス転移温度は、ハードモノマーとソフトモノマーの種類と量により、原則的には公知のように、熟練者により選定される。
【0159】
本発明を実施するに当たり好ましくは平均粒度が50nm〜400nm、より好ましくは80nm〜250nm (マルベルン(登録商標)オートサイザー2Cで測定)のポリアクリレート(A1)をさらに使用することができる。
【0160】
腐食制御塗膜の形成用に好適なアクリレート分散物及びスチレン−アクリレート分散物は市販されており例えばアクロナール(登録商標)S760またはアクロナール(登録商標)LR8977(BASF社)またはアクロナール(登録商標)オプティブ410(BASF社)として入手可能である。
【0161】
スチレン−アルカジエンポリマー(A2”)
本発明の第二の好ましい実施様態においては、このバインダー系が、水系のまたはほとんど水系のスチレン−アルカジエンポリマー(A2”)分散液である。
【0162】
腐食制御塗膜形成用のスチレン−アルカジエンポリマー類(A2”)の水分散液は、原則的には熟練者に公知であり、例えばEP−A47380に記載されている。これらは、好ましくは第一の分散液または第二の分散液である。
【0163】
好適なポリマー(A2”)は、主モノマーとして、スチレンと少なくとも一種の共役型脂肪族のジエン(アルカジエン)を含んでいる。これらのアルカジエンとしては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエンまたはジメチルブタジエンがあげられる。スチレンは、アルキル基で置換されていてもよい。その例としては、α−メチルスチレンや4−メチルスチレンがあげられる。主モノマーは、好ましくはスチレンとブタジエンである。一般に、これらのポリマーは、少なくとも20重量%のスチレンと20重量%のアルカジエンを含み、主モノマーの総量は、一般に少なくとも60重量%、好ましくは少なくとも80重量%である。いずれの場合においても、この量はモノマーの総量に対するものである。これらのポリマーはさらに他のコモノマーを有していてもよい。一方、エチレン性不飽和カルボン酸及び/又は(メタ)アクリル酸、マレイン酸またはイタコン酸などのジカルボン酸もあげられる。また、このコモノマーは、(メタ)アクリロニトリルなどのエチレン性不飽和カルボニトリルや、メチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチルアクリレートまたは2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレートであってもよい。
【0164】
スチレン−アルカジエンポリマー(A2”)は、原則的には公知のように、乳化重合により製造される。塗装材料用のスチレン−ブタジエンポリマーおよびその配合物の詳細は、例えば「塗料と塗装、2.4.8.ポリスチレンとスチレンコポリマー」ウルマン工業化学辞典、6版、2000、電子版に記載されている。
【0165】
本発明を実施するに当たり特に好適なのは、第二のモノマーとして(メタ)アクリル酸などの一種以上の酸性モノマーを好ましくは0.5〜5重量%の量で含むスチレン−ブタジエンポリマーである。配合物用のバインダーとして使用するには、このましくは、酸基の一部または全部をアンモニアなどの適当な塩基で中和することができる。
【0166】
用いるスチレン−ブタジエンポリマー(A2”)のガラス転移温度Tgは、一般に0〜60℃の範囲にあり、好ましくは5〜40℃の範囲にある。このガラス転移温度は、ハードモノマーとソフトモノマーの種類と量により、原則的には公知のように、熟練者により選定される。
【0167】
本発明を実施するに当たり好ましくは、さらに平均粒度が50nm〜400nm、より好ましくは80nm〜250nm (上述のように測定)のスチレンブタジエンポリマー(A2”)を使用することができる。
【0168】
ポリウレタン(A3”)
本発明の第三の好ましい実施様態においては、このバインダー系が、水系またはほとんど水系のポリウレタン(A3”)分散液である。
【0169】
腐食制御塗膜形成用のポリウレタン(A3”)水分散液は、原則には熟練者に公知である。塗装剤用ポリウレタンとその配合物の詳細は、例えば、「塗料と塗装、2.9ポリウレタン塗膜」ウルマン工業化学辞典、6版、2000、電子版に記載されている。このポリウレタン(A3”)水分散液は、第一の分散液であっても第二の分散液であってもよい。
【0170】
水分散液用のポリウレタンは、原則的には公知のように、通常のジイソシアネートとジオールとから製造される。効果的なフィルム成形性と好ましい弾性を得るために特に好適なジオールは、数平均分子量Mnが約500〜5000g/mol、好ましくは約1000〜3000g/molのものである。この目的のために、ポリエーテルジオールとポリエステルジオールの両方を使用することができる。比較的に高分子量のジオールの量は、通常ジオールの総量に対して10〜100モル%である。フィルムの所望硬度や弾性は、上述のジオールに加えて、数平均分子量Mnが約60〜500g/molである低分子量ジオールを用いてコントロールすることができる。
【0171】
水分散液用のポリウレタンの合成には、少なくとも一種のイソシアネート基またはイソシアネート基に反応性を示す基と、さらに少なくとも一種の親水性基を含むモノマーを使用することが好ましい。これらは、ポリオキシエチレン基などのノニオン性基、COOH、スルホネートまたはホスホネート基などの酸性基、あるいはアミノ基などの塩基性基のいずれでもよい。特に好ましいのは酸性基である。配合物用のバインダーとして使用するには、その酸基の一部または全部が適当な塩基で中和されていることが好ましい。この目的のために好ましいのは、アンモニアまたはアミンである。このようなポリウレタン分散液およびその配合物の詳細は、WO2005/005565、4頁13行〜14頁14行に詳しく記載されている。他の好適なポリウレタンの例が、US5,707,941またはWO2004/101638、特に2頁31行〜14頁11行に開示されている。
【0172】
このポリウレタンは、修飾されていてもよい。例えば、この化合物は、酸化的に硬化するウレタンアルキッドであってもよい。合成するには、例えば不飽和脂肪酸のトリグリセリドを部分的に加水分解する。ポリウレタン配合物の製造中に得られるOH基は、イソシアネート基と反応することができる。
【0173】
本発明を実施するに当たり好ましくは、平均粒度が1000nm以下、好ましくは500未満、より好ましくは200nm未満、特に20〜200nmのポリウレタン(A3”)を使用することができる。
【0174】
アルキッド樹脂(A4”)
本発明の第四の好ましい実施様態においては、このバインダー系が、水系またはほとんど水系のアルキッド樹脂(A4”)分散液である。
【0175】
腐食制御塗膜形成用のアルキッド樹脂(A4”)の水分散液は、原則的には熟練者に公知である。アルキッド樹脂(A4”)は、ポリオールと多塩基のカルボン酸からなる、酸化的に硬化する重縮合性樹脂であり、その中の少なくとも一種のポリオールのOH基が、脂肪酸油及び/又は天然の及び/又は合成のモノ/ポリ不飽和脂肪酸でエステル化されたものである。なお、用いるポリオール類の少なくとも一種が3個以上の官能基を持っている必要がある。
【0176】
好ましい多価アルコール類の例としては、グリセロール、ペンタエリスリトール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、およびエタンジオールやプロパンジオール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール等の各種ジオールがあげられる
好ましい多塩基性カルボン酸としては、フタル酸(無水物) (PAn)、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸無水物、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸があげられる。フタル酸(無水物)が特に好ましい。
【0177】
好適な油成分または脂肪酸の例としては、あまに油、オイチシカ油または桐油などの乾燥油類、豆腐油、ひまわり油、サフラワー油、リシニン油、トール油などの半乾燥
油類、ヒマシ油、ヤシ油または落花生油などの非乾燥油類、または上記の油類の遊離脂肪酸があげられる。
【0178】
典型的なアルキッド樹脂のモル質量Mnは、1500〜20000g/molであり、好ましくは3500〜6000g/molである。酸価は、好ましくは2〜30mgKOH/gであり、または水希釈製樹脂の場合は35〜65mgKOH/gである。OH価は、最大300であり、好ましくは最大100mgKOH/gである。
【0179】
「アルキッド樹脂」は、スチレン変性アルキッド樹脂、ウレタンアルキッド、ウレタン油類またはエポキシ樹脂変性アルキッド樹脂などの変性アルキッド樹脂も含んでいる。この種の変性アルキッド樹脂は、熟練者には公知である。
【0180】
塗装剤用のアルキッド樹脂(A4”)やその配合物の詳細は、例えば「塗料と塗装、2.6.アルキド塗装」、ウルマン工業化学辞典、6版、2000、電子版や、「塗料と塗料組成」(Ulrich Zorll、p.188ff、Curt R. Vinzentz Verlag、Hanover、2003)に開示されている。
【0181】
用いるアルキッド樹脂(A4”)のガラス転移温度Tgは、一般に0〜60℃の範囲であり、好ましくは5〜40℃の範囲である。
【0182】
充填材/顔料/染料(B”)
本発明で用いる配合物は、さらに、微分散した充填材、顔料または染料の群から選ばれる少なくとも一成分(B”)を含んでいる。
【0183】
この微分散した充填材は、一般的には無機充填剤である。充填材及び/又は顔料は、もちろん、例えば疎水化または親水化のために他の有機塗料を含んでいてもよい。
【0184】
充填材の平均粒度が10μmを超えてはならない。好ましい平均粒度は、10nm〜8μmであり、特に好ましいのは100nm〜5μmであり、例えば2〜4μmである。球状またはほぼ球状の粒子の場合、この値は直径に相当する。不規則な形状の粒子、例えば針状の粒子の場合、例えば、これは最も長い径をさす。粒度は一次粒子径をいう。微分散した固体が凝集して大きな粒子となりやすく、使用するには配合物中で強く分散させる必要があることは、熟練者には公知である。この粒度は、その層の望ましい性質に応じて、熟練者により選ばれる。
【0185】
顔料が特に耐食性顔料であってもよい。これらは、能動的耐食性顔料と受動的耐食性顔料の両方を含む。
【0186】
能動的耐食性顔料の例としては、特に、リン酸塩類、リン酸含有物または変性リン酸があげられ、具体的には亜鉛ホスフェート、リン酸亜鉛アルミニウム、リン酸亜鉛モリブデン、リン酸亜鉛アルミニウムモリブデン、リン酸水素カルシウム、リン酸ケイ酸亜鉛カルシウムストロンチウム、ポリリン酸亜鉛アルミニウム、ポリリン酸ストロンチウムアルミニウム、リン酸ポリリン酸ケイ酸亜鉛カルシウムアルミニウムストロンチウム、ポリリン酸ケイ酸カルシウムアルミニウム系の顔料があげられる。他の例としては、無機のリン酸塩と低溶解度の電気化学的に活性な有機腐食防止剤の組み合わせ、例えば5−ニトロイソフタル酸のZn塩またはCa塩で変性されたリン酸亜鉛があげられる。また、鉄リン化物や、亜鉛ヒドロキシリン化物、メタホウ酸バリウムまたはホウリン酸亜鉛などのホウケイ酸顔料、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸ナトリウム亜鉛またはモリブデン酸カルシウムなどのモリブデン酸、カルシウムイオンで変性された非晶質SiO2またはその変性されたケイ酸塩などのイオン交換性を持つ顔料、ZnOなどの金属酸化物、亜鉛粉などの金属粉を使用することもできる。典型的な有機耐食性顔料、例えば5−ニトロイソフタル酸のZn塩類またはCa塩類を使用することもできる。
【0187】
受動的耐食性顔料は、腐食性の成分の拡散経路を延長させ、もって耐食性を改善する。その例としては、特にマイカやヘマタイト、層状ケイ酸塩などの板状または薄板状顔料や、珪灰石やタルクなどの線状のポリケイ酸塩、アルミニウムフレークや鉄フレークなどの金属フレークがあげられる。
【0188】
耐食性顔料の他の詳細は、例えば「顔料、4.2耐食顔料」」、ウルマン工業化学辞典、6版、2000、電子版に記載されている。
【0189】
これらの顔料は、典型的なカラー顔料であっても及び/又は効果顔料であってもよい。
【0190】
なお、効果顔料とは、板状構造を有し、特定の装飾的な色彩効果を表面塗膜にもたらす顔料の全てをさす。効果顔料は、熟練者には公知である。その例としては、アルミニウム、鉄または銅顔料などの直線状金属顔料や、二酸化チタン塗布マイカ、酸化鉄塗布マイカ、複合酸化物塗布マイカ(例えば、二酸化チタンやFe23を含有)、金属酸化物塗布アルミニウムなどの干渉性顔料や、液晶顔料があげられる。
【0191】
カラー顔料は、特に、塗料業界で使用できる典型的な有機または無機の光吸収顔料である。有機光吸収顔料の例としては、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、ピロロピロール顔料があげられる。無機光吸収顔料の例としては、酸化鉄顔料、二酸化チタン、カーボンブラックがあげられる。
【0192】
染料の例としては、アゾ、アジン、アントラキノン、アクリジン、シアニン、オキサジン、ポリメチン、チアジン、トリアリールメタン染料があげられる。これらの染料は、塩基性またはカチオン性の染料、媒染染料、直接染料、分散染料、イングレーン染料、建染染料、金属錯体染料、反応性染料、酸性染料、硫黄染料、カップリング染料または直接染料として利用される。充填材は、塗膜の性質に、例えば硬度や流動性または効果顔料の配向に影響を与えるのに使用できる。充填材は、多くの場合色彩的に不活性である。言い換えれば、これらの吸収はもともと弱く、その屈折率は塗料媒体のものに近い。 充填材の例としては、タルク、炭酸カルシウム、カオリン、硫酸バリウム、珪酸マグネシウム、アルミニウムシリケート、結晶性二酸化ケイ素、非晶質シリカ、酸化アルミニウム、ガラスやセラミックまたはポリマー製の大きさが例えば0.1〜10μmのミクロビーズや中空ミクロビーズがあげられる。尿素−ホルムアルデヒド縮合物、微細化ポリオレフィンワックスまたは微細化アミドワックスなどの固体状の不活性有機粒子を、充填材として使用することもできる。この不活性充てん剤はそれぞれ混合物として利用することもできる。しかしながらいずれの場合も、一種のみの充填材の試料が好ましい。
【0193】
成分(B”)は、1〜70重量%の量で使用される。正確な量は、塗膜に望ましい性質に応じて、熟練者により決定される。この量は、好ましくは5〜60重量%であり、より好ましくは10〜50重量%である。
【0194】
顔料及び/又は充填材を使用する際に好適な顔料体積濃度(PVC)は15〜40%であり、好ましくは20〜40%、より好ましくは20〜35体積%であったが、特に本発明がこれに限定されるわけではない。
【0195】
成分(B”)の種類と量は、塗膜の望ましい最終用途に応じて熟練者により決定される。本発明のある特に好ましい実施様態においては、クロム含有成分(B”)を使用しない。異なる成分(B”)の混合物の使用も可能であろう。
下塗り用の配合物は、通常中間塗膜または上塗り塗膜用の配合物より多量の顔料を有している。
【0196】
下塗り用の配合物は、通常少なくとも一種の能動的な耐食性顔料を含み、中間塗膜用の配合物は、少なくとも一種の受動的な耐食性顔料を含み、上塗り塗膜は少なくとも一種のカラー顔料及び/又は一種の染料を含んでいる。
【0197】
ある特に好ましい実施様態においては、下塗り用の配合物は、少なくとも一種の能動的な耐食性顔料と少なくとも一種の充填材と、さらに、好ましくは少なくとも一種のカラー顔料とを含んでいる。
【0198】
コポリマー(C)
本発明で用いる大気腐食制御用の配合物の製造に当たり、単一のコポリマー(C)を使用することもできるし、二種以上の異なるコポリマー(C)を使用することもできる。原則的には、これらの可能なコポリマー(C)の中から、腐食制御塗膜の望ましい性質に応じて熟練者が特定の選択を行う。あらゆる種類のコポリマー(C)がすべての種類のバインダー系、溶媒または表面に好適であることはないことは、熟練者には明らかである。
【0199】
好ましくは、大気腐食制御のために、COOH及び/又はスルホン酸基を有するコポリマー(C)を使用することができる。イタコン酸をモノマー(C2)として含むコポリマーが極めて好ましい。
【0200】
本発明で用いるコポリマー(C)は、配合物の全成分の総量に対して0.1〜40重量%の量で、好ましくは0.2〜20重量%、より好ましくは0.5〜10重量%の量で使用される。
【0201】
溶媒(D”)
この大気腐食制御用の配合物は、成分(D”)として、適当な溶媒を含んでいる。好適な溶媒は、本発明で用いる成分を溶解、分散、懸濁、乳化させてこの配合物を表面上に均一に塗布できるようにするものである。これらは、有機溶媒であっても水であってもよい。異なる溶媒の混合物を用いてもよい。
【0202】
有機溶媒の例としては、トルエンやキシレンなどの炭化水素類、特に原油精製により得られる特定の沸騰範囲の炭化水素混合物、THFなどのエーテル類またはポリエチレングリコールなどのポリエーテル類、ブチルグリコールなどのエーテルアルコール類、ブチルグリコールアセテートなどのエーテルグリコールアセテート類、アセトンなどのケトン類、メタノールやエタノール、プロパノールなどのアルコール類があげられる。
【0203】
この溶媒は、好ましくは水、あるいは主に水からなる溶媒混合物である。例えば、少なくとも75%の、好ましくは少なくとも85%の、より好ましくは少なくとも90%の、非常に好ましくは少なくとも95重量%の水を含むような種類の混合物である。
【0204】
主に水系の溶媒混合物中の他の成分は、水混和性の溶媒である。その例としては、特に、n−ブタノールや、ブチルグリコール、ブチルジグリコール、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドンなどの典型的な共溶媒である。しかし他の成分として水非混和性溶媒を含んでいてもよい。この種の溶媒はよくフィルム成形助剤として使用されている。その例としては、ブチルグリコールアセテートやブチルグリコールジアセテート、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール1−イソブチレート(テキサノール(登録商標))があげられる。
【0205】
溶媒または溶媒混合物(D”)の量は、配合物の全成分の総量に対して5〜83.9重量%である。この量は、塗膜配合物の望ましい性質に応じて熟練者により決定される。この量は好ましくは10〜74.8重量%であり、より好ましくは20〜64.5重量%、例えば30〜50重量%である。
【0206】
他の成分(E”)
本発明で用いる大気腐食制御用の配合物が、成分(A”)〜(D”)以外に、一種以上の助剤及び/又は添加剤(E”)を含んでいてもよい。このような助剤及び/又は添加剤は、塗膜の性質を微調整するのに役立つ。これらの量は、通常、溶媒を除く全成分の総量に対して20重量%以下であり、好ましくは10%以下である。
【0207】
大気腐食制御用に好適な添加剤の例としては、流動性改良剤や、UV吸収剤、光安定剤、フリーラジカル捕捉剤、熱架橋剤触媒、スリップ添加剤、重合防止剤、脱泡剤、乳化剤、蒸発防止剤、界面活性剤、分散剤、接着性促進剤、流動性調整剤、フィルム成形助剤、流動性低下添加剤(増粘剤)、難燃剤、乾燥剤、皮張り防止剤、他の腐食防止剤、ワックス類、艶消し材があげられる。この種の添加剤は、例えば「塗料添加物」(Johan Bieleman, Wiley−VCH, Weinheim, New York, 1998)またはDE−A19914896、13欄56行〜15欄54行に開示されている。
【0208】
本方法を実施するための配合物を、配合物の全成分を強く混合して調整してもよい。好適な混合分散装置は、熟練者には公知である。
【0209】
本発明のある好ましい実施様態においては、まず、バインダー系(A”)とコポリマー(C)と、溶媒(D”)の少なくとも一部とから分散物を得てもよい. このバインダー(A”)が第一の分散物の場合、このバインダーはすでに分散したものである。バインダーが固体状で存在する場合、溶液または第二の分散物がまず調整される。このコポリマー(C)もまた、好ましくは溶媒に分散、乳化または溶解して用いられる。このためには、コポリマー(C)の製造の際に得られたコポリマー(C)のエマルジョンからコポリマーを前もって単離することなく、そのまま使用することが有利である。
【0210】
この成分(B”)といずれか他の成分(E”)とは、初期の分散液に溶解または分散されていてもよい。
【0211】
大気腐食制御法の実施
この腐食制御塗膜は、あらゆる種類の腐食制御塗膜であってよく、例えば下塗り(プライマー)塗膜(I)や中間体塗膜(II)、上塗り塗膜(III)であってよい。この腐食制御塗膜は、もちろん少なくともこれらの二種の塗膜の性質を、あるいはすべて三種の塗膜の性質を併せ持つ塗装系を簡単にできるものであってもよい。この塗膜は、ショップ塗膜であってもよい。ショップ塗膜が、スチール部品の製造の際の、したがって例えば部品の溶接の際の腐食防止を確実にするために、新たに製造されたスチールに行われる塗装であることは、熟練者には公知である。
【0212】
本発明の方法は、OEMでの保護塗装や修復に役立つ。
【0213】
一般に、ある工程(0)で本発明の方法を実施するための金属表面を準備することが好ましいが、常に絶対に必要であるというわけではない。腐食防止対策を実行するための表面の準備が、汚れを除去するための表面の洗浄や腐食防止対策に適当な表面粗さとすることであることは、熟練者には明らかである。洗浄法の例としては、水または溶媒洗浄や適当な組成物による酸洗浄、高圧洗浄があげられる。他の対策の例としては、研磨、特に表面研磨、例えばサンドブラストや火焔ブラストなどがあげられる。このような操作では、除去すべき塗膜のすべてが除かれて、光沢のある金属となる。かしながら、もっと穏やかな方法を用いて、接着性が弱い塗膜のみを除き、表面上の塗膜を無傷で残すこともできる。この目的のために可能な方法の一つは、スイープブラストと呼ばれるものである。
【0214】
この方法を実施するには、大気条件下で架橋可能な上記の配合物を用いて、厚みが少なくとも15μmである、少なくとも一種の腐食制御塗膜を、金属表面上に形成する。
【0215】
この腐食制御塗膜を、光沢金属表面上に直接形成してもよいし、すでに腐食制御塗膜が形成されている表面上に形成してもよい。
【0216】
この少なくとも一種の腐食制御塗膜は、好ましくは光沢金属またはショップ塗膜を持つ金属表面に直接形成されるプライマー塗膜(I)である。必要な場合に存在するこのショップ塗膜もまた、同様に、本発明の配合物あるいは別の配合物により形成される。
【0217】
この塗膜は、熟練者には公知の通常の方法を用いて形成される。好ましくはブラシ塗装または噴霧により、この配合物が塗布される。
【0218】
表面への塗布後、塗布された塗膜は、本方法の硬化工程(2”)において大気条件下で硬化する。単純には、徐々に溶媒を蒸発させて硬化を行う。用いるバインダーの性質によっては、他の架橋方法を用いてもよい。この詳細については上述した。
【0219】
所望の最終厚みの腐食制御塗膜を形成するにあたり、所望の腐食制御塗膜の厚みによっては、すべての塗膜を単一操作により塗布することができるし、2つ以上の同種の塗膜を続けて塗布硬化させることもできる。
【0220】
プライマー塗膜(I)の上に、別の腐食制御塗膜を塗布してもよい。別の塗膜の種類と枚数は、熟練者により決定される。特に、プライマー塗膜(I)の上に、中間塗膜(II)や上塗り塗膜(III)を、別操作により形成してもよい。このためには、プライマー塗膜(I)と組合わせて悪影響がでない限り、原則としてあらゆる塗膜系が使用可能である。本発明において用いられるコポリマー(C)は、他の塗膜のプライマー塗膜への接着性を向上させる。好ましくは、本発明の配合物を、プライマー塗膜(I)に、中間塗膜(II)に、また上塗塗膜に用いることができる。
【0221】
本方法の他の好ましい実施様態においては、最初に一体化プライマー塗膜(la)が形成され、その上に直接上塗塗膜(III)が形成される。したがって、一体化プライマー塗膜は、プライマー塗膜(I)と中間塗膜(III)の性質の両方を備えている。
本発明の他の好ましい実施様態においては、単一の一体化腐食制御塗膜(Ib)が形成されて、その上には上塗塗膜を必要としない。一体化腐食制御塗膜は、三つの塗膜の性質を兼ね備えている。
【0222】
架橋後の少なくとも一種の本発明の腐食制御塗膜の厚みは、少なくとも15μm、好ましくは少なくとも25μm、より好ましくは少なくとも40μm、非常に特に好ましくは少なくとも60μm、少なくとも100μmである。厚みは、塗膜の望ましい性質と最終用途に併せて熟練者により決定される。
【0223】
ショップ塗膜は通常薄く、例えば15〜25μmである。ショップ塗膜でない腐食制御塗膜の厚みは、一般的には少なくとも25μm、好ましくは少なくとも40μm、特に好ましくは少なくとも60μm、極めて好ましくは少なくとも100μmである。大気腐食制御用の全体の塗膜の厚みの上限、すなわち形成された腐食制御塗膜すべての厚みは、2mm未満、好ましくは1.5mm未満、より好ましくは1mm未満、非常に好ましくは800μm未満、特に好ましくは500μm未満である。
【0224】
以下に実施例により、本発明を詳述する。
【0225】
第I部−使用コポリマーの合成
【0226】
ポリマー1:
45重量%のN−ビニルイミダゾールと25重量%のビニルホスホン酸と30重量%のスチレンとからのコポリマー
アンカー攪拌器と内部温度計を備えた2lのパイロット規模の攪拌器に、79gのビニルホスホン(95%濃度溶液)と、30.9gのジメチルエタノールアミンの171.6gのブチルグリコール溶液とを入れ、窒素ガスを通しながら、125℃に加熱する。135gのビニルイミダゾールと90gのスチレンからなる供給液1を5時間かけて、また、36gの2,2−ジ−(tert−ブチルパーオキシ)ブタン(トリゴノックス(登録商標)D−C50;50%濃度の芳香族非含有炭化水素溶液)の100gのブチルグリコール溶液である供給液2を6時間かけて添加する。反応混合物を125℃でさらに2時間攪拌する。その後、1時間かけて、6gの2,2−ジ−(tert−ブチルパーオキシ)ブタン(トリゴノックス(登録商標)D−C50;50%濃度の鉱油溶液)を30gのブチルグリコールに溶解した溶液を添加し、混合物をさらに3時間攪拌する。冷却中に、61.9gのジメチルエタノールアミンと30gのブチルグリコールと110gの完全に脱イオン化した水を添加する。
この結果、褐色の溶液を得る。
【0227】
1H−NMR:残存するビニルイミダゾール含量:用いたビニルイミダゾールに対して5%
31P−NMR:残存するビニルホスホン酸含量:用いたビニルホスホン酸に対して< 1%
酸性基の中和度:25%
【0228】
ポリマー2:
55重量%のN−ビニルイミダゾールと25重量%のビニルホスホン酸と20重量%のスチレンとのコポリマー
実施例1の操作を繰り返した。ただし、供給液1中のビニルイミダゾールとスチレンモノマーの量は変更した。
1H−NMR:残存するビニルイミダゾール含量:用いたビニルイミダゾールに対して< 1%
31P−NMR:残存するビニルホスホン酸含量:用いたビニルホスホン酸に対して<1%酸性基の中和度:50%
【0229】
ポリマー3:
35重量%のN−ビニルイミダゾールと35重量%のビニルホスホン酸と30重量%のスチレンのコポリマー
実施例1の操作を繰り返した。ただし、供給液1中のビニルイミダゾールとビニルホスホン酸モノマーの量は変更した。
1H−NMR:残存するビニルイミダゾール含量:用いたビニルイミダゾールに対して2.5%
31P−NMR:残存するビニルホスホン酸含量:用いたビニルホスホン酸に対して0.8%
酸性基の中和度:50%
【0230】
ポリマー4:
45重量%のN−ビニルイミダゾールと25重量%のイタコン酸と30重量%のスチレンのコポリマー
アンカー攪拌器と内部温度計を備えた2lのパイロット規模の攪拌器に75gのイタコン酸と171.6gのブチルグリコールを入れ、窒素ガスを通して、125℃に加熱する。5時間かけて135gのビニルイミダゾールと90gのスチレンからなる供給液1を、また6時間かけて、36gの2,2−ジ−(tert−ブチルパーオキシ)ブタン(トリゴノックス(登録商標)D−C50;50%濃度の芳香族非含有炭化水素の溶液)の100gのブチルグリコールへの溶解液からなる供給液2を添加する。反応混合物は、125℃でさらに2時間攪拌する。その後、1時間かけて、6gの2,2−ジ−(tert−ブチルパーオキシ)ブタン(トリゴノックス(登録商標)D−C50;50%濃度の鉱油溶液)を30gのブチルグリコールに溶解したものを添加し、混合物をさらに3時間攪拌する。冷却中に、102.8gのジメチルエタノールアミンと50gのブチルグリコールと80gの完全脱イオン化水を添加する。この結果、固形物含量が41.5%の褐色溶液を得る。
1H−NMR:残存するビニルイミダゾール含量:用いるビニルイミダゾールに対して<1%
1H−NMR:残存するイタコン酸含量:用いるイタコン酸に対して<1%
酸性基の中和度:0%
【0231】
ポリマー5:
40重量%のN−ビニルイミダゾールと25重量%のビニルホスホン酸と30重量%のスチレンと5重量%の2−ヒドロキシエチルアクリレートのコポリマー
実施例1の操作を繰り返した。ただし、供給液1中のビニルイミダゾールモノマーの量を変更し15gのヒドロキシエチルアクリレートを供給液1に添加した。
1H−NMR:残存するビニルimidazoie含量:用いるビニルイミダゾールに対して1.1%
31P−NMR:残存するvinyiホスホン酸含量:用いたビニルホスホン酸に対して<0.1%
酸性基の中和度:50%
【0232】
ポリマー6:
45重量%のN−ビニルイミダゾールと25重量%のアクリル酸と30重量%のスチレンのコポリマー
アンカー攪拌器と内部温度計を備えた2Iのパイロット規模の攪拌器に、171.6gのブチルグリコールを入れ、窒素ガスを通して、125℃に加熱する。5時間かけて135gのビニルイミダゾールと90gのスチレン及び46.4gのジメチルエタノールアミンからなる供給液1と、75gのアクリル酸の供給液2を、また6時間かけて、36gの2,2−ジ−(tert−ブチルパーオキシ)ブタン(トリゴノックス(登録商標)D−C50;50%濃度の芳香族非含有炭化水素の溶液)を100gのブチルグリコールに溶解した溶液からなる供給液3を添加する。反応混合物は、125℃でさらに2時間攪拌する。その後、1時間かけて、6gの2,2−ジ−(tert−ブチルパーオキシ)ブタン(トリゴノックス(登録商標)D−C50;50%濃度の鉱油溶液)を30gのブチルグリコールに溶解したものを添加し、混合物をさらに3時間攪拌する。冷却中に、46.4gのジメチルエタノールアミンと30gのブチルグリコールと40gの完全脱イオン化水を添加する。この結果、褐色溶液を得る。
1H−NMR:残存するビニルイミダゾール含量:用いるビニルイミダゾールに対して<0.1%
31P−NMR:残存するアクリル酸の含量:用いるアクリル酸に対して<0.1%
酸性基の中和度:50%
【0233】
ポリマー7:
45重量%のN−ビニルイミダゾールと25重量%の2−アクリルアミド−2−メチル− 1−プロパンスルホン酸と30重量%のスチレンのコポリマー
アンカー攪拌器と内部温度計を備えた2lのパイロット規模の攪拌器に、171.6gのブチルグリコールを入れ、窒素ガスを通して、125℃に加熱した。5時間かけて75gの2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸と135gのビニルイミダゾールと90gのスチレンと30gのブチルグリコールと32.2gのジメチルエタノールアミンからなる供給液1と、36gの2,2−ジ−(tert−ブチルパーオキシ)ブタン(トリゴノックス(登録商標)D−C50;50%濃度の芳香族非含有炭化水素の溶液)の100gのブチルグリコールへの溶解液からなる供給液2を添加する。反応混合物は、125℃でさらに2時間攪拌する。その後、1時間かけて、6gの2,2−ジ−(tert−ブチルパーオキシ)ブタン(トリゴノックス(登録商標)D−C50;50%濃度の鉱油溶液)を30gのブチルグリコールに溶解したものを添加し、混合物をさらに3時間攪拌する。冷却中に、46.4gのジメチルエタノールアミンと60gのブチルグリコールと40gの完全脱イオン化水を添加する。この結果、褐色溶液を得る。
1H−NMR:残存するビニルイミダゾール含量:用いるビニルイミダゾールに対して<1%
31P−NMR:残存する2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸含量:用いる2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸に対して<1%
酸性基の中和度:100%
【0234】
中和度を変えて、実施例1と実施例4を繰り返した。残存モノマー量と中和度との関係を、例えば表1の1〜7にまとめた。比較のために、次のポリマーを使用した。
【0235】
ポリマーV1:
ポリビニルイミダゾール
1リットルの丸底フラスコに276gの完全脱イオン化水を入れ、これを80℃に加熱する。3.5時間かけて、同時に、200gのビニルイミダゾールからなる供給液1と8.0gの2,2’−アゾビス(2−メチルプロパンイミドアミド)二塩酸塩を100gの完全脱イオン化水に溶解した供給液2と、4.0gのメルカプトエタノールを100gの完全脱イオン化水に溶解した供給液3とを供給する。この混合物を80℃で1時間攪拌し、次いで1時間かけて、1.0gの2,2’−アゾビス(2−メチルプロパンイミドアミド)二塩酸塩を20gの完全脱イオン化水二溶解した供給液4を添加する。この混合物を反応温度でさらに2時間攪拌し、冷却後、固形物含量が30.4%でK値が18.3である透明な褐色がかったポリマー溶液を得る。
【0236】
ポリマーV2:
ポリビニルイミダゾール−ポリエチレンオキシドグラフトコポリマー
アンカー攪拌器と内部温度計を備えた2lのパイロット規模の攪拌装置に、420gの、Mnが4000g/molのポリエチレングリコール(プルリオール(登録商標)E4000)をいれ、窒素ガスを通して、100℃に加熱する。6時間かけて、280gのビニルイミダゾールの供給液1を、また7時間かけて、6.3gのtert−ブチルペルオクトエートを20gのジプロピレングリコールに溶解した供給液2を添加する。反応混合物を125℃でさらに2時間攪拌する。その後、2.1gのtert−ブチルペルオクトエートを三回、それぞれ2時間攪拌する。冷却後、700gの完全脱イオン化水を用いてこの溶液を固形物含量で25%に調整する。この結果、ややにごった褐色溶液を得る。
K値= 24.4(1%濃度、完全脱イオン化水中)。
【0237】
ポリマーV3:
アミド化ポリエチレンイミン
60.45gのポリエチレンイミン(Mn:800g/mol)を窒素下にて120℃に加熱し、次いで84.74gのオレイン酸を滴下した。反応混合物を160℃で12時間攪拌し、生成する水は蒸留で除いた。変換率:97% (酸価とアミン価より決定)
【0238】
【表1】

【0239】
第II部−性能試験
得られたコポリマーを用いて、性能実験を実施した。

II−1:一体化腐食制御塗膜
試験は、三種の異なるコイル塗装材料、それぞれエポキシド、アクリレート、及びポリウレタン系の被覆材を用いて行った。
【0240】
エポキシバインダー系のコイル塗装材料(有機)の基本処方
一体的前処理層製造用配合物には、次の成分を用いた。
【0241】
【表2】

【0242】
適当な攪拌容器内で、上記の順でこれらの成分を混合し、ディソルバーを用いて10分間、前分散した。得られた混合物を、冷却装置を備えたビーズミルに移し、1.8〜2.2mmのSAZガラスビーズで粉砕した。この練り顔料を1時間30分間、磨砕した。次いで、練り顔料をガラスビーズから分離した。
【0243】
撹拌しながら、5.9重量部のブロック化ヘキサメチレンジイソシアネート(デスモデュール(登録商標)VP−LS2253、バイエルAG)と0.4重量部の市販のスズ非含有の架橋性触媒(ボルチ(登録商標)VP0245、ボルチャース社)をこの順で練り顔料に添加した。
【0244】
アクリレートバインダーのコイル塗装剤(水系の)の基本処方
用いた架橋性のバインダーは、アニオン的にアミンが安定化された、n−ブチルアクリレートとスチレン、アクリル酸、ヒドロキシプロピルメタクリレートとを主モノマーとする、水系のアクリレート分散液(固形物含量30重量%)であった。
【0245】
適当な攪拌容器内で、18.8重量部のアクリレート分散液、4.5重量部の分散添加剤、1.5重量部の脱泡作用を有する流動性調整剤、5.5重量部のメラミン樹脂架橋剤(ルイパル(登録商標)072、BASF社)、0.2重量部の親水系の熱分解法シリカ(アエロジル(登録商標)200V、デグサ)、3.5重量部のフィントークM5タルク、12.9重量部のチタンルチル2310白色顔料、8.0重量部のアクリレート分散液、3.5重量部のカルシウムイオン変性シリカ(シールデックス(登録商標)、グレースディビジョン)、4.9重量部の亜鉛ホスフェート(シコール(登録商標)、ZP−BS−M、ワーダルスケミスケファブリケン)、1.2重量部の黒色顔料(シコミックス(登録商標)ブラック、BASF社)をこの順で混合し、混合物をディソルバーを用いて10分間、予備分散した。得られた混合物を冷却装置を備えたビーズミルに移し1.8〜2.2mmのSAZガラスビーズで摩砕した。この練り顔料を45分間、摩砕した。次いで、練り顔料をガラスビーズから分離した。
【0246】
撹拌下で、27重量部のアクリレート分散液、1.0重量部の脱泡剤、3.2パーセントのブロック化スルホン酸、1.5重量部の脱泡剤、1.0重量部の流動性調整助剤を
この順でこの練り顔料に添加した。
【0247】
本発明で使用するコポリマー(C)の塗装剤への添加
これらのコイル塗装剤それぞれを、5重量%の実施例1〜7で合成したコポリマー(C)(配合物の固形物成分に対する固体状コポリマーとして計算)と混合した。いずれの場合においても、実施例で得られたブチルグリコールを含む溶液を直接用いた。
【0248】
スチール板とアルミニウム板の塗装
厚みが0.9mmのZ型の亜鉛メッキ鋼板(OEHDG 2、ケムトール)とアルミニウム板AlMgSi (AA6016、ケムトール)を用いて塗装試験を行った。これらの金属板は、事前に既知の方法で洗浄した。これらのコイル被覆材料を、棒状のドクターブレードを用いて、強制空気温度が185℃、板面温度が171℃で連続乾燥機中で硬化させた後の乾燥膜厚が6μmとなるように、面上に塗布した。
【0249】
比較のためにコポリマーを添加しない塗膜も形成した。
【0250】
腐食阻害効果の試験
本発明の塗膜の腐食阻害効果の試験では、上記の亜鉛メッキスチールシートを、10週間のVDA気候サイクル試験(VDA 「ドイツ自動車産業協会」試験シート621− 415 Feb 82)にかけた
この試験(下の図を参照)では、試料をまず、一日塩水噴霧試験(5% NaCI溶液、35℃)にかけ、次いで湿潤条件(40℃、100%相対湿度)と乾燥条件(22℃、60%相対湿度)のサイクルに三回暴露させた。一サイクルは、2日の乾燥条件相で終了する。一サイクルは、模式的には次のように表される
【0251】
【表3】

【0252】
このような暴露サイクルに、続けて合計10回かけた。
【0253】
腐食暴露の終了後に、スチール板を肉眼で観察し、事前に定めた標準と比較して評価した。非破損塗膜領域内の腐食産物の形成と端部や罫書線での内部フィルムの腐食状況とから評価を行った。
【0254】
試料は腐食防止コポリマーを添加していない比較試料と比較して評価した。
【0255】
スチール板の腐食阻害効果の試験は、さらに、DIN50021に準じた塩水噴霧試験でも行った。
【0256】
アルミニウム板は、エタン酸塩水噴霧試験ESS (DIN 50021、Jun 88)にかけた。腐食暴露の終了後、パネルを肉眼で評価した。この場合、塗膜面全体の上に発生する円形膜の剥離により評価を行った。
【0257】
すべての試験において、塗装膜に刻み線を入れた。スチール板の場合、この刻み線は亜鉛層を通過してスチール層にまで達している。
【0258】
試料の評価には、次の基準を用いた。
0 ブランク試料と同等の腐食による損傷
+ ブランク試料より腐食損傷が少ない
++ ブランク試料と較べて腐食損傷が大幅に少ない
− ブランク試料より腐食損傷が多い
【0259】
試験結果を、模式的に表2〜表4に示す。
【0260】
塗装膜の機械的な試験
機械的な試験は、上述の塗装スチール板を用いて行った。
【0261】
T−曲げ試験:
DIN−EN13523−7に記載の方法。この試験方法は、金属性基板上に形成された有機塗膜を特定の半径で曲げた場合、破損に対する抵抗を求めるものである。
【0262】
この試験は室温で実施される。このために塗装金属板から試験片を切り出す。この試験片を、試験法に記載の方法により塗布面を外側にして段階的に曲げて、下に図示するような螺旋を形成する。
【0263】
【表4】

【0264】
次いで、このシートを、何度も曲げる。曲げ操作が増えるごとに曲げ半径は減少する。いずれの場合においても、曲げ直後に変曲店での割れを評価する。
【0265】
得られる結果は、割れが見えなくなる金属板の最小曲げ半径Rとなる。この結果は、Tで表され、いずれの場合においても、0.5Tまたは1Tまで切り上げる。Tの測定値は次の関係で表される。
【0266】
T=r/d
r=曲げ半径(内部)(cm)
d=板厚(cm)
【0267】
T値が小さいほど、塗装剤の曲げ抵抗がよい。
【0268】
曲げによる塗膜の接着(T−テープ試験):
DIN−EN13523−7に記載の方法。この試験方法は、室温における(20℃)、曲げ応力下での塗装剤の接着性を求めるものである。この目的のために、上述のように試験板を段階的にまげて螺旋とする。
【0269】
曲げの直後の個々の変曲点に、特定の結合強度を持つ透明な粘着テープ(25mm巾、接着強度:(10±1)N/25mm幅、IEC60454−2:1994、例えばテサ(登録商標)4104)を貼り付ける。
【0270】
その後、その粘着テープを取り除き、金属表面を観察して、この粘着テープが表面から塗装剤を取り去ったか確認する。この結果は、塗装剤が粘着テープ試験により除かれない金属板の最小曲げ半径として報告される。この結果はTで表され、いずれの場合においても0.5Tまたは1Tに切り上げる。T測定値は、上述の関係を持つ。
【0271】
T−テープ値が小さいほど、塗装剤の曲げに対する接着強度が大きくなる
【0272】
MEK試験:
EN−ISO13523−11に記載の方法。この方法は、溶媒への暴露による塗装膜架橋度の変化を見る。
【0273】
メチルエチルケトンで濡れた綿を用いて、特定の重量負荷下で、塗装膜をこする。上下に何度も擦った場合に、塗装膜に最初の損傷が認められる回数をMEK値として報告した。
【0274】
機械的試験の結果を表2〜表4に示す。
【0275】
【表5】

【0276】
【表6】

【0277】
【表7】

【0278】
これらの例は、本発明で使用するコポリマーを用いて、腐食防止及び/又は塗装膜の機械的性質を大きく改善することができることを示している。いずれの場合においても、その程度は、選ばれる金属表面と選ばれる塗膜系による。
【0279】
水系ポリウレタン塗装剤(表2参照)の場合、特に板を曲げた際の塗装剤の機械的性質に大きな改善が表れている。この塗装剤の割れ抵抗性(T−曲げ)や特に接着性(T−テープ)は、本発明において用いられるポリマーにより大きく増加する(いずれの場合も、小さな値が好ましい)。
【0280】
ポリビニルイミダゾール単独では(比較例2)、塗装剤の機械的性質が低下する。この腐食制御性能は一般的には増加し、特に亜鉛メッキスチールで著しい。
【0281】
水系アクリレート塗装剤の場合、腐食制御性能の改善が、特にアルミニウム上で著しい。このポリマーは、また接着性についても、少し改善効果を持っている。
【0282】
エポキシ塗装剤の場合、実質的に機械的性質に変化はない。
【0283】
スチール上では、大きな腐食防止の改善が達成される。
【0284】
II−2:大気腐食制御
性能試験には、市販の塗料用水系スチレン−アクリレート分散液(アクロナール(登録商標)オプティバ410、BASF社)を用いた腐食防止製剤を使用した。用いた分散液は次の性質を有している。
【0285】
【表8】

【0286】
本発明の配合物は、3重量%の各々のコポリマーを、上記のスチレン−アクリレート分散(分散液の固形分に対する固体コポリマーとして計算)に添加して調整した。これには、上記のブチルグリコールを含むコポリマー溶液を使用した。
【0287】
比較のために、ポリマー製腐食防止剤を添加しない試料も調整した。
【0288】
腐食防止プライマー用の推奨処方
このようにして得られる腐食防止ポリマーを含むスチレン−アクリレートコポリマー水分散液と、含まない同水分散液を用いて、次の処方により、配合物を製造した。
393.4gの各水系ポリマー分散液を、2.2gの市販の塗装剤用脱泡剤(ポリシロキサンと疎水性固体を含むポリグリコール混合物; BYK(登録商標)022、ビック)と混合する。その後、0.6gのアニオン性分散剤(脂肪アルコールアルコキシ化物の酸性燐酸エステル; ルテンシット(登録商標)A−EP、BASF社)と11.0gの濃アンモニアと58.6gの水の混合物を、ディスパーマットを用いて添加する。撹拌下でさらに7.2gのフェノキシプロパノール(フィルム成形助剤)と7.2gのベンジン180〜210℃ (フィルム成形助剤)の混合物を添加する。
【0289】
次いでさらに、85.0gのヘマタイト顔料(ベイフェロックス(登録商標)130M、ランクセス)、82.1gのリン酸亜鉛系の耐食性顔料(ホイコホス(登録商標)ZPZ、変性リン酸亜鉛、ホイバッハ)、36.0gの珪酸マグネシウム(充填材;タルク20M2、ルゼナック)と127.8gの硫酸バリウムと硫化亜鉛系の充填材(30重量%ZnS)(リトポン(登録商標)L)を添加する。全体の混合物を、ガラスビーズ(φ3mm)で少なくとも30分間、分散させる。
その後、攪拌を続け、さらに166.4gのポリマー分散液と、1.9gのBYK(登録商標)022と、3.7gの水と市販の腐食防止剤の1:1混合物(腐食防止剤L1、エルブスロー)を添加し、濾過してガラスビーズを除く。
【0290】
最後に、この混合物を、さらに3.7gの25%濃度の市販のウレタン系の増粘剤溶液(コラクラルPU85、BASF社)と13.2gのブチルグリコール(溶媒)の混合物と混合し、適当なら、pHを濃アンモニアを用いておよそ9.5に調整する。この結果、固形物含量が61%で顔料/体積濃度(PVC)が23%の腐食防止プライマーを1000gの量で得る。
【0291】
配合物のスチール板への塗布と塩水噴霧試験の準備
試験するプライマーは、完全脱イオン化水で 所望の粘度(300〜1000mPas (ICIロトシンナースフェア)に希釈してから、角柱型のドクターブレードを用いて、洗浄後の非亜鉛メッキスチール板(200X80X0.9mm)に塗布した。乾燥膜厚が60〜85μmとなるように、スロットの寸法を調整する。
【0292】
6日間乾燥し、50℃で一日熱順化後に、試験パネルの裏面を腐食防止のために溶媒系塗膜材料で塗装しその端面をセロファンフィルムテープで覆った。
【0293】
最後に、この金属試験板の試験のプライマーが塗装された辺りに刻印器を用いて基板に達する刻み線を入れた。
【0294】
塩水噴霧試験/評価
DIN−EN−ISO7253に準じて、試料を用いて、塩水噴霧試験を行った(試験所要時間:240時間)。
【0295】
試験試料とISO7253に規定する標準とを比較して、肉眼で評価を行った。
【0296】
腐食挙動の評価
表面腐食
金属試験板の全表面積中の腐食表面積の比率[%]
【0297】
クロスカット(DIN−EN−ISO2409)
クロスカット試験は、塗膜の基板への接着性を決めるのに使用される。この目的のために、塩水噴霧試験後に塗膜に、多数の切り目からなる格子状切れ目(線間隔:2mm)をいれ、この格子に粘着テープを貼り付け、粘着テープを剥がした。粘着テープを剥がした後の格子の外観より評価を行った。次に示すように、0〜5の評点をつけた。
【0298】
Gt0:刻み線の縁が完全に平滑で、格子中の四角い塗膜の剥離はない
GT1:塗膜が刻み線の縁で剥離するが、剥離面積は、実質的にクロスカット面積の15%以下である。
GT2:剥離格子面積が15%より大きく、実質的に35%より大きい
GT3:塗膜の刻み線の縁に沿って、部分的にまたは完全に大きな幅の帯状の剥離が見られるか、四角い塗膜がいくつか、部分的にあるいは完全に剥離する、
GT4:影響を受けるクロスカット面積が実質的に65%を超える
GT5:GT4より悪いと判断される剥離
【0299】
試験結果を表5に示す。ブランク試料のポリマー4、6、7を用いた塗装剤の試料表面の写真を図3に示す。
【0300】
表5及び図3のデータより、ポリマー性腐食防止剤を使用しない試料と比較して、本発明において用いられるコポリマー(ポリマー4、6、 7)により、腐食がかなりの抑えられることがわかる。腐食防止剤を含まない比較試料では表面の50〜80%が腐食を受けるが、本発明の例では、その値が、表面の10〜20%であるに過ぎない。
【0301】
【表9】

【図面の簡単な説明】
【0302】
【図1】従来技術の二段前処理による塗装金属コイルの断面を示す図である。
【図2】本発明の一体的合前処理による塗装金属コイルの断面を示す図である。
【図3】ブランク試料のポリマー4、6、7を用いた塗装剤の試料表面の写真を図3に示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、硬化性及び/又は架橋性のバインダー系(A)と、
微分散した充填材、顔料または染料の群から選ばれる成分(B)と、
ポリマー性の腐食防止剤(C)とを含み、
該ポリマー性の腐食防止剤が次のモノマーの構成単位から合成されるコポリマー(C)である配合物を用いて、金属表面を処理することを特徴とする、金属表面に腐食制御塗膜を形成する方法:
(C1)20〜70重量%の少なくとも一種の、窒素原子を1から3個有する5員または6員環の芳香族窒素複素環を含む一エチレン性不飽和モノマー、
(C2)10〜50重量%の少なくとも一種の、少なくとも一種の酸基を含む一エチレン性不飽和モノマー、
(C3)10〜50重量%の少なくとも一種の、一エチレン性不飽和芳香族炭化水素、及び
(C4)必要に応じて、 0〜25重量%の他の、非−(C1〜C3)エチレン性不飽和モノマー
(ただし、いずれの場合においても、この量は、コポリマー中の全モノマー構成単位の総量に対する値である)。
【請求項2】
モノマー(C1)がN−ビニル−イミダゾールを含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
モノマー(C3)がスチレンを含む請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
モノマー(C2)の酸基が、カルボキシル基とリン酸基、ホスホン酸基、スルホン酸基から選ばれる少なくとも一種の基である請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記酸基が、完全にあるいは部分的に中和されている請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
モノマー(C1)の量が25〜65%であり、モノマー(C2)の量が15%〜45%であり、モノマー(C3)の量が15%〜45重量%である請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
少なくとも一種のモノマー(C4)が0.1〜25重量%の量で存在する請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
モノマー(C4)が、OH基を有する一エチレン性不飽和モノマーを含む請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記金属表面がスチール、亜鉛、亜鉛合金、アルミニウムまたはアルミ合金の表面である請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
厚みが1〜25μmの一体的前処理層を形成する方法を含む請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法であって、少なくとも以下の工程を含む方法:
(1’)架橋性の配合物を金属表面に形成する工程であり、該配合物が少なくとも以下のものを含む:
(A)20〜70重量%の少なくとも一種の、熱的及び/又は光化学的に架橋性のバインダー系(A’)、
(B)20〜70重量%の少なくとも一種の、無機の平均粒度が10μm未満の微分散した充填材(B’)、
(C)0.25%〜40重量%の前記コポリマー(C)、及び
(D)必要に応じて溶媒(D’)、
(ただし、重量百分率は、溶媒を除く全成分の総量に対するものである);及び
(2’)形成された層を熱的及び/又は光化学的に架橋する工程。
【請求項11】
モノマー(C2)の酸基がリン酸基及び/又はホスホン酸基である請求項10に記載の方法。
【請求項12】
モノマー(C2)がビニルホスホン酸を含む請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記金属表面が電解亜鉛メッキまたは熱浸漬亜鉛メッキされたスチールの表面である請求項10〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記金属表面がコイル金属の表面であり、前記一体的前処理層が連続的なプロセスで形成される請求項10〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
塗膜が圧延、噴霧または浸漬法により形成される請求項に記載の方法。
【請求項16】
前記配合物で塗膜が形成される前に、前記金属表面が更なる洗浄工程(0)により洗浄される請求項10〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記架橋が熱的に行われ、ポリエステル類(A1’)、エポキシ樹脂(A2’)、ポリウレタン(A3’)またはポリアクリレート(A4’)からなる群から選ばれるバインダー系と少なくとも一種の他の架橋剤とが用いられる請求項10〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記架橋剤がブロック化イソシアネートまたは反応性のメラミン樹脂である請求項17に記載の方法。
【請求項19】
架橋が100℃〜250℃の温度で行われる請求項17または18に記載の方法。
【請求項20】
一体的前処理層の厚みが3〜15μmである請求項10〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
請求項10〜19のいずれか一項に記載の方法により得られる、厚みが1〜25μmである一体的前処理層で被覆された金属表面を持つことを特徴とする成形物。
【請求項22】
前記金属表面が、スチール、亜鉛、亜鉛合金、アルミニウムまたはアルミ合金である
請求項21に記載の成形物。
【請求項23】
一体的前処理層が、さらに一種以上の塗装膜で覆われている請求項22に記載の成形物。
【請求項24】
前記成形物が自動車ボディーまたは車体構造部品である請求項23に記載の成形物。
【請求項25】
前記成形物がパネル用の構造部品である請求項23に記載の成形物。
【請求項26】
大気腐食を防止する方法であり、厚みが少なくとも15μmである腐食制御塗膜を形成する請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法であって、少なくとも次の工程を含む方法:
(1”)大気条件下で硬化性を示す配合物を、光沢のあるまたは前塗装された金属表面に形成し、
該配合物が、少なくとも以下のものを含む工程:
(A)15〜70重量%少なくとも一種の大気条件下で硬化性を示すバインダー系(A”)、
(B)1〜70重量%の少なくとも一種の微分散した充填材、顔料または染料の群から選ばれる成分(B”)
(C)0.1%〜40重量%の前記コポリマー(C)、及び
(D)5〜83.9重量%の溶媒(D”)、
(ただし、この量は、いずれの場合においても配合物の全成分の総量に対するものである)、及び
(2”)形成された層を大気条件下で硬化させる工程。
【請求項27】
モノマー(C2)の酸基がカルボキシル基及び/又はスルホン酸基である請求項26に記載の方法。
【請求項28】
モノマー(C2)がイタコン酸を含む請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記バインダー系が、水系またはほとんど水系の、ポリアクリレート及び/又はスチレン−アクリレートコポリマー(A1”)分散液、スチレンアルカジエンポリマー類(A2”)分散液、ポリウレタン(A3”)分散液またはアルキッド樹脂(A4”)分散液の群から選ばれる少なくとも一種である請求項26〜28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記表面が金属構造物または金属建築物の表面である請求項26〜29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記表面が、橋、電柱、タンク、容器、化学プラント、建物、屋根、パイプ、カップリング、フランジ、船、クレーン、ポストまたは隔壁の表面である請求項30に記載の方法。
【請求項32】
硬化塗膜の厚みが少なくとも25μmである請求項26〜31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
少なくとも三種の異なるモノマー単位を含むコポリマーであって、次のモノマーの構成単位から合成されることを特徴とするコポリマー:
(C1)20〜70重量%の少なくとも一種の、窒素原子を1から3個有する5員または6員環の芳香族窒素複素環を含む一エチレン性不飽和モノマー、
(C2)10〜50重量%の少なくとも一種の、少なくとも一種の酸基を有する一エチレン性不飽和モノマー、
(C3)10〜50重量%の少なくとも一種の、一エチレン性不飽和芳香族炭化水素、及び
(C4)必要に応じて、 0〜25重量%の他の、非−(C1〜C3)エチレン性不飽和モノマー、
(ただし、この量は、いずれの場合においてもコポリマー中の全モノマー構成単位の総量に対する値である)。
【請求項34】
モノマー(C1)がN−ビニル−イミダゾールを含む請求項33に記載のコポリマー。
【請求項35】
モノマー(C3)がスチレンを含む請求項33または34に記載のコポリマー。
【請求項36】
モノマー(C2)の酸基が、カルボキシル基、リン酸基、ホスホン酸基、およびスルホン酸基の群から選ばれる少なくとも一種の基である請求項33〜35のいずれか一項に記載のコポリマー。
【請求項37】
モノマー(C2)の酸基がリン酸基及び/又はホスホン酸基である請求項36に記載のコポリマー。
【請求項38】
モノマー(C2)がビニルホスホン酸を含む請求項37に記載のコポリマー。
【請求項39】
モノマー(C2)の酸基がカルボキシル基及び/又はスルホン酸基である請求項36に記載のコポリマー。
【請求項40】
モノマー(C2)がイタコン酸を含む請求項39に記載のコポリマー。
【請求項41】
前記酸基が完全あるいは部分的に中和されている請求項33〜40のいずれか一項に記載のコポリマー。
【請求項42】
モノマー(C1)の量が25〜65%であり、モノマー(C2)の量が15%〜45%であり、モノマー(C3)の量が15%〜45重量%である請求項33〜41のいずれか一項に記載のコポリマー。
【請求項43】
少なくとも一種のモノマー(C4)が0.1〜25重量%の量で存在する請求項33〜42のいずれか一項に記載のコポリマー。
【請求項44】
モノマー(C4)がOH基を有する一エチレン性不飽和モノマーを含む請求項43に記載のコポリマー。
【請求項45】
少なくとも一種の硬化性または架橋性のバインダー系(A)と微分散した充填材、顔料または染料の群から選ばれる成分(B)とポリマー性の腐食防止剤(C)とを含み、該腐食防止剤が請求項33〜44のいずれか一項に記載のコポリマーであることを特徴とする金属表面に腐食制御塗膜を形成するための配合物。
【請求項46】
少なくとも次の成分を含む請求項45に記載の一体的前処理層形成用の配合物:
(A)20〜70重量%の少なくとも一種の、熱的及び/又は光化学的に架橋する
バインダー系(A’)、
(B)20〜70重量%の少なくとも一種の、平均粒度が10μm未満の無機の微分散した充填材(B’)、
(C)0.25%〜40重量%の前記コポリマー(C)、及び
(D)必要に応じて溶媒、
(ただし、重量百分率は溶媒を除く全成分の総量に対するものである)。
【請求項47】
金属表面に腐食制御塗膜を形成するためのまたは大気腐食制御用の配合物であって、少なくとも次の成分を含むことを特徴とする配合物:
(A)15〜70重量%の少なくとも一種の、大気条件下で硬化性を示すバインダー系(A”)、
(B)1〜70重量%の少なくとも一種の、微分散した充填材、顔料または染料の群から選ばれる成分(B”)、
(C)0.1%〜40重量%の前記コポリマー(C)、及び
(D)5〜83.9重量%の少なくとも一種の溶媒(D”)、
(ただし、これらの量は、いずれの場合においても、配合物の全成分の総量に対するものである)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−534540(P2009−534540A)
【公表日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−507034(P2009−507034)
【出願日】平成19年4月18日(2007.4.18)
【国際出願番号】PCT/EP2007/053757
【国際公開番号】WO2007/125038
【国際公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】