説明

金属被覆炭素繊維電線

【課題】屈曲性に優れる金属被覆炭素繊維を提供し、該金属被覆炭素繊維の特性を充分に活かし、電線としての導電性を満足しながら、高強度化、軽量化が図られた電線(ケーブルを含む、以下同様)を提供することを課題とする。
【解決手段】炭素繊維の表面に設けたニッケル、ニッケル合金、パラジウム、コバルトより選択される一種からなる下地金属層上に、1乃至複数層の金属層が設けられた金属被覆炭素繊維線を導体とし、該導体の周囲に絶縁被覆層が設けられている金属被覆炭素繊維電線である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電線重量を削減し、耐熱性、屈曲性、強度等の特性に優れる金属被覆炭素繊維電線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電線は電気機器内の配線や、通信機器間の配線、移動体の配線など幅広く使用されてきている。近年各種機器の高性能化に伴い、耐熱性、屈曲性、強度、導電率の向上など、電線自体に対する高性能化の要求も高まってきている。
また、自動車、鉄道車両、航空機など移動体用電線においては、安全性、快適性、機能性の向上に伴い使用電線量が増大する一方、燃費の向上のために電線重量の削減が必須であり、電線の軽量化が強く求められてきている。
【0003】
このような要求に対して特許文献1、2では、導電性があり、高強度、高弾性率である炭素繊維の表面に銅、アルミニウムなどの金属を被覆することで、軽量でかつ高強度であり金属疲労のない電線を製造する方法が提案されている。しかし、炭素繊維に銅またはアルミニウム皮膜を直接設けると、炭素繊維とこれら金属との濡れ性、親和性が悪く、炭素繊維上に良好に密着した銅またはアルミニウム皮膜層を得ることは極めて困難であった。
炭素繊維と金属皮膜との密着性が悪いと、金属被覆炭素繊維を撚り合わせて撚線導体とする際、摩擦によって金属被覆が剥がれ、撚線導体とするのに極めて高度の技術を必要としていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2−189811号公報
【特許文献2】特開平6−20522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は屈曲性に優れる金属被覆炭素繊維を提供し、さらに、該金属被覆炭素繊維の特性を充分に活かし、電線としての導電性を満足しながら、高強度化、軽量化が図られた電線(ケーブルを含む、以下同様)を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、炭素繊維の表面に設けたニッケル、ニッケル合金、パラジウム、コバルトより選択される一種からなる下地金属層上に、1乃至複数層の金属層が設けられた金属被覆炭素繊維を導体とし、該導体の周囲に絶縁被覆層が設けられている金属被覆炭素繊維電線である。
【0007】
本発明は、内部導体、該内部導体の外周に絶縁層、外部導体、保護絶縁層がこの順に設けられている電線であって、前記内部導体と前記外部導体のいずれか一方または両方が、炭素繊維の表面に設けたニッケル、ニッケル合金、パラジウム、コバルトより選択される一種からなる下地金属層上に1乃至複数層の金属層が設けられた金属被覆炭素繊維線からなる金属被覆炭素繊維電線である。
【0008】
前記導体は、金属被覆炭素繊維の単線、或いは該金属被覆炭素繊維を複数本束ねた束線、或いは該金属被覆炭素繊維の複数本を同心撚り、ユニレイ撚り、集合撚り、ロープ撚りのいずれかの方法で撚り合わせた撚線、のいずれかであることが好ましい。
【0009】
本発明は、前記金属被覆炭素繊維電線を導体とし、該導体の外周に絶縁層を設けた金属被覆炭素繊維電線を複数本束ね、その周囲に保護絶縁層を設けた金属被覆炭素繊維電線である。
【0010】
本発明は、内部導体、該内部導体の外周に絶縁層、外部導体、保護絶縁層がこの順に設けられている電線であって、前記内部導体と前記外部導体のいずれか一方または両方が、炭素繊維の表面に設けたニッケル、ニッケル合金、パラジウム、コバルトより選択される一種からなる下地金属層上に1乃至複数層の金属層が設けられた金属被覆炭素繊維線からなる金属被覆炭素繊維電線を複数本束ね、その周囲に保護絶縁層を設けた金属被覆炭素繊維電線である。
【0011】
前記金属層が銅層または銅層の上に設けた銀層または銅層の上に設けたスズ層であることが好ましい。
【0012】
前記炭素繊維の直径が3μm以上、20μm以下であり、前記金属層が銅層である金属被覆炭素繊維線の、前記金属被覆炭素繊維の炭素繊維直径Xと下地金属層の厚さYと銅層の厚さZとの比が
X:Y:Z=1:(0.004〜0.071):(0.005〜1.314)
であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、引張強度、耐熱性に優れ、かつ非常に軽量である炭素繊維の表面に良導電率の金属層を設けて電線としたもので、導電性を満足しながら、高強度化、軽量化が図られ、屈曲性に優れる金属被覆炭素繊維電線を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は金属被覆炭素繊維線の一実施形態を示す断面図である。
【図2】図2は本発明の金属被覆炭素繊維電線の第一の例を示す断面図である。
【図3】図3は本発明の金属被覆炭素繊維電線の第二の例を示す断面図である。
【図4】図4は本発明の金属被覆炭素繊維電線の第三の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の金属被覆炭素繊維電線の実施形態を図面により説明する。
図1に示すように本発明金属被覆炭素繊維電線10の導体となる金属被覆炭素繊維線1は、炭素繊維線2の表面にニッケル、ニッケル合金、パラジウム、コバルトより選択される一種からなる下地金属層(皮膜)3が形成され、その上に良導電性の銅層(皮膜)4が形成され、必要により該銅層4上に銀層或いはスズ層5が設けられている。なお、本発明においては前記銅層4単独、或いは銅層4と銀層またはスズ層5を合わせて金属層と表現する。
【0016】
本発明の金属被覆炭素繊維電線は前記金属被覆炭素繊維線1を導体とする電線である。電線の導体としては金属被覆炭素繊維線1を単線で、或いは複数本を束ねた束線で、或いは種々の撚り合わせ方法で撚り合わせた撚線として電線導体11(図2参照)とする。
【0017】
図2は金属被覆炭素繊維線を導体とする金属被覆炭素繊維電線10である。導体11は金属被覆炭素繊維線1を単線で、或いは複数本を束ねた束線で、或いは種々の撚り合わせ方法で撚り合わせた撚線として電線導体11とする。図2は金属被覆炭素繊維線を1000本束ねた束線を電線導体11としている。この導体(束線)11の外周に絶縁層12が設けられ、金属被覆炭素繊維電線10が構成されている。
【0018】
図3に示す金属被覆炭素繊維電線20は、前記金属被覆炭素繊維電線10を3本ロープ撚りし、その外周に保護被覆層21が設けられた金属被覆炭素繊維電線20である。
【0019】
図4に示す金属被覆炭素繊維電線30は、内部導体31、該内部導体31の外周に絶縁層32、外部導体33、保護被覆層34がこの順に設けられている電線30である。前記内部導体31は前記金属被覆炭素繊維線1の単線、束線或いは撚線で構成され、或いは銅線(銅合金線を含む)で形成されている。前記外部導体33は前記金属被覆炭素繊維線1の束線、撚線或いは網状に組んだ網線で構成され、或いは銅線(銅合金線を含む)、銅網線で形成され、内部導体31、外部導体33のいずれか一方または両方が、前記金属被覆炭素繊維線1で構成されている。
【0020】
本発明において、炭素繊維2に先ず下地金属層3を設けるのは、炭素繊維に銅を直接めっきすると、炭素繊維と銅との親和性(濡れ性)が悪く、銅が炭素繊維に密着しづらく、銅をめっきした炭素繊維を屈曲すると銅層が剥離する不具合が発生するためである。そのため本発明においては、炭素繊維2の表面に先ず炭素繊維2と親和性の高いニッケル、ニッケル合金、パラジウム、コバルトより選択される一種を下地金属層3として施し、その上に銅層4を設けている。
【0021】
本発明において、(炭素繊維の直径X):(下地金属層の厚さY)の比を1:(0.004〜0.071)とすることが望ましい。
下地金属層の厚さYが炭素繊維の直径Xに対して0.004倍未満であると、下地金属層の上に設ける銅層(銅めっき皮膜)の密着性が充分に得られず、下地金属層厚比が、0.071より高いと、仕上がった金属被覆炭素繊維の屈曲性が乏しくなり好ましくないためである。
【0022】
本発明において、(炭素繊維の直径X):(銅層皮膜の厚さZ)の比を1:(0.005〜1.314)とすることが好ましい。
本発明は金属被覆炭素繊維線を導体とし、該導体の周囲に絶縁層が設けられている金属被覆炭素繊維電線である。炭素繊維の熱膨張率は非常に小さく、該炭素繊維の外周に設ける絶縁層の樹脂は熱膨張係数が大きいため、両者の熱膨張率の差は非常に大きくなる。このため金属被覆炭素繊維を導体とした電線において、該電線に通電し、電線が発熱(加熱)状態となると、熱膨張の差により絶縁被覆層が導体から剥離する現象が起きる。
発熱量が少ない電線においては熱膨張率の差はさほど問題にならないが、発熱量の大きい電線になると熱膨張率の差が問題となる。本発明ではこの熱膨張率の差を銅層の厚さを調整することで解決している。
即ち、銅層の厚さを炭素繊維の直径の0.005倍未満とすると、炭素繊維と絶縁層との間の熱膨張率の差を緩和できず、通電時の温度上昇により金属被覆炭素繊維と絶縁層との間が剥離する不具合を起こす。一方、銅層の皮膜厚比が1.314より高いと、銅層が炭素繊維と絶縁層との間の熱膨張率に対する緩和層となり、熱履歴特性は良好となる。しかし、銅層が厚くなる分屈曲性が乏しくなり、また、銅層の皮膜を厚くするメリットもなくなるため、これ以上厚くすることは好ましくない。
【0023】
金属被覆炭素繊維線を導体とし、その上に設ける絶縁層は電線として一般に使用される絶縁樹脂であれば種類を問わず採用することができる。
絶縁層の形成は一般に押し出し成形で設けるが、金属被覆炭素繊維の上にコーティングで設けることもできる。
【0024】
本発明において、炭素繊維の表面に設けた銅層の上に銀層又はスズ層を設けることがある。銀又はスズを皮膜するのは半田濡れ性を改善するためで、半田濡れ性を問題としない場合には設ける必要性はない。半田濡れ性を改善する銀又はスズ層の厚さは0.5μm以下である。
【実施例】
【0025】
以下に本発明を実施例により詳細に説明する。
炭素繊維に電解または、無電解めっき法によりニッケル、ニッケル合金、パラジウム、またはコバルトの下地層(0.2μm厚)を施し、次いで銅めっき層(2μm厚)を形成することで金属被覆炭素繊維線を作製した。
作製した金属被覆炭素繊維線を1000本束ね、撚り合わせて導体とし、該導体をフッ素樹脂でコーティング(0.3mm厚)することで金属被覆炭素繊維電線とした。
本実施例においては、炭素繊維として直径7μmのポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維を用いた。
【0026】
本実施例で使用しためっき浴は次の通りである。
<電解ニッケルめっき>
浴組成(スルファミン酸系めっき浴)
スルファミン酸ニッケル 320g/L
塩化ニッケル 20g/L
ほう酸 30g/L
めっき条件:
浴温: 50℃
電流密度: 0.3A/dm
時間: 2min
【0027】
<電解ニッケル-亜鉛合金めっき>
浴組成
硫酸ニッケル 220g/L
硫酸亜鉛 3g/L
硫酸アンモニウム 15g/L
めっき条件:
液温: 60℃
電流密度: 0.5A/dm
時間: 3min
【0028】
<電解パラジウムめっき>
浴組 :
ジアミノ亜硝酸パラジウム 9g/L
硝酸アンモニウム 110g/L
亜硝酸ナトリウム 5g/L
めっき条件:
浴温: 50℃
電流密度: 0.3A/dm2
時間: 2min
【0029】
<電解コバルトめっき>
浴組成:
塩化コバルト 200g/L
炭酸コバルト 40g/L
亜リン酸 60g/L
リン酸 50ml/L
めっき条件:
浴温: 70℃
電流密度: 0.8A/dm
時間: 2min
【0030】
<電解銅めっき>
浴組成(シアン系銅めっき浴)
シアン化銅 45g/L
シアン化カリウム 100g/L
炭酸カリウム 10g/L
めっき条件:
浴温: 40℃
電流密度: 0.4A/dm
時間: 3min
【0031】
<電解スズめっき>
浴組成:
硫酸第一スズ 45g/L
硫酸 70g/L
ゼラチン 3g/L
クレゾールスルホン酸 100g/L
めっき条件:
浴温: 25℃
電流密度: 0.3A/dm
時間: 2min
【0032】
<電解銀めっき>
浴組成:
シアン化銀 40g/L
シアン化カリウム 40g/L
炭酸ナトリウム 55g/L
めっき条件:
浴温: 25℃
電流密度: 0.3A/dm
時間: 3min
【0033】
めっき厚の測定
金属被覆炭素繊維を樹脂で埋め、クロスセクションポリッシャー(CP)により断面出しを行い、走査型電子顕微鏡(SEM)によってめっき層の厚みを測定した。めっき厚に関してはサンプル上で10点の皮膜厚を測定し、その平均値をめっき厚とした。
【0034】
金属皮膜の密着性評価
金属炭被服素繊維線を撚り合わせた撚り線(絶縁被覆前)に対して、作製した電線導体をφ1mmの金属棒に巻きつけ、その後、走査型電子顕微鏡およびマイクロスコープを用いて表面観察を行い、表面のめっき皮膜の剥離の有無の確認を行った。評価は剥離のみられなかったサンプルを○、剥離が10%未満を△、剥離が10%以上観察されたサンプルを×とし、表1、2に記載した。
【0035】
電線の作製、実施例1〜29、比較例1〜8、従来例1〜5
図2に示す構成の金属被覆炭素繊維電線10を、金属被覆炭素繊維線1000本を束ねた束線、或いは1000本を撚り合わせた撚線を電線導体11と、絶縁樹脂層12としてフッ素樹脂をコーティング(0.3mm厚)とで作製した。なお、導体11の撚り方については実施例毎に表1、表2に記載する。
【0036】
電線の作製、実施例30〜34
図3に示す構成の金属被覆炭素繊維電線20を、実施例1〜5で作成した電線11を3本束にし、周囲を保護絶縁層(ポリビニルアルコール、0.7mm厚)21で被覆した金属被覆炭素繊維電線(多芯ケーブル)(以下ケーブルAと称することがある)を作製した。
【0037】
電線の作成、実施例35〜49
図4に示すように内部導体31、該内部導体31の周囲に絶縁樹脂層(ポリエチレン0.03mm厚)32、外部導体33、該外部導体33の外周に保護被覆層(ポリエチレンテレフタレート、0.23mm厚)34を形成した金属被覆炭素繊維電線(同軸ケーブル)30(以下ケーブルBと称することがある)を作成した。
実施例35〜39は内部導体を金属被覆炭素繊維線1を1000本、同心撚りで撚りあわせた炭素繊維線撚線で構成し、外部導体を直径0.1mmの銅合金線を網状に編んだ銅網線で構成している。
実施例40〜44は内部導体を直径0.1mmの銅合金線を7本よりあわせて作製した銅撚線で構成し、外部導体を金属被覆炭素繊維線を1000本、編みあわせた網線で構成している。
実施例45〜49は内部導体、外部導体共に金属被覆炭素繊維線で構成している。なお、内部導体、外部導体は前記実施例と同様である(表3参照)。
【0038】
上記の手法により作製した実施例の金属被覆炭素繊維電線に対して、以下の評価を行った。
【0039】
ヒートサイクル試験
金属被覆炭素繊維電線に対して、ヒートサイクル試験を行った。
試験は10cm長にカットしたサンプルをヒート試験機に投入し、1サイクル30minで、−20℃/100℃×100(昇温1h、降温2h)の加熱冷却サイクル下に静置して試験前後の電線導体/絶縁樹脂層との密着状態を確認した。
評価は、試験後に樹脂と、銅層間の剥離が見られないものを○、剥離が10%未満を△、剥離が10%以上見られたものには×として結果を表1、2に記載した。
【0040】
引張強度測定
金属被覆炭素繊維線を導体とした撚り線に対して、引張強度の測定は、JIS L 1015に従って測定を行った。金属被覆炭素繊維導体の断面積は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて電線またはケーブルの樹脂埋め断面観察を行い、直径を4点求め、平均したものをサンプルの直径とすることで計算により求めた。
評価は、金属被覆炭素繊維電線に関しては、1500MPa以上を○、1500MPa未満900Pa以上を△、900Pa以下を×とし、表1、2に記載した。
また、電線ケーブルA・Bに関しては、結果が950MPa以上を○、950MPa未満で850MPa以上を△、850MPa未満を×とし、表3に記載した
【0041】
屈曲性試験
上記の手法によって作製した金属被覆炭素繊維線を導体とした撚り線、電線、ケーブルに対して、屈曲性試験装置を用いた屈曲性試験を行った。試験は金属被覆炭素繊維束の撚り線、金属被覆炭素繊維線を用いた電線をサンプルとし、マンドレルで挟み込み、線束のたわみを抑えるため、下端に100gの分銅を吊るして荷重をかけた。上端部は固定具で固定し、この状態で、マンドレルの外周部に沿って線束を左右に90度ずつ屈曲させ、1往復を1回として毎分100回の速度で試験し、撚り線が断線するまでの回数を計測した。評価は、金属被覆炭素繊維電線については、30000回以上で断線したものを○、30000回未満20000回以上で断線したものを△、20000回未満で断線したものを×とし、表1、2に記載した。また、ケーブルAについては、500000回以上で断線したものを○、500000回未満30000回以上で断線したものを△、30000回未満で断線したものを×とした。またケーブルBについては、100000回以上で断線したものを○、100000回未満10000回以上で断線したものを△、10000回未満で断線したものを×とし、それぞれ、表3に記載した。
【0042】
半田試験
炭素繊維上にニッケルめっき、銅めっきを順次施した、金属被覆炭素繊維電線の表面にさらに、銀めっきまたは、スズめっきを施した撚り線に対して、メニスコグラフ法に基づいた半田濡れ性試験(鉛フリー半田、245℃、フラックス ロジン25%、浸漬深さ 1mm、浸漬時間 10s)を行い、ゼロクロスタイムを計測した。評価は、ゼロクロスタイムが2.5s以下のものを良好に半田が濡れたものとして○、2.5s未満のものを×と評価し、その結果を表4に示す。表4から明らかなように全ての実施例で半田濡れ性は良好であった。
【0043】
【表1】

【0044】
表1には、下地金属層にニッケル(Ni)、ニッケル合金(Ni−Zn)、パラジウム(Pd)、またはコバルト(Co)を用い、下地金属層上に銅層を設けた金属被覆炭素繊維束を、単繊維束、同心撚り、ユニレイ撚り、集合撚り、ロープ撚りの手法により撚り合わせて撚り線とし、その上にフッ素樹脂をコーティングすることで作製した電線に対して、各種評価を行った結果を示す(ただし、銅皮膜/炭素繊維間の密着性の評価に関してはフッ素樹脂をコーティングする前に評価)。
表1より、下地金属層を設けずに銅層を直接めっきした従来例1〜5は、炭素繊維と銅層間の密着性が非常に悪く、密着性確認試験において銅皮膜が容易に剥がれ好ましくない結果となっている。
これに対して、ニッケル、ニッケル合金、パラジウム、コバルトの金属を下地金属として用いた実施例では、何れの金属を下地とした場合も特性評価結果は良好であり、これらの金属は下地金属として好ましいことが実証された。また、単繊維束、または、同心撚り、ユニレイ撚り、集合撚り、ロープ撚りのどの撚り方によって作製した撚り線に関しても、各種評価において良好な結果を示している。この結果、本発明における金属被覆炭素繊維電線では、これらの種々の撚り方を好ましく用いることができる。
【0045】
【表2】

【0046】
表2は、下地金属層にニッケルを用いて、同心撚りにより作製した撚り線を導体とし、ニッケル層の厚さ、銅めっき層の厚さを変更して作製した実施例につき各種評価結果を示す。表2には、炭素繊維径を1とした際のそれぞれの厚さの比を併記して示している。
この結果より、炭素繊維の直径に対しニッケル層厚比が0.004未満であると、銅めっき皮膜の密着性が十分に得られず、ニッケルめっき厚が、0.071より厚いと、屈曲性が乏しくなる結果となっている。
また、銅層の厚さについては、銅厚比が0.005未満であるとヒートサイクル試験後に絶縁樹脂と電線導体(金属表面)間の剥がれが生じ易く、また、1.314より厚いと屈曲性に乏しくなるため、やはり好ましくない結果となっている。
この評価結果より、銅皮膜/炭素繊維間と絶縁樹脂被覆層と導体線間の密着性を考慮すると、下地金属めっき厚は炭素繊維の直径に対して、0.004〜0.071、銅めっき厚は炭素繊維の直径に対して0.005〜1.314であるときに好ましい特性が得られる。
表2では△と評価された項目が2つ以上ある金属被覆炭素繊維線を総合評価△と判断して比較例1〜8とした。しかし、この比較例1〜8の金属被覆炭素繊維線は使用方法によっては十分に実用性のあるものである。
【0047】
【表3】

【0048】
表3には、下地金属層をニッケルとした金属被覆炭素繊維電線を用いて作製した電線の屈曲性および、引張強度を調査した結果を示した。ケーブルBにおいては、内部導体、または、外部導体、内部・外部の両導体に使用した場合の結果を示した。
これより、ケーブルA、Bのどのような構成においても屈曲性、引張強度は良好な結果を示した。また、使用する金属被覆炭素繊維線導体の撚り方についても、単繊維束、または、同心撚り、ユニレイ撚り、集合撚り、ロープ撚り等の様々な撚り方を好ましく用いることができることが実証された。
【0049】
【表4】

【0050】
表4に示す実施例50〜59は、下地金属をニッケルとして作製した金属被覆炭素繊維線の表面(銅めっき層上)に、さらに、銀めっきまたはスズめっきを(0.5μm厚以下)施して作製した撚り線を用いて、各種評価を行った結果を示す。これより、二層以上の金属皮膜層を形成した場合であっても、各種特性において良好な結果を示し、さらに、表面に銀、または、スズめっき層を形成することで、良好な半田濡れ性を示すことが実証された。したがって、炭素繊維上に、二層以上の金属層を形成することによって、各種特性を低下させずに半田接合性や環境耐性を付与することができることが示された。
【0051】
本発明は、引張強度、耐熱性に優れ、かつ非常に軽量である炭素繊維の表面に良導電率の銅層を形成し、必要により該銅層の上に銀層又はスズ層を設けて電線としたもので、導電性を満足しながら、高強度化、軽量化が図られ、屈曲性、半田濡れ性に優れる金属被覆炭素繊維電線を提供することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 金属被覆炭素繊維線
2 炭素繊維
3 下地層
4 銅層
5 スズ層または銀層
10 金属被覆炭素繊維電線
11 電線導体
12 絶縁層
20 金属被覆炭素繊維電線
21 保護被覆層
30 金属被覆炭素繊維電線
31 内部導体
32 絶縁層
33 外部導体
34 保護被覆層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維の表面に設けたニッケル、ニッケル合金、パラジウム、コバルトより選択される一種からなる下地金属層上に、1乃至複数層の金属層が設けられた金属被覆炭素繊維線を導体とし、該導体の周囲に絶縁被覆層が設けられている金属被覆炭素繊維電線。
【請求項2】
前記導体が、金属被服炭素繊維線の単線、或いは複数本を束ねた束線、同心撚り、ユニレイ撚り、集合撚り又はロープ撚りで撚った撚線のいずれかである請求項1に記載の金属被覆炭素繊維電線。
【請求項3】
内部導体、該内部導体の外周に絶縁層、外部導体、保護絶縁層がこの順に設けられている電線であって、前記内部導体と前記外部導体のいずれか一方または両方が、炭素繊維の表面に設けたニッケル、ニッケル合金、パラジウム、コバルトより選択される一種からなる下地金属層上に1乃至複数層の金属層が設けられた金属被覆炭素繊維線からなる金属被覆炭素繊維電線。
【請求項4】
前記内部導体が、金属被服炭素繊維線の単線、あるいは複数本を束ねた束線、同心撚り、ユニレイ撚り、集合撚り又はロープ撚りで撚った撚線のいずれかである請求項3に記載の金属被覆炭素繊維電線。
【請求項5】
前記外部導体が、金属被服炭素繊維線の単線、あるいは複数本を束ねた束線、同心撚り、ユニレイ撚り、集合撚り又はロープ撚りで撚った撚線のいずれかである請求項3に記載の金属被覆炭素繊維電線。
【請求項6】
請求項1または2に記載の金属被覆炭素繊維電線を複数本束ね、その周囲に保護絶縁層を設けた金属被覆炭素繊維電線。
【請求項7】
請求項3乃至5のいずれかに記載の金属被覆炭素繊維電線を複数本束ね、その周囲に保護絶縁層を設けた金属被覆炭素繊維電線。
【請求項8】
前記金属層が銅層または銅層の上に設けた銀層または銅層の上に設けたスズ層である請求項1乃至7のいずれかに記載の金属被覆炭素繊維電線。
【請求項9】
前記炭素繊維は直径が3μm以上、20μm以下であり、該炭素繊維線の直径Xと下地金属層の厚さYと金属層の厚さZとの比が
X:Y:Z=1:(0.004〜0.071):(0.005〜1.314)
であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の金属被覆炭素繊維電線。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−216526(P2012−216526A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−74178(P2012−74178)
【出願日】平成24年3月28日(2012.3.28)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(511081853)東京電化工業株式会社 (1)
【Fターム(参考)】