説明

金属表面用コート材および発光装置、並びに金属表面保護方法

【課題】 透明性および硫黄バリア性に優れる保護膜を形成することのできる金属表面用コート材および金属表面保護方法、高輝度化および長寿命化が図られた発光装置の提供。
【解決手段】 金属表面用コート材は、式:Si(OR2 4 で表されるオルガノシラン、これの加水分解物およびこれの縮合物からなる群から選択される少なくとも1種のシラン化合物(a1)と、ビニルアルコール由来の構成単位を含有する重合体(a2)とを含有することを特徴とする。〔ただし、式中、R2 は、それぞれ独立に、炭素数1〜5のアルキル基または炭素数1〜6のアシル基を示す。〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属表面用コート材およびこれを適用した発光装置、並びに金属表面保護方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属は、導電性を有することや、光沢を有することなどにより、日用品から電子部品に至るまで様々な部材として用いられている。例えばLEDにおいては電極として銀メッキしたものが使用されており、その反射率の高さから反射板としての機能も果たしているため、LEDの高輝度化や長寿命化に対する銀メッキ部の役割は大きい。
【0003】
ところが、金属は空気中に微量含まれる硫黄や塩素によって変色・黒色化し光沢が失われて反射率が低下するという欠点があり、LEDにおいても銀メッキ部の変色・黒色化を抑制することが課題として挙げられており、例えば特許文献1には、金属電極の表面に保護膜を設けたものが開示されている。一方、LEDの封止材としてエポキシ樹脂系の封止材が知られているが、この封止材は硫黄バリア性に優れるものの硫黄存在下で高温に曝された場合にエポキシ樹脂自体が変色してしまう、という問題がある。また、シリコーン系の封止材は耐久性に優れ変色がほとんど生じないが、ガス透過性が高いことが指摘されている(例えば、特許文献2)。ガス透過性が高いと、硫黄雰囲気下に曝された場合に銀メッキ部が黒色化してしまう、という問題がある。
【0004】
【特許文献1】特開2007−109915号公報
【特許文献2】特開2004−2783号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上のような事情を考慮してなされたものであって、その目的は、透明性および硫黄バリア性に優れ、かつ、LEDに適用された場合に当該LEDの使用において十分な耐久性を有する保護膜を形成することのできる金属表面用コート材および当該金属表面用コート材を用いた金属表面保護方法を提供することにある。
本発明の別の目的は、高輝度化および長寿命化が図られた発光装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記問題点を解決すべく鋭意研究した結果、特定のシラン化合物とビニルアルコール由来の構成単位を含有する重合体とを混合して得られる金属表面用コート材が硫黄バリア性に優れて当該金属表面用コート材によって保護した金属表面が硫黄雰囲気下に曝されても変色・黒色化しないことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明の金属表面用コート材は、
一般式(1):Si(OR2 4
〔一般式(1)中、R2 は、それぞれ独立に、炭素数1〜5のアルキル基または炭素数1〜6のアシル基を示す。〕
で表されるオルガノシラン、当該オルガノシランの加水分解物および当該オルガノシランの縮合物からなる群から選択される少なくとも1種のシラン化合物(a1)と、ビニルアルコール由来の構成単位を含有する重合体(a2)とを含有することを特徴とする。
【0008】
本発明の金属表面用コート材においては、前記シラン化合物(a1)と前記ビニルアルコール由来の構成単位を含有する重合体(a2)とを、シラン化合物(a1)の完全加水分解縮合物換算の含有量(Wa1)とビニルアルコール由来の構成単位を含有する重合体(a2)の固形分換算の含有量(Wa2)との質量比(Wa1/Wa2)が10/90〜70/30の範囲で含有することが好ましい。
【0009】
以上の金属表面用コート材は、銀メッキ部材の表面または銀電極の表面に適用することができる。
【0010】
本発明の発光装置は、上記の金属表面用コート材により表面をコートされた銀メッキ部材および/または銀電極を有することを特徴とする。
【0011】
本発明の金属表面保護方法は、金属表面に上記の金属表面用コート材を塗布して保護膜を形成することにより、前記金属表面を保護することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の金属表面用コート材によれば、これが硫黄バリア性に優れるものであるため、優れた透明性および硫黄バリア性を有する保護膜を形成することができる。
【0013】
また、本発明の発光装置によれば、その内部の銀メッキ部材および/または銀電極の表面が上記の金属表面用コート材によってコーティングされて保護膜が形成されているために、硫黄雰囲気下に曝された場合にも当該銀メッキ部材および/または銀電極の変色・黒色化が抑制され、その結果、高輝度化および長寿命化が図られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0015】
本発明の金属表面用コート材は、後記に詳述する特定シラン化合物(a1)と、ビニルアルコール由来の構成単位を含有する重合体(以下、「ビニルアルコール由来重合体」ともいう。)(a2)とを含有するものである。
【0016】
〔特定シラン化合物(a1)〕
本発明に用いられる特定シラン化合物(a1)は、下記一般式(1)で表されるオルガノシラン(以下、「オルガノシラン(1)」ともいう。)、オルガノシラン(1)の加水分解物およびオルガノシラン(1)の縮合物からなる群から選択される少なくとも1種のシラン化合物であって、これら3種のシラン化合物のうち、1種のシラン化合物だけを用いてもよく、任意の2種のシラン化合物を混合して用いてもよく、または3種すべてのシラン化合物を混合して用いてもよい。また、特定シラン化合物(a1)としてオルガノシラン(1)を使用する場合、オルガノシラン(1)は1種単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。また、上記オルガノシラン(1)の加水分解物および縮合物は、1種のオルガノシラン(1)から形成されたものであってもよく、2種以上のオルガノシラン(1)から形成されたものであってもよい。
【0017】
一般式(1):Si(OR2 4
〔一般式(1)中、R2 は、それぞれ独立に、炭素数1〜5のアルキル基または炭素数1〜6のアシル基を示す。〕
【0018】
オルガノシラン(1)の加水分解物は、オルガノシラン(1)に4個含まれるOR2 基のうちの少なくとも1個が加水分解されたものであればよく、例えば、1個のOR2 基が加水分解されたもの、2個以上のOR2 基が加水分解されたもの、あるいはこれらの混合物であってもよい。
【0019】
また、オルガノシラン(1)の縮合物は、オルガノシラン(1)が加水分解して生成する加水分解物中のシラノール基が縮合してSi−O−Si結合が形成されたものである。本発明においては、シラノール基がすべて縮合している必要はなく、前記縮合物は、僅かな一部のシラノール基が縮合したもの、大部分(全部を含む)のシラノール基が縮合したもの、さらにはこれらの混合物などをも包含する。
【0020】
上記一般式(1)において、R2 は、それぞれ独立に、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数1〜6のアシル基、またはフェニル基であり、炭素数が1〜5個のアルキル基である基R2 としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基などを挙げることができ、炭素数1〜6のアシル基である基R2 としては、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、バレリル基、カプロイル基などが挙げられる。一般式(1)中にR2 が複数個存在する場合には、互いに同じであっても異なっていてもよい。
【0021】
上記一般式(1)で表されるオルガノシラン(1)としては、具体的には、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラ−i−プロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシランなどのテトラアルコキシシラン類や、テトラアセチルオキシシラン、テトラフェノキシシランなどを挙げることができる。これらのうち、テトラアルコキシシラン類が好ましく、より好ましくはテトラメトキシシラン、テトラエトキシシランである。これらのオルガノシラン(1)は、単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0022】
本発明に用いられる特定シラン化合物(a1)は、オルガノシラン(1)、オルガノシラン(1)の加水分解物およびオルガノシラン(1)の縮合物からなる群から選択される少なくとも1種のシラン化合物に、下記一般式(1’)で表されるオルガノシラン(以下、「オルガノシラン(2)」ともいう。)、オルガノシラン(2)の加水分解物およびオルガノシラン(2)の縮合物からなる群から選択される少なくとも1種のシラン化合物を加えたものとすることもできる。
これら3種のシラン化合物のうち、1種のシラン化合物だけを用いてもよく、任意の2種のシラン化合物を混合して用いてもよく、または3種すべてのシラン化合物を混合して用いてもよい。また、特定シラン化合物(a1)としてオルガノシラン(2)を併用する場合、オルガノシラン(2)は1種単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。また、上記オルガノシラン(2)の加水分解物および縮合物は、1種のオルガノシラン(2)から形成されたものであってもよく、2種以上のオルガノシラン(2)から形成されたものであってもよい。
【0023】
一般式(1’):R1nSi(OR2 4-n
〔一般式(1’)中、nは1または2であり、R1 は、炭素数1〜8の1価の有機基を示し、n=2である場合には互いに同じであっても異なっていてもよい。R2 は、それぞれ独立に、炭素数1〜5のアルキル基または炭素数1〜6のアシル基を示す。〕
【0024】
オルガノシラン(2)の加水分解物は、オルガノシラン(2)に2または3個含まれるOR2 基のうちの少なくとも1個が加水分解されたものであればよく、例えば、1個のOR2 基が加水分解されたもの、2個のOR2 基が加水分解されたもの、あるいはこれらの混合物であってもよい。
【0025】
また、オルガノシラン(2)の縮合物は、オルガノシラン(2)が加水分解して生成する加水分解物中のシラノール基が縮合してSi−O−Si結合が形成されたものである。本発明においては、シラノール基がすべて縮合している必要はなく、前記縮合物は、僅かな一部のシラノール基が縮合したもの、大部分(全部を含む)のシラノール基が縮合したもの、さらにはこれらの混合物などをも包含する。
【0026】
上記一般式(1’)において、R1 は炭素数1〜8個の1価の有機基であり、具体的には、R1 基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基などのアルキル基や、γ−クロロプロピル基、ビニル基、3,3,3−トリフロロプロピル基、γ−グリシドキシプロピル基、γ−メタクリルオキシプロピル基、γ−メルカプトプロピル基、フェニル基、3,4−エポキシシクロヘキシルエチル基などが挙げられる。
【0027】
さらに、R1 基としては、上記の有機基の置換誘導体なども挙げられる。R1 基の置換誘導体の置換基としては、例えば、ハロゲン原子、置換もしくは非置換のアミノ基、水酸基、メルカプト基、イソシアネート基、グリシドキシ基、3,4−エポキシシクロヘキシル基、(メタ)アクリルオキシ基、ウレイド基、アンモニウム塩基などが挙げられる。ただし、これらの置換誘導体からなるR1 基の炭素数は、置換基中の炭素原子を含めて8個以下であることが好ましい。
一般式(1’)中にR1 が2個存在する場合には、互いに同じであっても異なっていてもよい。
【0028】
上記一般式(1’)において、R2 は、それぞれ独立に、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数1〜6のアシル基、またはフェニル基であり、炭素数が1〜5個のアルキル基である基R2 としては、上記の一般式(1)における基R2 と同じものを挙げることができる。一般式(1’)中にR2 が複数個存在する場合には、互いに同じであっても異なっていてもよい。
【0029】
上記一般式(1’)において、nは1または2である。nが3以上であるシラン化合物を用いた場合は、当該シラン化合物が極めて疎水性の強いものであるため、後述するビニルアルコール由来重合体(a2)との間に水素結合によるネットワークを形成することができず、金属表面用コート材を得ることができない。
【0030】
上記一般式(1’)で表されるオルガノシラン(2)のうち、n=1のオルガノシラン(2)としては、具体例には、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、i−プロピルトリメトキシシラン、i−プロピルトリエトキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン、n−ブチルトリエトキシシラン、n−ペンチルトリメトキシシラン、n−ペンチルトリエトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリルオキシプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、3−トリフロロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフロロプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、2−ヒドロキシエチルトリメトキシシラン、2−ヒドロキシエチルトリエトキシシラン、2−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、2−ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン、3−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、3−ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアナートプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアナートプロピルトリエトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシランなどのトリアルコキシシラン類や、メチルトリアセチルオキシシラン、メチルトリフェノキシシランなどを挙げることができる。これらのn=1であるオルガノシラン(2)は、単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0031】
また、上記一般式(1’)で表されるオルガノシラン(2)のうち、n=2のオルガノシラン(2)としては、具体例には、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジ−n−プロピルジメトキシシラン、ジ−n−プロピルジエトキシシラン、ジ−i−プロピルジメトキシシラン、ジ−i−プロピルジエトキシシラン、ジ−n−ブチルジメトキシシラン、ジ−n−ブチルジエトキシシラン、ジ−n−ペンチルジメトキシシラン、ジ−n−ペンチルジエトキシシラン、ジ−n−ヘキシルジメトキシシラン、ジ−n−ヘキシルジエトキシシラン、ジ−n−ヘプチルジメトキシシラン、ジ−n−ヘプチルジエトキシシラン、ジ−n−オクチルジメトキシシラン、ジ−n−オクチルジエトキシシラン、ジ−n−シクロヘキシルジメトキシシラン、ジ−n−シクロヘキシルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシランなどのジアルコキシシラン類や、ジメチルジアセチルオキシシランなどが挙げられる。これらのn=2であるオルガノシラン(2)は、単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0032】
特定シラン化合物(a1)としてオルガノシラン(1)の縮合物を使用する場合は、当該オルガノシラン(1)の縮合物は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)により測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が300〜100,000であることが好ましく、より好ましくは500〜50,000である。
【0033】
また、特定シラン化合物(a1)としてオルガノシラン(1)の縮合物を使用する場合は、上記オルガノシラン(1)から調製してもよく、市販されているオルガノシランの縮合物を用いてもよい。市販されているオルガノシランの縮合物としては、三菱化学(株)製のMKCシリケート、コルコート社製のエチルシリケート、東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製のシリコーンレジン、GE東芝シリコーン(株)製のシリコーンレジン、信越化学工業(株)製のシリコーンレジンやシリコーンオリゴマー、ダウコーニング・アジア(株)製のヒドロキシル基含有ポリジメチルシロキサン、日本ユニカー(株)製のシリコーンオリゴマーなどが挙げられる。これらの市販されているオルガノシランの縮合物は、そのまま用いてもよく、さらに縮合させて使用してもよい。
【0034】
〔ビニルアルコール由来重合体(a2)〕
本発明に用いられるビニルアルコール由来重合体(a2)は、ビニルアルコール由来の構成単位を含有する重合体よりなるものである。
ビニルアルコール由来重合体(a2)は、具体的には、主鎖骨格がポリビニルアルコール、またはエチレン・ビニルアルコール共重合体よりなるものをいう。
【0035】
このビニルアルコール由来重合体(a2)は、その構成単位中に加水分解性基および/または水酸基が結合したケイ素原子を含有するシリル基(以下、「特定のシリル基」という。)を有するものであってもよい。
特定のシリル基は、ビニルアルコール由来重合体(a2)の分子鎖の末端および/または側鎖に存在することが好ましい。
【0036】
特定のシリル基を有するビニルアルコール由来重合体(a2)を含有する金属表面用コート材は、特定のシリル基中の加水分解性基および/または水酸基が特定シラン化合物(a1)と加水分解・縮合反応した状態とされており、このために当該金属表面用コート材によれば均一性の高い保護膜を得ることができる。
【0037】
ビニルアルコール由来重合体(a2)が特定のシリル基を有するものである場合、このビニルアルコール由来重合体(a2)における特定のシリル基の含有量は、このビニルアルコール由来重合体(a2)におけるケイ素原子の含有量が2質量%以下となる量であることが好ましく、より好ましくは0.3〜1質量%となる量である。
ビニルアルコール由来重合体(a2)における特定のシリル基の含有量が2質量%を超える場合は、得られる金属表面用コート材が保管時にゲル化してしまうおそれがある。
【0038】
このような特定のシリル基は、下記一般式(2)で表される基であることが好ましい。
【化1】


〔一般式(2)中、Xはハロゲン原子、アルコキシル基、アセトキシ基、フェノキシ基、チオアルコキシル基、アミノ基などの加水分解性基または水酸基を示し、R3 は水素原子、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数1〜10のアラルキル基を示し、iは1〜3の整数である。〕
【0039】
このような特定のシリル基を有するビニルアルコール由来重合体(a2)は、例えば、下記(1)または(2)の方法により得ることができる。
(1)エチレングリコール、エチレンおよびシリル基含有ビニルモノマーを共重合する方法。
(2)ポリビニルアルコールまたはエチレン・ビニルアルコール共重合体中と、OH基と反応することのできる置換基を有するシランカップリング剤とを反応させる方法。
【0040】
シリル基含有ビニルモノマーとしては、例えば下記一般式(3)で表されるシラン化合物を挙げることができる。
【化2】


〔一般式(3)中、X、R3 、iはそれぞれ上記一般式(2)におけるX,R3 ,iと同義であり、R4 は重合性二重結合を有する有機基を示す。〕
【0041】
シリル基含有ビニルモノマーとしては、具体的には、
CH2 =CHSi(CH3 )(OCH3 2 、CH2 =CHSi(OCH3 3
CH2 =CHSi(CH3 )Cl2 、CH2 =CHSiCl3
CH2 =CHCOO(CH2 2 Si(CH3 )(OCH3 2
CH2 =CHCOO(CH2 2 Si(OCH3 3
CH2 =CHCOO(CH2 3 Si(CH3 )(OCH3 2
CH2 =CHCOO(CH2 3 Si(OCH3 3
CH2 =CHCOO(CH2 2 Si(CH3 )Cl2
CH2 =CHCOO(CH2 2 SiCl3
CH2 =CHCOO(CH2 3 Si(CH3 )Cl2
CH2 =CHCOO(CH2 3 SiCl3
CH2 =C(CH3 )COO(CH2 2 Si(CH3 )(OCH3 2
CH2 =C(CH3 )COO(CH2 2 Si(OCH3 3
CH2 =C(CH3 )COO(CH2 3 Si(CH3 )(OCH3 2
CH2 =C(CH3 )COO(CH2 3 Si(OCH3 3
CH2 =C(CH3 )COO(CH2 2 Si(CH3 )Cl2
CH2 =C(CH3 )COO(CH2 2 SiCl3
CH2 =C(CH3 )COO(CH2 3 Si(CH3 )Cl2
CH2 =C(CH3 )COO(CH2 3 SiCl3
【0042】
CH2 =CHCH2 −O−CO−C6 6 −CO−O−(CH2 2 Si(CH3 )(OCH3 2
CH2 =CHCH2 −O−CO−C6 6 −CO−O−(CH2 3 Si(OCH3 3
CH2 =CHCH2 −O−CO−C6 6 −CO−O−(CH2 2 Si(CH3 )Cl2
CH2 =CHCH2 −O−CO−C6 6 −CO−O−(CH2 3 SiCl3 を挙げることができる。これらは、1種単独であるいは2種以上を併用して用いることができる。
【0043】
特定のシリル基を有するビニルアルコール由来重合体(a2)の製造方法における好ましい重合方法としては、ラジカル重合およびアニオン重合が挙げられる。重合反応において、重合開始剤、分子量調整剤、キレート化剤、無機電解質などは、公知の種々のものを使用することができる。
【0044】
OH基と反応することのできる置換基を有するシランカップリング剤としては、イソシアネート変性したシランカップリング剤やエポキシ変性したシランカップリング剤などが挙げられる。
【0045】
ビニルアルコール由来重合体(a2)の製造方法に用いられるポリビニルアルコールは、一般にポリ酢酸ビニルをケン化して得られるものであり、このポリビニルアルコールは、酢酸基が数十%残存している部分ケン化ポリビニルアルコールであっても、酢酸基が数%以下しか残存していないものであっても、酢酸基が残存しない完全ケン化ポリビニルアルコールであってもよく、特に限定されるものではない。
ポリビニルアルコールの具体例としては、(株)クラレ製の「RSポリマーRS−110」(ケン化度=99%、重合度=1,000)、「クラレポバールLM−20SO」(ケン化度=40%、重合度=2,000)、日本合成化学工業(株)製の「ゴーセノールNM−14」(ケン化度=99%、重合度=1,400)などが挙げられる。
【0046】
また、エチレン・ビニルアルコール共重合体は、エチレン−酢酸ビニル共重合体のケン化物、すなわち、エチレン−酢酸ビニルランダム共重合体をケン化して得られるものであり、酢酸基が数十%残存している部分ケン化ポリビニルアルコールであっても、酢酸基が数%以下しか残存していないものであっても、酢酸基が残存しない完全ケン化ポリビニルアルコールであってもよく、特に限定されるものではない。
エチレン・ビニルアルコール共重合体の具体例としては、(株)クラレ製の「エバールEP−F101」(エチレン含量=32モル%)、日本合成化学工業(株)製の「ソアノールD2908」(エチレン含量=29モル%)などが挙げられる。
【0047】
ビニルアルコール由来重合体(a2)は、GPC法により測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が1,000〜1,000,000であることが好ましく、より好ましくは10,000〜200,000である。
なお、ビニルアルコール由来重合体(a2)が分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))の広いものである場合は、後述する金属酸化物粒子(B)を分散させたときにゲル分または沈降分が得られる傾向が見られ、また、得られる保護膜に高分子量の分子成分が不溶残留物として残るため、分子量分布は狭いほど好ましい。
【0048】
本発明において、ビニルアルコール由来重合体(a2)は、1種を単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0049】
〔金属表面用コート材の調製方法〕
本発明の金属表面用コート材は、特定シラン化合物(a1)とビニルアルコール由来重合体(a2)とを好ましくは硬化触媒の存在下で混合させることにより調製される。特に、ビニルアルコール由来重合体(a2)が特定のシリル基を有するものである場合には、特定シラン化合物(a1)とビニルアルコール由来重合体(a2)との混合物に、加水分解・縮合反応を促進する硬化触媒と水とを添加して共縮合させることにより、調製することが好ましい。
この特定シラン化合物(a1)とビニルアルコール由来重合体(a2)との混合においては、当該特定シラン化合物(a1)とビニルアルコール由来重合体(a2)とのハイブリッド化が生じるものと推測される。
ここに、「ハイブリッド化」とは、特定シラン化合物(a1)とビニルアルコール由来重合体(a2)との間に水素結合が形成されて、または加水分解・縮合反応により共有結合が形成されて特定シラン化合物(a1)とビニルアルコール由来重合体(a2)とが結合されることをいう。
そして、金属表面用コート材が特定のシリル基を含有しないビニルアルコール由来重合体(a2)によるものである場合は、これを金属表面にコーティングすることによって、当該金属表面用コート材が水素結合を介して結合した状態とされることによって、優れた硫黄バリア性が発揮されるものと推測される。
また、金属表面用コート材が特定のシリル基を含有するビニルアルコール由来重合体(a2)によるものである場合は、これを金属表面にコーティングすることによって、当該金属表面用コート材がシロキサン結合を介して強固に結合し、さらには金属表面用コート材に残存する特定のシリル基中の加水分解性基および/または水酸基が金属表面に吸着されることによって、より優れた硫黄バリア性が発揮されるものと推測される。
【0050】
そして、硬化触媒を用いて調製される金属表面用コート材によれば、製膜時に特定シラン化合物(a1)による層(無機層)とビニルアルコール由来重合体(a2)とによる層(有機層)との層分離が生じず、均一性の高い保護膜を得ることができる。この理由としては、ナノサイズにおけるハイブリッド化が促進されるからであると考えられる。
ここに、「ナノサイズにおけるハイブリッド化」とは、ビニルアルコール由来重合体(a2)における各OH基に水素結合が形成されて特定シラン化合物(a1)とハイブリッド化されている状態をいう。
【0051】
金属表面用コート材におけるビニルアルコール由来重合体(a2)と特定シラン化合物(a1)との原料比は、特定シラン化合物(a1)の含有量(Wa1)とビニルアルコール由来重合体(a2)の含有量(Wa2)との質量比で10/90〜70/30であることが好ましく、より好ましくは20/80〜70/30である。
原料比が上記の範囲内にあることにより、透明性や耐候性に優れた保護膜を形成できる金属表面用コート材が得られる。一方、特定シラン化合物(a1)の含有量が過少である場合は、得られる金属表面用コート材による保護膜が金属表面の十分な保護効果を特に高湿度環境下において発揮できずに金属表面が変色・黒色化し、LEDがその使用条件下における十分な耐久性が得られないものとなるおそれがある。特定シラン化合物(a1)の含有量が過多である場合は、得られる金属表面用コート材による保護膜がガス透過性の高いものとなるおそれやクラックが発生するおそれがある。
【0052】
ここに、「特定シラン化合物(a1)の含有量」とは、特定シラン化合物(a1)の完全加水分解縮合物換算質量であり、「ビニルアルコール由来重合体(a2)の含有量」とは、ビニルアルコール由来重合体(a2)の固形分換算質量である。
【0053】
金属表面用コート材は、具体的には下記(1)または(2)の方法により調製することが好ましい。
(1)特定シラン化合物(a1)とビニルアルコール由来重合体(a2)と硬化触媒との混合液に水を加え、温度40〜80℃、反応時間0.5〜12時間で特定シラン化合物(a1)とビニルアルコール由来重合体(a2)とを混合し、必要に応じて、安定性向上剤や相溶性向上剤などの他の添加剤を加えることにより、金属表面用コート材を調製する。
【0054】
(2)特定シラン化合物(a1)に水を加え、温度40〜80℃、時間0.5〜12時間で特定シラン化合物(a1)の加水分解・縮合反応を行い、次いで、ビニルアルコール由来重合体(a2)および硬化触媒を加えて混合し、さらに温度40〜80℃、反応時間0.5〜12時間で混合し、必要に応じて、安定性向上剤などの他の添加剤を加えることにより、金属表面用コート材を調製する。
【0055】
金属表面用コート材は、GPC法により測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が3,000〜200,000であることが好ましく、より好ましくは4,000〜150,000、特に好ましくは5,000〜100,000である。
【0056】
〔硬化触媒〕
本発明においては、特定シラン化合物(a1)およびビニルアルコール由来重合体(a2)のハイブリッド化の促進のために、当該特定シラン化合物(a1)およびビニルアルコール由来重合体(a2)の混合物に硬化触媒を添加することが好ましい。硬化触媒を使用することにより、架橋度の高い金属表面用コート材が得られると共に、オルガノシラン(1)の重縮合反応により生成するポリシロキサンが分子量の大きなものとなり、結果として、強度、長期耐久性などに優れた保護膜を形成することができ、かつ金属表面にコーティングした際の硫黄バリア性も高くなる。さらに、硬化触媒を使用することにより、特定シラン化合物(a1)とビニルアルコール由来重合体(a2)とのハイブリッド化が促進されて金属表面用コート材に十分な反応サイト(アルコキシ基)が形成され、この金属表面用コート材を例えば銀メッキ部の表面にコーティングし硬化させて保護膜を形成すると、シロキサン結合が形成されて架橋度が高い保護膜が形成されて優れた硫黄バリア性が発現されると共に、銀メッキ部の表面に吸着することによって当該銀メッキ部の表面の変色を抑制できると推定される。
【0057】
このような硬化触媒としては、例えば、塩酸などの無機酸;ケイ酸、ナフテン酸、オクチル酸、亜硝酸、亜硫酸、アルミン酸、炭酸などのアルカリ金属塩;水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ性化合物;アルキルチタン酸、リン酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、フタル酸などの酸性化合物;エチレンジアミン、ヘキサンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ピペリジン、ピペラジン、メタフェニレンジアミン、エタノールアミン、トリエチルアミン、エポキシ樹脂の硬化剤として用いられる各種変性アミン;γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アニリノプロピルトリメトキシシランなどのアミン系化合物;(C4 9 2 Sn(OCOC11232 、(C4 9 2 Sn(OCOCH=CHCOOCH3 2 、(C4 9 2 Sn(OCOCH=CHCOOC4 9 2 、(C8 172 Sn(OCOC11232 、(C8 172 Sn(OCOCH=CHCOOCH3 2 、(C8 172 Sn(OCOCH=CHCOOC4 9 2 、(C8 172 Sn(OCOCH=CHCOOC8 172 、Sn(OCOCC8 172 などのカルボン酸型有機スズ化合物;(C4 9 2 Sn(SCH2 COOC8 172 、(C4 9 2 Sn(SCH2 COOC8 172 、(C8 172 Sn(SCH2 COOC8 172 、(C8 172 Sn(SCH2 CH2 COOC8 172 、(C8 172 Sn(SCH2 COOC8 172 、(C8 172 Sn(SCH2 COOC12252 などのスルフィド型有機スズ化合物;(C4 9 2 SnO、(C8 172 SnO、(C4 9 2 SnO、(C8 172 SnOなどの有機スズオキサイドとエチルシリケート;マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、フタル酸ジオクチルなどのエステル化合物との反応生成物などの有機スズ化合物などが挙げられる。
また、硬化触媒として、その表面がシラノール処理されてなるシリカ粒子を用いることもできる。このようなシリカ粒子によれば、その表面のシラノールの固体酸が硬化触媒として作用すると共に、シリカ粒子本体が後述する金属酸化物粒子(B)としての作用を発揮しながら金属表面を冒すことがないため、好ましい。
【0058】
これらの硬化触媒は、亜鉛化合物やその他の反応遅延剤と混合して使用することもできる。
【0059】
硬化触媒の使用量は、特定シラン化合物(a1)およびビニルアルコール由来重合体(a2)による組成物の固形分100質量部に対して、通常0.5〜500質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜30質量部である。
硬化触媒の使用量が過多である場合は、得られる金属表面用コート材が保管時にゲル化が発生するなど保存安定性の低いものとなるおそれがあり、得られる保護膜の架橋度が過度に高くなってクラックが発生することがある。
ここに、「組成物の固形分」とは、特定シラン化合物(a1)の完全加水分解縮合物換算質量とビニルアルコール由来重合体(a2)の固形分換算質量との総量をいう。
【0060】
〔有機溶媒〕
本発明の金属表面用コート材においては、調製時の固形分濃度を調整するために、必要に応じて有機溶媒を添加してもよい。ビニルアルコール由来重合体(a2)の調製時に有機溶媒を使用した場合は当該有機溶媒をそのまま使用することもでき、また、前記有機溶媒を除去し、新たに有機溶媒を添加してもよい。
【0061】
有機溶媒は、得られる金属表面用コート材の溶解性と貯蔵安定性を考慮して、調製時の固形分濃度が1〜10質量%の範囲となる量が添加されることが好ましく、より好ましくは2〜8質量%、特に好ましくは3〜7質量%である。なお、ビニルアルコール由来重合体(a2)の調製時に使用した有機溶媒をそのまま使用して金属表面用コート材の調製時の固形分濃度が上記範囲にある場合には、有機溶媒を添加しても、添加しなくてもよい。
【0062】
金属表面用コート材の調製時の固形分濃度を調整することによって、特定シラン化合物(a1)とビニルアルコール由来重合体(a2)との反応性をコントロールすることができる。
なお、ここで言う固形分濃度における固形分量は、特定シラン化合物(a1)の完全加水分解縮合物換算の使用量(Wa1)とビニルアルコール由来重合体(a2)の固形分換算の使用量(Wa2)の総量である。
【0063】
金属表面用コート材の調製時に上記のように用いられる有機溶媒としては、金属表面用コート材の調製に使用される成分を均一に混合できるものであれば特に限定されないが、例えば、ビニルアルコール由来重合体(a2)の製造に用いられる有機溶媒として例示した、アルコール類、芳香族炭化水素類、エーテル類、ケトン類、エステル類などを挙げることができる。これらの有機溶剤は、1種単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0064】
〔安定性向上剤〕
本発明の金属表面用コート材としては、保存安定性などを向上させるために、必要に応じて下記一般式(6)で表されるβ−ジケトン類、β−ケトエステル類、カルボン酸化合物、ジヒドロキシ化合物、アミン化合物およびオキシアルデヒド化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物よりなる安定性向上剤を添加したものとすることが好ましい。
一般式(6):R10COCH2 COR11
〔一般式(6)中、R10は、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、フェニル基などの炭素数1〜6個の1価の炭化水素基を表し、R11は、前記炭素数1〜6個の1価の炭化水素基、または、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、t−ブトキシ基、ラウリルオキシ基、ステアリルオキシ基などの炭素数1〜16個のアルコキシル基を表す。〕
【0065】
特に、硬化触媒として有機スズ化合物を使用する場合は、上記の安定性向上剤を添加することが好ましい。安定性向上剤を添加することによって、安定性向上剤が有機スズ化合物の金属原子に配位し、この配位が、ビニルアルコール由来重合体(a2)として特定のシリル基を有するものを使用した場合にも、特定シラン化合物(a1)と当該ビニルアルコール由来重合体(a2)との過剰な共縮合反応を抑制するため、得られる金属表面用コート材が極めて高い保存安定性を有するものとなると考えられる。
【0066】
このような安定性向上剤としては、具体的には、例えばアセチルアセトン、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸−n−プロピル、アセト酢酸−i−プロピル、アセト酢酸−n−ブチル、アセト酢酸−sec−ブチル、アセト酢酸−t−ブチル、ヘキサン−2,4−ジオン、ヘプタン−2,4−ジオン、ヘプタン−3,5−ジオン、オクタン−2,4−ジオン、ノナン−2,4−ジオン、5−メチルヘキサン−2,4−ジオン、マロン酸、シュウ酸、フタル酸、グリコール酸、サリチル酸、アミノ酢酸、イミノ酢酸、エチレンジアミン四酢酸、グリコール、カテコール、エチレンジアミン、2,2−ビピリジン、1,10−フェナントロリン、ジエチレントリアミン、2−エタノールアミン、ジメチルグリオキシム、ジチゾン、メチオニン、サリチルアルデヒドなどが挙げられる。これらのうち、アセチルアセトンおよびアセト酢酸エチルが好ましい。
これらの安定性向上剤は、1種単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0067】
安定性向上剤は、硬化触媒として有機スズ化合物を使用する場合は、前記有機スズ化合物1モルに対して、通常2モル以上、好ましくは3〜20モル使用されることが好ましい。安定性向上剤の使用量が2モル未満である場合は、得られる金属表面用コート材に十分な保存安定性が得られないことがある。
【0068】
〔金属酸化物粒子(B)〕
本発明の金属表面用コート材は、シリカなどの金属酸化物よりなる粒子(以下、「金属酸化物粒子(B)」という。)が分散された状態に配合させた構成を有していてもよい。
金属酸化物粒子(B)を配合することにより、得られる金属表面用コート材による保護膜が、十分な耐熱性などの耐久性が得られると共にガス拡散効果によりガス透過性の極めて低いものとなる。
【0069】
金属酸化物粒子(B)を配合する場合は、粉体状、あるいはイソプロピルアルコールなどの極性溶媒やトルエンなどの非極性溶媒に分散させたゾル状またはコロイド状などの形態で使用することができる。金属酸化物粒子(B)は、分散性を向上させるために表面処理して用いてもよい。
これらの金属酸化物粒子(B)の1次粒子径は、通常0.0001〜1μmであることが好ましく、より好ましくは0.001〜0.5μm、特に好ましくは0.002〜0.2μmである。
金属酸化物粒子(B)がゾル状またはコロイド状の形態で添加される場合は、その固形分濃度は通常50質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.01〜40質量%である。
【0070】
表面処理未処理の粉末状シリカとしては、日本アエロジル社製の#150、#200、#300、疎水化処理の粉末状シリカとして、日本アエロジル社製のR972、R974、R976、RX200、RX300、RY200S、RY300、R106、東ソー社製のSS50A、富士シリシアのサイロホービック100などが挙げられる。
また、溶剤に分散されたコロイダルシリカとしては、日産化学工業社製のイソプロピルアルコールなどのアルコール系溶剤分散コロイダルシリカ、メチルイソブチルなどのケトン系溶剤分散コロイダルシリカ、トルエンなどの非極性溶剤分散コロイダルシリカなどが挙げられる。
【0071】
金属酸化物粒子(B)は、特定シラン化合物(a1)とビニルアルコール由来重合体(a2)との混合時に添加してもよく、混合後に添加してもよい。ただし、金属酸化物粒子(B)として、その表面がシラノール処理されてなるシリカ粒子を用いる場合は、特定シラン化合物(a1)とビニルアルコール由来重合体(a2)との混合時に添加することが好ましい。
金属酸化物粒子(B)の使用量は、金属表面用コート材の固形分に対して、固形分換算で通常80質量%以下であることが好ましく、より好ましくは5〜50質量%である。
また、金属酸化物粒子(B)としてその表面がシラノール処理されてなるシリカ粒子を用いる場合は、金属表面用コート材の固形分に対して、固形分換算で通常50質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.01〜40質量部である。
【0072】
本発明においては、以上のように得られた特定シラン化合物(a1)、ビニルアルコール由来重合体(a2)、および必要に応じて添加される金属酸化物粒子(B)などの構成材料の混合物そのものを金属表面用コート材として金属表面に適用してもよいが、有機溶媒で希釈して固形分の含有量を調整したものを金属表面用コート材として用いてもよい。
使用できる有機溶媒としては、アルコール類、芳香族炭化水素類、エーテル類、ケトン類、エステル類などを挙げることができる。アルコール類としては、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、i−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、n−ヘキシルアルコール、n−オクチルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレンモノメチルエーテルアセテート、ジアセトンアルコールなどを挙げることができる。また、芳香族炭化水素類としては、ベンゼン、トルエン、キシレンなどが挙げられ、エーテル類としては、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどが挙げられ、ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトンなどが挙げられ、エステル類としては、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、炭酸プロピレン、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ノルマルプロピル、乳酸イソプロピル、3−エトキシプロピオン酸メチル、3−エトキシプロピオン酸エチルなどが挙げられる。これらの有機溶剤は、1種単独で用いても2種以上を混合して用いてもよい。
【0073】
以上のような金属表面用コート材によれば、これが硫黄バリア性に優れるものであるため、優れた透明性および硫黄バリア性を有する保護膜を形成することができる。
【0074】
〔発光装置〕
本発明の発光装置は、以上の金属表面用コート材により表面をコートされた銀メッキ部材などの金属メッキ部材および/または銀電極などの金属電極を有するものであり、具体的には、例えば図1に示されるように、銀電極55およびLED素子よりなる発光素子50の表面が金属表面用コート材によりコートされて保護膜53が形成された発光ダイオード(LED)が挙げられる。なお、図において、51は封止材、52は蛍光体、56は発光素子50を収納するハウジングである。
このLEDは、図2に示されるように、ハウジング56に対して金属表面用コート材による保護膜53を形成させてこれを硫黄などから保護する構成とすることもできる。
また、図3に示されるように、保護膜53中に蛍光体52を含有させ、発光素子50から発せられた光を変換させる構成とすることもできる。
LED素子としては、青色LED素子、白色LED素子、紫外LED素子などを用いることができる。
【0075】
〔金属部材の保護方法〕
本発明の金属表面用コート材を金属部材の表面に塗布して保護膜を形成することにより、変色や黒色化などから当該金属部材を保護することができる。
金属表面用コート材は、例えば、LEDパッケージ中に直接キャスト(ポッティング)し、例えば120℃で1時間乾燥させることにより保護膜を製膜することができる。また、スプレー塗装、ディップ塗装、スピンコートなどのコーティング方法によって保護膜を製膜することもできる。塗布膜厚は、乾燥膜厚で1〜200μm、好ましくは10〜100μmとなる厚みとすることが好ましい。
【0076】
以上のような発光装置によれば、その内部の銀メッキ部材および/または銀電極の表面が上記の金属表面用コート材によってコーティングされて保護膜が形成されているために、硫黄雰囲気下に曝された場合にも当該銀メッキ部材および/または銀電極の変色・黒色化が抑制され、その結果、高輝度化および長寿命化が図られる。
【0077】
以上、本発明の実施の形態について具体的に説明したが、本発明の実施の形態は上記の例に限定されるものではなく、種々の変更を加えることができる。
【実施例】
【0078】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明は、この実施例により何ら限定されるものではない。なお、実施例および比較例中の「部」および「%」は、特記しない限り、「質量部」および「質量%」を示す。また、重量平均分子量(Mw)は、下記の方法により測定した。
【0079】
重量平均分子量(Mw)は、GPC法により下記条件で測定し、ポリスチレン換算値として示した。
装置:HLC−8120C(東ソー社製)
カラム:TSK−gel MultiporeHXL−M(東ソー社製)
溶離液:THF
流量:0.5mL/min
負荷量:5.0%、100μL
【0080】
<ビニルアルコール由来重合体(a2)による溶液の調製例>
還流冷却器および撹拌機を備えた反応器に、ポリエチレンビニルアルコール「ソアノールD2908」(日本合成化学社製)40部、ノルマルプロパノール576部および純水384部を加え、80℃で3時間撹拌・溶解を行うことにより、固形分濃度が4質量%のビニルアルコール由来重合体溶液〔a2〕を得た。
【0081】
<特定シラン化合物(a1)による溶液の調製例>
撹拌機を備えた反応器に、コロイダルシリカ水溶液「スノーテックスO」(日産化学社製)100部およびテトラメトキシシラン202部を加え、室温で1時間撹拌を行って反応させ、その後、ノルマルプロピルアルコール1152部と純水688部とで希釈を行なうことにより、アルコキシシランの完全加水分解縮合物換算で固形分濃度が4質量%の特定シラン化合物溶液〔a1〕を得た。
【0082】
<実施例1>
上記のビニルアルコール由来重合体溶液〔a2〕および特定シラン化合物溶液〔a1〕を、それぞれの固形分が質量比で50/50となるよう混合して混合液を得た後、ビニルアルコール由来重合体溶液〔a2〕および特定シラン化合物溶液〔a1〕の相溶性を向上させることを目的に、混合液の全質量に対して10質量%の量のジメチルアセトアミドを加えることにより、金属表面用コート材〔1〕を得た。
この金属表面用コート材〔1〕を、乾燥膜厚が100μmとなるように市販の表面実装型のLEDパッケージ(銀メッキ付)に仕込み、100℃で1時間乾燥させることにより、銀黒色化抑制能評価用サンプル〔1〕を作製した。
【0083】
<実施例2>
実施例1において、上記のビニルアルコール由来重合体溶液〔a2〕および特定シラン化合物溶液〔a1〕を、それぞれの固形分が質量比で95/5となるよう混合して混合液を得たことの他は同様にして金属表面用コート材〔2〕を得、これを用いて実施例1と同様の操作を行うことにより銀黒色化抑制能評価用サンプル〔2〕を作製した。
【0084】
<実施例3>
実施例1において、上記のビニルアルコール由来重合体溶液〔a2〕および特定シラン化合物溶液〔a1〕を、それぞれの固形分が質量比で20/80となるよう混合して混合液を得たことの他は同様にして金属表面用コート材〔3〕を得、これを用いて実施例1と同様の操作を行うことにより銀黒色化抑制能評価用サンプル〔3〕を作製した。
【0085】
<実施例4>
実施例1と同様にして金属表面用コート材〔1〕を得、この固形分濃度が4質量%の金属表面用コート材〔1〕100部に対し、1次粒径が10nmの酸化ジルコニウム粉体「UEP−100」(第一希元素社製)1.6部およびメチルイソブチルケトン38部を加えてペイントシェーカーで4時間分散することにより、固形分濃度が5質量%の金属表面用コート材〔4〕を得た。この金属表面用コート材〔4〕の保存安定性はAであった。
また、この金属表面用コート材〔4〕を用いて実施例1と同様の操作を行うことにより銀黒色化抑制能評価用サンプル〔4〕を作製した。
【0086】
<比較例1>
上記のビニルアルコール由来重合体溶液〔a2〕を比較用の金属表面用コート材〔1〕とし、これを乾燥膜厚が100μmとなるように市販の表面実装型のLEDパッケージ(銀メッキ付)に仕込み、100℃で1時間乾燥させることにより、比較用の銀黒色化抑制能評価用サンプル〔5〕を作製した。
【0087】
<比較例2>
上記の特定シラン化合物溶液〔a1〕を比較用の金属表面用コート材〔2〕とし、これを乾燥膜厚が100μmとなるように市販の表面実装型のLEDパッケージ(銀メッキ付)に仕込み、100℃で1時間乾燥させることにより、比較用の銀黒色化抑制能評価用サンプル〔6〕を作製した。
【0088】
上記の金属表面用コート材〔1〕〜〔4〕および比較用の金属表面用コート材〔1〕,〔2〕並びに銀黒色化抑制能評価用サンプル〔1〕〜〔6〕ついて、以下(1)〜(4)の評価方法によって評価した。結果を表1に示す。
【0089】
(1)保存安定性
金属表面用コート材〔1〕〜〔4〕および比較用の金属表面用コート材〔1〕,〔2〕について、それぞれ、ポリエチレン製の容器内で常温で1ヶ月間密栓保存した後、ゲル化の有無を目視により判定し、さらにゲル化していないものについては東京計器社製のBM型粘度計により25℃で粘度測定を行い、下記の評価基準に従って評価した。
−評価基準−
A:保存前後の粘度変化率が20%以下。
B:保存前後の粘度変化率が20%より大きい。
【0090】
(2)耐熱性
金属表面用コート材〔1〕〜〔4〕および比較用の金属表面用コート材〔1〕,〔2〕を用いて、それぞれ、乾燥膜厚が100μmになるよう石英ガラス板上に塗布した後、100℃で1時間乾燥し、次いで120℃で1時間乾燥することにより、硬化膜を作成し、これらの硬化膜を120℃で500時間保管した後、硬化膜の外観を目視で観察し、色の変化およびクラックの各項目について、下記の評価基準に従って評価した。
−評価基準−
(色の変化)
A:変化なし。
B:わずかに変色。
C:黄変した。
(クラック)
A:変化なし。
B:少量発生。
C:全面に発生。
【0091】
(3)耐光性
金属表面用コート材〔1〕〜〔4〕および比較用の金属表面用コート材〔1〕,〔2〕を用いて、それぞれ、乾燥膜厚が100μmになるよう石英ガラス板上に塗布した後、100℃で1時間乾燥し、次いで120℃で1時間乾燥することにより、硬化膜を作成し、これらの硬化膜に波長350nm以下の光をカットしたスポットUV照射装置「SP−VII 」(ウシオ電機社製)を使用して照度5000mW/cm2 の紫外線を500時間照射した後、硬化膜の外観を目視で観察し、下記の評価基準に従って評価した。
−評価基準−
A:変化なし。
B:黄変色した。
C:黒く焼け焦げた。
【0092】
(4)銀黒色化抑制能
銀黒色化抑制能評価用サンプル〔1〕〜〔6〕について、それぞれ、容積150cm3 の耐圧容器内において硫化鉄0.06gおよび硫酸0.20gを混合後、直ちにサンプルを仕込み密閉し(硫化水素の理論濃度10vol%)、この耐圧容器を120℃で5時間加熱した後、冷却し、サンプルを取出し、当該サンプルの銀メッキの外観を観察し、下記の評価基準に従って評価した。
−評価基準−
A:変化なし。
B:僅かに変色した。
C:黒く変色した。
【0093】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】本発明の金属表面用コート材を用いて作製された発光ダイオードの構成の一例を示す模式図である。
【図2】本発明の金属表面用コート材を用いて作製された発光ダイオードの構成の別の一例を示す模式図である。
【図3】本発明の金属表面用コート材を用いて作製された発光ダイオードの構成の更に別の一例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0095】
50 発光素子
51 封止材
52 蛍光体
53 保護膜
55 銀電極
56 ハウジング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):Si(OR2 4
〔一般式(1)中、R2 は、それぞれ独立に、炭素数1〜5のアルキル基または炭素数1〜6のアシル基を示す。〕
で表されるオルガノシラン、当該オルガノシランの加水分解物および当該オルガノシランの縮合物からなる群から選択される少なくとも1種のシラン化合物(a1)と、ビニルアルコール由来の構成単位を含有する重合体(a2)とを含有することを特徴とする金属表面用コート材。
【請求項2】
前記シラン化合物(a1)と前記ビニルアルコール由来の構成単位を含有する重合体(a2)とを、シラン化合物(a1)の完全加水分解縮合物換算の含有量(Wa1)とビニルアルコール由来の構成単位を含有する重合体(a2)の固形分換算の含有量(Wa2)との質量比(Wa1/Wa2)が10/90〜70/30となる範囲で含有することを特徴とする請求項1に記載の金属表面用コート材。
【請求項3】
銀メッキ部材の表面に適用されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の金属表面用コート材。
【請求項4】
銀電極の表面に適用されることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の金属表面用コート材。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の金属表面用コート材により表面をコートされた銀メッキ部材および/または銀電極を有することを特徴とする発光装置。
【請求項6】
金属表面に請求項1または請求項2に記載の金属表面用コート材を塗布して保護膜を形成することにより、前記金属表面を保護することを特徴とする金属表面保護方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−7013(P2010−7013A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−170280(P2008−170280)
【出願日】平成20年6月30日(2008.6.30)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】